【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明を限定するものではない。
【0024】
〔実施例1〕BPFの保存効果確認試験(1)−インスリン溶液の場合(37℃保存試験)−
インスリンを保存対象タンパク質とし、BPFの液状保存効果をBSAと比較した。
【0025】
1.試験材料
(1)BPF溶液A
1% BPF(東洋紡社製、カタログ番号BPF-301)溶液(25mM HEPES緩衝液(pH8.2)、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例1)
インスリン(シグマ社製)濃度が、0pg/mL、100pg/mL、500pg/mL、1,000pg/mL、5,000pg/mL、10,000pg/mLになるようBPF溶液Aで希釈し、保存対象タンパク質をインスリンとする本発明の液状保存液を調製した。
【0026】
2.試験方法
(1)保存条件
各濃度のインスリン液状保存液を2.0mL凍結保存チューブ(アシスト社製、材質:ポリプロピレン)に、0.5mL分注した。ヒーター式インキュベーター(三洋電機社製)中で37℃、2週間保存した。
(2)インスリンの測定
2種類の抗体(国際寄託番号:FERM BP-11233及びFERM BP-11234)を使用するラテックス免疫比濁法(PCT/JP2010/062261、WO2011/010673)により測定した。
PCT/JP2010/062261の実施例1に記載の第一試薬と第二試薬を用い、日立7170形自動分析装置により測定した。具体的には、各濃度のインスリン液状保存液10μLに、第一試薬150μLを加えて37℃で5分間加温後、第二試薬50μLを加えて攪拌し、その後5分間の吸光度変化を、主波長570nm、副波長800nmにて測定した。測定された吸光度の変化量を濃度既知の標準物質を測定して得られる検量線を用いてインスリン濃度に換算した。
(3)インスリン残存率(%)の算出
37℃、2週間保存後の各インスリン液状保存液のインスリン濃度について、次式を用いて、インスリン残存率(%)を算出した。
インスリン残存率(%)=37℃2週間保存後のインスリン液状保存液のインスリン濃度(pg/mL)/調製直後のインスリン液状保存液のインスリン濃度(pg/mL)×100
【0027】
3.比較例1
BPF溶液Aに代えて、1% BSA(シグマ社製)溶液(25mM HEPES緩衝液(pH8.2)、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用し従来の保存液Aとした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0028】
4.試験結果
実施例1、比較例1の試験結果を表1に示した。
BSAを使用する従来の保存液Aで調製した比較例1の2週間経過後のインスリン残存率は、いずれのインスリン濃度においても20%以下の残存率しか示さなかった。一方、BPFを使用する本発明の液状保存液の場合、2週間経過後の残存率はいずれのインスリン濃度においても92%以上を維持しており、従来の保存液Aを使用した場合と比較してはるかに高い残存率を示した。
以上より、本発明の液状保存液は、37℃、2週間という保存対象タンパク質にとっての劣悪条件下での保存においてもインスリンの抗原性の喪失を防止していると考えられ、すぐれた液状保存効果を有していることが確認された。
【0029】
【表1】
【0030】
〔実施例2〕BPFの保存効果確認試験(2)−シスタチンC溶液の場合−
シスタチンCを保存対象タンパク質とし、BPFの液状保存効果をBSAと比較した。
【0031】
1.試験材料
(1)BPF溶液B
0.1% BPF(東洋紡社製、カタログ番号BPF-301)溶液(リン酸緩衝液(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na
2HPO
4、2mM KH
2PO
4 (pH7.4))、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用した。
(2)シスタチンC液状保存液(実施例2)
組換えシスタチンC(オリエンタル酵母社製)粉末1mgに生理食塩液1mLを加えシスタチンC原液とした。シスタチンC原液を3mg/LになるようBPF溶液Bで希釈し、保存対象タンパク質をシスタチンCとする本発明の液状保存液を調製した。
【0032】
2.試験方法
(1)保存条件
シスタチンC液状保存液2.0mLをガラス瓶V2(不二硝子社製)(以下、ガラス瓶という)に充填した。これを充填時シスタチンC溶液とした。充填時シスタチンC溶液0.2mLをサンプルカップ(EVER GREEN SCIENTIFIC社製、BMC/Hitachi/Olympus Sample Cups、材質:ポリスチレン)に移し、シスタチンC濃度を測定した。残りの1.8mLが入ったガラス瓶を封栓し、ウェイブローター WR-40(サーモニクス社製)にて、室温、60rpmの条件で15分間回転混和した後、新しいガラス瓶に移した。この操作を2回行い、操作後のシスタチンC液状保存液をガラス瓶保存後シスタチンC溶液とした。ガラス瓶保存後シスタチンC溶液0.2mLを、前記サンプルカップに移し、シスタチンC濃度を測定した。
【0033】
(2)シスタチンCの測定
2種類の抗体を使用するラテックス免疫比濁法(WO2010/064435)により測定した。
WO2010/064435の実施例に記載の第一試薬と第二試薬を用い、日立7170形自動分析装置により測定した。具体的には、充填時シスタチンC溶液あるいはガラス瓶保存後シスタチンC溶液2.4μLに、第一試薬120μLを加えて37℃で5分間加温後、第二試薬120μLを加えて攪拌し、その後5分間の吸光度変化を、主波長570nm、副波長800nmにて測定した。測定された吸光度の変化量を濃度既知の標準物質を測定して得られる検量線を用いてシスタチンC濃度に換算した。
【0034】
(3)シスタチンC残存率(%)の算出
ガラス瓶充填時及びガラス瓶保存後シスタチンC溶液の濃度から次式を用いて、シスタチンC残存率(%)を算出した。
シスタチンC残存率(%)=ガラス瓶保存後シスタチンC溶液のシスタチンC濃度(mg/L)/充填時シスタチンC溶液のシスタチンC濃度(mg/L)×100
【0035】
3.比較例2
BPF溶液Bに代えて、0.1%BSA(デザートバイオロジカル社製)溶液(リン酸緩衝液(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na
2HPO4、2mM KH
2PO
4 (pH7.4))、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用し従来の保存液Bとした以外は、実施例2と同様の操作を行った。
【0036】
4.試験結果
実施例2、比較例2の試験結果を表2に示した。
BSAを使用する従来の保存液B(比較例2)の場合、ガラス瓶保存後のシスタチンCの残存率は87.6%であった。一方、BPFを使用する本発明の液状保存液(実施例2)のガラス瓶保存後の残存率は99.0%であり、従来の保存液Bを使用した場合に対して、きわめて高い残存率を確認することができた。
以上より、BPFは、液状保存時の抗原性の喪失防止効果に加え、容器への非特異吸着防止効果も有していることが確認された。
【0037】
【表2】
【0038】
〔実施例3〕BPFの保存効果確認試験(3) −カゼインとの比較−
インスリンを保存対象タンパク質とし、BPFの液状保存効果を、ブロッキング剤として汎用されているカゼインと比較した。
【0039】
1.試験材料
(1)BPF溶液A
実施例1に記載のBPF溶液Aを使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例3)
インスリン(シグマ社製)を、濃度が5,000pg/mLになるようBPF溶液Aで希釈し、保存対象タンパク質をインスリンとする本発明の液状保存液を調製した。
【0040】
2.試験方法
(1)保存条件
インスリン液状保存液を2.0mL凍結保存チューブ(アシスト社製、材質:ポリプロピレン)に、0.5mL小分け分注したあと、ヒーター式インキュベーター(三洋電機社製)中で37℃、9日間保存した。
(2)インスリンの測定およびインスリン残存率(%)の算出
実施例1と同様の測定を行った。また、次式を用いて残存率の算出を行った。
インスリン残存率(%)=保存後のインスリン液状保存液のインスリン濃度(pg/mL)/調製直後のインスリン液状保存液のインスリン濃度(pg/mL)×100
なお、本試験では残存率90%以上を保存安定性ありと判断した。
【0041】
3.比較例3
BPF溶液Aに代えて、1.0%カゼイン(VWR International Ltd.社製)溶液(25mM HEPES緩衝液(pH8.2)、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用し従来の保存液(比較例3)とした以外は、実施例3と同様の測定および残存率の算出を行った。
【0042】
4.試験結果
結果を表3に示す。カゼインを使用する従来の保存液(比較例3)の場合、インスリンの抗原性はほぼ失われており、測定不能であった。これよりカゼインを使用する従来の保存液は37℃、9日間という長期間の過酷条件でのタンパク質液状保存に適さないことがわかった。これに対してBPFを使用する本発明の液状保存液(実施例3)では、残存率が90%以上であり、インスリンを安定的に保存できた。
【0043】
【表3】
【0044】
〔実施例4〕BPFの保存効果確認試験(4)−ガラス容器でのインスリンの保存安定性−
インスリンを保存対象タンパク質とし、ガラス容器におけるBPFの液状保存効果をBSA(比較例4−1)、カゼイン(比較例4−2)と比較した。
【0045】
1.試験材料
(1)BPF溶液
0.01、1.0、5.0% BPF(東洋紡社製、カタログ番号BPF-301)溶液(25mM HEPES緩衝液(pH8.2)、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例4)
インスリン(シグマ社製)を、濃度が5,000pg/mLになるよう(1)のBPF溶液でそれぞれ希釈し、保存対象タンパク質をインスリンとする本発明の液状保存液を調製した。
【0046】
2.試験方法
インスリン液状保存液をガラス瓶V2(不二硝子社製)に保存した以外は実施例3と同様の試験および残存率の算出を行った。
なお、本試験では、残存率75%以上を保存安定性ありと判断した。
【0047】
3.比較例
(1)比較例4−1
BPF溶液に代えて、0.01,1.0,5.0% BSA(シグマ社製)溶液(25mM HEPES緩衝液(pH8.2)、0.05(v/v)% ProClin300(SUPERCO社製))を使用し従来の保存液(比較例4−1)とした以外は実施例4と同様の試験および残存率の算出を行った。
(2)比較例4−2
BPF溶液に代えて、比較例3に記載の1.0%カゼイン(VWR International Ltd.)溶液を使用し従来の保存液(比較例4−2)とした以外は、実施例4と同様の試験および残存率の算出を行った。
【0048】
4.試験結果
結果を表4に示す。BSAを使用する従来の保存液(比較例4−1)の場合、ガラス瓶保存後のインスリンの残存率はいずれも75%以下であった。また、カゼインを使用する従来の保存液(比較例4−2)の場合、測定不能となり、ガラス容器での保存に適さないことが示された。一方、BPFを使用する本発明の液状保存液(実施例4)のガラス瓶保存後の残存率はいずれの濃度で用いた場合も75%以上であり、比較例4−1、比較例4−2に対して、きわめて高い残存率を示した。
【0049】
【表4】
【0050】
〔実施例5〕BPFの保存効果確認試験(5)−高温条件での保存安定性−
インスリンを保存対象タンパク質とし、高温条件におけるBPFの液状保存効果をBSA(比較例5)と比較した。
【0051】
1.試験材料
(1)BPF溶液
実施例4に記載のBPF溶液を使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例5)
インスリン(シグマ社製)濃度が、1,000pg/mL、5,000pg/mLになるよう(1)のBPF溶液でそれぞれ希釈し、保存対象タンパク質をインスリンとする本発明の液状保存液を調製した。
【0052】
2.試験方法
各濃度のインスリン液状保存液を2.0mL凍結保存チューブ(アシスト社製、材質:ポリプロピレン)に、0.5mL小分け分注したあと、ヒーター式インキュベーター(エスペック社製)中で60℃18時間保存した以外は実施例3と同様に測定および残存率の算出を行った。
なお、本試験では、残存率50%以上を保存安定性ありと判断した。
【0053】
3.比較例5
BPF溶液に代えて、比較例4−1に記載のBSAを使用する従来の保存液(比較例5)とした以外は、実施例5と同様の試験および残存率の算出を行った。
【0054】
4.試験結果
結果を表5に示す。インスリンは37℃以上では速やかに変性が進むことが知られているが、BPFを使用する本発明の液状保存液を用いた場合(実施例5)、いずれの濃度においてもインスリンの残存率は60%以上であり、BSAを使用する従来の保存液(比較例5)と比較して熱に対する高い安定化効果を有していることが示された。
【0055】
【表5】
【0056】
〔実施例6〕BPFの保存効果確認試験(6)−凍結融解条件に対する保存安定性−
インスリンを保存対象タンパク質とし温度変化に対するBPFの液状保存効果をBSA(比較例6)と比較した。
【0057】
1.試験材料
(1)BPF溶液
実施例4に記載のBPF溶液を使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例6)
実施例5に記載のインスリン液状保存液を使用した。
【0058】
2.試験方法
各濃度のインスリン液状保存液を2.0mL凍結保存チューブ(アシスト社製、材質:ポリプロピレン)に、0.5mL小分け分注したあと、バイオメディカルフリーザ(三洋電機社製)中で-30℃1日凍結保存したあと、ヒーター式インキュベーター(三洋電機社製)中で37℃1日保存した以外は実施例3と同様に測定および残存率の算出を行った。
なお、本試験では、残存率90%以上を保存安定性ありと判断した。
【0059】
3.比較例6
BPF溶液に代えて、比較例4−1に記載のBSAを使用する従来の保存液(比較例6)とした以外は、実施例6と同様に試験および残存率の算出を行った。
【0060】
4.試験結果
結果を表6に示す。インスリンは凍結によって構造変化が起こることが知られているが、BPFを使用する本発明の液状保存液(実施例6)では、凍結後さらに37℃で保存してもインスリンの残存率は90%以上であった。
BSAを使用する従来の保存液(比較例5)は、BSAの添加濃度によっては高い残存率を示したが、高濃度で用いた場合には残存率が著しく低下し、安定的な保存に適さないことがわかった。
【0061】
【表6】
【0062】
〔実施例7〕BPFの保存効果確認試験(7)−凍結融解に対する保存安定性−
インスリンを保存対象タンパク質とし、凍結融解に対するBPFの液状保存効果をBSA(比較例7)と比較した。
【0063】
1.試験材料
(1)BPF溶液
実施例4に記載のBPF溶液を使用した。
(2)インスリン液状保存液(実施例7)
実施例5に記載のインスリン液状保存液を使用した。
【0064】
2.試験方法
各濃度のインスリン液状保存液を2.0mL凍結保存チューブ(アシスト社製、材質:ポリプロピレン)に、0.5mL小分け分注したあと、バイオメディカルフリーザ(三洋電機社製)中で-30℃1日凍結保存したあと、ヒーター式インキュベーター(三洋電機社製)中で37℃1日保存した。このサイクルを3回おこなった以外は実施例3と同様に測定および残存率の算出を行った。
なお、本試験では、残存率85%以上を保存安定性ありと判断した。
【0065】
3.比較例7
BPF溶液に代えて、比較例4−1に記載のBSAを使用する従来の保存液(比較例7)とした以外は、実施例7と同様に試験および残存率の算出を行った。
【0066】
4.試験結果
結果を表7に示す。BPFを使用する本発明の液状保存液を用いた場合(実施例7)、凍結融解を3回繰り返す過酷試験後でも、残存率85%以上の高いインスリンの残存率を示した。一方、0.01%または1.0%BSAを使用する従来の保存液を用いた場合(比較例7)、凍結融解1回の条件(比較例6)ではインスリン残存率75.0%以上であったが、凍結融解を3回繰り返すより過酷な条件では残存率が低下した。BSAを使用する従来の保存液は分注したインスリンを凍結保存し、融解して使いきるような場合には適用可能であるが、1本の試薬を繰り返し凍結融解して使用するような場合には不適であると考えられる。本発明の液状保存液は、凍結と融解が長期に繰り返される条件下で用いた場合でも、タンパク質を安定的に保存可能である。
【0067】
【表7】