特許第6013521号(P6013521)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013521
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】化学物質を検出する装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20161011BHJP
   H01J 49/40 20060101ALN20161011BHJP
【FI】
   G01N27/62 101
   G01N27/62 102
   G01N27/62 B
   !H01J49/40
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-1764(P2015-1764)
(22)【出願日】2015年1月7日
(62)【分割の表示】特願2011-547312(P2011-547312)の分割
【原出願日】2010年12月22日
(65)【公開番号】特開2015-96865(P2015-96865A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2015年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2009-291001(P2009-291001)
(32)【優先日】2009年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友美
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/039996(WO,A2)
【文献】 特表2009−541924(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0132177(US,A1)
【文献】 特開2004−125582(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0066895(US,A1)
【文献】 特表2008−512689(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0243071(US,A1)
【文献】 特表2008−517276(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0055102(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62−27/64
H01J 49/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリングポイントにおける流体に含まれる不特定の化学物質に関連する化学物質関連情報をイオン移動度センサーまたは質量分析センサーの分析型センサーの第1タイプのセンサーにより取得する検出ユニットと、
無線または有線により外部と通信する通信ユニットと、
脅威の要因となる特定の化学物質を前記第1タイプのセンサーにより検出したときの特定パターンを含む脅威検出用ライブラリを格納したローカルメモリと、
前記検出ユニットにより得られた化学物質関連情報と前記脅威検出用ライブラリに含まれるモニタリング用の特定パターンとを定常的に比較し、前記得られた化学物質関連情報と前記モニタリング用の特定パターンとが合致したときに合致情報を出力する照合処理を含み、さらに、前記得られた化学物質関連情報に含まれる化学成分の変化および検出された化学物質の濃度変化に基づき、匂いに関連するイベントが発生したことを判断しイベントが発生したことおよびイベントの発生要因を出力する処理であって、前記通信ユニットを介して前記化学物質関連情報を外部に伝送し、前記化学物質関連情報から推定される化学物質および/または前記推定される化学物質が放出される要因を含むイベントの発生要因を取得することを含む出力する処理を含み、前記照合処理および前記出力する処理を時分割または並列に実行するプロセッサとを有する装置であって、さらに、
当該装置の周囲の画像および/または音を含むイベント付属情報を取得するユニットを有し、
前記プロセッサは、前記通信ユニットを介して前記イベント付属情報に含まれる画像および/または音により当該装置が対面する状況を判断し、判断された前記状況で脅威となる匂いの要素を含む特定パターンを取得し、取得した特定パターンにより前記ローカルメモリの前記脅威検出用ライブラリを更新する機能を含む、装置。
【請求項2】
請求項1に記載された装置において、
前記プロセッサは、前記通信ユニットを介して前記イベントの発生要因により脅威となる化学物質の特定パターンを取得し、取得した特定パターンにより前記ローカルメモリの前記脅威検出用ライブラリを更新する機能を含む、装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された装置において、
前記イベントの発生要因が判明しないときに、前記サンプリングポイントにおける流体を保存カプセルに封入するサンプル保存ユニットをさらに有する、装置。
【請求項4】
サンプリングポイントにおける流体に含まれる不特定の化学物質に関連する化学物質関連情報をイオン移動度センサーまたは質量分析センサーの分析型センサーの第1タイプのセンサーにより検出する検出ユニットと、無線または有線により外部と通信する通信ユニットと、脅威の要因となる特定の化学物質を前記第1タイプのセンサーにより検出したときの特定パターンを含む脅威検出用ライブラリを格納したローカルメモリと、プロセッサとを有する装置であって、さらに、当該装置の周囲の画像および/または音を含むイベント付属情報を取得するユニットを有する装置を制御する方法であって、
前記プロセッサが、前記検出ユニットにより得られた化学物質関連情報と前記脅威検出用ライブラリに含まれるモニタリング用の特定パターンとを定常的に比較し、前記得られた化学物質関連情報と前記モニタリング用の前記特定パターンとが合致したときに合致情報を出力する照合処理を行うことと、
前記プロセッサが、前記照合処理と時分割または並列で、前記得られた化学物質関連情報に含まれる化学成分の変化および検出された化学物質の濃度変化に基づき、匂いに関連するイベントが発生したことを判断しイベントが発生したことおよびイベントの発生要因を出力する際に、前記通信ユニットを介して前記化学物質関連情報を外部に伝送して前記化学物質関連情報から推定される化学物質および/または前記推定される化学物質が放出される要因を含むイベントの発生要因を取得する処理を行うことと
前記プロセッサが、前記イベント付属情報を取得するユニットにより前記イベント付属情報を取得することと、
前記プロセッサが、前記通信ユニットを介して前記イベント付属情報に含まれる画像および/または音により前記装置が対面する状況を判断し、判断された前記状況で脅威となる匂いの要素を含む特定パターンを取得し、取得した特定パターンにより前記ローカルメモリの前記脅威検出用ライブラリを更新することとを有する方法。
【請求項5】
請求項に記載の方法において、
前記プロセッサが、前記通信ユニットを介して前記イベントの発生要因により脅威となる化学物質の特定パターンを取得し、取得した特定パターンにより前記ローカルメモリの前記脅威検出用ライブラリを更新することをさらに有する、方法。
【請求項6】
サンプリングポイントにおける流体に含まれる不特定の化学物質に関連する化学物質関連情報をイオン移動度センサーまたは質量分析センサーの分析型センサーの第1タイプのセンサーにより検出する検出ユニットと、無線または有線により外部と通信する通信ユニットと、脅威の要因となる特定の化学物質を前記第1タイプのセンサーにより検出したときの特定パターンを含む脅威検出用ライブラリを格納したローカルメモリと、プロセッサとを有する装置であって、さらに、当該装置の周囲の画像および/または音を含むイベント付属情報を取得するユニットを有する装置において実行されるプログラムであって、
前記検出ユニットにより得られた化学物質関連情報と前記脅威検出用ライブラリに含まれるモニタリング用の特定パターンとを定常的に比較し、前記得られた化学物質関連情報と前記モニタリング用の前記特定パターンとが合致したときに合致情報を出力する照合処理と、前記照合処理と時分割または並列に、前記得られた化学物質関連情報に含まれる化学成分の変化および検出された化学物質の濃度変化に基づき、匂いに関連するイベントが発生したことを判断しイベントが発生したことおよびイベントの発生要因を出力する処理であって、前記通信ユニットを介して前記化学物質関連情報を外部に伝送して前記化学物質関連情報から推定される化学物質および/または前記推定される化学物質が放出される要因を含むイベントの発生要因を取得することを含む処理とを前記プロセッサが実行する命令と、
前記イベント付属情報を取得するユニットにより前記イベント付属情報を取得する命令と、
前記通信ユニットを介して前記イベント付属情報に含まれる画像および/または音により前記装置が対面する状況を判断し、判断された前記状況で脅威となる匂いの要素を含む特定パターンを取得し、取得した特定パターンにより前記ローカルメモリの前記脅威検出用ライブラリを更新する命令とを有するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサーにより化学物質を検出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の電極を有する少なくとも1つのイオンチャネルの形状のイオンフィルタを有するイオン移動度分光計が記載されている。特許文献2には、サンプル分析のためのイオン移動度ベースのシステム、方法および装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2006/013396(日本国特表2008−508693号公報)
【特許文献2】国際公開WO2005/052546(日本国特表2007−513340号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
爆発物質、毒物、毒ガスなどの有害物質の有無など、一刻を争う事態に対応できることは重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、サンプリングポイントにおける流体に含まれる不特定の化学物質に関連する化学物質関連情報をイオン移動度センサーまたは質量分析センサーの分析型センサーの第1タイプのセンサーにより取得する検出ユニットと、無線または有線により外部と通信する通信ユニットと、脅威の要因となる特定の化学物質を第1タイプのセンサーにより検出したときの特定パターンを含む脅威検出用ライブラリを格納したローカルメモリと、検出ユニットにより得られた化学物質関連情報と脅威検出用ライブラリに含まれるモニタリング用の特定パターンとを定常的に比較し、得られた化学物質関連情報とモニタリング用の特定パターンとが合致したときに合致情報を出力する照合処理を含み、さらに、得られた化学物質関連情報に含まれる化学成分の変化および検出された化学物質の濃度変化に基づき、匂いに関連するイベントが発生したことを判断し、イベントが発生したことおよびイベントの発生要因を出力する処理であって、通信ユニットを介して化学物質関連情報を外部に伝送し、化学物質関連情報から推定される化学物質および/または推定される化学物質が放出される要因を含むイベントの発生要因を取得することを含む出力する処理を含み、照合処理および出力する処理を時分割または並列に実行するプロセッサとを有する装置である。検出に一刻を争う、脅威の要因となる化学物質の種類はそれほど多いとは言えない。したがって、化学物質を検出するために用いられている第1タイプのセンサーの出力とダイレクトに比較できる特定パターンをアクセス時間の短い、たとえばキャッシュメモリなどのローカルメモリに格納しておくことにより、短時間で脅威が発生する可能性を判断できる。
【0006】
第1タイプのセンサーの典型的なものは化学物質関連情報をスペクトル(波形データ)として出力する分析型(spectrometric type)のセンサーであり、特定パターンはスペクトルフィーチャ(波形特性、スペクトル特性、スペクトル・シグネチャ)を含む。分析型のセンサーの典型的なものはイオン移動度センサーおよび質量分析センサー(質量分析器)である。照合ユニットは、分析型のセンサーから得られたスペクトルを特定パターンに含まれるスペクトルフィーチャを用いて照合する。照合ユニットは得られたスペクトルからスペクトルフィーチャを抽出してもよいし、スペクトルフィーチャから照合用のスペクトルを合成してもよい。
【0007】
この装置において、得られた化学物質関連情報の変化により、イベントの発生およびイベントの発生要因を出力するイベント出力ユニットをさらに有する場合は、照合ユニットはイベント出力ユニットと時分割または並列に動作する。脅威にならないイベントの発生の判断はある程度の時間を要してもよく、さらにそのようなイベントの発生要因は膨大である。したがって、そのようなイベントの発生要因を判断(推定)する処理を、ごく限られた脅威の要因の発見とは異なる処理として定義し、時分割または並列にそれらの処理を行うことにより、定常的に脅威の要因の有無の可能性を短時間で判断できる。
【0008】
この装置は、無線または有線により外部と通信する通信ユニットをさらに有し、イベント出力ユニットは、通信ユニットを介して、化学物質関連情報を含むイベント発生情報を外部に伝送し、イベントの発生要因を取得してもよい。通信ユニットにより外部とコミュニケーションしている間も、照合ユニットにより、定常的に脅威の要因の有無の可能性を短時間で判断できる。
【0009】
この装置は、通信ユニットを介してローカルメモリのライブラリに格納されている特定パターンを自動的に更新する自動更新ユニットをさらに有することが望ましい。より発生する可能性の高い脅威の要因に関係する特定パターンをライブラリに格納することにより、いっそう確実に脅威の要因の有無の可能性を判断できる。
【0010】
自動更新ユニットは、イベント付属情報に基づき特定パターンを更新できる。
【0011】
また、この装置は、サンプリングポイントにおける流体を保存カプセルに封入するサンプル保存ユニットをさらに有することが望ましい。イベントの発生要因が判明しないときなど、サンプリングポイントにおける流体を保存し、他の分析装置で流体に含まれる化学物質を解析し、その化学物質に対する第1タイプのセンサーの特定パターンをデータベースに登録することにより、脅威の要因や、イベントの発生要因の知識データベースを増加できる。
【0012】
本発明の異なる態様の1つは、サンプリングポイントにおける流体に含まれる化学物質に関連する化学物質関連情報を第1タイプのセンサーにより検出する検出ユニットを有する装置を制御する方法であって、以下のステップを含む。
1.特定の化学物質を第1タイプのセンサーにより検出したときの特定パターンを含むライブラリが装置のローカルメモリに格納されており、検出ユニットにより得られた化学物質関連情報とライブラリに含まれるモニタリング用の特定パターンとを定常的に比較すること。
2.得られた化学物質関連情報とモニタリング用の特定パターンとが合致したときに合致情報を出力すること。
【0013】
この方法は、さらに以下のステップを有する。
3.得られた化学物質関連情報の変化により、イベントの発生およびイベントの発生要因を出力すること。その場合、ステップ2の合致情報を出力するステップは、ステップ3の発生要因を出力するステップと時分割または並列に実行される。ステップ3の発生要因を出力するステップは、無線または有線により外部と通信する通信ユニットを介して、得られた化学物質関連情報を含むイベント発生情報を外部に伝送し、イベントの発生要因を取得することを含んでもよい。また、通信ユニットを介してローカルメモリのライブラリに格納されている特定パターンを自動的に更新してもよい。特定パターンは、イベントの発生要因に基づき更新してもよく、装置の周囲の画像および/または音を含むイベント付属情報に基づき更新してもよい。
【0014】
本発明のさらに異なる態様の1つは、サンプリングポイントにおける流体に含まれる化学物質に関連する化学物質関連情報を第1タイプのセンサーにより検出する検出ユニットと、CPUと、メモリとを有する装置において実行されるプログラム(プログラム製品)であって、上記の制御を実行するための命令を含む。このプログラム(プログラム製品)は記録媒体(光ディスクなど)に記録して提供してもよく、インターネットなどのコンピュータネットワークを介して提供してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ロボット犬の概略構成を示すブロック図。
図2】嗅覚システムの概略構成を示すブロック図。
図3】嗅覚システムの制御の概要を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に嗅覚を備えた犬型のロボット(ロボット犬)の概略構成を示している。このロボット犬1は、IMS(Ion Mobility Spectrometry, イオン移動度分析)タイプのセンサーをベースにした嗅覚機能を有し、IMSセンサーの出力と化学物質データベースとを参照し、さらに、複数のロボット犬同士でコミュニケーションを取りながら、目標化学物質の特定や分析、移動体(犯人)の追跡や追い込みが可能なものである。なお、嗅覚は特定の化学物質の分子を受容体で受け取ることで生じる感覚の1つであると定義されている。したがって、大気(外気)などに含まれる化学物質を感知することを以下では嗅覚あるいは匂い(臭い)として説明するが、以下のシステム(装置、ロボット)においては、動物にとって匂いとして認識されない化学物質を検出することも可能である。
【0017】
におい(匂い、臭い)の要因は、周囲の空気に含まれる化合物、ガスなどの化学物質である。本明細書において化学物質とは、化合物、分子および元素を含み、成分あるいは組成物に限らず生成物も含む。化学物質は有機物および無機物を含む。嗅覚で感じられる化学物質は、官能基を備えたものが多いといわれている。官能基のグループの1つは炭化水素であり、たとえば、アルカン(鎖式飽和炭化水素)を挙げることができる。このグループには化学物質としてエタン、メタン、プロパン、ブタンなどが含まれる。官能基は、炭化水素の基に限らず、窒素を含む官能基としてはアミノ基などを挙げることができ、酸素を含む官能基にはアルコール基およびケトン基などを挙げることができる。これらは化学物質および官能基の一例に過ぎない。官能基の分子の中の原子は、同じであるか同様の化学反応を受けて、共通の匂いとしての特性を示すと考えられる。揮発性有機物と有機化合物は、匂いとして嗅覚を刺激する典型的なものである。化学物質は一酸化炭素や二酸化炭素などのガス(気体そのもの)であってよい。化学物質は炭素、アルミニウム、窒素などの無機物であってもよい。
【0018】
コンパクトで携帯が可能で、においの要因を検出できる分析装置の1つは、上述したイオン移動度(イオン・モビリティ)センサーであり、MEMSを用いたチップタイプのデバイスが提供されている。イオン移動度センサー(イオン移動度分光計、Ion Mobility Spectrometry)は、空気中の物質(分子)をイオン化し、イオン化された分子の移動度の差に基づくスペクトル(出力パターン、空気質パターン)を出力するセンサーであり、非対称電界イオン移動度スペクトロメータ(Field Asymmetric waveform Ion Mobility Spectrometry、FAIMS)または微分型電気移動度スペクトロメータ(Differential Ion Mobility Spectrometry、DIMS)が知られている。
【0019】
この種のスペクトロメータ型のセンサー、以降においては総称してIMSセンサーは、高圧−低圧に変化する非対称電界にイオン化した分子流を入力し、イオンの電界移動度に基づいてそれらをフィルタリングした結果を出力する。市販されているコンパクトなIMSセンサーとしては、SIONEX(ザイオネクス)社のmicroDMx、OWLSOTNE(オウルストーン)社のFAIMSデバイスを挙げることができる。
【0020】
IMSセンサーでは、流体(典型的には空気、窒素ガスなどのキャリアガス)に含まれる化学物質に関連した情報として、Vd電圧(DispersionVoltage、電界電圧(Vrf)、交流)とVc電圧(Compensation Voltage、補償電圧、直流)の2つの変量に応じて変化するイオン電流を検出することが可能である。したがって、それらを含む3次元のデータ(波形データ、スペクトル)、3次元のパラメータのいずれかのパラメータを固定した2次元スペクトルが化学物質に関連した情報として得られる。また、スペクトルの要素を示すスペクトルフィーチャ(スペクトル・シグネチャ、スペクトル特性、特徴)を化学物質に関連した情報として取得してもよい。スペクトルフィーチャには、スペクトル・ピーク振幅、スペクトル・ピーク幅およびスペクトル・ピーク勾配、スペクトル・ピーク間隔、スペクトル・ピークの数、処理条件の変化によるスペクトル・ピークの相対的位置シフト、スペクトル不連続点、Vrf対Vcomp特性などが含まれる。
【0021】
化学物質に関連する情報を得る検出ユニット(センサー)は、質量分析型のセンサーであってもよく、流体に含まれる化学物質に関連した情報としてM/Z(質量対電荷)が得られる。
【0022】
イオン移動度などを利用した分析型のセンサーは、特定の成分(化学物質)に敏感なセンサーと比較すると汎用性が高く、分析可能な範囲内では、ほとんどすべての成分の有無および強度(濃度)を同じ程度の精度で検出できる。センサーにより検出された化学成分(化学物質)の情報には、化学物質(化合物、分子および元素の少なくともいずれかを含む)の強度変化(濃度変化、存在率変化およびその他のセンサーにより感知される変化・変量(intensity variations)を含む)が含まれる。
【0023】
化学物質に関連した情報を取得するセンサーとしては、さらに、IEEE1451に準拠したケミカルセンサー、水晶センサー(QCM、Quartz Crystal Microbalance)、電気化学的なセンサー、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス、光センサー、ガスクロマトグラフィー、液クロマトグラフィー、MOS(Metal Oxide Semiconductor)センサーを含めた多種多様なセンサーを挙げることができる。
【0024】
したがって、化学物質を検出するためのセンサーのタイプにより、センサーから出力される化学物質に関連する情報(化学物質関連情報)は異なり、同じ化学物質に対して異なるタイプの化学物質関連情報が出力されることが多い。これらの異なるタイプの化学物質関連情報を統一的に取り扱うことは重要であり、たとえば、化学物質を示す空間にタイプの異なる情報をマッピングすることも考えられる。しかしながら、タイプの異なる化学物質関連情報を統一的に処理するためにはある程度の処理時間が必要となる。
【0025】
この明細書において、異なるタイプのセンサーにより得られたセンサー固有の化学物質関連情報は、センサータイプの名称を付けて表わす。たとえば、IMSセンサーにより得られた化学物質関連情報はIMSデータと呼ぶことにする。また、センサー固有の化学物質関連情報を、化学物質を示す共通の空間にマッピングするなどの処理を施し、統一的あるいは汎用的に取り扱えるようにした化学物質関連情報は汎用データと呼ぶことにする。汎用データの1つは、本願の出願人が提案している、FCWSデータである。このデータは、センサー固有の化学物質関連情報を、FCWS(Functionally Classification Wave Shaping、機能的(官能基による)分類による波形成形)技術により、化学物質に特徴付けられた空間(化学物質空間)を周波数空間にマップし(割り当てし)、化学物質の存在を示す強度情報を周波数領域の強度情報に変換したものである。
【0026】
このロボット犬1は、大きく分けて頭部2、首部3、胴部4、足部5、臀部6、および尻尾7を有する。ロボット犬1は、頭部2、首部3、胴部4、臀部6を通り尻尾7に至るようにデータおよび電力を配信する内部バス9を備えており、ロボット犬1に内蔵されている種々の機能(機能ユニット)同士が通信できるようにしている。また、胴部4にバッテリ8が収納されており、ロボット犬1は自立して自由に移動できる。さらに、ロボット犬1は、種々の外部通信ユニットを備えており、ロボット犬同士、ホスト装置、さらに、コンピュータネットワークによりアクセス可能な種々の資源と通信できるようになっている。
【0027】
なお、以下では各種の機能を備えたユニットをロボット犬1に収納していることを説明しているが、収納場所は必ずしも以下の説明に限定されるものではない。また、これらの機能(機能ユニット)は、典型的には、1または複数のCPUおよびメモリを含むプログラマブルなハードウェア資源とソフトウェアとにより実現される。プログラマブルなハードウェア資源は、専用のASICなどのチップを含んでいてよく、回路を再構成可能なチップを含んでいてもよい。さらに、以下では、移動可能なプログラマブルな機械装置であるロボットに本発明に係る機能を実装した例を示しているが、自律的な移動性を必要としないアプリケーションにおいては、CPU、メモリなどのハードウェア資源を有するコンピュータ、たとえば、パーソナルコンピュータ、PDA、携帯電話などの端末を用いて以下に説明する機能を実現することも可能である。
【0028】
まず、このロボット犬1は、検出ユニット100、イベント出力ユニット30および脅威監視ユニット40を含む嗅覚システム300を備えている。検出ユニット100は、複数のサンプリングポイントにおける流体(本例では外気19)に含まれる化学物質に関連する化学物質関連を検出する。本例では検出ユニット100はIMSセンサーを含み、以降ではIMSユニットと称することがある。イベント出力ユニット30は、それぞれのサンプリングポイントで得られた化学物質関連情報の変化により、イベントの発生および発生要因を判断(推定)し出力する。脅威監視ユニット40は、イベント出力ユニット30と並列に動作する。脅威となる化学物質が発見されたり、イベントの発生要因が脅威となるものであれば、アラーム発生ユニット59により、それを視覚および聴覚の少なくともいずれかにより認識するアラーム情報、たとえば、音や、光による警報により出力してもよい。
【0029】
嗅覚システム300において取り扱われる化学物質関連情報は、化学物質の存在により変化(変動)する情報である。検出ユニット100においては、IMSデータ115として上述したように、スペクトルおよび/またはスペクトルフィーチャを含む情報を出力する。このロボット犬1では、頭部2の正面10の鼻11の左右の孔12Lおよび12Rがサンプリング孔となっており、鼻11の後方の検出ユニット100に収納されている。
【0030】
ロボット犬1のその他の機能の概略を説明すると、まず、ロボット犬1は、足部5を動かすことにより自在な方向に移動することができる移動ユニット500を含み、中央制御ユニット(CCU)55によりイベント出力ユニット30から得られたイベント発生方向に向けてロボット犬1を移動させることができる。
【0031】
また、ロボット犬1は、イベントの発生方向の画像、音、当該ロボットの場所、発生方向の方位、流体の移動方向、当該ロボットの周囲の環境データの少なくともいずれかを含むイベント付属情報69を取得する付属情報取得ユニット60を有する。このロボット犬1は、頭部2の左右の眼の位置に左右の画像を取得する画像取得ユニット61Lおよび61Rを有する。画像取得ユニット61Lおよび61Rは、可視光領域の立体画像だけでなく、赤外線領域の立体画像を得ることができ、暗視能力を備えている。また、画像取得ユニット61Lおよび61Rは、距離測定機能を含む他の機能を備えていてもよい。また、ロボット犬1は、頭部2の左右の耳13の位置に左右の音(ステレオ音)を取得するマイクロフォン62Lおよび62Rを有する。ロボット犬1は頭部2を首部3に設けたアクチュエータ15により胴部4に対して左右上下に動かすことができる。したがって、頭部2をイベント発生方向に向けることにより、イベント発生方向の画像および音を得ることができる。
【0032】
さらに、ロボット犬1は、GPSユニット63を含み、ロボット犬1の地球上の位置をイベント付属情報69に含めることができる。また、ロボット犬1は、風向き、温度および湿度を含む環境測定ユニット64を含み、それらの情報をイベント付属情報69に含めることができる。
【0033】
ロボット犬1は、イベントの発生を含むイベント情報を外部に伝送する複数種類の通信ユニット200、201、210をさらに有する。まず、ロボット犬1は、尻尾7がFM、AMの周波数帯を用いたRF通信ユニット200となっている。また、左右の耳13が、大量情報を送受信するためのMIMOタイプの通信ユニット201となっている。さらに、鼻11が指向性通信インターフェイス211となっており、鼻11の後ろ側に指向性通信ユニット210が収納されている。指向性通信インターフェイス211は、レーザー通信用の半導体レーザーと、可視光通信用のLEDと、受光ユニットと、超音波通信用の超音波発生装置と、マイクロフォンとを含む。首部3のアクチュエータ15を動かすことにより指向性通信インターフェイス211を所望の方向に向けて通信範囲を限定することができ、通信精度を向上しやすい。また交換する情報を秘匿しやすい。
【0034】
これらの通信ユニット200、201および210を介してイントラネットまたはインターネットといったコンピュータネットワークにアクセスすることも可能である。したがって、ロボット犬1は、コンピュータネットワーク上にオープンされている様々な資源を利用できる。たとえば、IMSデータ115を、コンピュータネットワークを介して要因判別サーバーに送り、外部の資源を用いてイベントの発生要因を得ることができる。通信ユニット200、201および210により発生要因の推定のために外部のリソースを利用できるので、発生要因の推測精度を向上できる。
【0035】
また、これらの通信ユニット200、201および210を使って、ロボット犬1は、他のロボット犬と情報交換し、協調してイベントの発生元を特定したり、イベントの発生元が脅威の場合は、その脅威に立ち向かうことができる。複数のロボット犬1とイベント発生方向の情報を共有することによりイベントの発生元を精度よく特定できる。また、イベントの発生元が移動する場合には、その移動を追跡したり、発生元を包囲したりすることができる。
【0036】
ロボット犬1は、所定の匂いの発生元となる化学物質を放出する匂い出力ユニット400をさらに有する。移動中に適当な目印となる場所に、ロボット犬1を識別できる匂いを付けることにより、同様の機能を備えたロボット犬1に自己を追跡させることができる。人間が認識できない程度の匂いや、自然界の匂いと殆ど判別できないような匂いを用いて、ロボット犬1の移動経路などを間接的に他のロボット犬1に伝達できる。
【0037】
図2は嗅覚システム300の概略構成を示すブロック図である。嗅覚システム300は、サンプリングポイントにおける外気19に含まれる化学物質に関連する化学物質関連情報を第1タイプのセンサー、本例ではIMSセンサー110により取得する検出ユニット100と、特定の化学物質をIMSセンサー110により検出したときの特定パターン48を含むライブラリ49を格納したローカルメモリ41と、検出ユニット100により得られた化学物質関連情報(IMSデータ)115とライブラリ41に含まれるモニタリング用の特定パターン48とを定常的に比較する脅威監視ユニット40とを含む。脅威監視ユニット40は、得られたIMSデータ115とモニタリング用の特定パターン48とが合致したときに合致情報を出力する照合ユニット42を含む。
【0038】
特定パターン48は、IMSデータ115に含まれるIMSセンサー110の出力スペクトルの要素を示すスペクトルフィーチャ(スペクトル・シグネチャ、スペクトル特性、特徴)を含む。スペクトルフィーチャには、スペクトル・ピーク振幅、スペクトル・ピーク幅およびスペクトル・ピーク勾配、スペクトル・ピーク間隔、スペクトル・ピークの数、処理条件の変化によるスペクトル・ピークの相対的位置シフト、スペクトル不連続点、Vrf対Vcomp特性などが含まれ、これらに限定されるものではない。
【0039】
照合ユニット42は、IMSデータ115に含まれる出力スペクトルから特定パターン48のスペクトルフィーチャに対応する幾つかのパラメータを抽出し、ライブラリ49のスペクトルフィーチャと照合してもよい。また、照合ユニット42は、ライブラリ49のスペクトルフィーチャから照合用のスペクトルを合成し、パターンマッチングなどの技術用いてIMSデータ115と特定パターン48とを照合してもよい。
【0040】
嗅覚システム300は、さらに、得られたIMSデータ(化学物質関連情報)115の変化により、イベントの発生およびイベントの発生要因を出力するイベント出力ユニット30を有し、照合ユニット42は、イベント出力ユニット30と時分割または並列に動作する。嗅覚システム300は、さらに、通信ユニット200(他の通信ユニット201または210を用いてもよいが、以降においては、通信ユニット200を代表して説明する)を介してローカルメモリ41のライブラリ49に格納されている特定パターン48を自動的に更新する自動更新ユニット45をさらに有する。また、嗅覚システム300は、サンプリングポイントから取得された外気19を保存カプセル159に封入するサンプル保存ユニット50を有する。
【0041】
まず、検出ユニット100は、左右の孔12Lおよび12Rに共通のIMSセンサー110を含む。この検出ユニット100は、複数のサンプリングポイント12Rおよび12Lに共通のIMSセンサー110と、複数のサンプリングポイント12Rおよび12LからIMSセンサー110に対し流体(本例では空気(外気))19を時分割で供給する供給ユニット120と、外気19をサンプリングカプセル159に封入して保存できるサンプル保存ユニット50とを含む。左右の孔12Lおよび12RのそれぞれにIMSセンサー110を設置してもよい。
【0042】
IMSセンサー110は、吸引された外気19に含まれる化学物質を放射線、光、電場などを用いてイオン化するイオン化ユニット111と、イオン化された化学物質の移動量を制御する電界制御フィルター112と、イオン化された化学物質の移動量から外気19に含まれる化学物質に関連する情報としてIMSデータ115を出力するユニット113とを含む。
【0043】
供給ユニット120は、サンプリングポイントである左右の孔12Lおよび12Rから外気19を吸い込み排出口129から排出するための吸引ファン(吸引ポンプ)128と、それぞれの孔12Lおよび12RからIMSセンサー110に外気19を時分割で導くための管路130Lおよび130Rとを含む。左右の管路130Lおよび130Rは共通の構成であり、それぞれ吸引チェンバー121と、可動コネクター122と、IMSセンサー110に外気19を供給する供給管123と、供給管123をバイパスするバイパス管124と、IMSセンサー110から排気するための排気管125とを含む。可動コネクター122は、サンプリングポイントである鼻の孔12Lおよび12Rを±15度(これに限定されないが)程度左右上下に向きを変えられるようにするためのものである。したがって、首部3を動かさなくてもサンプリングポイント12Lおよび12Rの向きを変えることができる。
【0044】
左右の孔12Lおよび12Rにはシャットオフダンパー126が設けられており検出ユニット100を外気19に対して遮断できるようになっている。供給管123、バイパス管124および排気管125には、それぞれを分離できるようにダンパー127a〜127dが設けられている。検出ユニット100は、さらに、これらのダンパー126、127a〜127d、IMSセンサー110を制御する制御ユニット135を含む。
【0045】
たとえば、左側の孔12Lから外気19を吸い込んで分析する場合は右側の管路130Rのダンパー127a〜127dを閉じ、左側の管路130Lのダンパー127a〜127dを開いてラインをパージする。次に、右側の管路130Rのダンパー127a〜127dを閉じ、IMSセンサー110により左側の孔12Lから吸い込まれた外気19に含まれている化学物質を検出する。IMSデータ115は、イベント出力ユニット30および脅威監視ユニット40に供給される。
【0046】
イベント出力ユニット30および脅威監視ユニット40において、イベントおよび脅威が検出されなければ、上記と同様に右側の孔12Rから外気19を吸い込んで分析する。
【0047】
イベント出力ユニット30でイベントが検出されたにもかかわらず、イベント要因が推測できない場合は、外気19に含まれている化学物質は未確認またはIMSセンサー110において分析実績のない化学物質である可能性がある。したがって、制御ユニット135は、右側の孔12Rの分析に移行する前に、バイパス管124とサンプル保存ユニット50とを遮断していたダンパー155を開き、バイパス管124に蓄積されていた外気19をサンプル保存ユニット50によりサンプル保存カプセル159に封入する。そして、カプセル搬出ルート162を通してストッカ160に貯める。ストッカ160にストックされたサンプル保存カプセル159に封入された外気19を、後に、同型のIMSセンサー110と、高精度の適当なタイプの質量分析器などとを用いて解析し化学物質のデータベースに追加する。このようなプロセスを実行することにより、サンプリングした時点ではロボット搭載のIMSセンサー110では解析できなかった化学物質を、後に解析可能にすることができる。
【0048】
サンプル保存ユニット50は、上記のように自動的にサンプルをカプセル159に保存してもよく、ユーザーからの指示(遠隔指示)によりサンプルをカプセル159に保存するようにしてもよい。たとえば、検出ユニット100の機能を定期的に確認したり、ロボット犬1が置かれた環境を定期的にサンプリングして履歴として保存したりすることができる。
【0049】
イベント出力ユニット30は、それぞれのサンプリングポイント12Lおよび12Rでサンプリングされた外気19のIMSデータ115の変化によりイベントの発生を判断するイベント監視ユニット31と、要因推定ユニット32とを含む。化学物質関連情報であるIMSデータ115の変化は、サンプリングポイント12Lおよび12Rにおける外気19に含まれる化学物質の変化および/または化学物質の濃度変化の少なくともいずれかを示唆する。イベント監視ユニット31は、前回のサンプリングの際のIMSデータ115と、今回のサンプリングの際のIMSデータ115とを比較し、その差分が、イベント監視ユニット31に予め設定されているしきい値を超えるとイベントが発生したと判断する。
【0050】
この場合のイベントは、外気19に新たな化学物質が放出されたり、外気19に大量の化学物質が放出されたりすることであり、様々なものが含まれる。たとえば、匂いのあるものを置いたり、匂いが付随するものが現れたり、匂いが付随する事件を挙げることができる。匂い(臭い)は、人間が匂いとして感じられるものに限定されず、IMSセンサー110により検出可能な濃度の化学物質が外気19に含まれるものであればよい。匂いが付随するものには、汚染物質、爆薬、麻薬などの危険物、人間などの生物も含まれる。また、匂いが付随する事件には、発砲事件、火災なども含まれる。
【0051】
さらに、イベント出力ユニット30は、ロボット犬1に対するイベントの発生方向を判断する。イベント出力ユニット30は、ステレオタイプの物質検出情報を取得することによりイベントの発生方向を判断できる。複数のサンプリングポイントにおいて検出される化学物質の時間差および/または濃度差と複数のサンプリングポイントの3次元的な位置関係によりイベントの発生方向を判断(推定)できる。このロボット犬1においては、鼻11の左右の孔12Lおよび12Rをサンプリングポイントにしているが、さらに離れた位置にサンプリングポイントを設けることも可能である。たとえば、耳13の孔をサンプリングポイントにしたり、加えることにより、上下方向のイベントの発生方向の精度が向上する。
【0052】
物質を検出するためのサンプリングポイントを設ける位置は頭部2に限定されず、他の場所、たとえば、胴部4に設けてもよく、臀部6に設けてもよい。また、ロボット犬1に設ける物質検出ユニット100は1つに限定されず、頭部2、胴部4および臀部6にそれぞれ設けてもよい。
【0053】
要因推定ユニット32は、IMSデータ115に対応する種々のパターンを格納したデータベースを有し、パターンマッチングなどの解析技術を用いてIMSデータ115を解析し、IMSデータ115あるいはその変化の要因を推定する。また、要因推定ユニット32は、通信ユニット200を介してIMSデータ115を外部の資源、たとえば解析サーバーに送り、イベントの発生要因を得るものであってもよい。ロボット犬1は、イベントの発生元に近づくこと可能であり、より濃度の高い化学物質に対応するIMSデータ115を取得できる。したがって、イベントの発生要因の推定精度を向上させることができる。
【0054】
さらに、要因推定ユニット32は、付属情報取得ユニット60が取得可能なイベント方向の画像、音などのイベント付属情報69を用いてイベント要因の推定精度を向上する。画像、音などのイベント付属情報69を用いてIMSデータ115の検索対象となるパターンの検索範囲を限定し、イベント要因を推定するための処理時間を短縮することも可能である。
【0055】
脅威監視ユニット40はイベント出力ユニット30と並列に動作する。イベント出力ユニット30としての機能と、脅威監視ユニット40としての機能が共通のプロセッサ(CPU)により実現される場合は、共通のプロセッサを時分割で使用してもよい。また、ハードウェアを再構成可能なチップにイベント出力ユニット30および脅威監視ユニット40を実装する場合は、リソースが十分であれば並列に動作するように実装でき、リソースが不十分であれば時分割するように実装できる。
【0056】
脅威監視ユニット40は、探索対象の化学物質を含む要因がIMSデータ115と直に照合できる情報、または照合が容易な複数の特徴的なパラメータ(スペクトル・フィーチャ)に変換(逆変換)された特定パターン48を含むライブラリ49が格納されたローカルメモリ41と、特定パターン48とIMSデータ115とを定常的にパターンマッチングなどの解析技術により照合する照合ユニット42とを含む。IMSデータ115と直に照合できる情報の典型的なものは、探索対象の化学物質、あるいは探索対象自体から得られる匂い(臭い)をIMSセンサー110により検出したデータ(IMSデータ)である。照合ユニット42は、特定パターン48とIMSデータ115とが一致したとき、あるいはIMSデータ115に特定パターン48が含まれると判断したときに合致情報44を出力し、アラームを出力するなどの対応措置がとれるようにする。
【0057】
常時検索用のライブラリ49に特定パターン48を格納して定常的に探索(モニタリング)する対象の代表的なものは、人間に脅威となる有毒物質、爆薬、兵器、取引が禁止されている麻薬などの薬物、追跡対象となる犯罪者、行方不明者などである。それら探索対象に特有の匂いをIMSセンサー110が感知したときに出力されるIMSデータ115をローカルメモリ41に格納しておくことにより、ロボット犬1は、それらの探索対象を短時間で、いっそう効率よく発見できる。
【0058】
検出が一刻を争われる、脅威の要因となる化学物質の種類はそれほど多くない。また、ロボット犬1が対峙する可能性がある脅威の要因は、ロボット犬1の出動目的、場所などにより絞りこむことも可能である。一方、検出が一刻を争う場合、化学物質を検出するセンサーのタイプ(本例においてはIMSタイプのセンサー110)により異なる出力を汎用的なデータベースと比較するための処理時間が致命的になる可能性がある。
【0059】
この嗅覚システム300においては、化学物質を検出するために用いられているIMSセンサー110の出力(IMSデータ)115とダイレクトに、または特徴点の抽出だけで比較できる特定パターン48を格納したライブラリ49をアクセス時間の短い、たとえばキャッシュメモリなどのローカルメモリ41に格納している。したがって、照合ユニット42は、ライブラリ49を参照することにより、短時間で脅威が発生する可能性を判断できる。また、ライブラリ49に格納する特定パターン48の数を制限することにより、IMSデータ115とより比較しやすいデータ形式で特定パターン48をライブラリ49に格納できる。
【0060】
たとえば、非圧縮された特定パターン48をライブラリ49に用意することにより、伸長に要する時間を省くことができる。さらに、照合ユニット42の処理に要する時間およびリソースを低減できるので、他の処理、たとえば、要因推定ユニット32などとの並列処理または時分割処理も容易になる。したがって、脅威監視ユニット40により、定常的に脅威の要因の有無の可能性を短時間で判断できる。
【0061】
自動更新ユニット45は、常時モニタ用のライブラリ49に格納されている特定パターン48を自動的に入れ替える。自動更新ユニット45は、イベント出力ユニット30において得られたイベントの発生要因に基づき、ライブラリ49の特定パターン48を更新することができる。また、自動更新ユニット45は、イベント発生要因とともに、あるいは別に、イベント付属情報69に含まれる当該装置の周囲の画像および/または音、さらにはイベント発生方向の画像や音などにより状況を判断し、ライブラリ49の特定パターン48を更新できる。イベント付属情報を取得するユニットをさらに有する場合は、自動更新ユニット45は、イベント付属情報に基づき特定パターン48を更新できる。
【0062】
ライブラリ49に格納されている特定パターン48をロボット犬1の対面する状況に基づき更新することにより、脅威をいっそう確実に検出できる。また、ライブラリ49に格納されている特定パターン48を自動更新することにより、ライブラリ49に格納する特定パターン48の量をある程度制限できる。したがって、脅威検索に要する時間をさらに短縮できる。
【0063】
たとえば、特定パターン48に含まれる1つの化学物質が認識された場合、その化学物質と化学反応を起こし危険となる他の化学物質や、反応エネルギーや熱量が非常に大きく危険になる要素などを特定パターン48に含むように自動的に特定パターン48を更新できる。特定パターン48に含まれる1つの化学物質が認識(照合)された場合、その化学物質の存在比率が大きくなると危険な化学反応が発生する場合、その化学物質の濃度を頻繁に検証するように、特定パターン48を更新することも可能である。
【0064】
図3に、嗅覚システム300の典型的な制御をフローチャートにより示している。この制御はプログラム(プログラム製品)として、記録媒体に記録したり、コンピュータネットワークを介して提供することが可能である。
【0065】
ステップ701において、検出ユニット100のIMSセンサー110が複数のサンプリングポイントでサンプリングし、IMSデータ115を出力する。それと前後または並行して、ステップ702において、付属情報取得ユニット60が付属情報69を取得する。
【0066】
ステップ703において、サンプリングにより得られたIMSデータ115と、ローカルメモリ41のライブラリ49に含まれるモニタリング用の特定パターン48とを脅威監視ユニット40が定常的に比較・照合する。ステップ704において、IMSデータ115とモニタリング用の特定パターン48とが合致すると、ステップ705において合致情報44を出力する。ステップ705においては、脅威が発見されたので、通常アラーム出力に繋がる。脅威監視ユニット40の処理不可は上述したように軽い。したがって、CPUおよびメモリを含む中央制御ユニット55の処理能力を割いて行ってもよく、専用のプロセッサを設けてもよく、脅威監視を含む幾つかのジョブを並列に行う処理システムを設けておいてもよい。
【0067】
上記の脅威監視のプロセスと並列にまたは時分割で、ステップ711においてイベント出力ユニット30がIMSデータ115の変化により、イベントの発生を確認する。イベントの確認と並列に、または前後して、ステップ712において、自動更新ユニット45がイベント付属情報69に基づき特定パターン48の更新が必要と判断すると、ステップ713において特定パターン48が更新される。ロボット犬1が監視している場所や状況に応じて特定パターン48を更新できる。
【0068】
ステップ711においてイベントが検出されると、ステップ721において要因推定ユニット32はIMSデータ115に基づきイベントの発生要因を判断する。ステップ722において、中央制御ユニット55が、外部のサーバーなどの資源のサポートが必要であると判断すれば、ステップ723において、通信ユニット200などを介してイベント情報とともにイベント付属情報を外部へ伝送する。通信ユニット200を介して、得られたIMSデータ115を含むイベント発生情報を外部に伝送し、外部のサーバーなどからイベントの発生要因を取得してもよい。
【0069】
ステップ724において、自動更新ユニット45がイベントの発生要因に基づき特定パターン48の更新が必要であると判断すると、ステップ725において、通信ユニット200を介してローカルメモリ41のライブラリ49に格納されている特定パターン48を自動的に更新する。外部のサーバーあるいはロボット犬1のコントローラなどから、イベント発生要因とともに更新すべき特定パターン48が通信ユニット200を介して提供されてもよい。
【0070】
ステップ726において、イベントの発生要因が判明しないときは、中央制御ユニット55が、ステップ727において、サンプル保存ユニット50によりサンプリングポイントにおける流体を保存カプセル159に封入する。
【0071】
このように、この嗅覚ロボット犬1で特徴的なのは、非常に危険性の高い爆発物質や毒物、毒ガス、有害物質に対しての処理が優先的に行われる構造となっており、緊急時には、全ての分析を停止して、優先処理を実行するように反応させることができることである。
【0072】
さらに、ロボット犬1は専用の危険予知ユニットを独立して機能する脅威監視ユニット40を搭載し、これにより脅威となる事態を常時モニタリングする。ローカルメモリ41には、自分の探索目標となる化学物質のデータベースをローディングしておき、該当しない化学物質に遭遇した場合には、独自で、あるいは要因推定ユニット32を介してリモートでグローバル・データを参照してもよい。
【0073】
嗅覚ロボット犬1は、コントローラ側からの指示で複数のモードを切り替える事が出来る。対象となる化学物質やその系統の物質を分析する場合は、脅威監視ユニット40を利用でき、自分のローカル・メモリ41に探索データベース(ライブラリ)49を持って、照合ユニット42により短時間で参照することができる。データベース49は、複数のキーから探索が可能なRD構造を採用しており、類似の化学物質や化学変化が発生し易い中間反応物や副生成物等が探索空間上短距離になる構成を採用できる。
【0074】
さらに、ロボット犬1は、サンプル保存ユニット50により、グローバル・データに登録が無い場合は、新しい化学物質として登録できるようにしている。すなわち、要因が判断できない場合、物質検出ユニット100から外気19をそのまま排気せずに、サンプル保存ユニット50に切り替えて外気をカプセル159に保存する。これにより、既存の分析装置での分析結果と後で照合して登録することで、脅威を判断する特定パターン48の供給元となるデータベースの品質を向上できる。膨大な特定パターン48を含むデータベースを適切な品質で構築するには、この自動化システムが重要となる。IMSセンサー用のデータベースを効率よく充実させるために、既存の質量分析装置などの分析結果とIMSを使った分析結果との比較と差分情報を一致させる或いは吸収して補正するルールを構築できる。統計データを蓄積することで、IMSセンサー用の特定パターンを自動生成することを含むデータベース構築の自動化が実現する。
【0075】
新しい化学物質を検出した場合は、嗅覚ロボット犬1は、ネットワークを経由して、グローバルメモリに対して仮登録を行ってもよい。これは、後で、成分分析が実行されて物質の特定がされた場合に、正式登録とする方式である。化学物質のシグネチャが登録され、ある推定アルゴリズムにより、物質の推定が実行される。この推定は、統計処理と実際の物質特定結果により、アルゴリズムの修正と推定根拠(ルール)が修正されて確度が向上する方式を採用している。これを、化学物質の推定と学習と呼び、人間が化学物質の特定に関不する時間を短縮するのに貢献する。つまり、半自動化アルゴリズムから、自動化アルゴリズムへと進化させるのに貢献している。推定確度と学習効率を上げるポイントは、探索対象のシグネチャ情報だけでは無く、その場にある他の情報、例えば、湿度や温度、そこに存在している他のシグネチャとの相関性も含めた類推と実際の分析結果とのギャップを埋めるファクターを見つけ出す事が非常に重要になる。
【0076】
なお、以上では、自立して移動可能なロボットの例としてロボット犬1に搭載された嗅覚システム300を例に本発明を説明したが、嗅覚システム300は、他のロボット、携帯電話を含む携帯端末などの移動可能な装置、または固定された装置に搭載することが可能である。また、上記の嗅覚システム300は、複数のサンプリングポイントを含むが、1つのサンプリングポイントで採取された外気19に含まれる化学物質を検出するシステムであってもよい。
【0077】
また、ロボット犬1は地上を移動できるロボットの一例であるが、鳥型ロボットや、空中を浮遊あるいは飛行可能なロボットであってもよい。さらに、海上あるいは海中を移動するロボットであってもよい。また、上記では気体中の化学物質を検出する機能を含むロボットを例に説明したが、水中あるいは海中に含まれる化学物質を検出する機能を含むロボットであってもよい。さらに、脅威をモニタリングする機能は、IMSセンサー110などとともに携帯用の情報端末に実装したり、自動車、飛行機、船などの移動体に実装したり、家電に実装したり、ビルやホームセキュリティ用の製品に実装したりすることも可能である。
図1
図2
図3