特許第6014237号(P6014237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6014237
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】サファイア単結晶部材製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/20 20060101AFI20161011BHJP
   C30B 15/34 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C30B29/20
   C30B15/34
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-253092(P2015-253092)
(22)【出願日】2015年12月25日
【審査請求日】2016年2月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】並木精密宝石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】樋口 数人
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 一彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 忠
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−157084(JP,A)
【文献】 実開平03−053791(JP,U)
【文献】 特開2015−086088(JP,A)
【文献】 実開昭60−005096(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格納容器と、
前記格納容器内に配置された有底筒状の坩堝と、
前記坩堝の外周面側を囲うと共に、中心軸が鉛直方向と平行を成すように配置され、底面にヒーター側ネジ穴が設けられた筒状の黒鉛製ヒーターと、
電極側ネジ穴が設けられた端面を有し、中心軸が前記鉛直方向と平行を成すように前記黒鉛製ヒーターの底面に対して前記端面が接続された黒鉛製棒状電極と、
前記ヒーター側ネジ穴および前記電極側ネジ穴に螺合する黒鉛製イモネジと、を少なくとも備え、
前記黒鉛製ヒーターの底面および前記黒鉛製棒状電極の端面が、前記鉛直方向と直交し、
前記黒鉛製ヒーターの底面側、かつ、周方向において前記ヒーター側ネジ穴が設けられた近傍における前記黒鉛製ヒーターの直径方向の厚みが、前記黒鉛製ヒーターの底面側、かつ、周方向において前記ヒーター側ネジ穴が設けられた近傍以外の部分における前記黒鉛製ヒーターの直径方向の厚みよりも大きいことを特徴とするサファイア単結晶部材製造装置。
【請求項2】
格納容器と、
前記格納容器内に配置された有底筒状の坩堝と、
前記坩堝の外周面側を囲うと共に、中心軸が鉛直方向と平行を成すように配置され、底面にヒーター側ネジ穴が設けられた筒状の黒鉛製ヒーターと、
電極側ネジ穴が設けられた端面を有し、中心軸が前記鉛直方向と平行を成すように前記黒鉛製ヒーターの底面に対して前記端面が接続された黒鉛製棒状電極と、
前記ヒーター側ネジ穴および前記電極側ネジ穴に螺合する黒鉛製イモネジと、を少なくとも備え、
前記黒鉛製ヒーターの底面および前記黒鉛製棒状電極の端面が、前記鉛直方向と直交し、
前記黒鉛製イモネジの直径が、前記黒鉛製ヒーターの底部側、かつ、周方向において前記ヒーター側ネジ穴が設けられた近傍における前記黒鉛製ヒーターの直径方向の厚みの1/3を超えることを特徴とするサファイア単結晶部材製造装置。
【請求項3】
前記黒鉛製ヒーターの底面と、前記黒鉛製棒状電極の端面との間にカーボン接着層が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のサファイア単結晶部材製造装置。
【請求項4】
前記黒鉛製棒状電極および前記黒鉛製イモネジを構成する黒鉛材料の固有抵抗値が10μΩm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のサファイア単結晶部材製造装置。
【請求項5】
前記黒鉛製棒状電極および前記黒鉛製イモネジを構成する黒鉛材料の熱伝導率が150W/m・K以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載のサファイア単結晶部材製造装置。
【請求項6】
前記黒鉛製棒状電極および前記黒鉛製イモネジを構成する黒鉛材料の引張り強さが20MPa以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載のサファイア単結晶部材製造装置。
【請求項7】
前記坩堝の加熱部材として、前記黒鉛製ヒーターのみを備えることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載のサファイア単結晶部材製造装置。
【請求項8】
前記坩堝内に配置され、上端部から下方へと伸びるスリットを備えたダイと、
前記ダイの上方側において、種結晶が鉛直方向に移動できるように前記種結晶を保持する種結晶保持部材と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載のサファイア単結晶部材製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア単結晶部材製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サファイア基板やシリコンウエハーなどの各種の単結晶部材の製造に用いられる単結晶部材製造装置では、坩堝に投入した原料を加熱溶解するために、黒鉛製ヒーターなどの抵抗発熱体が用いられている(特許文献1〜3)。また、抵抗発熱体と共に、坩堝内の融液の対流を防止するために、融液に対して磁場を印加する磁場印加装置としてコイルがさらに用いられることもある(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に示す単結晶部材製造装置においては、坩堝の外周面を囲うように配置された黒鉛製ヒーターの下端が、取付けボルトを介して板状の固定部材の上面に固定されている。また、この固定部材は、単結晶部材製造装置の基台上に固定されている。さらに、電極は、この固定部材に設けられた貫通孔に取付けられる。そして、黒鉛ヒーターと固定部材との間に炭素化または黒鉛化した接着層を設けることで、両者を強固に固定して、放電の原因となる黒鉛ヒーターと固定部材との相対的な移動を抑制すると共に、隙間が生じるのも防いでいる。
【0004】
特許文献2には、かご型の黒鉛製発熱体と、この黒鉛製発熱体の底面外周側に接続され、黒鉛製発熱体の外周側へと伸びる黒鉛製継手と、黒鉛製継手の外周側底面に接続された全長の極めて短い黒鉛製電極と、さらに黒鉛製電極の底面側に接続された銅製電極と、を備えた導電性構造体が開示されている。この導電性構造体では、(1)黒鉛製発熱体と黒鉛製継手とを引張り強さが98MPaのC/C複合材(炭素繊維強化炭素複合材)からなるボルトで固定しており、(2)黒鉛製継手と黒鉛製電極とを、引張り強さが30MPaの黒鉛製のボルトで固定している。また、(3)黒鉛製電極と銅製電極とは、銅製電極の一端に設けられた雄ネジ部分を介して固定されている。さらに、(1)〜(3)に示す各々の部材の界面には黒鉛シートが配置されている。
【0005】
また、特許文献3に示す単結晶部材製造装置においては、坩堝の外周面を囲うように配置された黒鉛製ヒーターの外周面下端側に、円柱状ヒーター電極が接続されている。すなわち、円柱状ヒーター電極によって黒鉛製ヒーターが支持固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平3−53791号公報
【特許文献2】特開平7−288178号公報
【特許文献3】特開2010−120831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に例示したような従来の単結晶部材製造装置では、坩堝の外周面を囲うように配置されたヒーターと電極との間を接続する構造が複雑であったり、長期間安定してヒーターを支持固定することが困難である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、坩堝の外周面を囲うように配置された黒鉛製ヒーターと電極との間を接続する構造が単純であり、かつ、長期間安定して黒鉛製ヒーターを支持固定できる構造を備えたサファイア単結晶部材製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
第一の本発明のサファイア単結晶部材製造装置は、格納容器と、格納容器内に配置された有底筒状の坩堝と、坩堝の外周面側を囲うと共に、中心軸が鉛直方向と平行を成すように配置され、底面にヒーター側ネジ穴が設けられた筒状の黒鉛製ヒーターと、電極側ネジ穴が設けられた端面を有し、中心軸が前記鉛直方向と平行を成すように黒鉛製ヒーターの底面に対して端面が接続された黒鉛製棒状電極と、ヒーター側ネジ穴および電極側ネジ穴に螺合する黒鉛製イモネジと、を少なくとも備え、黒鉛製ヒーターの底面および黒鉛製棒状電極の端面が、鉛直方向と直交し、黒鉛製ヒーターの底面側、かつ、周方向においてヒーター側ネジ穴が設けられた近傍における黒鉛製ヒーターの直径方向の厚みが、黒鉛製ヒーターの底面側、かつ、周方向においてヒーター側ネジ穴が設けられた近傍以外の部分における黒鉛製ヒーターの直径方向の厚みよりも大きいことを特徴とする。
また、第二の本発明のサファイア単結晶部材製造装置は、格納容器と、格納容器内に配置された有底筒状の坩堝と、坩堝の外周面側を囲うと共に、中心軸が鉛直方向と平行を成すように配置され、底面にヒーター側ネジ穴が設けられた筒状の黒鉛製ヒーターと、電極側ネジ穴が設けられた端面を有し、中心軸が前記鉛直方向と平行を成すように黒鉛製ヒーターの底面に対して端面が接続された黒鉛製棒状電極と、ヒーター側ネジ穴および電極側ネジ穴に螺合する黒鉛製イモネジと、を少なくとも備え、黒鉛製ヒーターの底面および黒鉛製棒状電極の端面が、鉛直方向と直交し、黒鉛製イモネジの直径が、黒鉛製ヒーターの底部側、かつ、周方向においてヒーター側ネジ穴が設けられた近傍における黒鉛製ヒーターの直径方向の厚みの1/3を超えることを特徴とする。
【0010】
本発明のサファイア単結晶部材製造装置の一実施形態は、黒鉛製ヒーターの底面と、黒鉛製棒状電極の端面との間にカーボン接着層が設けられていることが好ましい。
【0011】
本発明のサファイア単結晶部材製造装置の他の実施形態は、黒鉛製棒状電極および黒鉛製イモネジを構成する黒鉛材料の固有抵抗値が10μΩm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明のサファイア単結晶部材製造装置の他の実施形態は、黒鉛製棒状電極および黒鉛製イモネジを構成する黒鉛材料の熱伝導率が150W/m・K以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のサファイア単結晶部材製造装置の他の実施形態は、黒鉛製棒状電極および黒鉛製イモネジを構成する黒鉛材料の引張り強さが20MPa以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のサファイア単結晶部材製造装置の他の実施形態は、坩堝の加熱部材として、黒鉛製ヒーターのみを備えることが好ましい。
【0017】
本発明のサファイア単結晶部材製造装置の他の実施形態は、坩堝内に配置され、上端部から下方へと伸びるスリットを備えたダイと、ダイの上方側において、種結晶が鉛直方向に移動できるように種結晶を保持する種結晶保持部材と、をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、坩堝の外周面を囲うように配置された黒鉛製ヒーターと電極との間を接続する構造が単純であり、かつ、長期間安定して黒鉛製ヒーターを支持固定できる構造を備えたサファイア単結晶部材製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置の一例を示す概略模式図である。
図2図1に示すサファイア単結晶部材製造装置において、黒鉛製ヒーターと電極との接続部近傍の断面構造の一例を示す拡大端面図である。
図3】本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置に用いられる黒鉛製ヒーターの一例を示す斜視図である。
図4】本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置に用いられる黒鉛製ヒーターの他の例を示す概略模式図である。ここで、図4(A)は、黒鉛製ヒーターの上面図であり、図4(B)は、図4(A)中に示す符号A1−A2間の端面図である。
図5】本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置に用いられる黒鉛製ヒーターのヒーター側ネジ穴近傍の各部の寸法を示す模式端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置の一例を示す概略模式図であり、図2は、図1に示すサファイア単結晶部材製造装置において、黒鉛製ヒーターと電極との接続部近傍の断面構造の一例を示す拡大端面図である。なお、図1中、黒鉛製ヒーターと電極との接続部近傍の断面構造の詳細については記載を省略してあり、中心軸C1、C2は、鉛直方向Zに平行である。また、図2中に示すヒーター側ネジ穴、電極側ネジ山およびスタッドのネジ山やネジ溝についても記載を省略してある。これは後述する図5に示す拡大端面図についても同様である。
【0021】
図1および図2に示すように、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100は、格納容器110と、格納容器110内に配置された有底筒状の坩堝120と、坩堝120の外周面120S側を囲うと共に、中心軸C1が鉛直方向Zと平行を成すように配置され、底面130BTにヒーター側ネジ穴132が設けられた筒状の黒鉛製ヒーター130(以下、「ヒーター130」と略す場合がある)と、電極側ネジ穴142が設けられた端面140TPを有し、中心軸C2が、鉛直方向Zと平行を成すように黒鉛製ヒーター130の底面130BTに対して端面140TPが接続された黒鉛製棒状電極140(以下、「電極140」と略す場合がある)と、ヒーター側ネジ穴132および電極側ネジ穴142に螺合する黒鉛製イモネジ150(以下、「スタッド150」と略す場合がある)と、を少なくとも備える。
【0022】
すなわち、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100においては、特許文献1、2記載の技術において用いられる固定部材や継手などを介して、ヒーター130と電極140とを接続する必要が無い。このためヒーター130と電極140との間を接続する構造を単純化できる。したがって、サファイア単結晶部材製造装置100の組み立て、分解やメンテナンスがより容易になる。
【0023】
なお、ヒーター130と電極140との間には、サファイア単結晶部材製造装置100の使用時に電流が流れる。このため、ヒーター130と電極140との接続部が、特許文献1、2に示されるように、多数の部品により構成されて複雑化するほど、放電の発生原因となる部品間の隙間が多数形成されやすくなる。また、放電の発生は、坩堝120内のアルミナ原料や、このアルミナ原料が溶解したアルミナ融液200の加熱不良を招くため、歩留まりの低下や、プロセス異常による製造中断などの様々な問題を引き起こす。それゆえ、ヒーター130と電極140との接続部が、長期間の放電によって徐々に破壊されることにより、ヒーター130の固定が不安定化し、最悪の場合、たとえば、発熱しているヒーター130が傾いて坩堝120の外周面120Sと接触し、坩堝120の破損を招くなどの問題を引き起こす可能性もある。しかし、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100では、ヒーター130と電極140との接続部の構造を単に単純化できるのみならず、当該接続部の複雑化に伴う放電の発生も大幅に抑制できる。
【0024】
また、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100においては、ヒーター130と電極140との接続部を構成する部材、すなわち、ヒーター130、電極140およびスタッド150が黒鉛から構成される。このため、ヒーター130が、常温から所定の温度まで加熱されても、ヒーター130と電極140とスタッド150との間での熱膨張係数差より、接続部に隙間が生じたり、接続部の破壊が生じたりするのを抑制できる。なお、機械的強度の点では、ヒーター130以外の部材は、脆い黒鉛製の部材よりも機械的強度に優れた金属やセラミックスを用いた方が好ましいとも考えられる。しかしながら、サファイア単結晶部材を製造する場合、アルミナの融点(2072度)以上にヒーター130を発熱させる必要がある。このような2000度を超える高温域までヒーター130を発熱させる必要がある場合において、接続部が熱膨張係数の根本的に異なる異種材料で構成されていると、接続部を構成する材料の脆弱性よりも、熱膨張係数差に起因する接続部における隙間の形成や破壊の発生という弊害の方が極めて深刻になる。それゆえ、本発明者らは、これらの点を考慮して、接続部を構成する材料として黒鉛のみを用いた。
【0025】
一方、上述したように、黒鉛製部材は、脆く、割れやすいという欠点がある。それゆえ、ヒーター130を支える電極140や、ヒーター130と電極140とを接続するスタッド150の最も脆弱な部分である直径方向に外力が作用した場合、これらの黒鉛製部材が破壊されやすい。しかしながら、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100は、サファイア部材の製造に用いられるため、特許文献1に示す単結晶部材製造装置のように、坩堝中のシリコン融液の対流防止のために、ヒーター130をその周方向に回転させる大きな力を発生する磁場発生装置(コイル)を設ける必要が無い。このため、ヒーター130自体に回転する力が作用しないため、このような回転力に起因して電極140およびスタッド150の直径方向に力が作用することも無い。
【0026】
これに加えて、ヒーター130の重量は、ヒーター130の鉛直方向Z下方側に配置された電極140やスタッド150により支えられる。言い換えれば、ヒーター130の重量により、電極140およびスタッド150に作用する力は、原理的に、電極140およびスタッド150の軸方向にのみ作用し、機械的に最も脆弱な直径方向に作用することは無い。これらのことから、電極140およびスタッド150として黒鉛製部材を用いても、脆く、割れやすいという黒鉛製部材の欠点が、接続部の強度低下を招くことが無い。
【0027】
さらに、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100においては、ヒーター130の底面130BTおよび電極140の端面140TPが、鉛直方向Zと直交している。すなわち、底面130BTと端面140TPとの接続界面が、鉛直方向Zと直交する平面と平行を成している。これに加えて、また、ヒーター130の直下には、ヒーター130の中心軸C1と電極140の中心軸C2とが平行を成すようにヒーター130の重量を支える電極140が配置される。このため、鉛直方向Z下方側に作用するヒーター130の重量が、接続界面の破壊および隙間の形成を促進する剥離力として作用することも無い。
【0028】
それゆえ、(1)鉛直方向Z下方側に作用するヒーターの重量が、ヒーターの外周側に配置された電極により一端が支持される継手の他端を、下方へと押し込むことで、ヒーター/継手の接続界面および継手/電極の接続界面に剥離力を発生させる特許文献2に示す導電性構造体、および、(2)鉛直方向Z下方側に作用するヒーターの重量が、ヒーターと、ヒーター外周面に接続された電極との接続界面と平行な方向にせん断力(剥離力)を発生させる特許文献3に示す単結晶部材製造装置と比べて、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100では、ヒーター130と電極140との接続界面での破壊が極めて生じ難い。
【0029】
また、スタッド150は、ヒーター側ネジ穴132および電極側ネジ穴142に螺合しているため、スタッド150外周面と、ヒーター側ネジ穴132および電極側ネジ穴142の内周面とは、実質的に隙間なく密着できる。これに加えて、ヒーター130が2000度を超える高温で発熱しても、ヒーター130、電極140およびスタッド150が黒鉛から構成されるため、熱膨張係数差に起因する隙間も生じ難い。それゆえ、スタッド150と、ヒーター側ネジ穴132および電極側ネジ穴142との接続部においても、放電や、放電による破壊が生じ難い。
【0030】
したがって、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100は、坩堝120の外周面120Sを囲うように配置されたヒーター130と電極140との間を接続する構造が単純でありながらも、長期間安定してヒーター130を支持固定できる構造を有する。
【0031】
なお、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100においては、図2に例示するように、通常、黒鉛製ヒーター130の底面130BTと黒鉛製棒状電極140の端面140TPとの界面には、カーボンセメントを用いて形成されたカーボン接着層160が設けられることが特に好ましい。カーボン接着層160を設けることにより、ヒーター130と電極140とをより強固に固定できる。これに加えて、両部材の界面に隙間が形成されることで放電が発生するのをより確実に防止できる。また、カーボン接着層160は、ヒーター130と電極140との接続部を構成する主要部材であるヒーター130、電極140およびスタッド150を構成する材料と同じ黒鉛から構成される。このため、これら4つの部材間における熱膨張係数差はゼロまたは極めて僅かであるため、熱膨張係数差に起因する部材間の隙間(すなわち放電の発生原因)も形成され難い。なお、カーボンセメントとしては公知のカーボンセメントであれば特に制限なく用いることができるが、一般的に、黒鉛粉末とフルフリルアルコールなどの溶剤とを少なくとも含むものを用いることができる。
【0032】
スタッド150としては、図2に示すように、頭部を持たず、円柱状のネジ軸部のみからなるいわゆるイモネジが用いられる。ネジ軸部の外周面150Sにはネジ山が刻まれる(図2中、不図示)。なお、ネジ山は、ネジ軸部の外周面150Sの全面に刻まれていてもよいが、ネジ軸部の外周面150Sのうち、軸方向の両端側近傍のみに刻まれていてもよい。また、スタッド150の両端側(ネジ先150TP、150BT)の形状は特に限定されず、たとえば、図2に例示したような平坦面(平先)以外にも、ネジ先に窪みが設けられた形状(くぼみ先)、ネジ先が尖った形状(とがり先)など、公知のネジ先形状を適宜選択できる。
【0033】
また、スタッド150によりヒーター130と電極140とを接続する場合、たとえば、電極140の電極側ネジ穴142に軽くスタッド150を差し込んで固定した後に、スタッド150の先端をヒーター側ネジ穴132に差し込んで、電極140を工具代わりにして、スタッド150をヒーター側ネジ穴132および電極側ネジ穴142の双方に深くねじ込むことができる。このため、ネジ先150TP、150BTの形状として、レンチやスパナ、ドライバーなどの金属製の工具によりスタッド150を締め付けるのに適した形状を採用しなくてもよい。また、黒鉛製のスタッド150は、脆く、割れやすいため、黒鉛よりも硬い金属製の工具を使用すると、スタッド150が割れたり、欠けたりする可能性があるが、スタッド150と同じ黒鉛製の電極140を工具の代用部材として使用すれば、このような問題を抑制できる。なお、工具によりスタッド150を締め付けるのに適した形状とは、ネジ先150TP、150BT部分に工具と篏合する穴または突起が設けられている場合や、ネジ先150TP、150BT部分の外周輪郭線が、工具と篏合する多角形状となっている場合が挙げられる。具体的には、ネジ先150TP、150BTに、六角形の穴が設けられた形状、十字状あるいは一直線状の溝が設けられた形状、ネジ先150TP、150BTに、六角柱や四角柱などの柱状突起が設けられた形状、あるいは、ネジ先150TP、150BT部分の平面形状が六角形や四角形などの多角形状である場合などである。
【0034】
また、ヒーター側ネジ穴132および電極側ネジ穴142は、少なくとも内周面132S、142Sが、スタッド150に対して実質的に隙間なく螺合できる縦穴形状であればよく、図2に例示したように、縦穴状を成すヒーター側ネジ穴132および電極側ネジ穴142の底面132BT、142BTも、スタッド150のネジ先150TP、150BTと実質的にほぼ隙間が形成されない形状であることがさらに好ましい。なお、図2に示す例では、底面132BT、142BTは、平先型のスタッド150に対応させて、平坦面とされている。
【0035】
ヒーター130、電極140およびスタッド150を構成する材料としては黒鉛材料であれば炭素繊維強化炭素複合材も含めて公知のものが特に制限無く利用できる。黒鉛材料には、その原料や製法の違いにより、固有抵抗値、曲げ強度、引張り強度、熱膨張係数、熱伝導率などの諸物性が互いに異なる様々な品種がある。たとえば、市販されている黒鉛材料の物性値の典型的な数値範囲は、固有抵抗値が1〜40μΩm、曲げ強度が5〜350MPa、引張り強度が5〜350MPa、熱膨張係数が0〜10×10―6/℃、熱伝導率が5〜200W/m・K程度である。このため、ヒーター130、電極140およびスタッド150に要求される機能や役割を考慮して、使用する黒鉛材料を選択できる。ここで、ヒーター130は、発熱効率を高めるために、ヒーター130を構成する固有抵抗値は高い方が望ましく、具体的には、13μΩm以上が好ましく、16μΩm以上がより好ましい。なお、固有抵抗値の上限は特に限定されないが、実用上は、40μΩm以下が好ましい。
【0036】
一方、電極140およびスタッド150は、ヒーター130と電源との間の導通路である。したがって、ヒーター130が発熱した際の無駄な電力消費を抑制するためには、電極140およびスタッド150を構成する黒鉛材料の固有抵抗値は低い方が好ましく、具体的には、10μΩm以下が好ましく、5μΩm以下がより好ましい。なお、固有抵抗値の下限値は特に限定されないが、実用上は、1μΩm以上が好ましい。また、電極140およびスタッド150には、ヒーター130が発熱して常温から2000度を超える温度に到達する加熱段階などにおいて、軸方向C2に急峻な温度勾配が形成されることで熱応力が発生し易くなる。このような熱応力は、電極140およびスタッド150の破壊を招きやすくなる。よって、熱応力を緩和するためには、電極140およびスタッド150を構成する黒鉛材料の熱伝導率は高い方が好ましく、具体的には、150W/m・K以上が好ましく、170W/m・K以上がより好ましい。なお、熱伝導率の上限値は特に限定されないが、実用上は、200W/m・K以下が好ましい。
【0037】
さらに、電極140は、ヒーター130を支持固定する構造部材として利用されており、スタッド150も、ヒーター130と電極140とを接続する構造部材として利用されている。したがって、これらの構造部材を構成する材料としては、通常であれば、さらに、機械的物性にも優れた黒鉛材料を用いる必要がある。しかしながら、複数の物性値について所望の値を満たす黒鉛材料を入手することは、物性値の種類が増えるほど困難になり、ある物性値の充足を優先させると他の物性値を犠牲にしなければならなくなるなど、トレードオフの問題が生じやすい。また、本発明者らが、市販の黒鉛材料について調査したところ、低い固有抵抗値と、高い熱伝導率と、優れた機械的物性値とを同時に満たす黒鉛材料については存在しておらず、いずれかの物性値を犠牲にしなければ市販の黒鉛材料を利用できないことが分かった。
【0038】
しかしながら、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100では、上述したようにヒーター130の重量が、電極140の最も機械的強度の高い方向、すなわち軸方向によって受け止められている。このため、電極140やスタッド150に対して、ヒーター130の重量に起因する曲げ応力や引張り応力が加わり難い。これに加えて、本発明者らは、市販されている様々な黒鉛材料のうち、引張り強さや曲げ強さが極めて低い黒鉛材料を用いて電極140やスタッド150を作製して、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100に適用してみたが、サファイア単結晶部材製造装置100で使用する構造材という点で、実用上、特に問題が生じないことも確認した。
【0039】
すなわち、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100では、電極140およびスタッド150の構成材料として、一般的な黒鉛材料の平均値と比べて、曲げ強さや引張り強さのかなり低い黒鉛材料であっても用いることができるため、曲げ強さや引張り強さを考慮せずに黒鉛材料を選択できる。このため、電極140やスタッド150として利用できる黒鉛材料の選択の自由度を非常に大きくすることができる。たとえば、上述した典型的な数値範囲内において、曲げ強さとして35MPa以下、さらには28MPa以下の黒鉛材料も利用でき、引張り強さとして20MPa以下、さらには15MPa以下の黒鉛材料も利用できる。
【0040】
また、曲げ強さや引張り強さを考慮しなくてもよい場合は、市販の黒鉛材料の中から、上述した低抵抗かつ高熱伝導率の黒鉛材料を調達して電極140およびスタッド150を作製することも可能となる。なお、このような黒鉛材料としては、市販の黒鉛材料のうち、機械的特性に優れた炭素繊維強化炭素複合材以外の非複合材系の黒鉛材料の中から選択できる。具体的には、市販の黒鉛材料のうち、引張り強さが20MPa以下であり、機械的物性値としては劣るものの、固有抵抗値が10μΩm以下、かつ、熱伝導率が150W/m・K以上である黒鉛材料を利用でき、これらの中でも特に、引張り強さが15MPa以下であり、機械的物性値としてはさらに劣るものの、固有抵抗値が5μΩm以下、かつ、熱伝導率が170W/m・K以上である黒鉛材料を利用することもできる。
【0041】
また、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100では、坩堝120内のアルミナ融液200の対流を抑制することを目的としたコイルは不要である。また、アルミナ原料の溶解の促進や、アルミナ融液200の加熱を促進・維持する観点からは、坩堝120の外周面120S側を加熱する黒鉛製ヒーター130(側面加熱ヒーター)以外にも、特許文献3に示す単結晶部材製造装置のように、坩堝120の底面120BT側を加熱する黒鉛製ヒーター(底部加熱ヒーター)を新たに設けることもできる。しかしながら、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100では、坩堝120の加熱部材として、ヒーター130のみを備えることが望ましく、底部加熱ヒーターは用いないことが好ましい。底部加熱ヒーターの使用は、溶解・加熱時間の短縮という点では有利であるが、以下に説明するデメリットも生じるためである。
【0042】
すなわち、底部加熱ヒーターを設けた場合、側面加熱ヒーター(ヒーター130)を支持する電極140の外周面のうち、底部加熱ヒーターに近い部分のみが加熱されることになる。このため、電極140の直径方向において温度勾配が生じ、底部加熱ヒーター側と、底部加熱ヒーターの反対側とで熱膨張量に差が発生するため、電極140に反りが生じ、結果的に電極140が折れやすくなる。また、アルミナ融液200の温度制御という観点では、制御因子が1つ(ヒーター130)ではなく、2つ(ヒーター130および底部加熱ヒーター)に増えるため、温度制御がより複雑化する。
【0043】
ヒーター130は、底面130BTにヒーター側ネジ穴132が設けられた筒状を成すヒーターであればその形状は特に限定されない。しかしならが、ヒーター130は円筒状のヒーターであることが好ましく、特に、図3に例示するヒーター130A(130)のように、頂面130TPから中心軸C1方向の下方側へと伸びる第一スリット134Aと、底面130BTから中心軸C1方向の上方側へと伸びる第二スリット134Bとが、周方向に沿って交互に設けられた円筒状のヒーターであることが好ましい。なお、これらスリット134A、134Bの長さは、周方向においてヒーター130Aが分断されず、かつ、適度な強度が維持できる程度に、ヒーター130Aの中心軸C方向の長さよりも短くなるように設定される。
【0044】
また、ヒーター130の直径方向の厚みは、図3に例示したように、周方向および中心軸C1方向において一定であってもよい。しかしながら、図4に例示するヒーター130B(130)のように、ヒーター130Bの底面130BT側、かつ、周方向においてヒーター側ネジ穴132が設けられた近傍(ネジ穴近傍部136A)におけるヒーター130Bの直径方向の厚みt11が、ネジ穴近傍部136A以外の部分(非ネジ穴近傍部136B)におけるヒーター130の直径方向の厚みt12よりも大きいことが好ましい。この場合、ヒーター130B全体の厚みおよび重量増加を抑えつつ、ネジ穴近傍部136Aの厚みt11のみを大きくすることができるため、ネジ穴近傍部136Aの強度を高めることができる。これに加えて、接続部全体の強度を高めるために、より大径のヒーター側ネジ穴132およびスタッド150を採用することも容易になる。なお、図4に示すヒーター130Bにおいて、図3に例示したようなスリット134A、134Bを設ける場合、ネジ穴近傍部136Aは、周方向において隣接する2つの第二スリット134Bの間に設けられる。
【0045】
スタッド150の直径は、ヒーター側ネジ穴132および電極側ネジ穴142の内径に対応するものであれば特に制限されない。ヒーター側ネジ穴132が設けられた近傍について、ヒーター130単独の機械的強度を考慮した場合、ヒーター130の直径方向の構造は、以下に説明する構造が理想的であると考えられる。すなわち、図5に示すように、スタッド150の直径に対応するヒーター側ネジ穴132の直径をT2とし、ヒーター130の内周面130S1からヒーター側ネジ穴132までの厚みをT1とし、ヒーター130の外周面130S2からヒーター側ネジ穴132までの厚みをT3とした場合、T1とT2とT3とは同一であることが理想的であると考えられる。このような構成を採用することで、ヒーター側ネジ穴132の内周側部分(厚みT1部分)および外周側部分(厚みT3部分)、ならびに、スタッド150(厚みT2部分)それぞれのヒーター130の直径方向における機械的強度を偏りなく極大化できる。一方、厚みT1部分、厚みT2部分、あるいは、厚みT3部分のいずれかの破損は、隙間の形成や、隙間に起因する放電の発生を招くことになる。このため、T1,T2およびT3の厚みを等しくすることは、各部分の破損確率を等しくできる(偏りが無くなる)ため、隙間に起因する放電の発生確率を極小化できると考えられる。
【0046】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、スタッド150の直径(厚みT2)を、
ヒーター130の底部側、かつ、周方向においてヒーター側ネジ穴132が設けられた近傍におけるヒーター130の直径方向の厚み(T1+T2+T3)の1/3とする、言い換えれば、T2/(T1+T2+T3)を1/3とするのではなく、1/3を超えるものとし、さらには1/2以上とした方がより放電の発生をより一層抑制できることを確認した。
【0047】
このような効果が得られる理由の詳細は不明であるが、本発明者らは以下のように推定している。すなわち、スタッド150の両側に位置する厚みT1部分および厚みT3部分に対して、ヒーター130の直径方向に作用する何がしかの応力が加わった場合、厚みT1部分についてはヒーター130の内周側へと応力を分散させることができ、厚みT3部分についてはヒーター130の外周側へと応力を分散させることができる。しかし、スタッド150(厚みT2部分)については、その両側が厚みT1部分および厚みT2部分に囲まれている。このためスタッド150に、ヒーター130の直径方向に作用する何がしかの応力が加わった場合、応力の逃げ場がないため、スタッド150は応力が加わった状態から解放されない。このため、T1,T2およびT3の厚みが等しい場合、ヒーター側ネジ穴132の内周側部分(厚みT1部分)および外周側部分(厚みT2部)と比較して、相対的にスタッド150(厚みT2部分)が最も破壊され易いと考えられる。
【0048】
したがって、厚みT1部分および厚みT3部分に対して相対的にスタッド150(厚みT2部分)の厚みをより大きくすることで、スタッド150と、厚みT1部分および厚みT3部分との破壊確率の差をより小さくすることができる。また、スタッド150(厚みT2部分)の厚みが相対的に大きくなりすぎることで、厚みT1部分あるいは厚みT3部分の破壊確率が逆に大きくなったとしても、これらの部分は、破壊によりヒーター130本体から剥離して、ヒーター130の内周側あるいは外周側へと脱落しやすい。このため、破壊が生じてもこのような脱落が生じた場合には、スタッド150(厚みT2部分)と、厚みT1部分あるいは厚みT3部分との間で放電が生じやすい隙間が形成されることも防止できる。
【0049】
ヒーター130に接続される電極140の数は最低2本であればよいが、3本以上用いることもできる。しかしながら、ヒーター130を安定して支持固定する観点からは、通常は4本の電極140を用いることが好ましい。なお、3本以上の電極140を用いる場合、3本以上の電極140のうち、いずれか2本の電極140が電源に接続されているのであれば、残りの電極140は、電源に接続されないダミー電極であってもよい。また、ヒーター130を安定して支持固定する観点からは、電極140は、ヒーター130の周方向に対して、等間隔に配置されることが好ましい。たとえば、ヒーター130が円筒状のヒーターであり、かつ、4本の電極140を用いる場合、ヒーター130の中心軸C1を基準として0度、90度、180度および270度の位置に電極140を配置することが好ましい。また、電極140の下端側は電極140を固定部材(図1中、不図示)により支持されると共に、電源に接続される。但し、電極140の長手方向の中央部近傍で、電極140を支持固定したり、電源に接続してもよい。また、ダミー電極として機能する電極140については、電源に接続されない。なお、図1に例示するように、電極140の下端側が、格納容器110底部の下面側に位置する場合、格納容器110の底部には、電極140を挿通させる貫通孔110Hが設けられると共に、貫通孔110Hの内周面と電極140との間は、必要に応じて絶縁部材を配置するなどにより電気的に絶縁される。
【0050】
また、電極140の長さは特に限定されないが、短すぎる場合は、電源と電極140とを接続する配線や金属製の接続端子などが、ヒーター130の熱によってダメージを受けやすくなる。それゆえ、電極140の長さは、電極140の直径の3倍以上が好ましく、12倍以上がより好ましい。なお、長さの上限は特に限定されないが、実用上は、電極140の直径の50倍以下である。
【0051】
次に、上述した以外の本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100の各部の構成について説明する。まず、格納容器110は、その内部の空間を、外部と遮断して密閉空間としたり、格納容器110内で育成したサファイア単結晶部材220を外部に取り出したり等できるように、シャッターなどの開閉部(図中、不図示)が設けられる。また、格納容器110の内部と外部とを接続するために、ガス導入口およびガス排出口(図1中、不図示)を、格納容器110の任意の部分に設けることができる。この場合、ガス導入口の格納容器110外部側の端は、たとえば、Arガスなどの不活性ガスを供給する不活性ガス供給源に接続され、ガス排出口の格納容器110外部側の端は、大気に開放されていてもよいが、ロータリーポンプなどの排気装置に接続されていることが好ましい。
【0052】
坩堝120は、アルミナの融点を超える融点を持つMoなどの高融点金属からなる有底筒状の部材が利用できるが、通常、有底円筒状の部材を用いることが好ましい。また、坩堝120は、格納容器110内の底部側に配置される。この場合、坩堝120を格納容器110の底部に接するように配置してもよいが、通常は、図1に例示するように格納容器110の底部に設置された盤状の坩堝支持部190上に配置することが好ましい。この坩堝支持部190には、図1に示すように、電極140を挿通させる貫通孔190Hが設けられていてもよい。また、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100には、坩堝120内のアルミナ融液200の加熱状態をモニターするために、通常、熱電対や放射温度計などの公知の加熱状態検出装置が適当な位置に設置される。たとえば、熱電対を、坩堝120の底面近傍に配置することができる。
【0053】
また、図1に例示するように、断熱部材192を、ヒーター130および坩堝120を取り囲む位置に適宜配置してもよい。なお、坩堝支持部190が断熱材から構成される場合には、断熱部材192は、坩堝支持部190と一体的に形成された部材であってもよい。また、断熱部材192は、少なくともヒーター130の外周側を囲むように配置されるが、図1に例示するように、ヒーター130の外周側に加えて、ヒーター130の上方側や坩堝120の上方外周部側を囲むように配置されていてもよい。
【0054】
さらに、坩堝120内にアルミナ原料を供給する原料供給装置を必要に応じて設けることもできる。原料供給装置としては、たとえば、坩堝120の上方に配置された原料供給パイプと、これに接続された原料供給タンク等の原料供給源(図1中、不図示)とを有する装置などが利用できる。
【0055】
また、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置を用いてサファイア単結晶部材を製造する場合、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置が利用可能な公知の製造方法が適宜利用できるが、代表的には、EFG(Edge−defined Film−fed Growth)法、あるいは、CZ(Czochralski)法が利用できる。
【0056】
EFG法を利用する場合は、図1に示すように、本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100は、坩堝120内に配置され、上端部から下方へと伸びるスリット172を備えたダイ170と、ダイ170の上方側において、種結晶210が鉛直方向Zに移動できるように種結晶210を保持する種結晶保持部材180と、をさらに備える。
【0057】
ダイ170は、通常、坩堝120の中央部付近に配置され、Moなどの高融点金属から構成される。そして、サファイア単結晶部材220の育成時には、ダイ170の下部側は坩堝120内に保持されるアルミナ融液200中に浸される。このため、坩堝120内に保持されるアルミナ融液200は、毛細管現象によりスリット172内を上昇し、スリット172の上端側の開口部に到達できる。なお、図1に示す例では、ダイ170は、坩堝120内に固定した状態で配置され、固定に際しては固定部材(たとえば、坩堝120の上端部側とダイ170の上部側とを接続する支持棒など)を用いることもできる。ダイ170の構造は、坩堝120内に保持されるアルミナ融液200を、毛細管現象を利用してダイ170の上端部へと導けるように、ダイ170の上端部から下方へと伸びるスリット172を備えたものであれば特に限定されないが、一般的には、図1に示すようにダイ170を鉛直方向Zに貫通するスリット172が設けられた構造を有することが好ましい。
【0058】
ダイ170としては、図1に例示するように、2枚の仕切り板を、スリット172を形成するように微小間隔をあけて平行に配置した部材などが利用できる。したがって、図1に示すダイ170を用いた例では、1枚の板状のサファイア単結晶部材220を製造することができる。また、ダイ170として、3枚以上の仕切り板をスリット172を形成するように微小間隔をあけて平行に配置した部材を用いれば、2枚の以上の板状のサファイア単結晶部材220を同時に製造することができる。また、ダイ170を鉛直方向Zと直交する平面で切断した断面におけるスリット172の断面形状を適宜選択することにより、板状以外にも円筒状や半円筒状などの様々な形状のサファイア単結晶部材220を製造することもできる。
【0059】
また、サファイア単結晶部材製造装置100は、ダイ170の上方側において、種結晶210が鉛直方向Zに移動できるように種結晶210を保持する種結晶保持部材180を備える。図1に示す例では、種結晶保持部材180は、その長手方向が、鉛直方向Zと平行を成す棒状部材からなり、種結晶保持部材180の下端には種結晶210が固定されている。また、種結晶保持部材180は、モーターなどの駆動装置(図中、不図示)によって、鉛直方向Zに移動できる。サファイア単結晶部材220の製造に際しては、まず、種結晶210を、ダイ170のスリット172の上端開口部まで上昇してきたアルミナ融液200と接触させる。続いて、種結晶保持部材180を徐々に上方に移動させることで種結晶210の下方側にサファイア単結晶部材220を成長させることができる。なお、ダイ170に複数のスリット172が設けられている場合には、複数のスリット172の上端開口部に同時に接触できるサイズの種結晶210を用いたり、個々のスリット172毎に対応させて複数個の種結晶210を用いることができる。
【0060】
一方、CZ法を利用する場合は、図1に示すサファイア単結晶部材製造装置100からダイ170を省略した装置を用いる。CZ法では、種結晶210をアルミナ融液200に接触させた後、種結晶保持部材180を、その中心軸を回転軸として回転させながら上方へ徐々に引き上げる。これにより、円柱状のサファイア単結晶部材220を得ることができる。
【0061】
なお、EGF法およびCZ法のいずれの方法においても、種結晶210としては、サファイア単結晶が用いられる。
【0062】
次に、図1に示す本実施形態のサファイア単結晶部材製造装置100を用いてEFG法によりサファイア単結晶部材220を製造する場合の製造プロセスの一例について説明する。サファイア単結晶部材220の製造に際しては、坩堝120内にアルミナ原料を供給する原料供給工程と、坩堝120内に供給されたアルミナ原料を溶解することでアルミナ融液200を得る溶解工程と、毛細管現象によりダイ170のスリット172上端側の開口部に到達したアルミナ融液200を、種結晶210と接触させた後、種結晶210を上方へ引き上げることでサファイア単結晶部材220を結晶成長させる結晶成長工程と、を少なくとも実施する。
【0063】
原料供給工程におけるアルミナ原料の坩堝120への供給は、サファイア単結晶部材製造装置100の外部で実施してもよいし、サファイア単結晶部材製造装置100の内部で実施してもよい。
【0064】
溶解工程では、坩堝120内に供給された原料を溶解する。これによりアルミナ融液200を得る。サファイア単結晶部材220の結晶成長前段階においては、まず、格納容器110内を真空排気して十分に減圧した後あるいは減圧しながら、ヒーター130による加熱を開始する。また、格納容器110内の温度が、たとえば、800度〜1800度の範囲内(好ましくは、1300度〜1700度の範囲内)において一定温度まで加熱された後にArガス等の不活性ガスを格納容器110内にさらに導入し、格納容器110内を不活性ガスで置換してもよい。格納容器110内を不活性ガスで置換した場合、結晶成長工程の実施中においては、格納容器110内において、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度が、たとえば、1000ppm以下に制御されることが好ましく、100ppm以下に制御されることがより好ましい。
【0065】
結晶成長工程では、最初に、毛細管現象によりダイ170のスリット172上部側の開口部に達したアルミナ融液200を、種結晶210と接触させる。そして、その後、種結晶210を上方側へと引き上げることでサファイア単結晶部材220を結晶成長させる。結晶成長工程を終えた後は、サファイア単結晶部材220を適宜放冷した後、種結晶保持部材180をさらに上方に引き上げることで、種結晶210と共に種結晶210の下部に結晶成長したサファイア単結晶部材220を、格納容器110外へと移動させて取り出す。
【符号の説明】
【0066】
100 :サファイア単結晶部材製造装置
110 :格納容器
110H :貫通孔
120 :坩堝
120BT:底面
120S :外周面
130、130A、130B、130C :ヒーター(黒鉛製ヒーター)
130TP:頂面
130BT:底面
130S1:内周面
130S2:外周面
132 :ヒーター側ネジ穴
132BT:底面
132S :内周面
134A :第一スリット
134B :第二スリット
136A :ネジ穴近傍部
136B :非ネジ穴近傍部
140 :電極(黒鉛製棒状電極)
140TP:端面
142 :電極側ネジ穴
142BT:底面
142S :内周面
150 :スタッド(黒鉛製イモネジ)
150TP:ネジ先
150BT:ネジ先
150S :外周面
160 :カーボン接着層
170 :ダイ
172 :スリット
180 :種結晶保持部材
190 :坩堝支持部
190H :貫通孔
192 :断熱部材
200 :アルミナ融液
210 :種結晶
220 :サファイア単結晶部材

【要約】
【課題】坩堝の外周面を囲うように配置された黒鉛製ヒーターと電極との間を接続する構造が単純であり、かつ、長期間安定して黒鉛製ヒーターを支持固定できること。
【解決手段】格納容器内に配置された坩堝の外周面側を囲うと共に、中心軸が鉛直方向と平行を成すように配置され、底面130BTにヒーター側ネジ穴132が設けられた筒状の黒鉛製ヒーター130と、電極側ネジ穴142が設けられた端面140TPを有し、中心軸が鉛直方向と平行を成すように黒鉛製ヒーター130の底面130BTに対して端面140TPが接続された黒鉛製棒状電極140と、ヒーター側ネジ穴132および電極側ネジ穴142に螺合する黒鉛製イモネジ150と、を少なくとも備え、黒鉛製ヒーター130の底面130BTおよび黒鉛製棒状電極140の端面140TPが、鉛直方向と直交しているサファイア単結晶部材製造装置。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5