特許第6013434号(P6013434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013434
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】摩擦伝動ベルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/06 20060101AFI20161011BHJP
   F16G 1/00 20060101ALI20161011BHJP
   F16G 1/08 20060101ALI20161011BHJP
   F16G 5/00 20060101ALI20161011BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20161011BHJP
   B29D 29/10 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   F16G5/06 D
   F16G1/00 F
   F16G1/08 D
   F16G5/00 F
   F16G5/00 D
   F16G1/00 D
   F16G5/20 A
   B29D29/10
【請求項の数】14
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-235672(P2014-235672)
(22)【出願日】2014年11月20日
(65)【公開番号】特開2015-127590(P2015-127590A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2015年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-247879(P2013-247879)
(32)【優先日】2013年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】光冨 学
(72)【発明者】
【氏名】竹原 剛
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 郭代
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5337795(JP,B2)
【文献】 特開2008−115974(JP,A)
【文献】 特開2010−053935(JP,A)
【文献】 特開昭52−031260(JP,A)
【文献】 特表2009−526954(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0763614(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 29/10
F16G 1/00
F16G 1/08
F16G 5/00
F16G 5/06
F16G 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦伝動面が経編布で被覆された摩擦伝動ベルトであって、前記経編布が、経編布を構成する糸の総量に対して吸水性糸を30質量%以上の割合で含み、かつ前記経編布のウェール方向がベルト長手方向と略平行である摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
経編布が、さらに非吸水性糸を含み、かつ吸水性糸と非吸水性糸との質量割合が、前者/後者=50/50〜90/10である請求項1記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項3】
非吸水性糸がポリエステル繊維及び/又はポリウレタン繊維を含む請求項2記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
経編布がシングルトリコット編布又はハーフトリコット編布である請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項5】
経編布が、引張試験において、幅5cm×長さ25cm寸法のテストピースに50Nの荷重を負荷したとき、コース方向で80%以上の伸びを有し、かつウェール方向で150N以上の破断強度を有する請求項1〜4のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項6】
経編布の密度が、ウェール方向で20〜60本/インチであり、コース方向で20〜60本/インチである請求項1〜5のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項7】
経編布の厚みが0.5〜1.0mmである請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項8】
経編布の単位質量当たりの体積が2.5cm/g以上である請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項9】
吸水性糸がセルロース系繊維を含む請求項1〜8のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項10】
経編布が界面活性剤を含む請求項1〜9のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項11】
界面活性剤が非イオン性界面活性剤である請求項10記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項12】
摩擦伝動ベルトが、ベルト背面を形成する伸張層と、この伸張層の一方の面に形成され、かつその側面でプーリと接して摩擦係合する圧縮層と、前記伸張層と前記圧縮層との間にベルト長手方向に沿って埋設される心線とを備えたVリブドベルトであり、前記圧縮層が摩擦伝動面を有し、この摩擦伝動面が経編布で被覆されている請求項1〜11のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項13】
圧縮層がゴムで形成され、かつ経編布で被覆された摩擦伝動面の表面にゴムが滲出していない請求項12記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項14】
経編布のウェール方向をベルト長手方向と略平行にして、ベルトの摩擦伝動面を経編布で被覆する被覆工程を含む請求項1〜13のいずれかに記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン補機駆動に用いられる摩擦伝動ベルト及びその製造方法に関し、詳しくは、プーリと接する摩擦伝動面が経編布(たて編布)で被覆されたVリブドベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム工業分野のなかでも、特に自動車用部品においては高機能、高性能化が望まれている。このような自動車用部品に用いられるゴム製品の一つとして摩擦伝動ベルトがあり、この摩擦伝動ベルトは、例えば、自動車のエアーコンプレッサーやオルタネータなどの補機駆動の動力伝達に広く用いられている。
【0003】
この種のベルトとしては、例えば、リブをベルト長手方向に沿って設けたVリブドベルトが知られている。そして、近年、このVリブドベルトとして、静粛性(乾燥時及び注水時の耐発音性)や耐久性(耐摩耗性)、特にこれら双方の性能を兼ね備えたVリブドベルトが求められている。さらに、水との濡れ性の低い摩擦伝動面とプーリとの間に水が浸入すると、ベルトとプーリとの間で水の浸入状態が不均一となり、スティック−スリップ音が生じやすいため、被水時の耐発音性の向上も求められている。
【0004】
このような要求に対して、摩擦伝動面を繊維で形成した布帛で被覆する手段が知られている。摩擦伝動面を布帛で被覆する手段は、リブ部を金型で成形するVリブドベルトでは、成形時に布帛を摩擦伝動面に同時に固着できるため好適である。前記布帛としては、織成した織布や、編成した編布が利用されるが、編布は、複数のリブ部で凹凸が形成された摩擦伝動面に容易に添わせることができる柔軟性を備えるとともに、ベルト本体の変形に追随して伸縮する伸縮性を容易に確保できる利点がある。
【0005】
特許4942767号公報(特許文献1)には、2種の異なった糸を含む経編布の層を有するVリブドベルトが開示されている。この経編布は、5%伸長時で5N/1000 dtexより高い率を有するフィラメントからなる第一の糸(例えばポリアミド)と、5%伸長時で2cN/1000dtexより低い率を有するフィラメントからなる第二の糸(例えばポリウレタン)とで構成され、前記第一の糸および前記第二の糸がそれぞれ、凝集した網状組織を形成し、前記糸が相互に撚り合わせられていないことを特徴とする。そのため、その伸長が編み布の構成に依存しない弾性を有する経編布によって、Vリブドベルトを良好に成形でき、長期の耐久性を向上させ、騒音の発生も抑制できることが記載されている。また、この文献には、経編布の編み方向をベルト方向に配置すると、糸の極めて短い部分だけがベルトの方向に延在し、経編布が動的に安定となること、外側に位置しているポリアミド繊維が網状組織を摩耗からよりよく保護することが記載されている。さらに、大量の水の影響下での騒音の発生を防止するために、経編布表面に綿などのフロック層を形成することが記載されている。
【0006】
しかし、このVリブドベルトでは、経編布を構成する糸が、ポリアミド又はポリエステルとポリウレタンとの組合せであり、吸水性が低いため、被水時に水膜を除去できず、発音する虞がある。また、ベルトの方向と経編布の編み方向との関係は記載されているが、具体的なデータは示されておらず、耐摩耗性の向上も、編布の外側(摩擦伝動面)に位置する強度や伸張性に優れたポリアミド繊維に拠る効果が大きいものと推定できる。さらに、編布表面にフロック層を形成すると、走行中にフロック層が脱落し易い。
【0007】
特許5337795号公報(特許文献2)には、第1実施形態として、所定の2方向に伸縮自在であり、かつセルロース系繊維を含む帆布でリブの表面を被覆したVリブドベルトが開示されている。この実施形態では、前記帆布として、2方向に良好な伸張性を示す横編み帆布を用いてもよいことが記載されている。さらに、この実施形態では、リブの表面を帆布で被覆しており、帆布がセルロース(コットン)を含むため、スリップや被水時の異音を抑制できることが記載されている。また、第2実施形態としては、リブ表面を覆う帆布からゴムを透過させて摩擦伝動面に露出させたVリブドベルトが開示されている。リブ表面へのゴムの透過量を制御することにより、リブ表面の特性(摩擦係数、耐摩耗性)を制御できると記載されている。
【0008】
しかし、第1実施形態のVリブドベルトは、セルロース(コットン)を多く含むので、ベルト表面の耐摩耗性が低下する。さらに、第2実施形態のVリブドベルトでは、リブゴム層がリブ表面に透過していると、帆布(横編布)が表面に露出する部分が少なくなっているため、乾燥状態での摩擦係数が高くなり、また、帆布がセルロース系繊維を含んで吸水性を示しても、ゴム層があるため摩擦伝動面全体で水膜を十分吸水できず、乾燥状態(DRY)と被水状態(WET)の箇所が混在し、両者の摩擦係数の差が大きくなって、発音する虞がある。また、第2実施形態では、帆布からゴムを透過させているが、第1実施形態でも、帆布の伸縮性を利用してリブ表面に追随させているため、部分的にゴムが帆布を透過して表面に露出し易い。
【0009】
特許5302074号公報(特許文献3)には、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%であるリブ側ニット補強布で被覆されたVリブドベルトが開示されている。このVリブドベルトは、前記ベルト本体のリブとリブ側ニット補強布との間にリブ表面ゴム層が設けられており、このリブ表面ゴム層がリブ側ニット補強布の編み目から一部浸みだしてプーリ接触表面に露出していることを特徴としており、耐熱性を損なうことなくプーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持することができ、ベルト走行時に優れた異音発生抑制効果を得ることが記載されている。また、この文献には、ニット補強布のベルト長手方向と幅方向の伸び率とを一定範囲に規定することにより、ニット補強布のリブ形状への追随性やゴムが滲出することによる摩擦係数の増大を制御できる旨が記載されている。
【0010】
しかし、このVリブドベルトは、プーリ接触部分(リブ表面)にゴム層が露出しているため、被水時に摩擦係数が大きく低下して、発音する虞がある。さらに、通常、ニット(編布)は、編み方向により伸張や強度が大きく異なるが、この文献では、ニット補強布の編み組織や、ニットの編み方向がベルト長手方向及び幅方向のいずれの方向に対応するか明確に記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許4942767号公報(特許請求の範囲、段落[0013][0014][0029][0046])
【特許文献2】特許5337795号公報(請求項1、段落[0050]〜[0057][0061]〜[0064])
【特許文献3】特許5302074号公報(請求項1、段落[0021][0034])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、静音性(静粛性又は耐発音性)及び耐摩耗性を向上できる摩擦伝動ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、高い耐摩耗性を有するとともに、被水時の静音性を向上できる摩擦伝動ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、走行劣化後でも静音性を維持できる摩擦伝動ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、生産性が高く、長期間に亘り、静音性及び耐摩耗性を向上できる摩擦伝動ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、摩擦伝動ベルトの摩擦伝動面を、ウェール方向をベルト長手方向と略平行にし、30質量%以上の割合で吸水性糸を含む経編布で被覆することにより、静音性(静粛性又は耐発音性)及び耐摩耗性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明の摩擦伝動ベルトは、摩擦伝動面が経編布で被覆された摩擦伝動ベルトであって、前記経編布が、経編布を構成する糸の総量に対して吸水性糸を30質量%以上の割合で含み、かつ前記経編布のウェール方向がベルト長手方向と略平行である。前記経編布は、さらに非吸水性糸を含み、かつ吸水性糸と非吸水性糸との質量割合は、前者/後者=50/50〜90/10程度であってもよい。前記非吸水性糸はポリエステル繊維及び/又はポリウレタン繊維を含んでいてもよい。前記経編布はシングルトリコット編布又はハーフトリコット編布であってもよい。前記経編布は、引張試験において、幅5cm×長さ25cm寸法のテストピースに50Nの荷重を負荷したとき、コース方向で80%以上の伸びを有し、かつウェール方向で150N以上の破断強度を有していてもよい。前記経編布の密度は、ウェール方向で20〜60本/インチ程度であり、コース方向で20〜60本/インチ程度であってもよい。前記経編布の厚みは0.5〜1.0mm程度であってもよい。前記経編布の単位質量当たりの体積は2.5cm/g以上であってもよい。前記吸水性糸はセルロース系繊維を含んでいてもよい。前記経編布は界面活性剤(特に非イオン性界面活性剤)を含んでいてもよい。本発明の摩擦伝動ベルトは、ベルト背面を形成する伸張層と、この伸張層の一方の面に形成され、かつその側面でプーリと接して摩擦係合する圧縮層と、前記伸張層と前記圧縮層との間にベルト長手方向に沿って埋設される心線とを備えたVリブドベルトであり、前記圧縮層が摩擦伝動面を有し、この摩擦伝動面が経編布で被覆されていてもよい。この摩擦伝動ベルトは、前記圧縮層がゴムで形成され、かつ経編布で被覆された摩擦伝動面の表面にゴムが滲出していないのが好ましい。
【0018】
本発明には、経編布のウェール方向をベルト長手方向と略平行にして、ベルトの摩擦伝動面を経編布で被覆する被覆工程を含む前記摩擦伝動ベルトの製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の摩擦伝動ベルトでは、摩擦伝動ベルトの摩擦伝動面が、ウェール方向をベルト長手方向と略平行にして、30質量%以上の割合で吸水性糸を含む経編布で被覆されているため、静音性(静粛性又は耐発音性)及び耐摩耗性を向上できる。また、経編布が吸水性糸を含むため、高い耐摩耗性を有するとともに、被水時の静音性を向上できる。そのため、通常走行時(DRY)と被水時(WET)での摩擦伝動面における摩擦係数の差を小さくして、静音性及び伝達性能を向上できる。すなわち、ウェール方向をベルト長手方向と略平行にして特定の経編布で被覆されているため、セルロース繊維などの耐摩耗性が低い吸水性糸を含むにも拘わらず、高い耐摩耗性を保持できる。また、耐摩耗性に優れるため、走行劣化後でも静音性を維持できる。さらに、本発明の摩擦伝動ベルトは、摩擦伝動面を形成するための切削工程が不要であるため、生産性が高い上に、長期間に亘り、静音性及び耐摩耗性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明のVリブドベルトの一例を示す概略断面図である。
図2図2は、実施例での摩擦係数の測定方法を説明するための概略図である。
図3図3は、実施例での摩擦係数(注水時)の測定方法を説明するための概略図である。
図4図4は、実施例でのミスアライメント発音評価試験を説明するための概略図である。
図5図5は、実施例での耐久性試験を説明するための概略図である。
図6図6は、実施例での接触角の測定方法を説明するための概略図である。
図7図7は、実施例での回転変動発音試験を説明するための概略図である。
図8図8は、実施例での摩耗試験を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[経編布]
本発明の摩擦伝動ベルトは、摩擦伝動面が経(たて)編布で被覆されている。経編布は、経(たて)方向にループ(編目)を編み上げて形成された布帛である。また、経編布は、通常、複数の糸で編まれており、糸は経方向に入り、経方向にループが連結されている。
【0022】
編布は、全体的な伸縮性に優れ、摩擦伝動面の輪郭(形状)に追随させ易いが、異方性も有しており、ウェール(編布の経方向の連なり)方向の強度が大きく、コース(編布の緯(よこ)方向の連なり)方向の伸縮性が大きい。このような編布の中でも、経編布は、緯(よこ)編布よりも編地が安定している。本発明では、このような経編布を、強度の大きいウェール方向をベルト長手方向と平行(略平行)にして摩擦伝動ベルトの摩擦伝動面に被覆するため、摩擦伝動ベルトの耐摩耗性を向上できる。これに対して、緯編布のウェール方向をベルト長手方向と平行にして摩擦伝動面に被覆しても、摩擦伝動ベルトの耐摩耗性を十分に向上できない。そのため、経編布で前述のように摩擦伝動面を被覆にすると、走行劣化後などの過酷な条件でも静音性を維持できる。摩擦伝動ベルトの耐摩耗性が向上するメカニズムは明確ではないが、編布のコース方向(ベルト幅方向)に亀裂が発生した場合、緯(よこ)編布よりも解けにくいため、亀裂が拡がり難いことが影響していると推定できる。
【0023】
なお、本明細書において、「経編布のウェール方向がベルト長手方向と略平行である」とは、経編布のウェール方向がベルト長手方向に対して、例えば、30°以内(特に10°以内)の角度で配置されることを意味する。
【0024】
経編布には、トリコット編、コード編、アトラス編、鎖編などの編組織で形成された経編布などが含まれ、具体的には、シングルデンビー(シングルトリコット)、シングルコード、ハーフトリコット、ダブルデンビー(プレーントリコット)、ダブルコード、サテントリコット、ダブルアトラス、ダブルトリコットなどが挙げられる。これらのうち、簡便な構造で編地密度が高く、耐摩耗性に優れる点から、シングルトリコット、ハーフトリコットが好ましい。さらに、経編布の嵩高性を向上でき、ゴムの滲出を抑制できる点からは、ハーフトリコット、ダブルテンビー、ダブルアトラス、ダブルコード、ダブルトリコットなどの多層編布(二重編布)が好ましく、ハーフトリコットが特に好ましい。
【0025】
経編布の目付(質量)は、例えば、100〜400g/m、好ましくは150〜350g/m、さらに好ましくは200〜300g/m(特に210〜280g/m)程度である。目付が小さすぎると、耐摩耗性が低下し易く、大きすぎると、ベルトの柔軟性が低下し易い。
【0026】
経編布の厚み(平均厚み)は、例えば、0.5〜1.0mm、好ましくは0.55〜0.95mm、さらに好ましくは0.6〜0.9mm(特に0.7〜0.8mm)程度である。厚みが小さすぎると、耐摩耗性が低下し易く、大きすぎると、ベルトの柔軟性が低下し易い。
【0027】
経編布は、JIS L1096(2010)に準拠した引張試験において、幅5cm×長さ25cm寸法のテストピースに50Nの荷重を負荷したとき、コース方向での伸びが80%以上であってもよく、例えば、80〜300%、好ましくは100〜250%、さらに好ましくは110〜200%(特に120〜180%)程度であってもよい。コース方向での伸びが小さすぎると、柔軟性が低下し、摩擦伝動面に追随させるのが困難となる。
【0028】
経編布は、前記引張試験において、幅5cm×長さ25cm寸法のテストピースに50Nの荷重を負荷したとき、ウェール方向での破断強度が150N以上であってもよく、例えば、150〜500N、好ましくは200〜450N、さらに好ましくは250〜400N(特に280〜350N)程度であってもよい。ウェール方向での破断強度が小さすぎると、摩擦伝動ベルトの耐摩耗性が低下する。
【0029】
経編布の密度は、ウェール方向において、例えば、20〜60本/インチ、好ましくは25〜55本/インチ、さらに好ましくは30〜50本/インチ(特に35〜45本/インチ)程度である。ウェール方向での密度が小さすぎると、耐摩耗性が低下し、ゴムの滲出量も増加する。一方、大きすぎると、柔軟性が低下する。
【0030】
経編布の密度は、コース方向において、例えば、20〜60本/インチ、好ましくは22〜55本/インチ、さらに好ましくは23〜50本/インチ(特に25〜45本/インチ)程度である。コース方向での密度が小さすぎると、耐摩耗性が低下し、ゴムの滲出量も増加する。一方、大きすぎると、柔軟性が低下する。
【0031】
なお、本明細書では、経編布の密度は、JIS L1096(2010)に準拠した方法において、任意の1インチ当たりの編目の数を5箇所で測定して平均することにより求めることができる。
【0032】
経編布は、嵩高いため、ゴムの滲出を抑制できる。経編布の嵩高性(単位質量当たりの体積)は、厚み及び目付に基づいて、下記式により算出できるが、経編布の嵩高性は、2.5cm/g以上であってもよく、例えば、2.6〜10cm/g、好ましくは2.7〜8cm/g、さらに好ましくは2.8〜5cm/g(特に3.0〜3.5cm/g)程度である。
【0033】
嵩高性=厚み(mm)/目付量(g/m)×1000。
【0034】
摩擦伝動面がゴムで形成されている場合、摩擦伝動面に前述した複数の特徴を有する経編布を被覆すると、摩擦伝動面の表面にゴムが滲出せず、経編布の被覆効果が有効に発現し、耐摩耗性を向上できる。
【0035】
(経編布の構成糸)
経編布は吸水性糸を含む。吸水性糸は、吸水性繊維を含んでいればよく、吸水性繊維単独で形成されていてもよく、吸水性繊維及び非吸水性繊維で形成されていてもよい。
【0036】
吸水性繊維としては、例えば、ビニルアルコール系繊維(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体の繊維、ビニロンなど)、セルロース系繊維[セルロース繊維(植物、動物又はバクテリアなどに由来するセルロース繊維)、セルロース誘導体の繊維]などが例示できる。セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ(針葉樹、広葉樹パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(綿繊維(コットンリンター)、カポックなど)、ジン皮繊維(麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然植物由来のセルロース繊維(パルプ繊維);ホヤセルロースなどの動物由来のセルロース繊維;バクテリアセルロース繊維;藻類のセルロースなどが例示できる。セルロース誘導体の繊維としては、例えば、セルロースエステル繊維;再生セルロース繊維(レーヨンなど)などが挙げられる。また、ポリアミド繊維(例えば、ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維などの脂肪族ポリアミド繊維など)や羊毛、絹を吸水性繊維として使用することもできる。
【0037】
吸水性繊維は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの吸水性繊維のうち、セルロース系繊維(綿繊維、麻、レーヨンなど)が好ましく、吸水性に優れる天然繊維である綿繊維が特に好ましい。
【0038】
非吸水性繊維としては、例えば、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、非吸水性ポリアミド繊維(アラミド繊維などの芳香族ポリアミド繊維)、ポリエステル繊維[例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのC2−4アルキレンC6−14アリレート系繊維など]、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維;炭素繊維などの無機繊維が例示できる。非吸水性繊維は、複合紡糸されたコンジュゲート繊維(複合繊維又はバイコンポーネント繊維)であってもよい。コンジュゲート繊維は、収縮率の異なる樹脂が層状に積層した構造を有し、加熱により捲縮(クリンプ)が顕在化する捲縮性繊維(嵩高繊維)であってもよい。
【0039】
非吸水性繊維は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの非吸水性繊維のうち、経編布に柔軟性を付与し、摩擦伝動面に対する追随性などを向上できる点から、伸縮性繊維[例えば、ポリウレタン繊維(又はポリウレタン弾性糸又はスパンデックス)、コンジュゲート繊維など]を含むのが好ましい。なお、伸縮性繊維(又は弾性糸)は、伸縮加工(例えば、ウーリー加工、捲縮加工など)により伸縮性を付与した繊維であってもよい。さらに、非吸水性繊維は、耐摩耗性を向上できる点から、PET繊維などのC2−4アルキレンC6−14アリレート系繊維を含むのも好ましい。
【0040】
吸水性糸は、吸水性繊維を含んでいればよく、単一の吸水性繊維で形成された非複合糸(紡績糸など)であってもよく、材質や形態の異なる複数の繊維を組み合わせた複合糸(混繊糸、交撚糸、カバーリング糸及び混紡糸など)、例えば、複数種の吸水性繊維で形成された複合糸や、吸水性繊維及び非吸水性繊維で形成された複合糸であってもよい。
【0041】
複合糸は、伸縮性を向上できる点から、非吸水性繊維を含むのが好ましく、鞘糸が吸水性繊維であり、かつ芯糸がポリウレタン繊維などの伸縮性繊維であるカバーリング糸であってもよい。
【0042】
経編布は、吸水性糸に加えて、非吸水性糸を含んでいてもよい。非吸水性糸としては、非吸水性繊維で形成されていればよく、単一の非吸水性繊維で形成された非複合糸(例えば、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸など)であってもよく、複数種の非吸水性繊維で形成された複合糸(混繊糸、交撚糸、カバーリング糸及び混紡糸など)であってもよい。
【0043】
非吸収性糸を構成する非吸収性繊維としては、前記吸水性糸の項で例示された非吸収性繊維を利用できる。前記非吸収性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記非吸収性繊維のうち、機械的強度や伸縮性などの点から、ポリエステル繊維及び/又はポリウレタン繊維を含むのが好ましい。
【0044】
これらの非吸水性糸のうち、伸縮性などの機械的特性の点から、マルチフィラメント糸、複合繊維を含む非複合糸(モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸)、複合糸が好ましい。マルチフィラメント糸は、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸などであってもよい。複合繊維を含むモノフィラメント糸は、複数種のポリエステル(例えば、PETとPTTと)を複合紡糸したポリエステル系コンジュゲート繊維で形成されていてもよい。複合糸は、芯糸及び/又は鞘糸が伸縮性繊維であるカバーリング糸(例えば、芯糸がポリウレタン繊維などの伸縮性繊維であり、鞘糸がPET繊維などのポリエステル繊維であるカバーリング糸など)、前記コンジュゲート繊維の複合糸などであってもよい。
【0045】
これらのうち、耐摩耗性を向上できる点から、ポリエステル繊維を含む非吸水性糸が好ましく、ゴムの滲出も抑制できる点から、ポリエステル系コンジュゲート繊維で形成された非複合糸又は複合糸(特に非複合糸)が特に好ましい。ポリエステル系コンジュゲート繊維は、複数のポリエステル樹脂が層状に形成された捲縮性繊維(嵩高繊維)であってもよく、例えば、略等量のPETとPTTとを層状に積層した構造を有する繊維であってもよい。ポリエステル系コンジュゲート繊維で形成された非複合糸は、複数本撚り合わせて使用されてもよい。
【0046】
吸水性糸及び非吸水性糸の繊度は、それぞれ、例えば、20〜600dtex、好ましくは50〜300dtex程度であってもよい。
【0047】
本発明では、被水時の静音性を向上させるため、吸水性糸の割合は、吸水性糸及び非吸水性糸の総量に対して(すなわち、経編布を構成する糸の総量に対して)30質量%以上(例えば30〜100質量%、好ましくは30〜99質量%)であり、詳しくは、両糸の質量割合は、吸水性糸/非吸水性糸=30/70〜99/1、好ましくは40/60〜95/5、さらに好ましくは50/50〜90/10(特に60/40〜80/20)程度であってもよい。吸水性糸の割合が少なすぎると、被水時の水吸収性が低下するため、被水時の静音性が低下する。
【0048】
(経編布の接着処理)
経編布には、必要に応じて、接着処理を施してもよい。接着処理により、摩擦伝動面(又は後述の圧縮層)に対する接着性だけでなく、耐摩耗性も向上できる。このような接着処理としては、例えば、接着性成分[例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物]を有機溶媒(トルエン、キシレン、メチルエチルケトン等)に溶解させた樹脂系処理液などへの浸漬処理、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)への浸漬処理、ゴム組成物を有機溶媒に溶かしたゴム糊への浸漬処理が挙げられる。この他の接着処理の方法として、例えば、経編布とゴム組成物とをカレンダーロールに通して経編布にゴム組成物を刷り込むフリクション処理、経編布にゴム糊を塗布するスプレディング処理、経編布にゴム組成物を積層するコーティング処理なども採用できる。
【0049】
(界面活性剤)
経編布は、界面活性剤を含んでいてもよく、含有形態は、特に限定されないが、経編布に界面活性剤が付着している場合が多い。本発明では、経編布に界面活性剤を含有させ、吸水性繊維と界面活性剤とを組合せることにより、界面活性剤が摩擦伝動面に付着した水滴の表面張力を小さくして水との濡れ性を高め、水が摩擦伝動面に濡れ広がって吸水性糸による吸水を効率よく行うことができる。そのため、被水時にプーリの回転数が変化する厳しい条件であっても、静音性を維持できる。
【0050】
界面活性剤としては、特に限定されず、慣用の界面活性剤、例えば、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などが使用できる。
【0051】
イオン性界面活性剤は、スルホン酸塩(アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩など)、硫酸塩(アルキル硫酸塩、ポリEOアルキルエーテル硫酸エステル塩など)、長鎖脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、リン酸エステル(脂肪族リン酸エステル型、芳香族リン酸エステル型、アルキルリン酸塩など)、スルホコハク酸エステル塩などのアニオン界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などのカチオン界面活性剤、アルキルベタイン、イミダゾリン誘導体などの両性界面活性剤などであってもよい。
【0052】
非イオン性活性剤は、例えば、ポリエチレングリコール型(ポリオキシエチレン型)非イオン性界面活性剤及び多価アルコール型非イオン性界面活性剤であってもよい。
【0053】
ポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤は、高級アルコール、アラルキルアルコール、アルキルフェノール、高級脂肪酸、多価アルコール高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、ポリプロピレングリコールなどの疎水基を有する疎水性ベース成分にエチレンオキシドが付加して親水基が付与された非イオン性界面活性剤である。
【0054】
疎水性ベース成分としての高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、オクタデシルアルコールなどのC10−30飽和アルコール(アルキルアルコール)、オレイルアルコールなどのC10−26不飽和アルコール(アルケニルアルコールなど)などが例示できる。アラルキルアルコールとしては、ベンジルアルコールなどが例示できる。アルキルフェノールとしては、オクチルフェノール、ノニルフェノールなどのC4−16アルキルフェノールなどが例示できる。
【0055】
疎水性ベース成分の高級脂肪酸としては、飽和脂肪酸[例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸などのC10−30飽和脂肪酸、好ましくはC12−28飽和脂肪酸、さらに好ましくはC14−26飽和脂肪酸、特にC16−22飽和脂肪酸など;ヒドロキシステアリン酸などのオキシカルボン酸など]、不飽和脂肪酸[例えば、オレイン酸、エルカ酸、エルシン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などのC10−30不飽和脂肪酸など]などが例示できる。これらの高級脂肪酸は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0056】
多価アルコール高級脂肪酸エステルは、多価アルコールと前記高級脂肪酸とのエステルであって、未反応のヒドロキシル基を有している。多価アルコールとしては、アルカンジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどのC2−10アルカンジオールなど)、アルカントリオール(グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなど)、アルカンテトラオール(ペンタエリスリトール、ジグリセリンなど)、アルカンヘキサオール(ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビットなど)、アルカンオクタオール(ショ糖など)、これらのアルキレンオキサイド付加体(C2−4アルキレンオキサイド付加体など)などが例示できる。
【0057】
以下に、「オキシエチレン」、「エチレンオキサイド」又は「エチレングリコール」を「EO」で表し、「オキシプロピレン」、「プロピレンオキサイド」又は「プロピレングリコール」を「PO」で表すと、ポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリEO高級アルコールエーテル(ポリEOラウリルエーテル、ポリEOステアリルエーテルなどのポリEOC10−26アルキルエーテル)、ポリEOポリPO高級アルコールエーテル(例えば、ポリEOポリPOC10−26アルキルエーテル);ポリEOオクチルフェニルエーテル、ポリEOノニルフェニルエーテルなどのアルキルフェノール−EO付加体;ポリEOモノラウレート、ポリEOモノオレエート、ポリEOモノステアレートなどの脂肪酸−EO付加体;グリセリンモノ又はジ高級脂肪酸エステル−EO付加体(グリセリンモノ又はジラウレート、グリセリンモノ又はジパルミテート、グリセリンモノ又はジステアレート、グリセリンモノ又はジオレートなどのグリセリンモノ又はジC10−26脂肪酸エステルのEO付加体)、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル−EO付加体(ペンタエリスリトールジステアレート−EO付加体などのペンタエリスリトールモノ乃至トリC10−26脂肪酸エステル−EO付加体など)、ジペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル−EO付加体、ソルビトール高級脂肪酸エステル−EO付加体、ソルビット高級脂肪酸エステル−EO付加体、ポリEOソルビタンモノラウレート、ポリEOソルビタンモノステアレート、ポリEOソルビタントリステアレートなどのソルビタン脂肪酸エステル−EO付加体、ショ糖高級脂肪酸エステル−EO付加体などの多価アルコール脂肪酸エステル−EO付加体;ポリEOラウリルアミノエーテル、ポリEOステアリルアミノエーテルなどの高級アルキルアミン−EO付加体;ポリEO椰子脂肪酸モノエタノールアマイド、ポリEOラウリン酸モノエタノールアマイド、ポリEOステアリン酸モノエタノールアマイド、ポリEOオレイン酸モノエタノールアマイドなどの脂肪酸アミド−EO付加体;ポリEOヒマシ油、ポリEO硬化ヒマシ油などの油脂−EO付加体;ポリPO−EO付加体(ポリEO−ポリPOブロック共重合体など)などが挙げられる。これらのポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0058】
多価アルコール型非イオン性界面活性剤は、前記多価アルコール(特に、グリセロール、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ショ糖、ソルビトールなどのアルカントリオール乃至アルカンヘキサオール)に高級脂肪酸などの疎水基が結合した非イオン性界面活性剤である。多価アルコール型非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエートなどのグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリストールモノステアレート、ペンタエリストールジ牛脂脂肪酸エステルなどのペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレートなどのソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトールモノステアレートなどのソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、椰子脂肪酸ジエタノールアマイドなどのアルカノールアミン類の脂肪酸アミド、アルキルポリグリコシドなどが挙げられる。これらの多価アルコール型非イオン性界面活性剤も単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、前記ポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤と組み合わせて使用してもよい。
【0059】
これらのうち、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、特に、ポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0060】
界面活性剤の割合は、吸水性糸100質量部に対して、例えば、0.3〜150質量部、好ましくは0.5〜100質量部、さらに好ましくは1〜50質量部程度である。
【0061】
経編布に界面活性剤を含有(又は付着)させる方法としては、特に限定されず、吸水性糸を含む経編布(又は吸水性糸)に、界面活性剤をスプレーする方法、界面活性剤をコーティングする方法、界面活性剤に浸漬する方法などが挙げられる。また、後述するベルトの製造方法において、内周面に複数のリブ型が刻設された筒状外型の表面に界面活性剤を塗布して、加硫成形することで、界面活性剤を繊維部材に含ませることもできる。これらのうち、簡便に、また、均一に界面活性剤を含有(又は付着)できるという観点から、界面活性剤に浸漬(浸漬処理)する方法が好ましい。
【0062】
このような方法において、界面活性剤は、必要に応じて、溶媒を含む形態(すなわち、界面活性剤を含む溶液の形態)で、含有させてもよい。このような溶媒としては、界面活性剤の種類などに応じて適宜選択でき、特に限定されず、水、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどの鎖状ケトン;シクロヘキサノンなどの環状ケトン)、エステル類(例えば、酢酸エチルなどの酢酸エステル)などの汎用の溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は混合溶媒としてもよい。
【0063】
界面活性剤を含む溶液において、界面活性剤の濃度は、例えば、0.1〜80質量%(例えば、0.2〜60質量%)、好ましくは0.3〜50質量%(例えば、0.4〜40質量%)、さらに好ましくは0.5〜30質量%程度であってもよく、特に1質量%以上[例えば、2〜50質量%(例えば、3〜40質量%)、好ましくは5〜30質量%(例えば、7〜25質量%)]であってもよい。
【0064】
浸漬処理における浸漬時間は、特に限定されず、例えば、1分以上(例えば、3分〜10時間)、好ましくは5分以上(例えば、8分〜6時間)、さらに好ましくは10分以上(例えば、15分〜3時間)程度であってもよい。また、浸漬温度(浸漬処理温度)は、特に限定されず、例えば、10〜60℃程度であってもよい。
【0065】
なお、浸漬処理後、必要に応じて、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、加温下[例えば、50℃以上(例えば、70〜200℃)、好ましくは100℃以上(例えば、120〜160℃)程度の加温下]で行ってもよい。また、乾燥時間は、特に限定されず、例えば、10分〜120分程度であってもよい。
【0066】
本発明の摩擦伝動ベルトは、摩擦伝動ベルトの摩擦伝動部の表面に水を滴下して5秒経過後の接触角(摩擦伝動部の表面と水との接触角)が55°以下、好ましくは50°以下、さらに好ましくは45°以下であってもよい。静粛性、特に、被水時における静粛性を向上させるために、界面活性剤を含有させることにより、前記接触角を20°以下(特に10°以下)に調整してもよい。
【0067】
[摩擦伝動ベルト]
本発明の摩擦伝動ベルトは、摩擦伝動面が前記経編布で被覆された摩擦伝動ベルトであればよく、通常、ベルト背面を形成する伸張層と、この伸張層の一方の面に形成され、かつその側面でプーリと接して摩擦係合する圧縮層と、前記伸張層と前記圧縮層との間にベルト長手方向に沿って埋設される心線とを備えた摩擦伝動ベルトであって、前記圧縮層のプーリと接する少なくとも一部の表面(摩擦伝動面)が、吸水性糸を含む前記経編布で被覆されている。
【0068】
本発明の摩擦伝動ベルトでは、心線と伸張層又は圧縮層との接着性を向上させるために、必要に応じて圧縮層と伸張層との間に接着層を設けてもよい。接着層を設ける形態としては、心線を埋設する形態であってもよく、圧縮層と接着層又は接着層と伸張層との間に心線を埋設する形態であってもよい。
【0069】
摩擦伝動ベルトとしては、例えば、Vリブドベルト、ローエッジVベルト、などの各種の摩擦伝動ベルトなどが挙げられる。これらのうち、研磨による生産工程が煩雑であるVリブドベルト、Vベルトが好ましく、被水による発音が問題となるVリブドベルトが特に好ましい。
【0070】
図1は本発明の摩擦伝動ベルト(Vリブドベルト)の一例を示す概略断面図である。このベルト1は、ベルト下面(内周面、腹面)からベルト上面(背面)に向かって順に、経編布(繊維部材)5、ゴム組成物で形成された圧縮層(圧縮ゴム層)2、心線3、カバー帆布(織物、編物、不織布など)で構成された伸張層4を積層した形態を有している。
【0071】
このベルト1において、心線3は、ベルト長手方向に沿って埋設されており、その一部が伸張層4に接するとともに、残部が圧縮層2に接している。
【0072】
また、圧縮層2には、ベルト長手方向に伸びる複数の断面V字状の溝が形成され、この溝の間には断面V字形(逆台形)の複数のリブ(図1に示す例では3個)が形成されおり、摩擦伝動部となるリブの二つの傾斜面(表面)が摩擦伝動面を形成し、プーリと接して動力を伝達(摩擦伝動)する。そして、リブの表面(摩擦伝動面)は、前記経編布5で被覆(カバー)されている。
【0073】
本発明の摩擦伝動ベルトはこの形態に限定されず、例えば、伸張層4をゴム組成物で形成してもよく、圧縮層2と伸張層4との間に接着層を設けるなどしてもよい。以下、ベルトを構成する各層の詳細を説明する。
【0074】
(圧縮層)
圧縮層は、通常、ゴム(又はゴム組成物)で形成してもよい。ゴム(ゴム組成物を構成するゴム)としては、公知のゴム成分及び/又はエラストマー、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)など)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのポリマー成分は単独又は組み合わせて使用することができる。これらのポリマー成分のうち、有害なハロゲンを含まず、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有し、経済性にも優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDMなど)などのエチレン−α−オレフィン系ゴム)が好ましい。
【0075】
なお、圧縮層全体(又はゴム組成物全量)に対するゴムの割合は、例えば、20質量%以上(例えば、25〜80質量%)、好ましくは30質量%以上(例えば、35〜75質量%)、さらに好ましくは40質量%以上(例えば、45〜70質量%)であってもよい。
【0076】
圧縮層(又は圧縮ゴム層を形成するゴム又はゴム組成物)は、必要に応じて、各種添加剤を含んでいてもよい。
【0077】
添加剤(配合剤)としては、公知の添加剤、例えば、加硫剤又は架橋剤[例えば、オキシム類(キノンジオキシムなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジンなど)、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)など]、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、補強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、可塑剤、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(芳香族アミン系、ベンズイミダゾール系老化防止剤など)、接着性改善剤[レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのメラミン樹脂、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などが例示できる。
【0078】
これらの添加剤は単独又は二種以上組み合わせて使用でき、ゴムの種類や用途、性能などに応じて適宜選択して用いられる。
【0079】
添加剤の割合もまた、ゴムの種類などに応じて適宜選択できる。例えば、補強剤(カーボンブラックなど)割合は、ゴム100質量部に対して、10質量部以上(例えば、20〜150質量部)、好ましくは20質量部以上(例えば、25〜120質量部)、さらに好ましくは30質量部以上(例えば、35〜100質量部)、特に40質量部以上(例えば、50〜80質量部)であってもよい。
【0080】
また、圧縮層は、界面活性剤(前記経編布の項で例示の化合物など)を含んでもよく、含んでいなくてもよい。
【0081】
また、圧縮層(又はゴム組成物)は、短繊維を含んでいてもよい。短繊維としては、前記経編布の項で例示の繊維の短繊維[例えば、綿やレーヨンなどのセルロース系繊維、ポリエステル系繊維(PET繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)など]が挙げられる。なお、短繊維は、吸水性繊維であってもよい。短繊維は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0082】
短繊維の平均繊維長は、例えば、0.1〜30mm(例えば、0.2〜20mm)、好ましくは0.3〜15mm、さらに好ましくは0.5〜5mm程度であってもよい。
【0083】
これらの短繊維は、必要に応じて、界面活性剤、シランカップリング剤、エポキシ化合物、イソシアネート化合物などで表面処理してもよい。
【0084】
短繊維の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば、0.5〜50質量部(例えば、1〜40質量部)、好ましくは3〜30質量部(例えば、5〜25質量部)程度であってもよい。
【0085】
圧縮層(圧縮ゴム層など)の厚みは、ベルトの種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、1〜30mm、好ましくは1.5〜25mm、さらに好ましくは2〜20mm程度であってもよい。
【0086】
(心線)
心線は、特に限定されず、例えば、ポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などで構成してもよい。
【0087】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度であってもよい。心線はベルトの長手方向に埋設されていてもよく、さらにベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に埋設されていてもよい。
【0088】
ゴムとの接着性を改善するため、心線は、前記短繊維と同様に、エポキシ化合物、イソシアネート化合物などによる種々の接着処理を施してもよい。
【0089】
(伸張層)
伸張層は、圧縮層と同様のゴム組成物で形成してもよく、帆布などの布帛(補強布)で形成してもよい。
【0090】
補強布としては、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材などが挙げられる。これらのうち、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布や、経糸と緯糸との交差角が90〜120°程度の広角度帆布や編布などが好ましい。補強布を構成する繊維としては、前記繊維部材の項で例示した繊維(吸水性繊維、非吸水性繊維など)などを利用できる。
【0091】
また、補強布には、接着処理(例えば、前記繊維部材の項で例示した接着処理)を施してもよい。さらに、接着処理[前記RFL液で処理(浸漬処理など)]した後、ゴム組成物を擦り込むフリクション又は積層(コーティング)してゴム付帆布を形成してもよい。
【0092】
また、伸張層をゴム(ゴム組成物)で形成する場合、伸張層を構成するゴム組成物において、ゴム成分としては、前記圧縮層のゴム組成物のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤などの添加剤の割合も、それぞれ、前記圧縮層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。
【0093】
ゴム組成物には、背面駆動時に背面ゴムの粘着により発生する異音を抑制するために、さらに圧縮層と同様の短繊維が含まれていてもよい。短繊維は、ゴム組成物中でランダムに配向させてもよい。さらに、短繊維は一部が屈曲した短繊維であってもよい。
【0094】
さらに、背面駆動時の異音を抑制するために、伸張層の表面(ベルトの背面)に凹凸パターンを設けてもよい。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターン、エンボスパターンなどが挙げられる。これらのパターンのうち、織布パターン、エンボスパターンが好ましい。さらに、経編布で伸張層の背面の少なくとも一部を被覆してもよい。
【0095】
伸張層の厚みは、ベルトの種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、0.5〜10mm、好ましくは0.7〜8mm、さらに好ましくは1〜5mm程度であってもよい。
【0096】
(接着層)
接着層は、前記の通り、必ずしも必要でない。接着層は、例えば、前記圧縮層(圧縮ゴム層)と同様のゴム組成物(エチレン−α−オレフィンエラストマーなどのゴム成分を含むゴム組成物)で構成できる。接着層のゴム組成物において、ゴム成分としては、前記圧縮層のゴム組成物のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤などの添加剤の割合も、それぞれ、前記圧縮層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。接着層のゴム組成物は、さらに接着性改善剤(レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂など)を含んでいてもよい。
【0097】
接着層の厚みは、ベルトの種類などに応じて適宜選択できるが、例えば、0.2〜5mm、好ましくは0.3〜3mm、さらに好ましくは0.5〜2mm程度であってもよい。
【0098】
[摩擦伝動ベルトの製造方法]
本発明の摩擦伝動ベルトの製造方法は、特に制限されず、公知又は慣用の方法を採用できる。例えば、経編布と、ゴム(又はゴム組成物)で構成された圧縮層と、心線と、伸張層とを積層し、この積層体を成形型で筒状に成形し、加硫してスリーブを成形し、この加硫スリーブを所定幅にカッティングすることにより形成できる。なお、本発明の製造方法では、経編布は、ウェール方向がベルト長手方向と平行となるように積層される。より詳細には、Vリブドベルトは、例えば、以下の方法で製造できる。
【0099】
(第1の製造方法)
先ず、内型として外周面に可撓性ジャケットを装着した円筒状内型を用い、外周面の可撓性ジャケットに未加硫の伸張層用シートを巻きつけ、このシート上に心線を螺旋状にスピニングし、さらに未加硫の圧縮層用シートと経編布とを巻き付けて積層体を作製する。このとき、縦編布のウェール方向がベルト長手方向(ベルト周方向)となるように巻き付ける。
【0100】
リブの表面を被覆する経編布は、ベルト寸法に応じた所定の寸法に裁断されたシート状経編布を用いてもよく、シームレスの筒状経編布を用いてもよい。シート状経編布の端部同士は、超音波溶着、ミシンジョイント、ホットメルトなどの方法により接合する。
【0101】
次に、前記内型に装着可能な外型として、内周面に複数のリブ型が刻設された筒状外型を用い、この外型内に、前記積層体が巻き付けられた内型を、同心円状に設置する。その後、可撓性ジャケットを外型の内周面(リブ型)に向かって膨張させて積層体(圧縮層)をリブ型に圧入し、加硫する。そして、外型より内型を抜き取り、複数のリブを有する加硫ゴムスリーブを外型から脱型した後、カッターを用いて、加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅にカットしてVリブドベルトに仕上げる。この第1の製造方法では、伸張層、心線、圧縮層を備えた積層体を一度に膨張させて複数のリブを有するスリーブ(又はVリブドベルト)に仕上げることができる。
【0102】
(第2の製造方法)
第1の製造方法に関連して、例えば、特開2004−82702号公報に開示される方法(圧縮層のみを膨張させて予備成形体(半加硫状態)とし、次いで伸張層と心線とを膨張させて前記予備成形体に圧着し、加硫一体化してVリブドベルトに仕上げる方法)を採用してもよい。
【実施例】
【0103】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、各物性の測定方法又は評価方法などを以下に示す。
【0104】
[編布の目付]
JIS L1096(2010)に準拠し、編布を200mm×200mm寸法に裁断して得られた試料を3個採取し、それぞれの質量を天秤で測定し、平均した。
【0105】
[編布の平均厚み]
JIS L1096(2010)に準拠し、不自然なしわや張力を除いて編布を平らな台上に置き、定荷重式測厚器にて5箇所の厚みを測定し、平均した。
【0106】
[編布の密度]
JIS L1096(2010)に準拠し、不自然なしわや張力を除いて編布を平らな台上に置き、任意の1インチの長さにおける編目の数を5箇所で測定し、平均した。
【0107】
[編布の引張破断強度及び伸び]
JIS L1096(2010)に準拠し、幅5cm×長さ25cm寸法のテストピースをウェール方向、コース方向各3個採取し、この試験片を全自動式引張試験機にて、引張速度200mm/minにて、引張試験をおこない、50N時伸び、破断強度を測定した。
【0108】
[編布の嵩高性]
編布の厚み及び目付に基づいて、嵩高性(cm/g)を下記式により求めた。
【0109】
嵩高性=厚み(mm)/目付量(g/m)×1000。
【0110】
[界面活性剤の付着量]
界面活性剤による処理前後及び加硫前後において、編布及びベルトの質量を測定し、以下の式から、加硫前の編布1mあたりの界面活性剤の付着量(含有量)W(g/m)及び加硫後の編布1mあたりの界面活性剤の付着量(含有量)W(g/m)を求めた。
【0111】
=(N−N)/S(g/m
=(R−R)/S(g/m
(式中、Nは付着処理前の編布(編布の本体)の質量、Nは付着処理後の編布の質量、Sは編布の面積、Rは付着処理を行わなかったベルトの加硫後の質量、Rは付着処理を行ったベルトの加硫後の質量、Sはベルトにおける編布の面積を示す)。
【0112】
また、編布の目付から、吸水性糸(又は編布の本体)100質量部あたりの界面活性剤の付着量(質量部)も求めた。
【0113】
[摩擦伝動面のゴムの滲出]
成形後のVリブドベルトの経編布表面のゴム滲出を目視で観察して評価した。
【0114】
[摩擦係数(SAEμ法)]
摩擦係数の測定には、図2にレイアウトを示すように、直径121.6mmの駆動プーリ(Dr.)、直径76.2mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径61.0mmのアイドラープーリ(IDL.2)、直径76.2mmのアイドラープーリ(IDL.3)、直径77.0mmのアイドラープーリ(IDL.4)、直径121.6mmの従動プーリ(Dn.)を順に配置した試験機を用いた。
【0115】
すなわち、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、通常走行時(DRY)においては室温条件下(25℃)で、駆動プーリの回転数を400rpm、従動プーリへのベルト巻き付け角度を20°とし、一定荷重[180N/6Rib(リブ)]を付与してベルトを走行させ、従動プーリのトルクを0〜最大20Nmまで上げていき、従動プーリに対するベルトの滑り速度が最大(100%スリップ)となったときの従動プーリのトルク値より、以下の式を用いて摩擦係数μを求めた。
【0116】
μ=ln(T1/T2)/α。
【0117】
ここで、T1は張り側張力、T2は緩み側張力、αは従動プーリへのベルト巻き付け角度であり、それぞれ以下の式で求めることができる。
【0118】
T1=T2+Dn.トルク(kgf・m)/(121.6/2000)
T2=180(N/6Rib)
α=π/9(rad)(式中、radはラジアンを意味する)。
【0119】
注水走行時(WET)の摩擦係数の測定には、図3にレイアウトを示すような試験機を用い、駆動プーリの回転数を800rpm、従動プーリへのベルト巻き付け角度を45°(α=π/4)、従動プーリの入口付近に1分間あたり300mlの水を注水し続ける以外は、通常走行時と同じであり、摩擦係数μも上記式を用いて同様に求めた。
【0120】
[耐発音性]
ミスアライメント発音評価試験(発音限界角度)は、図4にレイアウトを示すように、直径101mmの駆動プーリ(Dr.)、直径80mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径128mmのミスアライメントプーリ(W/P)、直径80mmのアイドラープーリ(IDL.2)、直径61mmのテンションプーリ(Ten.)、直径80mmのアイドラープーリ(IDL.3)を順に配置した試験機を用いて行い、アイドラープーリ(IDL.1)とミスアライメントプーリの軸離(スパン長)を135mmに設定し、全てのプーリが同一平面上(ミスアライメントの角度0°)に位置するように調整した。
【0121】
すなわち、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、室温条件下(25℃)で、駆動プーリの回転数が1000rpm、ベルト張力が50N/Rib(リブ)となるように張力を付与し、駆動プーリの出口付近においてVリブドベルトの摩擦伝動面に定期的(約30秒間隔)に5ccの水を注水しながらベルトを走行させた。この時、ミスアライメントプーリを各プーリに対し手前側にずらしてゆき、ミスアライメントプーリの入口付近で発音が発生する角度(発音限界角度)を求めた。発音限界角度が大きいほど静粛性に優れており、下記の基準で判定した。
【0122】
S:リブずれまで発音なし(静粛性が極めて良好)
A:発音角度が2°以上3°未満(静粛性良好)
B:発音角度が2°未満(静粛性悪い)
なお、通常、3°付近でベルトがプーリからはずれて(すなわち、リブずれとなり)正常に動力伝達しない状態になる。
【0123】
[耐久性試験(高温高張力逆曲げ試験)]
高温高張力逆曲げ試験は、図5にレイアウトを示すように、直径120mmの駆動プーリ(Dr.)、直径75mmのアイドラープーリ(IDL.)、直径120mmの従動プーリ(Dn.)、直径60mmのテンションプーリ(Ten.)を順に配置した試験機を用いて行った。詳しくは、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、駆動プーリの回転数を4900rpm、アイドラープーリ及びテンションプーリへのベルト巻き付け角度を90°、従動プーリ負荷を8.8kWとし、一定荷重[91kg/6Rib(リブ)]を付与してベルトを雰囲気温度120℃で走行させた。走行時間は、200時間で打ち切りとし、前述の耐発音性を評価した。
【0124】
[接触角]
ベルトの摩擦伝動面と水との接触角θ(水滴の端点における接線と摩擦伝動面とがなす角)は、図6に示すように、摩擦伝動面に水を滴下した水滴の投影写真から、θ/2法を用いて以下の式より求めることができる。
【0125】
θ=2θ …(1)
tanθ=h/r → θ=tan−1(h/r) …(2)
(式中、θは、摩擦伝動面に対して、水滴の端点(図6では左端点)と頂点とを結ぶ直線の角度であり、hは水滴の高さ、rは水滴の半径を示す)。
【0126】
式(2)を式(1)に代入して、以下の式(3)が得られる。
【0127】
θ=2tan−1(h/r) …(3)
接触角の測定は、室温条件下(25℃)で、全自動接触角計(協和界面科学社製、CA−W型)を用いて滴下した水滴の投影写真からrとhを測定し、式(3)を用いて算出した。測定は滴下直後(5秒後)の接触角を算出した。接触角θが小さいほど摩擦伝動面は水との親和性に優れており、特に接触角θが0°になると水滴が接触面全体に拡張ぬれしていることを示す。
【0128】
[回転変動発音試験]
回転変動発音試験は、図7にレイアウトを示すように、直径55mmのオルタネータープーリ(ALT)、直径50mmのアイドラープーリ(IDL)、 直径120mmのクランププーリ(CR)、直径65mmのオートテンショナー(A/T)を順に配置した試験機を用いて行い、各プーリにVリブドベルト(6PK1100、リブ数6、周長1100mm)を掛架し、時計回り方向にベルトを回転させた。
【0129】
詳しくは、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、室温条件下(25℃)で、駆動プーリの回転数が1000±100rpm(回転変動20%)、ベルト張力が50N/Rib(リブ)となるように張力を付与し、クランププーリの入り口付近でVリブドベルトの摩擦伝動面に50ccの水を手で回しながら注水した後、ベルトを走行させた。この時、オルタネータープーリの負荷(オルタネータ負荷)を上昇させ(最大100A)、オルタネータープーリの端部から100mmの位置に騒音計を設置し、発音の有無を測定した。発音時のオルタネータ負荷が大きいほどベルトが発音しにくいことになり、下記の基準で判定した。
【0130】
S:オルタネータ負荷100A(アンペア)まで発音無し
A:オルタネータ負荷70〜100Aで発音した
B:オルタネータ負荷70A未満で発音(静粛性が悪い)。
【0131】
[摩耗試験(6%スリップ摩耗試験)]
摩耗試験は、図8にレイアウトを示すように、直径80mmの駆動プーリ(Dr.)、直径80mmの従動プーリ(Dn.)、直径120mmのテンションプーリ(Ten.)を順に配置した試験機を用いて行なった。詳しくは、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、駆動プーリの回転数を3000rpm、テンションプーリへのベルト巻き付け角度を90°、一定負荷にて、スリップ率6%になるように張力を付与してベルトを24時間走行した。走行試験前後のVリブドベルトのベルト質量を測定し、質量減量から摩耗量を算出した。
【0132】
[ゴム組成物]
表1に示すゴム組成物をバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未加硫圧延ゴムシート(圧縮層用シート)を作製した。また、同様にして、伸張層用シートを作製した。なお、ゴム組成物中の各成分は以下の通りである。
【0133】
EPDM:ダウ・ケミカル社製「ノーデルIP4640」
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストV」、平均粒子径55nm
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラックMB」
軟化剤:パラフィン系オイル、出光興産(株)製「NS−90」
有機過酸化物:日油(株)製「パークミルD−40」
【0134】
【表1】
【0135】
[心線]
1100dtex/2×3構成のポリエステル心線を用いた。ゴムとの接着性を向上させるため、心線をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)へ浸漬処理した後、EPDMを含むゴム組成物をトルエンに溶解した処理液でコーティング処理した。
【0136】
[編布]
表2に示す経編布A〜D及びF並びに緯編布Eを用いた。
【0137】
【表2】
【0138】
なお、編布に含まれる吸水性糸及び非吸水性糸は、以下の通りである。
【0139】
吸水性糸:綿紡績糸
非吸水性糸(カバリング糸):ポリウレタン(PU)の芯糸をポリエチレンテレフタレート(PET)で被覆したカバーリング糸
非吸水性糸(コンジュゲート糸):PETとPTTとのコンジュゲート糸(PET/PTT=50/50質量比)。
【0140】
[ベルトの作製]
内型として外周面に可撓性ジャケットを装着した円筒状内型を用い、外周面の可撓性ジャケットに未加硫の伸張層用シートを巻きつけ、このシート上に心線を螺旋状にスピニングし、さらに表1に示す未加硫の圧縮層用シート及び表2に示す編布をこの順に巻き付けて積層体を作製した。編布のウェール方向は、ベルト長手方向に平行になるように配置した。
【0141】
なお、実施例4の編布については、界面活性剤の付着処理を行った編布を用いた。付着処理は、10質量%の濃度で非イオン性界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、花王(株)製、商品名「エマルゲン」)を含むトルエン溶液に、編布を、室温(25℃)で30分間浸漬し、オーブンにて143℃で10分間乾燥させることで行った。
【0142】
編布の界面活性剤付着量は、加硫前は、編布1m当たり26.6g、編布100質量部に対して15.6質量部であり、加硫後は、編布1m当たり17.7g、編布100質量部に対して10.4質量部であった。
【0143】
次に、前記内型に装着可能な外型として、内周面に複数のリブ型が刻設された筒状外型を用い、この外型内に、前記積層体が巻き付けられた内型を、同心円状に設置した。その後、可撓性ジャケットを外型の内周面(リブ型)に向かって膨張させて積層体(圧縮層)をリブ型に圧入し、加硫した。そして、外型より内型を抜き取り、複数のリブを有する加硫ゴムスリーブを外型から脱型した後、カッターを用いて、加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅にカットしてVリブドベルト(リブ数6個、周長1200mm)を得た。
【0144】
得られたベルトについて、各種測定及び評価を行った。結果を表3に示す。なお、表3の「発音限界角度」において、「無」とは、リブずれまで発音しなかったことを意味する。
【0145】
【表3】
【0146】
表3の結果から明らかなように、実施例では、DRY、WETのいずれにおいても摩擦係数を適度に保持し、これらの差も小さく、耐発音性(静音性)が良好であった。また、耐久性が良好であった。特に、界面活性剤を付着させた実施例4では、水との接触角が低く、高い耐発音性を有していた。
【0147】
一方、経編布中の吸水性糸の割合が少ない比較例1では、WETでの摩擦係数が低く、静音性も低かった。また、緯編布を用いた比較例2では、耐久性が低かった。さらに、同一の目付量である実施例5と比較例2とを比較すると、実施例5のベルトでは、走行劣化後の耐発音性が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の摩擦伝動ベルトは、Vベルト、Vリブドベルトなどの摩擦伝動ベルトとして利用できる。また、本発明の摩擦伝動ベルトは、被水時の静音性を改善できるため、自動車、自動二輪車、農業機械など屋外で使用される伝動装置にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0149】
1…摩擦伝動ベルト(Vリブドベルト)
2…圧縮層
3…心線
4…伸張層
5…経編布
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8