特許第6013719号(P6013719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013719
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】印刷付き人工皮革製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20161011BHJP
   B05D 7/12 20060101ALI20161011BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20161011BHJP
   B68G 7/00 20060101ALI20161011BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20161011BHJP
   B41M 5/26 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   D06N3/00DAC
   B05D7/12
   B23K26/36
   B68G7/00
   B60N2/58
   B41M5/26 S
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-231866(P2011-231866)
(22)【出願日】2011年10月21日
(65)【公開番号】特開2013-87400(P2013-87400A)
(43)【公開日】2013年5月13日
【審査請求日】2014年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(73)【特許権者】
【識別番号】591191398
【氏名又は名称】株式会社キルト工芸
(73)【特許権者】
【識別番号】506226784
【氏名又は名称】株式会社DOKO
(73)【特許権者】
【識別番号】310011767
【氏名又は名称】ヒライワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】竹原 成規
(72)【発明者】
【氏名】秋山 かおり
(72)【発明者】
【氏名】田村 光宏
(72)【発明者】
【氏名】村上 雅一
(72)【発明者】
【氏名】平岩 裕基
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−084056(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3148375(JP,U)
【文献】 特開2000−054000(JP,A)
【文献】 特開平08−025591(JP,A)
【文献】 特開平11−048697(JP,A)
【文献】 特開昭55−001346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00− 7/06
B68F 1/00− 3/04
C14B 1/00−99/00
C14C 1/00−99/00
B32B 1/00−43/00
B05D 7/12
B23K 26/36
B41M 5/26
B60N 2/58
B68G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布の片面にレザー層が形成されている人工皮革を用意し、前記人工皮革におけるレザー層の表層を図柄の状態に除去して凹所状の印刷部を形成し、次いで、前記印刷部にインキを塗着して図柄を表示する、という製造方法であって、
前記印刷部へのインキの塗着は、前記人工皮革を保持枠に固定して、前記人工皮革の図柄に対応した図柄が形成されたスクリーンを前記人工皮革に上から重ねて、スクリーンに形成された図柄のとおりにインキを前記印刷部に転移させる、というスクリーン印刷によって行われており、
前記スクリーンの図柄を、前記人工皮革の印刷部内に僅かの遊びを持って収まるように形成することにより、前記スクリーン印刷に際してインキが前記レザー層の印刷部からはみ出ることを防止している、
印刷付き人工皮革製品の製造方法。
【請求項2】
前記印刷部の形成は、前記レザー層にレーザー光を照射することによって行われている、
請求項1に記載した印刷付き人工皮革製品の製造方法。
【請求項3】
前記レザー層の表面の全体にフッ素樹脂又はその他の素材より成る保護層が予め形成されており、前記レーザー光の照射によって前記保護層も図柄のとおりに除去される、
請求項2に記載した印刷付き人工皮革製品の製造方法。
【請求項4】
前記人工皮革にスクリーン印刷にて図柄を印刷してから、前記人工皮革の表面全体に保護層をコーティングしている、
請求項1又は2に記載した印刷付き人工皮革製品の製造方法。
【請求項5】
前記人工皮革は、椅子における背もたれの表皮材又は座の表皮材、若しくは椅子における他の表皮材である、
請求項1〜4のうちいずれかに記載した印刷付き人工皮革製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、印刷付き人工皮革の製造方法に関するものである
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系の人工皮革は柔軟な手触りと天然皮革に似た風合いとを有しており、例えば椅子の表皮材などの様々な分野で使用されているが、印刷性が悪いという問題があった。特に、椅子の背もたれ用表皮材のように摩擦を受ける物の場合は、使用しているうちにインキが剥げ落ちる現象が見られ、このため、椅子の表皮材に印刷を施すことは一般には行われていない。
【0003】
また、レザーの表面には耐磨耗性アップや汚れ防止のためにフッ素樹脂等の保護層をコーティングすることが広く行われており、このように保護層を設けるとインキの乗り(接着性)が悪化するため、印刷性の悪さが倍加していた(保護機能が高くなればなるほど印刷性は悪化する。)。従って、保護層をコーティングした塩化ビニル系レザーに印刷を施すことは、事実上、行われていない。
【0004】
さて、公共施設や車両など、お年寄りや身体障害者、妊婦、怪我人などのための優先席を設置しており、これらの優先席には、優先席であることを示す表示を設けている。そして、これらの優先席においても背もたれや座の表皮材を塩化ビニル系のレザー仕様にしていることが多く、従って、優先席であることの表示(マークや文字)は背もたれの表皮材に施すのが合理的であるが、従来は、既述のようにレザーは印刷性が悪いために表皮材に直接に表示を施すこと(印刷すること)は行われておらず、背もたれに上から被さる袋状のカバーに表示を施している。しかし、これは見栄えが悪いという問題があった。
【0005】
他方、レザーに耐磨耗性が高い印刷を施すことが考えられており、その例として特許文献1には、レザーの表面に塩化ビニル系のインキで印刷してから、印刷部を紋押しして凹ませることが開示されている。また、レザーに表示を直接に施す手段として、レザーの表面にレーザー光線を照射して、レザーの表層を変質(変色)させて図柄を表示することも一部でトライされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3406387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1はインキ層をレザーの内部にめり込ませて、レザー層でインキ層を保護することでインキに外力が作用することを低減せんとしたものと思われるが、表示が細い線のみである場合ならまだしも、印刷された表示ある程度の面積を有するとレザー層による保護機能は全く期待できず、印刷部を凹ませたことの意味が没却されてしまう。また、フッ素樹脂層のような保護層を設けている場合のインキの乗りの悪さは、解消するに至っていない。
【0008】
他方、レザーの表面を焼く方法は、表れる色が1種類に限定されるため多様な商品展開ができない問題がある。また、レザーには一般に白色顔料として二酸化チタンが混入されていることが多く、レザーの表面をレーザーで除去すると、混入していた二酸化チタンが露出して紫外線と反応し、数日のうちに色が薄まって視認性が著しく悪化する問題がある。
【0009】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、耐久性や視認性等に優れて商品価値が高い印刷付きレザー製品を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、請求項1で特定されている。すなわちこの発明は、
基布の片面にレザー層が形成されている人工皮革を用意し、前記人工皮革におけるレザー層の表層を図柄の状態に除去して凹所状の印刷部を形成し、次いで、前記印刷部にインキを塗着して図柄を表示する、という製造方法であって、
前記印刷部へのインキの塗着は、前記人工皮革を保持枠に固定して、前記人工皮革の図柄に対応した図柄が形成されたスクリーンを前記人工皮革に上から重ねて、スクリーンに形成された図柄のとおりにインキを前記印刷部に転移させる、というスクリーン印刷によって行われており、
前記スクリーンの図柄を、前記人工皮革の印刷部内に僅かの遊びを持って収まるように形成することにより、前記スクリーン印刷に際してインキが前記レザー層の印刷部からはみ出ることを防止している、」
という構成である。
【0011】
【0012】
お、本願発明において「表層を除去する」とは、少なくとも表層を除去するということであり、表層のみを除去するという意味ではない。従って、除去部の深さには特に制限はない。
【0013】
本願製法は、請求項2〜5の構成も含んでいる。このうち請求項2の発明は、請求項1において、前記印刷部の形成は、前記レザー層にレーザー光を照射することによって行われている。
また、請求項3の発明は、請求項2において、前記レザー層の表面の全体にフッ素樹脂又はその他の素材より成る保護層が予め形成されており、前記レーザー光の照射によって前記保護層も図柄のとおりに除去されるものである。
【0014】
更に、請求項4の発明は、請求項1又は2において、前記人工皮革にスクリーン印刷にて図柄を印刷してから、前記人工皮革の表面全体に保護層をコーティングしている。
【0015】
請求項5の発明では、請求項1〜4のうちのいずれかにおいて、前記人工皮革は、椅子における背もたれの表皮材又は座の表皮材、若しくは椅子における他の表皮材である。
【0016】
本願発明では様々なインキを使用できる。人工皮革のレザー層への接着性・耐剥離性、耐磨耗性、耐光性、耐移行性、耐アルコール性(耐薬品性)等の諸要素を考慮して選択したらよい。当然ながら、安全性は第1条件として考慮されねばならない。塩化ビニル系のレザーに使用する場合は、アクリル系(水性エマルジョン)が好適であった。
【発明の効果】
【0017】
本願発明では、レザー層の印刷部は表層が除去されていて内部の組織が露出しているため、インキの乗り(接着性)が非常によい状態になっている。このため、従来と同じインキを使用しても、接着性・耐剥離性に優れると共に高い耐磨耗性を確保できる。また、レザー層の内部が露出したままになることはないため、紫外線によって色落ちするような問題は全く無くて耐光性にも優れている。また、インキの成分が衣服等に転移する移行性の問題や、耐アルコール性等の耐薬品性の問題も、インキを選択することで解消できる。
【0018】
本願発明の特徴の一つは、請求項3のように予め保護層が形成されていてもこれを除去して印刷を施すことができる点であり、このため、保護層による保護機能を損なうことなく耐磨耗性等に優れた印刷を施すことができる
【0019】
レザー層の表層を除去する方法としては各種の方法を採用できるが、請求項2のようにレーザー光を使用すると、型やマスクを使用することなく各種の図柄を簡単に形成できると共に、均一で良好な仕上がり面を形成できる利点がある。また、印刷にはインクジェット方式や凸版印刷、オフセット印刷など各種の印刷方法があるが、本願発明のようにスクリーン印刷を採用すると、柔軟な人工皮革に簡単に印刷できる。
【0020】
さて、スクリーン印刷は、保持枠に固定保持されたワークにスクリーンを重ねて、スキージとスクリーンとを相対動させてインキを図柄のとおりにワークに転移させるものであるが、本願発明のようにレザー層の印刷部に除去によって図柄が形成されていると、スクリーンの図柄とレザー層の図柄とがごく僅かながらずれる可能性がある。そして、ずれによってインキがレザー層のうち除去部又は破壊部の外側にはみ出ていると、印刷部が剥がれやすくなる。さりとて、ずれが生じないように正確に位置合わせすると能率が悪くなる。
【0021】
この点、本願発明のように、スクリーンの図柄が人工皮革の図柄の内部に収まるように設定すると、両図柄に僅かのずれがあってもインキがレザー層の図柄からはみ出ることを防止できるため、高い作業能率を確保しつつ、剥がれにくい状態に印刷することができる。
請求項4の発明では、耐磨耗性等の耐久性がより完全になる利点がある。
【0022】
本願発明は、例えばバッグ類やマウスパッド、幼児用遊具の表面材、各種部材のグリップなどの各種の物品に適用できるが、請求項5において、椅子の背もたれの表皮材に適用すると、例えば優先席の表示を美麗に表示することができるため、椅子の商品価値を向上できる。椅子に使用する場合、座の表皮材に適用することも可能である。また、椅子に使用する場合の図柄は優先席であることの表示には限らず、キャラクターや動物、チェック柄など、用途に応じて様々の図柄を選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(A)は実施形態に係る椅子(ベンチ)の正面図、(B)は(A)のうち二点鎖線で囲った部分の拡大図、(C)は背もたれの底面視での断面図である。
図2】(A)は図1(A)のIIA-IIA 視断面図、(B)〜(D)は製造工程を示す図である。
図3】(A)は印刷工程を示す分離断面図、(B)は(A)のB−B視部分平面図、(C)は(A)のC−C視部分平面図である。
図4】第2実施形態を示す図である。
図5】第3実施形態を示す図である。
図6】第4実施形態を示す図である。
図7】第5実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(1).第1実施形態の構成
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1図3に示す第1実施形態から説明する。本実施形態は、一人ずつ掛けることのできるユニットを左右に3連並設したベンチ方式の椅子に適用している。各ユニットは座1と背もたれ2とを有しており、各座1は共通のフレーム3に取り付けられている。
【0025】
背もたれ2は座1の基板(図示せず)に連続した背板(図示せず)を有しており、図1(C)に示すように、背板の前面にクッション4を配置している。クッション4は、本願発明に係るレザー製品の一例としての表皮材5で手前から覆われている。表皮材5の周囲は背板に固定されている。表皮材5は、メリヤス編地等の基布(ベース)6に塩化ビニル系等のレザー層7を一体に設けた人工皮革を使用しており、レザー層7の表面にはフッ素樹脂等の薄い保護層(保護膜)8がコーティングされている。
【0026】
本実施形態の椅子は妊婦等のための優先席であり、そこで、各背もたれ2の表皮材5の前面に、優先席であることを表示するマークと文字(以下、「優先席表示図柄」と呼び、符号9で示す)が印刷されている。優先席表示図柄9の厚さは、例えば0.09〜0.12mm程度が好ましいが、0.3mm程度であっても構わない。
【0027】
図2(A)に示すように、優先席表示図柄9を構成するインキ14は、保護層8を除去すると共にレザー層7を表面側から除去して形成された印刷部たる凹所10の内部に埋め込まれた状態になっている。図では、優先席表示図柄9の表面は保護層8の表面と同一面に描いているが、現実には、加工誤差により、優先席表示図柄9が保護層8の表面から多少突出していたり、逆に、優先席表示図柄9が保護層8の表面から凹んでいたりすることがある。
【0028】
(2).第1実施形態の印刷工程(製造工程)
優先席表示図柄9の印刷は、図2(B)〜(D)に示す手順で行われる。すなわち、図2(B)のとおり、表面の全体に保護層8が形成されている人工皮革(レザー生地を表皮材5として用意し、次いで、図2(C)に示すように、表皮材5の表面にレーザー光11を照射して保護層8及びレザー層7の表面側を除去することにより、優先席表示図柄9と同じ形状の凹所(印刷部)10を形成し、次いで、スクリーン12及びスキージ13を使用したスクリーン印刷により、凹所10にインキ14を充填し、次いで、表皮材5乾燥炉に入れてインキ14を乾燥させる、という手順で行われる。
【0029】
なお、レーザー光によって保護層8及びレザー層7部分除去する工程は、図示しない保持テーブルに表皮材5を正確に位置決めしてから、XY方向に移動自在なレーザー照射器を使用してレーザー光を図柄のとおりに走査させることで行われる(レーザー照射器を固定して、テーブルをXY方向に移動させてもよい。)。レーザーの種類には特に限定はなく、YAGレーザーやCO2 レーザーなど、加工に供される各種レーザーを使用できる。また、本実施形態では、熱によって乾燥するインキ(水性又は油性)を使用しているが、UV樹脂系のインキを使用することも可能である。
【0030】
このように、レザー層7の凹所10にインキ14を充填する(塗着する)ことで印刷しているため、インキ14の乗り(接着性)は極めて良好であり、従って、高い耐磨耗性を確保できる。また、優先席表示図柄9はインキ14で構成されているため、単にレーザー光で図柄を施した場合のような色落ちの問題は生じない。また、接着性に優れていることから各種のインキを採用できるため、移行性や耐薬品性の確保についても対応が容易である。
【0031】
スクリーン12には優先席表示図柄9に対応した図柄としてインキ透過部15が形成されているが、図2(D)に示すように、平面視においてインキ透過部15は若干の寸法Eの間隔(遊び)を持ってレザー層7の凹所10に収まるように設定している。単純に述べると、インキ透過部15を凹所10の図柄よりも僅かに小さく設定している(但し、「PRIORITY SEAT」を単に縮小しても、縮小前後で互いに重ならずにずれることから判るように、インキ透過部15を凹所10の図柄よりも僅かに小さくしているというのは、正確ではない。優先席表示図柄9を構成する個々の要素について、インキ透過部15が凹所15よりも僅かに小さいということである。)。
【0032】
このようにインキ透過部15が凹所10の内部に収まっているため、スクリーン12と表皮材5との間に若干のずれがあっても、そのずれを吸収してインキ14が凹所10からはみ出ることを防止できる。その結果、使用しているうちに優先席表示図柄9が縁の箇所から剥がれてしまうような現象を、的確に防止できるのである。
【0033】
スクリーン印刷の工程を更に説明する。図3(A)に示すように、本実施形態のスクリーン印刷では、表皮材5を押さえ固定する上下の保持枠16,17が使用される。上保持枠16は四辺の平面視四角形で上下に開口しており、他方、下保持枠17は、上保持枠16が上からきっちり嵌まり込むように上向きに開口したトレー状になっており、図示しないクランプ装置で上保持枠16を下保持枠17に固定することにより、表皮材5はずれ不能に保持される。
【0034】
敢えて説明するまでもないが、スクリーン12はその四周部が四角形のスクリーン枠18の下面に固定されており、スクリーン12とスクリーン枠18とでスクリーンマスク19が構成されている。スクリーン12は細い樹脂繊維から成る織地にインキ不透過樹脂をコーティングしたものであり、インキ不透過樹脂を除去することによって、スクリーン12の図柄たるインキ透過部15が構成されている。従って、インキ14はスクリーン12の厚さだけ表皮材5に転移する。
【0035】
表皮材5の凹所10とスクリーン12のインキ透過部15とを一致させるための位置決め手段として、本実施形態では、表皮材5の四辺の各中間部に平面視V形のノッチ(切欠き)20を形成している一方、下保持枠17の底面の周縁部に、ノッチ20がきっちり嵌まる平面視山形の突起21を設けている。上保持枠16には、突起21との衝突を防止するための逃がし溝22を形成している。このように、表皮材5は、ノッチ20と突起21とによって下保持枠17に正確に位置決めされる(ノッチ20と突起21とによる位置決め機能を担保するため、表皮材5の外周と下保持枠17の内周との間には、若干の隙間を設けるのが好ましい。)。
【0036】
位置決め手段としてノッチ20と突起21との組み合わせを採用する場合、各辺に複数ずつ設けることも可能である。表皮材5が長方形である場合は、短辺の部位に1つ設けて長辺の部位に複数設けることも可能である。位置決め手段としてのノッチ20及び突起21の平面視形態は、U形や角形等の各種の形態を採用できる。また、位置決め手段としては、表皮材5に丸穴を空けて、下保持枠17にピンを設けるといったことも可能である。
【0037】
(3).他の実施形態
次に、図4以下に示す他の実施形態を説明する。図4に示す第2実施形態は凹所10を形成する手段の別例である。素材としての表皮材5に図柄に対応した抜き穴23が形成されたマスク24を重ねて、マスク24上からブラシ25を回転させながら移動させることにより、表皮材5に凹所10を形成している。ブラシ25で物理的に除去することに代えて、薬品を使用して化学的に除去することも可能である(凹所10が環状になっていてその内部がアイランド部になっている場合は、マスク24のうちアイランド部に対応した部位とその外側の部位とを細いブリッジで繋いだらよい。)。
【0038】
図5に示す第3実施形態も凹所10を形成する手段の別例であり、この実施形態では、図柄に対応した突起26を下面に形成した加振型27が使用されており、位置決めして保持部材に固定された表皮材5の上面に加振型27を重ねて、加振型27を高周波振動や超音波振動等によってごく短い振幅で水平振動させることによって、表皮材5に凹所10を形成している。
【0039】
図6に示す第4実施形態も凹所10を形成する手段の別例であり、この実施形態では、図柄に対応した突起28を上面に形成した支持型29が使用されており、支持型27の上に表皮材5を位置決めした状態で重ねて、表皮材4の上面に平板状の擦り板30を重ねてこれを加圧状態で水平動させることで、表皮材5の表面部のうち突起26に対応した部位だけを除去している。
【0040】
図7に示す第5実施形態では、まず表皮材5の表面に凹所10を形成してこれに印刷を施し、次いで、印刷部(優先席表示図柄9)を含む全体にフッ素樹脂等の保護層8をコーティングしている。この実施形態では、耐磨耗性等の耐久性がより完全になる利点ある。
【0041】
(4).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、適用対象は椅子及びその表皮材に限らず、既述のとおりバッグ等の各種の物品に適用できる。椅子に適用する場合、ヘッドレストの表皮材や肘当ての表皮材に適用することも可能である。スクリーン印刷において、印刷工程を複数回行うことで多色表示を実現できる。)
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願発明は各種の人工皮革製品に実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0043】
2 椅子の背もたれ
人工皮革からなる背もたれ用表皮材
6 基布
7 塩化ビニル系のレザー層
8 保護層
9 図柄の一例としての優先席表示図柄
10 表層部を除去して形成された印刷部たる凹所
11 レーザー光
12 スクリーン
13 スキージ
14 インキ
15 スクリーンの図柄であるインキ透過部
16 上保持枠
17 下保持枠
18 スクリーン枠
19 スクリーンマスク
20 位置決め手段を構成するノッチ
21 位置決め手段を構成する突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7