(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について例を挙げて具体的に説明する。
【0020】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、樹脂(ポリマー)成分を少なくとも含み、さらに必要に応じて、フィラー、その他の成分、などを含む。
【0021】
<樹脂(ポリマー)成分>
樹脂(ポリマー)成分は、ポリグリコール酸と、エラストマーとを少なくとも含み、さらに必要に応じて、その他の樹脂(ポリマー)、などを含む。
ポリグリコール酸に柔軟性付与剤としてエラストマーをブレンドすることにより、サブミクロンオーダーの微細な構造とすることができ、もって、ガスバリア性を維持しつつ、柔軟性を付与することができる。
また、エラストマーの添加により、ガスバリア性の低下は避けられないが、ポリグリコール酸中のエラストマーの分散形態が微細で、特に、海相がポリグリコール酸であり、島相がエラストマーであり、かつエラストマーの島相中にポリグリコール酸が散点状に散在する構造であるサラミ構造であることが好ましい。
【0022】
<<ポリグリコール酸>>
ポリグリコール酸としては、グリコール酸の単独重合体を含む樹脂である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、グリコール酸と他のモノマーとの共重合体をさらに含んでいてもよく、また、一部が変性されていてもよい。
【0023】
前記ポリグリコール酸の樹脂成分中における含有率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、65質量%〜90質量%が好ましく、65質量%〜85質量%がより好ましく、70質量%〜80質量%が特に好ましい。
前記含有率が、60質量%未満であると、ガスバリア性を確保できなくなることがあり、90質量%超であると、樹脂は柔軟性が低下して脆くなるため、強度や耐久性が低下することがある。
一方、前記含有率が、前記好ましい範囲内であると、ガスバリア性と柔軟性を両立することができる。また、前記より好ましい範囲内又は特に好ましい範囲内であると、ガスバリア性と柔軟性と加工性を両立することができる。
【0024】
前記ポリグリコール酸の重量平均分子量(Mw)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20000〜500000が好ましく、50000〜400000がより好ましく、100000〜300000が特に好ましい。
前記重量平均分子量(Mw)が、20000未満であると、強度が低下することがあり、500000超であると、加工性が低下することがある。
一方、前記重量平均分子量(Mw)が、前記好ましい範囲内であると、強度・耐久性に優れた樹脂成形品フィルムとすることができる。また、前記より好ましい範囲内又は特に好ましい範囲内であると、加工性に優れた樹脂内層とすることができる。
【0025】
<<エラストマー>>
エラストマーとしては、ガラス転移点が室温(25℃)よりも低い弾性材料である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、未変性エラストマー、変性エラストマーのいずれを含んでいてもよいが、混練り(分散)時における比エネルギーが少なく、高い混練り技術を必要としない点で、変性エラストマーを含むことが好ましい。なお、エラストマー中の変性エラストマー以外の部分は、非変性エラストマーである。
ポリグリコール酸とエラストマーとは相溶しない。このような非相溶系において相溶状態、即ち、良好な分散状態を形成することにより、さらに優れたガスバリア性、柔軟性、及び耐久性を併せ持つことができる。この相溶状態の形成には、エラストマーの少なくとも一部が無水マレイン酸等により変性されていることが好ましい。
【0026】
前記エラストマーの樹脂成分中における含有率としては、10質量%〜35質量%である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、12質量%〜30質量%が好ましく、15質量%〜25質量%がより好ましく、15質量%〜20質量%が特に好ましい。
前記含有率が、10質量%未満であると、優れたガスバリア性、柔軟性、及び耐久性を併せ持つことができず、また、35質量%超であると、急激なガスバリア性の低下を招く。
一方、前記含有率が、10質量%〜35質量%であると、優れたガスバリア性、柔軟性、及び耐久性を併せ持つことができる。また、前記好ましい範囲内、前記より好ましい範囲内、又は前記特に好ましい範囲内であると、さらに加工性に優れた樹脂内層とすることができる。
【0027】
前記エラストマーの重量平均分子量(Mw)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5000〜100000が好ましく、10000〜50000がより好ましく、15000〜40000が特に好ましい。
前記重量平均分子量(Mw)が、5000未満であると、強度・耐久性が低下することがあり、100000超であると、加工性が低下することがある。
一方、前記重量平均分子量(Mw)が、前記好ましい範囲内であると、強度・耐久性を高めることができる。また、前記より好ましい範囲内又は特に好ましい範囲内であると、さらに加工性に優れた樹脂内層とすることができる。
【0028】
−未変性エラストマー−
未変性エラストマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α−オレフィンポリマー等のポリオレフィン、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン−プロピレン共重合体)、EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α−オレフィン共重合体、IR(イソプレンゴム)、SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体、エチレン−アクリル酸変性体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ポリオレフィンが、樹脂成分とのブレンドが容易であるといった加工性の点から、好ましい。
【0029】
−変性エラストマー−
変性エラストマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、変性ポリオレフィン、変性エチレン・ブテン共重合体、変性EEA、変性EPR、変性EPDM、変性SEBS、変性IR、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、無水マレイン酸などの酸無水物で変性した変性ポリオレフィンが、ポリグリコール酸をベースポリマーとする微細なアロイ構造を得ることができる点で、好ましい。
【0030】
前記変性エラストマーの樹脂成分中における含有率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20質量%以下が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましく、7質量%〜15質量%が特に好ましい。
前記含有率が、20質量%超であると、樹脂組成物の粘性が高くなり、加工性が低減することがあり、また、樹脂組成物のゲル化による押出し時における肌の外観不良(フィッシュアイ)を引き起こすことがある。
一方、前記含有率が、前記好ましい範囲内であると、エラストマーの分散性に優れた樹脂内層とすることができる。また、前記より好ましい範囲内又は特に好ましい範囲内であると、さらに衝撃耐久性に優れた樹脂内層とすることができる。
【0031】
前記変性エラストマーのエラストマー中における含有率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30質量%〜70質量%であることが好ましく、40質量%〜65質量%がより好ましく、45質量%〜60質量%が特に好ましい。
前記含有率が、30質量%未満であると、ポリグリコール酸との親和性が低下して、エラストマーの樹脂組成物における分散性が低下することがあり、また、70質量%超であると、樹脂組成物の粘性が高くなり、加工性が低下することがある。
一方、前記含有率が、前記好ましい範囲内であると、分散性及び加工性を両立することができる。また、前記より好ましい範囲内又は特に好ましい範囲内であると、ルフォロジーの観点から見た分散性及び加工性を高度に両立した樹脂内層とすることができる。
【0032】
−酸価(酸変性率)−
前記エラストマーの全体の平均の酸価(酸変性率)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、樹脂成分中のエラストマーの良好な分散形態を得ることができる点で、3.0mg−CH
3ONa/g以上が好ましい。
【0033】
前記エラストマーの酸価は高いほど、分散形態は良好となるが、酸価の増大に伴って得られる樹脂組成物の粘度が増大し、成形加工性が損なわれる。このため、この酸価の増大による粘度増加を低減するために、エラストマーの酸価は、良好な分散状態が得られる範囲において低い方が好ましく、用いるエラストマーの全体での平均酸価は7.5mg−CH
3ONa/g以下であることが好ましい。
【0034】
また、同じ平均酸価であっても、用いるエラストマー中に含まれる変性エラストマーの酸価が高い場合、このような変性エラストマーを未変性エラストマーと混合することにより、平均酸価を下げても、押し出し時に局部的な過反応によると思われるゲル状の異物が発生してしまう。従って、用いる変性エラストマーの酸価は、15.0mg−CH
3ONa/g以下であることが好ましい。
【0035】
即ち、例えば、酸価30mg−CH
3ONa/gの酸変性エラストマーと未変性エラストマーを17:83の質量比で混合して、エラストマー全体の平均酸価を約5(=30×17÷100)とした混合エラストマーAと、酸価10の酸変性エラストマーと未変性エラストマーを50:50の質量比で混合してエラストマー全体の平均酸価を5とした混合エラストマーBとでは、これを用いて得られる樹脂組成物の見掛けの粘度と分散粒径は同等でも加工安定性が大きく異なるものとなり、混合エラストマーAでは押出し時にゲル状の異物が散見されるが、混合エラストマーBでは良好な安定性を得ることができる。従って、用いる変性エラストマーの酸価は15.0mg−CH
3ONa/g以下であることが好ましい。なお、変性エラストマーの酸価の好ましい下限は前述のエラストマーの平均酸価の下限である3mg−CH
3ONa/gとなる。
【0036】
このようにポリグリコール酸にエラストマーを配合することにより、柔軟性、耐久性は改善されるものの、ガスバリア性の低下は避けられない。しかしながら、ポリグリコール酸とエラストマーとの微細なアロイ構造をとることにより、特に、ポリグリコール酸の海相内にエラストマーの島相が分散すると共に、このエラストマーの島相内にポリグリコール酸が散点状に分散した構造であることにより、エラストマーを配合したことによるガスバリア性の低下を抑制することができ、好ましい。
【0037】
特に、ポリグリコール酸(海相を構成するポリグリコール酸とエラストマーの島相内に散点状に存在するポリグリコール酸相との合計)に対するエラストマーの島相内に散点状に存在するポリグリコール酸相の割合が5〜40質量%程度であることが好ましい。この割合が5質量%未満であると、エラストマーの島相内にポリグリコール酸相を散点状に存在させることによる効果を十分に得ることができず、40質量%超であると、海相としてのポリグリコール酸相が少なくなり過ぎてガスバリア性が低下するおそれがある。
【0038】
また、エラストマーの島相の大きさ及びこのエラストマー島相内のポリグリコール酸相の大きさは、エラストマー島相の大きさがほぼ0.4μm〜1.5μm、ポリグリコール酸相の大きさが0.05μm〜0.5μm程度であることが好ましい。
【0039】
<<その他の樹脂(ポリマー)>>
その他の樹脂(ポリマー)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアミド系樹脂、などが挙げられる。
【0040】
<フィラー>
フィラーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、二酸化ケイ素等の金属酸化物やケイ酸化合物;水酸化マグネシウムや水酸化カルシウム等の水酸化物;ハイドロタルサイト、タルク、クレイ、ベントナイト等の層状ケイ酸化合物;その他にチタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム等のウィスカ;などが挙げられる。
前記フィラーの樹脂組成物中における含有率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1質量%〜15質量%が好ましく、3質量%〜12質量%がより好ましく、5質量%〜10質量%が特に好ましい。
前記含有率が、1質量%未満であると、機械強度が低下することがあり、15質量%超であると、加工性や成形品の表面状態が低下することがある。
一方、前記含有率が、前記好ましい範囲内であると、優れた機械強度を保持することができる。また、前記より好ましい範囲内又は特に好ましい範囲内であると、機械強度と加工性や表面状態のバランスのとれた樹脂内層とすることができる。
【0041】
<その他の成分>
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、老化防止剤、酸化劣化剤、などが挙げられる。
【0042】
ところで、本発明の樹脂組成物の成形加工性、特に、薄膜での押出し安定性を勘案すると、前記樹脂組成物の流動性が重要である。
前記樹脂組成物のMFR値(ASTM D 1238に準拠して250℃,荷重5005gにて測定、以下、「MFR(250℃/5005g)」と称す。)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3.0以上であることが好ましい。前記樹脂組成物のMFR(250℃/5005g)の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常、20以下である。
【0043】
本発明の樹脂組成物、特に前述のような海島構造のモルフォロジーを有する樹脂組成物は、例えば、次の(1)又は(2)の方法で製造することができる。
(1)ポリグリコール酸とエラストマーとを所定の配合比にして混練りし、マスターバッチを作った後、そのマスターバッチと、ポリグリコール酸と、必要に応じたその他の成分とを混練りする方法。
(2)ポリグリコール酸、エラストマー、及び必要に応じたその他の成分のブレンド物を高剪断により溶融混練りする方法。
【0044】
(冷媒輸送用ホース)
本発明の冷媒輸送用ホースは、少なくとも樹脂組成物よりなる層(樹脂層)を備え、さらに必要に応じて、内層ゴム層、外被ゴム層、中間ゴム層、補強糸層、内側ゴム層、などをさらに備える。
【0045】
本発明の冷媒輸送用ホースの実施形態を、図面を用いて説明する。
【0046】
図1は、本発明の一実施形態に係る冷媒輸送用ホースの説明図である。
図1の冷媒輸送用ホース10では、内層ゴム層2と外被ゴム層5との間に補強糸層3が形成され、内層ゴム層2の内周に最内層としての樹脂層1が形成されている。補強糸層3は、補強糸をスパイラル状に巻き付けた第1補強糸層3Aと、この第1補強糸層3Aとは逆方向にスパイラル状に補強糸を巻き付けた第2補強糸層3Bとが中間ゴム層4を介して積層形成されている。なお、必要に応じて、樹脂層1と内層ゴム層2との間等の各層間には接着剤層を設けてもよい。
【0047】
図2の冷媒輸送用ホース10は、
図1の冷媒輸送用ホース10において、樹脂層1の内層に更に内側ゴム層6が最内層として形成されている。この内側ゴム層6と樹脂層1との間にも必要に応じて接着剤層を設けてもよい。
【0048】
<樹脂層>
樹脂層1は、上述の樹脂組成物により構成される。この樹脂層1の膜厚は、ホースのガスバリア性、耐久性上は厚ければ厚いほど好ましいが、一方で膜厚が厚くなると、ホースとしての柔軟性を犠牲にする。従って、樹脂層1の膜厚は20μm〜300μm、特に、50μm〜100μmであることが好ましい。
【0049】
上述の樹脂組成物よりなる樹脂層1は、単層構造でも、冷媒輸送用ホースの最内層、或いは最内層としての内側ゴム層6に積層される層として、長期熱老化後の耐インパルス性、等の耐久性に優れ、かつガスバリア性に優れた冷媒輸送用ホースを提供することができるため、このような樹脂組成物を用いた冷媒輸送用ホースであれば、多層構造にするための共押出しが不要で、容易に製造することができる。
【0050】
ただし、本発明の冷媒輸送用ホースにおいて、必ずしも、樹脂層は、
図1及び2に示すような単層構造である必要はなく、ホースの総厚を過度に厚くして、柔軟性を損ない、またコストアップ、重量アップを招くことがない範囲において、
図3及び4に示すように、樹脂層を積層樹脂層1A,1Bとしたものであってもよい。なお、
図3及び4は、
図1における冷媒輸送用ホース10の樹脂層1の代替としての積層樹脂層1A,1Bを示すものであり、その他の構成は同様であり、この積層樹脂層1A,1Bの上に更に、
図1と同様に内層ゴム層2、補強糸層3(3A,3B)、中間ゴム層4及び外被ゴム層5が形成される。
【0051】
図3の積層樹脂層1Aは、内側から、第1の樹脂層1a−1、第2の樹脂層1b、第1の樹脂層1a−2の順で積層された3層の交互積層構造であり、また、
図4の積層樹脂層1Bは、内側から、第1の樹脂層1a、第2の樹脂層1bの順で積層された2層の積層構造である。
【0052】
ここで、第1の樹脂層1a,1a−1,1a−2は、主として耐久性と柔軟性を担う層である。
前記第1の樹脂層の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、樹脂成分として、ポリアミド6(58質量部〜72質量部)と、エラストマー(42質量部〜28質量部)を含み(ただし、ポリアミド6とエラストマーとの合計で100質量部とする)、ポリアミド6の海相内にエラストマーの島相が分散すると共に、このエラストマーの島相内にポリアミド6が散点状に分散した構造のポリアミド6−エラストマー系複合樹脂組成物、などが好ましい。
ここで、ポリアミド6−エラストマー系複合樹脂組成物のポリアミド6が、58質量部未満であると、たとえ上記特定の海島構造のモルフォロジーであっても、ガスバリア性が劣ることがあり、72質量部超であると、たとえ上記特定の海島構造のモルフォロジーであっても、柔軟性に劣ることがある。
【0053】
また、ポリアミド6−エラストマー系複合樹脂組成物が上記特定のポリアミド6−エラストマーの組成範囲であっても、上記特定の海島構造のモルフォロジーを示さない場合には、良好なガスバリア性及び柔軟性を得ることができないおそれがある。ガスバリア性及び柔軟性を向上させるためには、ポリアミド6(海相を構成するポリアミド6とエラストマーの島相内に散点状に存在するポリアミド6相との合計)に対するエラストマーの島相内に散点状に存在するポリアミド6相の割合(以下、その割合を「散点状分散率」と称す)が、2.5質量%〜30質量%程度であることが好ましい。
前記ポリアミド6の散点状分散率が2.5質量%未満であると、エラストマーの島相内にポリアミド6相を散点状に存在させることによる効果を十分に得ることができないことがあり、30質量%超であると、海相としてのポリアミド6相が少なくなり過ぎてガスバリア性が低下することがある。
【0054】
また、エラストマーの島相の大きさ及びこのエラストマー島相内のポリアミド6相の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エラストマー島相の大きさが0.4μm〜1.5μm程度であり、ポリアミド6相の大きさが0.05μm〜0.5μm程度であることが好ましい。
【0055】
前記エラストマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エチレン・ブテン共重合体、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR(エチレン−プロピレン共重合体)、変性EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α−オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体、エチレン−アクリル酸変性体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、それらの酸変性物、及びそれらを主成分とする混合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
前記ポリアミド6−エラストマー系複合樹脂組成物には、必要に応じて、老化防止剤、酸化劣化剤等の添加剤を加えてもよい。
【0057】
なお、前記ポリアミド6−エラストマー系複合樹脂組成物の上記特定の海島構造のモルフォロジーを形成する方法としては、
(1)ポリアミド6とエラストマーとを所定の配合比にして混練りし、マスターバッチを作った後、そのマスターバッチとポリアミド6を混練りする方法、
(2)ポリアミド6及びエラストマーブレンド物を高剪断により溶融混練りする方法、
等がある。
【0058】
第2の樹脂層1bは、ガスバリア性、柔軟性、及び耐久性を担う層であり、本発明の樹脂組成物で構成される。
【0059】
図3に示す3層積層構造の積層樹脂層1Aでは、第1の樹脂層1a−1及び1a−2の膜厚をそれぞれ30μm〜200μmとし、第2の樹脂層1bの膜厚を20μm〜80μmとすることが好ましい。
図4に示す2層積層構造の積層樹脂層1Bでは、第1の樹脂層1aの膜厚を20μm〜80μmとし、第2の樹脂層1bの膜厚を30μm〜200μmとすることが好ましい。
【0060】
前記積層樹脂層としては、上述した
図3における3層積層構造(第1の樹脂層/第2の樹脂層/第1の樹脂層)、
図4における2層積層構造(第1の樹脂層/第2の樹脂層)に限定されるものではなく、他の積層構造(例えば、(i)第2の樹脂層/第1の樹脂層の2層積層構造、(ii)第1の樹脂層/第2の樹脂層/第1の樹脂層/第2の樹脂層の4層積層構造、(iii)第1の樹脂層/第2の樹脂層/第1の樹脂層/第2の樹脂層/第1の樹脂層の5層積層構造、など)であってもよい。
【0061】
このような複層積層構造は、これらの複数の樹脂層を共押し出し成形することにより、容易に一体成形で製造することができ、この場合において、ポリアミドとポリグルコール酸とは比較的なじみの良いものであるため、第1の樹脂層と第2の樹脂層とは、共押し出しにより強固に接着し、層間に別途特別な接着のための処理を行う必要はない。
【0062】
本発明の冷媒輸送用ホースのその他の構成については、特に制限はなく、通常の冷媒輸送用ホースの構成を採用することができる。
【0063】
<内層ゴム層及び外被ゴム層>
内層ゴム層2及び外被ゴム層5を構成するゴムとしては、例えば、ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(C1−IIR)、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、イソブチレン−ブロモパラメチルスチレン共重合体、EPR(エチレン−プロピレン共重合体)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、水素添加NBR、アクリルゴム、これらのゴムの2種以上のブレンド物、これらのゴムを主成分とするポリマーとのブレンド物、などが挙げられる。
これらの中でも、ブチル系ゴム、EPDM系ゴムが好ましい。
また、これらのゴムには、通常用いられる充填剤、加工助剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤等の配合処方を適用できる。
なお、前記内層ゴム層のゴム種と前記外被ゴム層のゴム種は同種のものであっても、異種のものであってもよい。
前記内層ゴム層2の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、柔軟性の点で、0.8mm〜4mm程度が好ましい。
前記外被ゴム層5の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1mm〜2mm程度が好ましい。
【0064】
<中間ゴム層>
また、中間ゴム層4のゴムとしては、前記内層ゴム層及び前記外被ゴム層との接着性が良いゴムである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記中間ゴム層4と2層の補強糸層3A,3Bとの合計の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5mm〜5mm程度が好ましい。
【0065】
<補強糸層>
補強糸層3(3A,3B)に用いられる補強糸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエステル、全芳香族ポリエステル、ナイロン、ビニロン、レーヨン、アラミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート、これらの混撚り糸、などが挙げられる。
【0066】
<内側ゴム層>
必要に応じて最内層に設けられる内側ゴム層6を構成するゴムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、IIR、塩素化IIR、臭素化IIR、CR、NBR、水素添加NBR、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、などが挙げられる。
前記内側ゴム層6の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.3mm〜1.5mm程度が好ましい。
【0067】
上述の冷媒輸送用ホースは、常法に従って、マンドレル上に各構成層の材料を所定の厚みに押し出して積層し、例えば、140℃〜170℃で30分間〜120分間加硫することにより製造することができる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
なお、以下の実施例及び比較例において用いた内層ゴム層、中間ゴム層、及び外被ゴム層のゴム割合を、それぞれ、下記表1〜3に示す。なお、内側ゴム層のゴム割合は、表1に示す内層ゴム層と同じである。
但し、表1〜3において、「IIR」としては、ブチルゴム(商品名:クロロブチル1066、JSR製)を用い、「FEFカーボン」としては、FEFカーボンブラック(商品名:シーストSO、東海カーボン社製)を用い、「アロマオイル」としては、ダイナナプロセスオイルAH−58(出光興産(株)製)を用い、「EPDM」としては、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(商品名:三井ENB-EPT、三井化学製)を用い、「パラフィンオイル」としては、PW−100(出光興産(株)製)を用いた。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
(実施例1〜14及び比較例1〜5)
樹脂層に、下記の材料を用いて、下記の手順で
図1〜
図4に示す構成の冷媒輸送用ホースを製造した。
なお、ポリグリコール酸(PGA)、ポリオレフィン(エラストマー)、及び酸変性ポリオレフィン(変性エラストマー)の重量平均分子量(Mw)は、下記方法により測定した。重量平均分子量は通常のGPC法により測定した。
【0074】
<樹脂層材料>
(1)ポリアミド(PA6):宇部興産社製 6ナイロン「1022B」
(2)ポリアミドMX(MXD6−PA):三菱ガス化学社製 MXナイロン「S6001」
(3)エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH):クラレ製「L−101B」
(4)ポリグリコール酸(PGA):クレハ製「KUREDUX100E35」(Mw:230000)
(5)ポリオレフィン:三井化学社製 α−オレフィンポリマー「タフマーA−1050S」(Mw:170000)
(6)酸変性ポリオレフィン:三井化学社製 マレイン酸変性α−オレフィンポリマー「タフマーMH7010」(Mw:100000)
【0075】
<重量平均分子量(Mw)>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8121GPC/HT、カラム:東ソー製GMHHR−H(S)HT×2本、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、ポリグリコール酸(PGA)、ポリオレフィン、及び酸変性ポリオレフィンのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。なお、測定温度は140℃である。
【0076】
<製造法1:
図1に示す冷媒輸送用ホースの製造>
直径11mmのマンドレル上に、表4又は5に示す樹脂配合で樹脂組成物を押し出して膜厚250μmの樹脂層1を形成した後、表1に示す内層ゴムを厚み1.60mmに押し出した。この上に、1100dtex/4で拠り回数10回/10cmのポリエステル補強糸を22本引き揃えてスパイラル状に巻き付け、この補強糸層上に表2に示す中間ゴムを厚み0.3mmに押し出し、更に、その上に1100dtex/4で拠り回数10回/10cmのポリエステル補強糸を22本引き揃えて、上記と逆方向にスパイラル状に巻き付けた。次いで、この上に表3に示す外被ゴムを厚み1.2mmに押し出し、150℃で45分間加硫して、内径11mm、外径19mmの冷媒輸送用ホースを得た。
【0077】
<製造法2:
図2に示す冷媒輸送用ホースの製造>
図2に示すように、マンドレル上に押し出すことにより、表1に示す内層ゴムと同じゴムを樹脂層1の内側に膜厚1.2mmで形成したこと以外は、上記の製造法1と同様にして冷媒輸送用ホースを製造した。
【0078】
<製造法3:
図3に示す冷媒輸送用ホースの製造>
共押し出しによる樹脂層を
図3に示すように、下記厚さ及び配合の3層構造の積層樹脂層1Aとしたこと以外は、上記の製造法1と同様にして冷媒輸送用ホースを製造した。
第1の樹脂層1a:樹脂配合=比較例1の樹脂層材料、厚さ=150μm
第2の樹脂層1b:樹脂配合=表4又は5に示す各例の樹脂層材料、厚さ=50μm
第1の樹脂層1a−2:樹脂配合=比較例1の樹脂層材料、厚さ=50μm
【0079】
<製造法4:
図4に示す冷媒輸送用ホースの製造>
共押し出しによる樹脂層を
図4に示すように、下記厚さ及び配合の2層構造の積層樹脂層1Bとしたこと以外は、上記の製造法1と同様にして冷媒輸送用ホースを製造した。
第1の樹脂層1a:樹脂配合=比較例1の樹脂層材料、厚さ=150μm
第2の樹脂層1b:樹脂配合=表4又は5に示す各例の樹脂層材料、厚さ=50μm
【0080】
<評価>
得られた冷媒輸送用ホースについて、下記の方法でホース柔軟性、フロンガスバリア性(フロンガス透過性)、耐衝撃耐久性(耐インパルス耐久性)、及び樹脂層押出時外観を調べ、結果を表4又は5に示した。
【0081】
<<ホース柔軟性>>
柔軟性評価用試験装置(テンシロン万能試験機、製造会社名:エーアンドデー社製)を用いて、3点曲げ試験で測定した。ローラー間スパン200mmで中心をロードセルにて500mm/minで押し込み、押し込み荷重を測定した。表4及び5中の数値は、比較例1の値を100とした場合の指数である。この数値が小さいほど柔軟性に優れる。
なお、下記評価基準に基づく評価結果を表4及び5中に併せて示す。
−評価基準−
○:110以下
△:110超120以下
×:120超
【0082】
<<フロンガスバリア性(フロンガス透過性)>>
ホースにフロンガスを所定量充填し、90℃の恒温槽に放置し、24時間毎に減少重量を測定した。表4及び5中の数値は、単位時間当たりの重量減少量が安定した後、ホース1m/1日あたりの漏洩量を測定し、比較例1の漏洩量を100とした場合の指数である。この数値が低いほどフロンガスバリア性に優れる。
なお、下記評価基準に基づく評価結果を表4及び5中に併せて示す。
−評価基準−
○:50以下
△:50超80以下
×:80超
【0083】
<<耐衝撃耐久性(耐インパルス耐久性)>>
繰り返し加圧試験により調べた。0〜140℃、0MPa〜3.3MPa、20CPMの条件で、ホース内面にPAG(ポリアルキレングリコール)オイルにて繰り返し加圧し、ホース等の割れ、気密性の確保を確認した。表4及び5中の数値は、気密性の確保が損なわれるまでの繰り返し数を測定して得られた、比較例1の気密性を100とした場合の指数である。数値が大きいほど耐衝撃耐久性(耐インパルス耐久性)に優れる。
なお、下記評価基準に基づく評価結果を表4及び5中に併せて示す。
−評価基準−
○:90以上
△:80以上90未満
×:80未満
【0084】
<<樹脂層押出時外観>>
単軸押出機にて、樹脂を押出加工した時の押出物の表面外観の状態を目視で観察した。異物や肌荒れなどがあれば「NG」、なければ「OK」として示す。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
表4及び5より、実施例1〜14の樹脂組成物によれば、ホース柔軟性、フロンガスバリア性(フロンガス透過性)、耐衝撃耐久性(耐インパルス耐久性)、及び樹脂層押出時外観に優れた冷媒輸送用ホースが得られることが分かる。
これに対して、ポリアミド/エラストマー複合樹脂層を設けた比較例1では、ホース柔軟性が良好であるが、フロンガスバリア性(フロンガス透過性)が劣る。なお、耐衝撃耐久性(耐インパルス耐久性)は良好である。
また、ポリアミドMXを用いた比較例2では、フロンガスバリア性(フロンガス透過性)が良好であるが、ホース柔軟性が劣る。
また、エチレン・ビニルアルコール共重合体/エラストマー複合樹脂層を設けた比較例3では、ホース柔軟性及びフロンガスバリア性(フロンガス透過性)が良好であるが、耐衝撃耐久性(耐インパルス耐久性)が十分ではない。
また、ポリグリコール酸/エラストマー複合樹脂層を設けたものの、エラストマーの樹脂成分中における含有率が8質量%と低い比較例4は、フロンガスバリア性(フロンガス透過性)が良好であるが、ホース柔軟性及び耐衝撃耐久性(耐インパルス耐久性)が劣る。
また、ポリグリコール酸/エラストマー複合樹脂層を設けたものの、エラストマーの樹脂成分中における含有率が50質量%と高い比較例5は、樹脂層押出時外観が劣る。
なお、実施例10及び11は、酸変性エラストマー(酸変性ポリオレフィン)を多量に配合したために、樹脂層押出時外観が他の実施例に比べてやや劣る。また、実施例6及び7は、酸変性エラストマー(酸変性ポリオレフィン)の配合量が少ないので、エラストマーの樹脂組成物における分散性が低下することで、ホース柔軟性および耐衝撃耐久性(耐インパルス性)が他の実施例に比べてやや劣る。