特許第6013990号(P6013990)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013990
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】車両の駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/244 20060101AFI20161011BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20161011BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   G01D5/244 K
   F02D45/00 362G
   F02D45/00 362C
   F02D45/00 312B
   F02D45/00 312M
   F02D29/02 321A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-155053(P2013-155053)
(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公開番号】特開2015-25724(P2015-25724A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2015年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105119
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 孝治
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(72)【発明者】
【氏名】倉内 淳史
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆俊
(72)【発明者】
【氏名】鞍本 徹
(72)【発明者】
【氏名】四竈 真人
(72)【発明者】
【氏名】飯高 良
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−124717(JP,A)
【文献】 実開昭58−170538(JP,U)
【文献】 特開昭61−25017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00−5/252
G01D 5/39−5/62
G01B 7/00−7/34
F02D 29/00−29/06
F02D 43/00−45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、変速機とを備え、該機関のクランク軸がクラッチを介して前記変速機の入力軸に接続可能に構成された車両の駆動制御装置において、
前記クランク軸の回転角を検出するクランク角センサと、
前記クランク角センサの故障判定を行う故障判定手段とを備え、
前記クランク角センサは、前記クランク軸に固定され、外周部に歯が形成された円板状部材と、該円板状部材に対向して設けられ、前記クランク軸の回転に伴う前記歯の通過を検出する回転センサとを含み、前記円板状部材は、前記クランク軸が所定角度回転する毎に1パルスを発生させるように前記歯が配置されるとともに、前記歯が形成されていない欠け歯部を有し、
前記故障判定手段は、前記所定角度に対応する第1パルス発生間隔と、前記欠け歯部に対応する第2パルス発生間隔との比率を算出し、該算出した比率が許容範囲外にあるときに、前記クランク角センサが故障していると判定し、
前記クランク角センサの出力に基づいて算出される機関回転数、及び前記クラッチの動作状態に応じて前記許容範囲を設定することを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記故障判定手段は、
前記機関回転数が所定回転数以上であるときは、前記許容範囲として通常運転用範囲を適用し、
前記機関回転数が前記所定回転数未満であってかつ前記クラッチの締結動作または解放動作が行われているときは、前記許容範囲として動力伝達時用範囲を適用し、
前記機関回転数が前記所定回転数未満であってかつクラッチの締結動作及び解放動作が行われていないときは、前記許容範囲として始動停止時用範囲を適用し、
前記通常運転用範囲が最も狭く設定され、前記始動停止時用範囲が最も広く設定され、前記動力伝達時用範囲が前記通常運転用範囲と前記始動停止時用範囲の中間の幅に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記車両は前記変速機の入力軸を直接駆動可能に配置されたモータを備え、
前記故障判定手段は、前記機関回転数が前記所定回転数未満であってかつ前記モータによって機関の始動を行っているときまたは前記モータによる駆動から前記機関による駆動に切り換えられた直後においては、前記動力伝達時用範囲を適用することを特徴とする請求項2に記載の車両の駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を備える車両の駆動制御装置に関し、特に内燃機関のクランク軸の回転角を検出するクランク角センサの故障判定機能を有する駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、内燃機関のクランク軸の基準位置検出方法を開示する。この方法では、クランク軸と同期して回転する信号検出用歯車と、該信号検出用歯車の1つ歯に対応して1つのパルス信号を出力する回転数センサとによって構成され、信号検出用歯車の歯の一部が欠け歯されたクランク角センサが使用され、パルス信号の発生間隔を、1つ前のパルス発生間隔を定数倍した値と比較することにより、欠け歯の通過、すなわちクランク軸の基準位置が検出される。さらに上記定数は、機関回転数が所定値より低いときは、所定値以上であるときより大きな値に設定される。これによって、基準位置の誤検出が防止される。
【0003】
特許文献2は、クランク角センサの出力に基づく内燃機関の失火検出方法を開示する。この方法によれば、所定角度領域に対応する時間間隔が、クランク角センサ出力に応じて検出され、その検出時間間隔に基づいてクランク角センサの構成上の誤差を補正するための補正係数が算出され、検出時間間隔に基づく機関回転情報が補正係数で補正され、補正後の機関回転情報に基づいて失火検出が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−25017号公報
【特許文献2】特許第2853334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるようなクランク角センサにおいて、欠け歯部に対応する部分のパルス発生間隔と、所定角度に対応するパルス発生間隔との相対比率に基づいて、クランク角センサの故障を判定する場合、以下のような不具合が発生する。
【0006】
すなわち、機関が比較的低い回転数で作動している状態、例えば機関の始動時などにおいては、機関の一時的な回転変動が比較的大きくなり、上記相対比率が大きく変動して、通常の正常判定許容範囲を用いて故障判定を行うと、正常であるにも拘わらず故障していると誤判定するという課題があった。
【0007】
上述した特許文献1に示された手法は、機関回転数が所定値より低い低回転状態では、機関回転数が所定値以上であるときより、定数を大きくすることにより基準位置の誤検出を防止を防止するものである。機関の始動時に基準位置の検出が完了した後においても、機関回転変動が一時的に増加する場合があるが、その時点では基準位置の検出が終了しているため、特許文献1の手法では始動時の機関回転数以外の要因は考慮されていない。
【0008】
また特許文献2に示された補正係数は、クランク角センサの構成上の誤差、具体的には時間間隔を決定するベーン(歯)の間隔の誤差を補正するものであり、上述したような一時的な変動の影響を補正することはできない。
【0009】
本発明は上述した点を考慮してなされたものであり、車両を駆動する内燃機関に装着されるクランク角センサの故障検出をより適切に実行し、実際に故障した場合には確実に検出するとともに誤判定を適切に防止することができる駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関(1)と、変速機(24)とを備え、該機関のクランク軸(8)がクラッチ(22)を介して前記変速機の入力軸(23)に接続可能に構成された車両の駆動制御装置において、前記クランク軸の回転角を検出するクランク角センサ(10)と、前記クランク角センサの故障判定を行う故障判定手段とを備え、前記クランク角センサ(10)は、前記クランク軸(8)に固定され、外周部に歯が形成された円板状部材と、該円板状部材に対向して設けられ、前記クランク軸の回転に伴う前記歯の通過を検出する回転センサとを含み、前記円板状部材は、前記クランク軸(8)が所定角度(CA1)回転する毎に1パルスを発生させるように前記歯が配置されるとともに、前記歯が形成されていない欠け歯部を有し、前記故障判定手段は、前記所定角度(CA1)に対応する第1パルス発生間隔(TD1)と、前記欠け歯部に対応する第2パルス発生間隔(TD2)との比率(RT)を算出し、該算出した比率(RT)が許容範囲外にあるときに、前記クランク角センサが故障していると判定し、前記クランク角センサの出力に基づいて算出される機関回転数(NE)、及び前記クラッチ(22)の動作状態に応じて前記許容範囲を設定することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、所定角度に対応する第1パルス発生間隔と、欠け歯部に対応する第2パルス発生間隔との比率が算出され、該算出された比率が許容範囲外にあるときに、クランク角センサが故障していると判定され、許容範囲は機関回転数及びクラッチの動作状態に応じて設定される。したがって、機関回転数の影響だけでなく、クラッチの動作状態、換言すれば機関と変速機との接続状態の変化に起因する回転変動の影響も考慮した許容範囲の設定が行われ、クランク角センサが実際に故障した場合には確実に検出するとともに、正常であるのに故障していると誤判定することを適切に防止できる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の駆動制御装置において、前記故障判定手段は、前記機関回転数(NE)が所定回転数(NETHL)以上であるときは、前記許容範囲として通常運転用範囲を適用し、前記機関回転数(NE)が前記所定回転数(NETHL)未満であってかつ前記クラッチ(22)の締結動作または解放動作が行われているときは、前記許容範囲として動力伝達時用範囲を適用し、前記機関回転数が前記所定回転数未満であってかつクラッチ(22)の締結動作及び解放動作が行われていないときは、前記許容範囲として始動停止時用範囲を適用し、前記通常運転用範囲が最も狭く設定され、前記始動停止時用範囲が最も広く設定され、前記動力伝達時用範囲が前記通常運転用範囲と前記始動停止時用範囲の中間の幅に設定されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、機関回転数が所定回転数以上であるときは通常運転用範囲が適用され、機関回転数が所定回転数未満であってかつクラッチの締結動作または解放動作が行われているときは動力伝達時用範囲が適用され、機関回転数が所定回転数未満であってかつクラッチの締結動作及び解放動作が行われていないときは始動停止時用範囲が適用され、通常運転用範囲が最も狭く設定され、始動停止時用範囲が最も広く設定され、動力伝達時用範囲が通常運転用範囲と始動停止時用範囲の中間の幅に設定される。機関回転数が所定回転数未満であってかつクラッチの締結動作及び解放動作が行われていないときは、機関が始動中かあるいは停止直前の状態であり、最も回転変動が大きくなる一方、機関回転数が所定回転数以上であるときは、比較的回転変動が小さくなり、機関回転数が所定回転数未満であってもクラッチの締結動作または解放動作が行われているときは、回転変動は所定回転数以上であるときより大きくなるが、始動時または停止直前よりも小さくなる。したがって、動力伝達時用範囲を通常運転用範囲と始動停止時用範囲の中間の幅に設定することによって、それぞれの運転状態に応じて適切な許容範囲とすることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の車両の駆動制御装置において、前記車両は前記変速機の入力軸(23)を直接駆動可能に配置されたモータ(25)を備え、前記故障判定手段は、前記機関回転数(NE)が前記所定回転数(NETHL)未満であってかつ前記モータによって機関の始動を行うときまたは前記モータを駆動から前記機関による駆動に切り換えられた直後においては、前記動力伝達時用範囲を適用することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、駆動源として機関とともモータを備えるハイブリッド車両において、機関回転数が所定回転数未満であってかつモータによって機関の始動を行うとき、またはモータによる駆動から機関による駆動に切り換えられた直後においては、動力伝達時用範囲が適用される。変速機の入力軸を直接駆動するモータによって機関の始動を行うとき、またはモータに駆動から機関による駆動への切換直後における機関の回転変動は、クラッチの締結動作または解放動作が行われているときと同程度となるので、動力伝達時用範囲を適用することにより、誤判定を適切に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態にかかる車両に搭載された内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
図2】クランク角センサの故障判定を説明するためのタイムチャートである。
図3】クランク角センサの故障判定を行う処理のフローチャートである。
図4図3の処理で参照されるフラグ(FDIST)の設定を行う処理のフローチャートである。
図5】本発明の第2の実施形態にかかる車両に搭載された内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
図6図3の処理で参照されるフラグ(FDIST)の設定を行う処理のフローチャートである(第2の実施形態)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態にかかる車両に搭載された内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【0018】
内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、例えば4気筒を有し、吸気管2を備えている。吸気管2にはスロットル弁3が設けられている。燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共に電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に電気的に接続されてECU5からの制御信号により燃料噴射弁6の開弁時間及び開弁時期が制御される。エンジン1の各気筒の点火プラグ13は、ECU5に接続されており、ECU5からの点火信号により点火時期が制御される。
【0019】
吸気管2のスロットル弁3の下流には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ9が設けられており、その検出信号はECU5に供給される。
ECU5には、エンジン1のクランク軸8の回転角度を検出するクランク角センサ10が接続されており、クランク軸8の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角センサ10は、クランク軸8に固定され、外周部に第1所定角度CA1(例えば6度)間隔で歯が形成された円板状の磁性体であるパルスホイールと、該パルスホイールに対向して配置されたピックアップコイルとを備える。パルスホイールの回転によりピックアップコイルに交流信号が発生し、その交流信号がクランクパルスに変換されて出力される。パルスホイールは、歯の間隔が第1所定角度CA1の3倍に相当する第2所定角度CA2(例えば18度)に設定されている欠け歯部、すなわち第1所定角度CA1間隔の歯が2つ欠落している欠け歯部を1つ有する。したがって、クランク軸8の回転に伴って出力されるクランクパルスの間隔が直前の間隔より3倍となる部分が、クランク角360度に1回発生し、この欠け歯部がクランク角の基準角度位置として燃料噴射時期制御、点火時期制御などに使用される。なお、エンジン回転数(回転速度)NEは、第1所定角度CA1に対応する第1パルス発生間隔TD1に基づいて算出される。
【0020】
エンジン1のクランク軸8はクラッチ22を介して、変速機24の入力軸23に連結されている。エンジン1の駆動力は、クラッチ22が締結されると変速機24及び図示しない駆動力伝達機構を介して、当該車両の駆動輪に伝達される。
【0021】
ECU5は、上述した吸気圧センサ9、クランク角センサ10、及び図示しない他のセンサ(例えばエンジン1の冷却水温TWを検出するセンサ、エンジン1により駆動される車両の走行速度(車速)VPを検出するセンサ、当該車両のアクセルペダルの踏み込み量APを検出するセンサなど)の検出信号に基づいて、燃料噴射弁6及び点火プラグ13などの駆動制御を行うとともに、後述するクランク角センサ10の故障判定を行う。
【0022】
クラッチ22及び変速機24は、油圧制御装置40によってその作動が制御され、油圧制御装置40は、変速機制御用ECU30によってその作動が制御される。ECU30にも図示しないセンサから検出信号が供給され、ECU30はその検出信号に基づいてクラッチ22の締結制御及び変速機24の変速制御を行う。ECU30はECU5と接続されており、相互に必要な情報の伝送を行う。
【0023】
図2は、本実施形態におけるクランク角センサ10の故障判定、及びその故障判定における問題点を説明するためにクランクパルスを示すタイムチャートである。図2(a)は、エンジン1の回転が安定している状態に対応し、図2(b)〜(d)は、パルスホイールの欠け歯部の近傍で回転変動が発生した状態に対応する。
【0024】
本実施形態では、図2(a)に示す第1所定角度CA1に対応する第1パルス発生間隔TD1と、欠け歯部(第2所定角度CA2)に対応する第2パルス発生間隔TD2との間隔比率RT(=TD2/TD1)を算出し、間隔比率RTが下限値RTCKL及び上限値RTCLHで定義される許容範囲内にあるとき、クランク角センサ10は正常と判定し、間隔比率RTが下限値RTCKLより小さいとき、または上限値RTCLHより大きいとき、すなわち許容範囲外にあるときは、クランク角センサ10は故障していると判定する。なお、間隔比率RTの算出に適用する第1パルス発生間隔TD1は、欠け歯部の直前に検出された値(以下「直前パルス発生間隔TD1」という)を適用する。
【0025】
図2(b)に示す状態では、回転変動のために直前パルス発生間隔TD1が極端に短くなっており(TD1a)、間隔比率RTは図2(a)に示す通常状態より大幅に増加する。一方、図2(c)に示す状態では、回転変動のために直前パルス発生間隔TD1が極端に長くなっており(TD1b)、間隔比率RTは図2(a)に示す通常状態より大幅に減少する。また、図2(d)に示す状態では、回転変動のために第2パルス発生間隔TD2が極端に短くなっており(TD2a)、間隔比率RTは図2(a)に示す通常状態より大幅に減少する。したがって、許容範囲を定義する下限値RTCKL及び上限値RTCLHを固定値とすると、センサが故障していないにもかかわらず故障していると誤判定するという課題がある。
【0026】
そこで本実施形態では、図3に示す処理によりエンジン回転数NE及びクランク軸の回転変動を示す他のパラメータに応じて、下限値RTCKL及び上限値RTCLHを変更するようにしている。
【0027】
図3はクランク角センサ10の故障判定を行う処理のフローチャートである。この処理は、所定時間毎にECU5で実行される。
ステップS11では、故障フラグFFAILが既に「1」に設定されているか否かを判別する。故障フラグFFAILは、本処理においてクランク角センサ10が故障していると判定されると「1」に設定されるフラグである(ステップS20参照)。ステップS11の答が肯定(YES)であるときは直ちに処理を終了する。
【0028】
ステップS11の答が否定(NO)であるときは、基準位置検出完了フラグFDCが「1」であるか否かを判別する。クランク軸8が回転を開始した直後において、欠け歯部に相当する基準角度位置を検出する処理(図示せず)が行われ、基準角度位置の検出が完了すると、基準位置検出完了フラグFDCが「1」に設定される。ステップS12の答が否定(NO)であるときは直ちに処理を終了し、肯定(YES)となるとステップS13に進んで、エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL(例えば1200rpm)より低いか否かを判別する。
【0029】
ステップS13の答が否定(NO)、すなわちエンジン回転数NEが所定低回転数NETHL以上であるときは、下限値RTCKLを通常下限値RTCKLN(例えば2)に設定するとともに、上限値RTCKHを通常上限値RTCKHN(例えば4)に設定する(ステップS14)。
【0030】
ステップS13の答が肯定(YES)であって、エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL未満であるときは、外乱印加フラグFDISTが「1」であるか否かを判別する。
【0031】
外乱印加フラグFDISTは、図4に示す処理で設定される。図4のステップS31では、クラッチ22の締結動作中であるか否かを判別する。クラッチ22の動作制御情報は、ECU30から供給される。ステップS31の答が肯定(YES)であるときは、外乱印加フラグFDISTを「1」に設定する(ステップS34)。
【0032】
ステップS31の答が否定(NO)であるときは、クラッチ22の解放動作中であるか否かを判別する(ステップS32)。この答が肯定(YES)であるときは、ステップS34に進み、外乱印加フラグFDISTを「1」に設定する。
【0033】
ステップS32の答が否定(NO)であるときは、外乱印加フラグFDISTを「0」に設定する(ステップS33)。
【0034】
図3に戻り、ステップS15の答が否定(NO)、すなわち外乱印加フラグFDISTが「0」であるときは、ステップS16に進み、下限値RTCKLを始動停止時用下限値RTCKL1(例えば1)に設定するとともに、上限値RTCKHを始動停止時用上限値RTCKH1(例えば10)に設定する。エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL以下であって外乱印加フラグFDISTが「0」であるときは、エンジン1の始動中または停止直前の状態であるため、始動停止時用の上下限値が適用される。
【0035】
ステップS15の答が肯定(YES)、すなわち外乱印加フラグFDISTが「1」であるときは、ステップS17に進み、下限値RTCKLを動力伝達時用下限値RTCKL2(例えば1)に設定するとともに、上限値RTCKHを動力伝達時用上限値RTCKH2(例えば8)に設定する。エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL以下であって外乱印加フラグFDISTが「1」であるときは、クラッチ22の締結動作あるいは解放動作に起因する回転変動であることから、動力伝達時用の上下限値が適用される。
【0036】
ステップS18では、間隔比率RTが下限値RTCKL以上であってかつ上限値RTCLH以下であるか否か、すなわち間隔比率RTが許容範囲内にあるか否かを判別する。この答が肯定(YES)であるときは、クランク角センサ10は正常と判定し、故障フラグFFAILを「0」に設定する一方(ステップS19)、ステップS18の答が否定(NO)であるときは、クランク角センサ10が故障していると判定する(ステップS20)。
【0037】
以上のように本実施形態では、第1所定角度CA1に対応する第1パルス発生間隔TD1と、欠け歯部に対応する第2パルス発生間隔TD2との間隔比率RTが算出され、該算出された間隔比率RTが許容範囲外にあるときに、クランク角センサ10が故障していると判定され、許容範囲はエンジン回転数NE及びクラッチ22の動作状態に応じて設定される。したがって、エンジン回転数NEの影響だけでなく、クラッチ22の動作状態の変化に起因する回転変動の影響も考慮した許容範囲の設定が行われ、エンジン回転数NEに関わらず、クランク角センサ10が実際に故障した場合には確実に検出するとともに、正常であるのに故障していると誤判定することを適切に防止できる。
【0038】
具体的には、エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL以上であるときは通常運転用範囲を定義する通常下限値RTCKLN及び通常上限値RTCKHNが適用され、エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL未満であってかつクラッチ22の締結動作または解放動作が行われているときは動力伝達時用範囲を定義する動力伝達時用下限値RTCKL2及び動力伝達時用上限値RTCKH2が適用され、エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL未満であってかつクラッチ22の締結動作及び解放動作が行われていないときは始動停止時用範囲を定義する始動停止時用下限値RTCKL1及び始動停止時用上限値RTCKH1が適用される。そして、通常運転用範囲(2以上4以下)が最も狭く設定され、始動停止時用範囲(1以上10以下)が最も広く設定され、動力伝達時用範囲(1以上8以下)が通常運転用範囲と始動停止時用範囲の中間の幅に設定される。
【0039】
エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL未満であってかつクラッチ22の締結動作及び解放動作が行われていないときは、エンジン1が始動中かあるいは停止直前の状態であり、最も回転変動が大きくなる一方、エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL以上であるときは、比較的回転変動が小さくなり、エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL未満であってもクラッチ22の締結動作または解放動作が行われているときは、回転変動は所定低回転数NETHL以上であるときより大きくなるが、始動時または停止直前よりも小さくなる。したがって、動力伝達時用範囲を通常運転用範囲と始動停止時用範囲の中間の幅に設定することによって、それぞれの運転状態に応じて適切な許容範囲とすることができる。
【0040】
本実施形態では、ECU5が故障判定手段を構成し、クランク角センサ10のパルスホイールが円板状部材に相当し、ピックアップコイルが回転センサに相当する。
【0041】
[第2の実施形態]
本実施形態は、駆動源として内燃機関及びモータを備えるハイブリッド車両の駆動制御装置に本発明を適用したものである。以下に説明する点以外は第1の実施形態と同一である。
【0042】
図5は本実施形態にかかる車両に搭載された内燃機関及びその制御装置の構成を示す図であり、図1に示す構成と比較して、クランク軸8がねじれ要素21を介してクラッチ22に連結されている点、及び変速機24の入力軸23を直接駆動可能なモータ25が設けられている点が異なる。ねじれ要素21としては例えばデュアルマスフライホイール、クラッチダンパ(クラッチ22のクラッチ板とシャフトとの間に設けられるトーションダンパ)などが用いられる。モータ25は、図示しないモータ制御用電子制御ユニットによりその作動が制御される。
エンジン1の駆動力はクラッチ22が締結されると、変速機24及び図示しない動力伝達機構を介して当該車両の駆動輪に伝達され、モータ25の駆動力は変速機24及び駆動力伝達機構を介して、当該車両の駆動輪に伝達される。
【0043】
本実施形態では、駆動源をエンジン1からモータ25へ切り換えるときは、モータ25への駆動電流の供給を開始してモータ25を回転させ、クラッチ22を解放し、エンジン1を停止させるという順序で切換動作が行われ、駆動源をモータ25からエンジン1へ切り換えるときは、クラッチ22が解放状態にあるのでまずクラッチ22を締結し、次にモータ25によってエンジン1を始動し、始動完了後にモータ25への駆動電流供給を停止するという順序で切換動作が行われる。
【0044】
図6は、本実施形態における外乱印加フラグFDISTの設定を行う処理のフローチャートである。図6のステップS41,S42,S45,及びS46は、図4のステップS31,S32,S33,及びS34と同一であり、ステップS43及びS44が追加されている。
【0045】
ステップS43では、モータ25によるエンジン1の始動中であるか否かを判別し、この答が肯定(YES)であるときは、外乱印加フラグFDISTを「1」に設定する(ステップS46)。ステップS43の答が否定(NO)であるときは、駆動源切換フラグFDSSWが「1」であるか否かを判別する(ステップS44)。
【0046】
駆動源切換フラグFDSSWは、車両の駆動源をモータ25からエンジン1への切換が行われた時点から所定時間(例えば3秒)の間「1」に設定される。ステップS44の答が肯定(YES)、すなわちモータ25による駆動からエンジン1による駆動への切換が行われた直後であるときは、ステップS46に進み、外乱印加フラグFDISTを「1」に設定する。
ステップS44の答が否定(NO)であるときは、外乱印加フラグFDISTを「0」に設定する(ステップS45)。
【0047】
本実施形態では、エンジン回転数NEが所定低回転数NETHL未満であってかつモータ25によって機関の始動を行うとき、またはモータ25による駆動からエンジン1による駆動に切り換えられた直後においては、クランク角センサ10の故障判定における許容範囲として動力伝達時用範囲(1以上8以下)が適用される。変速機24の入力軸23を直接駆動するモータ25によってエンジン1の始動を行うとき、またはモータ25に駆動からエンジン1による駆動への切換直後におけるエンジン回転変動は、クラッチ22の締結動作または解放動作が行われているときと同程度となるので、動力伝達時用範囲を適用することにより、誤判定を適切に防止できる。
【0048】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、クランク角センサ10のピックアップコイルに代えて、磁気抵抗素子を用いた磁気センサを使用してもよい。また発光ダイオードとフォトトランジスタの組み合わせを用いてパルスホイールの歯の通過を光学的に検出するようにしてもよい。その場合パルスホイールは磁性体で構成する必要はない。
【0049】
また上述した実施形態では、クラッチ22の締結制御及び変速機24の変速制御を油圧制御装置40によって行うようにしたが、電動アクチュエータによって行うようにしてもよい。また上述した実施形態では、クランク角センサ10のパルスホイールは、1つの欠け歯部を有する構成としたが、これに限るものではなく、2以上の欠け歯部を設けたものを使用してもよい。また上述した第2の実施形態では、クランク軸8とクラッチ22との間にねじれ要素21が介装されているが、本発明はねじれ要素の有無に関わらず適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 内燃機関
5 電子制御ユニット(故障判定手段)
8 クランク軸
10 クランク角センサ
22 クラッチ
23 入力軸
24 変速機
25 モータ
30 変速機制御用電子制御ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6