特許第6013305号(P6013305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013305
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】紙送り用ローラ
(51)【国際特許分類】
   B65H 5/06 20060101AFI20161011BHJP
   B41J 13/076 20060101ALI20161011BHJP
   B65H 27/00 20060101ALI20161011BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   B65H5/06 B
   B41J13/076
   B65H27/00 B
   F16C13/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-225863(P2013-225863)
(22)【出願日】2013年10月30日
(65)【公開番号】特開2015-86043(P2015-86043A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年4月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 邦朗
(72)【発明者】
【氏名】河野 淳洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祐馬
【審査官】 西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3744337(JP,B2)
【文献】 特開2007−106511(JP,A)
【文献】 特開2006−347154(JP,A)
【文献】 特開平06−080269(JP,A)
【文献】 特開2001−100549(JP,A)
【文献】 特開2008−290826(JP,A)
【文献】 特開2013−164458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J13/00−13/32
B65H 1/00−3/68
B65H 5/06
B65H23/00−23/16
B65H23/24−23/34
B65H27/00
B65H29/20
F16C13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真方式の画像形成装置における給紙装置に用いられる紙送り用ローラであって、
山状部と谷状部とを多数備え、上記山状部の頂部は、紙送り時に紙に接する部分であり、上記谷状部は、上記山状部に挟まれた、紙粉を逃がすための部分であるシボ表面を有する非発泡の弾性体を有しており、
上記シボ表面は、上記谷状部の底面、あるいは、上記谷状部の底面および側面に、内方に窪んだ多数の孔部を有するとともに、上記山状部の頂部には上記孔部を有していないことを特徴とする紙送り用ローラ。
【請求項2】
上記孔部は、上記弾性体の形成に用いられる弾性体形成用材料中に含まれていた気泡の跡であることを特徴とする請求項1に記載の紙送り用ローラ。
【請求項3】
上記孔部の直径は、1〜100μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1または2に記載の紙送り用ローラ。
【請求項4】
上記シボ表面の算術平均高さRaは、3〜50μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の紙送り用ローラ。
【請求項5】
上記孔部は、半球状の形状を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の紙送り用ローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙送り用ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野において、紙を搬送するために紙送り用ローラが使用されている。例えば、複写機やプリンター等の画像形成装置においては、一般に、用紙を収容する用紙カセットから用紙を一枚ずつ分離して画像形成部へと送り出す給紙装置が設けられている。この給紙装置としては、従来よりパッドリタード方式(FR方式)、フリクションリタード方式(FRR方式)などが実用化されているが、用紙の重送防止性能の信頼性が高いことから、FRR方式が採用されることが多い。
【0003】
FRR方式の給紙装置は、用紙カセットに収容された用紙の最上部に接触し、摩擦力によって用紙を用紙カセットの外に引き出すピックアップローラと、引き出された用紙を用紙搬送路へ送り出すフィードローラと、このフィードローラに圧接されるとともにトルクリミッタを介して停止または用紙搬送方向とは逆方向に回転駆動力が付与されるリタードローラとを有している。
【0004】
上記紙送り用ローラは、紙粉の付着を抑制し、長期的に摩擦係数を維持するため、ローラ表面にシボ加工が施され、山状部と谷状部とからなるシボ表面による表面粗さが付与されていることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3744337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術は、以下の点で改善の余地がある。近年、海外製の用紙等、紙粉の多い紙が広く利用されるようになり、紙送り用ローラの耐紙粉付着性に対する要求が高まってきている。しかし、従来の紙送り用ローラは、長期使用によりシボ表面の山状部が摩耗した場合に、紙粉を逃がすための谷状部の容積が不足する。そのため、山状部の頂部に紙粉が付着してローラ表面の摩擦係数が低下し、紙送り不具合が生じるという問題がある。この問題を回避するため、ローラ表面におけるシボ表面の粗さを単純に大きくすることが考えられる。ところが、この方法では、谷状部に捕捉された紙粉がある瞬間にこぼれ落ちたり、シボ表面が欠けたりしやすくなる。
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、長期にわたって紙送り不具合が発生し難い紙送り用ローラを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、電子写真方式の画像形成装置における給紙装置に用いられる紙送り用ローラであって、
山状部と谷状部とを多数備え、上記山状部の頂部は、紙送り時に紙に接する部分であり、上記谷状部は、上記山状部に挟まれた、紙粉を逃がすための部分であるシボ表面を有する非発泡の弾性体を有しており、
上記シボ表面は、上記谷状部の底面、あるいは、上記谷状部の底面および側面に、内方に窪んだ多数の孔部を有するとともに、上記山状部の頂部には上記孔部を有していないことを特徴とする紙送り用ローラにある。
【発明の効果】
【0009】
上記紙送り用ローラは、上記構成を有しているため、長期使用によりシボ表面の山状部が摩耗した場合であっても、谷状部の底面に形成された孔部の存在により、紙粉を逃がすための容積を確保することができる。そのため、上記紙送り用ローラは、長期にわたって紙送り不具合が発生し難い。また、上記紙送り用ローラは、海外製の用紙等、紙粉の多い紙に対する耐紙粉付着性を向上させることができるので、給紙装置の高耐久化、メンテナンスフリー化にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の紙送り用ローラを一部破断して模式的に示した説明図である。
図2】実施例1の紙送り用ローラのII−II断面図である。
図3図2におけるローラ表面のA部分を模式的に拡大して示した説明図である。
図4】試料4の紙送り用ローラのマイクロスコープ像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記紙送り用ローラは、山状部と谷状部とを備えるシボ表面を有している。具体的には、シボ表面は、山状部と谷状部とを多数備えている。紙送り用ローラによる紙送り時には、山状部の頂部が紙に接する。谷状部は、山状部に挟まれた、紙粉を逃がすための部分である。孔部は、谷状部の底面、あるいは、谷状部の底面および側面にある。
【0012】
上記紙送り用ローラにおいて、シボ表面の算術平均高さRaは、3〜50μmの範囲内とすることができる。
【0013】
この場合は、長期使用時に山状部が摩耗した場合でも、谷状部の容積を比較的確保しやすいので有利である。また、長期使用してもシボ表面に欠けが生じ難くなる利点もある。
【0014】
上記シボ表面の算術平均高さRaは、谷状部と孔部とによる紙粉の捕捉効果を大きくする観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは10μm以上とすることができる。また、上記シボ表面の算術平均高さRaは、谷状部の容積確保と長期にわたるシボ表面の欠け抑制効果とのバランスの観点から、好ましくは45μm以下、より好ましくは43μm以下、さらに好ましくは40μm以下とすることができる。なお、上記算術平均高さRaは、JIS B0601 2001に準拠し、表面粗さ形状測定器を用い、ローラ周方向にて測定される値である。
【0015】
上記紙送り用ローラにおいて、孔部の直径は、1〜100μmの範囲内とすることができる。
【0016】
この場合は、谷状部への孔部形成による効果を確実なものとすることができる。また、谷状部への孔部形成に起因する長期使用時のシボ表面の欠けを抑制しやすくなり、耐久性向上に有利である。
【0017】
上記孔部の直径は、谷状部への孔部形成による効果を確実なものとしやすくなる観点から、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上とすることができる。また、上記孔部の直径は、長期使用時におけるシボ表面の欠け抑制効果が大きくなる観点から、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは40μm以下とすることができる。なお、孔部の直径は、シボ表面を真上から垂直にレーザー顕微鏡で撮影後、ランダムに孔部を10個抽出して各孔部の最大径を測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
【0018】
上記紙送り用ローラにおいて、谷状部の面積に対する孔部の占める面積の割合は、1〜25%の範囲内とすることができる。
【0019】
この場合は、谷状部への孔部形成による効果を確実なものとすることができる。また、谷状部への孔部形成に起因する長期使用時のシボ表面の欠けを抑制しやすくなり、耐久性向上に有利となる。
【0020】
上記谷状部の面積に対する孔部の占める面積の割合は、谷状部への孔部形成による効果を確実なものとしやすくなる観点から、好ましくは1.5%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上とすることができる。また、上記谷状部の面積に対する孔部の占める面積の割合は、長期使用時におけるシボ表面の欠け抑制効果が大きくなる観点から、好ましくは24%以下、より好ましくは23%以下、さらに好ましくは22%以下とすることができる。なお、谷状部の面積に対する孔部の占める面積の割合は、シボ表面を真上から垂直にレーザー顕微鏡で撮影し(撮影範囲:700μm×500μm)、高さ解析(二値化)を行い、谷状部の底面積を算出するとともに、谷状部の底面にある全ての孔部の直径から孔部の面積を算出することにより求めることができる。
【0021】
上記紙送り用ローラにおいて、孔部は、半球状の形状とすることができる。
【0022】
この場合は、孔部に紙粉が逃げやすいので、紙送り不具合の抑制に有利である。
【0023】
上記紙送り用ローラにおいて、孔部は、気泡の跡とすることができる。
【0024】
この場合は、気泡の下方表面を写し取ることによって孔部が形成されるので、比較的均一な孔部を有する構成とすることができる。
【0025】
上記紙送り用ローラは、電子写真方式の画像形成装置における給紙装置に組み込んで用いられる。電子写真方式の画像形成装置としては、具体的には、帯電像を用いる電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリ、複合機、POD(Print On Demand)装置等を例示することができる。なお、この場合、上記紙送り用ローラは、ピックアップローラ、フィードローラ、リタードローラなどの各種のローラに適用することが可能である。
【0026】
上記紙送り用ローラは、具体的には、弾性体を有しており、この弾性体の表面に上記シボ表面を有している。弾性体を構成する主な材料としては、ポリウレタン、EPDM、シリコーンゴム等を例示することができる。弾性体を構成する主な材料は、耐摩耗性、摩擦係数の維持のしやすさ等の観点から、好ましくは、ポリウレタンであるとよい。
【0027】
上記ポリウレタンとしては、具体的には、例えば、エーテル系、エステル系、カプロラクトン系等の各種の熱硬化性ポリウレタンを用いることができる。これらのうち、紙送り用ローラの使用環境下で加水分解し難く、耐久性向上に寄与できる観点から、エーテル系の熱硬化性ポリウレタンを好適に用いることができる。上記熱硬化性ポリウレタンは、具体的には、熱硬化性ポリウレタンゴム(エラストマー含む)とすることができる。
【0028】
上記弾性体は、可塑剤、鎖延長剤、架橋剤、触媒、導電剤、着色剤などの各種の添加剤が添加されていてもよい。
【0029】
上記紙送り用ローラにおいて、弾性体は、導電性を有する金属等の軸体や、電気絶縁性を有する樹脂製の軸体などにおける外周面に形成することができる。
【0030】
上記紙送り用ローラは、例えば、次のようにして製造することができる。貫通孔を有する成形金型における貫通孔面に対し、放電加工を行い、山状部および谷状部に対応する表面凹凸を形成する。次に、ローラ形成用材料にエアー撹拌等によって微細な気泡を含ませ、この気泡を含むローラ形成用材料を成形金型の貫通孔内に充填する。この際、軸方向を上下方向とする。その後、成形金型を加熱し、ローラ形成用材料から紙送り用ローラを形成し、脱型する。なお、必要に応じて所定の寸法に切断することができる。
【0031】
上記により、成形金型の表面凹凸が転写されることによって、山状部と谷状部とを備えるシボ表面が形成されるとともに、ローラ形成用材料中に含まれる気泡を積極的に利用し、気泡の下方部分を写し取った跡として、谷状部に、内方に窪んだ孔部を多数形成することができる。
【0032】
この際、エアー撹拌速度や撹拌時間を変化させることにより、ローラ形成用材料に含有させる気泡量を調節することができる。また、成形金型に充填するローラ形成用材料中の気泡が簡単に抜けてしまわないよう温度を低く調節し、ローラ形成用材料の粘度を高めることができる。例えば、紙送り用ローラをポリウレタン製とする場合、上記温度は約100℃以下とすることができる。
【0033】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例の紙送り用ローラについて、図面を用いて説明する。
【0035】
(実施例1)
実施例1の紙送り用ローラについて、図1図3を用いて説明する。図1図3に示すように、本例の紙送り用ローラ1は、山状部211と谷状部212とを備えるシボ表面21を有しており、谷状部212の少なくとも底面に、内方に窪んだ孔部213を有している。
【0036】
本例では、具体的には、紙送り用ローラ1は、筒状の形状を呈する弾性体2を有しており、ローラ表面となる弾性体2の表面に上記シボ表面21を有している。弾性体2は、具体的には、熱硬化性ポリウレタンより構成されている。また、紙送り用ローラ1は、樹脂製の軸体3を有している。軸体3は、具体的には、アセタール樹脂より筒状に形成されている。弾性体2は、軸体3の外周面に形成されている。なお、軸体3の筒内には、電子写真方式の画像形成装置における給紙装置(不図示)が備える金属製の軸体(不図示)が回転駆動力を伝達できるように挿通される。
【0037】
本例では、孔部213は、谷状部212の底面だけでなく、谷状部212の側面(山状部211の側面にもあたる)にも存在している。但し、山状部211の頂部に孔部213は実質的に存在していない。孔部213は、具体的には、ローラ形成用材料である弾性体形成用材料中に含まれていた気泡の跡であり、半球状の形状を呈している。
【0038】
本例では、シボ表面21の算術平均高さRaは、3〜50μmの範囲内とされている。孔部213の直径は、1〜100μmの範囲内とされている。谷状部212の面積に対する孔部213の占める面積の割合は、1〜25%の範囲内とされている。
【0039】
以下、本例の紙送り用ローラについて実験例を用いてさらに詳説する。
【0040】
<実験例>
(紙送り用ローラ試料の作製)
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(三菱化学社製、「PTMG2000」、Mn=2000)80質量部、ポリプロピレングリコール(PPG)(旭硝子社製、「エクセノール2020」、Mn=5000)20質量部を80℃にて1時間真空脱泡、脱水した後、MDIを32質量部混合し、窒素雰囲気下で80℃にて3時間反応させ、ウレタンプレポリマーを調製した。
【0041】
次いで、このウレタンプレポリマーを90℃にて30分間真空脱泡した後、後述の表1に示すエアー撹拌条件にてエアー撹拌した。その後、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、可塑剤(ジオクチルフタレート)30質量部と、鎖延長剤(1,4−ブタンジオール(1,4−BD))3質量部と、架橋剤(トリメチロールプロパン(TMP))2質量部とを配合し、減圧下で2分間撹拌混合することにより、試料1〜18の紙送り用ローラにおける弾性体の形成に用いる各弾性体形成用材料を調製した。これら各弾性体形成用材料は、孔部を形成するために微細な気泡を含んでいる。
【0042】
また、上記エアー撹拌を行わなかった以外は同様にして、試料19の紙送り用ローラにおける弾性体の形成に用いる弾性体形成用材料を調製した。つまり、この弾性体形成用材料は、積極的に微細な気泡を含むようには調製されていない。
【0043】
次いで、断面円形状の貫通孔を備えた成形金型の貫通孔に対し、放電加工機(三菱電機社製、「DIAX VX10」)を用いて放電加工を行った。当該放電加工は、成形される弾性体の表面に山状部と谷状部とを備えるシボ表面を付与するために行ったものである。なお、上記放電加工時における放電制御により、後述するシボ表面の算術平均高さRaを調節した。
【0044】
次いで、成形金型の貫通孔に芯金を同軸的にセット(軸方向が上下方向)するとともに、両端開口部をキャップ型で閉栓し、その成形空間内に、所定の弾性層形成用材料を充填した後、その成形金型をオーブン内に入れ、ウレタンプレポリマーを熱硬化させた(150℃×60分間)。これにより、芯金の外周面に、熱硬化性ポリウレタンより構成される弾性体を形成し、その後、脱型するとともに芯金から弾性体を抜き取り、所定の長さに切断した。以上により、外径φ25mm、内径φ16mm、長さ24mmの筒状形状を有する各弾性体を得た。次いで、各弾性体の筒内にアセタール樹脂製の筒状軸体を圧入した。これにより、試料1〜試料19の紙送り用ローラを得た。
【0045】
(ローラ表面の微構造)
レーザー顕微鏡(レーザーマイクロスコープ)(キーエンス社製、「VK−9500」)を用いて、各試料の紙送り用ローラのローラ表面を観察した。試料1〜18の紙送り用ローラの代表写真として、試料4の紙送り用ローラのマイクロスコープ像を図4に示す。図4に示すように、試料1〜18の紙送り用ローラは、ローラ表面である弾性体表面に、山状部と谷状部とを備えるシボ表面を有しており、谷状部の少なくとも底面に、内方に窪んだ孔部を有していることが確認された。一方、試料19の紙送り用ローラは、山状部と谷状部とを備えるシボ表面を有しているが、谷状部に孔部が見られなかった。
【0046】
(シボ表面の算術平均高さRa)
上述した測定方法に従い、表面粗さ形状測定器(東京精密社製、「サーフコム1400D」)を用いて、各試料の紙送り用ローラにおけるシボ表面の算術平均高さRaを求めた。
【0047】
(孔部詳細)
レーザー顕微鏡(レーザーマイクロスコープ)(キーエンス社製、「VK−9500」)を用いて、試料1〜18の紙送り用ローラにおけるシボ表面を倍率400倍にて撮影後、上述した測定方法に従い、孔部の直径、谷状部の面積に対する孔部の占める面積の割合を算出した。
【0048】
(紙送り不具合の評価)
各紙送り用ローラを、市販のモノクロ複合機(京セラドキュメントソリューションズ社製、「KM−8030」)の給紙装置におけるピックアップ部に組み込み、300,000枚の用紙(INTERNATIONAL PAPER社製、「REY」)を通紙する耐久試験を行った。上記耐久試験において、スリップによる用紙搬送不具合が5回未満であった場合を、長期にわたって紙送り不具合が発生し難いとして「A」とした。また、スリップによる用紙搬送不具合が5〜9回発生した場合を、許容範囲内であるとして「B」とした。また、スリップによる用紙搬送不具合が10回以上発生した場合を、長期にわたって紙送り不具合が発生し難いとはいえないとして「C」とした。
【0049】
表1に、各試料の紙送り用ローラについて、エアー撹拌条件、孔部の詳細構成および評価結果等をまとめて示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1によれば、以下のことがわかる。試料19の紙送り用ローラは、山状部と谷状部とを備えるシボ表面を有しているが、谷状部の底面に、内方に窪んだ孔部を有していない。そのため、試料19の紙送り用ローラは、長期にわたって紙送り不具合を抑制することができなかった。これは、長期使用によりシボ表面の山状部が摩耗し、紙粉を捕捉する谷状部の容積が不足した結果、ローラ表面の摩擦係数が低下したためである。
【0052】
これらに対し、試料1〜18の紙送り用ローラは、山状部と谷状部とを備えるシボ表面を有しており、さらに、谷状部の少なくとも底面に、内方に窪んだ孔部を有している。そのため、上記紙送り用ローラは、長期にわたって紙送り不具合が発生し難かった。これは、長期使用によりシボ表面の山状部が摩耗した場合であっても、谷状部に形成された孔部の存在により、紙粉を逃がすための容積を確保することができたためである。また、上記紙送り用ローラは、紙粉の多い紙に対する耐紙粉付着性を向上させることができるので、画像形成装置における給紙装置の高耐久化、メンテナンスフリー化にも有効であるといえる。
【0053】
また、上記耐久試験後、試料1〜18の紙送り用ローラのシボ表面を観察した。その結果、試料1〜試料12、試料16〜試料18の紙送り用ローラは、シボ表面に欠けは見られなかった。これらに対し、孔部の直径が他に比べて相対的に大きかった試料13の紙送り用ローラ、孔部の面積割合が他に比べて相対的に大きかった試料14の紙送り用ローラ、シボ表面の算術平均高さRaが他に比べて相対的に大きかった試料15の紙送り用ローラには、シボ表面に欠けが見られた。
【0054】
これらの結果から、孔部の直径は100μm以下、孔部の面積割合は25%以下、シボ表面の算術平均高さRaは50μm以下とすることにより、長期にわたる紙送り不具合の抑制ばかりでなく、長期にわたってローラ欠けを抑制しやすくなり、耐久性向上に有利であるといえる。また、試料16〜試料18の結果から、孔部の直径は1μm以上、孔部の面積割合は1%以上、シボ表面の算術平均高さRaは3μm以上とすることにより、長期にわたって紙送り不具合を抑制する効果が確実なものとなることもわかる。
【0055】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 紙送り用ローラ
2 弾性体
21 シボ表面
211 山状部
212 谷状部
213 孔部
図1
図2
図3
図4