(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発泡模型の表面に塗型剤を塗布してなる鋳型を鋳砂の中に埋めた後に、前記鋳型内に金属の溶湯を注ぎ込み、前記発泡模型を消失させて前記溶湯と置換することで、鋳物を鋳造する消失模型鋳造方法において、
鋳造によって、直径が18mm以下の穴を前記鋳物に形成するとともに、
前記穴が形成される部分である前記発泡模型の穴部の直径をD(mm)、樹脂分解するまで加熱した後に常温に戻した前記塗型剤の抗折強度をσc(MPa)とすると、前記発泡模型に塗布する前記塗型剤の厚みを1mm以上とし、且つ、以下の式を満たす前記塗型剤を用いることを特徴とする消失模型鋳造方法。
σc≧−0.36+140/D2
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
(消失模型鋳造方法)
本発明の実施形態による消失模型鋳造方法は、発泡模型の表面に塗型剤を塗布してなる鋳型を鋳砂(乾燥砂)の中に埋めた後に、鋳型内に金属の溶湯を注ぎ込み、発泡模型を消失させて溶湯と置換することで、鋳物を鋳造する方法である。この消失模型鋳造方法は、「鋳抜き」によって、例えば、直径が18mm以下で長さが100mm以上の細穴を備えた鋳物を鋳造するのに最も適した方法であると考えられる。
【0014】
消失模型鋳造方法は、金属(鋳鉄)を溶解して溶湯とする溶解工程と、発泡模型を成形する成形工程と、発泡模型の表面に塗型剤を塗布して鋳型とする塗布工程と、を有している。さらに、消失模型鋳造方法は、鋳型を鋳砂の中に埋めて鋳型の隅々にまで鋳砂を充填する造型工程と、鋳型内に溶湯(溶融金属)を注ぎ込むことで、発泡模型を溶かして溶湯と置換する鋳込工程と、鋳型内に注ぎ込んだ溶湯を冷却して鋳物にする冷却工程と、鋳物と鋳砂とを分離する分離工程と、を有している。
【0015】
溶湯にする金属としては、ねずみ鋳鉄(JIS−FC250)や片状黒鉛鋳鉄(JIS−FC300)などを用いることができる。また、発泡模型としては、発泡スチロールなどの発泡樹脂を用いることができる。また、塗型剤としては、シリカ系骨材の塗型剤などを用いることができる。また、鋳砂としては、SiO
2を主成分とする「けい砂」や、ジルコン砂、クロマイト砂、合成セラミック砂などを用いることができる。なお、鋳砂に粘結剤や硬化剤を添加してもよい。
【0016】
ここで、本実施形態では、発泡模型に塗布する塗型剤の厚みを1mm以上としている。なお、塗型剤の厚みは3mm以下が好ましい。塗型剤の厚みが3mm以上になると、塗型剤の塗布と乾燥とを3回以上繰り返す必要があり手間がかかる上に、厚みが不均一になりやすいからである。また、以下の式(1)を満たす塗型剤を用いている。
【0017】
σc≧−0.36+140/D
2 ・・・式(1)
ここで、Dは発泡模型の穴部の直径(mm)、σcは樹脂分解するまで加熱した後に常温に戻した塗型剤の抗折強度(曲げ強さ)(MPa)である。なお、発泡模型の穴部は、鋳抜きによって穴が形成される部分である。
【0018】
ここで、上面図である
図1Aおよび側面図である
図1Bに示すように、直方体の発泡模型2の中央部に、直径がD(mm)で長さがl(mm)の穴部3が上面から下面にかけて貫通して設けられた鋳型1を用いて、直径が18mm以下で長さが100mm以上の細穴を備えた鋳物を鋳造する場合について考える。なお、穴部3は、その穴端部3aにおいて発泡模型2の面との間に角が生じるように設けられている。即ち、穴端部3aにテーパなどの加工は施されていない。また、穴部3の直径Dは、穴部3の中心線を挟んだ穴部3の表面間の長さであり、穴部3の表面に塗布された塗型剤の表面間の長さではない。
【0019】
ここで、細穴の直径は、10mm以上であることが好ましい。また、細穴の直径は、18mm以下であることがより好ましい。直径10mmの細穴の表面に厚み3mmの塗型剤を塗布すると、細穴の内側の空間の内径が4mmとなり、細穴の内部に鋳砂を投入するのが困難になるからである。
【0020】
まず、基本的な鋳造条件にしたがって、発泡模型2の穴部3の表面に塗布された塗型剤に作用する負荷を予測する。ここで、細穴を鉛直方向に沿って設ける場合、穴部3の穴端部3aに塗布した塗型剤には以下の外力が作用する。
(1)溶湯の静圧(σp)
(2)溶湯の流れによる動圧(σm)
(3)塗型剤と溶湯との凝固時の熱収縮・膨張差(σthout)
(4)穴部3内の鋳砂と塗型剤との熱収縮・膨張差(σthin)
(5)発泡模型の燃焼で発生したガスの圧力(Pgout)(σgout)
(6)発泡模型の燃焼で発生したガスが穴部3の内部に溜まって生じる内圧(Pgin)(σgin)
【0021】
したがって、溶湯(溶融金属)の温度と同等の高温下における塗型剤の強度をσbとすると、以下の式(2)が成立すれば、塗型剤の損傷による溶湯と鋳砂との「焼き付き」を生じさせることなく、「鋳抜き」することが可能となる。
【0022】
σb>σp+σm+σthout+σthin+σgout+σgin ・・・式(2)
【0024】
(溶湯の静圧)
鋳型1の側面図である
図2に示すように、発泡模型2を消失させて溶湯6と置換すると、発泡模型2の周囲に充填された鋳砂5は、溶湯6の静圧を受ける。
図2のA−A断面図である
図3に示すように、穴部3の表面に塗布された塗型剤4は、周方向に圧縮力を受ける。
【0025】
ここで、発泡模型2の周囲に充填された鋳砂5の量が十分である場合には、
図2の要部Bの拡大図である
図4に示すように、穴端部3aに塗布された塗型剤4において、溶湯6の静圧と鋳砂5からの反力とが釣り合う。よって、穴部3の軸方向の負荷は無視することができる。
【0026】
一方、穴部3の内部に充填された鋳砂5の量が不十分である場合には、穴端部3aに塗布された塗型剤4には、溶湯6の静圧(浮力)による曲げ応力が作用する。
【0027】
ここで、穴部3の直径をD(mm)、重力加速度をg、溶湯6の密度をρ
m(kg/mm
3)とすると、溶湯6の静圧による穴部3(半円)への外力w(N/mm)は、平均ヘッド差(溶湯の湯口と穴部3との鉛直方向高さの差)h(mm)として、次式(3)で求めることができる。なお、溶湯の湯口とは、穴部よりも上方において、発泡模型を囲む鋳砂に開口されて、溶湯が注ぎ込まれる箇所である。
【0028】
w=ρ
mgh×∫(D/2sinθ×θ)dθ
=ρ
mghD/2×∫sin
2θdθ
=ρ
mghD/2〔θ/2−sin2θ/4〕
=(π/4)ρ
mghD ・・・式(3)
【0029】
穴部3の表面に塗布された厚みt(mm)の塗型剤4に作用する応力は、穴部3の内部に充填された鋳砂5からの反力が無いと仮定して平板に近似すると、梁理論から次式(4)のσ
p(MPa)となる。
【0030】
σ
p≒M/I×t/2=(π/8)ρ
mghl
2/t
2 ・・・式(4)
ここで、Mは穴部3の両端に作用するモーメント、Iは半円筒の断面2次モーメントである。
M=(π/48)ρ
mghDl
2
I=Dt
3/12
【0031】
(溶湯の流れによる動圧)
溶湯の流れによる動圧は、溶湯の流れが静かであることを前提とすると、無視することができる。
【0032】
(塗型剤と溶湯との凝固時の熱収縮・膨張差)
線膨張率は、鋳砂より鋳鉄の方が大きい。よって、塗型剤と溶湯との凝固時の熱収縮・膨張差は、塗型剤の軸方向に圧縮力を与える。この圧縮力は、塗型剤が形成する円管が座屈により破壊される原因になりうるが、無視できるほど小さいと考えられる。また、塗型剤の周方向の応力も無視することができる。
【0033】
(穴部内の鋳砂と塗型剤との熱収縮・膨張差)
穴部3内の鋳砂や塗型剤は、溶湯よりも温度変化が小さい。よって、穴部3内の鋳砂と塗型剤との熱収縮・膨張差による影響は、塗型剤と溶湯との凝固時の熱収縮・膨張差よりも小さく、無視することができる。
【0034】
(発泡模型の燃焼で発生したガスの圧力)
鋳型1の側面図である
図5に示すように、発泡模型2を消失させて溶湯6と置換すると、発泡模型2の周囲に充填された鋳砂5は、発泡模型2の燃焼で発生したガスの圧力を受ける。
【0035】
図5のC−C断面図である
図6に示すように、穴部3の表面に塗布された塗型剤4は、周方向に圧縮力を受ける。しかし、
図5の要部Dの拡大図である
図7に示すように、穴部3の軸方向には、次式(5)の引張力を与える。
【0036】
σgout∝Pgout/D
2 ・・・式(5)
【0037】
なお、
図7に示すように、発泡模型2の周囲に充填された鋳砂5の量が十分である場合には、ガスの圧力と鋳砂5からの反力とが釣り合うので、穴部3の軸方向の負荷は無視することができる。
【0038】
(発泡模型の燃焼で発生したガスが穴部の内部に溜まって生じる内圧)
発泡模型2の燃焼で発生したガスが穴部3の内部に溜まって生じる内圧は、塗型剤に式(6)の周方向の応力、および、式(7)の軸方向の応力を生じさせる。
【0039】
σgin≒D×Pgin/t ・・・式(6)
σginz≒D×Pgin/(2t) ・・・式(7)
【0040】
ここで、穴部3の直径Dが小さいほど鋳抜きがし難いことから、式(6)、式(7)で表される外力の影響は無視できるほど小さいといえる。
【0041】
以上から、鋳砂の充填量が十分である場合には、塗型剤への負荷は小さい。しかし、実際には、鋳砂からの反力は十分ではなく、塗型剤には、溶湯の静圧による曲げ応力、および、発泡模型2の燃焼で発生したガスの圧力による軸方向の引張力が作用する。よって、塗型剤は、これらに耐えうる強度を有する必要がある。したがって、鋳抜き条件として、式(2)は、式(4)と式(5)とを用いて、式(8)のように近似することができる。
【0042】
σb>σp+σgout=(π/8)ρ
mghl
2/t
2+kPgout/D
2+γ ・・・式(8)
ここで、kは比例定数、γ=σm+σthout+σthin+σgin≒0である。
【0043】
式(8)は、鋳砂の反力が無いときに成立する、もっとも厳しい条件である。そこで、鋳砂の反力も加味して各項を係数に置き換えると、式(9)のような、穴部3の直径Dと長さl、および、塗型剤の厚みtの関数とすることができる。
【0044】
σb>α・l
2/t
2+β/D
2 ・・・式(9)
【0045】
ここで、高温下における塗型剤の強度σb(MPa)の代わりに、樹脂分解するまで加熱した後に常温に戻した塗型剤の抗折強度σc(MPa)を用いる。すると、樹脂分解するまで加熱した後に常温に戻した塗型剤の抗折強度と、穴部の鋳抜き可能な直径(鋳抜き可能径)との関係から、式(9)は式(10)で表すことができる。なお、樹脂分解するまで加熱した後に常温に戻した塗型剤の抗折強度と、鋳抜き可能径との関係については後述する。
【0046】
σc≧−0.36+140/D
2 ・・・式(10)
【0047】
よって、上記の式(10)を満たす塗型剤を用いて、発泡模型に塗布する塗型剤の厚みを1mm以上とすることで、直径が18mm以下で長さが100mm以上の細穴を備えた鋳物を鋳造しても、塗型剤が損傷しないようにすることができる。
【0048】
(鋳抜き評価)
次に、発泡模型に塗布する塗型剤の厚みを1mmとし、鋳抜きで形成する細穴の長さを100mmとした場合について、塗型剤、鋳砂、および、穴部3の直径をそれぞれ異ならせて、鋳抜きの可否を評価した。塗型剤の種類を表1に、鋳砂の種類を表2に、それぞれ示す。また、鋳抜き可否の結果を表3に示す。また、塗型剤の種類と平均鋳抜き可能径との関係を
図8に示す。
【0052】
この評価は、同じ成分のねずみ鋳鉄(JIS−FC250)を用いて、同じ鋳造方法で行っている。よって、表1に示した3種類の塗型剤は、それぞれ高温強度(最高温度約1200℃)が式(9)を満たすものと推定できる。
【0053】
ここで、塗型剤の高温強度を直接測定することは困難である。そこで、塗型剤の強度を間接的に推定する方法を検討した。乾燥させた塗型剤の常温における抗折強度(曲げ強さ)(表1)と鋳抜き可能径(表3)との関係を
図9に示す。
図9からわかるように、両者の相関は低い。よって、常温の塗型剤の抗折強度と、塗型剤の高温強度との相関は小さい。これは、塗型剤が乾燥した後の抗折強度においては、粘結剤(樹脂分)の特性が強く影響する一方、実際の鋳造で塗型剤が200〜400℃以上に加熱されると、粘結剤が分解して生じる炭素(あるいは炭化物)に関係する別のメカニズムによる強度特性が支配的になるためと考えられる。
【0054】
そこで、乾燥した塗型剤を樹脂分解するまで加熱して焼結体とし、それを常温に冷却してから抗折強度を測定した。本実施形態では乾燥した塗型剤を1100℃に加熱した後、常温まで冷却して抗折強度試験を実施した。樹脂分解するまで加熱した後に常温に戻した塗型剤の抗折強度と、鋳抜き可能径との関係を
図10に示す。
【0055】
図10に示す関係から、鋳抜きで形成する穴の直径をD(mm)、樹脂分解するまで一度加熱した後に常温に戻した塗型剤の抗折強度(曲げ強さ)をσc(MPa)とすると、次式(11)が得られる。
【0056】
σc≧−0.36+140/D
2 ・・・式(11)
【0057】
よって、式(11)を満たす塗型剤を用いることで、直径が18mm以下で長さが100mm以上の細穴を備えた鋳物を鋳造しても、塗型剤が損傷しないようにすることができることがわかる。
【0058】
(実施例)
次に、ねずみ鋳鉄(JIS−FC250)を溶湯として用いて、100(mm)×100(mm)×200(mm)の直方体の発泡模型に、上面から下面にかけて貫通する、長さ100mmで直径14mmの穴部を配置した鋳型を用いて、細穴を備えた鋳物を鋳造した。
【0059】
鋳造には、式(1)にD=14(mm)を代入することで得られた、骨材径が100μm以下のシリカ系骨材の塗型剤(表1のB)を用いた。また、鋳砂としてSiO
2を主成分とする「けい砂」を用いた。
【0060】
発泡模型に塗型剤を1mm以上塗布して鋳造を行った結果、「焼き付き」を生じさせることなく、仕上がり状態が良好な細穴を鋳抜くことができた。
【0061】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係る消失模型鋳造方法によると、鋳造によって、直径が18mm以下の穴を鋳物に形成するに際し、発泡模型2に塗布する塗型剤の厚みを1mm以上とし、且つ、上記の式(1)を満たす塗型剤を用いる。塗型剤の高温強度を直接測定することは困難であり、また、常温の塗型剤の抗折強度と、塗型剤の高温強度との相関は小さい。そこで、高温下における塗型剤の強度の代わりに、樹脂分解するまで加熱した後に常温に戻した塗型剤の抗折強度を用いると、上記の式(1)が得られる。よって、上記の式(1)を満たす塗型剤を用いて、発泡模型2に塗布する塗型剤の厚みを1mm以上とすることで、直径が18mm以下で長さが100mm以上の細穴を備えた鋳物を鋳造しても、塗型剤が損傷しないようにすることができる。これにより、鋳造時に焼き付きが生じないので、直径が18mm以下で長さが100mm以上である、仕上がり状態が良好な細穴を鋳抜くことができる。
【0062】
(本実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。