(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記サービスされるセルにおける移動端末にパイロット信号を配分する前記ステップは、各タイプのセクタの内部の移動端末にそのタイプのパイロット信号だけが配分されるように実行される、請求項2に記載の方法。
前記基地局は3以上の再利用ファクタを有するネットワークの一部であり、前記基地局はパイロット信号の3つの相互に直交する再利用群の1つである配分された再利用群を有する、請求項1に記載の方法。
前記割り当てられたパイロット信号を送信する前記ステップは、あるタイプのパイロット信号を送信し、次いで、同じセルの新たなセクタに入った後で、異なるタイプのパイロット信号を送信するステップを含む、請求項8に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
ワイヤレス・ネットワークのスペクトル効率を改善するために空間多重化技術が使用可能であることは、長く知られている。(スペクトル効率とは、周波数単位当たりの伝送データ・レートを指し、典型的には、ビット/秒/Hzという単位で表される。)空間多重化の典型的な例では、送信アンテナの複数のアレイが、受信アンテナの複数のアレイに、メッセージの重ね合わせを送る。チャネル状態情報(CSI)、すなわち、それぞれの送信および受信アンテナ対の間のチャネル係数は、既知であると仮定される。それぞれのチャネル係数の間の相関が低い場合には、CSIが、伝送されるメッセージのそれぞれに対して準独立(quasi−independent)のチャネルを定義するために、送信機によって、または受信機によって、またはそれら両方によって、用いられることがあり得る。その結果として、個別のメッセージを、受信アンテナ・アレイにおいて回復することが可能である。
【0003】
より最近では、専門家たちが空間多重化技術の拡張を提案しており、その場合には、移動または静止している複数のユーザ端末(本明細書では「端末」とも称される)に対し、更に多くの数の基地局アンテナなどから、同じ時間周波数スロットにおいて同時にサービスされる。なお、本明細書では、基地局アンテナを「サービス・アンテナ」または単に「アンテナ」と称する。特に、サービス・アンテナの数が端末の数よりもはるかに多いときには、そのようなネットワークは、「大規模アンテナ・システム(LSAS)」と称されることがある。
【0004】
理論的研究によると、LSASネットワークの性能は、サービス・アンテナの数が増加するにつれて向上することが予想される。特に、スペクトル効率だけではなく、エネルギー効率もまた、向上する。(エネルギー効率とは、伝送された電力全体に対するデータ・スループット全体の比率を指し、例えば、ビット/ジュールという単位で測定される。)
【0005】
そのような研究の1つとして、T.L. Marzetta、「oncooperative Cellular Wireless with Unlimited Numbers of Base Station Antennas」、 IEEE Trans. on Wireless Communications 9、2010年11月、3590〜3600頁があり、本明細書では、以後、「Marzetta 2010」と称する。
【0006】
いくつかのアプローチでは、基地局が、時分割複信(TDD)相互性に依存する手順を通じてCSIを取得し得る。すなわち、端末は、パイロット・シーケンスをリバース・リンク上に送り、基地局は、それからCSIを推測することができる。そして、基地局は、CSIをビーム形成に用いることができる。このアプローチは、各端末に、相互に直交するパイロット・シーケンスの集合の中の1つを割り当てることが可能であるときに、うまく機能する。
【0007】
一般に、移動装置が、所与の周波数上に、および場合によっては全周波数上に、すべてのパイロット・シーケンスを同期的に送信しパイロット・シーケンスの相互直交性を利用するのが有利であると考えられている。
【0008】
しかし、利用可能な直交パイロット・シーケンスの数は比較的小さく、遅延拡散(delay spread)に対するコヒーレンス時間の比率を超えることはあり得ない。1つのセルの内部にある端末は、直交パイロット・シーケンスを用いることができるが、近隣のセルからの端末は、典型的には、同じパイロット・シーケンスの少なくともいくつかを再利用することを求められる。異なるセルにおいてパイロット・シーケンスをこのように再利用することのために、パイロット汚染の問題が生じる。パイロット汚染により、基地局は、同じセルに配置されている端末だけではなく、近隣のセルに配置されている端末にも、そのメッセージを含む信号を、ビーム形成(beam−form)することになる。これが、いわゆる、指向性干渉(directed interference)である。指向性干渉は、基地局アンテナの数が増加するにつれて消滅するということはない。実際、指向性のセル間の干渉は、所望の信号と共に、基地局アンテナの数に比例して増加する。
【0009】
例えばMarzetta 2010に示されているように、LSASネットワークにおいて基地局アンテナの数が増加するにつれて、パイロット汚染から生じるセル間干渉が、ついには、主な干渉源として現れることになる。
【0010】
ダウンリンク信号のプリコーディングを用いてLSASネットワークにおける指向性干渉を軽減するための方法が、2011年12月19日にA. AshikhminおよびT. Marzettaによって出願され、本出願の譲受人に譲渡され、同時係属中である「Large−Scale Antenna Method and Apparatus of Wireless Communication with Suppression of Intercell Interference」と題する米国特許出願第13/329834号に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の議論では、「メッセージ」という用語は、伝送されるデータの本体の全部または任意の一部を意味する。メッセージは、各シンボルが1つまたは複数のバイナリ・ビットの情報コンテンツを有する1つまたは複数のシンボルの形態で、エンコードされ得る。「モジュール」という用語は、任意の特定された回路もしくは回路の組合せ、または、マシン可読であるメモリに記録されている命令の任意の集合と、記録されている命令を実行することができる汎用もしくは専用の回路とを意味する。
【0017】
1つのチャネル使用間隔の間に基地局のアンテナ・アレイから送信されるメッセージ搬送信号は、本明細書では、「シンボル」と称される。シンボルは、空間および周波数の両方において分配され得るが、その理由は、各基地局が送信のために複数のアンテナを有し得ること、および、各シンボルが複数のOFDMサブキャリアまたは「トーン」にわたって分配され得ることによる。
【0018】
「アンテナ」という用語は、セルと関連する基地局のアンテナを指す。各セルは、最大でM個のアンテナを有する。「端末」という用語は、移動式のユーザ端末を指す。
【0019】
「パイロット信号」という用語と「パイロット・シーケンス」という用語は、特に断らない限り、相互に交換可能であるものとして用いられる。
【0020】
例証のためのシナリオにおいて、ネットワークは総数でL個のセルを有する。便宜的に、各セルがn人のユーザを含むと仮定する。ネットワークで用いられるパイロット信号の総数は、K≧nである。パイロット信号には、1からKまでの番号が付されている。所与のセルにおけるユーザは、k=1,・・・,nである、直交するパイロット信号v
kを送信する。形式論では、パイロット信号は、行ベクトルとして表現される。各行ベクトルは、複素数であるベースバンド信号値のシーケンスを表している。実装例では、このシーケンスは、時系列である。他の実装例では、このシーケンスは、例えば、時間と周波数との両方にわたるシーケンスでもあり得る。すなわち、このシーケンスの要素は、時間および周波数ビンにおいて、伝送され得る。「直交」とは、2つのパイロット信号v
rおよびv
jが与えられたときに、r≠jであるならば、積v
r・v
j*がゼロに等しいことを意味する。この表記法では、ベクトルv
*とは、ベクトルvの複素共役の転置であり、記号「・」によって表される演算は、ベクトルの内積である。
【0021】
ここでの例証のために、同じパイロット信号がすべてのセルで再利用されること、および、同じパイロット信号が、各セルにおいてk番目の端末にパイロット信号kが配分されるように、端末に配分されることを仮定する。後で、異なるセルが異なるグループのパイロット信号に配分されるシナリオについて説明する。
【0022】
この表記では、アンテナmiとは、セルiのm番目のアンテナである。端末klとは、セルlのk番目の端末である。
【0023】
トーンτに対しては、アンテナmiと端末klとの間のチャネル係数は、
【0024】
【数1】
であり、ここで、積を構成する第1の項は高速フェージングに対するチャネル係数であり、積を構成する第2の項は低速フェージング係数である。以下、トーン指数τは、表記から割愛する(suppress)。従って、l番目のセルにおけるk番目のユーザ端末が信号sを送信する場合、i番目の基地局によってM個のアンテナから構成されるそのアレイを経由して受信される対応の信号を、
【0026】
【数3】
は、複素数値チャネル・ベクトル(complex−valued channel vector)であり、この表記では、h
Tは、ベクトルhの転置である。
【0027】
高速フェージング係数は、一般に、空間および時間にわたる急速な変動を示す。特に、高速フェージング係数は、わずかにユーザ端末による運動の1/4波長の程度の変化をし得る。高速フェージング係数は、典型的には、チャネル遅延スプレッドの逆数である周波数間隔にわたって変動する。
【0028】
対照的に、低速フェージング係数は、幾何学的減衰とシャドウ・フェージングとの組合せに起因するのが一般的であるが、関連する周波数範囲にわたりほぼ一定であり、空間および時間にわたりゆっくりと変動する。これと対照的に、高速フェージングは、空間および時間にわたり急速に変化するのが典型的である。
【0029】
従って、係数h
miklは、移動端末がそのパイロット信号を送信するたびに、例えば、パイロット信号から係数g
τmiklを取得し、係数
【0030】
【数4】
の既知の値から係数h
miklを推測することによって、適切に推定される。例えば、係数h
miklを更新するのに用いられるものよりも低い頻度で送信される特別設計のパイロット信号を用いて、係数
【0031】
【数5】
を更新するために、別個の手順が用いられることもあり得る。
【0032】
図1は、セル10〜13を含み、それぞれの基地局20〜23を有するセルラ・ネットワークの一部を示している。複数の移動端末が各セルにおいて示されており、それぞれが、30〜33、40〜43、50〜53、および60〜63とラベル付けされている。図面を簡略化するため、基地局のそれぞれは、単一のアンテナだけを有するものとして扱われる。
【0033】
順方向リンクの伝送では、基地局20は、例えば、メッセージを端末30まで経路70の上を伝送する。端末40、50、および60に端末30と同じパイロット信号が割り当てられている場合には、パイロット汚染のために、伝送されているメッセージが、端末40、50、および60それぞれへの経路71、72、および73に対して干渉を生じる。
【0034】
逆に、逆方向リンクの伝送では、端末30が、メッセージを、経路70の上を基地局20まで伝送する。(この例証の目的のために、経路70〜73を双方向性であるとして扱う。)パイロット汚染が、経路71〜73上の逆方向リンクのメッセージに、基地局20において干渉を生じさせ得る。なお、逆方向リンクのメッセージは、端末30から経路70上を伝送される。パイロット汚染に関しては、後で、更に詳細に論じられる。
【0035】
図2は、セル100および101を含むセルラ・ネットワークの一部を示す。高速フェージングおよび低速フェージング係数とは何を意味しているのかを図解するため、この図には、セル100の基地局アンテナ・アレイ110と、セル100の移動端末kと、セル101の移動端末k’とを含めてある。図を簡略化するため、セルに関する他の特徴はすべて省略されている。図に示されているように、セル100は、ここでの例証のためには、セルiであり、セル101はセルlである。アンテナ・アレイ110はM個のアンテナを含んでおり、その中のアンテナ1とアンテナMとが、明示的に示されている。アンテナ・アレイ110は便宜的に直線的なアレイとして描かれているが、アンテナの地理的分布が直線的形状を有するのか、または、何らかのそれ以外の特定の形状を有するのかに関して、要件は存在しないことに注意すべきである。同様に、直線的なアンテナ・アレイの縮尺は、単に便宜的理由により、セルのサイズに匹敵するように描かれている。アンテナ・アレイの地理的縮尺に関しては何の制限も存在しないが、例外として、アンテナ間の電磁気的結合を最小化するために、少なくとも波長の2分の1だけアンテナを離隔させることが一般的に有利である。
【0036】
図を参照すると、アンテナ1から端末k、アンテナ1から端末k’、アンテナMから端末k、アンテナMから端末k’という伝搬経路には、高速フェージング係数h
1iki、h
1ik’l、h
Miki、およびh
Mik’lというラベルがそれぞれ付されている。2つの低速フェージング係数もまた、この図に示されている。それらは、アンテナ・アレイ110からセルiの端末kまでが、
【0037】
【数6】
であり、アンテナ・アレイ110からセルlの端末k’までが、
【0038】
【数7】
である。アレイ110の中間的なアンテナからそれぞれの端末までの他の高速フェージング係数は、この図では、単に破線によって示されている。
【0039】
例証のためのネットワークは、順方向リンクおよび逆方向リンクの両方の信号のために、OFDM信号変調を用いることがあり得る。しかし、本発明は、OFDMに限定されることはなく、シングル・キャリアFDMA、時間反転(time−reversal)変調またはCDMA変調など、他の変調技術を用いて実装され得る。
【0040】
基地局当たりのアンテナの個数Mは、1から数百または更に大きな個数まで任意の値をとり得る。しかし、20個未満の全方向性アンテナや、セクタ当たり20個未満の指向性アンテナでは、後述される信号平均化型の完全な利益を実現するには不十分な場合があり得る。他方で、基地局当たり1000個を超えるアンテナは、パフォーマンスを最適化するためには優れていても、空間および費用に関する制約からは実際的でない可能性がある。
【0041】
時分割デュープレックス(TDD)ネットワークでは、基地局は、それ自身のセルにおけるユーザ端末から受信するパイロット信号から、チャネル係数を推定できる。基地局は、推定されるチャネル係数を用いて、ダウンリンク信号をユーザ端末に送信する前にプリコードすることができる。マルチアンテナ・アレイを備えている基地局におけるプリコードの使用目的は、ダウンリンク信号をビーム形成することにより、特定のユーザを宛先とする伝送におけるエネルギーがそのユーザに対して優先的に向けられることである。
【0042】
更に具体的には、l番目の基地局は、それ自身がサービスするユーザ端末から同時に送信されたパイロット信号v
k、k=1,・・・,n、の和を受信し、それらを用いて、それらをパイロット信号の既知の値と比較することによって、それぞれのユーザへの対応するチャネル・ベクトルの推定値
【0043】
【数8】
k=1,・・・,n、を形成する。その所与のセル内部からのパイロット信号v
k、k=1,・・・,n、は相互に直交しているから、これらのパイロット信号は相互に汚染することはなく、よって、基地局は、それ自身のセルの内部にあるユーザ端末との関係でバイアスのない推定値を取得することができる。それらがネットワーク全体の内部で所与の時刻において送信されたパイロット信号に過ぎない場合には、推定値は、他のセルのユーザ端末との関係でも、バイアスが存在しないことになる。
【0045】
【数9】
k=1,・・・,n、を用いて、端末rを宛先とするメッセージが異なる端末jを宛先とするメッセージと干渉しないように、それがサービスするユーザ端末のn個すべてに、プリコードされたメッセージを同時に送信する。前述のようにこの点に関して有用なプリコード方法の1つにゼロ強制(zero−forcing)プリコードがあり、これについては、例えば、T. L. Marzetta、「How much training is required for multiuser MIMO?」、Proceedings of Asilomar Conference on Signals, Systems, and Computers、(2006)、359〜363頁に記載されている(以後は、Marzetta 2006)。このようにして、セル間の干渉を防止し得る。
【0046】
典型的なシナリオでは、パイロット信号は、ネットワークのすべてのセルにおいて、ユーザ端末から同時に送信される。上述したように、異なるセルがパイロット信号の異なり相互に直交する集合を用いることが一般的には実行可能ではないことについては、実際的な理由が存在する。結果的に、更なる詳細については後で説明されるように、所与のセルの基地局によって取得されるチャネル推定値は、一般に、他のセルのユーザ端末との関係で、バイアスがかかっている。そのようなバイアスは、「パイロット汚染」と称される。
【0047】
例えばMarzetta 2010で報告されている従来の研究において、アンテナの個数Mが非常に多くなると、ネットワークのパフォーマンスから、加法性雑音を原因とする劣化が実質的に存在しなくなることが、示されている。しかし、データ伝送レートを更に増加させるには、ある深刻な障害が残っている。その障害とは、パイロット汚染によって生じるセル間の干渉である。
【0048】
パイロット汚染に関するより詳細な理解は、例証のためのネットワークを考察することによって得られ、このネットワークでは、パイロット信号の同じ集合がすべてのセルで再利用され、したがって、セル1におけるk番目のユーザ端末がパイロット信号v
kを用いると、隣接するセル2およびすべての他のセルにおいて、同じパイロット信号v
kを用いるユーザ端末kも存在することになる。
【0049】
図3のセルjとセルlとを特に参照すると、パイロット信号v
kの再利用により、推定値
【0051】
【数11】
が、相互にバイアスがかかることになる。この汚染のため、基地局j(すなわち、セルjの基地局)からセルjの端末kへの信号は、
図4に図解されているように、セルlの端末kへの強い干渉400を生じる。同様に、基地局l(すなわち、セルlの基地局)からセルlの端末kへの信号は、セルjの端末kへの強い干渉400を生じる。この現象に関する詳細な解析は、例えば、Marzetta 2010およびJ. Joseら、「Pilot contamination problem in multi−cell TDD systems」、Proc. Int. Symp. on Information Theory、(2009)、2184〜2188頁(以後、Jose 2009)において、見つけることができる。
【0053】
【数12】
によって、j番目の基地局とl番目のセルのk番目の端末との間の低速フェージング係数を表す。そして、p
jkによって、j番目の基地局がj番目のセルのk番目の端末への伝送に用いる電力を表す。
【0054】
Marzetta 2010には、
図4に示されているように、基地局アンテナの個数Mが無限大に近づくと、j番目の基地局は、l番目のセルのk番目の端末への干渉p
jkβ
jklを生じることが示されている。結果的に、l番目のセルのk番目の端末の信号対干渉比(SIR)は、
【0055】
【数13】
で表される。ここで、分母の総和は、セルlを除くネットワークのすべてのセルにわたって、なされる。
【0056】
シミュレーションによると、低速フェージング係数の典型的な値に対して、そして、等しい伝送電力(すなわち、すべてのlおよびkに対して、p
lk=p)に対して、また帯域幅が20MHzであると仮定すると、ユーザの95%に対するSIR
lkは、−29dBよりも大きくなる。データ伝送レートに関しては、これは、ユーザの95%が、
R
95%>0.016Mbit/s (2)
のデータ伝送レートでサービスを受けることができることを意味している。
【0057】
セル間の干渉レート(intercell interference rates)を更に減少させることができる場合には、更に大きなデータ伝送レートが提供され得る。セル間の干渉を削減することができる既知の方法は、周波数の再利用である。例えば、再利用ファクタが3である周波数再利用スキームでは、使用可能な周波数帯域は、タイプA、B、およびCのサブバンドとそれぞれが称される3つのサブバンドに区分される。また、セルも、どのセルも最も近接する隣接セルがどれも同じタイプではないように画定されている地理的パターンとして、3つの対応するタイプに区分される。各セルは、伝送のために、それ自身のタイプである周波数サブバンドだけを用いる。従って、異なるタイプのセルは、相互に直交する周波数帯域の上で動作し、従って、相互に干渉しない。同じタイプのセルは、潜在的には相互に干渉することがあり得るが、干渉しているセルの間の地理的な分離のために、干渉エネルギーが減衰される。
【0058】
周波数再利用スキームは、いくつかの長所を有するのではあるが、著しいコストも要する。すなわち、各基地局はあるサブバンドにおいてのみ送信することが許されているため、データ・ダウンロードのためのものを含むダウンリンク伝送は、それ以外の場合に利用可能である全帯域幅のごく一部に制限される。帯域幅が制限されていることの結果として、ダウンリンク上の可能な最大のデータ伝送レートも同様に制限される。
【0059】
1つの新たな解決策として、周波数を再利用する代わりに、または、周波数を再利用することに加えて、パイロット信号を再利用することがある。上述したように、セルは、どのセルも最も近接する隣接セルがどれも同じタイプではないように画定されている、すなわち、隣接するセルが常に異なるタイプとなるように画定されている地理的パターンとして、様々なタイプに区分される。パイロット信号の集合も同様に区分され、各セルには、それ自身のタイプのパイロット信号だけが配分される。この場合、パイロット汚染は、同じタイプのセルの間でのみ、生じ得る。そのようなセルは地理的に分離されているから、パイロット汚染の量は減少する。
【0060】
そのようなパイロット再利用スキームに対する可能性のある1つの反論は、各セルにはパイロット信号の総数のごく一部だけが配分されているのであるから、セルがサポートすることができるユーザ端末の総数が同様に減少する、ということである。
【0061】
その問題の解決策は、各セルを4つまたはそれより多くのセクタに更に分割し、ダウンリンク伝送エネルギーとアップリンク受信感度とを対応するセクタの内部に集中させるために指向性アンテナ・アレイを用いることを必要とする。これにより、ダウンリンク伝送は、選択されたセクタに優先的に向けられ、アップリンク伝送は、対応するアンテナ・アレイを経由して各セクタから優先的に受信される。本明細書で用いられる「アンテナ・アレイ」という用語は、協調的な態様で共に動作する1つまたは複数のアンテナを意味する。
【0062】
上述したようにセクタに分けられているセルでは、パイロット信号は、同じセルの内部にあるユーザ端末という母集団の間でそれらを再利用することによって、保存され得る。すなわち、異なるセクタを占有する2つのユーザ端末によって同じパイロット信号が用いられても、それぞれのセクタのために機能しているアンテナ・アレイがセクタの間のクロストークの可能性を実質的に排除するのに十分であるほどの指向性を有している場合には、干渉を生じない。隣接するセクタについてこれを達成するのは難しいかもしれないが、非隣接のセクタについてであれば、これを達成するのは現在の技術の能力範囲内である場合が多いと考えられる。
【0063】
例えば、
図5は、1つのセルが、それぞれが60°である6つのセクタ501〜506に区分されている様子を示している。各セクタは、指向性アンテナのアレイ510によって、サービスを受ける。(指向性「アンテナ」とは、限定を意味することはないが、1つのアンテナであるか、または、個別の要素は指向性であることも指向性ではないこともあり得る複数のアンテナから構成される指向性のサブアレイであり得る。)例証のために、各セクタにおける3つの指向性アンテナから構成されるアレイを示している。一般に、そのセルのための指向性アンテナの総数がMならば、各セクタにおける指向性アンテナの数はM/6になる。
【0064】
図5の例を更に参照すると、パイロット信号の集合全体は、相互に直交する6つの組v
1、v
2、v
3、v
4、v
5、v
6で構成されている。各セクタの内部において、ある所与の時刻では、ただ1つのユーザ端末だけがサービスを受ける必要があるという単純化のための仮定の下では、図示されているように、パイロット信号v
1を、セルのセクタの中の3つに配分し、パイロット信号v
2を残りの3つのセクタに配分する。
図5の矢印520によって図解されているように、アンテナ・アレイの不完全な指向性に起因して、隣接するセクタの間で何らかの著しいオーバラップが生じる可能性がある。しかし、非隣接のセクタの間には高い程度の分離が可能であると考えられる。従って、この例では、パイロットv
1とパイロットv
2との間でセクタが交互に生じていることにより、セルの全体で2つのパイロット信号だけが用いられているにもかかわらず、セル間の干渉が防止される。
【0065】
引き続き同じ例を考察するのであるが、今度は
図6を参照すると、ネットワークのセルを3つのそれぞれのタイプA、B、およびCに区分されている様子が図解されている。タイプAのセルにはパイロット信号v
1、v
2が配分され、タイプBのセルにはパイロット信号v
3、v
4が配分され、タイプCのセルにはパイロット信号v
5、v
6が配分されている。既に論じた周波数再利用パターンの場合のように、この区分は、どのセルも同じタイプである最も近接する隣接セルを有しないように、すなわち、セルの隣接する対はどれも同じタイプを有することがないように、画定された地理的パターンでなされている。「パイロット再利用群」という用語は、特定のタイプのセルに配分されたパイロット信号の集合を指すものとして用いられる。
【0066】
図6のパイロット信号配分パターンでは、パイロット信号は、同じタイプのセルの間においてだけ干渉を生じることがわかる。そのようなセルは相互から地理的に分離されているから、結果的なパイロット汚染は、実質的に減少する。
【0067】
セル当たりのアンテナ数が無限大に近づく場合の極限では、パイロット再利用スキームにおけるl番目のセルのk番目の端末のSIRは、
【0068】
【数14】
である。なお、分母における総和が方程式(1)と異なっている。その理由は、潜在的に干渉するセルについてだけ、すなわち、l番目のセルと同じ(すなわち、同じパイロット再利用クラスに属する)タイプのセルについてだけ、総和がとられているからである。
【0069】
シミュレーションによると、低速フェージング係数の典型的な値について、および、等しい送信電力(すなわち、すべてのlおよびkに対して、p
lk=p)については、ユーザの95%に対するSIR
lkは、−5.8dBよりも大きいことが示される。データ伝送レートに関しては、帯域幅が20MHzであると仮定すると、これは、ユーザの95%が
R
95%>2.67Mbit/s (4)
というデータ伝送レートでサービスを受け得ることを意味する。
【0070】
方程式(2)と方程式(4)とを比較すると、パイロット再利用スキームは、従来型の全方向TDDシステムに対して、データ・レートが約166倍になるという改善に至ることが可能である。
【0071】
図5では、各セルの各セクタにただ1つのパイロット信号が配分されるという単純化された例を提供した。当業者であれば容易に理解するように、各セクタに配分されるパイロット信号がそのセルの隣接するセクタに配分されるパイロット信号と直交するのであれば、複数のパイロット信号を同様に各セクタに配分することが可能である。別の表現をするならば、所与のセルに配分された再利用群は、2つまたはそれよりも多くの異なるタイプの部分群に区分され、セルは、2つ以上の対応するタイプのセクタに分割される。パイロット信号の各部分群は、それ自身タイプのセクタにだけ、配分される。
【0072】
図6の例では、各セルは6つのセクタに分割され、パイロット信号の異なる集合を用いるセルには3つのタイプ(すなわち、再利用クラス)が存在するため、ネットワークが有する再利用ファクタは3であることが認識されるであろう。より一般的には、セルは、4つという少ないセクタに分割されることがあり(例えば、セルがほぼ正方形であるとき)、すると、
図7の例示的なチェッカーボード・パターンにおいて示されているように、再利用ファクタは2まで低くなることがあり得る。
【0073】
他方で、セクタの数は、8またはそれより更に大きな個数まで、大きくなることがあり得る。これに関しては、所与のセクタを占有するユーザの数がそのセクタに配分されたパイロット信号の数よりも多い場合には、ユーザは、直交する時間スロットでそれを送信することによって、同じパイロット信号を共用することがあり得る、ということに注意すべきである。しかし、共用されているパイロット信号当たりのユーザが非常に多い場合には、その種のタイムシェアリングは、大きなサービス遅延を生じさせる可能性がある。そのような問題は、セクタの数を増加させることによって、セクタ当たりのユーザ数を減少させ、共用されるパイロット信号に対する需要を少なくすることによって、緩和することができる。
【0074】
高度のセクタ化、すなわちセルを8、10、またはそれよりも多くのセクタに分割することに伴って生じる可能性がある短所は、基地局で用いられるアンテナの総数が固定されていると、セクタ化が高度化するにつれて、セクタ当たりのアンテナ数が少なくなるということである。上述したように、Marzetta 2010の分析には、基地局のアンテナ数が無限大に近づくと、パイロット汚染から生じるセル間の干渉が、他のソースからの干渉が減少するにつれて支配的になり、高速フェージング係数ではなく低速フェージング係数に従属する値に近づくことが示されている。これらの好ましい傾向は大規模なアンテナ・アレイ全体にわたる平均化の結果であるから、セクタ当たりのアンテナ数が減少すると、干渉削減に関するそれらの利点も急速に低下することが予想される。
【0075】
そのようなトレードオフがセクタ化の程度を選択する際に適用されるため、局所的なセクタ化を伴うように、すなわち、セクタ化の程度がネットワーク全体で変動するように、いくつかのネットワークを構成することが、有利であり得る。例えば、
図8には、セルが4つ、6つ、または8つのセクタを有し得るような仮定的なネットワークの概略が示されている。この図において見られるように、3つのパイロット再利用クラスが存在していて、それぞれが、パイロット部分群AおよびB、CおよびD、ならびにEおよびFから構成されている。
【0076】
いくつかのセルは、セクタ化の程度が可変であるように構成可能であり得る。これは、例えば、基地局のアンテナの構成を変動させることによって、達成可能であり得る。このようなセルによると、セクタの数を増加させることに起因するパフォーマンス向上と固定された数のアンテナをそれよりも多数のセクタにわたって分割することに起因するパフォーマンス低下との間のトレードオフを最適化するセクタ化を選択することが可能になる。