特許第6014185号(P6014185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6014185車両走行制御装置、車両走行制御方法、および車両走行制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014185
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】車両走行制御装置、車両走行制御方法、および車両走行制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20161011BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20161011BHJP
   B60W 50/12 20120101ALI20161011BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20161011BHJP
   F02D 11/10 20060101ALI20161011BHJP
   B60L 15/20 20060101ALN20161011BHJP
【FI】
   F02D29/02 K
   B60W30/14
   B60W50/12
   B60T7/12 F
   B60T7/12 A
   F02D29/02 311Z
   F02D11/10 K
   !B60L15/20 J
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-27874(P2015-27874)
(22)【出願日】2015年2月16日
(65)【公開番号】特開2016-151195(P2016-151195A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2015年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】黒羽 由幸
【審査官】 山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3191518(JP,U)
【文献】 特開2012−179936(JP,A)
【文献】 実開平03−068126(JP,U)
【文献】 特開2014−118889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
B60T 7/12
B60W 30/14
B60W 50/12
F02D 11/10
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるアクセルペダルの操作状態を検知する検知部と、
所定の条件に基づいて前記運転者の操作によらずに車両を自動的に停止させる自動走行制御を行う自動走行制御部と、
前記検知部により検知されたアクセルペダルの操作状態に基づいて前記車両の発進時における駆動量を抑制する抑制制御部であって、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合には、前記運転者の操作によって前記車両が停止している場合に比して、前記車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させる誤発進抑制制御部と、
車両走行制御装置。
【請求項2】
前記誤発進抑制制御部は、前記検知部により検知されたアクセルペダルの操作状態を示す状態量が閾値以上である場合に前記車両の発進時における駆動量を抑制し、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合における閾値を、前記運転者の操作によって前記車両が停止している場合における閾値よりも高くすることで、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合における駆動量の抑制程度を、前記運転者の操作によって前記車両が停止している場合に比して低下させる、
請求項1記載の車両走行制御装置。
【請求項3】
前記自動走行制御部は、前記車両を自動的に停止させるための制動力を出力するように前記車両の制動力出力部を制御し、前記運転者のアクセルペダルに対する操作によって前記制動力の出力を緩和または解除する、
請求項1または2記載の車両走行制御装置。
【請求項4】
前記自動走行制御部は、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合において、前記運転者のアクセルペダルに対する操作に基づいて、前記自動走行制御を自動的に再開する、
請求項1から3のうちいずれか1項記載の車両走行制御装置。
【請求項5】
前記自動走行制御部は、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合において、前記運転者のアクセルペダルに対する操作に基づいて、前記自動走行制御を停止する、
請求項1から3のうちいずれか1項記載の車両走行制御装置。
【請求項6】
コンピュータが、
運転者によるアクセルペダルの操作状態を検知し、
所定の条件に基づいて前記運転者の操作によらずに車両を自動的に停止させる自動走行制御を行い、
前記検知されたアクセルペダルの操作状態に基づいて前記車両の発進時における駆動量を抑制する中で、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合には、前記運転者の操作によって前記車両が停止している場合に比して、前記車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させる、
車両走行制御方法。
【請求項7】
コンピュータに、
運転者によるアクセルペダルの操作状態を検知させ、
所定の条件に基づいて前記運転者の操作によらずに車両を自動的に停止させる自動走行制御を行わせ、
前記検知されたアクセルペダルの操作状態に基づいて前記車両の発進時における駆動量を抑制する中で、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合には、前記運転者の操作によって前記車両が停止している場合に比して、前記車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させることを行わせる、
車両走行制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両走行制御装置、車両走行制御方法、および車両走行制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の誤発進を防止するために、急激なアクセルペダル操作がなされたときに車両の駆動量を抑制する技術が知られている。これに関連し、車両用のアクセルペダル誤操作対応装置の発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、アクセルペダル誤操作であると判定したことに基づいて、車両の発進を禁止し、その後、操作量が誤操作判定閾値を超えない範囲でアクセルペダルが再操作されたことに基づいて、解除操作が行われたと判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−179936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では車両を自動的に停止させる自動走行制御について研究および実用化が進められているが、従来の技術では、自動走行制御と誤発進抑制制御を適切に共存させることできず、運転者の加速意図に追従することができない場合があった。
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、自動走行制御と誤発進抑制制御を適切に共存させることを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、運転者によるアクセルペダルの操作状態を検知する検知部(16、34)と、所定の条件に基づいて前記運転者の操作によらずに前記車両を自動的に停止させる自動走行制御を行う自動走行制御部(32)と、前記検知部により検知されたアクセルペダルの操作状態に基づいて前記車両の発進時における駆動量を抑制する抑制制御部であって、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合には、前記運転者の操作によって前記車両が停止している場合に比して、前記車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させる誤発進抑制制御部(36)と、を備える車両走行制御装置(1)である。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の車両走行制御装置であって、前記誤発進抑制制御部は、前記検知部により検知されたアクセルペダルの操作状態を示す状態量が閾値以上である場合に前記車両の発進時における駆動量を抑制し、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合における閾値を、前記運転者の操作によって前記車両が停止している場合における閾値よりも高くすることで、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合における駆動量の抑制程度を、前記運転者の操作によって前記車両が停止している場合に比して低下させる。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の車両走行制御装置であって、前記自動走行制御部は、前記車両を自動的に停止させるための制動力を出力するように前記車両の制動力出力部(50)を制御し、前記運転者のアクセルペダルに対する操作によって前記制動力の出力を緩和または解除する。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のうちいずれか1項記載の車両走行制御装置であって、前記自動走行制御部は、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合において、前記運転者のアクセルペダルに対する操作に基づいて、前記自動走行制御を自動的に再開する。
【0009】
請求項5記載の発明は、請求項1から3のうちいずれか1項記載の車両走行制御装置であって、前記自動走行制御部は、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合において、前記運転者のアクセルペダルに対する操作に基づいて、前記自動走行制御を停止する。
【0010】
請求項6記載の発明は、コンピュータが、運転者によるアクセルペダルの操作状態を検知し、所定の条件に基づいて前記運転者の操作によらずに車両を自動的に停止させる自動走行制御を行い、前記検知されたアクセルペダルの操作状態に基づいて前記車両の発進時における駆動量を抑制する中で、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合には、前記運転者の操作によって前記車両が停止している場合に比して、前記車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させる車両走行制御方法である。
【0011】
請求項7記載の発明は、コンピュータに、運転者によるアクセルペダルの操作状態を検知させ、所定の条件に基づいて前記運転者の操作によらずに車両を自動的に停止させる自動走行制御を行わせ、前記検知されたアクセルペダルの操作状態に基づいて前記車両の発進時における駆動量を抑制する中で、前記自動走行制御によって前記車両が自動的に停止している場合には、前記運転者の操作によって前記車両が停止している場合に比して、前記車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させることを行わせる車両走行制御プログラムである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1、2、6、および7記載の発明によれば、自動走行制御によって車両が自動的に停止している場合には、運転者の操作によって車両が停止している場合に比して、車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させることにより、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制するため、自動走行制御と誤発進抑制制御を適切に共存させることができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、運転者のアクセルペダルに対する操作によって制動力の出力を緩和または解除がされ、自動走行制御によって制御された制動の緩和または解除に時間的に遅れがあることによって、運転者によるアクセルペダルの操作が大きくなったとしても、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制するため、自動走行制御と誤発進抑制制御を適切に共存させることができる。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、自動走行制御部は、自動走行制御によって車両が自動的に停止している場合において、運転者のアクセルペダルに対する操作に基づいて、自動走行制御を自動的に再開する場合、自動走行制御を再開させるトリガーとなるアクセルペダルに対する操作量が大きい場合であっても、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制するため、自動制御による車両の加速が抑制されることがない。
【0015】
請求項5記載の発明によれば、自動走行制御部は、自動走行制御によって車両が自動的に停止している場合において、運転者のアクセルペダルに対する操作に基づいて、自動走行制御を停止する場合、運転者のアクセルペダルに対する操作に対して、制動力の緩和または解除が時間的に遅れる場合であっても、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制するため、運転者のアクセルペダルの操作による加速が抑制されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】車両走行制御装置1の機能構成の一例を示す図。
図2】制御部30により実行される閾値決定の処理の流れを示すフローチャート。
図3】制御部30により実行される駆動量抑制の処理の流れを示すフローチャート。
図4】LSFによって自車両が停止した後における電子制御式ブレーキ装置50のマスターシリンダーの指示液圧の推移を示す図。
図5】LSF実行中のマスターシリンダーの指示液圧に対する発進時のアクセル開度ACの最大値の分布の一例を示す図。
図6】第2の実施形態の誤発進抑制制御部36により実行される処理の流れを示すフローチャート。
図7】LSFによって自車両が停止した後における電子制御式ブレーキ装置50のマスターシリンダーの指示液圧の推移の別の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の車両走行制御装置、車両走行制御方法、および車両走行制御プログラムの実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、車両走行制御装置1の機能構成の一例を示す図である。車両走行制御装置1は、レーダ装置10と、車速センサ12と、クルーズコントロールスイッチ14と、アクセル開度センサ16と、制御部30と、電子制御式ブレーキ装置50と、走行駆動装置60とを備える。
【0018】
レーダ装置10は、例えば、車両走行制御装置1が搭載された車両(以下、自車両)のエンブレムの裏側や、バンパー、フロントグリルの周辺等に取り付けられ、自車両の前方にミリ波などの電磁波を放射する。レーダ装置10は、例えば放射した電磁波の障害物などによる反射波を受信し、受信した反射波を解析することにより、障害物の位置(距離、および、方位または横位置)を特定するミリ波レーダ装置である。レーダ装置10は、例えばFM−CW(Frequency‐Modulated Continuous‐Wave)方式によって先行車両との車間距離、相対速度、横位置(あるいは方位)等を検出し、検出結果を制御部30に出力する。また、レーダ装置10と共に、例えば、自車両前方を撮像するカメラを備えてもよい。カメラは、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を利用したデジタルカメラである。カメラは、例えば、所定周期で自車両の前方を繰り返し撮像する。また、車両走行制御装置1は、カメラによって撮像された画像を解析し、画像中の障害物の位置から、実空間上の障害物の位置(距離、および、方位または横位置)を特定する。更に、車両走行制御装置1は、レーダ装置10によって特定された位置のうち距離を重視すると共に、カメラの撮像画像解析によって特定された位置のうち方位または横位置を重視する傾向で、これらの位置を統合し、障害物の位置を認識してもよい。また、レーダ装置10に代えてレーザレーダ、超音波センサ等の自車両と障害物との位置を特定する装置を備えてもよいし、レーダ装置10と共にレーザレーダ、超音波センサ等を備えてもよい。
【0019】
車速センサ12は、各車輪に取り付けられた車輪速センサと、これらのセンサ出力値を統合して車速信号を生成するコントローラとを含む。車速センサ12は、自車両の走行速度を検出し、検出した走行速度を示す車速信号を制御部30へ出力する。
【0020】
クルーズコントロールスイッチ14は、ステアリングホイール等に取り付けられ、運転者による自動走行制御の指示を受け付け、受け付けたことを示す信号を制御部30へ出力する。自動走行制御は、例えば、LSF(Low Speed Following;低速追従)制御機能付きACC(Adaptive Cruise Cotrol)である。以下、これを単にLSFと称する。LSFとは、自車両の前方を自車両と同じ方向に走行する先行車両との車間距離を一定に維持するようにすると共に、先行車両が低速走行または停止状態となったときには自車両を運転者の操作に依らずに自動的に停止させる制御である。アクセル開度センサ16は、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACを検出し、検出したアクセル開度ACを示すアクセル開度信号を制御部30へ出力する。
【0021】
制御部30は、例えば、1以上のCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュメモリ等の記憶装置、車両内で他装置と通信を行うための通信インターフェース等が内部バスによって接続されたコンピュータ装置によって実現される。
【0022】
制御部30は、自動走行制御部32と、アクセルペダル操作状態検知部34と、誤発進抑制制御部36とを備える。これらの機能部は、例えば、プロセッサが記憶装置に格納されたプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部である。プロセッサが実行するプログラムは、自車両の出荷時に予め記憶装置に格納されていてもよいし、可搬型記憶媒体に記憶されたプログラムが制御部30の記憶装置にインストールされてもよい。
【0023】
自動走行制御部32は、前述したLSFを行うために、電子制御式ブレーキ装置50または走行駆動装置60を制御する。自動走行制御部32は、先行車両の状態に応じて、電子制御式ブレーキ装置50または走行駆動装置60を制御することで自車両を停止させる。
【0024】
アクセルペダル操作状態検知部34は、アクセルペダルの操作状態を検知する。アクセルペダルの操作状態とは、例えば、アクセル開度AC、その速度、加速度または組み合わせである。以下、アクセルペダル操作状態検知部34により検知される検知対象は、一例としてアクセル開度ACであるものとする。
【0025】
誤発進抑制制御部36は、自車両が停止している状態から発進する際に、アクセルペダル操作状態検知部34により検知されたアクセルペダルの操作状態に基づいて、自車両の発進時における駆動量を抑制する(誤発進抑制制御)。例えば、誤発進抑制制御部36は、アクセル開度ACが閾値Th以上となった場合に、誤発進抑制制御を行う。誤発進抑制制御部36は、例えば、通常であればアクセル開度ACの上昇に応じて上昇するように制御するスロットルバルブの開度を、アクセル開度ACの上昇に追従しないように制御することで、自車両の発進時における駆動量を抑制する。
【0026】
また、誤発進抑制制御部36は、LSFが行われている場合には、誤発進抑制制御の制御程度を緩和する。誤発進抑制制御部36は、例えば、アクセル開度ACに対する閾値Thを高くすることで、誤発進抑制制御の制御程度を緩和する。なお、誤発進抑制制御部36は、誤発進抑制制御自体を停止することで、誤発進抑制制御の制御程度を緩和するものとしてもよい。
【0027】
電子制御式ブレーキ装置50は、自装置の各部を制御する制御部、ブレーキペダルになされたブレーキ操作が油圧として伝達されるマスターシリンダー、ブレーキ液を蓄えるリザーバータンク、各車輪に出力される制動力を調節するブレーキアクチュエータ等を備える。電子制御式ブレーキ装置50の制御部は、マスターシリンダーが発生させる圧力に応じたブレーキトルクが各車輪に出力されるように、ブレーキアクチュエータ等を制御する。また、電子制御式ブレーキ装置50の制御部は、自動走行制御部32から制御信号が入力されると、制御信号が示す大きさのブレーキトルクが各車輪に出力されるように、マスターシリンダーが発生させる圧力を制御して、ブレーキアクチュエータ等を制御する。電子制御式ブレーキ装置50は、上記説明した油圧により作動する電子制御式ブレーキ装置に限らず、電動アクチュエーターにより作動する電子制御式ブレーキ装置であってもよい。
【0028】
走行駆動装置60は、例えば、エンジン、走行用モータなどの駆動源である。また、走行駆動装置60は、例えばエンジンおよび走行用モータを備えてもよい。走行駆動装置60は、一例としてエンジンのみとする。走行駆動装置60は、自動走行制御部32により出力された制御量に応じて制御される。
【0029】
図2は、制御部30により実行される閾値決定の処理の流れを示すフローチャートである。まず、誤発進抑制制御部36が、自車両がLSF実行中であるか否かを判定する(ステップS100)。LSF実行中である場合、誤発進抑制制御部36は、誤発進抑制の閾値をAに設定する(ステップS102)。LSF実行中でない場合、誤発進抑制制御部36は、誤発進抑制の閾値をBに設定する(ステップS104)。なお、閾値Aは、閾値Bに比べて大きい値(A>B)となる。これにより本フローチャートの1ルーチンは終了する。
【0030】
図3は、制御部30により実行される駆動量抑制の処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートにより実行される処理は、前述した図2のフローチャートに示す処理と並列して行われる。なお、本処理では、自動走行制御によって自車両が自動的に停止しているものとして説明する。
【0031】
まず、誤発進抑制制御部36が、アクセルペダル操作状態検知部34から取得したアクセルペダルの操作状態に基づいて、自車両が発進しようとしている時であるか否かを判定する(ステップS150)。自車両が発進しようとしている時とは、例えば、車速が微小閾値未満であるときである。自車両が発進しようとしている時でない場合、本フローチャートの1ルーチンは終了する。自車両が発進しようとしている時である場合、誤発進抑制制御部36は、ステップS102またはステップS104の処理において設定された閾値Thに基づいて、アクセル開度ACが閾値Thを超えるか否かを判定する(ステップS152)。アクセル開度ACが閾値を超えない場合、本フローチャートの1ルーチンは終了する。アクセル開度ACが閾値を超える場合、誤発進抑制制御部36は、自車両の駆動量を抑制するように自動走行制御部32に指示する(ステップS154)。これにより本フローチャートの1ルーチンは終了する。
【0032】
図4は、LSFによって自車両が停止した後における電子制御式ブレーキ装置50のマスターシリンダーの指示液圧の推移を示す図である。縦軸はLSF実行中にマスターシリンダーに発生させる液圧(マスターシリンダーの指示圧力)を示し、横軸は時間を示す。LSF実行中は、LSFを実行するプログラムに設定された電子制御式ブレーキ装置50に対する制御が実行される。例えば、自車両の停車時に、図示するように電子制御式ブレーキ装置50のマスターシリンダーの指示液圧は、予め定められた停車時液圧に設定される。この状態において、時刻ゼロのときに運転者によりアクセルペダルが操作されると、マスターシリンダーの指示液圧は所定の傾きを持って緩やかな制動力を出力するレベル(例えば0.5[MPa])まで低下するように制御される。そして、そのレベルを維持するように制御されることがある。例えば停止している先行車両に対して低速で車間距離を詰める場合、図4に例示した電子制御式ブレーキ装置50の制御が実行される。このように、LSF実行中である場合、自車両を発進させるために、運転者によりアクセルペダルの操作がされても、電子制御式ブレーキ装置50により制動力の出力が継続する場合がある。また、運転者によりアクセルペダルの操作がされ、LSFとしての制動力が低下された直後は、電子制御式ブレーキ装置50のマスターシリンダーの液圧が低くなるまでの時間的なずれが生じ、依然として制動力が残ってしまう場合がある。この結果、運転者は、LSF実行中でなく自己の操作によって自車両を停止した状態から自車両を発進させる場合に比して、ブレーキに打ち勝つためにアクセルペダルの操作量を大きくする傾向となり得る。
【0033】
図5は、LSF実行中のマスターシリンダーの指示液圧に対する発進時のアクセル開度ACの最大値の分布の一例を示す図である。縦軸は、運転者により操作された最大アクセル開度(%)を示し、横軸は、LSFによって自車両が停止した後のマスターシリンダーの指示液圧を示している。例えば誤発進抑制の閾値ThがBに設定されている場合、例えば図中、X、Y、Zに示すようにブレーキに打ち勝つようにアクセルペダルが操作されると誤発進抑制制御が発動する場合がある。例えば運転者により操作されたアクセルペダルの操作量がB以上である場合、誤発進抑制制御部は、運転者の発進または加速の意思に反して誤発進と判定し、自車両を制動するように制御する。このため、運転者の意図したように発進ができなかったり、加速ができなかったりする。この結果、運転者が煩わしさを覚える場合がある。これに対し、本実施形態の誤発進抑制制御部36は、車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させる。例えば誤発進抑制の閾値ThがAに設定される。運転者がアクセルペダルを大きく踏み込んだ場合(例えば、図中、X、Y、Z)であっても、誤発進抑制制御は実行されず、運転者の意思に基づいて自車両を発進させ、加速させることができる。この結果、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制することで、自動走行制御と誤発進抑制制御を適切に共存させることができる。
【0034】
以上説明した第1実施形態の車両走行制御装置1によれば、自動走行制御によって車両が自動的に停止し、LSF実行中の場合には、運転者の操作によって車両が停止している場合に比して、車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させるため、誤発進抑制制御が干渉することを抑制し、運転者の意思に基づいて車両の制御を実現することができる。この結果、自動走行制御と誤発進抑制制御を適切に共存させることができる。
【0035】
また、以上説明した第1実施形態の車両走行制御装置1によれば、一例として自動走行制御によって自車両が自動的に停止したあとに、運転者のアクセルペダルの操作に応じて自車両が発進、加速し、停止している先行車両との車間距離を詰めることについて開示したが、この際、LSFは継続しても良いし、停止しても良い。LSFを継続した場合は、アクセルペダルの操作により自車両と先行車両との車間距離を詰めた後(一時的に運転者による意思による制御を行った後)、後述する第2実施形態のような制動力を解除して先行車両を追従する制御を行うことができる。LSFを停止した場合は、以降自車両は、運転者の操作に応じた走行を継続することとなる。運転者のアクセルペダルの操作により自車両と先行車両との車間距離を詰める場合に、運転者のアクセルペダルに対する操作に対して、制動力の緩和または解除が時間的に遅れる場合であっても、第1実施形態の車両走行制御装置1によれば、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制することができる。更にアクセルペダルの踏込みを単なるスイッチ操作の代用として用いて自動的に車間距離を詰めるようにしても良い。この場合、発進するにあたって運転者がブレーキに打ち勝つためのアクセルペダル操作である必要は無いが、スイッチ操作の代用であることから、過剰な踏込みになる場合もあり、同様に干渉することとなる。このようなアクセルペダルに対する操作量が大きい場合であっても、第1実施形態の車両走行制御装置1は、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制するため、自動制御による車両の加速が抑制されることがない。
【0036】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点である誤発進抑制制御部36が実行する処理の内容について説明し、第1の実施形態と共通する機能等についての説明は省略する。第1の実施形態は停止している先行車両に対して車間を詰める制御であり、アクセルペダル操作があっても制動力を所定量残す制御であったが、第2の実施形態では、自車両を発進させる場合のアクセルペダルの操作により、LSFとしての制動力を停止してLSFを再開する場合の処理について説明する。
【0037】
図6は、第2の実施形態の誤発進抑制制御部36により実行される処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートでは、自動走行制御によって自車両が停止し、LSF実行中であるものとする。また、LSFとしての制動力は、車両の運転者によるアクセルペダルの操作により解除されるものとする。なお、本フローチャートの処理は、前述した図2のフローチャートに示す処理と並列して実行される。
【0038】
まず、誤発進抑制制御部36が、アクセルペダル操作状態検知部34からアクセルペダルの操作状態に基づいて、自車両が発進しようとしている時であるか否かを判定する(ステップS200)。自車両が発進しようとしている時でない場合、本フローチャートの1ルーチンは終了する。自車両が発進しようとしている時である場合、誤発進抑制制御部36は、LSF実行中であるか否かを判定する(ステップS202)
【0039】
LSF実行中である場合、誤発進抑制制御部36は、LSFとして保持されている制動力を解除し(ステップS204)、ステップS206の処理へ進む。これによって、LSFによる発進加速度の低下を抑制することができる。この結果、あまりアクセル開度ACを上昇させなくても、自車両を発進させることができる。LSF実行中でない場合、誤発進抑制制御部36は、ステップS206の処理へ進む。
【0040】
次に、誤発進抑制制御部36は、図2のステップS102またはステップS104の処理において設定された誤発進抑制の閾値Thに基づいて、アクセル開度ACが閾値Thを超えるか否かを判定する(ステップS206)。
【0041】
アクセル開度ACが閾値Thを超えない場合、本フローチャートの1ルーチンは終了する。アクセル開度ACが閾値Thを超える場合、誤発進抑制制御部36は、自車両の駆動量を抑制するように自動走行制御部32に指示する(ステップS208)。本フローチャートの1ルーチンは終了する。
【0042】
図7は、LSFによって自車両が停止した後における電子制御式ブレーキ装置50のマスターシリンダーの指示液圧の推移の別の一例を示す図である。縦軸はLSF実行中のマスターシリンダーの指示液圧を示し、横軸は時間を示す。LSF実行中は、LSFを実行するプログラムに設定された電子制御式ブレーキ装置50に対する制御が実行される。例えば、自車両の停車時に、図示するように電子制御式ブレーキ装置50のマスターシリンダーの指示液圧は、予め定められた停車時液圧に設定される。この状態において、時刻ゼロのときに運転者によりアクセルペダルが操作されると、マスターシリンダーの指示液圧は所定の傾きを持ってゼロになる。この場合、停車時液圧から液圧ゼロになるまで、時間Tを要する。運転者によりアクセルペダルの操作がされ、LSFとしての制動力が解除された直後は、電子制御式ブレーキ装置50のマスターシリンダーの液圧が低くなるまでの時間的なずれが生じ、依然として制動力が残ってしまう場合がある。この結果、運転者は、LSF実行中でなく自己の操作によって自車両を停止した状態から自車両を発進させる場合に比して、ブレーキに打ち勝つためにアクセルペダルの操作量を大きくする傾向となり得る。この結果、誤発進抑制制御部は、運転者の発進または加速の意思に反して誤発進と判定し、自車両を制動するように制御する場合がある。これに対して、本実施形態の誤発進抑制制御部36は、車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させる。すなわち運転者の操作によって自車両を停止した状態から自車両を発進させる場合の誤発進抑制の閾値に比して、誤発進抑制の閾値Thを高く設定する。この結果、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制するし、自動走行制御と誤発進抑制制御を適切に共存させることができる。
【0043】
以上説明した第2実施形態の車両走行制御装置1によれば、LSFとしても制動力の出力を運転者のアクセルペダルに対する操作によって緩和または解除する場合においても、運転者の操作によって車両が停止している場合に比して、車両の発進時における駆動量の抑制程度を低下させる。これにより第1の実施形態と同様の効果を奏すると共に、自動走行制御による発進加速度の低下を抑制することができる。
【0044】
また、以上説明した第2実施形態の車両走行制御装置1によれば、自動走行制御によって車両が自動的に停止したあとに、運転者のアクセルペダル操作に応じて、自車両が発進、加速を行うことについて開示したが、この際、LSFは継続しても良いし、停止しても良い。LSFを継続した場合はアクセルペダル操作に応じた発進をした後、この運転者の発進意思によりLSFが継続され自動走行制御が行われる。LSFを停止した場合は、以降運転者の操作に応じた走行を継続することとなる。この場合に、運転者のアクセルペダルに対する操作に対して、制動力の緩和または解除が時間的に遅れる場合であっても、第2実施形態の車両走行制御装置1によれば、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制することができる。更にアクセルペダルの踏込みを単なるスイッチ操作の代用として用いてLSFを再開しても良い。この場合、発進するにあたって運転者がブレーキに打ち勝つためのアクセルペダル操作である必要は無いが、スイッチ操作の代用であることから、アクセルペダルを過剰に踏込む場合もあり、同様に干渉することとなる。このような場合であっても、第2実施形態の車両走行制御装置1は、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制するため、自動制御による車両の加速が抑制されることがない。
【0045】
また、ここまでLSFにて自動的に停止した場合は制動力が継続して付与されていることを前提としているが、その限りではない。停車時液圧がゼロである場合において、LSFの再開のために運転者が意図的にアクセルペダルを踏み込む場合も、閾値Thを超えてしまう場合がある。特にアクセルペダルの踏込みを単なるスイッチ操作の代用とする場合に、運転者はアクセルペダルの踏み込みを大きくする場合がある。これに対しても、本実施形態の誤発進抑制制御部36は、誤発進抑制の閾値Thを高くし、誤発進抑制の制御が干渉することを抑制することで、自動走行制御と誤発進抑制制御を適切に共存させることができる。
【0046】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0047】
1…車両走行制御装置、10…レーダ装置、12…車速センサ、14…クルーズコントロールスイッチ、16…アクセル開度センサ、30…制御部、32…自動走行制御部、34…アクセルペダル操作状態検知部(検知部)、36…誤発進抑制制御部、50…電子制御式ブレーキ装置(制動力出力部)、60…走行駆動装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7