(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
通常、コンクリート造の躯体は、複数回に分けてコンクリート打設を行ったり、複数のプレキャストコンクリートを連結したりして形成され、コンクリート打ち継ぎ部分やプレキャストコンクリートの連結部分には、目地部が形成される。
【0003】
上記したコンクリート造の躯体を備える構造物の一例として、例えば特許文献1に示すような防液堤が挙げられる。防液堤は、例えば貯油タンク等のようなタンクの周囲に設置される堤防又は堰堤であり、タンクから内容物が漏出した場合に、その漏出した内容物が防液堤の外に流出しないようにするためのものである。
【0004】
上記した防液堤は、地震時の振動、津波や津波漂流物の衝撃による躯体が破壊されるおそれがあり、その場合、タンクから漏出した内容物が防液堤の外に流出するという問題が生じる。そこで、従来、上記したような防液堤の破壊を防ぐために、防液堤を新設する際に、より堅固な大きい構造物としたり、既設の防液堤に対しては鋼材で補強したりする方法が採用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の技術では、仮に、地震や津波等による躯体の破壊が免れたとしても、地震時の液状化による不同沈下等で目地部が破損し、その破損した目地部から漏出内容物が防液堤の外に流出するおそれがある。また、上記した防液堤の破壊を防ぐ従来の方法では、費用が相当嵩むという問題があり、特に既設の防液堤に対する補強は施工が煩雑であるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、地震や津波等によって防液堤の躯体が破壊されたとしても、その躯体のコンクリート片の散逸を防ぎ(局所破壊防止)、転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持(全体破壊防止/形状保持)することができ、しかも、目地部が破損した場合であっても、タンクから漏出した内容物の流出を防ぐという防液堤の機能を保持(機能保持)することができ、しかも低コストで容易に施工することができる防液堤を提供することを目的としている。
【0008】
また、本発明は、防液堤を含む広い概念である構造物においても同様である。すなわち、コンクリート造の躯体に目地部が設けられている構造物において、地震や津波等によって躯体が破壊されたとしても、その躯体のコンクリート片の散逸を防ぎ(局所破壊防止)、転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持(全体破壊防止/形状保持)することができ、しかも、目地部が破損した場合であっても、その目地部の破損箇所からの漏水を防ぐ(機能保持)ことができ、しかも低コストで容易に施工することができる構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る防液堤は、タンクの周囲に設置されていると共に
、衝撃力を受けることにより変形して破壊に至る構造をなすコンクリート造の躯体に目地部が設けられている防液堤において、
前記躯体が、地中に埋設された底版と、該底版から立設された周壁と、を備え、前記周壁の外面から前記周壁の天端を経て前記周壁の内面の表面全体に亘って延在して樹脂製の補強塗膜が被覆されており、該補強塗膜
は、前記目地部を跨いで塗布されて該目地部を被覆し、引張強度が10〜25MPa、破断伸びが200%以上の物性を有するポリウレア樹脂、又はポリウレタン樹脂からなり、前記躯体の表面に塗布された接着性を有するプライマーを介して2〜4mmの範囲の塗布厚で被覆されてなり、前記躯体の変形が塑性域に達して破壊されても、前記補強塗膜の変形抵抗力によって前記補強塗膜によって被覆された前記躯体の形状が保持され、変形量や目地部の開き量が減少した状態をなし、前記躯体は、局所破壊防止および全体破壊防止可能に設けられていることを特徴としている。
【0010】
本発明は、イソシアネートと、ポリオール及びアミンのうちの少なくとも一方からなる硬化剤と、の化学反応により形成された化合物からなる靭性が非常に高い樹脂製の補強塗膜によって補強される。ここで、補強塗膜による躯体の補強は、剛性の高い補強材で躯体への負担を分担するものではなく、躯体が破壊されるものの、その破壊による躯体のコンクリート片の散逸を防止し、躯体が転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持し、防液堤の機能を保持するものである。
【0011】
詳しく説明すると、上記した補強塗膜は、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、伸び性能も高い。したがって、防液堤に衝撃力が加わって、コンクリートの躯体が局所的或いは全体的に破壊されても、補強塗膜は伸びることはあっても破断せず、補強塗膜によって躯体の表面
全体が被覆された状態が維持される。これにより、躯体のコンクリート片の散逸が防止され、また、躯体が転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持される。さらに、何らかの外力によって目地部が破損しても、補強塗膜が破断せずに伸縮するだけである。よって、仮にタンクから内容物が漏出したとしても、その内容物が破損した目地部から防液堤の外に流出することは防止される。しかも、補強塗膜はゴムのような超弾性を有しているので、防液堤に衝撃が加わって躯体が撓み変形したときに、補強塗膜の弾性力によって躯体を元の形状に戻す力が働く。その結果、躯体は、一旦大きく撓み変形した後に若干戻され、最終的な変形量が小さく抑えられる。また、補強塗膜が目地部を跨いで塗布されて目地部を被覆しているので、仮に防液堤に外力が作用して目地部が一旦大きく開いたとしても、補強塗膜の弾性力によって戻る方向(すなわち、開かれた目地部を閉じる方向)の力が作用し、その結果、最終的な目地部の開き量が小さく抑えられる。
【0012】
また、本発明に係る防液堤は、前記躯体が、地中に埋設された底版と、該底版から立設された周壁と、を備え、前記補強塗膜が、前記周壁の外面から前記周壁の天端を経て前記周壁の内面に亘って延在しており、前記補強塗膜のうち、前記外面を被覆する外面部分、前記天端を被覆する天端部分、及び前記内面を被覆する
部分が連設されて一体に形成されていること
により、周壁が補強塗膜によって包み込まれた状態となり、その効果(ラッピング効果)により、上記した形状保持及び機能保持がより効果的に発揮される。
【0014】
また、本発明に係る防液堤は、前記補強塗膜が、さらに前記底版の上面まで延在しており、前記補強塗膜のうち、前記底版上面を被覆する底版上面部分が、前記外面部分及び前記内面部分のうちの少なくとも一方に連設されて一体に形成されていることが好ましい。
【0015】
これにより、上記したラッピング効果がより顕著となり、上記した形状保持及び機能保持がさらに効果的に発揮される。
【0016】
本発明に係る構造物は、
衝撃力を受けることにより変形して破壊に至る構造をなすコンクリート造の躯体に目地部が設けられている構造物において、
前記躯体が、地中に埋設された底版と、該底版から立設された周壁と、を備え、前記周壁の外面から前記周壁の天端を経て前記周壁の内面の表面全体に亘って延在して樹脂製の補強塗膜が被覆されており、 該補強塗膜
は、前記目地部を跨いで塗布されて該目地部を被覆し、引張強度が10〜25MPa、破断伸びが200%以上の物性を有するポリウレア樹脂、又はポリウレタン樹脂からなり、前記躯体の表面に塗布された接着性を有するプライマーを介して2〜4mmの範囲の塗布厚で被覆されてなり、前記躯体の変形が塑性域に達して破壊されても、前記補強塗膜の変形抵抗力によって前記補強塗膜によって被覆された前記躯体の形状が保持され、変形量や目地部の開き量が減少した状態をなし、前記躯体は、局所破壊防止および全体破壊防止可能に設けられていることを特徴としている。
【0017】
このような特徴により、上記した防液堤と同様に、構造物に衝撃力が加わって、コンクリートの躯体が局所的或いは全体的に破壊されても、補強塗膜によって躯体の表面
全体が被覆された状態が維持され、躯体のコンクリート片の散逸が防止され、また、躯体が転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持される。さらに、何らかの外力によって目地部が破損しても、その目地部からの漏水が防止される。しかも、構造物に衝撃が加わって躯体が撓み変形したときに、補強塗膜の弾性力によって躯体を元の形状に戻す力が働くので、最終的な変形量や目地部の開き量が小さく抑えられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る防液堤によれば、地震や津波等によって躯体が破壊されたとしても、その躯体のコンクリート片の散逸を防ぎ(局所破壊防止)、転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持(全体破壊防止/形状保持)することができ、しかも、目地部が破損した場合であっても、タンクから漏出した内容物の流出を防ぐという防液堤の機能を保持(機能保持)することができる。しかも、本発明に係る防液堤は、低コストで容易に施工することができる。
【0019】
また、同様に、本発明に係る構造物によれば、地震や津波等によって躯体が破壊されたとしても、その躯体のコンクリート片の散逸を防ぎ(局所破壊防止)、転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持(全体破壊防止/形状保持)することができ、しかも、目地部が破損した場合であっても、その目地部の破損箇所からの漏水を防ぐ(機能保持)ことができる。しかも、本発明に係る構造物は、低コストで容易に施工することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る防液堤及び構造物の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0022】
図1に示す防液堤1は、貯油タンク等のようなタンクTの周囲に設置される構造物である。より具体的に説明すると、防液堤1は、略ドーム状又は円柱形状のタンクTの周りを囲むように設置された構造物である。この防液堤1は、鉄筋コンクリート造の躯体2の表面に補強塗膜3が被覆された構成からなる。
【0023】
躯体2は、底版20と、その底版20から立設された周壁21と、を備えている。底版20は、地中に埋設された基礎構造体であり、平面視においてタンクTの周りを囲むように形成されている。周壁21は、底版20の上面に突設されて地上に立ち上げられた壁構造体であり、平面視において底版20と平行に延在し、タンクTの周りを囲むように形成されている。
【0024】
また、上記した躯体2は、例えばプレキャストコンクリート工法によって施工することができる。すなわち、
図2に示すように、躯体2を周方向に複数に分割したプレキャストコンクリート部材22を製造し、それら複数のプレキャストコンクリート部材22をタンクTの周囲に並べて互いに連結することで、躯体2が建設される。この連結部分には目地部4が形成される。または、上記した躯体2は、例えばコンクリートの現場打ちによって施工することができる。すなわち、タンクTの周囲に鉄筋を配筋すると共に型枠を建て込み、その後、型枠内にフレッシュコンクリートを打設する。この場合、躯体2全体を一度にコンクリート打設することは困難であるので、周方向に複数回に分けてコンクリート打設を行う。このコンクリートの打ち継ぎ部分には目地部が形成される。
【0025】
このように上記した2つの工法の何れの場合にも、躯体2には、底版20において幅方向に延在すると共に周壁21において鉛直方向に延在する目地部4が形成される。
【0026】
補強塗膜3は、躯体2の表面に塗布される塗膜であって、躯体2を補強するための塗膜である。なお、この補強塗膜3における補強は、躯体2への負担を軽減するものではなく、躯体2が破壊された場合であっても、局所的又は全体的な破壊(剥落や倒壊など)を防止し、防液堤1の機能を保持させることである。
【0027】
補強塗膜3は、
図1に示すように、底版20の上面の外縁から周壁21の外面、周壁21の天端、及び周壁21の内面を経て底版20の上面の内縁に亘って延在している。すなわち、補強塗膜3には、周壁21の外側に位置する底版20の上面を被覆する外側底版上面部分30と、周壁21の外面を被覆する外面部分31と、周壁21の天端を被覆する天端部分32と、周壁21の内面を被覆する内面部分33と、周壁21の内側に位置する底版20の上面を被覆する内側底版上面部分34と、を備えている。そして、これら各部分30〜34は連設されて一体に形成されている。
【0028】
また、補強塗膜3は、躯体2の全周に亘って一体的に形成されている。ここで重要な点は、
図3に示すように、補強塗膜3が目地部4を跨いで塗布されて目地部4を被覆していることである。すなわち、例えば躯体2がプレキャストコンクリート工法で施工される場合、補強塗膜3は、隣り合うプレキャストコンクリート部材22A、22Bのうちの一方のプレキャストコンクリート部材22Aの表面から目地部4の表面を経て他方のプレキャストコンクリート部材22Bの表面にかけて配設されている。
【0029】
上記した補強塗膜3は、樹脂製の塗膜であって、イソシアネートと、ポリオール及びアミンのうちの少なくとも一方からなる硬化剤との化学反応により形成された化合物からなる。例えば、補強塗膜3としては、イソシアネートとアミンとの化学反応により形成された化合物であるポリウレア樹脂を用いることができる。
【0030】
補強塗膜3は、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、かつ伸び性能が高い力学的特性(強度、伸び)に優れた合成樹脂からなり、例えばポリウレア樹脂の場合は、
図4に示す応力ひずみ特性を有する。補強塗膜3を構成する合成樹脂としては、例えば引張強度が鉄筋の十分の一程度の20MPa程度(10〜25MPa)であって、破断伸びが200%以上の物性を有する樹脂からなる。ポリウレア樹脂としては、例えば「スワエールAR−100(登録商標:三井化学産資株式会社製)」が用いられる。なお、補強塗膜3の厚さ寸法Dは、2mm以上であることが好ましい。
【0031】
ここで、躯体2に補強塗膜3を被覆する施工方法としては、塗布するコンクリート表面を十分に清掃して塵等を取り除いた後、プライマーを塗布し、その後、補強塗膜材料を躯体2の表面に所定厚さだけ塗布する。これにより、躯体2の表面に補強塗膜3が形成される。なお、プライマーの塗布は省略することも可能であり、或いは、補強塗膜3と躯体2との付着性を高めるために躯体2の表面を斫って凸凹に加工してもよい。
【0032】
次に、上述した実施の形態による補強塗膜3を用いた防液堤1の効果を裏付けるために行った試験例(実施例1、2)について以下説明する。
【0033】
(実施例1)
実施例1では、矩形断面の鉄筋コンクリート製の梁材の全周に試験体を使用し、その梁材の表面にポリウレア樹脂を塗布した試験体1、2、3と、ポリウレア樹脂を塗布しない試験体4と、に対して載荷装置を使用した衝撃曲げ試験を行い、ポリウレア樹脂の塗布状況を変えた試験体1〜4の変形状態(亀裂や剥離)を確認した。
各試験体1〜4の梁材は、縦100mm×横120mmで長さ寸法が1200mmの6面を有する構造体であり、4週強度で25N/mm
2のコンクリートを使用している。さらに、試験体1〜3の内部にD13(芯被り35mm)、せん断補強筋D6を使用している。そして、載荷条件としては、試験体1〜4の長さ方向を水平方向に向けて試験体1〜4を配置し、試験体1〜4の長さ方向の中心部に対して30kNの荷重を準静的な0.0001m/sの速度で載荷を付与した。
【0034】
なお、試験体1は梁材の6面に塗布厚4mmのポリウレア樹脂を塗布したものであり、試験体2は梁材の6面に塗布厚2mmのポリウレア樹脂を塗布したものであり、試験体3は梁材のうち長さ方向を水平方向に向けた状態で上面および下面の2面のみに塗布厚2mmのポリウレア樹脂を塗布したもの(4側面にポリウレア樹脂を塗布しない場合)であり、試験体4は鉄筋とポリウレア樹脂を施していないものである。
【0035】
図5は、上記試験体1〜4において、横軸を載荷点の変形量δ(mm)とし、縦軸を荷重P(kN)とした曲げ試験結果を示している。
図5に示すように、試験体1の場合には、変形量δが略40mmで破壊し、その破壊箇所は破壊片が生じた。そして、上下2面にポリウレア樹脂2mmを塗布した試験体2の場合は、変形量δが略60mmで破壊しているが、試験体1のポリウレア樹脂を塗布しない場合よりは靭性が高い、つまり拘束効果(ラッピング効果)を有することから一定の形状保持効果があることが確認された。梁材の表面全周にポリウレア樹脂を塗布した試験体3、4においては、降伏後(
図5の降伏点P1より右側)でも30kNの荷重が維持されていることが確認でき、耐力が維持されていることがわかる。これにより、ラッピング効果に基づく顕著な形状保持効果を有することがわかる。
【0036】
(実施例2)
次に、実施例2では、上記実施例1における梁材の6面に塗布厚2mmでポリウレア樹脂を塗布し、衝撃曲げ試験で載荷速度を変えた試験を行い、変形状態(亀裂や剥離)を確認した。
第1試験T1は4m/s(高速)の載荷速度とし、第2試験T2は0.5〜1m/s(中速)の載荷速度とし、第3試験T3は0.1〜0.5m/s(低速)の載荷速度とし、第4試験T4は0.0001m/s(準静的速度)の載荷速度とした。
【0037】
図6は、上記第1試験T1〜第4試験T4において、横軸を載荷点の変形量δ(mm)とし、縦軸を荷重P(kN)とした曲げ試験結果を示している。
図6に示すように、各試験T1〜T4ともに降伏後でも準静的最大荷重が維持されていることがわかる。このことから、ポリウレア樹脂を梁材の6面全体にわたって塗布する場合には、載荷速度にかかわらず、準静的最大荷重が維持されることを確認することができる。
このとき、梁材の試験体は大きく変形し、約5度程度の角度で屈曲していたが、破壊片が生じることもなく、梁材としての形状が保持されていた。このように、ポリウレア樹脂を塗布した梁材は、衝撃や持続的な加力に対して有効であり、破壊片の発生を防ぐことができることが確認できた。
【0038】
上記した構成からなる防液堤1によれば、地震や津波、津波漂流物などによって防液堤1に衝撃力が加わって、躯体2が局所的或いは全体的に破壊されても、補強塗膜3が伸びることはあっても破断せずに残存するので、補強塗膜3によって躯体2の表面が被覆された状態が維持される。これにより、躯体2のコンクリート片の散逸が防止され、また、躯体2が転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持される(形状保持)。
【0039】
さらに、仮に躯体2が破壊されずに保持されたものの目地部4が破損した場合、補強塗膜3が伸縮して破断せずに残存する。これにより、防液堤1の機能が保持され、破損した目地部4から漏洩が防止される(機能保持)。
【0040】
また、防液堤1に衝撃が加わって躯体2が撓み変形しても、補強塗膜3の弾性力によって躯体2を元の形状に戻す力が働き、躯体2は、一旦大きく撓み変形した後に若干戻される。その結果、躯体2の最終的な変形量が小さく抑えられる。また、補強塗膜3が目地部4を跨いで塗布されて目地部4を被覆しているので、防液堤1に外力が作用して目地部4が一旦大きく開いたとしても、補強塗膜3の弾性力によって戻る方向の力が作用し、その結果、最終的な目地部4の開き量が小さく抑えられる。
【0041】
また、上記した防液堤1では、補強塗膜3が、周壁21の外面から周壁21の天端を経て周壁21の内面に亘って延在しており、補強塗膜3の外面部分31、天端部分32及び内面部分33が連設されて一体に形成されているので、周壁21が補強塗膜3によって包み込まれた状態となり、そのラッピング効果により、上記した形状保持及び機能保持がより効果的に発揮される。
【0042】
さらに、上記した防液堤1では、補強塗膜3が、さらに底版20の上面まで延在しており、補強塗膜3の外側底版上面部分30が補強塗膜3の外面部分31に連設されていると共に、補強塗膜3の内側底版上面部分34が補強塗膜3の内面部分33に連設されており、補強塗膜3の各部分30〜34が一体に形成されているので、上記したラッピング効果がより顕著となり、上記した形状保持及び機能保持がさらに効果的に発揮される。
【0043】
しかも、上記した防液堤1では、躯体2の表面に補強塗膜3を塗布するだけであるので、低コストで施工も容易であり、特に既設の防液堤に対しても容易に施工することができる。
【0044】
以上、本発明に係る防液堤及び構造物の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、防液堤1について説明しているが、本発明は、躯体に目地部を有する他の構造物に適用することも可能である。具体的には、液状の内容物の漏出を防止する必要があるタンク、雨水等の漏水を防止する必要がある建築物、地下水等の漏水を防止する必要があるトンネルや地下施設等の地下構造物、廃棄物埋立処分場の周囲に埋設されて汚染水の漏出を防止する必要がある地中遮水構造物などが挙げられる。
【0045】
また、上記した実施の形態では、躯体2が縦断面視において逆T字形状になっているが、本発明は、躯体2の形状は適宜変更可能であり、例えば縦断面視においてL字形状の躯体であってもよい。
【0046】
また、上記した実施の形態では、補強塗膜3が、周壁21の外側および内側において、底版20の上面までそれぞれ延在しているが、本発明は、補強塗膜3が、周壁21の外側においてのみ底版20の上面まで延在していてもよく、或いは、周壁21の内側においてのみ底版20の上面まで延在していてもよい。また、本発明は、補強塗膜3が底版20の上面まで延在してなく、周壁21の下部までしか延在していない構成にすることも可能である。さらに、本発明は、補強塗膜3が周壁21の一部のみ、例えば、周壁21の外面と天端のみ、周壁21の内面と天端のみ、或いは周壁21の外面と内面のみに塗布された構成にすることも可能である。また、本発明は、補強塗膜3が、躯体2の全周に亘って塗布されていなくてもよく、躯体2の周方向の一部分のみに補強塗膜3が塗布された構成であってもよい。
【0047】
また、上記した実施の形態では、補強塗膜3として、イソシアネートとアミンとの化学反応により形成された化合物からなるポリウレア樹脂が用いられているが、本発明は、イソシアネートとポリオールとの化学反応により形成された化合物からなるポリウレタン樹脂を補強塗膜として用いることも可能であり、また、イソシアネートとポリオールとアミンとの化学反応により形成された化合物からなる樹脂を補強塗膜として用いることも可能である。
【0048】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。