(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記固定金具を撤去した後、前記シールドマシンを発進させる前に、前記土留め壁と前記シールドマシンとの間の空間に、セメント混合土を充填することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシールド掘削工法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のシールド掘削工法では、地山を凍結させているため、凍結のための設備が大掛かりであると共に、温度管理が難しいため、コスト高となる。
また、凍結処理の代わりに、セメント系薬液を地山に注入するセメント処理などの地盤改良を行う場合においても、凍結する場合と同程度に土水圧を低減させるには、大規模な地盤改良を行わなければならず、コスト高となる。
【0006】
また、土留め壁の剛性を高くすれば、大規模な地盤改良を行わなくても、土留め壁がアンカー撤去後の土水圧に耐えることは可能であるが、この場合、土留め壁を構成する土留め杭の形状が大きくなると共にその重量が重くなるため、土留め杭の運搬作業や打設作業が大変になる。
【0007】
そこで、本発明は、土留め壁の剛性を高めたり大規模な地盤改良を行わなくても済むシールド掘削工法を提供することを目的とする。
【0008】
第1の発明のシールド掘削工法は、地山に固定金具を用いて固定された切削可能な土留め壁を、シールドマシンで切削して、前記地山に横坑を掘削するシールド掘削工法であって、前記土留め壁と向かい合う位置に、前記シールドマシンを設置する工程と、前記シールドマシンを前進させて前記土留め壁を押さえる工程と、前記シールドマシンで前記土留め壁を押さえた状態で、前記固定金具を撤去する工程と、前記シールドマシンを発進させて前記土留め壁を切削除去する工程とを有
し、前記土留め壁が、複数の切削可能な土留め杭によって形成されており、前記土留め壁は、複数の土留め杭にわたって横設された切削可能な支保工によって補強されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によると、シールドマシンによって土留め壁を押さえて、土留め壁にかかる土水圧をシールドマシンで受けながら、土留め壁を地山に固定する固定金具を撤去するため、シールドマシンで土留め壁を押さえずに固定金具を撤去するシールド掘削工法に比べて、固定金具の撤去後に土留め壁が受ける負荷を低減できる。そのため、土留め壁の剛性を低くできる。
また、シールドマシンによって土留め壁にかかる土水圧を受けるため、土留め壁の裏側の地山の状態によっては、地山の土水圧を低減するための地盤改良を行わなくても済む。また、地盤改良を行う場合であっても、シールドマシンによって土留め壁を押さえずに固定金具を撤去する場合ほど土水圧を低減しなくてよいため、地盤改良の規模を小さくできる。
【0011】
さらに、土留め壁に設置される支保工が切削可能であるため、土留め壁に支保工が設置された状態のまま、シールドマシンによって土留め壁を切削することができる。そのため、支保工が切削可能でなく、横坑を掘削する前に支保工を撤去するシールド掘削工法に比べて、作業を簡易化できると共に、土留め壁の剛性を低くできる。
【0012】
第
2の発明のシールド掘削工法は、第
1の発明において、前記シールドマシンで前記支保工を押さえることを特徴とする。
【0013】
この構成によると、複数の土留め杭にわたって横設された支保工をシールドマシンで押さえるため、シールドマシンで土留め壁を直接押さえる場合よりも、1つの接触箇所においてより多くの土留め杭を押さえることができる。したがって、広範囲の土留め壁を押さえることができる。
また、支保工によって土留め壁とシールドマシンとの間に隙間を確保することができるため、固定金具の撤去作業が行いやすい。
【0014】
第
3の発明のシールド掘削工法は、第
2の発明において、前記シールドマシンで前記土留め壁を押さえる前に、前記支保工と前記シールドマシンとの間に隙間を確保するためのスペーサを前記支保工に設置しておき、前記シールドマシンで前記土留め壁を押さえる際に、前記シールドマシンを前記スペーサに押し付けることを特徴とする。
【0015】
この構成によると、スペーサによって支保工とシールドマシンとの間に隙間が確保されるため、固定金具の撤去作業が行いやすい。
また、土留め壁に直交する方向に関して固定金具が支保工よりも突出している場合であっても、スペーサが固定金具よりも突出していれば、固定金具がシールドマシンに接触するのを防止できる。
【0016】
第
4の発明のシールド掘削工法は、第1の発明において、前記シールドマシンで前記土留め壁を押さえる前に、前記土留め壁と前記シールドマシンとの間に隙間を確保するためのスペーサを前記土留め壁に設置しておき、前記シールドマシンで前記土留め壁を押さえる際に、前記シールドマシンを前記スペーサに押し付けることを特徴とする。
【0017】
この構成によると、スペーサによって土留め壁とシールドマシンとの間に隙間が確保されるため、固定金具の撤去作業が行いやすい。
また、土留め壁に直交する方向に関してスペーサを固定金具よりも突出させることで、固定金具がシールドマシンに接触するのを防止できる。
【0018】
第
5の発明のシールド掘削工法は、第1〜第
4のいずれかの発明において、前記固定金具を撤去した後、前記シールドマシンを発進させる前に、前記土留め壁と前記シールドマシンとの間の空間に、セメント混合土を充填することを特徴とする。
【0019】
この構成によると、土留め壁とシールドマシンとの間の空間にセメント混合土が充填されるため、シールドマシンによって土留め壁を切削する際に、土留め壁の破片が飛散するのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態に係るシールド掘削工法について図面を用いて説明する。
【0022】
(土留め壁構築工程)
まず、発進用立坑1を形成する地盤に土留め杭3を打設して、上方から見て矩形状の土留め壁2を構築する(
図1および
図2参照)。土留め壁2のうち横坑の開始位置となる面は、シールドマシン25によって切削可能な例えばFRP(繊維強化プラスチック)製の土留め杭3Aと鋼鉄製の土留め杭3Bとを連結させた土留め杭と、その両側に配置した鋼鉄製の土留め杭3Bによって形成する(
図2参照)。その他の面は、鋼鉄製の土留め杭3Bによって形成する。土留め壁2のうち土留め杭3Aで形成された部分を、土留め壁2Aとする。なお、切削可能な土留め杭3Aには、後述するブラケット11を取り付けるためのインサートナット4(
図4参照)を埋め込んでおく。
【0023】
土留め杭3の幅は例えば30cm程度である。土留め杭3は、例えば60cm程度の間隔で打設する。土留め杭3の間隔は地盤の状態に応じて決定する。土留め杭3の隙間から地山が崩れないように、土留め杭3の周辺の地盤には、セメント処理などの地盤改良を行う。また、地盤の状態に応じて土留め壁2Aの裏側の地山を地盤改良する。
【0024】
(発進用立坑掘削・支保工設置工程)
図1に示すように、土留め壁2で囲まれた領域を掘削する。このとき、所定の深さを掘削するごとに、土留め壁2に支保工を設置する。具体的には、土留め壁2Aよりも上側の部分には、鋼鉄製の腹起し5と切梁6を配置する。また、土留め壁2Aには、アンカー10と腹起し9を配置し、土留め壁2Aに対向する部分には、アンカー8と鋼鉄製の腹起し7を配置する。
【0025】
土留め壁2Aにアンカー10と腹起し9を配置する手順について説明する。土留め杭3Aのインサートナット4から下方に約1mの位置まで掘削したら、土留め壁2Aの裏側の地山にアンカー10を打ち込んで、その先端部を地山に注入したグラウト材によって地山に固定する。アンカー10は、PC鋼線などの金属線からなる緊張材と、緊張材を覆うシースとを有する。地山に固定された部分をアンカー体10aという。
図3に示すように、アンカー10は、土留め杭3Aのピッチの2倍のピッチで、隣接する土留め杭3Aの間に打設する。また、
図4に示すように、アンカー10は、後述する2段式の腹起し9の隙間に対応する位置から斜め下向きに打ち込む。
【0026】
次に、土留め杭3Aに設けられたインサートナット4にブラケット11をボルトで固定した後、このブラケット11の上に腹起し9を載置する。本実施形態では、2本の腹起し9が上下に近接して並んで配置されており、2段式の腹起しとなっている。ブラケット11および腹起し9は、シールドマシン25によって切削可能であって、例えばFRP製である。
【0027】
アンカー10の頭部が挿通された頭部金具12を、腹起し9にボルトで固定してから、アンカー10の緊張材に緊張力を与えて、緊張材を頭部金具12に固定する。なお、ブラケット11を固定後または土留め壁2Aに腹起し9を設置後にアンカー10を打設してもよいが、ブラケット11や腹起し9があるとアンカー10を打設しにくいので、本実施形態のようにブラケット11と腹起し9を設置する前にアンカー10を打設することが好ましい。
【0028】
土留め壁2Aの表面に凹凸があって、土留め壁2Aと腹起し9との間に隙間が生じる場合には、この隙間を楔で埋める。楔は、シールドマシン25によって切削可能であって、例えばFRP製の板部材からなる。楔の代わりに、モルタルによって隙間を埋めてもよい。
【0029】
次に、腹起し9に複数のスペーサ13をボルトで固定する。スペーサ13は、シールドマシン25によって切削可能であって、例えばFRP製である。スペーサ13は、アンカー10と同じピッチで、隣接する頭部金具12の間に設置する。なお、
図4および
図3では、スペーサ13を直方体状に簡略化して表示しているが、実際の形状は例えば断面H状であってもよい。
【0030】
(床付コンクリート打設工程)
その後、所定の深さまで掘削して、発進用立坑1を形成したら、立坑1の底に床付コンクリート20を打設する。
【0031】
(坑口コンクリート打設工程)
次に、
図5に示すように、横坑の開始位置となる土留め壁2の前面に坑口コンクリート21を打設して土留め壁2を補強する。また、坑口コンクリート21の坑口には、シールドマシン25と坑口との隙間を防ぐためのエントランスパッキン22を設置する。
【0032】
(シールドマシン準備工程)
その後、
図6に示すように、発進用立坑1内において、マシン受け台23と、シールドマシン25と、マシン反力架台24を組み立てる。マシン反力架台24は、シールドマシン25を土留め壁2Aに押し付ける反力を確保するためのものである。
【0033】
図7に示すように、シールドマシン25は、土圧式のシールドマシンであって、その前端部には、中央の軸27から放射状に延びるスポーク28が設けられている。スポーク28および軸27の先端には、カッタービット26が、合計数十個から数百個程度設けられている。シールドマシン25は、軸27およびスポーク28を回転せつつ、カッタービット26を回転させることで、掘削できるようになっている。また、スポーク28の後方には、シールドマシン25の内部を前後に区切る隔壁29が設けられている。隔壁29には、掘削した土砂等をマシンの後方部に排出するための開口(図示省略)や、作業員が出入りするための開閉可能な出入口(図示省略)等が設けられている。
【0034】
(シールドマシンによる押圧工程)
次に、
図8に示すように、シールドマシン25を前進させて、カッタービット26をスペーサ13に押し付ける。複数のスペーサ13のいずれかとカッタービット26との間に隙間が生じる場合には、この隙間を楔で埋める。楔は、例えば10cm四方程度の大きさの薄鉄板や、シールドマシン25によって切削可能なFRP製の薄板からなる。
【0035】
(金具撤去工程)
そして、
図9に示すように、カッタービット26をスペーサ13に押し付けた状態(シールドマシン25によって土留め壁2Aを押さえた状態)で、頭部金具12を撤去した後、アンカー10の緊張材を引っ張ってアンカー10を地山から撤去する。なお、アンカー体10aは地中に残ったままとなる。本実施形態では、頭部金具12およびアンカー10の緊張材が、本発明の固定金具に相当する。
【0036】
(セメント混合土充填工程)
次に、
図10に示すように、坑口コンクリート21とシールドマシン25の側面との隙間を塞ぐように、型枠(図示省略)を設置して、土留め壁2Aとシールドマシン25の隔壁29との間の空間に、セメント混合土30を充填する。
【0037】
(発進工程)
セメント混合土30が硬化して、安定した地盤強度になったら、シールドマシン25を発進させて、シールドマシン25によって、スペーサ13、腹起し9、および土留め壁2Aを切削除去する。さらにシールドマシン25を前進させて、地山に横坑を掘削する。なお、掘削される地山中にはアンカー体10aが埋まっているが、アンカー体10aは小さいため、掘削の邪魔にはならない。
【0038】
以上説明したように、本実施形態のシールド掘削工法では、シールドマシン25によって土留め壁2Aを押さえて、土留め壁2Aにかかる土水圧をシールドマシン25で受けながら、頭部金具12およびアンカー10を撤去している。そのため、シールドマシンによって土留め壁を押さえずに頭部金具等を撤去するシールド掘削工法に比べて、頭部金具12等の撤去後に土留め壁2Aが受ける負荷を低減できるため、土留め壁2Aの剛性を低くできる。
また、シールドマシン25によって土留め壁2Aにかかる土水圧を受けるため、土留め壁2Aの裏側の地山の状態によっては、地山の土水圧を低減するための地盤改良を行わなくても済む。また、地盤改良を行う場合であっても、シールドマシン25によって土留め壁2Aを押さえずに固定金具を撤去する場合ほど土水圧を低減しなくてよいため、地盤改良の規模を小さくできる。
【0039】
また、本実施形態では、土留め壁2Aに設置される腹起し9およびブラケット11が切削可能であるため、土留め壁2Aに腹起し9およびブラケット11が設置された状態のまま、シールドマシン25によって土留め壁2Aを切削することができる。そのため、腹起しおよびブラケットが切削可能でなく、横坑を掘削する前に腹起し等を撤去するシールド掘削工法に比べて、土留め壁2Aの剛性を低くできる。
【0040】
また、シールドマシン25で土留め壁2を直接押さえた場合、1つの接触箇所につき1本の土留め杭3Aしか押さえることができないが、本実施形態では、複数の土留め杭3Aにわたって横設された腹起し9をシールドマシン25で押さえているため、1つの接触箇所で多数の土留め杭3Aを押さえることができる。したがって、広範囲の土留め壁2Aを押さえることができる。
【0041】
また、本実施形態では、腹起し9に設置されたスペーサ13にシールドマシン25を接触させており、腹起し9とシールドマシン25との間に隙間を確保できるため、頭部金具12およびアンカー10の撤去作業が行いやすい。
【0042】
また、シールドマシン25を腹起し9に接触させた場合、頭部金具12およびアンカー10の頭部がシールドマシン25と接触する虞があるが、本実施形態では、土留め壁2Aに直交する方向に関してスペーサ13がアンカー10の頭部よりも突出しており、スペーサ13にシールドマシン25を接触させているため、頭部金具12およびアンカー10の頭部がシールドマシン25に接触するのを防止できる。
【0043】
また、本実施形態では、土留め壁2Aとシールドマシン25の隔壁29との間の空間にセメント混合土30が充填されるため、シールドマシン25によって土留め壁2Aや腹起し9等を切削する際に、土留め壁2A等の破片が飛散するのを防止できる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0045】
シールドマシン25の構成(例えばスポーク28の数や配置等)は、上記実施形態のものに限定されない。例えば、泥水式のシールドマシンであってもよい。
【0046】
上記実施形態では、アンカー10の緊張材として、PC鋼線などの金属線を用いたが、シールドマシン25によって切削可能な例えばFRP製の線材を用いてもよい。FRPの補強繊維としては、アラミド、カーボン、ガラス等が挙げられる。この変更例の場合、金具撤去工程において、シールドマシン25のカッタービット26をスペーサ13に押し付けながら、頭部金具12を撤去し、アンカーはそのまま残してよい。この場合、頭部金具12のみが、本発明の固定金具に相当する。
【0047】
スペーサ13を設けずに、カッタービット26を腹起し9に直接押し付けて、頭部金具12およびアンカー10を撤去してもよい。但し、隣接するスポーク28の間に頭部金具12が位置するようにスポーク28の角度を調整して、頭部金具12およびアンカー10の頭部がシールドマシン25と接触しないようにする必要がある。
【0048】
また、スペーサ13を設けずに、カッタービット26を土留め壁2Aに直接押し付けて、頭部金具12およびアンカー10を撤去してもよい。但し、隣接するスポーク28の間に頭部金具12および腹起し9が位置するようにスポーク28の角度を調整して、腹起し9、頭部金具12およびアンカー10の頭部がシールドマシン25と接触しないようにする必要がある。
【0049】
上記実施形態では、頭部金具12は腹起し9に設置されているが、土留め壁2Aに直接設置してもよい。この変更例の場合、土留め壁2Aに直交する方向に関してアンカー10の頭部が腹起し9よりも突出しないようにできる。この場合、スペーサ13を設けずに、カッタービット26を腹起し9に直接押し付けて、頭部金具12およびアンカー10を撤去してもよい。
【0050】
上記実施形態では、スペーサ13を腹起し9に設置しているが、スペーサ13を土留め壁2Aに直接設置して、カッタービット26をスペーサ13に押し付けて、頭部金具12およびアンカー10を撤去してもよい。
【0051】
横坑の径が小さい場合には、土留め壁2Aに腹起し9を設置しなくてもよい。この場合、カッタービット26を、土留め壁2Aに設置したスペーサ13に押し付けるか、土留め壁2Aに直接押し付けて、頭部金具12およびアンカー10を撤去する。後者の場合、隣接するスポーク28の間に頭部金具12が位置するようにスポーク28の角度を調整して、頭部金具12およびアンカー10の頭部がシールドマシン25と接触しないようにする必要がある。
【0052】
上記実施形態では、土留め壁2Aに、2段式の腹起しを1つだけ設置しているが、2段式の腹起しを2つ以上設置してもよい。
【0053】
上記実施形態では、土留め壁2Aを支える支保工は、2段式の腹起し9で構成されているが、切削可能であれば、これ以外の構成の支保工であってもよい。
【0054】
上記実施形態は、矩形状の発進用立坑を形成して横坑を掘削するシールド掘削工法に本発明を適用した一例であるが、本発明の適用対象はこれに限定されない。例えば、矩形状以外の多角形状の発進用立坑を形成するシールド掘削工法に本発明を適用してもよい。