(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半径r、長さLの前記各分岐流路を通じて粘度ηの流体が一定時間で流れる流量Qが、前記各分岐流路の両端の圧力勾配をΔPとして下記式で示される関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の多ノズル式スプレーヘッド。
Q={(πr4/8)}・{ΔP/ηL}
【背景技術】
【0002】
一般に、吹き付け塗装の塗着効率(通常50〜60%程度)を向上させるには、スプレーパターンを極力絞って霧化された塗料粒子の被塗装物方向への慣性力を高くする必要があり、その一つの手段として至近距離で塗料を吹き付けることが有効である。すなわち、スプレーノズルを塗装面から数センチメ−トルの距離で移動させながら吹き付け塗装することで、霧化された塗料粒子を高い塗着速度で塗装面へ衝突させることが可能となり、その結果、塗着効率を90%以上確保することが可能となる。
【0003】
一方、スプレー距離が小さい場合(スプレーノズルと塗装面とが近い場合)、塗装面積を確保するにはスプレーノズルの移動速度を極端に高くする必要があり、非実用的である。
一回のスプレーノズル移動操作で吹き付けられるウェット塗膜を適度に薄くするには、スプレーノズルの吐出量を小さくする必要がある。この場合、生産速度を落とさず塗装面積を拡大するために、複数のスプレーノズルを具備した多ノズル式スプレーヘッドを用いることがある(例えば、特許文献1,2参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数のスプレーノズルの噴射流量は、塗装ムラを無くすために均等にする必要があるが、そのために各スプレーノズルに流量調節機器を設置したりすると、多ノズル式スプレーヘッドを含む塗装機の構造が複雑になって大型化及びコストアップを招くという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複数のスプレーノズルを具備した多ノズル式スプレーヘッドにおいて、構造の複雑化を抑えた上で複数のスプレーノズルの噴射流量の均等化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決手段として、本発明は、複数のスプレーノズルと、前記複数のスプレーノズルよりも少数の塗料導入部と、前記塗料導入部から前記複数のスプレーノズルに向けて、何れのスプレーノズルに向かう経路でも相互に同数の二分岐を行い、かつ同段階で二分岐する分岐流路の長さが全て等しく、さらに何れのスプレーノズルに向かう経路も等長となるように設けられる多岐流路と、を備え
、前記多岐流路の各分岐流路の両端の圧力を、前記塗料導入部側から順にPn、Pn−1、Pn−2…としたときに、前記各圧力が下記式で示される関係を満たす
ことを特徴とする多ノズル式スプレーヘッドを提供する。
(Pn−Pn−1)≦1/2(Pn−1−Pn−2)
上記多ノズル式スプレーヘッドはさらに、半径r、長さLの前記各分岐流路を通じて粘度ηの流体が一定時間で流れる流量Qが、前記各分岐流路の両端の圧力勾配をΔPとして下記式で示される関係を満たす構成であってもよい。
Q={(πr4/8)}・{ΔP/ηL}
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数のスプレーノズルを具備する多ノズル式スプレーヘッドにおいて、構造の複雑化を押さえた上で複数のスプレーノズルの噴射流量の均等化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示す多ノズル式スプレーヘッド10は、二流体ノズルとしてのスプレーノズル11を複数(
図1では16個)具備してなる。多ノズル式スプレーヘッド10のヘッド本体15には、各スプレーノズル11の塗料噴射通路に塗料を供給する塗料供給系2と、各スプレーノズル11の霧化エア噴射通路に霧化エアを供給する霧化エア供給系(不図示)とが接続される。
【0011】
各スプレーノズル11は、前記塗料噴射通路の外周に前記霧化エア噴射通路を並列に配置した構成を有する。前記塗料噴射通路の先端開口である塗料噴射口の周囲には、前記霧化エア噴射通路の先端開口である霧化エア噴射口が配置される。各スプレーノズル11はヘッド本体15と一体に設けられる。前記塗料噴射通路、塗料噴射口、霧化エア噴射通路及び霧化エア噴射口はヘッド本体15内に形成される。
【0012】
ヘッド本体15は、塗料供給系2の流路を接続する単一の塗料供給口16を有する。ヘッド本体15内には、塗料供給口16に連なる塗料導入流路21から複数のスプレーノズル11に合わせて分岐して各スプレーノズル11の塗料噴射通路に至る塗料供給多岐流路18が形成される。なお、ヘッド本体15は、前記霧化エア供給系の流路を接続する単一の霧化エア供給口(不図示)を有し、ヘッド本体15内には、前記霧化エア供給口から複数のスプレーノズル11に合わせて分岐して各スプレーノズル11の霧化エア噴射通路に至る霧化エア供給多岐流路(不図示)が形成される。
【0013】
各スプレーノズル11は、塗料供給多岐流路18から前記塗料噴射通路に塗料が供給されると共に、前記霧化エア供給多岐流路から前記霧化エア噴射通路に霧化エア(圧縮空気)が供給されることで、前記塗料噴射口から噴射した塗料を前記霧化エア噴射口から噴射した霧化エアによって霧化して噴霧する。噴霧された塗料粒子は、各スプレーノズル11の噴射方向に例えば円錐状のスプレーパターンを形成しつつ塗装面に吹き付けられる。
【0014】
塗料供給系2は、不図示の塗料タンクから各スプレーノズル11の塗料噴射通路に向けて塗料を送液する。
前記霧化エア供給系は、不図示のコンプレッサから各スプレーノズル11の霧化エア噴射通路に向けて霧化エア(圧縮空気)を供給する。
【0015】
塗料供給多岐流路18は、塗料供給口16を上流端とする単一の塗料導入流路21の下流端から分岐して互いに同一の流路長で延びる一対の一次分岐流路22と、各一次分岐流路22の下流端から分岐して互いに同一の流路長で延びる一対の二次分岐流路23と、各二次分岐流路23の下流端から分岐して互いに同一の流路長で延びる一対の三次分岐流路24と、各三次分岐流路24の下流端から分岐して互いに同一の流路長で延びる一対の四次分岐流路25とを有する。
【0016】
四次分岐流路25は、複数のスプレーノズル11に対応して複数(16個)設けられ、各スプレーノズル11の上流端に接続される。各スプレーノズル11の下流端には、前記塗料噴射口が設けられる。一次〜四次分岐流路22〜25は、それぞれ相互に同等な流路断面積を均等に有する。塗料供給口16及び塗料導入流路21は、スプレーノズル11よりも少数であれば複数存在することも有り得る。この場合、塗料供給多岐流路18が複数設けられてもよい。
【0017】
図2は、本実施形態の比較例としての多ノズル式スプレーヘッド110を示す。この比較例が有する塗料供給多岐流路118は、ヘッド本体15内を塗装面と平行に延びるメインギャラリー122の中央部に塗料導入流路21の下流端を接続すると共に、メインギャラリー122における各スプレーノズル11に対応する部位から四次分岐流路25に相当する複数の分岐流路125を分岐させた構成を有する。この場合、塗料の粘度や流量の僅かな変化でも各スプレーノズル11への塗料供給バランスが崩れ易くなる。
【0018】
すなわち、上記比較例の構成では、何れのスプレーノズル11に向かう経路でも同数かつ単一の分岐で済むが、各スプレーノズル11に向かう経路が等長ではない。このため、各スプレーノズル11の口径や流路長さ、塗料供給多岐流路の分液方法等の構造面に加え、塗料の粘度や流量、さらには各スプレーノズル11やメインギャラリー122の傾き等、様々な要因が絡み合った状態で塗料供給バランスを保っており、僅かな変化でも大きくバランスが崩れてしまう。
【0019】
上述の如く長尺のメインギャラリー122から一度に複数のスプレーノズル11に分液する構成に対し、
図1に示す本実施形態の構成では、単一の塗料導入流路21から複数のスプレーノズル11に向けて、何れのスプレーノズル11に向かう経路でも相互に同数の二分岐を繰り返し、かつ同段階で二分岐する分岐流路の長さが全て等しく、さらに何れのスプレーノズル11に向かう経路も等長となるように設けられることで、他要因を絡めずとも塗料供給バランスを保ち易くなっている。
【0020】
図1中符号P
4は塗料導入流路21の下流端(一次分岐流路22の上流端(分岐位置))における圧力を、符号P
3は各一次分岐流路22の下流端(二次分岐流路23の上流端(分岐位置))における圧力を、符号P
2は各二次分岐流路23の下流端(三次分岐流路24の上流端(分岐位置))における圧力を、符号P
1は各三次分岐流路24の下流端(四次分岐流路25の上流端(分岐位置))における圧力を、符号P
0は各四次分岐流路25の下流端(スプレーノズル11の上流端)における圧力をそれぞれ示す。
【0021】
塗料供給多岐流路18では、塗料が一次〜四次分岐流路22〜25の何れかに二分岐した際の圧力損失(圧力勾配)の値が、その次の段階で塗料が二分岐した際の圧力損失の値の1/2以下となるように、下記数式1に示す関係を満たしている。
【0023】
塗料供給多岐流路18を流れる塗料は、塗料導入流路21から一対の一次分岐流路22に流入する際に1/2の流量に振り分けられる。以下同様に、一次分岐流路22から一対の二次分岐流路23に流入する際に塗料が1/2の流量に振り分けられ、二次分岐流路23から一対の三次分岐流路に流入する際に塗料が1/2の流量に振り分けられ、三次分岐流路から一対の四次分岐流路25に流入する際に塗料が1/2の流量に振り分けられる。
【0024】
塗料供給多岐流路18では、一次〜四次分岐流路22〜25で塗料が段階的に分岐する際に、塗料の圧力も段階的に減少する。一方、複数のスプレーノズル11から少ない誤差で均等に塗料を噴射するためには、塗料噴射口での圧力を所定以上にする必要がある。一次〜四次分岐流路22〜25での圧力損失(圧力勾配)や流量等の関係は、下記数式2に示されるハーゲンボアズイユの式から求められる。なお、数式2では、半径r、長さLの円管を通じて粘性(粘度η)の流体が一定時間で流れる流量Qが、半径rの四乗に比例し、円管両端の圧力勾配ΔPに比例し、円管の長さLに反比例し、粘度ηに反比例することがわかる。
【0026】
前記数式1から、塗料が一次〜四次分岐流路22〜25の何れかに二分岐した際の圧力損失の合計は、前記二分岐前の圧力損失以上となるように設定される。これにより、塗料噴射口での圧力を所定以上にすることが可能となる。
【0027】
実験より吐出量の誤差を確認すると、16個のスプレーノズルを用いて塗料を吐出する際の誤差を小さくするためには、出口での圧力損失を0.003〜0.007MPa程度にする必要があることがわかった。
そこで、特定の粘度の塗料を特定の流量で吐出させる場合において、上記数式2に示す如く圧力損失を考慮してノズル径とノズル長さを決定する。
【0028】
例えば、粘度25mPa・sの流体を700cc/minの流量で16個のスプレーノズル11から均一に吐出させるには、上記数式2より
図5のグラフが作成される。
図5より、誤差15%以下にする場合に、圧力損失が0.005MPa以上必要とすると、ノズル径φ0.7mmの場合にはノズル長さ1.6mm、ノズル径φ0.9mmの場合にはノズル長さ4.4mm、ノズル径φ1.1mmの場合にはノズル長さ9.8mmとなる。
【0029】
同様に、粘度12mPa・sの流体を700cc/minの流量で16個のスプレーノズル11から均一に吐出させるには、上記数式2より
図6のグラフが作成される。
図6より、誤差15%以下にする場合に、圧力損失が0.005MPa以上必要とすると、ノズル径φ0.7mmの場合にはノズル長さ3.3mm、ノズル径φ0.9mmの場合にはノズル長さ9.2mm、ノズル径φ1.1mmの場合にはノズル長さ20.5mmとなる。
【0030】
図3,4に示すように、多ノズル式スプレーヘッド10のヘッド本体15は、塗料供給多岐流路18を形成する本体部31と、複数のスプレーノズル11を形成する蓋部32とに分割される。本体部31及び蓋部32は、例えばボルト締結等により着脱可能に結合される。本体部31における平板状の蓋部32が重なる結合面31aには、塗料供給多岐流路18における一次〜四次分岐流路22〜25が溝状に形成される。これら溝状の一次〜四次分岐流路22〜25が、蓋部32の結合により閉断面を形成して塗料を流通可能とする。塗料導入流路21は本体部31の略中央に穿設される。
【0031】
各スプレーノズル11は、前記塗料噴射通路及び霧化エア噴射通路を並列に有することで所定の外径を要する。一方、スプレーノズル11の数を確保しつつヘッド本体15の小型化を図るために、本実施形態の多ノズル式スプレーヘッド10では、所定ピッチで直線状に並ぶ複数のスプレーノズル11の列32aを並列に一対配置すると共に、各列32a同士をスプレーノズル11の並び方向で半ピッチ程ずらして配置することで、各列32a間の間隔を狭めている。
【0032】
なお、前記比較例のように、一段階で三以上に分岐する分岐流路125では、これらを等長にすることが難しく、仮に等長にしたとしても、図に示すように無駄の少ないノズル配置とすることが難しく、多ノズル式スプレーヘッド10の設計を著しく制約してしまう。
【0033】
以上説明したように、上記実施形態における多ノズル式スプレーヘッド10によれば、単一の塗料導入流路21から複数のスプレーノズル11に向けて、何れのスプレーノズル11に向かう経路でも相互に同数の二分岐を繰り返し、かつ同段階で二分岐する分岐流路の長さが全て等しく、さらに何れのスプレーノズル11に向かう経路も等長となるように設けられる塗料供給多岐流路18を備えると共に、塗料供給多岐流路18の各分岐流路22〜25両端の圧力P
0〜P
4が前記数式1で示される関係を満たし、かつ各分岐流路22〜25を一定時間で流れる流量Qが前記数式2で示される関係を満たすことで、構造の複雑化を抑えた上で複数のスプレーノズル11の噴射流量の均等化を図ることでき、多ノズル式スプレーヘッド10を含む塗装機の大型化及びコストアップを抑制できる。