【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に示すアルミニウム接合部品10は、本発明の一実施例であるアルミニウム用接合材12(以下、単に接合材12という)を用いてアルミニウム製の板材14にアルミニウム製のピン16を一体的に接合したもので、70〜90℃程度の高温雰囲気に晒される車載用の電子部品に用いられるものである。
図2は、
図1におけるII−II矢視部分の拡大断面図で、アルミニウム用接合材12は、内側ガラス20と、その内側ガラス20の表面を被覆するように一体的に設けられた外側ガラス22とから構成されている。この外側ガラス22は、例えば所定のガラスペーストを内側ガラス20の総ての外周面にディップコートして乾燥させたもので、その内側ガラス20の表面に30〜300μmの範囲内の所定の膜厚さで一体的に固着されている。そして、この接合材12を板材14とピン16との間に配置し、それ等の板材14、ピン16の溶融温度よりも十分に低い600℃以下の所定温度(例えば550℃程度)まで加熱すると、外側ガラス22が軟化して板材14およびピン16に一体的に固着されるとともに、内側ガラス20に対しても強固に固着される。これにより、接合材12を介して板材14とピン16とが強固に一体的に接合され、
図1に示すアルミニウム接合部品10が得られる。板材14およびピン16は、複数のアルミニウム部材に相当する。また、内側ガラス20は第1ガラスで、外側ガラス22は第2ガラスである。
【0029】
上記外側ガラス22は、R
2 O(Rはアルカリ成分)を0〜23mol%、ZnOを23〜30mol%、B
2 O
3 を13〜18mol%、Bi
2 O
3 を40〜53mol%含有しているビスマスホウ酸系ガラスで構成されている。但し、上記R
2 O(Rはアルカリ成分)としてLi
2 O、Na
2 O、K
2 Oの少なくとも一つを含む場合に、Li
2 OおよびK
2 Oを含むがNa
2 Oを含まないものは除外される。このようなビスマスホウ酸系ガラスは軟化点が低く、600℃以下の低温度でアルミニウムと接合する。一方、内側ガラス20は、上記外側ガラス22と同じR
2 O(Rはアルカリ成分)を0〜23mol%、ZnOを23〜30mol%、B
2 O
3 を13〜18mol%、Bi
2 O
3 を40〜53mol%含有しているビスマスホウ酸系ガラスに、リューサイト結晶を20〜60wt%の範囲内で含有したものである。このリューサイト結晶の添加で、内側ガラス20の熱膨張係数は、外側ガラス22の熱膨張係数(9〜16×10
-6/Kの範囲内)よりも高くなり、アルミニウムの熱膨張係数(23〜25×10
-6/K)と同程度かやや低い17〜25×10
-6/Kの範囲内とされる。内側ガラス20および外側ガラス22のビスマスホウ酸系ガラスは、例えば互いに同じ組成とされるが、異なる組成であっても差し支えない。
【0030】
上記内側ガラス20、外側ガラス22は、何れも優れた耐水性を備えているが、リューサイト結晶が添加された内側ガラス20は耐水性が若干低下する。この内側ガラス20でも、本実施例では80℃の温水に24時間浸漬した後の重量減少率が1%以下の耐水性が確保される。リューサイト結晶の含有量は、このような高温耐水性が得られるように、ガラス組成等を考慮して20〜60wt%の範囲内で適宜定められる。内側ガラス20の全表面を覆蓋するように外側ガラス22がコーティングされているが、外側ガラス22は30〜300μmの薄膜であるため、内側ガラス20についても耐水性が要求される。
【0031】
このように、本実施例の接合材12は、内側ガラス20と外側ガラス22とから成る2層複合構造で、内側ガラス20は外側ガラス22よりも熱膨張係数が高いとともに、外側ガラス22は600℃以下の低温度でアルミニウムと接合するため、環境に易しく熱膨張差の影響が少ないとともに所定の絶縁性、耐水性を確保しつつ低温度で板材14とピン16とを適切に接合することができる。すなわち、内側ガラス20と外側ガラス22とを有し、内側ガラス20の熱膨張係数が高いことから板材14やピン16との熱膨張差による応力等の影響を抑制でき、低融点の外側ガラス22を採用することにより600℃以下の低温度で適切に板材14およびピン16にそれぞれ接合されるようになり、優れた接合強度や密着性、気密性が得られる。低融点の外側ガラス22の熱膨張係数が低くても、外側ガラス22は低温接合性を確保できれば良く、本実施例では30〜300μmの範囲内の薄膜であるため、熱膨張差の影響が緩和され、巨視的に見れば接合材12全体の熱膨張係数がアルミニウムの熱膨張係数(23〜25×10
-6/K)と同程度かやや低い値と見做すことができるのである。また、本実施例では内側ガラス20および外側ガラス22のガラス材料としてビスマスホウ酸系ガラスが用いられているため、鉛系ガラスのように環境汚染の原因になる恐れがないとともに、優れた絶縁性、耐水性が得られる。
【0032】
また、内側ガラス20の熱膨張係数が17〜25×10
-6/Kの範囲内で、アルミニウムの熱膨張係数(23〜25×10
-6/K)と同程度かやや低いだけであるため、アルミニウム製の板材14およびピン16との熱膨張差による応力等の影響を適切に抑制でき、優れた接合強度、密着性、気密性を確保することができる。
【0033】
また、外側ガラス22の熱膨張係数は9〜16×10
-6/Kの範囲内で、従来から知られている低融点のビスマスホウ酸系ガラスを用いることができるため、低温接合性や耐水性を適切に確保できる。
【0034】
また、内側ガラス20は、リューサイト結晶を20〜60wt%の範囲内で含有しているため、その内側ガラス20の熱膨張係数を17〜25×10
-6/K程度とすることが可能で、アルミニウム製の板材14やピン16との熱膨張差の影響を適切に抑制でき、優れた接合強度、密着性、気密性を確保することができる。リューサイト結晶の含有量が20wt%よりも低いと、熱膨張係数が低くて熱膨張差の影響を抑制する効果が適切に得られない一方、60wt%を超えると熱膨張係数がアルミニウムよりも高くなり、剥離やクラック等が生じ易くなって接合強度や密着性、気密性が損なわれる。
【0035】
また、内側ガラス20および外側ガラス22が何れもビスマスホウ酸系ガラスであるため、両者の接合強度を適切に確保できるとともに、低温接合性に優れた外側ガラス22によってアルミニウム製の板材14およびピン16に適切に接合できる。
【0036】
また、外側ガラス22を構成するビスマスホウ酸系ガラスが、R
2 O(Rはアルカリ成分)としてLi
2 O、Na
2 O、K
2 Oの少なくとも一つを含む場合に、Li
2 OおよびK
2 Oを含むがNa
2 Oを含まないものは除外されるため、外側ガラス22の低温接合性を適切に確保することができる。
【0037】
また、リューサイト結晶が添加されて耐水性が若干低下する内側ガラス20においても、80℃の温水に24時間浸漬した後の重量減少率が1%以下の耐水性を有するため、高い高温耐水性が要求される車載用の電子部品に用いられるアルミニウム接合部品10の接合にも好適に用いられる。
【0038】
また、外側ガラス22の厚さが30〜300μmの範囲内で、内側ガラス20の全表面を被覆するように設けられているため、低温接合性を確保しつつ熱膨張差の影響を緩和して適切に板材14およびピン16に接合できる。すなわち、外側ガラス22の厚さが30μmよりも薄いと、接合に必要なガラスが不足して板材14やピン16との接合強度が十分に得られない一方、300μmを超えると板材14、ピン16との熱膨張差を緩和できなくなり、剥離やクラック等が生じ易くなる。また、この外側ガラス22はディップコートによって内側ガラス20の全表面を被覆するように設けられており、接合材12を簡単且つ安価に作製できる。
【0039】
次に、上記内側ガラス20のマトリックスおよび外側ガラス22として用いられるビスマスホウ酸系ガラスに関し、表1に示すNo1〜No14の各組成について熱膨張係数、接合温度、および耐水性の各試験を本発明者等が行った結果を説明する。
【0040】
【表1】
【0041】
表2は、上記各組成No1〜No14に関する熱膨張係数、接合温度、および耐水性の試験結果である。熱膨張係数は、各ガラス粉をプレス成形して20mm×4mm×4mmの棒状試料を作製し、試料の角が丸くならない程度の温度で仮焼を行った後、TMA(熱機械分析;thermomechanical analysis )で測定した。接合温度および耐水性については、各組成No1〜No14のビスマスホウ酸系ガラスフリットをφ8mmの金型内に充填してプレス成形した後、700℃で10分間真空焼成を行うことでビスマスホウ酸系ガラス試料を作製し、そのガラス試料を用いて試験を行った。接合温度は、そのガラス試料をアルミニウム基板上に載置して、空気中各種温度で20分間焼成し、接合が可能な最低温度を接合温度として求めた。耐水性は、作製したガラス試料を80℃の温水に浸漬し、24時間後の重量変化を測定して重量の減少率(%)を求めた。
【0042】
【表2】
【0043】
この表2の結果から、熱膨張係数は何れも9〜16×10
-6/Kの範囲内で、外側ガラス22として使用できる。また、この熱膨張係数はリューサイト結晶の添加で17〜25×10
-6/K程度に調整できる範囲で、内側ガラス20のマトリックスとしても使用できる。接合温度については、組成No13を除いて何れも600℃以下であり、内側ガラス20、外側ガラス22として好適に使用できる。組成No13は、R
2 O(Rはアルカリ成分)としてLi
2 OおよびK
2 Oを含むがNa
2 Oを含まない場合で、このようなビスマスホウ酸系ガラスは650℃以下では軟化せず、特に外側ガラス22として用いることはできない。耐水性については、組成No5を除いて何れも重量減少率が1%以下であり、特に組成No1〜No3、No6、No7、No9、およびNo10は重量変化を測定できず、高い耐水性が得られた。組成No5については、R
2 O(Rはアルカリ成分)の含有量が28.55mol%と高い一方、ZnO、B
2 O
3 、Bi
2 O
3 の各含有量が比較的低く、このようなビスマスホウ酸系ガラスは内側ガラス20および外側ガラス22の何れにも使用できない。これ等の結果から、内側ガラス20のマトリックスおよび外側ガラス22として用いるビスマスホウ酸系ガラスとしては、R
2 O(Rはアルカリ成分)を0〜23mol%、ZnOを23〜30mol%、B
2 O
3 を13〜18mol%、Bi
2 O
3 を40〜53mol%含有しているものが適当と考えられる。なお、R
2 O(Rはアルカリ成分)については、23mol%を超えていても24mol%以下であれば、重量減少率が1%以下であり、内側ガラス20のマトリックスおよび外側ガラス22として用いることが十分に可能である。
【0044】
次に、前記表1の組成No1のビスマスホウ酸系ガラスにリューサイト結晶を添加し、その添加量すなわち調合割合について検討した結果を説明する。表3は、ビスマスホウ酸系ガラスとリューサイト結晶との調合割合(wt%)を示したもので、調合割合が異なる6種類の試料No1〜No6を用意した。これ等の試料No1〜No6は、組成No1のビスマスホウ酸系ガラスフリットおよびリューサイト結晶を各調合割合で調合、混合し、その混合粉1.5gをφ8mmの金型内に充填してプレス成形した後、700℃で10分間真空焼成を行うことで、リューサイト添加ビスマスホウ酸系ガラスの成型体を得た。
【0045】
【表3】
【0046】
そして、上記試料No1〜No6の成型体を前記内側ガラス20として用いて、その表面に前記表1の組成No1から成る外側ガラス22をコーティングした。具体的には、先ず組成No1のビスマスホウ酸系ガラスフリットを、ベヒクルおよび分散剤を用いてペースト化する。その後、そのガラスペーストを試料No1〜No6の成型体にディップコートし、80℃で3時間乾燥することで2層複合構造の接合材12を得た。なお、試料No4については、実質的に内側ガラス20および外側ガラス22の組成が同一であるため、外側ガラス22のコーティングを省略した。
【0047】
また、比較例としてリン酸亜鉛系ガラスの試料No7を用意した。この試料No7は、表4の組成となるように原料を調合して混合し、900℃で30分溶融した後、急冷することでガラス化させた。その後、スタンプミルにて10g当たり15分間粉砕を行い、355μmの目開きの篩にて分級を行い、前記接合材12として用いるガラス試料を作製した。
【0048】
【表4】
【0049】
表5は、上記各試料No1〜No7に関する熱膨張係数、接合温度、および耐水性の試験結果である。熱膨張係数は、前記表2の場合と同様にしてTMAで測定した。試料No1〜No3、No5、No6については、内側ガラス20として用いるリューサイト添加ビスマスホウ酸系ガラスについて測定を行った。接合温度および耐水性については、試料No4およびNo7を除いて、2層複合構造の接合材12を用いて、前記表2の場合と同様にして試験を行った。
【0050】
【表5】
【0051】
この表5の結果から、試料No1〜No3については、耐水性に関する重量減少率が何れも1%以下で優れた耐水性が得られるとともに、接合温度が520℃とアルミニウムの融点よりも十分に低く、アルミニウムとの接合が可能である。熱膨張係数は内側ガラス20、すなわちリューサイト添加ビスマスホウ酸系ガラスに関するものであるが、17〜25×10
-6/Kの範囲内で、アルミニウムの熱膨張係数(23〜25×10
-6/K)と同程度かやや低いだけであり、熱膨張差による応力等の影響が抑制されて優れた接合強度、密着性、気密性で接合できる。ディップコートされた外側ガラス22の膜厚は薄いため、巨視的に見ると接合材12の大半を占める内側ガラス20が熱膨張係数に大きく影響し、アルミニウムとマッチングが取れた接合材12が得られる。また、リューサイト結晶の含有量が比較的少ない試料No1およびNo2に関しては、重量減少率が0.5%以下で、特に優れた耐水性が得られる。リューサイト結晶の含有量が比較的多い試料No3に関しては、熱膨張係数がアルミニウムと同程度で、熱膨張差による影響が略皆無となる。なお、上記接合温度は実質的に外側ガラス22によって定まり、耐水性の重量減少率は実質的に内側ガラス20によって定まると考えられる。
【0052】
一方、リューサイト結晶を含有していないビスマスホウ酸系ガラスだけで構成されている試料No4に関しては、優れた低温接合性や耐水性が得られるものの、熱膨張係数が10.8×10
-6/Kで、アルミニウムの熱膨張係数(23〜25×10
-6/K)に比較して大幅に低い。このため、アルミニウムとの熱膨張差による応力等の影響で剥離やクラック等が生じ易く、接合強度や密着性、気密性が損なわれる。
【0053】
リューサイト結晶の含有量が10wt%のリューサイト添加ビスマスホウ酸系ガラスで内側ガラス20が構成されている試料No5に関しても、優れた低温接合性や耐水性が得られるものの、熱膨張係数が12.8×10
-6/Kで、アルミニウムの熱膨張係数(23〜25×10
-6/K)に比較して低い。このため、上記試料No4と同様に、アルミニウムとの熱膨張差による応力等の影響で剥離やクラック等が生じ易く、接合強度や密着性、気密性が損なわれる。一方、リューサイト結晶の含有量が70wt%のリューサイト添加ビスマスホウ酸系ガラスで内側ガラス20が構成されている試料No6に関しては、優れた低温接合性が得られるものの、熱膨張係数が26×10
-6/Kで、アルミニウムの熱膨張係数(23〜25×10
-6/K)よりも高くなる。このため、接合した後の冷却収縮の際の熱膨張差によって接合材12に引張応力が作用するようになり、剥離やクラック等が生じ易くなる。また、リューサイト結晶の含有量が高いことで、耐水性も損なわれる。したがって、内側ガラス20として用いるリューサイト添加ビスマスホウ酸系ガラスのリューサイト結晶の含有量は、15〜65wt%の範囲内が適当で、20〜60wt%の範囲内が望ましい。
【0054】
リン酸亜鉛系ガラスを用いて構成されている試料No7に関しては、接合温度が430℃で熱膨張係数が17.6×10
-6/Kであり、アルミニウム部材の接合に好適に用いることができる。しかし、耐水性に関する重量減少率が3.3%と大きく、高い高温耐水性が要求される車両搭載部品などの接合に用いることはできない。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。