特許第6013386号(P6013386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6013386複合材料及びその製造方法、医療用インプラント及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013386
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】複合材料及びその製造方法、医療用インプラント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/00 20060101AFI20161011BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20161011BHJP
   A61L 31/00 20060101ALI20161011BHJP
   A61L 17/00 20060101ALI20161011BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20161011BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20161011BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C22C23/00
   A61L27/00 L
   A61L31/00 B
   A61L17/00
   C22C1/04 C
   B22F3/24 F
   B22F3/24 G
   B01J23/42 M
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-46746(P2014-46746)
(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公開番号】特開2014-177699(P2014-177699A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2014年3月10日
(31)【優先権主張番号】13/829,033
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】315010190
【氏名又は名称】セント ジュード メディカル コーディネイション センター ベーファウベーアー
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ オルンバーグ
(72)【発明者】
【氏名】アンナ ノーリン―ワイセンリーダー
(72)【発明者】
【氏名】ジョナス ワイセンリーダー
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 カナダ国特許出願公開第02817450(CA,A1)
【文献】 国際公開第2007/058276(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0269673(US,A1)
【文献】 特表2009−535504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00−23/06
A61L 27/00
C22C 1/04
B01J 23/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH11.5未満の水溶液環境で分解するように構成された、マグネシウム又はマグネシウム合金のマトリックスと、
前記マトリックスに分散した触媒を含む複合材料であって、
前記触媒は、プラチナ(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、又はそれらの混合物であり、
前記複合材料の0.001〜1重量%が前記触媒からなり、
前記触媒は、前記マグネシウム又はマグネシウム合金のマトリックスの全体に分散し、前記マトリックスの分解中に前記マトリックスから放出される水素ガスの量を減少させることができることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記触媒は、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、バナジウム(V)系酸化物、ニッケル系(Ni)酸化物、又はそれらの混合物を更に含む請求項記載の複合材料。
【請求項3】
前記触媒は、活性触媒が常に前記マトリックスの表面上に存在するように、前記マトリックスの全体に分散している請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の複合材料を含む医療用インプラント。
【請求項5】
前記医療用インプラントは、冠動脈ステント、縫合材、血管閉鎖装置、ペースメーカ又は神経刺激器の仮取付用装置、整形外科インプラント、血管外閉鎖装置及びクリップからなる群から選択される請求項記載の医療用インプラント。
【請求項6】
前記マトリックスと前記触媒の混合物を焼結することにより、前記触媒を前記マトリックスに分散させることを含む請求項1〜のいずれか1項に記載の前記複合材料製造する方法。
【請求項7】
前記医療用インプラントを直接所望の形状で焼結する、又は、前記医療用インプラントを基本形状で焼結した後に最終形状に再成形する請求項に記載の前記医療用インプラント製造する方法。
【請求項8】
前記再成形は、研削及び圧延のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項記載の前記医療用インプラント製造する方法。
【請求項9】
医療用インプラントのpH11.5未満の水溶液環境で分解するように構成されたマトリックスからの水素ガス放出を減少させる方法であって、請求項1〜のいずれか1項に記載の前記複合材料から前記医療用インプラントを形成することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、触媒を含むマグネシウム系複合材料に関し、更に、前記複合材料を含む生物分解可能な医療用インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
生物分解可能な一時的なインプラントは、目的を果たした後に再度外科的処置により除去する必要がないという利点があり、患者にとって便利であると共により経済的である。通常、生分解性ポリマは移植目的で使用される。この種のポリマは、分解率と生体適合性に関しては望ましい特性を示すが、必要な機械的安定性を欠くことが多く、金属系生分解性インプラントのほうがポリマよりも適切な機械的特性を発揮することが知られている。例えば、マグネシウム(Mg)及びマグネシウム系合金は、生分解性インプラント材料の分野で関心を集める材料となっている。
【0003】
一般に、マグネシウムとその合金には、生分解性材料としての大きな可能性がある。マグネシウムが人体にとって必須元素だからである。Mgは、水溶液中で分解するとともに、分解性ポリマ材料よりも機械的に安定した構造のインプラントを提供するとされる(非特許文献1「Hanzi他著、Acta Biomaterialia、2009年、5:162-171」参照)。Mg、Mg系合金及び関連する工程について、この刊行物は参照により、その内容全体が本明細書に組み込まれる。Mg及びその合金は、生分解性整形外科インプラントに既に用いられ、冠動脈ステントやその他の血管機器への応用に関する研究が現在行われている。純マグネシウムの機械的特性及び腐食特性は、ステント材料の要件を満たさないと考えられてきた。しかし、マグネシウム合金は、生分解性インプラント材料として有望とみられる(非特許文献2「Mani他著、Biomaterials、2007年、28: 1689-1710」参照)。Mg、Mg系合金及び関連する工程について、この刊行物は参照により、その内容全体が本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/010279A1明細書
【特許文献2】米国特許第6,090,130号明細書
【特許文献3】米国特許第6,508,828号明細書
【特許文献4】米国特許第7,931,670号明細書
【特許文献5】米国特許第7,250,057号明細書
【特許文献6】米国特許第7,713,283号明細書
【特許文献7】米国特許第7,988,706号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hanzi他著、Acta Biomaterialia、2009年、5:162-171
【非特許文献2】Mani他著、Biomaterials、2007年、28:1689-1710
【非特許文献3】Staiger他著、Biomaterials、2006年、27:1728-1734
【非特許文献4】Guangling Song著、Corrosion Science、2007年、49:1696-1701
【非特許文献5】Wang他著、Advanced Materials Research、2008年、32:207-210
【非特許文献6】Bruno Zberg他著、Nature Materials、2009年、8:887-891
【非特許文献7】J.Zhang著、「PEM Fuel Cell Electrocatalysts and Catalyst Layers」、Fundamentals and Applications、2008年、Springer Verlag London Limited、第3章の3
【非特許文献8】Bitter他著、Catalysis Today、29(1996)、349-353
【非特許文献9】Thompson他著、Journal of Electroanalytical Chemistry、515(2001) 61-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マグネシウム及びその合金は、自然反応による体内での分解に関して、大きな欠点がある。11.5未満のpH値の水溶液中でのマグネシウムの分解は(通常、体内のpHは11.5未満である)、以下の電気化学反応に示すように、水酸化物イオンと気体水素の生成を伴う。
Mg+2HO→Mg2++2OH+H
このメカニズムは、酸素濃度とはおよそ無関係である。生体内においては、pH値の局所的増加に伴い、水素イオンが細胞組織に害を及ぼすことがあり、また、水素ガス生成によってインプラント周辺に気孔が形成されるため、周囲組織が損傷したり、血液中に気泡が形成されたりすることから、患者にとって危険である。
【0007】
マグネシウム・インプラントからの水素放出に付随する問題を解決する従来の方法は、分解率を徐々に低下させ、水素ガス及び水酸化物イオンの放出率を下げる工程からなる。これは、合金化や、化成皮膜処理を含む微細構造又は表面の改質など、様々な方法で材料の耐腐食性を強化することにより一般的に行われる(非特許文献3「Staiger他著、Biomaterials、2006年、27:1728-1734」、非特許文献4「Guangling Song著、Corrosion Science、2007年、49:1696-1701」、非特許文献5「Wang他著、Advanced Materials Research、2008年、32:207-210」参照)。
【0008】
金属面を他の材料で被覆することで金属インプラントのバルク特性を妨げることなく表面特性を変えることは、細胞組織や血液に対する金属ステントの親和性に関する問題に対処する1つの合理的な方法とされてきた。被覆することにより、表面特性を著しく改善し、表面エネルギーを減少させ、表面組織を滑らかにし、表面電位を中性化し、表面酸化物層の安定性を高めることができる。医療用インプラントの表面処理に適切と思われる無機塗料は多い。例えば、金や酸化イリジウムは、ステント用無機塗料として用いられてきたが(非特許文献2「Mani他著、Biomaterials、2007年、28:1689-1710」参照)、マグネシウム系インプラントには用いられない。
【0009】
上述のいずれの方法も、インプラント中に存在するマグネシウムの分解中に放出される水素の総量を減少させるものではない。これらの方法は、分解率が低くなった結果として放出率を下げているにすぎない。
【0010】
水素放出に対処する別の方策は、マグネシウム系ガラス状合金の開発である。この材料は、元素合金化のための溶解度が高く、また、腐食挙動の変化と水素放出の減少に導くことができる均一な単相構造を有する(非特許文献6「Bruno Zberg他著、Nature Materials、2009年、8:887-891」参照)。ガラス状合金は、非晶質構造を得るために極めて急速に材料を冷却しなければならないことから、多くの場合、その大量生産は難しくコストが高い。特に厚い材料の製造は厚さが増すにつれ難しくなり、材料全体において適切な冷却速度を保つことが更に困難となる。ガラス状合金の別の欠点は、レーザ切断、焼なまし及び成形のような、材料の結晶化を誘起しうる加工を施す際に、その非晶質構造を維持することが困難となり得る点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、触媒領域及び/又は触媒処理した表面を備え、人体内での水素ガス発生/放出を減少させるマグネシウム又はマグネシウム系合金の使用を開示する。
【0012】
マグネシウム及びマグネシウム合金を効果的に臨床現場に導入するためには、その水素放出率だけでなく、インプラントから放出される水素の総量を減少させることが不可欠である。本開示は、減少した水素ガス放出量に示されるように、従来のマグネシウム系材料よりも分解性が改善されたインプラント材料を提供することにより、上記の課題を解決し、又は、少なくとも軽減する。
【0013】
本開示は、冠動脈ステント、クリップ及び縫合材、血管閉鎖装置及びペースメーカ/神経刺激器の仮取付手段及び整形外科インプラントなど、多種多様な医療用途に使用できる材料技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
添付の図面は、本開示の様々な実施形態を例示するものであり、明細書の一部を構成するものである。図示の実施形態は、単に本開示の実施例であり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0015】
図1図1は、マグネシウム又はマグネシウム合金の分解の際の水素の触媒転換の概略図である
図2図2は、本発明の一実施形態に係る複合材料の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、触媒領域及び/又は触媒処理した表面を備え、水素放出に関わる交換電流量の低減、水素及び/又は水素ガスの局所的かつ一時的な吸着、及び、水素から水又は別の合成物への触媒転換(酸化)のうち1つ又は複数のメカニズムにより、水素ガス発生/放出を減少させるマグネシウム又はマグネシウム系合金の使用を開示する。
【0017】
水素を触媒転換し、人体への水素放出総量を減少させるメカニズムは、以下のように要約される。
第1段階:Mg又はMg合金の分解により、水素ガスが生成される。
第2段階:水素が、触媒部位に接触する。例えば、(これに限定されないが)吸着及び化学吸着などの1つ以上の異なる方法により容易に接触させることができる。水素は、まず触媒部位又は触媒部位付近の部位に吸着され、その後脱離し、そして触媒部位と接触する。
第3段階:水素は、触媒部位で触媒によって酸化し、水(又は別の合成物)となる。
【0018】
図1はこの過程を示し、マグネシウム又はマグネシウム合金から形成されたマトリックス(母材)1が図示されている。マトリックス1の表面では、水溶液(患者の体内の組織及び/又は血液及び/又はその他の流体に見られるような)中で、上述した電気化学反応が起こる。
Mg+2HO→Mg2++2OH+H
水分子2(水素原子を表す小さい黒丸と酸素原子を表す大きい白丸)の存在下で、マトリックス1中のマグネシウムが分解し、マグネシウムイオン3(大きい黒丸で表される)となる。この反応で、水酸化物イオン4と気体水素5も生成される。マトリックス1中に分散した触媒6(大きい白丸で表される)の存在下で、気体水素5は水分子に触媒的に変換される。
【0019】
本開示の一態様において提供される複合材料は、
マグネシウム又はマグネシウム合金のマトリックスと、
マトリックスに分散した触媒を含み、
触媒は、マトリックスの分解中にそのマトリックスから放出される水素ガスの量を減少させることができる。
【0020】
本明細書で用いられる「マトリックス中」という用語には、触媒がマトリックスの表面上に位置する状態、触媒がマトリックスの表面より下方に位置する状態、及び、触媒がマトリックスの表面上と表面より下方の両方に位置する状態も含まれる。本開示の一実施形態において、触媒システムは金属バルク(マグネシウム又はマグネシウム合金)中及び/又は金属バルクの表面に取り込まれ、水素ガスの酸化及びそれ以降に起こりうる反応物の反応を促進するものであり、そして、この反応触媒は、プラチナ(Pt)又は白金族金属であるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)及びイリジウム(Ir)のうちの1つ又はそれらの混合物を含む。触媒又は触媒の混合物は、カーボンブラックなどの別の材料上に担持することができる。これにより、水素ガスは、水、又は水素イオンや水酸基イオンなどの別の合成物に触媒的に変換される。
【0021】
別の実施形態において、触媒は、バナジウム(V)又はニッケル(Ni)系酸化物、W系炭化物又はそれらの混合物などの金属酸化物及び/又は炭化物を含む。
【0022】
更に別の実施形態において、触媒は、水素吸着の親和性が高く、水素放出の反応速度を遅くする化合物、例えば、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)又はタングステン(W)、又はそれらの混合物を含む。これらの材料は、水素の局所的かつ一時的保管場所として機能する。その後、水素は吸着部位から離脱し、吸着部位と同じ表面又は材料上の他の場所に位置する触媒部位で触媒的に変換される。水素酸化反応は、通常、プラチナ(Pt)又は他の白金族金属(Pt、Ru、Pd、Ir及びRh)又はその混合物の触媒作用により起こる。触媒は、例えば、カーボンブラック上に担持することができる。また、Ptを、他の元素(例えば、Sn、Mo、Ni、Fe、Ag、W、Os、Co、Mn及びそれらの酸化物及び炭化物を含むがこれに限定されない)と合金化又は混合してもよく、二官能性効果、配位子(電子的)効果及びアンサンブル(形態学的)効果などの様々な効果により触媒活性を向上させることができる。別の材料及び技術が、非特許文献7(J.Zhang著、「PEM Fuel Cell Electrocatalysts and Catalyst Layers」、Fundamentals and Applications、2008年、Springer Verlag London Limited、第3章の3)に記載され、材料及び技術については参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0023】
図2は本開示に係る複合材料を示し、マグネシウム又はマグネシウム合金から形成されたマトリックス1と、マトリックス1全体に分散した触媒6が図示されている。触媒6は、上述のように、1種類の触媒性化合物又は異なる複数の触媒性化合物の混合物を含み、マトリックス1中に分散させる量は変えてもよい。マトリックス1中の触媒6は、均一に分布していても不均一に分布していてもよい。触媒の量及び分布パターンは、一定量の活性触媒が常に複合材料の表面上に存在するように選択される。複合材料の0.001〜1重量%が触媒からなる。
【0024】
触媒は、触媒粉末をMg(又はMg合金)粉末に混合した後に焼結して材料にする、又は、触媒の塩をMg(又はMg合金)粉末に混合した後に焼結する、又は、触媒を含む溶液(水性又は非水性)をMg(又はMg合金)粉末に分散させた後に焼結するなどの幾つかの工程により、材料に組み込ませる又は分散させることができる。あるいは、触媒は、溶融Mg(又はMg合金)に組み込ませることができ、溶融液に対して溶解性がない場合は、混合及び/又は還流によって溶融液中に分散され、溶融液の冷却に応じた構造が保たれる。
【0025】
本開示の別の態様においては、上記に開示するように、複合材料からなる医療用インプラントを提供する。
【0026】
かかる医療用インプラントは、マグネシウム系材料による望ましい機械的及び腐食特性を維持しながら、水素放出の減少を達成することができる。また、異なる微量の化合物がマグネシウムの分解時間に影響を及ぼすことから、マグネシウム系材料に触媒を含有させることを、分解率を制御及び調整する手段とすることができる。例えば、ニッケルは水素の酸化において強力な触媒であると同時に、痕跡量レベルでもマグネシウムの分解率を大きく加速する。
【0027】
本開示の更に別の態様は、触媒を金属又は金属合金に組み込む方法に関し、金属又は金属合金の表面を触媒で被覆し、バルク又はマトリックス材料(Mg系)と1種類又は複数種類の触媒の混合物を焼結することを含む。焼結は、従来の焼結により、或いは、放電プラズマ焼結、液相焼結(焼結されるマトリックスより低い融点を有する材料の追加)及び通電活性化焼結のような別の形式の焼結により、粉末混合物に対して行うことができる。
【0028】
触媒(粉末状)は、機械的手段によりバルク粉末材料に直接混入することができる。触媒を堆積させる別の方法として、まず、液体(例えば、Pt塩(例えば、HPtCl・6HO又はHPt(SOOH)の水溶液、希酸又は有機溶媒)に触媒を溶かし、その後、電気化学的手段を用いて又は用いずに触媒をバルク粉末材料上に堆積させる。余分な溶媒は、蒸発により、また任意で加熱も行うことにより除去される。これは、例えば、Pt、Pd、Ruなどの場合のように、触媒材料が、(Mg)バルク材料よりよりも高い標準還元電位を有する(即ち、より不活性である)場合に適している(非特許文献8「Bitter他著、Catalysis Today、29(1996)、349-353」、非特許文献9「Thompson他著、Journal of Electroanalytical Chemistry、515(2001) 61-70」参照)。
【0029】
このように、触媒は、マグネシウム系マトリックスの全体に分散される。その結果、活性触媒が常に表面上にあり、マグネシウム系材料の分解が進行するに伴って生成される水素ガスを処理する準備が整っている。触媒は、材料の表面に現れた時にのみ活性化する。
【0030】
移植可能な構成部品は、直接所望の形状で焼結して製造する、或いは、基本形状で焼結した後に、例えば、研削、圧延又はその他の金属成形/加工方法により最終形状に再成形及び修正することができる。
【0031】
本開示の特定の応用は、糖尿病患者の体内での分解性の冠動脈(又はその他の血液接触)ステントの使用を含む。一般に、糖尿病患者は、急速な再狭窄(即ち、血管の再狭窄化)のリスクが高く、かかる患者の転帰を改善するため、分解性ステント技術(例えば、特許文献1:米国特許出願公開第2005/010279A1明細書参照)が提案されている。この刊行物は、記載された医療装置及び関連方法について、参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0032】
本開示の別の応用は、迅速かつ確実な閉鎖のための金属クリップ形状の血管外閉鎖装置である。金属クリップの技術は、機械的安定性が高く、分解可能かつ放射線不透過性であることから、有利である。金属クリップは、例えば、動脈穿刺を行う必要のある処置の後に血管内の穴を塞ぐために用いることができる。クリップが分解する前に患者に別の動脈穿刺を行う必要がある場合、処置を行う前にX線で容易に可視化することができ、残存するクリップを血管内に押し込むことを避けて血管の別の位置に穿刺することができる。X線可視化は、X線では見えない現今の分解性閉鎖装置では不可能である。
【0033】
本開示の別の応用は、迅速かつ確実な閉鎖のための金属部品の形態の血管閉鎖装置である。この血管閉鎖装置は、2つの分解可能な構成部品(一方又は両方が分解性金属から形成される)で構成し、一方を血管内部に、もう一方を血管外に位置させることができる。そして、2つの構成部品を結合し(例えば、縫合により)、血管内の穴を機械的に塞ぐことにより止血を行う。既存の血管機器は分解性ポリマを使用しているが、分解性金属部品の方がより適切な機械的特性を有し、放射線不透過性であることから、有利である。かかる閉鎖装置の例が、特許文献2:米国特許第6,090,130号明細書、特許文献3:米国特許第6,508,828号明細書、特許文献4:米国特許第7,931,670号明細書、特許文献5:米国特許第7,250,057号明細書、特許文献6:米国特許第7,713,283号明細書及び特許文献7:米国特許第7,988,706号明細書に詳細に記載される。これらの特許に記載された装置、構成部品、材料及び工程について、参照することによりその内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0034】
本発明は、本明細書において記載されるように、pH11.5未満の水溶液環境でマトリックスが分解する際にマトリックスから放出される水素ガスを減少させるために複合材料を用いることも含む。
【0035】
本開示は、上記の好適な実施形態に限定されない。様々な代替、変形及び均等物を用いることができる。従って、上記の実施形態が、添付の請求項に規定する発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
【符号の説明】
【0036】
1 マトリックス(母材)
2 水分子
3 マグネシウムイオン
4 水酸化物イオン
5 気体水素
6 触媒
図1
図2