(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6013656
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】ねじの加工方法
(51)【国際特許分類】
B21H 3/08 20060101AFI20161011BHJP
B21H 3/10 20060101ALI20161011BHJP
B21H 3/06 20060101ALI20161011BHJP
B23G 1/16 20060101ALI20161011BHJP
B23G 9/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
B21H3/08
B21H3/10 Z
B21H3/06 A
B23G1/16 Z
B23G9/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-523336(P2016-523336)
(86)(22)【出願日】2016年1月28日
(86)【国際出願番号】JP2016052430
【審査請求日】2016年4月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227157
【氏名又は名称】日鍛バルブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【弁理士】
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 悠
(72)【発明者】
【氏名】亀田 美千広
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅章
【審査官】
福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−288456(JP,A)
【文献】
実開平3−33024(JP,U)
【文献】
特開2001−9637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21H 3/00−3/12
B23G 1/16
B23G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削加工により加工材料にねじ山を形成し、次いで、そのねじ山の表面を転造加工により塑性変形させるねじの加工方法において、
前記切削加工により、前記ねじ山の先端部の両側面間の幅を、該ねじ山先端部の正規の両側面間の幅よりも狭めた状態で該ねじ山の先端に向うに従って次第に狭めると共に、該ねじ山の先端部よりも基端側の本体部において、該ねじ山本体部の両側面間の幅を該ねじ山本体部の正規の両側面間の幅よりも拡張することにより、該ねじ山本体部の各側面を、該ねじ山本体部の正規の各側面よりも余肉部分だけ膨らむものとしてそれぞれ形成し、
前記転造加工により、前記ねじ山本体部の両側面を塑性変形させて、前記余肉部分を前記ねじ山先端部の各側面に向けてそれぞれ塑性流動させる、
ことを特徴とするねじの加工方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記切削加工により、前記ねじ山先端部を、その先端に向けて尖った形状に形成する、
ことを特徴とするねじの加工方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記切削加工により、前記ねじ山先端部の各側面と該ねじ山先端部の正規の各側面との間において形成される欠肉空間と、該ねじ山本体部の各側面と該ねじ山本体部の正規の各側面との間に形成される余肉部分とに関し、互いの体積を近づけたものとする、
ことを特徴とするねじの加工方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記加工材料を円筒体とし、
前記円筒体の内周面に、切削タップを用いることにより前記切削加工を行って、該円筒体内周面に雌ねじを形成し、
前記雌ねじにおけるねじ山の本体部側面に、転造タップを用いることにより前記転造加工を行う、
ことを特徴とするねじの加工方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記加工材料を軸状体とし、
前記軸状体の外周面に、ねじ切り加工用ダイスを用いることにより前記切削加工を行って、該軸状体外周面に雄ねじを形成し、
前記雄ねじにおけるねじ山の本体部側面に、転造用ダイスを用いることにより前記転造加工を行う、
ことを特徴とするねじの加工方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記切削加工により、前記加工材料に多条ねじを形成し、
前記多条ねじにおけるねじ山に対して前記転造加工を行う、
ことを特徴とするねじの加工方法。
【請求項7】
請求項1において、
前記転造加工の後、熱処理を行って、ねじ山の表面硬度を、該熱処理前の状態よりも高める、
ことを特徴とするねじの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじの加工方法には、特許文献1に示すように、切削加工により加工材料にねじ山を形成し、次いで、そのねじ山の表面を転造加工により塑性変形させるものがある。具体的には、加工材料としての円筒体の内周面にねじを形成するに当たって、切削タップを用いることにより、円筒体の内周面に雌ねじを形成し、次に、転造タップを用いることにより、その雌ねじにおける各ねじ山の表面を塑性変形させて、有効径の雌ねじを形成するものとされている。
このねじの加工方法を用いて形成されたねじは、ねじ山の表面が加工硬化されることになり、所定の強度を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−162576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記ねじの加工方法においては、転造加工時に、ねじ山の左右両側面に関して、その略全面が押圧されることから、加工材料の一部がねじ山の左右両側面からねじ山の先端部外方に向けて押し上げられることになり、ねじ山の先端部には、その左右両側において突出部が張り出した状態でそれぞれ形成され、その左右両突出部間に空洞(凹所)が形成される構造となる(特許文献1の
図2参照)。このため、ねじ山の先端部構造は、突出部が折損するおそれがあるものとなり、仮に、その突出部が折損した場合には、その折損した突出部が原因となって、当該ねじを使用する装置、機器が誤作動するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、転造加工を行うとしても、ねじ山の先端部に突出部が形成されることを防止できるねじの加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために本発明にあっては、(1)〜(7)の構成とされている。すなわち、
(1) 切削加工により加工材料にねじ山を形成し、次いで、そのねじ山の表面を転造加工により塑性変形させるねじの加工方法において、
前記切削加工により、前記ねじ山の先端部の両側面間の幅を、該ねじ山先端部の正規の両側面間の幅よりも狭めた状態で該ねじ山の先端に向うに従って次第に狭めると共に、該ねじ山の先端部よりも基端側の本体部において、該ねじ山本体部の両側面間の幅を該ねじ山本体部の正規の両側面間の幅よりも拡張することにより、該ねじ山本体部の各側面を、該ねじ山本体部の正規の各側面よりも余肉部分だけ膨らむものとしてそれぞれ形成し、
前記転造加工により、前記ねじ山本体部の両側面を塑性変形させて、前記余肉部分を前記ねじ山先端部の各側面に向けてそれぞれ塑性流動させる構成とされている。
【0007】
この構成によれば、転造加工により、ねじ山本体部の両側面間幅が正規の両側面間幅となる一方、正規の本体部側面よりも膨らむ余肉部分が、転造加工に基づく塑性流動により、ねじ山先端部の両側面に案内されつつその先端部両側面上に重なるように押し上げられることになり、ねじ山先端部の両側面は、正規の先端部両側面間の幅となるように膨らむ。しかもこのとき、上記塑性流動がねじ山先端部の両側面に案内される関係にあることから、その塑性流動に基づく塑性変形層の一部(塑性変形部分)がねじ山先端部の幅方向両側からそのねじ山先端部外方に向けて張り出すことが抑えられ、そのねじ山先端部の基本形状が維持される。このため、余肉部分の塑性流動に基づき、ねじ山先端部に、空洞を間に挟むようにした状態で突出部が形成されることを抑制できる。
勿論この場合、転造加工前に切削加工が行われて、転造加工の加工抵抗を減らすことができ、転造加工を容易に行うことができる。このため、転造加工に基づき、ねじ山の面粗さ及びリード精度を十分に高めたねじ構造を製造できる。
【0008】
(2)前記(1)の構成の下で、
前記切削加工により、前記ねじ山先端部を、その先端に向けて尖った形状に形成する構成とされている。
この構成によれば、余肉部分が、尖ったねじ山の先端部側面に沿いつつ、その長くなった先端部側面上に塑性流動することになり、その余肉部分を、塑性変形層として、その尖ったねじ山形状の両側面に重ねた状態で配置できる。このため、尖ったねじ山の基本形状を維持することができ、ねじ山先端部の幅方向両側において突出部が形成されることを、一層確実に抑制できる。
【0009】
(3)前記(1)の構成の下で、
前記切削加工により、前記ねじ山先端部の各側面と該ねじ山先端部の正規の各側面との間において形成される欠肉空間と、該ねじ山本体部の各側面と該ねじ山本体部の正規の各側面との間に形成される余肉部分とに関し、互いの体積を近づけたものとする構成とされている。
この構成によれば、本体部側面の余肉部分を欠肉空間に塑性流動させて、ねじ山先端部の各側面をねじ山先端部の正規の各側面とすることができ、ねじ山を的確に正規のねじ山形状とすることができる。
【0010】
(4)前記(1)の構成の下で、
前記加工材料を円筒体とし、
前記円筒体の内周面に、切削タップを用いることにより前記切削加工を行って、該円筒体内周面に雌ねじを形成し、
前記雌ねじにおけるねじ山の本体部側面に、転造タップを用いることにより前記転造加工を行う構成とされている。
この構成によれば、転造タップを用いて転造加工を行う場合であっても、ねじ山先端部での突出部の形成防止を図りつつ、雌ねじを具体的に形成できる。
【0011】
(5)前記(1)の構成の下で、
前記加工材料を軸状体とし、
前記軸状体の外周面に、ねじ切り加工用ダイスを用いることにより前記切削加工を行って、該軸状体外周面に雄ねじを形成し、
前記雄ねじにおけるねじ山の本体部側面に、転造用ダイスを用いることにより前記転造加工を行う構成とされている。
この構成によれば、転造加工によって軸状体外周面に雄ねじを加工する場合においても、前記(4)と同様の作用効果を得ることができる。
【0012】
(6)前記(1)の構成の下で、
前記切削加工により、前記加工材料に多条ねじを形成し、
前記多条ねじにおけるねじ山に対して前記転造加工を行う構成とされている。
この構成によれば、リードが長い多条ねじを形成する場合であっても、転造加工前の切削加工により転造加工の加工抵抗を減らすことができ、多条ねじの形成に当たり、転造加工を用いることができる。このため、転造加工の特性を有効に利用し、面粗さ及びリード精度を十分に高めた多条ねじを容易に製造できる。
【0013】
(7)前記(1)の構成の下で、
前記転造加工の後、熱処理を行って、ねじ山の表面硬度を、該熱処理前の状態よりも高める構成とされている。
この構成によれば、ねじ山の内部においては、その硬度を素材硬度に維持して靱性を確保できる一方、ねじ山の表面においては、転造加工によって高められた面粗さ及びリード精度を維持しつつ硬度(表面硬度)を高めることができ、ねじとして最適なものを提供できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、転造加工を用いるとしても、ねじ山先端部に突出部が形成されることを抑制できるねじの加工方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】円筒体内周面に対する切削加工を説明する説明図。
【
図3】円筒体内周面において、切削加工により形成された雌ねじに対する転造加工を説明する説明図。
【
図4】切削加工により形成されたねじ山を、正規のねじ山との比較により説明する説明図。
【
図5】実施形態に係るねじ山の内部構造を簡易的に説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
本実施形態においては、本発明に係るねじの加工方法を、加工材料としての円筒体の内周面に雌ねじを形成する場合を例にとって説明しており、
図1は、その加工工程を示している。以下、
図1に示す加工工程に従って、具体的に説明する。
【0017】
1.先ず、
図1に示すように、加工材料として円筒体1(
図2参照)を予め準備する。
円筒体1の内周面1aに所定の雌ねじ2を加工するためである。
この円筒体1には、構造用鋼が用いられており、その構造用鋼としては、例えばJIS SCM415〜420(クロムモリブデン鋼)が用いられる。後述の熱処理を効果あらしめるためである。
【0018】
2.次に、
図1、
図2に示すように、前記円筒体1の内周面1aに切削加工を行って、雌ねじ(下ねじ)2を形成する。
後述の転造加工の前工程として、所定のねじ山形状(下ねじ山形状)を有する雌ねじ2を切削加工し、転造加工の負担を軽減するためである。
【0019】
(1)雌ねじ2としては、本実施形態においては多条ねじが形成される。多条ねじは、機械式ラッシュアジャスタにおける送りねじ機構等において、作動上、好ましい働きをするからである。
【0020】
(2)円筒体1の内周面1aに対する雌ねじ2の切削加工には、切削タップ3が用いられる。円筒体1の内周面1aに対する雌ねじ2の切削加工を、手軽で且つ容易に行えるからである。勿論、切削タップ3は、円筒体1の内周面1aにねじを刻むために用いられる工具であり、この切削タップ3を、その円筒体1の内周面1aに対して回転させながら削り込むことにより、円筒体1の内周面1aに雌ねじ2が形成されることになる。
【0021】
(3)切削タップ3は、前記雌ねじ2における所定のねじ山形状(下ねじ山形状)として、その雌ねじ2の各ねじ山2Aを、基端部2ALにおいて、その仕上げ形状である谷形状に近いものに加工する一方で、その先端部2ATと、その先端部2ATよりも基端部2ALに至るまでの本体部2AMとについては、
図4の実線で示すように加工する。
【0022】
(3−1)ねじ山2Aの本体部2AMは、
図4に示すように、基端側から先端側(
図4中、下側から上側)に向うに従って徐々に、その本体部2AMの両側面(フランク(flank)の一部)2AMs間の幅Lmが狭まる形状とされると共に、そのねじ山本体部2AMの両側面2AMs間の幅Lmが、いずれの位置においても、そのねじ山本体部2AMの正規の両側面(
図4中、仮想線で図示)2AMs間の正規の幅Lms(該当位置での設定値)よりも拡張されて、ねじ山本体部2AMの各側面2AMsが、ねじ山本体部2AMの正規の各側面2AMssよりも余肉部分4だけそれぞれ膨らむ形状となる。次工程における転造加工により、ねじ山本体部2AMにおける余肉部分4を塑性変形(塑性流動)させて、ねじ山2Aの面粗さ及びリード精度を十分に高いものとするためである。
この場合、余肉部分4は、本実施形態においては、50μm前後の厚みのものが形成され、その余肉部分4の体積は、比較的少ないものとなっている。
【0023】
(3−2)ねじ山2Aの先端部2ATは、
図4に示すように、その先端部2ATの両側面2ATs間の幅Ltを、いずれの位置でも、そのねじ山2A先端部2ATの正規の両側面2ATss間の幅Ltsよりも狭めた状態で、そのねじ山2Aの先端に向うに従って次第に狭められている(先端に向けて尖った形状)。後述の転造加工に基づく余肉部分4の塑性流動を受け入れるべく、ねじ山先端部2ATの各側面2ATsを、ねじ山先端部2ATの正規の各側面2ATssよりも引っ込む欠肉空間5を有するものに形成するためである。このため、本実施形態においては、その欠肉空間5と前記余肉部分4とは、その互いの体積が近づけられた値のものとして設定されている。
この場合、欠肉空間5をねじ山先端部2ATの各側面2ATsにおいてだけ形成したのは、転造加工時に、余肉部分4の塑性流動をその各側面2ATsにより的確に案内して、ねじ山2Aの形状が異形形状にならないようにすると共に、余肉部分4の塑性流動をねじ山先端部2ATの各側面2ATsにとどめ、ねじ山先端部2ATの幅方向(
図4中、左右方向)両側からその先端部2AT外方に、塑性変形層の一部が突出部(バリ)として張り出さないようにするためである。
【0024】
3.次に、
図1、
図3に示すように、前記雌ねじ2における各ねじ山2Aに対して転造加工を行う。
切削タップ3によるねじ加工に比して、各ねじ山2Aにおけるねじ面(側面2AMs、2ATs)の面粗さ及びリード精度を格段に向上させたものとするためである。これにより、当該ねじ構造を機械式ラッシュアジャスタ(ボディ)における送りねじ機構等に用いた場合には、慣らし運転を必要最小限に抑えることができる。
【0025】
(1)各ねじ山2Aに対する転造加工には、転造タップ6が用いられる。
特に、2条ねじ以上の多条ねじ(リードが長いねじ)を加工する場合には、加工抵抗が大きいため、通常、転造タップ6を用いるだけでは加工することは困難である。しかし、本実施形態においては、転造加工の前工程において、切削タップ3が前述の所定のねじ山形状(下ねじ山形状)を形成して、転造タップ6による加工抵抗を減少させることとしているため、転造タップ6を用いることが可能となっている。
勿論、転造タップ6は、基本的に、加工材料を塑性変形させることによりねじ山2Aを形成する工具であり、その使用に際して、切屑が発生しない特徴を有している。
【0026】
(2)転造タップ6は、ねじ山本体部2AMの両側面2AMsを塑性変形させて、そのねじ山本体部2AMの余肉部分4を、
図4の矢印(仮想線)で示すように、ねじ山先端部2ATの各側面2ATs上の欠肉空間5に向けてそれぞれ塑性流動させる。この転造加工によって、ねじ山形状を崩さずに最終的なねじ山形状を形成すると共に、その各ねじ山2Aの各側面2AMs、2ATsの面粗さ及びリード精度を十分に高いものとするためである。また、主としてねじ山本体部2AMの余肉部分4に対して転造加工を行うことにより、転造加工の加工負担を軽減し、転造タップ6による転造加工を可能とするためでもある。
この場合、余肉部分4の塑性流動は、ねじ山先端部2ATの比較的長い各側面2ATs上を移動してその先端に到達すること、余肉部分4の体積が比較的少ないこと等に基づき、ねじ山先端部2ATの各側面2ATs上に確実にとどまり、それが、ねじ山先端部2ATの幅方向(
図4中、左右方向)両側からその先端部2AT外方に進むことはない。
【0027】
4.次に、
図1に示すように、前記転造加工を終えた円筒体1に対して、熱処理を行って、雌ねじ2における各ねじ山2Aの表面硬度を高める。
ねじ山の内部硬度を素材硬度に維持して靱性を確保する一方、転造加工によって高められた面粗さ及びリード精度を、表面硬度が高い状態の下で維持するためである。
この熱処理としては、本実施形態においては、浸炭焼き入れが行われ、雌ねじ2の各ねじ山2Aの表面付近にだけ炭素を浸入させた状態で、焼き入れ、焼き戻しが行われる。このため、前述の素材(JIS 415〜420)からなる各ねじ2Aにおいては、その各ねじ山の内部の炭素量が元々の少ない状態が維持されることになり、その内部硬度は焼き入れを行っても高まらない。他方、各ねじ山の表層においては、炭素量が増加することになり、焼き入れを行うことにより、その表層は非常に硬くなる。
【0028】
5.したがって、上記加工工程を経て加工された円筒体1(各ねじ山2A)においては、
図5に示すように、そのねじ山2Aの表層に硬化層2Aoが形成され、その硬化層2Aoよりも内部2Ainにおいては、硬化層が形成されず、靱性が確保される。しかも、雌ねじ2の各ねじ山2Aに関して、その表面の面粗さ及びリード精度は、転造加工が用いられたことが反映されて、十分に向上したものとなる。
このため、上記円筒体1を、送りねじ機構、例えば、機械式ラッシュアジャスタにおける円筒状のボディ(WO2013/136508 A1参照)等として用いれば、円筒体1は、その送りねじ機構の部品として最適なものとなる。
また、転造加工において、余肉部分4の塑性流動が、尖った形状の各ねじ山先端部2ATの側面2ATs上にとどまり、それが、ねじ山先端部2ATの幅方向両側からその先端部2AT外方に進まないことから、ねじ山形状を崩すことなく最終的なねじ山形状に形成できるばかりか、各ねじ山先端部2ATの幅方向両側から突出部(バリ)が張り出してその両突出部間に空洞が形成される構造(特許文献1の
図2参照)が形成されることを未然に抑制することができる。このため、仮に、上記円筒体1を、機械式ラッシュアジャスタにおける送りねじ機構のボディとして用いるとしても、突出部が折損して送りねじ機構が誤作動することはない。
【0029】
以上実施形態について説明したが本発明においては、次の態様を包含する。
(1)本実施形態に係るねじの加工方法を、雄ねじの形成に利用すること。例えば、機械式ラッシアジャスタにおいて、そのボディと共に送りねじ機構を構成するプランジャ(軸状体)外周面に雄ねじ(各ねじ山2A)を形成する場合に、その加工方法を利用することができる。具体的には、軸状体としてのプランジャの外周面に、ねじ切り加工用ダイスを用いることにより前記実施形態における切削加工を行って、そのプランジャ外周面に雄ねじを形成し、その雄ねじにおけるねじ山本体部2AMの側面2AMsに、転造用ダイスを用いることにより、前記実施形態における転造加工を行うことになる。
(2)本実施形態に係るねじの加工方法を、多条ねじを形成する場合に限らず、通常のねじ(1条ねじ)を形成する場合にも適用すること。
(3)本実施形態に係るねじの加工方法において、熱処理を省くこと。
【符号の説明】
【0030】
1 円筒体(加工材料)
2 雌ねじ
2A ねじ山
2AT ねじ山先端部
2ATs ねじ山先端部の側面
2ATss ねじ山先端部の正規の側面
3 切削タップ
4 余肉部分
5 欠肉空間
6 転造タップ
Lt ねじ山先端部の両側面間の幅
Lts ねじ山先端部両側面間の正規の幅
2AM ねじ山本体部
2AMs ねじ山本体部の側面
2AMss ねじ山本体部の正規の側面
Lm ねじ山本体部の両側面間の幅
Lms ねじ山本体部両側面間の正規の幅
【要約】
転造加工を行うとしても、ねじ山先端部に突出部が形成されることを防止できるねじの加工方法を提供する。切削加工により円筒体内周面(1a)にねじ山(2A)を形成し、そのねじ山(2A)表面を転造加工により塑性変形させる。切削加工では、ねじ山先端部(2AT)の両側面(2ATs)間の幅(Lt)を正規の幅(Lts)よりも狭めた状態でねじ山(2A)先端に向うに従って次第に狭め、ねじ山本体部(2AM)では、両側面(2AMs)間の幅(Lm)を正規の幅(Lms)よりも拡張して、ねじ山本体部(2AM)の各側面(2AMs)を、正規の各側面(2AMss)よりも余肉部分(4)だけ膨らむものに形成する。転造加工では、ねじ山本体部(2AM)の両側面(2AMs)を塑性変形させて、余肉部分(4)をねじ山先端部(2AT)の各側面(2ATs)に向けてそれぞれ塑性流動させる。