【実施例】
【0025】
以下に本発明を具体的試験例、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。
なお、下記の試験例及び実施例に記載する「メペンゾラート」はメペンゾラート臭化物を意味する。
また、各図中記載された「PPE」はブタ膵臓エラスターゼ(porcine pancreatic elastase)を意味し、「Mep」はメペンゾラートを意味する。
【0026】
以下の試験例における経気道投与及び吸入投与、また、エランタンス(elastance)測定、FEV
0.05/FVC測定は、以下の方法で行った。
【0027】
経気道投与:
抱水クロラールで麻酔したマウスに、ブタ膵臓エラスターゼ100μg/マウス、及び各投与量のメペンゾラートを、30μL/マウスのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、この溶液を、マイクロピペットを用いて経気道注入を行った。
なお、コントロールマウスにはPBSのみを投与した。
【0028】
吸入投与:
マウスをチャンバーに入れ、10mLのPBSに溶解したメペンゾラートを、超音波ネブライザー(NE-U07、オムロン社製)をチャンバーに接続し、メペンゾラート溶液の全量を30分かけて噴霧した。
なお、コントロールマウスにはPBSだけを噴霧した。
各マウスは、噴霧完了後10分間チャンバーに閉じ込めた。
【0029】
エラスタンス(elastance)測定:
肺機能と気道抵抗の測定は、コンピューター制御小動物用人工呼吸器(Computer-controlled small-animal ventilator、FlexiVent、SCIREQ社)を使用して行った。
マウスを抱水クロラールで麻酔し、気管切開手術を行い、8mmの金属製チューブを気管内に挿入した。マウスは8.7mL/kgの体積と活性最終呼気圧力2〜3cmH
2Oで、1分間に150回の呼吸数で通気した。
肺全体エラスタンスは、スナップショット法(snap shot technique)で測定し、肺細胞エランタンスは、強制振動法(forced oscillation technique)で測定した。
データ分析は、FlexiVentソフトウエアで行った。
【0030】
FEV0.05/FVC測定:
最初の0.05秒における強制呼気量(forced expiratory volume、FEV)と努力肺活量(forced vital capacity、FVC)の比率(FEV
0.05/FVC)の測定は、陰圧貯蔵器(negative pressure reservoir、SCIREQ社)に接続された前記のコンピューター制御小動物用人工呼吸器を用いて実施した。
FEV
0.05/FVCは、FlexiVentソフトウエアで測定した。
【0031】
試験例1:ブタ膵臓エラスターゼ誘発の肺気腫及び肺機能変化に対するメペンゾラートの気管内投与の効果
<方法>
4〜6週齢のICRマウスに、一匹あたり100μgのブタ膵臓エラスターゼを1回経気道投与を行い、肺気腫及び肺機能変化の肺傷害モデルを作成した。
このマウスに、メペンゾラートの各投与量を経気道投与(μg/kg)及び吸入投与(μg/chamber)を、1日1回14日間(0日〜13日目)行い、14日目にマウスを安楽死させ肺組織切片を作成し、H&E染色(ヘマトキシリン・エオシン染色)を行い、電子顕微鏡撮影により染色像を得た。
【0032】
その結果を
図1(経気道投与)及び
図4(吸入投与)に示した(スケールバー:500μm)。
上記で得られたH&E染色像から、細胞中の空隙間隔(Airspace size)を平均肺胞径(Mean Linear Intercept。MLI;μm)として測定した。
その結果を
図2(経気道投与)及び
図5(吸入投与)に示した。
次に、14日目に肺全体エラスタンス(Total respiratory system elastance)と肺細胞エラスタンス(Tissue elastance)を上記のエラスタンス(elastance)測定に記載された方法により測定した。
その結果を
図3(経気道投与)及び
図6(吸入投与)に示した。
【0033】
<結果>
図1、2及び
図4、5に示した結果から判明するように、メペンゾラートの経気道投与、及び吸入投与のいずれの投与においても、平均肺胞径が抑制され肺胞壁の損傷が改善されていた。なかでも吸入投与の方が、やや抑制効果が優れていた。
図3及び6に示した結果から判明するように、メペンゾラートの経気道投与及び吸入投与のいずれの投与においても、肺全体エラスタンスと肺細胞エラスタンスが有意に改善されていた。
以上の結果から、メペンゾラートは、経気道投与及び吸入投与のいずれの投与においても、エラスターゼ誘発の肺傷害を有意に改善することが判明した。
【0034】
試験例2:ブタ膵臓エラスターゼで前処理されて発生した肺気腫及び肺機能変化に対するメペンゾラートの効果
<方法>
4〜6週齢のICRマウスを使用して、試験例1と同様の方法でブタ膵臓エラスターゼ処理をしたあと、処理後14日目から20日目まで各投与量(μg/kg)のメペンゾラートを1日1回、経気道投与した。その後マウスを安楽死させて肺組織切片を作成し、H&E染色を行い電子顕微鏡撮影により染色像を得た。
その結果を
図7に示した(スケールバー:500μm)。
次に、得られたH&E染色像から、細胞中の空隙間隔を平均肺胞径として測定した。
その結果を
図8に示した。
次いで、21日目に肺全体エラスタンスと肺細胞エラスタンスを試験例1と同様の方法により測定した。
その結果を
図9に示した。
【0035】
<結果>
図7及び8に示した結果から判明するように、メペンゾラートの経気道投与においては、投与量依存的に平均肺胞径が抑制され肺胞壁の損傷が改善されていた。平均肺胞径は試験例1の同時投与のときよりも上昇していた。
図9に示した結果から判明するように、メペンゾラートの経気道投与において、肺全体エラスタンスと肺細胞エラスタンスが有意に改善されていた。
以上の結果より、ブタ膵臓エラスターゼの前投与することにより肺傷害に罹患したマウスにおいて、メペンゾラートの経気道投与は平均肺胞径を改善し、肺全体と肺細胞のエラスタンスを改善していた。
【0036】
試験例3:ブタ膵臓エラスターゼ誘発による肺機能低下におけるムスカリン拮抗薬との効果(FEV0.05/FVC)の比較
<方法>
試験例1と同様に、4〜6週齢のICRマウスをブタ膵臓エラスターゼで処理した。このマウスにメペンゾラート、イプラトロピウム、スコポラミン、及びピレンゼピンの各38μg/kgを、1日1回11日間経気道投与を行った。14日目にFEV
0.05/FVCを、上記のFEV
0.05/FVC測定に記載された方法により測定した。
その結果を
図10に示した。
なお、図中、「Ipra」はイプラトロピウムを、「Scop」はスコポラミンを、「Pire」はピレゼピンを意味する。
【0037】
<結果>
図10に示した結果から判明するように、メペンゾラートは、PPE投与により減少したFEV
0.05/FVCの肺活量において有効に回復効果を示した。一方、ムスカリン拮抗作用を示す既存薬であるイプラトロピウム(Ipra)、スコポラミン(Scop)並びにピレンゼピン(Pire)においては有意な回復効果はみられなかった。メペンゾラート、イプラトロピウム、スコポラミン、ピレンゼピンはいずれもムスカリン拮抗作用(抗コリン作用)を有することが知られているが、イプラトロピウム、スコポラミン、ピレンゼピンにはFEV
0.05/FVC作用は認められず、メペンゾラートにのみFEV
0.05/FVC作用が認められた。このことは、メペンゾラートがムスカリン拮抗作用(抗コリン作用)とは異なる作用機序により肺活量を改善していることを示唆している。
【0038】
試験例4:メタコリン誘発の気道収縮(airway constriction)に対するメペンゾラートの効果
<方法>
メタコリン誘発による気道抵抗(airway resistance)の上昇測定を行った。4〜6週齢のICRマウスに、1mg/mLのメタコリンの20秒間の噴霧投与を5回行った。メタコリン投与終了後、スナップショット法(snap shot technique)により、気道抵抗を測定した。全てのデータは、FlexiVentソフトウエアを用いて解析した。
メペンゾラートの各投与量(μg/kg)を経気道投与を行い、投与1時間後に、マウスを噴霧化されたメタコリンに5回曝し、その時の各投与量における気道抵抗を測定した。
その結果を
図11に示した。
また、投与量を38μg/kgとしてメペンゾラートを投与し、薬物投与6時間後、24時間後、48時間後に、マウスを噴霧化されたメタコリンに5回曝し、各時間における気道抵抗を測定した。
その結果を
図12に示した。
【0039】
<結果>
図11に示した結果から判明するように、メペンゾラートは、0.04、0.08、0.38、3.8、38.0μg/kgにおいてほぼ投与依存的に気道抵抗を低下させていた。
図12に示した結果から判明するように、メペンゾラートは、投与24時間後においても気道抵抗を低下させていた。
以上より、メペンゾラートは、メタコリン誘発の気道抵抗(気道収縮)に対して優れた効果を示していた。
【0040】
試験例5:ブタ膵臓エラスターゼ誘発の炎症に対するメペンゾラートの効果
<方法>
4〜6週齢のICRマウスに、各投与量のメペンゾラートを1回経気道投与した。メペンゾラート投与1時間後にブタ膵臓エラスターゼ100μg/マウスを投与した。ブタ膵臓エラスターゼ投与24時間後に気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid、BALF)を肺から採取し、細胞総数及び好中球数を測定した。その結果を
図13に示した。また、メペンゾラートの38μg/kgを経気道投与したときの気管支肺胞洗浄液中のTNF−α、MIP−2、MCP−1及びKCの総数を、ELISA法により測定し、結果を
図14に示した。
【0041】
<結果>
図13に示した結果から判明するように、BALF中の総細胞数及び好中球数がメペンゾラートの投与量依存的に減少していた。
図14に示した結果から判明するように、BALF中のTNF−α、MIP−2、MCP−1、KCの総数がメペンゾラートの38μg/kgの投与量により減少していた。
以上の結果より、メペンゾラートがブタ膵臓エラスターゼにより発症した炎症症状に対して有効であることが判明した。
【0042】
試験例6:喫煙に起因する肺気腫及び肺機能変化に対するメペンゾラートの効果
<方法>
5週齢のDBA/2マウスに、1日3回の喫煙と1日1回のメペンゾラート38μg/kgの同時投与を、1週間に5日間(月曜日〜金曜日)、6週間行った。最終週は喫煙のみを行った。
マウスへの喫煙は、以下の方法で行った。45Lのチャンバーへ15〜20匹のマウスを入れ、チャンバーをタバコ発煙装置に接続し、28mgのタールと2.3mgのニコチンを生成する市販のフィルターのないダバコを使用して35分間で1本吸わせ、それを1日3回週5日間、それを6週間続けた。タバコは5分間に15回吸引させた。メペンゾラートはマウスに吸入投与した。
喫煙終了後、マウスを安楽死させ肺組織切片を作成し、H&E染色を行い、電子顕微鏡撮影により染色像を得た。
その結果を
図15に示した(スケールバー:500μm)。
上記で得られたH&E染色像から、細胞中の空隙間隔を平均肺胞径として測定した。その結果を
図16に示した。
次に、肺全体エラスタンスと肺細胞エラスタンスを試験例1と同様の方法により測定した。その結果を
図17に示した。
図中、[CS]は、喫煙(cigarette smoke)を意味する。
【0043】
<結果>
図15及び16に示した結果から判明するように、メペンゾラート投与により平均肺胞径が抑制され肺胞壁の損傷が改善されていた。
図17に示した結果から判明するように、メペンゾラート投与により肺全体エラスタンスと肺細胞エラスタンスが有意に改善されていた。
以上より、メペンゾラートは、喫煙に起因する肺傷害を、有意に改善することが判明した。
【0044】
試験例7:経口投与におけるブタ膵臓エラスターゼ誘発の肺気腫及び肺機能変化に対するメペンゾラートの効果
<方法>
4〜6週齢のICRマウスに、100μg/マウスのブタ膵臓エラスターゼを1回経気道投与した。次いで、メペンゾラートの各投与量(mg/kg)を1日1回14日間、経口投与した。投与後肺組織切片を取り出し、その後は試験例1と同様の方法により、H&E染色、そのMLI測定、エラスタンス測定を行った。
それらの結果を
図18〜20に示した。
【0045】
<結果>
図18〜20に示した結果から判明するように、メペンゾラートは経口投与によっても肺傷害を改善することが判明した。
【0046】
試験例8:直腸内投与におけるブタ膵臓エラスターゼ誘発のCOPDモデルに対するメペンゾラートの効果
<方法>
4〜6週齢のICRマウスに、100μg/マウスのブタ膵臓エラスターゼを1回経気道投与し、肺傷害を作成させた。
各濃度のメペンゾラートを1日1回直腸内投与し、3日後に肺胞洗浄液を回収し、全細胞数をカウントした。また、細胞をディフクイック法により染色し好中球数をカウントした。
その結果を
図21に示した。
さらに、メペンゾラートの各投与量(mg/kg)を1日1回14日間、直腸内投与した。投与後、肺組織切片を取り出し、その後は試験例1と同様の方法により、H&E染色、そのMLI測定、エラスタンス測定を行った。
それらの結果を
図22〜24に示した。
【0047】
<結果>
図21に示した結果から判明するように、メペンゾラートは直腸内投与によって炎症性細胞の減少が見られ、有意に抗炎症作用を有していることが判明した。
また、
図22〜24に示した結果から判明するように、メペンゾラートは直腸内投与によってもエラスターゼ誘発の肺傷害を改善することが判明した。
【0048】
試験例9:直腸内投与におけるメタコリン誘発の気道収縮に対するメペンゾラートの効果
<方法>
メペンゾラートの各投与量(mg/kg)を直腸内投与し、試験例4と同様の方法により、メタコリン誘発による気道抵抗の測定を行った。
その結果を
図25に示した。
【0049】
<結果>
図25に示した結果から判明するように、メペンゾラートは直腸内投与によってもメタコリン誘発の気道抵抗に対して優れた効果を示した。
【0050】
以下に、本発明のCOPD改善剤の具体的製剤例を示す。
【0051】
実施例1:吸入剤
メペンゾラート臭化物1%(w/w)、塩化ベンザルコニウム0.05%(w/w)、ポリエチレングリコール10%(w/w)、プロピレングリコール20%(w/w)、残部精製水で吸入用液剤を調製する。
【0052】
実施例2:錠剤
メペンゾラート臭化物 50mg
乳糖 146mg
ヒドロキシプロピルセルロース 150mg
ステアリン酸マグネシウム 4mg
上記処方を基本とし、顆粒を調製後、打錠し重量350mgの錠剤を、常法により調製した。
【0053】
実施例3:注腸剤
メペンゾラート臭化物1mgを水1mLに溶解し、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを適量添加することにより、注腸剤を調製した。