特許第6013321号(P6013321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013321
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】アリールスルファターゼの活性測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161011BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALI20161011BHJP
   C12N 9/38 20060101ALI20161011BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20161011BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/44
   C12N9/38
   !C12N9/16
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-504727(P2013-504727)
(86)(22)【出願日】2012年3月13日
(86)【国際出願番号】JP2012056340
(87)【国際公開番号】WO2012124668
(87)【国際公開日】20120920
【審査請求日】2015年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-55259(P2011-55259)
(32)【優先日】2011年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303036670
【氏名又は名称】合同酒精株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107799
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 希子
(72)【発明者】
【氏名】塩田 一磨
(72)【発明者】
【氏名】堀口 博文
(72)【発明者】
【氏名】伊豫谷 愛
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智子
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/060247(WO,A2)
【文献】 国際公開第02/081673(WO,A1)
【文献】 Biochim. Biophys. Acta,1974年11月25日,Vol.370, No.1,p.249-256
【文献】 Journal of microbiology and biotechnology,2004年,Vol.14, No.6,p.1134-1141
【文献】 Journal of food protection,1989年 1月,Vol.52, No.1,p.30-34
【文献】 Biotechnol. Lett.,2003年10月,Vol.25, No.20,p.1769-1774
【文献】 Biotechnology Techniques,1998年 3月,Vol.12, No.3,p.253-256
【文献】 Chem. Pharm. Bull.,1982年11月,Vol.30, No.11,p.4140-4143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00− 15/90
C12Q 1/00− 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母由来のアリールスルファターゼを、その基質であって、当該基質がアリールスルファターゼの作用を受けると蛍光団又は発色団を遊離するものとを、無機塩濃度が10乃至1000mMである水系反応系中で反応させることを特徴とする、水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法。
【請求項2】
水系反応系の無機塩濃度が50乃至500mMである、請求項1に記載の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法。
【請求項3】
水系反応系が緩衝液系であり、且つ、緩衝液濃度が50乃至200mMである、請求項1又は2に記載の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法。
【請求項4】
無機塩が、塩化カリウム、塩化ナトリウム及び硫酸アンモニウムからなる群から選択される一種以上である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法。
【請求項5】
緩衝液がリン酸塩緩衝液である、請求項3又は4に記載の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法。
【請求項6】
以下の工程(1)乃至(10)を含む、請求項1に記載の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法:
(1)酵母由来のアリールスルファターゼの存在が予測される検体を、0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で適宜希釈し、サンプルとする。
(2)4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムを2mM濃度で含有する水溶液を調製する。
(3)サンプルと4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウム水溶液とを、1:1(容量基準)で混合し、37℃にて3時間反応させる。
(4)反応液に、反応液と同量(容量基準)の0.1N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、反応を停止させ、測定用サンプルとする。
(5)励起波長360nm、蛍光波長450nmにて、蛍光強度を測定する。
(6)4−メチルウンベリフェロンを、0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)に溶解させ、適切な濃度の溶液とし、(4)と同様に0.1N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、(5)と同様の条件で蛍光強度を測定する。
(7)(6)より、検量線を作成する。
(8)(5)で測定された蛍光強度と(7)で作成された検量線から、測定用サンプルの4−メチルウンベリフェロン濃度を算出し、それを3で割り、反応時間が1時間であった場合の4−メチルウンベリフェロン濃度を求める。さらに、反応液の容量から、1時間の反応中に生じた4−メチルウンベリフェロン量を算出する。
(9)こうして算出された4−メチルウンベリフェロン量は、(1)で調製したサンプルに含有されていた検体量に基づくものであるので、検体1g当たりの4−メチルウンベリフェロン量に換算する。
(10)基質と酵素との反応時間1時間あたりの4−メチルウンベリフェロン生成量が1nmoleであった場合を1ユニット(U)とし、単位は、検体、即ち酵素製剤1g当たりのユニット量、即ち「ユニット(U)/g」で表す。
【請求項7】
ラクターゼ製剤中のアリールスルファターゼの活性測定方法である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法。
【請求項8】
ラクターゼ遺伝子を有し且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている酵母の二倍体菌株又は酵母のラクターゼ遺伝子が導入され且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている遺伝子組換え微生物培養し、細胞壁を破壊せずに菌体又は微生物体を回収するか、細胞壁を破壊して菌体又は微生物体と共に培養液を回収するか、あるいは、細胞壁を破壊せずに培養液を回収し、回収した菌体又は微生物体及び/又は培養液を原料として、アリールスルファターゼの除去工程なしに、FCC IV法によるラクターゼ活性が4,000NLU/g以上であり、且つ、当該ラクターゼ活性を基準として、請求項6に記載の方法で測定し、計算したアリールスルファターゼ活性(単位:U/g)が0.1%以下であるラクターゼ製剤を製造することを特徴とする、ラクターゼ製剤の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリールスルファターゼの高感度な活性測定方法、活性の高いラクターゼ製剤であって、本発明のアリールスルファターゼの高感度な活性測定方法により、アリールスルファターゼが夾雑しないか又は夾雑しても極く微量であることが確認されたラクターゼ製剤、そのようなラクターゼ製剤の製造方法、及びそのようなラクターゼ製剤を用いて製造された乳製品に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より、牛乳は栄養豊かな有用食品として長く利用されてきた。牛乳には、糖の一種である乳糖が含まれている。乳糖はラクターゼによって腸内で分解されるが、ヒトの一部においては、成長するに従ってラクターゼの腸内への分泌量が減少するため、牛乳や乳加工製品(以下、まとめて「乳製品」という)を多量に摂取したときに、腹痛や下痢などのいわゆる乳糖不耐症を引き起こす。このことが、この栄養豊かな食品の幅広い摂取を妨げる一因となっていた。
【0003】
近年になり、乳糖が前もって低減あるいは除去された乳製品が提供されるようになってきた。このような乳製品であれば、乳糖不耐症のヒトでも問題なく摂取できる。
【0004】
乳糖の低減あるいは除去は種々の方法で実施されているが、最も一般的なのは、乳製品をラクターゼ製剤で処理して乳糖を加水分解する方法である。
【0005】
ところで、これまでは、ラクターゼによって乳糖が分解された乳製品は、殺菌工程を経て流通されることが一般的であった。しかし、最近になり、殺菌後の牛乳に無菌的にラクターゼ製剤を添加し、流通中に乳糖を分解する手法が広まってきている。これは使用するラクターゼ製剤の量を減少せしめ、コスト減少に寄与すると考えられている。
【0006】
一方、殺菌後の牛乳に無菌的にラクターゼ製剤を添加する方法の採用により、新たな問題が生じてきた。それは、ラクターゼ製剤中に微量に含まれる夾雑酵素(プロテアーゼやアリールスルファターゼ)が失活していないため、乳成分に化学変化をもたらすことに起因する問題である。実際、プロテアーゼが凝乳や苦味の発生を引き起こすことが知られており、また、非特許文献1には、アリールスルファターゼが違和感のある好ましくない味と臭いの発生を引き起こすことが報告されている。
【0007】
特許文献1には、アリールスルファターゼの夾雑量を減少させたラクターゼ製剤とその製造方法が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載のアリールスルファターゼ活性の測定方法では、8単位(ラクターゼ活性体1NLU当たりのアリールスルファターゼ活性、以下同様)以下の微量領域ではアリールスルファターゼ活性が測定されず、検出限界以下と記載されているのみである。また、特許文献1の表1には、夾雑するアリールスルファターゼの活性が19単位以下であれば、乳製品に異臭を生じさせないと記載されている。しかし、これは、反応日数が2日間という短期間の試験における結果に基づく判断である。乳製品における異臭の発生原因が、アリールスルファターゼという酵素による乳成分の化学変化であることから推察すると、用途としてロングライフミルクを想定した場合、2乃至3ヶ月間あるいはそれ以上の長期間の反応期間が想定される。そうであれば、特許文献1に記載の方法で測定したアリールスルファターゼ活性が19単位以下であれば乳製品に異臭を生じさせない、とはいえない。アリールスルファターゼの夾雑量に関し、さらに厳密なコントロールが必要であることは、また、アリールスルファターゼの夾雑量をコントロールするために、より精度の高いアリールスルファターゼ活性測定方法の採用が必要であることは、言を待たない。
【0008】
酵素製剤に夾雑するアリールスルファターゼを極限まで除去するには、一般的な精製方法を組み合わせて実施すればよい。あるいは、目的の酵素を生産する微生物であって、アリールスルファターゼ生産能を欠失したものを選別、育種すればよい。また、もともとアリールスルファターゼを産生しない宿主を、目的酵素を生産するように形質転換した微生物を使用することもできる。
【0009】
特許文献1には、変異処理によるアリールスルファターゼ生産能を減じた微生物の取得方法と、遺伝子工学的手法によってアリールスルファターゼ遺伝子を欠失させた微生物に関する記載がある。ただし、変異処理によってアリールスルファターゼ生産能を減じた微生物の取得方法について、記載はされているが、実際の取得例の記載はなく、その可能性が示されているだけである。即ち、特許文献1に記載の方法により、変異処理によってアリールスルファターゼ生産能を減じた微生物の工業レベルでの生産が可能であるか否かは不明である。ラクターゼ製剤の工業レベルでの生産に有用な酵母の二倍体菌株において、突然変異によってアリールスルファターゼ遺伝子を破壊するには二重変異体を得ることが必要であり、そのような二重変異体の取得は、実際には困難であると考えられた。
【0010】
また、遺伝子工学的手法によるアリールスルファターゼ遺伝子の欠失については、特許文献1には、CBS2359株という一倍体菌株での実施例が記載されているのみである。換言すると、特許文献1に記載の方法では、ラクターゼ製剤の製造に有用な酵母の二倍体菌株において遺伝子を効果的に破壊することが困難であり、従って、酵母の二倍体菌株であるアリールスルファターゼ非生産株を作製することはできない。
【0011】
なお、特許文献1の実施例に記載されたラクターゼ製剤のラクターゼ活性は、Maxilact(登録商標) LG5000(DSM社製)が5,000乃至5,500NLU/g程度、GODO YNL2(合同酒精株式会社製)が5,000乃至5,500NLU/g程度であり、また、特許文献1の実施例に記載されている変異処理によってアリールスルファターゼ生産能を減じた微生物が産生するラクターゼから製造されたラクターゼ製剤のラクターゼ活性は不明であるが、充分なラクターゼ活性を得るために乳製品に対するラクターゼ製剤の添加量を増やせば、当然のことながら、夾雑するアリールスルファターゼの絶対量も増えるので、ロングライフミルク等の乳製品において、異臭を発生させる可能性が高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2009−517061
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】V. Lopez, R.C., J. Agric. Food Chem.(1993), 41, p.p.446−454
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ラクターゼ製剤中のアリールスルファターゼ夾雑量が微量であっても、そのラクターゼ製剤を乳あるいは乳製品に添加して使用した際に、その作用時間や温度条件などによって、違和感のある好ましくない味と臭いが発生され得る。そのような不都合を生じないためには、アリールスルファターゼの夾雑量が極限まで低減された、好ましくはアリールスルファターゼが完全に除去されたラクターゼ製剤であって、且つラクターゼ活性がより高い製剤が求められている。このためには、ラクターゼ製剤中のアリールスルファターゼ夾雑量が極限まで低減されていることを確認することができる、アリールスルファターゼの活性測定方法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意努力し、水系におけるアリールスルファターゼ活性の測定方法として、従来法よりも高感度の方法を開発した。また、そのような従来法よりも高感度のアリールスルファターゼ活性の測定方法であって且つ蛍光法によって、従来は検出限度以下とされていた領域において、ラクターゼ製剤中に夾雑するアリールスルファターゼの活性を測定し、乳や乳製品に好ましくない味や臭いを発生させないためのアリールスルファターゼ夾雑量を特定し、本発明を完成させた。
【0016】
即ち本発明は、アリールスルファターゼを、その基質であって、当該基質がアリールスルファターゼの作用を受けると蛍光団又は発色団を遊離するものとを、イオン強度の高い水系反応系中で反応させることを特徴とする、水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法に関する。
【0017】
イオン強度の高い水系反応系中で反応させる手段の好ましい例は、無機塩が添加されてなる水系反応系中で酵素と基質と反応させることであるか、及び/又は、酵素蛋白を変性させない緩衝液系中で酵素と基質とを反応させることである。
【0018】
水系反応系中の無機塩濃度の好ましい範囲は10乃至1000mMであり、より好ましい範囲は50乃至500mMであり、緩衝液濃度の好ましい範囲は10乃至200mMであり、より好ましい範囲は50乃至200mMである。
【0019】
前記無機塩は、塩化カリウム、塩化ナトリウム及び硫酸アンモニウムからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。また、前記緩衝液は、リン酸塩緩衝液であることが好ましい。
【0020】
上記本発明の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法は、以下の工程(1)乃至(10)を含む方法であることが特に好ましい:
(1)アリールスルファターゼの存在が予測される検体を、0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で適宜希釈し、サンプルとする。
(2)4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムを2mM濃度で含有する水溶液を調製する。
(3)サンプルと4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウム水溶液とを、1:1(容量基準)で混合し、37℃にて3時間反応させる。
(4)反応液に、反応液と同量(容量基準)の0.1N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、反応を停止させ、測定用サンプルとする。
(5)励起波長360nm、蛍光波長450nmにて、蛍光強度を測定する。
(6)4−メチルウンベリフェロンを、0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)に溶解させ、適切な濃度の溶液とし、(4)と同様に0.1N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、(5)と同様の条件で蛍光強度を測定する。
(7)(6)より、検量線を作成する。
(8)(5)で測定された蛍光強度と(7)で作成された検量線から、測定用サンプルの4−メチルウンベリフェロン濃度を算出し、それを3で割り、反応時間が1時間であった場合の4−メチルウンベリフェロン濃度を求める。さらに、反応液の容量から、1時間の反応中に生じた4−メチルウンベリフェロン量を算出する。
(9)こうして算出された4−メチルウンベリフェロン量は、(1)で調製したサンプルに含有されていた検体量に基づくものであるので、検体1g当たりの4−メチルウンベリフェロン量に換算する。
(10)基質と酵素との反応時間1時間あたりの4−メチルウンベリフェロン生成量が1nmoleであった場合を1ユニット(U)とし、単位は、検体、即ち酵素製剤1g当たりのユニット量、即ち「ユニット(U)/g」で表す。
【0021】
工程(10)における「基質」とは4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムであり、「酵素」とはアリールスルファターゼである。
【0022】
上記本発明の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法は、ラクターゼ製剤中のアリールスルファターゼの活性の測定に適用できる。
【0023】
また、本発明は、ラクターゼ遺伝子を有し且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている酵母の二倍体菌株又は酵母のラクターゼ遺伝子が導入され且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている遺伝子組換え微生物の培養後の菌体又は微生物体及び/又は培養液を原料として製造されたラクターゼ製剤であって、当該ラクターゼ製剤は、FCC IV法によるラクターゼ活性が4,000NLU/g以上であり、且つ、当該ラクターゼ活性を基準として、上記工程(1)乃至(10)を含む本発明の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法で測定し、計算したアリールスルファターゼ活性(単位:U/g)が0.1%以下であることを特徴とするラクターゼ製剤に関する。
【0024】
上記した本発明のラクターゼ製剤は、夾雑するアリールスルファターゼの除去工程なしに製造することもできる。ここで、「アリールスルファターゼの除去工程」とは、この技術分野で実施される分取や精製方法の中、例えば目的酵素を含む水溶液からの硫安分画のような、目的酵素であるラクターゼ蛋白と共にアリールスルファターゼ蛋白が精製されてくる工程は含まない。目的酵素であるラクターゼ蛋白が、アリールスルファターゼ蛋白と分離される工程をいう。
【0025】
上記の本発明において、「アリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている」とは、例えば、アリールスルファターゼ遺伝子(構造遺伝子)が破壊されていたり、アリールスルファターゼ遺伝子にアリールスルファターゼ蛋白を発現させるように働く発現調節遺伝子が破壊されていたり、あるいはアリールスルファターゼ遺伝子及び/又はアリールスルファターゼ蛋白発現調節遺伝子を有さないために、アリールスルファターゼ蛋白が生成されないか又はその生成量が低減されていることをいう。アリールスルファターゼ蛋白の発現がない、すなわち生成量がゼロであることが好ましいが、アリールスルファターゼ活性(単位:U/g)/ラクターゼ活性(単位:NLU/g)が0.1%以下となるように、好ましくは0.02%以下となるように、アリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されていればよい。
【0026】
また、本発明に係るラクターゼ製剤は、そのラクターゼ活性が4,000NLU/g以上であるが、4,500NLU/g以上であることが好ましく、5,000NLU/g以上であることがさらに好ましい。
【0027】
ラクターゼ遺伝子を有し且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている酵母の二倍体菌株は、酵母の二倍体菌株の変異処理によって取得された変異株であってもよいし、酵母の二倍体菌株にアリールスルファターゼ遺伝子又はアリールスルファターゼ蛋白発現調節遺伝子の欠失操作を施して得られた変異株であってもよい。ラクターゼ蛋白の産生量が多い酵母の二倍体菌株を親株とする変異株が好ましい。
【0028】
酵母の二倍体菌株は、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)又はその近縁種であるクリベロマイセス・マリキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)の二倍体菌株であることが好ましい。また、酵母のラクターゼ遺伝子が導入され且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている遺伝子組換え微生物は、クリベロマイセス・ラクティス又はクリベロマイセス・マリキシアヌスのラクターゼ遺伝子が導入された遺伝子組換え微生物であることが好ましい。
【0029】
本発明は、ラクターゼ遺伝子を有し且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている酵母の二倍体菌株又は酵母のラクターゼ遺伝子が導入され且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている遺伝子組換え微生物を培養し、細胞壁を破壊せずに菌体又は微生物体を回収するか、細胞壁を破壊して菌体又は微生物体と共に培養液を回収するか、あるいは、細胞壁を破壊せずに培養液を回収し、回収した菌体又は微生物体及び/又は培養液を原料として、アリールスルファターゼの除去工程なしに、本発明のラクターゼ製剤(即ち、FCC IV法によるラクターゼ活性が4,000NLU/g以上であり、且つ、当該ラクターゼ活性を基準として、上記工程(1)乃至(10)を含む本発明の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法で測定し、計算したアリールスルファターゼ活性(単位:U/g)が0.1%以下であるラクターゼ製剤)を調製することを特徴とするラクターゼ製剤の製造方法にも関する。なお、細胞壁を破壊せずに培養液を回収する場合とは、遺伝子組換え微生物がラクターゼを分泌する場合である。
【0030】
ラクターゼ製剤の調製工程には、ラクターゼ蛋白の濃縮等の、当技術分野で行われている精製工程が包含され得る。但し、本発明のラクターゼ製剤の製造方法においては、アリールスルファターゼの除去工程を実施しない。高活性のラクターゼ蛋白を生成し、夾雑アリールスルファターゼ蛋白の生成は、あったとしても極く微量である酵母の二倍体菌株又は遺伝子組換え微生物を使用するので、生成されたラクターゼ蛋白の濃縮倍率が大きくなくても、ラクターゼ活性の高いラクターゼ製剤が得られ、且つ、濃縮倍率が大きくないため、夾雑アリールスルファターゼ蛋白は、濃縮されても高活性とはならない。
【0031】
さらに、本発明は、本発明に係るラクターゼ製剤を用いて製造されたことを特徴とする乳製品に関する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法では、従来に比べて微量のアリールスルファターゼを、その活性を指標として測定することができる。本発明により、高感度なアリールスルファターゼ活性測定方法が確立されたため、ラクターゼ製剤中のアリールスルファターゼ量を、その活性を指標として正確に把握することが可能となった。
【0033】
また、ラクターゼ遺伝子を有し且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている酵母の二倍体菌株又は酵母のラクターゼ遺伝子が導入され且つアリールスルファターゼ遺伝子蛋白の発現が制限されている遺伝子組換え微生物の培養後の菌体又は微生物体及び/又は培養液を原料として、アリールスルファターゼ夾雑量がごく微量であるか又はアリールスルファターゼを含有しない、高ラクターゼ活性のラクターゼ製剤を提供することが可能となった。本発明のラクターゼ製剤は、ラクターゼ活性が高いために、その使用量を少なくすることができ、よって、当該製剤中に安定剤等の添加剤や不純物が含まれている場合に、使用対象に対するそれらの持ち込み量が少なくなるという効果が得られる。
【0034】
酵母の二倍体菌株を使用する場合には、一倍体菌株と比べて、継代培養を継続しても、その性質が変化し難く、また、一般的に培養液量あたりの蛋白質生産量が多いという利点がある。
【0035】
本発明のラクターゼ製剤を使用すれば、ロングライフミルク等において、違和感のある好ましくない味や臭いの発生が抑制されるという効果が得られる。
【0036】
本発明のラクターゼ製剤の製造方法では、夾雑するアリールスルファターゼの除去工程なしに、高ラクターゼ活性のラクターゼ製剤を製造する。この方法は、「アリールスルファターゼの除去工程」がないため、製造効率が高く、且つ、アリールスルファターゼの除去のための精製工程におけるラクターゼ活性の低下もない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】比色法によるアリールスルファターゼ活性の測定結果を示すグラフである。
図2】蛍光法によるアリールスルファターゼ活性の測定結果を示すグラフである。
図3】アリールスルファターゼ遺伝子破壊ベクターpdSuC1の構築方法を示す模式図である。
図4】アリールスルファターゼ遺伝子破壊ベクターpdSuCM6の構築方法を示す模式図である。
図5】二つのアリールスルファターゼ遺伝子破壊ベクターの導入方法を示す模式図である。
図6】アリールスルファターゼ遺伝子二つを含む株、一つのアリールスルファターゼ遺伝子が破壊された株、及び二つのアリールスルファターゼ遺伝子が破壊された株のサザン・ブロッティングの結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
初めに、アリールスルファターゼの活性測定方法について説明する。
【0039】
アリールスルファターゼの活性測定方法として従来から知られている方法は、p−ニトロフェノールのような発色団に硫酸基が結合した化合物を基質として使用する比色法である。この方法では、基質とアリールスルファターゼとの反応によって基質から硫酸基が外れて遊離する発色団の量を、吸光度により測定する。ただし、p−ニトロフェノール等の発色団の遊離量が少ない場合には、吸光度の変化は少なく、明確な測定値を得ることが困難である。
【0040】
アリールスルファターゼの活性測定方法として、また、蛍光団に硫酸基を結合させた化合物、例えば4−メチルウンベリフェリル硫酸を基質として用いる蛍光法も知られている(Method in Enzymology, 11/21)。蛍光法の感度は、一般的に比色法の感度の100倍以上であるといわれている。
【0041】
本発明者らは、水系でアリールスルファターゼ活性を測定する方法として、従来の比色法や蛍光法よりも感度を高くすることができる測定条件を検討した。そして、酵素と基質との反応系のイオン強度を高めることにより、アリールスルファターゼ活性を高感度で測定できることに想到し、本発明のアリールスルファターゼ活性の測定方法を確立した。アリールスルファターゼをその基質と反応させる際に、その水系反応系のイオン強度を高めることにより、酵素反応が顕著に活性化され、その結果、より多くの発色団や蛍光団が遊離されることは、これまでに全く知られていない。この本発明に係る水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法を蛍光法にて実施することにより、ラクターゼ製剤中に夾雑するアリールスルファターゼの量を正確に把握することができるようになった。その結果として、アリールスルファターゼ含有量がゼロ又は極く微量のラクターゼ製剤を提供することが可能となった。
【0042】
本発明の水系でのアリールスルファターゼの活性測定方法は、アリールスルファターゼを、その基質(ただし、当該基質がアリールスルファターゼの作用を受けると、蛍光団又は発色団を遊離する)と反応させる際に、反応系のイオン強度を高めることを特徴とする。反応系のイオン強度を高めるための具体的手段は、反応系に無機塩を共存させたり、緩衝液系にて酵素反応を行わしめることである。
【0043】
反応系に添加すべき無機塩の例としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。このような無機塩の濃度は、反応系中において、例えば10乃至1000mMであり、好ましくは50乃至500mMである。また、緩衝液系の例としては、酵素蛋白を変性させない、リン酸−リン酸カリウム緩衝液(リン酸カリウムの概念には、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムを含む)、リン酸−リン酸ナトリウム緩衝液(リン酸ナトリウムの概念には、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムを含む)、リン酸緩衝生理食塩水等のリン酸塩緩衝液が挙げられる。このような緩衝液の反応系中における濃度は、例えば10乃至200mMであり、好ましくは50乃至200mMである。反応系に無機塩を共存させるためには、例えば、アリールスルファターゼの存在が予測される検体の水系溶液(例えば、検体を水や緩衝液に溶解させたもの)に無機塩を添加してもよいし、基質の水系溶液に無機塩を添加してもよい。
【0044】
本発明に係るアリールスルファターゼの活性測定方法の典型例は、次の通りである。
【0045】
(1)アリールスルファターゼの存在が予測される検体を、0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で適宜希釈し、サンプルとする。
(2)4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムを2mM濃度で含有する水溶液を調製する。
(3)サンプルと4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウム水溶液とを、1:1(容量基準)で混合し、37℃にて3時間反応させる。
(4)反応液に、反応液と同量(容量基準)の0.1N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、反応を停止させ、測定用サンプルとする。
(5)励起波長360nm、蛍光波長450nmにて、蛍光強度を測定する。
(6)4−メチルウンベリフェロンを、0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)に溶解させ、適切な濃度の溶液とし、(4)と同様に0.1N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、(5)と同様の条件で蛍光強度を測定する。
(7)(6)より、検量線を作成する。
(8)(5)で測定された蛍光強度と(7)で作成された検量線から、測定用サンプルの4−メチルウンベリフェロン濃度を算出し、それを3で割り、反応時間が1時間であった場合の4−メチルウンベリフェロン濃度を求める。さらに、反応液の容量から、1時間の反応中に生じた4−メチルウンベリフェロン量を算出する。
(9)こうして算出された4−メチルウンベリフェロン量は、(1)で調製したサンプルに含有されていた検体量に基づくものであるので、検体1g当たりの4−メチルウンベリフェロン量に換算する。
(10)基質と酵素との反応時間1時間あたりの4−メチルウンベリフェロン生成量が1nmoleであった場合を1ユニット(U)とし、単位は、検体、即ち酵素製剤1g当たりのユニット量、即ち「ユニット(U)/g」で表す。
【0046】
本発明に係るラクターゼ製剤は、FCC IV法(Food Chemicals Codex Fourth Edition, Effective July 1, 1996, Committee on Food Chemicals odex p.p.801−802)によるラクターゼ活性が4,000NLU/g以上(好ましくは4,500NLU/g以上、さらに好ましくは5,000NLU/g以上)であり、且つ、本発明に係るアリールスルファターゼの活性測定方法の典型例として上記した方法で測定し、計算したアリールスルファターゼ活性が、FCC IV法によるラクターゼ活性(単位:NLU/g)を基準として、0.1%以下(好ましくは0.02%以下)である。
【0047】
本発明のラクターゼ製剤の製造には、ラクターゼ蛋白を生成する、ラクターゼ遺伝子を有し且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている酵母の二倍体菌株を用いる。また、本発明において使用する酵母の二倍体菌株は、そのままで又は濃縮することによって4,000NLU/g以上のラクターゼ製剤を提供できる、高活性のラクターゼ蛋白を生成するものである。このような酵母の二倍体菌株は、例えば、微生物の変異処理によって取得された変異株である。このような変異株は、例えば、紫外線照射や化学的突然変異誘発物質に、高活性のラクターゼ蛋白を生成する酵母の二倍体菌株を暴露させて変異処理を行い、二倍体の両遺伝子について、アリールスルファターゼ遺伝子やアリールスルファターゼ蛋白の発現調節遺伝子を破壊又は欠失させる方法や、二倍体の両遺伝子について、アリールスルファターゼ遺伝子やアリールスルファターゼ蛋白の発現調節遺伝子を遺伝子工学的手法により欠失させる方法等によって得ることが出来る。なお、所望の変異株が得られたか否かは、本発明に係るアリールスルファターゼ活性測定方法(蛍光法)で、変異後の酵母の培養液のアリールスルファターゼ活性を測定すればよい。
【0048】
紫外線による突然変異の誘発は、例えば二倍体酵母の懸濁液に、紫外線を照射することによって行う。また、化学的突然変異の誘発は、例えば二倍体酵母の懸濁液に、化学的突然変異誘発物質を添加することによって行う。なお、化学的突然変異誘発物質の例としては、5−ブロモウラシル、2−アミノプリン、亜硝酸、ヒドロキシルアミン、アクリフラビン、メタンスルホン酸化合物、ニトロソグアニジン等が挙げられる。
【0049】
アリールスルファターゼ遺伝子又はアリールスルファターゼ蛋白の発現調節遺伝子を遺伝子工学的手法により欠失させるには、欠失させるべき遺伝子の相同配列を有する遺伝子断片を取得し、その断片をベクターにサブクローニングして欠失させるべき遺伝子の破壊ベクターを構築し、そしてそのベクターを用いて酵母の二倍体菌株の形質転換を行う等の、通常の遺伝子工学的手法を適用すればよい。
【0050】
本発明のラクターゼ製剤の製造には、酵母のラクターゼ遺伝子がラクターゼ蛋白を発現するように導入され且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている遺伝子組換え微生物であって、高活性のラクターゼ蛋白を生成するものも用いることが出来る。前記したように、「アリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている」とは、例えば、アリールスルファターゼ蛋白の生成に関わる遺伝子が制限されているために、より具体的には、アリールスルファターゼ遺伝子及び/又はアリールスルファターゼ蛋白発現調節遺伝子を有さないために、あるいはアリールスルファターゼ遺伝子(構造遺伝子)が破壊されていたり、アリールスルファターゼ遺伝子にアリールスルファターゼ蛋白を発現させるように働く発現調節遺伝子が破壊されているために、アリールスルファターゼ蛋白が生成されないか又はその生成量が低減されていることをいう。
【0051】
酵母のラクターゼ遺伝子が導入され且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている遺伝子組換え微生物は、公知の方法により調製することが出来る。例えば、薬剤Aに耐性を持つプラスミドにラクターゼ遺伝子を、必要な場合にはラクターゼ遺伝子の発現調節遺伝子も同時に、組み込む。このようにして調製されたラクターゼ発現プラスミドを用い、宿主となる微生物の形質転換を行う。形質転換後の微生物を、薬剤Aを含む培地で培養し、出現したコロニーを選択する。
【0052】
酵母のラクターゼ遺伝子が導入され且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている遺伝子組換え微生物を得るための宿主としては、大腸菌、酵母、枯草菌等を使用することが出来る。
【0053】
酵母のラクターゼ遺伝子が導入され且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている遺伝子組換え微生物を得るための宿主として、アリールスルファターゼ遺伝子やアリールスルファターゼ蛋白の発現調節遺伝子をもとより有しない宿主、もしくは、アリールスルファターゼ遺伝子やアリールスルファターゼ蛋白の発現調節遺伝子を破壊または欠失させた宿主が望ましい。
【0054】
ラクターゼ製剤用のラクターゼは、ラクターゼ遺伝子を有し且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている酵母の二倍体菌株又は酵母のラクターゼ遺伝子が導入され且つアリールスルファターゼ蛋白の発現が制限されている遺伝子組換え微生物であって、高活性のラクターゼ蛋白を生成するものを培養し、細胞壁を破壊せずに菌体又は微生物体を回収するか、細胞壁を破壊して菌体又は微生物体と共に培養液を回収するか、あるいは、細胞壁を破壊せずに培養液を回収し、回収した菌体又は微生物体及び/又は培養液を原料として、アリールスルファターゼの除去工程なしに製造する。なお、「培養液」の概念には培養上清も含まれる。
【0055】
酵母等の微生物の培養には、フラスコ、ジャー、タンク等の培養器を用いることができ、培養条件としては、当該微生物による酵素生産に適する温度、pH、攪拌数等を選択する。
【0056】
培養終了後、通常は細胞壁を破壊することによってラクターゼが溶解した培養液を得る。なお、培養に供された微生物がラクターゼを分泌する場合には、細胞壁の破壊を行わなくてもよい。また、培養液は使用せずに、菌体(又は微生物体)のみを回収した場合には、その後、蒸留水中で菌体(又は微生物体)の細胞壁が破壊され、細胞内部の成分が蒸留水に溶解されて、菌体又は微生物体を含む水溶液となる。
【0057】
菌体又は微生物体を含む又は含まない培養液や水溶液は、通常、遠心分離、ろ過その他の本技術分野で通常行われている適切な方法をもって、上清と残渣とに分離される。上清は、そのまま酵素液として使用してもよいし、限外ろ過膜等を用いて濃縮した後、酵素液として使用してもよい。酵素液は、噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法によって粉体化されてもよい。このようにして得られた酵素液そのものを、ラクターゼ製剤として使用することも出来る。
【0058】
なお、本発明のラクターゼ製剤は、活性の高いラクターゼ蛋白を生成し、アリールスルファターゼ蛋白は生成しないか又は極く微量しか生成しない、酵母の二倍体菌株又は微生物を使用して製造されるので、通常は、アリールスルファターゼのみの除去のために、培養液等を、吸着、クロマトグラフィー、結晶化等の精製操作の中の一つ以上に供する必要はない。また、本発明のラクターゼ製剤の製造方法は、アリールスルファターゼの除去工程を含まないものである。なお、前記したように、溶剤分画や硫安分画等の、ラクターゼ蛋白とアリールスルファターゼ蛋白とが分離されない精製方法は、「アリールスルファターゼの除去工程」の定義に包含されない。
【0059】
本発明に係るラクターゼ製剤の必須構成成分は、ラクターゼである。ラクターゼ製剤には、ラクターゼの活性を阻害しないような物質であり且つ活性を阻害しないような量であれば、又は、ラクターゼ製剤の使用対象に対して望ましくない作用をしない限りは、その他の成分が存在していてもよい。存在していてもよい物質の例を挙げると、ラクターゼの安定化に寄与する金属塩類、各種糖類、アスコルビン酸、グリセリン等、使い勝手をよくするための賦形剤である澱粉、デキストリン、緩衝作用を有する無機塩類等である。ラクターゼ製剤の性状は特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、溶液等であってよい。
【0060】
本発明は、本発明に係るラクターゼ製剤を用いて製造された乳製品にも関する。乳製品とは、ロングライフ牛乳等の牛乳類、ヨーグルト、生クリーム、サワークリーム、チーズ等をいう。ラクターゼ製剤は、本技術分野における通常の方法や使用量(但し、ラクターゼ活性に基づいて計算される使用量)で使用される。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0062】
[実施例1]アリールスルファターゼ活性の測定方法の検討(その1)
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を、0、0.2、0.5又は1.0Mの塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて5倍希釈した。これらの各液0.5mLに、p−ニトロフェニルスルフェイトの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)0.5mLを加え、37℃で3時間反応させた。これに1.5N水酸化ナトリウム水溶液1.5mLを加えて反応を停止させ、410nmにおいて吸光度を測定した。塩化カリウムを含まない場合を100%として、相対値を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示したように、塩化カリウムの添加により、アリールスルファターゼ活性の測定値は増加した。すなわち、塩化カリウムの添加により、より高感度で測定することができた。
【0065】
[実施例2]アリールスルファターゼ活性の測定方法の検討(その2)
(1) GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を、0、125、250、500又は1,000mMの塩化ナトリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて100倍希釈した。これらの各液0.5mLに、2mM 4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムの水溶液0.5mLを加え、37℃で3時間反応させた。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて反応を停止させ、励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。塩化ナトリウムを含まない場合を100%として、相対値を表2に示す。
【0066】
(2) 酵素を希釈する液体として、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)の代わりに100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を用いた以外は、(1)と同様に反応及び蛍光測定を行った。結果を表2に示す。
【0067】
(3) 酵素を希釈する液体に、塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウムを添加した以外は、(1)と同様に反応及び蛍光測定を行った。結果を表2に示す。
【0068】
(4) 酵素を希釈する液体として、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)の代わりに100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を用い、且つ、酵素を希釈する液体に、塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウムを添加した以外は、(1)と同様に反応及び蛍光測定を行った。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示したように、無機塩として塩化ナトリウム又は塩化カリウムを添加し、リン酸カリウム又はリン酸ナトリウム緩衝液中で反応及び測定を行うと、アリールスルファターゼ活性の測定値はほぼ同様の割合で増加した。
【0071】
[実施例3]アリールスルファターゼ活性の測定方法の検討(その3)
(1) GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を、100mM、125mM、250mM、500mM及び1,000mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて100倍希釈した。これらの各液0.5mLに、2mM 4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムの水溶液0.5mLを加え、37℃で3時間反応させた。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液(100mM、125mM、250mMリン酸カリウム緩衝液の場合)又は1.0N水酸化ナトリウム水溶液(500mM、1,000mMリン酸カリウム緩衝液の場合)1.0mLを加えて反応を停止させ、励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。100mMリン酸カリウム緩衝液を使用した場合を100%として、相対値を表3に示す。
【0072】
(2) 酵素を100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて希釈するとともに、0、125、250、500又は1000mMの硫酸アンモニウムを添加した以外は(1)と同様に反応を行った。1000mMの硫酸アンモニウムを添加した系については、1.0N水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて反応を停止させ、それ以外の系については、0.1N水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて反応を停止させた。励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。硫酸アンモニウム無添加系の活性測定値を100%として、相対値を表4に示す。
【0073】
(3) 酵素を希釈する液体に、硫酸アンモニウムの代わりに0、125、250、500又は1000mMのグルコースを添加した以外は、(2)と同様に反応及び蛍光測定を行った。結果を表4に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
表3に示すように、緩衝液濃度の上昇も、アリールスルファターゼ活性の測定値の上昇に寄与したが、その効果は小さかった。また、表4に示すように、硫酸アンモニウムの添加は、アリールスルファターゼ活性の測定値を増加させたが、グルコースは、アリールスルファターゼ活性の測定値の上昇効果は小さかった。
【0077】
[実施例4]無機塩添加の効果が発現される工程の確認
無機塩添加の効果が、酵素反応の亢進によるものであるか、蛍光団の蛍光強度の増強によるものであるのかを確認した。
【0078】
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用いて100倍希釈した。また、別途、0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用いて100倍希釈した。これらの各液0.5mLに、2mM 4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムの水溶液0.5mLを加え、37℃で1時間反応させた。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて反応を停止させた。反応停止後の各液200μLに、塩化カリウムを0mM、125mM、250mM、500mM又は1,000mM濃度で含有する水溶液200μLを添加し、励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。なお、各ブランクとして、酵素の希釈液に0.1N水酸化ナトリウム水溶液を加えて失活させた後、4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムの水溶液を添加したものを用いた。
【0079】
ラクターゼ製剤を100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用いて100倍希釈したものを用いて反応させ、且つ、反応停止後には塩化カリウムを添加しなかった(塩化カリウム濃度が0mMの蒸留水200μLを添加した)場合を100%として、相対値を表5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
表5に示すように、反応開始前に無機塩を添加した場合、即ち無機塩の存在下で酵素反応を行わせた場合には、蛍光強度が高まったが、酵素反応終了後に無機塩を添加しても、蛍光強度は高まらなかった。以上より、無機塩が酵素反応を亢進させ、これによって遊離される蛍光団の絶対量が増えるために、蛍光強度が高まることが明らかとなった。
【0082】
[実施例5]従来より知られている比色法でのアリールスルファターゼ活性の測定
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を蒸留水で希釈し、1%(w/v)溶液を得た。これを、0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用いて希釈し、0.8%(w/v)、0.6%(w/v)、0.4%(w/v)及び0.2%(w/v)溶液を得た。各溶液0.5mLに20mM p−ニトロフェニルスルフェイトの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)溶液0.5mLを加え、37℃で3時間反応させた。これに1.5N水酸化ナトリウム水溶液1.5mLを加えて反応を停止させ、410nmにおける吸光度を測定した。
【0083】
結果を図1に示す。比色法では、酵素製剤の1%(w/v)溶液では、アリールスルファターゼ活性はまったく測定できなかった。
【0084】
[実施例6]蛍光法でのアリールスルファターゼ活性の測定
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて希釈し、1%(w/v)溶液を得た。この1%溶液を、同緩衝液を用いて希釈し、0.8%(w/v)、0.6%(w/v)、0.4%(w/v)及び0.2%(w/v)溶液を得た。
【0085】
各溶液0.5mLに2mM 4−メチルウンベリフェリルスルフェイトカリウム水溶液0.5mL加え、37℃で3時間反応させた。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて反応を停止させ、励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。
【0086】
結果を図2に示す。蛍光法では、比色法とは異なり、濃度が1%(w/v)以下の酵素製剤溶液でも、良好な定量性を示した。
【0087】
[実施例7]アリールスルファターゼ活性測定における比色法と蛍光法との比較
アリールスルファターゼ活性測定における比色法と蛍光法との感度の相違を検討した。先ず、この実験で使用する精製ラクターゼを調製した。
【0088】
(精製ラクターゼの調製)
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)50kgを、限外ろ過膜(旭化成株式会社製ACP膜)を用いてその導電率が3mSv以下となるまで加水脱塩した。これに水を加えて全量125Lとした。次いで、あらかじめ10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)にて平衡化しておいたイオン交換樹脂(トーソー株式会社製DEAEトヨパール650M、40cmφ、50L)に吸着させた。50mM塩化ナトリウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)40Lにて洗浄し、次いで100mM塩化ナトリウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)200Lでラクターゼを溶出させた。この際、フラクションを20Lずつに分画した。各フラクションのラクターゼ活性(FCC IV法による; Food Chemicals Codex 4th Edition, Effective July 1st, 1996, Committee on Food Chemicals Codex, p.p.801−802)及びアリールスルファターゼ活性(蛍光法による;詳細は下記のとおり)を測定し、アリールスルファターゼの低減した画分を回収、混合し、限外ろ過膜(旭化成株式会社製ACP膜)を用いて濃縮し、ラクターゼ濃縮液を得た。この濃縮液に50%(w/w)となるようグリセリンを加え、精製ラクターゼ製剤を得た。
【0089】
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)と、上記のようにして調製された精製ラクターゼ製剤であっていずれもFCC IV法によるラクターゼ活性が5,000乃至5,500NLU/gであるものについて、アリールスルファターゼ活性(蛍光法;詳細は下記のとおり)を測定したところ、精製ラクターゼ製剤のアリールスルファターゼ活性は、精製前の1/840であった(後記表6を参照のこと)。
【0090】
(様々なアリールスルファターゼ夾雑率の酵素製剤の調製)
上記のようにして調製した精製ラクターゼ製剤と、GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を適宜混合して、様々なアリールスルファターゼ夾雑率のラクターゼ製剤を調製し、ラクターゼ活性(FCC IV法による)とアリールスルファターゼ活性(比色法及び蛍光法による)とを測定した。
【0091】
(比色法でのアリールスルファターゼ活性の測定)
ラクターゼ製剤0.5mLに20mM p−ニトロフェニルスルフェイトの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)溶液0.5mLを加え、37℃で3時間反応させた。これに1.5N水酸化ナトリウム水溶液1.5mLを加えて反応を停止させ、410nmにおける吸光度を測定した。
【0092】
別途、p−ニトロフェノールを0乃至0.5mMの濃度で含有する水溶液を用意した。これらの各溶液0.5mLに100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)溶液0.5mLを加え、さらに1.5N水酸化ナトリウム水溶液1.5mLを加えて測定用サンプルを得た。410nmにおける吸光度を測定し、検量線を作成した。
【0093】
検量線から、反応液1mL中に含有されているp−ニトロフェノールの濃度を求め、さらに3で割り(反応時間が3時間であるため)、反応時間が1時間である場合のp−ニトロフェノールの濃度を算出した。次いで、この濃度から、反応液1mL中に含有されているp−ニトロフェノールの量を算出(単位:nmole)し、さらに2倍(ラクターゼ製剤使用量は0.5gであり、これを1g当たりに換算するため)することにより、アリールスルファターゼ活性を算出した。1Uは、1時間に1nmoleのp−ニトロフェノールを生成させる活性であり、アリールスルファターゼ活性は、単位「U/g−酵素製剤」で表される。
【0094】
(蛍光法でのアリールスルファターゼ活性の測定)
ラクターゼ製剤を0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で希釈し、1%(w/v)溶液を得た。この1%溶液0.5mLに2mM 4−メチルウンベリフェリルスルフェイトカリウム水溶液0.5mL加え、37℃で3時間反応させた。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液1mLを加えて反応を停止させ、励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。
【0095】
別途、4−メチルウンベリフェロンを0乃至4μMの濃度で含有する0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用意した。これらの各溶液1.0mLに0.1N水酸化ナトリウム水溶液1mLを加えて測定用サンプルを得た。励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定し、検量線を作成した。
【0096】
検量線から、反応液1mL中に含有されている4−メチルウンベリフェロンの濃度を求め、さらに3で割り(反応時間が3時間であるため)、反応液の容量から反応中に生成した4−メチルウンベリフェロンの絶対量を算出した。さらに200倍(ラクターゼ製剤使用量は0.5×0.01=0.005gであり、これを検体(ラクターゼ製剤)1g当たりに換算するため)することにより、アリールスルファターゼ活性を算出した。1Uは、1時間に1nmoleの4−メチルウンベリフェロンを生成させる活性であり、アリールスルファターゼ活性は、単位「U/g−酵素製剤」で表される。
【0097】
(結果)
結果を表6に示す。比色法では、アリールスルファターゼの含有量が少なくなると、測定することができなかったが、蛍光法では、比色法の測定限界の約1/100の濃度域まで正確に測定することができた。
【0098】
【表6】
【0099】
[実施例8]アリールスルファターゼ活性測定における蛍光法とWO07/060247(特表2009−517061)に記載の方法との比較と、風味官能試験(その1)
WO07/060247には、夾雑するアリールスルファターゼが19単位(WO07/060247において規定された単位)以下のラクターゼ製剤は、牛乳の滅菌後に乳糖を分解させるために添加された場合に異臭を生じさせない旨が記載されている。しかし、これは、ラクターゼの反応日数を2日間と限定して行った試験の結果に基づく見解である。一方、現実のロングライフミルクにラクターゼ製剤を添加した場合、1ヶ月以上の長期にわたって酵素反応が進行すると考えられる。そこで、様々な夾雑率でアリールスルファターゼを含有するラクターゼ製剤を調製し、それらを牛乳に添加し、所定の日数経過後に風味の確認を行った。
【0100】
(様々なアリールスルファターゼ夾雑率のラクターゼ製剤の調製)
様々な夾雑率のアリールスルファターゼを含有するラクターゼ製剤A乃至Eは、実施例7で調製した精製ラクターゼ製剤と、選択されたアリールスルファターゼ活性を100単位(WO07/060247に記載の単位)含むGODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を適宜混合して調製した。
【0101】
調製されたラクターゼ製剤A〜Eのアリールスルファターゼ活性を、WO07/060247に記載の方法と、上記実施例7に示した蛍光法で測定した。また、ラクターゼ活性をFCC IV法で測定した。結果を表7に示す。ここで、WO07/060247に記載の単位とは、△OD410×10/時間/NLUのことである。
【0102】
【表7】
【0103】
(風味官能試験)
WO07/060247の実施例4を参照し、市販牛乳(加熱殺菌したもの;殺菌条件:130℃ 2秒)に、ラクターゼが20,000NLU/L−牛乳となるように、ラクターゼ製剤A〜Eの各々を加え、30℃に保存した。保存2日後、1ヶ月後及び3ヶ月後に、ラクターゼ製剤を添加していない牛乳とラクターゼ製剤を添加した牛乳の風味官能試験を行った。
【0104】
風味官能試験は、盲検試験で実施した。11〜13人のパネラーが、一定期間保存後の牛乳の臭いを嗅ぎ、さらには口に含み、違和感のある臭いの有無を判断した。臭いを感じないものを0点(−)、感じるものを1点(+)、強く感じるものを2点(++)として採点して評価を行った。まとめた結果を表8に示す。
【0105】
【表8】
【0106】
ラクターゼ製剤による反応期間(即ち、牛乳の保存期間)2日間では、製剤Eのみが明確な異臭を示した。これはWO07/060247の記載と一致した。しかしながら、反応期間が1ヶ月以上となると、製剤C及びDにおいても異臭が感知された。このことは、ラクターゼ製剤のロングライフミルク等における使用を考えた場合、アリールスルファターゼ活性をWO07/060247に記載の単位で検出限界の8単位としても、十分に異味、異臭をコントロールできないことを示すものである。
【0107】
一方、製剤A及びBでは、反応期間が1ヶ月でも3ヶ月でも異臭は感知されなかった。ラクターゼ製剤のロングライフミルクへの使用を考えた場合、1ヶ月以上の反応期間を想定する必要がある。よって、そのような用途では、ラクターゼ製剤A又はB(すなわち、本発明の方法によるアリールスルファターゼ活性/FCC IV法によるラクターゼ活性が0.02%以下のもの)を使用することが好ましく、ラクターゼ製剤Aの使用がさらに好ましいことが明らかとなった。また、ラクターゼ製剤AやBと同程度のアリールスルファターゼ活性値は、本明細書に記載した蛍光分析法又はそれと同等以上の感度を示す分析法で測定することが必要であることも明らかとなった。
【0108】
[実施例9]アリールスルファターゼ産生能が低減された変異株の取得
二倍体菌株であるクリベロマイセス・ラクティスG14−427株を、YPD培地(1%酵母エキス、1%グルコース、2%ペプトン)10mLに、1白金耳植菌し、この菌懸濁液を30℃に保存して培養し、対数増殖期となったらその培地を遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体を、600nmにおける吸光度が0.5となるように滅菌水に分散させた。この菌懸濁液に、紫外線を、UVランプにて15秒間照射した。遠心分離によって菌体を回収し、YPD培地に混合分散させた。菌体を含むYPD培地から適量を採り、YPD寒天平板培地に塗布した。37℃にて7日間、静置培養を行った。生育してきたコロニーを少量かきとり、これをザイモリエース(生化学バイオビジネス株式会社製)を1mg/mLで含有する溶液1mLに混合した。30℃にて2時間反応させ、細胞壁を破壊した。その後、遠心分離を行い、上清を回収した。
【0109】
上清のラクターゼ活性(FCC IV法)及びアリールスルファターゼ活性(実施例7に記載の蛍光法による)を測定した。アリールスルファターゼ活性/ラクターゼ活性を算出し、その値が小さいもの選択した。
【0110】
選択された株について、上記の変異処理と選別を繰り返すことにより、二倍体菌株であるクリベロマイセス・ラクティスG14−427株に存在する二つのアリールスルファターゼ遺伝子の中の一つが機能不全となった変異株を取得することができた(SM1182株)。なお、「二つのアリールスルファターゼ遺伝子の中の一つが機能不全となった」との判断は、SM1182株の培養上清のアリールスルファターゼ活性値が、親株であるG14−427株の培養上清のアリールスルファターゼ活性値の約1/2であったことによる。
【0111】
さらに、得られた変異株(SM1182株)を親株として変異処理を行い、もう一方のアリールスルファターゼ遺伝子についても機能不全となった、すなわちアリールスルファターゼ活性が0の変異株を取得した(SF−81株)。
【0112】
親株であるクリベロマイセス・ラクティスG14−427株と、上記のようにして得られた変異株2種を、それぞれ、YPD培地(70mL/フラスコ)にて、26℃で4日間振とう培養した。
【0113】
その後、培養液に2mg/mLとなるようザイモリエース(生化学バイオビジネス株式会社製)を加え、30℃にて2時間反応させ、細胞壁を破壊した。遠心分離により上清を回収し、FCC IV法によりラクターゼ活性を、また、実施例7に記載の方法でアリールスルファターゼ活性を測定した。結果を表9に示す。
【0114】
【表9】
【0115】
[実施例10]宿主株の取得
二倍体菌株であるクリベロマイセス・ラクティスG14−427株を、YPD培地10mLに、1白金耳植菌し、30℃にて対数増殖期まで生育させた。培地を遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体を、600nmにおける吸光度が0.5となるように滅菌水に分散させた。この菌懸濁液に、紫外線を、UVランプにて15秒間照射した。遠心分離によって菌体を回収し、YPD培地に混合分散させた。菌体を含むYPD培地から適量を採り、YPD寒天平板培地に塗布した。37℃にて4日間、静置培養を行った。生育してきたコロニーをSD培地(0.67%アミノ酸を含まないイーストナイトロジェンベース、2%グルコース、2%寒天)にレプリカし、生育してこないものを選択した。
【0116】
これらのSD培地では生育しない株を、もとのYPD寒天平板培地より20mg/L L−メチオニンを含むSD培地に塗布し、生育してくるものをL−メチオニン要求株(7−19株)とした。
【0117】
7−19株を、YPD培地10mLに、1白金耳植菌し、30℃にて対数増殖期まで生育させた。培地を遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体を、600nmにおける吸光度が0.5となるように滅菌水に分散させた。この菌懸濁液に、紫外線を、UVランプにて15秒間照射した。遠心分離によって菌体を回収し、YPD培地に混合分散させた。菌体を含むYPD培地から適量を採り、YPD寒天平板培地に塗布した。37℃にて4日間、静置培養を行った。生育してきたコロニーを20mg/L L−メチオニンを含むSD培地にレプリカし、生育してこないものを選択した。
【0118】
これらのL−メチオニンを含むSD培地で生育しない株を、もとのYPD寒天平板培地より、20mg/L L−ヒスチジン及び20mg/L L−メチオニンを含むSD培地に塗布し、生育してくるものをL−メチオニン、L−ヒスチジン二重栄養要求株(8−23株)とした。取得された栄養要求変異株の生育について、表10に示す。
【0119】
【表10】
【0120】
[実施例11]アリールスルファターゼを産生しない遺伝子二重破壊株の取得
(宿主株の取得)
実施例10で取得したL−ヒスチジン、L−メチオニン二重栄養要求性変異株である8−23株について、それぞれの栄養要求性が、酢酸リチウム法にて導入したHIS4遺伝子及びMET6遺伝子により相補されることを確認した。
【0121】
(ゲノムDNAの取得)
二倍体菌株であるクリベロマイセス・ラクティスG14−427株をYPD培地にて培養した。得られた培養液より、GenとるくんTM(酵母用)(タカラバイオ株式会社製)を用いてゲノムDNAを調製した。操作は、GenとるくんTM(酵母用)の説明書の記載に従って行った。
【0122】
(アリールスルファターゼ遺伝子破壊ベクターの構築)
アリールスルファターゼ遺伝子のオープン・リーディング・フレームが含まれた断片が取得されるように、プライマーSuC−F及びSuC−Rを設計した。これらを含む、使用したプライマーの配列は、表11に示すとおりであった。
【0123】
【表11】
【0124】
先に調製したゲノムDNAを鋳型とし、上記プライマーを用いて次に示す条件によりPCRを行い、DNA断片を取得した。なお、ポリメラーゼとして、Takara Ex Taq(登録商標;タカラバイオ株式会社製)を用い、操作はその添付文書に従って行った。
【0125】
(PCR条件)
Stage1(1サイクル) 94℃ 3分
Stage2(30サイクル) 94℃ 1分
54℃ 1分
72℃ 3分
Stage3(1サイクル) 72℃ 10分
4℃に保持
【0126】
得られた断片をMagExtractorTM−PCR&Gel Clean up−(東洋紡株式会社製)にて精製し、その後pGEM(登録商標)−Tベクター(Promega社製)とライゲーション反応を行わせた。ライゲーション反応には、DNA Ligation Kit<Mighty Mix>(タカラバイオ株式会社製)を用いた。使用法はそれぞれの添付文書に従った。その後、ハナハン法(Hanahan,D.,J.Mol.Biol.,166,557(1983))にて調製したE.ColiDH5α株のコンピテントセルを形質転換し、得られた形質転換体の培養液より、MagExtractorTM−Plasmid−(東洋紡株式会社製)を用いてプラスミドを抽出した。使用法は添付文書に従った。その結果、目的の断片がサブクローニングされたプラスミドpGSuCが得られた。
【0127】
さらに、プライマーBGLHIS4−F及びHIS4−Rを用い、ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、HIS4遺伝子を含む断片を取得した。PCR反応については、前述の方法に従った。図3に示すように、得られたHIS4遺伝子を含む断片をBgl II及びEcoRIにて処理し、pGSuCのBgl II−EcoRIサイトに挿入した。このようにして構築したプラスミドを、pdSuC1と名付けた。構築時の各種方法は、前述の方法と同様であった。
【0128】
また、MET6遺伝子をマーカーとしたアリールスルファターゼ遺伝子破壊ベクターを構築するために、5’側にアリールスルファターゼ遺伝子の相同配列を40塩基付加したプライマーSuCd−M6F及びSuCd−M6Rを設計した。アリールスルファターゼ遺伝子の相同配列は、オープン・リーディング・フレーム上に2ヶ所存在する制限酵素ClaI部位付近とした。図4に示すように、これらのプライマーを用い、ゲノムDNAを鋳型として、MET6遺伝子の両端にアリールスルファターゼの相同配列を持つ断片を取得した。得られた断片をpGEM(登録商標)−Tベクター(Promega社製)にサブクローニングし、pdSuCM6を得た。構築時の各種方法は、前述の方法と同様であった。
【0129】
(アリールスルファターゼ遺伝子破壊ベクターを用いたL−メチオニン、L−ヒスチジン二重栄養要求性8−23株の形質転換)
図5に、形質転換体構築の模式図を示す。プラスミドpdSuC1を、NcoI及びAatIIで処理して直鎖状にし、それを用いて8−23株を酢酸リチウム法により形質転換し、20μg/mlのメチオニンを添加したSD培地で生育する形質転換体SuCD株を取得した。
【0130】
次に、プラスミドpdSuCM6をClaIで処理して直鎖状にし、それを用いてSuCD株を酢酸リチウム法により形質転換し、SD培地で生育する形質転換体SuCDD5−2株を得た。
【0131】
(親株及び形質転換株のDNAのサザン・ブロッティング)
得られた形質転換体を、それぞれYPD培地にて培養し、その培養液よりGenとるくんTM(酵母用)(タカラバイオ株式会社製)を用いてゲノムDNAを調製した。得られたゲノムDNAをBamHIで消化後、サザン解析を行った。プローブはアリールスルファターゼ遺伝子のAatII−EcoRI断片を用い、核酸の標識と検出には、AlkPhos Direct Labelling and Detection System with CDP−Star(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)を用い、使用法は添付文書に従った。
【0132】
サザン・ブロッティングの結果を図6に示す。レーン1が親株G14−427株、レーン2が形質転換体SuCDD5−2株、レーン3が形質転換体SuCD株である。レーン3には、アリールスルファターゼ遺伝子とHIS4遺伝子を含む断片のバンド(12.1kb)とともに、レーン1と同じ位置(7.8kb)にもバンドが検出され、アリールスルファターゼ遺伝子の一方のみが破壊されていることが確認された。一方、レーン2では、7.8kbのバンドが5.3kbにシフトしており、アリールスルファターゼ遺伝子二重破壊株であることが確認された。
【0133】
(アリールスルファターゼ遺伝子二重破壊株のアリールスルファターゼ活性の検出)
親株である二倍体菌株のクリベロマイセス・ラクティスG14−427株及び上記のようにして構築したSuCDD5−2株を、それぞれYPD培地に接種し、30℃、210rpmにて72時間、振とう培養した。培養液に2mg/mlとなるようにザイモリエース(生化学バイオビジネス株式会社製)を加え、30℃に2時間反応させ、細胞壁を破壊した。遠心分離により上清を回収し、FCC IV法によってラクターゼ活性を、そして実施例7に記載の方法でアリールスルファターゼ活性を測定した。結果を表12に示す。
【0134】
SuCDD5−2株の培養液には、ラクターゼは含まれているが、アリールスルファターゼは含まれていないか、含まれていたとしてもその活性が蛍光法による測定において検出されないような微量であることが明らかとなった。即ち、SuCDD5−2株は、ラクターゼの生産性は維持しているが、アリールスルファターゼの生産性は0であるか又は殆どないことが確認された。
【0135】
【表12】
【0136】
[実施例12]SF−81株及びCBS2359株を用いた酵素製剤の調製
実施例9で得たSF−81株(アリールスルファターゼ産生能が低減された二倍体変異株)及びCBS2359(一倍体菌株)を、それぞれ、7%コーンスチーブリカー、2%乳糖を含有するラクターゼ生産用培地に接種し、30℃、210rpmにて96時間、振とう培養し、その後、遠心分離により菌体を回収した。菌体に滅菌精製水を加え、ガラスビーズと超音波により、回収菌体の細胞壁を破壊した。このようにして得られた菌体と精製水等を含む混合物を遠心分離にかけ、上清を回収した。得られた上清中のラクターゼ活性を、実施例7に記載の蛍光法で測定した。その結果、SF−81株の活性を100%として、CBS2359株の相対活性は2%であった。
【0137】
前記上清を硫安分画し、限外ろ過膜で濃縮した。その結果、SF−81株菌体からは、濃縮の程度により、ラクターゼ活性がそれぞれ、約1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000NLU/gのラクターゼ製剤が得られた。一方、同様の方法で濃縮を行ったが、CBS2359株からは、1,000NLU/g以上のラクターゼ活性を示す製剤は得られなかった。
【0138】
[実施例13] 酵素製剤の調製
SF−81株を、7%コーンスチーブリカー、2%乳糖を含有するラクターゼ生産用培地に接種し、30℃、210rpmにて96時間、振とう培養後、遠心分離により菌体を回収した。菌体に滅菌精製水を加え、ガラスビーズと超音波により、回収菌体の細胞壁を破壊し、遠心分離により上清を回収した。上清を硫安分画し、限外ろ過膜で濃縮することにより、ラクターゼ活性が約5,000NLU/gのラクターゼ製剤を得た。このラクターゼ製剤のアリールスルファターゼ活性は、本発明の測定法(蛍光法)によると、1U/g以下であった。
【0139】
[実施例14]風味官能試験(その2)
(様々なアリールスルファターゼ夾雑率のラクターゼ製剤の調製)
実施例13に記載の方法でSF−81株から製造したラクターゼ製剤そのもの、及びこれにGODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を適宜混合して、実施例7に示した蛍光法で測定したアリールスルファターゼ活性が1乃至20U/gのラクターゼ製剤5種を調製した。また、各ラクターゼ製剤のラクターゼ活性を、FCC IV法によって測定した。
【0140】
(風味官能試験)
実施例8同様、市販牛乳に、ラクターゼが20,000NLU/L−牛乳となるように、上記ラクターゼ製剤5種の各々を加え、30℃に保存した。保存1ヶ月後に、ラクターゼ製剤を添加していない牛乳とラクターゼ製剤を添加した牛乳を比較する風味官能試験を、実施例8と同様の方法で行った。結果を表13に示す。
【0141】
【表13】
【0142】
表13に示された結果より、本発明に係る方法で測定したアリールスルファターゼ活性は、5U/g以下であることが好ましいことがわかった。また、FCC IV法によるラクターゼ活性(単位:NLU/g)を基準として、本発明に係る方法で測定したアリールスルファターゼ活性(単位:U/g)の割合は、0.1%以下であることが好ましいことも明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]