特許第6013815号(P6013815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013815
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   H01M2/16 L
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-157295(P2012-157295)
(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2014-22093(P2014-22093A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 宏明
(72)【発明者】
【氏名】鍛治 裕夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆久
(72)【発明者】
【氏名】重松 俊広
(72)【発明者】
【氏名】佃 貴裕
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/106793(WO,A1)
【文献】 特開2008−004442(JP,A)
【文献】 特開2012−045815(JP,A)
【文献】 特開2012−003873(JP,A)
【文献】 特開2012−134024(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0229750(US,A1)
【文献】 特開2008−028095(JP,A)
【文献】 特開2010−219335(JP,A)
【文献】 特開2007−067155(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/139727(WO,A1)
【文献】 特開2012−160279(JP,A)
【文献】 特開2001−307708(JP,A)
【文献】 特開2003−178803(JP,A)
【文献】 特開2004−172372(JP,A)
【文献】 特開2008−208511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性繊維を主体とし、フィブリル化繊維を含まない層(A層)と、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を含み、無機顔料が浸透しない層(B層)とを積層してなる不織布基材のA層に、無機顔料を含む塗層が設けられ、該塗層が少なくともA層の厚みの50%以上に亘ってA層内に浸透し、A層の厚みの1/2の深さにおいて、無機顔料/A層を構成する繊維の体積比率が1/4以上であり、A層におけるフィブリル化繊維の量がA層を構成する全繊維中の10質量%以下であり、B層におけるフィブリル化芳香族ポリアミド繊維の量がB層を構成する全繊維中の20質量%以上であることを特徴とするリチウムイオン電池用セパレータ。
【請求項2】
該塗層がA層とB層の界面まで浸透し、A層の厚みの9/10の深さにおいて、無機顔料/A層を構成する繊維の体積比率が1/4以上である請求項1記載のリチウムイオン電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(以下、「電池」と略記する場合がある)には、正負極間の接触を防ぐためのセパレータが用いられている。
【0003】
リチウムイオン電池用セパレータ(以下、「セパレータ」と略記する場合がある)として従来用いられているポリエチレンまたはポリプロピレンからなる多孔性フィルムは、耐熱性が低く、安全上重大な問題を抱えている。すなわち、かかる多孔性フィルムをセパレータとして用いた電池は、内部短絡等の原因により電池内部で局部的な発熱が生じた場合、発熱部位周辺のセパレータが収縮して内部短絡がさらに拡大し、暴走的に発熱して発火・破裂等の重大な事象に至ることがある。
【0004】
かかる問題を解決するため、耐熱性の高い芳香族ポリアミドを複合したセパレータが各種提案されている。例えば、径1μm以下のパラ芳香族ポリアミドのフィブリルが網目状または不織布状に配置された多孔質フィルムを、リチウムイオン電池用セパレータに用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、本技術には、製造に多量の有害な有機溶剤を使用し、その取り扱いが煩雑である問題、また、構造が緻密すぎて、内部抵抗が大きい問題等があった(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミドなどからなる不織布の両面に、メタ芳香族ポリアミドからなる多孔質層を形成せしめたセパレータが提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらにこのセパレータに、特定粒径の無機粒子を含有せしめることも提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし本技術は、製造に多量の有害な有機溶剤を使用し、その取り扱いが煩雑である問題、また、構造が緻密すぎて、内部抵抗が大きい問題等を解決しない。
【0006】
また、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性繊維、芳香族ポリアミド等の耐熱性繊維およびセルロースなどの耐熱性繊維からなる不織布をセパレータに用いることも提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし本技術のセパレータには、電池のサイクル特性が悪いという問題があった。
【0007】
他の技術として、積層された織布または不織布からなる基材に、アルミナ、シリカ、ベーマイト等の絶縁性微粒子を塗布してなるセパレータが提案されている(例えば、特許文献4参照)。かかるセパレータにおいて、とりわけその好ましい実施態様である、絶縁性微粒子の全部または一部が基材の空隙内に存在するセパレータを製造しようとすると、塗工された面と反対面から塗液が滲出する現象(以下、「塗液の裏抜け」と記す場合がある)により塗工装置のロールを汚し、またロールに付着した塗液乾固物がセパレータに再付着して、均一なセパレータが得られない問題があった。
【0008】
さらに、芳香族ポリアミドを含有する不織布基材の表面に絶縁性微粒子を塗工することで、さらに耐熱性の高いセパレータを得ることが提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、芳香族ポリアミドを含有する不織布基材は、塗工液がその内部に浸透し難いために、絶縁性微粒子の全部または一部を基材の空隙内に存在せしめることが困難であり、耐熱性・耐穿孔性の向上度合いに限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−208736号公報
【特許文献2】国際公開第2006/123811号パンフレット
【特許文献3】特開2010−219351号公報
【特許文献4】特開2008−4442号公報
【特許文献5】特開2012−3873号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】厚生労働省労働基準局長通達基発第0614001号(平成17年6月14日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、シートの形成に際し有機溶剤を用いることなく、内部抵抗が低く、かつ耐穿孔性、耐熱性が高く、これを用いた電池の内部抵抗が低く、また、製造に際し、塗液が裏抜けすることのないリチウムイオン電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、熱可塑性繊維を主体とし、フィブリル化繊維を含まない層(A層)と、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を含み、無機顔料が浸透しない層(B層)とを積層してなる不織布基材のA層に、無機顔料を含む塗層が設けられ、該塗層が少なくともA層の厚みの50%以上に亘ってA層内に浸透し、A層の厚みの1/2の深さにおいて、無機顔料/A層を構成する繊維の体積比率が1/4以上であり、A層におけるフィブリル化繊維の量がA層を構成する全繊維中の10質量%以下であり、B層におけるフィブリル化芳香族ポリアミド繊維の量がB層を構成する全繊維中の20質量%以上であるリチウムイオン電池用セパレータを見出した。また、塗層がA層とB層の界面まで浸透し、A層の厚みの9/10の深さにおいて、無機顔料/A層を構成する繊維の体積比率が1/4以上であることが好ましいことを見出した。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用セパレータによって、耐熱性、耐穿孔性が高く、かつこれを用いた電池の内部抵抗が低いセパレータを、塗液の裏抜けにより塗工装置のロールを汚したりすることなく製造することができるという効果が得られる。また、塗層がA層とB層の界面まで浸透してなることで、とりわけ耐熱性・耐穿孔性が高くなる。よって、本発明のセパレータを用いることで、安全性が高く、かつ充放電特性が良好なリチウムイオン電池を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のセパレータは、熱可塑性繊維を主体としてなり、フィブリル化繊維を含まない層(A層)と、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を含む層(B層)が積層されてなる不織布基材のA層に、無機顔料を含む塗層が設けられてなる。
【0015】
A層を主体として構成する熱可塑性繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアクリロニトリル等のアクリル、6,6ナイロン、6ナイロン等のポリアミド等の各種合成繊維を使用することができる。このフィブリル化されていない熱可塑性繊維を「非フィブリル化熱可塑性繊維」と記す場合がある。
【0016】
本発明において、A層が「フィブリル化繊維を含まない」とは、A層がB層に含まれるフィブリル化芳香族ポリアミド繊維や、その他のフィブリル化繊維を含まないか、含んだとしても、その量がA層の内部に無機顔料を含む塗液が浸透することを妨げない程度に少量であることを言う。かかる量は、フィブリル化繊維のフィブリル化の程度にもよるが、多くてもA層を構成する全繊維中の10質量%である。
【0017】
また、本発明においてB層が「フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を含む」とは、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維が、少なくとも塗液中の無機顔料がB層の内部に浸透することが妨げられる程度にB層に含まれることを言う。かかる量は、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維のフィブリル化の程度にもよるが、少なくともB層を構成する全繊維中の20質量%が必要である。好ましくは、B層を構成する全繊維中の30質量%以上がフィブリル化芳香族ポリアミド繊維である。
【0018】
フィブリル化芳香族ポリアミド繊維は、同繊維間、および同繊維と他の繊維間の結合力が低いため、これを主体としてなる不織布には強度が低い欠点がある。そこで、本発明では、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を含む層(B層)を、熱可塑性繊維を主体とし、フィブリル化繊維を含まないA層と積層することで、高い強度を発現せしめている。なお、熱可塑性繊維とフィブリル化芳香族ポリアミド繊維とを混合してなる層からのみなる不織布を用いた場合、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維が熱可塑性繊維間の接着も阻害するため、本発明のセパレータと比較すると、強度面で劣る。
【0019】
本発明のセパレータは、無機顔料を含む塗層がA層に設けられており、少なくともA層の厚みの50%以上に亘ってA層内に浸透してなることを特徴とする。A層は無機顔料の粒子が浸透可能な繊維間の空隙を有するため、得られた塗層は、A層を構成する熱可塑性繊維間の空隙に、無機顔料が存在してなる層になる。これにより、耐熱性や耐穿孔性が、不織布基材の耐熱性や耐穿孔性と比較して大幅に改善される。また、塗層の全部または大部分がA層と混在してなる場合、得られるセパレータの厚みは不織布基材のそれと大差ないものになり、よって、薄いセパレータを製造することが可能になる。とりわけ高い耐熱性や耐穿孔性を得るためには、A層厚みの全体に亘って無機顔料が分布していることが好ましい。言い換えれば、A層とB層の界面まで塗層が浸透してなることが好ましい。
【0020】
本発明において、「無機顔料が少なくともA層の厚みの50%以上に亘ってA層内に浸透してなる」とは、A層の厚みの1/2の深さにおいて、無機顔料/A層を構成する繊維の体積比率が、1/4以上であることを言う。また、本発明において、「A層とB層の界面まで塗液が浸透している」とは、A層の厚みの9/10の深さにおいて、無機顔料/A層を構成する繊維の体積比率が、1/4以上であることを言う。この体積比率は、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と略記する場合がある)を用いて、セパレータの対象深さを線形に走査した場合に、「無機顔料と同定される部分の長さ」/「不織布基材中の繊維(以下、「基材繊維」と略記する場合がある)と同定される部分の長さ」で算出することができる。無機顔料または基材繊維において、他方が含まない特有の元素または両者が共通に含むが、その含有率が大きく異なる元素がある場合には、エネルギー分散X線分光装置(以下、「EDS」と略記する場合がある)で材料の同定を行うことができる。
【0021】
本発明の不織布基材において、A層が薄すぎると、製造されるセパレータの強度が不十分になることがある。また、A層が厚すぎると、内部抵抗が大きくなりすぎることがある。A層の空隙率が低すぎると、内部抵抗が大きくなりすぎることや、塗層の浸透が不十分となり、非常に高い耐熱性や耐穿孔性が得られないことがある。また、A層の空隙率が高すぎると、製造されるセパレータの強度が不十分になることがある。これらの観点から、本発明において、不織布基材のA層の厚みは5μm〜25μmであることが好ましく、塗工前のA層の空隙率は、30%〜90%であることが好ましい。なお、空隙率は、「(坪量/繊維密度)/厚み」で定義される値である。
【0022】
本発明の不織布基材において、B層が薄すぎると、塗液の裏抜けが生じることがある。また、B層が厚すぎると、内部抵抗が大きくなりすぎることがある。B層の空隙率が低すぎると、内部抵抗が大きくなりすぎることがある。また、B層の空隙率が高すぎると、塗液の裏抜けが生じることがある。これらの観点から、本発明において、不織布基材のB層の厚みは5μm〜15μmであることが好ましく、塗工前のB層の空隙率は20%〜70%であることが好ましい。
【0023】
本発明の不織布基材のA層とB層を合計した厚みが薄すぎると、製造されるセパレータの強度が不十分になることがある。また当該合計の厚みが厚すぎると、内部抵抗が大きくなりすぎることがある。この観点から、本発明の不織布基材のA層とB層を合計した厚みは15μm〜35μmであることが好ましい。
【0024】
通常、無機顔料の粒子が浸透可能な不織布基材を用いてセパレータを製造する場合、塗液の裏抜けは避けられない。しかし、本発明における不織布基材は、無機顔料が浸透しないB層を有するため、塗液の裏抜けが発生することがない。よって、本発明のセパレータの製造においては、塗液の裏抜けによる塗工装置ロール汚れは生じず、よって均一な品質のセパレータを得ることができる。なお、この効果を得るために、塗液はB層に全く浸透してはならないという訳ではなく、裏抜けしない程度の少量の塗液がB層に浸透することは、本発明の効果に大きな影響を及ぼさない。
【0025】
無機顔料を含む塗層をB層に設けた場合は、繊維間の間隙が微細で、無機顔料が内部に浸透できないため、得られた塗層は、B層とは独立した別個の層を形成する。かかる構造をとる場合、A層に塗層を設けた場合に繊維と無機顔料が混在することによって得られる上記作用は発現しないことから、本発明のセパレータと比較すると、耐熱性・耐穿孔性が劣り、また、セパレータの厚みも厚くなる。
【0026】
本発明において、塗層に含まれる無機顔料としては、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ等のアルミナ、ベーマイト等のアルミナ水和物、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等を用いることができる。これらの中でも、リチウムイオン電池に用いられる電解質に対する安定性が高い点で、α−アルミナまたはアルミナ水和物が好ましく用いられる。
【0027】
本発明において、塗層に含まれるバインダーとしては、各種の有機ポリマーを用いることができる。その例としては、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー、アクリロニトリル−ブタジエン共重合エラストマー、(メタ)アクリル酸エステル重合体エラストマー、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル重合体エラストマー、フッ化ビニリデン重合体等の各種有機ポリマーが使用可能である。
【0028】
本発明において、不織布基材の製法としては、次のような態様が例示される。一つの態様としては、熱可塑性繊維を主体とする繊維スラリーから湿式抄造によりA層を形成し、芳香族ポリアミド繊維を含む繊維スラリーから湿式抄造によりB層を形成し、両層を湿潤状態のまま積層した後、熱処理により両層を一体化する方法が挙げられる。他の態様としては、芳香族ポリアミド繊維を含む繊維スラリーから湿式抄造によりB層を形成し、この表面に、スパンボンド法、メルトブローン法等の乾式法や静電紡糸法によりA層を積層する方法が挙げられる。これらのうち、A層、B層を共に、薄くて緻密な構造の不織布基材が得られる湿式抄造により形成し、熱処理により一体化する方法が、薄くて表面が平坦な不織布基材が得られる点で、好ましく用いられる。各層の繊維間を接合する方法としては、ケミカルボンド法、熱融着法等の各種方法によることができる。これらの中で、熱融着法によれば、表面が平滑な基材不織布が得られることから好ましい。熱処理により両層を一体化すると同時に各層の繊維間を熱融着法により接合してもよい。
【0029】
本発明のセパレータの製造において、塗層を不織布基材に設けるために、塗液を不織布基材に塗工する方法では、各種の塗工装置を用いることができる。かかる塗工装置としては、グラビアコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ロールコーター、キスタッチコーター等の各種コーターを用いることができる。
【0030】
本発明の塗層を形成せしめるのに用いる塗液には、前記無機顔料およびバインダーの他に、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の各種分散剤、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンオキサイド等の各種増粘剤、各種の濡れ剤、防腐剤、消泡剤等の各種添加剤を、必要に応じ配合せしめることもできる。本発明に用いられる不織布基材は塗液の受理性が高いため、有機溶剤を使用した塗液ほどの表面張力の低さ等は特段求められず、水系の塗液を何ら問題なく用いることができることも、本発明技術の優れた特徴である。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例において%および部は、断りのない限り全て質量基準である。また塗工量は絶乾塗工量である。
【0032】
<A層抄造用繊維スラリーの調成>
繊度0.1dtex(平均繊維径3.0μm)、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)系短繊維50質量部と繊度0.2dtex(平均繊維径4.3μm)、繊維長3mmの単一成分型バインダー用PET系短繊維(軟化点120℃、融点230℃)50質量部とをパルパーにより水中に分散し、濃度0.5質量%の均一なA層抄造用繊維スラリーを調成した。
【0033】
<B層抄造用繊維スラリーの調成>
繊度0.1dtex(平均繊維径3.0μm)、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)系短繊維10質量部と繊度0.2dtex(平均繊維径4.3μm)、繊維長3mmの単一成分型バインダー用PET系短繊維(軟化点120℃、融点230℃)40質量部と、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維(テイジンアラミドBV製、トワロン(登録商標)パルプ)50質量部をパルパーにより水中に分散し、濃度0.5質量%の均一なB層抄造用繊維スラリーを調成した。
【0034】
<不織布基材Iの作製>
上記A層抄造用繊維スラリーを円網で、B層抄造用繊維スラリーを傾斜ワイヤーでそれぞれ抄造し、両層を湿潤状態のまま積層後、表面温度140℃のシリンダードライヤーによって乾燥した。得られたシートを、片方のロールがクロムメッキされた鋼製ロール、他方のロールが硬度ショアーA92の樹脂ロール、鋼製ロールの表面温度が185℃、線圧が200kN/mの熱カレンダー装置により、カレンダー処理し、A層坪量が8g/m、B層坪量が6g/m、厚み20μmの不織布基材Iを作製した。
【0035】
<不織布基材II〜IVの作製>
使用した繊維スラリーの組み合わせおよび各層の坪量を、それぞれ表1のように変更した以外は、不織布基材Iと同様にして、不織布基材II〜IVを作製した。
【0036】
【表1】
【0037】
<塗液1の作製>
体積平均粒子径0.9μm、比表面積5.5m/gのベーマイト100部を、その1質量%水溶液の25℃における粘度が200mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.3%水溶液120部に混合して十分撹拌し、市販のリチウムイオン電池用スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー(JSR株式会社製、商品名:TRD2001)(固形分濃度48%)10部を混合、撹拌して塗液1を調製した。
【0038】
<塗液2の作製>
体積平均粒子径0.9μm、比表面積5.5m/gのベーマイト100部を、その1質量%水溶液の25℃における粘度が200mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.3%水溶液120部に混合して十分撹拌し、次いで、その1質量%水溶液の25℃における粘度が7000mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.5%水溶液300部、市販のリチウムイオン電池用SBR系バインダー(JSR株式会社製、商品名:TRD2001)(固形分濃度48%)10部を混合、攪拌して塗液2を調製した。塗液2は、高粘度のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩が添加されており、粘度が高いため、塗液1と比較して不織布基材中に浸透しにくい液である。
【0039】
<塗液3の作製>
体積平均粒子径0.9μm、比表面積5.5m/gのベーマイト100部を、その1質量%水溶液の25℃における粘度が200mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.3%水溶液120部に混合して十分撹拌し、次いで、その1質量%水溶液の25℃における粘度が7000mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩1.0%水溶液300部、市販のリチウムイオン電池用SBR系バインダー(JSR株式会社製、商品名:TRD2001)(固形分濃度48%)10部を混合、撹拌して塗液3を調製した。塗液3は、高粘度のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩が塗液2よりもさらに多量に添加されており、塗液2と比較してもさらに基材中に浸透しにくい液である。
【0040】
<セパレータIの作製>
前記不織布基材Iの、円網抄紙機を用いA層抄造用繊維スラリーから抄造された面上に、塗液1を、キスリバース方式のグラビアコーターにて絶乾塗工量が12g/mとなるように塗工・乾燥した。
【0041】
<セパレータII〜Xの作製>
用いた不織布基材、各面に塗工した塗液の種類・塗工量を表2のように変更した以外は、セパレータIと同様にして、セパレータII〜Xを作製した。表2には、得られた各セパレータの厚み、およびSEMおよびEDSを用いて前記の方法により判別した、「A層厚みの50%およびA層とB層の界面まで塗層が浸透しているか否か」を記す。厚みは、マイクロメータ(ミツトヨ製、MDC−25SB)により測定された値である。
【0042】
【表2】
【0043】
<電池の作製>
上で作製した各セパレータ、正極にマンガン酸リチウム、負極にメソカーボンマイクロビーズ、電解液にヘキサフルオロリン酸リチウムの1mol/L炭酸ジエチル/炭酸エチレン(容量比7/3)混合溶媒溶液を用いた設計容量30mAhの評価用電池を作製し、下記の内部抵抗評価に供した。
【0044】
<内部抵抗の評価>
作製した各電池について、60mA定電流充電→4.2V定電圧充電(1時間)→60mAで定電流放電→2.8Vになったら次のサイクルのシーケンスにて、5サイクルの慣らし充放電を行った後、60mA定電流充電→4.2V定電圧充電(1時間)→6mAで30分間定電流放電(放電量3mAh)→放電終了直前の電圧を測定(電圧a)→60mA定電流充電→4.2V定電圧充電(1時間)→90mAで2分間定電流放電(放電量3mAh)→放電終了直前の電圧(電圧b)を測定、を行い、内部抵抗Ω=(電圧a−電圧b)/(90mA−6mA)の式で内部抵抗を求めた。結果を表2に記す。
【0045】
○:内部抵抗4Ω未満
△:内部抵抗4Ω以上5Ω未満
×:内部抵抗5Ω以上
【0046】
<耐穿孔性の評価>
直径40mmの真ちゅう製円筒電極、50mm角に切り出したセパレータ、直径0.3mm・長さ5mmの銅線、直径25mmの真ちゅう製円筒電極をこの順で重ね、両電極に2.5Vの電圧を加えながら、荷重装置により徐々に荷重した。両電極間に10μAの電流が流れた時点をもって、セパレータが穿孔したものとした。結果を表2に記す。
○:穿孔時の荷重2000N以上
△:穿孔時の荷重1000N以上2000N未満
×:穿孔時の荷重1000N未満
【0047】
<耐熱性の評価>
直径40mmの真ちゅう製円筒電極、導電性シリコンゴムからなる45mm角の弾性電極、略中心の表裏間に直径0.10mm、長さ5mmの銅線を貫通させた50mm角のセパレータ、導電性シリコンゴムからなる45mm角の弾性電極、直径25mmの真ちゅう製円筒電極をこの順で重ね、初期電流が0.5Aになる電圧を加えながら、100Nの荷重を加えた。セパレータの耐熱性が低いと、銅線で発生するジュール熱によりセパレータが収縮し、銅線が貫通している孔が拡大して両弾性電極が接触し、過大な電流が流れる。電極間に流れる電流の増加度合いによりセパレータの耐熱性を判定した。試験時間は30分とし、30分以内に10Aの電流が流れた場合はその時点で試験を中止した。結果を表2に記す。
【0048】
○:30分経過しても1A未満の電流しか流れない。
△:30分経過後に1A以上10A未満の電流が流れていた。
×:30分以内に10Aの電流が流れた。
【0049】
セパレータI〜VとセパレータVI〜Xを比較して分かるように、リチウムイオン電池用セパレータが熱可塑性繊維を主体とし、フィブリル化繊維を含まない層(A層)と、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を含む層(B層)とを積層してなる不織布基材のA層に、無機顔料を含む塗層が設けられ、該塗層が少なくともA層の厚みの50%以上に亘ってA層内に浸透してなることにより、厚みが薄く、内部抵抗が低く、耐穿孔性が高く、耐熱性も高いセパレータを製造できる。とりわけ、無機顔料がA層とB層の界面まで浸透してなるセパレータI〜IIIは、耐穿孔性、耐熱性において、より良好である。
【0050】
これに対し、フィブリル化繊維を含まない層(A層)と、フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を含む層(B層)を積層してなる不織布基材を用いていても、塗装をB層側に設けてなるセパレータVII、VIIIや、塗層がA層の厚みの50%にまで浸透していないセパレータVIの耐穿孔性・耐熱性の少なくともいずれか一方は、本発明のセパレータと比較して劣る。また、熱可塑性繊維を主体とし、フィブリル化繊維を含まないA層のみを積層した不織布基材を用いたセパレータIXは、本発明のセパレータと比較して、内部抵抗が高く、また、塗液の裏抜けにより良好な面質が得られない。フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を含むB層のみを積層した不織布基材を用いたセパレータXは、本発明のセパレータと比較して、耐穿孔性が良好でない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、安全性が高く、かつ内部抵抗・サイクル特性が良好なリチウムイオン電池用セパレータの製造に用いることができる。