【実施例】
【0061】
以下に、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0062】
[実施例1]アリールスルファターゼ活性の測定方法の検討(その1)
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を、0、0.2、0.5又は1.0Mの塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて5倍希釈した。これらの各液0.5mLに、p−ニトロフェニルスルフェイトの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)0.5mLを加え、37℃で3時間反応させた。これに1.5N水酸化ナトリウム水溶液1.5mLを加えて反応を停止させ、410nmにおいて吸光度を測定した。塩化カリウムを含まない場合を100%として、相対値を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示したように、塩化カリウムの添加により、アリールスルファターゼ活性の測定値は増加した。すなわち、塩化カリウムの添加により、より高感度で測定することができた。
【0065】
[実施例2]アリールスルファターゼ活性の測定方法の検討(その2)
(1) GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を、0、125、250、500又は1,000mMの塩化ナトリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて100倍希釈した。これらの各液0.5mLに、2mM 4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムの水溶液0.5mLを加え、37℃で3時間反応させた。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて反応を停止させ、励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。塩化ナトリウムを含まない場合を100%として、相対値を表2に示す。
【0066】
(2) 酵素を希釈する液体として、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)の代わりに100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を用いた以外は、(1)と同様に反応及び蛍光測定を行った。結果を表2に示す。
【0067】
(3) 酵素を希釈する液体に、塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウムを添加した以外は、(1)と同様に反応及び蛍光測定を行った。結果を表2に示す。
【0068】
(4) 酵素を希釈する液体として、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)の代わりに100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を用い、且つ、酵素を希釈する液体に、塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウムを添加した以外は、(1)と同様に反応及び蛍光測定を行った。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示したように、無機塩として塩化ナトリウム又は塩化カリウムを添加し、リン酸カリウム又はリン酸ナトリウム緩衝液中で反応及び測定を行うと、アリールスルファターゼ活性の測定値はほぼ同様の割合で増加した。
【0071】
[実施例3]アリールスルファターゼ活性の測定方法の検討(その3)
(1) GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を、100mM、125mM、250mM、500mM及び1,000mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて100倍希釈した。これらの各液0.5mLに、2mM 4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムの水溶液0.5mLを加え、37℃で3時間反応させた。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液(100mM、125mM、250mMリン酸カリウム緩衝液の場合)又は1.0N水酸化ナトリウム水溶液(500mM、1,000mMリン酸カリウム緩衝液の場合)1.0mLを加えて反応を停止させ、励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。100mMリン酸カリウム緩衝液を使用した場合を100%として、相対値を表3に示す。
【0072】
(2) 酵素を100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて希釈するとともに、0、125、250、500又は1000mMの硫酸アンモニウムを添加した以外は(1)と同様に反応を行った。1000mMの硫酸アンモニウムを添加した系については、1.0N水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて反応を停止させ、それ以外の系については、0.1N水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて反応を停止させた。励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。硫酸アンモニウム無添加系の活性測定値を100%として、相対値を表4に示す。
【0073】
(3) 酵素を希釈する液体に、硫酸アンモニウムの代わりに0、125、250、500又は1000mMのグルコースを添加した以外は、(2)と同様に反応及び蛍光測定を行った。結果を表4に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
表3に示すように、緩衝液濃度の上昇も、アリールスルファターゼ活性の測定値の上昇に寄与したが、その効果は小さかった。また、表4に示すように、硫酸アンモニウムの添加は、アリールスルファターゼ活性の測定値を増加させたが、グルコースは、アリールスルファターゼ活性の測定値の上昇効果は小さかった。
【0077】
[実施例4]無機塩添加の効果が発現される工程の確認
無機塩添加の効果が、酵素反応の亢進によるものであるか、蛍光団の蛍光強度の増強によるものであるのかを確認した。
【0078】
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用いて100倍希釈した。また、別途、0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用いて100倍希釈した。これらの各液0.5mLに、2mM 4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムの水溶液0.5mLを加え、37℃で1時間反応させた。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて反応を停止させた。反応停止後の各液200μLに、塩化カリウムを0mM、125mM、250mM、500mM又は1,000mM濃度で含有する水溶液200μLを添加し、励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。なお、各ブランクとして、酵素の希釈液に0.1N水酸化ナトリウム水溶液を加えて失活させた後、4−メチルウンベリフェロンスルフェイトカリウムの水溶液を添加したものを用いた。
【0079】
ラクターゼ製剤を100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用いて100倍希釈したものを用いて反応させ、且つ、反応停止後には塩化カリウムを添加しなかった(塩化カリウム濃度が0mMの蒸留水200μLを添加した)場合を100%として、相対値を表5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
表5に示すように、反応開始前に無機塩を添加した場合、即ち無機塩の存在下で酵素反応を行わせた場合には、蛍光強度が高まったが、酵素反応終了後に無機塩を添加しても、蛍光強度は高まらなかった。以上より、無機塩が酵素反応を亢進させ、これによって遊離される蛍光団の絶対量が増えるために、蛍光強度が高まることが明らかとなった。
【0082】
[実施例5]従来より知られている比色法でのアリールスルファターゼ活性の測定
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を蒸留水で希釈し、1%(w/v)溶液を得た。これを、0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用いて希釈し、0.8%(w/v)、0.6%(w/v)、0.4%(w/v)及び0.2%(w/v)溶液を得た。各溶液0.5mLに20mM p−ニトロフェニルスルフェイトの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)溶液0.5mLを加え、37℃で3時間反応させた。これに1.5N水酸化ナトリウム水溶液1.5mLを加えて反応を停止させ、410nmにおける吸光度を測定した。
【0083】
結果を
図1に示す。比色法では、酵素製剤の1%(w/v)溶液では、アリールスルファターゼ活性はまったく測定できなかった。
【0084】
[実施例6]蛍光法でのアリールスルファターゼ活性の測定
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて希釈し、1%(w/v)溶液を得た。この1%溶液を、同緩衝液を用いて希釈し、0.8%(w/v)、0.6%(w/v)、0.4%(w/v)及び0.2%(w/v)溶液を得た。
【0085】
各溶液0.5mLに2mM 4−メチルウンベリフェリルスルフェイトカリウム水溶液0.5mL加え、37℃で3時間反応させた。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて反応を停止させ、励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。
【0086】
結果を
図2に示す。蛍光法では、比色法とは異なり、濃度が1%(w/v)以下の酵素製剤溶液でも、良好な定量性を示した。
【0087】
[実施例7]アリールスルファターゼ活性測定における比色法と蛍光法との比較
アリールスルファターゼ活性測定における比色法と蛍光法との感度の相違を検討した。先ず、この実験で使用する精製ラクターゼを調製した。
【0088】
(精製ラクターゼの調製)
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)50kgを、限外ろ過膜(旭化成株式会社製ACP膜)を用いてその導電率が3mSv以下となるまで加水脱塩した。これに水を加えて全量125Lとした。次いで、あらかじめ10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)にて平衡化しておいたイオン交換樹脂(トーソー株式会社製DEAEトヨパール650M、40cmφ、50L)に吸着させた。50mM塩化ナトリウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)40Lにて洗浄し、次いで100mM塩化ナトリウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)200Lでラクターゼを溶出させた。この際、フラクションを20Lずつに分画した。各フラクションのラクターゼ活性(FCC IV法による; Food Chemicals Codex 4th Edition, Effective July 1st, 1996, Committee on Food Chemicals Codex, p.p.801−802)及びアリールスルファターゼ活性(蛍光法による;詳細は下記のとおり)を測定し、アリールスルファターゼの低減した画分を回収、混合し、限外ろ過膜(旭化成株式会社製ACP膜)を用いて濃縮し、ラクターゼ濃縮液を得た。この濃縮液に50%(w/w)となるようグリセリンを加え、精製ラクターゼ製剤を得た。
【0089】
GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)と、上記のようにして調製された精製ラクターゼ製剤であっていずれもFCC IV法によるラクターゼ活性が5,000乃至5,500NLU/gであるものについて、アリールスルファターゼ活性(蛍光法;詳細は下記のとおり)を測定したところ、精製ラクターゼ製剤のアリールスルファターゼ活性は、精製前の1/840であった(後記表6を参照のこと)。
【0090】
(様々なアリールスルファターゼ夾雑率の酵素製剤の調製)
上記のようにして調製した精製ラクターゼ製剤と、GODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を適宜混合して、様々なアリールスルファターゼ夾雑率のラクターゼ製剤を調製し、ラクターゼ活性(FCC IV法による)とアリールスルファターゼ活性(比色法及び蛍光法による)とを測定した。
【0091】
(比色法でのアリールスルファターゼ活性の測定)
ラクターゼ製剤0.5mLに20mM p−ニトロフェニルスルフェイトの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)溶液0.5mLを加え、37℃で3時間反応させた。これに1.5N水酸化ナトリウム水溶液1.5mLを加えて反応を停止させ、410nmにおける吸光度を測定した。
【0092】
別途、p−ニトロフェノールを0乃至0.5mMの濃度で含有する水溶液を用意した。これらの各溶液0.5mLに100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)溶液0.5mLを加え、さらに1.5N水酸化ナトリウム水溶液1.5mLを加えて測定用サンプルを得た。410nmにおける吸光度を測定し、検量線を作成した。
【0093】
検量線から、反応液1mL中に含有されているp−ニトロフェノールの濃度を求め、さらに3で割り(反応時間が3時間であるため)、反応時間が1時間である場合のp−ニトロフェノールの濃度を算出した。次いで、この濃度から、反応液1mL中に含有されているp−ニトロフェノールの量を算出(単位:nmole)し、さらに2倍(ラクターゼ製剤使用量は0.5gであり、これを1g当たりに換算するため)することにより、アリールスルファターゼ活性を算出した。1Uは、1時間に1nmoleのp−ニトロフェノールを生成させる活性であり、アリールスルファターゼ活性は、単位「U/g−酵素製剤」で表される。
【0094】
(蛍光法でのアリールスルファターゼ活性の測定)
ラクターゼ製剤を0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で希釈し、1%(w/v)溶液を得た。この1%溶液0.5mLに2mM 4−メチルウンベリフェリルスルフェイトカリウム水溶液0.5mL加え、37℃で3時間反応させた。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液1mLを加えて反応を停止させ、励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定した。
【0095】
別途、4−メチルウンベリフェロンを0乃至4μMの濃度で含有する0.5M塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用意した。これらの各溶液1.0mLに0.1N水酸化ナトリウム水溶液1mLを加えて測定用サンプルを得た。励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定し、検量線を作成した。
【0096】
検量線から、反応液1mL中に含有されている4−メチルウンベリフェロンの濃度を求め、さらに3で割り(反応時間が3時間であるため)、反応液の容量から反応中に生成した4−メチルウンベリフェロンの絶対量を算出した。さらに200倍(ラクターゼ製剤使用量は0.5×0.01=0.005gであり、これを検体(ラクターゼ製剤)1g当たりに換算するため)することにより、アリールスルファターゼ活性を算出した。1Uは、1時間に1nmoleの4−メチルウンベリフェロンを生成させる活性であり、アリールスルファターゼ活性は、単位「U/g−酵素製剤」で表される。
【0097】
(結果)
結果を表6に示す。比色法では、アリールスルファターゼの含有量が少なくなると、測定することができなかったが、蛍光法では、比色法の測定限界の約1/100の濃度域まで正確に測定することができた。
【0098】
【表6】
【0099】
[実施例8]アリールスルファターゼ活性測定における蛍光法とWO07/060247(特表2009−517061)に記載の方法との比較と、風味官能試験(その1)
WO07/060247には、夾雑するアリールスルファターゼが19単位(WO07/060247において規定された単位)以下のラクターゼ製剤は、牛乳の滅菌後に乳糖を分解させるために添加された場合に異臭を生じさせない旨が記載されている。しかし、これは、ラクターゼの反応日数を2日間と限定して行った試験の結果に基づく見解である。一方、現実のロングライフミルクにラクターゼ製剤を添加した場合、1ヶ月以上の長期にわたって酵素反応が進行すると考えられる。そこで、様々な夾雑率でアリールスルファターゼを含有するラクターゼ製剤を調製し、それらを牛乳に添加し、所定の日数経過後に風味の確認を行った。
【0100】
(様々なアリールスルファターゼ夾雑率のラクターゼ製剤の調製)
様々な夾雑率のアリールスルファターゼを含有するラクターゼ製剤A乃至Eは、実施例7で調製した精製ラクターゼ製剤と、選択されたアリールスルファターゼ活性を100単位(WO07/060247に記載の単位)含むGODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を適宜混合して調製した。
【0101】
調製されたラクターゼ製剤A〜Eのアリールスルファターゼ活性を、WO07/060247に記載の方法と、上記実施例7に示した蛍光法で測定した。また、ラクターゼ活性をFCC IV法で測定した。結果を表7に示す。ここで、WO07/060247に記載の単位とは、△OD
410×10
6/時間/NLUのことである。
【0102】
【表7】
【0103】
(風味官能試験)
WO07/060247の実施例4を参照し、市販牛乳(加熱殺菌したもの;殺菌条件:130℃ 2秒)に、ラクターゼが20,000NLU/L−牛乳となるように、ラクターゼ製剤A〜Eの各々を加え、30℃に保存した。保存2日後、1ヶ月後及び3ヶ月後に、ラクターゼ製剤を添加していない牛乳とラクターゼ製剤を添加した牛乳の風味官能試験を行った。
【0104】
風味官能試験は、盲検試験で実施した。11〜13人のパネラーが、一定期間保存後の牛乳の臭いを嗅ぎ、さらには口に含み、違和感のある臭いの有無を判断した。臭いを感じないものを0点(−)、感じるものを1点(+)、強く感じるものを2点(++)として採点して評価を行った。まとめた結果を表8に示す。
【0105】
【表8】
【0106】
ラクターゼ製剤による反応期間(即ち、牛乳の保存期間)2日間では、製剤Eのみが明確な異臭を示した。これはWO07/060247の記載と一致した。しかしながら、反応期間が1ヶ月以上となると、製剤C及びDにおいても異臭が感知された。このことは、ラクターゼ製剤のロングライフミルク等における使用を考えた場合、アリールスルファターゼ活性をWO07/060247に記載の単位で検出限界の8単位としても、十分に異味、異臭をコントロールできないことを示すものである。
【0107】
一方、製剤A及びBでは、反応期間が1ヶ月でも3ヶ月でも異臭は感知されなかった。ラクターゼ製剤のロングライフミルクへの使用を考えた場合、1ヶ月以上の反応期間を想定する必要がある。よって、そのような用途では、ラクターゼ製剤A又はB(すなわち、本発明の方法によるアリールスルファターゼ活性/FCC IV法によるラクターゼ活性が0.02%以下のもの)を使用することが好ましく、ラクターゼ製剤Aの使用がさらに好ましいことが明らかとなった。また、ラクターゼ製剤AやBと同程度のアリールスルファターゼ活性値は、本明細書に記載した蛍光分析法又はそれと同等以上の感度を示す分析法で測定することが必要であることも明らかとなった。
【0108】
[実施例9]アリールスルファターゼ産生能が低減された変異株の取得
二倍体菌株であるクリベロマイセス・ラクティスG14−427株を、YPD培地(1%酵母エキス、1%グルコース、2%ペプトン)10mLに、1白金耳植菌し、この菌懸濁液を30℃に保存して培養し、対数増殖期となったらその培地を遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体を、600nmにおける吸光度が0.5となるように滅菌水に分散させた。この菌懸濁液に、紫外線を、UVランプにて15秒間照射した。遠心分離によって菌体を回収し、YPD培地に混合分散させた。菌体を含むYPD培地から適量を採り、YPD寒天平板培地に塗布した。37℃にて7日間、静置培養を行った。生育してきたコロニーを少量かきとり、これをザイモリエース(生化学バイオビジネス株式会社製)を1mg/mLで含有する溶液1mLに混合した。30℃にて2時間反応させ、細胞壁を破壊した。その後、遠心分離を行い、上清を回収した。
【0109】
上清のラクターゼ活性(FCC IV法)及びアリールスルファターゼ活性(実施例7に記載の蛍光法による)を測定した。アリールスルファターゼ活性/ラクターゼ活性を算出し、その値が小さいもの選択した。
【0110】
選択された株について、上記の変異処理と選別を繰り返すことにより、二倍体菌株であるクリベロマイセス・ラクティスG14−427株に存在する二つのアリールスルファターゼ遺伝子の中の一つが機能不全となった変異株を取得することができた(SM1182株)。なお、「二つのアリールスルファターゼ遺伝子の中の一つが機能不全となった」との判断は、SM1182株の培養上清のアリールスルファターゼ活性値が、親株であるG14−427株の培養上清のアリールスルファターゼ活性値の約1/2であったことによる。
【0111】
さらに、得られた変異株(SM1182株)を親株として変異処理を行い、もう一方のアリールスルファターゼ遺伝子についても機能不全となった、すなわちアリールスルファターゼ活性が0の変異株を取得した(SF−81株)。
【0112】
親株であるクリベロマイセス・ラクティスG14−427株と、上記のようにして得られた変異株2種を、それぞれ、YPD培地(70mL/フラスコ)にて、26℃で4日間振とう培養した。
【0113】
その後、培養液に2mg/mLとなるようザイモリエース(生化学バイオビジネス株式会社製)を加え、30℃にて2時間反応させ、細胞壁を破壊した。遠心分離により上清を回収し、FCC IV法によりラクターゼ活性を、また、実施例7に記載の方法でアリールスルファターゼ活性を測定した。結果を表9に示す。
【0114】
【表9】
【0115】
[実施例10]宿主株の取得
二倍体菌株であるクリベロマイセス・ラクティスG14−427株を、YPD培地10mLに、1白金耳植菌し、30℃にて対数増殖期まで生育させた。培地を遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体を、600nmにおける吸光度が0.5となるように滅菌水に分散させた。この菌懸濁液に、紫外線を、UVランプにて15秒間照射した。遠心分離によって菌体を回収し、YPD培地に混合分散させた。菌体を含むYPD培地から適量を採り、YPD寒天平板培地に塗布した。37℃にて4日間、静置培養を行った。生育してきたコロニーをSD培地(0.67%アミノ酸を含まないイーストナイトロジェンベース、2%グルコース、2%寒天)にレプリカし、生育してこないものを選択した。
【0116】
これらのSD培地では生育しない株を、もとのYPD寒天平板培地より20mg/L L−メチオニンを含むSD培地に塗布し、生育してくるものをL−メチオニン要求株(7−19株)とした。
【0117】
7−19株を、YPD培地10mLに、1白金耳植菌し、30℃にて対数増殖期まで生育させた。培地を遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体を、600nmにおける吸光度が0.5となるように滅菌水に分散させた。この菌懸濁液に、紫外線を、UVランプにて15秒間照射した。遠心分離によって菌体を回収し、YPD培地に混合分散させた。菌体を含むYPD培地から適量を採り、YPD寒天平板培地に塗布した。37℃にて4日間、静置培養を行った。生育してきたコロニーを20mg/L L−メチオニンを含むSD培地にレプリカし、生育してこないものを選択した。
【0118】
これらのL−メチオニンを含むSD培地で生育しない株を、もとのYPD寒天平板培地より、20mg/L L−ヒスチジン及び20mg/L L−メチオニンを含むSD培地に塗布し、生育してくるものをL−メチオニン、L−ヒスチジン二重栄養要求株(8−23株)とした。取得された栄養要求変異株の生育について、表10に示す。
【0119】
【表10】
【0120】
[実施例11]アリールスルファターゼを産生しない遺伝子二重破壊株の取得
(宿主株の取得)
実施例10で取得したL−ヒスチジン、L−メチオニン二重栄養要求性変異株である8−23株について、それぞれの栄養要求性が、酢酸リチウム法にて導入したHIS4遺伝子及びMET6遺伝子により相補されることを確認した。
【0121】
(ゲノムDNAの取得)
二倍体菌株であるクリベロマイセス・ラクティスG14−427株をYPD培地にて培養した。得られた培養液より、Genとるくん
TM(酵母用)(タカラバイオ株式会社製)を用いてゲノムDNAを調製した。操作は、Genとるくん
TM(酵母用)の説明書の記載に従って行った。
【0122】
(アリールスルファターゼ遺伝子破壊ベクターの構築)
アリールスルファターゼ遺伝子のオープン・リーディング・フレームが含まれた断片が取得されるように、プライマーSuC−F及びSuC−Rを設計した。これらを含む、使用したプライマーの配列は、表11に示すとおりであった。
【0123】
【表11】
【0124】
先に調製したゲノムDNAを鋳型とし、上記プライマーを用いて次に示す条件によりPCRを行い、DNA断片を取得した。なお、ポリメラーゼとして、Takara Ex Taq(登録商標;タカラバイオ株式会社製)を用い、操作はその添付文書に従って行った。
【0125】
(PCR条件)
Stage1(1サイクル) 94℃ 3分
Stage2(30サイクル) 94℃ 1分
54℃ 1分
72℃ 3分
Stage3(1サイクル) 72℃ 10分
4℃に保持
【0126】
得られた断片をMagExtractor
TM−PCR&Gel Clean up−(東洋紡株式会社製)にて精製し、その後pGEM(登録商標)−Tベクター(Promega社製)とライゲーション反応を行わせた。ライゲーション反応には、DNA Ligation Kit<Mighty Mix>(タカラバイオ株式会社製)を用いた。使用法はそれぞれの添付文書に従った。その後、ハナハン法(Hanahan,D.,J.Mol.Biol.,166,557(1983))にて調製したE.ColiDH5α株のコンピテントセルを形質転換し、得られた形質転換体の培養液より、MagExtractor
TM−Plasmid−(東洋紡株式会社製)を用いてプラスミドを抽出した。使用法は添付文書に従った。その結果、目的の断片がサブクローニングされたプラスミドpGSuCが得られた。
【0127】
さらに、プライマーBGLHIS4−F及びHIS4−Rを用い、ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、HIS4遺伝子を含む断片を取得した。PCR反応については、前述の方法に従った。
図3に示すように、得られたHIS4遺伝子を含む断片をBgl II及びEcoRIにて処理し、pGSuCのBgl II−EcoRIサイトに挿入した。このようにして構築したプラスミドを、pdSuC1と名付けた。構築時の各種方法は、前述の方法と同様であった。
【0128】
また、MET6遺伝子をマーカーとしたアリールスルファターゼ遺伝子破壊ベクターを構築するために、5’側にアリールスルファターゼ遺伝子の相同配列を40塩基付加したプライマーSuCd−M6F及びSuCd−M6Rを設計した。アリールスルファターゼ遺伝子の相同配列は、オープン・リーディング・フレーム上に2ヶ所存在する制限酵素ClaI部位付近とした。
図4に示すように、これらのプライマーを用い、ゲノムDNAを鋳型として、MET6遺伝子の両端にアリールスルファターゼの相同配列を持つ断片を取得した。得られた断片をpGEM(登録商標)−Tベクター(Promega社製)にサブクローニングし、pdSuCM6を得た。構築時の各種方法は、前述の方法と同様であった。
【0129】
(アリールスルファターゼ遺伝子破壊ベクターを用いたL−メチオニン、L−ヒスチジン二重栄養要求性8−23株の形質転換)
図5に、形質転換体構築の模式図を示す。プラスミドpdSuC1を、NcoI及びAatIIで処理して直鎖状にし、それを用いて8−23株を酢酸リチウム法により形質転換し、20μg/mlのメチオニンを添加したSD培地で生育する形質転換体SuCD株を取得した。
【0130】
次に、プラスミドpdSuCM6をClaIで処理して直鎖状にし、それを用いてSuCD株を酢酸リチウム法により形質転換し、SD培地で生育する形質転換体SuCDD5−2株を得た。
【0131】
(親株及び形質転換株のDNAのサザン・ブロッティング)
得られた形質転換体を、それぞれYPD培地にて培養し、その培養液よりGenとるくん
TM(酵母用)(タカラバイオ株式会社製)を用いてゲノムDNAを調製した。得られたゲノムDNAをBamHIで消化後、サザン解析を行った。プローブはアリールスルファターゼ遺伝子のAatII−EcoRI断片を用い、核酸の標識と検出には、AlkPhos Direct Labelling and Detection System with CDP−Star(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)を用い、使用法は添付文書に従った。
【0132】
サザン・ブロッティングの結果を
図6に示す。レーン1が親株G14−427株、レーン2が形質転換体SuCDD5−2株、レーン3が形質転換体SuCD株である。レーン3には、アリールスルファターゼ遺伝子とHIS4遺伝子を含む断片のバンド(12.1kb)とともに、レーン1と同じ位置(7.8kb)にもバンドが検出され、アリールスルファターゼ遺伝子の一方のみが破壊されていることが確認された。一方、レーン2では、7.8kbのバンドが5.3kbにシフトしており、アリールスルファターゼ遺伝子二重破壊株であることが確認された。
【0133】
(アリールスルファターゼ遺伝子二重破壊株のアリールスルファターゼ活性の検出)
親株である二倍体菌株のクリベロマイセス・ラクティスG14−427株及び上記のようにして構築したSuCDD5−2株を、それぞれYPD培地に接種し、30℃、210rpmにて72時間、振とう培養した。培養液に2mg/mlとなるようにザイモリエース(生化学バイオビジネス株式会社製)を加え、30℃に2時間反応させ、細胞壁を破壊した。遠心分離により上清を回収し、FCC IV法によってラクターゼ活性を、そして実施例7に記載の方法でアリールスルファターゼ活性を測定した。結果を表12に示す。
【0134】
SuCDD5−2株の培養液には、ラクターゼは含まれているが、アリールスルファターゼは含まれていないか、含まれていたとしてもその活性が蛍光法による測定において検出されないような微量であることが明らかとなった。即ち、SuCDD5−2株は、ラクターゼの生産性は維持しているが、アリールスルファターゼの生産性は0であるか又は殆どないことが確認された。
【0135】
【表12】
【0136】
[実施例12]SF−81株及びCBS2359株を用いた酵素製剤の調製
実施例9で得たSF−81株(アリールスルファターゼ産生能が低減された二倍体変異株)及びCBS2359(一倍体菌株)を、それぞれ、7%コーンスチーブリカー、2%乳糖を含有するラクターゼ生産用培地に接種し、30℃、210rpmにて96時間、振とう培養し、その後、遠心分離により菌体を回収した。菌体に滅菌精製水を加え、ガラスビーズと超音波により、回収菌体の細胞壁を破壊した。このようにして得られた菌体と精製水等を含む混合物を遠心分離にかけ、上清を回収した。得られた上清中のラクターゼ活性を、実施例7に記載の蛍光法で測定した。その結果、SF−81株の活性を100%として、CBS2359株の相対活性は2%であった。
【0137】
前記上清を硫安分画し、限外ろ過膜で濃縮した。その結果、SF−81株菌体からは、濃縮の程度により、ラクターゼ活性がそれぞれ、約1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000NLU/gのラクターゼ製剤が得られた。一方、同様の方法で濃縮を行ったが、CBS2359株からは、1,000NLU/g以上のラクターゼ活性を示す製剤は得られなかった。
【0138】
[実施例13] 酵素製剤の調製
SF−81株を、7%コーンスチーブリカー、2%乳糖を含有するラクターゼ生産用培地に接種し、30℃、210rpmにて96時間、振とう培養後、遠心分離により菌体を回収した。菌体に滅菌精製水を加え、ガラスビーズと超音波により、回収菌体の細胞壁を破壊し、遠心分離により上清を回収した。上清を硫安分画し、限外ろ過膜で濃縮することにより、ラクターゼ活性が約5,000NLU/gのラクターゼ製剤を得た。このラクターゼ製剤のアリールスルファターゼ活性は、本発明の測定法(蛍光法)によると、1U/g以下であった。
【0139】
[実施例14]風味官能試験(その2)
(様々なアリールスルファターゼ夾雑率のラクターゼ製剤の調製)
実施例13に記載の方法でSF−81株から製造したラクターゼ製剤そのもの、及びこれにGODO−YNL2(合同酒精株式会社製ラクターゼ製剤;液体)を適宜混合して、実施例7に示した蛍光法で測定したアリールスルファターゼ活性が1乃至20U/gのラクターゼ製剤5種を調製した。また、各ラクターゼ製剤のラクターゼ活性を、FCC IV法によって測定した。
【0140】
(風味官能試験)
実施例8同様、市販牛乳に、ラクターゼが20,000NLU/L−牛乳となるように、上記ラクターゼ製剤5種の各々を加え、30℃に保存した。保存1ヶ月後に、ラクターゼ製剤を添加していない牛乳とラクターゼ製剤を添加した牛乳を比較する風味官能試験を、実施例8と同様の方法で行った。結果を表13に示す。
【0141】
【表13】
【0142】
表13に示された結果より、本発明に係る方法で測定したアリールスルファターゼ活性は、5U/g以下であることが好ましいことがわかった。また、FCC IV法によるラクターゼ活性(単位:NLU/g)を基準として、本発明に係る方法で測定したアリールスルファターゼ活性(単位:U/g)の割合は、0.1%以下であることが好ましいことも明らかとなった。