特許第6013449号(P6013449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013449
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】格子間酸素濃度を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/324 20060101AFI20161011BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20161011BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   H01L21/324 T
   H01L21/324 N
   C30B29/06 A
   H01L21/66 N
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-504369(P2014-504369)
(86)(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公表番号】特表2014-518006(P2014-518006A)
(43)【公表日】2014年7月24日
(86)【国際出願番号】FR2012000144
(87)【国際公開番号】WO2012140340
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2014年12月4日
(31)【優先権主張番号】1101190
(32)【優先日】2011年4月15日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510225292
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】ジョルディ、ベルマン
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン、デュボワ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス、アンジャルベール
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−009300(JP,A)
【文献】 特開平02−163646(JP,A)
【文献】 特表2008−545605(JP,A)
【文献】 特開昭63−090141(JP,A)
【文献】 特表2013−536942(JP,A)
【文献】 SIMOEN E.,CHARACTERIZATION OF OXYGEN AND OXYGEN-RELATED DEFECTS IN HIGHLY- AND LOWLY-DOPED SILICON,MATERIALS SCIENCE AND ENGINEERING B,スイス,ELSEVIER SEQUOIA,2003年 9月15日,V102 N1-3,P207-212
【文献】 ULYASHIN A. G.,CHARACTERIZATION OF OXYGEN DISTRIBUTION IN CZOCHRALSKI SILICON 以下省略,MATERIALS SCIENCE AND ENGINEERING B,スイス,ELSEVIER SEQUOIA,2000年 4月 1日,V73 N1-3,P124-129
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/324
H01L 21/66
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセプタ型ドーパント不純物を含み、初期電荷キャリア濃度(p)および初期抵抗率(ρ)を有するIV族p型半導体物質から作られたサンプルの格子間酸素濃度(C)を決定する、
a)前記サンプルを熱処理に掛けて、ドナー型ドーパント不純物を形成するサーマルダブルドナー(TDD)を形成する工程(F1)
を含む方法であって、
b)不純物補償半導体物質を得るのに要する前記熱処理の継続時間(t)を決定する工程(F1)(ただし、前記不純物補償半導体物質は、アクセプタ型ドーパント不純物の濃度がドナー型ドーパント不純物の濃度の合計と実質的に等しくなることによって不純物補償されたものである)と
c)電荷キャリア濃度(p、p)から、補償半導体物質の前記サンプルの前記熱ドナー濃度(NTDD)を決定する工程(F2)と、
d)前記熱ドナー濃度(NTDD)および前記熱処理の前記継続時間(t)から、前記格子間酸素濃度(C)を決定する工程(F3)と
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記熱ドナー濃度(NTDD)が、前記初期電荷キャリア濃度(p)から決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱ドナー濃度NTDDが、前記初期電荷キャリア濃度pから、以下の関係式
【数1】
によって決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱ドナー濃度(NTDD)が、前記サンプルがp型導電性からn型導電性に変化した後に測定された電荷キャリア濃度(n)から決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程b)が、
i)時間(t)にわたる熱処理を行う工程(F11)と、
ii)前記サンプルの抵抗率(ρ)を測定する工程(F12)と、
iii)工程i)および工程ii)を、前記サンプルの前記抵抗率が閾値(ρ)を超えるまで繰り返す工程と
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記閾値(ρ)が、200Ω・cmよりも大きく、および前記サンプルの前記初期抵抗率(ρ)の2倍よりも大きい、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程b)が、
i)時間(t)にわたる熱処理を行う工程(F11)と、
ii)前記サンプルの導電型を測定する工程(F12)と、
iii)工程i)および工程ii)を、前記サンプルがp型導電性を有する限り繰り返す工程と
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記導電型の測定が、前記サンプルの表面光電圧の測定によって行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
最初に、650℃以上の温度での熱処理工程(F0)、および前記初期電荷キャリア濃度(p)を決定する工程(F0’)を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記初期電荷キャリア濃度(p)が、前記サンプルがドナー型ドーパント不純物をアクセプタ型ドーパント不純物の濃度(N)の5分の1よりも低い濃度(N)で含む場合に、抵抗率測定によって決定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記初期電荷キャリア濃度(p)が、前記サンプルがドナー型ドーパント不純物をアクセプタ型ドーパント不純物の濃度(N)の5分の1よりも高い濃度(N)で含む場合に、ホール効果によって、または吸収分光法によって測定される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記格子間酸素濃度(C)を決定した後、650℃以上の温度にて熱処理を行う工程(F4)を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
a)からd)の工程が、前記サンプルの複数の領域で行われて、マッピングが実施されることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型ドープ半導体サンプルの格子間酸素濃度を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロエレクトロニクス産業用、または光起電力用途を意図するシリコン基材は、酸素を含有する。それらの基材が析出した形態でない場合、酸素原子は一般的に結晶格子中の格子間位置を占める。チョクラルスキー法によって得られる単結晶シリコンの場合、またはソーラーグレードポリシリコンの場合、格子間酸素濃度は、1017から2・1018原子/cmの間で変動する。
【0003】
格子間酸素(O)は、シリコンの機械的および電気的特性に大きな影響を与える。特に、200℃から500℃の範囲の温度にて、酸素は、サーマルダブルドナー(TDD)と称される析出物を形成し、これは物質の電気的特性を改変する。より高い温度にて、酸素はシリコン中に存在する金属不純物を捕捉することができる別の析出物を形成する。ゲッター効果はこのようにして得ることができる。さらに、酸素は製造プロセスによって導入される転位を阻止することにより、基材の機械的特性を改善する。
【0004】
光起電力用途の場合、高酸素濃度は、照射下での性能低下、特に、ホウ素ドープ(B)シリコンを含有する光起電力セルの変換効率の低下を引き起こす。
【0005】
従って、基材中における格子間酸素の濃度および分布を知ることは、シリコンの電気的および機械的特性に対する酸素の影響を局所的に明らかにするために重要であると考えられる。そして、そのような情報により、結晶化またはデバイス製造方法の最適化が可能となる。
【0006】
サンプルの酸素濃度は、従来から、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法によって決定される。しかし、この技術は時間を要し、精度に欠けるものである。それは、さらに、少なくとも200μmの厚さを有するサンプル、およびサンプル表面の前処理を必要とする。
【0007】
論文"Characterization of the oxygen distribution in Czochralski silicon using hydrogen-enhanced thermal donor formation" (A.G. Ulyashin et al., Materials Science and Engineering B73 124-129, 2000)には、酸素濃度を決定するための別の技術が記載されている。
【0008】
この技術は、熱ドナーTDDの形成に基づいている。水素プラズマ強化熱処理(hydrogen-plasma-enhanced heat treatment)をP型サンプルに適用して、PN接合を形成する。次に、サンプル中のPN接合の深さを、広がり抵抗プローブ(SRP)測定またはキャパシタンス‐電圧(C‐V)測定によって決定する。続いて、熱ドナー濃度を、PN接合の深さから算出する。数学的モデルにより、熱ドナー濃度から酸素濃度を決定することが可能である。
【0009】
この用いられた特性決定の方法では、FTIRとまったく同じように、サンプルの前処理が必要である。SRPによる特性決定では、サンプルの深さ全体にわたる抵抗プロファイルを確立するために、サンプルのテーパリングが必要である。C‐Vによる特性決定では、サンプル表面において金属接点が用いられる。そのような接点は、サンプル物質の損傷または汚染を伴わずに取り除くことが難しい。
【0010】
このような特性決定法が複雑であることに起因して、上述の論文の測定技術は、時間を要するものであり、マイクロエレクトロニクスおよび光起電力装置の基材へ適用することが難しいものである。
【0011】
さらに、基材を前処理および水素化することによって、一度測定が行われたこの基材を使用することができなくなる。
【発明の概要】
【0012】
従って、IV族p型半導体物質から作製されたサンプルの格子間酸素濃度を決定することを可能とする、実施に時間が掛からず、簡便である方法を提供することが必要とされている。
【0013】
アクセプタ型ドーパント不純物を含み、初期電荷キャリア濃度および初期抵抗率を有するサンプルにおいて、この必要性は、
a)サンプルを熱処理に掛けて、ドナー型ドーパント不純物を形成する熱ドナーを形成する工程と、
b)不純物補償半導体物質を得るのに要する熱処理の継続時間を決定する工程と、
c)電荷キャリア濃度から補償半導体物質のサンプルの熱ドナー濃度を決定する工程と、
d)熱ドナー濃度および熱処理継続時間から、格子間酸素濃度を決定する工程と
によって満足される方向へと向かう。
【0014】
格子間酸素濃度の決定後、650℃以上の温度での熱処理工程をさらに提供して、サンプルをその初期状態に回復させる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
その他の利点および特徴は、非限定例としての目的のみで与えられ、添付の図面によって説明される以下の決定の実施形態の記述から、より明確に明らかとなるであろう。
図1図1は、本発明に従って格子間酸素濃度Cを決定する方法の工程を示す。
図2図2は、図1に従うアニーリング工程F1の実施形態を示す。
図3図3は、図1に従うアニーリング工程F1の別の選択肢としての実施形態を示す。
図4図4は、様々な格子間酸素濃度値Cにおける、アニーリング継続時間tに対する熱ドナー濃度NTDDのグラフを示す。
図5図5は、図1の格子間酸素濃度値Cを決定する方法の追加工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
p型ドープシリコン基材において、遊離の電荷キャリアはホールである。その数は、一般的にはホウ素原子(B)である、シリコンに注入されたドーパント不純物の濃度Nに依存する。そのような原子は、電子アクセプタと称される。
【0017】
基材がホウ素によって本質的にドーピングされる場合、ホール濃度pは、ホウ素濃度に等しい:p=N=[B]。
【0018】
基材が、無視できない濃度Nにて電子ドナー原子(例えばリン)をさらに含む場合、遊離ホールの初期濃度pは、アクセプタ原子濃度Nからドナー原子濃度Nを引いたものに等しい:p=N−N。この関係は、アクセプタおよびドナー原子のイオン化が1回のみである場合に有効である。ドナーおよび/またはアクセプタ原子が複数回イオン化される場合、濃度Nおよび/またはNにイオン化度が適用されることになる(p=αN−βN)。
【0019】
200℃から500℃より成る温度を基材に掛けることにより、基材中における熱ドナーTDDの形成が引き起こされる。熱ドナーは、電子を発生させる。従って、これらは、ドナー型ドーパント不純物として見なされる。熱ドナーは、各TDDが2つの遊離電子を発生させることから、二重ドナーである。
【0020】
アクセプタ型ドーパント不純物の濃度が、濃度を最終的にイオン化度で重み付けした形で、ドナー型ドーパント不純物(リン原子および熱ドナー)の濃度の合計と実質的に等しい場合、基材は、不純物補償されたものとされる。この平衡状態は、実際には、p型ドープ基材(大部分がホール)およびn型ドープ基材(大部分が電子)との間の遷移状態に相当する。
【0021】
本明細書で提供されるのは、アニーリングの過程でのこの平衡状態を検出し、簡便に熱ドナー濃度NTDDを算出し、そして格子間酸素濃度Cを推定することである。
【0022】
図1は、p型半導体サンプルの格子間酸素濃度Cを決定する方法の工程F1からF3を示す。
【0023】
第一の工程F1において、シリコン基材を例とする酸素含有サンプルは、熱処理、またはアニーリングに掛けられ、熱ドナーが形成される。アニーリング温度は、好ましくは、200℃から500℃の範囲であり、有利には、350℃から500℃である。実際、以降で述べるように、熱ドナー形成の反応速度論は、この温度範囲、特には450℃にてよく知られている。
【0024】
アニーリングの過程において、シリコン基材が補償されるためのアニーリング継続時間tが測定される。シリコンの補償状態の検出を可能とするいくつかの技術について、以降にて詳述する。
【0025】
第一の技術は、アニーリングの過程において、基材の抵抗率ρを測定することを含む。
【0026】
熱ドナーが発生されるに従って、抵抗率が上昇することを観察することができる。これは、熱ドナーに由来する電子が、基材のホールを補償することに起因する。従って、電荷キャリアの数は、ゼロへと向かう傾向がある。補償状態に到達すると、電荷キャリア(電子)の数が増加することにより、抵抗率が低下する。
【0027】
従って、シリコンの補償状態は、最大抵抗率に対応している。そして、シリコンは、抵抗率が閾値を超える場合、好ましくは200Ω・cm超、およびサンプルの初期抵抗率ρの2倍超、すなわち、熱ドナーを形成するアニーリング前の抵抗率の2倍超である場合に、補償されたと見なすことができる。
【0028】
抵抗率は、四端子法により、または誘導結合を例とする非接触法により、簡便に測定することができる。
【0029】
第二の技術は、導電型を複数回測定することにより、基材の導電型の変化(p型からn型へ)を検出することから成る。
【0030】
導電型の決定は、表面光電圧(SPV)測定法に依存する。そのような測定は、以下の原理に基づいている。レーザーが、基材表面に周期的に適用され、そこに電子‐ホール対が一時的に発生する。表面とプローブとの間の容量結合により、表面電圧を決定することができる。
【0031】
照射下での表面電圧と暗所での表面電圧との間の相違、より具体的にはこの差異の徴候により、サンプルの導電型を決定することができる。SPV法による導電型の測定は、例えば、SEMILAB社から販売されている装置PN‐100によって行われる。
【0032】
図2は、図1のアニーリング工程F1の実施形態を示す。アニーリングは、基材の抵抗率が所定の閾値に達するか、またはそれを超えるまで、複数回の工程で行われる。最初はゼロであるインデックスiを用いて、これらの工程がカウントされる。
【0033】
工程F11において、アニーリングは、時間tにわたって行われる。次に、工程F12では、抵抗率ρが測定される。F13では、測定された抵抗率の値が、補償状態を表す閾値ρと比較される。測定された抵抗率ρが、閾値ρよりも低い場合(F13のアウトプットはNO)、工程F11に戻り、インデックスiが増加される。続いて、新たなアニーリング工程が、時間ti+1にわたって行われる。時間ti+1は、時間tと異なっていてもよい。測定された抵抗率ρが、閾値ρよりも高い場合(F13のアウトプットはYES)、基材に適用されたアニーリングの総継続時間tが、時間t
【数1】
を加算することにより、F14にて算出される。
【0034】
図3は、図2のF12およびF13の工程の別の選択肢としての実施形態を示す。F12において、抵抗率ではなく、導電型が、好ましくはSPV法によって測定される。基材の導電性がp型のものである限り(F13のアウトプットはNO)、工程F11およびF12が繰り返される。しかし、導電性がp型からn型に変化し次第(F13のアウトプットはYES)、累積のアニーリング継続時間tが算出される(F14)。
【0035】
図1の方法の工程F2は、初期電荷キャリア濃度pに基づいて、補償シリコンの熱ドナー濃度NTDDを算出することを含む。これを達成するために、補償シリコン中では、アクセプタ型不純物の濃度が、ドナー型ドーパント不純物の濃度(これらのそれぞれのイオン化度によって重み付けられたもの)の合計に等しいという事実が用いられる。
【0036】
ここでのドナー型不純物は、熱ドナーTDDに、および、可能性として、リンを例とする基材に最初から存在するドナー原子Nに相当する。従って、ドナー原子(N)およびアクセプタ原子(N)のイオン化が1回のみであるという最もよくあるケースでは、以下が得られる。
【数2】
【0037】
熱ドナーは、それが二重にイオン化されることから、二重にカウントされる。
【0038】
この場合、初期電荷キャリア濃度pがN−Nであるため、式(1)は次のようになる。
【数3】
【0039】
従って、式(2)より、基材の初期電荷キャリア濃度pが分かっていれば、継続時間tのアニーリング後に得られる熱ドナー濃度NTDDを算出することができる。
【0040】
従って、熱ドナー濃度NTDDの算出には、最適補償を反映する関係式(2)が用いられる。実際には、この平衡状態をアニーリングの過程で達成することは難しい。従って、アニーリングの継続時間tを決定するために、±20%のオーダーの精度にて、熱ドナーによって発生される電子の濃度(2・NTDD)が初期ホール濃度p(p=αN−βN)に等しい場合に、シリコンは補償された状態であると見なされる。
【0041】
換言すれば、以下の式
【数4】
を満足する場合に、補償状態が達成されたものと見なされる。
【0042】
この近似を用いると、工程F1で測定されるアニーリング継続時間tの値は、それでも、最適補償に相当する値に近いものとなる。
【0043】
工程F3では、工程F1で決定されたアニーリング継続時間t、および工程F2で算出された熱ドナー濃度NTDDから、格子間酸素濃度Cが決定される。
【0044】
格子間酸素濃度Cは、好ましくは、論文"Formation kinetics of oxygen thermal donors in silicon"(Wijaranakula C.A. et al., Appl. Phys. Lett. 59(13), pp. 1608, 1991)に記載の関係から算出される。この論文は、450℃にてアニーリングすることによるシリコン中での熱ドナー形成の反応速度論について述べている。
【0045】
この温度はまた、熱ドナー形成速度と得られる最大濃度との間の良好な妥協点でもである。450℃よりも高い温度は、最大濃度の低下に対して、TDDの形成速度に有利である。従って、高い温度は、酸素濃度が、例えば5・1017cm−3超のように高いことが想定される場合に好ましいはずである。対照的に、450℃よりも低い温度は、最大TDD濃度を上昇させることができ、例えば5・1017cm−3未満のように概算の酸素濃度が低い基材に用いられ得る。
【0046】
酸素濃度に関する予備情報がない場合、450℃に等しいアニーリング温度が好ましく選択されることになる。
【0047】
酸素濃度Cおよびアニーリング継続時間tの関数として熱ドナー濃度NTDDを表す関係式は、以下に提供され、
【数5】
は、格子間酸素拡散係数
【数6】
である。
【0048】
tおよびNTDDが分かれば、基材の格子間酸素濃度Cを算出することができる。
【0049】
別の形として、格子間酸素濃度Cは、様々な酸素濃度Cの値に対する熱ドナー濃度NTDD対アニーリング継続時間tのグラフによって決定することもできる。
【0050】
図4は、関係式(3)に基づき、約450℃のアニーリング温度に対して構築されたこのようなグラフの1つを示す。
【0051】
酸素濃度Cの少しの変化が、熱ドナー濃度NTDDの大きな変化を引き起こしていることが分かる。例として、1時間のアニーリング後、酸素濃度が5・1017cm−3に等しい基材は、2.5・1013TDDcm−3を形成し、一方、酸素濃度がその3倍高い基材は、約100倍多い熱ドナーを形成している。
【0052】
図4のグラフから、任意の濃度NTDDおよび任意のアニーリング時間tに対する、測定された基材領域における酸素濃度Cの値を決定することができる。
【0053】
450℃とは異なるアニーリング温度の場合、特に、論文"Effect of oxygen concentration on the kinetics of thermal donor formation in silicon at temperatures between 350 and 500°C"(Londos C.A. et al., Appl. Phys. Lett. 62(13), pp. 1525, 1993)によって、関係式(3)およびグラフを適合させることができる。この論文も、350℃から500℃の範囲のアニーリング温度に対するシリコン中での熱ドナー形成の反応速度論について述べるものであった。
【0054】
工程F2で行われるNTDDの算出では、電荷キャリア濃度pの値が分かっていることが必要である。この値は、一般的には、基材の供給業者から提供される。そうでない場合、これは、図1の方法の追加工程で決定することができる。
【0055】
図5は、決定方法の追加工程を示しており、そのうちの1つにより、電荷キャリア濃度pを決定することができる。
【0056】
濃度pが未知である場合、工程F0’において、アニーリング前に基材の初期抵抗率を測定してよい。次に、この測定により、電荷キャリア(ホール)の濃度pを、以下の関係式によって算出することができ、
【数7】
qは、素電荷であり(q=1.6・10−19C)、μは、シリコン中のホールの移動度である。
【0057】
このような関係式は、基材がアクセプタ原子を本質的に含む場合(p=N)、すなわち、初期ドナー原子濃度Nがゼロまたは無視できる程度である場合にのみ、有効である。初期ドナー原子濃度Nは、それがアクセプタ型ドーパント不純物の濃度Nの5分の1より低い場合(N≦1/5・Nまたは5・N≦N)、無視できる程度であると見なされる。
【0058】
基材が、ドナーおよびアクセプタの両方のドーパント型を最初に有し(p=N−N)、濃度Nが、濃度Nの5分の1よりも高い場合(5・N≧N)、pは、ホール効果測定または吸収分光法などのその他の方法で決定される。
【0059】
基材が、その初期状態において、pの値を誤らせる可能性のある熱ドナーを含んでいないことを確認するために、F0にて、650℃以上の高い温度でアニーリングを行うことが好ましい。これにより、酸素の析出物(またはTDD熱ドナー)が不安定化され、それらが除去される。その後、酸素原子は、その格子間位置に戻る。従って、pおよびρは、そのようなアニーリングの後に測定される。
【0060】
アニーリングF0は、さらに、濃度pが既知であっても、熱ドナー濃度NTDDが最初はゼロであることを確認するために行ってよい。
【0061】
そのようなアニーリングはまた、所望される領域中での格子間酸素濃度を決定した後(F3)、プロセスの最後のF4でも用いられることが好ましい。このアニーリング工程F4により、基材はその初期状態に戻り、再度使用することが可能となる。
【0062】
例として、熱ドナー解離アニーリング(thermal donor dissociation annealing)(F0)を、650℃にて30分間、ホウ素ドープシリコンウェハに適用する。四端子法によって測定されたウェハの抵抗率は(F0’)、およそ18.8Ω・cmに等しく、これは、7.2・1014cm−3のオーダーの初期ホール濃度p(またはホウ素濃度N)に相当する(式(4):この物質は、低ドナー原子濃度を有する:N<1013cm−3)。
【0063】
次に、このウェハに、シリコンが補償状態となるまで、450℃にて15分ごとの複数のアニーリング工程(F11)を施す。導電型(図3;F12)を、各アニーリング工程の後に、SEMILABの装置であるPN‐100を用いたSPV法によって測定する。
【0064】
補償シリコンを得るための総アニーリング時間は、4.5時間である。従って、4.5時間のアニーリングの後、ウェハの熱ドナー濃度NTDDは、3.6・1014cm−3(p/2)である。関係式(3)から算出された格子間酸素濃度は、7・1017cm−3に等しく、FTIRで得られた値(6・1017cm−3から9・1017cm−3)と一致している。
【0065】
図1に示す決定方法は、それが単純な特性決定技術を実行するものであることから、実施に時間が掛からず、容易である。さらにそれは、格子間酸素濃度Cの値に対して、5%のオーダーの良好な精度を有する。
【0066】
この方法は、有利には、基材の複数の領域に適用して、その全体のマッピングを行うことができる。基材の各領域は、次に、その領域が補償されるためのアニーリング継続時間t、および関連する熱ドナー濃度NTDD(NTDD=p/2)と関連付けられる。続いて、格子間酸素濃度が、基材の各領域に対するこの1組の値(t、NTDD)から算出される。このようなマッピングは、次に、デバイス製造の最適化に用いることができる。
【0067】
熱ドナー濃度NTDDは、既に述べたように、初期電荷キャリア濃度pからの算出工程によって決定することができる。しかし、その他の技術、特には、アニーリング工程の後(前ではなく)に測定されたサンプルの電荷キャリア濃度から濃度NTDDを決定する技術、を用いてもよい。この技術は、以下の通りである。
【0068】
工程F2の別の選択肢としての実施形態において、補償シリコンの熱ドナー濃度NTDDは、サンプルが導電型を変化させた直後に測定された電荷キャリア濃度から決定される。
【0069】
p型からn型に変化した後の電荷キャリア濃度は、以降、nで表す。それは、複数のサンプル温度Tに対して、例えばホール効果によって測定される。次に、これらの温度測定から、実験曲線n(T)が得られる。
【0070】
温度に対するnの理論式は、以下の通りであり、
【数8】
式中、NおよびNは、アクセプタおよびドナードーパント濃度であり、Nは、伝導帯の状態密度であり、Eは、フェルミ準位のエネルギーであり、Eは、ドナー型ドーパントのエネルギー準位であり、kは、ボルツマン定数であり、Tは、サンプル温度である。
【0071】
α(T)およびβ(T)は、以下の式で提供され、
【数9】
式中、E=E−70meV、およびE=E−150meVである。
【0072】
熱ドナー濃度NTDDは、式(5)および(6)によって提供される理論曲線を、温度測定から得られる実験曲線n(T)と一致させることによって決定される。換言すれば、式(5)および(6)のN、N、およびNTDDの数値は、測定値のプロットn(T)にこの理論曲線を重ね合わせるまで変化する。
【0073】
当業者であれば、本明細書で述べた決定方法の多くの変形および変更が考えられるであろう。シリコン基材に関連してこの方法を説明してきた。しかし、この方法はまた、その他のIV族半導体、特にゲルマニウムまたはシリコン‐ゲルマニウム基材にも適用することができる。実際、ゲルマニウムも、熱ドナーが酸素の存在下で形成され得る半導体である。
図1
図2
図3
図4
図5