特許第6014038号(P6014038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6014038眼鏡装用シミュレーション方法、プログラム、装置、眼鏡レンズ発注システム及び眼鏡レンズの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014038
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】眼鏡装用シミュレーション方法、プログラム、装置、眼鏡レンズ発注システム及び眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
   A61B3/10 Z
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-530036(P2013-530036)
(86)(22)【出願日】2012年8月22日
(86)【国際出願番号】JP2012071162
(87)【国際公開番号】WO2013027755
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2015年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-182208(P2011-182208)
(32)【優先日】2011年8月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078880
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100169856
【弁理士】
【氏名又は名称】尾山 栄啓
(72)【発明者】
【氏名】祁 華
【審査官】 宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−230699(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/044383(WO,A1)
【文献】 特許第3825654(JP,B2)
【文献】 特許第3919097(JP,B2)
【文献】 特許第3342423(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 − 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の眼鏡レンズペアを左右の各眼前に配置したときの外界の見え方をシミュレートする眼鏡装用シミュレーション方法であって、
左右眼の仮想的な視野空間内に配置された仮想物体で構成される仮想情景データをもとに、両眼視差を利用して患者に立体視させるための左右一対の、該仮想情景の原画像を作成する原画像作成ステップと、
前記患者の処方情報をもとに設計された眼鏡レンズペアの右眼用眼鏡レンズの光学データに基づいて、該右眼用眼鏡レンズの持つ歪み及びボケの値を計算して右眼用の原画像に付与して加工するとともに、該眼鏡レンズペアの左眼用眼鏡レンズの光学データに基づいて、該左眼用眼鏡レンズの持つ歪み及びボケの値を計算して左眼用の原画像に付与して加工する、左右視野のレンズ越しに見える画像の作成ステップと、
前記加工後の左右各眼のレンズ越しに見える画像を所定の表示画面に立体視可能に表示する画像表示ステップと、
を含み、
前記左右視野のレンズ越しに見える画像の作成ステップにて、視野空間内の全ての物体点に対して、左右眼で同一の調節量を設定したうえで、前記ボケの値を計算し、
前記同一の調節量は、
A:前記視野空間内の各物体点に対し、前記患者の効き目の単眼視での調節量、
又は
B:前記視野空間内の各物体点に対し、左右の各眼で必要な調節量が少ない方の調節量、
である、
眼鏡装用シミュレーション方法。
【請求項2】
請求項1に記載の眼鏡装用シミュレーション方法をコンピュータに実行させるための眼鏡装用シミュレーションプログラム。
【請求項3】
左右一対の眼鏡レンズペアを左右の各眼前に配置したときの外界の見え方をシミュレートする眼鏡装用シミュレーション装置であって、
左右眼の仮想的な視野空間内に配置された仮想物体で構成される仮想情景データをもとに、両眼視差を利用して患者に立体視させるための左右一対の、該仮想情景の原画像を作成する原画像作成手段と、
前記患者の処方情報をもとに設計された眼鏡レンズペアの右眼用眼鏡レンズの光学データに基づいて、該右眼用眼鏡レンズの持つ歪み及びボケの値を計算して右眼用の原画像に付与して加工するとともに、該眼鏡レンズペアの左眼用眼鏡レンズの光学データに基づいて、該左眼用眼鏡レンズの持つ歪み及びボケの値を計算して左眼用の原画像に付与して加工する、左右視野のレンズ越しに見える画像の作成手段と、
前記加工後の左右各眼のレンズ越しに見える画像を所定の表示画面に立体視可能に表示する画像表示手段と、
を有し、
前記左右視野のレンズ越しに見える画像の作成手段は、視野空間内の全ての物体点に対して、左右眼で同一の調節量を設定したうえで、前記ボケの値を計算し、
前記同一の調節量は、
A:前記視野空間内の各物体点に対し、前記患者の効き目の単眼視での調節量、
又は
B:前記視野空間内の各物体点に対し、左右の各眼で必要な調節量が少ない方の調節量、
である、
眼鏡装用シミュレーション装置。
【請求項4】
左右一対の眼鏡レンズペアを左右の各眼前に配置したときの外界の見え方をシミュレートする眼鏡装用シミュレーション装置を用いて眼鏡レンズの発注を行う眼鏡レンズ発注システムであって、
請求項に記載の眼鏡装用シミュレーション装置と、
前記左右視野のレンズ越しに見える画像の作成手段が使用した前記処方情報又は該処方情報をもとに設計された眼鏡レンズペアデータを発注データとして所定の発注先に送信する発注データ送信手段と、
を有する
眼鏡レンズ発注システム。
【請求項5】
請求項1に記載の眼鏡装用シミュレーション方法を実施するステップと、
前記左右視野のレンズ越しに見える画像の作成ステップにて使用された前記処方情報又は該処方情報をもとに設計された眼鏡レンズペアデータを発注データとして所定の発注先に送信するステップと、
前記送信された処方情報又は該処方情報をもとに設計された眼鏡レンズペアデータに基づいて加工機を駆動制御してレンズ基材を加工し、眼鏡レンズを製造するステップと、
を含む、
眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対の眼鏡レンズペアを左右の各眼前に配置したときの外界の見え方をシミュレートする眼鏡装用シミュレーション方法、眼鏡装用シミュレーションプログラム、眼鏡装用シミュレーション装置、眼鏡レンズ発注システム、及び眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡店では、患者に対して検眼を行い、検眼で得られた処方値をもとに眼鏡の種類を選択する。眼鏡レンズの種類には、例えば、単焦点球面レンズ、単焦点非球面レンズ、疲労軽減用レンズ、近用専用レンズ、累進屈折力レンズ(遠近タイプ、中近タイプなど)がある。各種の眼鏡レンズには、テストレンズが複数種類用意されている。眼鏡店では、処方度数となるようにテストレンズが仮枠に挿入され、患者に対してテスト装用が行われる。テスト装用は、眼鏡を装用したときの外界の見え方を確認する唯一の機会であった。しかし、例えば累進屈折力レンズなど、特殊な透過度数分布を持つ眼鏡レンズのテスト装用では、実際の眼鏡レンズを装用したときの見え方を十分に反映していないことが多かった。
【0003】
そこで、患者が眼鏡を装用したときに外界がどのような見え方をするかを患者に擬似体験させる眼鏡装用シミュレーション装置が提案されている。例えば日本特許公報JP3342423(B2)(以下、「特許文献1」と記す。)に、眼鏡装用シミュレーション装置の具体的構成例が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の眼鏡装用シミュレーション装置は、単眼の前に眼鏡レンズを配置したときの外界の見え方をシミュレートする。この種のシミュレーション装置は、精確なシミュレーションを実現するため、眼鏡レンズ装用時のゆれ、歪み、ボケ等を人間の知覚作用までも考慮に入れて再現することができる。
【発明の概要】
【0005】
しかし、人間は、単眼でなく両眼によって外界を観察している。そのため、単眼の見え方を再現するという特許文献1におけるシミュレーションでは、実際に眼鏡を装用した際に装用者が外界をどのように知覚するかを表現するには不十分であった。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、眼鏡レンズを装用して外界を両眼視する際の見え方をシミュレートするのに好適な眼鏡装用シミュレーション方法、眼鏡装用シミュレーションプログラム、眼鏡装用シミュレーション装置、眼鏡レンズ発注システム、及び眼鏡レンズの製造方法を提供することである。
【0007】
本発明の一形態に係る眼鏡装用シミュレーション方法は、左右一対の眼鏡レンズペアを左右の各眼前に配置したときの外界の見え方をシミュレートする方法であり、左右眼の仮想的な視野空間内に配置された仮想物体で構成される仮想情景データをもとに、両眼視差を利用して患者に立体視させるための左右一対の、該仮想情景の原画像を作成する原画像作成ステップと、患者の処方情報をもとに設計された眼鏡レンズペアの右眼用眼鏡レンズの光学データに基づいて、該右眼用眼鏡レンズの持つ歪み及びボケの値を計算して右眼用の原画像に付与して加工するとともに、該眼鏡レンズペアの左眼用眼鏡レンズの光学データに基づいて、該左眼用眼鏡レンズの持つ歪み及びボケの値を計算して左眼用の原画像に付与して加工する、左右視野のレンズ越しに見える画像の作成ステップと、加工後の左右各眼のレンズ越しに見える画像を所定の表示画面に立体視可能に表示する画像表示ステップとを含む。本方法では、左右視野のレンズ越しに見える画像の作成ステップにて、視野空間内の全ての物体点に対して、左右眼で同一の調節量を設定したうえで、ボケの値を計算する。
【0008】
本発明の一形態によれば、視野空間内の各物体点のボケの値を計算する際に、左右眼で個別に最適な調節量を設定することなく、左右眼で共通の調節量を設定している。そのため、患者は、眼鏡レンズを装用して外界を両眼視した際の見え方をより精確に反映した眼鏡装用シミュレーションを受けることができ、歪み及びボケの精確な再現によって、現実に近い感覚で視差画像を立体視することができる。
【0009】
左右視野のレンズ越しに見える画像の作成ステップにて視野空間内の全ての物体点に対して設定される左右眼で同一の調節量は、例えば以下のルールA又はBに従って設定される。
A:視野空間内の各物体点に対し、患者の効き目の単眼視での調節量、
又は
B:視野空間内の各物体点に対し、左右の各眼で必要な調節量が少ない方の調節量
【0010】
また、本発明の一形態に係る眼鏡装用シミュレーションプログラムは、上記の眼鏡装用シミュレーション方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0011】
また、本発明の一形態に係る眼鏡装用シミュレーション装置は、左右一対の眼鏡レンズペアを左右の各眼前に配置したときの外界の見え方をシミュレートする装置であり、左右眼の仮想的な視野空間内に配置された仮想物体で構成される仮想情景データをもとに、両眼視差を利用して患者に立体視させるための左右一対の、該仮想情景の原画像を作成する原画像作成手段と、患者の処方情報をもとに設計された眼鏡レンズペアの右眼用眼鏡レンズの光学データに基づいて、該右眼用眼鏡レンズの持つ歪み及びボケの値を計算して右眼用の原画像に付与して加工するとともに、該眼鏡レンズペアの左眼用眼鏡レンズの光学データに基づいて、該左眼用眼鏡レンズの持つ歪み及びボケの値を計算して左眼用の原画像に付与して加工する、左右視野のレンズ越しに見える画像の作成手段と、加工後の左右各眼のレンズ越しに見える画像を所定の表示画面に立体視可能に表示する画像表示手段とを有している。本装置の、左右視野のレンズ越しに見える画像の作成手段は、視野空間内の全ての物体点に対して、左右眼で同一の調節量を設定したうえで、ボケの値を計算する。
【0012】
また、本発明の一形態に係る眼鏡レンズ発注システムは、左右一対の眼鏡レンズペアを左右の各眼前に配置したときの外界の見え方をシミュレートする眼鏡装用シミュレーション装置を用いて眼鏡レンズの発注を行うシステムであって、上記眼鏡装用シミュレーション装置と、左右視野のレンズ越しに見える画像の作成手段が使用した処方情報又は該処方情報をもとに設計された眼鏡レンズペアデータを発注データとして所定の発注先に送信する発注データ送信手段とを有することを特徴としたシステムである。
【0013】
また、本発明の一形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、上記眼鏡装用シミュレーション方法を実施するステップと、左右視野のレンズ越しに見える画像の作成ステップにて使用された処方情報又は該処方情報をもとに設計された眼鏡レンズペアデータを発注データとして所定の発注先に送信するステップと、送信された処方情報又は該処方情報をもとに設計された眼鏡レンズペアデータを用いて加工機を駆動制御してレンズ基材を加工し、眼鏡レンズを製造するステップとを含む。
【0014】
また、本発明の一形態に係る眼鏡レンズの設計方法は、患者の処方情報に基づいて眼鏡レンズペアを設計する方法であり、左右眼の仮想的な視野空間内の全ての物体点に対して、左右眼で同一の調節量を設定したうえで、眼鏡レンズが持つべきボケの値を計算するステップと、計算されたボケの値を用いて眼鏡レンズペアを設計するステップとを含む方法としてもよい。視野空間内の全ての物体点に対して設定される左右眼で同一の調節量は、患者の効き目の単眼視での調節量と同一であってもよく、また、左右の各眼で必要な調節量が少ない方の調節量と同一であってもよい。
【0015】
また、本発明の一形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、患者の処方情報に基づいて眼鏡レンズペアを設計するステップであって、左右眼の仮想的な視野空間内の全ての物体点に対して、左右眼で同一の調節量を設定したうえで、眼鏡レンズが持つべきボケの値を計算し、計算されたボケの値を用いて眼鏡レンズペアを設計するステップと、設計された眼鏡レンズペアの設計データを所定の発注先に送信するステップと、発注先にて受信された設計データを用いて加工機を駆動制御してレンズ基材を加工し、眼鏡レンズを製造するステップとを含む。視野空間内の全ての物体点に対して設定される左右眼で同一の調節量は、本製造方法においても、患者の効き目の単眼視での調節量と同一であってもよく、また、左右の各眼で必要な調節量が少ない方の調節量と同一であってもよい。
【0016】
本発明によれば、眼鏡レンズを装用して外界を両眼視する際の見え方をシミュレートするのに好適な眼鏡装用シミュレーション方法、眼鏡装用シミュレーションプログラム、眼鏡装用シミュレーション装置、眼鏡レンズ発注システム、及び眼鏡レンズの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズ発注システムの概略を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズ発注システムの構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る眼鏡装用シミュレーションプログラムによる眼鏡装用シミュレーションの流れを説明するための図である。
図4】眼鏡非装用時と眼鏡装用時の視野と表示画面との関係を概略的に示す図である。
図5】左右の裸眼視野の座標系を示す図である。
図6】眼鏡非装用時と眼鏡装用時の視野の座標系を示す図である。
図7】物体点を見るときの眼鏡レンズ−眼球光学系を示す図である。
図8】光線データの座標系を説明する図である。
図9】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法を実施する眼鏡レンズ製造工場を示すブロック図である。
図10】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る眼鏡レンズ発注システムについて説明する。
【0019】
[眼鏡レンズ発注システム10]
図1は、本実施形態の眼鏡レンズ発注システム10の概略を示す図である。図2は、眼鏡レンズ発注システム10の構成を示すブロック図である。眼鏡レンズ発注システム10は、例えば眼鏡店に設置されており、左右一対の眼鏡レンズペアを左右の各眼前に配置したときの外界の見え方をシミュレートするシステムである。眼鏡レンズ発注システム10は、図1に示されるように、ビデオモニタ102と、ビデオモニタ102に接続された店頭コンピュータ130を有している。
【0020】
眼鏡レンズ発注システム10は、図1又は図2に示されるように、ビデオモニタ102を有している。ビデオモニタ102は、両眼視差を利用して患者2に立体視させる三次元画像表示対応のビデオモニタ(液晶テレビやプラズマテレビ等)である。ビデオモニタ102は、フレームシーケンシャル方式を採用する。ビデオモニタ102の画像処理エンジン104は、店頭コンピュータ130より入力する画像データを処理して左右各眼の視差画像を生成し、各視差画像を交互に高速で表示画面106に表示する。
【0021】
患者2は、液晶シャッタめがね112を装用して基準位置に立ち、頭(顎)を固定した状態で表示画面106を視る。液晶シャッタめがね112には、ビデオモニタ102に搭載されたトランスミッタ108から同期信号が送信される。液晶シャッタめがね112は、受信した同期信号に従い、表示画面106に表示された視差画像と同期して液晶の配向をコントロールして、左右の視界を交互に遮断する。ビデオモニタ102と液晶シャッタめがね112とが同期する期間中、患者2の右眼には右眼用の仮想画像だけが見え、患者2の左眼には左眼用の仮想画像だけが見える。患者2は、パナムの融像域圏内であって網膜上の非対応点に結像する、ビデオモニタ102の表示画面106に表示される視差画像を、立体として知覚する。
【0022】
眼鏡レンズ発注システム10で利用されるビデオモニタ102の三次元画像の表示形式は、フレームシーケンシャル方式を採用したものに限らない。フレームシーケンシャル方式に代わり、視差画像を赤と青のカラーフィルタめがねを通じて立体視させるアナグリフ方式や、偏光状態が直交する視差画像を偏光めがねを通じて立体視させる偏光方式が採用されてもよい。パララックスバリア方式やレンチキュラーレンズ方式等のいわゆる裸眼式が採用されてもよい。
【0023】
患者2の眼と表示画面106との距離(説明の便宜上、「観察距離od」と記す。)は、原則固定である。しかし、観察距離odは、仮想画像に対する視野を拡大又は縮小するため、変更してもよい。具体的には、ビデオモニタ102は、台座122上に設置されている。台座122は、レール124をスライド自在に構成されている。台座122をスライドさせることにより、観察距離odが変化する。変更後の観察距離odは、オペレータが店頭コンピュータ130に直接入力してもよく、センサ(不図示)を用いて台座122のスライド距離を検知し、店頭コンピュータ130がデータとして採取してもよい。但し、左右眼の各仮想画像の視差は、観察距離odに応じて変更する必要がある。すなわち、左右眼の各仮想画像は、観察距離odが変更される度に再作成する必要がある。
【0024】
店頭コンピュータ130は、例えば一般的なPC(Personal Computer)であり、CPU(Central Processing Unit)132、HDD(Hard Disk Drive)134、RAM(Random Access Memory)136、入力装置138(キーボード、マウス、ゲームパッド等)、ディスプレイ140を有している。HDD134には、左右一対の眼鏡レンズペアを左右の各眼前に配置したときの外界の見え方をシミュレートするための眼鏡装用シミュレーションプログラムがインストールされている。CPU132は、眼鏡装用シミュレーションプログラムをRAM136にロードして起動する。眼鏡装用シミュレーションプログラムが起動すると、眼鏡装用シミュレーションの各種指示を行うためのGUI(Graphical User Interface)がディスプレイ140の表示画面に表示される。図3に、眼鏡装用シミュレーションプログラムによる眼鏡装用シミュレーションの流れを説明する図を示す。
【0025】
[眼鏡装用シミュレーションプログラムによる眼鏡装用シミュレーションの流れ]
図3のS1(検眼、処方値決定)〉
眼鏡店スタッフであるオペレータにより、患者2の検眼が行われる。検眼の結果、患者2に対する処方値が決定する。処方値には、例えば、球面屈折力、乱視屈折力、乱視軸方向、プリズム屈折力、プリズム基底方向、加入度数、遠用PD(Pupillary Distance)、近用PDがある。オペレータは、GUIを操作して、各種処方値データを入力する。または、検眼結果に基づいて各種処方値データが自動的に作成される。
【0026】
図3のS2(レンズ種類の選択)〉
オペレータは、GUIを操作して、検眼で得られた処方値をもとに眼鏡の種類を選択する。選択可能な眼鏡レンズには、例えば、単焦点球面レンズ、単焦点非球面レンズ、疲労軽減用レンズ、近用専用レンズ、累進屈折力レンズ(遠近タイプ、中近タイプなど)がある。
【0027】
図3のS3(レンズ表面データの作成)〉
眼鏡装用シミュレーションプログラムは、図3のS2の工程で選択された種類の眼鏡レンズによって処方度数が達成されるように、眼鏡レンズの表面形状データを作成する。表面形状データは、例えば本件特許出願時に公知の設計プログラムを用いて作成される。また、HDD134には、予め、処方度数と眼鏡レンズの種類から一義的に決まる規定の表面形状データが多数備えられていてもよい。すなわち、眼鏡装用シミュレーションプログラムは、設計プログラムによる表面形状データの作成に代わり、選択された種類と処方度数に応じた規定の表面形状データを、予め保持されているデータ群の中から選択する。なお、設計プログラムの実行は、例えば店頭コンピュータ130とネットワーク接続された眼鏡レンズメーカのサーバが負担してもよい。また、規定の表面形状データの格納場所は、同じく、眼鏡レンズメーカのサーバであってもよい。
【0028】
図3のS4(レンズレイアウトデータの作成)〉
オペレータは、GUIを操作して、患者2の要望に応じたレイアウトデータを入力する。レイアウトデータには、アイポイントの位置や前傾角、あおり角のデータが含まれる。レイアウトデータが未入力の場合は、デフォルト値が採用される。
【0029】
図3のS5(全視野光線データの作成)〉
図3のS1〜S4の工程を経て、眼鏡レンズの外面、内面の各面の表面形状データ、レンズ中心肉厚、前傾角、あおり角等が決定すると、眼鏡装用シミュレーションプログラムは、全視野光線データを作成する。全視野光線データについては、後に説明する。
【0030】
図3のS6(フレームデータの作成)〉
オペレータは、GUIを操作して、患者2によって選択されたフレームの形状データを入力する。フレームデータは、例えばバーコードタグで管理されており、バーコードリーダによるフレームに貼り付けられたバーコードタグの読み取りを通じて入手することができる。フレームデータが未入力の場合は、デフォルト値が採用される。
【0031】
図3のS7(情景選択及び左右視野の原画像の作成)〉
オペレータは、GUIを操作して、予め用意された複数の三次元仮想情景の中から患者2が所望する一つを選択する。例えば遠方距離の物体を主に配置した遠用情景、読書、携帯端末を操作するような近用情景、オフィス内情景などである。この三次元仮想情景には、特定の位置に左眼球回旋中心を配置し、左眼球回旋中心を頂点としかつ特定の視線方向(左眼中心視線方向)を軸とする特定視野角錐範囲に入る仮想物体の画像である左眼用原画像と、左眼球回旋中心から右側横方向PDだけ離れた位置に右眼球回旋中心を配置し、右眼球回旋中心を頂点としかつ左眼中心視線方向と同一方向を軸とする特定視野角錐範囲に入る仮想物体の画像である右眼用原画像が含まれる。三次元仮想情景には、左眼用原画像の全ての画素に対応する物体点から左眼球回旋中心までの距離の情報と、右眼用原画像の全ての画素に対応する物体点から右眼球回旋中心までの距離の情報が付帯する。
【0032】
図4(a)及び図5(a)、(b)は、原画像の作成に関する説明を補助する図である。図4(a)及び図5(a)、(b)の例では、ビデオモニタ102の表示画面106と直交する奥行き方向をx軸とし、表示画面106と平行な上下方向、左右方向をそれぞれ、y軸、z軸とする。ビデオモニタ102の表示画面106は、4つの頂点A、A、A、Aで囲われる矩形領域(アスペクト比16:9)であり、その大きさは510mm×287mmとし、解像度は1920pixel×1080pixelとする。また、左右の各眼球回旋中心O、Oからx軸方向に延びてビデオモニタ102の表示画面106と交差するそれぞれの点をA、Aとする。観察距離odは、左眼球回旋中心OとOと中点Oとビデオモニタ102の表示画面中心Aとの距離OAであり、650mmとする(距離O、距離Oも等しく650mmである。)。そのため、視野は横43°×縦25°となる。また、左右の眼球回旋中心OとOとの間隔を64mmとする。
【0033】
本工程について、図4(a)及び図5(a)、(b)を参照しつつ説明する。まず、眼鏡装用シミュレーションプログラムは、周知のコンピュータグラフィックスの手法により、仮想物体を三次元仮想空間に配置する。仮想物体は、患者2によって選択された三次元仮想情景を構成するオブジェクトであり、例えば仮想室内に配置される仮想の机、椅子、家具等であったり、仮想野外に配置される仮想花壇、樹木、標識等であったりする。これにより、三次元仮想情景が作成される。
【0034】
図5(a)に示されるように、眼鏡装用シミュレーションプログラムは、三次元仮想空間の特定の位置に左眼球回旋中心Oを配置する。次いで、左眼球回旋中心Oを頂点としかつx軸と平行な左眼視線軸Aを軸とした特定角錐範囲Aを視野として設定し、その視野内にある仮想物体の画像を左眼用原画像として作成する。説明を加えると、左眼球回旋中心Oを原点とし左眼視線軸Aをx軸とした直交座標系における、視野四角錐A内の任意の物体点P(x,y,z)の座標をT=y/x、C=z/xで表す。TとCは、物体点P(x,y,z)の方位パラメータである。視野内の各物体点をこの座標系で表すと、空間上の任意の直線が画像上、直線として映る。この座標系で各物体点を表した画像を左眼用原画像とする。また、眼鏡装用シミュレーションプログラムは、左眼用原画像の各画素に対応する物体点から左眼球回旋中心Oまでの距離、すなわち物体点距離も座標値から計算する。
【0035】
眼鏡装用シミュレーションプログラムは、上記と同様に右眼用原画像を作成するとともに、右眼用原画像の各画素に対応する物体点から右眼球回旋中心Oまでの物体点距離も座標値から計算する(図5(b)参照)。
【0036】
三次元仮想空間内の共通の物体点に対する物体点距離及び視線方向は、左右眼の回旋中心O、Oがz軸方向にずれているため、左右眼で相違する。そのため、左右眼の各原画像は、共通の仮想物体を映しつつ視差を有することとなる。
【0037】
なお、上記においては、左右の各眼の視野空間を別々に定義したうえで各原画像を作成し、各画素に対応する物体点までの物体点距離を計算しているが、計算処理の効率化のため、左右眼で共通の視野空間を定義し、左右の各原画像の作成及び物体点距離の計算を行ってもよい。
【0038】
左右眼で共通の視野空間は、左右の各眼球回旋中心OとOとの中点Oを頂点とした錐体で定義される(図6(a)参照)。ここでは、左右の各原画像、及び各画素に対応する物体点までの物体点距離は、以下に示す各式を用いた計算により取得される。
【0039】
両眼視野内の任意の物体点P(x,y,z)は、次式で定義される物体点距離OPの逆数D、ベクトルPOとx軸との角度ρ、方位角θで示される。物体点距離は、後述のスプライン関数を説明する際の便宜上、逆数で示す。
【数1】
【0040】
また、左右の各眼の視野内の各物体点の方位パラメータT、C、T、Cは、両眼視野内の方位パラメータT、Cに基づいて次の通りに定義される。各物体点を方位パラメータT、Cの座標系で表した画像が左眼用原画像となる。また、各物体点を方位パラメータT、Cの座標系で表した画像が右眼用原画像となる。
【数2】
【0041】
また、物体点距離OPの逆数D、物体点距離OPの逆数Dは、次の通りに定義される。
【数3】
【0042】
図3のS8(レンズ使用位置の指定)〉
レンズ使用位置とは、視野中心への視線が交わる眼鏡レンズ上の位置をいう。例えば図3のS2の工程で選択された種類が累進屈折力レンズである場合を考える。図3のS7の工程で選択された三次元仮想情景が全視野の一部である遠方の情景である場合、眼鏡装用シミュレーションプログラムは、眼鏡レンズの上方(例えば遠用アイポイント)をレンズ使用位置として指定する。また、図3のS7の工程で選択された三次元仮想情景が全視野の一部である近方の情景である場合、眼鏡装用シミュレーションプログラムは、眼鏡レンズの下方(例えば近用アイポイント)をレンズ使用位置として指定する。
【0043】
図3のS9(表面処理、調光、染色などの特殊加工の選択)〉
オペレータは、GUIを操作して、表面処理、調光、染色などの特殊加工の有無を選択する。特殊加工には、染色加工、ハードコート、反射防止膜、紫外線カット、調光加工等がある。
【0044】
図3のS10(波長別透過率データの作成)〉
眼鏡装用シミュレーションプログラムは、図3のS9の工程で選択された特殊加工に応じた波長別透過率データを作成する。このデータを使って、特殊加工のレンズ越しに見える視野画像の色を変化させる。
【0045】
図3のS11(左右視野のレンズ越しに見える画像(映像)の作成)〉
ここで、全視野光線データの作成について説明する。眼鏡レンズを装用すると、レンズの屈折作用によって視野が変形するとともにボケが発生する。図4(b)の例では、左眼視野がA(A)からA’A’(A’A’)に変化し、右眼視野がA(A)からA’A’(A’A’)に変化する。眼鏡レンズの装用により、単眼の歪みやボケの変化だけではなく、両眼による立体感覚も変化する。特に、累進屈折力レンズの場合は、視野内における歪みやボケの分布が不規則であるため、立体感覚に対する変化の影響が大きい。そこで、本実施形態では、左右各眼の視野に対して左右眼の各レンズによる歪みやボケを精確に反映するための全視野光線データを作成する。
【0046】
但し、左右の各原画像の全ての画素に対し、空間上の位置を特定したうえで歪み及びボケを光線追跡して求めるには、膨大な計算量が必要である。そのため、本実施形態では、全視野空間の有限数のサンプル点についてのみ光線追跡を行い、各サンプル点間の歪みとボケの値については、周知のスプライン補間法を用いて補間する。サンプル点の数は、歪みとボケの値の精度と計算量とのバランスを考慮して適宜設定される。このようにして、全視野空間内の全ての位置の歪みとボケの値を表す全視野光線データが作成される。
【0047】
物体点Pを見たときの左右の各眼における歪みについて説明する。眼鏡レンズが眼前の所定の姿勢位置(眼鏡レンズの後方頂点と角膜頂点との角膜頂点間距離、アイポイント、前傾角、あおり角など)に配置されると、任意の物体点Pからの光線は、眼鏡レンズで屈折して眼に到達する。物体点Pは、左眼(又は右眼)のそれぞれにとって、眼鏡レンズの射出光線Q(又はQ)の延長線上にあるように見える。図6(b)に示されるように、射出光線Q(又はQ)の方位と、元々の光線PO(又はPO)の方位が異なることが視線の歪みとして現れる。
【0048】
次に、物体点Pを見たときの左右の各眼におけるボケについて説明する。左眼(又は右眼)は、図7に示されるように、射出光線Q(又はQ)へ回旋して物体点Pを光軸上で捉えようとする。このとき、物体点Pの像を網膜上に結像させるために必要な眼球の調節量は、物体点Pから放射した光線の後方頂点球面における波面パワーと、眼の遠用矯正度数によって決まる。例えば眼の遠用矯正度数を0とする。この場合において、後方頂点球面における波面パワーを−2.0D(0.5m近方物体相当)とすると、眼球の必要な調節量は、2.0Dである。なお、後方頂点球面は、眼球回旋中心を中心とし、眼球回旋中心から眼鏡レンズの後方頂点までの距離を半径とした球面である。
【0049】
ここで、両眼視した場合、左右眼の各レンズ上における視線通過点によっては、互いのレンズパワーが異なる場合がある。また、眼鏡レンズの周辺部に映る近距離の物体は、左眼側と右眼側とで物体点距離が往々にして異なる。これらの場合、左右眼で必要な調節量が相違する。従来の単眼での眼鏡装用シミュレーションでは、各眼について個別に眼球調節範囲を考慮し、物体点が各眼の網膜上にぴたりと結像する最適な調節量を設定していた。しかし、生理光学の原理によれば、左右眼には常に同一量の調節が働く(Heringの等量神経支配の法則(Hering's law of equal innervation)に基づく。例えば、Alan Tunacliffeの「Introduction to Visual Optics」 p319.或いは、William J. Benjaminの「Borish’s Clinical Refraction」Second edition p162.を参照)。そのため、左右眼で必要な調節量が異なる物体点については、実際には同時に網膜上にぴたりと結像させることができない。しかし、従来の単眼での眼鏡装用シミュレーションでは、常に、単眼の眼球調節範囲内に収まる物体点が網膜上にぴたりと結像するため、仮想視野を十分に再現することができていなかった。
【0050】
そこで、本実施形態では、より精確な眼鏡装用シミュレーションを実現するため、左右各眼の調節量を次のルールA、Bに従って決定する。これにより、左右各眼に対して同一の調節量が設定されるため、物体点が網膜上にぴたりと結像しない状態が一方の眼で発生し、従来の単眼での眼鏡装用シミュレーションと比べて、より精確なボケが再現されることとなる。
(ルールA)
視野空間内の各物体点に対し、患者2の効き目の単眼視での調節量を左右各眼の調節量とする。
(ルールB)
患者2の効き目が不明な場合は、視野空間内の各物体点に対し、必要な調節量が小さい方の眼の調節量を左右各眼の調節量とする。
【0051】
ここで、光線データの座標系を更に説明を加える。図8に示されるように、視野空間内の任意の一点P(x、y、z)は、回旋中心Oからの距離と方位パラメータT、C又はρ、θで特定することができる。距離POは逆数Dで表し、無限遠方の場合は0になる。方位パラメータTは、縦方位角のタンジェント、Cは横方位角のタンジェントである。縦横の方位を極座標で表すと、半径角ρと極方位角θとなる。各パラメータは、次式で示される。
【数4】
上記式において、TとCは物体点の座標値から計算しているが、光線POの方向余弦から計算することも可能である。むしろ方向余弦から計算することが普通である。仮にPOの単位ベクトルが
【数5】
であるとき、
【数6】
である。このように、視野内任意一点は座標(x、y、z)以外に(D、T、C)又は(D、ρ、θ)で表すことも可能である。(x、y、z)で表す場合、x、y、zについてそれぞれ定義域を設定すると、長方体の空間の区切りとなる。一方、(D、T、C)で表す場合、D、T、Cについてそれぞれ定義域を設定すると、四角錐の区切りとなる。特許文献1ではこの四角錐方式によって空間が定義されている。(D、ρ、θ)で表す場合、D、ρ、θについてそれぞれ定義域を設定すると、(θは0−360になるが)、円錐の区切りになる。メガネレンズは丸い形が一般的であるため、(D、ρ、θ)で表すと都合がよい。
【0052】
全視野光線データの実体は、任意の物体点に対して、歪み及びボケの値を計算するためのスプライン関数の係数である。ここで、全視野光線データの一例を示す。全視野光線データの作成にあたり、視野空間を図6の錐体座標で表し、各座標軸でサンプル点を設定する。例えば物体点距離の逆数Dのサンプル点は、(0.0,0.5,1.0,1.5,・・・3.5)とする。0.0Dは無限遠方である。例えば3.5Dの場合、約286mmである。なお、サンプル点は等間隔でなくてもよい。半径角ρのサンプル点は、例えば(0.0,1.0,2.0,・・・60)度とする。方位角θは、0〜360度を必ずカバーするようにサンプル点を設定する。眼鏡装用シミュレーションプログラムは、各軸のサンプル点の交差点の全てに対して両眼視光線追跡を行い、各交差点における歪み及びボケのデータを計算する。眼鏡装用シミュレーションプログラムは、各交差点における歪み及びボケの計算結果データを用いて、全視野光線データの実体であるスプライン係数を導出し、HDD134等の記憶領域に保存する。
【0053】
例えば、右眼の像側縦方位パラメータT’(出射光線(図7のQO)の方向ベクトルより求めるもの)は、N、N、NをBスプライン基底関数と定義し、右眼視野に含まれる各目標点の座標を(D、ρ、θ)と定義し、Cijkを各目標点(D、ρ、θ)近傍の基底関数の係数と定義した場合、次式で表される。各目標点(D、ρ、θ)付近の節点(サンプル点で代用)の位置は、節点の間隔に応じて値が定まる。
【数7】
他のパラメータ、例えば像側横方位パラメータC’やボケの程度を表す計算視力なども同様に求めることができる。
【0054】
眼鏡装用シミュレーションプログラムは、図3のS5の工程で作成された全視野光線データ、図3のS6の工程で作成されたフレームデータ、図3のS7の工程で作成された左右の各原画像データ、図3のS8の工程で指定されたレンズ使用位置、図3のS10の工程で作成された波長別透過率データの各種データに基づいて、左右視野のレンズ越しに見える画像を作成する。具体的には、眼鏡装用シミュレーションプログラムは、図3のS5の工程で作成された全視野光線データ(スプライン関数の係数)に基づいて、左眼球回旋中心から左眼のレンズ使用位置(図3のS8の工程で指定)への方向を中心とする左眼視野を左眼レンズ通過後視野と定義し、左眼レンズ通過後視野における左眼用原画像の各画素に対応する物体点に対して物体点距離に応じた歪み及びボケの値を与えて、眼鏡レンズによる歪み及びボケを加えた左眼側の眼鏡レンズ越しに見える視野の画像を作成する。眼鏡装用シミュレーションプログラムは、同様の手法により、左眼側の眼鏡レンズ越しに見える視野の画像も作成する。また、波長別透過率データに基づいて左右の各視差画像の色を変化させる。フレーム外の視野に対応する原画像の領域には、歪みを付加せず、裸眼時のボケを別途作成して付加する。
【0055】
なお、全視野光線データと同様のデータを作成し、作成したデータを原画像に適用して歪み及びボケを付加する処理(例えば、歪み原画像作成処理、PSF(Point Spread Function:点広がり関数)取得処理、畳み込み処理など)の詳細な説明は、例えば本出願人による特許文献1、日本特許公報JP3825654(B2)、日本特許公報JP3919097(B2)等において参照される。
【0056】
図3のS12(3Dモニタを用いて左右視野のレンズ越しに見える画像(映像)を患者に提示)〉
眼鏡装用シミュレーションプログラムは、図3のS11の工程で作成された左右視野のレンズ越しに見える画像データをビデオモニタ102に転送して表示画面106に表示させ、患者2に提示する。本実施形態によれば、各物体点のボケの値を計算する際に、左右眼で個別に最適な調節量を設定することなく、所定のルールに従って左右眼で共通の調節量を設定している。そのため、患者2は、眼鏡レンズを装用して外界を両眼視した際の見え方をより精確に反映した眼鏡装用シミュレーションを受けることができ、歪み及びボケの精確な再現によって、現実に近い感覚で視差画像を立体視することができる。
【0057】
また、左右の各視野の画像には、眼鏡レンズのフィッティングクロス(瞳孔に中心を合わせたレンズ上のポイント)の位置を重畳表示してもよい。フィッティングクロスの位置を重畳表示することにより、フィッティングクロスの位置が本来の位置に対してずれたとき(例えば枠入れが正しくできていない状態)の外界の見え方がシミュレート可能になる。オペレータは、フィッティングクロスの位置ズレ量と外界の見え方の変化を視認する(又は患者2の意見を聞く)ことにより、枠入れのズレの許容度を定量的に把握することができる。
【0058】
図3のS13(可否判断)〉
例えばシミュレーション対象のレンズが累進屈折力レンズの場合、患者2は、普段の使用状況を想定した遠用情景、近用情景、中間距離情景など、順次、所定の目的に応じて複数の三次元仮想情景を選択して左右視野のレンズ越しに見える画像を視認する。そして、患者2が一つの情景でも不快と感じた場合、オペレータは、店頭コンピュータ130に対して眼鏡レンズの再設計を指示入力し、レンズ設計の変更を行う。すなわち、眼鏡装用シミュレーションプログラムは、図3のS2以降の工程を再度行う。図3のS2〜S13の工程は、例えば患者2が全ての三次元仮想情景に対して左右視野のレンズ越しに見える画像を視認して快適と感じるまで繰り返し行われる。
【0059】
図3のS14(注文)〉
患者2が、選択した全ての三次元仮想情景に対して、左右視野のレンズ越しに見える画像を視認して快適と感じた場合、オペレータは、店頭コンピュータ130に対して眼鏡レンズの発注を指示入力する。眼鏡装用シミュレーションプログラムは、左右視野のレンズ越しに見える画像の作成に使用した現時点の処方値データ及び眼鏡レンズの設計データの少なくとも一方を、例えばインターネット経由で眼鏡レンズ製造工場20に送信する。なお、ここでいう眼鏡レンズの設計データは、眼鏡装用シミュレーションプログラムが上記処方値データをもとに作成した、眼鏡レンズペアの設計データである。
【0060】
[眼鏡レンズ製造工場20及び眼鏡レンズの製造方法]
図9は、本発明の実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法を実施するための眼鏡レンズ製造工場20を示すブロック図である。また、図10は、本発明の実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法を示すフローチャートである。図9に示されるように、眼鏡レンズ製造工場20には、ホストコンピュータ200を中心としたLAN(Local Area Network)が構築されており、眼鏡レンズ加工用コンピュータ202をはじめ、図示省略された多数の端末装置が接続されている。
【0061】
ホストコンピュータ200は、眼鏡レンズ発注システム10による眼鏡装用シミュレーションの実施(図10のS101、図3)により得られた発注データ(左右視野のレンズ越しに見える画像の作成に使用した上記現時点の処方値データ及び眼鏡レンズの設計データの少なくとも一方)を、店頭コンピュータ130より受信して、眼鏡レンズ加工用コンピュータ202に転送する(図10のS102)。
【0062】
眼鏡レンズ加工用コンピュータ202は一般的なPCであり、眼鏡レンズ加工用のプログラムがインストールされている。オペレータは、レンズ基材を加工機(例えばカーブジェネレータ等の切削加工機)204にセットして、眼鏡レンズ加工用コンピュータ202に対して加工開始の指示入力を行う。眼鏡レンズ加工用コンピュータ202は、ホストコンピュータ200から転送された発注データ(受信した処方値データ又は眼鏡レンズの設計データ)に基づいて加工機204を駆動制御してレンズ基材を加工し、眼鏡レンズの凸面形状及び凹面形状を創成する(図10のS103)。各面が創成された眼鏡レンズには、ハードコート被膜や反射防止膜、紫外線カット等の各種コーティングが施される(図10のS104)。これにより、眼鏡レンズが完成して眼鏡店に納品される。説明を加えると、眼鏡レンズが上記ルールAを適用してシミュレーションされた場合、左右一対の眼鏡レンズペアが共に患者2の効き目の単眼視での調節量を設定されたうえでボケの値が計算されたものとなり、眼鏡レンズが上記ルールBを適用してシミュレーションされた場合は、左右一対の眼鏡レンズペアが共に左右眼のうち必要な調節量が小さい方の眼の調節量を設定されたうえでボケの値が計算されたものとなる。
【0063】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば、ビデオモニタ102と店頭コンピュータ130は、本実施形態では別個独立した装置であるが、別の実施形態では一体化された装置であってもよい。
【0064】
また、本実施形態では、静止画の画像について説明したが、左右の眼球回旋中心の位置や中心視線方向等を変えながら静止画の画像を時系列に多数作成し、それを連続的に再生することによって動画をシミュレートできるようにしてもよい。
【0065】
また、本実施形態では、シミュレーション画像の作成及び表示を行って患者2に装用状態をシミュレーションさせることで眼鏡レンズペアを設計しているが、別の実施形態では、シミュレーション画像の作成及び表示を行うことなく、患者2の効き目の単眼視での調節量又は左右眼のうち必要な調節量が小さい方の眼の調節量に着目して眼鏡レンズペアを設計してもよい。すなわち、患者の処方情報に基づいて眼鏡レンズペアを設計する際、左右眼の仮想的な視野空間内の全ての物体点に対して、左右眼で同一の調節量を設定(左右の各眼の調節量を患者の効き目の単眼視での調節量に合わせて設定、又は左右の各眼で必要な調節量が少ない方の調節量に合わせて設定)したうえで、眼鏡レンズが持つべきボケの値を計算し、計算されたボケの値を用いて眼鏡レンズペアを設計してもよい。このように、装用シミュレーションを省いて設計された眼鏡レンズペアも、本実施形態と同様に、眼鏡レンズ製造工場20にて製造することができる。
【0066】
また、これまでの説明では、設計結果に基づいて眼鏡レンズペアを眼鏡レンズ製造工場20にて製造している。一方、設計された眼鏡レンズペアの各々と実質同等の性能を持つものが既に存在(ペアとして存在又は左右眼それぞれについて独立に存在)している場合が考えられる。この場合、既に存在している眼鏡レンズの中から設計結果に従った適正な眼鏡レンズを左右眼それぞれについて選択し、眼鏡レンズペアを得るようにしてもよい。
図1
図2
図3
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図4