(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車室内を囲む鋼製ボデーの左右のルーフサイドレールに車体幅方向に延在するアルミニウム合金製押出材からなるルーフリインフォースが接合された自動車のルーフ構造において、
前記ルーフリインフォースが鋼製ルーフパネルの下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在し、
このルーフパネルと前記ルーフリインフォースを接合するための熱硬化型接着樹脂が前記ルーフパネルと前記ルーフリインフォースの間に介在されているとともに、
前記ルーフリインフォースの車体幅方向の両端に別体で成形されたブラケットを有し、
このブラケットには、前記ルーフサイドレールとルーフリインフォースの車体幅方向の熱膨張の差を吸収する伸縮部と、この伸縮部の前記ルーフサイドレール側および前記ルーフリインフォース側にそれぞれ互いの面が同一平面になるようなフランジ部(以下、「ルーフサイドレール側フランジ部」および「ルーフリインフォース側フランジ部」と称す)とが形成され、
前記ルーフサイドレール側フランジ部とルーフリインフォース側フランジ部とが前記同一平面内に維持されるように、前記ブラケットを介して、前記ルーフリインフォースが前記ルーフサイドレールに接合された構成であり、
前記ルーフリインフォースは、押出方向に垂直な断面でみたとき、互いに略平行で車体上側及び下側に配置される一対のフランジと、前記両フランジに対し略垂直で車体上下方向を向く一対のウエブとを有し、前記一対のフランジ及び一対のウエブにより略矩形の閉断面部が構成され、
前記ルーフリインフォース側フランジ部には、車体幅方向に延在し、かつ前記ルーフリインフォース側フランジ部に対し略垂直で車体上下方向を向く一対のルーフリインフォース側ウエブ部が設けられ、
前記ルーフサイドレール側フランジ部とルーフリインフォース側フランジ部とが前記同一平面内に維持されるようにして、前記一対のルーフリインフォース側ウエブ部で前記一対のウエブを挟み込み接合したことを特徴とする自動車のルーフ構造。
【背景技術】
【0002】
ルーフリインフォースは、自動車のルーフ構造において車体幅方向への剛性及び強度を確保し、かつルーフパネルの張り剛性を確保するため、ルーフパネルに近接して車体幅方向に延在し、両端に固定又は一体成形されたブラケットを介して、車体前後方向に延在する左右のルーフサイドレールと接合される。
【0003】
また、ルーフリインフォースには、車両の軽量化と衝突強度向上を目的として、アルミニウム合金製押出材の使用が提案されている。アルミニウム合金製押出材は、長手方向に亘る断面形状が同じである(均一である)長尺材が簡便に製造でき、このような形状からなるルーフリインフォースを得たい場合に適している。
【0004】
しかし、鋼製ボデーのルーフサイドレールに、アルミニウム合金製押出材からなるルーフリインフォースを接合する場合、焼き付け塗装工程時にアルミニウム合金材と鋼材の熱膨張差に起因して、両者の接合箇所及びその近傍に熱変形(塑性歪み)が生じ、この熱変形が焼き付け塗装後も残留し、ルーフパネルの形状精度に悪影響を与えることがある。
【0005】
この焼き付け塗装工程時のルーフパネルの形状精度に悪影響を与える熱変形(すなわち、上記アルミニウム合金材と鋼材の熱膨張差に起因する熱変形)を回避する狙いで、
図12に示すようなルーフリインフォース12の車体幅方向の両端に別体で成形されたブラケット15を設ける構成が提案されている(特許文献1参照)。このブラケット15は、ルーフサイドレール11とルーフリインフォース12の車体幅方向の熱膨張の差を吸収する伸縮部15aを有している。また、この伸縮部15aのルーフサイドレール11側およびルーフリインフォース12側にそれぞれフランジ部15b、15cが形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示された技術では、
図12に示すように、ルーフサイドレール11のフランジ11aに伸縮部15aのルーフサイドレール側フランジ部15bを接合し、ルーフリインフォース12の車体上側の面に伸縮部15aのルーフリインフォース側フランジ部15cを接合した場合、以下のような問題が発生する。すなわち、焼き付け塗装工程時のルーフリインフォース12の長手方向(車体幅方向)の伸張(
図13の実線を参照)により、ルーフリインフォース12が車体上方向に曲げ変形(
図13の実線を参照)してしまう。
【0008】
その結果、焼き付け塗装工程前に予め設定したルーフパネル13とルーフリインフォース12との間隙(すなわち、マスチック樹脂14の厚さ)が減少する方向に変化してしまう(
図13参照)。
【0009】
よって、焼き付け塗装工程が完了(すなわち、冷却)後には、硬化したマスチック樹脂14のばね力により、ルーフパネル13がルーフリインフォース12側に引っ張られて、ルーフパネル13に凹型の熱変形(熱ひずみ)が発生してしまう(
図14参照)という問題点があった。
【0010】
図12〜
図14においては、ルーフリインフォース12の車体上側の面に伸縮部15aのルーフリインフォース側フランジ部15cを接合した場合について説明したが、これに限定されるだけではない。例えば、ルーフリインフォース12の車体下側の面に伸縮部15aのルーフリインフォース側フランジ部15cを接合した場合においては、焼き付け塗装工程前に予め設定したルーフパネル13とルーフリインフォース12との間隙(すなわち、マスチック樹脂14の厚さ)が増加する方向に変化してしまい、焼き付け塗装工程が完了(すなわち、冷却)後には、ルーフパネル13に凸型の熱変形(熱ひずみ)が発生してしまう。
【0011】
本発明の目的は、鋼製ボデーのルーフサイドレールにアルミニウム合金製のルーフリインフォースを接合した自動車のルーフ構造における、焼き付け塗装によってルーフサイドレールに熱変形(塑性歪み)が発生するのを防止するばかりでなく、鋼製ルーフパネルとルーフリインフォースとの間隙の変化を抑制し、ルーフパネルの形状精度に悪影響を与えない自動車のルーフ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、
車室内を囲む鋼製ボデーの左右のルーフサイドレールに車体幅方向に延在するアルミニウム合金製押出材からなるルーフリインフォースが接合された自動車のルーフ構造において、
前記ルーフリインフォースが鋼製ルーフパネルの下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在し、
このルーフパネルと前記ルーフリインフォースを接合するための熱硬化型接着樹脂が前記ルーフパネルと前記ルーフリインフォースの間に介在されているとともに、
前記ルーフリインフォースの車体幅方向の両端に別体で成形されたブラケットを有し、
このブラケットには、前記ルーフサイドレールとルーフリインフォースの車体幅方向の熱膨張の差を吸収する伸縮部と、この伸縮部の前記ルーフサイドレール側および前記ルーフリインフォース側にそれぞれ互いの面が同一平面になるようなフランジ部(以下、「ルーフサイドレール側フランジ部」および「ルーフリインフォース側フランジ部」と称す)とが形成され、
前記ルーフサイドレール側フランジ部とルーフリインフォース側フランジ部とが前記同一平面内に維持されるように、前記ブラケットを介して、前記ルーフリインフォースが前記ルーフサイドレールに接合された構成であ
り、
前記ルーフリインフォースは、押出方向に垂直な断面でみたとき、互いに略平行で車体上側及び下側に配置される一対のフランジと、前記両フランジに対し略垂直で車体上下方向を向く一対のウエブとを有し、前記一対のフランジ及び一対のウエブにより略矩形の閉断面部が構成され、
前記ルーフリインフォース側フランジ部には、車体幅方向に延在し、かつ前記ルーフリインフォース側フランジ部に対し略垂直で車体上下方向を向く一対のルーフリインフォース側ウエブ部が設けられ、
前記ルーフサイドレール側フランジ部とルーフリインフォース側フランジ部とが前記同一平面内に維持されるようにして、前記一対のルーフリインフォース側ウエブ部で前記一対のウエブを挟み込み接合したことを特徴とする自動車のルーフ構造である。
【0015】
請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載された発明において、前記ブラケットは、前記伸縮部において車体幅方向に沿って波状又は溝状に成形されていることを特徴とする。
【0016】
請求項
3に記載の発明は、請求項1
または2に記載された発明において、前記ブラケットは、鋼製であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明は、
車室内を囲む鋼製ボデーの左右のルーフサイドレールに車体幅方向に延在するアルミニウム合金製押出材からなるルーフリインフォースが接合された自動車のルーフ構造において、
前記ルーフリインフォースが鋼製ルーフパネルの下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在し、
このルーフパネルと前記ルーフリインフォースを接合するための熱硬化型接着樹脂が前記ルーフパネルと前記ルーフリインフォースの間に介在されているとともに、
前記ルーフリインフォースの車体幅方向の両端に別体で成形されたブラケットを有し、
このブラケットには、前記ルーフサイドレールとルーフリインフォースの車体幅方向の熱膨張の差を吸収する伸縮部と、この伸縮部の前記ルーフサイドレール側および前記ルーフリインフォース側にそれぞれ互いの面が同一平面になるようなフランジ部(以下、「ルーフサイドレール側フランジ部」および「ルーフリインフォース側フランジ部」と称す)とが形成され、
前記ルーフサイドレール側フランジ部とルーフリインフォース側フランジ部とが前記同一平面内に維持されるように、前記ブラケットを介して、前記ルーフリインフォースが前記ルーフサイドレールに接合された構成であ
り、
前記ルーフリインフォースは、押出方向に垂直な断面でみたとき、互いに略平行で車体上側及び下側に配置される一対のフランジと、前記両フランジに対し略垂直で車体上下方向を向く一対のウエブとを有し、前記一対のフランジ及び一対のウエブにより略矩形の閉断面部が構成され、
前記ルーフリインフォース側フランジ部には、車体幅方向に延在し、かつ前記ルーフリインフォース側フランジ部に対し略垂直で車体上下方向を向く一対のルーフリインフォース側ウエブ部が設けられ、
前記ルーフサイドレール側フランジ部とルーフリインフォース側フランジ部とが前記同一平面内に維持されるようにして、前記一対のルーフリインフォース側ウエブ部で前記一対のウエブを挟み込み接合したことを特徴とする。
【0018】
これにより、鋼製ボデーのルーフサイドレールにアルミニウム合金製のルーフリインフォースを接合した自動車のルーフ構造における、焼き付け塗装によってルーフサイドレールに熱変形(塑性歪み)が発生するのを防止するばかりでなく、鋼製ルーフパネルとルーフリインフォースとの間隙の変化を抑制し、ルーフパネルの形状精度に悪影響を与えない自動車のルーフ構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態1の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【
図2】
図1に示すブラケットの模式斜視図(固定前)である。
【
図3】
図1に示すルーフリインフォースの模式斜視図(固定前)である。
【
図4】同実施形態1における焼き付け塗装前(破線)と焼き付け塗装時(実線)の形状変化を示す模式断面図である。
【
図5】同実施形態1における焼き付け塗装完了後の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【
図6】本発明の実施形態2の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【
図7】
図6に示すブラケットの模式斜視図(固定前)である。
【
図8】
図6に示すルーフリインフォースの模式斜視図(固定前)である。
【
図9】同実施形態2における焼き付け塗装前(破線)と焼き付け塗装時(実線)の形状変化を示す模式断面図である。
【
図10】同実施形態2における焼き付け塗装完了後の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【
図11】本発明に係る自動車のルーフ構造における種々のブラケット形状を示す斜視図である。
【
図12】従来の実施形態の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【
図13】従来の焼き付け塗装前(破線)と焼き付け塗装時(実線)の形状変化を示す模式断面図である。
【
図14】従来の焼き付け塗装完了後の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者は、如何にすれば
鋼製ボデーのルーフサイドレールにアルミニウム合金製のルーフリインフォースを接合した自動車のルーフ構造における、焼き付け塗装によってルーフサイドレールに熱変形(塑性歪み)が発生するのを防止するばかりでなく、鋼製ルーフパネルとルーフリインフォースとの間隙の変化を抑制し、ルーフパネルの形状精度に悪影響を与えない自動車のルーフ構造を実現することができるか鋭意研究を行った。その結果、以下に説明するような構成を採用することで初めて目的を達成できることを見出した。以下、本発明について、実施形態を例示しつつ、詳細に説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1の自動車のルーフ構造の模式断面図、
図2は
図1に示すブラケットの模式斜視図(固定前)、
図3は
図1に示すルーフリインフォースの模式斜視図(固定前)、
図4は同実施形態1における焼き付け塗装前(破線)と焼き付け塗装時(実線)の形状変化を示す模式断面図、
図5は同実施形態1における焼き付け塗装完了後の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【0022】
図1は本発明に係る自動車のルーフ構造の一部(ルーフサイドレールとルーフリインフォースの片側半部および片側のブラケット)を示す。
【0023】
図1〜
図3において、1は車室内を囲む鋼製ボデーの一部である左右のルーフサイドレール、2は車体幅方向に延在するアルミニウム合金製押出材からなるルーフリインフォース、3は鋼製ルーフパネル、4は熱硬化型接着樹脂としてのマスチック樹脂、5はルーフリインフォース2の車体幅方向の両端に別体で成形された鋼製ブラケットである。また、ルーフリインフォース2は、押出方向に垂直な断面でみたとき、互いに略平行で車体上側及び下側に配置される一対のフランジ2a、2bと、両フランジ2a、2bに対し略垂直で車体上下方向を向く一対のウエブ2c、2dとを有し、一対のフランジ2a、2b及び一対のウエブ2c、2dにより略矩形の閉断面部が構成されている。また、ルーフサイドレール1、ルーフパネル3には、それぞれフランジ1a、3aが設けられている。
【0024】
ルーフリインフォース2がルーフパネル3の下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在し、このルーフパネル3とルーフリインフォース2を接合するためのマスチック樹脂4がルーフパネル3とルーフリインフォース2の間に介在されている。
【0025】
ブラケット5にはルーフサイドレール1とルーフリインフォース2の車体幅方向の熱膨張の差を吸収する伸縮部5aとこの伸縮部5aのルーフサイドレール1側およびルーフリインフォース2側にそれぞれ互いの面が同一平面になるようなフランジ部(「一対のルーフサイドレール側フランジ部5b、5b」および「一対のルーフリインフォース側フランジ部5c、5c」)が形成されている。なお、伸縮部5aは、車体幅方向に沿って三角形の波状に成形されており、伸縮部5aの車体幅方向の断面は、車体前後方向のどの位置でも同一である。この伸縮部5aの車体幅方向の剛性はルーフリインフォース2及びブラケット5の中で最も小さく、ルーフリインフォース2とフールサイドレール1の間に車体幅方向の圧縮又は引張荷重が掛かったとき、他の部分に優先して伸縮変形する。ここで、「同一平面」とは、数学的に言う厳密な同一平面に限定されるものではなく、ブラケット5の板厚の3倍まで許容される。以下に登場する「同一平面」なる字句に対しても、本定義が適用される。
【0026】
また、ルーフサイドレール1のフランジ1a上には、ルーフサイドレール側フランジ部5b、5b、ルーフパネル3のフランジ3aが重ねられ、ボルトで機械的に接合されている。
【0027】
さらに、一対のルーフリインフォース側フランジ部5c、5cには、車体幅方向に延在し、かつ一対のルーフリインフォース側フランジ部5c、5cに対し略垂直で車体上下方向を向く一対のルーフリインフォース側ウエブ部5d、5dが設けられている。そして、一対のルーフサイドレール側フランジ部5b、5bと一対のルーフリインフォース側フランジ部5c、5cが上述した同一平面内に維持されるようにして、一対のルーフリインフォース側ウエブ部5d、5dで一対のウエブ2c、2dを挟み込みスポット溶接により接合されている。このように、本発明に係る自動車のルーフ構造は、一対のルーフサイドレール側フランジ部5b、5bと一対のルーフリインフォース側フランジ部5c、5cが上述した同一平面内に維持されるようにして、ブラケット5を介してルーフリインフォース2がルーフサイドレール1に接合されるように構成されている。
【0028】
次に、
図1に示す自動車のルーフ構造を有する鋼製ボデーを、焼付塗装炉に装入して170〜200℃に加熱したときの状態を
図4に示す。
図4に、自動車のルーフ構造の焼き付け塗装前(破線)と焼き付け塗装時(実線)の形状変化を示す。
図4に示すように、アルミニウム合金製のルーフリインフォース2の車体幅方向の伸びがルーフサイドレール1の車体幅方向の伸びより大きく、ルーフリインフォース2とルーフサイドレール1の間に車体幅方向の圧縮荷重が掛かり、ブラケット5の伸縮部5aが縮み、ルーフリインフォース2とルーフサイドレール1との車体幅方向の熱膨張の差を吸収する。従って、ルーフサイドレール1に熱変形(塑性歪み)が生じるのが防止される。また、一対のルーフサイドレール側フランジ部5b、5bと一対のルーフリインフォース側フランジ部5c、5cが上述したように、同一平面内に維持されるようにして、一対のルーフリインフォース側ウエブ部5d、5dで一対のウエブ2c、2dを挟み込みスポット溶接により接合されているため、ルーフリインフォース2がルーフパネル3に対して車体上方向または車体下方向に移動するような変形も発生しない。従って、焼き付け塗装時にルーフリインフォース2がルーフパネル3に対して車体上方向または車体下方向に移動するような変形も発生しないため、ルーフパネル3とルーフリインフォース2との間隙(すなわち、マスチック樹脂4の厚さ)が減少する方向に変化したり、増加する方向に変化したりすることもない。
【0029】
続いて、
図4に示す焼き付け塗装完了後(すなわち、室温まで冷却させた後)の自動車のルーフ構造の状態を
図5に示す。室温まで冷却させると、ルーフリインフォース2とルーフサイドレール1が熱収縮し、これに伴いルーフリインフォース2とルーフサイドレール1の間に車体幅方向の引張荷重が掛かり、ブラケット5の伸縮部5aが熱収縮の差相当分だけ伸びて、
図5に示すように、当初の形状に戻り、ルーフサイドレール1に熱変形(塑性歪み)が残留することも防止される。また、上述したように、焼き付け塗装時にルーフパネル3とルーフリインフォース2との間隙(すなわち、マスチック樹脂4の厚さ)が減少する方向に変化したり、増加する方向に変化したりすることがない(すなわち、間隙の変化が抑制される)ため、硬化したマスチック樹脂4のばね力により、ルーフパネル3がルーフリインフォース2側に引っ張られたり、ルーフパネル3がルーフリインフォース2側から遠ざけられたりすることが起こらない。よって、ルーフパネル3に、従来のような凹型の熱変形や凸型の熱変形が発生せず、ルーフパネル3の形状精度に悪影響を与えない自動車のルーフ構造を実現することができる。
【0030】
(実施形態2)
図6は本発明の実施形態2の自動車のルーフ構造の模式断面図、
図7は
図6に示すブラケットの模式斜視図(固定前)、
図8は
図6に示すルーフリインフォースの模式斜視図(固定前)、
図9は同実施形態2における焼き付け塗装前(破線)と焼き付け塗装時(実線)の形状変化を示す模式断面図、
図10は同実施形態2における焼き付け塗装完了後の自動車のルーフ構造の模式断面図である。本実施形態において、実施形態1と同一構成要素には同一番号を付し、詳細な説明を省略し、異なる部分についてのみ詳述する。
【0031】
図6は本発明に係る自動車のルーフ構造の一部(ルーフサイドレールとルーフリインフォースの片側半部および片側のブラケット)を示す。
図6において、破線で示す箇所は、
図3に示すルーフリインフォース2の車体幅方向の端部である。この箇所に車体上下方向につぶす加工を施すことにより、
図8に示すようなルーフリインフォース2が得られる(詳細は、後記参照)。
【0032】
図7に示すブラケット5には、
図2に示すような一対のルーフリインフォース側ウエブ部5d、5dは設けられず、ルーフリインフォース側フランジ部5cがフラットな一面から形成されている。従って、このフラットな一面から形成されたルーフリインフォース側フランジ部5cと一対のルーフサイドレール側フランジ部5b、5bが同一平面になるように構成される。
【0033】
図8に示すルーフリインフォース2の車体幅方向の端部には、
図6に破線で示す箇所(すなわち、
図3に示すルーフリインフォース2の一対のフランジ2a、2b及び一対のウエブ2c、2dにより略矩形の閉断面部)に車体上下方向につぶす加工が施され、端部以外の閉断面部に比べて(すなわち、一対のウエブ2c、2dの車体上下方向の高さに比べて)所定量だけ小さくなるような一対のウエブ2f、2gが形成されている。これにより、ルーフリインフォース2の車体幅方向の端部には、一対のフランジ2e、2b及び一対のウエブ2f、2gにより略矩形の閉断面部が構成される。
【0034】
さらに、
図6に示すように、一対のルーフサイドレール側フランジ部5b、5bとフラットな一面から形成されたルーフリインフォース側フランジ部5cが上述した同一平面内に維持されるようにして、フラットな一面から形成されたルーフリインフォース側フランジ部5cがルーフリインフォース2のフランジ2e{ルーフリインフォース2の端部の車体上側(フランジ2aの面に比べて車体下方に一段下がっている)}にボルトで機械的に接合されている。このように、本発明に係る自動車のルーフ構造は、一対のルーフサイドレール側フランジ部5b、5bとフラットな一面から形成されたルーフリインフォース側フランジ部5cが上述した同一平面内に維持されるようにして、ブラケット5を介してルーフリインフォース2がルーフサイドレール1に接合されるように構成されている。
【0035】
次に、
図6に示す自動車のルーフ構造を有する鋼製ボデーを、焼付塗装炉に装入して170〜200℃に加熱したときの状態を
図9に示す。
図9に、自動車のルーフ構造の焼き付け塗装前(破線)と焼き付け塗装時(実線)の形状変化を示す。
図9に示すように、アルミニウム合金製のルーフリインフォース2の車体幅方向の伸びがルーフサイドレール1の車体幅方向の伸びより大きく、ルーフリインフォース2とルーフサイドレール1の間に車体幅方向の圧縮荷重が掛かり、ブラケット5の伸縮部5aが縮み、ルーフリインフォース2とルーフサイドレール1との車体幅方向の熱膨張の差を吸収する。従って、ルーフサイドレール1に熱変形(塑性歪み)が生じるのが防止される。また、一対のルーフサイドレール側フランジ部5b、5bとフラットな一面から形成されたルーフリインフォース側フランジ部5cが上述したように、同一平面内に維持されるようにして、フラットな一面から形成されたルーフリインフォース側フランジ部5cがルーフリインフォース2のフランジ2eにボルトで機械的に接合されているため、ルーフリインフォース2がルーフパネル3に対して車体上方向または車体下方向に移動するような変形も発生しない。従って、焼き付け塗装時にルーフリインフォース2がルーフパネル3に対して車体上方向または車体下方向に移動するような変形も発生しないため、ルーフパネル3とルーフリインフォース2との間隙(すなわち、マスチック樹脂4の厚さ)が減少する方向に変化したり、増加する方向に変化したりすることもない。
【0036】
続いて、
図9に示す焼き付け塗装完了後(すなわち、室温まで冷却させた後)の自動車のルーフ構造の状態を
図10に示す。室温まで冷却させると、ルーフリインフォース2とルーフサイドレール1が熱収縮し、これに伴いルーフリインフォース2とルーフサイドレール1の間に車体幅方向の引張荷重が掛かり、ブラケット5の伸縮部5aが熱収縮の差相当分だけ伸びて、
図5に示すように、当初の形状に戻り、ルーフサイドレール1に熱変形(塑性歪み)が残留することも防止される。また、上述したように、焼き付け塗装時にルーフパネル3とルーフリインフォース2との間隙(すなわち、マスチック樹脂4の厚さ)が減少する方向に変化したり、増加する方向に変化したりすることがない(すなわち、間隙の変化が抑制される)ため、硬化したマスチック樹脂4のばね力により、ルーフパネル3がルーフリインフォース2側に引っ張られたり、ルーフパネル3がルーフリインフォース2側から遠ざけられたりすることが起こらない。よって、ルーフパネル3に、従来のような凹型の熱変形や凸型の熱変形が発生せず、ルーフパネル3の形状精度に悪影響を与えない自動車のルーフ構造を実現することができる。
【0037】
なお、本実施形態において、フラットな一面から形成されたルーフリインフォース側フランジ部5cをルーフリインフォース2のフランジ2e{ルーフリインフォース2の端部の車体上側(フランジ2aの面に比べて車体下方に一段下がっている)}にボルトで機械的に接合した例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。すなわち、ルーフリインフォース2の一対のフランジ2a、2b及び一対のウエブ2c、2dにより略矩形の閉断面部)に車体上下方向につぶす加工を施し、端部以外の閉断面部に比べて(すなわち、一対のウエブ2c、2dの車体上下方向の高さに比べて)所定量だけ小さくなるような一対のウエブを形成し、フランジ2aはフラットなままで、フランジ2bが端部に向かって一段上がったフランジ有し、このフランジ(ルーフリインフォース2の端部の車体下側)にボルトで機械的に接合しても構わない。
【0038】
また、上記実施形態1および2においては、ブラケット5として鋼製の場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、アルミニウム合金製を採用することも可能である。ただし、電食の観点からは、ブラケット5として鋼製を採用するのがより好ましい。
【0039】
また、上記実施形態1および2においては、熱硬化型接着樹脂としてマスチック樹脂を用いた場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、熱硬化型樹脂であり、かつ、接着性を有するものであれば種々のものが採用可能である。
【0040】
また、上記実施形態1および2においては、ブラケット5の伸縮部5aの形状として、車体幅方向に沿って三角形の溝状に成形した例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、
図11に示すような種々の形状を採用可能である。
図11(c)のブラケットの伸縮部形状は、
図2に示すものと同じ三角形の溝状、
図11(a)は三角形の波状、
図11(b)はその上下対称形状、
図11(d)は
図11(c)の上下対称形状、
図11(e)は湾曲した波状、
図11(f)はその上下対称形状、
図11(g)は台形の溝状、
図11(h)はその上下対称形状、
図11(i)は湾曲した溝状、
図11(j)はその上下対称形状の伸縮部である。これらの伸縮部は、いずれも車体幅方向に沿って波状又は溝状に成形され、伸縮部の車体幅方向の断面は車体前後方向のどの位置でも同一である。
【0041】
また、上記実施形態1においては、ルーフサイドレール1のフランジ1a上には、ルーフサイドレール側フランジ部5b、5b、ルーフパネル3のフランジ3aが重ねられ、ボルトで機械的に接合する例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、リベットなどの機械的接合あるいは溶接接合 (スポット溶接等) を適宜選択、組み合わせて用いることも可能である。
【0042】
また、上記実施形態1においては、一対のルーフリインフォース側ウエブ部5d、5dで一対のウエブ2c、2dを挟み込みスポット溶接により接合する例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、ボルトやリベットなどの機械的接合を用いることも可能である。なお、上述した接合方法に関しては、上記実施形態2についても同様のことが言える。
【0043】
本発明で、ルーフリインフォースあるいはブラケットに用いるアルミニウム合金は、製造がしやすく、成形が容易で、強度にも優れたAA乃至JIS 3000系、5000系、6000系等のアルミニウム合金の調質材(熱処理材)を適宜選択して用いる。