【実施例】
【0034】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0035】
実験1
(原料であるH
2Ti
12O
25の製造)
市販のルチル型高純度二酸化チタン(PT−301:石原産業製)1000gと、炭酸ナトリウム451.1gに、純水を1284gを加え、攪拌してスラリー化した。このスラリーを噴霧乾燥機(MDL−050C型:藤崎電機社製)を用いて、入口温度200℃、出口温度70〜90℃の条件で噴霧乾燥した。得られた噴霧乾燥品を、電気炉を用い、大気中で800℃の温度で10時間加熱焼成し、メジアン径が5.5μmの試料を得た。
【0036】
得られた試料のICP発光分析法(ICPS−7500:島津製作所社製)による化学組成分析を行ったところ、Na:Ti=1.99:3.00であった。また、X線粉末回折装置(RINT2550V:リガク社製)により、良好な結晶性を有する、単斜晶系、空間群P2
1/mの結晶構造のNa
2Ti
3O
7の単一相であることが明らかになった。
【0037】
得られたNa
2Ti
3O
7 1077gに、純水4210gを加え、スラリー化し、64%硫酸657gを加え、攪拌しながら60℃の条件で5時間反応させてから、ろ過水洗した。ろ過ケーキに純水を加え3326gにしてから再分散させ、64%硫酸34gを加え、攪拌しながら70℃の条件で5時間反応させてから、ろ過水洗乾燥して試料を得た。
【0038】
得られた試料について、ICP発光分析法により、化学組成を分析したところ、ナトリウムは検出されず、ほぼ完全にプロトン交換されたH
2Ti
3O
7の化学式で妥当であった。さらに、X線粉末回折装置により、良好な結晶性を有する、単斜晶系、空間群C2/mの結晶構造のH
2Ti
3O
7の単一相であることが明らかとなった。
【0039】
このようにして得られたH
2Ti
3O
7の粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM−5400:日本電子社製)により調べたところ、サブミクロン〜ミクロンオーダーの等方的又は棒状の形状を有していた。
【0040】
得られたH
2Ti
3O
7300gを、電気炉を用い、大気中で260℃で10時間加熱脱水し、試料Aを得た。
【0041】
得られた試料Aについて、250〜600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定し、加熱減量が構造水に相当すると仮定して算出したところ、H
2Ti
12O
25の化学組成が妥当であることが確認された。また、X線粉末回折装置により、X線回折データを測定し、良好な結晶性を有する、単斜晶系、空間群P2/mの結晶構造のH
2Ti
12O
25の単一相であることが明らかとなった。そのX線回折図形を
図1に示す。
【0042】
このようにして得られたH
2Ti
12O
25粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図2に示す。前駆体であるH
2Ti
3O
7の形状がほぼ保持されたサブミクロン〜ミクロンオーダーの等方的又は棒状の形状を有していた。
【0043】
(Li
4Ti
5O
12の製造)
4.5モル/リットルの水酸化リチウム水溶液340ミリリットルに、ルチル型とアナターゼ型の混晶の二酸化チタン(PT−401M:石原産業製)125gを添加し分散させた。このスラリーを攪拌しながら液温を80℃に保ち、オルトチタン酸を、TiO2換算で25g分散させた水性スラリー250ミリリットルを添加して、チタン化合物及びリチウム化合物を含むスラリーを得た。このスラリーを噴霧乾燥機(GB210‐B型:ヤマト科学社製)を用いて、入口温度190℃、出口温度80℃の条件で噴霧乾燥を行い、乾燥造粒物を得た後、乾燥造粒物を大気中700℃の温度で3時間焼成を行い、試料Bを得た。
【0044】
得られた試料Bについて、X線粉末回折装置により、X線回折データを測定し、良好な結晶性を有する、スピネル型結晶構造のLi
4Ti
5O
12の単一相であることを確認した。そのX線回折図形を
図3に示す。
【0045】
このようにして得られたLi
4Ti
5O
12の粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM)により調べたところ、0.01〜1μm程度の一次粒子が、球状や多面体状に集合して二次粒子を形成しており、メジアン径は5.7μm、BET法で測定した比表面積は11m
2/gであった。
【0046】
(混合物の作製)
このようにして得られたH
2Ti
12O
25 7gと、Li
4Ti
5O
12 3gに、純水50gを加え、超音波分散を5分間行い、スラリーを作製した。このスラリーを、100℃の乾燥機に投入し、純水を蒸発させ、蒸発乾固物を得た。引き続き、この蒸発乾固物を電気炉にて260℃で5時間、大気中で焼成し、試料Cを得た。また、H
2Ti
12O
25を5g、Li
4Ti
5O
12を5g、純水を50gとした以外は同様の手順で試料Dを、H
2Ti
12O
25を3g、Li
4Ti
5O
12を7g、純水を50gとした以外は同様の手順で試料Eを得た。試料DのX線回折図形を
図4に示す。
図4から、試料DはH
2Ti
12O
25相とLi
4Ti
5O
12相がそれぞれ別相として存在していることがわかる。本実験の試料C〜Eが本発明の活物質であり、それぞれ実施例1〜3とし、本発明の原料である試料A,Bを比較例1,2とする。
【0047】
(蓄電デバイスの作製)
電極活物質として上記手順で得られた、試料A〜Eを、導電剤としてのアセチレンブラック粉末(デンカブラック(登録商標)(粉状):電気化学工業社製)、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂(KFポリマーL‐#1120:クレハ社製 溶媒N‐メチル‐2‐ピロリドン)と重量比で100:10:10(PVdFは樹脂分)で混合し、固形分濃度が30%になるようN-メチル‐2‐ピロリドンを加え、自転・公転ミキサー(泡とり練太郎ARE−310:シンキー社製)で2000rpmで15分混合を行って、ペーストを調製した。このペーストをアルミ箔(IN30‐H18(20μm):富士加工紙株式会社製)上に塗布し、120℃の温度で10分乾燥した後、直径12mmの円形に打ち抜き、17MPaでプレスして電極とした。この直径12mmに切り出した電極の活物質重量が2.5mgになるよう塗布量(塗布厚)を調整した。
【0048】
この電極を120℃の温度で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型セルに正極として組み込んだ。コイン型セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。負極には厚み0.5mmの金属リチウム(リチウムフォイル:本城金属社製)を直径12mmの円形に成形したものを用いた。非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPF6を溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比1:2)を用いた。
【0049】
電極はコイン型セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液を滴下した。さらにその上に負極と、厚み調整用の0.5mm厚スペーサー及びウエーブワッシャ(いずれもSUS316製)をのせ、その上から非水電解液を溢れるほど滴下し、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封し、本発明の蓄電デバイス(デバイスc〜e)及び比較の蓄電デバイス(デバイスa,b)を得た。なお、上記の0.5mm厚スペーサー及びウエーブワッシャ等の電池部材にはCR2032用パーツセット(宝泉社)を用いた。
【0050】
蓄電デバイス(デバイスa〜e)について、セル作製後3時間熟成した後、0.25Cで2サイクル充放電するコンディショニングを行った。コンディショニング2サイクル目の放電容量を初期容量とした。その後、種々の電流量で放電容量(mAh/g)を測定した。測定は、電圧範囲を1〜2.5Vに、充電電流は0.25Cに、放電電流は0.25C〜50Cの範囲に設定して行った。環境温度は25℃とした。尚、ここで1Cとは満充電後に1時間で完全放電できる電流値を言うが、本評価では、デバイスbでは0.4mAが、その他のデバイスでは0.5mAが1C電流値に相当するものとして測定を行った。
【0051】
【表1】
【0052】
表1は比較例の測定結果である。試料Aは容量特性に優れ、試料Bは高率放電容量に優れることがわかる。
【0053】
【表2】
【0054】
表2は、各電流値における比較例1および比較例2の測定結果と試料A,Bの混合比70:30から加重平均(試料Aの容量×試料Aの混合比(0.7)+試料Bの容量×試料Bの混合比(0.3))して求められる試料Cの容量計算値(mAh/g)と、及びデバイスcの容量実測値(mAh/g)である。また、表2における1C電流値の計算値は、比較例1および比較例2の実測値と試料A,Bの混合比70:30を用いて算出(比較例1の1C電流値(0.5mA)×試料Aの配合比(0.7)+比較例2の1C電流値(0.4mA)×試料Bの配合比(0.3))したものである。デバイスcはいずれの電流値においても計算値を上回る放電容量を示し、更に、0.25〜2Cの電流値においては、試料A,Bをそれぞれ単独で用いたデバイスa,bを超える放電容量を示しており、予想し得ない効果が認められた。
【0055】
【表3】
【0056】
表3は、各電流値における比較例1および比較例2の測定結果と試料A,Bの混合比50:50から加重平均(試料Aの容量×試料Aの混合比(0.5)+試料Bの容量×試料Bの混合比(0.5))して求められる試料Dの容量計算値(mAh/g)と、デバイスdの容量実測値(mAh/g)である。また、表3における1C電流値の計算値は、比較例1および比較例2の実測値と試料A,Bの混合比50:50を用いて算出(比較例1の1C電流値(0.5mA)×試料Aの配合比(0.5)+比較例2の1C電流値(0.4mA)×試料Bの配合比(0.5))したものである。デバイスdはいずれの電流値においても計算値を上回る放電容量を示し、更に、0.5〜3Cの電流値においては、デバイスa,bを超える放電容量を示しており、予想し得ない効果が認められた。
【0057】
【表4】
【0058】
表4は、各電流値における比較例1および比較例2の測定結果と試料A,Bの混合比30:70から加重平均(試料Aの容量×試料Aの混合比(0.3)+試料Bの容量×試料Bの混合比(0.7))して求められる試料Eの容量計算値(mAh/g)と、デバイスeの容量実測値(mAh/g)である。また、表4における1C電流値の計算値は、比較例1および比較例2の実測値と試料A,Bの混合比30:70を用いて算出(比較例1の1C電流値(0.5mA)×試料Aの配合比(0.3)+比較例2の1C電流値(0.4mA)×試料Bの配合比(0.7))したものである。デバイスeはいずれの電流値においても計算値を上回る放電容量を示しており、予想し得ない効果が認められた。
【0059】
以上の結果について実電流値をx軸にとりグラフ化したものを
図5に示す。
図5から明らかなように、100mA以上の電流値でも、実施例1〜3の本発明の電極活物質を用いたデバイスc〜eは、高率放電容量に優れるデバイスbと同等の放電容量を示し、高率放電容量に優れることがわかる。更に、低率放電時の容量において特にデバイスcやデバイスdは、容量の低いスピネル型結晶構造リチウムチタン化合物である試料Bを配合しているにもかかわらず、高容量に特徴のあるトンネル構造チタン化合物を用いたデバイスaを超える放電容量を示すことがわかる。
【0060】
実験2
試料Dの作製において、蒸発乾固物の電気炉での焼成を行わなかった以外は試料Dと同様の手順で試料Fを得た。本実験の試料Fが本発明の活物質であり、実施例4とする。また、試料Fと実験1で作製した試料Dを用いて、実験1と同様の手順で蓄電デバイスd’及び蓄電デバイスfを作製した。
【0061】
蓄電デバイスd’,fを用いて、放電電流を0.25C〜5Cの範囲に設定した以外は実験1と同様の手順で高率放電容量を測定した。0.25Cでの放電容量を100としたときの、各放電電流値における放電容量の比率(容量維持率)を表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
表5中、試料A,Bを混合後、焼成を行った試料Dを用いたデバイスd’及びfの高率放電容量測定は、1C電流値を0.5mAとして行っている。一方、表5における1C電流値の計算値では1C電流値は0.45mAである(表1における試料Aの1C電流値(0.5mA)×試料Aの配合比(0.5)+表1における試料Bの1C電流値(0.4mA)×試料Bの配合比(0.5))。従って、デバイスd’及びfでは、計算値のそれと比較して、各測定電流値において10%以上の高負荷がかかっている(+10%以上の大電流を流している)ことになる。それにもかかわらず、デバイスfでも充分な高率放電特性が得られることがわかる。また、デバイスd’の測定結果から明らかなように、混合後焼成を行うことで更に高率放電特性が向上していることがわかる。
【0064】
実験3
実験1とは異なる製法で得られたスピネル型結晶構造を有するリチウムチタン化合物を用いて、本発明の効果を検証した。
【0065】
(Li
4Ti
5O
12の製造)
炭酸リチウム粉末187gと、ルチル型の二酸化チタン(CR−EL:石原産業製)500gをヘンシェルミキサーにて1800rpmで10分間混合した。この混合物を電気炉にて、大気中940℃の温度で3時間焼成を行い、試料Gを得た。
【0066】
得られた試料Gについて、X線粉末回折装置により、X線回折データを測定し、良好な結晶性を有する、スピネル型結晶構造のLi
4Ti
5O
12の単一相であることを確認した。粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM)により調べたところ、サブミクロン〜ミクロンオーダーの大きさの不定形粒子であった。
【0067】
(混合物の作製)
実験1と同様の方法で得られたH
2Ti
12O
25(試料A)5gと、上記実験3で得られたLi
4Ti
5O
12(試料G)5gに、純水50gを加え、超音波分散を5分間行い、スラリーを作製した。このスラリーを、100℃の乾燥機に投入し、純水を蒸発させ、蒸発乾固物を得た。引き続き、この蒸発乾固物を電気炉にて260℃で5時間、大気中で焼成し、試料Hを得た。本実験の試料Hが本発明の活物質であり、実施例5とし、試料Gを比較例3とする。
【0068】
試料A,G,Hを電極活物質として用いてリチウム二次電池を調製し、その充放電サイクル特性を評価した。電池の形態や測定条件について説明する。
【0069】
上記各試料と、導電剤としてのアセチレンブラック粉末、及び結着剤としてのポリ四フッ化エチレン樹脂を重量比で5:4:1で混合し、乳鉢で練り合わせ、直径10mmの円形に成型してペレット状とした。ペレットの重量は10mgであった。このペレットに直径10mmに切り出したアルミニウム製のメッシュを重ね合わせ、9MPaでプレスして電極とした。
【0070】
この電極を100℃の温度で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型評価用セルに正極として組み込んだ。評価用セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。負極には厚み0.5mmの金属リチウムを直径12mmの円形に成形したものを用いた。非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPF
6を溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を用いた。
【0071】
電極は評価用セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液を滴下した。さらにその上に負極と、厚み調整用の0.5mm厚スペーサー及びスプリング(いずれもSUS316製)をのせ、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封した。作製したデバイスはそれぞれデバイスa,g,hとした。
【0072】
充放電容量の測定は、電圧範囲を1.0〜2.5Vに、充放電電流を0.2mAに設定して、室温下、定電流で行った。2サイクル目と10,20、30サイクル目の充放容量を測定し、(各サイクル時の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100(%)をサイクル特性とした。この値が大きい程、サイクル特性が優れている。結果を表6に示す。実施例5の本発明の活物質Hを用いたデバイスhは比較例のデバイスa,gと同等以上のサイクル特性を示すことがわかる。
【0073】
【表6】
【0074】
実験4
実験3の充放電を60℃で行った以外は実験3と同様にして高温サイクル特性を評価した。結果を表7に示す。実施例5の本発明の活物質Hを用いたデバイスhは比較例のデバイスa,gと同等以上のサイクル特性を示すことがわかる。
【0075】
【表7】
【0076】
また、試料A,G,Hを用いて実験1と同様にデバイスを作製し、50C放電容量の0.25C放電容量比を測定した結果、試料Aでは18%、試料Gでは23%であったのに対し、両者を混合した試料Hでは38%を示し、予想し得ない効果が認められた。