【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明のろう付品の製造方法のうち第1の本発明は、Si粉末、Zn含有フラックスおよびバインダを含むろう付用塗膜が予め表面に形成され、前記Si粉末の塗布量が1〜5g/m
2、前記Zn含有フラックスの塗布量が3〜20g/m
2、前記バインダの塗布量が0.2〜8.3g/m
2であるアルミニウム合金製のろう付部材
の、少なくとも、乾燥した前記ろう付用塗膜上に、ろう付前に、さらに、K−Al−F系フラックス、Al−F系フラックス、K−Si−F系フラックス、Cs−Al−F系フラックスおよびK−Zn−F系フラックスのうちの1種または2種以上を含む後塗りフラックスを塗布し、前記後塗りフラックスが塗布された前記ろう付部材をろう付することを特徴とする。
【0008】
第2の本発明のろう付品の製造方法は、前記第1の本発明において、前記ろう付品が熱交換器で、前記ろう付部材が熱交換器用のチューブであり、前記ろう付において、前記チューブと熱交換器用のフィンとをろう付けすることを特徴とする。
【0009】
第3の本発明のろう付品の製造方法は、前記第1または第2の本発明において、前記後塗りフラックスが、前記ろう付の7日前から前記ろう付の間に、前記ろう付部材の少なくとも前記ろう付用塗膜上に塗布されることを特徴とする。
第4の本発明のろう付品の製造方法は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記ろう付部材が、保管用容器に収納されて保管されたものであることを特徴とする。
【0010】
本発明は、ろう付の対象を特定するものではないが、チューブをフィンなどとろう付する熱交換器の製造方法として好適に適用することができる。アルミニウム合金製のチューブに対し、フィンのほか、ヘッダーパイプなどがろう付により接合されて熱交換器を得ることができる。
【0011】
ろう付部材は、その形状、成形方法などは特に限定されるものではないが、例えば、熱交換器用として扁平な多穴管状の押出管などを用いることができる。
また、ろう付部材は、アルミニウム合金製であれば特に材料が限定されるものではないが、好ましい合金組成としては、質量%で、Mn:0.05〜1.2%、Si:0.01〜1.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を挙げることができる。
【0012】
また、上記ろう付部材とろう付けされるフィン、ヘッダーパイプなどの相手部材の形状、成形方法、合金組成なども、特に限定されるものではない。
【0013】
上記アルミニウム合金製のろう付部材の表面には、Si粉末、Zn含有フラックス、およびバインダを含むろう付用塗膜が予め形成される。以下、ろう付用塗膜に含まれる各成分について説明する。
【0014】
Si粉末
Si粉末は、ろう付時に溶融してろう液となり、このろう液にフラックス中のZnが均一に拡散してチューブ表面に均一に広がる。ろう液のような液相中でのZnの拡散速度は、固相中でのZnの拡散速度よりも著しく大きいため、チューブ表面のZn濃度がほぼ均一となり、その結果、均一なZn拡散層が形成され、チューブの耐食性を向上することができる。
【0015】
なお、ろう付用塗膜におけるSi粉末の塗布量は1〜5g/m
2とする。これは、Si粉末の塗布量が1g/m
2未満では、ろう材量が不足して十分なろう付強度が得られず、さらにZnの拡散が不十分になり、塗布量が5g/m
2を超えると、チューブ表面でのSi濃度が高くなり、腐食速度が速まるためである。
【0016】
また、Si粉末は、最大粒径が30μm以下であることが好ましい。これは、最大粒径が30μmを超えると溶融したSiによるエロージョン深さが増加するためである。
なお、Si粉末の最大粒径が0.1μm未満であると、Si粉末の凝集が起こり、同様にエロージョン深さが増大する。
【0017】
Zn含有フラックス
Zn含有フラックスとしては、ZnF
2、ZnCl
2、KZnF
3などのZn化合物の単体またはこれらの混合物を例示することができる。また、ろう付用塗膜を構成する材料には、Zn含有フラックス以外にZn非含有フラックスを含んでいても良い。Zn非含有フラックスとしては、LiF、KF,CaF
2、AlF
3、SiF
4などのフッ化物や、前記フッ化物の錯化合物であるKAlF
4、K
2AlF
3・5H
2O、K
3AlF
6の単体またはこれらの混合物を例示することができる。
チューブ表面に予め形成されるろう付用塗膜にZn含有フラックスを含有させることで、ろう付後のチューブ表面にZn拡散層が形成され、このZn拡散層が犠牲陽極層として機能することによりチューブの防食効果を高めることができる。
【0018】
なお、ろう付用塗膜におけるZn含有フラックスの塗布量は3〜20g/m
2とする。これは、Zn含有フラックスの塗布量が3g/m
2未満では、Zn拡散層の形成が不十分となって防食効果が十分に得られず、塗布量が20g/m
2を超えると、チューブと他の部品との接合部であるフィレット部に過剰のZnが集中し、その接合部において腐食速度が速まるためである。なお、同様の理由により、Zn含有フラックスの塗布量は、4〜10g/m
2とすることが好ましい。
【0019】
バインダ
バインダとしては、アクリル系樹脂などを例示することができる。ろう付用塗膜は、Si粉末およびZn含有フラックスとともにバインダを含有することで、チューブに固着することができる。バインダは、通常、ろう付加熱時において、フラックスの活性化前に分解蒸発する。
【0020】
バインダの塗布量は0.2〜8.3g/m
2とする。これは、バインダの塗布量が0.2g/m
2未満では、塗膜の強度や密着性が低下し、熱交換器の組付け工程で塗膜が剥離しろう付不良の原因となることがあり、塗布量が8.3g/m
2を超えると、ろう付加熱時における分解蒸発が不十分となりバインダ残渣が残存しろう付不良の原因となることがあるためである。なお、同様の理由により、バインダの塗布量は、0.5〜5g/m
2とすることが好ましい。
【0021】
本発明では、ろう付を行う前に、さらに、ろう付用塗膜が予め表面に形成されたチューブに、後塗りフラックスを塗布する。後塗りフラックスは、K−Al−F系フラックス、Al−F系フラックス、K−Si−F系フラックス、Cs−Al−F系フラックス、およびK−Zn−F系フラックスのうちの1種または2種以上を含むものである。
【0022】
ここで、K−Al−F系フラックスは、少なくともK、Al、フッ素を構成成分とするフラックスである。具体的には、KAlF
4、K
3AlF
6、K
2AlF
5、K
2AlF
5・5H
2Oなどの単体またはこれらの混合物を例示することができる。
また、Al−F系フラックスは、Kを含まず、少なくともAlとフッ素を構成成分とするフラックスである。具体的には、AlF
3などを例示することができる。
また、K−Si−F系フラックスは、少なくともK、Si、フッ素を構成成分とするフラックスである。具体的には、K
2SiF
6などを例示することができる。
また、Cs−Al−F系フラックスは、少なくともCs、Al、フッ素を構成成分とするフラックスである。具体的には、Cs
1−3AlF
4−6などを例示することができる。
また、K−Zn−F系フラックスとは、少なくともK、Zn、フッ素からなるフラックスである。具体的には、、KZnF
3などを例示することができる。
【0023】
本発明では、ろう付用塗膜が予め表面に形成されたチューブに、上記後塗りフラックスを塗布することにより、良好なろう付け性が得られる。
【0024】
なお、後塗りフラックスの塗布は、好適にはろう付7日前からろう付までの間に行う。ろう付7日前よりも前の時点で後塗りフラックスを塗布したままにすると、後塗りフラックスが経時的に劣化しやすくなる。