(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タイヤのトレッドの踏面の少なくとも一部に、タイヤ幅方向に分布を有するスパイクの打ち込みが可能な穴が、前記トレッドの内部から前記トレッドの踏面に向かう所定の配設方向で設けられた空気入りタイヤであって、
タイヤ回転軸を含む平面による断面において、タイヤ赤道からトレッド接地半幅の30%以上60%未満の範囲内にあるセンター領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβcとし、
タイヤ回転軸を含む平面による断面において、タイヤ赤道からトレッド接地半幅の60%以上90%以下の範囲内にあるショルダー領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβsとしたときに、
0≦βc<βs
を満たし、
前記穴の中心Oを通るトレッド周方向仮想線LLと、前記穴が打ち込まれている陸部の回転方向側の端との交点F、回転方向とは逆側の端との交点Kからなる線分FKのトレッド踏面に沿う長さをLとし、線分FKの中点Mから前記穴の中心Oまでのトレッド踏面に沿う長さをDとし、前記線分FKの中点Mを基準点として、タイヤ回転方向を正の方向、タイヤ回転方向とは逆側を負の方向としたときに、前記センター領域に位置する前記穴がD/L>0を満たし、前記ショルダー領域に位置する前記穴がD/L<0を満たすことを特徴とする、空気入りタイヤ。
タイヤのトレッドの踏面の少なくとも一部に、タイヤ幅方向に分布を有するスパイクの打ち込みが可能な穴が、前記トレッドの内部から前記トレッドの踏面に向かう所定の配設方向で設けられた空気入りタイヤであって、
タイヤ回転軸を含む平面による断面において、タイヤ赤道からトレッド接地半幅の30%以上60%未満の範囲内にあるセンター領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβcとし、
タイヤ回転軸を含む平面による断面において、タイヤ赤道からトレッド接地半幅の60%以上90%以下の範囲内にあるショルダー領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβsとしたときに、
0≦βc<βs
を満たし、
前記穴の中心Oを通るトレッド周方向仮想線LLと、前記穴が打ち込まれている陸部の回転方向側の端との交点F、回転方向とは逆側の端との交点Kからなる線分FKのトレッド踏面に沿う長さをLとし、線分FKの中点Mから前記穴の中心Oまでのトレッド踏面に沿う長さをDとし、前記線分FKの中点Mを基準点として、タイヤ回転方向を正の方向、タイヤ回転方向とは逆側を負の方向としたときに、タイヤ赤道側に位置する穴のD/Lの値が、タイヤ幅方向外側に位置する穴のD/Lの値よりも大きいことを特徴とする、空気入りタイヤ。
前記センター領域に位置する前記穴が、0.05≦D/L≦0.2を満たし、前記ショルダー領域に位置する前記穴が、−0.2≦D/L≦−0.05を満たす、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
タイヤ回転軸に直交する平面による断面において、前記センター領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ回転方向側に向けた角度を正の角度としてαcとしたときに、
αc>0
を満たすことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
タイヤ回転軸に直交する平面による断面において、前記ショルダー領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ回転方向側に向けた角度を正の角度としてαsとしたときに、
αs<0
を満たすことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の空気入りタイヤにスパイクを打ち込んだスパイクタイヤでは、旋回時の操縦安定性、及び制動性能の向上が十分ではなかった。
【0007】
そこで、本発明は、スパイクを打ち込んでスパイクタイヤとした際に、当該スパイクタイヤの氷雪路面における走行性能、特に操縦安定性、及び制動性能を向上させることができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。また、本発明は、氷雪路面における走行性能、特に操縦安定性、及び制動性能を向上させたスパイクタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記従来のスパイクタイヤについて、走行性能、特に操縦安定性、及び制動性能を向上させる方途を鋭意研究した。そして、トレッドの踏面に設けられるスパイクの打ち込みが可能な穴の配設角度、ひいてはスパイクの打ち込み角度にを、タイヤ幅方向の位置に従って差異を設けることが効果的であることに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
本発明の空気入りタイヤは、タイヤのトレッドの踏面の少なくとも一部に、タイヤ幅方向に分布を有するスパイクの打ち込みが可能な穴が、前記トレッドの内部から前記トレッドの踏面に向かう所定の配設方向で設けられた空気入りタイヤであって、タイヤ回転軸を含む平面による断面(以下、「タイヤ幅方向断面」ともいう。)において、タイヤ赤道からトレッド接地半幅の30%以上60%未満の範囲内にあるセンター領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβ
cとし、タイヤ幅方向断面において、タイヤ赤道からトレッド接地半幅の60%以上90%以下の範囲内にあるショルダー領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβ
sとしたときに、0≦β
c<β
sを満た
し、前記穴の中心Oを通るトレッド周方向仮想線LLと、前記穴が打ち込まれている陸部の回転方向側の端との交点F、回転方向とは逆側の端との交点Kからなる線分FKのトレッド踏面に沿う長さをLとし、線分FKの中点Mから前記穴の中心Oまでのトレッド踏面に沿う長さをDとし、前記線分FKの中点Mを基準点として、タイヤ回転方向を正の方向、タイヤ回転方向とは逆側を負の方向としたときに、前記センター領域に位置する前記穴がD/L>0を満たし、前記ショルダー領域に位置する前記穴がD/L<0を満たすことを特徴とする。
また、本発明の空気入りタイヤは、タイヤのトレッドの踏面の少なくとも一部に、タイヤ幅方向に分布を有するスパイクの打ち込みが可能な穴が、前記トレッドの内部から前記トレッドの踏面に向かう所定の配設方向で設けられた空気入りタイヤであって、タイヤ回転軸を含む平面による断面において、タイヤ赤道からトレッド接地半幅の30%以上60%未満の範囲内にあるセンター領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβcとし、タイヤ回転軸を含む平面による断面において、タイヤ赤道からトレッド接地半幅の60%以上90%以下の範囲内にあるショルダー領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβsとしたときに、0≦βc<βsを満たし、前記穴の中心Oを通るトレッド周方向仮想線LLと、前記穴が打ち込まれている陸部の回転方向側の端との交点F、回転方向とは逆側の端との交点Kからなる線分FKのトレッド踏面に沿う長さをLとし、線分FKの中点Mから前記穴の中心Oまでのトレッド踏面に沿う長さをDとし、前記線分FKの中点Mを基準点として、タイヤ回転方向を正の方向、タイヤ回転方向とは逆側を負の方向としたときに、タイヤ赤道側に位置する穴のD/Lの値が、タイヤ幅方向外側に位置する穴のD/Lの値よりも大きいことを特徴とする。
このように、本発明の空気入りタイヤは、トレッドの踏面において、タイヤ幅方向断面における穴の配設方向が、タイヤ幅方向の位置に従って、その穴の位置における踏面に立てた法線方向に対して所定の傾斜を有することを特徴とする。
上記構成とすれば、タイヤを一般的なネガティブキャンバーで用いた際、車両の装着方向内側部分となる踏面領域で、スパイクの先端が路面に対して直交する方向に近い向きとなる。従って、スパイクタイヤの制動性能を向上させることができる。また、旋回時に、装着方向外側部分となる踏面領域に荷重負荷がかかり、接地するようになった際、装着方向内側に向けた引っ掻き効果が生じるため、スパイクタイヤの旋回性能、すなわち操縦安定性を向上させることができる。
装着方向外側部分となる踏面領域では、旋回時のコーナリングフォースが大きくなるほど、接地領域がタイヤ幅方向外側まで及ぶ。そのため、上記構成とすれば、センター領域R
cよりもタイヤ幅方向外側に位置するショルダー領域R
sに位置する穴ほどβを大きくすることによって、コーナリングフォースの大きさに従って、装着方向内側に向けた引っ掻き効果を得ることができる。そのため、スパイクタイヤの氷雪路面における旋回性能、すなわち操縦安定性を更に向上させることができる。
なお、「トレッドの踏面」とは、タイヤを適用リムに装着し、所定空気圧とし、静止した状態で平板に対し垂直に置き、所定の荷重に対応する負荷を加えたときの平板との接触面を指す。因みに、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会) YEAR BOOK、欧州ではETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation) STANDARD MANUAL、米国ではTRA(THE TIRE and RIM ASSOCIATION INC.)YEAR BOOK等に規定されたリムを指し、「所定の荷重」とは、JATMA等の規格のタイヤ最大負荷を指し、「所定空気圧」とは、適用サイズのタイヤにおける所定の荷重に対応する空気圧(最高空気圧)を指す。
なお、スパイクの打ち込みが可能な穴の「配設方向」とは、該穴のトレッド内部に位置する端から該穴の踏面への開口端に向かう方向を指すものとする。
更になお、「トレッド接地半幅」とは、トレッド接地幅の半分の値を指す。ここで、「トレッド接地幅」とは、トレッドの踏面のタイヤ軸方向最大直線距離を指す。上記トレッド接地半幅及びそれに対する所定割合の寸法は、上記平板との接触状態で測定するものとする。
【0010】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記センター領域に位置する前記穴が、0.05≦D/L≦0.2を満たし、前記ショルダー領域に位置する前記穴が、−0.2≦D/L≦−0.05を満たすことが好ましい。また、本発明の空気入りタイヤは、前記穴の中心から前記陸部端までの長さL/2−|D|が、10mm〜20mmであることが好ましい。
また、本発明の空気入りタイヤは、
前記センター領域に位置するタイヤ幅方向に隣接する前記穴間において、タイヤ赤道側に位置する前記穴におけるβcの方が、タイヤ幅方向外側に位置する前記穴におけるβcと比較して小さく、前記ショルダー領域に位置するタイヤ幅方向に隣接する前記穴間において、タイヤ赤道側に位置する前記穴におけるβsの方が、タイヤ幅方向外側に位置する前記穴におけるβsと比較して小さいことが好ましい。
上記構成とすれば、タイヤ幅方向外側部分に位置する穴ほどβを大きくすることによって、コーナリングフォースの大きさに従って、装着方向内側に向けた引っ掻き効果を得ることができる。そのため、スパイクタイヤの氷雪路面における旋回性能を更に向上させることができる。
【0011】
更に、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ回転軸に直交する平面による断面(以下、「タイヤ軸直方向断面」ともいう。)において、前記センター領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ回転方向側に向けた角度を正の角度としてα
cとしたときに、α
c>0を満たすことが好ましい。
空気入りタイヤのトレッドの踏面では、センター領域において、特に接地圧が高い。そして、タイヤを上記構成とすることにより、該タイヤが有する穴にスパイクを打ち込んでスパイクタイヤとし、適切な回転方向で用いたときに、スパイクの先端をタイヤ回転方向側に傾斜させることができる。従って、スパイクが備えるピンの引っ掻き効果を高めることができる。そのため、スパイクタイヤの氷雪路面における駆動性能を向上させることができる。
なお、「タイヤ回転方向」とは、正転方向を指す。
【0012】
更に、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ回転軸に直交する平面による断面において、前記ショルダー領域に位置する前記穴の配設方向と、前記穴の位置における前記踏面に立てた法線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ回転方向側に向けた角度を正の角度としてα
sとしたときに、α
s<0を満たすことが好ましい。
ショルダー領域では、径差により、タイヤを装着した車両の進行方向とは逆向き(タイヤの回転方向)の摩擦力が生じる。従って、タイヤを上記構成とすることにより、該タイヤが有する穴にスパイクを打ち込んでスパイクタイヤとし、適切な回転方向で用いたときに、この摩擦力を更に高めることができる。また、この領域に設けられるスパイクの打ち込みが可能な穴の配設方向をタイヤ回転方向とは逆側に傾斜させることによって、ピンの引っ掻き効果を得ることができるため、スパイクタイヤの氷雪路面における制動性能を向上させることができる。
【0013】
更に、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ幅方向に隣接する前記穴間において、タイヤ赤道側に位置する前記穴におけるα
cの方が、タイヤ幅方向外側に位置する前記穴におけるα
cと比較して大きく、且つタイヤ赤道側に位置する前記穴におけるα
sの方が、タイヤ幅方向外側に位置する前記穴におけるα
sと比較して大きいことが好ましい。
センター領域では、タイヤ赤道側部分において、タイヤ幅方向外側部分と比較して、特に接地圧が高く、また、タイヤ幅方向外側部分において、タイヤ赤道側部分と比較して、特に制動時に特に接地圧が高まる。そのため、上記構成とすれば、氷雪路面における駆動性能を更に向上させる効果を得つつ、氷雪路面における制動性能の低下を抑制する効果を得ることができる。
装着方向外側となるショルダー領域において、タイヤ赤道側部分は、制動時でなくとも接地する可能性が高く、また、タイヤ幅方向外側部分は、制動時でなければ接地する可能性が小さい。そのため、上記構成とすれば、スパイクタイヤの氷雪路面における駆動性能の低下を抑制する効果を得つつ、スパイクタイヤの氷雪路面における制動性能を更に向上させる効果を得ることができる。
【0014】
更に、本発明の空気入りタイヤは、前記β
c、β
sが、5°≦β
c、β
s≦20°を満たすことが好ましい。
上記構成とすれば、スパイクタイヤの氷雪路面における旋回性能、すなわち操縦安定性の向上という所望の効果を十分に得つつ、スパイク抜け性の高まりを抑制することができる。
【0015】
更に、本発明の空気入りタイヤは、前記α
cが5°≦α
c≦20°を満たすことが好ましい。上記構成とすれば、スパイクタイヤの氷雪路面における駆動性能の向上という所望の効果を十分に得つつ、スパイク抜け性の高まりを抑制することができる。
【0016】
更に、本発明の空気入りタイヤは、前記α
sが−20°≦α
s≦−5°を満たすことが好ましい。上記構成とすれば、スパイクタイヤの氷雪路面における制動性能の向上という所望の効果を十分に得つつ、スパイク抜け性の高まりを抑制することができる。
【0017】
本発明のスパイクタイヤは、上記いずれかに記載の空気入りタイヤの前記穴に、スパイクを打ち込んだことを特徴とする。上記スパイクタイヤによれば、氷雪路面における走行性能、特に操縦安定性、及び制動性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のタイヤによれば、スパイクを打ち込んでスパイクタイヤとした際に、当該スパイクタイヤの氷雪路面における走行性能、特に操縦安定性、及び制動性能を向上させることができる空気入りタイヤを提供することができる。また、本発明のスパイクタイヤによれば、氷雪路面における走行性能、特に操縦安定性、及び制動性能を向上させたスパイクタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の空気入りタイヤ及びスパイクタイヤの一実施形態について詳細に説明する。
図3に、本発明に従う空気入りタイヤのトレッドの踏面の一部を示す。本発明に従う空気入りタイヤは、両トレッド接地端TG間に位置するトレッドの踏面1に、スパイクの打ち込みが可能な穴5(
図3では、51、52、53、54、55、56、57、58。以下、単に「穴」とも称する。)が設けられている。この穴5は、該穴のトレッド内部に位置する端から該穴の踏面への開口端に向かう方向に設けられている。
なお、トレッド接地端とは、トレッドの踏面のタイヤ幅方向端を指す。
【0021】
なお、本発明の空気入りタイヤでは、踏面の少なくとも一部に、スパイクの打ち込みが可能な穴が設けられていればよい。
【0022】
各スパイクの打ち込みが可能な穴51、52、53、54、55、56、57、58は、タイヤ赤道CLからのタイヤ幅方向距離がそれぞれw
1、w
2、w
3、w
4、w
5、w
6、w
7、w
8となる位置に設けられる。すなわち、穴5は、そのタイヤ赤道CLからのタイヤ幅方向距離wが様々であり、言い換えれば、タイヤ幅方向に分布を有している。
因みに、
図3では、w
3<w
6<w
2<w
7<w
1<w
5<w
8<w
4の関係を満たしている。
【0023】
通常、スパイク6は、スパイクの打ち込みが可能な穴5が設けられている方向に沿って、穴5に打ち込まれる。そのため、穴に打ち込まれるスパイクの配設方向は、穴の配設方向に従う。そして、スパイクに設けられた小穴にピンが圧入される(図示せず)ことにより、ピンが引っ掻き効果を発揮し、スパイクタイヤの氷雪路面上における制動性能や駆動性能などの走行性能を向上させる。
【0024】
本発明に従う空気入りタイヤでは、タイヤ赤道からトレッド接地半幅T
GVの30以上60%未満の範囲内にあるセンター領域Rcに位置する穴の配設方向が、その穴の位置における前記踏面に立てた法線方向に沿う方向であるか、又は該法線方向よりもタイヤ幅方向外側に傾斜を有する。また、タイヤ赤道からトレッド接地半幅T
GVの60%以上90%以下の範囲内にある踏面のショルダー領域Rsに位置する穴の配設方向が、その穴の位置における前記踏面に立てた法線方向よりもタイヤ幅方向外側に傾斜を有する。そして、タイヤ幅方向断面において、ショルダー領域Rsに位置する穴の配設角度が、センター領域Rcに位置する穴の配設方向よりも大きいことを特徴とする。
以下、本発明に従う空気入りタイヤの構成について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
本発明に従う空気入りタイヤは、タイヤ赤道からトレッド接地半幅T
GVの30%以上60%未満の範囲内にある踏面のセンター領域Rcにおいて、穴の配設方向が、その穴の位置における前記踏面に立てた法線方向に沿う方向であるか、又はタイヤ幅方向外側に傾斜を有することを必要とする。
【0026】
図1に、本発明に従う空気入りタイヤの、トレッド周方向に見た図を示し、特に、センター領域Rcに位置する穴52の配設方向に着目する。ここで、この穴52のトレッドの踏面上の中心点O
2におsけるトレッドの踏面に法線V
2を立てると、穴52の配設方向は、法線V
2に沿う方向であるか、又は法線V
2に対してタイヤ幅方向外側に傾斜する。言い換えれば、タイヤ幅方向断面において、穴52の配設方向と法線V
2の方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβ
c2で表したときに、β
c2≧0°となる。
図1の例では、β
c2>0°である。
同じくセンター領域Rcに位置する穴53、56、57の配設方向についても同様であり、β
c3、β
c6、β
c7≧0°となる。
【0027】
このように、センター領域Rcに位置する穴52、53、56、57(以下、「センター穴」とも称する。)では、タイヤ幅方向断面において、穴5(
図1では、52、53、56、57)の配設方向と法線V(
図1では、52、53、56、57についてそれぞれV
2、V
3、V
6、V
7)の方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβで表し(特にセンター領域Rcではβ
cで表し、
図1では、52、53、56、57についてそれぞれβ
c2、β
c3、β
c6、β
c7で表す)たときに、β
c≧0°となることを必要とする。
【0028】
また、本発明に従う空気入りタイヤは、タイヤ赤道からトレッド接地半幅T
GVの60%以上90%以下の範囲内にある踏面のショルダー領域Rsにおいて、穴の配設方向がタイヤ幅方向外側に所定の傾斜を有することを必要とする。
【0029】
図1において、特に、ショルダー領域Rsに位置する穴54の配設方向に着目する。ここで、この穴54のトレッドの踏面上の中心点O
4におけるトレッドの踏面に法線V
4を立てると、穴54の配設方向は、法線V
4に対してタイヤ幅方向外側に傾斜する。言い換えれば、タイヤ幅方向断面において、穴54の配設方向と法線V
4の方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβ
s4で表したときに、β
s4>0°となる。
同じくショルダー領域Rsに位置する穴51、55、58の配設方向についても同様であり、β
s1、β
s5、β
s8>0°となる。
【0030】
このように、ショルダー領域Rsに位置する穴51、54、55、58(以下、「ショルダー穴」とも称する。)では、タイヤ幅方向断面において、穴5(
図1では、51、54、55、58)の配設方向と法線V(
図1では、51、54、55、58についてそれぞれV
1、V
4、V
5、V
8)の方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ幅方向外側に向けた角度を正の角度としてβで表し(特にショルダー領域Rsではβ
sで表し、
図1では、51、54、55、58についてそれぞれβ
s1、β
s4、β
s5、β
s8で表す)たときに、β
s>0°となることを必要とする。
【0031】
空気入りタイヤは、一般に、ネガティブキャンバーで用いられるため、上記構成とすれば、空気入りタイヤの片側、すなわち装着方向内側となる踏面領域に位置するスパイク61、62、65、66の先端が、路面に対して直交する方向に近い向きとなる。そのため、スパイクタイヤの氷雪路面における制動性能を向上させることができる。
また、車両の旋回時には、空気入りタイヤのもう片側、すなわち装着方向外側となる踏面領域に荷重負荷がかかるため、この領域において、接地面積が増大し、又は接地圧が高まる。このとき、この領域に位置するスパイク63、64、67、68の先端が、旋回時には、装着方向内側に向けた引っ掻き効果を生じさせる。そのため、スパイクタイヤの氷雪路面における旋回性能、すなわち操縦安定性を向上させることができる。
【0032】
ここで、
図1において、本発明の空気入りタイヤでは、センター穴52、53、56、57の配設角度βc(
図1では、それぞれβ
c2、β
c3、β
c6、β
c7)と、ショルダー穴51、54、55、58の配設角度βs(
図1では、それぞれβ
s1、β
s4、β
s5、β
s8)とについて、0°≦βc<βsという関係式が成り立つことを更に必要とする。
【0033】
装着方向外側部分となる踏面領域では、旋回時のコーナリングフォースが大きくなるほど、接地領域がタイヤ幅方向外側まで及ぶ。そのため、上記構成とすれば、センター領域Rcよりもタイヤ幅方向外側に位置するショルダー領域Rsに位置する穴ほどβを大きくすることによって、コーナリングフォースの大きさに従って、装着方向内側に向けた引っ掻き効果を得ることができる。そのため、スパイクタイヤの氷雪路面における旋回性能、すなわち操縦安定性を向上させることができる。
【0034】
本発明の空気入りタイヤでは、タイヤ幅方向に隣接する穴同士の間において、タイヤ赤道側部分に位置する穴における角度βの方が、タイヤ幅方向外側部分に位置する穴における角度βと比較して小さいことが好ましい。具体的には、本発明に従う空気入りタイヤでは、タイヤ幅方向に隣接する穴55と51、51と52、52と56、56と53、53と57、57と58、58と54の間において、それぞれ、
β1<β5、β2<β1、β6<β2、β3<β6、β
3<β
7、β
7<β
8、β
8<β
4という関係式が成り立つことが好ましい。また、トレッドの踏面に、タイヤ赤道CL側からタイヤ幅方向外側に向かって順に位置する、スパイクの打ち込みが可能な穴53、56、52、57、51、55、58、54の、それぞれの角度β
3、β
6、β
2、β
7、β
1、β
5、β
8、β
4が、0°≦β
3<β
6<β
2<β
7<β
1<β
5<β
8<β
4という関係式が成り立つことが更に好ましい。
【0035】
上記構成とすれば、タイヤ幅方向外側部分に位置する穴ほどβを大きくすることによって、コーナリングフォースの大きさに従って、装着方向内側に向けた引っ掻き効果を得ることができる。そのため、スパイクタイヤの氷雪路面における旋回性能を更に向上させることができる。
【0036】
ここで、上記角度β
c、β
sは、5°≦β
c、β
s≦20°を満たすことが好ましい。
(0°<)β
c、β
s<5°とすれば、0°とする場合と比較して実質上大きな差異がないため、スパイクタイヤの氷雪路面における旋回性能の向上という所望の効果を十分に得ることができない。また、β
c、β
s>20°とすれば、スパイク配設角度が大き過ぎて、スパイクが脱落しやすくなる、すなわちスパイク抜け性が高まる。
【0037】
また、本発明に従う空気入りタイヤは、センター領域Rcにおいて、穴の配設方向がタイヤ回転方向側に所定の傾斜を有することが好ましい。
【0038】
図2(A)に、本発明に従う空気入りタイヤのセンター領域の、タイヤ回転軸方向から見た図を示し、センター領域Rcに位置する穴52の配設方向に着目する。ここで、この穴52のトレッドの踏面上の中心点O
2におけるトレッドの踏面に法線V
2を立てると、穴52の配設方向は、法線V
2に対してタイヤ回転方向側(トレッド周方向一方側)に傾斜する。言い換えれば、タイヤ軸直方向断面において、穴52の配設方向と法線V
2の方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ回転方向側(トレッド周方向一方側)に向けた角度を正の角度としてα
c2で表したときに、α
c2>0°となる。
同じくセンター領域Rcに位置する穴53、56、57の配設方向についても同様であり、α
c3、α
c6、α
c7>0°となる。
【0039】
このように、センター領域Rcに位置する穴52、53、56、57では、タイヤ軸直方向断面において、穴5(
図2(A)では、52、53、56、57)の配設方向と法線V(
図2(A)では、52、53、56、57についてそれぞれV
2、V
3、V
6、V
7)の方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、回転方向に向けた角度を正の角度としてαで表し(特にセンター領域Rcではα
cで表し、
図2(A)では、52、53、56、57についてそれぞれα
c2、α
c3、α
c6、α
c7で表す)たときに、α
c>0°となることが好ましい。
【0040】
図2(A)に示すように、本発明に従う空気入りタイヤは、トレッド周方向一方側をタイヤ回転方向(以下、「回転方向」とも称する。)側、同じく他方側をタイヤ回転方向とは逆側(以下、「回転方向逆側」とも称する。)として適切に用いることによって、下記の効果を得ることができる。
【0041】
空気入りタイヤのトレッドの踏面では、センター領域において、特に接地圧が高い。そして、上記構成とすれば、上記の適切な回転方向で用いたときに、スパイクの先端をタイヤ回転方向側に傾斜させることができる。従って、スパイクが備えるピンの引っ掻き効果を高めることができる。そのため、スパイクタイヤの氷雪路面における駆動性能を向上させることができる。
【0042】
ここで、
図2(A)において、本発明の空気入りタイヤでは、タイヤ幅方向に隣接する穴同士の間において、タイヤ赤道側部分に位置する穴における角度α
cの方が、タイヤ幅方向外側部分に位置する穴における角度α
cと比較して大きいことが更に好ましい。具体的には、本発明に従う空気入りタイヤでは、タイヤ幅方向に隣接する穴52と56、56と53、53と57の間において、それぞれ、α
c2<α
c6、α
c6<α
c3、
αc7<αc3という関係式が成り立つことが好ましい。また、センター領域Rcに、タイヤ赤道CL側からタイヤ幅方向外側に向かって順に位置する、スパイクの打ち込みが可能な穴53、56、52、57の、それぞれの角度α
c3、α
c6、α
c2、α
c7が、0°<α
c7<α
c2<α
c6<α
c3という関係式が成り立つことが更に好ましい。
【0043】
センター領域では、タイヤ赤道側部分において、タイヤ幅方向外側部分と比較して、特に接地圧が高く、また、タイヤ幅方向外側部分において、タイヤ赤道側部分と比較して、特に制動時に特に接地圧が高まる。従って、タイヤ赤道側部分に位置する穴において、α
cを大きくする(α
c>0であるため、その絶対値は大きくなる)ことによって、氷雪路面における駆動性能を更に向上させる効果を得つつ、また、タイヤ幅方向外側部分に位置する穴において、αを小さくする(α
c>0であるため、その絶対値は小さくなる)ことによって、氷雪路面における制動性能の低下を抑制する効果を得ることができる。
【0044】
ここで、上記角度α
cは、5°≦α
c≦20°を満たすことが好ましい。
(0°<)α
c<5°とすれば、0°とする場合と比較して実質上大きな差異がないため、スパイクタイヤの氷雪路面における駆動性能の向上という所望の効果を十分に得ることができない。また、α
c>20°とすれば、スパイク配設角度が大き過ぎて、スパイクが脱落しやすくなる、すなわちスパイク抜け性が高まる。
【0045】
また、本発明に従う空気入りタイヤは、ショルダー領域Rsにおいて、穴の配設方向が、タイヤ回転方向とは逆側に所定の傾斜を有することが好ましい。
【0046】
図2(B)に、本発明に従う空気入りタイヤのショルダー領域の、タイヤ回転軸方向から見た図を示し、特に、ショルダー領域Rsに位置する穴54の配設方向に着目する。ここで、この穴54のトレッドの踏面上の中心点O
4におけるトレッドの踏面に法線V
4を立てると、穴54の配設方向は、法線V
4に対してタイヤ回転方向とは逆側(トレッド周方向他方側)に傾斜する。言い換えれば、タイヤ軸直方向断面において、穴54の配設方向と法線V
4の方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、タイヤ回転方向側(トレッド周方向一方側)に向けた角度を正の角度としてα
s4で表したときに、α
s4<0°となる。
同じくショルダー領域Rsに位置する穴51、55、58の配設方向についても同様であり、α
s1、α
s5、α
s8<0°となる。
【0047】
このように、ショルダー領域Rsに位置する穴51、54、55、58では、タイヤ軸直方向断面において、穴5(
図2(B)では、51、54、55、58)の配設方向と法線V(
図2(B)では、51、54、55、58についてそれぞれV
1、V
4、V
5、V
8)の方向とのなす角度のうち小さい方の角度を、回転方向に向けた角度を正の角度としてαで表し(特にショルダー領域Rsではα
sで表し、
図2(B)では、51、54、55、58についてそれぞれα
s1、α
s4、α
s5、α
s8で表す)たときに、α
s<0°となることを必要とする。
【0048】
図2(B)に示すように、本発明に従う空気入りタイヤは、トレッド周方向一方側をタイヤ回転方向側、同じく他方側をタイヤ回転方向とは逆側として適切に用いることによって、下記の効果を得ることができる。
【0049】
空気入りタイヤのトレッドの踏面では、ショルダー領域には、径差により路面から受ける、タイヤ回転方向、すなわち空気入りタイヤを装着した車両の進行方向とは逆向きの、摩擦力が生じる。従って、上記領域にスパイクを打ち込むことによって、この摩擦力を更に高めることができる。また、この領域に設けられるスパイクの打ち込みが可能な穴の配設方向を回転方向とは逆側に傾斜させることによって、ピンの引っ掻き効果を得ることができるため、スパイクタイヤの氷雪路面における制動性能を向上させることができる。
【0050】
ここで、
図2(B)において、本発明の空気入りタイヤでは、タイヤ幅方向に隣接する穴同士の間において、タイヤ赤道側部分に位置する穴における角度α
sの方が、タイヤ幅方向外側部分に位置する穴における角度α
sと比較して大きいことが更に好ましい。具体的には、本発明に従う空気入りタイヤでは、タイヤ幅方向に隣接する穴55と51、58と54の間において、それぞれ、α
s5<α
s1、α
s4<α
s8という関係式が成り立つことが好ましい。また、ショルダー領域Rsに、タイヤ赤道CL側からタイヤ幅方向外側に向かって順に位置する、スパイクの打ち込みが可能な穴51、55、58、54の、それぞれの角度α
s1、α
s4、α
s5、α
s8が、α
s4<α
s8<α
s5<α
s1<0°という関係式が成り立つことを必要とする。
【0051】
特に、装着方向外側となるショルダー領域Rsにおいて、タイヤ赤道側部分は、制動時でなくとも接地する可能性が高く、また、タイヤ幅方向外側部分は、制動時でなければ接地する可能性が小さい。そのため、タイヤ赤道側部分に位置する穴では角度α
sを大きくする(α<0であるため、その絶対値は小さくなる)ことによって、氷雪路面における駆動性能の低下を抑制する効果を得つつ、タイヤ幅方向外側部分に位置する穴では角度α
sを小さく(α<0であるため、その絶対値は大きくなる)することによって、氷雪路面における制動性能を更に向上させる効果を得ることができる。
【0052】
ここで、上記角度α
sは、−20°≦α
s≦−5°を満たすことが好ましい。
−5°<α
s(<0°)とすれば、0°とする場合と比較して実質上大きな差異がないため、スパイクタイヤの氷雪路面における制動性能の向上という所望の効果を十分に得ることができない。また、α
s<−20°とすれば、スパイク配設角度が大き過ぎて、スパイクが脱落しやすくなる、すなわちスパイク抜け性が高まる。
【0053】
なお、本発明の空気入りタイヤに用いられるスパイクとしては、これに限定されないが、一方の端面にピン打ち込み用の穴が形成された円柱状のボディ(「シャンク」と称されることもある。)と、ボディの穴に圧入された硬質のピン(「チップ」と称されることもある。)と、ボディの他方の端面側に該ボディと一体的に設けられた抜け防止用のフランジとを備える、一般的なスパイクを用いることができる。
そして、このスパイクは、フランジからボディの一方の端面又はその近傍までがトレッド内部に埋設され、タイヤ表面からピンが突出するように、トレッドの踏面に形成した穴に打ち込まれる。また、ピンは、通常、スパイクの一方の端面から他方の端面に向けた方向に沿って、スパイクに圧入される。
【0054】
更に、
図3に示すように、本発明に従う空気入りタイヤは、踏面1に、タイヤ幅方向に延びる複数本(
図3に示す部分では、2本)の横溝2を有し、この横溝2が区画形成する陸部4(
図3に示す部分では、41、42、43、44、45、46、47、48からなる)に、上述の穴5(
図3に示す部分では、51、52、53、54、55、56、57,58)が設けられてよい。
【0055】
なお、
図3では、横溝2の他に周方向溝3が設けられ(
図3では、4本)、該周方向溝3は陸部4を、陸部41、42、43、44、及び45、46、47、48に更に区画するが、本発明に従う空気入りタイヤでは、周方向溝は設けられていなくてもよい。
またなお、
図3では、周方向溝3は、トレッド周方向に沿って直線状に延在しているが、本発明に従う空気入りタイヤでは、周方向溝は、トレッド周方向にジグザグ状、波状等をなして延びるものであってもよい。
更になお、
図3では、陸部4の全て(
図3では、陸部41、42、43、44、45、46、47、48の全て)に穴5(
図3では、穴51、52、53、54、55、56、57,58)が設けられているが、本発明に従う空気入りタイヤでは、スパイクの打ち込みが可能な穴は、陸部の少なくとも一部に設けられていればよい。また、
図3では、一つの陸部41、42、43、44、45、46、47、48にそれぞれ穴51、52、53、54、55、56、57、58が設けられているが、本発明に従う空気入りタイヤでは、一つの陸部に複数個のスパイクの打ち込みが可能な穴が設けられてもよい。
更になお、
図3では、横溝2がトレッド接地端TG間に渡って設けられているが、本発明に従う空気入りタイヤでは、横溝2はトレッド接地端TG間を繋いでいなくてもよい。
【0056】
更に、本発明に従う空気入りタイヤでは、スパイクの打ち込みが可能な穴5(
図3では、穴51、52、53、54、55、56、57,58)の陸部4におけるトレッド周方向の位置が、各穴51、52、53、54、55、56、57,58のタイヤ赤道CLからのタイヤ幅方向距離、それぞれw
1、w
2、w
3、w
4、w
5、w
6、w
7、w
8に従って異なることが好ましい。
【0057】
スパイクの打ち込みが可能な穴5の陸部4におけるトレッド周方向の位置を、特に穴52を例として具体的に説明する。ここで、穴52(穴一般について、5で表す。以下、この段落について同様とする。)の中心O
2(O)を通るトレッド周方向仮想線LL
2(LL)と、この穴52(5)が打ち込まれている陸部42(4)の回転方向側(踏み込み側)の端との交点をF
2(F)、同様に回転方向とは逆側(蹴り出し側)の端との交点をK
2(K)とし、線分F
2K
2(FK)、すなわちトレッド周方向仮想線LL
2(LL)上で、陸部の両端F
2(F)、K
2(K)間にある線分のトレッド踏面に沿う長さをL
2(L)とする。そして、この線分F
2K
2(FK)の中点M
2(M)を基準点として、トレッド周方向仮想線LL
2(LL)の回転方向側(一方側)を正の方向、同じく回転方向とは逆側(他方側)を負の方向としたときに、線分F
2K
2(FK)の中点M
2(M)から穴52(5)の中心O
2(O)までのトレッド踏面に沿う長さをD
2(D)とする。そして、穴52(5)の陸部42(4)におけるトレッド周方向の位置(以下、単に「陸部内位置」という。)をD
2/L
2(D/L)の値で示す。
【0058】
このとき、本発明に従う空気入りタイヤでは、少なくともまず、タイヤ赤道CLからトレッド接地半幅T
GVの30%以上60%未満の範囲内にある踏面1のセンター領域Rcに位置する穴52、53、56、57について、D
2/L
2、D
3/L
3、D
6/L
6、D
7/L
7>0が満たされ、且つ、タイヤ赤道からトレッド接地半幅T
GVの60%以上90%以下の範囲内にある踏面1のショルダー領域Rsに位置する穴51、54、55、58について、D
1/L
1、D
4/L
4、D
5/L
5、D
8/L
8<0が満たされることが好ましい。
【0059】
空気入りタイヤのトレッドの踏面に設けられた陸部の回転方向側(先に接地する踏み込み側)が接地しているときには、回転方向側の陸部部分が駆動力を生み出す。そして、回転方向側の陸部部分にスパイクが打ち込まれた場合、スパイクが備えるピンが引っ掻き効果を発揮するため、上記駆動力が高まる。そのため、スパイクの打ち込みが可能な穴を、D/L>0を満たす陸部内位置に設けることによって、スパイクタイヤの氷雪路面における駆動性能を向上させる効果を得ることができる。
【0060】
また、空気入りタイヤのトレッドの踏面に設けられた陸部の回転方向とは逆側(最後に路面から離れる蹴り出し側)が接地しているときには、回転方向とは逆側の陸部部分が制動力を生み出しやすい。そして、回転方向とは逆側の陸部部分にスパイクが打ち込まれた場合、スパイクが備えるピンが引っ掻き効果を発揮するため、上記制動力が高まる。そのため、スパイクの打ち込みが可能な穴を、D/L<0を満たす陸部内位置に打ち込むことによって、スパイクタイヤの氷雪路面における制動性能を向上させる効果を得ることができる。
【0061】
一方、空気入りタイヤのトレッドの踏面では、センター領域Rcにおいて、特に接地圧が高くなるため、この領域は、空気入りタイヤの制動性能及び駆動性能に対する影響が大きい。また、ショルダー領域Rsには、径差により路面から受ける、タイヤ回転方向と同じ向き、すなわち、空気入りタイヤを装着した車両の進行方向とは逆向きの摩擦力が生じるため、この領域は空気入りタイヤの制動性能に対する影響が大きい。
【0062】
従って、センター領域RcではD/L>0を満たす陸部内位置に、スパイクの打ち込みが可能な穴を設け、且つ、ショルダー領域ではD/L<0を満たす陸部内位置に、スパイクの打ち込みが可能な穴を設けて、該穴にスパイクを打ち込むことによって、スパイクタイヤの氷雪路面における駆動性能及び制動性能を共に更に向上させることができる。
【0063】
また、本発明に従う空気入りタイヤでは、センター穴の全て52、53、56、57が、0.05≦D
2/L
2、D
3/L
3、D
6/L
6、D
7/L
7≦0.2の関係式を満たし、且つ、ショルダー穴の全て51、54、55、58が、−0.2≦D
1/L
1、D
4/L
4、D
5/L
5、D
8/L
8≦−0.05の関係式を満たすことが好ましい。
【0064】
ここで、−0.05<D/L(<0)及び/又は0.05>D/L(>0)とすると、中点Mから穴の中心Oまでの距離が十分ではなく、センター領域における駆動性能の更なる向上やショルダー領域における制動性能の更なる向上という上記効果が得られ難い。
また、−0.2>D/L及び/又はD/L>0.2とすると、打ち込まれるスパイクの周囲に生まれる非接地の踏面領域と、横溝の存在により非接地となる踏面領域とが近接して位置するようになるため、両非接地領域が一体化する可能性が高くなる。従って、接地面積の減少を招き、スパイクタイヤの氷雪路面における駆動性能や制動性能を低下させる虞が高まる。
【0065】
ここで、本発明に従う空気入りタイヤでは、打ち込まれるスパイクの周囲の陸部、ひいてはトレッドの剛性を確保する観点から、穴の中心から陸部端までの長さL/2−|D|は、10mm〜20mmとし、用いられるスパイクが備えるピンの高さ、すなわち踏面からピン先端までの長さは、1.0mm〜1.4mmとすることが好ましい。また、スパイクの端面の半径は、一般的に、3.0mm〜4.0mmである。
【0066】
更に、本発明に従う空気入りタイヤでは、タイヤ赤道CLからのタイヤ幅方向距離wが小さい位置にある、すなわちタイヤ赤道側に位置する穴のD/Lの値が、この距離が大きい位置にある、すなわちタイヤ幅方向外側に位置する穴のD/Lの値よりも大きいことが好ましい。
この場合、センター領域Rcでは、タイヤ幅方向外側部分と比較して、タイヤ赤道側部分に位置する穴の方が、D/L>0を満たすD/Lの絶対値が大きく、また、ショルダー領域Rsでは、タイヤ赤道側部分と比較して、タイヤ幅方向外側部分に位置する穴の方が、D/L<0を満たすD/Lの絶対値が大きい。
【0067】
ここで、一般に、トレッドの踏面の接地圧は、接地圧が特に高いセンター領域の中でも、タイヤ幅方向部分と比較して、タイヤ赤道側部分の方が大きい。
また、ショルダー領域において、径差により生じる進行方向とは逆向きの摩擦力は、ショルダー領域の中でもタイヤ赤道側部分と比較して、タイヤ幅方向外側部分の方が大きい。
【0068】
従って、上記構成とすれば、接地圧がより高いタイヤ赤道側部分に位置する穴のD/Lの値がより大きくなり、すなわち、この穴の位置がより回転方向側に位置するようになる。そのため、センター領域において、制動性能の低下を抑制する効果を得つつ、駆動性能を向上させる効果を更に高めることができる。
また、径差による摩擦力が大きいタイヤ幅方向外側部分に位置するスパイクのD/Lの値がより小さくなり、すなわち、この穴の位置がより回転方向とは逆側に位置するようになる。そのため、ショルダー領域において、駆動性能の低下を抑制する効果を得つつ、制動性能を向上させる効果を更に高めることができる。
【0069】
なお、本発明の空気入りタイヤは、例えば、トレッド部と、該トレッド部の両側部からタイヤ径方向内方に延びる一対のサイドウォール部と、各サイドウォール部からタイヤ径方向内方に延びるビード部とに渡ってトロイド状に延びるカーカスと、該カーカスのタイヤ径方向外方に配置されたベルトとを有する(図示せず)。
【0070】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定
されるものではない。
なお、実施例1〜9は、参考例として記載するものである。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
表1に示す諸元のトレッドの踏面を有する空気入りタイヤを作製し、該空気入りタイヤを用いて、下記の走行性能評価を行った。
【0072】
(比較例1)
表1に示す諸元のトレッドの踏面を有する空気入りタイヤを作製し、該空気入りタイヤを用いて、実施例1と同様に下記の走行性能評価を行った。
【0073】
(走行性能評価)
空気入りタイヤ(195/65R15)を、JATMA規格に定める適用リム(6.5×15インチ)に装着して、空気入りタイヤを作製した。そして、上記空気入りタイヤを、内圧230kPa、荷重0.4tの条件下、車両に装着し、以下(1)〜(4)に示す試験を行い、空気入りタイヤの走行性能を評価した。
【0074】
(1)操縦安定性試験
氷路面のコース上において、テストドライバーが、様々な走行を行い、フィーリング評価を行った。複数のドライバーによるフィーリング評価の評点の平均値を算出することにより、スパイクタイヤの氷路面における操縦安定性を評価した。具体的には、従来例1の評価結果を100とした相対評価となる指数を算出した。指数が大きいほど氷路面における操縦安定性が高いことを示す。
(2)制動性能試験
氷路面のコース上において、テストドライバーが、車両を初速度20km/時から急制動させた。そして、車両が静止状態になるまでの制動距離を測定し、該制動距離からスパイクタイヤの氷上制動性能を評価した。具体的には、従来例1の評価結果を100とした相対評価となる指数を算出した。指数が小さいほど氷路面における制動性能が高いことを示す。
(3)駆動性能試験
氷路面のコース上において、テストドライバーが、車両を停止状態から急発進させた。そして、車両の速度が20km/時に到達するまでの所要時間を計測し、該所要時間からスパイクタイヤの氷上駆動性能を評価した。具体的には、従来例1の評価結果を100とした相対評価となる指数を算出した。指数が小さいほど氷路面における駆動性能が高いことを示す。
(4)スパイク抜け性試験
氷路面主体のコース上において、テストドライバーが、車両を10,000km走行させた。そして、走行後に脱落したスパイクの本数を計測し、該脱落したスパイクの本数(A)の当初のスパイクの本数(B)に対する割合(A/B)を算出して、スパイクタイヤのスパイク抜け性を評価した。具体的には、従来例1の評価結果を100とした相対評価となる指数を算出した。指数が小さいほどスパイク抜け性が良好であることを示す。
【0075】
(比較例2〜6、実施例2〜12)
表1に示す諸元のトレッドの踏面を有する空気入りタイヤを作製し、該空気入りタイヤを用いた以外は、実施例1と同様に上記の走行性能評価を行った。
【0076】
【表1】