(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁路の少なくとも一箇所に磁気飽和防止用の空隙を有する磁気コア本体、及び、前記空隙に配設され前記磁気コア本体とは異なる材料からなる磁気バイアス印加用部材を有する磁気コアと、
前記磁気コアに装着された導線とを備え、
前記磁気バイアス印加用部材は、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末及びこれらを結合するバインダーを含有する複合磁性材料を平板状に成形することにより形成されたものであり、
前記軟磁性材料粉末は、FeSiCr粉末、FeSi粉末、カルボニル鉄粉末及びセンダスト粉末のいずれか又はこれらの組合せであり、
前記軟磁性材料粉末の表面が絶縁膜で覆われており、
前記硬磁性材料粉末は、サマリウムコバルト(SmCo)粉末、サマリウム鉄窒素(SmFeN)粉末及びネオジム鉄ボロン(NdFeB)粉末のいずれか又はこれらの組合せであることを特徴とするインダクタンス部品。
【背景技術】
【0002】
従来、磁路の少なくとも一箇所に磁気飽和防止用の空隙(ギャップ)を有する磁気コアと、磁気コアに装着された導線とを備えるインダクタンス部品800が知られている。
【0003】
図11は、従来のインダクタンス部品800を説明するために示す図である。
図11(a)はインダクタンス部品800の断面図であり、
図11(b)は磁気コア810の斜視図である。
【0004】
図12は、従来のインダクタンス部品800を説明するために示す図である。
図12(a)は導線に直流重畳電流が流れることによって磁気コア810に発生する磁束の様子を示す図であり、
図12(b)はインダクタンス部品800のB−H曲線を模式的に示すグラフである。なお、
図12(a)中、符号D1は導線820に直流重畳電流が流れることによって磁気コア810の磁路に発生する磁界の向きを示す。
【0005】
従来のインダクタンス部品800は、
図11に示すように、磁路の一箇所に磁気飽和防止用の空隙816を有する磁気コア810(磁気コア本体812)と、磁気コアに装着された導線(コイル820)とを備える。従来の磁気コア810は、例えば、軟磁性材料粉末とバインダーとを圧縮成形することにより形成されている。
【0006】
磁気コア810は、2つのEコアを組み合わせて構成されており、中心部には空隙816を有する磁芯818が形成されている。磁気コア810においては、磁芯818を共通部分とした2つの磁路が形成されている。
【0007】
従来のインダクタンス部品800においては、所望の磁気特性(例えば、直流重畳特性や実効透磁率等)を得るために、空隙816のギャップ長Lを数十μm〜数百μm程度の範囲内に設定するのが一般的である。
【0008】
なお、本明細書中、「直流重畳」とは、インダクタンス部品の導線に流れる交流電流に直流電流を重畳することをいう。また、「直流重畳電流」とは、インダクタンス部品の導線に流れる交流電流に重畳された直流電流のことをいう。また、「直流重畳特性」とは、直流重畳電流が大きくなったときでも磁気コアが磁気飽和し難い特性をいう。従って、「直流重畳特性が良好である」とは、直流重畳電流が大きくなったときでも磁気コアが磁気飽和し難いことをいう。
【0009】
従来のインダクタンス部品800によれば、磁気飽和防止用の空隙816を有する磁気コア810を備えるため、空隙がない磁気コアの場合と比較して、磁気コア810の実効透磁率が低くなる。このことは、
図12(b)において空隙がない磁気コアの場合のB−H曲線(点線)の傾きよりも、空隙がある従来の磁気コア810の場合のB−H曲線(実線)の傾きの方が小さいことからも理解することができる。このため、空隙がない磁気コアを備えるインダクタンス部品の場合と比較して、直流重畳電流が大きくなったときでも磁気コアが磁気飽和し難く、直流重畳特性が良好なインダクタンス部品となる。
【0010】
また、従来のインダクタンス部品800によれば、磁気飽和防止用の空隙816を有する磁気コア810を備えるため、空隙816のギャップ長Lを調整することによって磁気コア810の実効透磁率を調整することが可能となる。よって、コイル820の巻数や磁性コア810の材質を変更することなく所望の磁気特性を有するインダクタンス部品となる。
【0011】
ところで、近年のインダクタンス部品の技術の分野においては、電子機器の小型化の要請に伴って、小型化されたインダクタンス部品が求められている。しかしながら、インダクタンス部品をそのまま小型化した場合には、磁気コアの空隙のギャップ長Lも小さくなることに起因して磁気コアの実効透磁率が高くなり、小さな直流重畳電流であっても磁気コアが磁気飽和し易くなってしまうという問題がある。このため、小型化されても、直流重畳特性が良好なインダクタンス部品に対する要求が高まっている。
【0012】
上記した要求に対しては、一般的に、飽和磁化の高い磁気コアを用いることで直流重畳特性が良好なインダクタンス部品を製造することが試みられてきた。飽和磁化の高い磁気コアは、磁気コアの材料の種類や組成を変更することによって形成される。しかしながら、磁気コアの材料の種類や組成を変更することには限度がある等の種々の問題により、むやみに高くできるものではない。
【0013】
そこで、上記した要求を満たすために、いわゆるマグネットバイアス方式を利用した従来の他のインダクタンス部品900が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0014】
図13は、従来の他のインダクタンス部品900を説明するために示す図である。
図13(a)はインダクタンス部品900の断面図であり、
図13(b)は磁気コア910の斜視図である。
図14は、従来の他のインダクタンス部品900を説明するために示す図である。
図14(a)は導線920に直流重畳電流が流れることによって磁気コア910に発生する磁束の様子を示す図であり、
図14(b)はインダクタンス部品900のB−H曲線を模式的に示すグラフである。
【0015】
従来の他のインダクタンス部品900は、
図13に示すように、磁路の一箇所に磁気飽和防止用の空隙916を有する磁気コア本体912及び空隙916に配設され磁気コア本体912とは異なる材料からなる磁気バイアス印加用部材914を有する磁気コア910と、磁気コア910に装着された導線920とを備える。磁気バイアス印加用部材914は、硬磁性材料粉末及び絶縁物を平板状に圧縮成形することにより形成されたものである。
【0016】
従来の他のインダクタンス部品900においては、
図14(a)に示すように、磁気バイアス印加用部材914による磁界の向きD2が、導線920に直流重畳電流が流れることによって磁気コア910の磁路に発生する磁界の向きD1とは逆向きになるように(すなわち、導線920に直流重畳電流が流れることによって発生する磁界とは逆方向に磁気バイアスを印加するように)、磁気バイアス印加用部材914が配置されている。
【0017】
従来の他のインダクタンス部品900によれば、磁気バイアス印加用部材914を有する磁気コア910を備えるため、導線920に直流重畳電流が流れることによって磁気コア910の磁路に発生する磁界を、磁気バイアス印加用部材914による磁界によって打ち消すことが可能となる。従って、従来の他の磁気コア910は、
図14(b)に示すように、飽和磁束密度に達しない磁束密度の範囲△B(活用可能な磁束密度の範囲)が従来の磁気コア810よりも大きい磁気コアとなる。その結果、直流重畳電流が大きくなったときでも磁気コアが磁気飽和し難くなり、直流重畳特性が良好なインダクタンス部品となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、従来の他の磁気バイアス印加用部材914は、硬磁性材料粉末及び絶縁物より形成されたものであるため、磁気バイアス印加用部材914の比透磁率はおよそ1となり、従来の磁気コア810の空隙816間に存在する物質(空気)の比透磁率とほぼ同じになる。このため、従来の他のインダクタンス部品900の磁気特性(インダクタンス等)を、従来のインダクタンス部品800と同様の磁気特性とするためには、磁気コア本体912における空隙916のギャップ長Lを従来のインダクタンス部品800のギャップ長Lとほぼ同じ長さにする必要がある。
【0020】
しかしながら、従来の他のインダクタンス部品900においては、上記した磁気コア本体912における空隙916のギャップ長Lに対応した厚さの磁気バイアス印加用部材914を厚さばらつきの小さい状態で製造することが困難となる場合がある。例えば、平均粒径150μm程度の比較的大きな磁性材料粉末を原料として押圧成形法で厚さ300μm程度以下の比較的薄い磁気バイアス印加用部材を製造しようとした場合、厚さばらつきの小さい磁気バイアス印加用部材を製造することが困難であることから、厚さばらつきの大きい磁気バイアス印加用部材が製造されることとなる。
【0021】
その結果、そのように厚さばらつきの大きい磁気バイアス印加用部材を用いて製造されるインダクタンス部品の磁気特性のばらつきを小さくすることが困難となる。言い換えると、従来の他のインダクタンス部品900においては、磁気特性のばらつきが小さいインダクタンス部品とすることが困難であるという問題がある。
【0022】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、直流重畳特性が良好で、かつ、磁気特性のばらつきが小さいインダクタンス部品を提供することを目的とする。また、このようなインダクタンス部品に用いる磁気バイアス印加用部材を提供することを目的とする。さらに、このような磁気バイアス印加用部材を製造する磁気バイアス印加用部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
[1]本発明のインダクタンス部品は、磁路の少なくとも一箇所に磁気飽和防止用の空隙を有する磁気コア本体、及び、前記空隙に配設され前記磁気コア本体とは異なる材料からなる磁気バイアス印加用部材を有する磁気コアと、前記磁気コアに装着された導線とを備え、前記磁気バイアス印加用部材は、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末及びこれらを結合するバインダーを含有する複合磁性材料を平板状に成形することにより形成されたものであることを特徴とする。
【0024】
なお、導線は、電流を流すための導体となる線であればよく、組成、形状及び太さを問わない。よって、導線は、電流が流れるコイル形状のもののみならず、例えば、直線形状のものも含む。
【0025】
[2]本発明のインダクタンス部品においては、「磁気バイアス印加用部材から発生する磁束の磁路」を構成する磁気コア本体の実効比透磁率が10以上であることが好ましい。
【0026】
ここで、「磁気バイアス印加用部材から発生する磁束の磁路」は、磁気バイアス印加用部材から発生する磁束が磁気コア本体を貫通する磁路のことである。なお、この場合、磁気バイアス印加用部材には磁束が貫通しない。
【0027】
[3]本発明のインダクタンス部品においては、前記「磁気バイアス印加用部材から発生する磁束の磁路」を構成する磁気コア本体の実効比透磁率が、「導線に電流を流したときに前記磁気コアに発生する磁束の磁路」を構成する前記磁気コアの実効比透磁率の1.5倍以上であることが好ましい。
【0028】
ここで、「導線に電流を流したときに磁気コアに発生する磁束の磁路」は、導線を起磁力として発生する磁束が磁気コアを貫通する磁路のことであり、磁気コア本体を磁束が貫通する磁路だけでなく、磁気バイアス印加用部材を磁束が貫通する磁路も含まれる。
【0029】
[4]本発明のインダクタンス部品においては、前記複合磁性材料においては、前記硬磁性材料粉末及び前記軟磁性材料粉末を合計したものに対する前記軟磁性材料粉末の割合が5wt%〜80wt%の範囲内にあることが好ましい。
【0030】
[5]本発明のインダクタンス部品においては、横軸に直流重畳電流値をとり、縦軸にインダクタンス部品のインダクタンス値をとったグラフに、前記導線に流れる直流重畳電流を変化させながら測定した前記インダクタンス値をプロットしたとき、前記直流重畳電流と前記インダクタンス値との関係を示す曲線が、台地形状を示し、かつ、前記台地形状の台地部が右下がりになっていることが好ましい。
【0031】
ここで、上記曲線の「台地形状」とは、直流重畳電流値が負の領域及び正の領域に形成され相対的に低いインダクタンス値でインダクタンス値がほぼ一定となる第1領域と、当該第1領域に挟まれた領域に形成され相対的に高いインダクタンス値でインダクタンス値が緩やかに変動する第2領域(台地部)とから構成されている形状のことをいう(後述する
図6参照。)。また、「台地部が右下がりになっている」とは、台地部が左端から単調減少する場合のみならず、台地部の左端側にインダクタンス値のピークがあり、当該ピークから台地部の右端側に向かって単調減少する場合を含む。
【0032】
[6]本発明のインダクタンス部品においては、前記磁気バイアス印加用部材においては、横軸に外部磁場をとり、縦軸に磁化をとったグラフに、外部磁場を変化させながら測定した磁化をプロットしたとき、前記外部磁場と前記磁化との関係を示すJ−H曲線の減磁曲線が、外部磁場を0から負の方向に変化させたときに傾きが徐々に緩やかになるような曲線となることが好ましい(後述する
図9参照。)。
【0033】
[7]本発明のインダクタンス部品においては、前記複合磁性材料においては、前記軟磁性材料粉末の平均粒径が、1μm〜900μmの範囲内にあることが好ましい。
【0034】
[8]本発明のインダクタンス部品においては、前記磁気バイアス印加用部材は、外部磁場を印加していないときの前記磁気バイアス印加用部材の比透磁率が1.2〜5.0の範囲内となるように構成されていることが好ましい。
【0035】
[9]本発明のインダクタンス部品においては、前記磁気コア本体における前記空隙のギャップ長をLとし、前記硬磁性材料粉末及び前記軟磁性材料粉末のうち,大きいほうの平均粒径をDとしたとき、以下に示す式(1)を満たすことを特徴とするインダクタンス部品。
【数1】
【0036】
[10]本発明のインダクタンス部品においては、前記磁気バイアス印加用部材は、ボンド磁石からなることが好ましい。
【0037】
[11]本発明のインダクタンス部品においては、前記磁気バイアス印加用部材は、永久磁石からなることが好ましい。
【0038】
[12]本発明のインダクタンス部品においては、前記軟磁性材料粉末は、絶縁処理が施されていることが好ましい。
【0039】
[13]本発明のインダクタンス部品においては、前記磁気バイアス印加用部材は、前記複合磁性材料を押圧成形する方法、前記複合磁性材料を射出成形する方法又は前記複合磁性材料をグリーンシート法により成形する方法のいずれかの方法によって形成されたものであることが好ましい。
【0040】
[14]本発明のインダクタンス部品においては、前記磁気コア本体は、フェライトによって形成されたものであるか、又は、軟磁性材料粉末及びバインダーを含有する磁性材料を成形することにより形成されたものであることが好ましい。
【0041】
[15]本発明の磁気バイアス印加用部材は、上記[1]〜[14]のいずれかに記載のインダクタンス部品に用いる磁気バイアス印加用部材であって、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末及びこれらを結合するバインダーを含有する複合磁性材料を平板状に成形することにより形成されたものであることを特徴とする。
【0042】
[16]本発明の磁気バイアス印加用部材の製造方法は、上記[1]〜[14]のいずれかに記載のインダクタンス部品に用いる磁気バイアス印加用部材の製造方法であって、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末及びこれらを結合するバインダーを所定の割合で混錬して複合磁性材料を作製する複合磁性材料作製工程と、前記複合磁性材料を平板状に成形することにより成形体を作製する成形工程と、前記成形体に含まれるバインダーを硬化する硬化工程と、前記成形体を着磁して磁気バイアス印加用部材とする着磁工程とをこの順序で含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明のインダクタンス部品によれば、磁気バイアス印加用部材を有する磁気コアを備えるため、従来の他のインダクタンス部品900の場合と同様に、導線に直流重畳電流が流れることによって磁気コアの磁路に発生する磁界を、磁気バイアス印加用部材の磁界によって打ち消すことが可能となる。このため、飽和磁束密度に達しない磁束密度の範囲△B(活用可能な磁束密度の範囲)が従来の磁気コアよりも大きい磁気コアとなる。その結果、直流重畳電流が大きくなったときでも磁気コアが磁気飽和し難くなり、直流重畳特性が良好なインダクタンス部品となる。
【0044】
また、本発明のインダクタンス部品によれば、磁気バイアス印加用部材が比透磁率向上用の軟磁性材料粉末を含有する複合磁性材料より形成されたものであることから、磁気バイアス印加用部材の比透磁率を1より高くすることが可能となる。ここで、所定のインダクタンス値を得るためには比透磁率と磁気コア本体における空隙のギャップ長との比率が一定比となることが必要であり、比透磁率を高くできると当該ギャップ長を長くすることが可能となる。従って、当該ギャップ長に対応した厚さの磁気バイアス印加用部材を厚さばらつきの小さい状態で製造することが可能となる。その結果、厚さばらつきの小さい磁気バイアス印加用部材を用いて製造されるインダクタンス部品の磁気特性のばらつきを小さくすることが可能となる。
【0045】
また、本発明のインダクタンス部品によれば、磁気バイアス印加用部材が、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末を含有する複合磁性材料より形成されたものであることから、硬磁性材料と軟磁性材料との割合を調整して所望の磁気特性を有する磁気バイアス印加用部材を製造することが可能となる。その結果、本発明のインダクタンス部品は、所望の磁気特性を有するインダクタンス部品となる。
【0046】
また、本発明のインダクタンス部品によれば、磁気バイアス印加用部材が、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末を含有する複合磁性材料より形成されたものであるため、磁気バイアス印加用部材の比透磁率を高くすることが可能となる。このため、磁気コア全体の実効透磁率が高くなることから、所望の磁界強度とするためのコイル(導線)の巻数が少なくてすみ、その結果、コアロスの少ない高性能のインダクタンス部品とすることが可能となる。また、磁気バイアス印加用部材の比透磁率を高くすることが可能となるため、空隙中において所定の磁束密度を得るために必要な磁界強度は、従来の他のインダクタンス部品900の場合と比較して、小さくなるため、このことからもコアロスの少ない高性能のインダクタンス部品とすることが可能となる。
【0047】
本発明の磁気バイアス印加用部材によれば、磁気バイアス印加用部材が、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末及びこれらを結合するバインダーを含有する複合磁性材料を平板状に成形することにより形成されたことから、上記した効果を有する磁気バイアス印加用部材となる。その結果、上記した効果を有するインダクタンス部品を製造することが可能となる。
【0048】
本発明の磁気バイアス印加用部材の製造方法によれば、複合磁性材料作製工程において、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末及びこれらを結合するバインダーを所定の割合で混錬して複合磁性材料を作製するため、上記した効果を有する磁気バイアス印加用部材を製造することが可能となる。その結果、上記した効果を有するインダクタンス部品を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明のインダクタンス部品、磁気バイアス印加用部材及び磁気バイアス印加用部材の製造方法について、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0051】
[実施形態1]
まず、実施形態1に係るインダクタンス部品1の構成を、実施形態1に係る磁気バイアス印加用部材14の構成とともに説明する。
図1は、実施形態1に係るインダクタンス部品1を説明するために示す図である。
図1(a)はインダクタンス部品1の斜視図であり、
図1(b)は
図1(a)のA−A断面図であり、
図1(c)は磁気コア10の斜視図である。
【0052】
実施形態1に係るインダクタンス部品1は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、磁気コア10と、磁気コア10に装着された導線20とを備える。
【0053】
磁気コア10は、
図1(c)に示すように、磁路の少なくとも一箇所に磁気飽和防止用の空隙16を有する磁気コア本体12、及び、空隙16に配設され磁気コア本体12とは異なる材料からなる磁気バイアス印加用部材14を有する。
【0054】
実施形態1に係るインダクタンス部品1においては、「磁気バイアス印加用部材から発生する磁束の磁路」を構成する磁気コア本体の実効比透磁率が10以上(例えば、630)である。また、「磁気バイアス印加用部材から発生する磁束の磁路」を構成する磁気コア本体の実効比透磁率は、「導線20に電流を流したときに磁気コア10に発生する磁束の磁路」を構成する磁気コアの実効比透磁率(例えば、80)の1.5倍以上である。
【0055】
磁気コア本体12は、後述する
図2(a)に示すように、中心部に磁芯18が形成されるように組み合わされた2つのEコアから構成され、磁芯818を共通部分とした2つの磁路が形成されている。
【0056】
磁気コア本体12としては、例えば、酸化鉄を主成分とした粉末を圧縮して成形した後に、焼成したセラミック状のフェライトから形成されたものや、軟磁性材料粉末とバインダーとを成形することにより形成されたものを用いることができる。
軟磁性材料粉末としては、FeSiCr粉末、FeSi粉末、カルボニル鉄粉末、センダスト粉末、パーマロイ粉末、MnZnフェライト粉末又はアモルファス材粉末等、適宜のものを用いることができるし、これらの材料を組み合わせたものを用いることもできる。
【0057】
空隙16は、磁路の一箇所である磁芯18に形成されている。空隙16(磁気コア本体12の空隙16)のギャップ長は、磁路(導線に電流を流したときに磁気コアに発生する磁束の磁路)の実効磁路長(例えば、7.5cm)の5%以下であり、例えば、500μmである。
【0058】
空隙16は、磁気コア本体12における空隙16のギャップ長をLとし、後述する磁気バイアス印加用部材14の硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末のうち,大きいほうの平均粒径をDとしたとき、以下に示す式(1)を満たしている。
【数1】
【0059】
磁気バイアス印加用部材14は、磁気コア本体12の空隙16に配設されている。具体的には、磁気バイアス印加用部材14による磁界の向きD2を、導線20に直流重畳電流が流れることによって磁気コア10に発生する磁界の向きD1とは逆向きになるように(すなわち、導線20に直流重畳電流が流れることによって磁気コア10に発生する磁界とは逆方向に磁気バイアスを印加するように)配置されている。
【0060】
また、磁気バイアス印加用部材14は、磁気コア本体12とは異なる材料からなり、後述する複合磁性材料を平板状に成形することによって(具体的には複合磁性材料を押圧成形する方法によって)形成されたものである。磁気バイアス印加用部材14は、永久磁石、かつ、ボンド磁石である。
【0061】
磁気バイアス印加用部材14の厚さは、磁気コア本体12における空隙16のギャップ長Lに対応した厚みを有しており、実施形態1においては例えば、500μmである。
【0062】
磁気バイアス印加用部材14は、外部磁場を印加していないときの磁気バイアス印加用部材14の比透磁率が1.2〜5.0の範囲内となるように構成されている。
【0063】
磁気バイアス印加用部材14は、磁気バイアス印加用部材14の比透磁率が下記(2)の式を満たす。このような構成とすることにより、磁気バイアス印加用部材14は、逆向きのパルス電流によって減磁されてしまうことを防ぐことが可能となる。
【数2】
なお、式(2)において、μは、磁気バイアス印加用部材14の比透磁率を示し、Bsは磁気コア本体12の飽和磁束密度を示し、Jは磁気コア本体12の磁化を示し、μ
0は真空の透磁率を示し、Hcは磁気バイアス印加用部材14の保磁力を示す。
【0064】
複合磁性材料は、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末及びこれらを結合するバインダーを含有する。放熱のための添加剤としてアルミナ(Al
2O
3)粉末や窒化アルミニウム(AlN)粉末等をさらに含んでもよい。
【0065】
軟磁性材料粉末は、表面がシリカ膜で覆われた(絶縁処理が施された)軟磁性材料粉末である。軟磁性材料粉末としては、透磁率が大きい性質を有する磁性材料粉末であればよく、例えば、FeSiCr粉末、FeSi粉末、フェライト粉末、カルボニル鉄粉末、センダスト粉末、パーマロイ粉末又はアモルファス材粉末等を用いることができる。実施形態1においては、FeSiCr粉末を用いる。軟磁性材料粉末の平均粒径は、1μm〜900μmの範囲内の範囲内にあり、好ましくは1μm〜100μmの範囲内にあり、1μm〜50μmの範囲内であることが一層好ましい。
【0066】
複合磁性材料においては、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末を合計したものに対する軟磁性材料粉末の割合が5wt%〜80wt%の範囲内にあり、好ましくは、10wt%〜20wt%の範囲内にあり、例えば、20wt%である。
【0067】
硬磁性材料粉末は、表面がシリカ膜で覆われた(絶縁処理が施された)硬磁性材料粉末である。硬磁性材料粉末としては、保磁力の大きい性質を有する磁性材料粉末であればよく、例えば、サマリウムコバルト(SmCo)粉末、サマリウム鉄窒素(SmFeN)粉末、ネオジム鉄ボロン(NdFeB)粉末又はフェライト粉末等の硬磁性材料粉末を用いることができる。実施形態1においては、サマリウムコバルト(SmCo)粉末を用いる。硬磁性材料粉末の平均粒径は、1μm〜900μmの範囲内にあり、好ましくは1μm〜100μmの範囲内にあり、1μm〜50μmの範囲内であることが一層好ましい。
【0068】
複合磁性材料においては、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末を合計したものに対する硬磁性材料粉末の割合が20wt%〜95wt%の範囲内にあり、好ましくは、80wt%〜90wt%の範囲内にあり、例えば、75wt%である。
【0069】
バインダーは、ポリマーからなり、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末を結合する。バインダーとしては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂又はフェノール樹脂等、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂であれば適宜のものを用いることができる。
複合磁性材料におけるバインダーの含有量は、磁気バイアス印加用部材の製造方法等によって異なるが、複合磁性材料を押圧成形することによって磁気バイアス印加用部材14を製造する場合には、例えば1wt%〜5wt%の範囲内にあることが好ましい。
【0070】
なお、複合磁性材料を押圧成形することによって磁気バイアス印加用部材14を形成する場合において、複合磁性材料におけるバインダーの含有量が1wt%未満である場合には、バインダーの割合が小さすぎて硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末の間を接合することが難しい。また、複合磁性材料におけるバインダーの含有量が5wt%を超える場合には、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末の含有量が少なくなるため、磁気バイアス印加用部材14の比透磁率が低くなり、飽和磁束密度に達しない磁束密度の範囲△Bが他の従来の磁気コアよりも小さくなるおそれがある。
【0071】
磁気バイアス印加用部材14においては、横軸に外部磁場Hをとり、縦軸に磁化Jをとったグラフに、外部磁場Hを変化させながら測定した磁化をプロットしたとき、外部磁場Hと磁化Jとの関係を示すJ−H曲線の減磁曲線が、外部磁場Hを0から負の方向に変化させたときに傾きが徐々に緩やかになるような曲線となる(後述する
図9参照。)。つまり、磁気バイアス印加用部材14は、外部磁場Hを0から負の方向に変化させたときに比透磁率が徐々に小さくなるという性質を有する。
【0072】
次に、実施形態1に係るインダクタンス部品1の動作について説明する。
図2は、実施形態1に係るインダクタンス部品1を説明するために示す図である。
図2(a)は導線20に電流を流したときの磁気コア10に発生する磁束の様子を示す図であり、
図2(b)はインダクタンス部品1のB−H曲線を模式的に示すグラフである。なお、
図2(a)中、符号D1は導線20に直流重畳電流が流れることによって磁気コア10に発生する磁界の向きを示し、符号D2は、磁気バイアス印加用部材14による磁界の向きを示す。
【0073】
実施形態1に係るインダクタンス部品1においては、導線20に直流重畳電流を流すと、
図2(a)に示すように、磁気コア10の磁路に磁界が発生する。インダクタンス部品1においては、直流重畳電流が所定の直流重畳電流値の範囲(後述する
図6の試料1においては、約−2A〜約+14A)を外れると磁気飽和が起こり、インダクタンスが急激に減少する。
【0074】
実施形態1に係るインダクタンス部品1においては、横軸に直流重畳電流値をとり、縦軸にインダクタンス部品のインダクタンス値をとったグラフに、導線20に流れる直流重畳電流を変化させながら測定したインダクタンス値をプロットしたとき、直流重畳電流とインダクタンス値との関係を示す曲線が、台地形状を示し、かつ、台地形状の台地部が右下がりになっている。
【0075】
このことは、外部磁場を0から負の方向に変化させたときに磁気バイアス印加用部材14の比透磁率が徐々に小さくなっていくことが原因であると考えられる。
【0076】
次に、実施形態1に係るインダクタンス部品の製造方法を、「磁気コア本体の準備」、「磁気バイアス印加用部材の製造」及び「磁気バイアス印加用部材の装着」に分けて説明する。
図3は、実施形態1に係る磁気バイアス印加用部材の製造方法を説明するために示すフローチャートである。
【0077】
2−1.磁気コア本体の準備
まず、磁路の一箇所に磁気飽和防止用の空隙16を有する磁気コア本体12を準備する。磁気コア本体12においては、空隙のない磁気コア本体を形成した後に空隙16を形成しても良いし、あらかじめ空隙16を考慮したEコアを成形し、当該Eコアを組み合わせることで空隙16も形成されるようにしてもよい。
【0078】
2−2.磁気バイアス印加用部材の製造
磁気バイアス印加用部材の製造方法は、
図3に示すように、「複合磁性材料作製工程」と、「成形工程」と、「硬化工程」と、「着磁工程」とをこの順序で含む。
【0079】
(1)複合磁性材料作製工程
まず、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末及びこれらを結合するバインダーを所定の割合で混錬して複合磁性材料を作製する。次に、バインダー中の溶媒成分を揮発させるために複合磁性材料を乾燥させる。次に、複合磁性材料をふるいにかけ、成形に適した粒度(数十μm〜数百μmの範囲内)の複合磁性材料のみを回収する。
【0080】
(2)成形工程
次に、複合磁性材料を平板状に成形することにより成形体を作製する。具体的には、複合磁性材料を成形空間に堆積させて押圧成形することにより成形体を作製する。押圧成形における押圧圧力は、例えば3ton/cm
2〜10ton/cm
2の範囲内とする。押圧成形の際の温度は、常温とする。
【0081】
(3)硬化工程
次に、成形体を加熱してバインダーを硬化させる。成形体を加熱する温度及び時間は、バインダーの種類にもよるが、例えば、150℃で1時間とする。
【0082】
(4)着磁工程
次に、バインダーを硬化させた成形体を着磁して磁気バイアス印加用部材14とする。具体的には、パルス着磁装置を用いて成形体を着磁する。
このようにして磁気バイアス印加用部材14を製造することができる。
【0083】
2−3.磁気バイアス印加用部材の装着
次に、磁気バイアス印加用部材14を磁気コア本体12における空隙16に配設することで磁気コア10を作製する。次に、磁気コア10に導線20を装着する。
このことにより、実施形態1に係るインダクタンス部品1を製造することができる。
なお、Eコアを組み立てる際に、磁気バイアス印加用部材14を挟んだ状態でEコアを組み立てることで実施形態1に係るインダクタンス部品1を製造することとしてもよい。
【0084】
次に、実施形態1に係るインダクタンス部品1、実施形態1に係る磁気バイアス印加用部材14及び実施形態1に係る磁気バイアス印加用部材の製造方法の効果を説明する。
【0085】
実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、磁気バイアス印加用部材14を有する磁気コア10を備えるため、従来の他のインダクタンス部品900の場合と同様に、導線20に直流重畳電流が流れることによって磁気コア10の磁路に発生する磁界を、磁気バイアス印加用部材14の磁界によって打ち消すことが可能となる。このため、飽和磁束密度に達しない磁束密度の範囲△B(活用可能な磁束密度の範囲)が従来の磁気コアよりも大きい磁気コアとなる。その結果、直流重畳電流が大きくなったときでも磁気コア10が磁気飽和し難くなり、直流重畳特性が良好なインダクタンス部品となる。
【0086】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、磁気バイアス印加用部材14が比透磁率向上用の軟磁性材料粉末を含有する複合磁性材料より形成されたものであることから、磁気バイアス印加用部材14の比透磁率を1より高くすることが可能となる。ここで、所定のインダクタンス値を得るためには比透磁率と磁気コア本体12における空隙16のギャップ長Lとの比率が一定比となることが必要であり、比透磁率を高くできると当該ギャップ長Lを長くすることが可能となる。従って、当該ギャップ長Lに対応した厚さの磁気バイアス印加用部材14を厚さばらつきの小さい状態で製造することが可能となる。その結果、厚さばらつきの小さい磁気バイアス印加用部材を用いて製造されるインダクタンス部品の磁気特性のばらつきを小さくすることが可能となる。
【0087】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、磁気バイアス印加用部材14が、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末を含有する複合磁性材料より形成されたものであることから、硬磁性材料と軟磁性材料との割合を調整して所望の磁気特性を有する磁気バイアス印加用部材を製造することが可能となる。その結果、インダクタンス部品1は、所望の磁気特性を有するインダクタンス部品となる。
【0088】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、磁気バイアス印加用部材14が、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末を含有する複合磁性材料より形成されたものであるため、磁気バイアス印加用部材14の比透磁率を高くすることが可能となる。このため、磁気コア10全体の実効透磁率が高くなることから、所望の磁界強度とするための導線20(コイル)の巻数が少なくてすみ、その結果、コアロスの少ない高性能のインダクタンス部品とすることが可能となる。また、磁気バイアス印加用部材14の比透磁率を高くすることが可能となるため、空隙16中において所定の磁束密度を得るために必要な磁界強度が、従来の他のインダクタンス部品900の場合と比較して、小さくなるため、このことからもコアロスの少ない高性能のインダクタンス部品とすることが可能となる。
【0089】
実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、「磁気バイアス印加用部材から発生する磁束の磁路」を構成する磁気コア本体の実効比透磁率が10以上であるため、所望の直流重畳特性を有するインダクタンス部品となる。なお、「磁気バイアス印加用部材14から発生する磁束の磁路」を構成する磁気コア本体の実効比透磁率が10未満である場合には、反磁界が強くなることに起因して磁気バイアス印加用部材による磁気バイアスの効果が弱くなり、所望の直流重畳特性を有するインダクタンス部品とすることが困難となる。この観点からすると、「磁気バイアス印加用部材14から発生する磁束の磁路」の実効比透磁率が100以上であることが好ましく、500以上であることが一層好ましい。
【0090】
実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、「磁気バイアス印加用部材14から発生する磁束の磁路」を構成する磁気コア本体12の実効比透磁率が、「導線20に電流を流したときに磁気コア10に発生する磁束の磁路」を構成する磁気コア10の実効比透磁率の1.5倍以上であるため、直流重畳特性がより一層良好なインダクタンス部品となる。なお、「磁気バイアス印加用部材14から発生する磁束の磁路」を構成する磁気コア本体12の実効比透磁率が、導線20に電流を流したときに磁気コア10に発生する磁束の磁路を構成する磁気コア10の実効比透磁率の1.5倍未満である場合には、反磁界が強くなることに起因して磁気バイアス印加用部材による磁気バイアスの効果が弱くなり、直流重畳特性が良好なインダクタンス部品とすることが困難となる。この観点からすると、「磁気バイアス印加用部材14から発生する磁束の磁路」の実効比透磁率が導線20に電流を流したときに磁気コア10に発生する磁束の磁路を構成する磁気コア10の実効比透磁率の2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることが一層好ましい。
【0091】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、複合磁性材料においては、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末を合計したものに対する軟磁性材料粉末の割合が5wt%〜80wt%の範囲内にあるため、上記した効果を有するインダクタンス部品となり、かつ、十分な磁界強度を得た磁気バイアス印加用部材14を有する磁気コアとなる。
【0092】
なお、複合磁性材料において、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末を合計したものに対する軟磁性材料粉末の割合が「5wt%〜80wt%の範囲内」としたのは、軟磁性材料粉末の割合が5wt%未満の場合には、軟磁性材料粉末が少なすぎて、上記した効果を得ることができないからであり、軟磁性材料粉末の割合が80wt%を超える場合には、硬磁性材料粉末の割合が少なすぎて、磁気バイアス印加用部材14が十分な磁界強度を得ることができないからである。
【0093】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、横軸に直流重畳電流値をとり、縦軸にインダクタンス部品のインダクタンス値をとったグラフに、導線20に流れる直流重畳電流を変化させながら測定したインダクタンス値をプロットしたとき、直流重畳電流とインダクタンス値との関係を示す曲線が、台地形状を示し、かつ、台地形状の台地部が右下がりになっていることから、軽負荷時には、インダクタンス値が大きいことに起因して導線20のリップル電流が小さくなり、電源効率が向上する。また、重負荷時には、軽負荷時の場合と比較してインダクタンス値が小さくなっているため、導線を流れる電流が急激に変化した場合等の応答性が向上する。その結果、軽負荷時には、電源効率を向上させることが可能で、重負荷時には、導線を流れる電流が急激に変化した場合等の応答性を向上させることが可能なインダクタンス部品となる。
【0094】
ここで、「軽負荷時」とは直流重畳電流値が0に近く(−3〜3A程度)なる程度の比較的軽い負荷が掛けられている時のことをいい、「重負荷時」とは、軽負荷時と比較して、直流重畳電流値が大きくなるような負荷が掛けられている時をいい、具体的には、直流重畳電流とインダクタンス値との関係を示す曲線の台地部のうち、直流重畳電流値が0A以上の範囲において台地部の右端側1/3程度の範囲となる程度の負荷が掛けられている時のことをいう。
【0095】
なお、重負荷時においては、インダクタンス値が小さくなることに起因して導線20のリップル電流が大きくなるため、電源効率が低下するようにも思える。しかしながら、重負荷時においては、リップル電流と比較して直流重畳電流が極めて大きいため、リップル電流が大きくなることが電源効率に与える影響は小さい。
【0096】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、磁気バイアス印加用部材14においては、外部磁場Hと磁化Jとの関係を示すJ−H曲線の減磁曲線が、外部磁場が0から負の方向に変化させたときに傾きが徐々に緩やかになるような曲線からなる(後述する
図9及び10参照。)ため、外部磁場が0に近いとき(すなわち、インダクタンス部品における直流重畳電流が0に近いとき)に比透磁率が大きく、外部磁場が負の方向に大きくなる(すなわち、インダクタンス部品における直流重畳電流が正の方向に大きくなる)のに従って徐々に減少する。このため、外部磁場が0に近いときにおいてはインダクタンス値が大きく、徐々にインダクタンス値が小さくなるインダクタンス部品となる。その結果、軽負荷時には、電源効率を向上させることが可能で、重負荷時には、導線を流れる電流が急激に変化した場合等の応答性を向上させることが可能なインダクタンス部品となる。
【0097】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、複合磁性材料においては、軟磁性材料粉末の平均粒径が、1μm〜900μmの範囲内にあるため、磁化の減少を防ぐことが可能で、かつ、磁気バイアス印加用部材14を厚さばらつきの小さい状態で製造することが可能となる。
【0098】
なお、複合磁性材料において、軟磁性材料粉末の平均粒径が1μm〜900μmの範囲内の範囲内としたのは、平均粒径が1μm未満の場合には、軟磁性材料粉末とバインダーとを混練するときに、軟磁性材料粉末が酸化して磁化の減少が顕著になるためであり、平均粒径が900μmを超える場合には、磁気コア本体12における空隙16のギャップ長Lに対する粒径が大きすぎて磁気バイアス印加用部材14を厚さばらつきの小さい状態で製造することが困難となるからである。
【0099】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、外部磁場を印加していないときの磁気バイアス印加用部材14の比透磁率が1.2〜5.0の範囲内となるため、磁気バイアス印加用部材14を厚さばらつきの小さい状態で製造することが可能となり、かつ、磁気バイアス印加用部材14が十分な磁界強度を得ることが可能なインダクタンス部品となる。
【0100】
なお、複合磁性材料において、外部磁場を印加していないときの磁気バイアス印加用部材14の比透磁率を1.2〜5.0の範囲内としたのは、磁気バイアス印加用部材14の比透磁率が1.2未満の場合には、従来の他のインダクタンス部品900の場合と同様に、磁気コア本体12における空隙16のギャップ長Lに対応した厚さの磁気バイアス印加用部材14を厚さばらつきの小さい状態で製造することが困難となるためであり、磁気バイアス印加用部材14の比透磁率が5.0を超える場合には、インダクタンス部品のインダクタンス値が小さくなりすぎるため、電源効率が低下してしまうためである。この観点からすると、磁気バイアス印加用部材14の比透磁率が1.2〜3.0の範囲内であることが好ましく、1.4〜2.0の範囲内であることが一層好ましい。
【0101】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、磁気コア本体12における空隙16のギャップ長をLとし、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末のうち,大きいほうの平均粒径をDとしたとき、以下に示す式(1)を満たすことから、当該ギャップ長Lに対応した厚さの磁気バイアス印加用部材を厚さばらつきの小さい状態で製造することが可能となる。その結果、製造されるインダクタンス部品の磁気特性のばらつきを小さくすることが可能となる。
【数1】
【0102】
なお、磁気コア本体12における空隙16のギャップ長Lを式(1)の右辺の値以上としたのは以下の理由による。すなわち、粒子を最密六方構造で3列以上配列させて構造物を構成した場合には当該構造物の厚さばらつきを比較的小さくできることから、平均粒径Dの粒子を最密六方構造で3列以上配列させて磁気バイアス印加用部材を構成した場合(このとき磁気バイアス印加用部材は式(1)の右辺の値以上になる)にも磁気バイアス印加用部材の厚さばらつきを比較的小さくできる。従って、磁気バイアス印加用部材が式(1)の右辺の値以上となるためには、当該ギャップ長Lを式(1)の右辺の値以上とすればよいからである。
【0103】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、磁気バイアス印加用部材が、ボンド磁石からなるため、磁気バイアス印加用部材14が柔軟性を有することとなる。その結果、空隙16に磁気バイアス印加用部材14を配設する際に、磁気コア本体12の端部や磁気バイアス印加用部材14の端部が欠けてしまうことを防ぐことが可能となる。
【0104】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、磁気バイアス印加用部材14が永久磁石であるため、比較的長期間にわたって磁界を保持し続けることが可能な磁気バイアス印加用部材14となる。このため、寿命の長いインダクタンス部品を製造することが可能となる。
【0105】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、軟磁性材料粉末が、絶縁処理が施されているため、渦電流が発生しにくく渦電流損が少ない磁気バイアス印加用部材14となる。その結果、コアロスが少ないインダクタンス部品となる。
【0106】
また、実施形態1に係るインダクタンス部品1によれば、磁気バイアス印加用部材14が、複合磁性材料を押圧成形することにより形成されたものであるため、複合磁性材料に含まれる材料の種類によらないで容易に磁気バイアス印加用部材14を形成することが可能となる。
【0107】
また、実施形態1に係る磁気バイアス印加用部材14によれば、磁気バイアス印加用部材14が、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末及びこれらを結合するバインダーを含有する複合磁性材料を平板状に成形することにより形成されたものであることから、直流重畳特性が良好なインダクタンス部品を製造することが可能で、かつ、磁気コア本体12における空隙16のギャップ長に対応した厚さの磁気バイアス印加用部材を厚さばらつきの小さい状態で製造することが可能で、かつ、所望の磁気特性を有する磁気バイアス印加用部材を製造することが可能で、かつ、コアロスの少ない高性能のインダクタンス部品とすることが可能な磁気バイアス印加用部材となる。
【0108】
実施形態1に係る磁気バイアス印加用部材の製造方法によれば、複合磁性材料作製工程S10において、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末、比透磁率向上用の軟磁性材料粉末及びこれらを結合するバインダーを所定の割合で混錬して複合磁性材料を作製するため、上記した効果を有する磁気バイアス印加用部材14を製造することが可能となる。
【0109】
[実施形態2]
図4は、実施形態2に係るインダクタンス部品2を説明するために示す図である。
図4(a)はインダクタンス部品2の斜視図であり、
図4(b)は磁気コア10aの斜視図である。
【0110】
実施形態2に係るインダクタンス部品2は、磁気コアが、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末を含有する複合磁性材料より形成された磁気バイアス印加用部材を有する点で実施形態1に係るインダクタンス部品1と同様の構成を有するが、磁気コア本体の構成が実施形態1に係るインダクタンス部品1の場合とは異なる。すなわち、実施形態2に係るインダクタンス部品2において、磁気コア本体12aは、
図4に示すように、リングコアである。
【0111】
実施形態2に係るインダクタンス部品2においては、導線20aに直流重畳電流が流れると、磁気コア10aを1周するように磁界が発生する。すなわち、磁気コア10aには、1つの閉じた磁路を有する。
【0112】
実施形態2に係るインダクタンス部品2において、導線20aは、
図4(a)に示すように、磁気コア10aを中心にらせん状に巻回されることで磁気コア10aに装着されている。
【0113】
このように、実施形態2に係るインダクタンス部品2は、磁気コア本体の構成が実施形態1に係るインダクタンス部品1の場合とは異なるが、実施形態1に係るインダクタンス部品1の場合と同様に、磁気バイアス印加用部材14が、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末及び比透磁率向上用の軟磁性材料粉末を含有する複合磁性材料より形成されたものであることから、直流重畳特性が良好で、かつ、磁気特性のばらつきが小さいインダクタンス部品となる。
【0114】
なお、実施形態2に係るインダクタンス部品2は、磁気コア本体の構成以外の点においては実施形態1に係るインダクタンス部品1と同様の構成を有するため、実施形態1に係るインダクタンス部品1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0115】
[実施形態3]
図5は、実施形態3に係るインダクタンス部品3を説明するために示す図である。
図5(a)はインダクタンス部品3の斜視図であり、
図5(b)は磁気コア10bの斜視図である。
【0116】
実施形態3に係るインダクタンス部品3は、磁気コアが、硬磁性材料粉末及び軟磁性材料粉末を含有する複合磁性材料より形成された磁気バイアス印加用部材を有する点で実施形態2に係るインダクタンス部品2と同様の構成を有するが、磁気コア本体の構成及び導線の構成が実施形態2に係るインダクタンス部品2の場合とは異なる。すなわち、実施形態3に係るインダクタンス部品3において、磁気コア10bは、
図5に示すように、リング形状となるように組み合わされた2つのUコアから構成されており、導線20bは、細長い平板形状の銅線からなり、磁気コア10bの中心をまっすぐに貫くように磁気コア10bに装着されている。
【0117】
磁気コア本体12bにおいて、2つの空隙16bは2つのUコアの接合部分に相当する位置に設けられており、磁気バイアス印加用部材14bも、2つのUコアに挟まれるような位置に1つずつ配設されている。
【0118】
このように、実施形態3に係るインダクタンス部品3は、磁気コア本体の構成及び導線の構成が実施形態2に係るインダクタンス部品2の場合とは異なるが、実施形態2に係るインダクタンス部品2の場合と同様に、磁気バイアス印加用部材14が、磁気バイアス印加用の硬磁性材料粉末及び比透磁率向上用の軟磁性材料粉末を含有する複合磁性材料より形成されたものであることから、直流重畳特性が良好で、かつ、磁気特性のばらつきが小さいインダクタンス部品となる。
【0119】
なお、実施形態3に係るインダクタンス部品3は、磁気コア本体の構成及び導線の構成以外の点においては実施形態2に係るインダクタンス部品2と同様の構成を有するため、実施形態2に係るインダクタンス部品2が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0120】
[試験例1]
試験例1は、本発明のインダクタンス部品が、「直流重畳特性が良好なインダクタンス部品であること」及び「直流重畳電流とインダクタンス値との関係を示す曲線が、台地形状を示し、かつ、台地形状の台地部が右下がりになっていること」を示す試験例である。
【0121】
1.試料の調製
(1)試料1(実施例)
2箇所に空隙を有する点以外の構成が実施形態2に係るインダクタンス部品2と同じインダクタンス部品を作製して試料1とした。但し、試料1においては、リングコアの外径を31mmとし、リングコアの内径を19mmとし、リングコアの高さを8mmとし、リングコアの平均実効磁路長を78.5mmとし、実効断面積を48mm
2とし、実効体積は3769.9mm
3とした。また、リングコアにおける対称となる位置に2か所の空隙を設け、当該空隙のギャップ長Lをそれぞれ0.5mmとした。さらにまた、試料1の磁気バイアス印加用部材においては、複合磁性材料全体を100wt%として、硬磁性材料粉末としてのSmCoが80wt%、軟磁性材料粉末としてのFeSiCrが17wt%及びバインダーが3wt%の複合磁性材料を用いた。
【0122】
(2)試料2(比較例)
リングコアにおける空隙のギャップ長Lを0.3mmとした点及び空隙には磁気バイアス印加用部材を配設しない点以外の構成は試料1に係るインダクタンス部品と同じインダクタンス部品を作製し、試料2とした。
【0123】
(3)試料3(比較例)
リングコアにおける空隙のギャップ長Lを0.3mmとした点及び空隙には磁気バイアス印加用部材として、硬磁性材料粉末及びバインダーを含有する複合磁性材料を圧縮成形することにより形成された磁気バイアス印加用部材を配設する点以外の構成は試料1に係るインダクタンス部品と同じインダクタンス部品を作製して試料3とした。なお、試料3の磁気バイアス印加用部材においては、複合磁性材料全体を100wt%としたとき、硬磁性材料粉末としてのSmCoを97wt%とし、バインダーを3wt%とした複合磁性材料を用いた。
【0124】
2.評価方法
横軸に直流重畳電流値をとり、縦軸にインダクタンス部品のインダクタンス値をとったグラフに、各試料の導線に流れる直流重畳電流を変化させながら測定したインダクタンス値をプロットすることによって得られた曲線形状及びインダクタンス値から直流重畳特性を評価した。
【0125】
3.評価結果
図6は、試料1〜3の直流重畳特性を示すグラフである。
(1)
図6の説明
試料1においては、直流重畳電流値が約−6Aまでは約5μH以下のインダクタンス値でほぼ一定であり、直流重畳電流が約−6A〜−2Aの間でインダクタンス値が約5μH以下から約42μHまで急激に増加し、直流重畳電流が約−2A〜+1Aの間でインダクタンス値が約42μHから約46μHまで緩やかに増加し、直流重畳電流が約+1A〜+14Aまでの間でインダクタンス値が約46μHから約38μHまで緩やかに減少し、直流重畳電流が約+14A〜+18Aの間でインダクタンス値が約38μHから約8μHまで急激に減少し、直流重畳電流が約+18A以上で約8μH以下のインダクタンス値でほぼ一定となった。インダクタンス値のピークは、直流重畳電流が約+1Aのときに約46μHであった。
【0126】
試料2においては、図示は省略するが直流重畳電流値が約−12.5Aまでは5μH以下のインダクタンス値でほぼ一定であり、直流重畳電流が約−12.5A〜−8Aまでの間でインダクタンス値が約5μH以下から約42μHまで急激に増加し、直流重畳電流が約−8A〜0Aまでの間でインダクタンス値が約43μHから約46μHまでわずかに増加し、直流重畳電流が約0A〜+8Aの間でインダクタンス値が約46μHから約42μHまでわずかに減少し、直流重畳電流が約+8A〜+14Aの間でインダクタンス値が約42μHから約8μHまで急激に減少し、直流重畳電流が約+14A以上では約5μH以下のインダクタンス値でほぼ一定となった。インダクタンス値のピークは、直流重畳電流が約0Aのときに約46μHであった。
【0127】
試料3においては、直流重畳電流値が約−6Aまでは約5μH以下のインダクタンス値でほぼ一定であり、直流重畳電流が約−6A〜0Aの間でインダクタンス値が約5μHから約42μHまで急激に増加し、直流重畳電流が約0A〜+7Aの間でインダクタンス値が約42μHから約46μHまでわずかに増加し、直流重畳電流が約7A〜+16Aの間でインダクタンス値が約46μHから約38μHまでわずかに減少し、直流重畳電流が約+16A〜+18Aの間でインダクタンス値が約38μHから約8μHまで急激に減少し、直流重畳電流が約+18A以上では5μH以下のインダクタンス値でほぼ一定となった。インダクタンス値のピークは、直流重畳電流が約+7Aのときに約46μHであった。
【0128】
(2)直流重畳特性について
試料2においては、上記したように、直流重畳電流が約+8A〜+14Aの間でインダクタンス値が約38μHから5μH以下まで急激に減少したため、試料2における磁気バイアス印加用部材は、直流重畳電流が約+8A〜+14Aの間で磁気飽和したと考えられる。これに対して、試料1(及び3)においては、上記したように、直流重畳電流が約+15A〜+18Aまでの間(試料3においては、約+16A〜+18Aの間)でインダクタンス値が38μHから急激に8μHまで減少したため、試料1(及び3)における磁気バイアス印加用部材は、直流重畳電流が約+15A〜+18Aの間(試料3においては、約+17A〜+18Aの間)で磁気飽和したと考えられる。従って、試料1(及び3)は、磁気飽和するときの直流重畳電流が、約+15A〜+18Aまでの間(試料3においては、約+16A〜+18Aの間)であり、試料2の場合(約+8Aから+14Aまでの間)と比較して大きいことが確認できた。
【0129】
このことから、試料1(及び3)は、試料2よりも直流重畳特性が良好なインダクタンス部品であることが確認できた。
【0130】
(3)直流重畳電流とインダクタンス値との関係を示す曲線について
上記「(1)
図6の説明」からもわかるように、試料1〜3においては、いずれも直流重畳電流とインダクタンス値との関係を示す曲線が台地形状を示している。
また、試料3においては、上記したように、インダクタンス値がピークになった後、直流重畳電流が約7A〜+14Aの間で(すなわち7A増加する間に)インダクタンス値が約46μHから約42μHまで約4μH穏やかに減少した。これに対して、試料1においては、インダクタンス値がピークになった後、直流重畳電流が約1A〜+14Aの間で(すなわち13A増加する間に)インダクタンス値が約46μHから約38μHまで穏やかに減少した。
【0131】
このことから、試料1においては、直流重畳電流とインダクタンス値との関係を示す曲線が、台地形状を示し、かつ、台地形状の台地部が右下がりになっていることが確認できた。
【0132】
従って、試料1は、軽負荷時には、試料3と比較してインダクタンス値が大きくなるため試料3よりも電源効率を向上させることが可能で、重負荷時には、試料3と比較してインダクタンス値が小さくなるため試料3よりも導線を流れる電流が急激に変化した場合等の応答性を向上させることが可能なインダクタンス部品であることがわかった。
【0133】
なお、試料3においては、磁気バイアス印加用部材を製造する際、圧縮成形法のみでは0.3mmの厚さの磁気バイアス印加用部材を製造することができなかった。このため、磁気バイアス印加用部材をいったん厚く(例えば1mm程度に)作製しておき、厚く作製された磁気バイアス印加用部材を所定の厚さまで研削して薄くすることで試料3に係る磁気バイアス印加用部材を製造した。しかし、試料3に係る磁気バイアス印加用部材を0.3mmの厚さまで研削して薄くすることは容易ではなく、割れなどにより不良品が発生したり試料3に係る磁気バイアス印加用部材の厚さの誤差が大きくなったりするため、実用できるものはごく僅かであった。
【0134】
[試験例2]
試験例2は、「本発明のインダクタンス部品は、従来のインダクタンス部品よりもインダクタンス値が大きくなること」、「本発明のインダクタンス部品は、軽負荷時に最もインダクタンス値が大きくなること」、及び、「本発明のインダクタンス部品は、直流重畳特性の曲線における台地部が右下がりとなり、磁気バイアス印加用部材を強く磁化するに従って、台地部の傾斜がより穏やかになること」を示す試験例である。
【0136】
(1)試料4(比較例)及び試料5〜9(実施例)
複合磁性材料全体を100wt%としたとき、硬磁性材料粉末としてのSmCoを77wt%とし、軟磁性材料粉末としてのFeSiCrを20wt%とし、バインダーが3wt%とした複合磁性材料を用いた磁気バイアス印加用部材を用いる点及び導線(コイル)の巻き数を10とした点以外の構成が実施形態2に係るインダクタンス部品2と同じインダクタンス部品を6つ作製し、試料4〜9とした。但し、試料4〜9は、磁気バイアス印加用部材を飽和磁化させるように着磁したときの残留磁化を100%としたとき、残留磁化がそれぞれ0%、20%、40%、60%、80%及び100%となるように着磁した磁気バイアス印加用部材を用いたものである。
【0137】
(2)試料10〜15(比較例)
複合磁性材料全体を100wt%としたとき、硬磁性材料粉末としてのSmCoを97wt%とし、バインダーを3wt%とした磁性材料を用いた点以外の構成が試料4と同じインダクタンス部品を6つ作製し、試料10〜15とした。但し、試料10〜15は、磁気バイアス印加用部材を飽和磁化させるように着磁したときの残留磁化を100%としたとき、残留磁化がそれぞれ0%、20%、40%、60%、80%及び100%となるように着磁した磁気バイアス印加用部材を用いたものである。
【0138】
2.評価方法
横軸に直流重畳電流値をとり、縦軸にインダクタンス値をとったグラフに、試料の導線に流れる直流重畳電流を変化させながら測定したインダクタンス値をプロットし、得られた曲線の形状及びインダクタンス値から直流重畳特性を評価した。
【0139】
3.評価結果
(1)「本発明のインダクタンス部品は、従来のインダクタンス部品よりもインダクタンス値が大きくなること」について
図7は、試料4〜9の直流重畳特性を示すグラフである。
図8は、試料10〜15の直流重畳特性を示すグラフである。
【0140】
図8からも分かるように、試料10〜15(従来の他のインダクタンス部品900に相当。)におけるインダクタンス値のピーク値はいずれも17μHあたりとなっている。これに対して、
図7からもわかるように、試料5〜9(本発明のインダクタンス部品に相当)におけるインダクタンス値のピーク値は、20.5〜22.5μHであり、いずれも従来のインダクタンス部品よりも大きいことが確認できた。
【0141】
従って、本発明のインダクタンス部品は、従来のインダクタンス部品よりもインダクタンス値が大きくなることが確認できた。このことは、本発明のインダクタンス部品が、電源効率が高いインダクタンス部品であることを意味している。
【0142】
(2)「本発明のインダクタンス部品は、軽負荷時に最もインダクタンス値が大きくなること」について
【0143】
図8からも分かるように、試料15の直流重畳特性を示す曲線は、試料10の直流重畳特性を示す曲線を直流重畳電流値が正の方向に8Aシフトした状態となっている。例えば、試料15におけるインダクタンス値がピークをとるときの直流重畳電流値は8Aであり、試料10におけるインダクタンス値がピークをとるときの直流重畳電流値(0A)から8Aシフトしている。このため、試料15におけるインダクタンス値のピークは、軽負荷時に相当する直流重畳電流値の範囲から外れていることが分かった。
これに対して、
図7からもわかるように、試料5〜9(本発明のインダクタンス部品に相当。)におけるインダクタンス値がピークをとるときの直流重畳電流値は0A〜1Aであり、試料5〜9におけるインダクタンス値のピークは軽負荷時に相当する直流重畳電流値の範囲であることがわかった。
【0144】
従って、本発明のインダクタンス部品においては、軽負荷時に最もインダクタンス値が大きくなることが確認できた。このことは、本発明のインダクタンス部品が、軽負荷時には、電源効率をより一層向上させることが可能なインダクタンス部品であることを意味している。
【0145】
(3)「本発明のインダクタンス部品は、直流重畳特性の曲線における台地部が右下がりとなり、磁気バイアス印加用部材を強く磁化するに従って、台地部の傾斜がより穏やかになること」について
【0146】
図7からも分かるように、試料5〜9の直流重畳特性の曲線においては、直流重畳特性の曲線における台地部が右下がりとなることが確認できた。
【0147】
また、
図7からも分かるように、試料4(比較例)の直流重畳特性を示す曲線は、直流重畳電流値が0Aのときにインダクタンス値がピーク(23.5μH)をとり、直流重畳電流値が6Aのときに直流重畳特性を示す曲線の台地部の右端(インダクタンス値は20.5μH)となる。従って、インダクタンス値のピークから台地部の右端までの間における、直流重畳電流に対するインダクタンス値の変化の割合は約−0.5(3μH/6A)である。
これに対して、試料5〜9(実施例、本発明のインダクタンス部品に相当。)の直流重畳特性の曲線においては、インダクタンス値のピークから台地部の右端までの間における、直流重畳電流に対するインダクタンス値の変化の割合は、それぞれ、−0.43(3.5μH/8A)、−0.38(3μH/8A)、−0.25(2μH/8A)、−0.20(2μH/10A)、−0.15(1μH/10A)となり、当該変化の割合の絶対値が徐々に小さくなっていることがわかった。このことから、磁気バイアス印加用部材を強く磁化するに従って、台地部の傾斜がより穏やかになることがわかった。
【0148】
従って、「本発明のインダクタンス部品は、直流重畳特性の曲線における台地部が右下がりとなり、磁気バイアス印加用部材を強く磁化するに従って、台地部の傾斜がより穏やかになること」ことが確認できた。このことは、本発明のインダクタンス部品が、軽負荷時には、電源効率を向上させることが可能で、重負荷時には、導線を流れる電流が急激に変化した場合等の応答性を向上させることが可能なインダクタンス部品となるのに加えて、インダクタンスの急激な変化が少ない安定したインダクタンス部品であることを意味している。
【0149】
[試験例3]
試験例3は、本発明の磁気バイアス印加用部材においては、「J−H曲線の減磁曲線が、外部磁場Hを0から負の方向に変化させたときに傾きが徐々に緩やかになるような曲線からなること」を示す試験例である。
【0150】
1.試料の調製
(1)試料16(実施例)
実施形態1に係る磁気バイアス印加用部材14と同じ磁気バイアス印加用部材を作製した後、100%磁化して試料16とした。但し、実効断面積を48mm
2とし、厚さを0.5mmとした。また、複合磁性材料全体を100wt%として、硬磁性材料粉末としてのSmCoが80wt%、軟磁性材料粉末としてのFeSiCrが17wt%及びバインダーが3wt%の複合磁性材料を用いた。
(2)試料17(比較例)
複合磁性材料全体を100wt%として、硬磁性材料粉末としてのSmCoが97wt%及びバインダーが3wt%の複合磁性材料を用いた点以外の構成は試料16で用いた磁気バイアス印加用部材と同じ磁気バイアス印加用部材を作製し、試料17とした。
【0151】
2.評価方法
横軸に外部磁場Hをとり、縦軸に磁化Jをとったグラフに、各試料に対して外部磁場Hを変化させながら測定した磁化をプロットすることによって得られた曲線形状から磁気バイアス印加用部材の磁気特性を評価した。
【0152】
3.評価結果
図9は、試料16及び試料17のJ−H曲線を示すグラフである。
図9からも分かるように、試料17においては、外部磁場が0(kA/m)から負の方向に変化させたときにJ−H曲線の傾きが徐々に大きくなった。これに対して、試料16においては、外部磁場が0(kA/m)から負の方向に変化させたときにJ−H曲線の傾きが徐々に小さくなった。
【0153】
このことから、試料16については、J−H曲線の減磁曲線が、外部磁場Hを0から負の方向に変化させたときに傾きが徐々に緩やかになるような曲線からなることが確認できた。
【0154】
従って、試料16は、外部磁場が0(kA/m)に近いときに比透磁率が大きく、外部磁場が負の方向に大きくなるのに従って比透磁率が徐々に減少することがわかった。このため、試料16は、外部磁場が0(kA/m)に近いときにインダクタンス値が大きく、外部磁場が負の方向に大きくなるのに従ってインダクタンス値が徐々に減少することがわかった。
【0155】
[試験例4]
試験例4は、複合磁性材料粉末における軟磁性材料粉末の含有率を変化させても、本発明の磁気バイアス印加用部材においては、「J−H曲線の減磁曲線が、外部磁場Hを0から負の方向に変化させたときに傾きが徐々に緩やかになるような曲線からなること」を示す試験例である。
【0156】
1.試料の調製
(1)試料18〜22(実施例)
実施形態1に係る磁気バイアス印加用部材14と同じ磁気バイアス印加用部材を作製した後、100%磁化して試料18〜22を作製した。ここで、複合磁性材料全体を100wt%として、硬磁性材料粉末としてのSmCoが87wt%、77wt%、67wt%、57wt%、47wt%、軟磁性材料粉末としてのFeSiCrが10wt%、20wt%、30wt%、40wt%、50wt%及びバインダーがそれぞれ3wt%の複合磁性材料を用いたものをそれぞれ、試料18、試料19、試料20、試料21及び試料22とした。但し、実効断面積を48mm
2とし、厚さを0.5mmとした。
(2)試料23(比較例)
複合磁性材料全体を100wt%として、硬磁性材料粉末としてのSmCoが97wt%及びバインダーがそれぞれ3wt%の複合磁性材料を用いた点以外の構成は実施形態1に係る磁気バイアス印加用部材14と同じ磁気バイアス印加用部材を作製し、試料23とした。
【0157】
2.評価方法
横軸に外部磁場Hをとり、縦軸に磁化Jをとったグラフ(但し、第2象限のみ)に、各試料に対して外部磁場Hを変化させながら測定した磁化をプロットすることによって得られた曲線形状から磁気バイアス印加用部材の磁気特性を評価した。
【0158】
3.評価結果
図10は、試料18〜23のJ−H曲線の減磁曲線を示すグラフである。
図10からも分かるように、試料23においては、外部磁場が0(kA/m)から負の方向に変化させたときに傾きが徐々に大きくなった。これに対して、試料18においては、外部磁場が0(kA/m)から負の方向に変化させたときに傾きが徐々に小さくなり、−520(kA/m)あたりから再び傾きが徐々に大きくなった。また、試料19〜22においては、外部磁場が0(kA/m)から負の方向に変化させたときに傾きが徐々に小さくなった。
【0159】
このことから、複合磁性材料粉末における軟磁性材料粉末の含有率を変化させても、試料18〜22は、J−H曲線の減磁曲線が、外部磁場Hを0から負の方向に変化させたときに傾きが徐々に緩やかになるような曲線からなることが確認できた。
【0160】
従って、複合磁性材料粉末における軟磁性材料粉末の含有率を変化させても、外部磁場が0(kA/m)に近いときに比透磁率が大きく、外部磁場が負の方向に大きくなるのに従って比透磁率が徐々に減少することがわかった。このため、試料18〜22は、外部磁場が0(kA/m)に近いときにインダクタンス値が大きく、外部磁場が負の方向に大きくなるのに従ってインダクタンス値が徐々に減少することがわかった。
【0161】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0162】
(1)上記各実施形態における各構成要素の数、位置関係、大きさは例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0163】
(2)上記実施形態1においては、磁気コア本体が2つのEコアから構成された場合を、実施形態2においては磁気コア本体がリングコアから構成された場合を、実施形態3においてはリング形状となるように組み合わされた2つのUコアから構成されている場合を例にとってそれぞれ本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、磁気コアとして、E型コアとI型コアを組み合わせたEIコアや、一方向に延在している棒のような形状をした棒状コアその他のコアを用いた場合であっても本発明を適用可能である。
【0164】
(3)上記各実施形態においては、磁気バイアス印加用部材が、複合磁性材料を押圧成形することにより形成されたものである場合を例にとって本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、磁気バイアス印加用部材が、複合磁性材料を射出成形する場合やグリーンシート法を用いる場合及びその他の方法を用いる場合であっても平板状に形成可能な工法であれば本発明を適用可能である。なお、この場合、バインダーの含有量を適宜調整しても良い。
【0165】
(4)上記各実施形態においては、磁気コア本体の空隙のギャップ長に対応した厚さの磁気バイアス印加用部材を用いたインダクタンス部品の場合を例にとって本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、磁気コア本体の空隙のギャップ長に対応した厚さよりも薄い磁気バイアス印加用部材を用いる場合であっても本発明を適用可能である。
【0166】
なお、この場合、空隙内には磁気バイアス印加用部材とエアギャップとが存在することになる。そして、このエアギャップのギャップ長は、磁路(導線に電流を流したときに磁気コアに発生する磁束の磁路)を構成する磁気コア本体の実効磁路長の5%以下であることが好ましい。このような構成とすることにより、エアギャップのギャップ長が短くなることに起因して磁気コアが磁気飽和し難くなり、従って、磁気バイアスの効果が低下し難くなり、直流重畳特性が良好なインダクタンス部品となる。この観点からすると、磁気コア本体におけるエアギャップのギャップ長は、磁路の実効磁路長の3%以下が好ましく、磁路の実効磁路長の1%以下がさらに好ましい。