特許第6013755号(P6013755)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6013755-圧縮機能部材及びその製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013755
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】圧縮機能部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20161011BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   F04C18/02 311R
   F04C18/02 311S
   F04C29/00 B
   F04C29/00 D
   F04C29/00 U
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-89181(P2012-89181)
(22)【出願日】2012年4月10日
(65)【公開番号】特開2013-217308(P2013-217308A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】平渡 末二
(72)【発明者】
【氏名】小和田 芳夫
【審査官】 加藤 一彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−074461(JP,A)
【文献】 特開2010−090405(JP,A)
【文献】 特表平02−503331(JP,A)
【文献】 特開2004−232060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/00
F04B 39/00
C22C 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全量に対し、質量%で、0.2〜15%の範囲のアルミニウムと、0.3〜10%の範囲のカルシウムと、0.05〜1.5%の範囲のマンガンと、不可避的不純物とを含む鋳造用マグネシウム合金素材を形成する合金形成工程と、
前記鋳造用マグネシウム合金素材を鋳造して押出用マグネシウム合金素材を形成する鋳造工程と、
前記押出用マグネシウム合金素材を250〜500℃の範囲の温度で、且つ押出比が3〜30の範囲の押し出し加工を施して、鍛造用マグネシウム素材を形成する押出工程と、
前記鍛造用マグネシウム素材を鍛造して圧縮機能部材を成形する鍛造工程と
を備え
前記押出用マグネシウム合金素材は、樹脂状晶のデンドライトアーム間隔が0.5〜15μmの範囲であり、結晶粒径が200μm以下の範囲であることを特徴とする圧縮機能部材の製造方法。
【請求項2】
前記鍛造用マグネシウム合金素材は、結晶粒径が10μm以下の範囲であることを特徴とする請求項に記載の圧縮機能部材の製造方法。
【請求項3】
前記鍛造工程における鍛造は、前記鍛造用マグネシウム素材及び前記鍛造用マグネシウム素材の金型が250〜500℃の範囲の温度で行われることを特徴とする請求項に記載の圧縮機能部材の製造方法。
【請求項4】
全量に対し、質量%で、0.2〜15%の範囲のアルミニウムと、0.3〜10%の範囲のカルシウムと、0.05〜1.5%の範囲のマンガンと、不可避的不純物とを含む鋳造用マグネシウム合金素材を形成し、前記鋳造用マグネシウム合金素材を鋳造して押出用マグネシウム合金素材を形成し、前記押出用マグネシウム合金素材を250〜500℃の範囲の温度で、且つ押出比が3〜30の範囲で押し出し、鍛造用マグネシウム素材を形成し、前記鍛造用マグネシウム素材を鍛造して成形され
前記押出用マグネシウム合金素材は、樹脂状晶のデンドライトアーム間隔が0.5〜15μmの範囲であり、結晶粒径が200μm以下の範囲であることを特徴とする圧縮機能部材。
【請求項5】
前記鍛造用マグネシウム素材は、結晶粒径が10μm以下の範囲であることを特徴とする請求項に記載の圧縮機能部材。
【請求項6】
前記鍛造用マグネシウム素材は、前記鍛造用マグネシウム素材及び前記鍛造用マグネシウム素材の金型が250〜500℃の範囲の温度で鍛造されていることを特徴とする請求項に記載の圧縮機能部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機能部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の圧縮機能部材としては、例えばスクロール圧縮機に使用されるスクロールがあり、このスクロールは、端板の基面に可動渦巻体が立設された可動スクロール、及び端板の基面に固定渦巻体が立設された固定スクロールであり、これら可動及び固定渦巻体が噛合うことによりスクロール圧縮機のスクロールユニットを構成している。
そして、特許文献1には、可動スクロールをマグネシウム(Mg)合金で形成したスクロール型流体機械が開示されている。
【0003】
また、特許文献2及び3には、ガドリニウム(Gd)やイットリウム(Y)などの希土類金属を添加したマグネシウム合金鍛造部材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−27062号公報
【特許文献2】特開2011−42864号公報
【特許文献3】特開2010−149136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグネシウム合金製のスクロールは、アルミニウム(Al)合金製のものに比して最大30%程度の軽量化を図ることができる。しかし、マグネシウム合金製スクロールをアルミニウム合金製スクロールと同様の鍛造工法により製造しようとすると、鍛造用マグネシウム合金素材は鍛造用アルミニウム合金素材に比して機械的強度が低いため、スクロールの特に渦巻体の機械的強度を満たすのは困難である。
【0006】
具体的には、鍛造用マグネシウム合金素材として、AZ31材、AZ80材、AZ91材などのマグネシウム、アルミニウム、亜鉛(Zn)を主組成とする素材が周知であるが、これらの中でも比較的機械的強度が高いAZ80材であっても、0.2%耐力の引張応力は250MPa程度であり、これではスクロールの機械的強度を十分に満たすことはできない。
【0007】
そこで、特許文献2及び3に記載のように、希土類金属を添加することで鍛造用マグネシウム合金素材の機械的強度の向上を図ることも考えられる。しかし、希土類金属は素材が高価な割に0.2%耐力の引張応力も300MPa程度までしか高めることができないため、汎用品に適用するには実用性に乏しい。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、軽量且つ廉価で機械的強度が高い圧縮機能部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するべく、本発明の圧縮機能部材の製造方法は、全量に対し、質量%で、0.2〜15%の範囲のアルミニウムと、0.3〜10%の範囲のカルシウムと、0.05〜1.5%の範囲のマンガンと、不可避的不純物とを含む鋳造用マグネシウム合金素材を形成する合金形成工程と、前記鋳造用マグネシウム合金素材を鋳造して押出用マグネシウム合金素材を形成する鋳造工程と、前記押出用マグネシウム合金素材を250〜500℃の範囲の温度で、且つ押出比が3〜30の範囲の押し出し加工を施して、鍛造用マグネシウム素材を形成する押出工程と、前記鍛造用マグネシウム素材を鍛造して圧縮機能部材を成形する鍛造工程とを備え、前記押出用マグネシウム合金素材は、樹脂状晶のデンドライトアーム間隔が0.5〜15μmの範囲であり、結晶粒径が200μm以下の範囲である(請求項1)。
【0009】
ましくは、前記鍛造用マグネシウム素材は、結晶粒径が10μm以下の範囲である(請求項)。
【0010】
好ましくは、前記鍛造工程における鍛造は、前記鍛造用マグネシウム素材及び前記鍛造用マグネシウム素材の金型が250〜500℃の範囲の温度で行われる(請求項)。
また、本発明の圧縮機能部材は、全量に対し、質量%で、0.2〜15%の範囲のアルミニウムと、0.3〜10%の範囲のカルシウムと、0.05〜1.5%の範囲のマンガンと、不可避的不純物とを含む鋳造用マグネシウム合金素材を形成し、前記鋳造用マグネシウム合金素材を鋳造して押出用マグネシウム合金素材を形成し、前記押出用マグネシウム合金素材を250〜500℃の範囲の温度で、且つ押出比が3〜30の範囲で押し出し、鍛造用マグネシウム素材を形成し、前記鍛造用マグネシウム素材を鍛造して成形され、前記押出用マグネシウム合金素材は、樹脂状晶のデンドライトアーム間隔が0.5〜15μmの範囲であり、結晶粒径が200μm以下の範囲である(請求項)。
【0011】
ましくは、前記鍛造用マグネシウム素材は、結晶粒径が10μm以下の範囲である(請求項)。
【0012】
好ましくは、前記鍛造用マグネシウム素材は、前記鍛造用マグネシウム素材及び前記鍛造用マグネシウム素材の金型が250〜500℃の範囲の温度で鍛造されている(請求項)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の圧縮機能部材及びその製造方法によれば、高価な希土類金属を添加しないマグネシウム合金製であっても、0.2%耐力の引張応力をアルミニウム合金製スクロールよりも高い350MPa以上まで高めることができ、軽量且つ廉価で機械的強度が高い圧縮機能部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
図2図1のスクロールの製造工程を示したフローチャートである。
図3図1のスクロールを従来のアルミニウム合金製スクロールと比較した応力ひずみ線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の一実施形態に係るスクロール圧縮機1を示す。この圧縮機1は例えば車両の空調装置を構成する冷凍回路に組み込まれ、冷凍回路を循環する冷媒の圧縮に使用される。
圧縮機1はリアハウジング2及びフロントハウジング4を備え、リアハウジング2とフロントハウジング4との間にはスクロールユニット6が挟持されている。スクロールユニット6はリアハウジング2に固定された固定スクロール(圧縮機能部材)8と、固定スクロール8に対して噛み合うように組付けられた可動スクロール(圧縮機能部材)10とからなる。
【0016】
固定スクロール8に対する可動スクロール10の公転旋回運動により、圧縮機1はスクロールユニット6において冷媒の吸入から圧縮を経て吐出までの一連のプロセスを連続して実行する。
詳しくは、固定スクロール8の端板12には一体成形された固定渦巻体14が立設され、可動スクロール10の端板16には一体成形された可動渦巻体18が立設されている。固定及び可動渦巻体14,18の内外面はその中央端部を除き所定のインボリュート曲面から形成され、固定渦巻体14の中央端部近傍には冷媒の吐出孔20が穿孔されている。
【0017】
固定及び可動渦巻体14,18の立設方向の端部にはそれぞれチップシール22が設けられ、固定スクロール8に対する可動スクロール10の公転旋回運動に伴い、固定渦巻体14と可動スクロール10の端板16、及び、可動渦巻体18と固定スクロール8の端板12とは、それぞれ上記チップシール22を介して互いに摺接される。固定及び可動スクロール8,10間での上記摺接により、フロントハウジング4に形成された図示しない吸入ポートから導入された冷媒がスクロールユニット6内に吸入され、固定及び可動渦巻体14,18が互いに噛み合った状態で固定及び可動スクロール8,10が協働することにより、固定及び可動渦巻体14,18間には潤滑油を含む冷媒ガスの圧縮室24が区画して形成され、上述した一連のプロセスが連続して実行される。
【0018】
以下、本実施形態の固定スクロール6及び可動スクロール10の双方又は何れか一方をスクロール(圧縮機能部材)30と総称し、図2のフローチャートを参照して、このスクロール30の製造工程について説明する。
<合金形成工程:S1>
スクロール30の製造が開始されると、ステップS1の合金形成工程においてスクロール30の材料として、先ず鋳造用マグネシウム合金素材32のインゴットを形成する。鋳造用マグネシウム合金素材32は、全量に対し、質量%で、0.2〜15%の範囲のアルミニウムAlと、0.3〜10%の範囲のカルシウムCaと、0.05〜1.5%の範囲のマンガンMnと、不可避的不純物とを含む。
【0019】
<鋳造工程:S2>
次に、ステップS2の鋳造工程では、鋳造用マグネシウム合金素材32を鋳造して押出用マグネシウム合金素材34を形成する。押出用マグネシウム合金素材34は、樹脂状晶のデンドライトアーム間隔が0.5〜15μmの範囲であり、結晶粒径が200μm以下の範囲である。このように樹脂状晶のデンドライトアーム間隔を0.5〜15μmの範囲にした押出用マグネシウム合金素材34を後述する鍛造用マグネシウム合金素材36として使用することにより、鍛造時における素材割れの抑制や加工温度の低温化等といった鍛造加工性を大幅に向上可能である。
【0020】
<押出工程:S3>
次に、ステップS3の押出工程では、押出用マグネシウム合金素材34を250〜500℃の範囲の温度で、且つ押出比が3〜30の範囲の押し出し加工を施し、棒状の鍛造用マグネシウム素材36を形成する。鍛造用マグネシウム合金素材36は、結晶粒径が10μm以下の範囲である。なお、押出比とは押出加工後の素材の断面積Aを押出加工前の素材の断面積Bで除した比率(A/B)である。また、鍛造用マグネシウム合金素材36の試料の任意の3箇所における結晶粒径をSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)又は後方散乱電子回析像を用いた結晶方位解析法(SEM/EBSP法)(EBSP:Electron Backscattered Diffraction pattern:電子線後方散乱回析法)により10回程度測定した平均は、2.77μm、2.55μm、2.08μmであった。
【0021】
<鍛造工程:S4>
次に、ステップS4の鍛造工程では、鍛造用マグネシウム合金素材36を鍛造してスクロール30の端板及び渦巻体を成形し、スクロール30の製造が終了する。当該鍛造工程における鍛造は、鍛造用マグネシウム合金素材36及び鍛造用マグネシウム合金素材36の図示しない金型が250〜500℃の範囲の温度で行われる。なお、このときの最適温度範囲は250〜350℃であることが判明している。
【0022】
図3は上述した工程で製造したマグネシウム合金製のスクロール30と、従来のアルミニウム合金製スクロールとの同位置から同寸法の引張試験片をそれぞれ採取し、各引張試験片に対してそれぞれ行った引張試験の結果を示した応力ひずみ線図であり、本実施形態のスクロール30の線図はXで示し、アルミニウム合金製スクロールの線図はYで示す。この図から明らかなように、スクロール30は、0.2%耐力の引張応力がアルミニウム合金製スクロールよりも高い350MPa以上となり、スクロール30のひずみが塑性域に入った以降もアルミニウム合金製スクロールと同等かそれ以上の引張強度を有していることがわかる。
【0023】
以上のように本実施形態のスクロール30の製造方法では、ガドリニウムGdやイットリウムYなどの高価な希土類金属を添加しなくとも、スクロール30の0.2%耐力の引張応力をアルミニウム合金製スクロールよりも高い350MPa以上まで高めることができ、スクロール30のひずみが塑性域に入った以降もアルミニウム合金製スクロールと同等かそれ以上の引張強度を得ることができる。従って、軽量且つ廉価で機械的強度が高いスクロール30を製造することができる。
【0024】
本発明は、上述の実施形態に制約されるものではなく種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、ステップS4の鍛造工程で成形されたスクロール30に容体化処理及び人工時効処理を施しても良い。この場合には、熱処理によりスクロール39のひずみが除去されてスクロール30の機械的強度を更に高めることができる。
また、上記実施形態のスクロール30の製造方法は固定スクロール8及び可動スクロール10の双方又は何れか一方に適用可能である。
【0025】
最後に、本発明は、臨界領域で作動する超高圧のCO2冷媒を用いた冷凍回路に組み込まれた圧縮機のスクロール製造に適用するのが好ましく、また、スクロール圧縮機1のスクロール30のみならず、スクロール膨張機などのスクロール型流体機械全般に適用でき、更にはスクロール型流体機械に限らずピストンアセンブリなどの他の圧縮機能部材にも適用できるのは勿論である。
【符号の説明】
【0026】
8 固定スクロール(圧縮機能部材)
10 可動スクロール(圧縮機能部材)
30 スクロール(圧縮機能部材)
32 鋳造用マグネシウム合金素材
34 押出用マグネシウム合金素材
36 鍛造用マグネシウム素材
図1
図2
図3