特許第6013470号(P6013470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013470
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】タンパク質ディスプレイの方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20161011BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20161011BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20161011BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C12Q1/02ZNA
   C12N15/00 A
   C12Q1/70
   C12N1/21
【請求項の数】47
【全頁数】65
(21)【出願番号】特願2014-517332(P2014-517332)
(86)(22)【出願日】2012年6月28日
(65)【公表番号】特表2014-520507(P2014-520507A)
(43)【公表日】2014年8月25日
(86)【国際出願番号】AU2012000761
(87)【国際公開番号】WO2013000023
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2015年5月20日
(31)【優先権主張番号】2011902568
(32)【優先日】2011年6月29日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】512165134
【氏名又は名称】アフィニティ バイオサイエンス ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ビースレー,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】キーフェル,ベン
【審査官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−531206(JP,A)
【文献】 米国特許第04788135(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子に対する所望の活性に対しポリペプチドをスクリーニングする方法であって、
a)グラム陰性細菌細胞内でポリペプチドを産出するように、ポリペプチドをコード化する外因性ポリヌクレオチドを含むグラム陰性細菌細胞を培養する工程と、
b)溶菌-欠損ファージが、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをパッケージ化するようにする工程であって、前記溶菌-欠損ファージを細菌細胞内に保持する工程と、
c)i)細菌細胞の外膜又はii)細菌細胞の内膜及び外膜、を透過処理する工程と、
d)細菌細胞を標的分子と接触させる工程と、
e)所望の活性に対してポリペプチドをスクリーニングする工程と、を含み、
前記ポリペプチドは、細菌細胞の細胞壁又は内膜によって細菌細胞内に保持される、及び/又は、前記ポリペプチドは、細菌細胞の細胞壁又は内膜に結合する、方法。
【請求項2】
前記細菌細胞の内膜及び外膜を透過処理する工程を含む、請求項1の方法。
【請求項3】
前記ポリペプチドは、少なくとも第2ポリペプチドと結合することにより、透過処理された細菌細胞内に保持されるタンパク質複合体、及び/又は、細菌細胞壁に結合するタンパク質複合体を形成する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリペプチドは、第2ポリペプチド又はそのサブユニットに結合している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2ポリペプチドは、
i)タンパク質複合体が透過処理された細菌細胞壁内に保持されるような分子サイズを有するポリペプチド;
ii)DNA結合タンパク質
iii)細菌細胞壁結合タンパク質、及び/又は
iv)溶菌-欠損ファージのファージコートタンパク質から選択される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記細菌細胞の内膜及び外膜は、1以上の界面活性剤又は有機溶媒で透過処理される、請求項2から5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記非イオン性界面活性剤は、デカノイル−N−メチルグルカミド(Mega10)、ジメチルオクチルホスフィンオキシド(Apo8)、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド(8TGP)、並びに、デカノイル−N−メチルグルカミド(Mega10)及びジメチルオクチルホスフィンオキシド(Apo8)の混合物から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶媒は、クロロホルムである請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌細胞の内膜及び外膜は、クロロホルム飽和水溶液中で細菌細胞を培養することによって透過処理される、請求項9の方法。
【請求項11】
前記細菌細胞は、約25℃で約10分間、クロロホルム飽和水溶液中で培養される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
i)前記細菌細胞の外膜は、透過処理され;
ii)前記細菌細胞壁は、少なくとも一部が加水分解され;
iii)前記ポリペプチドは、前記内膜に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細菌細胞は、少なくとも一部がリゾチームで加水分解される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリペプチドは、前記内膜に結合するタンパク質に結合する、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリペプチドは、前記内膜の外表面に結合する、請求項12から14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドは、プラスミド、コスミド、ファージミド又はファージDNAである、請求項1から15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記溶菌-欠損ファージは、ラムダファージ、186、P2、186及びP2のハイブリッド、並びにP4から選択される溶原性ファージである、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記溶菌-欠損ファージは、プロファージである、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記細菌細胞は、溶菌-欠損ラムダ、186、P2、182及びP2のハイブリッド、及び/又はP4プロファージを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細菌細胞は、P2及びP4プロファージを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記溶菌-欠損ファージがポリヌクレオチドをパッケージ化するようにする工程は、ファージを作製するように細菌細胞中のプロファージの活性を誘導する工程を含み、
前記ファージは、ポリヌクレオチドをパッケージする、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
プロファージの活性を誘導する工程は、前記細菌細胞中の1以上のファージアクチベータ・タンパク質を作製する工程を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記細菌細胞は、P2及びP4プロファージを含み、
前記方法は、前記細菌細胞中にP2及び/又はP4活性タンパク質を作製する工程を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記P2及び/又はP4活性タンパク質は、1以上の、P2cox、P2ogr、P4δ及び/又はP4εから選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記プロファージの活性を誘導する工程は、1以上のファージリプレッサー・タンパク質を培養する工程を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記細菌細胞は、P2及び/又はP4プロファージを含み、
前記P2プロファージの活性を誘導する工程は、前記細菌細胞中のP2タンパク質Cの温度感性リプレッサー対立遺伝子を不活性にする工程を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ファージは、リゾチーム遺伝子の不活性形への欠失若しくは変位株に起因して、又はホリン遺伝子及びリゾチーム遺伝子の不活性形への欠失若しくは変位株に起因して、溶菌欠損である、請求項23から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記P2プロファージリゾチーム遺伝子は、SEQ ID NO:17を含むヌクレオチド配列を含み、
前記P2ホリン遺伝子は、SEQ ID NO:18を含むヌクレオチド配列を含む、請求項23から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記細菌細胞は、ラムダプロファージを含み、
前記プロファージの活性を誘導する工程は、前記細菌細胞中のタンパク質cIの温度感性リプレッサー対立遺伝子を不活性にする工程を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記細菌細胞は、ラムダプロファージを含み、
前記ラムダプロファージの活性を誘導する工程は、前記細菌細胞中のラムダファージリプレッサータンパク質cIの温度感性リプレッサー対立遺伝子を不活性にする工程を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記細菌細胞は、186プロファージを含み、
前記186プロファージの活性を誘導する工程は、前記細菌細胞中の186タンパク質cIの温度感性リプレッサー対立遺伝子を不活性にする工程を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記方法は、グラム陰性細菌細胞中の標的分子に対する所望の活性に対しポリペプチドを追加スクリーニングする工程をさらに含み、
i)前記ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドは、溶菌-欠損ファージにパッケージされていない、及び/又は、
ii)前記ポリペプチドは、細菌細胞壁によって細菌細胞内に保持されておらず、及び/又は、細菌細胞壁に結合していない、請求項1から31に記載の方法。
【請求項33】
前記追加スクリーニングは、請求項1から31のいずれか一項の方法の前に実行される、請求項32の方法。
【請求項34】
前記追加スクリーニングは、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをパッケージするために溶菌ファージ又は溶原性ファージを用いることによって実行される、請求項32又は33に記載の方法。
【請求項35】
前記追加スクリーニングにおける細菌細胞は、溶解してファージを放出する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記追加スクリーニングにおけるファージは、細菌細胞を溶解する溶菌ファージである、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
i)前記溶菌ファージは、ファージコート上の第1結合パートナーを含み、
ii)所望の活性に対しスクリーニングされるポリペプチドは、第2結合パートナーを含む融合タンパク質であり、
前記第2結合パートナーを含む融合タンパク質は、溶菌ファージコート上の第1結合パートナーと結合する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記溶菌ファージは、ラムダファージである、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項39】
前記溶菌ファージは、186、P2、186及びP2のハイブリッド、及び/又はP4である、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
前記第1結合パートナーは、カルモデュリンであり、
前記第2結合パートナーは、カルモデュリン結合ペプチドである、請求項37から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
標的分子に対する所望の活性に対しポリペプチドをスクリーニングする方法であって、
a)ポリペプチドを産出するように、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含むグラム陰性細菌細胞を培養する工程と、
b)クロロホルムで細菌細胞の内膜及び外膜を透過処理し、透過処理した細菌細胞の内側にポリペプチド及びポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを保持する工程と、
c)透過処理した細菌細胞に標的分子が拡散するように、透過処理した細菌細胞を標的分子に接触させる工程と、
d)所望の活性に対してポリペプチドをスクリーニングする工程とを含む方法。
【請求項42】
標的分子に対する所望の活性に対しポリペプチドをスクリーニングする方法であって、
a)ポリペプチドが産出されて細菌細胞壁に結合するように、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含むグラム陰性細菌細胞を培養する工程と、
b)クロロホルムで細菌細胞の内膜及び外膜を透過処理し、透過処理した細菌細胞の内側にポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを保持する工程と、
c)透過処理した細菌細胞を標的分子に接触させる工程と、
d)所望の活性に対してポリペプチドをスクリーニングする工程とを含む方法。
【請求項43】
工程d)は、
i)ポリペプチドが、標的分子に結合しているか、及び/又は、結合する程度、を確認する工程、及び/又は
ii)ポリペプチドが、標的分子を酵素修飾するか、及び/又は、酵素修飾の程度を、確認する工程、を含む、請求項41又は42に記載の方法。
【請求項44】
前記ポリペプチドは、少なくとも第2ポリペプチドと結合し、
透過処理した細菌細胞壁の内側に保持するタンパク質複合体、及び/又は、細菌細胞に結合するタンパク質複合体を形成する請求項41から43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
前記ポリペプチドは、第2ポリペプチド又は第2ポリペプチドのサブユニットに溶解する請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記第2ポリペプチドは、
i)タンパク質複合体が透過処理された細菌細胞壁内に保持されるような分子サイズを有するポリペプチド;
ii)DNA結合タンパク質
iii)細菌細胞壁結合タンパク質、及び/又は
iv)ファージコートタンパク質から選択される請求項44又は45に記載の方法。
【請求項47】
a)請求項1から46のいずれか一項記載の方法を用いてポリペプチドライブラリーをスクリーニングする工程と、
b)所望の活性を有する1以上のポリペプチドを選択する工程とを含む所望の活性を有するポリペプチドを特定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子に対する所望の活性に対して、ポリペプチドをスクリーニングするための方法に関する。特に、本発明は、グラム陰性細菌細胞中のポリペプチドを発現し、当該細胞を透過処理することにより、標的分子に対する所望の活性に対してポリペプチドをスクリーニングするための方法に関する。本発明は、細菌細胞中の遺伝子ライブラリをパッケージする方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
最も初期のタンパク質ディスプレイの方法は、ファージディスプレイ(Smith,1985)であり、この方法は、対象のタンパク質を、タンパク質の野生型コピーとともに存在し得るファージの外皮タンパク質の1つに融合させる。例えば、ディスプレイ基本骨格は、gIIIタンパク質に対する融合を用いたM13繊維状ファージを基礎としていた。
【0003】
他のディスプレイ法としては、「体外での」ディスプレイ法が挙げられ、この方法は、細胞翻訳抽出物を用いてタンパク質を発現し、物理的結合(例えば、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイ)によるか、又は通常のスカフォールドへの付着若しくは膜内への封入により、例えば体外での区画化(IVC)でタンパク質とコーディング核酸との間のカップリングを達成する。当該IVCにおいて、mRNAは、mRNA及びタンパク質両方のマイクロビーズ(磁気又はセファロース)キャプチャシステムも含み得るミセル懸濁液内で翻訳される。
【0004】
タンパク質ディスプレイの別の方法としては、微生物表面ディスプレイがあり、これは、グラム陰性、グラム陽性真正細菌又は酵母のいずれかの微生物細胞外側に対して発現するタンパク質の標的配置を含む。当該タンパク質は、細胞表面にそれらを付着させるアンカードメインに融合される。アンカードメインは、脂質化若しくは細胞壁への共有結合を要求するモチーフを有してもよいし、露出したループ領域内の内在性膜タンパク質に対する融合物であってもよい。産生の拡張が原因で、微生物表面ディスプレイは、多様なライブラリから改善されたタンパク質変異体に対してスクリーニングするために用いるだけでなく、ワクチン接種用の抗原を提示するため、又は、工業バイオテクノロジーの酵素用細胞スカフォールドとして用いてもよい。
【0005】
タンパク質ディスプレイ方法は、通常、抗体などの親和性タンパク質の進化に適用される。単一分子ディスプレイ法は、歴史的に最も普及しているが、バックグラウンドが高く、かつ親和性スケール間の分解能が低いことに悩まされている。たとえ、細胞質での発現に対して周辺質収量が非常に低くても、体外でのディスプレイ又はファージ系により同定するタンパク質は、通常、大腸菌(E.coli)周辺質における発現に向けて再編成される。しかしながら、細胞質内で抗体が高収率で発現する場合、ほぼ全ての場合に、抗体は、活性に関して苦労して再度重畳及びテストしなければならない不溶性封入体を形成する。
【0006】
このように、特に、親和性タンパク質ディスプレイライブラリ及び酵素ライブラリーをスクリーニングするためのタンパク質ディスプレイの方法の要請が存在している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Smith (1985) Science, 228:1315-1317
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、グラム陰性細菌細胞の細胞質中に作製されるポリペプチドを所望の活性に対してスクリーニングするタンパク質ディスプレイの方法を開発し、さらに、当該ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを、細菌細胞内にも保持される溶菌-欠損ファージ内にパッケージされることを開発した。1以上の細菌細胞膜は透過処理され、それにより、細菌細胞は所望の活性に対してスクリーニングするために、標的分子と接触し得る。
【0009】
したがって、本発明は、標的分子に対する所望の活性に対しポリペプチドをスクリーニングする方法であって、
a)ポリペプチドを産出するように、ポリペプチドをコード化する外因性ポリヌクレオチドを含むグラム陰性細菌細胞を培養する工程と、
b)溶菌-欠損ファージが、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをパッケージ化するようにし、前記溶菌-欠損ファージを細菌細胞内に保持する工程と、
c)i)細菌細胞の外膜又はii)細菌細胞の内膜及び外膜、を透過処理する工程と、
d)細菌細胞を標的分子と接触させる工程と、
e)所望の活性に対してポリペプチドをスクリーニングする工程と、を含み、
前記ポリペプチドは、細菌細胞の外壁又は内膜によって細菌細胞内に保持される、及び/又は、前記ポリペプチドは、細菌細胞の外壁又は内膜に結合する方法を提供する。
【0010】
ある実施形態において、ポリペプチドは、細菌細胞壁によって細菌細胞の細胞質内に発現され、及び保持されていてもよい。このため、ある実施形態において、細菌細胞の内膜及び外膜を透過処理する工程を含んでいてもよい。
【0011】
ポリペプチドは、透過処理された内膜及び外膜を含む細菌細胞内に無傷細胞によって保持されるほど十分な大きさであってもよい。また、ポリペプチドが十分に小さい大きさである場合、無傷細胞を通じてポリペプチドが拡散してもよい。細菌細胞を通じたポリペプチドの拡散を防止するために、ある実施形態において、ポリペプチドは、透過処理された細菌細胞内に保持されるタンパク質複合体、及び/又は、細菌細胞壁に結合するタンパク質複合体を形成するために、少なくとも第2ポリペプチドと結合する。ある実施形態において、ポリペプチドは、第2ポリペプチド又はそのサブユニットに結合している。
【0012】
ある実施形態において、第2ポリペプチドは、
i)タンパク質複合体が透過処理された細菌細胞壁内に保持されるような分子サイズを有するポリペプチド;
ii)DNA結合タンパク質
iii)細菌細胞壁結合タンパク質、及び/又は
iv)溶菌-欠損ファージのファージコートタンパク質、から選択される。
【0013】
任意の適した方法としては、細菌細胞膜の内膜及び外膜を透過処理することを用いてもよく、ある実施形態において、細菌細胞の内膜及び外膜は、1以上の界面活性剤又は有機溶媒で透過処理される。
【0014】
ある実施形態において、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である。
【0015】
別の実施形態において、非イオン性界面活性剤は、デカノイル−N−メチルグルカミド(Mega10)、ジメチルオクチルホスフィンオキシド(Apo8)、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド(8TGP)、並びに、デカノイル−N−メチルグルカミド(Mega10)及びジメチルオクチルホスフィンオキシド(Apo8)の混合物から選択される。
【0016】
また別の実施形態として、細菌細胞の内膜及び外膜は、クロロホルムのような有機溶媒で透過処理されていてもよい。例えば、ある実施形態において、細菌細胞の内膜及び外膜は、クロロホルムで飽和した水溶液中で細菌細胞を培養することによって透過処理される。
【0017】
ある実施形態において、細菌細胞は、約25℃で約10分間、クロロホルムで飽和した水溶液中で培養される。
【0018】
本発明の別の実施形態において、ポリペプチドは、細菌細胞中で作製され、細菌細胞の内膜に結合している。このため、細菌細胞の外膜は透過処理されており、細菌細胞壁は、少なくとも部分的に加水分解されている一方で、内膜は無傷のまま残されている。
【0019】
したがって、本発明の方法の1つの実施形態においては、
i)細菌細胞の外膜は、透過処理され;
ii)細菌細胞壁は、少なくとも一部が加水分解され;
iii)ポリペプチドは、内膜に結合している。
【0020】
ある特定の実施形態において、細菌細胞は、少なくとも部分的にリゾチームで加水分解される。
【0021】
さらなる実施形態において、ポリペプチドは、内膜に結合しているタンパク質に溶解している。ある特定の実施形態において、ポリペプチドは、内膜の外表面に結合している。
【0022】
さらに別の実施形態において、ポリペプチドは、バクテリオファージコートタンパク質に結合している。ある特定の実施形態において、ポリペプチドは、ラムダバクテリオファージカプシドタンパク質、gpDのいずれかの端部に溶解している。別の実施形態において、ポリペプチドは、P2バクテリオファーカプシドタンパク質gpLのN端末側終端に溶解している。
【0023】
ポリペプチドをコード化するDNAは、ゲノムDNA及び/又はエピソームDNAであってもよい。ある実施形態において、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドは、プラスミド、コスミド、ファージミド又はファージDNAである。
【0024】
ある実施形態において、溶菌-欠損ファージは、ラムダファージ、186、P2、186及びP2のハイブリッド、並びにP4から選択される溶原性ファージである。
【0025】
溶菌-欠損ファージは、ファージとしてグラム陰性細菌細胞に存在してもよいし、プロファージとして宿主細胞ゲノムに取り込まれてもよい。このため、ある実施形態において、溶菌-欠損ファージは、プロファージである。
【0026】
ある特定の実施形態において、細菌細胞は、溶菌-欠損ファージラムダ、186、P2、182並びにP2のハイブリッド、及び/又はP4を含む。
【0027】
別の実施形態において、細菌細胞は、P2及びP4プロファージを含む。
ある特定の実施形態において、細菌細胞は、ラムダプロファージを含む。
さらに別の実施形態において、細菌細胞は、186及びP2のハイブリッドプロファージを含む。
【0028】
ある実施形態において、溶菌-欠損ファージが、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをパッケージ化するようにする工程は、ファージを作製するように細菌細胞中のプロファージの活性を誘導する工程を含み、当該ファージは、ポリヌクレオチドをパッケージする。
【0029】
ある実施形態において、プロファージの活性を誘導する工程は、細菌細胞中の1以上のファージアクチベータ・タンパク質を作製する工程を含む。
【0030】
ある特定の実施形態において、細菌細胞は、P2及びP4プロファージを含み、
方法は、細菌細胞中にP2及び/又はP4活性タンパク質を作製する工程を含む。
【0031】
ある実施形態において、P2及び/又はP4活性タンパク質は、1以上の、P2cox、P2ogr、P4δ及び/又はP4εから選択される。
【0032】
別の実施形態において、プロファージの活性を誘導する工程は、1以上のファージリプレッサー・タンパク質を培養する工程を含む。
【0033】
ある実施形態において、細菌細胞は、P2及び/又はP4プロファージを含み、
P2プロファージの活性を誘導する工程は、細菌細胞中のP2タンパク質Cの温度感性リプレッサー対立遺伝子を不活性にする工程を含む。
【0034】
ある実施形態において、細菌細胞は、ラムダプロファージを含み、
ラムダプロファージの活性を誘導する工程は、細菌細胞中のラムダファージリプレッサー・タンパク質cIの温度感性リプレッサー対立遺伝子を不活性にする工程を含む。
【0035】
別の実施形態において、細菌細胞は、186プロファージを含み、
前記186プロファージの活性を誘導する工程は、細菌細胞中の186タンパク質cIの温度感性リプレッサー対立遺伝子を不活性にする工程を含む。
【0036】
別の実施形態において、細菌細胞は、186及びP2プロファージのハイブリッドを含み、
前記プロファージの活性を誘導する工程は、細菌細胞中のハイブリッドファージの温度感性リプレッサー対立遺伝子を不活性にする工程を含む。
【0037】
さらに別の実施形態において、プロファージは、リゾチーム遺伝子若しくはホリン遺伝子のいずれかの不活性形への欠失若しくは変位株に起因して、又は、ホリン遺伝子及びリゾチーム遺伝子の両方の不活性形への欠失若しくは変位株に起因して、溶菌欠損である。ある特定の実施形態において、P2プロファージリゾチーム遺伝子は、SEQ ID NO:17を含むヌクレオチド配列を含み、P2ホリン遺伝子は、SEQ ID NO:18を含むヌクレオチド配列を含む。別の実施形態において、ラムダプロファージホリン遺伝子は、SEQ ID NO:23を含むヌクレオチド配列を含み、ラムダリゾチーム遺伝子は、SEQ ID NO:24を含むヌクレオチド配列を含む。
【0038】
別の実施形態において、プロファージの活性を誘導する工程は、細菌細胞の培養温度を増加させる工程を含む。ある特定の実施形態において、プロファージの活性を誘導するために、細菌細胞の培養温度を約30℃から約42℃に増加させる。ある実施形態において、プロファージは、186、又は186及びP2プロファージのハイブリッドである。
【0039】
当業者は、他の公知のファージディスプレイシステムとともに本発明の方法を使用してもよいことを理解してもよい。本発明とは反対に、公知のファージディスプレイシステムは、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをパッケージせず、及び/又は、公知のファージディスプレイシステムは、細菌細胞内、又は、細菌細胞壁若しくは細胞膜に結合するポリペプチドを保持しない。
【0040】
したがって、ある実施形態において、本発明の方法は、グラム陰性細菌細胞中の標的分子に対する所望の活性に対しポリペプチドを追加でスクリーニングする工程を含み、
i)ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドは、溶菌-欠損ファージにパッケージされていない、及び/又は
ii)ポリペプチドは、細菌細胞壁によって細菌細胞内に保持されておらず、細菌細胞壁に結合していない。
【0041】
本発明の方法の前に、及び/又は、本発明の方法の後に、公知のファージディスプレイシステムを用いた追加のスクリーニングを実行するが、ある実施形態においては、本発明の前に、追加のスクリーニングを実行する。
【0042】
ある実施形態において、追加のスクリーニングにおけるファージは、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをパッケージするために溶菌ファージ又は溶原性ファージを用いることによって行なわれる。別の実施形態において、追加のスクリーニングにおける細菌細胞は、ファージを解除して溶解する。
【0043】
さらに別の実施形態において、追加のスクリーニングにおけるファージは、細菌細胞を溶解させる溶菌ファージである。
【0044】
細菌細胞は、追加のスクリーニングの間に溶解する場合、ファージ粒子にポリペプチドを結合することが好ましい。
【0045】
このため、ある実施形態において、
i)前記溶菌ファージは、ファージコート上の第1結合パートナーを含み、
ii)所望の活性に対しスクリーニングされたポリペプチドは、第2結合パートナーを含む融合タンパク質であり、
前記第2結合パートナーを含む融合タンパク質は、溶菌ファージコート上の第1結合パートナーと結合している。
【0046】
ある実施形態において、溶菌ファージは、ラムダファージである。
別の実施形態において、溶菌ファージは、186、P2、186及びP2のハイブリッドプロファージ、及び/又はP4である。
【0047】
ある実施形態において、
第1結合パートナーは、カルモデュリンであり、
第2結合パートナーは、カルモデュリン結合ペプチドである。
【0048】
さらに別の実施形態において、追加のスクリーニングにおける1以上のプロファージが、溶菌-欠損ファージであり、細胞は、化学的及び/又は酵素的に、溶解する。ある特定の実施形態において、細胞を酵素的に溶解させることは、細菌細胞をリゾチームで溶解させることを含む。溶菌-欠損ファージは、例えば、溶菌-欠損ラムダ、186、P2、186及びP2プロファージのハイブリッド、及び/又はP4であってもよい。
【0049】
本発明の方法は、任意の遺伝子ライブラリをパッケージ化することに用いられてもよいし、一方で、ある実施形態において、ポリヌクレオチドのライブラリは、標的分子に対する所望の活性に対しスクリーニングされるポリペプチドをコード化する。
【0050】
本発明は、温度感性リプレッサタンパク質を備える溶菌-欠損ファージを含むグラム陰性細菌をさらに提供する。
【0051】
本発明は、溶菌-欠損ファージと、1以上のファージアクチベータ・タンパク質をコード化するポリヌクレオチドと、を含むグラム陰性細菌を、さらに提供する。
【0052】
ある実施形態において、溶菌-欠損ファージは、ラムダ、186、P2、186及びP2のハイブリッド、及び/又はP4から選択される。
ある実施形態において、ファージアクチベータ・タンパク質は、P2cox、P2ogr、P4δ及び/又はP4εから選択される。
本発明は、本発明のグラム陰性細菌を含むキットを、さらに提供する。
【0053】
ある実施形態において、キットは、グラム陰性細菌細胞を透過処理することができる化学物質をさらに含む。ある特定の実施形態において、グラム陰性細菌細胞を透過処理することができる化学物質は、1以上の界面活性剤又は有機溶媒から選択される。
【0054】
ある実施形態において、界面活性剤は、デカノイル−N−メチルグルカミド(Mega10)、ジメチルオクチルホスフィンオキシド(Apo8)、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド(8TGP)、ポリソルベート20(Tween20)、並びに、デカノイル−N−メチルグルカミド(Mega10)及びジメチルオクチルホスフィンオキシド(Apo8)の混合物から選択される非イオン性界面活性剤である。
別の実施形態において、有機溶媒は、クロロホルムである。
【0055】
本発明は、標的分子に対する所望の活性に対しポリペプチドをスクリーニングする方法を提供するものであり、その方法は、
a)ポリペプチドを産出するように、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含むグラム陰性細菌細胞を培養する工程と、
b)クロロホルムで細菌細胞の内膜及び外膜を透過処理し、透過処理した細菌細胞の内側にポリペプチド及びポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを保持する工程と、
c)透過処理した細菌細胞に標的分子が拡散するように、透過処理した細菌細胞を標的分子に接触させる工程と、
d)所望の活性に対してポリペプチドをスクリーニングする工程と、を含む。
【0056】
本発明は、標的分子に対する所望の活性に対しポリペプチドをスクリーニングする方法を提供するものであり、その方法は、
a)ポリペプチドが産出されて細菌細胞壁に結合するように、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含むグラム陰性細菌細胞を培養する工程と、
b)クロロホルムで細菌細胞の内膜及び外膜を透過処理し、透過処理した細菌細胞の内側にポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを保持する工程と、
c)透過処理した細菌細胞を標的分子に接触させる工程と、
d)所望の活性に対してポリペプチドをスクリーニングする工程と、を含む。
【0057】
ある実施形態において、工程d)は、
i)ポリペプチドが、標的分子に結合しているか、及び/又は、結合の程度、を確認する工程、及び/又は、
ii)ポリペプチドが、標的分子を酵素修飾するか、及び/又は、酵素修飾の割合を、確認する工程、を含む。
【0058】
ある実施形態において、ポリペプチドは、透過処理した細菌細胞壁の内側に保持するタンパク質複合体、及び/又は、細菌細胞に結合するタンパク質複合体、を形成するために少なくとも第2ポリペプチドと結合する。
【0059】
ある実施形態において、ポリペプチドは、第2ポリペプチド、又は第2ポリペプチドのサブユニットに溶解する。
【0060】
本発明の方法において、第2ポリペプチドは、
i)タンパク質複合体が透過処理された細菌細胞壁内に保持されるような分子サイズを有するポリペプチド;
ii)DNA結合タンパク質
iii)細菌細胞壁結合タンパク質、及び/又は
iv)ファージコートタンパク質
から選択されてもよい。
【0061】
本発明は、所望の活性を有するポリペプチドを特定する方法をさらに提供し、その方法は、
a)本発明の方法を用いてポリペプチドライブラリーをスクリーニングする工程と、
b)所望の活性を有する1以上のポリペプチドを選択する工程と、を含む。
【0062】
本発明は、クロロホルムで細菌細胞の内膜及び外膜を透過処理することによって得られるグラム陰性細菌細胞を提供するものであり、その細菌細胞は、透過処理された細菌細胞内に保持されるタンパク質複合体を形成するための第2ポリペプチドと結合する外因性ポリペプチドを含む。
【0063】
本発明は、クロロホルムで細菌細胞の内膜及び外膜を透過処理することによって得られるグラム陰性細菌細胞をさらに提供するものであり、その細菌細胞は、細菌細胞壁に結合する外因性ポリペプチドを含む。
【0064】
本発明は、キットをさらに提供するものであり、そのキットは、
a)i)第1ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをベクターに挿入するサイト、及び
ii)透過処理したグラム陰性細菌細胞内に保持されるタンパク質複合体を形成するための第1ポリペプチドに結合する第2ポリペプチドをコード化する読み取り枠と、
を含むベクターと、
b)細菌細胞を透過処理するためのクロロホルムと、を含む。
【0065】
本発明は、キットをさらに提供するものであり、そのキットは、
a)i)第1ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをベクターに挿入するサイト、及び
ii)グラム陰性細菌細胞壁に結合するタンパク質複合体を形成するための第1ポリペプチドに結合する第2ポリペプチドをコード化する読み取り枠と、
を含むベクターと、
b)細菌細胞を透過処理するためのクロロホルムと、を含む。
【0066】
本発明の1つの形態の好ましい特徴及び特性は、本発明の多くの他の形態に適用可能であることが明らかとなるであろう。
【0067】
本明細書全体を通して、「comprise(含み)」という用語、又は「comprises(含む)」若しくは「comprising(含んでいる)」などの変形は、記載の、要素、整数若しくは工程、又は要素、整数若しくは工程の組合せを包含するが、任意の他の要素、整数若しく工程、又は要素、整数若しくは工程の組合せを除外しないことを意味するものと理解される。
【0068】
添付の図面を参照して、以下の非限定的例により本発明を以下に詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】大腸菌細胞の界面活性剤透過処理。GFPを発現する大腸菌細胞を界面活性剤で処理して、膜透過処理の有効性を測定した。細胞を明視野(第1列)又は蛍光顕微鏡法(第2列及び第3列)のいずれかにより観察した。透過処理は、膜不透過性DNA結合色素GelRed(第3列)が吸収されると同時にGFP(第2列)が、細胞から放出される場合に有効であった。界面活性剤8TGP(0.5%)及び0.5%のMega10/0.5%のApo8(「Agent86」)は大腸菌細胞の透過処理において最も有効であることが判明した。
図2】界面活性剤上清のSDS−PAGE。図1で示される大腸菌細胞の界面活性剤透過処理の上清を、9%のSDS−PAGE上にロードして、界面活性剤によるタンパク質放出を定性的に評価した(第1レーン)。界面活性剤透過処理細胞における細胞壁カプセルによる細胞タンパク質のサブセットの保持を示すために、界面活性剤透過処理細胞の試料をリゾチーム(2mg/mL)で処理して、細胞壁(第2レーン)を加水分解した。
図3】テトラマー融合タンパク質発現。(A)全細胞タンパク質に対して探査したαHis抗体を用いてウェスタンブロット法によりHis6::SNAP::テトラマー融合タンパク質の大腸菌内での発現を調べた。予想される分子量のバンドに加え、>250kDの高分子量バンドがRhnAテトラマー融合物(レーン4)で観察され、これはテトラマーとして移動した複合体の推定されるSDS耐性形態である。(B)BetBテトラマー融合タンパク質抽出物を、界面活性剤可溶性及び界面活性剤不溶性(細胞カプセルペレット)抽出物に分離し、SDS−PAGEにより検出した。
図4】テトラマー融合タンパク質のSNAP標識。実施例1に記載されるように、His6::SNAP::テトラマー融合タンパク質を大腸菌内で発現させ、8TGPで細胞を透過処理した。実施例3で記載されるように、融合タンパク質の発現を、膜不透過性SNAPリガンドBG−547で標識された透過処理細胞の蛍光顕微鏡検査(第2列)により検出した。細胞DNAを膜透過性色素SytoxGreenで標識した(第1列)。SNAP及びSytox Greenシグナルのオーバーレイを第3列に示す。
図5】透過処理細胞におけるHis6::SNAP::BetBテトラマーのαHis抗体標識。実施例3に記載されるように、αHis抗体でプローブされたHis6::SNAP::BetBテトラマーを発現する透過処理細胞の蛍光顕微鏡検査(第1パネル)。SNAPリガンドBG−547で細胞を標識した(第2パネル)。αHis及びSNAP両方の共存(第3パネル)は、αHis抗体が透過処理細胞の細胞壁を透過することを示す。
図6】HALO及びSNAP発現レポーターとのBetB、RhnA及びYdcWテトラマー融合物。BetB、RhnA及びYdcWテトラマーを別々に発現レポーターHALO及びSNAPと融合させた。融合タンパク質を発現する細胞を透過処理し、宿主DNAをGelRedで標識し、HALO(G1001)及びSNAP(BG−488)の蛍光リガンドを用いて融合タンパク質を検出した。
図7】GFP5::DNA結合タンパク質(DBP)融合物の発現。淋菌(N.gonorrhoeae)由来の非特異的高親和性DNA結合タンパク質であるComEをGFP5のC末端に融合させ、大腸菌で発現させた。細胞を透過処理し、GFP(第1パネル)及びGelRed(第2パネル)に関して蛍光顕微鏡法により観察した。蛍光の共存(第3パネル)は、融合タンパク質及び宿主DNAの両方が透過処理細胞カプセル内に保持されたことを示す。
図8】透過処理細胞におけるDNAの保持。GFP5::DBP融合物、又はHis6::eGFP融合物を発現する大腸菌細胞を、未処理のまま放置するか(1行及び4行)或いは実施例1で記載されるように透過処理させるか(2、3、5及び6行)のいずれかであった。透過処理細胞を4℃で一晩保存するか、又はTBS中に再懸濁させ37℃で一晩振盪した後、GFP(第1列)又はGelRed(第2列)に関して蛍光顕微鏡法により観察した。GFP及びGel Redの共存を第3列に示す。
図9】透過処理細胞からのDNA抽出。(A)GFP5::DBP融合タンパク質又は(B)His6::eGFP融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を実施例1で記載されるように透過処理した。透過処理細胞を一晩4℃で保存するか、又はTBS中に再懸濁させ、37℃で一晩振盪した後、プラスミドDNAを抽出し、エチジウムブロミド染色された1%アガロースゲル上、TAE緩衝液で電気泳動させた。レーン1は未処理細胞中の全プラスミドDNAである。レーン2及び4は、それぞれ4℃で一晩保存し、37℃で振盪した細胞カプセルの透過処理ステップからの上清であり、レーン3及び5は、それぞれ4℃で一晩保存し、37℃で振盪した細胞カプセルからのプラスミド調製物である。
図10】OmpF::SNAP::LPP融合タンパク質のSNAP標識。OmpF::SNAP::LPP融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を実施例1で記載されるようにして透過処理した。融合タンパク質局在化を、実施例3で記載されるようにSNAPリガンドBG−488での標識により検出した。標識された細胞を明視野顕微鏡検査(第1パネル)及び蛍光顕微鏡検査(第2パネル)により観察した。第3パネルは明視野図及び蛍光図の両方のオーバーレイである。
図11】αGFP::HALO::RhnA融合タンパク質によるeGFPの結合。αGFP::HALO::RhnA融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を実施例1で記載されるように透過処理した。精製されたeGFPタンパク質を実施例8で記載されるように細胞カプセルと結合させ、eGFPを蛍光顕微鏡検査により視覚化した。第1パネル、明視野図;第2パネル、eGFP蛍光;第3パネル、明視野及び蛍光のオーバーレイ。
図12】αGFP::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質によるeGFPの結合。αGFP::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を実施例1で記載されるように透過処理した。精製されたeGFPタンパク質を実施例8で記載されるようにして細胞カプセルと結合させ、実施例3で記載されているように、eGFPを2つの方法、ウェットマウント及びドライマウントによる蛍光顕微鏡法で視覚化した。(A)ウェットマウント細胞カプセルに結合させたeGFP。挿入パネル(i)及び(ii)は、αGFP::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質により結合したeGFPの細胞壁局在化を示す。(B)及び挿入パネル(Aiii)は、DABCO/グリセロール中でドライマウントによる顕微鏡検査のために調製された同じ細胞を示す。
図13】OmpF::αGFP::SNAP::LPP融合タンパク質によるeGFPの結合。OmpF::SNAP::LPP又はOmpF::αGFP::SNAP::LPP融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を実施例1で記載されているように透過処理した。精製されたeGFPタンパク質を実施例8で記載されているように細胞カプセルと結合させ、実施例3で記載されているようにして、eGFPをドライマウントによる蛍光顕微鏡法によって視覚化した。(A)OmpF::SNAP::LPP融合タンパク質を発現する細胞は、OmpF::αGFP::SNAP::LPP融合タンパク質を発現する細胞(第2パネル、下行)と異なり、eGFP蛍光がない(第2パネル、上行)。
図14】LPP融合タンパク質による細胞壁に対する共有結合の証明。OmpF::αGFP::SNAP::LPP融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を実施例1で記載されているように透過処理した。融合タンパク質局在化を実施例3で記載されているようにしてSNAPリガンドBG−488で標識することにより検出し、DNAをGelRedで染色した。5分間22℃(A)又は95℃(B)で試料を加熱した後、ドライマウントし、蛍光顕微鏡検査により観察した。
図15】界面活性剤/Ca2+緩衝液を用いた外膜透過処理。OmpF::αGFP::SNAP::LPP融合タンパク質(外部αGFP又はαGFP::HALO::FLAG::RhnA融合タンパク質(内部αGFP)を発現する大腸菌細胞を実施例10で記載されているように透過処理した。大きなリガンドに対する外膜の透過処理は、細胞壁に付着したαGFPドメインにeGFPを結合させることにより評価した。内膜の透過処理は、大きなリガンド(eGFP)及び小さなリガンド(GelRed)を用いて評価した。Ca2+緩衝液中の界面活性剤Apo8(A)及びTween20(B)はいずれも、大きなリガンドに対する外膜の選択的透過性を示した。
図16】界面活性剤/EDTA緩衝液を用いた外膜透過処理。OmpF::αGFP::SNAP::LPP融合タンパク質(外部αGFP)又はαGFP::HALO::FLAG::RhnA融合タンパク質(内部αGFP)を発現する大腸菌細胞を実施例10で記載されるように透過処理した。大きなリガンドに対する外膜の透過処理を、eGFPを細胞壁に付着したαGFPドメインに結合させることにより評価した。内膜の透過処理は、大きなリガンド(eGFP)及び小さなリガンド(GelRed)を用いて評価した。EDTA緩衝液中の界面活性剤Apo8(A)及びTween20(B)はいずれも大きなリガンドに対する外膜の選択的透過性を示した。
図17】eGFP及びSNAP標識された細胞の混合群のFACS分析。eGFP(#1矢印);SNAPリガンドBG−488で標識されたαGFP::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質(#2矢印);及びSNAPリガンドBG−547で標識されたHis6::SNAP::BetB(#3矢印)を発現する大腸菌細胞の3つの群を、FACSにより分類した。分類した群を初回分類の60分後に純度及び細胞完全性について再分析した。
図18】αGFP及びKzPGドメイン間のペプチドリンカーは、αGFP::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現する大腸菌細胞のセファロース支持体に対する結合を可能にする。12−merリンカードメインRL6をαGFP及びKzPGドメイン間に有するαGFP::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現する細胞を、His6::eGFP中間体によりCo2+−セファロース支持体Co2+−セファロース支持体と結合させた。GFP結合を左のパネルに示し(緑);融合タンパク質のSNAPリガンド(赤)結合を中央のパネルに示し;それぞれのオーバーレイを右に示す。
図19】αGFP::RL6::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現する大腸菌細胞のストレプトアビジン標識された磁気ビーズに対する結合。(A)ビオチン標識されたeGFP(中央及び右パネル)を、αGFP::RL6::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現する細胞と結合させ、これを次にストレプトアビジン標識された磁気粒子と結合させた。(B)最初にビオチニル化eGFPで標識されたストレプトアビジン標識磁気粒子に対するαGFP::RL6::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現する細胞の逆の結合。この実施例では、ビーズは緑色に標識され(GFPパネル)、細胞はBG−547SNAPリガンドで標識された(赤、SNAPredパネル)。(C)ドメインリンカー(ヒトタイチンの27番目のIgドメイン)も結合スペーサーとして有効であった。αGFP::I27::RL6::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を、まずビオチニル化eGFPと結合させ(緑、GFPパネル)、BG−547SNAPリガンドで標識(赤、SNAPredパネル)した後、ストレプトアビジン標識磁気粒子と結合させる。
図20】大腸菌細胞質におけるscFv::I27::RL6::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質としてのマウスscFv遺伝子の発現。マウスscFvライブラリーを構築し、本発明の方法にしたがって大腸菌細胞質でディスプレイした。検出可能な発現を有するクローンをSNAPリガンド結合により検出し、ミスフォールド(左パネル)、わずかに発現されるが可溶性(中央のパネル)、又は、高度に発現され、かつ可溶性(右パネル)に分類した。
図21】可溶性及び不溶性scFv発現の大腸菌細胞質における検出。マウスscFv発現ライブラリーからの限定されたスクリーンにおいて高度に発現され可溶性であることが判明した、選択されたクローンを、scFv::I27::RL6::FLAG及びscFv::RL6::FLAG融合タンパク質として発現構築物中にサブクローンした。タンパク質フラクションを可溶性又は不溶性のいずれかとしてSDS−PAGEゲル上にロードし、ニトロセルロース膜に移し、αFLAG抗体を用いて検出した。可溶性(S)又は不溶性(P)フラクションについて、試料及び発現される各クローンをI27::RL6(I)又はRL6(R)リンカーと対にする。ライブラリスクリーンから単離されるI27::RL6::KzPG::SNAP::DBPディスプレイ構築物におけるオリジナルのscFvクローンの蛍光顕微鏡画像も下のパネルに示す。
図22】有機溶媒を用いた大腸菌の透過処理。αGFP::RL6::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を、有機溶媒の水性混合物で懸濁した。膜透過処理は、(A)低分子量DNA結合蛍光リガンドGelRed及び30kDのタンパク質eGFPの結合によって示された。有機溶媒の試験中に、内膜及び外膜の両方が透過処理されたクロロホルムだけが高分子量のeGFP(B)の細胞中に入ることができる。
図23】大腸菌中のαGFP:I27:gpL融合タンパク質の発現。αGFP:I27:gpL融合タンパク質は、実施例20に示されるように、アラビノース誘導によって誘導された。溶解性タンパク質は、0.5%の8TGPとの透過処理によって大腸菌から放出され、サンプルの残りは不溶性と考えられた。サンプルは、電気泳動装置で沸騰させて、15%のSDS-PAGEで電気泳動させた。タンパク質は、ニトロセルロース膜に転換され、αGFP:I27:gpL融合タンパク質を検出するαFLAG単クローン抗体で探査した。(1)サンプル1:非誘導性αGFP:I27:gpL溶融クローン1;(2)誘導性αGFP:I27:gpL溶融クローン1;(3)誘導性αGFP:I27:gpL溶融クローン2。S=可溶性成分、In=不溶性成分
図24】mAG1標識付のgpD::α−mAG1融合タンパク質を表示する封入ラムダファージを撮像した蛍光特性。ラムダプロファージを誘導し、gpD::α−mAG1融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を透過処理して、mAG1タンパク質及びDNA結合染色Gel Redで染色した。透過処理した細胞内の点状のパターン(左パネル)で結合するために、mAG1を蛍光顕微鏡検査法で観察した。
図25】gpD::α−mAG1融合タンパク質を表示する封入ラムダファージの流入FACS分析のスクリーンショット。〜1%のα陽性細胞の投入で100Kでの流入FACS(BD生命科学)の蛍光発光グラフを示している。細胞集団は、DNA染料結合、GelRed(red;561nm)及び蛍光性のmAG1タンパク質(green; 488nm)でともに染色される。P2ゲート型集団は、α−mAG1陽性であり、P2ゲート型集団は、α−mAG1陰性である。
【0070】
配列表の凡例
配列番号1−pAra3::His6::SNAPアラビノースベクターのヌクレオチド配列
配列番号2−pAra3::His6::KzPG::SNAP::DBPベクターのヌクレオチド配列
配列番号3−pAra3::OmpF::SNAP::LPPベクターのヌクレオチド配列
配列番号4−pAra3::αGFP(R35)::HALO::FLAG::RhnAベクターのヌクレオチド配列
配列番号5−ランダム化ペプチドスペーサードメイン
配列番号6〜12−ペプチドリンカースペーサー
配列番号13−I27::RL6::KzPG::SNAP::DBP
配列番号14−I27::RL6::KzPG::SNAP::DBPコーディング配列
配列番号15−ライブラリスカフォールドベクター
配列番号16−I27スペーサー
配列番号17−エンテロバクテリオファージのP2エンドリシン遺伝子のヌクレオチド配列
配列番号18−エンテロバクテリオファージのP2ホリン遺伝子のヌクレオチド配列
配列番号19−温度によって誘発されたP4δベクターのヌクレオチド配列
配列番号20−αGEP::I27::gpL融合タンパク質のアミノ酸配列
配列番号21−gpL::αGEP::I27融合タンパク質のアミノ酸配列
配列番号22−αGEP::I27::gpL融合タンパク質発現ベクターのヌクレオチド配列
配列番号23−ラムダファージのホリン遺伝子のヌクレオチド配列
配列番号24−ラムダファージのリゾチーム遺伝子のヌクレオチド配列
配列番号25−ラムダ溶菌クラスター欠損部分のアミノ酸配列
配列番号26−ラムダcosドメインのヌクレオチド配列
配列番号27−ラムダSR欠損(ΔSR)ベクターのヌクレオチド配列
【発明を実施するための形態】
【0071】
一般的技術及び一般的定義
別段の明確に定義されない限り、本明細書中で用いる全ての専門用語及び科学用語は、(例えば、タンパク質化学、生化学、細胞培養、分子遺伝学、微生物学及び免疫学における)当業者により通常理解されるのと同じ意味を有すると解される。
【0072】
他に示されない限り、本発明で利用される組換えタンパク質、細胞培養及び免疫手法は、当業者に公知の標準的手順である。かかる技術は、J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edn, Cold Spring Harbour Laboratory Press (2001)、R. Scopes, Protein Purification - Principals and Practice, 3rd edn, Springer (1994)、T.A. Brown (editor), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)、D.M. Glover and B.D. Hames (editors), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996)、及びF.M. Ausubel et al. (editors), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、including all updates until present), Ed Harlow and David Lane (editors) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, (1988)、及びJ.E. Coligan et al. (editors) Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons (including all updates until present)等の出典の文献に記載及び説明されている。
【0073】
「ポリペプチド」、「タンパク質」及び「ペプチド」の用語は、本明細書中では通常相互交換可能に用いている。「外因性ポリペプチド」の用語は、本明細書中においては、外因性ポリヌクレオチドによりコード化されるポリペプチドを指す。「外因性ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書中においては、それが導入される細胞と異なるポリヌクレオチド、又はポリペプチドが通常見いだされない宿主細胞核酸内のある場所以外に導入される細胞における配列と配列が相同性であることを意味する。
【0074】
本発明で用いる「抗体」の用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、二特異性抗体、三特異性抗体、多特異性抗体、ヘテロ結合抗体、キメラ抗体、例えばインタクト分子、及びそのフラグメント、例えばFab、F(ab’)2、Fv及びscFv並びに他の抗体様分子が挙げられる。
本明細書中で用いる「約」の用語は、特定した値の±5%の範囲を指す。
【0075】
本発明の一実施形態において、ポリペプチドは、グラム陰性細菌細胞中の所望の活性に対してスクリーニングされ、そのポリペプチドは、グラム陰性細菌細胞内で産出され、そのポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドは、溶菌-欠損ファージにパッケージされる。「溶菌-欠損ファージ」により、そのライフサイクル内に溶菌状態を通常有する溶菌性ファージ又は溶原性ファージであって、かつ溶菌サイクルの他のあらゆる機能を発現させるが、パッケージされたファージを放出するためのグラム陰性細菌細胞を溶解させることができないように修飾された溶菌性ファージ又は溶原性ファージを意味する。このため、溶菌-欠損ファージは、ウイルスゲノムがプロファージとして宿主細胞DNAに融合される溶原性サイクル、又は、プラスミド(ファージミド)として複製する溶原性サイクル、を有する溶原性ファージを含む。その宿主細胞の状態が、プロファージを活性化させて、再生するサイクルを開始させるまで、プロファージは細菌細胞中で不活性のままである。プロファージの再生サイクルが始まると、通常は細菌性宿主細胞が溶菌するのに対して、本発明の方法の溶菌-欠損ファージは、細菌性宿主細胞が溶菌せずに細菌細胞中にファージが残るように修飾される。
【0076】
本明細書で用いる「溶菌-欠損ファージ」の用語は、ファージのライフサイクルで溶菌の状態を通常有していないファージの具体例を含まないので、押出しによって細菌細胞から放出されるファージ、例えば、M13、f1若しくはf2のような線状ファージ、又は、出芽により細菌細胞から放出されたファージの具体例を含まないことを当業者は理解するだろう。
【0077】
溶菌-欠損ファージを産出するために溶菌ファージのライフサイクルから溶菌状態を取り除くように修正してもよい溶菌ファージの例は、phiX174、T1、T2、T3、T4、T5、T6及びT7バクテリオファージを含む。溶原性ファージのライフサイクルから溶菌状態を取り除くように修正をしてもよい溶原性ファージの例は、ラムダファージ、N15ファージ、P22ファージ、Muファージ、P2ファージ、ファージ186、付随体ファージ及びP4を含む(Lindqvist et al., 1993; Ziermann et al., 1994; Liu et al., 1997; and Briani et al., 2001)。
【0078】
細菌細胞中にポリヌクレオチドをパッケージすることができる溶原性ファージは、ポリヌクレオチドをパッケージするために、及び/又は、細菌細胞を溶菌するために、別のファージ、例えばヘルパーファージの存在を必要とすることを当業者は理解するだろう。この関係の一例は、P2ファージとそのサテライトファージP4である。ポリヌクレオチドをパッケージするための、及び/又は、細菌細胞を溶菌するための、ヘルパーファージの存在の必要性は、ヘルパーファージのシステムとして公知である。ヘルパーファージのシステムでは、ヘルパーファージの活性又はファージポリペプチド(例えば「活性化タンパク質」)の活性が、ポリヌクレオチドをパッケージするような、及び/又は、細菌細胞を溶菌させるような別のファージを誘導する。このため、ポリヌクレオチドが1つのファージ(つまり、1つのヘルパーファージシステム中の1つのファージ)にパッケージされてもよいし、別のファージ(つまり、ヘルパーファージ)の活性が、両ファージが存在する細菌細胞を溶菌するために必要であってもよいことを当業者は理解する。本発明の方法のいくつかの実施形態の使用において、溶菌作用を通常供給するファージは、細菌細胞を溶菌できなくなるように修飾される。したがって、本明細書中で用いられる「溶菌-欠損ファージ」の用語は、ポリヌクレオチドをパッケージされるファージにも言及し、そのファージは、通常、溶菌作用を供給するために第2ファージを頼りにするが、その第2ファージは、グラム陰性細菌細胞を溶菌できなくなるように修飾する。
【0079】
当業者は、ポリヌクレオチドが溶菌-欠損ファージのゲノムから物理的に分離してもよいことを理解するだろう。例えば、ポリヌクレオチドは、ファージ構造的複製タンパク質によりポリヌクレオチドを十分パッケージし得る配列に可動結合してもよく、その複合タンパク質は、溶菌-欠損ファージの親株に形態学的に近似するか又は同一の感染単位を形成する。
【0080】
非限定的な例として、適切なサイズのプラスミドベクターは、ラムダバクテリオファージにDNAパッケージするために必要なcosドメイン周辺の配列を含んでいてもよい。これらのプラスミドベクターは、生体内でヘルパーファージによってパッケージされてもよいし、生体外でファージ構造的複製タンパク質を含む精製抽出物によってパッケージされてもよい。ラムダパッケージするための十分な配列は、配列番号26(SEQ ID NO:26)として供給される。これらのベクターは、コスミド(cos+プラスミド)として知られており、コスミドが外因性ポリヌクレオチドを複製することができ、バクテリオファージ粒子としてそれらを繁殖することができることは当業者に公知である。コスミド内でポリヌクレオチドを複製するための市販キット及び生体外でパッケージするキットは、当業者に公知である。
【0081】
典型的なヘルパーファージシステム:P2−P4システム
ヘルパーファージシステムの1つの非限定的な例は、P2−P4ファージシステムである。各ファージは、それ自身のDNA複製及び宿主細胞への融合を確保するために必要な遺伝子を提供する一方で、大腸菌P4ファージは、カプシド形成のための主要構造タンパク質(Kahn et al., 1991; Liu et al., 1997)と同様に、追跡機能及び溶菌機能に必要な遺伝子情報が不足している。それ故、P4は、P4ファージ構造単位を作るため、そのDNAをパッケージするため、及び宿主細胞を溶菌するため、ファージ186のようなP2ファージ又はP2関連ファージに依存している。P4は、溶原性宿主細胞(例えば、ゲノム中にP2プロファージを含む大腸菌)に感化するとき、P2プロファージは、P4ε遺伝子によって活性化される。活性化は、P2早期及び末期遺伝子発現をもたらし、P4溶解サイクルの完了に十分である。
【0082】
P4は、P2に似たファージ、例えばファージ186によってパッケージされてもよい。このファージは、P2(〜75%単位)及びハイブリッドP2/186ファージに対するオーソロガス構造タンパク質を有し、このP2(〜75%単位)及びハイブリッドP2/186ファージは、ファージ186転写因子によって調整されたP2構造遺伝子を含む構成である(Younghusband et al., 1975)。重要なことに、ファージ186初期領域及びP2/186ハイブリッド(Hy2及びHy5)はP2に関係なく、それ故P4εタンパク質で抑制されない。しかしながら、186免疫リプレッサーの温度感性変種が、P4感染(sauer et al., 1982)又はP4活性と一致するファージ186機能を誘導するために使われる場合、ファージ186をP4ヘルパーファージとして使ってもよい。
【0083】
当業者は、P2/P4バクテリオファージシステムが本発明の方法の使用に適していると理解する。P2/P4バクテリオファージシステムの優れた特徴として、以下が挙げられる。
i)プラスミドへのP2ターミナーゼ酵素は、コンカテマー化をパッケージすることが好ましい他のバクテリオファージターミナーゼと違って、線状ポリヌクレオチドターミナーゼが好ましい。それ故、このシステムは、所望の活性に対しスクリーニングされるポリペプチドをコード化するプラスミドを生体内でパッケージングすることがより好適である。
ii)P4サイズのカプシド(約10〜12kb)に効率的にパッケージングされるコスミド(つまり、パッケージングするバクテリオファージを記述するバクテリオファージのcos配列を含むプラスミド)は、ラムダ(48.5kb)のようなより大型のバクテリオファージゲノムよりも、通常のクローン方法及び反復の突然変異誘導を受け入れる。
【0084】
溶菌-欠損ファージを産出するための遺伝子組換
溶菌バクテリオファージのライフサイクルは、ゲノム複製及びファージ粒子としてのパッケージングの両方を含むだけでなく、再感染のための粒子の放出をする細胞分解をも含む。グラム陰性細菌の細胞分解は、2段階のプロセスであり、その2段階のプロセスとは、まず内膜を貫通し、次に細胞壁分解酵素(リゾチーム)を周辺質の空間にアクセスさせて、ペプチドグリカン細胞壁に作動させる。その細胞は、細胞質と周辺溶媒の間の浸透圧差で溶解し、それによりファージ粒子が媒体に放出される。
【0085】
膜貫通(ホリン)とリゾチームの作用は、通常、ほとんどの溶解性又は溶原性ファージ中の2つの遺伝子によってコード化される。これらの遺伝子は、ほとんどのファージゲノムの減少により、同一のオペロン内で隣接する。細胞壁を無傷で維持するために、また、本発明の方法により機能的にスクリーニングされたファージ粒子及びタンパク質を放出されるのを避けるために、ファージリゾチームをコード化する遺伝子、又はリゾチーム及びホリンの両方は、ファージゲノムから取り除かれなければならない。読取り枠を重複して頻繁に使用するために、また、たくさんのファージ遺伝子で移送カップリングを導く遺伝暗号を停止/開始するために、これらの欠失を決めるときには下流遺伝子の感化を注意深く考慮しなければならない。溶解クラスターが下流側の構造的遺伝子と移送カップリングする場合、その欠失は、1つの遺伝子の開始領域と別の遺伝子の停止領域を有する遺伝子座に、切り捨てられたORFを残余の「痕跡」として残すだろう。
【0086】
一実施形態において、本発明のタンパク質をスクリーニングする方法は、ペプチドグリカン細胞壁の構造的な完全性を維持する間、グラン陰性細菌の内膜及び外膜を透過処理することを用いる。このため、本実施形態では、リゾチーム遺伝子は、細胞壁の構造的な完全性を維持するために欠失される一方で、ホリン遺伝子は、バクテリオファージゲノム中で構造的に維持されてもよいし、内膜の透過処理に寄与することを助長してもよい。スクリーニングシステムに用いられる溶菌-欠損ファージであって、WO 2002/034886及びWO 2005/095988に記載されているような周辺質標的タンパク質、又は細胞壁結合融合タンパク質にカップリングするものの具体例において、ホリン機能、又はホリン/リゾチーム機能は、細胞又はスフェロプラストの内膜の完全性を維持するためにファージゲノムから欠失されなければならない。
【0087】
リシン遺伝子機能及び/又はリゾチーム遺伝子機能は、ファージゲノムから分子をコード化する遺伝子を欠失することによって、あるいは、リシン及び/又はリゾチーム遺伝子に欠陥があり、機能的なリシン及び/又はリゾチームタンパク質をもはやコード化しないようにリシン及び/又はリゾチームを変異させることによって、欠失されてもよいことを当業者は理解するだろう。
【0088】
P2及びP4サテライトシステムを用いる本発明の実施形態において、P2ゲノムは、P4に使用されるホリン(Y)及びリゾチーム遺伝子(K)の両方を含む。このため、P2プロファージは、K、Y、又はYK遺伝子の欠失によって変更されていてもよい。溶菌-欠損P2ファージの構成は、実施例16に記載されており、実施例16は、大腸菌のK12種のP2プロファージのゲノムからYK遺伝子を欠失している。P4サイズのコスミドを運ぶP2ΔYKプロファージは、P4バクテリオファージに感化され、それによってコスミドのパッケージングを誘導する。コスミドは、機能的にスクリーンニングされた遺伝子発現のために誘導されてもよい。コスミドのパッケージング及び遺伝子発現の両方の誘導の結果、本発明の方法によってスクリーンされた細胞のカプシド及び細胞膜は透過処理してもよいし。大腸菌種中の溶菌-欠損P2ファージは、実施例18に記載されており、P4ファージによるP2ΔYKプロファージを運搬する種の感化を用いている。
【0089】
ラムダファージシステムを利用する発明の実施形態において、ラムダS及びR遺伝子はそれぞれ、ホリン及びエンドリシン(リゾチーム)をコード化する。R又はSR遺伝子の欠失又は変異的不活性は、溶菌-欠損ラムダプロファージを産出するだろう。
【0090】
溶菌-欠損ラムダファージの構成は、実施例20に示されており、実施例20では、大腸菌のK12種のラムダプロファージのゲノムからSR遺伝子を欠失している。大腸菌種中の溶菌-欠損ラムダファージによるコスミドのパッケージングは、実施例21に記載されており、実施例21では、熱不安定cIリプレッサーの不活性を通じて誘導される。
【0091】
溶解ファージを用いた本発明の実施形態において、T7ファージを実施例として用いる場合、溶菌-欠損ファージは、T7リゾチームをコード化する遺伝子3.5の変異的不活性によって産出されてもよい。T7リゾチームは、T7RNAPとの阻害相互作用を通じたT7移送で制御性活性を有するので、リゾチームの欠失ができなくなる。それ故、酵素の細胞壁アミターゼ活性を明らかに不活性にする変異種は、T7複製を維持する溶菌-欠損変異種を作製するために必要とされる。
【0092】
他の溶解性又は溶原性ファージのリシン/ホリンシステムは、公知のファージゲノムとの比較を通じて、又は遺伝子解析を通じて、特定されてもよいし、関連する溶菌-欠損変異種は、本発明の方法のパッケージングライブラリーで使用するために作製されてもよい。
【0093】
溶菌-欠損ファージによってパッケージングするポリヌクレオチド
溶菌-欠損ファージを用いる本発明のスクリーニングの方法で、その方法は、グラム陰性細菌細胞内でポリペプチドを産出するように、ポリペプチドをコード化する外因性ポリヌクレオチドを含むグラム陰性細菌細胞を培養する工程と、溶菌-欠損ファージが、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをパッケージ化するようにする工程とを含む。「溶菌-欠損ファージがポリヌクレオチドをパッケージ化する」という成句は、溶菌-欠損ファージがポリヌクレオチドをパッケージできるようなグラム陰性細菌細胞内の状態を提供することを意味する。
【0094】
当業者は、ポリペプチドを産出するためにグラム陰性細菌細胞を培養する工程と、溶菌-欠損ファージがポリヌクレオチドをパッケージ化する工程とが同時であってもよいことを理解するだろう。非限定の例の方法で、ヘルパープロファージを含むグラム陰性細菌細胞と、一部のポリペプチドをコード化するコスミドは、コスミドをパッケージングすることができる溶菌-欠損ファージを感化してもよく、その後ポリペプチドを産出するために培養される。
【0095】
あるいは、ヘルパーファージ及びポリペプチドをコード化するコスミドを含むグラム陰性細菌細胞は、例えば、不安定リプレッサータンパク質の熱不活性化を通じて、又は活性タンパク質の共誘導を通じて、プロファージのパッケージング機能を誘導するために処方されてもよく、その後ポリペプチドを産出するために培養される。このようにして、グラム陰性細菌細胞中でポリペプチドが算出され、それと同時に、溶菌-欠損ファージにコスミドをパッケージングさせる。
【0096】
一実施形態において、溶菌-欠損ファージは、透過処理したグラム陰性細菌細胞中に保持(つまり、カプセル化)され、本発明の方法によって、ポリペプチドは、所望の活性に対してスクリーニングする。具体的には、スクリーンされたポリペプチドをコード化する遺伝子ライブラリーは、溶菌-欠損ファージ又はコスミドに複製されるか、グラム陰性細菌細胞に導入される。グラム陰性細菌細胞の個体数がファージに沿って、細胞カプシド内で保持されるポリペプチドと洗剤又は有機溶媒を用いてが透過処理される適切な時点で、ファージパッケージング及びスクリーンされたポリペプチドの両方は、共誘導(つまり同時に誘導)されてもよい。そして、透過処理したグラム陰性細菌細胞の個体数は、所望のポリペプチド活性に対してスクリーンされる。
【0097】
ポリペプチドを産出するためにグラム陰性細菌細胞を培養する工程と、溶菌-欠損ファージがポリペプチドをコード化したポリヌクレオチドをパッケージ化する工程とは、同時よりもむしろ順次実行されてもよい。このため、グラム陰性細菌は、まず初めにポリペプチドを産出するために培養してもよいし、次に、溶菌-欠損ファージがポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをパッケージさせてもよい。例えばポリペプチドが細菌細胞中のコスミドによってコード化された場合、ポリペプチドのパッケージングに従った細菌細胞中の連続的産出をしてもよいし、ヘルパーファージで細菌細胞を感化させることで、溶菌-欠損ファージがポリペプチドをコード化したポリヌクレオチドをパッケージさせてもよい。本発明の一例では、細菌細胞がP2及び/又はP4プロファージを含み、P2プロファージの活性を誘導する工程は、細菌細胞中のP2タンパク質Cの温度感性リプレッサ対立遺伝子、及び/又は、細菌細胞中のP4活性タンパク質の発現、を不活性にする工程を含む。
【0098】
あるいは、グラン陰性細菌が、ポリペプチドの産出のために適した条件下で培養されてもよく、溶菌-欠損ファージがポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをパッケージ化する工程は、ファージを産出するための細菌細胞中でプロファージアクチベータを誘導する工程を含んでいてもよい。その場合、ファージは、ポリヌクレオチドをパッケージする。当業者に理解されるように、細胞中のプロファージを誘導する工程は、細胞内でポリペプチドを産出するグラム陰性細菌細胞を培養する工程と同時に実行してもよいし、順次実行してもよい。
【0099】
本明細書において、当業者は、ポリヌクレオチドをパッケージするための溶菌-欠損ファージの活性を誘導することを達成する方法がいくつかある。例えば、溶菌-欠損ファージの活性を誘導する工程は、プロファージと同様に細菌細胞ゲノム中に存在する溶菌-欠損ファージを含むグラム陰性細菌細胞に、サテライトファージ又はヘルパーファージを誘導する工程を含んでもよい。
【0100】
あるいは、活性化を誘導することは、細菌細胞中のプロファージの1以上の活性タンパク質を産出する工程を含む。例えば、グラム陰性細菌細胞は、P2及び/又はP4プロファージを含んでもよいし、P2及び/又はP4活性化タンパク質は、例えば、P2cox、P2ogr、P4δ及び/又はP4εの1以上から選択してもよい。活性化の結果として、細菌細胞中のプロファージは、ポリヌクレオチドをパッケージするファージを産出する。あるいは、ポリヌクレオチドをパッケージする溶菌-欠損ファージの活性化を誘導することは、細菌細胞中の1以上のファージリプレッサタンパク質を不活性化することを含んでもよい。本発明の特定の一実施形態において、活性化を誘導することは、細菌細胞中のラムダプロファージの温度感性対立遺伝子を不活性化することを含む。別の実施形態において、溶菌-欠損ファージの活性化を誘導することは、細菌細胞の培養温度を増加させることを含む。
【0101】
透過処理
本発明の方法のある実施形態では、グラム陰性細菌細胞の外側の細胞膜、又は内側及び外側の両方の細胞膜を透過処理し、このようにして可溶性細胞成分の少なくとも一部を、細胞壁を通して拡散させる。所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドは、細菌細胞壁内に保持されるか、又は細菌細胞壁に付着する。本明細書中で用いられる場合、「透過処理」、「透過処理された」又は「透過処理された細菌細胞」は、グラム陰性細菌細胞の外側の細胞膜、又は内側及び外側の両方の細胞膜に孔を生成させるか、又は外側の細胞膜、又は内側及び外側の両方の細胞膜を可溶化し、一方、ペプチドグリカン間の結合を加水分解せず、それにより細胞壁を無傷のままで保持する透過処理剤若しくは機械的処理又はその組合せの両方の使用を指す。細菌細胞を透過処理する透過処理剤の非限定的例としては、界面活性剤及び有機溶媒が挙げられる。細菌細胞を透過処理する機械的処理の非限定的例としては、エレクトロポレーションがある。
【0102】
透過処理は、小〜中程度のサイズ、例えば120kDaまでのタンパク質、又は同等以下のサイズの他の分子であれば、無傷なままの細胞カプセル中に有利に侵入する。さらに、細菌細胞壁の完全性を維持することにより、透過処理された細菌細胞は、例えば細菌細胞をTris−EDTA−リゾチームで処理することにより産生されるスフェロプラストほど脆弱ではなく、スフェロプラストでは、細菌細胞壁が少なくとも部分的に加水分解される。本発明の方法のある実施形態で産生される透過処理された細菌細胞は、蛍光活性化細胞分類(FACS)などの技術にかなり適している一方、スフェロプラストは高剪断フローシトメトリー環境により損なわれ、制御された浸透圧条件を必要とし、このため、それらの潜在的使用が限定される。
【0103】
透過処理は、好ましくは、細胞タンパク質をそれらの自然な状態及び相互関係で保存する。非イオン性界面活性剤は、一般にタンパク質の重畳及びタンパク質複合体に対してイオン性界面活性剤ほど破壊的でない。したがって、好ましい実施形態では、細菌細胞壁を透過処理するために非イオン性界面活性剤を用いる。非イオン性界面活性剤の非限定的例としては、Triton X−100、Triton X−114、Brij 35、Brij 58、Tween 20、Tween 80、Nonidet P−40 Substitute、オクチルβグルコシド、Mega 8、Mega 9、Mega 10、BigCHAP、Deoxy BigCHAP、Apo8、及び8TGP(8−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド)が挙げられる。
【0104】
細菌細胞を透過処理するために、界面活性剤の混合物を用いてもよい。例えば、界面活性剤は、2以上の非イオン性界面活性剤の混合物であってもよい。1つの実施形態において、界面活性剤はMega 10とApo8の混合物である。
【0105】
所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドが細菌細胞壁に付着しているか、又は内側細胞膜と一体化しているか若しくは付着している場合、必ずしも細菌細胞の内膜を透過処理する必要はない可能性があることを当業者は理解するであろう。このため、1つの実施形態では、細菌細胞は選択的に透過処理される。「選択的に透過処理される」とは、透過処理された細菌細胞の外膜が内膜よりもさらに透過処理され、それにより、内膜及び外膜の両方が、0.5%のMega 10及び0.5%のApo8を含む溶液を用いることによる等で透過処理された透過性細胞に比して、膜不透過性物質、例えば膜不透過性DNA結合リガンドGel Redの50%以下、より好ましくは40%、30%、20%、10%、5%、4%、3%、2%、1%以下又は0%が選択的透過性細胞の内膜を透過することを意味する。
【0106】
当業者は、本発明の方法にしたがって細菌細胞を選択的に透過処理するための好適な条件を決定することができるが、1つの実施形態では、細菌細胞は、非イオン性界面活性剤で選択的に透過処理される。例えば、非イオン性界面活性剤は、Apo8及びTween20から選択することができる。1つの実施形態において、細菌細胞を選択的に透過処理するための溶液は、約0.2%から約0.4%、又は約0.2%から約0.3%、又は約0.2%の濃度で界面活性剤を含む。好ましくは、細菌細胞を選択的に透過処理するための溶液は、Ca2+又はEDTAを含む緩衝液中の浄化剤を含む。細菌細胞を選択的に透過処理するための好適な例示的緩衝液としては、25mMのTris中0.2〜0.4%のApo8若しくはTween20、1mMのEDTA(pH8.0)、又は25mMのTris、2mMのCa2+(pH8.0)が挙げられる。1つの実施形態において、細菌細胞の選択的透過は、細胞を好適な緩衝液中、約25℃にて約10分間培養することで達成できる。
【0107】
別の実施形態において、グラム陰性細菌細胞を透過処理し得る化学物質は、クロロホルムのような有機溶媒である。例として、細胞膜の内膜及び外膜は、親油性溶媒クロロホルムの飽和水溶液中で、グラム陰性細菌細胞を懸濁することによって透過処理することができる。クロロホルム相が微細液滴に懸濁されるまで、水相及び有機溶媒の混ざらない2相を、かき混ぜるか、通常は振動させるか、又は機械的攪拌することによってクロロホルムの飽和水溶液を作製する。その2相は沈殿してもよいし、相を分離させるために間欠延伸分離を用いられる。5体積%のクロロホルムの混合物は、飽和水溶液を作るのに十分である。実施例19及び図22は、有機溶媒クロロホルムを用いた大腸菌の内膜及び外膜の透過処理を記載し、実演している。
【0108】
ポリペプチド発現
所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドを、細菌細胞における発現の好適なベクター中に複製することができる。本明細書中で用いられる「ベクター」は、細菌細胞を形質転換するために好適であることが当該技術分野で知られている任意のベクターを指す。好ましくは、ベクターは宿主ゲノムから独立して、細菌細胞内で複製することもできる。ベクターは、プラスミド、ウイルス及びコスミド並びに線状DNAエレメント、例えば大腸菌の線状ファージN15、及び/又は、細菌細胞ゲノムから独立して複製する染色体外DNAが挙げられる。好ましくは、ベクターは発現ベクターである。当業者に理解されるように、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドがファージにパッケージされる実施形態において、ベクターは、ポリヌクレオチドのファージへのパッケージに適した形になるだろうし、ポリヌクレオチドのファージへのパッケージに必要な配列(例えば、コスミド中のcos配列)を含む。
【0109】
本明細書中で用いられる「発現ベクター」は、細菌細胞における特定のポリヌクレオチド分子を発現させることができるベクターである。好ましくは、発現ベクターは、細菌細胞内で複製することもできる。好適な発現ベクターは、典型的には、調節配列、例えば転写制御配列、翻訳制御配列、複製起点、及び組換え細菌細胞と適合性であり、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド分子の発現を制御する他の調節配列を含む。転写制御配列は、転写の開始、伸長及び終止を制御する配列である。特に重要な転写制御配列は、転写開始を制御するもの、例えばプロモーター配列、エンハンサー配列、オペレーター配列及びリプレッサー配列である。好適な転写制御配列は、細菌細胞で機能することができる任意の転写制御配列を含む。そのような種々の転写制御配列は、当業者に公知である。
【0110】
発現ベクターの細菌細胞への形質転換は、ポリヌクレオチド分子を細胞中に挿入できる任意の好適な方法により達成することができる。形質転換技術としては、エレクトロポレーション及び化学変換が挙げられるが、これらに限定されるものではない。形質転換されたポリヌクレオチド分子は、染色体外にとどまる可能性があるか、又はそれらの発現される能力が保持されるように形質転換された(つまり、組換)細胞の染色体内の1以上の部位に組み込まれてもよい。
【0111】
DNA組換技術を用いて、例えば、宿主細胞内のポリヌクレオチド分子のコピー数、それらのポリヌクレオチド分子が転写される効率、結果として得られる転写物が翻訳される効率、及び翻訳後修飾の効率、を操作することによって、形質転換されたポリヌクレオチド分子の発現を改善する。ポリヌクレオチド分子の発現を増大させるために有用な組換技術としては、ポリヌクレオチド分子を高コピー数のプラスミドに機能的に連結すること、ベクター安定性配列のプラスミドへの添加、転写制御シグナル(例えば、プロモーター、オペレーター、エンハンサー)の置換若しくは修飾、翻訳制御シグナル(例えば、リボソーム結合部位、Shine−Dalgarno配列)の置換若しくは修飾、宿主細胞のコドン使用に対応させるためのポリヌクレオチド分子の修飾、及び転写物を不安定化する配列の欠失が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
当業者は、本発明の方法でポリペプチドを発現するために好適な細菌株を容易に決定することができる。当業者は、本発明の方法での使用に好適なグラム陰性菌には、サルモネラ属、大腸菌、赤痢菌、カンピロバクター属、フゾバクテリウム属、ボルデテラ属、パスツレラ属、アクチノバチルス属、ヘモフィルス属及びヒストフィルス属が含まれることを理解する。好ましい実施形態において、グラム陰性菌は大腸菌である。
【0113】
タンパク質複合体
所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドを少なくとも第2ポリペプチドと結合させて、タンパク質複合体が透過処理された細菌細胞の内部に保持されるような分子サイズを有するタンパク質複合体を形成することができる。ポリペプチドを例えば、ジスルフィド架橋などの共有結合によるか、又は非共有結合により、第2ポリペプチドと結合させることができる。「非共有結合」とは、原子間結合が関与しない分子相互作用を指す。例えば、非共有相互作用は、イオン結合、水素結合、疎水性相互作用及びファンデルワールス力が関与する。非共有結合力を用いて、別個のポリペプチド鎖をタンパク質又はタンパク質複合体中に一緒に保持することができる。このため、ポリペプチド及び第2ポリペプチドを同じか若しくは異なるベクターのいずれかから別のポリペプチドとして発現することができるか、又はポリペプチドの一方若しくは両方を、細菌細胞ゲノム中に組み入れられたポリペプチドをコード化するDNAから発現することができる。
【0114】
また、タンパク質複合体と結合するポリペプチド及び第2ポリペプチドは融合タンパク質であってもよい。本明細書中で用いられる「融合タンパク質」とは、2つのポリペプチドのそれぞれの少なくとも一部をコード化するポリヌクレオチドの発現から生じる2以上のポリペプチド、又はそれらのフラグメントからなるハイブリッドタンパク質を指す。
【0115】
分子サイズにより透過処理された細菌細胞中に保持されるタンパク質複合体
第2ポリペプチドは、所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドで形成された複合体の少なくともいくつかが、透過処理された細菌細胞から拡散することができないような十分な分子サイズ(すなわち十分な分子量又は十分な分子半径)の任意のポリペプチドであり得る。このため、タンパク質複合体は、細胞の透過処理後に細菌細胞内に保持される。分子量及び球状又は桿状(糸状)タンパク質であるかどうかを含む第2ポリペプチドの性質が、細菌細胞壁を通過するタンパク質複合体の拡散を防止又は阻害する第2ポリペプチドの能力を決めることを当業者は理解するだろう。一実施形態において、第2ポリペプチドの分子量は、少なくとも約30kDa、又は少なくとも約40、50、60、70、80、90、100、120、130、140、150kDa若しくはそれ以上である。一実施形態において、第2ポリペプチドは少なくとも約120kDaである。
【0116】
一実施形態において、第2ポリペプチドは、透過処理された細菌細胞の孔排除サイズよりも大きな分子サイズを有するマルチマーを形成する。本明細書中で用いる「マルチマー」という用語及びその文法的変形は、2以上の異なる分子間のマルチマー複合体の構造を指す。マルチマーは、例えば、同じタンパク質の2以上の分子(すなわち、ホモマルチマー)又は2以上の異なるか、若しくは非同一タンパク質(すなわち、ヘテロマルチマー)の混合物を含み得る。本発明の方法における使用に好適なマルチマーを形成するタンパク質としては、ダイマー、トリマー、テトラマー、ペンタマー、ヘキサマー、及び7以上のサブユニットを含むさらに高次のマルチマーが挙げられる。
【0117】
マルチマータンパク質は、ホモダイマー(例えばPDGF受容体α及びβイソ型、エリスロポエチン受容体、MPL、並びに−CSF受容体)、サブユニットがリガンド結合及びエフェクター領域をそれぞれ有するヘテロダイマー(例えば、PDGF受容体αβイソ型)、並びに異なる機能を有する成分サブユニットを有するマルチマー(例えば、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、及びGM−CSF受容体)を含む。本発明の方法で用いてもよい他のマルチマータンパク質の非限定的例としては、DNAの合成又は複製に関与する因子、例えばTFIID及びTFIIH等のmRNAの産生に関与するDNAポリメラーゼタンパク質;細胞、核及び他の膜関連タンパク質、例えばホルモン及び他のシグナル伝達受容体、能動輸送タンパク質及びイオンチャンネル、ヘモグロビン、フィブリノゲン及びフォンウィルブランド因子を含む血液中のマルチマータンパク質;細胞内の構造を形成するタンパク質、例えばアクチン、ミオシン及びチューブリン並びに他の細胞骨格タンパク質;細胞外環境で構造を形成するタンパク質、例えばコラーゲン、エラスチン及びフィブロネクチン;細胞内外の輸送に関与するタンパク質、例えばキネシン及びダイニン、タンパク質のSNAREファミリー(可溶性NSF付着タンパク質受容体)及びクラスリン;クロマチン構造の調節に役立つタンパク質、例えばヒストン及びプロタミン、Swi3p、Rsc8p及びモイラ;マルチマー転写因子、例えばFos、Jun及びCBTF(CCAATボックス転写因子);マルチマー酵素、例えばアセチルコリンエステラーゼ及びアルコールデヒドロゲナーゼ;シャペロンタンパク質、例えばGroE、GroEL(シャペロニン60)及びGroES(シャペロニン10);抗毒素、例えばヘビ毒、ボツリヌス毒素、ストレプトコッカス超抗原;リシン(バクテリオファージ及びウイルス由来の酵素);並びにほとんどのアロステリックタンパク質が挙げられる。一実施形態において、マルチマータンパク質は大腸菌タンパク質である。マルチマーを形成する大腸菌タンパク質の非限定的例としては、L−ラムノースイソメラーゼ(RhnA;例えばNCBI受入CAA43002)、β−ガラクトシダーゼ(β−gal;例えばNCBI受入YP001461520)、ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼ(BetB;例えばNCBI受入AAA23506)、グルタメート−5−キナーゼ(G5K;例えばNCBI受入AAB08662)、グルタチオンシンターゼ(GshB;例えばNCBI受入AP_003504)、及び中鎖アルデヒドデヒドロゲナーゼ(YdcW;例えばNCBI受入AP_002067)が挙げられる。
【0118】
一実施形態において、所望の活性に対しスクリーニングされるポリペプチドは、細菌細胞壁内にポリペプチドを保持するために十分な分子サイズを有する。このため、当業者は、透過処理された細菌細胞内にポリペプチドを保持するために、そのようなポリペプチドを第2ポリペプチドと必ずしも結合させる必要はないことを理解するであろう。
【0119】
溶融ファージ及び溶原性ファージのカプシドディスプレイ
別の実施形態において、ポリペプチドは、バクテリオファージ及び/又はファージコートタンパク質のような超高分子複合体に結合してもよい。ファージへのポリペプチドの結合は、ポリペプチドの遺伝子からファージコートタンパク質の遺伝子への直接融合によってであってもよいし、2つの異なる発現ポリペプチド間の強力な相互作用によってであってもよい。溶融バクテリオファージ及び溶原性バクテリオファージの頭表面へのタンパク質ライブラリの結合は、「カプシドディスプレイ」として公知である。ポリペプチドへの融合に適合してもよいファージコートタンパク質の例は、11kDのラムダDタンパク質の遺伝子であり(Sternberg and Hoess, 1995; Mikawa et al., 1996)、その遺伝子は、ラムダバクテリオファージの先端、又は25kDラムダVタンパク質の尾鞘タンパク質を有する(Maruyama et al., 1994)。他の溶融ファージは、T4のようなファージの9kDのSOCタンパク質への融合(Rao et al., 2007)、及び42kDのT7カプシドタンパク質、10BのCターミナスへの融合を用いてもよい(Dai et al., 2008)。P2/P4バクテリオファージシステムの例において、ペプチドは、21kDのP4Psuタンパク質でディスプレイされている(Lindqvist及びNaderi, 1995)。
【0120】
カプシドディスプレイの典型的な方法は、ペプチド又はポリペプチドの、ラムダバクテリオファージのカプシドタンパク質、gpDへの溶融である。この方法は、米国特許番号7,732,150及び米国特許番号6,884,612等の文献に幅広く記載されている(Sternberg及びHoess, 1995; Mikawa et al., 1996; Gupta et al., 2003; Vaccaro et al., 2006; Levy et al., 2007)。
【0121】
先端あたりの融合タンパク質の50%以上のローディングは、ファージの生存能力を減少させるが、ラムダgpDタンパク質は、単位ファージあたり400以上の価数で、N−又はC−末端のいずれかへのポリペプチドの融合を許容することを示している。フィラメント状のファージディスプレイに対するカプシドタンパク質の直接比較によると、標的抽出中に、優れた融合タンパク質発現及び優れた捕捉効率を示していた(Santini et al., 1998; Gupta et al., 2003)。ラムダカプシドディスプレイは、抗体ライブラリーのスクリーニングによく用いられるが、それは、3つのグループの使用を挙げるだけに過ぎない。Gupta et al. (2003)は、生産的重畳の単鎖抗体(scFv)が、ELASA試験による反応性において、フィラメント状のファージディスプレイ抗体の約100倍であることを開示した。同様に、Vaccaro et al. (2006)は、ラムダがscFvの優れたプラットフォームディスプレイになることを見出した。しかしながら、Vaccaro et al. (2006)に示されるように、これは、選ばれたscFvの並外れた珍しい安定性によるものだった。この安定性は、細胞質内で重畳することができる。これらの著者は、他のscFv配列で生産的なディスプレイを得ることは困難であろうと述べた。Levy et al. (2007)は、細胞質内のscFvの生産的重畳を高める大腸菌細胞質タンパク質を選択する遺伝子検査としてラムダディスプレイを用いようとして、この事実を認識して用いた。これらの結果は、scFvの生産的重畳におけるほんのささやかな改善に過ぎなかった。本発明の方法は、溶菌-欠損ファージのカプシドディスプレイシステムにおいて、Gupta et al. (2003)及びVaccaro et al. (2006)に示されるような、安定したscFv骨格を利用することができる。
【0122】
ポリヌクレオチドをパッケージするため、及び、カプシド表面のコード化したポリペプチドをディスプレイするため、の両方で、溶菌-欠損ファージを用いることに大きな利点がある。まず、ファージカプシドは、安定なエンドヌクレアーゼで保護したカプセル封入として供給され、一旦放出されると、高収量の回復(ほぼ100%のパッケージされたファージが回復し得る)が可能となる。第2に、ファージカプシドは、透過処理した細胞内のコード化したポリペプチドの安定な多数の結合部位として供給される。図25は、この特性が、蛍光ターゲットへのscFv結合を直接視覚化するために用いることができることを示している。このscFv結合では、scFvが、ラムダgpDタンパク質に融合する。このため、溶菌-欠損ファージにパッケージされ、さらに透過処理した細胞に封入されたポリヌクレオチドライブラリは、本発明のタンパク質ディスプレイの方法で用いられてもよい。この実施形態で用いるディスプレイの例は、カプシドディスプレイされた抗体又は親和性骨格に対する蛍光識別した標的の結合をスクリーニングすることであり、その結合は、蛍光顕微鏡検査法又はFACSのいずれかを用いて検出される。図25は、FACSを用いたカプシド結合抗体をディスプレイするカプセル化ファージに結合する蛍光標的の同定を示している。
【0123】
ライブラリディスプレイ及び溶菌-欠損ファージを用いてパッケージすることの第3の利点は、誘導した宿主細胞からファージを開放しないことにより、宿主細胞の遠心分離を通じて洗剤又はクロロホルムのいずれかと、精製したリゾチームを用いた誘導溶菌することで、ファージの濃度を高力価にし得ることである。本発明者らの報告によると、溶菌-欠損変異体をファージのパッケージに用いるとき、ラムダ型ファージの力価が、溶菌ファージの液体培養力価に対し100倍増加し得る。溶菌-欠損変異体を用いてファージをパッケージするとき、Ready-Lyse(Epicentre)溶菌細胞の単位mLあたり、1011ファージ以上の力価を成し遂げることが通常である。このレベルの力価を達成するために、面倒な沈殿及びファージ溶解物の超遠心分離を必要とし、長い工程中で融合タンパク質の表面結合を損なうリスクがある。
【0124】
本発明の方法で可能となるカプシドディスプレイのさらなる増大により、カプセル化したファージ粒子に結合しない過量の可溶性カプシド融合タンパク質が細胞透過処理により簡単に取り除かれることもある。この特徴は、カプセル化したバクテリオファージ粒子に結合する標的に重要である。そうでなければ、その結合は、カプシド結合ではない通常超過の融合タンパク質に溶解する。カプシド結合と可溶性融合タンパク質を分離しない場合、親和性タンパク質をディスプレイするバクテリオファージの結合及び/又は捕獲は減少する。
【0125】
実施例20及び23はそれぞれ、Hy5ファージ(P2構造遺伝子とP2/186ハイブリッド)、及びラムダファージカプシドタンパク質(gpL及びgpD)の両方への親和性タンパク質の溶解と、マトリクス結合した標的を通じた改良使用の実証と、を開示する。
【0126】
スクリーンされるポリペプチドは、ファージコートタンパク質に直接融合する必要はなく、むしろ、タンパク質ドメインの安定的な会合を通じて生体内のファージの外部に結合する分離ポリペプチドとして発現してもよい。このような会合の具体例は、タンパク質ドメインとペプチドリガンドとの間の高親和性、例えばカルモジュリンとカルモジュリン結合ペプチド(CBPs)の間に見られるような親和性であってもよい。あるいは、上記会合は、2つのポリペプチド間の共有結合性の相互作用を通じて形成されてもよい。この具体例としては、ディスプレイタンパク質及びバクテリオファージコートタンパク質へのパートナーとして別々に溶解するSNAPタンパク質及びCLIPタンパク質(New England Biolabs)、並びに両タンパク質に共有結合するリガンドが挙げられる。
【0127】
DNA結合タンパク質
本発明者らは、透過処理後の細菌細胞内にDNAが保持されることを見出した。このため、一実施形態において、ポリペプチドをDNA結合タンパク質と結合させて、DNAと結合するタンパク質複合体を形成し、それは細菌細胞の内部に保持される。本明細書中で用いる「DNA結合タンパク質」は、2本鎖又は1本鎖DNAを認識する1以上のモチーフを含むDNA結合領域を含む任意のタンパク質を意味する。DNA結合領域は、当業者に公知であるように、ヘリックス・ターン・ヘリックス、亜鉛フィンガー、ロイシンジッパー、翼状ヘリックス、翼状ヘリックス・ターン・ヘリックス、ヘリックス・ループ・ヘリックス、DNAを認識する免疫グロブリンフォールド、又はB3ドメインが挙げられる。DNA結合タンパク質とポリペプチドを結合により、本発明のスクリーニング法においてポリペプチドをコード化するプラスミド等のDNAの回収が有意に増大する。
【0128】
DNA結合タンパク質の具体例としては、細菌コンピテンスタンパク質、例えば大腸菌DNA結合タンパク質、淋菌DNA結合タンパク質、例えばComE、アデノウイルスE2タンパク質、AraC転写因子、塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス転写因子、塩基性ロイシンジッパー転写因子、ブチラート反応因子、セントロメアタンパク質B、COUP転写因子、初期増殖応答転写因子、Gボックス結合因子、GATA転写因子、HMGAタンパク質、ホメオドメインタンパク質、I−カッパBタンパク質、組込宿主因子、インターフェロン調節因子、インターフェロン−刺激遺伝子因子3、Kruppel様転写因子、ロイシン応答調節タンパク質、マトリックス付着ドメイン結合タンパク質、メチル−CpG結合タンパク質、MutSホモログ2タンパク質、骨髄性−リンパ性白血病タンパク質、NF−カッパB、NF1転写因子、核呼吸因子、ガン遺伝子タンパク質p55、起点認識複合体、対合ボックス転写因子、POUドメイン因子、プロトオンコジーン因子、ラッド51リコンビナーゼ、Rad52DNA修復及び組換えタンパク質、複製タンパク質A、複製タンパク質C、網膜芽細胞種タンパク質、Smadタンパク質、SOX転写因子、Tボックスドメインタンパク質、TCF転写因子、テロメア結合タンパク質、Toll様受容体9、トランス活性化因子、及び翼状ヘリックス転写因子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、DNA結合タンパク質は大腸菌DNA結合タンパク質である。別の実施形態において、DNA結合タンパク質は淋菌タンパク質、例えばComE又はそれらのドメインである。
【0129】
細胞壁結合タンパク質
所望の活性に対しスクリーニングされるポリペプチドを、細菌細胞壁結合タンパク質と結合させてもよい。異なる細菌は異なる細胞壁組成を有するので、当業者は、細胞壁結合タンパク質の選択が宿主細胞種に依存することを理解するであろう。細菌は、ペプチドグリカン(PG)から構成される細胞壁を有するが、種間の化学修飾は、異種間結合に影響を及ぼし得る。当業者は、特定の細菌種における使用に適した細胞壁結合タンパク質を容易に決定することができる。
【0130】
細菌細胞壁結合タンパク質は、ドメイン構造を有することが知られているタンパク質を含み、そのドメイン構造によって天然の構造中のポリペプチド鎖の部分が細菌細胞壁上の特定の分子又は分子構造を認識し、結合する。それ故、「細菌細胞壁結合タンパク質」の用語は、細菌細胞壁に特異的に結合するタンパク質の部分であるタンパク質ドメインを含む。細菌細胞壁結合タンパク質の例としては、バクテリオファージによりコードされるような細胞壁ヒドロラーゼ、細菌細胞壁ヒドロラーゼ及び異なる自己溶菌酵素が挙げられる。さらに、バクテリオファージ及び他のウイルスのDNAによりコードされる受容体分子も含まれる。細菌細胞壁結合タンパク質が、細菌に特異的に結合できるバクテリオファージ複製起点の加水分解酵素に由来する場合、細胞壁結合タンパク質はそれらの結合能力を保持するが、顕著な加水分解性は有さないことが好ましい。
【0131】
一実施形態において、細胞壁結合タンパク質は大腸菌の細胞壁に非共有結合する。例えば、大腸菌宿主細胞に対して、PAL、OmpA、YiaD、YfiB、及びMotBに存在する、約100の保存されたアミノ酸PG結合ドメインを有する内因性PG結合タンパク質がある(Parsons et al., 2006)。しかしながら、例えばシュードモナス属φKZファージ(KzPG)由来の約70のアミノ酸PG結合ドメイン等の他の生物由来のタンパク質は、大腸菌で十分に発現され、高親和性で細胞壁に結合することが示されている(Briers et al., 2009)。したがって、本発明の方法において、PGと結合するタンパク質由来のPG結合ドメインを細菌細胞壁結合タンパク質として用いてもよい。
【0132】
典型的な実施形態において、所望の活性に対してスクリーニングされ、細菌細胞のサイトゾルで発現されるポリペプチドに、PG結合ドメインを融合させてもよい。膜透過処理により、PG結合ドメインは細胞壁にアクセスし、結合する。その結果、透過処理細胞内で関心対象のポリペプチドが保持される。細胞内の関心対象のポリペプチドの保持を潜在的にさらに増強するために、当業者は、ポリペプチドが細菌細胞壁結合タンパク質に加えてDNA結合タンパク質と結合できることを理解するであろう。
【0133】
あるいは、関心対象のポリペプチドは、細菌細胞壁に共有結合することができるタンパク質と結合することができる。好ましくは、タンパク質は周辺質を標的とするシグナルを含む。このため、ポリペプチドは細菌細胞のサイトゾル中で発現されるが、膜透過処理前に細胞壁に結合する周辺質を標的とする。
【0134】
非限定的な具体例として、細胞壁と共有結合する細菌細胞壁結合タンパク質は、細胞壁と結合することができ、外膜付着に必要な機能的N末端シグナル配列が欠如したリポタンパク質であり得る。例えば、リポタンパク質は大腸菌LPPであり得る。LPPは、トリマーコイルドコイルを形成する多量の大腸菌タンパク質である。その天然の形態において、一端は脂質化により外膜に結合し、多端はC−末端リシンにより細胞壁に共有結合する。リポタンパク質は、リポタンパク質に周辺質を標的とさせる配列、例えばOmpF周辺質ターゲティング配列をさらに含んでもよい。一実施形態において、リポタンパク質は、外膜への付着に必要な機能的N末端シグナル配列が欠如した大腸菌リポタンパク質である。
【0135】
本明細書の教示を考慮すれば、当業者は、本発明の方法の使用に好適なタンパク質であって、細菌細胞壁と共有結合するタンパク質を同定又は設計し得る。
【0136】
本発明の一実施形態において、所望の活性に対しスクリーニングされるポリペプチドは、KzPGドメイン並びにスペーサー、SNAP及び/又はDBPから選択される1以上の他のドメインを含む融合ポリペプチドである。特定の一実施形態において、融合ポリペプチドは、1以上スペーサー並びにKzPG、SNAP及びDBPドメインを含む。
【0137】
スペーサー
一実施形態において、所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドを、1以上スペーサーを含む融合ポリペプチドとして発現してもよい。本明細書中で用いられる「スペーサー」は、融合ポリペプチド中に含まれ、かつ細菌細胞におけるポリペプチドの発現を増強するか、又は、立体障害を減少させて、所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドがその所望の三次構造をとることができるか、及び/又は、その標的分子と適切に相互作用することができるペプチド若しくはポリペプチドを指す。したがって、融合タンパク質は、融合ポリペプチド中の1以上のポリペプチドドメインの前後又は中間に1以上スペーサーを含み得る。スペーサー及び所望のスペーサーの同定方法については、例えば、George, et al. (2003)参照。
【0138】
一実施形態において、スペーサーは、1〜50のアミノ酸残基の長さ、又は約1〜25残基又は約5〜15残基の長さである1以上のアミノ酸配列を含む。例えば、スペーサーは、I27、RL1、RL2、RL3、RL4、RL5及び/又はRL6の1以上から選択することができる。当業者は、限定された数のアミノ酸置換、例えば、1、2、3、4又は5のアミノ酸置換を、スペーサーとして機能するその能力に影響することなくスペーサーに導入し得ることを理解するであろう。特定の1つの実施形態において、1以上スペーサーは、配列番号6〜12又は16のいずれか1つから選択される。したがって、1つの実施形態において、所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドは、I27、RL6、KzPG、SNAP及びDBPを含む融合ポリペプチドである。
【0139】
別の実施形態において、スペーサーの領域は、タンパク質領域に対する高親和性の結合部位となるペプチド配列を含んでいてもよい。例えばカルモジュリンは、短ペプチド領域に位置づけられたタンパク質リガンドからの多数のペプチド配列へのCa2+依存親和性を有する。これらのCPBs(ペプチド結合カルモジュリン)は、カルモジュリンに対してかなり高い親和性の結合(Kdの1nMから1pMの間)に変異され(Montigiani et al., 1996)、Ca2+切替可能な高親和性の2つのタンパク質間の相互作用を可能とし、一方のタンパク質がCBPスペーサー領域を有し、他方のタンパク質がカルモジュリンに融合する。
【0140】
スクリーニング法及びタンパク質進化
本発明は、標的分子に対する所望の活性に関してポリペプチドをスクリーニングするための方法を提供する。本明細書中で用いられる「所望の活性」という用語は、ポリペプチドの任意の潜在的に有用な活性を指し、結合、酵素修飾、重畳安定性及び/又は熱安定性を包含するが、これらに限定されるものではない。
【0141】
「標的分子」の用語は、ポリペプチドと結合する分子及び/又はポリペプチドにより修飾される分子を指し、例えば抗体、受容体、抗原、酵素等であってもよい。このため、「標的分子」は、酵素基質又は結合について評価される分子(例えば、リガンド、エピトープ、抗原、マルチマー化パートナー、例えばホモ若しくはヘテロダイマーパートナー等、又はそれらの任意の組み合わせ)を言及する際に使用することができる。
【0142】
ポリペプチド活性は、単一のポリペプチドを発現する単一種の細胞の関連であるか、又はそれぞれが異なるポリペプチド若しくはポリペプチド変異体を発現する細胞のライブラリーの関連で、スクリーニングあるいは選択することができると理解される。このため、本発明の方法は、生体外タンパク質進化に用いることができる。生体外タンパク質進化により、多数のタンパク質機能及び特性を調査することが可能になり、典型的には2つの主要ステップ、つまり多様化及び選択を含む。多様化は、ポリペプチドをコードする核酸の多様なライブラリーを生成する能力に依存する。選択は、所望の活性に対してライブラリーをスクリーニングし、活性を遺伝子型と結びつけることにより、例えば、観察された活性の原因となる遺伝子型を含むライブラリーの数を特定することにより達成することができる。
【0143】
DNAライブラリは、ポリペプチドをコード化するDNA挿入物(DNAフラグメント)を含む組換えベクターの収集物である。DNA挿入物の複製起点は、ゲノム、DNA、合成又は半合成であり得る。ポリペプチドは、所望の活性を有してもよく、例えば関心対象のポリペプチドは、結合タンパク質、例えば抗体又は酵素、例えば、ポリメラーゼ、リガーゼ、制限酵素、トポイソメラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、代謝性酵素、触媒酵素又は成長因子ホルモン、抗菌ペプチド、抗原、受容体、レポータータンパク質、免疫調節タンパク質、神経伝達物質、構造タンパク質、転写因子又はトランスポーターであり得る。一実施形態において、ポリペプチドは抗体又は酵素である。したがって、本発明の方法を、所望の活性を有するポリペプチドの変異体に対してスクリーニングするために用いることができる。
【0144】
例えば、結合タンパク質又は酵素のDNAライブラリーのクローニング及び構築は、当該技術分野で公知の方法を用いて実施することができる。例えば、Lutz and Patrick (2004)は、ライブラリー多様性を生成させる方法及びタンパク質工学で使用するための遺伝子組換えの方策を概説している。ディスプレイされたポリペプチド変異体のスクリーニングのために、表面ディスプレイされたライブラリーに用いられる方策を、本発明の方法に採用し、適応させることができる(Becker et al., 2004; Daugherty et al., 2000., Kenrick et al., 2007; Miller et al., 2006)。
【0145】
核酸のライブラリーを複数の細菌細胞に導入し、その結果、細菌細胞のそれぞれにおいてライブラリーのメンバーが発現される。発現に加え、ポリペプチドを、それらの機能又は特性を評価するために、透過処理された細菌細胞内で保持するか、又は細胞壁に付着させる。ポリペプチド、例えば抗体などの結合タンパク質の核酸ライブラリー、又は酵素の核酸ライブラリーを、種々の方法により、例えば点突然変異などの突然変異、欠失、及び挿入の導入によるか、又は組換え事象により、生成させることができる。変異体のライブラリを生成させる方法は、当該技術分野で公知であり、エラープローンPCR、DNA修復不全細菌におけるDNAの合成及びDNAの化学修飾を含む。組換えによりライブラリーを生成させる方法は、当該技術分野で公知であり、遺伝子シャッフリング、高組換え誘導細菌におけるDNAのアセンブリ、合成核酸ライブラリアセンブリなど、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。このように、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドのライブラリーを複数の細菌細胞に導入することができ、その結果、細菌細胞のそれぞれにおいてライブラリーの1つ又はメンバーが発現される。
【0146】
ある実施形態において、ライブラリーは、ポリペプチドの2以上の変異体を含み、この場合、それぞれの変異体は、アミノ酸配列において若干の変化を有する独特のポリペプチドを含む。他の実施形態において、ライブラリーは、2以上の無関係な配列を含む。例えば、酵素を阻害できる候補ポリペプチドを同定するために、ランダム配列又は所定の配列のライブラリーを調べることができる。ライブラリーは、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも1000、少なくとも10,000、少なくとも100,000、少なくとも1,000,000、少なくとも107又はそれ以上のメンバーを有し得る。
【0147】
結合タンパク質ディスプレイ
一実施形態において、本発明の方法を、例えば抗体などの結合タンパク質の発生に適用することができる。したがって、一実施形態において、所望の活性に対しスクリーニングされるポリペプチドは結合タンパク質であり、標的分子は、結合タンパク質が結合することができる任意の分子であり、所望の活性は、標的分子に対する結合、及び/又は結合の程度である。本発明の方法は、例えば、結合タンパク質をコード化するポリヌクレオチドを含む細菌細胞を培養して、細胞においてタンパク質を産生することを含み得る。細胞を続いて透過処理し、透過処理された細胞を標的分子と接触させる。当該技術分野における任意の好適な方法を、ポリペプチドが標的分子と結合するかどうか、及び/又は標的分子と結合する程度を決定するために用いることができる。
【0148】
本発明の方法は、結合タンパク質ディスプレイライブラリのスクリーニングに特に適している。タンパク質の細胞外空間に対するターゲティングを絶対的に必要とする生体内表面ディスプレイの他の方法と異なり、細胞膜はディスプレイタンパク質に対して提示された標識された標的との相互作用を防止するので、本発明の方法は、宿主細胞の細胞質において親和性タンパク質を発現でき、重畳することができる。したがって、スクリーニングパラメータは、細菌の細胞質における親和性変異体タンパク質の高収率及び生産的重畳を含み得る。
【0149】
さらに、細胞質タンパク質発現及び重畳が還元環境にある場合、本発明の方法を適用して、抗体の変異体、又はそれらの自然の形態でジスルフィド結合を有し還元環境において生産的重畳が可能である他のタンパク質を選択することができる。選択された変異体は、重畳安定性に関してドメイン内又はドメイン間ジスルフィド結合に依存しないので、更に安定であることが予想される。このアプローチは、中和又は標識のいずれかのために標的の細胞内結合に使用できる抗体を開発するために応用される。
【0150】
それ故、本発明の方法は、当該技術分野で公知のスカフォールド、例えば1本鎖抗体(scFv)、ドメイン抗体、Fab、及び非抗体スカフォールド、例えばリポカリン、FN3、ユビキチン、γ−B−クリスタリン等を含む種々の結合タンパク質のディスプレイ及び選択のためのプラットフォームとして用いることができる。
【0151】
ファージディスプレイと併用するペプチドスクリーニング
従来のファージディスプレイは、フィラメント状ファージの表面に結合したスクリーニングされたポリペプチドとともに、一般的に1又は数種の複製だけで、標的分子への親和性に平行して大多数のクローンのスクリーニングを可能としている。しかしながら、低い又は中程度の親和性のクローンのバックグラウンドは高いし、特有のクローンは、サブクローン及びシークエンシングなしで区別することはできない。そして、独特の各クローンの特性(例えば、発現レベル、溶解性及び親和性)の決定は、通常、発現の形式に変化が必要である。このため、先行技術の方法では、実質的作業量は、初期のファージディスプレイスクリーンの下流に位置する。
【0152】
一方、本発明の方法は、FACSを用いてグラム陰性細菌細胞の内部のポリペプチド又はグラム陰性細菌細胞内のポリペプチド、又はグラム陰性細菌細胞に結合するポリペプチドを特定する。FACSは、結合パラメータを高く増強された所望の特性を持つクローンにするように定義づける。しかしながら、個々のクローンのスクリーニングは、順次的であり、1つのスクリーンで進行してもよい個々の個体数に多少の上限下限があるが、1秒あたり104クローンのソート率でさえある。例えば2時間で108クローンを処理することができる。
【0153】
このため、ある状況においては、本発明で提供されるように、FACSで分析する細胞ディスプレイの複製の特徴を従来のファージディスプレイシステムの平行スクリーニングと組合せることが望ましいこともある。それ故、初期のスクリーンは、従来のファージディスプレイで実行し、続いて、ポリペプチドが、細菌細胞内、及び/又は、細胞壁に結合して、あるいは、カプセル化された溶菌-欠損ファージに結合して保持される本発明のディスプレイシステムによって出力クローンを分析する。
【0154】
このため、遺伝子ライブラリーは、ファージタンパク質への溶解を用いて、又は本明細書に記述されるような2つのポリペプチドの安定結合を通じて、溶菌ファージ又はフィラメント状ファージの表面に発現され、ディスプレイされることもある。これらのファージは、バクテリオファージの標準的技術を(取り出す)用いるフィラメント状のファージの活性に対してスクリーンされることもある。標的分子(例えば親和性基質)に付着する溶融タンパク質をディスプレイするファージは、プロファージ溶原菌を含むヘルパー種への感化によるコスミドのように、産出され、正常な状態に戻り得る。このサイクルは、ライブラリーが増強クローンに支配されるまで繰り返され得る。この時点で、ライブラリーは、本発明の方法によるカプセル化したディスプレイを実行するベクターシステムにサブクローンされ得る。
【0155】
したがって、本発明の一実施形態において、追加のスクリーニング工程は、本発明のスクリーニングの方法の前、及び/又は、後に実行される。上記で概要を述べたように、追加のスクリーニングは、従来のファージシステム、つまり、以下のファージシステムを含む。i)所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドが溶菌-欠損ファージにパッケージされていない、及び/又は、ii)ポリペプチドが細菌細胞壁によって細菌細胞の内部に、及び/又は、細菌細胞壁に付着して、保持されていない。このような追加のスクリーニングは、溶融ラムダファージ又はフィラメント状M13ファージを用いるような、ファージディスプレイの公知の方法に含んでもよい。
【0156】
本発明の別の実施形態において、従来のファージディスプレイの方法は、増強したライブラリーのDNAをサブクローニングせずに、2つの形式のタンパク質ディスプレイの間で機敏に切り替えることを可能にするために、溶菌-欠損ファージ及びカプセル化した細胞のディスプレイを用いることを組合せてもよい。
【0157】
この実施形態において、ディスプレイされたタンパク質は、溶菌-欠損バクテリオファージ若しくはファージミドにクローンされたポリヌクレオチド、又は、プロファージによってパッケージ可能なコスミドにクローンされたポリヌクレオチドによって、ファージカプシドに溶融するようにコード化されてもよい。ラムダベクターのようなカプシドディスプレイのバクテリオファージベクターの構成方法は、Mikawa et al (1996)、Sternberg and Hoess (1955) 及びVaccaro et al. (2006)に記載されている。プラスミドベクター及びコスミドベクターの構成方法は、従来公知でもある。例えば、pUC及びpBR322複製起点に基づくファージミドベクターはそれぞれ、Yankovsky et al. (1989)及び King et al. (1982)に記載されていた。ラムダコスミドに関するSambrook and Russell (2001)及びP2/P4/186コスミドに関するKahn et al. (1991)はいずれも、ベクターの優れた一般的記述及び詳細の記述を提供している。コスミドは、溶菌-欠損プロファージを含む細菌細胞株に移送され、カプシド溶融タンパク質の発現及びコスミドベクターのパッケージングの両方を誘導されるだろう。
【0158】
あるいは、溶菌-欠損バクテリオファージベクターは、宿主細胞に移送/感化され、同様に、カプシド溶融タンパク質及びバクテリオファージベクターゲノムの発現を誘発する。
【0159】
バクテリオファージ/コスミドベクターのパッケージングの後に、細胞は、洗剤又はクロロホルムのような有機溶媒と、Ready-Lyse (Epicentre)として商業的に使用可能な酵素リゾチーム活性とを用いた透過処理工程の複合処理によってパッケージされたファージを開放するように溶融してもよい。ディスプレイライブラリは、ファージディスプレイ選択に一般に用いる方法で標的に結合するために「取出」してもよい。取出の後に、ライブラリは、溶菌-欠損プロファージを含む細菌宿主への再感化により回復する。取出と再感化のサイクルは、結合ファージのライブラリ個体群が実質的に増強されるまで繰り返し私用されてもよい。そのファージ産出の次のサイクルの時点で、細胞が透過処理されるが、酵素溶融工程は除外され、このため、カプセル化したファージのサブライブラリを産出する。蛍光誘導体化表示された標的は、実施例23に記載され、図25で観察されるように、これらのカプセル化したファージに結合してもよく、そしてそのカプセル化したファージは、FACSによって分類されてもよい。
【0160】
当業者は、この実施形態がディスプレイの異なる2形態の間を動くディスプレイライブラリを提供することを理解するだろう。この2形態とは、1)低度の複製選択性で高平行なスクリーンである固定化した標的へのフリーファージの取出、及び、2)高い選択性である一方、低処理のスクリーンであるカプセル化個々のクローンのFACS特性及び精製である。このため、本発明の方法のこの実施形態は、本発明でない限り必要とされる再編成のためのユーザーが不在でも、各システムの最も強力な要素を用いることができるようにする。それ故、このような実施形態は、ロボットのように高処理な作業流れを簡単に受け入れる。
【0161】
本発明の方法の別の実施形態において、可溶性の抗体は、本発明の方法によるファージディスプレイとグラム陰性細菌細胞のディスプレイの間の切替を可能とする遺伝子ライブラリでスカフォールドとして特定され、使用されてもよい。
【0162】
酵素ディスプレイ
本発明の方法は、酵素及び酵素ライブラリーのディスプレイのため、そして酵素特性の発生のために用いることができる。このため、一実施形態において、所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドは酵素であり、標的分子は酵素基質であり、所望の活性は標的分子に対する結合及び/又は標的分子の酵素修飾である。当業者は、他の表面ディスプレイ技術を用いる酵素活性に関する試験を開発するための方法を、本発明の方法に対する分析と同等に適用することができることを理解するであろう。
【0163】
本発明の方法は、透過処理され、次いで水中油中水(w/o/w)エマルジョンとして懸濁された宿主細胞において発現された酵素ライブラリーの使用にも好適である。Aharoni et al. (2005)は、パラキソナーゼの改善のためにFACSによりw/o/wエマルジョン中で表面ディスプレイされた酵素ライブラリをを使用することの有用性を示した。非透過性油膜中に封入することの利点は、拡散性基質及び生成物を酵素活性及びコーディング核酸配列の近くに保持できることである。しかし、Aharoni et al. (2005)により記載されているスクリーンは、酵素が宿主細胞の外部でディスプレイされることを必要とする。本発明の方法を使用して、酵素ライブラリーの細胞内発現及び重畳を酵素機能における改善のために用いることができた。
【0164】
本発明の方法において、酵素を産生するために、酵素をコード化するポリヌクレオチドを含む細菌細胞を培養する。細菌細胞の透過処理後に、細胞を酵素の基質と接触させ、公知方法を用いて、酵素が基質を修飾するかどうか、及び/又は基質の酵素修飾率を測定することができる。
【0165】
数例において、標的分子(例えば酵素基質)を細菌細胞と結合させることが望ましい場合がある。当業者は、標的分子を透過処理された細菌細胞の任意の成分に、直接的又は間接的のいずれかで結合させることができることを理解するであろう。直接結合は、非限定的例として、標的分子を細菌細胞壁と結合させることにより達成することができる。標的分子の間接的結合は、標的分子を、所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドと結合している第2ポリペプチドと結合してタンパク質複合体を形成することによって達成することができる。例えば、標的分子を、透過処理された細菌細胞の内部にタンパク質複合体を保持するために十分な分子サイズを有するポリペプチドと結合させることができるか、又はDNA結合タンパク質と、若しくは本発明の方法で用いられるような細菌細胞壁結合タンパク質と結合させることができる。標的分子を細菌細胞と結合させることにより、有利には、例えばFACS又は磁気ビーズ選択によるなどの技術を使用して、活性酵素を提示する細菌細胞の単離が可能になる。
【0166】
当業者は、標的分子を細菌細胞と結合させるために好適なカップリング化学を容易に決定することができるであろう。好適なカップリング化学としては、アクリダイト及びマレイミドなどのチオールカップリング試薬でのシステイン標識、アミン標識、並びにカルボキシル標識が挙げられ、これらはPierce Protein Research Products及びInvitrogenを含む供給元から市販されている。
【0167】
フローサイトメトリー分析
本発明の細胞ディスプレイ技術は、関心対象のポリペプチドの数千もの分子を一度に提示することができ、リボソーム/mRNAディスプレイ又はファージディスプレイ等の分子ディスプレイ技術と異なり、フローサイトメトリー技術を用いて、例えば蛍光活性化細胞分類(FACS)機械を用いてスクリーニングすることができる。ライブラリーにおける陽性事象を捉えることができるだけでなく、酵素活性又は親和性などのパラメーターを各陽性メンバーについて同時に定義することができ、これによりスクリーンのアウトプットを改善することができる。フローサイトメトリーを実施するための機器は当該技術分野で公知であり、FACS Star Plus、FACScan及びFACSort(Becton Dickinson)、Epics C、並びにMoFloが挙げられる。フローサイトメトリー技術は、一般的に、液体試料中の細胞の分離を含む。典型的には、FACSの目的は、1以上の特性、例えば、標的分子の存在について細胞を分析することである。フローサイトメトリー分析を実施するための方法は、当該技術分野で周知である。例えば、酵素活性を分析するためのFACSの使用法の概説は、Farinas(2006)により記載されている。
【0168】
本発明に関して、フローサイトメトリーは、連続して実施できる複数回のスクリーニングに有用である。細胞を初回の分類から単離することができ、直ちにフローサイトメーターに再導入し、再度スクリーニングして、スクリーンのストリンジェンシーを改善することができる。フローサイトメトリーは、本質的に粒子分類技術であるので、細胞を培養する能力は必要ではない。無生育性細胞から核酸を回収するための技術は、当該技術分野で周知であり、例えば、PCRを含むテンプレート依存性増幅技術を挙げられる。
【0169】
所望の活性を有するポリペプチドを生成するグラム陰性細菌細胞を同定した後、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含むDNAを、任意の好適な公知技術を用いて細菌細胞から単離してもよい。このため、通常の手順を使用して、ポリペプチドをコード化するDNAを単離し、配列決定してもよい。必要に応じて、ポリヌクレオチドは、所望の活性に対してスクリーニングされる変異体の別のライブラリーを生成するために、もう1ラウンドの多様化を実行してもよい。このようにして、ポリペプチドの所望の活性を最適化するために反復プロセスを使用することができる。
【0170】
ポリヌクレオチドが溶菌-欠損ファージによってパッケージされる実施形態において、所望の活性を有するライブラリーのポリペプチド部をコード化するポリヌクレオチドは、リゾチーム(例えば、Ready-Lyse (Epicentre))で細胞壁を透過処理する処理によって、細胞壁を劣化させて、次の感化のファージを放出し、さらなる反復増強のため、又は、パッケージされたファージライブラリ又はコスミドライブラリの回復による複製の分析のため、post-FACSスクリーンから簡単に迅速に回復されてもよい。
【0171】
このため、本発明の本実施形態は、ファージパッケージ遺伝子ライブラリを容易に回復し、操作できるとともに、発現の共通特性及びFACSスクリーニングとの結合パラメーターを考慮している。それ故、溶菌-欠損ファージライブラリーを用いるFACSスクリーニングの反復ラウンドは、単純化されており、付随性突然変異エラー及び必要な操作の両方とともに陽性クローンのPCR増幅に依存していない。
【0172】
溶菌-欠損ファージを用いた遺伝子ライブラリーのパッケージング
本発明者らは、誘導可能な溶菌-欠損プロファージを用いることが、グラム陰性細胞中の遺伝子ライブラリーを高効率に複製し、パッケージングすることが可能となることを発見した。誘導可能なプロファージは、グラム陰性細菌細胞のゲノムに存在するプロファージであり、プロファージが細菌細胞中でファージとして活性化されるようにプロファージの活性を誘導する。そして、細胞中のファージは、ポリヌクレオチドをパッケージすることができてもよい。
【0173】
本発明の方法をディスプレイすることによってスクリーンされたタンパク質をコード化するポリヌクレオチドは、溶解状態を有するファージ、あるいは溶菌-欠損ファージにパッケージされてもよい。溶解性及び溶原性ファージゲノムは、一般的にライフサイクルに欠失可能領域を有しており、複製遺伝子及び関連する調節領域で置換されてもよい。欠失可能領域は、DNA再結合(例えば、ラムダバクテリオファージベット、及び外来性細胞及びNin5領域)に関する遺伝子を含む領域、又は溶原菌(例えば、ラムダファージEa47、Ea31、Ea59、ロム、及びbor遺伝子:旧P2ファージ、及びFun遺伝子)への宿主細胞生存機能を提供する領域を含んでいてもよい。あるいは、通常よりも部分的に大型のゲノムのパッケージングの許容範囲(例えば、ラムダバクテリオファージが野生型長48.5kbの105%以上にパッケージする)があってもよい。その許容範囲により、重要でない領域、例えば、T7選択ファージディスプレイシステム(Novagen)の置換なしで、ゲノムに直接に短領域を複製することができる。遺伝子ライブラリーが溶菌-欠損バクテリオファージベクターに複製されると、溶菌遺伝子も欠失可能領域を表す。
【0174】
もし可能なら、所望の活性に対してスクリーニングされるポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドは、バクテリオファージの必須のオペロンの転写及び翻訳を中断させないように、ファージゲノムの領域に複製すべきである。このため、当業者は、ポリヌクレオチド自身の転写調節領域(例えば、そのプロモーター及び/又はターミネーター)を用いてポリヌクレオチドを発現してもよいことを理解するだろう。
【0175】
所望の活性に対してスクリーンされるポリペプチドの遺伝子ライブラリーもまた、伝染性ファージ粒子としてプラスミドをパッケージするヘルパーファージを指示する成分を用いて構成されていてもよい。例えばバクテリオファージ、ラムダ、P2、P4及び他のラムダ型のファージのcos領域が<500bpの成分であり、その成分は、ターミナーゼ酵素のための結合部分及び卵割部分を有する。そのターミナーゼ酵素は、これらの領域を含むプラスミドをファージカプシドヘッド内の線素としてパッケージする。これらのcos領域は、従来技術でコスミドとして言及されるプラスミドに複製され得る。一般に、コスミドのサイズは、野生型ゲノムのサイズに近く、通常、野生型ファージゲノムの80から105%以内で効率的にパッケージされる。あるいは、コスミドのサイズは、単一ファージヘッド内でパッケージされるコスミドのマルチマーと野生型ゲノムの単位分数(1/2、1/3、1/4)であってもよい。マルチマーは、recA+細胞内のコスミドの間での再結合によって細胞内で形成されてもよいし、バクテリオファージの複製サイクル(つまり、ラムダバクテリオファージによるローリングサークル複製)の中で形成されてもよい。
【0176】
P2ファージ、又は関連する186ファージ若しくは186及びP2のハイブリッド、及びその付随体、P4は、プラスミドに基づくクローン技術(〜11kb)を有利に提供するし、P2ターミナーゼタンパク質は、ラムダターミナーゼが好ましいような、隣接cos領域との線状マルチマーよりもむしろ、単一cos領域を含むプラスミド基質をパッケージすることが好ましい。このため、コスミドライブラリーは、生体内で高効率にパッケージされ、簡単に構成され得る。P2ファージを用いた遺伝子ライブラリーのパッケージングの方法は、Kahn et al. (1991)に記述されている。
【0177】
溶解バクテリオファージを用いたファージライブラリー(例えば、T7選択)は、生体内での宿主細胞の感化に基づいてパッケージされてもよい。ファージが溶菌-欠損である場合、本発明の方法で透過処理され、スクリーンされるまで無傷のままである。そして、伝染性のファージは、ペプチドリカンを劣化させ、ファージ粒子を放出するリゾチームとの処理によって、選択した細胞から回復されてもよい。
【0178】
溶原性バクテリオファージ又はそのコスミドを用いて作製されるファージライブラリーは、ファージを産出するために、及び、溶菌経路に入るために、合成プロファージの活性を誘導することによって、又は、ヘルパーファージを感化することによって、生体内でパッケージされる。プロファージの誘導は、一般にファージ免疫リプレッサータンパク質の温度感性突然変異体を用いて達成される。ライブラリーは、宿主細胞内に低温で形成されてもよく、そして、パッケージングするバクテリオファージは、上向きの温度変化によって誘導される。例えば、ラムダファージのリプレッサー遺伝子のcI857対立遺伝子は、30℃での溶原性の作製及び維持をサポートするが、37℃よりも高い温度では、プロファージを切除し、溶菌経路に入らせるので不活性である。しかしながら、非誘導性のファージとして公知のP2ファージは、UV又は温度感性リプレッサーのような標準的方法で誘導されることができない。一方、P2機能は、活性化P2の代わりに、P4付随体、特にP2/P4共溶原菌の作製を阻むvir変位株、の感化を用いることにより、コスミドパッケージングのヘルパーファージとして誘導させることができる。しかしながら、P2関連ファージ、186は、ファージ複製及び不活性化のパッケージングを誘導し得る温度感性リプレッサーcItsを有していない(Woods and Egan (1974))。さらに、P2及び186のハイブリッドファージは、P2構造遺伝子とファージ186の温度によって誘発された複製制御を含む重感染によって得られた。このようなファージの1つは、Hy5として公知である(Younghusband et al., 1975)。
【0179】
P2溶菌経路を制限するP2及びP4の要素は、クローンされて、溶菌を始動するように誘導されてもよい。実施例17は、溶解を誘導するための転写因子P4δ、P2cox及びP2ogr遺伝子、及び大腸菌株P2/P4共溶原菌でパッケージングするコスミド、の使用を詳述する。ラムダファージcI857リプレッサーは、その内因性プロモーター及びP2及びP4転写因子の発現を制御するCro遺伝子のプロモーター及びオペレーター領域とともに使用された。δ遺伝子は、溶菌の最も急速なアクチベーターであり、ogr及びcox遺伝子がそれに続く。細胞溶菌は、伝染性のP4ファージ及びコスミド粒子の放出とともに生じた。
【0180】
P2活性化を誘導してもよい他のP2制御遺伝子は、全P4sid-δ-psuオペロン及びP4εアンチリプレッサ、又はこれらの組合せを含んでいてもよい。
【0181】
共溶原性P4ヘルパーファージ及び/又は上述のP4制御領域とともにP2ヘルパーファージを含む細胞に移送されるコスミドライブラリーは、生体内でのP2活性の次の誘導でパッケージされてもよい。ファージが溶菌-欠損である場合、本発明の方法によって透過処理されスクリーンされるまで、細胞は無傷のままである。そして、ペプチドグリカンを劣化させてファージ粒子を放出するために、リゾチームで処理して選択した細胞から伝染性コスミドファージ粒子を回復してもよい。
【0182】
キット
本発明の方法の実施に必要な成分は、キットの形態で好適に提供することができる。当業者に理解されるように、キット中の種々の成分は、個々の容器中若しくはアリコートで供給することができるか、又は溶液成分を異なる組み合わせ、異なる濃度で組み合わせて、本発明の方法の最適な実施を達成することができる。使用するまで成分が安定な形態で維持されるように、キットのどの成分を組み合わせることができるかを決定することは、当業者の知識の範囲内である。
【0183】
一実施形態において、本発明のキットは、典型的には、最低でも第1ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドをベクター中に挿入するための部位、及び第1ポリペプチドと結合して、透過処理された細菌細胞の細胞壁の内部に保持されるか又は細胞壁に付着したタンパク質複合体を形成する第2ポリペプチドをコード化するオープンリーディングフレームを含むベクターを含む。キットは、細菌細胞を透過処理するための薬剤も含むことが好ましい。一実施形態において、キットは、細菌細胞、好ましくはグラム陰性細菌細胞をさらに含む。他のさらなる成分がキットとともに含まれていてもよいか、又は所望により他の成分を最終使用者が提供してもよい。
【0184】
本発明は、所望の活性に対してタンパク質をスクリーニングする方法であって、溶菌-欠損ファージを用いた方法の使用に適したキットをも提供する。このようなキットは、温度感性ファージリプレッサタンパク質、及び/又は、1以上のファージアクチベータ・タンパク質をコード化するポリペプチドとともに、最低でも、溶菌-欠損ファージを含むグラム陰性細菌を一般的に含む。一実施形態において、キットは、P2、186、Hy5、及び/又はP4から選択される溶菌-欠損ファージを含む。別の実施形態において、キットは、溶菌-欠損ラムダファージを含む。キットは、グラム陰性細菌細胞を透過処理するための添加剤を任意に含んでいてもよい。
【実施例】
【0185】
実施例1.大腸菌を透過性にする界面活性剤のスクリーニング
大腸菌細胞を透過処理する添加剤を同定するため、イオン性(n−ドデシル−β−イミノジプロピオン酸;デシルトリメチルアンモニウムクロライド;ドデカノイルサルコシンナトリウム;アンゼルゲント3−10)、及び非イオン性(ジメチルオクチルホスフィンオキシド[Apo8];ジメチルデシルホスフィンオキシド;n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド[8TGP];スクロースモノドデカノアート;Mega10;Tween80;TritonX100;TritonX114)の両方の多くの界面活性剤を、膜−不透過性色素、ゲルレッド(Gel Red)(Biotium社、カタログ番号41002)の取り込み、及びGFPの遊離の両方によってスクリーニングした。透過処理のテストを行った界面活性剤は、Anatraceから購入した。
【0186】
ここに述べる実験に用いた大腸菌宿主株は、全てK12由来のArgentum細胞株(ΔmcrAΔ(mrr−hsdRMS−mcrBC)ΔendA lacZΔM15)(Alchemy Biosciences社)であった。しかしながら、本発明の方法は、B株由来のBL21(Fdcm ompT hsdS(r)gal)、及びK12クローン株DH5α(FendA1 glnV44 thi−1 recA1 relA1 gyrA96 deoR nupG Φ80dlacZΔM15 Δ(lacZYA−argF)U169,hsdR17(rK-K+),λ−)を用いてもテストを行い、同様な結果を得た。
【0187】
GFPを、アラビノース誘導性の高コピー数ベクター(pAra1::GFP5)にクローン化した。発現は、新たに画線したコロニーを含むシャーレから重度に播種した培養液より行った。培養液は、37°Cで、アラビノースを最終濃度0.2%になるまで添加して発現を誘導するときに、OD600が約0.3となるまで培養した。誘導培養液は、収穫まで25°Cで2時間振盪した。
【0188】
1mLの誘導培養液を遠心分離して細胞を沈殿させ、300μLの0.5%界面活性剤含有LB中に懸濁して透過性にした後、25°Cで10分間培養した。透過性にした細胞は、沈澱させ、再懸濁し1xゲルレッド(Gel Red)を含む水に再懸濁し2分間置き、その後沈澱させ300μLのTBSで1度洗浄した。細胞は、300μLのTBSに懸濁し、蛍光顕微鏡検査のために、DABCO/グリセリン(0.0325gのDABCOを900μLのグリセリン+100μLのPBS中に溶解)を加えて処理した。
【0189】
サンプルは、スライド式カメラ(SPOT RT 2.3.0ソフトウェアv4.6)を用いたオリンパスProvis AX70光学顕微鏡、又はLeica TCS SP2共焦点レーザ走査顕微鏡/Leica DM IRE2倒立顕微鏡(Leica共焦点ソフトウェアv2.0)のいずれかにより可視化した。
【0190】
図1は、界面活性剤によるGFP発現大腸菌の透過処理の結果を示す。未処理細胞は、緑色(GFP)であるが、透過処理した細胞は、内部のGFPを失い、DNA結合性ゲルレッド(Gel Red)色素を取り込み赤色に染色される。また、ノニデット−40もいくらか透過処理を示すが、Apo8とMega10は、より高い割合の透過処理された細胞を示す。これら2種の界面活性剤の0.5%ずつの混合物は、活性剤86と呼ばれ、別の界面活性剤n-オクチル−β−D-チオグルコピラノシド(8TGP)と同様に、ほとんど完全に透過処理することを示した。Mega10、Apo8及び8TGPはいずれも非イオン性界面活性剤で、イオン性界面活性剤と比べ、タンパク質の重畳や機能に対し、破壊の程度が低い。
【0191】
細胞壁は、透過処理によっても無傷だったので、上述した界面活性剤での透過処理による上澄みの可溶性タンパク質の抽出物をSDS−PAGEにより分析した。透過処理した細胞に、ニワトリ卵白リゾチーム(Boehringer Mannheim社;837 059)を最終濃度2mg/mLまで、透過処理している細胞のサンプルに加え、細胞壁を除去し、全細胞タンパク質を遊離させた。β−メルカプトエタノールを含むSDS−PAGEローディング色素を、95°Cで2分間変性したサンプルに加えた。20μLのサンプルを9%SDS−PAGEにロードし、クーマシー・ブリリアント・ブルー/メタノール/酢酸で染色/固定した。
【0192】
図2は、可溶性タンパク質の遊離は、顕微鏡検査で見られたGFPの遊離及びGel Redの取り込みと直接的に関連していることを示す。無傷な細胞壁を有する細胞からのタンパク質の遊離と、リゾチームを用いて細胞壁を除去した細胞からのそれとの間には、明白な差があったが、細胞壁に被包された細胞が遊離する可溶性タンパク質は、大きさが約120kDまでであった。これは、球状タンパク質が、グラム陰性真正細菌の細胞壁を構成するペプチドグリカン格子の細孔を通って、細胞から出ることができなくなる限界寸法であると思われる。
【0193】
実施例2.宿主DNAを保持する透過処理溶液のスクリーニング
本発明の方法を、改良した特性のタンパク質変異体を求めて遺伝子ライブラリーをスクリーニングするのに使用する場合、発現されるタンパク質と、それをコードする核酸との間に関連がなければならない。膜の透過処理工程で、DNAが、細胞壁を通って失われるのを防ぐ障壁が除去されるので、宿主DNAの損失を減少し、あるいは防止しうる、透過処理の条件を調べた。
【0194】
0.5%8TGPを用いて異なる培地中で細胞の透過処理を行い、DNA結合色素、Gel Redを用いて、DNAの損失を蛍光顕微鏡検査法により調べた。
【0195】
テストした透過処理培地(全培地に0.5%8TGPを含む)の組成
LB培地(10gトリプトン、5g酵母抽出物、10g/LのNaCl)
LB(塩)培地(10gトリプトン、5g/Lの酵母抽出物)
50mM−Tris、pH7.5
50mM−HEPES、pH7.0
170mM−NaCl
250mM−NaCl
25mM−Tris、pH7.5+1.5%PEG6000(w/v)
50mM−Tris、pH7.5+3%PEG6000(w/v)
50mM−Tris、pH7.5+170mM−NaCl
50mM−Tris、pH7.5+250mM−NaCl
【0196】
好適な透過処理培地は、LB細菌培地と確認された。したがって、以降、透過処理は、0.5%8TGPを含むLB又は剤86を含むLB(0.5%Mega10及び0.5%Apo8を含むLB)のいずれかを用いて行った。
【0197】
実施例3.タンパク質のテトラマー骨格への融合
実施例1に記述した実験に示されるように、約120kDより大きいタンパク質は、透過性にした大腸菌細胞の内部に細胞壁により保持された。したがって、120kDより小さい所望のタンパク質も、タンパク質パ−トナーと融合することで合計寸法が120kDを超えるようにできれば、細胞壁カプセル中に保持されるだろうと考えられた。
【0198】
このため、融合パートナーとして用いるため、大腸菌から6種の異なる四量体タンパク質をクローン化した。すなわち、β−gal、BetB、G5K、GshB、RhnA、及びYdcWで、それぞれのモノマー寸法は116kD、52kD、39kD、35kD、47kD及び50kDであった。
【0199】
アラビノース誘導性高複製数ベクターを、四量体発現のために構築した。蛍光性基質と共有結合で結合する20kD領域であるSNAPタグ(NEB社/Covalys)が、テトラマー遺伝子の上流にクローン化され、発現レポーターとして使用された。精製と検知を容易にするため、6xHisエピトープも、融合タンパク質のN末端に挿入された。
【0200】
前記アラビノースベクターpAra3::His6::SNAPの配列が、SEQ ID NO:1(配列番号)として示される。
【0201】
融合タンパク質の発現は、0.2%アラビノースを加えて誘導し、培養液を25°Cで2時間培養した。
【0202】
本発明の方法により、蛋白質ディスプレイのために細胞を透過性にするプロトコルは、以下のとおりであった:
1.遠心分離により細胞1mLを沈澱させる。
2.300μLの0.5%8TGP/LBに細胞を再懸濁する。
3.25°Cで10分間培養する。
4.遠心分離により細胞を沈澱させる。
5.200μLのTBS又はLBに細胞を再懸濁する。
【0203】
SNAP発現レポーター領域を、膜不透過性SNAP色素(Covalys、New England Biolabs社)で標識付けするプロトコルは、以下の通りであった:
1.20nmolのBG−488(緑色色素)又はBG−547(赤色色素)を、300μLのDMSOに200x原液として溶解する。
2.1μLの200x原液を200μLの透過性にした細胞を懸濁したTBS又はLBに加える。
3.25°Cで15分間培養する。
4.遠心分離により沈澱させ、また300μLのTBSに再懸濁させて、細胞を2度洗浄する。
【0204】
四量体融合タンパク質が、透過性にした細胞カプセル中に保持されるのを蛍光顕微鏡検査法により観察するプロトコルは、以下の通りであった:
1.20μLの細胞懸濁液を顕微鏡用スライドガラス上に滴下し、カバーガラスで覆い、端部をマニキュア液でシールする(湿式プレパラート);あるいは細胞の液滴をほぼ乾燥させて、その上に20μLのDABCO/グリセリンを滴下し、カバーガラスで覆い、端部をマニキュア液でシールする(乾式プレパラート)。
2.オリンパス又はLeica蛍光顕微鏡のいずれかを用いて可視化する。
【0205】
完全長融合タンパク質の発現は、SDS−PAGEゲルに掛けてから、タンパク質抽出物のウェスタンブロット法でα−His6抗体をプローブに用い確認した。全ての四量体コンストラクトは、大腸菌中で検知可能なレベルで発現した(図3A)。
【0206】
大腸菌内で発現した四量体融合タンパク質の蛍光顕微鏡検査によれば、β−gal及びG5Kは、顕著な封入体を含み、恐らく前記融合タンパク質の折りたたみが困難であるために、蛍光レベルが低いことが分かった。しかしながら、図4によれば、SNAP蛍光により判定されるとおり、前記融合タンパク質の発現は、GshBでは良好、RhnA、BetB及びYdcWでは、極めて良好であった。透過性にした宿主細胞中の融合タンパク質の分布は、明視野顕微鏡検査及び蛍光の両方から明らかなように複数のフォーカスを有し、均一でないことが注目された。しかし、蛍光性SNAP基質は、ミスフォールドされた領域には結合されていないであろうし、かつ信号が非常に強いことから、これらの物体は恐らく折り畳まれたタンパク質の凝集体であって、大腸菌中で過剰発現しているタンパク質においてしばしばみられる、折り畳まれていないタンパク質の封入体ではないと考えられる。
【0207】
SNAP::テトラマー融合体は、His6-N末端エピトープをまた有していた。抗体といった大きな分子が、大腸菌細胞壁の格子構造を通り抜けられるかを調べるため、透過性にした細胞にSNAP::テトラマー融合体を検出するαHis抗体をプローブとして設けた。
【0208】
1.前記His6::SNAP::BetB骨格融合体の発現及び透過処理を上述のように実施した。
2.BG−547 SNAPリガンドによる標識化を上述のように実施した。
3.200μLの透過性にしたSNAP−標識化細胞をLB中で3回洗浄し、ポリエチレンイミン(PEI)コートしたカバーガラス上に沈降させた。過剰な細胞培地を、吸引して除去し、前記スライドガラスを風乾させた。
4.細胞を、ブロッキング緩衝液(1%BSA、1%冷水魚ゼラチン(Sigma社、G7765)、アジドの0.02%PBS−Tween20溶液)中で、1時間ブロックした。
5.細胞を、ブロッキング緩衝液で1:10に希釈したαHis一次抗体(Abcam社、AB9136−100)中で、一晩25°Cで培養した。
6.細胞を3回PBS−Tween20中で洗浄した(各回10分間)。
7.細胞を、ブロッキング緩衝液で1:2,000に希釈した二次抗体(Molecular Probes、A11015)中、室温1時間培養した。
8.細胞を3回PBS−Tween20中で洗浄した。
9.DABCO/グリセリンを封入剤に用い、共焦点オリンパス顕微鏡で観察した。
【0209】
図5は、αHis抗体が細胞壁カプセルの内部でSNAP蛍光性リガンドと共存しており、細胞壁の細孔が、比較的大きなタンパク質が、カプセル内部空間中に拡散を許すのに十分な大きさであることを表わしている。このように、非常に大きなタンパク質リガンドも、本発明の方法により、細胞質中で発現する親和性タンパク質のための親和性基質として使用できる。
【0210】
細胞下物体の生成が変化するか否かを見るためにSNAP融合パートナー及び発現レポーターをHALOタンパク質(Promega社)と比較した。前記HALOタンパク質は、SNAPと同様に膜不透過性蛍光性基質(Alexa fluor 488;G1001、Promega社)と共有結合で結合する。HALOレポーター遺伝子は、四量体発現コンストラクト中のSNAP遺伝子の位置にインフレームに直接クローン化した。HALO::四量体骨格タンパク質の発現を、SNAP変異体と比較した。透過性にしたHALO細胞の標識付けは、実質的にSNAPに対して記述したように、またメーカーの説明書に従い実施した。図6は、HALO::テトラマー及びSNAP::テトラマーの発現パターンは、同様であったが、例外的にHALO::RhnA融合タンパク質は、部分的にSNAP::RhnA融合体より溶解性で、複数の蛍光フォーカスを有する細胞がより少数であったことを示す。
【0211】
したがって、タンパク質を四量体骨格(ここでは、SNAP又はHALO)への融合体として発現させ、つづいて大腸菌宿主細胞を適当な界面活性剤で透過性にすると、目的のタンパク質が、細胞壁の内側に保持できる。
【0212】
実施例4.細胞骨格としてのDNA結合タンパク質
表現型を遺伝子型に結合するには、宿主細胞は、透過処理の後、また機能スクリーニングを通して、少なくともいくらかのエピソームDNAを保持しなければならない。宿主ゲノムのDNAならびにプラスミドDNAを保持する透過処理条件を見出したことで、発現した目的のタンパク質の保持骨格としてDNAが使用できると結論付けた。
【0213】
このため、小型(80aa)の高親和性らせん−ヘアピン−らせんDNA結合タンパク質(DBP)を、Neisseria gonorrhoeae ComE遺伝子(Chen及びGotschlich、2001)からクローン化し、これをアラビノース誘導性コンストラクト(pAra3::GFP::DBP;seq2)中で、GFPのC末端に融合した。
【0214】
アラビノース誘導による発現を例1に記述したように実施した。細胞を透過性にし、例1及び3に記述したように蛍光顕微鏡検査のために調製した。
【0215】
図7は、GFP::DBP融合体(緑色)が透過性にした細胞中に保持され、DNA結合色素、Gel Red(赤色)と共存したことを示す。
【0216】
したがって、タンパク質を、高親和性、非特異的DNA結合タンパク質への融合体として発現させ、つづいて大腸菌宿主細胞を適当な界面活性剤で透過性にすると、目的のタンパク質が、細胞カプセルの内側に保持できる。
【0217】
実施例5.透過性にした細胞中へのDNA保持
DNA、ゲノム及びエピソーム両方のプラスミドの、透過性にした細胞カプセル中への保持を実証するため、蛍光顕微鏡検査及びプラスミドDNA抽出のためにGFP5::DBP及びHis6::eGFPを発現する細胞を調製した。
【0218】
誘導後、細胞を透過性にし、つづいて凍結するか、TBS中で37°Cにおいて一晩振盪した。次の日、全サンプルを、蛍光顕微鏡検査でGFP、及びDNA結合色素Gel RedでカプセルDNA含量を見るために、又は、プラスミドDNA調製のために処理した。
【0219】
蛍光顕微鏡検査を例3に対して記述したように実施した。図8は、宿主細胞DNA(赤色)及びGFP5::DBP(緑色)双方とも、細胞カプセル中に、透過処理直後も、一晩37°Cで培養しても目立った減少もなく、保持されたことを示す。His6::GFP タンパク質は、透過処理直後に失われたが、宿主細胞DNA(赤色)は、透過処理直後も、一晩後も、同じく目立った減少もなく、保持された。
【0220】
宿主ゲノムだけでなくプラスミドDNAも透過性にした細胞内に保持されることを確認するため、同じように調製されたサンプルに対してプラスミド少量調製を行った。
【0221】
1mLの界面活性剤処理又は無処理細胞から、プラスミド少量調製アルカリ溶解プロトコルによりプラスミドDNAを調製した。界面活性剤抽出による上澄み中に遊離されたプラスミドDNAを、Perfectprep Gel Cleanup(Eppendorf社、955152051)コレム及び溶液を、メーカーのプロトコルに従って用いて、抽出した。
【0222】
各サンプルの全量を1%アガロースゲルにロードし、富士フィルム社LAS−3000インテリジェントダークボックス(Intelligent Darkbox)でイメージリーダー(Image Reader)LAS−3000ソフトウェア及びMulti Gauge v3.0ソフトウェアを使用して画像化した。
【0223】
図9は、両細胞株からのプラスミドDNAをサンプルとした、TAE緩衝液を用いた臭化エチジウム染色1%アガロースゲルを示す。
【0224】
図9のレーン1は、無処理細胞中の全プラスミドDNAである。レーン2は、透過処理工程の上澄み、レーン3は、透過処理後に細胞カプセル中に保持されたプラスミドである。図8で観察された可溶性His6::GFP タンパク質の完全な消失に拘わらず、透過処理による上澄み中へのプラスミド遊離が殆どないことが観測された。したがって、プラスミドDNAは、ほとんど完全に細胞壁により保持され、本発明の方法において改良されたタンパク質変異体の選別のために、遺伝子型を表現型に結合するために使用できる。
【0225】
顕微鏡検査のデータを確認するように、TBSに懸濁した透過性にした細胞の37°Cでの一晩の培養後も、この培養でのプラスミドDNAの消失は全く見られなかった(レーン5)。
【0226】
実施例6.ペプチドグリカン結合骨格
膜透過処理後も保持されるいま一つの細胞構造は、ペプチドグリカン(PG)の格子状ポリマーでなる細胞壁である。
【0227】
PGを非共有結合で結合するために、大腸菌内で良好に発現し、細胞壁に高親和性(K=3×107-1)をもって結合することが既に知られている(Briersら、2009)、シュードモナスφKZファージ(KzPG)からの70aaPG結合ドメインをクローン化した。親和性タンパク質の選別用に、PGに対するKzPG−結合ドメインの親和性より、より高い親和性を標的に対して有する変異体を見つけるため、骨格結合タンパク質の親和性を増す必要がある。骨格結合部分の親和性を増すため、ComE DNA結合ドメイン(DBD)及びPG結合ドメインの両方を同一の融合タンパク質内で結合した。したがって、両骨格(PG又はDNA)からの融合タンパク質の最終解離定数は、それぞれの速度定数の倍数の近似値となる。
【0228】
このため、発現ベクターpAra3::His6::KzPG::SNAP::DBP(SEQ ID NO:2(配列番号2))を構築した。例1に記述したように発現を誘導し、細胞を例3に記述したように蛍光顕微鏡検査のために調製した。融合タンパク質の発現及び分布は、例3に記述したようにSNAP標識化により観察した。
【0229】
蛍光は、細胞の辺縁で、細胞壁のドメインにおいて認められ、より軽度には、カプセルの細胞壁で囲まれる空間内の広汎なドメインにおいて認められた。
【0230】
本発明のさらなる態様では、目的のタンパク質を共有結合で、透過処理前の細胞骨格に付着させる。これを実現するため、周辺質内にコイルドコイル三量体を形成する、大腸菌に豊富なタンパク質LPPへのタンパク質融合体を用いた。その天然型においては、1端が脂質化により外膜と連結し、他端はC末端リジンにより共有結合で細胞壁に結合している。
【0231】
OmpF周辺質標的シグナル配列をSNAP発現レポーターに融合し、さらにN末端シグナル配列を欠く57aa大腸菌LPP配列、外膜付着に必要なシステインが続く発現コンストラクトを構築した。発現ベクター、pAra3::OmpF::SNAP::LPP(SEQ ID NO:3(配列番号))は、実施例1に記述されるようにアラビノースで誘導され、細胞を蛍光顕微鏡検査のため、実施例3に記述されるように、調製した。融合タンパク質の発現及び分布は、実施例3に記述したようにSNAP標識化により観察した。
【0232】
図10が示すように、LPP融合タンパク質の分布は、細胞壁の表面にわたって不均一で、強い蛍光の場所と、蛍光のない場所があった。しかし、ほとんどのケースで細胞の極が、標識化された。
【0233】
実施例7.四量体タンパク質骨格を用いたαGFP親和性タンパク質のディスプレイ
親和性タンパク質に適用する本発明の方法を実証するため、eGFPに対して免疫したラマから生成した単一領域抗体を細胞骨格ベクター中にクローン化した。ここに、αGFP抗体に対する特許出願に(WO2007/068313)挙げられている2配列の内、R35変異体のみが機能することを指摘したい(αGFP−R35;タンパク質データベースID 3K1K)。したがって、この配列を全実験において使用した。
【0234】
前記αGFP−R35遺伝子を、pAra3::HALO::FLAG::RhnA四量体骨格のN末端融合体として、pAra3::αGFP(R35)::HALO::FLAG::RhnAベクター(SEQ ID NO:4(配列番号))を製作するためクローン化した。
【0235】
前記抗体の標的基質としてHis6::eGFP融合タンパク質を製造するため、pAra3::His6::eGFPベクターも、構築した。実施例1に記述されるように、His6::eGFPタンパク質を誘導した。可溶性タンパク質が、0.5%8TGPを用いて細胞から遊離され、Ni−NTAアガロース樹脂(Qiagen社;30230)を用いてIMACにより精製された。His6::eGFPは、Ni−NTA樹脂からNTTW緩衝液+イミダゾール(500mM NaCl、50mM Tris−HCl、pH7.5、0.1%Tween20+200mMイミダゾール)に溶出された。
【0236】
抗体::四量体融合タンパク質の発現及び宿主細胞の透過処理は、実施例1及び3に記述されるように実施した。
【0237】
透過性にした細胞カプセル内で、αGFPをeGFPに結合するため、カプセル沈殿物を300μLのeGFP中に懸濁し、25°Cで20分間平衡化させてから、カプセルを遠心分離で沈澱させ、300μLのTBS中で1度洗浄した後、TBS中に再懸濁させた。αGFP/eGFPカプセルに対する蛍光顕微鏡検査を、実施例3に記述されるように、実施した。
【0238】
図11は、HALOリガンド標識化した図5で観察されるフォーカスと関係があるかもしれない、より強く染色された複数のフォーカスが生じているが、透過性にしたαGFP::HALO::RhnA融合タンパク質を発現しているカプセルが、細胞の全域でeGFPに結合したのを示している。
【0239】
したがって、ラマαGFP抗体の機能は細胞質内で発現し、さらに界面活性剤透過処理後も、カプセル内に保持される。
【0240】
実施例3で記述され、また図5で観察されたαHis抗体の標識化は、すでに約150kDと大きめなタンパク質が、透過性にした細胞壁を拡散して通り、カプセルの内部に入ることができることを実証した。しかし、未変性の抗体は、柔軟なヒンジ領域で分けられた、3つのほぼ同じ大きさの領域を有する変則的な形状のタンパク質である。したがって、これらのタンパク質の示す有効半径は、はるかに小さな球状タンパク質に相応すると思われる。しかし、βバレル構造と約27kDの分子の大きさを有するGFPは、半径がその大きさに比例する、対称性のタンパク質であり、内部のαGFP抗体と結合するために、透過性にしたカプセルの細胞壁を通過することができた。
【0241】
したがって、本発明の方法は、大腸菌細胞質中で親和性タンパク質を発現して、少なくとも30kDの対称性の標的に結合する親和性ライブラリーのディスプレイに使用できる。
【0242】
実施例8.PG−及びDNA結合タンパク質骨格を用いるαGFP親和性タンパク質のディスプレイ
本発明の方法は、PG−及びDNA結合領域と融合したαGFPラクダ抗体を用いてさらに実証された。
【0243】
抗体::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質の発現、宿主細胞の透過処理、及びHis6::eGFPによる標識付けは、実施例6に記述されるように実施した。
【0244】
αGFP融合タンパク質によるeGFPの結合の画像化には、湿式及び乾式プレパラートの両方が用いられた。図12は、GFP蛍光において、両方の画像化法で有意な差があったことを示している。乾式プレーパラート(DABCO/グリセリン)にされた細胞は、ほとんどが内部蛍光で、明視野とeGFP標識の間の混合があり、細胞壁の周囲の領域は内部空間より光が強くない(図12B)。しかしながら、TBS中で直接プレパラートにされた細胞は、細胞壁に結合したeGFPと思われる強い蛍光の外部境界のはっきりした形状と、より弱い内部信号を有していた(図12A)。理論に縛られることなく、推測するならば、DABCO/グリセリン溶媒環境は、粘度が高くまた水性でないので、KzPG領域とペプチドグリカン細胞壁の間の相互作用を抑止したが、αGFPのeGFPとの、あるいはDBPのDNAとの結合は抑止しなかった。
【0245】
しかしながら、親和性タンパク質又は酵素のスクリーニング操作は、通常は水系環境で行われるので、親和性融合タンパク質の分布は、図12Aに観測された細胞壁結合湿式プレパラートに近いであろう。
【0246】
実施例9.細胞壁への共有結合性付着によるαGFP親和性タンパク質のディスプレイ
本発明の方法は、αGFP抗体の共有結合による細胞壁への結合によりさらに実証された。
【0247】
αGFP抗体は、アラビノース誘導性融合体として、OmpFシグナル配列の下流、かつSNAP及びLPP配列の上流にクローン化された。
【0248】
アラビノースで発現を誘導した後、OmpFシグナル配列は、新生タンパク質を、内部細胞膜を通して周辺質に送り、これが膜細孔を通るときに分裂される。
【0249】
周辺質において、LPP領域は、2つの別のパートナー、野生型LPP又は他のαGFP融合タンパク質とともに、三量体コイルドコイルを形成すると思われる。LPP領域のC末端の残基はリジンで、共有結合により、εアミン基を介して、恐らくはYbiS L,D−トランスペプチダーゼにより(Magnetら、2007)、大腸菌細胞壁に結合する。
【0250】
OmpF::αGFP::SNAP::LPP融合タンパク質の発現、細胞透過処理、及びeGFP標識付けは、実施例8に記述のように実施した。
【0251】
図13は、eGFPは、細胞壁の周りに不均一に、しかし強力に結合したことを示す(図13B)。eGFPは、OmpF::SNAP::LPP融合体をαGFP領域無しに発現している細胞に結合されなかった(図13A)。
【0252】
OmpF::SNAP::LPP融合体の細胞壁への共有結合性付着は、最初に、前記融合タンパク質を発現している透過性にした細胞をSNAPリガンドで標識化し、その後標識化細胞カプセルのサンプルを95°Cで5分間加熱して実証した。図14は、細胞壁を標識化するSNAPリガンドからの蛍光は、加熱処理されたサンプルと、加熱されていないコントロールとの間で差が生じなかったことを示す。Gel Red染色でも、加熱処理されたサンプルにおいても、ゲノムDNAは、細胞中に保持され続けることを実証した。
【0253】
実施例10.外膜透過処理実験
本発明のさらなる態様においては、外膜は、リガンド標的、例えば酵素基質、あるいはポリペプチド等に対して選択的に透過性にしてもよいが、このとき、スクリーンされた前記ポリペプチドは、細胞壁の内部に、又はこれに付着して保持される。
【0254】
外膜を選択的に透過性にする条件を見出すため、一連の界面活性剤及び緩衝液を選別した。大型リガンド(eGFP)及び小型リガンド(Gel Red)の両方を用いて、外/内膜の透過処理で大きな、又は小さな膜細孔が生成したかを調べた。
【0255】
アラビノース誘導性OmpF::αGFP::SNAP::LPP(細胞壁に付着)又はαGFP::HALO::FLAG::RhnA(細胞質内性)を発現する大腸菌株を培養し、実施例1に記述されるように誘導した。
【0256】
誘導された培養液1mLを、50mMのTris(pH8)で1回洗浄し、25mM Tris+1mM EDTA(pH8)又は25mM Tris+2mM Ca2+(pH8)のいずれかの中に0.2〜0.4%の界面活性剤をいれた透過処理緩衝液変種中に懸濁し、25℃で10分間培養した。
【0257】
透過性にした細胞は、適当な緩衝液で1回洗浄してから、Gel Red(1x水中)で染色し、TBSで洗浄した。これを、精製したHis6::eGFPとともに25℃で1時間培養し、遠心分離で沈殿させ、TBS中に再懸濁させ、湿式プレパラートとして蛍光顕微鏡検査法により観察した。
【0258】
図15及び16は、Tris/Ca2+又はTris/EDTA緩衝液中の0.2%のApo8(A)又はTween20(B)が、外膜を選択的に透過性にし、大きなリガンド(eGFP)に、外膜を通させるが、内膜は通させないことを実証している。より小さな、膜不透過性のDNA結合リガンドGel Redは、大部分のサンプルで、細胞質まで部分的に透過性であって、いくつかの細胞において内膜にある程度の細孔形成が起きたことを示している。しかしながら、0.5%の8TGP又は剤86である界面活性剤で処理され、外膜及び内膜ともにeGFPに対して完全に透過性であるサンプルに比べて、Gel Red結合の程度は著しく減少した。
【0259】
実施例11.蛍光選別及び被包性ディスプレイの解析
細胞ディスプレイプラットフォームとして、リガンド結合クローンを識別するのに、本発明の方法は、蛍光標示式細胞選別(FACS)に非常に向いている。透過性にした大腸菌細胞のFACSによる選別での安定性を試験するため、3群:i)eGFP、ii)αGFP::KzPG::SNAP::DBP、及びiii)His6::SNAP::BetBを誘導して発現させた。
【0260】
eGFP発現細胞は、透過性にせず、無傷の大腸菌細胞での蛍光のポジティブコントロールとした。αGFP::KzPG::SNAP::DBP発現細胞は、本発明の方法により透過性にし、SNAP BG−488リガンド(緑色)で標識付けした。His6::SNAP::BetB発現細胞は、本発明の方法により透過性にし、SNAP BG−547リガンド(赤色)で標識付けした。
【0261】
細胞はPBS中に懸濁し、混合群の選別のために、ほぼ同数を混合し、あるいは信号の較正のため、別々に選別した。細胞選別は、Becton Dickson Influx FACSにより実施した。データ解析は、FlowJoソフトウェアにより実施した。大腸菌選別のためのパラメーターは、操作者が決定した。
【0262】
図17は、蛍光により3群が識別できたことを示している。選別された群の再分析は、前記選別がそれぞれの比較的純粋な群をもたらすことを示した。グラフの低蛍光領域にある信号は、信号の内部雑音であることが後で判明したので、後に操作者により装置の修正により除去した。
【0263】
実施例12.固体サポート結合のためのスペーサー領域選定
αGFP::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現している細胞を、8TGP培地を用いて透過性にし、中間体His6−タグ化eGFPを経由してHisPur Co2+セファロース・ビーズ(Thermo Scientific社)に結合した。細胞又はビーズは、最初に過剰のHis6−eGFPとともに培養し、TBS中で洗浄し、一緒に25℃で30分間培養した。結合しなかった細胞は、ビーズから洗い流し、つぎに蛍光顕微鏡検査法でビーズの結合の程度を評価した。
【0264】
最初は、αGFP::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質のセファロース・ビーズへの結合は検知されなかった。αGFP結合領域が、細胞壁に近すぎて、セファロース樹脂上のコバルト錯化eGFPに到達できないためと理論を立てた。このため、ランダムコドンによる12残基ペプチド・スペーサー領域を、αGFP結合領域及びkzPGペプチドグリカン結合領域の間にクローン化した(GGT ACC gcy gcy gkk wtb gck wtb gkk gkk gck gkk gcy gcy GGT CTG(SEQ ID NO:5(配列番号)))。
【0265】
スペーサー変異体の小型ライブラリー(約2,000要素)を発現し、上述のようにCo2+セファロースに結合した。前記ライブラリーの一部は、ビーズに結合することが観測された。これらのクローンはPCRで増幅し、再クローン化し、十余のクローンの個別の結合性を試験し、配列を調べた。種々のペプチド・スペーサーが、タンパク分解に耐性があり(αGFPを高度に融合タンパク質中に保持する)、また、図18に示されているように、界面活性剤処理細胞をセファロース・ビーズに結合できることが判明した。サポート結合に機能することが判明したスペーサー配列を表1に挙げる。
【0266】
表1.固体サポート結合のためのランダムリンカー(RL)スペーサー
【表1】
【0267】
スペーサー配列の一つRL6を選んで、後の結合の検討に用いた。固体サポート・マトリックスへの強い結合に寄与する他の要素を調べた。細胞のマトリックスとの培養時間、及び結合溶液の塩(NaCl)の濃度は、両方とも結合に対してポジティブな効果を有することが分かった。培養時間30分と、NaCl濃度の範囲約200mM〜500mMが、効果的であることが判明したが、300mMが最適と考えられる。結合は、Tris、リン酸塩、MOPSの300mMの塩含有緩衝溶液を含む一連の緩衝液中で効率的である。
【0268】
αGFP::RL6::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現している細胞を、ビオチン化eGFPを介してストレプトアビジン磁性ナノ粒子(MagneSphere、Roche Diagnostics社)に結合する条件は、図19に明示されるセファロース・ビーズ結合に対して求められた範囲内にあることも判明した。
【0269】
12残基スペーサーに加えて、タンパク質領域をも、スペーサー領域として用いることが考えられた。ヒトのタイチン遺伝子(I27)からの小型で安定な高度に発現した27番目のイムノグロブリン領域をRL6スペーサーの上流にクローン化した。この領域も、N末端のαGFP領域の高度かつ安定的な発現と、同時に非常に良好な固定マトリックス結合をも可能にすることが分かった(図19)。
【0270】
実施例13.被包性ディスプレイ用のマウスscFvライブラリーの構築
一本鎖抗体(scFv)ライブラリーの細胞内ディスプレイ用の最後の領域構造は、scFv::I27::RL6::KzPG::SNAP::DBPであった。scFv領域を除いた、融合タンパク質のタンパク質及びDNAの配列は、SEQ ID NO:13(配列番号)及びSEQ ID NO:14(配列番号)に与えられている。このタンパク質融合体は、N末端にscFv、続いて2つのスペーサー領域であるI27及びRL6、次にペプチドグリカン結合領域のKzPG、SNAPレポーター領域、最後にDNA結合領域(DBP)を有する。
【0271】
ランダムプライマーを用いたcDNAを、酵素Superscript III(Invitrogen社)を用いて、マウス脾臓全RNAから製造した。このcDNAから、Schaeferら(2010)が記述するように、Vent DNAポリメラーゼ(New England Biolabs社)、及びマウス抗体ファミリー配列用変性オリゴヌクレオチド・プライマーを用いて、scFv軽鎖(V)及び重鎖(V)可変領域を増幅した。ライブラリー・クローン化に用いたオリゴヌクレオチド・プライマーは、Schaeferらの記述したものと、Bsm BIを介して我々のライブラリー骨格ベクター(SEQ ID NO:15(配列番号))内にクローン化するのに適当な末端を有する点で相違している。V及びV領域は、オーバーラップ伸長PCRを用いて加えられる。最終的scFvバンドは、合計60回のPCR増幅サイクル(1回目30回、2回目30回)にかけられた。
【0272】
ライブラリー・クローン化のために、ディスプレイ・コンストラクト900ngを、BsmBIで切断し、メーカーの説明書にしたがいSureclean(Bioline社)を用い沈澱させ、T4 DNAリガーゼを用い、同様に処理されたscFv生成物400ngに連結した。リガーゼを65°C、10分間の培養で不活性化し、連結体を大腸菌Argentum株(Alchemy Biosciences社)中に電気穿孔で入れた。電気穿孔された細胞は、SOC培地中に回収し、37°Cで1時間培養し、プール後、75μg/mLアンピシリンを含む20×150mmLB寒天シャーレに拡げた。このシャーレを一晩30°Cで培養した。ライブラリーの大きさは4×105独立クローン程度と推定された。20クローンの内、20クローンに予想された大きさの挿入断片が含まれていることが判明した。
【0273】
実施例14.被包性ディスプレイ・マウスscFvライブラリーのスクリーニング
ファージディスプレイ・ライブラリーから単離される一本鎖抗体は、多くの場合大腸菌中での発現が困難で、周辺質での発現レベルが低く、あるいはβシートとIg群の間にジスルフィド結合形成を欠くために、細胞質中で完全に不溶性である。大腸菌細胞質中で可溶性のマウスscFv骨格を選別するのに被包性ディスプレイを用いることができるか否かを決定するには、scFvの溶解性が融合タンパク質の性質と相関しているか否かを決定する必要があった。
【0274】
有用な可溶性scFvは、凝集のレベルが低く、発現レベルが少なくとも中程度であることが予想された。これは、透過性にした細胞中のKzPG領域を、細胞壁に結合させる(したがって、細胞中の封入体に局在しない)、かつSNAPレポーター領域の少なくとも中程度の発現を示すクローンとして、視覚的に判断できた。
【0275】
これらのパラメーターを選別するため、単一のコロニーを採取し、すでに実施例1に記述したようにアラビノースを用いて融合タンパク質の発現を誘導した。透過処理後、これらをSNAPリガンドで標識付けし蛍光顕微鏡検査法を用いて観察した。ライブラリー・クローンを、発現、及び、図20に例が示されるような、SNAPレポーターの細胞での分布に基づき、4類に分類した。
1.SNAPの発現なし。
2.凝集した封入体中でのSNAPの中〜高程度の発現(図20、左図)
3.細胞壁に局在してのSNAPの弱程度の発現(図20、中央図)
4.細胞壁に局在してのSNAPの高程度の発現(図20、右図)
【0276】
発現と溶解性の両方が高いクローンのみを、さらに分析した。しかしSNAPレポーターの発現の弱かったのは、大腸菌発現に最適化されなかったタンパク質の非効率な発現のためでありうるので、こうしたクローンのうちのある部分は、コドンの使用が適性化されたならば、可溶性細胞質ライブラリー・ディスプレイに対して非常に適していると判明することがあり得る。
【0277】
SNAPレポーターの発現レベルが高く、透過性にした細胞の細胞壁の周りに均一に分布したクローンの配列を調べ、残りの融合タンパク質に対して正しい翻訳枠にあるscFv挿入断片の存在を確認した。分析した21クローンの全てで、scFv挿入断片は、全長で、正しい長さのグリシン/セリン・リンカー領域を有し、全融合タンパク質の翻訳のために正しい読み枠中にあることが判明した。このことは、本発明のスクリーニング方法は、大腸菌細胞の細胞質中で、溶解状態で発現したマウスscFv遺伝子を正しく識別していることを示唆した。前記ライブラリーから単離されたscFvタンパク質が、大腸菌細胞質中で可溶であることを確認するため、これを、ライブラリー・コンストラクトから、介在性のスペーサー領域I27−RL6又はRL6のいずれかを含むC末端のFLAGエピトープを有するアラビノース誘導性発現ベクターにシャトルした。
【0278】
アラビノースによるタンパク質発現の誘導後、可溶性のscFv::I27::RL6::FLAG又はscFv::RL6::FLAG融合タンパク質を、0.5%8TGPで抽出した。不溶性の細胞物質は沈澱させ、β-メルカプトエタノールを含むSDS−PAGEローディング緩衝液中に、サンプルに超音波をかけ95℃で5分間加熱して、再懸濁した。各画分の等量ずつを10%SDS−PAGEゲルにかけ、電気泳動した。分離されたタンパク質は、ニトロセルロース膜に移し、5%脱脂粉乳でブロックした。組換えタンパク質発現体に、1:1000に希釈したヒツジαFLAG抗体(Sigma社)、つづいて、抗マウスHRP抱合二次抗体でプローブ付けを行った。化学発光を用いて検出した。
【0279】
図21は、本発明の方法は、ほとんどが溶解した状態で、細菌細胞質内で発現するscFv遺伝子を識別することができることを明らかにしている。ウェスタンブロット法による発現プロフィールは、各サンプルで、scFv::I27::RL6::FLAGコンストラクトについてSNAPリガンドで検知した蛍光顕微鏡検査法と一致している。
【0280】
実施例15.アルジェントン株大腸菌でのP2溶原菌生成
アルジェントンのP2溶原菌(K12;ΔmcrA Δ(mrr−hsdRMS−mcrBC)ΔendAlacZΔM15)は、アルジェントン細胞のローンのP2の単一プラークから派生して作成された。ファージ感化は、Kahn et al. (1991)に記載されるように行なった。
【0281】
実施例16.P2 ΔYKノックアウト
a.相同の再結合による生成
P2バクテリオファージは、多くの溶解性及び溶原性バクテリオファージで特定された溶解システムと同様に、理論上のホリン及び溶解システムに関する遺伝子を有する。ホリンは、内膜を通過してムレイン細胞壁を劣化するリシン酵素のペリプラスム空間に接近する。
【0282】
P2K遺伝子(SEQ ID NO:17)及びY遺伝子(SEQ ID NO:18)はそれぞれ、想定されるリゾチーム及びホリンをコード化する。これらの遺伝子は、Hamilton et al. (1989) に記載されるのと同様の相同的組換を用いて欠失された。隣接の相同の領域は、P2ゲノム(ジェンバック配列 NC_001895.1)から選択され、FRT−隣接のカナマイシン選択カセット間に複製された。P2ゲノムの交換の領域は、6721bpから7487bpだった。
【0283】
標的YK遺伝子の交換の後に、Cherepanov and Wackernagel (1995)に記載されるように、pCP20プラスミドから発現されたFLP組換酵素によってカナマイシンカセットを除去した。その合成株は、ORFだけのものとして保持する短い20回ペプチドとともにYK遺伝子を欠失した。
【0284】
P4バクテリオファージとの感化によって、K12 P2 ΔYK株を機能的に試験した。P4バクテリオファージの103pfuで、アルジェントン(P2)及びアルジェントン(P2 ΔYK)培養を感化し、上部寒天プレートに注いだ。プラークは、アルジェントン(P2 ΔYK)ではなく、アルジェントン(P2)のローンに形成されるのが観察された。
【0285】
b.P4vir1及び準備溶解を用いた試験
感化するP4バクテリオファージを複製し、パッケージするためのP2バクテリオファージYK欠失(P2 ΔYK)の機能性を試験するために、P4変位株のP4virlでP2ΔYK株を感化した。P4変位株は、P4制御領域の転写を増やす変位株を有し、明確なプラーク表現型を有する。
【0286】
P2ΔYK細胞は、早期のログフェーズで成長し、1mMのCaCl2で補完した。P4virlバクテリオファージ109pfu/mLを含む溶解物上澄み1μLを、P2 ΔYK培養の1mLni加えて、37℃で80分間培養した。懸濁液を遠心分離して細胞をペレット化して、上澄み液を廃棄し、未結合のP4virlを除去するために、0.08mMのEGTA及び2.5mMのMgCl2を含むLB媒体で3回洗浄した。細胞は、1mLのLB媒体中で再懸濁し、そして3つのサンプルに分割した。1つのサンプルは、さらなる処理をせずにそのまま維持した(Sample 1:未透過処理)。サンプル2及び3は、内膜及び外膜の両方を透過処理するために、0.5%の洗剤8TGpを追加して、ペレット化して、LB中で再懸濁によってさらに処理した。そして、細胞をペレット化して、追加なしのLB媒体中で2回洗浄した。透過処理及び洗浄した細胞ペレットは、LB媒体中で再懸濁した。(透過処理した)サンプル2は、さらなる処理をせずにそのままに保持した。(リゾチームで透過処理した)サンプル3は、0.5μLのReady-Lyse (Epicentre, USA)でさらに処理した。Ready-Lyse (Epicentre, USA)は、組み換え型のリゾチームである。濁度が急速に減少したことは、ペプチドグリカン細胞壁がReady-Lyseによって劣化したこと、及びあらゆるパッケージされたP4virl粒子が溶解物に放出されたことを示していた。
【0287】
サンプル1及び2をそれぞれ10μLとサンプル3(未処理の溶解物の希釈)0.1μLを、1mMのCaCl2を追加した未使用のK12(P2)細胞200μLに添加した。37℃で20分間細胞を培養し、上部寒天(LB媒体、%寒天)7mLを追加し、予備過熱したLBプレートに注ぎ入れた。プレートは、37℃で一晩中培養し、K12ローン中のP4virlプラークの存在を翌朝に決定した。
【0288】
透過処理していないP4感染細胞を示すサンプル1には、上部寒天プレートに83のプラークが産出された。洗剤で透過処理したP4感染細胞を示すサンプル2には、34のプラークが産出された。洗剤で透過処理してからリゾチームで細胞壁を劣化させたP4感染細胞を示すサンプル3には、168のプラークが産出された。
【0289】
サンプル希釈を調整し、透過処理し、リゾチーム処理したP2 ΔYK細胞(サンプル3)は、サンプル1よりも200フォルド多いP4virlバクテリオファージを有し、サンプル2よりも500フォルド多いP4virlバクテリオファージを有していた。
【0290】
感染したK12 P2ΔYK細胞中の複製能力のあるP4virlバクテリオファージが存在することにより、YK溶融遺伝子の欠失がP4virlゲノムの複製又は機能的バクテリオファージ粒子の組換えを妨げないことが実証される。しかしながら、YK溶融遺伝子の欠失により、感染細胞からの組換えバクテリオファージ粒子の放出が妨げられる。洗剤処理によってなされた細菌細胞の内膜及び外膜の透過処理によって、バクテリオファージが溶液に放出されるわけではない。しかしながら、リゾチームで透過処理された細胞によって、伝染性のバクテリオファージが溶液に放出された。
【0291】
実施例17.誘導酵素とP2ΔYK/P4共溶原菌
a.C1a細胞中のP2/P4共溶原菌の生成
長年、P2バクテリオファージ及びその付随体P4との実験に用いられる株は、大腸菌のC株である(Wiman et al., 1970)。我々は、C株、C1a(Sasaki and Bertani, 1965)の起源を用いることで、上述のように、P2プラークから溶原化した細胞のサブクローンを通じてP2溶原を作製した。同様に、C1aP2株のP4共溶原菌を作製した。
【0292】
P2/P4共溶原菌株は、転写抑制下で両方のプロファージを有している。この株を使ってコスミドライブラリープラスミド両ファージを誘導的にパッケージすることは、アクチベートさせるのに必要である。他のうまく特定した溶原性ファージ、ラムダに関して、抑制の開放は、RecA/LexA媒介分裂を通じて、又は、熱不安定性突然変異リプレッサー、cI857を用いて、リプレッサータンパク質、cIの不活性とともに起こる。しかしながら、P2のリプレッサーの不活性による抑制に無反応であるため、P2は、非誘導ファージとして知られている。この理由は、恐らく複製及び構造的遺伝子転写とともに、ゲノムからの欠失を調整できないからである(Bertani, 1968)。しかしながら、感化したP4付随体ファージは、エントリーを抑制されたP2プロファージをアクチベートするメカニズムを有している。P4ε(イプシロン)タンパク質は、P2リプレッサータンパク質へ結合してアンチリプレッサーとして行動する。さらに、P4δ(デルタ)タンパク質は、P2構造的オペロンの有効な活性剤である。P2構造的オペロンは、P2ogr転写アクチベーターの融解縦列重複である。しかしながら、P4プロファージは、それ自体及びP2アクチベーターの両方の複雑で厳重な制御を有する。
【0293】
P4プロファージは、それ自体のプロモーターの転写リプレッサー、Visタンパク質と、cIRNAに基づく抑制複合体を産出するための転写及び翻訳カップリングに頼る下流Eta及びcI遺伝子との間の相互作用を用いる。
【0294】
P4及びP2プロファージの抑制解除は、P4εタンパク質によるP2リプレッサの抑制を必要とする。アクチベーターP2は、P4δ遺伝子の転写を促進するトランスのCox及びOgr転写アクチベーターを次々に生み出す。P4δ遺伝子は、さらにVisプロモーターを通じてP4をアクチベートし、P2構造遺伝子オペロンにトランスで作用する。
【0295】
このような複合体システムにおいて、抑制されたプロファージ、P2及びP4の両方を含む細胞は、その組み合わせの影響を強める相互作用のある多くの要因で、有利なフィードバック効果をもたらすことを抑制するあらゆるアクチベーター遺伝子の発現を厳密に制御しなければならない。プロファージの潜在的アクチベーターは、P2cox、P2ogr及びP4δ転写アクチベーター、並びにP4εアンチリプレッサーを含んでいる。
【0296】
3つの転写アクチベーターは、λファージリプレッサーcI857の温度感性対立遺伝子によって提供される厳密な転写制御下で複製された。pUC起源と両立する複製の低コピーpACYC184プラスミド起源は、pUCベースのライブラリプラスミドとともに、誘導性アクチベーターを維持することができる。
【0297】
C1a P2/P4共溶原菌は、誘導性発現構造で変形させて、30℃で成長させた。その培養は、分解が生じるまで37℃成長させる前の、42℃に温度を変えて20分間誘導の前に、早期ログフェーズに成長させた。
【0298】
P4δ遺伝子は、早期溶解を示し、次にogr、そしてcoxが続くが、全ての3つのアクチベーターは、共溶原菌内で溶解を誘導することができる。温度誘導P4δのポリヌクレオチドシーケンスはSEQ ID NO:19(配列番号)で提供される。
【0299】
伝染性バクテリオファージP4粒子の産出は、C1a P2溶原菌の培養に対する溶菌液の滴定によって確かめられた。P4滴定量は、>109pfu/mlで決められた。
【0300】
実施例18.コスミド伝送とP2 ΔYK
遺伝子ライブラリースクリーニング及び伝送に関するP2/P4システムを使用するために、P4cos領域を含むベクターを構築した。psu遺伝子から始まるP4からcos卵割サイトに亘ってgop遺伝子までの389bp領域(P4ゲノムの11461bp〜225bp; NCBI 受入番号NC_001609)は、PCRによって増幅され、高複製pUC起源プラスミドベクターに複製された。P4cos領域の特定は、配列によって検証された。ベクターは、特許出願PCT/AU2010/001702に記載されるようなライブラリー細胞内のディスプレイスクリーンシステムのaraC遺伝子及びアラビノース誘導プロモーター制御発現も含んでいた。
【0301】
P2、P4、又はλバクテリオファージにかかわらず、あらゆるコスミドベクターと同様に、生存能力のある遺伝されるユニットを産出するためのカプシドヘッドにパッケージングするための最小のサイズがある。P4に関して、これは、約9.2kb(Kim and Song, 2006)と決定される。このP4カプシドヘッドにパッケージするための最小サイズを達成するために、大腸菌ゲノムのDNAの4.3kbの「stuffer」フラグメントで複製によって、コスミドベクターの合計サイズが10.7kbまで増量され、11.6kbの野生型P4ゲノムサイズ近くになる。
【0302】
C1a P2 ΔYK/P4共溶原菌でのコスミドベクターレジデントのコパッケージングを示すために、温度感性P4δ遺伝子とpUC主鎖の抗アンピシリンコスミドベクター及びpACYC184主鎖の抗クロラムフェニコールベクターで株を変換した。
【0303】
両共溶原菌及び両プラスミドを有する株が30℃で早期ログフェーズに成長させて、P4δタンパク質が42℃に温度を変更して20分間で誘導し、その後37℃で1時間の成長させた。制御として、P4カプシドパッケージングのためにP4cos領域なしのライブラリープラスミドを含む株及びシェッファーフラグメントを誘導した。
【0304】
パッケージされたコスミド及びP4バクテリオファージを放出するために、透過処理媒体(LB媒体 + 0.5% 8TGP)中、室温(〜25℃)で10分間、誘導細胞をペレット化して再懸濁した。透過処理後、LB及び細胞壁を消化するために追加したReady-Lyseリゾチーム0.5μL中でペレット化し、再懸濁した。液滴の濁度によって溶解を確認した。細胞壁のReady-Lyseの作用のためにクロロホルムが細胞の透過処理に有効であることも確認した。C1a及びC1aP2溶原菌の感染によって、パッケージされたコスミド及びP4バクテリオファージをそれぞれ滴定した。
【0305】
ライブラリーコスミドは、誘導P2ΔYK細胞中の固有P4プロファージとほぼ同レベルで、P4プラークと比較して得られるコスミド復活からの抗生物質固有コロニーとほぼ同数をパッケージすることを確認した。コロニーは、P4cos領域及びシェッファーフラグメントを欠くライブラリープラスミドを運搬する株から調整された溶解物との感染から得られなかった。
【0306】
(Mg/EGTAとのLB媒体中に4℃で保管された)C1a P2溶解細胞からの未処理の溶解物中のP4バクテリオファージ又はパッケージされたコスミドの低安定性とは違って、溶解物中の細胞タンパク質分解酵素の作用によるものと推測されるが、初めに透過化され、洗浄されたP2ΔYK細胞から放出された、P4バクテリオファージ及びパッケージされたコスミドは、外部から加えたリゾチーム(Ready-Lyse)の作用によって溶解する前に、2日以上の期間、わずか一滴だけの滴定でも安定であることもわかった。これは、ペレット化工程及び媒体変更工程の間に細胞壁に保持される感染性粒子から洗い落とされた透過化細胞からの上述のタンパク質分解酵素の放出によるものと推測される。このため、温度誘導、透過化及び媒体変更により容易に高滴定量のコスミド粒子を産出し得るし、標準的なバクテリオファージのプロトコルのように、長時間の超遠心分離工程を必要とせずとも安定した滴定を維持し得る。
【0307】
実施例19.有機溶媒を用いた大腸菌の透過処理
洗剤を用いたグラム陰性細胞の透過処理に加えて、膜完全性を破壊する他の化学物質は、脂肪親和性の有機溶媒であってもよい。有機溶媒は、先行技術で細胞の透過処理及び顕微鏡検査の免疫標識の固化に実質的に用いられている(Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, 1988)。本発明の方法において、細胞内の標的に結合する大型免疫グロブリン複合体を流入するために細胞膜を透過処理する。
【0308】
特に、有機溶媒クロロホルムは、おそらく細胞膜の透過処理を通じて、細胞/バクテリオファージ懸濁液中の細菌細胞を選択的に破壊するためにも用いられる(Sambrook et al. 2001)。クロロホルムは、ホリン変異株を救出するために、溶解バクテリオファージ遺伝子中で使用されることもある。当該ホリン変異株は、バクテリオファージを放出するための細胞質からリゾチームを放出する内膜を透過処理することができなかった(Ziermann et al., 1994)。同様に、クロロホルムは、リゾチーム変異株を救出するために使用されることもある。このリゾチーム変異株は、外因性活性リゾチームをペリプラズムに導入し得るたの、外膜を透過処理することによって、ペプチドグリカン細胞壁を加水分解することができなかった(Ziermann et al., 1994)。それ故、クロロホルムは、グラム陰性大腸菌細胞の内膜及び外膜の両方を通過して、少なくとも小さいリゾチーム通路(〜15kD)を通過することができることが明らかであった。
【0309】
本発明の方法で記載される細胞内のディスプレイに使用する細胞膜の透過処理するための有機溶媒を試験するために、αGFP::RL6::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を発現する大腸菌(実施例8に記載されるような誘導発現)を、有機溶媒の水性混合物中で懸濁した。膜の透過処理は、小分子量DNA結合蛍光性リガンド、GelRed及び30kDタンパク質、eGFP、の結合によって示された。
【0310】
いくつかの有機溶媒は、水中で混和性を維持するけれども(つまり、短鎖アルコール)、他は、大部分は混和せずに、混合が水相と非水相に分離する(例えば、クロロホルム及びブタノール)。分離している相は、水相中での有機溶媒の溶解性が低い飽和状態を表している。
【0311】
αGFP::RL6::KzPG::SNAP::DBP融合タンパク質を表す細胞を、遠心分離によって回収し、25℃で10分間、下記の溶媒組成の1つで透過処理をした。LB培養基は、水性の混合物の組成で用いた。トリス緩衝制御も実行した。
【0312】
10%エタノール;20%エタノール;30%エタノール
10%メタノール;20%メタノール;30%メタノール
10%イソプロパノール;20%イソプロパノール;30%イソプロパノール
10%DMSO;20%DMSO;30%DMSO
10%アセトン;20%アセトン;30%アセトン
ブタノール(1:5)
クロロホルム(1:5)
50mM トリス/LB(pH7.0);1M トリス/LB(pH7.0)
【0313】
溶媒処理後、細胞は、遠心分離によりペレット化し、懸濁液によってLB媒体とともに1回洗浄し、遠心分離でペレット化し、さらに低分子量DNA結合蛍光色素分子GelRed(1:10,000水希釈)又はeGFPのいずれかを含むLB媒体中で懸濁した。識別した媒体中において、25℃で20分培養した後に、遠心分離により細胞をペレット化し、LB中で再懸濁によって洗浄し、そして蛍光顕微鏡検査法によって観察した。図22は、有機溶媒で試験したものを示しており、低分子量リガンドを細胞質(A)に導入してもよい大腸菌細胞膜を透過化するクロロホルム及びブタノールであるが、クロロホルムだけが大型の分子量タンパク質(〜30kD)の導入できている。
【0314】
実施例20.P2gpL装飾タンパク質を用いたカプシドディスプレイ
P2バクテリオファージgpLタンパク質を、成熟したビリオンの構成成分として検出し(Chang et al., 2008)、たとえ、2つのタンパク質が対合BLASTアライメント(NCBI)による重要な相同領域を全く記述していなくても、ラムダバクテリオファージのgpDカプシドタンパク質の機能的に同一であると推定される。ラムダgpDタンパク質は、長さに110残余がある一方で、P2gpLタンパク質は長さに169残余がある。
【0315】
P2 gpLタンパク質がカプシドディスプレイに機能するかどうかを試験するために、αGFP:I27配列を、SEQ ID NO:20(配列番号)及びSEQ ID NO:21(配列番号)としてリストされた融合タンパク質を作製するためのP2 gpLのN−及びC−終端に溶解させた。融合タンパク質は、gpL及びαGFP:I27領域の間に空間を設けるFLAGエピトープ標識を含んでもよい。上流側のaraC転写制御因子とaraBADプロモーターからの下流遺伝子配列を複製することによるアラミノーゼ誘導で融合タンパク質を発現した。αGFP:I27:gpL発現ベクターのDNA配列は、SEQ ID NO:22としてリストされる。
【0316】
αGFP:I27:gpL融合タンパク質をコード化するプラスミドを、Hy5プロファージを含む大腸菌K12宿主に転写した。Hy5ファージは、186転写制御下でP2項増遺伝子を含む関連ファージP2及び186のハイブリッドである(Bradley et al., 1975; Younghusband et al., 1975)。さらに、Hy5(186) cIリプレッサーは、温度感性であり、ファージ成長の温度誘導を許容している。
【0317】
アラビノーゼによるαGFP:I27:gpL融合タンパク質の発現及びSDS-PAGEによる分析は、
予想サイズ44kDよりも大きい、約55kDの上側バンドを作製した。その上側バンドは、溶解性成分及び不溶解性成分の両方にあり、より低いバンドは、単独で溶解性成分にある(図23)。
【0318】
αGFP:I27:gpL融合タンパク質が、ファージカプシドに結合し、ファージディスプレイ上で機能的に結合することを実証するために、発現構築とのプロファージ株を45℃に加熱して15分間熱し、Hy5複製を開始した。熱ショックの後に、サンプルを成長させるための温度の32℃に下げた。アラビノーセを添加して0.2%の濃度にして温度を下げてから30分後に、融合タンパク質発現を誘導した。最大ファージ放出のために32℃で合計70分間培養物を培養した。
【0319】
Hy5ファージディスプレイαGFP:I27:gpL融合タンパク質の捕獲に関し、ストレプトアビジンで被覆したDynalビーズ(M-270, cat. no. 653-05; Life Technologies)をビオチン化抗体His6-GFPでまず標識付し、TBSで完全に洗浄した。eGFPでのDynalビーズの標識付は、蛍光顕微鏡検査法で確かめた。
【0320】
表2は、DynalビーズによるHy5ファージキャプチャのgpL融合タンパク質発現を表している。これらのデータは、野生型gpLタンパク質を用いてパッケージされたファージ上のDynalビーズにより、αGFP抗体のP2pgLカプシドタンパク質への融合を82フォルド増強したことを表している。さらに、誘導していないサンプルが融合タンパク質の発現を検出できない水準であっても(図23、サンプル1)、そのサンプルを上記制御の重要な水準まで親和純正化した。このことは、かなり低水準のディスプレイでもファージ捕捉される結果となることを示唆している。
【0321】
表2.Hy5制御上のgpLカプシド融合タンパク質をディスプレイするHy5ファージの増強
【表2】
【0322】
実施例21.ラムダファージSR溶菌遺伝子の欠失
ラムダファージ溶菌遺伝子は、S’/S (ホリン(SEQ ID NO:23)/抗ホリン), R (エンドリシン (SEQ ID NO:24)), Rz/Rz1 (ある媒体で必要な溶解)遺伝子の右腕に位置する。溶解クラスターは、あらゆるラムダ構造遺伝子及び溶解遺伝子の転写の原因となるpRプロモーターから転写したより大きな転写ユニット内にある。それ故、pRのmRNAは、ラムダゲノムの約半分をカバーする単一の転写産物である。溶解遺伝子を不活性化するために、相同組換を用いる遺伝子を削除することを決定した。ラムダ変異種を迅速に選択し得るために、溶解遺伝子をカナミシン耐性遺伝子(KanR)に置換した。しかしながら、細胞の生存に有害かもしれないプロファージ構造遺伝子発現をもたらす、プロモーター配列又は転写ターミネーター配列をいずれも挿入しないことを確実にするために、隣接する非本質的なbor遺伝子も削除された。bor遺伝子は、宿主大腸菌への血清耐性を与えるものであり、それ自身のプロモーター下で、pR’への反対方向にプロファージ中で構造的に発現される(Barondess and Beckwith, 1995)。合成のgBlockフラグメント(IDT)を用いて、我々はKanR遺伝子の開始コドンのBor遺伝子の開始コドンへの溶着で溶解クラスターの切断を設計した。この欠失からラムダ溶解クラスターを保持する配列だけが、MKMPEKQLEGTQKYINEQCR配列の切断ペプチドだった。溶菌-欠損のDNA配列は、人工腕と構築し、KanRカセットは、SEQ ID NO:27としてリストされる。
【0323】
人工相同腕及びKanRカセットは、pUCに基づくPCRクローニングベクター、pAcquire(Alchemy Biosciences, Melbourne, Australia)に複製され、配列によって検証された。
【0324】
ラムダ溶融クラスターの欠失を発効するために、その構造は、大腸菌株ED8739(F-, metB, hsdS, supE, supF)のラムダcI857sam7の溶原菌に転送され、ファージ溶解は温度誘導し(42℃、10分)、その後、37℃で1時間成長によって誘導させた。ファージを含む上澄みの1mLを遠心分離で洗浄し、クロロホルムを1滴加えた。そして、追加のマグネシウム(10mM)及びマルトース(0.1%)とED8739の培養物をファージ溶解物で希釈して感染させて、30℃で16時間成長させたLB+カナミシン(15μg/mL)寒天プレート上に載せる前に、30℃で2時間溶原菌を副産物で回復させた。
【0325】
標的プラスミドは十分小さかったので、ラムダ::コスミド組換型が成長するファージとしてパッケージされることができ、そして、カナミシン抵抗プロファージコロニーは、アンピシリン抵抗遺伝子(つまり、KanR/AmpS)不足のためにスクリーンされ、このアンピシリン抵抗遺伝子は標的構造の相同両腕の間の相同再結合の事象、溶融クラスターを切除し、それを所望のカナミシンカセットと置換することを示しているだろう。望まない変異株なしでも欠失が有効であることを確認するためにKanR/AmpSプロファージを特定し、その領域は、PCR及びその配列決定によって詳述された。全ての複製が計画通りに正しいことを見出された。
【0326】
実施例22.ラムダΔSRゲノムのパッケージング
溶融クラスターの欠失が、細胞単位あたりの存続能力のあるパッケージされたファージの同一の数を産出したこと(つまり、修正したpR’転写産物は、ファージ構造タンパク質の産出をもたらさなかったこと)を実証するために、ラムダcI857sam7ΔSRプロファージは、30℃でラムダcI857sam7プロファージと平行して特定の細胞密度に成長したし、ファージ産出は、温度誘導(42℃、10分)で誘導し、続いて37℃で1時間成長させた。期待しているように、ラムダcI857sam7培養は終了まで溶解し、その一方で、ラムダcI857sam7ΔSRは溶解し損ねた。ラムダcI857sam7ΔSR培養は、遠心分離によって回収され、LB+0.5% 8TGP中で再懸濁し、25℃で10分間培養した。そして、透過処理した細胞は、遠心分離によって回収され、LB+10mM MgSO4で一度洗浄し、元の1mLの体積のLB+10mM MgSO4で再懸濁し、0.5μLのReadyLyse(Epicentre)を使って溶解させた。各溶解物にクロロフロムを1滴加えて、保持される存続可能な細胞を始末し、ファージはED8739に影響した連続希釈法を用いて滴定され、10mMのMgSO4と0.1%マルトースを追加したLB上部寒天上にプレートした。プラークを数える前に、37℃で16時間プレートを培養した。ラムダcI857sam7及びラムダcI857sam7ΔSRプロファージの両方は、〜1×109pfu/mLのファージ滴定をして、ラムダΔSR溶融クラスターの欠失及び反対の転写方向にカナミシン遺伝子の関連挿入は、構造的遺伝子の転写及び翻訳を混乱させない。
【0327】
実施例23.ΔSRファージのカプシドディスプレイ
ラムダgpD遺伝子を用いるカプシドディスプレイは、文献によく寄稿されるように、gpDディスプレイを用いた標的結合へのファージを取る方法を有している。しかしながら、カプシドディスプレイと溶菌-欠損ファージの組合せの使用は、この出願以前には提案されていなかった。さらに本発明の方法により透過処理した細胞のカプシドディスプレイと溶菌-欠損ファージの組合せは、FACS欠失によるファージカプシドへの標的結合に対してスクリーニングすることができるものであり、そのFACS欠失は、複製特性の高効率な方法である。
【0328】
透過処理した細胞内に保持される溶菌-欠損ファージへの標的の結合を実証するために、我々は、GFPに関する蛍光タンパク質、mAG1(Kurosawa et al., 2003)に結合する単結合抗体(scFv)をコード化する配列を、ラムダgpD遺伝子の3’−ターミナスに溶解させた。低減状態での細菌細胞質で発現するとき、α−mAG1のscFvは、可溶性及び安定な抗体の希少な分類である。FLAG抗原決定基は、gpD::α−mAG1融合タンパク質のC末端に溶解し、そして全長の溶解性タンパク質は、αFLAG単クローン抗体を用いて大腸菌細胞の細胞質に発現されることが実証された。
【0329】
ラムダコスミドは、araCタンパク質による抑制及びアラビノーセによる誘導の下で、araBADプロモーターからgpD::α−mAG1融合タンパク質を発現し、構成された。コスミドは、ラムダcos領域(SEQ ID NO:26(配列番号))、複製の細菌プラスミド起源、及び抗生物質の抗体遺伝子(AmpR及びChlR)の、個別的に、及び商業的に使用可能な他のコスミドベクターに共通する特徴を含んてもいた。コスミドベクターは、生体内でのファージのパッケージングを可能とするシェッファーフラグメントも含んでいる。商業的に使用可能なコスミドベクターの例は、pFOS1(New England VBioLabs(NEB))である。
【0330】
gpD::α−mAG1コスミドは、λcI857ΔSRプロファージを含む大腸菌ED8739株に転写され、30℃の栄養増殖で成長させた。ファージ機能を誘導するために、株は、低密度のLB媒体で培養され、31℃で75分成長させる前に42℃で15分間加熱した。0.2%w/vのアラビノーセの添加、続く42℃の培養によってgpD::α−mAG1融合タンパク質の誘導をすぐに開始した。ファージ成長の感性及びパッケージングで、25℃で10分間のLB+0.5% 8TGPの0.3×体積で遠心分離及び再懸濁により本発明の方法を用いて細胞を透過処理した。そして、細胞を再度遠心分離し、1×TBSの体積+10mMMgSO4(TBS/Mg)で洗浄した。ペレット化する前に、TBS/Mg中の過剰のmAG1タンパク質で20分間懸濁した。mAG1結合の後に、顕微鏡によって観察するため、又はFACS分析のために懸濁し、細胞をTBS/Mgと未結合のmAG1をきれいに洗浄した。
【0331】
図24は、多価のラムダディスプレイを描くものであり、透過処理した細胞内にカプセル化され、蛍光標的で探査したときに、蛍光顕微鏡法による視覚の検出において特に強いシグナルが発生した。各細菌細胞は、10巣と30巣の間に点状の標識で表されていた。これらの巣は、gpD::α-mAG1融合タンパク質を発現する細胞中にのみ観察され、ファージで誘導されていた。巣は、融合タンパク質を発現していない細胞内では観察されなかったし、mAG1タンパク質で探査したときにファージで誘導されなかった。同様に、gpD::α-mAG1で標識したファージは、関連する蛍光タンパク質、GFPに結合しなかった。野生型ラムダファージ放出量は、細胞1つあたり100〜200コピーであることがわかり、細胞のほんの少しの領域でファージが濃縮しているものと推察され、各巣は、3ファージ及び20ファージの間で含まれている。この見積もりは、控えめであるかもしれず、融合の標準的なタイミングで複製が許容される溶菌-欠損ファージからの放出量はもっと大きいかもしれない。それ故、多価のカプセル化したディスプレイ、溶菌-欠損ファージは、本発明の方法で記載されるように、光学顕微鏡によって蛍光標識したタンパク質結合を直接検出してもよい。
【0332】
FACS装置の感度は、従来の顕微鏡の画像よりも優れているので、光学顕微鏡でシグナルの強度を容易に観察し得ることにより、標識されていないファージから標識したファージを含む細胞を検出及び回収し得ることが期待される。図25は、〜1%のα−mAG1陽性細胞とInflux FACS(BD Biosciences)の100K事象での蛍光グラフを描いている。細胞集団は、DNA結合色素Gel Red及び蛍光mAG1タンパク質との共染色されている。P2ゲート集団は、α-mAG1陽性であり、またP3ゲート集団は、α−MAG1陰性である。
【0333】
ED8739 λ cI857ΔSR細胞への感染に続き、ReadyLyse酵素の添加によりPost-FACS出力を回復した。好ましい一事象あたり約10ファージ粒子の回復を記録した。
【0334】
それ故、カプセル化したカプシドディスプレイファージの高速処理FACSスクリーニングは、本発明の方法を用いることによって可能とされる。
【0335】
広く記述された本発明の範囲を逸脱することなく、特定の態様において示したように、多くの変化形及び/又は改良が可能であることを当業者は理解するであろう。本実施態様は、したがって、いかなる点においても説明のためであって、制限を課すものと考えてはならない。
【0336】
本明細書において、議論され、及び/又は参照された公刊物は、その全体を参照のため本明細書に組み入れる。
【0337】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、装置、物品等々に関するいかなる議論もひとえに本発明の状況を提供することを目的としている。これらの事項のいずれか、又は全てが、当出願の各請求項の優先日より以前に存在していたことを理由として、それが先行技術の基盤の一部を形成すること、あるいは本発明に関連する分野において普通の一般的な知識であったことを是認するとして取られるべきでない。
【0338】
参考文献
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]