特許第6013224号(P6013224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6013224ひげぜんまい、ムーブメント、時計及びひげぜんまいの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013224
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】ひげぜんまい、ムーブメント、時計及びひげぜんまいの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
   G04B17/06 Z
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-30300(P2013-30300)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-160002(P2014-160002A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2015年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100154863
【弁理士】
【氏名又は名称】久原 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】天野 猶貴
(72)【発明者】
【氏名】神山 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】重城 幸一郎
【審査官】 藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−032522(JP,A)
【文献】 特開昭55−101884(JP,A)
【文献】 実開昭50−145369(JP,U)
【文献】 特開2012−018169(JP,A)
【文献】 特開平05−318012(JP,A)
【文献】 特公昭43−024603(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00−49/04
F16F 1/00− 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状のばね材が巻き回された渦巻の形状を有し、
前記渦巻は、前記渦巻を垂直方向から見る平面視で略円形であり、前記渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形であるひげぜんまい。
【請求項2】
前記ばね材は外側の端部から数えて1巻目と2巻目が前記平面視で交差し、
前記平面視で交差する交差点において1巻目の前記ばね材と2巻目の前記ばね材とは離間する請求項1に記載のひげぜんまい。
【請求項3】
前記ばね材の内周側の端部に接合されるひげ玉を備え、
前記ひげ玉は前記ばね材が嵌合する嵌合溝を備え、前記嵌合溝は前記渦巻の垂直方向に対して傾斜する請求項1又は2に記載のひげぜんまい。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のひげぜんまいを備えるムーブメント。
【請求項5】
請求項1に記載のひげぜんまいを備える時計。
【請求項6】
ばね材が巻き回される平板状の平ひげぜんまいを形成する平ひげぜんまい形成工程と、
前記平ひげぜんまいを渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形のひげぜんまいに変形させる変形工程と、
前記略W字形のひげぜんまいを熱処理して癖付けする熱処理工程と、を備えるひげぜんまいの製造方法。
【請求項7】
前記変形工程は、前記平ひげぜんまいを縦断面が略W字形を有する凸型と縦断面が略W字形を有する凹型との間に挟んで押圧する工程であり、
前記熱処理工程の後に前記凸型と前記凹型を除去して渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形のひげぜんまいを取り出す取出し工程を備える請求項6に記載のひげぜんまいの製造方法。
【請求項8】
前記変形工程は、上端を揃えた複数の押し当てピンの上部に前記平ひげぜんまいを載置し、前記平ひげぜんまいに縦断面が略W字形を有する凸型を押し当て変形させる工程であり、
前記熱処理工程の後に前記凸型と前記複数の押し当てピンを除去して渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形のひげぜんまいを取り出す取出し工程を備える請求項6に記載のひげぜんまいの製造方法。
【請求項9】
前記変形工程は、巻き回されるばね材の間に前記押し当てピンが挿入される工程である請求項8に記載のひげぜんまいの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式時計のてんぷに使用されるひげぜんまい、ひげぜんまいを備えるムーブメント、ひげぜんまいを備える時計、及びひげぜんまいの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械式時計のてんぷには弾性体からなる帯状のばねを渦巻状に癖付けしたひげぜんまいが使用される。例えば特許文献1には機械式時計が記載される。機械式時計は、ぜんまいの力により香箱が回転し、香箱の回転が二番歯車から四番歯車等により構成される輪列に伝達される。輪列の回転速度は、てんぷ、アンクル及びがんぎ車からなる脱進部により規制され、一定歩度で時を刻むように構成される。
【0003】
図9は時計のてんぷ110の模式図である。てんぷ110は、ひげぜんまい100と、ひげぜんまい100の内端に接続するひげ玉113と、ひげぜんまい100の外端に接続するひげ持114と、ひげ玉113の軸心となるてん真112と、てん真112に接続され、てん真112を回転軸として往復回転振動を行うてん輪111から構成される。機械式時計の歩度精度はこの往復回転振動の振動周期により決定される。てん輪111の振動周期は、てん真112の回転を付勢するひげぜんまい100の回転付勢力(トルク)と、てん輪111の慣性モーメントにより決まる。ひげぜんまい100は回転付勢力が温度変化や姿勢差によって影響を受けないように形成する必要がある。ひげぜんまい100はてん真112の回転に伴って渦巻が伸縮するが、渦巻が同心円状に伸縮し渦巻の重心が常に回転軸の軸心の位置となるように形成することが望ましい。
【0004】
図10は、一般的に機械式時計に使用されるひげぜんまい100の模式図である。図10(a)、(b)、(c)は、それぞれ平ひげぜんまい101、ブレゲひげぜんまい103、及び提灯ひげぜんまい105の説明図であり、上図が渦巻の上方から見る模式図であり、下図が渦巻の横方向から見る模式図である。
【0005】
図10(a)に示すように、平ひげぜんまい101は、銅やエリンバー系合金の薄い帯からなり、一平面内に巻き回される渦巻形状を有する。渦巻の外周には外端カーブ102が形成され、渦巻の径方向のピッチの距離よりも外側に折り曲げられる。この外端カーブ102に平ひげぜんまい101を固定するためのひげ持を設置し、内側のひげぜんまいとひげ持が接触しないようにする。
【0006】
図10(b)に示すように、ブレゲひげぜんまい103は外端カーブ102をひげぜんまい100の外周よりも内側上方に巻き上げて形成する。外端カーブ102は上方に巻き上げられるので、外端カーブ102にひげ持を設置してもひげぜんまい100と接触しない。ブレゲひげぜんまい103の外端カーブ102はフィリップスの条件を満たすように渦巻の内側に曲げられ、ひげぜんまい100が伸縮したときに回転中心が偏心しないように形成される。
【0007】
図10(c)に示すように、提灯ひげぜんまい105は全体が提灯の形状を有し、てん輪の回転に伴ってひげぜんまいが同心円上で伸縮する。そのため歩度精度が高く高精度の時計に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−214822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図10(a)に示す平ひげぜんまい101では、最外周のひげぜんまい100を大きく折り曲げて外端カーブ102を形成する。しかし、大きく折り曲げた部分は経時的に変形しやすい。また、図10(b)に示すブレゲひげぜんまい103では、ひげぜんまい100の外端カーブ102をフィリップスの条件を満たすように渦巻の内側上方に巻き上げる。そのため、ひげぜんまい100を渦巻の上方に大きな応力をかけて曲げる必要があり、外端カーブ102を高精度に形成するのが難しい。また、残留応力によって経時的に変形しやすい。ひげぜんまい100の外端カーブ102がフィリップスの条件から外れると、振動周期が変化して歩度精度が低下する、或いは回転触れ角の大きさに応じて振動周期が変化し、等時性が低下する。また、図10(c)に示す提灯ひげぜんまい105は上下方向の厚さが厚くなるので時計が厚くなる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、小型で高精度のひげぜんまい及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のひげぜんまいは、線状のばね材が巻き回された渦巻の形状を有し、前記渦巻は、前記渦巻を垂直方向から見る平面視で略円形であり、前記渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形であることとした。
【0012】
また、前記ばね材は外側の端部から数えて1巻目と2巻目が前記平面視で交差し、前記平面視で交差する交差点において1巻目の前記ばね材と2巻目の前記ばね材とは離間することとした。
【0013】
また、前記ばね材の内周側の端部に接合されるひげ玉を備え、前記ひげ玉は前記ばね材が嵌合する嵌合溝を備え、前記嵌合溝は前記渦巻の垂直方向に対して傾斜することとした。
【0014】
本発明のムーブメントは、上記いずれかに記載のひげぜんまいを備えることとした。
【0015】
本発明の時計は、上記のひげぜんまいを備えることとした。
【0016】
本発明のひげぜんまいの製造方法は、ばね材が巻き回される平板状の平ひげぜんまいを形成する平ひげぜんまい形成工程と、前記平ひげぜんまいを渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形のひげぜんまいに変形させる変形工程と、前記略W字形のひげぜんまいを熱処理して癖付けする熱処理工程と、を備えることとした。
【0017】
また、前記変形工程は、前記平ひげぜんまいを縦断面が略W字形を有する凸型と縦断面が略W字形を有する凹型との間に挟んで押圧する工程であり、前記熱処理工程の後に前記凸型と前記凹型を除去して渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形のひげぜんまいを取り出す取出し工程を備えることとした。
【0018】
また、前記変形工程は、上端を揃えた複数の押し当てピンの上部に前記平ひげぜんまいを載置し、前記平ひげぜんまいに縦断面が略W字形を有する凸型を押し当て変形させる工程であり、前記熱処理工程の後に前記凸型と前記複数の押し当てピンを除去して渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形のひげぜんまいを取り出す取出し工程を備えることとした。
【0019】
また、前記変形工程は、巻き回されるばね材の間に前記押し当てピンが挿入される工程であることとした。
【発明の効果】
【0020】
本発明のひげぜんまいは、線状のばね材が巻き回された渦巻の形状を有し、渦巻は、渦巻を垂直方向から見る平面視で略円形であり、渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形である。これにより、ひげぜんまいの伸縮に伴う偏心を少なくし、ブレゲひげぜんまいと同等の歩度精度及び等時性を確保する。また、ひげぜんまいの外端カーブ領域に渦巻の面方向や渦巻の垂直方向に大きな屈曲部を無くして経時的変形を少なくする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第一実施形態に係るひげぜんまいの説明図である。
図2】本発明の第一実施形態に係るひげぜんまいの説明図である。
図3】本発明の第一実施形態に係るひげぜんまいの説明図である。
図4】本発明の第二実施形態に係るひげぜんまいの側面模式図である。
図5】本発明の第三実施形態に係るひげぜんまいの製造方法の工程図である。
図6】本発明の第三実施形態に係るひげぜんまいの製造方法の各工程を説明するための断面模式図である。
図7】本発明の第四実施形態に係るひげぜんまいの製造方法の説明図である。
図8】本発明の第五実施形態に係る時計の模式図である。
図9】従来公知である時計のてんぷの模式図である。
図10】従来公知の一般的に機械式時計に使用されるひげぜんまいの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第一実施形態)
図1図3は、本発明の第一実施形態に係るひげぜんまい1の説明図である。図1はひげぜんまい1の模式的な斜視図であり、図2はひげぜんまい1を渦巻の垂直方向から見る平面模式図であり、図3は渦巻の中心を通る垂直方向の断面模式図である。
【0023】
図1に示すように、ひげぜんまい1は、線状のばね材2が巻き回される渦巻の形状を有する。渦巻は、全体として杯形状を有し、渦巻きの垂直方向から見る平面視で略円形であり、渦巻きの中心を通る垂直方向の断面が略W字形を有する。つまり、渦巻は、内側の端部E1から外側下方に向けて拡径しながら巻き回され、途中から外側上方に向けて拡径しながら巻き回される。渦巻は、渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略M字形であってもよく、上下を反転すれば略W字形となる。この場合、渦巻は、内側の端部E1から外側上方に向けて拡径しながら巻き回され、途中から外側下方に向けて拡径しながら巻き回される。なお、略W字形とは、実際の文字“W”のように下部や中央部に先の尖った底部や頂部が存在してもよいが、滑らかな底面の中央に頂部が滑らかな凸部が存在するものであってもよい。また、中央の凸部の高さは外周の高さと同程度であってもよいし、外周の高さよりも高くても、低くてもよい。要するに、渦巻の中心を通る垂直方向の断面が全体としてW字形或いはM字形であればよい。
【0024】
ばね材2は渦巻の垂直方向に幅広い帯からなる。図2に示すように、ばね材2は、外側の端部E2が渦巻の内側に曲げられ、渦巻を垂直方向から見る平面視で下方のばね材と交差する。ここで、外側の端部E2から数えて1巻目のばね材21と2巻目のばね材22が平面視で交差する交差部Kにおいて、1巻目のばね材21と2巻目のばね材22とは垂直方向に離間する。つまり、1巻目のばね材21の下端と2巻目のばね材22の上端とが離間する。
【0025】
図3を用いて具体的に説明する。ひげぜんまい1は、渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形を有する。図3にはひげぜんまい1に接続される部材が記載される。まず、渦巻の中央である内側の端部E1にはひげ玉3が接続される。渦巻の上部である外側の端部E2にはひげ持4が接続される。ひげ玉3の図示しない貫通口にはてん真5が接続される。てん輪6はてん真5の上部に係止される。ひげ持4は、例えば、図示しない緩急体を介してムーブメントに固定される。てん真5はてん輪6とひげぜんまい1の往復回転振動の回転軸となる。てん輪6の往復回転振動はてん真5、ひげ玉3を介してひげぜんまい1に伝達され、ひげぜんまい1は伸縮運動を繰り返す。なお、てん輪6はひげぜんまい1の下部においててん真5に係止してもよい。
【0026】
このように、ひげぜんまい1の断面を略W字形とすると、提灯ひげぜんまいよりも上下方向の厚さを薄く形成することができる。そのため、腕時計などの小型の時計に使用することができる。また、交差部Kにおいて、1巻目のばね材21と2巻目のばね材22との間には垂直方向に隙間が存在する。そのため、2巻目のばね材22の伸縮運動が1巻目のばね材21によって阻害されることがない。つまり、交差部Kにおいてばね材2どうしが接触しないので、ひげぜんまい1の回転軸(てん真5の軸心)から重心が移動し、振動周期が変化するのを防止することができる。
【0027】
交差部Kの近傍から外側の端部E2にかけてばね材2が内側に曲げられる領域を外端カーブ領域Rとして、この外端カーブ領域Rは、ばね材2が渦巻の内側に滑らかに曲げられる。ばね材2の外側の端部E2は渦巻の中心軸側(図3においてはてん真5側)に寄せられ、外側の端部E2の下方に空間が確保される。そのため、ブレゲひげぜんまいのようにばね材の端部を上方(渦巻の垂直方向)に持ち上げることなく、ばね材2の外側の端部E2にひげ持4を取り付けることができる。また、外端カーブ領域Rが内側に曲げられているので、ひげぜんまい1をピンセット等で容易に掴むことができる。
【0028】
本実施形態においては、1巻目のばね材21の外端カーブ領域Rのばね材2と2巻目のばね材22を含む他の領域のばね材2とは、渦巻の垂直方向(てん真5の軸心方向)に対して傾斜角が等しい。従って、渦巻の垂直方向に幅広の帯からなるばね材2を使用する場合でも、外端カーブ領域Rのばね材2を帯の幅広方向に大きな応力をかけて曲げる必要がなく、カーブの癖付けが容易となる。更に、外端カーブ領域Rの残留応力が低減し、経時的変形の少ないひげぜんまい1を形成することができる。これにより、歩度精度及び等時性に優れたひげぜんまい1を形成することができる。
【0029】
なお、ばね材2として、プラスチック、金属、合金、その他の材料を使用することができる。例えば、合金としてエリンバー、テリンバー、ニバロックス、コエリンバー等を使用すれば、温度変化や姿勢差に対して振動周期が安定する高精度の時計を形成することができる。また、ばね材2は、渦巻の垂直方向に幅広の断面形状が長方形である帯により形成することに代えて、断面形状が円形であってもよいし、楕円形であってもよいし、四角形であってもよい。本実施形態のように、渦巻の垂直方向に幅広の帯とすれば、渦巻や外端カーブ領域Rの癖付けが容易となる。
【0030】
(第二実施形態)
図4は、本発明の第二実施形態のひげぜんまい1の説明図である。図4(a)はひげぜんまい1の側面模式図であり、図4(b)はひげ玉3の斜視図であり、図4(c)はひげ玉3の断面模式図である。第一実施形態と異なる点は、ひげぜんまい1はひげぜんまい1に接続されるひげ玉3を含む点であり、その他の構成は第一実施形態と同様である。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0031】
ひげぜんまい1は、線状のばね材2が巻き回される渦巻きの形状を有する。渦巻は、渦巻を垂直方向から見る平面で略円形であり、渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形である。ばね材2は、外側の端部から数えて1巻目のばね材21と2巻目のばね材22が渦巻の垂直方向から見る平面視で交差し、この交差する交差部Kにおいて、1巻目のばね材21と2巻目のばね材22とは垂直方向に離間する。そして、ひげぜんまい1は、ばね材2の内側の端部E1に接続されるひげ玉を備える。ひげ玉3は、ばね材2が嵌合する嵌合溝7を備える。嵌合溝7は、その溝方向が渦巻の垂直方向に対して傾斜する。より詳しくは、嵌合溝7の側壁Sが渦巻の垂直方向に対して傾斜する。
【0032】
具体的に説明する。ひげ玉3は円筒形を有し、円筒の中央にはてん真5が嵌め込まれる貫通孔8が形成される。ひげ玉3の外側面に嵌合溝7が形成される。ばね材2の内側の端部E1近傍を内端領域Hとして、嵌合溝7の溝方向(嵌合溝7の側壁Sの方向と同じ)は、渦巻の垂直方向に対して内端領域Hのばね材2と同じ傾斜角αで傾斜する。そのため、ばね材2の内端領域Hをひげ玉3に接続する際に、ばね材2を渦巻の垂直方向に折り曲げる必要がない。本実施形態においては、渦巻の垂直方向に幅広の帯状のばね材2を使用しているが、ひげ玉3の嵌合溝7の溝方向とばね材2の長手方向とに同じ傾斜角αを持たせているので、ばね材2とひげ玉3とを極めて容易に接続することができる。また、接続後にばね材2の渦巻形状を変形させることが無いので、ひげぜんまい1の往復回転振動の振動周期の精度や等時性を向上させることができる。
【0033】
本実施形態では、ひげ玉3とばね材2の接続を、ひげ玉3の表面に嵌合溝7を形成し、この嵌合溝7にばね材2の内端領域Hを嵌合させて接続するが、本発明はこの接続方法に限定されない。ひげ玉3に嵌合穴を形成し、この嵌合穴にばね材2の内端領域Hを嵌合させて接続してもよい。この場合に、渦巻の垂直方向に対して嵌合穴の中心軸を傾斜角αに傾けて形成すればよい。
【0034】
(第三実施形態)
図5及び図6は、本発明の第三実施形態に係るひげぜんまい1の製造方法の説明図である。図5はひげぜんまい1の製造方法の工程図である。図6は各工程を説明するための断面模式図であり、図6(a)が凹型10と凸型11の間に平ひげぜんまい9を設置した状態を表し、図6(b)が凸型11を凹型10に相対的に押圧した状態を表し、図6(c)が略W字形に癖付けされたひげぜんまい1の断面模式図であり、図6(d)が外端カーブ領域Rを形成したひげぜんまい1の断面模式図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0035】
本実施形態のひげぜんまい1の製造方法は、図5に示すように、ばね材2が巻き回される平板状の平ひげぜんまい9を形成する平ひげぜんまい形成工程S1と、平ひげぜんまい9を渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形のひげぜんまいに変形させる変形工程S2と、ひげぜんまいを熱処理して癖付けする熱処理工程S3とを備える。更に、型を除去して渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形のひげぜんまい1を取り出す取出し工程S4と、ばね材2の外端の端部E2を渦巻の内側に曲げる外端カーブ形成工程S5を備える。図6を参照して具体的に説明する。
【0036】
まず、平ひげぜんまい形成工程S1において、渦巻状に巻き回される平板状の平ひげぜんまい9を形成する。平ひげぜんまい9は、帯からなる複数のばね材を巻棒に接続し、巻棒を回転させてばね材を渦巻状に巻き込み、香箱に収納する。ばね材を収納する香箱を加熱してばね材を渦巻状に癖付けする。図6(a)は、このように形成した平ひげぜんまい9を凹型10と凸型11の間に挟む。凹型10は、中心を通る垂直方向の断面が略W字形に窪む。言い換えると、凹型10の窪みは、全体として杯の内面形状に窪み、杯の内面の中央底部が上方に膨らむ形状を有する。凸型11は、中心を通る垂直方向の断面が略W字形に突出する。つまり、凸型11の突出部は、全体として杯の内面形状に突出し、杯の内面の中央底部が上方に膨らむ形状を有する。
【0037】
更に、凹型10及び凸型11は、ばね材2を変形したときに、ばね材2の外側の端部E2から数えて1巻目と2巻目が渦巻きを垂直方向において離間する形状に形成する。具体的には、癖付けするばね材2の垂直方向の高さをh、1巻目と2巻目のばね材2の水平方向の距離をdとして、凹型10及び凸型11の上部傾斜面(ばね材2の1巻目と2巻目を癖付けする領域の傾斜面)の垂直方向に対する傾斜角θを、θ<tan-1(d/h)とする。
【0038】
次に、変形工程S2において、図6(b)に示すように、凸型11を凹型10に相対的に押圧して、平ひげぜんまい9を、渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形となるように変形させる。次に、熱処理工程S3において、凹型10及び凸型11とともに平ひげぜんまい9を熱処理する。これにより、平ひげぜんまい9は渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形に癖付けされる。次に、取出し工程S4において、図6(c)に示すように、凹型10及び凸型11から渦巻の垂直方向の断面が略W字形に癖付けされたひげぜんまい1を取り出す。次に、外端カーブ形成工程S5において、図6(d)に示すように、ばね材2の外側の端部E2を渦巻の内側に滑らかに曲げる。この際に、ばね材2は外側の端部E2から数えて1巻目と2巻目が渦巻きを垂直方向から見る平面視で交差し、その交差点において1巻目のばね材2と2巻目のばね材2とは離間し、外端カーブ領域Rは渦巻の上方に曲げる必要が無い。そのため、渦巻の垂直方向に幅広のばね材2を用いても外端カーブ領域Rを極めて容易かつ高精度に形成することができる。
【0039】
なお、ひげぜんまい1のばね材2は、渦巻の垂直方向に幅広の帯状のばね材2に限定されず、断面形状が円形や楕円形、四角形等であってもよい。
【0040】
(第四実施形態)
図7は、本発明の第四実施形態に係るひげぜんまい1の製造方法の説明図である。図7(a)が凸型11と押し当てピン12の間に平ひげぜんまい9を設置した状態を表し、図7(b)が凸型11を押し当てピン12に相対的に押圧した状態を表し、図7(c)が渦巻きの中心を通る垂直方向の断面が略W字形に癖付けされたひげぜんまい1の断面模式図であり、図7(d)が外端カーブ領域Rを形成したひげぜんまい1の断面模式図である。本実施形態のひげぜんまい1の製造工程は図5に示す第三実施形態と同じである。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0041】
まず、平ひげぜんまい形成工程S1において、渦巻状に巻き回される平板状の平ひげぜんまい9を形成する。平ひげぜんまい9の形成方法は第三実施形態と同様である。図7(a)は、このように形成した平ひげぜんまい9を、複数の押し当てピン12と中心を通る垂直方向の断面が略W字形に突出する凸型11との間に挟む。ここで、複数の押し当てピン12は、枠13の内側に束ねられ、上端面を揃えて枠13に束縛される。各押し当てピン12は上下方向に独立して移動可能に束縛される。凸型11、枠13及び押し当てピン12は、ばね材2の熱処理温度に応じて金属やセラミックスからなる材料を使用することができる。
【0042】
なお、凸型11は、ばね材2を変形したときに、ばね材2の外側の端部E2から数えて1巻目と2巻目が渦巻きを垂直方向において離間する形状に形成する。具体的には、癖付けするばね材2の垂直方向の高さをh、1巻目と2巻目のばね材2の水平方向の距離をdとして、凸型11の上部傾斜面(ばね材2の1巻目と2巻目を癖付けする領域の傾斜面)の垂直方向に対する傾斜角θを、θ<tan-1(d/h)とする。
【0043】
次に、変形工程S2において、図7(b)に示すように、凸型11と上端を揃えた複数の押し当てピン12との間に平ひげぜんまい9を挟んで凸型11を複数の押し当てピン12に相対的に押圧する。これにより、平ひげぜんまい9は凸型11の突出する略W字形に変形され、巻き回されるばね材2の間に押し当てピン12が挿入される。そのため、例えば渦巻の垂直方向に幅広の帯からなるばね材2を変形させる場合でも、ばね材2とばね材2の間隙に押し当てピン12が挿入され、ばね材2が水平方向に倒れて渦巻形状が崩れてしまうのを防止することができる。
【0044】
次に、熱処理工程S3において、凸型11と押し当てピン12とともに渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形に変形された平ひげぜんまい9を熱処理する。これにより、平ひげぜんまい9は略W字形に癖付けされる。次に、図7(c)に示すように、凸型11と複数の押し当てピン12を除去して略W字形のひげぜんまい1を取り出す。次に、図7(d)に示すように、ばね材2の外側の端部E2を渦巻の内側に滑らかに曲げる。この際に、ばね材2は外側の端部E2から数えて1巻目と2巻目が渦巻きを垂直方向から見る平面視で交差し、その交差点において1巻目のばね材2と2巻目のばね材2とは離間し、外端カーブ領域Rは渦巻の上方に曲げる必要が無い。そのため、渦巻の垂直方向に幅広のばね材2を用いても外端カーブ領域Rを極めて容易かつ高精度に形成することができる。
【0045】
なお、ひげぜんまい1のばね材2は、渦巻の垂直方向に幅広の帯状のばね材2に限定されず、断面形状が円形や楕円形、四角形等であってもよい。
【0046】
(第五実施形態)
図8は、本発明の第五実施形態に係るひげぜんまい1を備えるムーブメントを備える時計の模式図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0047】
時計15は、ぜんまい23を収納する香箱16と、ぜんまい23に蓄積される動力を伝達する輪列17と、輪列17の回転を規制する脱進部18などから構成される。なお、文字盤やぜんまいの巻機構等の他の構成は省略する。輪列17は、香箱16に取り付けられる歯車17a、二番歯車17b、二番歯車17bに接続され、歯車17aに係合する二番カナ17c、三番歯車17d、三番歯車17dに接続され、二番歯車17bと係合する三番カナ17e、四番歯車17f、四番歯車17fに接続され、三番歯車17dと係合する四番カナ17gなどを備える不図示のムーブメントが組み込まれて構成される。
【0048】
なお、ムーブメントの一例としては、時計15からいわゆる外装部分(ケース、時針(不図示)等)を除いた部分であり、動力源の上述したぜんまい23や、ぜんまい23を収納する香箱16、針を動かす輪列17等、歯車の回転速度を制御するアンクル脱進器(調速・脱進機構)、又は手巻機構(不図示)等を含んで構成されており、単体で流通可能なものである。
【0049】
脱進部18は、輪列17から動力を受けるガンギ車20、ガンギ車20の回転を規制するアンクル24、アンクル24の振動周期を規制するてんぷ19などから構成される。てんぷ19は、上記第一実施形態から第五実施形態において説明した渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形のひげぜんまい1と、ひげぜんまい1の図示しない内側の端部E1に接続するひげ玉と、図示しない外側の端部E2に接続するひげ持と、ひげ玉に接続し、ひげぜんまい1により往復回転運動の回転軸となるてん真5と、てん真5に接続し、往復回転振動を行うてん輪6を備える。
【0050】
このように、てんぷ19に渦巻の中心を通る垂直方向の断面が略W字形のひげぜんまい1を用いることにより、時計の厚さを薄く形成することができると共に、高精度の時刻を表示する時計を構成することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ひげぜんまい
2 ばね材、21 1巻目のばね材、22 2巻目のばね材
3 ひげ玉
4 ひげ持
5 てん真
6 てん輪
7 嵌合溝
8 貫通孔
9 平ひげぜんまい
10 凹型、11 凸型
12 押し当てピン
13 枠
15 時計、17 輪列、18 脱進部、19 てんぷ
E1 内側の端部、E2 外側の端部
K 交差部
R 外端カーブ領域
H 内端領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10