特許第6013670号(P6013670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自然発酵の特許一覧

<>
  • 特許6013670-老化抑制剤 図000004
  • 特許6013670-老化抑制剤 図000005
  • 特許6013670-老化抑制剤 図000006
  • 特許6013670-老化抑制剤 図000007
  • 特許6013670-老化抑制剤 図000008
  • 特許6013670-老化抑制剤 図000009
  • 特許6013670-老化抑制剤 図000010
  • 特許6013670-老化抑制剤 図000011
  • 特許6013670-老化抑制剤 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6013670
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】老化抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/8998 20060101AFI20161011BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/46 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/8994 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/75 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/87 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/73 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/736 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/44 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/42 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/60 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/732 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/725 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/49 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/888 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/23 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/8962 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/39 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/894 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/31 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/896 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/9066 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/535 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/70 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/282 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/288 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/03 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/52 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/16 20060101ALI20161011BHJP
   A61K 36/07 20060101ALI20161011BHJP
   A61P 39/00 20060101ALI20161011BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   A61K36/8998
   A61K36/899
   A61K36/46
   A61K36/8994
   A61K36/75
   A61K36/87
   A61K36/73
   A61K36/736
   A61K36/44
   A61K36/185
   A61K36/42
   A61K36/60
   A61K36/732
   A61K36/752
   A61K36/725
   A61K36/49
   A61K36/888
   A61K36/23
   A61K36/8962
   A61K36/39
   A61K36/894
   A61K36/31
   A61K36/28
   A61K36/896
   A61K36/9068
   A61K36/9066
   A61K36/535
   A61K36/70
   A61K36/282
   A61K36/288
   A61K36/03
   A61K36/52
   A61K36/16
   A61K36/07
   A61P39/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-547622(P2016-547622)
(86)(22)【出願日】2015年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2015083686
【審査請求日】2016年7月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-248884(P2014-248884)
(32)【優先日】2014年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506180660
【氏名又は名称】株式会社日本自然発酵
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中西 雅寛
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/027864(WO,A1)
【文献】 特開2014−003929(JP,A)
【文献】 特開2007−175064(JP,A)
【文献】 特開2010−030958(JP,A)
【文献】 特開2005−110560(JP,A)
【文献】 国際公開第01/93696(WO,A1)
【文献】 特開2014−187997(JP,A)
【文献】 特開2001−333751(JP,A)
【文献】 特開2004−173692(JP,A)
【文献】 特開2011−142904(JP,A)
【文献】 特開平9−294560(JP,A)
【文献】 特開2003−061612(JP,A)
【文献】 特開2008−231002(JP,A)
【文献】 特開2011−213660(JP,A)
【文献】 特開2007−167017(JP,A)
【文献】 OKADA, H., et al.,Structural Analysis and Synthesis of Oligosaccharides Isolatedfrom Fermented Beverage of Plant Extract,J. Appl. Glycosci., 2008, Vol.55, No.2, pp.143-148
【文献】 OKADA, H., et al.,Antioxdative activity and protective effect of fermented plantextract on ethanol-induced damage to rat gastric mucosa,J. Jpn. Soc. Nutr. Food Sci., 2005, Vol.58, pp.209-215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
CiNii
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(a)ないし(g)
(a)大麦、黒大豆、赤米、黒米、小豆、はと麦、ヒエ、アワおよびキビの麹菌発酵物
(b)ミカン、ブドウ、リンゴ、ヤマブドウ、モモ、カキ、パパイヤ、ナシ、スイカ、ウメ、イチジク、カリン、カボチャ、キンカン、ユズ、ビワ、アンズ、ナツメ、クリ、マタタビおよびスモモの酵母および/又は乳酸菌発酵物
(c)紫イモ、菊芋、ニンジン、タマネギ、サツマイモ、里芋、自然薯、大根、赤カブ、ゴボウ、レンコン、ヤーコン、ユリ根、クワイ、しょうが、にんにくおよびウコンの根菜類・イモ類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(d)キャベツ、紫蘇、桑葉、どくだみ、ヨモギ、クマザサおよびタンポポの酵母および/又は乳酸菌発酵物
(e)コンブ、ワカメおよびモズクの酵母および/又は乳酸菌発酵物
(f)黒ゴマ、クルミおよびギンナンの酵母および/又は乳酸菌発酵物
(g)マイタケおよびシイタケの酵母および/又は乳酸菌発酵物
の混合物である植物発酵物を有効成分として含有することを特徴とする老化抑制剤。
【請求項2】
植物発酵物が、植物発酵物100g当たり以下の組成のアミノ酸を含有するものである請求項1に記載の老化抑制剤。
アルギニン 0.2〜0.6g
リジン 0.1〜0.7g
ヒスチジン 0.1〜0.4g
フェニルアラニン 0.2〜0.8g
チロシン 0.1〜0.6g
ロイシン 0.3〜1.2g
イソロイシン 0.2〜0.8g
メチオニン 0.05〜0.30g
バリン 0.2〜0.9g
アラニン 0.2〜0.9g
グリシン 0.2〜0.7g
プロリン 0.4〜1.2g
グルタミン酸 1.2〜3.0g
セリン 0.2〜0.8g
スレオニン 0.2〜0.7g
アスパラギン酸 0.4〜1.5g
トリプトファン 0.03〜0.15g
シスチン 0.05〜0.40g
【請求項3】
植物発酵物が、植物発酵物100g当たり以下の組成の有機酸を含有するものである請求項1又は2に記載の老化抑制剤。
クエン酸 0.5〜1.2g
リンゴ酸 0.05〜0.5g
コハク酸 0.04〜0.3g
乳酸 0.5〜6.0g
ギ酸 0.01〜0.1g
ピルビン酸 0.005〜0.05g
遊離γ−アミノ酪酸 0.01〜0.05g
【請求項4】
植物発酵物が、植物発酵物1g当たり以下の組成のポリフェノールを含有するものである請求項1〜3のいずれかの項記載の老化抑制剤。
カフェ酸(Cafeic acid) 20〜50μg
α−アミノ安息香酸(o-aminobenzoic acid) 10〜25μg
フェルラ酸(ferulic acid) 40〜70μg
p−クマル酸(p-cumaric acid) 15〜40μg
ダイゼイン(daizein) 40〜65μg
ゲニステイン(genistein) 65〜90μg
グリシテイン(glycitein) 2〜8μg
クェルセチン(quercetin) 3〜12μg
ヘスペレチン(hesperetin) 200〜300μg
ナリンゲニン(narigenin) 30〜60μg
【請求項5】
乳酸菌が、ぺディオコッカス・アシディラクティ(P.acidilacti)、ラクトバチルス・ブレビス(L. brevis)、ロイコノストック・メセンテロイデス(L. mesenteroides)、ラクトバチルス・プランタラム(L. plantarum)、ラクトコッカス・ラクチス(L. lactis)、ラクトバチルス・サケイ(L. sakei)、ペディオコッカス・ペントサセウス(P. pentosaceus)、ラクトバチルス・カゼイ(L. casei)およびラクトバチルス・クルバタス(L. curvatus)よりなる群から選ばれた1種または2種以上である請求項1〜4のいずれかの項記載の老化抑制剤。
【請求項6】
酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(S. cervisiae)および/又はジゴサッカロマイセス・ロキシー(Z. rouxii)である請求項1〜5のいずれかの項記載の老化抑制剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの項記載の老化抑制剤を含有する飲食品。
【請求項8】
医薬品である請求項1〜6のいずれかの項記載の老化抑制剤。
【請求項9】
次の(a)ないし(g)
(a)大麦、黒大豆、赤米、黒米、小豆、はと麦、ヒエ、アワおよびキビの麹菌発酵物
(b)ミカン、ブドウ、リンゴ、ヤマブドウ、モモ、カキ、パパイヤ、ナシ、スイカ、ウメ、イチジク、カリン、カボチャ、キンカン、ユズ、ビワ、アンズ、ナツメ、クリ、マタタビおよびスモモの酵母および/又は乳酸菌発酵物
(c)紫イモ、菊芋、ニンジン、タマネギ、サツマイモ、里芋、自然薯、大根、赤カブ、ゴボウ、レンコン、ヤーコン、ユリ根、クワイ、しょうが、にんにくおよびウコンの酵母および/又は乳酸菌発酵物
(d)キャベツ、紫蘇、桑葉、どくだみ、ヨモギ、クマザサおよびタンポポの酵母および/又は乳酸菌発酵物
(e)コンブ、ワカメおよびモズクの酵母および/又は乳酸菌発酵物
(f)黒ゴマ、クルミおよびギンナンの酵母および/又は乳酸菌発酵物
(g)マイタケおよびシイタケの酵母および/又は乳酸菌発酵物
の混合物である植物発酵物を有効成分として含有することを特徴とする寿命延長剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物発酵物を利用した老化抑制剤に関し、詳細には、動物の加齢にともなう老化症状の発現抑制作用と生存の延長作用を併せ持ち、安全性に優れた老化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
老化は動物にとって避けられない現象である。生命科学の進歩により老化についての研究が進み、個体、器官、組織、細胞、遺伝子レベル、更にはこれらを連携する神経・血管、免疫調節、ホルモン類や調節因子の様々な物質群の協調的働きが解明されてきたものの、詳細なメカニズムが解明されたわけではない。しかしながら、その手懸りは見出されてきており、線虫、ショウジョウバエ、ラット、マウス、サル等の動物において、食事カロリー制限が寿命延長効果を示すことが広く知られてきている(非特許文献1〜4)。この背景としてミトコンドリアにおけるエネルギー代謝が関与することが推定されている。またカロリー制限模倣物も老化抑制・寿命延長を目的として探索されている(非特許文献5)。またインスリン・成長因子(IGF-1)シグナルと寿命との関連が、線虫、ショウジョウバエ、哺乳類(マウス)の共通シグナル伝達経路として見出されてきている(非特許文献6)。さらに、赤ブドウの低分子成分であるレスベラトロールに老化抑制作用や寿命延長効果が期待される結果も見出され(非特許文献7)、類縁物質の探索研究が行われている(非特許文献8)。最近では、サーチュインがヒストンの脱アセチル化酵素活性を持ち、寿命延長に関ることが見出され、多様な手懸りの関連付けが期待されている。またサーチュインの低分子調節物質も見出されている(非特許文献9)。
【0003】
老化に伴って起こる様々な老化症状を止めることは困難であろうが、老化症状の発現を遅らせ、さらには寿命を延長させることが期待されている。しかしながら、これらの老化症状の原因が複数の遺伝子や過程が関与していると予想されている(非特許文献10)。このため、老化症状の発生の遅延や寿命の延長の評価は動物の個体による試験が必須である。また、寿命の試験研究のためには、世代時間の短いモデル動物が必要である。このようなモデル動物として、線虫、ショウジョウバエ、マウスがあり、中でもマウスは哺乳動物であり、正常型マウスでも2〜3年程度の寿命であるため比較的短期間に老化・寿命に対する効果を推定することができる。京都大学の動物実験施設においてAKR系のマウスに見出された老化促進モデルマウスであるSAM−P系マウスは、寿命が1.5年程度であり且つ様々な老化特有の症状を示すため、同系の正常型のSAM-R1マウスと比較しながら老化研究に多用されている。これらのマウスは、SAM研究会により継代繁殖・市販もされ、老化症状の評価方法もSAM研究会によって標準化されている。標準化されている老化指標は、行動異常や緩慢化、目症状(目周囲の爛れ、角膜の白濁、白内障など)、脱毛、毛並みなどの皮膚の老化症状、背骨の湾曲を用いている。一方、老化抑制の一つの指標である生存率の延長は、SAM研究会の標準的評価指標には含まれていない。
【0004】
放射線照射による障害においても老化と類似の症状が観察されている(非特許文献11)。6〜14グレイのX線照射したマウスの小腸の粘膜幹細胞が障害を受けるが、伊藤らは、味噌を混餌で投与したマウスでは小腸陰窩の幹細胞のダメージが少ないことを報告している(非特許文献12)。しかしながら、老化症状や生存率に関する報告はされていない。同様の評価系を用いて植物発酵食品である万田酵素が、X線照射したマウスの小腸の粘膜幹細胞障害抑制に有効であることが報告されているものの(非特許文献13)、老化症状の抑制や生存率の延長は報告されていない。
【0005】
さらにSAM−P1系の老化促進モデルマウスを用いてコエンザイムQ10および還元型の老化症状の抑制効果が報告されている(非特許文献14)。CoQ10無添加群に比べて目症状、皮膚症状、背骨湾曲および総合症状点数において有意の老化抑制効果を示しているものの、寿命の延長は見られていない。また大豆たん白質SPIとカゼインを比較し、老化度に差はなかったが、SPIに生存率延長効果が認められたことが報告されている(非特許文献15)。
【0006】
老化に関与するサーチュインに関しては、漢方薬等でサーチュインの増強や抑制を起こすことが報告されているが、寿命延長の試験はされていない。一方、赤ブドウに含まれるレスベラストロールがショウジョウバエやマウスの寿命延長をすることが報告されている。
【0007】
その他にも、老化抑制あるいは寿命延長に関して様々な報告がなされており、例えば、Gタンパク質γサブユニット11をコードする遺伝子の発現またはその作用を阻害する物質を適用することにより、細胞老化を抑制できることが開示されている(特許文献1)。また、特定の構造を有するアルキルレゾルシノール類が、サーチュイン活性化作用および老化抑制作用を有し、個体の寿命を延長させる効果を示すことが報告されている(特許文献2)。さらにローヤルゼリー、特定の構造の複素環化合物、レスベラストロール、ブドウ葉抽出物、活性炭、ハナズオウ抽出物、クルクミノイド類、カッコンエキス等が老化防止や寿命延長等の作用を示すことが開示されている(特許文献3〜10)。
【0008】
しかし、哺乳動物に対し、老化症状の発現遅延効果および老化の延長線上にある寿命の延長効果をともに発揮する食品や医薬品等の報告はほとんどないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2007/102572
【特許文献2】特開2013−249260号公報
【特許文献3】特開2012−207004号公報
【特許文献4】特開2008−94795号公報
【特許文献5】特開2007−145809号公報
【特許文献6】特開2010−208969号公報
【特許文献7】特表2006−515590号公報
【特許文献8】特開2008−120726号公報
【特許文献9】特開2010−270012号公報
【特許文献10】特開2012−246242号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. Dillin et al, “Rate of behavior and aging specified by mitochondrial function during development”, Science 298, 2398-2401 (2002)
【非特許文献2】Grandison RC1, Piper MD, Partridge L. “Amino-acid inbalance explains extension of life span by dietary restriction in Drosophila”, Nature 462,1061-1064(2009)
【非特許文献3】「老化研究がわかる」羊土社2002、井出利憲編、P25,37
【非特許文献4】Coleman R.J. et al,”Carolic restriction delays disease onset and mortality in Rhesus monkeys”, Science 325, 201-204(2009)
【非特許文献5】“カロリー制限模倣物”千葉卓哉、下川 功、実験医学増刊31-No.20, 182-189(2013)
【非特許文献6】“インスリン・IGF-1シグナルと老化・寿命制御”植木浩二郎、実験医学増刊31-No.20,22-27(2013)
【非特許文献7】“Resveratorol improves health and survcival of mice on a high-calorie diet”Bauer et al: Nature, 477:337-342(2006)
【非特許文献8】“ショウジョウバエの寿命に対する赤ワイン由来ポリフェノールProtpcathchuic acidの効果”八木勇三ら、Food Function、11、9-13(2013)
【非特許文献9】“サーチュインの低分子調節物質”D. A. Sinclair、B. P. Hubbard, 実験医学増刊31-No.20, 209-217(2013)
【非特許文献10】“老化・寿命のサイエンス”実験医学増刊31巻-No.20(2013)今井眞一郎、吉野 純編集、羊土社
【非特許文献11】Hoeijmakers, J. H. J.:”Genome maintenance mechanisms for preventing cancer”: Nature, 411: 366-374, 2001
【非特許文献12】伊藤明弘“放射性物質を除去するみその効用 発がんを予防する、みその生理作用”「みそサイエンス最前線」1999ミソ健康作り委員会発行
【非特許文献13】“植物発酵物のX線照射に対する防御効果―小腸の腺窩再生に与える影響―”芦田ら、日本未病システム学会雑誌、12(1)129−130(2006)
【非特許文献14】“Reduced coenzyme Q10 supplementation decelerate senescence in SAM-P1 mice” J.Yan et.al.: Experimental Gerontology 41(2006)130-140
【非特許文献15】“大豆たん白質による促進老化抑制効果についてー老化促進モデルマウスによる実験的研究”河野篤子ら、Nutr. Sci. Soy Protein、Jpn:7,25-29(1986)
【非特許文献16】“老化解析”簗瀬澄乃、石井直明、“線虫ラボマニュアル”三谷昌平編、p.201−206(2003)シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記実情に鑑み、老化関連の複数の症状の発現を遅延させ、且つ寿命の延長をもたらし、安全性が高い老化抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、複数の食経験のある植物を乳酸菌や酵母、麹菌等により発酵させた発酵物が、加齢に伴う様々な老化症状を抑制し、且つ生存率の延長効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、次の(a)ないし(g)
(a)大麦、黒大豆、赤米、黒米、小豆、はと麦、ヒエ、アワおよびキビよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の豆・穀物類の麹菌発酵物
(b)ミカン、ブドウ、リンゴ、ヤマブドウ、モモ、カキ、パパイヤ、ナシ、スイカ、ウメ、イチジク、カリン、カボチャ、キンカン、ユズ、ビワ、アンズ、ナツメ、クリ、マタタビおよびスモモよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の果実類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(c)紫イモ、菊芋、ニンジン、タマネギ、サツマイモ、里芋、自然薯、大根、赤カブ、ゴボウ、レンコン、ヤーコン、ユリ根、クワイ、しょうが、にんにくおよびウコンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の根菜類・イモ類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(d)キャベツ、紫蘇、桑葉、どくだみ、ヨモギ、クマザサおよびタンポポよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の花・葉菜類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(e)コンブ、ワカメおよびモズクよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の海藻類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(f)黒ゴマ、クルミおよびギンナンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の種子類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(g)マイタケおよびシイタケよりなる群から選ばれる1種又は2種のキノコ類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
の混合物である植物発酵物を有効成分として含有することを特徴とする老化抑制剤である。
【0014】
また本発明は、上記老化抑制剤を含有する飲食品である。
【0015】
また本発明は、上記(a)〜(g)の植物発酵物を有効成分として含有する寿命延長剤である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の老化抑制剤は、動物の加齢に伴う広範な老化症状の発現を抑制するとともに生存率延長をもたらすことが可能である。また有効成分である植物発酵物の原料となる植物及び微生物はいずれも食経験が豊富なものであるため、極めて安全性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】製造例2の植物発酵物に含まれるポリフェノール類のHPLCによる分析結果である。
図2】製造例2の植物発酵物に含まれるレスベラトロールのHPLCによる分析結果である。
図3】試験例1における酸素感受性線虫変異株(mev-1)の酸素100%雰囲気下の生存曲線を示す図である。縦軸は3.5cmペトリ皿当りの線虫の平均生存匹数を示し、横軸は培養日数を示す。
図4】試験例2におけるSAMマウスの生存曲線を示す図である。縦軸はSAMマウスの生存率(%)を示し、横軸はSAMマウスの週齢を示す。
図5】試験例2において、植物発酵物2%および0.2%投与試験の生存率についてカプランマイヤー解析による有意差検定の結果を示す図である。縦軸は累積生存率を示し、横軸は週齢を示している。実線は植物発酵物2%群の生存曲線、鎖線は植物発酵物0.2%群の生存曲線である。
図6】試験例2において、SAM研究会の標準法を用いて老化度の総合評価点数の推移を示した図である。縦軸は老化指標総合点/匹を示し、横軸は週齢である。実線は植物発酵物2%群、鎖線は植物発酵物0.2%群である。有意差検定を行うために生存数が6/8匹以上確保可能な54週齢および60週齢の2点を選択し、矢印で示した。
図7】試験例2において、54週齢(A)及び60週齢(B)それぞれについて植物発酵物2%群と0.2%群の老化度総合評価点数を比較した図である。
図8】試験例2において、54週齢(A)及び60週齢(B)それぞれについて植物発酵物2%群と0.2%群の植物発酵物の老化指標の一つである「背骨湾曲点数」を比較した図である。
図9】試験例2において、正常型(SAM-R1)および老化促進型(SAM-P1)マウスについて、主に鼠頚部に発生した腫瘤の体積の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の老化抑制剤は、下記の植物発酵物を有効成分として含有するものである。この植物発酵物は、以下の(a)〜(g)の植物発酵物の混合物である。
【0019】
(a)大麦、黒大豆、赤米、黒米、小豆、はと麦、ヒエ、アワおよびキビよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の豆・穀類に麹菌を作用させることにより得られる発酵物。
【0020】
(b)ミカン、ブドウ、リンゴ、ヤマブドウ、モモ、カキ、パパイヤ、ナシ、スイカ、ウメ、イチジク、カリン、カボチャ、キンカン、ユズ、ビワ、アンズ、ナツメ、クリ、マタタビおよびスモモよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の果実類に酵母および/又は乳酸菌を作用させることにより得られる発酵物。
【0021】
(c)紫イモ、菊芋、ニンジン、タマネギ、サツマイモ、里芋、自然薯、大根、赤カブ、ゴボウ、レンコン、ヤーコン、ユリ根、クワイ、しょうが、にんにくおよびウコンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の根菜類・イモ類に酵母および/又は乳酸菌を作用させることにより得られる発酵物。
【0022】
(d)キャベツ、紫蘇、桑葉、どくだみ、ヨモギ、クマザサおよびタンポポよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の花・葉菜類に酵母および/又は乳酸菌を作用させることにより得られる発酵物。
【0023】
(e)コンブ、ワカメおよびモズクよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の海藻類に酵母および/又は乳酸菌を作用させることにより得られる発酵物。
【0024】
(f)黒ゴマ、クルミおよびギンナンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の種子類に酵母および/又は乳酸菌を発酵させることにより得られる発酵物。
【0025】
(g)マイタケおよびシイタケよりなる群から選ばれる1種又は2種のキノコ類に酵母および/又は乳酸菌を作用させることにより得られる発酵物。
【0026】
本発明の老化防止抑制剤は、上記(a)〜(g)の発酵物を混合した植物発酵物をそのまま有効成分としてもよいが、さらに多段階発酵させることにより、呈味性や製剤性を向上させることができる。
【0027】
酵母としては、サッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属等に属する酵母が挙げられ、中でもサッカロマイセス・セレビシエ(S. cervisiae)、ジゴサッカロマイセス・ロキシー(Z. rouxii)、サッカロマイセス・エキシグス(S.exiguus)等が好ましく用いられる。乳酸菌としては、例えば、ぺディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属等に属する乳酸菌が挙げられ、中でも、ぺディオコッカス・アシディラクティ(P.acidilacti)、ラクトバチルス・ブレビス(L. brevis)、ロイコノストック・メセンテロイデス(L. mesenteroides)、ラクトバチルス・プランタラム(L. plantarum)、ラクトコッカス・ラクチス(L. lactis)、ラクトバチルス・サケイ(L. sakei)、ペディオコッカス・ペントサセウス(P. pentosaceus)、ラクトバチルス・カゼイ(L. casei)、ラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)およびラクトバチルス・クルバタス(L. curvatus)等が好ましく用いられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。麹菌としては、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)等が例示でき、これらの1種又は2種以上を使用できる。これらは市販されているものも使用することができる。
【0028】
発酵に供する豆・穀類、果実等の植物は、そのまま使用してもよく、あるいは必要に応じて粉砕、乾燥等の前処理を行ってもよい。また必要に応じて水を添加して希釈してもよい。
【0029】
上記(a)〜(g)の発酵物は、原料となる植物に、乳酸菌、酵母または麹菌を接種し、培養させることによって得られる。培養は、常法によって行えばよく、例えば、1種または2種以上の植物の混合物に対し、乳酸菌、酵母または麹菌を0.001〜1質量%程度添加し、20〜50℃で70〜140時間程度発酵処理させればよい。
【0030】
このようにして得られた(a)〜(g)の発酵物を混合してそのまま有効成分とすることもできるが、必要に応じさらに20〜40℃で200〜300時間程度培養することが好ましい。さらにこの混合物を後発酵(熟成)させることが好ましい。後発酵は、必要に応じて、酢酸菌を作用させてもよく、例えば、上記(a)〜(g)に含まれる植物のうち1種または2種以上に上記酵母を作用させたものに、アセトバクター・アセチ(A.aceti)等の酢酸菌を作用させた酢酸発酵物を添加すればよい。後発酵は、25〜35℃で70時間〜約1年程度行えばよい。後発酵による熟成過程を経ることより、呈味性や製剤性を改善することができ、また抗酸化活性の増大を図ることもできる。
【0031】
上記植物発酵物を製造するための好適な方法の例として、多段階複合発酵方式が挙げられる。この方法は、果実類、野菜類、海藻類を主原料とする複合乳酸菌発酵物と、野菜類、根菜類、種子類、キノコ類、果実類を主要原料とする酵母発酵物を混合し、これに穀類、豆類を主原料とする麹菌発酵物を加え、さらに酢酸発酵物を加え混合した後、ろ過濃縮し、さらに約1年程度の後発酵を行うものである。このような多段階複合発酵によって、それぞれの発酵生産物がさらに別種の菌類によって資化・変換されることにより、風味が向上するとともに、抗酸化活性などの効果が高められると考えられる。
【0032】
本発明の老化抑制剤および寿命延長剤は、かくして得られた植物発酵物に、公知の製剤学的製法に準じて、薬理学的に許容され得る担体、賦形剤、水分活性調整剤などを加え、製剤化することにより得られる。植物発酵物は、必要に応じ濃縮して濃度を調整したり、噴霧または凍結乾燥等により粉末化してもよい。製剤化において用いられる担体や賦形剤としては、たとえば乳糖、ブドウ糖、蔗糖、デンプン、糖類混合物などが用いられる。最終的形態としては、溶液、ペースト、ソフトカプセル、チュアブル、カプセルが用いられる。用量・用法としては、例えば、有効成分の植物発酵物として大人1日当たり0.1〜10g、好ましくは0.6〜6g(固形分換算)程度経口摂取すればよい。
【0033】
また、本発明の老化抑制・寿命延長剤は医薬品、医薬部外品等の他、公知の食品素材とともに配合することにより飲食品の形態とすることもできる。上記植物発酵物はそのまま摂取することも可能であるが、日持ち性向上のために殺菌後にろ過、濃縮してもよく、あるいは必要に応じて賦形剤を添加して噴霧または凍結乾燥した粉末状としてもよい。さらに、流通過程におけるシェルフライフ向上のためには、濃縮して水分活性を低下させたものが望ましい。かかる飲食品の形態としては、ペースト、ソフトカプセル、錠剤、ドリンク剤等が例示できる。大人1日当たり植物発酵物として0.1〜10g、好ましくは0.6〜6g(固形分換算)程度種することにより、優れた老化抑制効果等を得ることができる。このような上記植物発酵物を製剤化、食品の形態とした市販品として、天生酵素金印、天生酵素カプセル(日本自然発酵社製)等が挙げられる。
【0034】
本発明に用いる有効成分の植物発酵物は、下記(1)から(4)の性質を有する。
(1)呈味性
果物、野菜等原料由来の甘味や有機酸に加え麹由来の甘味を有する。原料由来のポリフェノール類を含むものの苦味は少ない。
(2)水に対する溶解性
水に対して容易に溶解する。
(3)安定性
熱、酸に対して安定であり、ペーストは1年間室温保存しても腐敗や呈味性に変化はない。
(4)安全性
原料に用いた野菜、果物、ハーブ等は日常食しているものであり、また発酵に用いた酵母、乳酸菌、麹菌はいずれも食品の醸造や漬物等に由来する菌種を用いているため食経験が豊富である。
【0035】
また本発明に用いる植物発酵物は、下記(ア)から(カ)の性質を有する。
【0036】
(ア)一般成分(100g当たり)
水分 15〜35g
たんぱく質 5〜20g
脂質 1〜8g
灰分 1〜5g
炭水化物 30〜70g
ナトリウム 40〜150mg
ビタミンB6 0.1〜0.5mg
エネルギー 200〜500kcal
【0037】
(イ)アミノ酸組成(100g当たり)
アルギニン 0.2〜0.6g
リジン 0.1〜0.7g
ヒスチジン 0.1〜0.4g
フェニルアラニン 0.2〜0.8g
チロシン 0.1〜0.6g
ロイシン 0.3〜1.2g
イソロイシン 0.2〜0.8g
メチオニン 0.05〜0.3g
バリン 0.2〜0.9g
アラニン 0.2〜0.9g
グリシン 0.2〜0.7g
プロリン 0.4〜1.2g
グルタミン酸 1.2〜3.0g
セリン 0.2〜0.8g
スレオニン 0.2〜0.7g
アスパラギン酸 0.4〜1.5g
トリプトファン 0.03〜0.15g
シスチン 0.05〜0.40g
【0038】
(ウ)有機酸組成(100g当たり)
クエン酸 0.5〜1.2g
リンゴ酸 0.05〜0.5g
コハク酸 0.04〜0.3g
乳酸 0.5〜6.0g
ギ酸 0.01〜0.1g
ピルビン酸 0.005〜0.05g
遊離γ−アミノ酪酸 0.01〜0.05g
【0039】
(エ)ミネラル組成(100g当たり)
リン 100〜400mg
鉄 1〜5mg
カルシウム 500〜900mg
カリウム 600〜1000mg
マグネシウム 70〜120mg
亜鉛 0.8〜1.6mg
ヨウ素 1.0〜2.5mg
【0040】
(オ)ポリフェノール(μg/g)
カフェ酸(Cafeic acid) 20〜50
α−アミノ安息香酸(o-aminobenzoic acid) 10〜25
フェルラ酸(ferulic acid) 40〜70
p−クマル酸(p-cumaric acid) 15〜40
ダイゼイン(daizein) 40〜65
ゲニステイン(genistein) 65〜90
グリシテイン(glycitein) 2〜8
クェルセチン(quercetin) 3〜12
ヘスペレチン(hesperetin) 200〜300
ナリンゲニン(narigenin) 30〜60
【0041】
(カ)レスベラトロール
レスベラトロールのトランス体とシス体の含有量の合計が0.1mg/g以下である。
【0042】
この植物発酵物を有効成分とする老化抑制剤は、用量依存的に酸素感受性の線虫および老化促進マウスの生存率を向上させるとともに、マウスの加齢に伴う行動、皮膚、眼、背骨における老化症状の発現を遅延させる効果を示す。
【実施例】
【0043】
次に実施例等を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0044】
製 造 例 1
植物発酵物の製造(1):
以下の植物を原料として使用した。
(a)豆・穀類(大麦、黒大豆、赤米、黒米、小豆、はと麦、ヒエ、アワ、キビ)
(b)果実類(ミカン、ブドウ、リンゴ、ヤマブドウ、モモ、カキ、パパイヤ、ナシ、スイカ、ウメ、イチジク、カリン、カボチャ、キンカン、ユズ、ビワ、アンズ、ナツメ、クリ、マタタビ、スモモ)
(c)根菜類(紫イモ、菊芋、ニンジン、タマネギ、サツマイモ、里芋、自然薯、大根、赤カブ、ゴボウ、レンコン、ヤーコン、ユリ根、クワイ、しょうが、にんにく、ウコン)
(d)花・葉菜類(キャベツ、紫蘇、桑葉、どくだみ、ヨモギ、クマザサ、タンポポ)
(e)海草類(コンブ、ワカメ、モズク)
(f)種子類(黒ゴマ、クルミ、ギンナン)
(g)キノコ類(マイタケ、シイタケ)
【0045】
上記(c)、(d)および(g)の原料(730g)に対し、乳酸菌類(P. acidilacti, L. brevis, L. mesenteroides, L. plantarum, L. lactis, L. sakei, L. casei)が約1.0×105cfu/gの菌濃度となるように調製した培養液を0.2質量%接種し、30℃で50時間培養を行った。また上記(b)、(e)および(f)の原料(900kg)に対し、酵母類(S. cervisiae 5種、Z. rouxii 2種)が約1.0×105cfu/gの菌濃度となるように調製した培養液を0.4質量%接種し30℃で50時間培養を行った。(a)豆類および穀類系原料(1000kg)には、麹菌類(黄麹菌、黒麹菌、白麹菌)を0.1質量%接種して35℃で70時間培養を行った。次いでそれぞれの培養物を混合後、30℃で200時間培養を行った。発酵を終了したモロミについて固液分離操作を行い、得られた濾液を濃縮してペースト状にしたものを容器に分注し、更に1年間後発酵(熟成)させ植物発酵物を得た。
【0046】
製造例1で得られた植物発酵物は以下の性質を有するものであった。
(ア)一般分析値(100g当たり)
水分 25.2g
たんぱく質 11.8g
脂質 3.6g
灰分 2.1g
炭水化物 57.3g
ナトリウム 54.0mg
ビタミンB6 0.20mg
エネルギー 309kcal
【0047】
(イ)アミノ酸組成(100g当たり)
試料を6規定塩酸で加水分解したものをアミノ酸自動分析計によって分析した。シスチンについては過蟻酸酸化処理後、塩酸加水分解を用いた。トリプトファンは高速液体クロマト法を用いた。
アルギニン 0.33g
リジン 0.34g
ヒスチジン 0.22g
フェニルアラニン 0.51g
チロシン 0.32g
ロイシン 0.74g
イソロイシン 0.42g
メチオニン 0.13g
バリン 0.54g
アラニン 0.48g
グリシン 0.42g
プロリン 0.92g
グルタミン酸 2.25g
セリン 0.4g
スレオニン 0.36g
アスパラギン酸 0.84g
トリプトファン 0.06g
シスチン 0.15g
【0048】
(ウ)有機酸組成(100g当たり)
クエン酸 0.81g
リンゴ酸 0.31g
コハク酸 0.12g
乳酸 1.17g
ギ酸 0.03g
ピルビン酸 0.01g
遊離γ−アミノ酪酸 24mg
【0049】
(エ)ミネラル組成(100g当たり)
リン 262mg
鉄 2.65mg
カルシウム 72.1mg
カリウム 798mg
マグネシウム 97.8mg
亜鉛 1.19mg
ヨウ素 1.7mg
【0050】
製 造 例 2
植物発酵物の製造(2):
以下の植物を原料として使用した。
(a)豆・穀類(大麦、黒大豆、赤米、黒米、小豆、はと麦、ヒエ、アワ、キビ)
(b)果実類(ミカン、ブドウ、リンゴ、ヤマブドウ、モモ、カキ、パパイヤ、ナシ、スイカ、ウメ、イチジク、カリン、カボチャ、キンカン、ユズ、ビワ、アンズ、ナツメ、クリ、マタタビ、スモモ)
(c)根菜類(紫イモ、菊芋、ニンジン、タマネギ、サツマイモ、里芋、自然薯、大根、赤カブ、ゴボウ、レンコン、ヤーコン、ユリ根、クワイ、しょうが、にんにく、ウコン)
(d)花・葉菜類(キャベツ、紫蘇、桑葉、どくだみ、ヨモギ、クマザサ、タンポポ)
(e)海草類(コンブ、ワカメ、モズク)
(f)種子類(黒ゴマ、クルミ、ギンナン)
(g)キノコ類(マイタケ、シイタケ)
【0051】
上記(c)、(d)および(g)の原料(730g)に対し、乳酸菌類(P. acidilacti, L. brevis, L. mesenteroides, L. plantarum, L. lactis, L. sakei, L. casei)が約1.0×105cfu/gの菌濃度となるように調製した培養液を0.2質量%接種し、30℃で50時間培養を行った。また上記(b)、(e)および(f)の原料(900kg)に対し、酵母類(S. cervisiae 5種、Z. rouxii 2種)が約1.0×105cfu/gの菌濃度となるように調製した培養液を0.4質量%接種し30℃で50時間培養を行った。(a)豆類および穀類系原料(500kg)には、麹菌類(黄麹菌、黒麹菌、白麹菌)を0.1質量%接種して35℃で70時間培養を行った。次いでそれぞれの培養物を混合後、30℃で200時間培養を行った。発酵を終了したモロミについて固液分離操作を行い、得られた濾液を濃縮してペースト状にしたものを容器に分注し、更に1年間後発酵(熟成)させ植物発酵物を得た。
【0052】
製造例2で得られた植物発酵物は以下の性質を有するものであった。
(ア)一般分析値(100g当たり)
水分 31.7g
たんぱく質 14.6g
脂質 5.3g
灰分 2.8g
炭水化物 40.4g
ナトリウム 59.6mg
ビタミンB6 0.24mg
エネルギー 278kcal
【0053】
(イ)アミノ酸組成(100g当たり)
試料を6規定塩酸で加水分解したものをアミノ酸自動分析計によって分析した。シスチンについては過蟻酸酸化処理後、塩酸加水分解を用いた。トリプトファンは高速液体クロマト法を用いた。
アルギニン 0.46g
リジン 0.51g
ヒスチジン 0.28g
フェニルアラニン 0.63g
チロシン 0.43g
ロイシン 0.97g
イソロイシン 0.58g
メチオニン 0.16g
バリン 0.72g
アラニン 0.67g
グリシン 0.55g
プロリン 0.98g
グルタミン酸 2.65g
セリン 0.59g
スレオニン 0.51g
アスパラギン酸 1.26g
トリプトファン 0.10g
シスチン 0.18g
【0054】
(ウ)有機酸組成(100g当たり)
クエン酸 0.40g
リンゴ酸 0.10g
コハク酸 0.08g
乳酸 4.17g
ギ酸 0.02g
ピルビン酸 0.02g
遊離γ−アミノ酪酸 31mg
【0055】
(エ)ポリフェノール(図1参照;μg/g)
カフェ酸(Cafeic acid) 36.9
α−アミノ安息香酸(o-aminobenzoic acid) 17.0
フェルラ酸(ferulic acid) 54.2
p−クマル酸(p-cumaric acid) 28.2
ダイゼイン(daizein) 53.8
ゲニステイン(genistein) 79.8
グリシテイン(glycitein) 4.6
クェルセチン(quercetin) 7.8
ヘスペレチン(hesperetin) 265.7
ナリンゲニン(narigenin) 42.5
(HPLC条件)
カラム:MCM(4.6x250mm;5μm)
カラム温度:35℃
移動相:移動相A:100mM リン酸ナトリウム、5%メタノール
移動相B:100mM リン酸ナトリウム、60%アセトニトリル、10%メ
タノール
グラジエント条件:移動相Bの直線グラジエントを0-45分、0〜6%、
移動相Bの直線グラジエントを6%〜14%、45〜60分、
移動相Bの直線グラジエントを14%〜30%、60〜90分
移動相Bの直線グラジエントを30%〜40%、90〜120分、
移動相Bの直線グラジエントを40%〜77%、120〜140分、
移動相Bのイソクタティックを85%まで、100分
流量:1.0ml/min
検出器:CoulArray, Model 5600A
(測定方法)
検体約80mgを正確に量りとり、内部標準液(17-α-エストラジオール100μg/mL)を100μL添加し、90%メタノール溶液を5mL加え、10分間振とうした後、35℃で30分間超音波抽出を行った。抽出後、遠心器(3000rpm, 10分)にて遠心分離後、上清を分取し窒素気流下にて濃縮後、0.1M酢酸ナトリウム緩衝液にて2mLに定容した。その溶液1mLにβ-グリコシダーゼ系酵素10mgを添加し、43℃で2時間酵素処理を行った。酵素処理後の溶液にメタノール500μL添加し、0.45μmフィルターでろ過した液を試験溶液とした。
【0056】
(オ)レスベラトロール(図2参照)
レスベラトロールをトランス体とシス体の合計で0.022mg/g含有する(トランス体0.002mg/g、シス体0.02mg/g)。
検出器:UV(310nm)
カラム:野村化学 ODS-MG-3 3×100mm
カラム温度:40℃
移動相:薄めたリン酸(1→500)/アセトニトリル混液(4:1)
流量:0.4mL/min
(測定方法)
・NSKレスベラトロール(標準溶液)
1カプセル(330mg レスベラトロール 3.3mg相当)を70%メタノールで溶解し、100mLとした。この液を0.45μmのメンブランフィルターにてろ過し、ろ液を標準溶液とした。
・試料
約1gを水30mLにて溶解し、酢酸エチル20mLを加え、混合し、上澄み液を分取し減圧濃縮を行った。残留物に70%メタノール5mLを加えた。この液を0.45μmのメンブランフィルターにてろ過し、ろ液を試料溶液とした。
【0057】
赤ワインに含まれるレスベラトロールは、抗炎症作用や老化抑制作用、あるいはショウジョウバエの寿命を延長することが知られている。植物発酵物もSAMマウスにおける老化抑制作用および寿命延長作用を示したことから、レスベラトロールの影響の有無を確認するために、その含有量をHPLC標準品で分析した。結果は、トランス体0.002mg/g、シス体0.02 mg/g(トランス体とシス体の合計量0.022 mg/g)であった。この濃度では、老化抑制効果や寿命延長効果は期待できず、本植物発酵物の老化抑制作用と生存率の延長作用は別の物質に由来すると思われた。
【0058】
試 験 例 1 線虫に対する延命効果:
製造例1で得られた植物発酵物をイオン交換水で希釈し、2%(w/w)溶液を作り、オートクレーブによって121度、20分間滅菌した。線虫(Caenorhabditis elegans)として、酸素感受性変異株(mev-1)を用いた。mev-1株は培養中の酸素濃度が増加すると死亡しやすくなり、酸素濃度に依存した生存曲線のシフトが起こる。この変異株はミトコンドリアの呼吸鎖の中の複合体IIのシトクロームb560変異に由来するコハク酸―ユビキノン脱水素酵素の変異であることが証明されていて、長期間培養して老化した線虫は体内に空洞が観察され、さらには老化に伴うリポフスチンが蓄積することが証明されている。このようにmev-1変異株は、老化研究に適したモデル実験動物である。生存曲線は石井らの方法(非特許文献16)に準じて行った。すなわち、大腸菌K562株のトリプトン・ブロスで振盪培養した培養液を3.5cmファルコンプレートに加えたトリプトン寒天培地(TN培地)にパスツール・ピペットで1滴添加し、30℃で1晩培養すると、直径5mm程度の大腸菌のマットが出来上がる。別途直径9cmのペトリ皿のTN寒天培地に生育させた大腸菌を餌としてmev-1を生育させたものから、生育ステージL4を釣上げて、3.5cmプレート上の大腸菌マットに合計10匹の線虫を移植した。線虫を移植した4枚の3.5cmプレートをエアタイトバックに入れてから、酸素ガスで100%置換した。翌日から毎日実体顕微鏡で生存している線虫の数を記録した。観察後、再度酸素ガスで同様に置換した。図3に示すように、得られた生存曲線は、簗瀬・石井の報告している最大80%酸素飽和の条件下よりさらに短寿命側にシフトしていて、実験は正常に行われていることが示された。酸素100%雰囲気における本酸素感受性変異株の寿命は、文献(非特許文献16)に報告されている簗瀬・石井のグラフと比較してみると、50%生存率を示す培養日数(日齢)は、石井らの80%酸素雰囲気下(約10日)よりさらに短縮し、約3日であった。コントロールの水群に比べて2%植物発酵物群は生存率約50%の付近で延命効果が見られた。t−検定を行ったところP=0.025で有意であった。mev-1変異株はミトコンドリアの呼吸鎖に欠陥があることが分かっているので、活性酸素に毒性が関与していることが強く示唆される。
【0059】
試 験 例 2
植物発酵物についての老化促進モデルマウス(SAMマウス)を用いた加齢に伴う老化抑制効果および生存率の延長効果、および腫瘤の発生抑制効果は以下のように試験を実施した。SAMマウス(SAM-P1/SkuSlc、10週齢、雄)はSAM研究会指定のブリーダーである日本エスエルシー株式会社が生産したものを購入した。餌は三協ラボサービス社から購入したγ線滅菌した固形飼料500Nを用いた。SAMマウスは、SPF専用動物室において、23±2℃、湿度50±10%の恒温・恒湿設備を用い、滅菌床敷きを敷いた日本クレア製の中型ポリカーボネート製使用ケージにて個別飼育した。照明は20:00~08:00の間消灯した。また腫瘤形成の比較のため、正常型のSAM-R1/SkuSlcについても同様に飼育した。
【0060】
製造例1の植物発酵物をイオン交換水で希釈し、2%および0.2%水溶液とし、飲料水として自由摂取させた。飼料は三協ラボサービス社から購入したγ線滅菌飼料、N500を用いた。各群8匹を用い、飼育当初は4匹/ケージとし、順次個別飼育に移行した。正常型SAM-R1は4匹を使用し、植物発酵物は投与せず、イオン交換水のみを自由摂取させた。個別飼育に移行してからは、週1回の評価・観察とケージ交換を実施した。一般的観測項目は、体重、飲水量(=サンプル摂取量)、摂餌量、外観とした。老化指標の観察は、SAM研究会指定の評価説明書に記載の標準的評価方式を用い、記載用紙はSAM研究会指定のシートを用いた。更に、SAM研究会の評価方式には含まれていないが、生存率の推移、体表から観察できる腫瘤の大きさ計測も実施した。
【0061】
SAM研究会指定の老化指標は、以下の方法である。
Behavious(2項目)
1.Reactivity(Grade 0−4)
マウスをケージの外に出した時に見られる探索行動
0:若齢マウスが示す動き
1:爪先立ち歩き(チョコチョコ歩き)もしくは興奮状態
2:ゆっくり歩く(ノソノソ歩く)
3:動かないがお尻をつつくと動き出す
4:全く動かない
2.Passivity(Grade 0−4)
マウスの首を真上からそっと押さえたときの逃避行動
0:若齢マウスが示す動き。力強くスッとにげる。
1:逃げ方が遅い
2:逃げない
3:逃げない。首をつかんで仰向けにすると寝返る
4:前肢、後肢をつかんでももがかない。
Gross Appearances(9項目)
Skin and Hair(4項目)
3.Glossiness(Grade 0−4)
毛のつや
0:真っ白でピカピカ(若齢マウスが示す毛つや)
1:0と1の間
2:はっきりと艶が無くなっているが、汚れてはいない。
3:2と4の間
4:非常に汚れきった状態
4.Coarseness(Grade0−4)
指先で被毛をなぜたときに感ずるゴワゴワした感触
面積で判断する。小さな潰瘍、皮膚炎がある場合がある
0:毛玉なし。スベスベ、ツルツル
1:頭、顔面あたりにあり
2:肩のあたりまで広がっている。
3:背中のあたりまで広がっている。
4:背中を越えて尻尾のあたりまで。
5.Loss of Hair (Grade 0−4)
被毛が薄くなった状態もしくはハゲている状態。腹部は毛が薄いので
背部で観察する。妊娠マウスは毛が薄くなるので明らかなハゲを見た
方がよい。
0:全く毛のロスが無い
1:A; ハゲが頭部程度の大きさ。
B; 毛の薄い部分が背部全体の約半分まで。
2:A; ハゲが背部全体の1/4以下
B; 毛の薄い部分が背部全体の1/2以上
3:ハゲが背部全体の大体1/4以上1/2以下
4:ハゲが背部全体の1/2以上
6.Skin Ulcers (Grade 0−4)
白い瘢痕も含む。身体全体を検索する。
0:全くなし
1:瘢痕(皮膚が白く肥厚している)や痂皮を伴う潰瘍。大きさは
問わない。
2:ズルズルに赤くただれた潰瘍。大体頭部の面積程度以下。
3:ズルズルに赤くただれた潰瘍。大体頭部の面積程度以上で背部
の面積の1/2程度以下。
4:ズルズルに赤くただれた潰瘍。大体背部の面積の1/2程度以上

Eyes (4項目)
左右別々に評価する。Total Scoreにはそのまま加算する。必要に応じて1
/2の係数をつけたり、評価しやすい項目のみを採用することも可能。角膜
病変や白内障の観察には、直接ペンライトを用いる。
7.Periophthalmic Lesions(Grade 0−3)
0:変化無。眼はパッチリ。
1:瞼が晴れて眼が閉じている。もしくは眼の周囲のみが爛れてい
る。
2:目の周囲の爛れが鼻先まで広がっている。
眼は大丈夫で鼻先だけの潰瘍のあるので注意。
3:顔全体に爛れが広がった状態
8.CorenealOpacity(Grade 0−3)
角膜の混濁。角膜が白く濁っているが表面はツルツル。
冷蔵庫に入れて白くなった“くずまんじゅう”のような状態。
0:病変なし
1:虹彩は見える
2:虹彩は見えないが網膜からの反射(黄金色―オレンジ色)はみ
える
3:反射光なし。
9.Ulcers of Cornea (Grade 0−3)
角膜は白濁し、表面はザラザラしている。
0:病変なし
1:眼裂部に一致するところに線状の白濁あり。
2:1と3の間。周囲から反射光あり。
3:殆ど角膜全体に広がり網膜の反射光が見られない。
10.Cataract(Grade 0−2)
白内障。白濁は透明な角膜を通して底の方に白く映る。側方から見
ると、角膜が透明なことがわかる。
0:白濁なし。網膜反射光は正常
1:反射光やや減弱。
2:全く反射無し。(黄金―オレンジ色が観察されない)
Spine(1項目)
11.Lordokyphosis(Grade 0−3)
撫でると首の所でひっかかる。
マウスの姿勢を首が伸びるようにする。
0:ひっかかりが無い。
1:優しく撫でるとひっかかるが、強くするとひっかからなくなる

2:強く撫でてもひっかかる。尻尾を引っ張って背筋を伸ばすとひ
っかからなくなる。
3:どうしてもひっかかる。
Total Score
すべてを単純に加算し、マウス個体の老化度評点とする。眼瞼が閉じてい
る場合、生理食塩水を注射器にとり、眼を洗浄すると開眼できるがやや侵
襲が強くなる。角膜病変が強く白内障が観察できない場合、厳密にはその
マウスは省かねばならない。
【0062】
SAM研究会の上記老化度評価法に従って各マウスを毎週1回評価し、研究会指定の記録用紙に記入した。同時に体重測定、飲水量(サンプル摂取量)の記録、摂餌量の記録を行った。SAM研究会の指定評価法には含まれないが、生存の記録と生存曲線を記録し、また60週齢以降では、鼠頚部に頻発するリンパ腫様の腫瘤の長径、短径、高さの計測から腫瘤体積(mm3)を記録した。
【0063】
図4に生存曲線、図5に生存率のカプラン・マイヤー解析、表1に植物発酵物とCoQ10およびCoQ10還元型三者の生存率の平均日数の比較表、表2に生存期間の平均値、中央値、最長成長期間、図6に老化総合評点の推移、図7に54週ならびに60週齢における老化総合評点の有意差解析、図8に54週齢ならびに60週齢の背骨湾曲の比較を示す。また図9に60週齢を越えて飼育した場合に頻発する腫瘤の体積の推移の比較を示す。
【0064】
図4から、植物発酵物2%群は植物発酵物0.2%群より生存率が高く、濃度依存性があることが明らかとなった。また図5から、両者間の有意差検定の結果、Cox-Mantel-Henzelの有意差検定のP値=0.00461が算出され、植物発酵物2%群は有意に延命効果を有することが示された。
【0065】
カプラン・マイヤー解析(図5)において算出された平均週齢(および平均日数)について、同一のマウス種(SAM-P1♂)を用いたCoQ10およびCoQ10還元型による試験結果(非特許文献14)と比較した(表1)。植物発酵物2%の平均日数(624.475日)は、CoQ10(517.89日)およびCoQ10還元型(519.64日)に比べて誤差の範囲を越えて長いようである。なお、CoQ10とCoQ10還元型の間に有意差はないと報告されている。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
図6に示すとおり、植物発酵物2%群は0.2%群に比べて、老化度の発現は遅延し、また老化総合点数も終始0.2%群に比べて低値であった。
【0069】
図6に示すとおり、全ての週齢で植物発酵物2%群の方が、老化指標総合点において0.2%群よりも低く、有意差検定を行った54週齢、60週齢とも2%群の方が0.2%群に比べてt-検定のP<0.05で有意に老化点数が低かった(図7)。
【0070】
54週齢、60週齢とも、2%群の方が0.2%群より背骨老化指標点数が有意に低値を示し、植物発酵物は濃度依存的に加齢に伴う背骨湾曲異常を抑制することを示した(図8)。
【0071】
マウスは一般的に60週齢を越えると腫瘍が自然発生することが知られており、多くはリンパ腫である。試験例2において70週齢以上では、正常型(SAM-R1)および老化促進型(SAM-P1)とも主に鼠頚部に腫瘤が発生したのでサイズを短径x長径x高さで近似的に体積の推移を計測した(図9)。なお、癌腫に関する細胞診を実施していないので仮に「腫瘤」とした。老化促進型の植物発酵物2%群と正常型の腫瘤サイズの推移は同等であったが、老化促進型の植物発酵物0.2%群では、腫瘤サイズはこれらの群より上回る値で推移した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の老化抑制剤は、動物の加齢に伴う老化症状の発生抑制および生存率延長作用を持つものである。この老化抑制剤は、老化症状の抑制とともに、哺乳動物に加え、動物の基本的条件を備えた酸素感受性の線虫に対しても用量依存的に有意な生存率の延長を示した初めての例であり、広範な老化症状を抑制するのみならず、生存率の延長をももたらす新規な医薬または食品として利用可能なものである。
【要約】
本発明は、老化症状の発現を遅延させるとともに、寿命の延長をもたらし、安全性が高い老化抑制剤を提供することを課題とする。
上記課題を解決した本発明の老化抑制剤は、次の(a)ないし(g)
(a)大麦、黒大豆、赤米、黒米、小豆、はと麦、ヒエ、アワおよびキビよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の豆・穀物類の麹菌発酵物
(b)ミカン、ブドウ、リンゴ、ヤマブドウ、モモ、カキ、パパイヤ、ナシ、スイカ、ウメ、イチジク、カリン、カボチャ、キンカン、ユズ、ビワ、アンズ、ナツメ、クリ、マタタビおよびスモモよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の果実類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(c)紫イモ、菊芋、ニンジン、タマネギ、サツマイモ、里芋、自然薯、大根、赤カブ、ゴボウ、レンコン、ヤーコン、ユリ根、クワイ、しょうが、にんにくおよびウコンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の根菜類・イモ類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(d)キャベツ、紫蘇、桑葉、どくだみ、ヨモギ、クマザサおよびタンポポよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の花・葉菜類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(e)コンブ、ワカメおよびモズクよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の海藻類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(f)黒ゴマ、クルミおよびギンナンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の種子類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
(g)マイタケおよびシイタケよりなる群から選ばれる1種又は2種のキノコ類の酵母および/又は乳酸菌発酵物
の混合物である植物発酵物を有効成分として含有することを特徴とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9