(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
底部の所定の場所に取り付けられた昇降自在な4本以上の支持ボルトのうち、任意の3本以上の前記支持ボルトで接地して支持することによって、共振を回避することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の工作機械。
【背景技術】
【0002】
工作物を回転させて切削するタイプの旋盤や工具を回転させて切削するタイプのフライス盤のような工作機械は、工具の種類と工作物の材質とによって、切込み量、主軸回転数、送り速度の切削条件を決める。切削条件は、寸法精度、形状精度、表面粗さといった切削自体の品質に影響を与えるが、同時に、工具寿命や切削時間にも影響を与える。そのため、適切な切削条件を見つけて切削することは、特に、大量生産の場合に極めて重要になる。もちろん、工作機械は、切削自体の品質を維持するために、発生する振動にともなう工具と工作物との間の振幅を切削中に一定以下に保持することが前提条件となる。
【0003】
ここで、具体的な適切な切削条件とは、工具と工作物とによって定められる適切な切込み量と送り速度とに対応する切削速度であり、工具と工作物表面との接触する相対速度を意味する。旋盤による切削の場合には、工作物を装着する主軸回転数を工作物の直径に対応させて調整し、切削速度は、周速と呼ばれる工作物の表面の円周方向の接線方向速度に一致する。
【0004】
しかし、工作機械は、振動の発生源となる駆動源が複数存在しており、各振動の影響が重なった場合に、共振という大きな振幅を共振周波数と呼ばれる振動数において工作物と工具との間に発生する。共振が発生した場合には、切削自体の品質に影響を与えるため、適切な切削条件を断念し、一般的には、主軸回転数を下げる、送り速度を変える、切り込み量を少なくするといった切削条件を変えて切削を行う。共振は、基本的に、構造物を構成する要素の形状、大きさ、材質としてのヤング率と密度、支持方法によって定められる固有振動数が周期的な外部強制力の振動数と一致すると発生する。実際の機械は、変形の大きな順に1次、2次…N次までの振動モードが各固有振動数を有しており、各方向に複合的に合成されているため、外部強制力の振動数と方向とによって、対応する共振状態を現出する。旋盤による切削の共振は、一般的には、主軸モータの回転とともに、工作物と工具との間の相対的な位置関係によって、切削力を発生源とする周期的な外部強制力が各方向に発生し、各方向の各固有振動数と一致すると主軸に装着している工作物側の振幅が大きくなったり、工具側の振幅が大きくなったりして、工作物の品質を悪くする。なお、固有振動数は、いわゆる剛性の平方根に比例し、密度の平方根に反比例する。
【0005】
先端に工作物を装着する主軸の後端に質量を変更可能な錘を組み付け、共振が発生した場合に、錘の質量を変更することによって共振周波数を変更する機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる従来技術によるときは、主軸の先端側に連結する切削物に対応する錘を主軸の後端側に連結することによって、共振を避けるとされる。しかし、錘の使用は、基本的に密度を高めることによって、共振周波数を下げて共振を回避するものであり、振幅が大きくなることを防ぐことができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するためのこの出願に係る第1発明(請求項1に係る発明をいう、以下同じ)の構成は、工作機械の振動発生部位の部品表面に直接に接触して振動を減衰するための減衰材が高分子重合体の水溶液であることをその要旨とする。なお、振動発生部位の部品とは、周期的な外部強制力を受け周期的な変形を繰り返す部品をいう。
【0009】
第2発明(請求項2に係る発明をいう、以下同じ)の構成は、振動発生部位の部品表面を囲むように設けた空隙と、空隙に封入する第1発明の減衰材とを備えてなり、減衰材は、共振発生時に空隙に封入され、部品表面に直接に接触することによって、振幅の減衰とともに固有振動数を下げて共振を回避することをその要旨とする。
【0010】
また、減衰材は、封入量を可変としてもよい。
【0011】
ここで、着脱自在な補強フレームを振動発生部位に取り付けることができる。
【0012】
なお、底部の所定の場所に取り付けられた昇降自在な4本以上の支持ボルトのうち、任意の3本以上の支持ボルトで接地して支持してもよい。
【発明の効果】
【0013】
かかる第1発明の構成によるときは、一般的にポリマーとして知られる高分子重合体は、市場で容易に入手可能で安価であり、水に溶解した水溶液を減衰材として使用すれば、従来にない有効な機械的性能を得ることができる。すなわち、水溶液となった減衰材は、画期的な減衰比を有するだけでなく、振動している部品表面に隙間なく直接的に接触して、部品表面の振動を全て速やかに減衰することができるため、極めて効果的な減衰機能を有するとともに、ポンプを使用して容易に移送が可能となるため、という機械的性能も向上する。この減衰機能は、高分子重合体が粘性と弾性を併せ持つ非ニュートン流体であることにより起因していると考えられる。なお、高分子重合体は、高分子の重合体の総称であり、性能に応じて近年さまざまな用途にさまざまな種類が用いられている。なお、今回の発明で使用する高分子重合体は、水溶性のPEO系(ポリエチレンオキサイド)であり、そのまま廃棄しても環境汚染を起こさないという特長も有している。しかし、減衰材として使用する高分子重合体は、PEO系の高分子重合体に限定していない。
【0014】
かかる第2発明の構成によるときは、適切な切削条件において共振が発生する場合に、第1発明の減衰材を工作機械の振動発生部位の空隙に封入して、工作機械の振動発生部位の部品表面に接触させれば、工作機械は、密度が高くなり固有振動数を下げるため、共振を回避することができる。なお、一般的な振動は、密度を高めて固有振動数を下げれば、本来振幅を大きくすることになるが、かかる減衰材を封入すると振幅をも小さくすることができる。したがって、工作機械は、共振を避けて適切な切削条件で切削を続行することができるとともに、工作物を寸法精度、形状精度、表面粗さといった切削自体の品質を維持して切削することができる。また、工作機械は、第1発明の減衰材を主軸周りに限定せずに全域に亘る振動部位に封入すれば、使用する主軸回転数の全域に亘り、全体の振動を総合的に減衰することができ、切削精度を向上することができる。
【0015】
工作機械は、減衰材の封入量を可変とすれば、共振が発生した場合に、封入量の増減によって共振を回避することができる。
【0016】
工作機械は、着脱自在な補強フレームを必要に応じて振動発生部位に取り付ければ、振動発生部位の剛性を高くすることによって、取り付け部分の固有振動数を上げるため、第2発明と組み合わせることにより、共振を回避するとともに、振幅をさらに小さくすることができる。
【0017】
工作機械は、底部の所定の場所に取り付けられた昇降自在な4本以上の支持ボルトのうち、任意の3本以上の支持ボルトで必要に応じて接地して支持すれば、たとえば、1次、2次…N次までの振動モードの発生する周波数を変更することができる。このような各モードの発生する周波数の変更は、各方向の各固有振動数を変更することができ、共振を回避するとともに、第2発明と組み合わせることにより、振幅をさらに小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0020】
振動発生部位の部品表面に接触することによって、振動を減衰することを特徴とする高分子重合体の水溶液の減衰材11は、画期的な減衰比を有している(
図1(A)、(B))。減衰材の減衰比を調べる予備実験方法について説明する。減衰材11の減衰比は、減衰材11を充満させワイヤ21で吊り下げた鋼管22の中央部を上からインパクトハンマ23で加振力を与え、発生した振動に対応する出力を鋼管22の中央部の下部に張り付けた加速度センサ23からFFTアナライザー24で受けて、測定した対数減衰率を基準として求めている。すなわち、測定した対数減衰率は、減衰材11の減衰比と鋼管22の減衰比とが合成されているデータであり、減衰材11と鋼管22とについて減衰比を個別に求める必要がある。ここで、減衰材11の減衰比と鋼管22の減衰比とを求める方法は、仮定したそれぞれの値をPC25(パーソナルコンピュータ)による有限要素法で解析し、得られた結果に応じてそれぞれの値を修正して再度解析するという作業を測定して対数減衰率に収束するまで行って得られている。減衰比は、2次系伝達関数の振動の大きさを示すパラメータで、大きくなると振幅が小さくなる。実験結果は、減衰材11の重量濃度0%、2%、4%、6%を高めると対応する減衰比が増加し、濃度6%の減衰比が濃度0%の水に対して約50倍となっている(
図1(B))。また、6%以上の濃度の減衰材11は、実験で使用したポンプが減衰材11を移送できなかったため、減衰比を求めなかったが、濃度の上限を6%とするものでない。なお、実験に使用した鋼管22は、長さ300mm、直径48mm、厚さ2mmであり、両端から各100mmの位置をワイヤ21に結ばれ吊り下げられている。
【0021】
前記予備実験に基づき得られた減衰比を用いて実施した有限要素法による強制振動解析について説明する(
図2(A))。かかる解析は、実際の実験で使用する卓上旋盤31の形状と大きさとをベースとして、卓上旋盤31の主軸台31aの上に設けた空隙34と、主軸台31aを支持しているフレーム36に設けた空隙37とに、減衰材11の封入と(以下因子1という)、モータ台32aに対する補強フレーム32の脱着と(以下因子2という)、支持ボルト33、33…の接地する位置の変更とについて(以下因子3という)、それぞれパラメータを変更し、主軸台31aの工具側端面の上部に1Nの加振力をY軸方向に周期的に加えたときに、周波数に対応するX軸方向とY軸方向とに発生する振幅に対応するコンプライアンスを解析している。ただし、X軸方向は、主軸台31aの紙面に対して奥行方向としており、Y軸方向は、主軸台31aの紙面に対して垂直方向としている。なお、接地するための支持ボルト33、33、…の位置は、因子1と因子2との解析について、初期状態のA−B−Cとした(
図2(B))。なお、
図2(B)は、卓上旋盤を底から見たものである。
【0022】
因子1の最初の解析のモデルは、空隙34に、水、または、濃度6%の減衰材11を封入することによって見かけ上の密度の変化と減衰比とを変化させて周波数に対応するコンプライアンスを解析している(
図3(A))。なお、水、または、濃度6%の減衰材11の量は、それぞれ、なし、10リットル、16リットル、22リットルのそれぞれ4パターンに変化させている。解析の結果は、X軸方向においてもY軸方向においても、減衰材11を封入する場合には、減衰材11の量の増加に対応して、共振周波数が下がり、コンプライアンスが小さくなった。水の場合は、共振周波数が下がり、コンプライアンスが大きくなった。なお、
図3(A)のグラフに記載のなし、10、16、22は、前記水、または、減衰材の量に対応している。
【0023】
次の因子1の解析モデルは、空隙37に、水、または、濃度6%の減衰材11の量を(以下減衰材11という)、なし、5リットル、10リットル、13リットルのそれぞれ4パターンに変化させた(
図3(B))。解析の結果は、X軸方向においてもY軸方向においても、減衰材11を封入する場合には、減衰材11の量の増加に対応して、共振周波数が上がり、コンプライアンスが小さくなった。水の場合は、共振周波数が上がり、X軸方向のコンプライアンスが大きくなり、Y軸方向のコンプライアンスが小さくなった。なお、
図3(B)のグラフに記載のなし、5、10、13は、前記水、または、減衰材の量に対応している。
【0024】
因子2の解析は、事前に実施した自由振動解析で変形のより大きい低次の振動モードがモータ台32a付近に集中していたため、モータ台32aの補強によって剛性を高める効果を確認するために解析を行った(
図2(A))。補強フレーム32は、実際の実験に使用する大きさとなるように決め、板厚を12mm、24mm、36mmの3パターンと補強フレーム32を取り付けしない、として変化させた(
図4(A))。解析の結果は、板厚の如何にかかわらず、X軸方向では、共振周波数が上がり、コンプライアンスも小さくなったが、一方、Y軸方向では、低周波数側にある共振周波数の周波数が上がるとともに、コンプライアンスも大きくなっているが、一方で、高周波数側にある共振周波数が上がるとともにコンプライアンスが小さくなった。この結果は、50Hz付近に大きな共振源があることに起因していると考えられる。なお、この解析では、補強フレーム32に孔を設けた場合も検討したが、効果が小さかったため説明を省略する。なお、
図4(A)のグラフに記載のなしは、補強フレーム32を取り付けしない、12、24、36は、前記補強フレーム32の板厚に対応している。
【0025】
因子3の解析は、卓上旋盤31を接地して支持する支持ボルト33、33、…の位置をA−B−C、A−B−D、A−B−E、A−B−D−E、A−B−F−Gの5パターンで変化させた(
図2(B))。解析の結果は、X軸方向においてもY軸方向においても、共振周波数を10Hzから20Hz程度変化させることができるという効果が認められた(
図4(B))。なお、
図4(B)のグラフに記載のA−B−C、A−B−D、A−B−E、A−B−D−E、A−B−F−Gは、支持ボルト33、33、…の位置に対応している。
【0026】
実際の機械における効果を確かめるために行った実験について説明する。実験は、前記有限要素法での解析のベースとした卓上旋盤31を使用し、主軸台31aの工具側端面31a1に、主軸台31aの紙面に対して奥行方向とするX軸方向と、主軸台31aの紙面に対して垂直方向とするY軸方向とに、加速度センサ23、23を貼り付けて、加速度センサ23、23からの出力をFFTアナライザー25で受けて振動測定できるようにセットし、主軸モータ27をインバータ28で主軸回転数を600min
−1から3600min
−1まで連続的に変動させて、X軸方向、Y軸方向の無負荷運転の振幅を測定した(
図5(A))。なお、説明に使用する名称と符号とは、前記有限要素法で解析に使用した卓上旋盤と、実験に使用した卓上旋盤とで同一にしている。
【0027】
卓上旋盤31は、着脱自在で内部に空隙と下部に底とを設けて上部を開放している鉄板で形成された底を有する箱形状の容器34aを振動発生部位となる主軸台31aの上に載せ、容器34aに注入する濃度6%の減衰材11の量を、なし、10リットル、16リットル、22リットルの4パターンとして、振幅を測定した。なお、容器34aは、長さ230mm×奥行320mm×高さ345mmの大きさで主軸台31aの紙面に対して水平な奥行方向と長さ方向との寸法に対応して形成されており、容器34aの奥行方向の両側の底が主軸台31aの奥行方向の両側に形成されている水平面の上に載るように設けられている。また、容器34aの高さは、実際の機械に対応させて設計製作が可能な寸法となっており、有限要素法で用いた空隙34に対応した大きさで製作されている。測定の結果は、卓上旋盤31が減衰材11の量にかかわらず、X軸方向で主軸回転数996min
−1と主軸回転数2784min
−1とに共振が認められ、Y軸方向で主軸回転数2784min
−1に共振が認められた(
図6(A))。実験結果は、減衰材11の量の増加に対応して振幅が小さくなり、水なしと注入量22リットルを比較すると、X軸方向の主軸回転数996min
−1の場合に84.68%の振幅の減少と主軸回転数2784min
−1の場合に59.55%の振幅の減少が認められ、同様に、Y軸方向の主軸回転数2784min
−1の場合に15.36%の振幅の減少が認められた。なお、
図6(A)のグラフに記載のなし、10、16、22は、前記減衰材の量に対応している。ただし、本来、この発明を反映させた卓上旋盤31は、容器34aの代わりに、振動発生部位の主軸台31aを囲むように形成された空隙34と、空隙34に封入する減衰材11とを備えてなり、減衰材11は、共振発生時に、主軸台31aの部品表面31a2に直接に接触することによって、さらに効果的に振動を減衰する(
図5(B))。ただし、ここでいう振動発生部位とは、主軸台31aを構成する、たとえば、軸受を介して直接的に外部強制力を受けるような部位をいい、ここでいう空隙とは、一例として、振動発生部位の部品に穴を設けてカバーでふさぐことによって形成するような、または、部品の周囲をカバーで覆うことによって形成するような減衰材11を封入するための減衰材11が漏れない空間をいう。また、振動発生部位は、主軸台31aを一例として示しており、たとえば、図示しない送り駆動装置や工具の固定装置なども対象となる。
【0028】
減衰材11を封入するための自動化の一例は、工作機械41と、減衰材11と、減衰材11を外部に収容するタンク42と、工作機械41とタンク42との間を減衰材11を移送するポンプ43と、バルブ44a、44aと、バルブ44b、44bとを備えればよい。減衰材11をタンク42から工作機械41への移送は、ポンプ43の運転とともに、バルブ44a、44aを開き、バルブ44b、44bを閉めればよく、減衰材11を工作機械41からタンク42への移送は、逆に、バルブ44a、44aを閉め、バルブ44b、44bを開ければよい(
図5(B))。なお、減衰材11は、封入量を可変とするには、図示しないセンサーで減衰材11の流量を測定し、または、秤で工作機械41の重量を測定してバルブ44、44、…を制御すれば足りる。なお、
図5(B)は、卓上旋盤31を工作機械(41)の一例として示しており、機器の配置も、一例に過ぎない。
【0029】
卓上旋盤31は、着脱自在な補強フレーム32を振動発生部位に相当するモータ台32aのまわりに取り付けて、特に、無負荷運転で共振が認められている主軸回転数996min
−1でのX軸方向とY軸方向と、主軸回転数2784min
−1でのY軸方向における振幅を測定した(
図7(A)(B))。補強フレーム32は、長さ265mm×奥行224mm×高さ241mmとして、板厚を12mmと36mmとに変化させ、モータ台32aの周囲の垂直な側面を三方と下面とから囲み、専用の接地用の支持ボルト32b、32bで支持するように形成されており、モータ台32aにボルトで締結する構造となっている。実験結果は、補強フレーム32を取り付けることによって、主軸回転数全域に亘り振幅が小さくなるとともに、共振周波数が上がっていることが認められており、特に、補強なしと36mmの補強フレーム32を取り付けた場合とを比較すると、X軸方向に主軸回転数996min
−1の場合に63.47%の振幅の減少と主軸回転数2784min
−1の場合に82.63%の振幅の減少が認められ、同様に、補強なしと12mmの補強フレーム32を取り付けた場合とを比較するとY軸方向に主軸回転数2784min
−1の場合に84.27%の振幅の減少が認められた。実験では、振動の方向によって、有効な板厚が変化することも認められた(
図6(B))。なお、
図6(B)のグラフに記載のなしは、補強フレーム32のなしに、12、36は、前記補強フレーム32の板厚に対応している。
【0030】
補強フレーム32を脱着自在にする自動化の一例は、工作機械41と、補強フレーム32と、補強フレーム32を脱着する油圧シリンダ32cとを備えており(
図7(C)(D))、油圧シリンダ32cが短縮することによって補強フレーム32の端面を工作機械41に押し付けて剛性を高めることができる。なお、油圧シリンダ32cは、短縮に代えて、伸長して補強フレーム32の端面を押し付けることができ、空圧シリンダや電動モータに代えることもできる。また、同じような動きができれば、この限りでない。
【0031】
卓上旋盤31は、下部のA、B、C、D、E、F、Gの場所に取り付けられた昇降自在な4本以上の支持ボルト33、33、…のうち、任意の3本以上の支持ボルト33、33、…で支持することができ、任意の3本以上の支持ボルト33、33、…で接地して支持することによって、特に、無負荷運転で共振が認められている主軸回転数996min
−1でのX軸方向とY軸方向と、主軸回転数2784min
−1でのY軸方向における振幅を測定した(
図8(A))。支持ボルト33、33、…は、A−B−Cを基本的な組み合わせとしており、Cの奥行方向に左右対称的なDとEと、DとEをモータ台32a側に寄せたFとGとを実験のために準備した。支持ボルト33、33、…の位置をA−B−C、A−B−D、A−B−E、A−B−D−E、A−B−F−Gの5パターンに変化させた実験結果は、支持するボルトの位置で共振周波数が変動していることが認められており、特に、最も振幅の大きいA−B−Cの組み合わせと最も振幅の小さいA−B−F−Gとの組み合わせとを比較すると、X軸方向に主軸回転数996min
−1の場合に89.65%の振幅の減少と主軸回転数2784min
−1の場合に61.52%の振幅の減少が認められ、同様の組み合わせにおいて、Y軸方向に主軸回転数2784min
−1の場合に88.27%の振幅の減少が認められた(
図9)。なお、
図9のグラフに記載のA−B−C、A−B−D、A−B−E、A−B−D−E、A−B−F−Gは、支持ボルト33、33、…の位置に対応している。
【0032】
任意の支持ボルト33、33、…で接地して支持する自動化の一例は、工作機械41の下部に設けられた雌ねじ41a、41a、…と、雌ねじ41a、41a、…に対応した雄ねじ付の支持ボルト33a、33a、…と、支持ボルト33a、33a、…に接続され工作機械41に相対的に回転不能で垂直方向に移動自在な電動モータ51、51…とを備えており、電動モータ51、51、…の回転とともに回転する支持ボルト33、33、…が工作機械41との相対的位置を垂直方向に変えることによって床の上に取り付けられているプレート52、52、…を介して接地して床に支持することができる。このとき、各電動モータ51が回転数を厳密に制御可能なサーボモータであれば、事前に任意の3本以上の支持ボルト33、33、…で支持しても水平度を維持するようにできるため、支持ボルト33、33、…の位置を変更しても、所定の回転によって工作機械41の水平度を保持することができる(
図8(B))。なお、たとえば、工作機械41は、外部にリフター53、53…を設けて、支持ボルト33、33、…の位置を変更する場合に持ち上げれば、各支持ボルト33の回転を容易にすることもできる。
【0033】
卓上旋盤31は、因子1に対応する主軸台31aの上に載せた容器34aに注入する濃度6%の減衰材11の量を、なし、10リットル、16リットル、22リットルの4パターンに変化させて、それぞれに因子2に対応するモータ台32aまわりの補強フレーム32を着脱させて、かつ、それぞれに因子3に対応する支持ボルト33、33、…の位置をA−B−C、A−B−D、A−B−E、A−B−D−E、A−B−F−Gの5パターンで変化させて、無負荷状態で主軸回転数を600min
−1から3600min
−1の10箇所の所定の主軸回転数においてX軸方向とY軸方向との振幅が最も小さくなるように調整した因子1と因子2と因子3の結果を
図10(A)に、対応する振幅の結果を
図10(B)に示す。この結果は、因子1と因子2と因子3との組み合わせにより、主軸回転数全域で振幅を均等に小さくすることができているとともに、大きな共振においては、振幅が1/10以下に抑制されていることを示している。なお、
図10(B)のグラフに記載の調整後は、前記因子1と因子2と因子3との組み合わせて調整した結果を示し、調整前は、何も施していない結果を示している。なお、
図10(A)の因子1の「−」は、減衰材の封入がなしを意味しており、因子2の「−」は、補強なしを意味している。
【0034】
最も共振が大きかった主軸回転数2784min
−1に対して、振幅が最も小さくなる因子1と因子2と因子3とに調整を施した卓上旋盤31と(以下調整後の卓上旋盤31という)、何も施していない卓上旋盤31とを(以下調整前の卓上旋盤31という)無負荷状態で主軸回転数を600min
−1から3600min
−1まで連続的に変動させて比較した結果を
図11(A)に示す。共振は、調整前の卓上旋盤31が2784min
−1に発生したのに対して、調整後の卓上旋盤31が3072回min
−1に発生したことにより、因子1と因子2と因子3とを調整することによって、共振周波数が移動したことが認められる。また、調整後の卓上旋盤31と調整前の卓上旋盤31とで、実際に2784min
−1の主軸回転数で工作物を切削した切削条件を
図11(B)に示す。調整前の卓上旋盤31の振動は、振幅が大きいとともに、個々の振幅自体も変動が大きいのに対して、調整後の卓上旋盤31の振動は、工具の切り込み方向に対応するY軸方向に振幅自体が小さく、個々の振幅自体の変動も小さいことが認められる(
図12(A))。結果的に、調整前の卓上旋盤31による工作物の表面粗さがRa1.75μmに対して、調整後の卓上旋盤31による工作物の表面粗さが旋削にもかかわらず、研削加工レベルのRa0.35μmとなったことは、振幅と振幅自体の変動が小さかったことに起因していると考えられる(
図12(B))。なお、
図10(B)、
図11(A)、
図12(A)(B)のグラフに記載の「調整前」は、調整前の卓上旋盤31のデータを示しており、「調整後」は、調整後の卓上旋盤31のデータを示している。