(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関の高出力化のために過給機を採用することが広く行われている。しかしながら、単純に過給機を採用すると、過給により気筒内の筒内最高圧力が増大し、内燃機関本体の機械的強度に悪影響を及ぼす場合がある。また、過給圧力が気筒の排気圧力より高くなるとEGRが効かなくなり燃費が悪化するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、過給による筒内最高圧力の増大を抑えながらEGRを有効にできる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、複数の気筒を有する内燃機関であって、気筒の吸引空気の過給を行う過給機と、気筒の吸気バルブのバルブタイミングを制御する吸気バルブ制御手段と、気筒の排気ガスを吸気側に再循環させるためのEGR通路と、
気筒の排気圧力が過給機の過給圧力より大きくなるように、気筒の排気圧力又は過給機の過給圧力を制御する圧力制御手段と、を備え、吸気バルブ制御手段は、
過給機の過給を行わない場合と比べて、ミラーサイクルの圧縮行程で気筒内のガスの体積に対する気筒内の圧力が低くなり、ミラーサイクルの膨張行程で気筒内のガスの体積に対する気筒内の圧力が高くなり、圧縮行程から膨張行程にかけて過給機の過給による気筒の筒内最高圧力の増大を抑えるように、
過給機の過給を行った場合における吸気バルブのバルブタイミングを制御することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る内燃機関によれば、過給機による過給を行いつつ、吸気バルブのバルブタイミングの制御によって気筒の筒内最高圧力の増大を抑制するので、過給による高出力化を図りながら、筒内最高圧力の増大による内燃機関本体の機械的強度への影響を抑えることができる。また、この内燃機関によれば、過給圧力と気筒の排気圧力との差圧がなくなるとEGRが効かなくなることから、圧力制御手段によって排気圧力が過給圧力を上回るように制御することで、EGRを有効にすることができる。従って、この内燃機関によれば、過給による高出力化を図りながら、筒内最高圧力の増大による内燃機関本体の機械的強度への影響を抑えて長寿命化を実現し、更にはEGRの有効性を確保することで燃費向上を図ることができる。
【0008】
本発明に係る内燃機関において、過給機は、可変ノズルターボチャージャーであり、圧力制御手段は、
ミラーサイクルの排気行程で気筒の排気圧力が過給機の過給圧力より大きくなるように過給機のノズルを変化させてもよい。
この内燃機関によれば、可変ノズルターボチャージャーのノズルを変更して気筒の排気圧力が過給機の過給圧力より大きくすることで、過給による高出力化を図りながらEGRを有効にすることができる。
【0009】
本発明に係る内燃機関において、気筒の排気通路に設けられた排気ブレーキバルブを更に備え、圧力制御手段は、
ミラーサイクルの排気行程で気筒の排気圧力が過給機の過給圧力より大きくなるように排気ブレーキバルブを制御してもよい。
この内燃機関によれば、排気ブレーキバルブを制御して気筒の排気圧力(排気通路内の圧力)を増大させることにより、気筒の排気圧力を過給機の過給圧力より十分に大きくすることで、過給による高出力化を図りながらEGRを有効にすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過給による筒内最高圧力の増大を抑えながらEGRを有効にできる内燃機関を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1に示す本実施形態のエンジン(内燃機関)1は、車両の動力源として使用され、複数の気筒2を有するディーゼルエンジンである。気筒2には、吸気バルブ3及び排気バルブ4が設けられている。このエンジン1は、いわゆるミラーサイクルエンジンであり、吸気バルブ3を下死点よりも早く又は遅く閉じることにより気筒2内の圧縮比を膨張比よりも小さく維持し、ノッキングの発生を抑えながら高い熱効率を得ることができる。
【0014】
エンジン1は、二段過給システムを構成する低圧段ターボチャージャー(過給機)5及び高圧段ターボチャージャー(過給機)6と、EGR通路7と、吸排気バルブ制御部(吸気バルブ制御手段)8と、排気ブレーキバルブ9と、ECU(圧力制御手段)[Engine Control Unit]10と、を備えている。
【0015】
低圧段ターボチャージャー5は、吸気通路11の入口側に配置された低圧段コンプレッサ5Aと排気通路12の出口側に配置された低圧段タービン5Bから構成される。低圧段ターボチャージャー5では、低圧段タービン5Bが排気ガスの排気エネルギーにより回転されることで、低圧段コンプレッサ5Aが駆動して吸気通路11内の空気圧縮すなわち過給が行われる。
【0016】
高圧段ターボチャージャー6は、高圧段コンプレッサ6A及び高圧段タービン6Bから構成される。高圧段コンプレッサ6Aは吸気通路11において低圧段コンプレッサ5Aより下流に配置され、高圧段タービン6Bは排気通路12において低圧段タービン5Bより上流に配置されている。
【0017】
この高圧段ターボチャージャー6においても、高圧段タービン6Bが排気ガスの排気エネルギーにより回転されることで、高圧段コンプレッサ6Aが駆動して吸気通路11内の過給が行われる。
【0018】
高圧段ターボチャージャー6は、低圧段ターボチャージャー5と比べて容量の小さいものが用いられる。言い換えると、低圧段ターボチャージャー5は、高圧段ターボチャージャー6と比べて容量の大きいものが用いられる。これは、高圧段ターボチャージャー6において排気エネルギーが一度回収され、膨張した排気ガスを低圧段ターボチャージャー5で扱うためである。
【0019】
吸気通路11を流れる空気は、低圧段コンプレッサ5A、高圧段コンプレッサ6Aの順に圧縮されてエンジン1本体の気筒2内に供給される。なお、吸気通路11には、低圧段コンプレッサ5Aによる圧縮で温度上昇した空気を冷却するためのインタークーラ13と、高圧段コンプレッサ6Aによる圧縮で温度上昇した空気を冷やすためのアフタークーラ14が設けられている。インタークーラ13については、必ずしも設ける必要はない。
【0020】
低圧段ターボチャージャー5及び高圧段ターボチャージャー6は、可変ノズルターボチャージャーであり、タービン側に複数の可変ベーンを有している。低圧段ターボチャージャー5及び高圧段ターボチャージャー6は、複数の可変ベーンから構成される可変ノズルの開度を変えることで排気ガスの流量を制御し、過給効率を変更する。
【0021】
EGR通路7は、排気通路12内の排気ガスの一部を吸気通路11に戻すことで再循環させるための通路である。EGR通路7の途中には、通過する排気ガスの流量を制御するためのEGRバルブ15と、排気ガスを冷却するためのEGRクーラー16が設けられている。
【0022】
EGR通路7は、気筒2の下流側で排気ブレーキバルブ9の上流側の排気通路12と、気筒2の上流側でアフタークーラ14の下流側の吸気通路11と、を接続しており、いわゆるハイプレッシャーEGRシステムを構成している。なお、EGR通路7の接続場所は上述した場所に限られない。
【0023】
吸排気バルブ制御部8は、吸気バルブ3及び排気バルブ4のバルブタイミング及びリフト量を制御する。吸排気バルブ制御部8は、エンジン1の可変バルブ機構を駆動させることにより、吸気バルブ3及び排気バルブ4のバルブタイミング及びリフト量を変更する。可変バルブ機構の構成は特に限定されず、バルブタイミング及びリフト量を変更できるものであればよい。可変バルブ機構は、例えば油圧や電動モータ等によってカムシャフトの回転角位相を変更することでバルブタイミング等を変更する。
【0024】
排気ブレーキバルブ9は、排気通路12に設けられており、排気圧力を高めることでて制動力を発生させるためのバルブである。排気ブレーキバルブ9は、高圧段タービン6Bの手前(上流側)に配置されている。排気ブレーキバルブ9は、開度を小さくして排気通路12の流量を制限することにより排気通路12内の圧力を高め、エンジン1のポンピングロスを増大させることで制動力を発生させる。
【0025】
ECU10は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]などからなる電子制御ユニットである。ECU10では、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、CPUで実行することでエンジン制御に関する処理が行われる。
【0026】
ECU10は、低圧段ターボチャージャー5、高圧段ターボチャージャー6、吸排気バルブ制御部8、排気ブレーキバルブ9、及びEGRバルブ15と接続されている。また、ECU10は、過給圧センサ17及び排気圧センサ18と接続されている。
【0027】
過給圧センサ17は、高圧段コンプレッサ6Aの直後(下流側)の吸気通路11に設けられた圧力センサである。過給圧センサ17は、二段過給後の吸引空気の圧力(過給圧力)Ptを検出する。排気圧センサ18は、気筒2と排気ブレーキバルブ9の間の排気通路12に設けられ圧力センサである。排気圧センサ18は、排気通路12内の排気ガスの圧力(排気圧力)Peを検出する。
【0028】
ECU10は、過給圧センサ17の検出した過給圧力Pt及び排気圧センサ18の検出した排気圧力Peに基づいて、低圧段ターボチャージャー5、高圧段ターボチャージャー6、吸排気バルブ制御部8、排気ブレーキバルブ9、及びEGRバルブ15を制御する。
【0029】
ECU10は、過給による高出力化を図りつつも、気筒2の筒内最高圧力Pmaxの増大を抑え、且つ、EGRが有効となるように、吸気バルブ3のバルブタイミング制御及び圧力制御(過給圧力や排気圧力の制御)を行う。ECU10は、特許請求の範囲に記載の圧力制御手段として機能する。
【0030】
ここで、
図2は、本実施形態のミラーサイクルを説明するlogP−logV線図である。
図2の縦軸は気筒2内の圧力Pの対数logPを示し、横軸は気筒2内のガスの体積Vの対数logVを示している。
図2に、過給を行わない場合のlogP−logV線図(破線)と、過給及びバルブタイミング制御を行った場合のlogP−logV線図(実線)を示す。
【0031】
まず、過給を行わない場合(破線)について説明する。
図2に示されるように、気筒2では、空気を吸引する吸気行程(m1)の後、ピストンにより空気を圧縮する圧縮行程(m2)を経て気筒内の圧力Pが筒内最高圧力Pmaxとなる。その後、噴射燃料の燃焼により膨張行程(m3)が行われ、排気ガスを排気する排気行程(m4)を経て、再び吸気行程(m1)に戻る。
【0032】
次に、過給及びバルブタイミング制御を行った場合(実線)について説明する。この場合には、吸気行程(M1)において、ターボチャージャー5,6により過給圧力Ptで吸引空気が気筒2内に供給され、続いて圧縮行程(M2)に入る。ここで、ECU10は、気筒2の筒内最高圧力Pmaxが過給を行わない場合(破線)と同等になるように、吸排気バルブ制御部8を制御する。吸排気バルブ制御部8は、過給による筒内最高圧力Pmaxの増大を抑えるように、吸気バルブ3の閉弁時期を早めるか又は遅らせる制御を行う。
【0033】
その後、膨張行程(M3)を経て排気行程(M4)が行われる。ここで、ECU10は、過給圧センサ17及び排気圧センサ18の検出結果に基づいて、排気行程(M4)における排気ガスの排気圧力Peが過給圧力Ptより大きいか否かを判定する。なお、EGRを適切に効かせるためには、ある程度の差圧が必要なことを考慮して排気圧力Peから過給圧力Ptを引いた差分が、所定値(正の所定値)以上であることを判定条件としてもよい。
【0034】
ECU10は、排気圧力Peが過給圧力Ptより大きくないと判定した場合(Pe≦Ptの場合)、排気圧力Peが過給圧力Ptより大きくなるように、過給圧力Pt又は排気圧力Peを制御する圧力制御を行う。その後、再び吸気行程(M1)へ戻る。
【0035】
次に、
図3を参照して、エンジン1のECU10による制御の流れについて説明する。
図3は、ECU10による制御の流れを示すフローチャートである。
【0036】
図3に示されるように、ECU10では、ステップS1として、過給圧センサ17による過給圧力Ptの検出及び排気圧センサ18による排気圧力Peの検出が行われる。
【0037】
次に、ステップS2として、ECU10は、検出した過給圧力Ptに基づいて、吸排気バルブ制御部8に制御信号を送信する。吸排気バルブ制御部8は、ECU10からの制御信号に応じて吸気バルブ3のバルブタイミング制御を行う。バルブタイミング制御では、過給に起因する筒内最高圧力Pmaxの増大を抑えるように、吸気バルブ3の閉弁時期が変更される。
【0038】
続いて、ステップS3として、ECU10は、排気圧力Peが過給圧力Ptより大きいか否かを判定する。ECU10は、排気圧力Peが過給圧力Ptより大きいと判定した場合(Pe>Ptの場合)、EGRは有効であると判断して処理を終了する。一方、ECU10は、排気圧力Peが過給圧力Ptより大きくないと判定した場合(Pe≦Ptの場合)、ステップS4に移行する。
【0039】
ステップS4において、ECU10は、EGRを有効にするための圧力制御を行う。ECU10は、圧力制御として、ターボチャージャー5,6及び排気ブレーキバルブ9を制御することにより、排気圧力Peを過給圧力Ptより大きくする。
【0040】
具体的には、ECU10は、ターボチャージャー5,6の可変ノズルの開度を変更することにより、排気ガスの流量制御による排気圧力Peの変化と、過給効率の変更による過給圧力Ptの変化をコントロールして、排気圧力Peを過給圧力Ptより大きくする。また、ECU10は、排気ブレーキバルブ9の開度を小さくすることにより、排気通路12内の排気圧力Peを増大させる。このようにして、ECU10は、排気圧力Peが過給圧力Ptより大きくなるように圧力を制御する。
【0041】
なお、ECU10は、圧力制御として、常にターボチャージャー5,6及び排気ブレーキバルブ9の全てを制御する必要はない。ECU10は、ターボチャージャー5,6のみを用いて圧力制御を行ってもよく、排気ブレーキバルブ9のみを用いて圧力制御を行ってもよい。また、ECU10は、低圧段ターボチャージャー5及び高圧段ターボチャージャー6のうち何れか一方のみを用いて圧力制御してもよい。更に、ECU10は、エンジン1の運転状態や車両の走行状態等の条件に基づいて、圧力制御における制御対象や制御対象の個数を変更してもよい。
【0042】
また、圧力制御では、EGRを十分に機能させるため、排気圧力Peが過給圧力Ptより所定圧力以上に大きくなるように制御してもよい。所定圧力には、EGRを機能させる十分な差圧を得るために適切な値が設定される。
【0043】
圧力制御を実行してEGRの有効性を確保した後、ECU10は、処理を終了して再びステップS1から繰り返す。なお、
図3では、バルブタイミング制御と圧力制御を一つのフローで説明したが、これらの制御は独立した別々のフローとして実行してもよい。
【0044】
以上説明した本実施形態に係るエンジン1によれば、ターボチャージャー5,6によって気筒2への吸引空気を過給しつつ、吸気バルブ3のバルブタイミングの制御によって気筒2の筒内最高圧力Pmaxの増大を抑制するので、過給による高出力化を図りながら、筒内最高圧力Pmaxの増大によるエンジン本体の機械的強度への影響を抑えることができる。
【0045】
また、このエンジン1によれば、過給圧力Ptと排気圧力Peの差圧がなくなるとEGRが効かなくなることから、排気圧力Peが過給圧力Ptを十分に上回るように制御することで、EGRを有効にすることができる。従って、このエンジン1によれば、過給による高出力化を図りながら、筒内最高圧力Pmaxの増大によるエンジン本体の機械的強度への影響を抑えて長寿命化を実現し、更にはEGRの有効性を確保することで燃費向上を図ることができる。
【0046】
更に、このエンジン1によれば、ターボチャージャー5,6として可変ノズルターボチャージャーを採用し、これらのノズル開度を変更して排気圧力Peを過給圧力Ptより大きくすることで、過給による高出力化を図りながらEGRを有効にすることができる。
【0047】
また、このエンジン1によれば、排気ブレーキバルブ9を制御して気筒2の排気圧力Peを増大させることにより、排気圧力Peを過給圧力Ptより十分に大きくすることで、過給による高出力化を図りながらEGRを有効にすることができる。
【0048】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、エンジン1は必ずしも二段過給システムを備える必要はなく、一段の過給システムであってもよい。また、圧力制御の手法は上述したものに限られない。