(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
斜板の変角方向の慣性乗積に基づく回転運動のモーメントは、斜板の回転数、つまり圧縮機の回転数の2乗に比例する。たとえ斜板の変角方向の慣性乗積を小さな値に設定しても、圧縮機の回転数が増大するとその影響は無視できず、高速回転領域では大きな値となる。したがって、高速回転領域では斜板の変角方向の慣性乗積に基づく回転運動のモーメントが斜板の変角動作に大きな影響を与える。
【0005】
特許文献1の
図2に示す傾角減少バネと傾角増大バネを備えた連結体400では、駆動軸が回転すると斜板には斜板の変角方向の慣性乗積に基づく回転運動のモーメントと、
図4に示されるバネの付勢力の合力に基づいて斜板に作用する変角方向のモーメントが作用する。
【0006】
しかしながら、この特許文献1では、斜板の変角方向の慣性乗積に基づく回転運動のモーメントの大きさや両バネの付勢力の合力に基づいて斜板に作用する変角方向のモーメントの大きさが不明であるため、回転が停止した状態から高速回転領域まで回転させたときに斜板の傾角が傾角θa(θa:回転が停止した状態における、傾角減少バネの付勢力と傾角増大バネの付勢力の和がゼロとなる斜板の傾角)からどのように変化するのか不明であり、結局、高速回転領域における圧縮機の消費動力の増大を抑制するための最良の方策が示されていないこととなっている。
【0007】
本発明の課題は、上記のような従来技術に鑑み、とくに、高速回転領域における圧縮機の消費動力の増大が抑制された可変容量圧縮機、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る可変容量圧縮機は、
内部に吐出室、吸入室、クランク室及びシリンダボアが区画形成されたハウジングと、
シリンダボアに挿入されたピストンと、
ハウジング内に回転可能に支持された駆動軸と、
駆動軸に同期回転可能に固定されたロータと、
ロータと連結手段を介して連結し、ロータと同期回転して駆動軸の軸線に対して傾角が可変となるように駆動軸に摺動自在に取り付けられた斜板と、
斜板が駆動軸の軸線に対して直交するときの斜板の傾角を0°とした場合、
最大傾角と最小傾角の間の範囲で傾動可能な斜板の最小傾角をほぼ0°に規制する最小傾角規制手段と、
斜板を最小傾角から傾角増大方向に付勢する傾角増大バネと、
斜板を最大傾角から最小傾角に至るまで傾角減少方向に付勢する傾角減少バネと、
ピストンと斜板との間に配設され、斜板の回転をピストンの往復運動に変換する変換機構と、
クランク室の圧力を調整する制御弁と、を備え、
クランク室と吸入室との圧力差を変化させて斜板の傾角を変更し、ピストンのストロークを調整して吸入室からシリンダボアに吸入された冷媒を圧縮して吐出室に吐出する可変容量圧縮機において、
傾角減少バネと傾角増大バネが装着された駆動軸、ロータ、連結手段及び斜板の連結体は、
駆動軸が回転していないときには、斜板の傾角が傾角減少バネの付勢力と傾角増大バネの付勢力との和がゼロとなる所定の傾角θaで位置決めされ、
駆動軸が回転しているときには、斜板の変角方向の慣性乗積の設定に基づく回転運動のモーメントM
Sが傾角減少方向に作用して斜板の傾角が所定の傾角θaから小さくなり、これによって傾角減少バネの付勢力と傾角増大バネの付勢力との合力に基づくモーメントM
Fが傾角増大方向に作用し、その結果斜板の傾角はモーメントM
SとモーメントM
Fとの和がゼロとなる所定の傾角θbに自律的に位置決めされるものであって、
前記所定の傾角θbが、最高回転数の時に圧縮動作が確実に行われる最小の傾角に位置決めされるように、傾角増大バネの付勢力、傾角減少バネの付勢力及び斜板の変角方向の慣性乗積が設定されていることを特徴とするものからなる。
【0009】
このような本発明に係る可変容量圧縮機においては、最高回転数の時の斜板の傾角をθb(Nmax)とすると、最高回転数以外の回転数の時の自律的に位置決めされる斜板の傾角θbと上記θa、θb(Nmax)の大小関係は、θa>θb≧θb(Nmax)となる。したがって、圧縮機の回転数が増大し、斜板の変角方向の慣性乗積によって斜板の傾角が減少方向に変角されたとしても、自律的に位置決めされる斜板の傾角θbは、自律的位置決め状態ではθb(Nmax)よりは小さくはならない。このθb(Nmax)が、最高回転数の時に圧縮動作が確実に行われる最小の傾角になるように、傾角増大バネの付勢力、傾角減少バネの付勢力及び斜板の変角方向の慣性乗積が設定されている設定されている。換言すれば、圧縮動作が確実に行われて吐出室に確実に吐出圧が発生し、制御弁によるクランク室への吐出ガス導入量の制御によってクランク室と吸入室との圧力差を制御することにより斜板の傾角を確実に変角させることのできる動作保証範囲内における、最小の斜板傾角になるように、傾角増大バネの付勢力、傾角減少バネの付勢力及び斜板の変角方向の慣性乗積が設定されている。したがって、最高回転数を含む高速回転領域においてたとえ斜板の傾角が過渡的に機械的な最小傾角(ほぼ0°)近傍に至ったとしても、上記モーメントM
FとモーメントM
Sによって圧縮動作が確実に行われる傾角θb(例えば、ほぼ1°)まで確実に復帰できるので、容量制御が不能となることが回避でき、かつ、傾角θb(ほぼ1°)は圧縮動作が確実に行われる最小の傾角であるので、その最高回転数近傍の高速回転領域での可変容量圧縮機の消費動力が、最も効率よく確実に低減できることとなる。同時にクランク室の圧力の上昇が必要最小限に抑制されるので、駆動軸の軸封装置等の寿命の向上をはかることも可能になる。
【0010】
さらに、連結体は実際に回転されるので、斜板の変角方向の慣性乗積のばらつき、傾角減少バネの付勢力及び傾角増大バネの付勢力のばらつき、連結手段及び斜板と駆動軸との摺動部で発生する摩擦力の影響も含めた状態にて、最高回転数での傾角θbを圧縮動作が確実に行われる最小の傾角(例えば、ほぼ1°)に確実に位置決めすることができる。
【0011】
本発明に係る可変容量圧縮機においては、上記の如く、最高回転数における上記所定の傾角θbの狙い値としては、ほぼ1°とすることができる。
【0012】
また、本発明に係る可変容量圧縮機においては、上記連結手段として、リンク機構であって、該リンク機構はロータと斜板とを連結するリンクアームを備えている構造を採用することができる。リンク機構を備えた可変容量圧縮機では斜板の変角方向の慣性乗積はリンクアームの影響も考慮しなければならず、リンクアームを有しない他のヒンジ構造より慣性乗積がばらつく。したがって、連結体を実際に回転させて最高回転数での傾角θbを確認する本発明の方式は、このようなリンク機構を備えた可変容量圧縮機に好適なものである。
【0013】
また、本発明は、
内部に吐出室、吸入室、クランク室及びシリンダボアが区画形成されたハウジングと、
シリンダボアに挿入されたピストンと、
ハウジング内に回転可能に支持された駆動軸と、
駆動軸に同期回転可能に固定されたロータと、
ロータと連結手段を介して連結し、ロータと同期回転して駆動軸の軸線に対して傾角が可変となるように駆動軸に摺動自在に取り付けられた斜板と、
斜板が駆動軸の軸線に対して直交するときの斜板の傾角を0°とした場合、
最大傾角と最小傾角の間の範囲で傾動可能な斜板の最小傾角をほぼ0°に規制する最小傾角規制手段と、
斜板を最小傾角から傾角増大方向に付勢する傾角増大バネと、
斜板を最大傾角から最小傾角に至るまで傾角減少方向に付勢する傾角減少バネと、
ピストンと斜板との間に配設され、斜板の回転をピストンの往復運動に変換する変換機構と、
クランク室の圧力を調整する制御弁と、を備え、
クランク室と吸入室との圧力差を変化させて斜板の傾角を変更し、ピストンのストロークを調整して吸入室からシリンダボアに吸入された冷媒を圧縮して吐出室に吐出する可変容量圧縮機の製造方法において、
傾角減少バネと傾角増大バネが装着された駆動軸、ロータ、連結手段及び斜板の連結体を、
駆動軸が回転していないときには、斜板の傾角が傾角減少バネの付勢力と傾角増大バネの付勢力との和がゼロとなる所定の傾角θaで位置決めされるように、
駆動軸が回転しているときには、斜板の変角方向の慣性乗積の設定に基づく回転運動のモーメントM
Sが傾角減少方向に作用して斜板の傾角が所定の傾角θaから小さくなり、これによって傾角減少バネの付勢力と傾角増大バネの付勢力との合力に基づくモーメントM
Fが傾角増大方向に作用し、その結果斜板の傾角はモーメントM
SとモーメントM
Fとの和がゼロとなる所定の傾角θbに自律的に位置決めされるように、
構成するとともに、
前記所定の傾角θbが、最高回転数の時に圧縮動作が確実に行われる最小の傾角に位置決めされるように、傾角増大バネの付勢力、傾角減少バネの付勢力及び斜板の変角方向の慣性乗積を設定することを特徴とする、可変容量圧縮機の製造方法についても提供する。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば、可変容量圧縮機の斜板の変角動作を最高回転数まで確実に確保しつつ、高速回転領域における圧縮機の消費動力の増大を効率よく抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(1)可変容量圧縮機
図1は、本発明の一実施態様に係る、車両用空調システムに使用される可変容量圧縮機を示している。
図1に示す可変容量圧縮機100は、クラッチレス圧縮機であって、複数のシリンダボア101aを備えたシリンダブロック101と、シリンダブロック101の一端に設けられたフロントハウジング102と、シリンダブロック101の他端にバルブプレート103を介して設けられたシリンダヘッド104とを備えている。
【0017】
シリンダブロック101と、フロントハウジング102とによって規定されるクランク室140内を横断して、駆動軸110が設けられ、その軸方向中央部の周囲には、斜板111が配置されている。斜板111は、駆動軸110に固定されたロータ112とリンク機構120を介して連結し、駆動軸110に沿ってその傾角が変化可能となっている。
【0018】
リンク機構120は、ロータ112から突設された第1アーム112aと、斜板111から突設された第2アーム111aと、一端側が第1連結ピン122を介して第1アーム112aに対して回動自在に連結され、他端側が第2連結ピン123を介して第2アーム111aに対して回動自在に連結されたリンクアーム121から構成されている。
【0019】
斜板111の貫通孔111cは、斜板111が最大傾角(θmax)と最小傾角(θmin)の範囲で傾動可能となるように形状が形成されており、貫通孔111cには駆動軸110と当接する最大傾角規制部と最小傾角規制部が形成されている。
【0020】
尚、本実施態様においては、例えば最大吐出容量が160cc程度のクラッチレス圧縮機を想定しており、斜板111が駆動軸110に対して直交するときの斜板の傾角を0°とした場合、貫通孔111cの最小傾角規制部は斜板111の傾角がほぼ0°となるように形成されている。ここで、最小傾角θminがほぼ0°とは−0.5°より大きく0.5°未満の領域を指すが、好ましくは0°以上〜0.5°未満に設定されている。また、貫通孔111cの最大傾角規制部は、斜板111の傾角が20°〜21°となるように形成されている。
【0021】
ロータ112と斜板111の間には、斜板111を最小傾角に至るまで付勢する圧縮コイルバネからなる傾角減少バネ114が装着され、斜板111とバネ支持部材116との間には、斜板111の傾角を最大傾角より小さい所定の傾角まで増大する方向に付勢する圧縮コイルバネからなる傾角増大バネ115が装着されている。最小傾角において傾角増大バネ115の付勢力は傾角減少バネ114の付勢力より大きく設定されているので、斜板111は駆動軸110が回転していないときは、傾角減少バネ114の付勢力と傾角増大バネ115の付勢力との合力がゼロとなる所定の傾角θaに位置決めされる(
図2)。
【0022】
尚、
図2に示す最小傾角θminにおける付勢力の合力Fmin及び所定の傾角θaは、車両のアイドリング相当の圧縮機回転数(例えば700rpm)においてクラッチレス圧縮機のOFF状態(空調非作動状態)からON状態(空調作動状態)へのスムースな移行を考慮して設定され、OFF状態での消費動力抑制のため、できるだけ小さな値として設定されている。所定の傾角θaは確実に圧縮動作が行なわれる領域でなければならないので、1°より大きく、かつ、エンジン始動時の圧縮機負荷が過大とならないように5°未満の領域に設定されている。好ましくは、所定の傾角θaは2°〜3°、またFminは−40N±15N程度(マイナスは傾角増大方向)に設定するのが良い。最大傾角θmaxにおける付勢力の合力Fmaxは60N±15N程度に設定されている。
【0023】
駆動軸110の一端は、フロントハウジング102の外側に突出したボス部102a内を貫通して外側まで延在し、図示しない動力伝達装置に連結されている。尚、駆動軸110とボス部102aとの間には、軸封装置130が挿入され、内部と外部とを遮断している。駆動軸110及びロータ112はラジアル方向に軸受131、132で支持され、スラスト方向に軸受133、スラストプレート134で支持され、外部駆動源からの動力が動力伝達装置に伝達され、駆動軸110は動力伝達装置の回転と同期して回転可能となっている。尚、駆動軸110のスラストプレート134の当接部とスラストプレート134との隙間は調整ネジ135により所定の隙間に調整されている。
【0024】
シリンダボア101a内には、ピストン136が配置され、ピストン136のクランク室140側に突出している端部の内側空間には、斜板111の外周部が収容され、斜板111は一対のシュー137を介して、ピストン136と連動する構成となっている。したがって、斜板111の回転によりピストン136がシリンダボア101a内を往復動することが可能となる。
【0025】
シリンダヘッド104には、径方向中央部に吸入室141が、吸入室141を径方向外側で環状に取り囲む吐出室142が、区画形成され、吸入室141は、シリンダボア101aとは、バルブプレート103に設けられた連通孔103a、吸入弁(図示せず)を介して連通し、吐出室142は、シリンダボア101aとは、吐出弁(図示せず)、バルブプレート103に設けられた連通孔103bを介して連通している。
【0026】
フロントハウジング102、シリンダブロック101、バルブプレート103、シリンダヘッド104が、図示しないガスケットを介して複数の通しボルト105によって締結されて圧縮機ハウジングが形成されている。
【0027】
また、シリンダブロック101の
図1中上部にはマフラが設けられ、マフラは蓋部材106と、シリンダブロック101の上部に区画形成された形成壁101bが図示しないシール部材を介してボルトにより締結されることにより形成される。マフラ空間143には逆止弁200が配置されている。逆止弁200は、連通路144とマフラ空間143との接続部に配置され、連通路144(上流側)とマフラ空間143(下流側)との圧力差に応答して動作し、圧力差が所定値より小さい場合には連通路144を遮断し、圧力差が所定値より大きい場合には連通路144を開放する。したがって吐出室142は、連通路144、逆止弁200、マフラ空間143及び吐出ポート106aで形成される吐出通路を介して空調システムの吐出側冷媒回路と接続されている。
【0028】
シリンダヘッド104には、吸入ポート104a、連通路104bが形成され、吸入室141は、連通路104b及び吸入ポート104aで形成される吸入通路を介して空調システムの吸入側冷媒回路と接続されている。吸入通路はシリンダヘッド104の径方向外側から吐出室142の一部を横切るように直線状に延びている。
【0029】
シリンダヘッド104にはさらに制御弁300が設けられている。制御弁300は吐出室142とクランク室140とを連通する連通路145の開度を調整し、クランク室140への吐出ガス導入量を制御する。また、クランク室140内の冷媒は、連通路101c、空間146、バルブプレート103に形成されたオリフィス103cを経由して吸入室141へ流れる。
【0030】
したがって、制御弁300によりクランク室140の圧力を変化させ、斜板111の傾角、つまりピストン136のストロークを変化させることにより、可変容量圧縮機100の吐出容量を可変制御することができる。
【0031】
空調作動時、つまり可変容量圧縮機100の作動状態では、外部信号に基づいて制御弁300に内蔵されるソレノイドの通電量が調整され、吸入室141の圧力が所定値になるように吐出容量が可変制御される。制御弁300は、外部環境に応じて、吸入圧力を最適制御することができる。
【0032】
また、空調非作動時、つまり可変容量圧縮機100の非作動状態では、制御弁300に内蔵されるソレノイドの通電をOFFすることにより連通路145を強制開放し、可変容量圧縮機100の吐出容量を最小に制御する。
【0033】
(2)斜板に作用する変角モーメント
可変容量圧縮機100を運転しているときに斜板111に作用する変角モーメントは以下の通りである。
・各ピストンに作用するシリンダ圧力によって発生するモーメントM
CL(傾角増大方向)
・各ピストンに作用するクランク室内の圧力によって発生するモーメントM
CR(傾角減少方向)
・ピストンの往復動慣性力によって発生するモーメントM
P(傾角増大方向)
・斜板の変角方向の慣性乗積の設定に基づく回転運動のモーメントM
S
・傾角減少バネの付勢力と傾角増大バネの付勢力の合力によって発生するモーメントM
F
【0034】
空調作動時では、通常ガス圧のモーメント(M
CR−M
CL)は他の機械系のモーメント(M
P、M
S、M
F)に比べて大きいので、機械系のモーメントはあまり考慮しなくてもよいが、モーメントM
P及びモーメントM
Sは回転数の2乗の関数となっているので、高速回転領域ではモーメントM
P及びモーメントM
Sは無視できなくなる。
【0035】
特にクラッチレス圧縮機のOFF状態(空調非作動時)ではガス圧のモーメント(M
CL、M
CR)が極めて小さくなるので、機械系のモーメント(M
P、M
S、M
F)によって斜板111の変角動作が影響を受けやすくなる。
【0036】
機械系のモーメントの中でその大きさを調整可能なものはモーメントM
FとモーメントM
Sである。モーメントM
Fは、傾角減少バネ114と傾角増大バネ115の付勢力やバネ定数で調整が可能であり、本実施形態では
図2に示す付勢力Fと、
図3に示すような設計的に決められている任意の斜板111の傾角における瞬間回転中心Cと駆動軸110の軸心との距離Lとの積から求められる(M
F=F・L)。尚、瞬間回転中心とは、
図3に示す傾角減少バネ114と傾角増大バネ115が装着された駆動軸110、ロータ112、リンク機構120及び斜板111の連結体400において、斜板111の回転中心(K点)を通り駆動軸110の軸線と直交する線と、第1連結ピン122の中心と第2連結ピン123の中心を通る軸線との交点である。
【0037】
また、モーメントM
Sは、斜板111の形状、質量、重心、つまり慣性乗積の設定により調整が可能であり、本実施形態では、
図4に示す慣性乗積値Pから、M
S=P・ω
2で求めることができる(ωは駆動軸の回転の角速度)。
【0038】
図4は、連結ピン123とリンクアーム121の影響を含めた斜板111の変角方向の慣性乗積を示したものである。
【0039】
第2連結ピン123は斜板111に圧入固定されているので斜板111と一体となっている。リンクアーム121は第1連結ピン122を中心として回動するもので、斜板111の傾角変化に対応してその位置が変化する。駆動軸110が回転したときに、リンクアーム121によって第1連結ピン122の中心周りに回転運動のモーメントが作用するので、リンクアーム121は第2連結ピン123を介して斜板111を常時傾角増大方向へ向かわせる回転運動のモーメントを発生させる。したがって、リンクアーム121によって発生する傾角増大方向の回転運動のモーメントを考慮して、
図4に示す特性となるように第2連結ピン123と斜板111の連結体の慣性乗積を設定している。つまり、慣性乗積値Pは、リンクアーム121と、第2連結ピン123と斜板111の連結体との2つの要素で構成されるので、リンクアーム121を有しない他のヒンジ構造よりばらつきが大きくなる。
【0040】
尚、慣性乗積値Pがゼロとなる斜板の傾角θsは、0°より大きく1°未満の範囲内に設定されている。
【0041】
(3)モーメントM
FとモーメントM
Sによる斜板の傾動
次に、
図3に示す傾角減少バネ114と傾角増大バネ115が装着された駆動軸110、ロータ112、リンク機構120及び斜板111の連結体400を回転させると、モーメントM
FとモーメントM
Sによって斜板111の傾角がどのように位置決めされるのかを、
図5及び
図6で説明する。
【0042】
例えば、可変容量圧縮機100からシリンダヘッド104、バルブプレート103、吐出弁、吸入弁、及びピストン136を取り外して大気圧下で運転する場合を考える。この状態では、ガス圧のモーメント(M
CR−M
CL)及びモーメントM
Pはゼロであるから、斜板にはモーメントM
FとモーメントM
Sのみが作用する。
【0043】
尚、斜板の傾角θは、例えばレーザー変位計測装置で、斜板111が回転しているときの斜板111の軸方向の変位量を計測することにより求めることができる。レーザーを照射する斜板111の位置を各ピストン136の中心軸を通るピッチ円に相当する位置とすれば、計測される斜板111の軸方向変位量ΔLはピストンストロークそのものである。この場合ピッチ円径をDとすれば、斜板111の傾角θと変位ΔLとの関係はtanθ=ΔL/Dとなり、斜板111の軸方向変位量ΔLを計測すれば斜板111の傾角θを容易に求めることができる。
【0044】
斜板111の傾角は、駆動軸110の回転が停止している状態ではM
S=0であるから、傾角減少バネ114の付勢力と傾角増大バネ115の付勢力とがバランスする斜板111の傾角θaに位置決めされている。
【0045】
回転が停止している状態から駆動軸110を所定の回転数で回転させると、斜板111の変角方向の慣性乗積Pに基づく回転運動のモーメントM
Sが斜板111に作用して斜板111の傾角が傾角θaから変化する。ここでθs<θaであるので、モーメントM
Sは傾角減少方向に作用し、斜板111の傾角は傾角θaから傾角θsに向かって小さくなっていく。
【0046】
傾角θaより斜板111の傾角が小さくなると、斜板111には
図2に示すバネ付勢力の合力Fによって発生するモーメントM
Fが傾角増大方向に作用するので、モーメントM
FとモーメントM
Sの和がゼロとなる位置で斜板111の傾角が自律的に位置決めされる(傾角θb)。傾角θbは、駆動軸110の回転数が大きくなると傾角θsに近づき、最高回転数(Nmax)で最も小さい角度となる。この最高回転数での傾角θb(Nmax)は、圧縮動作が確実に行われる最小の傾角に設定されている。つまり、最高回転数では必要最小限の圧縮動作を確実に担保して、不必要に斜板111の傾角を大きくしないようにしてある。
【0047】
尚、最高回転数(Nmax)は、例えば斜板式可変容量圧縮機においては、9000rpm(±1000rpm)程度が想定される。
【0048】
斜板111の機械的な最小傾角θminはほぼ0°に設定されており、実際の可変容量圧縮機100の運転状態では過渡的には最小傾角θminに到達することも有りえるが、この状態ではモーメントM
Pやガス圧のモーメント(M
CR−M
CL)はゼロまたは極めて小さいので、最小傾角θminからの容量復帰のためには傾角θb(Nmax)はモーメントM
FとモーメントM
Sによって圧縮動作が確実に行われる傾角領域に位置決めされている必要がある。
【0049】
通常斜板111の傾角が小さくなり0°近傍に近づくと、ある傾角以下では圧縮動作が不十分となるか又は圧縮動作がまったく行われなくなるので、この境界となる傾角を実験的に確認したところ0.2°前後であることがわかり、また、確実に圧縮動作が行われる斜板111の傾角は0.4°以上であることを確認した。
【0050】
すなわち、
図7に最小傾角近傍での圧縮動作の状態を示す概念図を示すように、圧縮動作がまったく行われなくなる領域と圧縮動作が不十分な領域の境界となる傾角をθc、圧縮動作が不十分な領域と圧縮動作が確実に行われる領域の境界となる傾角をθdとすると、
圧縮動作がまったく行われない領域:0°≦θ<θc
圧縮動作が不十分な領域:θc≦θ<θd
圧縮動作が確実に行われる領域:θd≦θ
と表すことができ、θc:0.2°前後、θd:0.4°以上であることを確認したものである。圧縮動作が行われるか否かは車両のアイドリング相当の圧縮機回転数で判断する(例えば700rpm)。
【0051】
したがって、
図4において慣性乗積値Pがゼロとなる傾角θsはほぼ0.4°(0.4°±0.3°程度の範囲内)であることが望ましく、また前記傾角θb(Nmax)はほぼ1°(1°±0.5°程度の範囲内)、好ましくは1°以下とするのが良い(但し、θs<θb)。
【0052】
リンク機構120においては慣性乗積値Pのばらつきが他のヒンジ構造比べて大きく、またバネの付勢力の合力Fもばらつきがあり、さらに斜板111の傾動時においてはリンク機構120及び駆動軸110の外周と貫通孔111cとの摺動部で摩擦力が作用するため、傾角θb(Nmax)のばらつきも大きくなるが、連結体400を実際に回転させて傾角θb(Nmax)を確認しているので、これが狙いとする傾角となるように、慣性乗積値Pやバネの付勢力の合力Fを修正すれば傾角θbを所望の範囲に確実に位置決めすることができる。
【0053】
上述したように、連結体400において駆動軸110を回転させると、斜板111の変角方向の慣性乗積の設定により回転数が大きくなるに従い斜板111の傾角が自律的に小さくなり、最高回転数において圧縮動作が確実に行われる最小の傾角に位置するように傾角減少バネ114の付勢力、傾角増大バネ115の付勢力及び斜板111の変角方向の慣性乗積が設定されているので、高速回転領域での可変容量圧縮機の消費動力の低減に効率よく寄与することができる。また同時に、クランク室の圧力の上昇が抑制されるので、軸封装置130の寿命向上にも寄与することができる。
【0054】
尚、上述のθsの数値は望ましい状態を示したもので、これに限定されない。例えばθsが僅かに負の角度(例えば−0.5°<θs<0)に設定されていても、モーメントM
FとモーメントM
Sの和によって所望のθbが得られるようにバネ付勢力を設定すれば良い。
【0055】
また、上記実施態様では、可変容量圧縮機100をクラッチレス圧縮機としたが、電磁クラッチを装着した可変容量圧縮機としてもよい。また、本発明は揺動板式可変容量圧縮機にも適用可能である。
【0056】
また、ロータと斜板とを連結する連結手段は上記実施形態には限定されない。例えば、ロータアームに長孔を形成し、この長孔に斜板に固定されたピンを連結させる構造でもよい。
【0057】
また、上記実施形態では斜板が駆動軸に直接支持された構造であるが、駆動軸に滑動可能に嵌挿された斜板支持体(スリーブ)に支持される斜板構造であってもよい。
【0058】
さらに、最小傾角規制手段についても上記実施形態には限定されない。例えば、止め輪を駆動軸に固定して最小傾角を規制してもよい。