特許第6013497号(P6013497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6013497炭酸カルシウム系カルシウムスルホネートグリース組成物及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013497
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】炭酸カルシウム系カルシウムスルホネートグリース組成物及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 123/02 20060101AFI20161011BHJP
   C10M 177/00 20060101ALI20161011BHJP
   C10M 115/10 20060101ALN20161011BHJP
   C10M 113/08 20060101ALN20161011BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20161011BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20161011BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20161011BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20161011BHJP
   C10N 70/00 20060101ALN20161011BHJP
【FI】
   C10M123/02
   C10M177/00
   !C10M115/10
   !C10M113/08
   C10N10:04
   C10N20:00 A
   C10N20:00 Z
   C10N30:08
   C10N50:10
   C10N70:00
【請求項の数】25
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-539153(P2014-539153)
(86)(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公表番号】特表2014-532785(P2014-532785A)
(43)【公表日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】US2012062703
(87)【国際公開番号】WO2013066952
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2015年8月5日
(31)【優先権主張番号】61/553,674
(32)【優先日】2011年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506041682
【氏名又は名称】エヌシーエイチ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】NCH CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェイニック,ジェイ.アンドリュー
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−346120(JP,A)
【文献】 特表2006−528996(JP,A)
【文献】 米国特許第05126062(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10%〜36%の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートと、
過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに含まれたものではない2%〜20%炭酸カルシウムと、
を成分として含むカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物であって、
前記カルシウムスルホネートコンプレックスグリースが、220〜295の60往復混和稠度と、301℃(575°F)以上の滴点とを有することを特徴とするカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項2】
酸化カルシウム又は水酸化カルシウムが加えられていない、請求項1に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項3】
2%〜10%の水と、
総量で0.5%〜5%の1又は複数の他の変換剤と、
総量で2.8%〜11%の1又は複数のコンプレックス化酸と、
をさらに含む、請求項1に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項4】
1又は複数の他の変換剤は、アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル、カルボン酸、無機酸、有機硝酸塩、活性水素を含有する化合物、又は、互変異性水素を含有する化合物で構成される群から選択され、
1又は複数のコンプレックス化酸は、長鎖カルボン酸、短鎖カルボン酸、ホウ酸、及びリン酸で構成される群から選択される、請求項3に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項5】
0.5%〜5%のドデシルベンゼンスルホン酸をさらに含む、請求項4に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項6】
過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの量が10%〜32%である、請求項1に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項7】
過塩基性カルシウムスルホネートの量が10%〜32%である、請求項2に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項8】
2%〜10%の水と、
総量で0.5%〜5%の1又は複数の他の変換剤と、
総量で2.8%〜11%の1又は複数のコンプレックス化酸と、
をさらに含む、請求項7に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項9】
1又は複数の変換剤は、アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル、カルボン酸、無機酸、有機硝酸塩、活性水素を含有する化合物、又は、互変異性水素を含有する化合物で構成される群から選択され、
1又は複数のコンプレックス化酸は、長鎖カルボン酸、短鎖カルボン酸、ホウ酸、及びリン酸で構成される群から選択される、請求項8に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項10】
0.5%〜5%の促進酸をさらに含む、請求項9に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項11】
促進酸は、ドデシルベンゼンスルホン酸である、請求項10に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項12】
炭酸カルシウムが分散した油溶性過塩基性カルシウムスルホネートと、
油溶性過塩基性カルシウムスルホネートに含まれたものではない炭酸カルシウムと、
1又は複数の変換剤と、
1又は複数のコンプレックス化酸と、
を成分として含んでおり、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムが加えられていないことを特徴とするカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項13】
前記グリースは、265〜295の60往復混和稠度と、301℃(575°F)以上の滴点とを有する、請求項12に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項14】
10%〜45%の油溶性過塩基性カルシウムスルホネートを含む、請求項13に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項15】
炭酸カルシウムは、コンプレックス化酸の総量に対して、化学量論過剰量で加えられている、請求項12に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項16】
10%〜45%の過塩基性カルシウムスルホネートと、
過塩基性カルシウムスルホネートに含まれたものではない2%〜20%炭酸カルシウムと、
を成分として含む単純カルシウムスルホネートグリース組成物であって、
前記単純グリースが、240〜475の混和稠度を有することを特徴とする単純カルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項17】
酸化カルシウム又は水酸化カルシウムが加えられていない、請求項16に記載の単純カルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項18】
0.5%〜5.0%のC12アルキルベンゼンスルホン酸と、
アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル無機酸、有機硝酸塩、活性水素を含有する化合物、又は、互変異性水素を含有する化合物で構成される群から選択された、総量で0.1%〜5.0%の1又は複数の変換剤と、
をさらに含む、請求項16に記載の単純カルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項19】
0.5%〜5.0%のC12アルキルベンゼンスルホン酸と、
アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル無機酸、有機硝酸塩、活性水素を含有する化合物、又は、互変異性水素を含有する化合物で構成される群から選択される、総量で0.1%〜5.0%の1又は複数の変換剤と、
をさらに含む、請求項17に記載の単純カルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項20】
非晶性炭酸カルシウムが分散した10〜45部の過塩基性カルシウムスルホネートと、30〜60部の基油、2〜20部の炭酸カルシウム、2〜10部の水、及び、合計で0.5〜5部の1又は複数の他の変換剤とを混合して、変換前混合物を形成する工程と、
非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウムへの変換が生じるまで加熱することによって、変換前混合物を変換後混合物に変換する工程と、
合計で2.8〜11部の1又は複数のコンプレックス化酸と、変換前混合物、変換後混合物又はこれらの両方とを混合する工程と、
を含んでおり、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを加えないことを特徴とする過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスグリースの製造方法。
【請求項21】
1又は複数の変換剤の添加に先だって、0.5〜5部の促進酸を混合する工程と、
前記混合物を、変換後混合物への1又は複数のコンプレックス化酸の添加後に加熱する工程と、
をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
全ての変換剤の添加に先だって、総重量で15%〜45%の第1のコンプレックス化酸が、変換前混合物に加えられ、総重量で85%〜55%の残りの第1のコンプレックス化酸が変換後混合物に加えられる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
変換前混合物と混合される1又は複数のコンプレックス化酸は、変換後混合物と混合される1又は複数のコンプレックス化酸とは異なる、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
変換前混合物は、加熱の前に、周囲温度にて5〜20分間混合される、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
総重量で15%〜45%の1又は複数のコンプレックス化酸が変換前混合物と混合され、総重量で85%〜55%の1又は複数のコンプレックス化酸が変換後混合物と混合される、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照:
本出願は、2011年10月31日出願の米国特許仮出願第61/553,674号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
1.技術分野:
本発明は、塩基源として炭酸カルシウムを添加した過塩基性カルシウムスルホネートグリースと、そのようなグリースの製造方法であって、増稠剤収率及び滴点によって表される期待高温実用性の双方において改善を提供する製造方法とに関する。
【0003】
2.関連技術の説明:
過塩基性カルシウムスルホネートグリースは、長年にわたって確立されているグリースのカテゴリである。そのようなグリースを製造する1つの公知の方法は、「促進(promotion)」及び「変換(conversion)」の工程を含む二工程処理である。一般に、第1の工程(「促進」)は、塩基源としての酸化カルシウム(CaO)又は水酸化カルシウム(Ca(OH))の化学量論過剰量を、アルキルベンゼンスルホン酸、二酸化炭素(CO)、及び他の成分と反応させて、非晶性炭酸カルシウムが分散した油溶性過塩基性カルシウムスルホネートを生成するものである。これらの過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、一般に、澄明で輝いており、ニュートンレオロジーを有している。それらは、僅かに濁っている場合もあるが、そのようなばらつきは、過塩基性カルシウムスルホネートグリースの調製における使用を妨げるものではない。本開示の目的に関して、「過塩基性油溶性カルシウムスルホネート」及び「油溶性過塩基性カルシウムスルホネート」並びに「過塩基性カルシウムスルホネート」の用語は、カルシウムスルホネートグリースを製造するのに好適な任意の過塩基性カルシウムスルホネートを指す。一般に、第2の工程(「変換」)は、促進工程での産物に、プロピレングリコール、イソプロピルアルコール、水、蟻酸又は酢酸などの変換剤を、適切な基油(鉱油など)と共に加えて、非常に微細に分割された結晶性炭酸カルシウムの分散物に非晶性炭酸カルシウムを変換するものである。過塩基性とするために、過剰の水酸化カルシウム又は酸化カルシウムが使用されるので、残存ずる少量の酸化カルシウム又は水酸化カルシウムも、存在しているかも知れず、それらは分散するであろう。炭酸カルシウムの結晶形態は、好ましくは、カルサイトである。このきわめて微細に分割された炭酸カルシウムは、コロイド分散としても知られ、カルシウムスルホネートと相互作用してグリース様稠度を成す。二工程処理を通じて生成されるそのような過塩基性カルシウムスルホネートグリースは、「単純カルシウムスルホネートグリース(simple calcium sulfonate greases)」として知られており、例えば、米国特許第3,242,079号、米国特許第3,372,115号、米国特許第3,376,222号、米国特許第3,377,283号及び米国特許第3,492,231号に開示されている。
【0004】
反応を注意深く制御することにより、これら2つの工程を組み合わせて単一の工程とすることも、従来技術において知られている。この一工程処理において、単純カルシウムスルホネートグリースは、二酸化炭素、並びに、促進剤(二酸化炭素と過剰量の酸化カルシウム又は水酸化カルシウムとの反応によって非晶性炭酸カルシウム過塩基化剤を生成する)、及び、変換剤(非晶性炭酸カルシウムを非常に微細に分割された結晶性炭酸カルシウムへと変換する)の双方として同時に作用する試薬システムの存在下で、適当なスルホン酸と水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの何れかと反応することによって調製される。従って、グリース様稠度は、過塩基性油溶性カルシウムスルホネート(二工程処理における第1の工程の産物)が、実際に形成されて別産物として分離することのないような単一の工程で形成される。この一工程処理は、例えば、米国特許第3,661,622号、米国特許第3,671,012号、米国特許第3,746,643号及び米国特許第3,816,310号に開示されている。
【0005】
単純カルシウムスルホネートグリースの他に、カルシウムスルホネートコンプレックスグリース化合物も、従来技術において知られている。これらのコンプレックスグリースは、一般に、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムなどのカルシウム含有強塩基を、二工程処理又は一工程処理の何れかで製造される単純カルシウムスルホネートグリースに加えて、化学量論等量の、12−ヒドロキシステアリン酸、ホウ酸、酢酸又はリン酸などのコンプレックス化酸と反応させることによって製造される。単純グリースに対して主張されているカルシウムスルホネートコンプレックスグリースの利点には、粘着性が低下すること、ポンパビリティー(pumpability)が改善されること、及び高温実用性が改善されることが含まれる。カルシウムスルホネートコンプレックスグリースは、米国特許第4,560,489号、米国特許第5,126,062号、米国特許第5,308,514号及び米国特許第5,338,467号に開示されている。
【0006】
公知の従来技術は全て、カルシウムスルホネートグリースを生産するための塩基性カルシウム源として、又は、コンプレックス化酸(complexing acids)と反応させてカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを形成するのに必要な成分として、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを使用することを教示している。公知の従来技術は、総じて、炭酸カルシウムの存在(別個の成分として、又は、炭酸化後のカルシウムスルホネートに分散する非晶性炭酸カルシウムの存在以外の、水酸化カルシウム若しくは酸化カルシウム中の「不純物」として)は、少なくとも2つの理由により、避けるべきであると教示している。第1の理由は、炭酸カルシウムは、一般に、弱塩基であり、コンプレックス化酸との反応に適しないと考えられていることである。第2の理由は、未反応の固形カルシウム化合物(炭酸カルシウム、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムを含む)は、変換に先だって、又は変換の完了前に、未反応の固形物を除去しない場合、変換処理に干渉して、劣ったグリース化合物をもたらすということである。
【0007】
しかも、従来技術は、増稠剤収率及び滴点の双方が改善されたカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを提供するものではない。公知の従来技術は、少なくとも575°Fの滴点を有し、NLGI第2カテゴリに適するグリースを達成するために、(最終グリース産物の重量で)最低でも36%という量の過塩基性カルシウムスルホネートを必要とする。過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、カルシウムスルホネートグリースの製造において最も高価な成分であり、従って、最終のグリースにおけて所望のレベルの硬度をなお維持しながら、この成分の量を低減する(それによって、増稠剤収率を高める)ことが望ましい。具体的には、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合が36%未満で、稠度がNLGI第2等級内にある(又は、グリースの60往復混和稠度が265〜295である)場合に、滴点が常に575°F以上である過塩基性カルシウムスルホネートグリースを得ることが望ましい。滴点は、潤滑グリースの高温実用限界についての、最初にかつ最も容易に定められる指針なので、より高い滴点が望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、固形炭酸カルシウムを添加して製造される過塩基性カルシウムスルホネートグリース、並びに、そのようなグリースの製造方法であって、(許容可能な稠度測定値を維持しながら、より少ない過塩基性カルシウムスルホネートの使用を必要とする)増稠剤収率及び滴点によって表される期待高温実用性の向上を提供する製造方法に関する。公知の従来技術は、一貫して及び一様に、弱塩基炭酸カルシウムなどの塩基性成分を変換前に不溶性の固形物として存在させることによって、高性能カルシウムスルホネートグリースを製造することに対して、反対であると教示しているが、本発明に基づいて、変換前に炭酸カルシウムを加えることによって、好適な単純カルシウムスルホネートグリースが製造されるかも知れないということが、判明した。公知の従来技術は、また、カルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造するときに、コンプレックス化酸と反応させる塩基成分として弱塩基炭酸カルシウムを使用することにも、反対であると教示しているが、本発明に従い、コンプレックス化酸と反応させる添加塩基として、かつ唯一の塩基として、炭酸カルシウムを使用することによって、改善されたカルシウムスルホネートコンプレックスグリースが製造され得ることが判明した。さらに、公知の従来技術は、概して、575°F以上の滴点を有しながらも十分に硬いグリースを達成するためには、(最終グリース産物の重量で)36%以上の量の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを必要としている。過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、カルシウムスルホネートグリースの製造において最も高価な成分の1つであり、従って、優れた実証滴点特性をもたらしながら、この成分の量を低減することが望ましい。そのような低減は、軟らか過ぎるグリースという、又は、滴点が劣るという結果をもたらすことなく、本発明に基づいたグリースで達成された。
【0009】
本発明の好ましい一実施形態によると、最終グリース製品の重量百分率(水などの幾つかの成分は、最終グリース製品に含まれないかも知れず、又は、加えると示された濃度ではないかも知れないが)で、20%〜36%の過塩基性カルシウムスルホネート、4%〜15%の添加炭酸カルシウム、2%〜5%の水、アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル及びカルボン酸などの1%〜4%の他の変換剤、随意的な1%〜4%のアルキルベンゼンスルホン酸、並びに、ホウ酸、酢酸、12−ヒドロキシステアリン酸、又はリン酸(コンプレックスグリースが乾燥している場合)などの随意的な2.8%〜11.0%(合計)の1又は複数のコンプレックス化酸という成分を有する、高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートグリース組成物が提供される。この好ましい実施形態によるカルシウムスルホネートコンプレックスグリースは、575°F以上の滴点を有するNLGI第2等級グリースである。
【0010】
本発明の一実施形態によると、主たる過塩基化物質として非晶性炭酸カルシウムを含む高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、適当な初期量の、鉱油などの適した基油と組み合わせて、次いで、これを、唯一のカルシウム含有添加塩基としての微細に分割された炭酸カルシウム及び変換剤と混合し、その後、必要に応じて、非晶性炭酸カルシウムが、予め加えた炭酸カルシウム塩基の存在下で、結晶性炭酸カルシウムの極めて微細な分散に有効に変換されるのに十分な時間、約190°F〜200°Fの温度範囲まで加熱し、その後、380°F〜400°Fに急速に加熱して水及び揮発性反応副生物を除去し、その後、冷却して、必要に応じて追加の基油を加えることによって、単純カルシウムスルホネートグリースを提供する。最終の単純グリース産物は、その後、当技術分野において公知の方法で適当に挽いて、滑らかで均質な高品質単純カルシウムスルホネートグリースとする。
【0011】
本発明の他の実施形態によると、1又は複数のコンプレックス化酸を、上記のものなどのような単純カルシウムスルホネートグリースに加えることによって、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを加えることを必要とすることなく、改良されたカルシウムスルホネートコンプレックスグリースが生じる。1又は複数のコンプレックス化酸の一部は、単純カルシウムスルホネートグリースの変換に先だって加え、1又は複数のコンプレックス化酸の残りは、変換後に加えてよい。炭酸カルシウムは弱塩基と考えられているとしても、単純グリースの製造における化学量論過剰量の炭酸カルシウムの添加は、コンプレックス化酸、つまりコンプレックスグリースを製造するための酸と反応させるのに十分以上である。本発明の本実施形態によると、反応を完結させるために酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを加える必要はなく、従って、カルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造する従来技術の方法における追加の処理工程及び追加の成分に関連する時間及び費用が、節約される。さらに、下記に示すように、コンプレックス化酸と反応する唯一の塩基として炭酸カルシウムを使用する本発明のグリースは、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムをコンプレックス化酸との反応に使用する従来技術のグリースよりも、優れている。
【0012】
本明細書に記載する本発明のパラメータに従って製造すると、増稠剤収率及び滴点特性が従来技術グリースのものよりも優れており、むら無く高品質のカルシウムスルホネートグリースが製造され得る。本発明に従って製造される過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスグリースは、NLGI第2等級稠度(又はより良い)及び575°F(又はより高い)の滴点を有し、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合が36%未満である。本発明により達成される過塩基性油溶性カルシウムスルホネートにおけるより低い濃度は、グリースのコストが低下するので、好ましい。特に低温での、流動性及びポンパビリティーなどの他の特性もまた、本発明に従って達成される改善された増稠剤収率によって、好ましく影響されるかも知れない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態によると、この過塩基性単純グリースは、(a)非晶性炭酸カルシウムが分散した過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを含む主たる過塩基化材料;(b)最終の許容可能な製品稠度をもたらすのに適する量の適当な基油;(c)変換前に主たる過塩基化材料及び基油に加えられ、カルシウム含有油溶性固形塩基としての、微細に分割された化学量論過剰量の炭酸カルシウム;並びに、(d)幾つか又は全ては、製造中の揮発により、最終製品中に存在しなくてもよい変換剤、を反応させ混合することによって製造する。随意的に、本発明の他の実施形態に従って、変換に先だって促進酸を加えてもよい。このような促進酸は、グリース構造の形成を支援する。これらの実施形態によると、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムは、グリースの製造において加える必要がない。
【0014】
本発明の本実施形態において使用する高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、米国特許第4,560,489号、米国特許第5,126,062号、米国特許第5,308,514号及び米国特許第5,338,467号などの、従来技術に記載されている一般的なものであり得る。高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、そのような公知の方法に従って現場で製造されてよく、市販の製品として購入されてもよい。そのような高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、200以上、好ましくは300以上、最も好ましくは約400の全塩基価(TBN)値を有するであろう。市販のこの種の過塩基性カルシウムスルホネートには、Chemtura USA Corporationによって供給されるHybase C401;Kimes Technologies International Corporationによって供給されるSyncal OB 400及びSyncal OB 405−WO;Lubrizol Corporationによって供給されるLubrizol 75GR,Lubrizol 75NS,Lubrizol 75P,及びLubrizol 75WOが含まれるが、これらに限られるわけではない。本発明の本実施形態による最終のグリースにおける高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの量は、変動し得るが、一般に10〜45%である。好ましくは、本発明の実施形態による最終のグリースにおける高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの量は、20〜36%であり、最も好ましくは25〜32%である。
【0015】
グリース製造において一般に使用され広く知られている、石油系のあらゆるナフテン鉱油又はパラフィン鉱油を、本発明に従う基油として使用してよい。合成基油も、また、本発明のグリースに使用してよい。そのような合成基油には、ポリアルファオレフィン(PAO)、ジエステル、ポリオールエステル、ポリエーテル、アルキル化ベンゼン、アルキル化ナフタレン、及びシリコーン油が含まれる。当業者には理解できるように、合成基油は、変換処理の間に存在すると、悪影響を及ぼすことがある。そのような場合、それらの合成基油は、最初は加えず、変換後などの、悪影響が排除され又は最小化される工程にてグリース製造処理に加える。ナフテン鉱基油又はパラフィン鉱基油が、その低コスト及び入手容易性の点から好ましい。加える基油(最初に加えるものと、所望の稠度を達成するためにグリース処理で後に加えるものを含む)の総量は、グリースの最終重量に基づき、一般に30%〜60%、好ましくは35%〜55%、最も好ましくは40%〜50%である。
【0016】
本発明の本実施形態に従って使用する炭酸カルシウムは、微細に分割されており、20ミクロン未満、好ましくは10ミクロン未満、最も好ましくは5ミクロン以下、の平均粒子サイズを有するものとされる。さらに、炭酸カルシウムは、シリカ及びアルミナなどの研磨性汚染物が、得られるグリースの耐水特性に大きな影響を与えないほど低レベルである程度に、十分に純粋であるであるのが好ましい。理想的には、最良の結果のために、炭酸カルシウムは、食品等級又は米国薬局方等級であるべきである。加える炭酸カルシウムの量は、グリースの最終重量に基づいて、2.0%〜20%、好ましくは4%〜15%、最も好ましくは6%〜10%である。本発明のこの実施形態では、炭酸カルシウムは、変換に先だって、唯一のカルシウム含有添加塩基成分として加えられる。過塩基性カルシウムスルホネートの製造のために、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムが使用されてきたかも知れないが、変換の前又は後に、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを加える必要はない。
【0017】
アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル、カルボン酸、無機酸、有機硝酸塩、及び、活性水素又は互変異性水素の何れかを含有する他のあらゆる化合物などの、1又は複数の変換剤が、本実施形態において使用される。加えるこのような変換剤の量は、グリースの最終重量に基づいて、0.1%〜5%、好ましくは1.0%〜4%、最も好ましく1.5%〜3.0%である。使用する変換剤に応じて、変換剤は製造処理の間に揮発により除去してよい。特に好ましいのは、ヘキシレングリコール及びプロピレングリコールなどの、低分子量グリコールである。一般に、最終グリースの重量に基づいて、1.5%〜10%、好ましくは2.0%〜5.0%、最も好ましくは2.2%〜4.5%の量で、水も加えられる。幾つかの変換剤は、コンプレックス化酸としても作用して、以下に記載する本発明の他の実施形態に基づいたカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造してもよいことに留意すべきである。このような成分は、変換及びコンプレックス化の双方の機能を、同時に提供する。
【0018】
必要ではないが、本発明の他の実施形態に従って、変換に先だって、促進酸(facilitating acid)を混合物に加えてもよい。一般に、炭素8〜16個のアルキル鎖長を有する、アルキルベンゼンスルホン酸などの好適な促進酸が、効率のよいグリース構造形成を促進するのに役立つかも知れない。最も好ましくは、このアルキルベンゼンスルホン酸は、ほとんどが炭素約12個の長さである混合のアルキル鎖長を含む。このようなベンゼンスルホン酸は、一般に、ドデシルベンゼンスルホン酸(DDBSA)と呼ばれる。この種の市販のベンゼンスルホン酸には、JemPak GK Inc.によって供給されるJemPak 1298 Sulfonic Acid、Pilot Chemical Companyによって供給されるCalsoft LAS−99、及び、Stepan Chemical Companyによって供給されるBiosoft S−101が含まれる。本発明においてベンゼンスルホン酸を使用する場合、ベンゼンスルホン酸は、グリースの最終重量に基づいて、0.50%〜5.0%、好ましくは1.0%〜4.0%、最も好ましくは2.0%〜3.6%の量で、変換前に加えられる。アルキルベンゼンスルホン酸を用いてカルシウムスルホネートを現場で製造する場合、本実施形態において加えられる促進酸が、カルシウムスルホネートの製造に必要な酸に追加される。
【0019】
本発明の他の実施形態では、高品質過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスグリースが製造される。このようなコンプレックスグリースは、本発明の他の実施形態に従って製造する単純グリースを、1又は複数のコンプレックス化酸と反応させることによって製造される。随意的に、これら1又は複数のコンプレックス化酸の一部が、変換の前に加えられ、残りが、変換の後に加えられてよい。これらの実施形態によると、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムは、コンプレックスグリースの製造において、加える必要がない。
【0020】
本実施形態で使用するコンプレックス化酸は、少なくとも1つの、好ましくは2つ以上の、長鎖カルボン酸、短鎖カルボン酸、ホウ酸、及びリン酸を含むであろう。加えるコンプレックス化酸の総量は、最終グリースの重量で、好ましくは2.8%〜11%である。本発明での使用に適する長鎖カルボン酸は、少なくとも12個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。好ましくは、長鎖カルボン酸は、少なくとも16個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。最も好ましくは、長鎖カルボン酸は、12−ヒドロキシステアリン酸である。長鎖カルボン酸の量は、グリースの最終重量に基づき、0.5%〜5.0%、好ましくは1.0%〜4.0%、最も好ましくは2.0%〜3.0%である。
【0021】
本発明に従った使用に適する短鎖カルボン酸は、8個以下、好ましくは4個以下の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。最も好ましくは、短鎖カルボン酸は酢酸である。短鎖カルボン酸の量は、グリースの最終重量に基づき、0.05%〜2.0%、好ましくは0.1%〜1.0%、最も好ましくは0.2%〜0.5%である。本発明に従うグリースの製造に使用する水又は他の成分と反応して、長鎖カルボン酸又は短鎖カルボン酸を生成すると期待することができるあらゆる化合物も、使用に適する。例えば、無水酢酸を使用することは、混合物に存在する水との反応で、コンプレックス化酸として使用する酢酸を生成するであろう。同様に、12−ヒドロキシステアリン酸メチルを使用することは、混合物に存在する水との反応で、コンプレックス化酸として使用する12−ヒドロキシステアリン酸を生成するであろう。これに代えて、混合物に十分な水が存在しない場合には、追加の水を混合物に加えて、それら成分と反応させて必要なコンプレックス化酸を形成してよい。
【0022】
本実施形態においてコンプレックス化酸としてホウ酸を使用する場合、グリースの最終重量に基づいて、0.4%〜約4.0%、好ましくは0.7%〜3.0%、及び最も好ましくは1.0%〜2.5%の量を加える。ホウ酸は、まず水に溶解若しくは懸濁させて、或いは水なしで、加えられてよい。好ましくは、ホウ酸は、製造処理において水が残存している間に加えることになるであろう。これに代えて、公知の無機ホウ酸塩の何れかを、ホウ酸の代わりに使用してもよい。同様に、ホウ酸化アミン、ホウ酸化アミド、ホウ酸化エステル、ホウ酸化アルコール、ホウ酸化グリコール、ホウ酸化エーテル、ホウ酸化エポキシド、ホウ酸化ウレア、ホウ酸化カルボン酸、ホウ酸化スルホン酸、ホウ酸化エポキシド、ホウ酸化過酸化物などの、既存のホウ酸化有機化合物を、ホウ酸の代わりに使用してもよい。コンプレックス化酸としてリン酸を使用する場合、グリースの最終重量に基づいて、0.4%〜4.0%、好ましくは1.0%〜3.0%、最も好ましくは1.4%〜2.0%の量を加える。本明細書に記載の種々のコンプレックス化酸の割合は、純粋な活性化合物に関している。これらのコンプレックス化酸の何れかが希釈された形態で入手可能な場合、それらは、それでも本発明における使用に適するかも知れない。しかしながら、そのような希釈されたコンプレックス化酸の割合は、希釈率を考慮して、実際の活性成分が指定の割合になるように、調整することが必要であろう。
【0023】
コンプレックス化酸は、炭酸カルシウムと反応する。従来技術のグリース及びグリース製造方法は、コンプレックス化酸と反応する強塩基としての酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを、変換後に添加することを必要とする。本発明によると、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを混合物に加える必要はない。化学量論過剰量で存在する炭酸カルシウムは、コンプレックス化酸と反応するのに十分であり、また、本発明に基づいた高品質コンプレックスグリースを製造するために必要な、唯一の添加塩基成分である。少量の酸化カルシウム又は水酸化カルシウムが、過塩基性カルシウムスルホネート中に分散しており、コンプレックス化酸と反応するかも知れないが、それら酸の十分な反応のためにそのような成分を加える必要はない。一般に、下記の実施例で明らかになるように、そのような少量の酸化カルシウム又は水酸化カルシウムが存在したとしても、加えられた大量のコンプレックス化酸と反応するのはごく僅かであろう。加えられた炭酸カルシウムは、コンプレックス化酸と反応する添加塩基成分の唯一の源として機能する。
【0024】
グリース製造技術で一般に認められている他の添加物も、本発明の単純グリースの実施形態又はコンプレックスグリースの実施形態の何れにおいても加えられてよい。そのような添加物は、防錆剤及び腐食防止剤、金属不活性化剤、金属不動態化剤、抗酸化剤、極圧添加剤、耐摩耗添加剤、キレート剤、高分子、粘着剤、色素、化学マーカー、芳香付与剤、並びに、揮発性溶媒を含み得る。後者のカテゴリは、オープンギア潤滑油及び編組線潤滑油を製造するときに、特に有用である。そのような添加物の何れかを含めることは、本発明の範囲内であると理解すべきである。本発明の単純グリースの実施形態又はコンプレックスグリースの実施形態の何れにおいても、変換後に、かつ、コンプレックスグリースの場合にはコンプレックス化酸との全ての反応が終わった後に、追加の炭酸カルシウムを加えてもよい。ただし、本明細書で言及する添加炭酸カルシウムとは、変換に先だって加え、本発明に従ってコンプレックスグリースを製造するときに、コンプレックス化酸と反応する唯一のカルシウム含有添加塩基としての、炭酸カルシウムを指す。
【0025】
本発明に基づいた組成物は、本明細書に記載の方法に従って製造されるのが好ましい。この方法は、(1)適当なグリース製造容器中で、高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートと、適当な量の適する基油とを、周囲温度〜約190°Fの温度にて混合する工程;(2)微細に分割された炭酸カルシウムを混合する工程;(3)随意的に、促進酸を混合する工程;(4)変換剤を混合する工程;及び(5)必要に応じて約190°F〜200°Fに加熱しながら混合を継続し、非晶性炭酸カルシウムの非常に微細に分割された結晶性炭酸カルシウムへの変換が完了するまで、その温度範囲に保つ工程、を含む。この処理は、好ましい単純カルシウムスルホネートグリースをもたらす。本発明に基づいたカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物を製造するための方法は、好ましくは、前述の(1)〜(5)の工程を、並びに、(6)必要とされる任意のコンプレックス化酸を加える工程であって、それらの一部又は全部を変換前に加え、残りを変換後に加える工程;(7)混合し、水及び揮発性反応副産物の除去を確実にして、最終製品の質を最適化するに足る温度に加熱する工程;(8)必要に応じて追加の基油を加えながら、グリースを冷却する工程;(9)当技術分野において周知の残りの所望の添加物を加える工程;及び、望まれる場合には、(10)必要に応じて、最終グリースを挽いて、滑らかで均質な最終製品を得る工程を、追加の工程として含む。
【0026】
この処理は、グリース製造で一般に使用される開放又は閉止ケトルで行ってよい。変換処理は、常圧下で、又は、閉止ケトル中にて加圧下で、実施することができる。開放ケトルでの製造が好ましく、そのようなグリース製造設備は普通に一般に利用できるからである。
【0027】
この処理の特徴には、本発明の好ましいカルシウムスルホネートグリース組成物を得るためには、重要ではないものもある。例えば、炭酸カルシウム、水及び他の変換剤を加える相対的な順序は、重要ではない。また、炭酸カルシウム、水及び他の変換剤を加える際の温度も特に重要ではなく、温度が190°F〜200°Fに達するまでにそれらを加えるのが好ましい。しかしながら、便宜上に、これらの成分は、下記の実施例にて説明するように、通常、処理の開始時に加えられる。2つ以上のコンプレックス化酸を使用する場合、それらを加える順序は、変換の前又は後の何れにおいても、一般に重要でない。
【0028】
本発明に基づいたカルシウムスルホネートグリースの1つの好ましい製造方法では、変換後にグリースから水が除去される。好ましくは、変換が完了し、全てのコンプレックス化酸を加えた(コンプレックスグリースを製造する場合)後に、できるだけ速やかに水を除去するために、グリースを加熱するのが好ましい。これは、通常、開放条件下でバッチを加熱し混合することで可能になる。長時間にわたってグリース中に水が存在することは、増稠剤収率、滴点、又は両者の悪化を招くが、そのような悪影響は、水を速やかに除去することで避けられる。
【0029】
変換後のグリースは、変換剤として最初に加えた水のみならず、グリースの形成中に化学反応によって生じた全ての水を除去するに足る高い温度にまで加熱されるべきである。一般に、この温度は、250°F〜300°F、好ましくは300°F〜380°F、最も好ましくは380°F〜400°Fである。グリースにポリマー添加物を加える場合、それらは、好ましくは、グリース温度が300°Fに達するまで加えられない。ポリマー添加物は、十分な濃度で加える場合、水の効率的な揮発を妨げ得る。従って、ポリマー添加物は、全ての水を除去した後にのみ、グリースに加えられるのが好ましい。
【実施例】
【0030】
本発明に基づいた過塩基性カルシウムスルホネートグリース組成物及びその組成物の製造方法を、以下の実施例に関連して、さらに説明する。
【0031】
<実施例1>
カルシウムスルホネートコンプレックスグリースを、本発明に従って、次のように調製した。36.00(重量)部の400TBNの過塩基性カルシウムスルホネート(その中に分散した非晶性炭酸カルシウムを有している)を、開放混合容器に加えて、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する33.38部の溶媒中性グループ1(solvent neutral group 1)パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する1.00部のPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、3.60部の第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を、促進酸として加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された7.58部の炭酸カルシウムを、塩基性カルシウム源として加え、10分間混合した。次いで、1.80部のヘキシレングリコール及び4.5部の水を、変換剤として加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。直ちに、2.84部の12−ヒドロキシステアリン酸を加え、次いで、0.28部の氷酢酸を加えた。その後、1.90部の75%リン酸水溶液を加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。その後、混合物を、電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、2.78部のスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、さらなる8.34部の同じパラフィングループ1基油を加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、0.50部のポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、252の未混和稠度、及び、253の60往復混和稠度を有していた。滴点は608°Fであった。このバッチのグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、36.0%であった。このグリースを製造するために加えた唯一のカルシウム含有塩基は、炭酸カルシウムであることに留意すべきである。このグリースの製造中、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムは、加えられなかった。
【0032】
<実施例2>
変換後直ちに、且つ、コンプレックス化酸(12−ヒドロキシステアリン酸、酢酸及びリン酸)を加える前に、炭酸カルシウムを加えたことを除いて、実施例1のグリースと同じ設備、原料、量及び製造処理を使用して、別バッチのグリースを製造した。このグリースの成分組成は、先の実施例1のグリースと同一であった。最終のグリースは、285の未混和稠度、及び、288の60往復混和稠度を有していた。滴点は555°Fであった。このバッチのグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、36.0%であった。このように、この実施例のグリースは、実施例1のグリースよりも、35ポイント軟らかく、しかも、はるかに低い滴点を有していた。これらのグリースの唯一の差異は、変換に対して炭酸カルシウムを加えるタイミングなので、より軟らかい稠度(より低い増稠剤収率)及びより低い滴点は、その差異に起因するはずである。従って、本発明の好ましい実施形態に従って、変換の前に炭酸カルシウムを加えることは、変換の後に炭酸カルシウムを加える場合の同じ組成と比較して優れた製品を提供する。
【0033】
実施例1及び2のグリースの比較は、さらに別の重要な特徴を明らかにする。実施例1においてコンプレックス化酸を加えると、その時点でのグリースは、(変換処理の間に結晶性分散物に変換される、過塩基性カルシウムスルホネートに分散した非晶性炭酸カルシウムのほかに)加えた炭酸カルシウムが変換中に存在する状態で形成された単純カルシウムスルホネートグリースである。実施例2において、コンプレックス化酸を加えるとき、その時点でのグリースは、加える炭酸カルシウムが変換中に存在しない状態で形成されて、変換後に炭酸カルシウムが加えられる単純カルシウムスルホネートグリースである。コンプレックス化酸を加える時点では、実施例1及び2の単純カルシウムスルホネートグリースは、組成が同一である。両方の実施例では、同じ量の同じコンプレックス化酸を使用する。唯一の差異は、加えた炭酸カルシウムが変換の間に存在する状態で、単純カルシウムスルホネートグリースが形成されるか、或いは、炭酸カルシウムが変換の間には存在せず、後にグリース形成後に、加えるかである。従って、最終のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースの特性の差異は、それらの起源である単純カルシウムスルホネートグリースにおける差異に対応するはずである。このことは、加える炭酸カルシウムが変換の前に存在する状態で、単純カルシウムスルホネートグリースを形成することが、変換後に炭酸カルシウムを加える場合のものよりも、優れた単純グリース組成物をもたらすことを示す。追加の実施例3〜7は、この事実のさらなる証明の他に、水酸化カルシウムなどの強塩基を使用する従来技術のグリースに対する本発明の有利な特性を提供する。
【0034】
実施例3:(1)バッチを周囲温度に保ちながら、ヘキシレングリコール及び水を加える直前に酢酸を加え、(2)170°Fでの変換の前に、バッチを190°Fに加熱しながら12−ヒドロキシステアリン酸を加え、(3)炭酸カルシウムを加えなかったことを除いて、実施例1のグリースと同じ設備、原料、量及び製造処理を使用して、別バッチのグリースを製造した。このバッチにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、36.0%であった。このバッチは、数時間の加熱の後でもグリース構造が変換せず、断念した。
【0035】
<実施例4>
変換の後まで、且つ、コンプレックス化酸(12−ヒドロキシステアリン酸、酢酸及びリン酸)を加えた後まで、炭酸カルシウムを加えなかったことを除いて、実施例1のグリースと同様に別バッチのグリースを製造した。最終のグリースは、308の未混和稠度、及び、305の60往復混和稠度を有していた。滴点は567であった。このバッチのグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、36.0%であった。
【0036】
実施例3及び4は、炭酸カルシウムを唯一のカルシウム含有塩基として変換前に加えることが、変換後に加えることや全く加えないこととは対照的に重要であることを示し続けている。実施例3のグリースにおいて、炭酸カルシウムを加えず、酢酸及び12−ヒドロキシステアリン酸を、変換前に変換剤として加えた場合、変換は生じず、グリース構造は得られなかった。実施例4のグリースにおいて、変換の後且つ3つのコンプレックス化酸を加えた後に、炭酸カルシウムを加えた場合は、グリースは、実施例1のグリースよりも52ポイント軟らかく、また、滴点も大幅に低下した。
【0037】
<実施例5>
カルシウムスルホネートコンプレックスグリースを、本発明の好ましい実施形態に従って、次のように調製した。36.00(重量)部の400TBN過塩基性カルシウムスルホネート(その中に分散した非晶性炭酸カルシウムを有する)を、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する33.15部の溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する1.00部のPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、3.60部の第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を促進酸として加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された7.58部の炭酸カルシウムを加え、10分間混合した。次いで、1.80部のヘキシレングリコール及び2.2部の水を、変換剤として加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。直ちに、2.84部の12−ヒドロキシステアリン酸を加え、次いで、0.56部の氷酢酸を加えた。その後、1.90部の75%リン酸水溶液を加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、2.78部のスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物へと完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、さらなる8.29部の同じパラフィングループ1基油を加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、0.50部のポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、240の未混和稠度、及び、239の60往復混和稠度を有していた。滴点は644°Fであった。このバッチのグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、36.0%であった。このグリースを製造するために加えた唯一のカルシウム含有塩基は、炭酸カルシウムであることに留意すべきである。このグリースの製造中、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムは、加えられなかった。
【0038】
変換の後に加える水酸化カルシウムをコンプレックス化酸と反応するカルシウム含有塩基として使用している、米国特許第4,560,489号の実施例Vのカルシウムスルホネートコンプレックスグリースについて報告されている値よりも、実施例5及び実施例1の両方のグリースは、はるかに高い滴点を有していることが判る。また、この従来技術グリースの未混和稠度は271と報告されており、使用した400TBNカルシウムスルホネートの割合は、発明者によって提供された組成情報によれば、約36.7%であった。比較すると、本発明の実施例1及び5の混和稠度は、400TBNカルシウムスルホネートの割合が36%であるにも拘わらず、著しく硬い(値がより小さい)。さらに、米国特許第4,560,489号の実施例Iについて、400TBNカルシウムスルホネートの割合は約41.7%であって、グリースは、NLGIの第2範囲内、つまり265〜295の混和稠度を有すると報告されている。比較すると、本発明の実施例1及び5の混和稠度は、400TBNカルシウムスルホネートの割合が36%であるにも拘わらず、著しく硬い(値がより小さい)。実施例1及び5のグリースの双方においては、稠度をNLGIの第2等級にまで軟らかくするために必要な量よりも、多くの油が使用されているであろうということに留意すべきである。このことは、元の油溶性過塩基性カルシウムスルホネートの濃度を、必然的に36%未満に下げるであろう。これは、コンプレックス化酸との反応のために水酸化カルシウムを加える従来技術の手法と比べて、本発明が優れた増稠剤収率及び高い滴点の両方を提供することを示している。さらに、本発明が必要とする過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの量は、従来技術の組成物と比べて少なく、これにより必要なコストが低下する。
【0039】
従来技術に対する本発明の好ましい組成物の利点は、米国特許第5,126,062号に提供されている例と比較することによって、さらに明らかになる。この従来技術特許の実施例1のグリースでは、400TBNカルシウムスルホネートの割合は、発明者よって提供された組成情報によれば、45%であった。滴点は、600°Fを超えると述べられているのみで、詳細には開示されていない。60往復混和稠度は、280であると報告されている。この従来技術のグリースでは、変換前に炭酸カルシウムが加えられるが、水酸化カルシウムも、その後に加えるコンプレックス化酸の全てと完全に反応するのに十分な量で、変換後に加えられる。さらに、この従来技術特許で使用されるコンプレックス化酸は、本発明の実施例1及び実施例5のグリースで使用したものである。このように、本発明の実施例1及び実施例5のグリースは、米国特許第5,126,062号の従来技術の実施例1のグリースより優れているとは言わないまでも、少なくとも同じくらいに良好な滴点を有する。さらに、本発明グリースの実施例1及び実施例5のグリースの増稠剤収率は、400TBNカルシウムスルホネートの割合が36%であり、混和稠度がはるかに硬いので、優れている。この比較は、炭酸カルシウムを変換前に加える場合でも、コンプレックス化酸との反応のために加える唯一の塩基として炭酸カルシウムを使用することが、変換後に水酸化カルシウムを加えることよりも、よいことを示している。
【0040】
<実施例6>
変換の直後に、且つ、12−ヒドロキシステアリン酸、酢酸及びリン酸を加える前に、炭酸カルシウムを加えたことを除いて、実施例5のグリースと同じ設備、原料、量及び製造処理を使用して、別バッチのグリースを製造した。このグリースにおける成分組成は、先の実施例5のグリースの組成と同一であった。最終のグリースは、236の未混和稠度、及び、240の60往復混和稠度を有していた。滴点は416°Fであった。このバッチのグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、36.0%であった。変換後ではなく変換前に炭酸カルシウムを加えることの明らかな利点が、再び観察された。実施例5及び6のグリースの稠度は同等であったが、炭酸カルシウムを変換後に加えた実施例6のグリースの滴点は、炭酸カルシウムを変換前に加えた実施例5のグリースよりも、ほぼ200°F低かった。
【0041】
<実施例7>
加える唯一の塩基として炭酸カルシウムを変換前に加えることが、変換前に水酸化カルシウムを加えることよりも、そして、変換前及びコンプレックス化酸との反応後の双方に炭酸カルシウムを加えることよりも、優れていることを証明するために、次のようにしてグリースを調製した。37.87(重量)部の400TBN過塩基性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する30.13部の溶媒中性グループ1パラフィン基油を加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、3.19部の第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、約4ミクロンの平均粒子サイズを有する微細に分割された3.19部の食品等級純度の水酸化カルシウムを加え、10分間混合した。次いで、2.13部のヘキシレングリコール及び4.5部の水を加えた。混合物を、温度が190°Fに達するまで、加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、温度を190°F〜200°Fに保った。直ちに、3.19部の12−ヒドロキシステアリン酸を加え、次いで、0.32部の氷酢酸を加えた。その後、2.02部の75%リン酸水溶液を加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。その後、加熱を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが250°Fに達し、全ての水か揮発したように見えると、7.45部の先の実施例で使用したものと同じ炭酸カルシウムを加えた。グリースが300°Fに達すると、2.13部のスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、さらなる7.53部の同じパラフィングループ1基油を加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、0.50部のポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが濃厚に見えたので、さらなる20.83部の同じパラフィングループ1基油を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、278の未混和稠度を有していた。このバッチのグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は31.3%であった。これは、特に、この実施例7のグリースの滴点が、実施例1及び5の滴点よりもはるかに良い、僅か523°Fであった場合には、追加の油を加えてNLGI第2等級グリースとした実施例1及び5における過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合よりもそれほど良くない。
【0042】
以上をまとめると、これら最初の7つの実施例は、総合して、以下のことを強く証明している:(1)過塩基性カルシウムスルホネート系グリースは、コンプレックス化酸との反応のための唯一のカルシウム含有添加塩基として、炭酸カルシウムを使用することで調製することが可能である。(2)変換前に加える炭酸カルシウムの使用は、変換後に炭酸カルシウムを加える場合よりも、たとえそれが2つのグリースの唯一の差異であっても、優れたグリースをもたらす。(3)唯一のカルシウム含有添加塩基として炭酸カルシウムを変換前に加えることは、炭酸カルシウムと加えずに、水酸化カルシウムを変換後に加える従来技術のグリースよりも、優れたグリースをもたらす。(4)唯一のカルシウム含有添加塩基として炭酸カルシウムを変換前に加えることは、炭酸カルシウムを変換前に加え、コンプレックス化酸との反応のために水酸化カルシウムを変換後に加える従来技術のグリースよりも、優れたグリースをもたらす。(5)唯一のカルシウム含有添加塩基として炭酸カルシウムを変換前に加えることは、コンプレックス化酸との反応のために水酸化カルシウムを変換前に加え、変換後かつコンプレックス化酸との反応の後に炭酸カルシウムを加えるグリースよりも、優れたグリースをもたらす。
【0043】
以下の6つの実施例は、本発明の過塩基性カルシウムスルホネートグリースの優れた特性を示し、また、変換の間に使用する水の量、及び、変換が完了したときにその水を除去するのに要する時間の重要性を示す。
【0044】
<実施例8〜13>
変換前に加える水の量と、水を除去するために温度を上げる前に、変換後のグリースを190°F〜200°Fに加熱するのに必要とする時間とを除いて、実施例1と全て同一の、6バッチのグリースを製造した。次の表1は、これらの差異の詳細を示す。
【表1】
【0045】
これら6つ全てのグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、36.0%であった。これら6つの実施例のデータから判るように、増稠剤収率と滴点との最良の組み合わせは、2.2%〜4.5%の水を用い、水が変換後のグリースに残存する時間を最小にすることによって得られる。
【0046】
以下の4つの実施例は、変換前にコンプレックス化酸を加えることの効果を示している。
【0047】
<実施例14>
変換剤及びコンプレックス化酸の両方として12−ヒドロキシステアリン酸の20%を、変換前に加えることの効果を明らかにするために、以下のようにグリースを調製した。36.00(重量)部の400TBN過塩基性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する33.38部の溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する1.00部のPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、3.60部の第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された7.58部の炭酸カルシウムを加え、10分間混合した。その後、0.57部の12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。約10分間混合した後、1.80部のヘキシレングリコール及び4.5部の水を加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、温度を190°F〜200°Fに保った。直ちに、2.27部の12−ヒドロキシステアリン酸を加え、次いで、0.28部の氷酢酸を加えた。その後、1.90部の75%リン酸水溶液を加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。加えた12−ヒドロキシステアリン酸の総量のうち、20%は変換前に加え、残りの80%は変換後に加えたことに留意すべきである。その後、加熱を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、2.78部のスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、さらなる8.34部の同じパラフィングループ1基油を加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、0.50部のポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、207の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる15.0部の同じパラフィン基油を加えて、30分間攪拌した。グリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。このグリースは、273の60往復混和稠度及び630°Fの滴点を有していた。このグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの濃度は31.3%であることに、留意すべきである。このグリースについて、四球極圧試験ASTM D2596に従って評価も行った。溶着荷重は800kgであった。
【0048】
<実施例15>
コンプレックス化酸としてホウ酸を使用することと共に、変換剤及びコンプレックス化酸の両方として12−ヒドロキシステアリン酸の20%を、変換前に加えることの効果を明らかにするために、以下のようにグリースを調製した。36.00(重量)部の400TBN過塩基性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する31.68部の溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する1.00部のPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、3.60部の第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された7.58部の炭酸カルシウムを加え、10分間混合した。その後、0.57部の12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。約10分間混合した後、1.80部のヘキシレングリコール及び4.5部の水を加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を保った。直ちに、2.27部の12−ヒドロキシステアリン酸を加え、次いで、予め50ミリリッターの熱水に溶かしておいた2.40部のホウ酸を加えた。その後、1.90部の75%リン酸水溶液を加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。加えた12−ヒドロキシステアリン酸の総量のうち、20%は変換前に加え、残りの80%は変換後に加えたことに留意すべきである。その後、加熱を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達したとき、2.78部のスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、さらなる7.92部の同じパラフィングループ1基油を加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、0.50部のポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、最終の滑らかで均質な質感とした。グリースは、209の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる18.9部の同じパラフィン基油を加えて、30分間攪拌した。グリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。このグリースは、305の60往復混和稠度及び650°Fの滴点を有していた。このグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの濃度は30.3%であることに、留意すべきである。このグリースについて、四球極圧試験ASTM D2596に従って評価も行った。溶着荷重は800kgであった。
【0049】
<実施例16>
12−ヒドロキシステアリン酸の40%を変換前に加えたことを除いて、実施例15と同様にして、もう1つのバッチを製造した。その製造は次のように行った。36.00(重量)部の400TBN過塩基性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する31.68部の溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する1.00部のPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、3.60部の第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された7.58部の炭酸カルシウムを加え、10分間混合した。その後、1.14部の12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。約10分間混合した後、1.80部のヘキシレングリコール及び4.5部の水を加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を保った。直ちに、1.70部の12−ヒドロキシステアリン酸を加え、次いで、前もって50ミリリッターの熱水に溶かしておいた2.40部のホウ酸を加えた。その後、1.90部の75%リン酸水溶液を加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。加えた12−ヒドロキシステアリン酸の総量のうち、40%は変換前に加え、残りの60%は変換後に加えたことに留意すべきである。その後、加熱を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達したとき、2.78部のスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えたとき、さらなる7.92部の同じパラフィングループ1基油を加えた。グリースの温度が200°Fに下がったとき、0.50部のポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、229の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる10.0部の同じパラフィン基油を加えて、30分間攪拌した。グリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。このグリースは、275の60往復混和稠度及び650°Fの滴点を有していた。このグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの濃度は32.7%であることに、留意すべきである。このグリースについて、四球極圧試験ASTM D2596に従って評価も行った。溶着荷重は800kgであった。
【0050】
<実施例17>
12−ヒドロキシステアリン酸の100%を変換前に加えたことを除いて、実施例15及び16と同様にして、もう1つのバッチを製造した。その製造は次のように行った。36.00(重量)部の400TBN過塩基性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する31.68部の溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する1.00部のPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、3.60部の第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された7.58部の炭酸カルシウムを加え、10分間混合した。その後、2.84部の12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。約10分間混合した後、1.80部のヘキシレングリコール及び4.5部の水を加えた。混合物を、温度が190°Fに達するまで、加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、温度を190°F〜200°Fに保った。変換の間、形成されたグリースがあまりに硬くなったので、さらなる7.92部の同じグループ1パラフィン基油を加えた。変換後、直ちに、予め50ミリリッターの熱水に溶かしておいた2.40部のホウ酸を加えた。その後、1.90部の75%リン酸水溶液を加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。全ての12−ヒドロキシステアリン酸を、変換前に加えたことに留意すべきである。前記リン酸を加えた後、さらなる6.02部の同じパラフィン基油を加えた。その後、加熱を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、2.78部のスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースの温度が200°Fに下がったとき、0.50部のポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、245の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる6.49部の同じパラフィン基油を加えて、30分間攪拌した。グリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。このグリースは、269の60往復混和稠度及び650°Fの滴点を有していた。このグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの濃度は32.0%であることに、留意すべきである。このグリースついて、四球極圧試験ASTM D2596に従って評価も行った。溶着荷重は800kgであった。
【0051】
<実施例18>
この実施例は、本発明が、オープンギア潤滑油又は編組線潤滑油として有用な増粘組成物を調製するために、どのように応用されるかを示す。増粘組成物を次のように製造した。100°Fにて約2,000SUSの粘度を有する761.6グラムのナフタレン基油を、開放混合器に充填した。これに、816グラムの400TBN過塩基性カルシウムスルホネートを加えた。遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、81.6グラムのC12第一級アルキルベンゼンスルホン酸を加え、15分間混合した。この時点で、163.2グラムの食品等級炭酸カルシウムを加えて、15分間混合した。40.80グラムのヘキシレングリコール及び101.3グラムの水を加え、電気マントルヒーターを用いて混合物を加熱した。温度が190°Fに達すると、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートからの非晶性炭酸カルシウムの変換が完了するまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。唯一のカルシウム含有添加塩基として加えた炭酸カルシウムの存在下で形成された変換単純カルシウムスルホネートグリースを300°Fに加熱して、水を除去した。マントルヒーターを取り除き、バッチが冷え始めると、163.20グラムの食品等級の無水硫酸カルシウムを加えた。その後直ちに、1632グラムのポリブテン高分子、及び、1679.33グラムの先に加えたのと同じナフタレン基油を加えた。その後、57.61グラムの有機リン酸アミン抗摩耗/腐食阻害剤、28.8グラムのモルホリン、R.T.Vanderbilt Companyから入手可能な5.76グラムの有機モリブデン錯体Molyvan 855、5.76グラムのアルキル化ジフェニルアミン抗酸化剤、及び、1.63グラムの粉末の油溶性青色色素を加えた。次いで、さらなる177.69グラムのナフタレン基油、及び、158.46グラムのポリブテン高分子を加えた。この単純カルシウムスルホネートを30分間攪拌した。単純カルシウムスルホネートを取り出し、3本ロールミルに3回通した。結果のグリースは、非常に滑らかで、半液状であった。グリースは,385の未混和稠度を有していた。このバッチを混合器に戻し、混合しながら150°Fに加熱し、8.64グラムの高分子量のポリイソブチレン高分子溶液を加えて、45分間混合した。その後、さらに挽くことなくバッチを再び取り出し、77°Fに冷却した。未混和稠度は403であった。この単純カルシウムスルホネートグリースは、141%の過塩基性油溶性カルシウムスルホネート濃度を有していた。
【0052】
上記手順に従って幾つかの実験室バッチを製造して、試験した。それらの試験の平均の結果は次のとおりである。
【表2】
【0053】
潤滑油の技術分野において周知でありよく行われているように、後に揮発性溶媒で希釈することにより、実施例18の単純カルシウムスルホネートグリースは、高性能のオープンギア潤滑油又は編組線潤滑油としての使用に好適なものとなる。全塩基価は、一般のCJ−4高負荷エンジンオイルの全塩基価の、約10倍である。この特性は、地下水が、酸性で、2.5というpH値にまで下がることもある鉱業用途において、非常に重要である。
【0054】
本明細書で提供されている実施例は、主としてNLGI第2等級又は第3等級に入っており、第2等級が最も好ましいが、本発明の範囲には、第2等級よりも硬い又は軟らかい全てのNLGI稠度等級が含まれることを、さらに理解すべきである。しかしながら、NLGI第2等級ではない、本発明に基づいたそのようなグリースについて、それらの特性は、当業者には理解されるように、第2等級製品を提供するためにより多くの又はより少ない基油を使用した場合に得られるであろうものと、合致すべきである。
【0055】
本明細書で使用し、本発明に適用する「増稠剤収率」の用語は、通常の意味であり、つまり、潤滑グリース製造において一般に使用されている標準的な稠度試験ASTM D217又はD1403により測定される、特定の所望の稠度を有するグリースを提供するために、必要とされる高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの濃度を意味するものとする。同様に、本明細書で使用するグリースの「滴点」は、潤滑グリース製造において一般に使用されている、標準的な滴点試験ASTM D2265を用いて得られる値を指すものとする。本明細書で使用する、百分率又は部で指定される成分の量は、特定の成分(水など)が、最終グリースに存在しなくても、又は、成分として加える指定の量で最終グリースに存在しなくても、最終グリース製品の重量に基づく。当業者は、本明細書及び含まれる実施例を読めば、組成及び組成物製造の手法の修正や変更を本発明の範囲内で行ってよいこと、並びに、本明細書に開示した発明の範囲は、発明者が法的に権利を有する添付の特許請求の範囲の最も広い解釈によってのみ制限されることが意図されていることを、理解するであろう。