(54)【発明の名称】ホスホリパーゼD、ポリヌクレオチド、ホスホリパーゼDの製造方法、コリン型プラズマローゲンの測定方法、リゾホスファチジルコリンの測定方法、リゾホスファチジン酸の製造方法
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2012年9月25日 公益社団法人日本生物工学会発行の「創立90周年記念 第64回日本生物工学会大会講演要旨集 第126頁(3Cp13)」に発表
【文献】
Han, X. et al.,Datebase GenBank[online], Accession No.EJJ03704.1, <http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/EJJ03704.1>,2012年 7月23日,Definition: phospholipase [Streptomyces auratus ARG0001]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ホスホリパーゼDであって、前記ホスホリパーゼDは、コリン型プラズマローゲン及びリゾリン脂質の3位リン酸エステルを加水分解してコリンを遊離させる作用を有し、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリペプチドを含み、コリン型プラズマローゲンを基質とした場合に、トリトンX−100(濃度0%)の非存在下、pH5.6で65℃にて5分間の条件での加水分解活性を100%としたときに、前記条件での加水分解活性(相対活性)が、リゾホスファチジルコリン(LPC)に対して80%以下、ホスファチジルコリン(PC)に対して70%以下、コリン型リゾプラズマローゲン(LPLS−PC)に対して15%以下、スフィンゴミエリン(SM)に対して10%以下、グリセロール−3−ホスホコリン(GPC)に対して1%以下であり、トリトンX−100(濃度0.1%)の存在下、pH5.6で65℃にて5分間の条件での加水分解活性を100%としたときに、前記条件での加水分解活性が、リゾホスファチジルコリンに対して5%以下、ホスファチジルコリンに対して60%以下、コリン型リゾプラズマローゲン、スフィンゴミエリン及びグリセロール−3−ホスホコリンに対して2%以下である基質特異性を有する、ホスホリパーゼD:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記加水分解作用を示すポリペプチド;又は
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有し、かつ前記加水分解作用を示すポリペプチド。
リゾホスファチジルコリンを基質とした場合に、pH5.6で37℃にて5分間の条件での加水分解活性を100%としたときに、pH4.4からpH7.2の範囲内で50%以上の加水分解活性を示す、請求項1に記載のホスホリパーゼD。
リゾホスファチジルコリンを基質とした場合に、pH5.6で65℃にて5分間の条件での加水分解活性を100%としたときに、37℃から80℃の範囲内で50%以上の加水分解活性を示す、請求項1又は2に記載のホスホリパーゼD。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[酵素]
本明細書において、酵素とは、精製酵素に限定されず、粗精製物、固定化物なども含む。酵素の精製は、例えば、微生物の培養液を用いて、硫安沈澱、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなどの、当業者に周知の方法を用いて行われる。それにより、種々の精製度の酵素(ほぼ単一までに精製された酵素を含む)が得られ得る。
【0028】
本明細書において、微生物とは、野性株、変異株(例えば、紫外線照射などにより誘導されたもの)、細胞融合又は遺伝子組換え法などの遺伝子工学的手法により誘導される組換え体などのいずれの株であってもよい。組換え体などの遺伝子操作された微生物は、例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,第2版(Sambrook,J.ら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載されるような、当業者に公知な技術を用いて容易に作成され得る。微生物の培養液とは、微生物菌体を含む培養液、及び遠心分離などにより微生物菌体を除いた培養液の両方を意味する。
【0029】
[ホスホリパーゼD(PLD)](EC3.1.4.4)
本発明に係るホスホリパーゼDは、リン脂質及びその加水分解物であるリゾリン脂質のリン酸ジエステル結合のうちグリセロール骨格とは反対側の結合を切断して、ホスファチジン酸とアルコール(コリンなど)を生成する酵素である。特に本発明に係るホスホリパーゼDは、コリン型プラズマローゲン及びリゾリン脂質の3位リン酸ジエステルを加水分解してコリンを遊離させる作用を有するものである。
【0030】
すなわち、本発明に係るホスホリパーゼDは、基質としてコリン型プラズマローゲン又はリゾホスファチジルコリン(Lysophosphatidylcholine、LPC)を用いる場合、以下の反応式で示す加水分解反応を触媒する。
【0031】
【化1】
上記のように、本発明に係るホスホリパーゼDは、コリン型プラズマローゲンを加水分解して、アルケニルエーテル脂質(化合物1)とコリンとを生成させる。
【0032】
また本発明に係るホスホリパーゼDは、リゾホスファチジルコリン(Lysophosphatidylcholine、LPC)を加水分解して、リゾホスファチジン酸(Lysophosphatidic acid、LPA)とコリンとを生成させる。
【0033】
本発明に係るホスホリパーゼDは、従来のホスホリパーゼDとは異なった次のような特有の基質特異性を有する。すなわち、コリン型プラズマローゲン(PLS−PC)を基質とした場合に、トリトンX−100(濃度0%)の非存在下、pH5.6で65℃にて5分間の条件での加水分解活性を100%としたときに、前記条件での加水分解活性(相対活性)が、リゾホスファチジルコリン(LPC)に対して80%以下、ホスファチジルコリン(PC)に対して70%以下、コリン型リゾプラズマローゲン(LPLS−PC)に対して15%以下、スフィンゴミエリン(SM)に対して10%以下、グリセロール−3−ホスホコリン(GPC)に対して1%以下である。またトリトンX−100(濃度0.1%)の存在下、pH5.6で65℃にて5分間の条件での加水分解活性を100%としたときに、前記条件での加水分解活性(相対活性)が、リゾホスファチジルコリン(LPC)に対して5%以下、ホスファチジルコリン(PC)に対して60%以下、コリン型リゾプラズマローゲン(LPLS−PC)、スフィンゴミエリン(SM)及びグリセロール−3−ホスホコリン(GPC)に対して2%以下である。なお、PCの一例はPOPCである。
【0034】
本発明に係るホスホリパーゼDは、コリン型プラズマローゲン及びリゾリン脂質の3位リン酸エステルを加水分解してコリンを遊離させる作用を有し、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリペプチドを含むものである。
【0035】
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ前記加水分解作用を示すポリペプチド;又は
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも
95%の
同一性を有し、かつ前記加水分解作用を示すポリペプチド。
【0036】
本発明に係るホスホリパーゼDは、例えば、コリン型プラズマローゲン又はリゾリン脂質との反応条件下においては、約10〜90℃(好ましくは25〜90℃)の範囲内で作用し得る。至適温度は、この範囲内にあり得る。好ましくは約35〜80℃の範囲内であり、より好ましくは50〜70℃の範囲内であり、さらにより好ましくは約65℃である。
【0037】
本発明に係るホスホリパーゼDは、例えば、リゾホスファチジルコリンを基質とした場合に、pH5.6で65℃にて5分間の条件での加水分解活性を100%としたときに、37℃から80℃(より好ましくは37℃から75℃)の範囲内で50%以上の加水分解活性(相対活性)を示すことが好ましい。
【0038】
本発明に係るホスホリパーゼDは、基質であるコリン型プラズマローゲン又はリゾリン脂質に作用させる場合、例えば、緩衝液として酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)を用い、65℃の温度の反応条件下におくと、酵素活性が最大に近くなる。緩衝液としては、MES、Bis−Tris、Tris、Glycine−NaOH、HEPESなども使用することができる。
【0039】
本発明に係るホスホリパーゼDは、例えば、リゾホスファチジルコリンを基質とした場合に、pH5.6で37℃にて5分間の条件での加水分解活性を100%としたときに、pH4.4からpH7.2の範囲内で50%以上の加水分解活性を示すことが好ましい。至適pHは、pH5からpH6付近とすることができる。
【0040】
本発明に係るホスホリパーゼDは、電気泳動条件などにより若干変化し得るが、SDS−PAGEにおける分子量が50,000〜60,000(Da)の範囲内を示すことが好ましい。例えば、ストレプトマイセス属由来の天然の酵素では、SDS−PAGEにおける分子量が約54kDaを示すものが得られている。
【0041】
本発明に係るホスホリパーゼDの一態様は、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるものである。なお、配列番号2に記載のアミノ酸配列のN末端の1位から30位までの配列はシグナル配列であると考えられる。
【0042】
本発明に係るホスホリパーゼDは、PLD活性を有する限り、配列番号2に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号2に記載内のアミノ酸配列に対して、1個若しくは複数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を有する酵素であってもよい。当業者であれば、例えば、部位特異的変異導入法(NucleicAcid Res.,1982年,10巻,pp.6487;Methods in Enzymol.,1983年,100巻,pp.448;Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,ColdSpring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY.1989年;PCR:A Practical Approach,IRL Press,1991年,pp.200)などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、及び/又は付加変異を導入することにより、タンパク質の構造を改変することができる。本明細書において、置換、欠失、挿入、及び/又は付加することができるアミノ酸残基数は、通常50以下、例えば30以下、20以下、好ましくは16以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは0〜3である。また、アミノ酸の変異は、人工的に変異させた酵素のみならず、自然界において変異した酵素も、PLD活性を有する限り、上記の酵素(PLD)に含まれる。
【0043】
配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド(タンパク質)も、PLD活性を有する限り、上記の酵素(PLD)に含まれる。PLDは
、配列番号2に記載のアミノ酸配列と、少なくとも
95%
、好ましくは少なくとも98%
、より好ましくは少なくとも99%の
同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。
【0044】
タンパク質の相同性の(ホモロジー)検索は、例えばSWISS−PROT、PIR、DADなどのタンパク質のアミノ酸配列に関するデータベース、DDBJ、EMBL、GenBankなどのDNAデータベースなどを対象に、BLAST、FASTAなどのプログラムを利用して、例えば、インターネットを通じて行うことができる。タンパク質の活性の確認は、上記に記載の手順を利用して行い得る。
【0045】
PLDの供給源は特に限定されるものではないが、PLDは、微生物などの生体細胞から得ることができる。そのような微生物としては、例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物が挙げられる。好ましくはストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)が挙げられる。また、近縁の菌株、例えば、ストレプトマイセス・チャッタノゲンシス(Streptomyces chattanoogensis)及びストレプトマイセス・リディカス(Streptomyces lydicus)なども、PLD活性を有する酵素が得られる可能性がある。これらの菌株は近縁であることから同種の活性のPLDが得られやすいものと考えられる。
【0046】
例えば、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)NA684(受託番号:NITE BP−1015)は適当な栄養培地で液体培養することにより、上記の酵素を菌体外に分泌するので、その培養上清を凍結乾燥、塩析、有機溶媒などにより処理したものをPLD酵素製剤として製造することができる。
【0047】
PLD酵素製剤の製造に用い得る微生物はストレプトマイセス・エスピー(Streptomycessp.)NA684に限られるものではなく、ストレプトマイセス属に属し、かつ、PLDを生産し得る微生物であってもよい。また、それらの生物種の天然又は人為的変異株や、PLD活性の発現に必要な遺伝子断片を人為的に取り出し、それを組み入れた他の生物種であってもPLDの製造に用いることができる。また、ストレプトマイセス属に属さなくても、上記のPLDを生産し得る微生物であれば、それを用いることもできる。さらにメタゲノム解析によって得られた遺伝子や全合成された遺伝子であっても、上記PLD活性を有し、90%以上の配列
同一性を示せば、当業者に周知の手法で遺伝子を組換え、PLDの生産に利用できる。
【0048】
ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)NA684を用いたPLD酵素製剤を例に挙げて、その製造について説明する。
【0049】
この菌は栄養培地で液体培養することにより、上記の酵素を菌体外に分泌するので、その培養上清を凍結乾燥、塩析、有機溶媒などにより処理したり、又はこの処理物を固定化したりするなどして酵素製剤を製造することができる。さらに具体的に説明すると、まず、この菌を適当な培地、例えば適当な炭素源、窒素源、無機塩類を含む培地中で培養し、上記の酵素を分泌させる。ここで炭素源としては、澱粉、澱粉加水分解物、グルコース、シュークロースなどの糖類、グリセロールなどのアルコール類、有機酸(例えば、酢酸やクエン酸等)又はその塩(例えば、ナトリウム塩)などが挙げられる。窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー、大豆粉などの有機窒素源、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素などの無機窒素化合物が挙げられる。無機塩類としては、塩化ナトリウム、リン酸1カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガン、塩化カルシウム、硫酸第一鉄などが挙げられる。炭素源の濃度は、例えば1〜20%(w/v)、好ましくは1〜10%(w/v)の範囲である。窒素源の濃度は、例えば1〜20%(w/v)、好ましくは1〜10%(w/v)の範囲である。培養温度は、上記の酵素が安定であり、そして培養される微生物が十分に生育できる温度であることが好ましく、例えば、20〜37℃であることが好ましい。培養時間は、上記酵素が十分に生産される時間であることが好ましく、例えば、1〜7日間程度であることが好ましい。培養は、好ましくは、好気的な条件下で、例えば、通気攪拌又は振とうしながら行うことができる。
【0050】
PLDは、タンパク質の溶解度による分画(有機溶媒による沈殿や硫安などによる塩析など);陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィー;キレート、色素、抗体などを用いたアフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適当に組み合わせることにより精製することができる。例えば、上記微生物の培養上清を回収した後、硫安沈殿、さらに陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、及び/又は、陽イオン交換クロマトグラフィーを行うことにより精製することができる。これにより、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)において、ほぼ単一バンドにまで精製することができる。すなわち、上記酵素(PLD)は、HPLC分析及びゲル濾過クロマトグラフィー分析により、単量体と推定できる。
【0051】
本発明に係るPLDは、トリトンX−100の非存在下ではリゾホスファチジルコリンに作用し、トリトンX−100の存在下ではリゾホスファチジルコリンには作用しないという性質を有する。この性質を利用して、コリン型プラズマローゲンを選択的に測定することが可能である。しかもこの酵素は、取り扱いやすい微生物から効率よく得ることができる。さらに、上記性質を利用すればリゾホスファチジン酸を安価に製造することもできる。
【0052】
このように、本発明に係るPLDは、コリン型プラズマローゲン及びリゾリン脂質(例えばリゾホスファチジルコリン)に対して加水分解作用を有する基質特異性の高い新規な酵素である。またこのPLDは、リゾホスファチジルコリンの分析に利用することができるだけではなく、特に0.1%以上の濃度のトリトンX−100の存在下ではリゾホスファチジルコリンに対する活性が著しく抑制されるため、リン脂質の混合試料中のコリン型プラズマローゲンの分析も効率よく行うことができる。さらに、コリン型プラズマローゲン及びリゾリン脂質の分解反応を産業的に利用することもできる。
【0053】
[PLDをコードするポリヌクレオチド]
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記のPLDをコードするものである。このポリヌクレオチドは、好ましくは、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む。
(a)配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(b)配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
(c)配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチド。
【0054】
上記のポリヌクレオチドは、DNA、RNAなどの天然のポリヌクレオチドに加え、人工的なヌクレオチド誘導体を含む人工的な分子であり得る。また、ポリヌクレオチドは、DNA−RNAのキメラ分子であり得る。上記のPLDをコードするポリヌクレオチドは、例えば、配列番号1の1位から1617位までの塩基配列(塩基数1617bp)を有する。配列番号1に記載の塩基配列は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードすることができ、このアミノ酸配列を含むタンパク質は、PLDの好ましい形態を構成する。なお、配列番号1の1位から3位までのttgは開始コドン(レアコドン)として翻訳されていると推定される。
【0055】
上記のPLDをコードするポリヌクレオチドとしては、上記のような配列番号2に記載のアミノ酸配列に1個若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸を含み、かつPLD活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドもまた挙げられる。当業者であれば、配列番号1に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドに部位特異的変異導入法(上述)などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、及び/又は付加変異を導入することによりポリヌクレオチドのホモログを得ることが可能である。
【0056】
ポリヌクレオチドは、本明細書中に記載した塩基配列情報に基づいて、目的とする遺伝子を、上記の微生物、好ましくはストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物、さらに好ましくはストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)NA684から取得することができる。遺伝子の取得には、PCRやハイブリダイズスクリーニングを用いることができる。
【0057】
また、ポリヌクレオチドは、DNA合成によって遺伝子の全長を化学的に合成して得ることもできる。また、上記の塩基配列情報に基づいて、上記以外の生物に由来する上記PLDをコードするポリヌクレオチドを取得することもできる。例えば、上記塩基配列又はその一部の塩基配列を用いてプローブを設計し、他の生物から調製したDNAに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行うことにより、種々の生物由来のPLA1をコードするポリヌクレオチドを単離することができる。
【0058】
さらに、上記の塩基配列情報に基づいて、DNA Databank of Japan(DDBJ)、EMBL、GenBankなどのDNAに関するデータベースに登録されている配列情報を用いてホモロジーの高い領域からPCR用のプライマーを設計することもできる。このようなプライマーを用い、染色体DNA又はcDNAを鋳型としてPCRを行うことにより、上記PLDをコードするポリヌクレオチドを種々の生物から単離することもできる。同様に、環境中から抽出したDNA又はRNAを鋳型としてPCRを行うことにより、上記PLDをコードするポリヌクレオチドを種々の生物から単離することもできる。
【0059】
ストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドとは、配列番号1に記載の塩基配列中の少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば、40個、60個、又は100個の連続した配列を1つ又は複数選択してプローブを設計し、例えばECL directnucleic acid labeling and detection system(GE Healthcare社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(例えば、洗浄条件:42℃、0.5×SSCを含むprimary wash buffer)において、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。より具体的には、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されるものではない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度など複数の要素があり、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0060】
さらに、上記のPLDをコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号2に記載のアミノ酸配列と少なくとも
95%
、好ましくは少なくとも98%
、より好ましくは少なくとも99%の
同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつPLD活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。タンパク質の相同性(ホモロジー)検索は、上記で説明したとおりである。
【0061】
また、上記のPLDをコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号1に記載の塩基配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、なおより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する塩基配列を有し、かつPLD活性を有するタンパク質をコードする、ポリヌクレオチドもまた挙げられる。塩基配列の配列同一性の決定及び検索についても、上記で説明したとおりである。
【0062】
上記のPLDをコードするポリヌクレオチドは、遺伝子組換え技術を用いて、同種又は異種の宿主中で発現され得る。
【0063】
[ホスホリパーゼDの製造方法]
本発明では、コリン型プラズマローゲン及びリゾリン脂質(例えばリゾホスファチジルコリン)に対して加水分解作用を有する酵素を製造する方法が提供される。酵素の製造方法においては、上記で説明したポリヌクレオチドを有する微生物から上記の酵素を産生させる工程を含んでいる。本発明による方法では、上記で説明したPLDが得られる。上記のポリヌクレオチドを有する微生物は、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)のように微生物自体が天然に有するものであってもよく、あるいは、変異してポリヌクレオチドを有するものであってもよく、あるいは、ポリヌクレオチドが導入されて有するものであってもよい。
【0064】
ポリヌクレオチドの導入においては、ベクター、形質転換体などが利用され得る。このベクターは、上記のポリヌクレオチドを含むものである。また、ポリヌクレオチド又はベクターを宿主に導入することにより、コリン型プラズマローゲン及びリゾリン脂質に対して加水分解作用を有する能力を保有する形質転換体を作製することができる。
【0065】
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:ALaboratory Manual第2版、Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY,1989年参照)。特に放線菌に関しては、「PRACTICAL STREPTOMYCES GENETICS(Kieserら、John Innes Foundation、2000年)」を参照して行うことができる。
【0066】
微生物中で、PLDをコードするポリヌクレオチドを発現させるためには、まず微生物中で安定に存在するプラスミドベクターやファージベクターにこのDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる。そのために、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターをDNA鎖の5’側上流に組み込むことが好ましい。また、転写・翻訳を制御するユニットにあたるターミネーターをDNA鎖の3’側下流に組み込むことが好ましい。より好ましくは、上記プロモーターとターミネーターの両方をそれぞれの部位に組み込む。このプロモーターおよびターミネーターとしては、宿主として利用される微生物中において機能することが知られているプロモーターおよびターミネーターが用いられる。これらの各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターなどに関しては、「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版」、特に放線菌に関しては、「PRACTICAL STREPTOMYCES GENETICS(Kieserら、JohnInnes Foundation、2000年)」などに詳細に記述されており、その方法を利用することが可能である。また、必要に応じてシグナル配列を用いることで細胞外に効率的に分泌生産させることができる。この時使用するシグナル配列は上記のPLDのものでもその他のものでもよい。
【0067】
形質転換の対象となる宿主は、上記のPLDをコードするポリヌクレオチドを含むベクターにより形質転換されて、PLD活性を発現することができる生物であれば特に制限はない。例えば、細菌、放線菌、枯草菌、大腸菌、酵母、カビなどが挙げられる。より具体的には、例えば、エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属など宿主ベクター系の開発がされている細菌;ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属など宿主ベクター系の開発がされている放線菌;サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クライベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属などの宿主ベクター系の開発がされている酵母;ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属などの宿主ベクター系の開発がされているカビなどが挙げられる。遺伝子組換えの操作の容易性からは大腸菌が好ましく、遺伝子の発現の容易性からは放線菌が好ましい。
【0068】
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、例えば、蚕などの昆虫(Nature315,592−594(1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種蛋白質を発現させる系が開発されており、これらを利用してもよい。
【0069】
得られた形質転換体は、上記のように酵素製剤(PLD)の製造に用いることができる。具体的には、形質転換体を適当な栄養培地で液体培養して、発現したPLDを細胞外に分泌させ、その培養上清を凍結乾燥、塩析、有機溶媒などにより処理してPLD酵素製剤を製造することができる。
【0070】
宿主細胞に依存して培養条件は変動し得るが、培養は、同業者が通常用いる条件下で行われ得る。例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces)属のような放線菌を宿主として用いる場合、チオストレプトンを含むトリプチックソイ培地(例えば、ベクトン・ディッキンソン社製)が用いられ得る。形質転換体により産生された酵素は、上述のようにしてさらに精製され得る。
【0071】
[PLDの利用]
以上のようにして生産され得るPLDは、コリン型プラズマローゲン及びリゾリン脂質(例えばリゾホスファチジルコリン)と特異的に反応する酵素である。そのため、コリン型プラズマローゲン及びリゾリン脂質の分析に用いることができ、簡易比色定量などを行うことができる。例えば、血清中などに存在するコリン型プラズマローゲン及びリゾリン脂質を正確に定量することが可能になる。また、育毛成分としての利用が期待できるリゾホスファチジン酸を安価に製造することもできる。
【0072】
また本発明に係るPLDを用いると、次のような(1)〜(3)の手順でコリン型プラズマローゲンとPCとリゾホスファチジルコリンとを選択的に測定することが可能となる。
【0073】
(1)コリン型プラズマローゲン、PC、リゾホスファチジルコリンなどを含む混合溶液を、コリン型プラズマローゲンには作用しないホスホリパーゼA1(PLA1)、ホスホリパーゼA2(PLA2)、ホスホリパーゼB(PLB)で処理する。
【0074】
(2)コリン型プラズマローゲンはそのまま残存する。PCはリゾホスファチジルコリン又はグリセロール−3−ホスホコリンに変換される。リゾホスファチジルコリンはそのまま残存するか、グリセロール−3−ホスホコリンに変換される。
【0075】
(3)コリン型プラズマローゲンのみが残存する場合、本発明に係るPLDにより定量することが可能である。コリン型プラズマローゲンとリゾホスファチジルコリンとが共存する場合、トリトンX−100(特に濃度0.1%以上)の存在下で酵素反応を行えば、コリン型プラズマローゲンのみを定量することが可能である。
【0076】
さらに本発明に係るPLDを用いると、次のような(4)〜(6)の手順でコリン型プラズマローゲンとリゾホスファチジルコリンとを選択的に測定することが可能となる。
【0077】
(4)コリン型プラズマローゲン、リゾホスファチジルコリンなどを含む混合溶液に対して、トリトンX−100の非存在下(濃度0%)及びトリトンX−100の存在下(特に濃度0.1%以上)の2通りで酵素反応を行う。
【0078】
(5)トリトンX−100の非存在下ではコリン型プラズマローゲン及びリゾホスファチジルコリンの両方の合計として定量され、トリトンX−100の存在下ではコリン型プラズマローゲンのみが定量される。
【0079】
(6)トリトンX−100の非存在下で定量された量からトリトンX−100の存在下で定量された量を差し引くことにより、リゾホスファチジルコリンを定量することが可能である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
[ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)由来酵素の精製]
ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)NA684を培養し、その培養上清について、硫安分画、陰イオン交換、疎水相互作用、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーを用いて精製した。以下に詳細を示す。
【0082】
(a)培養
3%トリプチックソイ培地(べクトン・ディンキンソン社製)600mLを調製し、500mL容三角フラスコに100mlずつ分注して、121℃で15分間蒸気殺菌を行った。予め平板培地に生育したストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)NA684のコロニーを適当量とり、3%トリプチックソイ培地5mLを入れたφ18試験管(18×180mm)に接種し、28℃で良好な生育が得られるまで振とう培養した。この培養液を先の滅菌した培地100mLに1mlずつ接種し、28℃で48時間振とう培養した。遠心分離機を用いて、この培養液から上清(Supernatant)を回収した。
【0083】
(b)硫安分画
上記(a)で回収した培養上清に、80%(w/v)飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、30分、4℃)により回収した。この沈殿を20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で溶解し透析して粗酵素液を得た。
【0084】
(c)Toyopearl Phenyl−650Mカラムクロマトグラフィー
上記(b)で得られた粗酵素液に終濃度で1Mとなるように硫酸アンモニウムを添加し、1M硫酸アンモニウムを含む20mM トリス−塩酸(Tris-HCl)緩衝液(pH8.0)であらかじめ平衡化したToyopearl Phenyl−650Mカラム(内径26mm、高さ38mm、東ソー社製)にアプライした。同緩衝液でカラムを洗浄した後、硫酸アンモニウム(1Mから0Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0085】
(d)Mono Q
上記(c)で得られた活性画分を集め、Viva spinを用い濃縮脱塩した。これに、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を加えた。20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で予め平衡化した「Mono Q」(1ml)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0086】
(e)Superdex 200
上記(d)で得られた活性画分を集め、Viva spinを用い濃縮脱塩した。これに、0.15M NaClを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)を加えた。0.15M NaClを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化した「Superdex 200」(24ml)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、同緩衝液でサイズ排除クロマトグラフィーを行い、活性画分を溶出させた。
【0087】
以上のようにして、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomycessp.)NA684株より、精製酵素を得た。なお、精製酵素が単一であることは、分子量測定において単一のバンドが測定されたことで確認した。また、この酵素は、ゲル濾過クロマトグラフィー分析によって54kDaのポリペプチドの単量体として機能していると推定された。
【0088】
表1にPLD精製における収量、収率等を示す。
【0089】
【表1】
[PLDの分子量の測定]
(分子量)
上記によって得た精製酵素(PLD)について、SDS−PAGE(12%(w/v)ポリアクリルアミドゲル)により分子量を解析した。
【0090】
図1は、この溶出画分のSDS−PAGEによる解析の結果を示す電気泳動写真である。図の左側のレーンは、分子量マーカー(M)であり、図の右側のレーンは、溶出画分(PLD)のバンドを示す。
図1に示すように、溶出画分において、単一のバンドが観察され、精製酵素を構成するポリペプチドの分子量は約54,000であった。なお、分子量の単位はDa(ダルトン)である。よって、kDa表記では、この酵素を構成するポリペプチドの分子量は約54kDaとなる。
【0091】
[ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)由来酵素(PLD)の性質の測定]
(酵素活性(PLD活性):基質特異性)
本実施例において、酵素活性の測定は、基本的には、以下のように行った。この方法を、以下、「酵素活性標準測定方法」という。この方法では、リゾホスファチジルコリンを基質として用いた場合を例示する。基質(LPC)800μMと、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)50mMとの溶液に、精製酵素(PLD)を10%(v/v)となるように加え、合計量50μLとなる反応液を調製した。この反応液を65℃にて5分間酵素反応させた。反応後、ただちに100℃、5分間の熱失活を行い、酵素反応を停止させた。反応液を21,800×g、1分間の遠心分離にかけ、室温まで冷却した。そこに200μLの呈色試薬「0.03% 4−アミノアンチピリン、0.02% N,N−ビス(4−サルフォブチル)−3−メチルアニリン、5U/mL ペルオキシダーゼ、0.75U/mL コリンオキシダーゼ、50mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)」を加え、37℃、10分間の呈色反応を行った。反応後、550nmの吸光度を測定し、検量線から遊離したコリン濃度を算出した。なお、1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量を1U(ユニット)と定義した。
【0092】
図2は、基質として次に示すものを用いたときの酵素活性を示すグラフである。このグラフでは、PLS−PC(コリン型プラズマローゲン)に対する活性を100%としたときの相対活性を示している。なお、反応液組成は、精製酵素(PLD)試料(10v/v%)、基質(800μM)、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(50mM)、トリトンX−100(0%又は0.1%)でpH5.6、65℃である。
【0093】
図3は、基質として次に示すものを用いたときの酵素活性を示すグラフである。このグラフでは、トリトンX−100が0%でPLS−PC(コリン型プラズマローゲン)に対する活性を100%としたときの相対活性と、トリトンX−100が0.1%でPOPCを100%としたときの相対活性とを示している。なお、反応液組成は、精製酵素(PLD)試料(10v/v%)、基質(800μM)、HEPES−NaOH(50mM)、トリトンX−100(0%又は0.1%)でpH7.5、65℃である。
【0094】
本明細書における基質について以下に示す(表2も参照)。
【0095】
LPC:L−α−リゾホスファチジルコリン
POPC:1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン
PLS−PC:1−(1Z−オクタデセニル)−2−アラキドノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン
LPLS−PC:上記PLS−PCのリゾ体
SM:卵黄由来スフィンゴミエリン
GPC:グリセロール−3−ホスホコリン
【0096】
【表2】
図2及び
図3のグラフより、上記の精製酵素は、基質特異的に作用し、PLD活性を示すことが確認された。
【0097】
具体的には、
図2のグラフから、PLDの加水分解活性は、pH5.6、65℃、トリトンX−100濃度0%、PLS−PCを基質としたときの活性を100%とすると、LPCに対して70〜80%、POPCに対して60〜70%、LPLS−PCに対して10〜20%、SMに対して5〜10%、GPCに対して0〜2%であった。
【0098】
また
図2のグラフから、PLDの加水分解活性は、pH5.6、65℃、トリトンX−100濃度0.1%、PLS−PCを基質としたときの活性を100%とすると、LPCに対して3〜5%、POPCに対して50〜60%、LPLS−PCに対して0〜1%、SMに対して0〜5%、GPCに対して0〜5%であった。
【0099】
また
図3のグラフから、PLDの加水分解活性は、pH7.5、65℃、トリトンX−100濃度0%、PLS−PCを基質としたときの活性を100%とすると、LPCに対して70〜80%、POPCに対して20〜30%、LPLS−PCに対して0〜2%、SMに対して0%、GPCに対して0%であった。
【0100】
また
図3のグラフから、PLDの加水分解活性は、pH7.5、65℃、トリトンX−100濃度0.1%、POPCを基質としたときの活性を100%とすると、LPCに対して5〜10%、PLS−PCに対して60〜70%、LPLS−PCに対して0%、SMに対して0%、GPCに対して0%であった。
【0101】
(酵素学的性質)
上記の精製酵素(PLD)の酵素学的性質について検討した。
【0102】
(1)作用温度
基質(LPC)800μMと、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6、各温度)50mMとの溶液に、精製酵素(PLD)を10%(v/v)となるように加え、合計量50μLとなる反応液を調製した。この反応液を各温度条件にて5分間、酵素反応させた。その後のAP処理、呈色反応は、「酵素活性標準測定方法」に従って行い、酵素活性を測定した。
【0103】
図4は、種々の反応温度での酵素活性を、反応温度が65℃である場合の活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図4のグラフに示されるように、この酵素は、25〜85℃で活性を発揮し、そして反応の至適温度は65℃付近(例えば50〜70℃)であった。
【0104】
(2)作用pH
基質(LPC)800μMと、酢酸−酢酸ナトリウム、MES、Bis−Tris、Tris、Glycine−NaOH又はHEPESから選ばれる緩衝液(各pH、温度37℃)50mMとの溶液に、精製酵素(PLD)を10%(v/v)となるように加え、合計量50μLとなる反応液を調製した。この反応液を各pH条件にて5分間、酵素反応させた。その後の熱失活、呈色反応は、「酵素活性標準測定方法」に従って行い、酵素活性を測定した。
【0105】
図5は、種々の反応pHでの酵素活性を、反応pHが5.6である場合の酵素活性を基準(100%)とする相対活性として示したグラフである。
図5のグラフから分かるように、この酵素は、pH4.4からpH7.2という広い範囲で活性を発揮し、そして、反応の至適pHは5.6付近(例えばpH5.0〜6.0)であった。
【0106】
(3)温度安定性
基質(LPC)800μMと、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6、各温度)50mMとの溶液にpH5.6、各温度で30分間保温した精製酵素(PLD)を10%(v/v)となるように加え、合計量50μLとなる反応液を調製した。この反応液を65℃にて5分間反応させ、酵素反応を行った。その後の熱失活、呈色反応は「酵素活性標準測定方法」に従って行い、残存活性を測定した。
図6は、種々の温度における残存活性を4℃における残存活性を基準(100%)としたときの相対活性として示したグラフである。
図6のグラフから分かるように、この酵素は65℃までは完全に安定で70℃においても80%以上の高い残存活性を示した。
【0107】
(4)pH安定性
基質(LPC)800μMと、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6、各温度)50mMとの溶液に4℃、各pHで12時間保温した精製酵素(PLD)を10%(v/v)となるように加え、合計量50μLとなる反応液を調製した。この反応液を65℃にて5分間反応させ、酵素反応を行った。その後の熱失活、呈色反応は「酵素活性標準測定方法」に従って行い、残存活性を測定した。
図7は、種々のpHにおける残存活性をトリス−塩酸緩衝液(pH7.2)における残存活性を基準(100%)としたときの相対活性として示したグラフである。
図7のグラフから分かるように、この酵素はpH5.5から9.5までは完全に安定でpH5の酸性域においても80%高い残存活性を示した。
【0108】
(5)トリトンX−100(Triton X-100)の影響
基質(LPC)640μMと、HEPES(pH7.5、37℃)80mMとの溶液に、精製酵素(PLD)を10%(v/v)となるように加え、さらにトリトンX−100を0.01%、0.02%、0.03%、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%添加して、合計量50μLとなる反応液を調製した。この反応液を各温度条件にて5分間、酵素反応させた。その後の熱失活、呈色反応は、「酵素活性標準測定方法」に従って行い、酵素活性を測定した。
【0109】
図6は、トリトンX−100を添加していない条件を100%としたときの、各濃度でトリトンX−100を添加した相対活性の結果である。
【0110】
[精製酵素の内部アミノ酸配列の解析]
上記の精製酵素について、SDS−PAGE後、目的とする酵素を切り出し、ゲル内消化を行った。そして、得られたサンプルについて質量分析計(nanoLC−MS/MS)により内部アミノ酸配列の解析を行った。これにより、内部アミノ酸配列は、配列番号3、4に示すものであることが確認された。
【0111】
ここで、配列番号3は、配列番号2の31位から40位、配列番号4は、配列番号2の483位から491位までに示される配列となっている。
【0112】
[プライマーの作製]
プライマー(primer)の作製にあたっては、上記の内部アミノ酸配列(配列番号3、4)から、「Sense primer」と「Anti sense primer」を設計した。縮重コドンに関しては、Streptomyces属におけるコドン使用頻度が高いコドンを選択し、プライマー設計を行った。また、コドン使用頻度が同等のものに関しては、混合塩基プライマーとした。これにより、配列番号5に示すSense primer 1(以下「S1」ともいう)が得られた。また、配列番号6に示すAntisense primer 1(以下「A1」ともいう)が得られた。ここで、配列中のsはc又はg、wはa又はt、yはc又はtをそれぞれ表す。
【0113】
[PCRによるPLD遺伝子の解析]
Streptomyces sp.NA684を、YEME培地(0.3%酵母エキス、0.5%ペプトン、0.3%麦芽エキス、1%グルコース、34%シュークロース、5mM MgCl
2、0.5%グリシン)30mlを用いて28℃で4日間培養し、集菌した。次いで、この菌体を、75mM NaCl、25mM EDTA、20mMトリス−塩酸(pH7.5)および1mg/mlリゾチームからなる溶液5mlに懸濁し、37℃で一晩処理した。次に、これに750μlの10%(w/v)SDS、5mgのproteinase Kを添加し、55℃で2時間処理した。この溶液にクロロホルム7.5mlを加えて攪拌し、遠心分離により水相を5ml分取した。この水相に3mlのイソプロパノールを添加混合してDNAを回収し、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)および1mM EDTAからなる溶液500μlに溶解した。これに、RNaseAを20μg/mlとなるように加え、37℃で1時間処理した後、0.8MのNaClを含む13%PEG溶液を500μl加え攪拌し、遠心分離により、水相を500μl分取した。これにフェノール/クロロホルム混合液500μlを加えて攪拌し、遠心分離により、水相を500μl分取した。この水相に3M酢酸ナトリウム(pH5.2)50μlおよびエタノール1mlを添加混合し、DNAを回収した。このDNAを70%(v/v)エタノールに10分間浸漬した後、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)および1mM EDTAからなる溶液200μlに溶解した。
【0114】
(Streptomyces sp.NA684由来PLD遺伝子のコア領域のクローニング)
上記PCRプライマーを用いてPCR反応を行った。PCRの反応液組成は次のとおりである。上記実施例で得た鋳型染色体DNA60ng、1×KOD FX Neo Buffer、400μM dNTPs、プライマー各300nM、およびKOD FX Neo 0.4ユニットに、蒸留水を全量20μlとなるように添加した。PCR反応条件は次のとおりである。
【0115】
ステップ1;94℃、2分;
ステップ2;98℃、10秒;
ステップ3;68℃、1分20秒;
ステップ2からステップ3を30サイクル繰り返す;
ステップ4;68℃、2分。
【0116】
PCRによって、約1300bpの特異的な増幅産物を得た。このPCR反応液についてアガロース電気泳動を行い、目的の1300bpのバンド部分を切り出し、A−attachment反応を行った後、pGEM-T Easy Vector SystemI(Promega)を用いて、pGEM-T Easy Vectorに結合させ、大腸菌を形質転換した。形質転換株をアンピシリン50μg/mlを含むLB培地(トリプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム0.4%、pH7.2)で培養し、Miniprep DNA Purification Kit(TaKaRa製)を用いてDNAシーケンス用のプラスミドを抽出・精製した。続いて、pGEM-T Easy Vectorベクターに由来するT7プライマーおよびSP6プライマーを用いて自動シークエンサーによって、挿入断片の塩基配列を決定した。この塩基配列を配列番号7に示す。
【0117】
(Streptomyces sp.NA684由来PLD遺伝子のコア領域周辺のクローニング)
上記の実施例で決定した遺伝子配列の周辺領域の配列を明らかにするために、インバースPCRによりその上流側と下流側を含むDNA断片を増幅した。
【0118】
上記実施例で得た染色体DNAをSacIで完全消化し、Ligationhigh Ver.2(Toyobo社製)により自己閉環化させた。これを鋳型にして、ホスホリパーゼDの部分遺伝子配列に基づいて作製したインバースプライマーIS1(配列番号8)とインバースプライマーIA1(配列番号9)とを用いて、Inverse PCRを行った。PCRの反応液組成は次のとおりである。鋳型DNA 20ng、1×KOD FX Neo Buffer、プライマー各300nM、およびKOD FX Neo 0.4ユニットに、蒸留水を全量20μlとなるように添加した。PCR反応条件は次のとおりである。
【0119】
ステップ1;94℃、2分;
ステップ2;98℃、10秒;
ステップ3;68℃、4分;
ステップ2からステップ3を20サイクル繰り返す;
ステップ4;68℃、2分。
【0120】
約3500bpの特異的な増幅産物が得られた。このPCR反応液についてアガロース電気泳動を行い、目的の3500bpのバンド部分を切り出し、A−attachment反応を行った後、pGEM-T Easy Vector SystemI(Promega)を用いて、pGEM-T Easy Vectorに結合させ、大腸菌にクローニングし、塩基配列を決定した。
【0121】
以上の結果から、酵素PLDのアミノ酸配列は、配列番号2に記載された配列であり、PLDを発現する遺伝子配列は、配列番号1に記載された配列であることが確認された。ただし、塩基配列においては、数個(例えば1〜10個程度など)の塩基が他の塩基に置換されている可能性がある。また、アミノ酸配列においても、数個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されている可能性がある。