【実施例】
【0034】
以下、実施例の紙送り用ローラについて、図面を用いて説明する。
【0035】
(実施例1)
実施例1の紙送り用ローラについて、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1〜
図3に示すように、本例の紙送り用ローラ1は、山状部211と谷状部212とを備えるシボ表面21を有しており、谷状部212の少なくとも底面に、内方に窪んだ孔部213を有している。
【0036】
本例では、具体的には、紙送り用ローラ1は、筒状の形状を呈する弾性体2を有しており、ローラ表面となる弾性体2の表面に上記シボ表面21を有している。弾性体2は、具体的には、熱硬化性ポリウレタンより構成されている。また、紙送り用ローラ1は、樹脂製の軸体3を有している。軸体3は、具体的には、アセタール樹脂より筒状に形成されている。弾性体2は、軸体3の外周面に形成されている。なお、軸体3の筒内には、電子写真方式の画像形成装置における給紙装置(不図示)が備える金属製の軸体(不図示)が回転駆動力を伝達できるように挿通される。
【0037】
本例では、孔部213は、谷状部212の底面だけでなく、谷状部212の側面(山状部211の側面にもあたる)にも存在している。但し、山状部211の頂部に孔部213は実質的に存在していない。孔部213は、具体的には、ローラ形成用材料である弾性体形成用材料中に含まれていた気泡の跡であり、半球状の形状を呈している。
【0038】
本例では、シボ表面21の算術平均高さRaは、3〜50μmの範囲内とされている。孔部213の直径は、1〜100μmの範囲内とされている。谷状部212の面積に対する孔部213の占める面積の割合は、1〜25%の範囲内とされている。
【0039】
以下、本例の紙送り用ローラについて実験例を用いてさらに詳説する。
【0040】
<実験例>
(紙送り用ローラ試料の作製)
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(三菱化学社製、「PTMG2000」、Mn=2000)80質量部、ポリプロピレングリコール(PPG)(旭硝子社製、「エクセノール2020」、Mn=5000)20質量部を80℃にて1時間真空脱泡、脱水した後、MDIを32質量部混合し、窒素雰囲気下で80℃にて3時間反応させ、ウレタンプレポリマーを調製した。
【0041】
次いで、このウレタンプレポリマーを90℃にて30分間真空脱泡した後、後述の表1に示すエアー撹拌条件にてエアー撹拌した。その後、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、可塑剤(ジオクチルフタレート)30質量部と、鎖延長剤(1,4−ブタンジオール(1,4−BD))3質量部と、架橋剤(トリメチロールプロパン(TMP))2質量部とを配合し、減圧下で2分間撹拌混合することにより、試料1〜18の紙送り用ローラにおける弾性体の形成に用いる各弾性体形成用材料を調製した。これら各弾性体形成用材料は、孔部を形成するために微細な気泡を含んでいる。
【0042】
また、上記エアー撹拌を行わなかった以外は同様にして、試料19の紙送り用ローラにおける弾性体の形成に用いる弾性体形成用材料を調製した。つまり、この弾性体形成用材料は、積極的に微細な気泡を含むようには調製されていない。
【0043】
次いで、断面円形状の貫通孔を備えた成形金型の貫通孔に対し、放電加工機(三菱電機社製、「DIAX VX10」)を用いて放電加工を行った。当該放電加工は、成形される弾性体の表面に山状部と谷状部とを備えるシボ表面を付与するために行ったものである。なお、上記放電加工時における放電制御により、後述するシボ表面の算術平均高さRaを調節した。
【0044】
次いで、成形金型の貫通孔に芯金を同軸的にセット(軸方向が上下方向)するとともに、両端開口部をキャップ型で閉栓し、その成形空間内に、所定の弾性層形成用材料を充填した後、その成形金型をオーブン内に入れ、ウレタンプレポリマーを熱硬化させた(150℃×60分間)。これにより、芯金の外周面に、熱硬化性ポリウレタンより構成される弾性体を形成し、その後、脱型するとともに芯金から弾性体を抜き取り、所定の長さに切断した。以上により、外径φ25mm、内径φ16mm、長さ24mmの筒状形状を有する各弾性体を得た。次いで、各弾性体の筒内にアセタール樹脂製の筒状軸体を圧入した。これにより、試料1〜試料19の紙送り用ローラを得た。
【0045】
(ローラ表面の微構造)
レーザー顕微鏡(レーザーマイクロスコープ)(キーエンス社製、「VK−9500」)を用いて、各試料の紙送り用ローラのローラ表面を観察した。試料1〜18の紙送り用ローラの代表写真として、試料4の紙送り用ローラのマイクロスコープ像を
図4に示す。
図4に示すように、試料1〜18の紙送り用ローラは、ローラ表面である弾性体表面に、山状部と谷状部とを備えるシボ表面を有しており、谷状部の少なくとも底面に、内方に窪んだ孔部を有していることが確認された。一方、試料19の紙送り用ローラは、山状部と谷状部とを備えるシボ表面を有しているが、谷状部に孔部が見られなかった。
【0046】
(シボ表面の算術平均高さRa)
上述した測定方法に従い、表面粗さ形状測定器(東京精密社製、「サーフコム1400D」)を用いて、各試料の紙送り用ローラにおけるシボ表面の算術平均高さRaを求めた。
【0047】
(孔部詳細)
レーザー顕微鏡(レーザーマイクロスコープ)(キーエンス社製、「VK−9500」)を用いて、試料1〜18の紙送り用ローラにおけるシボ表面を倍率400倍にて撮影後、上述した測定方法に従い、孔部の直径、谷状部の面積に対する孔部の占める面積の割合を算出した。
【0048】
(紙送り不具合の評価)
各紙送り用ローラを、市販のモノクロ複合機(京セラドキュメントソリューションズ社製、「KM−8030」)の給紙装置におけるピックアップ部に組み込み、300,000枚の用紙(INTERNATIONAL PAPER社製、「REY」)を通紙する耐久試験を行った。上記耐久試験において、スリップによる用紙搬送不具合が5回未満であった場合を、長期にわたって紙送り不具合が発生し難いとして「A」とした。また、スリップによる用紙搬送不具合が5〜9回発生した場合を、許容範囲内であるとして「B」とした。また、スリップによる用紙搬送不具合が10回以上発生した場合を、長期にわたって紙送り不具合が発生し難いとはいえないとして「C」とした。
【0049】
表1に、各試料の紙送り用ローラについて、エアー撹拌条件、孔部の詳細構成および評価結果等をまとめて示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1によれば、以下のことがわかる。試料19の紙送り用ローラは、山状部と谷状部とを備えるシボ表面を有しているが、谷状部の底面に、内方に窪んだ孔部を有していない。そのため、試料19の紙送り用ローラは、長期にわたって紙送り不具合を抑制することができなかった。これは、長期使用によりシボ表面の山状部が摩耗し、紙粉を捕捉する谷状部の容積が不足した結果、ローラ表面の摩擦係数が低下したためである。
【0052】
これらに対し、試料1〜18の紙送り用ローラは、山状部と谷状部とを備えるシボ表面を有しており、さらに、谷状部の少なくとも底面に、内方に窪んだ孔部を有している。そのため、上記紙送り用ローラは、長期にわたって紙送り不具合が発生し難かった。これは、長期使用によりシボ表面の山状部が摩耗した場合であっても、谷状部に形成された孔部の存在により、紙粉を逃がすための容積を確保することができたためである。また、上記紙送り用ローラは、紙粉の多い紙に対する耐紙粉付着性を向上させることができるので、画像形成装置における給紙装置の高耐久化、メンテナンスフリー化にも有効であるといえる。
【0053】
また、上記耐久試験後、試料1〜18の紙送り用ローラのシボ表面を観察した。その結果、試料1〜試料12、試料16〜試料18の紙送り用ローラは、シボ表面に欠けは見られなかった。これらに対し、孔部の直径が他に比べて相対的に大きかった試料13の紙送り用ローラ、孔部の面積割合が他に比べて相対的に大きかった試料14の紙送り用ローラ、シボ表面の算術平均高さRaが他に比べて相対的に大きかった試料15の紙送り用ローラには、シボ表面に欠けが見られた。
【0054】
これらの結果から、孔部の直径は100μm以下、孔部の面積割合は25%以下、シボ表面の算術平均高さRaは50μm以下とすることにより、長期にわたる紙送り不具合の抑制ばかりでなく、長期にわたってローラ欠けを抑制しやすくなり、耐久性向上に有利であるといえる。また、試料16〜試料18の結果から、孔部の直径は1μm以上、孔部の面積割合は1%以上、シボ表面の算術平均高さRaは3μm以上とすることにより、長期にわたって紙送り不具合を抑制する効果が確実なものとなることもわかる。
【0055】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。