特許第6013940号(P6013940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋炭素株式会社の特許一覧

特許6013940油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法および浸炭処理方法
<>
  • 特許6013940-油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法および浸炭処理方法 図000003
  • 特許6013940-油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法および浸炭処理方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013940
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法および浸炭処理方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/83 20060101AFI20161011BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20161011BHJP
   C04B 41/83 20060101ALI20161011BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20161011BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C04B35/52 E
   C04B35/52 G
   C04B41/83 E
   C04B41/87 T
   C21D1/00 F
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-36415(P2013-36415)
(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公開番号】特開2014-162694(P2014-162694A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【弁理士】
【氏名又は名称】来代 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100131864
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 正憲
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 信吾
(72)【発明者】
【氏名】富田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 友二
(72)【発明者】
【氏名】冨田 修平
(72)【発明者】
【氏名】町野 洋
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−067478(JP,A)
【文献】 特開2001−123219(JP,A)
【文献】 特開平07−048191(JP,A)
【文献】 特開2000−103686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/83
C04B 35/52
C04B 41/83
C04B 41/87
C21D 1/00
WPI
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理物を載置した状態で該被処理物の油焼入れが可能なトレーの製造方法であって、C/Cコンポジットに熱硬化性樹脂を含浸させて焼成するかまたは熱分解炭素を含浸させる工程を含み、前記工程後のC/Cコンポジットでは、気孔半径1μm以上の累積気孔容積が40mm/g以下となっていることを特徴とする油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法
【請求項2】
前記工程後のC/Cコンポジットでは、全体の累積細孔容積が66mm/g以下となっている、請求項1に記載の油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法。
【請求項3】
前記工程は、C/Cコンポジットに熱硬化性樹脂を含浸させて焼成する工程である、請求項1又は2に記載の油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法
【請求項4】
前記C/Cコンポジットは、含浸前の原材料の累積気孔容積が70mm/g以上である、請求項3に記載の油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法
【請求項5】
前記工程後のC/Cコンポジットは、かさ密度が1.8g/cm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法
【請求項6】
求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られた油焼き入れ熱処理炉用トレーを用いることを特徴とする浸炭処理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法および浸炭処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱処理炉では800℃以上の高温での熱処理を行うが、金属製トレーは、高温強度が不十分なために、使用中に変形や亀裂が発生し易く、寿命が短い。そこでC/C等の炭素材料製のトレーは金属製トレーに比べて高温強度が高いため、高温熱処理においても、変形や亀裂の発生が少ない。また炭素材料は、軽量設計が可能なため熱容量を小さく抑えられ、操炉の消費電力が少ないメリットもある。しかし材料中に気孔を多く含む多孔性材料のため、油焼き入れ熱処理をする場合、熱処理後に被熱処理物をトレーとともに油に浸漬させて急冷させると、C/Cの気孔内に油が浸透して残留する。このトレ―を再度使用する際に、油が残留すると熱処理中に油が分解し、被処理物の変色等の悪影響を及ぼすことがある。
【0003】
このような問題点を解決するものとして、C/C材にシリコンを含浸させた油焼き入れ熱処理炉用C/C製トレーが開示されている。(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−067478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコンを含浸させたC/C製トレーでは、高温処理において被処理物とシリコン成分が反応してケイ化物が生じやすく、処理物の品質に影響を及ぼす恐れがある。また含浸したシリコンにより重量が大きくなり炭素材料の長所である軽量さが発揮されず、含浸されたシリコンにより熱容量が大きくなることも懸念される。更に、シリコンは油に対する濡れ性が高いため、油の浸透を防ぐには緻密な組織を形成して開気孔率を極めて小さくする必要があり、上記不具合が助長されると共に、製造工程も煩雑なものとなる。
【0006】
そこで本発明は、油の浸透を抑止して高温処理において被処理物の品質への影響が小さくでき、また軽量に構成できる油焼き入れ熱処理炉用トレーの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、被処理物を載置した状態で該被処理物の油焼入れが可能なトレーの製造方法であって、C/Cコンポジットに熱硬化性樹脂を含浸させて焼成するかまたは熱分解炭素を含浸させる工程を含み、前記工程後のC/Cコンポジットでは、気孔半径1μm以上の累積気孔容積が40mm/g以下となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油の浸透を抑止して高温処理において被処理物の品質への影響が小さくでき、また軽量に構成できる油焼き入れ熱処理炉用トレーを提供できるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1〜3及び比較例1,2において、気孔半径1μm未満の累積気孔容積と気孔半径1μm以上の累積気孔容積を示すグラフ。
図2】気孔半径1μm以上の累積気孔容積とオイル浸み込み量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、被処理物を載置した状態で該被処理物の油焼入れが可能なトレーの製造方法であって、C/Cコンポジットに熱硬化性樹脂を含浸させて焼成するかまたは熱分解炭素を含浸させる工程を含み、前記工程後のC/Cコンポジットでは、気孔半径1μm以上の累積気孔容積が40mm/g以下となっていることを特徴とする。
前記C/Cコンポジットよりなる炭素材料では、気孔半径1μm以上の累積気孔容積が40mm/g以下となっていれば、オイルの浸み込み量が飛躍的に少なくなる。また、このC/Cコンポジットよりなる炭素材料からなることで、被処理物の品質への影響を防ぐことが出来る。更に、重量や熱容量を低く抑えることができる。
【0011】
前記素材料としては、C/Cコンポジットを用いて形成されたものである。
C/C製トレーは金属製トレーに比べて高温強度や耐熱衝撃性が高く、高温熱処理においても、変形や亀裂の発生が少ない。また、高温強度が高く軽量設計が可能なため、熱容量を小さく抑えられ、消費電力が少ない利点もある。
【0012】
記C/Cコンポジットに熱硬化性樹脂を含浸させて焼成する工程は、C/Cコンポジット材の優れた特性を損なわず、且つ累積気孔容積を調整する材料が分離し難い構成とできる。またC/Cコンポジッドはトレーへの加工後、加工端面から油が浸透しやすく、含浸により端面を被覆することも可能となる。
【0013】
前記C/Cコンポジットよりなる炭素材料は、含浸前の原材料の累積気孔容積が70mm/g以上であることが望ましい。
C/Cコンポジットは、元来ポーラスな材料であり、含浸による累積気孔容積の縮小の効果が大きい。
【0014】
前記工程後のC/Cコンポジットは、かさ密度が1.8g/cm以下であることが望ましい。
C/Cコンポジットよりなる炭素材料からなることで、かさ密度を容易に1.8g/cm以下とすることができ、軽量に構成することが容易である。
【0015】
本発明の浸炭処理方法は、上述の製造方法により得られた油焼き入れ熱処理炉用トレーを用いることを特徴とする
浸炭処理により、金属やシリコンは耐熱衝撃性が低下し、焼入れ時に割れが生じる恐れがあるが、C/Cコンポジットよりなる炭素材料からなることで、浸炭されても脆化が進行しないため、耐熱衝撃性の低下を防ぐことができる。
尚、用いられる熱処理炉としては、800〜1000℃程度で用いられる炉であることが望ましい。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
東洋炭素(株)CX−761(PAN系炭素繊維を使用し、フェノール樹脂を添加し、プレス成形した後、緻密化のためピッチ含浸、焼成を3回繰り返すことにより、かさ密度1.63Mg/m、気孔半径1μm以上の累積気孔容積が55mm/gであるC/C材)の厚み5mmの板材を組み合せ、トレー形状に加工してトレー前駆体とした。このトレー前駆体に、比重1.16のフェノール樹脂(住友ベークライト製)を大気圧下で1回含浸、焼成することにより、かさ密度1.68Mg/m、気孔半径1μm以上の累積気孔容積が30mm/gの油焼き入れ熱処理炉用トレー(以下、単に熱処理炉用トレーと称することがある)を得た。
【0017】
(実施例2)
実施例1と同様のトレー前駆体に、比重1.16のフェノール樹脂(住友ベークライト製)に減圧浸漬後、0.5MPaで1回加圧含浸、焼成することにより、熱処理炉用トレーを得た。
【0018】
(実施例3)
実施例1と同様のトレー前駆体を真空炉内に配置し、1100℃まで昇温した後、CHガスを10(l/min)の流速で流しながら、圧力を10Torrにコントロールしつつ100時間保持して、熱分解炭素をCVI処理により含浸させることにより、熱処理炉用トレーを得た。
【0019】
(比較例1)
実施例1のトレー前駆体をそのまま熱処理炉用トレーとして用いた。
【0020】
(比較例2)
実施例1のトレー前駆体に、比重1.03のフェノール樹脂(住友ベークライト製)を大気圧下で1回含浸、焼成することにより熱処理炉用トレーを得た。
【0021】
(実験1)
上記実施例1〜3及び比較例1,2で示した熱処理炉用トレーのかさ密度と累積気孔容積(気孔半径1μm未満の累積気孔容積と気孔半径1μm以上の累積気孔容積)とを調べたので、それらの結果を表1及び図1に示す。
【0022】
尚、かさ密度は、アルキメデス法(液体中の固体が同体積の液体の重量と同じだけ浮力を受けるという自然法則を用いて試料の密度を求める方法である)を用いた電子比重計(ミラージュ貿易(株)製 ED−120T)を用いて測定した。また、累積気孔容積は、水銀圧入法により気孔分布測定を行い、その結果をグラフ化して求めた。水銀圧入法において、最大圧力は108MPaまで加圧し、気孔半径は、水銀ポロシメーターの水銀印加圧力からワッシュバーンの式により求めた。ワッシュバーンの式は、r=−2δcosθ/Pで示され、ここで、r:気孔の半径、δ:水銀の表面張力(480dyne/cm)、θ:接触角(本発明では、141.3°を使用)、P:圧力、である。
【0023】
【表1】
【0024】
表1及び図1から明らかなように、実施例1〜3のものは比較例1,2のものに比べて、かさ密度が高く、且つ、気孔半径1μm以上の累積気孔容積が全て40mm/g以下で、小さくなっていることが認められる。
【0025】
(実験2)
上記実施例1〜3及び比較例1,2で示した熱処理炉用トレーのオイル浸み込み量を調べたので、その結果を上記表1及び図2に示す。尚、実験は下記のようにして行った。
上記実施例1〜3及び比較例1,2で示した熱処理炉用トレーを予め重量測定し、それぞれ120℃の油中に、大気圧下で1時間浸漬した後に30分静置して浸漬後の重量測定を行った。増加した重量を表面積で除して、体積当たりの油の浸透量を算出した。
【0026】
本発明者らは、オイル浸み込み量が40mg/cmを超えると、油や洗浄工程の溶剤が熱処理炉用トレーの気孔に浸透し残存するため、炉内真空度が著しく低下するといった不具合が生じることを見出した。表1及び図2から明らかなように、実施例1〜3ではオイル浸み込み量が全て40mg/cm以下であるのに対して、比較例1,2ではオイル浸み込み量が全て40mg/cmを超えていることが認められる。したがって、実施例1〜3では、炉内真空度が著しく低下するといった不都合を回避できる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は浸炭処理等に用いることができる。
図1
図2