(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013295
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】ガスエンジン及びガスエンジンにおけるプラグカバーの設計方法
(51)【国際特許分類】
F02P 13/00 20060101AFI20161011BHJP
F02B 19/18 20060101ALI20161011BHJP
F02B 19/12 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
F02P13/00 302B
F02B19/18 B
F02B19/12 B
F02P13/00 301A
F02P13/00 302A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-176292(P2013-176292)
(22)【出願日】2013年8月28日
(65)【公開番号】特開2015-45252(P2015-45252A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2015年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】谷口 順一
(72)【発明者】
【氏名】山口 幸寛
【審査官】
川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−270538(JP,A)
【文献】
特開昭52−024608(JP,A)
【文献】
特公昭50−003455(JP,B1)
【文献】
特開2000−337150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 13/00
F02B 19/12
F02B 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体燃料と空気との混合気が吸気される燃焼室内に、シリンダヘッドに装着された点火プラグの電極部を覆うプラグカバーが突出して配置され、上記燃焼室内に吸気される混合気が、上記プラグカバーに形成された複数の連通口から該プラグカバー内の点火室に取り込まれ、該点火室内及び上記燃焼室内において燃焼を行うよう構成されたガスエンジンにおけるプラグカバーの設計方法において、
上記複数の連通口は、上記点火プラグ及び上記プラグカバーの中心軸線の周りに等間隔に並んで、該中心軸線から互いに等しい位置に設けられており、
上記燃焼室を形成するシリンダーのボア半径をB(mm)、上記複数の連通口の総開口面積をA(mm2)、上記点火室の内容積をC(mm3)、上記燃焼室内に吸気される混合気の空気過剰率をλとしたとき、0.45≦(A×B)/C×λ≦0.6の関係を満たすよう、上記A及び上記Cを決定することを特徴とするガスエンジンにおけるプラグカバーの設計方法。
【請求項2】
気体燃料と空気との混合気が吸気される燃焼室内に、シリンダヘッドに装着された点火プラグの電極部を覆うプラグカバーが突出して配置され、上記燃焼室内に吸気される混合気が、上記プラグカバーに形成された複数の連通口から該プラグカバー内の点火室に取り込まれ、該点火室内及び上記燃焼室内において燃焼を行うよう構成されたガスエンジンにおいて、
上記複数の連通口は、上記点火プラグ及び上記プラグカバーの中心軸線の周りに等間隔に並んで、該中心軸線から互いに等しい位置に設けられており、
上記燃焼室を形成するシリンダーのボア半径をB(mm)、上記複数の連通口の総開口面積をA(mm2)、上記点火室の内容積をC(mm3)、上記燃焼室内に吸気される混合気の空気過剰率をλとしたとき、0.45≦(A×B)/C×λ≦0.6の関係を有していることを特徴とするガスエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジン及びガスエンジンにおけるプラグカバーの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス等の気体燃料を用いて作動するガスエンジンにおいては、ガソリン等の燃料を用いる場合に比べて、比較的高い割合の空気を含む稀薄混合気が使用される。そのため、失火や燃費の低下を招くことが多い。そこで、稀薄混合気の点火を効果的に行うために、燃焼室内には、点火プラグの電極部を複数の連通口を有するプラグカバーで覆って、点火室を設けている。そして、点火室内の混合気の燃焼によって発生させた火炎を、燃焼室へ噴出させ、燃焼室内の混合気を燃焼させている。
【0003】
例えば、特許文献1のエンジン及びそれに装着されるプレチャンバープラグにおいては、点火室を形成するプラグカバーがプラグ本体に設けられたエンジンについて開示されている。プラグ本体はシリンダヘッドに装着されており、プラグカバーには、点火室と燃焼室とを連通する連通孔が形成されている。そして、連通孔を介して燃焼室から点火室へ流入する混合気を燃焼させ、燃焼による火炎を、連通孔を介して点火室から燃焼室へ噴出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−99403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、点火プラグの電極部をプラグカバーで覆って点火室を形成する場合、プラグカバーをどのような状態で形成するかによって、稀薄混合気を効果的に燃焼させる効果が変わる。そのため、プラグカバーの最適な設計を行うためには更なる工夫が必要とされる。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、燃焼室内に点火室を設ける場合において、失火及び燃費の低下を防止して、混合気を効果的に燃焼させるための適切な設計をすることができるガスエンジン及びガスエンジンにおけるプラグカバーの設計方法を提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
気体燃料と空気との混合気が吸気される燃焼室内に、シリンダヘッドに装着された点火プラグの電極部を覆うプラグカバーが突出して配置され、上記燃焼室内に吸気される混合気が、上記プラグカバーに形成された複数の連通口から該プラグカバー内の点火室に取り込まれ、該点火室内及び上記燃焼室内において燃焼を行うよう構成されたガスエンジンにおけるプラグカバーの設計方法において、
上記複数の連通口は、上記点火プラグ及び上記プラグカバーの中心軸線の周りに等間隔に並んで、該中心軸線から互いに等しい位置に設けられており、
上記燃焼室を形成するシリンダーのボア半径をB(mm)、上記複数の連通口の総開口面積をA(mm
2)、上記点火室の内容積をC(mm
3)、上記燃焼室内に吸気される混合気の空気過剰率をλとしたとき、0.45≦(A×B)/C×λ≦0.6の関係を満たすよう、上記A及び上記Cを決定することを特徴とするガスエンジンにおけるプラグカバーの設計方法にある。
【0008】
本発明の他の態様は、
気体燃料と空気との混合気が吸気される燃焼室内に、シリンダヘッドに装着された点火プラグの電極部を覆うプラグカバーが突出して配置され、上記燃焼室内に吸気される混合気が、上記プラグカバーに形成された複数の連通口から該プラグカバー内の点火室に取り込まれ、該点火室内及び上記燃焼室内において燃焼を行うよう構成されたガスエンジンにおいて、
上記複数の連通口は、上記点火プラグ及び上記プラグカバーの中心軸線の周りに等間隔に並んで、該中心軸線から互いに等しい位置に設けられており、
上記燃焼室を形成するシリンダーのボア半径をB(mm)、上記複数の連通口の総開口面積をA(mm
2)、上記点火室の内容積をC(mm
3)、上記燃焼室内に吸気される混合気の空気過剰率をλとしたとき、0.45≦(A×B)/C×λ≦0.6の関係を有していることを特徴とするガスエンジンにある。
【発明の効果】
【0009】
上記ガスエンジン及びガスエンジンにおけるプラグカバーの設計方法は、点火室の内容積及び複数の連通口の総開口面積を、適切に決定するための関係式を提供している。
具体的には、シリンダーのボア半径B(mm)と、混合気の空気過剰率λとの条件が与えられるとき、複数の連通口の総開口面積A(mm
2)と、点火室の内容積C(mm
3)とは、0.45≦(A×B)/
C×λ≦0.6の関係式を満たすように決定する。これにより、上記ガスエンジン及びガスエンジンにおけるプラグカバーの設計方法によれば、燃焼室内に点火室を設ける場合において、失火及び燃費の低下を防止して、混合気を効果的に燃焼させるための適切な設計をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例にかかる、燃焼室内及び点火室内に混合気を吸気する状態のガスエンジンを示す説明図。
【
図2】実施例にかかる、点火室内及び燃焼室内において混合気を燃焼させる状態のガスエンジンを示す説明図。
【
図3】確認試験にかかる、横軸にプレチャンバーナンバーをとり、縦軸に正味効率をとって、これらの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施例)
以下に、上記ガスエンジン及びガスエンジンにおけるプラグカバーの設計方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例のガスエンジン1においては、
図1に示すごとく、燃料と空気との混合気Mが吸気される燃焼室30内に、シリンダヘッド2に装着された点火プラグ4の電極部41を覆うプラグカバー5が突出して配置されている。また、ガスエンジン1においては、
図2に示すごとく、燃焼室30内に吸気される混合気Mが、プラグカバー5に形成された複数の連通口521からプラグカバー5内の点火室50に取り込まれ、点火室50内及び燃焼室30内において燃焼が行われる。そして、ガスエンジン1におけるプラグカバー5を設計するに当たっては、燃焼室30を形成するシリンダー11のボア半径をB(mm)、複数の連通口521の総開口面積をA(mm
2)、点火室50の内容積をC(mm
3)、燃焼室30内に吸気される混合気Mの空気過剰率をλとしたとき、0.45≦(A×B)/
C×λ≦0.6の関係を満たすよう、A及びCを決定する。
【0012】
図1、
図2に示すごとく、ガスエンジン1は、天然ガス等の気体燃料と空気との混合気Mを燃焼させて運転を行うものである。シリンダヘッド2には、燃焼室30内へ混合気Mを吸気するための吸気口21と、燃焼室30から燃焼後の排気ガスを排気するための排気口23とが設けられている。また、吸気口21には、吸気バルブ22が開閉可能に設けられており、排気口23には、排気バルブ24が開閉可能に設けられている。
また、シリンダー11は、シリンダーブロック3に形成された穴に、往復移動可能なピストン31を配置して構成されている。
【0013】
点火プラグ4は、中心電極と接地電極とによって構成される電極部41を燃焼室30側に向ける状態でシリンダヘッド2に取り付けられている。プラグカバー5は、点火プラグ4に取り付けられる円筒部51と、円筒部51から連続して形成された半球状の先端部52とを有している。複数の連通口521は、半球状の先端部52に設けられている。半球状の先端部52は、点火プラグ4の電極部41を覆う状態で燃焼室30内に突出している。点火プラグ4及びプラグカバー5は、シリンダー11の中心位置に対向する状態で設けられている。
【0014】
連通口521は、プラグカバー5における3〜6箇所に設けることができる。連通口521は、点火室50内に形成される火炎Hが、燃焼室30内の各部位にできるだけ均等に噴出されるように傾斜して設けられている。
空気過剰率λは、燃焼室30内に実際に吸気した空気量を、理論上、燃料を完全燃焼させるために要する空気量で割った値として示す。
【0015】
ガスエンジン1においては、次のように燃焼が行われる。
吸気工程においては、ピストン31が下死点へ移動するとともに、吸気バルブ22が開いて吸気口21から燃焼室30内に混合気Mが吸気される。このとき、
図1に示すごとく、複数の連通口521を介して、燃焼室30からプラグカバー5内の点火室50へと混合気Mが流れる。次いで、圧縮工程においては、ピストン31が上死点まで移動して、燃焼室30が縮小されるとともに混合気Mが圧縮される。次いで、燃焼工程においては、点火プラグ4の電極部41に生じるスパークによって、点火室50内の混合気Mが点火される。
【0016】
このとき、
図2に示すごとく、点火室50内に形成される火炎Hが複数の連通口521から燃焼室30内に噴出し、この火炎Hによって燃焼室30内の混合気Mが燃焼する。そして、燃焼ガスが膨張してピストン31が下死点まで移動する。次いで、排気工程においては、慣性によってピストン31が上死点へ移動するとともに、排気バルブ24が開いて排気口23から燃焼室30内の排気ガスを排気する。このとき、点火室50内の排気ガスは、複数の連通口521を介して燃焼室30内に流れた後、排気口23から排気される。
【0017】
本例のガスエンジン1及びその設計方法においては、シリンダー11のボア半径B(mm)と、混合気Mの空気過剰率λとの条件が与えられるとき、複数の連通口521の総開口面積A(mm
2)と、点火室50の内容積C(mm
3)とは、0.45≦(A×B)/
C×λ≦0.6の関係式を満たすように決定する。この関係式は、燃焼室30に吸気される混合気Mを、プラグカバー5の点火室50から複数の連通口521を介して燃焼室30内に噴出される火炎Hによって効果的に燃焼させることができる範囲として求めたものである。
上記関係式を満たすようにプラグカバー5を設計することにより、燃焼室30内に点火室50を設ける場合において、失火及び燃費の低下を防止して、混合気Mを効果的に燃焼させるための適切な設計をすることができる。
【0018】
(確認試験)
本確認試験においては、ボア半径B及び空気過剰率λが与えられる条件で、プラグカバー5の設計を行った。そして、設計を行ったプラグカバー5を有するガスエンジン1について実機試験を行い、正味効率X(%)を評価した。この正味効率Xは、燃焼室30内に投入される混合気Mのエネルギーのどれだけの割合をガスエンジン1の動力に変換できたかを示す指標である。また、以下の説明において、(A×B)/
C×λの値をプレチャンバーナンバーNと呼ぶ。
【0019】
試験条件1は、口径(直径)が1.1mmの連通口521を6個設けたプラグカバー5について、点火室50の内容積Cを600mm
3、733mm
3、861mm
3、988mm
3と変化させたときのプレチャンバーナンバーNを求め、正味効率Xを測定した。試験条件2は、口径(直径)が1.0mmの連通口521を8個設けたプラグカバー5について、点火室50の内容積Cを600mm
3、733mm
3、861mm
3、988mm
3と変化させたときのプレチャンバーナンバーNを求め、正味効率Xを測定した。試験条件1、2において、シリンダー11のボア半径Bは43mmとし、混合気Mの空気過剰率λは1.5とした。試験条件1における複数の連通口521の総開口面積Aは5.70mm
2であり、試験条件2における複数の連通口521の総開口面積Aは6.28mm
2である。
【0020】
試験条件1においてプレチャンバーナンバーNを計算すると、内容積Cが600mm
3の場合が0.613となり、733mm
3の場合が0.502となり、861mm
3の場合が0.427となり、988mm
3の場合が0.372となった。試験条件2においてプレチャンバーナンバーNを計算すると、内容積Cが600mm
3の場合が0.675となり、733mm
3の場合が0.553となり、861mm
3の場合が0.471となり、988mm
3の場合が0.410となった。
正味効率Xについては、最も効率が高かった試験条件1の733mm
3の場合を100%とすると、試験条件1の600mm
3の場合が99.3%、試験条件1の861mm
3の場合が99.5%、988mm
3の場合が96.6%となった。また、試験条件2の600mm
3の場合が95.5%、試験条件2の733mm
3の場合が97.8%、試験条件2の861mm
3の場合が97.1%、988mm
3の場合が95.0%となった。
【0021】
図3には、試験条件1、2について、計算したプレチャンバーナンバーNと、測定した正味効率X(%)との関係をグラフによって示す。同図において、試験条件1においては、プレチャンバーナンバーNが0.502(内容積C:733mm
3)となる場合、試験条件2においては、プレチャンバーナンバーNが0.553(内容積C:733mm
3)となる場合の正味効率Xが最も良くなった。そして、プレチャンバーナンバーNが0.45〜0.6の範囲内になるように、複数の連通口521の総開口面積A及び点火室50の内容積Cを決定することにより、ガスエンジン1の正味効率Xを適切に維持できることが分かった。
【符号の説明】
【0022】
1 ガスエンジン
11 シリンダー
2 シリンダヘッド
4 点火プラグ
41 電極部
5 プラグカバー
50 点火室
521 連通口