特許第6013511号(P6013511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6013511一価の塩のイオン交換を用いて繊維から硫黄を除去する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013511
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】一価の塩のイオン交換を用いて繊維から硫黄を除去する方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/00 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
   D06M11/00 100
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-552160(P2014-552160)
(86)(22)【出願日】2012年1月11日
(65)【公表番号】特表2015-509148(P2015-509148A)
(43)【公表日】2015年3月26日
(86)【国際出願番号】US2012020854
(87)【国際公開番号】WO2013105938
(87)【国際公開日】20130718
【審査請求日】2015年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390023674
【氏名又は名称】イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】アレン スティーヴン アール
(72)【発明者】
【氏名】ガバラ ヴロデック
(72)【発明者】
【氏名】ロワリー ジョセフ レニング
(72)【発明者】
【氏名】ニュートン クリストファー ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ロディーニ デイヴィッド ジェイ
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−510394(JP,A)
【文献】 特開昭50−012322(JP,A)
【文献】 特表2008−507637(JP,A)
【文献】 特開昭63−249719(JP,A)
【文献】 特開平08−226080(JP,A)
【文献】 特開平08−199433(JP,A)
【文献】 特表2015−506421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/74
D01F 6/80
D06L 1/00 − 3/16
D06M 10/00 − 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 − 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾール基を含んでなるポリマーから作製される繊維から硫黄を除去する方法であって、前記方法が、
a)乾燥されたことのない硫酸アニオン含有のポリマー繊維を一価のアニオンを含んでなる塩水溶液と接触させて、前記硫酸アニオンの少なくとも一部を置き換える工程と、
b)前記繊維を濯いで、置き換えられた硫酸アニオンを除去する工程と
を備える方法。
【請求項2】
前記ポリマーが、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、芳香族ジアミン、および芳香族二酸クロリドの残基を含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記芳香族二酸クロリドが、テレフタロイルジクロリドである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記芳香族ジアミンが、パラ−フェニレンジアミンである請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾールの芳香族ジアミンに対するモル比が、30/70〜85/15の範囲である請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾールの芳香族ジアミンに対するモル比が、45/55〜85/15の範囲である請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記一価のアニオンが、アセタートアニオン、ギ酸アニオン、硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、および過塩素酸アニオンのうちの1種または複数を含んでなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記一価のアニオンが、アセタートアニオンおよび硝酸アニオンのうちの1種または複数を含んでなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程b)において、残留する一価のアニオンの少なくとも一部が、除去される請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)の後に、前記繊維が、前記繊維の重量を基準として、3.0重量パーセント未満の硫黄を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程b)の後、前記繊維が、前記繊維の重量を基準として、2.5重量パーセント未満の硫黄を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程b)の後、前記繊維が、前記繊維の重量を基準として、1.0重量パーセント未満の硫黄を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、イミダゾール基を含んでなるポリマーから作製される繊維から硫黄を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ数十年にわたる高分子化学および技術の躍進は、高性能の高分子繊維の開発を可能としてきた。例えば、剛直棒状ポリマーの液晶ポリマー溶液は、液晶ポリマー溶液をドープフィラメントに紡糸して、ドープフィラメントから溶媒を除去し、繊維を洗浄して乾燥し、必要に応じて、乾燥繊維をさらに加熱処理することにより引張特性を改善し、高強度繊維に形成されることが可能である。高性能の高分子繊維の一例は、パラアラミド繊維、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(「PPD−T」または「PPTA」)である。
【0003】
5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール(DAPBI)、パラ−フェニレンジアミン(PPD)およびテレフタロイルジクロリド(TCl)から得られる繊維は、当技術分野で公知である。塩酸が、重合反応の副産物として生成される。このようなコポリマーから作製される繊維の大部分は、一般的に、さらなる処理をすることなく、重合溶液から直接紡糸されてきた。このようなコポリマーは、例えば商標名Armos(登録商標)およびRusar(登録商標)の下でロシアで製造される高強度繊維の基盤である。ロシア特許出願第2,045,586号明細書を参照のこと。しかしながら、例えばSugak et al.,Fibre Chemistry Vol31,No1,1999、米国特許第4,018,735号明細書、国際公開第2008/061668号パンフレットに提供されるように、コポリマーは、重合溶媒から単離された後、繊維に紡糸するために、別の溶媒(典型的には硫酸)に再び溶解されることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コポリマー繊維を重合溶液から直接作製し、同時に防弾用途および他のアラミドの最終用途のための良好な製品を生産する公知のプロセスは、非常に乏しい投資財力ではかなり高価なものである。従って、当技術分野で公知のプロセスと比べて経済性を改善した一般的な溶媒(例、硫酸等)にコポリマーが溶解される製造プロセスに対する必要性が当技術分野に存在する。
【0005】
これまでは、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、パラ−フェニレンジアミンおよびテレフタロイルジクロリドのコポリマーから得られ、そして硫酸に溶解する繊維は、その組成がPPD−T繊維と同様であると考えられるため、PPD−T繊維を作製するのに使用されるプロセスと同様なプロセスを用いて、高性能繊維に紡糸されることが可能であると推定されてきた。しかしながら、コポリマーを引張強さが高い繊維に紡糸することは、PPD−T枠組みには存在しない独自の課題を有し、新規の技術が必要とされることが、判明されている。引張強さが高い繊維ほど、単位重量当たりのそれらの強度に起因してさらに有用性を提供できるので、引張強さの改善は、歓迎されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
いくつかの実施形態において、本発明は、イミダゾール基を含んでなるポリマーから作製される繊維から硫黄を除去する方法に関し、前記方法は、a)乾燥されたことのない硫酸アニオン含有のポリマー繊維を、一価のアニオンを含んでなる塩水溶液と接触させて、硫酸アニオンの少なくとも一部を置き換える(displace)工程と、b)繊維を濯いで、置き換えられた(displaced)硫酸アニオンを除去する工程とを備える。
【0007】
特定の実施形態において、ポリマーは、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、芳香族ジアミン、および芳香族二酸クロリドの残基を含んでなる。特定の実施形態において、二酸クロリドは、テレフタロイルジクロリドである。特定の実施形態において、芳香族ジアミンは、パラ−フェニレンジアミンである。いくつかの好適なポリマーに関して、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾールと芳香族ジアミンの総量に対するテレフタロイルジクロリドの理論量が、ポリマーを形成する際に利用される。いくつかの実施形態において、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾールの芳香族ジアミンに対するモル比は、30/70〜85/15の範囲である。特定の実施形態において、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾールの芳香族ジアミンに対するモル比は、45/55〜85/15の範囲である。
【0008】
いくつかの方法は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、アセタート、ギ酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、および過塩素酸塩のうちの1種または複数を含んでなる一価のアニオンを含有する塩水溶液を利用する。特定の方法は、塩化物および臭化物、アセタート、ならびに硝酸塩のうちの1種または複数を含んでなる一価のアニオンを含有する塩水溶液を利用する。
【0009】
いくつかの方法において、工程b)において、残留する一価のアニオンの少なくとも一部が、除去される。
【0010】
いくつかの方法は、結果として、工程b)後の繊維の重量を基準として、3.0重量パーセント未満の硫黄を有する繊維となり、いくつかの方法は、結果として、2.5重量パーセント未満の硫黄を有する繊維となる。特定の実施形態において、工程b)後、繊維は、繊維の重量を基準として1.0重量パーセント未満の硫黄を有する。特定の繊維は、繊維の重量を基準として、0.01〜3または0.1〜2.5、0.1〜1.75、もしくは0.05〜1.0または0.01〜0.08或いは0.01〜0.05重量パーセントの硫黄含有量を有する。
【0011】
以下の詳細な説明と同様に上記の概要は、添付の図面と共に読む際にさらに理解される。本発明を例証する目的のために、本発明の典型的な実施形態が図面に示される。しかしながら、本発明は、開示された特定の方法、組成、および装置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】繊維の生成方法の概略図である。
図2】以下の試料に関してHCl発生結果のTGA−IRによる同定を表す。A.クロリドアニオンを含有し、含塩素モノマーを含有しないアラミドコポリマー試料。B.含塩素モノマーを含有し、クロリドアニオンを含有しないアラミドコポリマー試料。
図3】クロリドアニオンを含有し、含塩素モノマーを含有しないアラミドコポリマー試料のTGA−IRの重量損失の結果を表す。
図4】含塩素モノマーを含有し、クロリドアニオンを含有しないアラミドコポリマー試料のTGA−IRの重量損失の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、本開示の一部を形成する以下の詳細な説明を、添付の図面および実施例と関連して参照することにより、さらに容易に理解され得る。本発明は、本明細書に記載されるおよび/または示される具体的な装置、方法、条件もしくはパラメーターに限定されず、本明細書に用いられる専門用語は一例としてのみ特定の実施形態を記載する目的のためのものであり、そして特許請求される本発明を限定することを意図されないことを理解するべきである。
【0014】
いくつかの実施形態において、ポリマーは、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、芳香族ジアミン、および芳香族二酸[クロリド]の残基を含んでなる。適切な芳香族二酸クロリドとして、テレフタロイルクロリド、4,4’−ベンゾイルクロリド、2−クロロテレフタロイルクロリド、2,5−ジクロロテレフタロイルクロリド、2−メチルテレフタロイルクロリド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロリド、および1,5−ナフタレンジカルボン酸クロリドが挙げられる。適切な芳香族ジアミンとして、パラ−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、2−メチル−パラフェニレンジアミン、2−クロロパラフェニレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、および4,4’−ジアミノベンズアニリドが挙げられる。
【0015】
いくつかの実施形態において、本発明は、NMP/CaCl2またはDMAC/CaCl2中で高い固形分濃度(7重量パーセント以上)で、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、パラ−フェニレンジアミンおよびテレフタロイルジクロリドを重合し、コポリマーのクラムを単離し、単離したコポリマーのクラムを濃硫酸に溶かし、液晶溶液を形成し、溶液を繊維に紡糸することから得られる繊維を生産するプロセスに関する。
【0016】
5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、パラ−フェニレンジアミンおよびテレフタロイルジクロリドの共重合反応は、当技術分野で公知の手段によって、達成されることができる。例えば、PCT特許出願第2005/054337号パンフレットおよび米国特許出願公開第2010/0029159号明細書を参照のこと。典型的には、1種もしくは複数種の酸塩化物と1種もしくは複数種の芳香族ジアミンが、アミド極性溶媒(例、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等)中で反応する。いくつかの実施形態において、N−メチル−2−ピロリドンが、好適である。
【0017】
いくつかの実施形態において、重合前もしくは重合中に、無機塩の溶解剤(例、塩化リチウムまたは塩化カルシウム等)を適切な量で添加して、アミド極性溶媒中の生成した共重合ポリアミドの溶解度を高める。典型的には、アミド極性溶媒に対して3〜10重量%を加える。所望の重合度が達成された後、コポリマーは、未中和のクラムの形態で存在する。「クラム」とは、コポリマーが、剪断された際に特定可能な別個の塊に容易く分離する脆性物質かゲルの形態であることを意味する。未中和のクラムには、コポリマー、重合溶媒、溶解剤および縮合反応の副産物の水と酸(典型的には塩酸(HCl))が含まれる。
【0018】
重合反応を完了した後、未中和のクラムは、塩基性無機化合物でありうる塩基(例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化アンモニウム等)と接触されていてもよい。塩基性無機化合物を水溶液中で使用して、HCl副産物の中和反応を実施することが可能である。必要に応じて、塩基性化合物が、有機塩基(例、ジエチルアミンまたはトリブチルアミンまたは他のアミン)であってもよい。典型的には、未中和のコポリマーのクラムは、洗浄により水性塩基と接触し、酸性副産物を塩(一般的に、水酸化ナトリウムが塩基、HClが酸性副産物であるならば、塩化ナトリウム塩)に変え、また、重合溶媒の一部が除去される。必要に応じて、塩基性無機化合物と接触させる前に、未中和のコポリマーのクラムを1回または複数回水で最初に洗浄して過剰の重合溶媒を除去してもよい。コポリマーのクラム中の酸性副産物が一旦中和されると、必要ならば、追加の水洗浄を用いて、塩および重合溶媒を除去して、クラムのpHを下げることができる。
【0019】
コポリマーは、典型的には少なくとも3dl/g、好ましくは少なくとも5dl/g以上の固有粘度を有する。いくつかの実施形態において、固有粘度は、6dl/g以上でありうる。
【0020】
コポリマーは、溶液紡糸を用いて繊維に紡糸されるのが好ましい。一般的に、これは、コポリマーのクラムを適切な溶媒に溶解して紡糸液(紡糸ドープとしても知られている)を形成することを伴い、好適な溶媒は硫酸である。発明者らは、本明細書に記載される中和されたコポリマーのクラムを使用すると、このような中和されたクラムが溶解プロセスにおいて硫酸と化合される場合に、紡糸ドープの気泡の形成が劇的に低減されることを見出した。コポリマーのクラムが中和されないならば、コポリマー中の塩酸副産物は、硫酸と接触される際に蒸発し得て、紡糸ドープ中に気泡を形成するだろう。紡糸ドープの溶液粘度は、比較的高いので、溶解する間に形成される気泡は、紡糸ドープ中に留まりやすく、それらを除去するための更なる工程が設けられない限り、フィラメントに紡糸される。中和されたコポリマーのクラムは、硫酸に溶解される際に本質的に気泡を提供しないので、均一性にさらに優れたコポリマーのフィラメントおよび繊維を提供すると考えられる、より均一な紡糸溶液を提供する。
【0021】
本明細書に記載のコポリマーを含有する紡糸ドープは、任意の数のプロセスを用いて、ドープフィラメントに紡糸されることができる。しかしながら、湿式紡糸および「エアギャップ」紡糸が最もよく知られている。これらの紡糸プロセスのための紡糸口金および浴の一般的な配置は、当技術分野でよく知られており、米国特許第3,227,793号明細書、米国特許第3,414,645号明細書、米国特許第3,767,756号明細書、および米国特許第5,667,743号明細書における図面で、高強度ポリマーのためのこのような紡糸プロセスを例証できる。「エアギャップ」紡糸において、紡糸口金は、典型的には繊維を最初にガス(例、空気)中に押出す、そしてフィラメントを形成するのに好適な方法である。
【0022】
中和されたコポリマーのクラムを用いて紡糸ドープを生成するのに加えて、最も良好な繊維特性のために、酸性溶媒から繊維を紡糸する製造プロセスは、フィラメントから酸性溶媒を抽出する工程を追加的に含むのが望ましいと考えられている。さもないと、繊維中のコポリマーのさらなる潜在的劣化を招き、続いて時間が経つと繊維の機械的特性を低下させる結果となると考えられている。
【0023】
発明者らは、酸含有のas−spun繊維を中和する従来の方法は、その繊維により達成されうる最終の引張強さに大きな影響をもたらすことを見出した。一般的に、従来の方法は、単一の強塩基(最も典型的にはNaOH)で繊維を中和することであった。
【0024】
コポリマーのフィラメントまたは糸条を作製する一つのプロセスを図1に示す。ドープ溶液2は、コポリマーと硫酸とを含んでなり、典型的には、押出しおよび12時間の凝固の後に許容できるフィラメント6を形成するポリマーにとって十分に高い濃度のポリマーを含有する。ポリマーがリオトロピック液晶である場合、ドープ2中のポリマーの濃度は、液晶ドープを提供するのに十分に高いのが好ましい。ポリマーの濃度は、好ましくは少なくとも約12重量パーセント、さらに好ましくは少なくとも約16重量パーセント、最も好ましくは少なくとも約20重量パーセントである。ポリマーの濃度は、好ましくは約30重量パーセント未満、さらに好ましくは約28重量パーセント未満である。
【0025】
ポリマードープ溶液2は、通例組み込まれる添加剤(例、酸化防止剤、潤滑剤、紫外線遮蔽剤、着色剤等)を含有してもよい。紡糸ドープ溶媒は、補助溶媒を含有してもよいが、主としては硫酸である。いくつかの実施形態において、硫酸は、濃硫酸であり、いくつかの好適な実施形態において、硫酸は、99〜101パーセントの濃度を有する。いくつかの実施形態において、硫酸は、100パーセントを超える濃度を有する。
【0026】
ポリマードープ溶液2は、典型的には、押出ダイまたは紡糸口金4を介して押出または紡糸されて、ドープフィラメント6を調製または形成する。紡糸口金4は、複数の孔を含むのが好ましい。紡糸口金の孔の数およびそれらの配置は、重要ではないが、経済的な理由により、孔の数を最大とするのが望ましい。紡糸口金4は、100または1000、またはそれより多く含むことが可能であり、それらは、円、格子、もしくはその他の所望の配置に配置されてもよい。紡糸口金4は、ドープ溶液2によって著しく劣化されないだろう任意の材料から構成されてもよい。
【0027】
図1の紡糸プロセスは、「エアギャップ」紡糸(「乾式ジェット」湿式紡糸として公知のこともある)を採用する。ドープ溶液2は、紡糸口金4を出て、非常に短い期間、紡糸口金4と凝固浴10の間のギャップ8(空気を含有する必要はないが、典型的に「エアギャップ」と呼ばれる)に入る。ギャップ8は、ドープと凝固も逆反応も誘発しない任意の流体(例、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、または二酸化炭素)を含有してもよい。ドープフィラメント6は、エアギャップ8を横切って進み、直ぐに液体凝固浴に導入される。別の方法として、繊維は、「湿式紡糸」(示されていない)であってよい。湿式紡糸において、紡糸口金は、典型的には繊維を直接凝固浴の液体に押出し、標準的に紡糸口金は、凝固浴の表面の真下に浸されるまたは位置される。本発明のプロセスで使用される繊維を提供するのに、どちらかの紡糸プロセスを用いてもよい。本発明のいくつかの実施形態において、エアギャップ紡糸が、好適である。
【0028】
フィラメント6は、凝固浴10において、「凝固」される。いくつかの実施形態において、凝固浴は、水または水と硫酸の混合液を含有する。複数のフィラメントが同時に押出されるならば、凝固工程の前、凝固工程中、もしくは凝固工程後に、複数のフィラメントを連合してマルチフィラメント糸条としてもよい。本明細書で使用される用語「凝固」は、ドープフィラメント6が流動液体であることおよび固相に変わることを必ずしも意味しない。ドープフィラメント6は、十分に低い温度でありうるので、凝固浴10に入る前、本質的に非流動である。しかしながら、凝固浴10は、フィラメントの凝固(ドープ溶液2からほぼ固体のポリマーフィラメント12へのポリマーの転化)を確実にするもしくは完了する。凝固工程中に除去される溶媒(つまり、硫酸)の量は、フィラメント6の凝固浴における滞留時間、浴10の温度、およびそこでの溶媒の濃度等の変数に応じて変わりうる。
【0029】
凝固浴の後、繊維12は、1つもしくは複数の洗浄浴またはキャビネット14と接触してもよい。洗浄は、繊維を浴中に浸すことにより、繊維に水溶液を噴霧することにより、または他の適切な手段により達成されてもよい。洗浄キャビネットは、典型的には、キャビネットを出る前に糸条が何回も周りを動き横切る1つもしくは複数のロールを含む密閉キャビネットを含んでなる。
【0030】
洗浄流体の温度は、洗浄効率と実用性のバランスを提供するように調節され、約0℃を超え、好ましくは約70℃未満である。洗浄流体は、蒸気の形態(スチーム)で適用されてもよいが、液体の形態で使用されるのがさらに便利である。多数(例えば16および/または18)の洗浄浴またはキャビネットが用いられるのが好ましい。連続プロセスにおいて、好適な複数の洗浄浴および/またはキャビネットにおける全洗浄プロセスの所要時間は、好ましくは約10分以内である。いくつかの実施形態において、全洗浄プロセスの所要時間は、5秒以上であり、いくつかの実施形態において、全洗浄は、400秒以内で達成される。バッチ法において、全洗浄プロセスの所要時間は、時間の幅で、12時間〜24時間、またはそれを超える時間かかる場合もある。
【0031】
発明者らは、大部分の硫酸溶媒が繊維から素早く洗い流されると同時に、一部の溶媒が非常にゆっくりと除去されることを見出した。如何なる特定の理論に拘束されるものではないが、酸性環境の結果として、硫酸の一部が、プロトン化されたイミダゾール部分と結合する硫酸アニオンとして存在する場合もあり、そして水洗浄中にさらにゆっくり除去されると考えられる。発明者らは、特定の洗浄溶液が、水単独の洗浄よりも速く硫酸を除去することを見出した。さらに、発明者らは、特定の洗浄流体が、引張特性の発揮に不利であることを見出した。具体的には、当技術分野において実践されているようなNaOH等の強塩基(水溶液中で完全に解離する塩基)での洗浄は、残留の酸溶媒を素早く除去するには有利であるが、発明者らは、当技術分野において実践されているように任意の最終の濯ぎの前に最終の洗浄または中和にNaOH等の強塩基を適用することは、引張特性の発揮に不利であることを見出した。発明者らは、一価のアニオンを含んでなる塩水溶液を使用することにより、水洗浄だけの場合よりも硫酸アニオンの除去をより促進させることをさらに見出した。
【0032】
いくつかの実施形態において、一価のアニオンは、1種または複数のハライドである。いくつかの実施形態において、as−spunマルチフィラメント糸条は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、アセタート、ギ酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、および過塩素酸塩のうちの1種または複数を含んでなる一価のアニオンを含有する塩水溶液で、洗浄される。特定の実施形態は、塩化物、臭化物、アセタート、および硝酸塩のうちの1種または複数を含んでなる一価のアニオンを含有する塩水溶液を利用する。いくつかの実施形態において、一価のアニオンは、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化第一鉄、臭化第一鉄、塩化第二鉄、臭化第二鉄、塩化亜鉛、臭化亜鉛、またはこれらの2種以上の混合物の水溶液の形態において提供される。
【0033】
いくつかの実施形態において、繊維は、水でさらなる洗浄または濯ぎをされてもよい。これらの工程の後、アニオンは、一価のアニオンを含んでなる塩水溶液を含んでなる洗浄液により提供され、直ぐにプロトン化されたイミダゾールと結合する、つまり、アニオンがポリマーにイオン結合すると考えられる。
【0034】
洗浄後、繊維もしくは糸条12を乾燥機20で乾燥させて、水および他の流体を除去してもよい。1台もしくは複数の乾燥機を使用してもよい。特定の実施形態において、乾燥機は、熱風を用いて繊維を乾燥させるオーブンであってよい。他の実施形態において、加熱ロールを用いて繊維を加熱してもよい。繊維は、少なくとも約20℃の温度、より好ましくは約100℃未満で、繊維の含水量が、繊維の20重量パーセント以下になるまで、乾燥機内で加熱される。いくつかの実施形態において、繊維は、85℃以下まで加熱される。いくつかの実施形態において、繊維は、これらの条件下で、繊維の含水量が繊維の14重量パーセント以下まで、加熱される。発明者らは、低温乾燥は繊維強度を改善するのに好適な手段であることを発見した。具体的には、発明者らは、乾燥されたことのない糸条が体験した最初の乾燥工程(つまり、加熱ロール、オーブン内におけるような加熱雰囲気等)は、工業規模で高強度繊維を乾燥させるのに使用される連続プロセスにおいて通常使用されない適度の温度で実施される場合に、最も良好な繊維強度の特性が達成されることを見出した。コポリマー繊維は、水に対してPPD−Tホモポリマーよりも大きい親和力を有すると考えられ、この親和力は、乾燥中のポリマーからの拡散速度を示し、従って、乾燥されたことのない糸条が典型的な高い乾燥温度に直接さらされるならば、一般的に大きな熱駆動力を作りだし、乾燥時間を低減し、繊維に修復できないほどの損傷が生じ、結果として劣等な繊維強度となる。いくつかの実施形態において、繊維は、少なくとも約30℃まで加熱される。いくつかの実施形態において、少なくとも約40℃まで加熱される。
【0035】
乾燥機の滞留時間は、10分未満、好ましくは180秒未満である。乾燥機は、窒素もしくは他の非反応性雰囲気を提供されうる。乾燥工程は、典型的には大気圧で実施される。しかしながら、必要に応じてその工程を減圧下で実施してもよい。一実施形態において、フィラメントは、少なくとも0.1gpdの張力下で、好ましくは2gpd以上の張力下で乾燥される。
【0036】
乾燥工程の後、繊維は、例えば熱硬化装置22内で少なくとも350℃の温度まで加熱されるのが好ましい。1台もしくは複数の装置を利用してもよい。例えば、このような処理は、引張強さを増大させるおよび/またはフィラメント中の分子の機械的歪みを緩和するために、窒素パージした管状炉22において、実施されてもよい。いくつかの実施形態において、繊維または糸条は、少なくとも400℃の温度まで加熱される。一実施形態において、フィラメントは、さらに1gpd以下の張力下で加熱される。
【0037】
いくつかの実施形態において、加熱は、複数工程のプロセスである。例えば、第一工程において、繊維もしくは糸条は、200〜360℃の温度で、少なくとも0.2cN/dtexの張力で加熱され、次に繊維もしくは糸条が、370〜500℃の温度、1cN/dtex未満の張力で加熱される第二加熱工程が続く。
【0038】
最終的に、糸条12は、巻き上げ装置24のパッケージに巻き上げられる。ロール、ピン、ガイドおよび/または電動装置26は、プロセスを通してフィラメントまたは糸条を運ぶのに適切に位置付される。このような装置は、当技術分野でよく知られており、任意の適切な装置を利用してよい。
【0039】
ポリマーの分子量は、典型的には、1種もしくは複数種の希薄溶液の粘度測定によってモニターされ、そしてそれに相関される。従って、相対粘度(「Vrel」または「ηrel」もしくは「nrel」)および固有粘度(「Vinh」または「ηinh」もしくは「ninh」)の希薄溶液測定は、典型的に、ポリマー分子量をモニターするために使用される。希薄ポリマー溶液の相対粘度および固有粘度は、以下の式で関連づけられ、
inh=ln(Vrel)/C
式中、lnは、自然対数関数であり、Cは、ポリマー溶液の濃度である。Vrelは、無単位の比率であり、このようにVinhは、濃度の逆数を単位として、典型的にはデシリットル/グラム(「dl/g」)として表される。
【0040】
本発明は、さらに、一部分、本発明のフィラメントまたは糸条を含む布帛と、本発明の布帛を含む物品とに関する。本明細書において目的のために、「布帛」は、任意の製織、製編、または不織構造を意味する。「製織」とは、任意の織布(例、平織、千鳥綾織、斜子織、朱子織、綾織等)を意味する。「製編」とは、1本もしくは複数のエンド、繊維またはマルチフィラメント糸条を交互にループするもしくは交互に編むことにより生成される構造を意味する。「不織」とは、一方向繊維(母材樹脂に含まれていてもよい)、フェルト等を含む繊維網を意味する。
【0041】
定義
本明細書において使用される、用語化学種の「残基」は、その化学種から実際に得られるかどうかにかかわらず、特定の反応スキームまたは続いての生成もしくは化学製品における化学種の生成物である部分を指す。従って、パラフェニレンジアミンの残基を含んでなるコポリマーは、式
【化1】
の1つまたは複数の単位を有するコポリマーを指す。
同様に、DAPBIの残基を含んでなるコポリマーは、構造
【化2】
の1つまたは複数の単位を含有する。
テレフタロイルジクロリドの残基を有するコポリマーは、式
【化3】
の1つまたは複数の単位を含有する。
【0042】
本明細書において使用される用語「ポリマー」は、モノマー、末端官能基化オリゴマー、および/または末端官能基化ポリマー(同じタイプまたは異なるタイプにかかわらず)を重合することにより、調製される高分子化合物を意味する。用語「コポリマー」(少なくとも2種の異なるモノマーから調製されるポリマーを指す)、用語「ターポリマー」(3種の異なるモノマーから調製されるポリマーを指す)、および用語「クアドポリマー」(4種の異なるモノマーから調製されるポリマーを指す)は、ポリマーの定義に含まれる。いくつかの実施形態において、全てのモノマーが、同時に反応して、ポリマーを形成することができる。いくつかの実施形態において、モノマーが、続いて反応して、オリゴマー(1種もしくは複数種のモノマーとさらに反応して、ポリマー形成することができる)を形成することができる。
【0043】
「オリゴマー」は、ポリパラフェニレンジアミンテレフタルアミドホモポリマーを用いる較正されたカラムで3000未満の分子量で溶出するポリマーまたは化学種を意味する。
【0044】
本明細書において使用される「理論量」は、第二成分の全ての反応基と反応するのに理論的に必要な一成分の量を意味する。例えば、「理論量」は、アミン成分(パラフェニレンジアミンおよびDAPBI)のほぼ全てのアミン基と反応させるのに必要なテレフタロイルジクロリドのモル数を指す。用語「理論量」が典型的には理論上の量の10%以内である量の範囲を指すことを、当業者は理解している。例えば、重合反応に使用されるテレフタロイルジクロリドの理論量は、パラフェニレンジアミンおよびDAPBIのアミン基の全てと反応するのに理論上必要なテレフタロイルジクロリドの量の90〜110%であることが可能である。
【0045】
「繊維」は、その長さに垂直なその横断面を横切る幅に対する長さの高い比を有する、相対的に柔軟性の、物質の構成単位を意味する。本明細書において、用語「繊維」は、用語「フィラメント」と相互に交換して使用される。本明細書に記載されるフィラメントの断面は、任意の形状であることが可能であるが、典型的に中実の円形(丸)または豆形である。パッケージ内のボビンに紡糸された繊維は、連続繊維と呼ばれる。繊維は、ステープル繊維と呼ばれる短い長さに切断されることができる。繊維は、フロックと呼ばれるさらに短い長さにさえ切断されることができる。本発明の繊維は、一般的に、極小の空孔を有する固体である。本明細書において使用される用語「糸条」には、フィラメントの束(マルチフィラメント糸条としても知られている)、または複数の繊維を含んでなるトウ、もしくはスパンステープル糸が含まれる。糸条は、縒り合わせられてもよいおよび/または撚られてもよい。
【0046】
用語「有機溶媒」は、本明細書において、単一成分の有機溶媒もしくは2種以上の有機溶媒の混合物を含むと理解されている。いくつかの実施形態において、有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、またはジメチルスルホキシドである。いくつかの好適な実施形態において、有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドンまたはジメチルアセトアミドである。
【0047】
用語「無機塩」は、単一の無機塩または2種以上の無機塩の混合物を指す。いくつかの実施形態において、無機塩は、溶媒中で十分に溶解でき、ハロゲン原子のイオンを遊離する。いくつかの実施形態において、好適な無機塩は、KCl、ZnCl2、LiClまたはCaCl2である。特定の好適な実施形態において、無機塩は、LiClまたはCaCl2である。
【0048】
「乾燥されたことのない(never-dried)」とは、これらのポリマーから作製される繊維の含水量が、繊維の少なくとも約25重量パーセントよりも低くなったことがないことを意味する。
【0049】
「固形分濃度」とは、溶液の総質量(つまり、コポリマーの質量+溶媒の質量)に対するコポリマー(中性ベース)の質量の比を意味する。
【0050】
添付の請求項を含む本明細書で使用される単数形「a」、「an」および「the」には、複数形が含まれ、ある特定の数値についての言及は、文脈が特に明らかに指示しない限り、少なくともその特定の値を含む。値の範囲が表される場合、別の形態は、1つの特定の値からおよび/または他の特定の値までを含む。同様に、値が先行する「約」を用いて近似値として表される場合、特定の値は、別の形態を形成すると理解されるであろう。全て範囲は、包括的であり、そして組み合わせ可能である。任意の変数が、任意の構成要素においてまたは任意の式において、2回以上出現する場合、各々の出現におけるその定義は、全ての他の出現におけるその定義から独立している。置換基および/または変数の組み合わせは、このような組み合わせが結果として安定した化合物となる場合に限り、許容される。
【0051】
試験方法
糸条の引張強さは、ASTM D885に従って燃焼により測定され、力/単位断面積(ギガパスカル(GPa)として)、または力/単位質量/長さ(グラム/デニールまたはグラム/dtex)のどちらかで表される、繊維の最大応力または破壊応力である。
【0052】
固有粘度は、96wt%の濃度を有する濃硫酸に、ポリマー濃度(C)0.5g/dl、温度25℃で、ポリマーを溶かした溶液を用いて測定される。固有粘度は、ln(tpoly/tsolv)/Cとして算出され、式中、tpolyは、ポリマー溶液の滴下時間であり、tsolvは、純溶媒の滴下時間である。
【0053】
燃焼により決定される硫黄の百分率は、ASTM D4239法Bに従って測定される。注意深く秤量した試料(典型的には2.5〜4.5mg)および五酸化バナジウム促進剤(典型的には10mg)をスズカプセルに入れる。次に、900〜1000℃の温度に保った酸化/還元反応器にカプセルを導入する。試料の最適な燃焼に必要とされる正確な量の酸素を正確な時間に燃焼反応器に送る。酸素との発熱反応は、数秒間で1800℃まで温度を上昇させる。この高温で、有機物質と無機物質の両方が、元素ガスに変換され、(窒素、二酸化炭素、水および二酸化硫黄への)さらなる還元を経た後に、クロマトグラフィーカラムにおいて分離され、高感度の熱伝導度検出器(TCD)によって、最終的に検出される。
【0054】
炭素、水素、窒素、および硫黄(CHNS)に対する典型的な実行条件:
【0055】
硫黄に対する標準として4種の試料のBBOT((5−tert−ブチル−ベンゾオキサゾール−2イル)チオフェン、C=72.53%、H=6.09%、N=6.51%、S=7.44%)を実行して検量線を作製する。検量線を検証すると、試料は分析される。
【0056】
高温管状炉の操作は、ASTM D4239−10「Sulfur in the Analysis Sample of Coal and Coke Using High Temperature Tube Furnace Combustion」に記載されている。
【0057】
0.05重量パーセント未満の硫黄含有量の精度をより良好にするために、以下の技術を使用するのが望ましい。清潔な100mLの石英るつぼを最少表示が小数第4位の化学天秤の上に置き、天秤を零点調整する。繊維またはポリマー樹脂0.3g〜0.6gをるつぼに入れて秤量する。少量の0.1N水酸化ナトリウムを繊維またはポリマー樹脂の試料に、その溶液で試料がかろうじて覆われるまで、注意深く加える。試料を溶液中に15分間置く。繊維またはポリマー樹脂を190℃の温度のホットプレート上で加熱する。溶液をゆっくり蒸発させる。この工程は、通常約30分かかる。溶液が100mLのるつぼ内で完全に蒸発した後、600℃の温度に設定したマッフル炉にるつぼを入れる。試料を5時間灰化する。5時間の灰化時間後、マッフル炉からるつぼを取り出し、30分間冷却させる。環境グレードの濃硝酸2mLを25mLのメスシリンダーに加えた後、シリンダーを25mLの印まで超純水(Milli−Q Water)で満たす。酸性溶液を25mLメスシリンダーから、灰化物を含有する100mLるつぼに移す。酸性溶液を加えた途端に、灰は即座に溶ける。酸性溶液を100mLのるつぼから15mLのプラスチック製遠心分離管に移す。次に、181.975nm硫黄輝線を用いるPerkin Elmer 5400 DV ICP発光分析装置により、軸モードにおいて酸性溶液を分析する。ブランク、10ppm硫黄基準、および100ppm硫黄基準を用いて、ICP発光分析装置を較正する。ICP基準は、サウスカロライナ州チャールストン(Charleston、South Carolina)にあるHigh Purity Standardsにより、調製される。
【0058】
繊維中のハロゲンの百分率は、XRF、またはCIC、或いは当業者に公知な他の適切な方法により、決定されることができる。繊維に残留するハロゲンのイオン形態とモノマー残基上のハロゲン置換基を識別するために、さらなる技術が有用である。例えば、TGA−IR(ASTM E2105−00)を使用して、低温で放出されたイオン性ハロゲンを高温で劣化中に放出されたモノマー残基上のハロゲン置換基と識別してもよい。例えば、図2、3、および4は、クロリドアニオンを共有結合の塩素と識別する手段としてTGA−IRの使用を例示する。図2は、試料(A)(塩化物イオンを含有する)と試料(B)(塩素の環置換基を含有する)の加熱中に、適切なIRスペクトル領域のモニタリングをすることにより、同定されるHCl発生プロファイル(Chemigrams)を比較する。図3および4は、TGAにより提供される対応する重量損失を例証する。
【0059】
繊維の含水量は、最初に繊維試料を秤量し、300℃で20分間、試料をオーブンに入れた後、直ちに試料を再び秤量することにより、得られた。次に、含水量は、初期の試料重量から乾燥試料の重量を減じて、乾燥試料の重量で割って100%を掛けて、算出される。
【0060】
多くの以下の実施例は、本発明の様々な実施形態を例示するために提供され、決して限定するものと理解されるべきではない。特に明記しない限り、全ての部および百分率は重量によるものである。
【実施例】
【0061】
ポリマー例1
塩化カルシウム(CaCl2)を最終溶液の濃度に適切な量含有するN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶媒を、FM130D Littleford反応器に装入した。次に、適切な量のモノマー5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミゾール(DAPBI)およびレフタロイルジクロリド(TCL)を反応器に加え、反応させて、オリゴマーを形成した。この混合物に、適切な量のパラ−フェニレンジアミン(PPD)およびTCLを加え、最終のコポリマーのクラムを形成した。クラムを微細粒子に粉砕した後、水酸化ナトリウム溶液で最初に洗浄して反応副産物を中和し、その後水で洗浄しNMPを除去した。次に、ポリマーを回収し、乾燥させ、表1に要約するように、その固有粘度を決定した。
【0062】
【表1】
【0063】
ポリマー例2
塩化カルシウム(CaCl2)を最終溶液の濃度に適切な量含有するN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶媒を、FM130D Littleford反応器に装入した。次に、適切な量のモノマー5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミゾール(DAPBI)、PPD、および一部のテレフタロイルジクロリド(TCL)を反応器に加え、反応させてオリゴマーを形成した。この混合物に、適切な量のTCLを加え、最終のコポリマーのクラムを形成した。クラムを微細粒子に粉砕した後、水酸化ナトリウム溶液で最初に洗浄して反応副産物を中和し、その後水で洗浄しNMPを除去した。次に、ポリマーを回収し、乾燥させ、表2に要約するように、その固有粘度を決定した。
【0064】
【表2】
【0065】
繊維例
以下の実施例において、濃硫酸に溶かされたコポリマーの溶液紡糸を利用して、パラ−アラミドホモポリマーに用いるのと同様なドライジェットウェットスピニング法を用いて、糸条を形成した。米国特許第3,767,756号明細書を参照のこと。
【0066】
比較例A
TClおよびモル比が70/30のDAPBI/PPDジアミンから作製した中和されたコポリマーを用いて、濃硫酸に溶かされたポリマーの溶液(25wt%の固形分濃度を有する)を形成した。270個の孔を有する紡糸口金を介してコポリマー溶液を紡糸して、フィラメント当り3.0デニールの名目上の線密度をもたらした。糸条を凝固させて、硫黄が2.98重量パーセントになるまで、水で洗浄した。
【0067】
次に、9個の洗浄キャビネットにおいて100m/分で糸条を続けて洗浄した。表3に示すように6番目のキャビネットは、NaOH洗浄溶液を利用し、他の全てのキャビネットは水を用いる。1番目の洗浄キャビネットは、洗浄噴霧およびアプリケータを介して10個の前進ラップ(advancing wrap)を利用し、一方残りの8個の洗浄キャビネットは、洗浄噴霧およびアプリケータを介して20個の前進ラップを利用した。全ての洗浄モジュールを60℃で稼働させた。オーブンの長さに沿って、0.5g/デニールの張力で、130℃〜205℃の温度傾斜を用いて、糸条をインラインで乾燥させた。次に、0.5g/デニールの張力で最大温度408℃を用いて、糸条を加熱処理した。燃焼により測定した残留硫黄、残留ナトリウム、および加熱処理した糸条の最終の引張強さを表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
実施例1および比較例B
TClとモル比が70/30のDAPBI/PPDジアミンから作製した中和されたコポリマー(固有粘度5.33dl/gを有する)を用いて、濃硫酸に溶かされたポリマー溶液(22wt%の固形分濃度を有する)を形成した。270個の孔を有する紡糸口金を介してコポリマー溶液を紡糸して、フィラメント当り1.75デニールの名目上の線密度をもたらした。糸条を凝固させて、3.0wt%の硫黄濃度になるまで、水で洗浄した。
【0070】
さらなる洗浄のための乾燥されたことのない試料は、多孔プラスチック芯の上のおよそ100m長の重なりのない巻きにより、調製される。一連の3つの別個の連続した浸漬浴において、洗浄実験を室温で実施した。浴1は、表4に示した洗浄溶液を採用した。浴2および3は、各試料に対して真水の洗浄浴であった。洗浄時間は、連続浴各々において30分であった。
【0071】
洗浄後、試料を一晩中、空気乾燥させた後、オーブンにおいて50℃で4時間さらに乾燥させた。次に、試料を0.5g/デニールの張力下で415℃まで加熱処理した。燃焼により測定した残留硫黄、および加熱処理後の引張強さを表4に要約する。糸条の固有粘度を3.7dl/gであると決定した。
【0072】
【表4】
【0073】
実施例2および比較例C
TClとモル比が70/30のDAPBI/PPDジアミンから作製した、固有粘度6.69dL/gの中和されたコポリマーを用いて、濃硫酸に溶かされたポリマーの溶液(25wt%の固形分濃度を有する)を形成した。ドープを85℃で4時間混合し、76.2ミクロンの毛細管直径を有する9孔の紡糸口金を介して、73℃で押出した。3mmのエアギャップを介してフィラメントを延伸し、およそ2℃、様々な線密度をもたらすのに適切な速度で急冷浴において凝固した。繊維試料を3つの方法のうちの1つの方法により、洗浄した:溢水槽において48時間洗浄、0.25wt%のNaCl水溶液に30分間さらす、或いは0.25wt%のLiCl水溶液に30分間さらす。次に、390℃の最大温度、0.4gpdの張力下で、試料を加熱処理した。乾燥したas−spun糸条の硫黄の含有量を燃焼によって決定し、イオンクロマトグラフィー(IC)により塩素含有量を決定した。硫黄の値を、測定の精度を改善するために8回撚りを掛けた糸条を用いて、ASTM D 885に従って決定した、加熱処理した糸条の引張特性と共に、表5に列記する。報告される撚りを掛けた糸条のデニール値は、紡績糸のデニール値の8倍を表す。
【0074】
【表5】
【0075】
実施例3および比較例D
TClとモル比が70/30のDAPBI/PPDジアミンから作製した、固有粘度6.69dL/gの中和されたコポリマーを用いて、濃硫酸に溶かされたポリマーの溶液(25wt%の固形分濃度を有する)を形成した。ドープを85℃で3時間混合し、76.2ミクロンの毛細管直径を有する9孔の紡糸口金を介して、73℃で押出した。3mmのエアギャップを介してフィラメントを延伸し、およそ2℃、様々な線密度をもたらすのに適切な速度で急冷浴において凝固した。繊維試料を3つの方法のうちの1つの方法により、洗浄した:溢水槽において48時間洗浄、水で30分間洗浄、或いは0.25wt%のNaCl水溶液に30分間さらす。次に、390℃の最大温度、0.4gpdの張力下で、試料を加熱処理した。as−spun糸条の硫黄を燃焼分析によって決定し、イオンクロマトグラフィー(IC)により塩素含有量を決定した。硫黄の値を、測定の精度を改善するために8回撚りを掛けた糸条を用いて、ASTM D 885に従って決定した、加熱処理した糸条の引張特性と共に、表6に列記する。報告される撚りを掛けた糸条のデニール値は、紡績糸のデニール値の8倍を表す。
【0076】
【表6】
【0077】
実施例4
70/30のDAPBI/PPDモル比を有するコポリマーを用いて、22.2wt%の固形分濃度を有するポリマー溶液を形成した。270個の孔を有する紡糸口金を介してコポリマー溶液を紡糸して、フィラメント当り約1.50デニールの名目上の線密度をもたらした。糸条を凝固させて、2.71重量パーセントの硫黄になるまで、水で洗浄した。
【0078】
次に、1リットルの水浴において20℃で、as−spunの未洗浄糸条の弛んだかせの状態での多繊維試料(およそ1.4グラムの試料)を洗浄し、洗浄時間は、30秒であった。過剰の流体を清潔な乾いたペーパータオルで繊維試料から拭き取った。次に、1リットルの塩化ナトリウム水溶液の浴において、表7に示す温度および濃度で、試料を300秒間洗浄した。過剰の流体を清潔な乾いたペーパータオルで繊維試料から再び拭き取った。次に、1リットルの水浴において、20℃で5分間、各繊維試料を最終的に洗浄して、乾燥させた。燃焼によって決定された糸条中の残留硫黄を表7に示す。
【0079】
【表7】
【0080】
実施例5
塩化アンモニウム(NH4Cl)、およびNaClとHClの混合物での洗浄に関して、実施例4を繰り返した。この実施例において、溶液洗浄を、20℃、表8に列挙される濃度で、90秒間実施した。この実施例において、最終の水洗浄時間は、2分であった。燃焼分析により、糸条の残留硫黄濃度を決定して、表8に要約する。
【0081】
【表8】
図1
図2
図3
図4