(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
(耐力パネル構造)
図1に示されるように、本実施形態の耐力パネル構造10は、既存の鉄骨構造物(鋼構造物)に耐力パネル80を設置してなるものである。耐力パネル構造10は、H形鋼からなる既存梁(上梁)1と、鉄筋コンクリート製の既存基礎(下梁)2と、既存梁1と既存基礎2との間に立設された既存柱3および後設置柱4と、を備える。既存梁1および既存基礎2は、上下の横架材に相当する。既存柱3および後設置柱4は、一対の縦材に相当する。既存柱3と後設置柱4とは、連結材である耐力要素6を介して互いに連結されている。なお、複数の階層を有する建物においては、2階部分に耐力パネル構造10を形成する場合、既存梁1が下梁に相当する。
【0015】
耐力要素6は、互いに対向する既存柱3の側面部3cと後設置柱4の側面部4cとに接合されている。耐力パネル構造10では、上下方向に2つの耐力要素6が並設されている。耐力要素6と既存柱3の側面部3c、および、耐力要素6と後設置柱4の側面部4cは、それぞれ上下2点において接合部構造Aによって接合されている。すなわち、2つの耐力要素6は、合計8箇所の接合部構造Aによって、既存柱3および後設置柱4に接合されている。
【0016】
図2に示されるように、耐力要素6は、極低降伏点鋼からなる鋼材ダンパ6aと、枠体の底辺となる長辺材6bと、二等辺三角形状の斜辺となる斜辺材6c,6dと、斜辺材6c,6dを連結する連結片6fと、連結片6fと長辺材6bとを連結して剛性を高める水平材6eとを有する。鋼材ダンパ6aは、連結片6fに対してボルト接合されており、劣化した際には交換可能になっている。長辺材6bは、溝形鋼からなる。斜辺材6c,6dは、円形鋼管からなる。
【0017】
図1に示されるように、既存柱3の柱本体3aは、角形鋼管からなる柱体である。既存柱3の下端部には柱脚部材8が設けられている。既存柱3は、この柱脚部材8を介して、基礎梁2に対し接合されている。既存柱3の上端部には柱頭部材7が設けられている。既存柱3は、この柱頭部材7を介して、既存梁1に対し接合されている。既存柱3では、既存梁1に作用する鉛直方向の力を基礎梁2に伝達可能になっている。
【0018】
後設置柱4の柱本体4aは、柱本体3aと同様、角形鋼管からなる柱体である。後設置柱4は、柱本体4aと、柱本体4aの下端部に設けられた柱脚部材4bとを有する。すなわち、後設置柱4は、1階の床レベルで分割された2部材から構成されている。柱本体4aは、柱脚部材4bを介して、基礎梁2に対し接合されている。
【0019】
図3に示されるように、柱本体4aの上端部には平板状の上端板16が溶接により固定されており、柱本体4aの下端部には平板状の下端板17が溶接により固定されている。柱本体4aは閉断面を形成している。柱本体4aには、後述するワンサイドボルト20が挿入されるボルト挿通孔15が形成されている。
【0020】
後設置柱4の上端面である上端板16の中央には、円柱形状の突出部材12が上方に突出している。この突出部材12と既存梁1に固定されたジョイントボックス11(
図1参照)とによって、後設置柱4が
既存梁1に対し鉛直ローラー接合されている。これらの突出部材12およびジョイントボックス11を有して、鉛直ローラー接合による梁接合部構造Bが構成されている。すなわち、後設置柱4は、鉛直ローラー柱である。
【0021】
図1に示されるように、梁接合部構造Bでは、後設置柱4の上端部が既存梁1に対し鉛直ローラー接合されることにより、後設置柱4の上端部には、水平方向の力のみが既存梁1から伝達されるようになっている。鉛直方向の力は、後設置柱4に伝達されないようになっている。
【0022】
しかも、本実施形態の梁接合部構造Bでは、水平方向の力を伝達する機能に方向性がない。すなわち、梁接合部構造Bは、既存梁1の延在方向(
図1の左右方向;以下、X方向ともいう)の力、および、既存梁1の延在方向に直交する水平方向(
図1の紙面垂直方向;以下、Y方向ともいう)の力を同様に後設置柱4に伝達可能になっている。このような構造により、耐力パネル構造10のように後設置柱4に1つの耐力パネル80が設置される場合に限られず、既存梁1の延在方向に直交する方向における後設置柱4の側面部にも耐力パネルを設置可能である。
【0023】
(接合部構造)
図4は、柱と耐力要素との接合部の拡大図である。
図4では、既存柱3と耐力要素6との間の接合部構造について図示しているが、後設置柱4と耐力要素6との間の接合部構造も、これと同様である。
図4に示されるように、接合部構造Aは、長辺材6bの端部6baおよび斜辺材6cの端部18が、側面部3cに接合された構造である。
【0024】
接合部構造Aは、長辺材6bの端部6baと、円形鋼管が押し潰されて平坦状になった斜辺材6cの端部18と、長辺材6bおよび斜辺材6cの三方を囲むように配置されたU字形の取付板13と、これらの長辺材6bの端部6ba、斜辺材6cの端部18、および取付板13が接合される側面部3cと、を有する。平坦状になった斜辺材6cの端部18は、溝形鋼管である長辺材6bの端部6baの溝内に配置されている。取付板13は、長辺材6b端部6baに対して溶接されている。
【0025】
さらに、接合部構造Aは、長辺材6bの端部6ba、斜辺材6cの端部18、および取付板13と、側面部3cとを互いに高い強度で接合するため、1本のワンサイドボルト20および複数本のドリルねじ21,22を有する。すなわち、接合部構造Aは、ワンサイドボルト20とドリルねじ21,22とを併用することよって鋼材同士を接合した構造である。
【0026】
側面部3cは、第1の鋼材の板状部を構成している。側面部3cには、その厚さ方向に貫通するボルト挿通孔が形成されている。このボルト挿通孔には、ワンサイドボルト20が挿入される。長辺材6bの端部6ba、斜辺材6cの端部18、および取付板13は、一体化されて第2の鋼材の板状部を構成している。長辺材6bの端部6baおよび斜辺材6cの端部18には、その厚さ方向に貫通するボルト挿通孔が形成されている。このボルト挿通孔には、ワンサイドボルト20が挿入される。なお、斜辺材6cの端部18には、ワンサイドボルト20が挿入される挿通孔を有する補強プレート19が設けられる。
【0027】
図5(a)は、耐力要素6の接合部に設けられる取付板13の一形態を示す正面図、
図5(b)は、取付板の他の形態を示す正面図である。
図5(a)に示されるように、取付板13は、U字板13aと、U字板13aの一方(図示右側)の端部に連設されてU字板13aから垂直に延びる係止片26と、を有する。取付板13のU字板13aは、斜辺材6cの端部18が嵌め込まれる嵌め込みスペース13bを形成する。係止片26は、既存柱3または後設置柱4の一の側面部に取付板(当接部)13が当接する場合に、一の側面部に連設され一の側面部に直交して延びる他の側面部に係止される。係止片26は、耐力要素6の横方向の位置決めをするためのものである。
【0028】
U字板13aには、ドリルねじ21,22を案内する複数のガイド孔23a,23b,24a,24bが形成されている。
図4に示されるように、構造設計上、接合部構造Aには4本のドリルねじ21,22が必要であるが、U字板13aには、8個のガイド孔(すなわち2倍の数のガイド孔)が形成されている。これらのガイド孔の直径は、ドリルねじ21,22の直径よりも小さい。
【0029】
端部側(
図5(a)では上側)のガイド孔23aおよび23bは、先端側に取り付けられるドリルねじ21用のガイド孔である。ガイド孔23aおよび23bは、互いに高さ方向および幅方向の異なる位置に形成されている。すなわち、ガイド孔23aおよび23bは、互いに高さ方向および幅方向においてずれた位置に形成されている。ガイド孔23aおよび23bのいずれか一方に、ドリルねじ21が螺入される。
【0030】
他方の(
図5(a)では下側)のガイド孔24aおよび24bは、水平材6e側に取り付けられるドリルねじ22用のガイド孔である。ガイド孔24aおよび24bは、互いに高さ方向の異なる位置に形成されている。すなわち、ガイド孔24aおよび24bは、互いに高さ方向においてずれた位置に形成されている。ガイド孔24aおよび24bのいずれか一方に、ドリルねじ22が螺入される。
【0031】
図5(b)に示されるように、取付板27は、U字板27aと、U字板27aの一方(図示左側)の端部に連設されてU字板27aから垂直に延びる係止片29と、を有する。取付板27のU字板27aは、斜辺材6cの端部18が嵌め込まれる嵌め込みスペース27bを形成する。係止片29は、既存柱3または後設置柱4の一の側面部に取付板(当接部)13が当接する場合に、一の側面部に連設され一の側面部に直交して延びる他の側面部に係止される。係止片29は、耐力要素6の耐力要素の横方向の位置決めをするためのものである。
【0032】
U字板27aには、ドリルねじ21,22を案内する複数のガイド孔23a,23b,24a,24bが形成されている。
図4に示されるように、構造設計上、接合部構造Aには4本のドリルねじ21,22が必要であるが、U字板27aには、8個のガイド孔(すなわち2倍の数のガイド孔)が形成されている。U字板27aのガイド孔23a,23b,24a,24bは、U字板13aのガイド孔23a,23b,24a,24bと同じ位置に形成されている。
【0033】
係止片29が形成されるU字板27aの一方の端部は、係止片26が形成されるU字板13aの一方の端部よりも長くされている。係止片29が形成されるU字板27aの一方の端部には、係止片29の直上において、切り欠き30が形成されている。この切り欠き30は、係止片26よりも大きく形成されている。同一の既存柱3または後設置柱4において、取付板13と取付板27とが隣接して用いられる際、切り欠き30内には、係止片26が位置することとなる。これにより、取付板13と取付板27との相互の干渉が防止される。
【0034】
なお、取付板としては、上記の取付板13や取付板27の他にも、取付板13および取付板27と左右対称構造の取付板を用いてもよいし、ガイド孔の個数や配置を変更した取付板を用いてもよい。
【0035】
側面部3cに対して長辺材6bの端部6ba、斜辺材6cの端部18、および取付板13を接合する方法について説明する。まず、側面部3cに対して、一体化された長辺材6bの端部6ba、斜辺材6cの端部18、および取付板13を重ね合わせる。さらに、長辺材6bの端部6baおよび斜辺材6cの端部18に形成されたボルト挿通孔に、ワンサイドボルト20を挿入し、所定の方法でワンサイドボルト20を取り付ける。さらに、ガイド孔23aおよび23bのいずれか一方に、ドリルねじ21を突き入れ、取付板13および側面部3cに穿孔させながらドリルねじ21を螺入する。同様にして、ガイド孔24aおよび24bのいずれか一方に、ドリルねじ22が螺入される。を突き入れ、取付板13および側面部3cに穿孔させながらドリルねじ22を螺入する。
【0036】
このようにして形成された接合部構造Aでは、ワンサイドボルト20は主に引張力を負担し、複数のドリルねじ21は主にせん断力を負担する。このようなワンサイドボルト20とドリルねじ21との併用により、接合部構造Aの接合面(側面部3cと斜辺材6cの端部18および取付板13との合わせ面)がスリップしない構造になっている。
【0037】
図6(a)〜(e)は、各接合形態におけるドリルねじの配置関係を示す断面図である。既存柱3は、側面部3cと、側面部3dと、側面部3eと、側面部3fとの4面の側面部を有する。これら3面の側面部のいずれに耐力要素6が接合される場合であっても、各耐力要素6は支障なく接合される。
【0038】
たとえば、
図6(b)に示されるように、側面部3cと、側面部3cに対向する側面部3dに耐力要素6が接合される接合部構造A1の場合、側面部3cにはU字板13aが用いられ、側面部3dにはU字板13aが用いられる。この場合、いずれのU字板13aにおいても、ガイド孔23aにドリルねじ21が螺入され、ガイド孔24aにドリルねじ22が螺入される。
【0039】
また、
図6(c)に示されるように、側面部3cと、側面部3cに隣接する側面部3eに耐力要素6が接合される接合部構造A2の場合、側面部3cにはU字板13aが用いられ、側面部3eにはU字板27aが用いられる。この場合、U字板13aにおいては、ガイド孔23bにドリルねじ21が螺入され、ガイド孔24bにドリルねじ22が螺入される。一方、U字板27aにおいては、ガイド孔23bの斜め上のガイド孔23aにドリルねじ21が螺入され、ガイド孔24bの下のガイド孔24aにドリルねじ22が螺入される。このように、用いるガイド孔を高さ方向で変えることにより、隣接するドリルねじ21,22同士の干渉が避けられる。
【0040】
図6(d)に示されるように、側面部3cと、側面部3cに隣接する側面部3e,3fに耐力要素6が接合される接合部構造A3の場合や、
図6(e)に示されるように、すべての側面部3c,3d,3e,3fに耐力要素6が接合される接合部構造A4の場合であっても、用いるガイド孔を高さ方向で変えることにより、隣接するドリルねじ21,22同士の干渉が避けられる。
【0041】
(梁接合部構造)
図7は、本実施形態の梁接合部構造Bを拡大して示す正面図である。
図8(a)は、ジョイントボックスの正面図、
図8(b)は、ジョイントボックスの平面図、
図8(c)は、ジョイントボックスの底面図である。
図7に示されるように、梁接合部構造Bは、柱本体4aの上端板16の中心から上方に突出する円柱形状の突出部材12と、既存梁1のフランジ部1aに対して固定されたジョイントボックス11と、を有している。突出部材12は、中実であってもよいし、中空であってもよい。
【0042】
図8に示されるように、ジョイントボックス11は、フランジ部1aの下方で水平方向に延在すると共に、突出部材12が嵌入される嵌入孔31aが形成された板状の保持部材31と、保持部材31上に固定されて、嵌入孔31aの直径よりも僅かに大きな内径を有する円筒部材32と、円筒部材32の上端に固定されて、円筒部材32をフランジ部1aに接合する接合板33とを有する。
【0043】
接合板33および保持部材31は、いずれも正方形の外形をなしており、ほぼ等しい大きさを有している。円筒部材32は、保持部材31の嵌入孔31aと同心状に配置される。保持部材31の中心位置は嵌入孔31aの中心位置にほぼ一致している。保持部材31、円筒部材32、および接合板33は、互いに溶接により接合されている。保持部材31は、円筒部材32および接合板33を介してフランジ部1aに対して固定されている。接合板33には、フランジ部1aに対する固定のための4つのボルト孔33aが形成されている。
【0044】
さらに、ジョイントボックス11は、円筒部材32の外周側に立設されると共に保持部材31の上面と接合板33の下面とを連結し、X方向およびY方向(互いに直交する2方向)に沿って配置された4枚の補強板34を有する。ジョイントボックス11の円筒部材32、接合板33、および補強板34は、ジョイントボックス11の剛性を高めている。
【0045】
図7に示されるように、梁接合部構造Bでは、建物の層間変形に応じた既存梁1の上下方向の変位に応じ、嵌入孔31aに突出部材12が嵌入された状態で、突出部材12と保持部材31とが上下方向に互いに摺動するように構成されている。より詳しくは、突出部材12は、建物の層間変形に応じた既存梁1の上下方向の変位に応じ、保持部材31の嵌入孔31aの周縁および円筒部材32の内周面に摺動する。円筒部材32内の円柱状の空間32aは、突出部材12が上下方向に最大のストローク長で摺動した場合であっても、突出部材12の相対移動を許容する程度の長さ(高さ)を有する。すなわち、突出部材12は、接合板33に当接したり、嵌入孔31aから抜けたりすることがないように設計されている。
【0046】
(アンカーボルトの設置方法および耐力パネルの設置方法)
図9は、柱脚部を拡大して示す正面図である。
図10(a)は、柱脚部材4bの正面図、
図10(b)は柱脚部材4bの平面図、
図10(c)は、柱脚部材4bの側面図である。
図8に示されるように、柱本体4aの下端に接合された柱脚部材4bは、既存基礎2の上面2aに設置されて、既存基礎2の立ち上がり部2cに埋設されたアンカーボルト40およびダブルナット41により固定されている。
【0047】
図10に示されるように、柱脚部材4bは、アンカーボルト40が挿通されるボルト挿通孔42aが形成されて既存基礎2の上面2aに固定される底板42と、ボルト孔43aが形成されて柱本体4aの下端に接合される天板43と、底板42と天板43との間を連結する2枚のL字板44と、4枚の補強板47と、を有する。これらの底板42、ボルト孔43a、L字板44、および補強板47は、互いに溶接により接合され、一体化されている。
【0048】
図10に示される柱脚部材4bはあくまで一例を示したものに過ぎず、既存基礎2の配置状態と、それに応じたにアンカーボルトの配置状態に応じて、あらゆるタイプの柱脚部材を用いることができる。
【0049】
次に、
図11および
図12のフローチャートを参照して、アンカーボルトの設置方法および耐力パネルの設置方法について説明する。
【0050】
まず、
図11に示されるように、既存基礎2の立ち上がり部2cにアンカーボルト40を設置する(S1)。ステップS1のアンカーボルト40の設置は、
図12に示されるフローに従って行われる。
【0051】
図12および
図13(a)に示されるように、立ち上がり部2cの上面2aから縦穴51を穿設する(S11)。次に、
図13(a)に示されるように、立ち上がり部2cの側面2bから、縦穴51に向けて、横穴50を穿設する(S12)。このステップS12では、立ち上がり部2cの一方の側面2bから横穴50を穿設し、他方の側面2dには横穴50が貫通しないようにする(
図15(b)参照)。ステップS11およびS12の工程により、立ち上がり部2c内で互いに連通する縦穴51および横穴50がそれぞれ穿設される。縦穴51および横穴50は、いずれも円形断面であって、その中心がほぼ一致している。横穴50の直径は、縦穴51の直径よりも大きい。なお、ステップS11およびS12の工程は、逆の順序であってもよい。
【0052】
次に、立ち上がり部2cの上面2aにプラスチック製のプラグアンカー52(
図13(a)参照)を埋設する(S13)。
【0053】
次に、
図14(a)に示されるように、セットプレート57の水平板部54を用意する。この水平板部54は、X方向に延在する長方形状の鋼材であり、その両端には、アンカーボルト40を挿通させるボルト挿通孔54aが形成されている。また、水平板部54には、立ち上がり部2cの上面2aの厚さ方向(Y方向)の中央線に一致させるためのけがき線(基準線)54cが形成されている。けがき線54c上であって水平板部54のX方向の中心位置には、ビス挿通孔54bが形成されている。縦穴51,51およびプラグアンカー52の配置は、水平板部54におけるボルト挿通孔54a,54aおよびビス挿通孔54bの配置と同じである。
【0054】
そして、
図13(b)に示されるように、上端部のねじ形成部40bに2個のナット(第2のナット)53が螺入されたアンカーボルト40をボルト挿通孔54aに挿通し、ナット53を水平板部54に掛止させることによりアンカーボルト40を垂下させる(S14)。
【0055】
さらに、立ち上がり部2cの上面2aであって縦穴51,51の上端の周縁に、L字状の鋼材である2個の脚部56を載置する。この脚部56は、水平板部54を立ち上がり部2cの上面2aから離隔させる。そして、水平板部54のけがき線54cと上面2aの厚さ方向の中央線とを目視にて概ね一致させつつ、ボルト挿通孔54aが縦穴51の真上に位置するように2個の脚部56上に載置する(S15)。このステップS15により、アンカーボルト40は縦穴51内に挿入され、垂下させられる。これらの水平板部54および脚部56によって、セットプレート57が構成されている。また、セットプレート57およびナット53によって、アンカーボルト保持具58が形成されている。
【0056】
ステップS14およびS15の工程によって、立ち上がり部2c上に設置したアンカーボルト保持具58によってアンカーボルト40の上部を保持するとともに、縦穴51内にアンカーボルト40が垂下させられる。アンカーボルト40が垂下させられた状態で、アンカーボルト40の下端は横穴50内に位置する。なお、ステップS14およびS15の工程は、逆の順序であってもよい。
【0057】
次に、
図13(c)に示されるように、アンカーボルト保持具58のセットプレート57の水平板部54に形成されたビス挿通孔54bにビス59を挿入して、ビス59をプラグアンカー52に螺入し、セットプレート57(アンカーボルト保持具58)を固定する(S16)。
【0058】
次に、定着部材60(
図14(b)参照)を用意する。この定着部材60は、中央にすり鉢状のテーパ孔部61aとテーパ孔部61aの下部に連通するストレート孔部61bとが形成された定着板61と、定着板61の下面に溶接されたナット(第1のナット)62と、を有する。定着板61は正方形状をなしており、その一辺の長さ(最少幅)は横穴50の直径以下である。また、定着板61の対角線の長さ(最大幅)は縦穴51の直径以上である。テーパ孔部61aおよびストレート孔部61bによって、ガイド孔61cが構成されている。
【0059】
そして、
図15(a)に示されるように、横穴50内に垂下したアンカーボルト40の下端部のねじ形成部40aに定着部材60のナット62を螺入し、定着部材60を取り付ける(S17)。このステップS17では、アンカーボルト40を少し持ち上げた状態で、定着部材を横穴50から挿入して、アンカーボルト40の下端部に螺入する。
【0060】
次に、
図15(b)に示されるように、充填材70の注入口63aが形成された横穴50の閉止板63を立ち上がり部2cの側面2bに固定し、横穴50を閉止する。さらに、注入口63aに隙間ができないよう、注入口63aにホース64の先端を挿入し、ホース64の基端には漏斗66を接続する。漏斗66の高さを上面2aよりも上に維持し、漏斗66内に充填材(グラウト)70を注入する。これにより、重力を利用して、ホース64および注入口63aを解して充填材70を横穴50および縦穴51に充填し、充填材70を硬化させる(S18)。
【0061】
そして、
図15(c)に示されるように、充填材70が硬化した後にアンカーボルト保持具58(水平板部54と脚部56とからなるセットプレート57、およびナット53)およびビス59を取り外す(S19)。以上の工程によって、立ち上がり部2cの上面2aから所定の長さ突出したアンカーボルト40が設置される。
【0062】
次に、
図11および
図16(a)に示されるように、アンカーボルト40を介して柱脚部材(後設置柱4の下部部材)4bを既存基礎2に接合する(S2)。このステップS2では、柱脚部材4bに形成されたボルト挿通孔42aにアンカーボルト40の上端部を挿通させ、そのねじ形成部40bにダブルナット41を螺合させることにより、柱脚部材4bを設置する。次に、床パネル9を敷設する。この床パネル9は、柱本体4aを取り付ける際の作業床となる。
【0063】
次に、
図16(b)に示されるように、既存梁2および柱脚部材4bに対し、柱本体(柱の上部部材)4aを鉛直ローラー接合により接合することで後設置柱4を立設する(S3)。より具体的には、柱本体4aの上端から突出した突出部材12を、ジョイントボックス11の嵌入孔31aおよび円筒部材32の空間32a内に嵌入させ、上端板16上にジョイントボックス11を載置した状態で、既存梁1および柱脚部材4bの間に柱本体4aおよびジョイントボックス11を挿入する。さらに、柱本体4aの下端および柱脚部材4bを接合した後、ジョイントボックス11を持ち上げて既存梁1のフランジ部1aに当接させ、ジョイントボックス11をフランジ部1aに接合する。
【0064】
さらに、柱本体4aに対し耐力要素6,6を接合する(S4)。このステップS4では、柱本体4aに対し、耐力要素6,6をワンサイドボルト20(
図4参照)とドリルねじ21とを併用して接合する。上述したように、ワンサイドボルト20を取り付けるとともにドリルねじ21を螺入して、耐力要素6,6を柱本体4aに接合する。
【0065】
以上の工程により、既存梁1、既存基礎2、および既存柱3に対して、後設置柱4および耐力要素6,6からなる耐力パネル80を後設置できる。
【0066】
図17は、接合部構造Aを採用した本実施形態の耐力パネル構造10に係る実施例と、高力ボルトのみを用いた従来の接合部構造に係る比較例とについて、荷重に対する耐力要素の変位を示した図である。
図17に示されるように、実線で示される実施例の接合部構造では、破線で示される比較例の接合部構造に比して、過重の正負が入れ替わる際の変位(スリップ量)が少なかった(変位が30mm付近の挙動を参照)。
【0067】
本実施形態の耐力パネルの設置方法によれば、アンカーボルト40を後設置するため、耐力パネル80の設置の自由度が増し、プラン上あるいは構造設計上、最適な部位を選んで耐力パネル80を設置することができる。たとえば、既存の架構が保有する耐力との関係から、構造設計上、最適な部位への耐力パネル80の配置が可能となる。また、後設置柱4と既存梁1とは、鉛直方向の力を伝達しない鉛直ローラー接合により接合するため、既存基礎2には耐力パネル80による軸力のみが作用することになり、既存基礎2に作用する軸力を低減させることができる。よって、既存基礎2の補強を行うことなく耐力パネル80を後設置することができる。このように、既存の建物に構造的な問題を発生させることなく耐力パネル80を後設置することができる。さらには、外壁の収まりや外観の意匠性に影響を及ぼすことなく、耐力パネル80を後設置することができる。
【0068】
たとえば、2階に既存の耐力パネルが存在する場合、通常の接合であれば、既存基礎に対しては後設置した耐力パネルによる軸力に加え、2階の既存の耐力パネルによる軸力も付加され、既存基礎に大きな軸力が作用する。本実施形態の耐力パネルの設置方法によれば、既存基礎2には耐力パネル80による軸力のみが作用することになり、既存基礎2に作用する軸力を低減させることができる。よって、既存基礎2の補強を行うことなく耐力パネルを後設置できる。
【0069】
また、ワンサイドボルト20とドリルねじ21とを併用するため、接合部におけるスリップが防止され、せん断力が確実に伝達される。よって、後設置する耐力パネル80の性能が最大限発揮される。したがって、後設置すべき耐力パネル80の数を最小限に抑えることができる。
【0070】
また、柱脚部材4bを既存基礎2に取り付け床パネル9を敷設した状態で、柱本体4aを取り付けることができ、床パネル9を柱本体4a取り付け時の作業床として活用できる。よって、施工性の向上が図られる。また、ボルト挿通孔42aの位置が異なる複数パターンの柱脚部材4bを用意することで、アンカーボルト40の設置状態(アンカーボルト40の設置位置における既存基礎2の配置状態)に応じて柱脚部材4bを適宜選択するようにできる。その結果として、大きなボリュームを占める柱本体4aの共通化を図ることができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。たとえば、
図18(b)に示されるように、鉛直ローラー柱である後設置柱4,4同士の間に耐力要素6,6を設置した耐力パネル構造10Bの耐力パネル80Bを設置することもできる。なお、
図18(a)に示される、既存柱3同士の間に耐力要素6,6を後設置した耐力パネル構造10Aの耐力パネル80Aは、本発明の参考形態である。
【0072】
上記実施形態では、ワンサイドボルト20とドリルねじ21とを併用して耐力要素6を接合する場合について説明したが、たとえば、既存柱3や後設置柱4の内部にタッププレートが設けられる場合には、高力ボルト等を用いて耐力要素6を接合することもできる。