【文献】
J.Berglund, et al.,"Closed-form solution for the three-point Dixon method with advanced spectrum modeling",Proc.Intl.Soc.Mag.Reson.Med.19(2011),米国,2011年 7月13日,p751
【文献】
J. Berglund, et al.,"Three-point dixon method enables whole-body water and fat imaging of obese subjects",Magnetic Resonance in Medicine,米国,2010年 5月21日,Vol.63,Issue6,p1659-p1668
【文献】
H.Yu, et al.,"Multiecho water-fat separation and simultaneous R2* estimation with multifrequency fat spectrum mod,Magnetic Resonance in Medicine,米国,2008年10月27日,Vol.60,Issue5,p1122-p1134
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<<第一の実施形態>>
以下、本発明の第一の実施形態を説明する。以下、実施形態を説明するための全図において、特に言及しない限り、同一機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
<MRI装置の外観>
まず、本実施形態の磁気共鳴撮影装置(MRI装置)について説明する。
図1は、本実施形態のMRI装置の外観図である。
図1(a)は、ソレノイドコイルで静磁場を生成するトンネル型磁石を用いた水平磁場方式のMRI装置100である。
図1(b)は、開放感を高めるために磁石を上下に分離したハンバーガー型(オープン型)の垂直磁場方式のMRI装置120である。また、
図1(c)は、
図1(a)と同じトンネル型磁石を用い、磁石の奥行を短くし、かつ、斜めに傾けることによって、開放感を高めたMRI装置130である。
【0017】
本実施形態では、これらの外観を有するMRI装置のいずれを用いることもできる。なお、これらは一例であり、本実施形態のMRI装置はこれらの形態に限定されるものではない。本実施形態では、装置の形態やタイプを問わず、公知の各種のMRI装置を用いることができる。以下、特に区別する必要がない場合は、MRI装置100で代表する。
【0018】
<MRI装置の機能構成>
図2は、本実施形態のMRI装置100の機能構成図である。本図に示すように、本実施形態のMRI装置100は、被検体101が置かれる空間に静磁場を生成する、例えば、静磁場コイル102などの静磁場生成部と、静磁場分布を調整するシムコイル104およびシム用電源部113と、被検体101の計測領域に対し高周波磁場パルスを送信する送信用高周波コイル105(以下、単に送信コイルという)および送信機107を備える送信部と、被検体101から生じる核磁気共鳴信号を受信する受信用高周波コイル106(以下、単に受信コイルという)および受信機108を備える受信部と、被検体101から生じる核磁気共鳴信号に位置情報を付加するために、x方向、y方向、z方向それぞれに傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル103および傾斜磁場用電源部112を備える傾斜磁場印加部と、計算機109と、シーケンス制御装置114と、を備える。
【0019】
静磁場コイル102は、
図1(a)、
図1(b)、
図1(c)にそれぞれ示した各MRI装置100、120、130の構造に応じて、種々の形態のものが採用される。傾斜磁場コイル103及びシムコイル104は、それぞれ傾斜磁場用電源部112及びシム用電源部113により駆動される。なお、本実施形態では、送信コイル105と受信コイル106とに別個のものを用いる場合を例にあげて説明するが、送信コイル105と受信コイル106との機能を兼用する1つのコイルで構成してもよい。送信コイル105が照射する高周波磁場は、送信機107により生成される。受信コイル106が検出した核磁気共鳴信号は、受信機108を通して計算機109に送られる。
【0020】
シーケンス制御装置114は、傾斜磁場コイル103の駆動用電源である傾斜磁場用電源部112、シムコイル104の駆動用電源であるシム用電源部113、送信機107及び受信機108の動作を制御し、傾斜磁場、高周波磁場の印加および核磁気共鳴信号の受信のタイミングを制御し、計測を実行する。制御のタイムチャートは撮像シーケンスと呼ばれ、計測に応じて予め設定され、後述する計算機109が備える記憶装置等に格納される。
【0021】
計算機109は、送信部、受信部および傾斜磁場印加部の動作を制御するとともに受信したエコー信号に対して演算処理を行い、予め定めた撮像領域の画像を得る。計算機109が実現する機能については後述する。計算機109は、CPU、メモリ、記憶装置などを備える情報処理装置であり、計算機109には表示装置110、外部記憶装置111、入力装置115などが接続される。
【0022】
表示装置110は、演算処理で得られた結果等をオペレータに表示するインタフェースである。入力装置115は、本実施形態で実施する計測や演算処理に必要な条件、パラメータ等をオペレータが入力するためのインタフェースである。本実施形態では、この入力装置115を介して、ユーザは、例えば、計測するエコーの数や、基準のエコー時間、エコー間隔などの計測パラメータを入力できる。外部記憶装置111は、記憶装置とともに、計算機109が実行する各種の演算処理に用いられるデータ、演算処理により得られるデータ、入力された条件、パラメータ等を保持する。
【0023】
<計算機が実現する機能>
本実施形態の計算機109が実現する機能について説明する。本実施形態の計算機109は、上述のように、MRI装置100の各部を制御し、予め定めた撮像領域(撮像空間)を画像化する撮像処理を行う。このとき、この撮像領域においては、撮像対象とする第一の物質および不要な第二の物質以外の物質内のプロトンからの信号は無視できるものと仮定する。この仮定の下、第一の物質内のプロトンからの信号と、第二の物質内のプロトンからの信号とを分離し、第二の物質からの信号が抑制された、第一の物質の信号強度を画素値とする画像を得る。
【0024】
以下、本実施形態では、分離対象物質を水と脂肪とし、第一の物質を水、第二の物質を脂肪とする場合を例にあげて説明する。
図3は、本実施形態の計算機109の機能ブロック図である。本実施形態の計算機109は、計測制御部310と、再構成部320と、オフセット周波数分布算出部330と、分離部340と、表示処理部360と、を備える。
【0025】
計測制御部310は、予め定めた計測シーケンスに従って、撮像領域の、異なる3つ以上のエコー時間で、それぞれエコー信号を得る。計測シーケンスは、入力装置115を介してユーザが入力したパラメータと予め記憶装置などに格納されるパルスシーケンスとに
基いて作成される。計測制御部310は、作成した計測シーケンスに従ってシーケンス制御装置114に指示を与え、当該撮像領域の計測を実行する。
【0026】
再構成部320は、計測制御部310が取得したエコー信号から、撮像領域の、当該エコー時間毎の原画像を再構成する。原画像は、エコー時間毎に、取得したエコー信号をk空間に配置し、フーリエ変換を施すことにより得る。なお、以下、本明細書では、計測するエコーの数をN(Nは3以上の整数)とし、n番目(n=1、2、3、・・・、N)のエコー時間t
nの原画像をI
nとする。また、各原画像I
nと、最終的に得られる水画像および脂肪画像の画素サイズは同じとする。
【0027】
オフセット周波数分布算出部330は、エコー時間毎の原画像I
nから、撮像領域の、オフセット周波数分布を算出する。本実施形態では、異なるN個のエコー時間の原画像I
nを用いて、1つのオフセット周波数分布を算出する。オフセット周波数分布は、画素毎の、静磁場不均一により変化する共鳴周波数のオフセット成分(オフセット周波数)の分布である。
【0028】
分離部340は、エコー時間毎の原画像I
nとオフセット周波数分布とを用いて、第一の物質の信号(水信号)と第二の物質の信号(脂肪信号)とを分離し、撮像領域の、第一の物質の画像(水画像)と第二の物質の画像(脂肪画像)とを得る。
【0029】
表示処理部360は、分離後の水画像と脂肪画像とを表示装置110に表示する。表示処理部360は、水画像および脂肪画像を表示装置110に表示する際、両者を区別可能とする情報を併せて表示してもよい。区別可能とする情報は、例えば、「水画像」、「脂肪画像」といったキャプションなどとする。また、必要に応じて、オフセット周波数分布など、撮像処理中に算出される画像を表示装置110に表示してもよい。
【0030】
なお、計算機109が実現する各機能は、記憶装置が保持するプログラムを、CPUがメモリにロードして実行することにより実現される。また、計算機109が実現する各機能のうち、少なくとも一つの機能は、MRI装置100とは独立した、情報処理装置であって、MRI装置100とデータの送受信が可能な情報処理装置により実現されていてもよい。
【0031】
<撮像処理の流れ>
以下、本実施形態の計算機109の各機能による、撮像処理の流れについて簡単に説明する。
図4は、本実施形態の撮像処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0032】
本実施形態では、N個のエコー時間t
nの原画像I
nを得、N個の原画像I
nを用いて静磁場不均一によるオフセット周波数分布を算出する。そして、オフセット周波数分布と原画像I
nとを用い、水と脂肪とを分離した、水画像および脂肪画像を得る。
【0033】
まず、計測制御部310は、予め定められた計測シーケンスに従って、シーケンス制御装置114に指示を出し、N個のエコー時間t
nそれぞれのエコー信号を計測する(ステップS1001)。
【0034】
再構成部320は、各エコー時間のエコー信号を、それぞれk空間に配置し、フーリエ変換することにより、エコー時間t
n毎のN個の原画像I
nをそれぞれ再構成する(ステップS1002)。
【0035】
オフセット周波数分布算出部330は、得られたN個の原画像I
nから1つのオフセット周波数分布を算出する(ステップS1003)。
【0036】
その後、分離部340は、オフセット周波数分布とN個の原画像I
nとを用い、水信号と脂肪信号とを分離し(ステップS1004)、水画像と脂肪画像とを得る。なお、ステップS1004の処理を、分離処理と呼ぶ。
【0037】
表示処理部360は、分離後の水画像および脂肪画像(両者を合わせて分離画像という)をそれぞれ表示装置110に表示する(ステップS1005)。
【0038】
<パルスシーケンス>
ここで、計測制御部310がステップS1001の計測において実行する計測シーケンスの一例について説明する。
図5に、本実施形態において実行される計測シーケンスのタイムチャートの例を示す。この計測シーケンス510は、グラディエントエコー(GrE)型のパルスシーケンスである。なお、計測シーケンス510において、RFはRFパルスの、Gsはスライス選択傾斜磁場の、Gpは位相エンコード傾斜磁場の、Grは読み出し傾斜磁場の、それぞれ印加タイミングをそれぞれ示す。またエコーは、エコー信号の取得タイミングを示す。以下、本明細書の各タイムチャートにおいて、同様である。
【0039】
計測シーケンス510では、1回の繰り返し時間TR内に以下の手順でエコー信号の計測を行う。ここでは、4つの異なるエコー時間でエコー信号を取得する場合を例示する。なお、最初のエコー時間をt
1、その後のエコー時間の間隔(エコー間隔)をΔtとする。
【0040】
まず、RFパルス511を照射し、被検体101の水素原子核スピンを励起する。この際、被検体101の特定のスライスを選択するためにスライス選択傾斜磁場(Gs)512をRFパルス511と同時に印加する。続いてエコー信号に位相エンコードするための位相エンコード傾斜磁場(Gp)513を印加する。その後、最初のRFパルス511照射から時間t
1後に、読み出し傾斜磁場(Gr)521を印加してエコー信号(第一エコー信号)531を計測する。更に、第一エコー信号531の計測から時間Δt後の時刻t
2に、極性の反転した読み出し傾斜磁場(Gr)522を印加してエコー信号(第二エコー信号)532を計測する。同様に、第二エコー信号532の計測から時間Δt後の時刻t
3に、極性の反転した読み出し傾斜磁場(Gr)523を印加してエコー信号(第三エコー信号)533を計測する。さらに、第三エコー信号533の計測から時間Δt後の時刻t
4に、極性の反転した読み出し傾斜磁場(Gr)524を印加してエコー信号(第四エコー信号)534を計測する。
【0041】
第一エコー信号531、第二エコー信号532、第三エコー信号533、第四エコー信号534を計測する際のエコー時間t
1、t
2、t
3、t
4の少なくとも一つは、水と脂肪の位相差が0にならないような時刻となるように、エコー時間t
1およびエコー間隔Δtを設定する。なお、水と脂肪の周波数差をf
wfとしたとき、水と脂肪が同位相になる時間をt
Inとすると、t
Inはm/f
wfである。なお、mは整数である。
【0042】
計測シーケンス510では、上述の条件を満たすエコー時間t
1、t
2、t
3、t
4、またはエコー時間t
1およびエコー間隔Δtが選択される。本実施形態では、エコー時間、エコー間隔、エコー取得回数は、ユーザにより入力装置115を介して設定される。あるいは、予め設定される。
【0043】
計測制御部310は、計測シーケンス510を、位相エンコード傾斜磁場513の強度を変化させながら、被検体101の予め定めた撮像領域へのRFパルス511の照射、および同領域からのエコー信号531、532、533、534の計測を、所定回数繰り返す。繰り返し回数は、例えば128回、256回等である。これにより、当該撮像領域の画像再構成に必要な数のエコー信号を繰り返し取得する。繰り返し回数分の第一エコー信号531により、1つの原画像(第一原画像)が形成され、繰り返し回数分の第二エコー信号532、第三エコー信号533、第四エコー信号534により、それぞれ、第二原画像、第三原画像、第四原画像が形成される。これらは、後述する水画像および脂肪画像を算出するための演算用の原画像として記憶装置等に保存され、使用される。
【0044】
図6に、本実施形態で実行される計測シーケンスの他の例のタイムチャートを示す。この計測シーケンス540は、スピンエコー(SE)型のパルスシーケンスである。
【0045】
計測シーケンス540では、1回の繰り返し時間内に以下の手順でエコー信号の計測を行う。ここでも、4つの異なるエコー時間でエコー信号を取得する場合を例示する。また、最初のエコー時間がt
1、その後のエコー間隔を時間Δtとする。
【0046】
まず、RFパルス541を照射し、被検体101の水素原子核スピンを励起する。この際、被検体101の特定のスライスを選択するためにスライス選択傾斜磁場(Gs)542をRFパルス54
1と同時に印加する。続いてエコー信号に位相エンコードするための位相エンコード傾斜磁場(Gp)543を印加し、更にスピンを反転させるためのRFパルス544をスライス選択傾斜磁場(Gs)545とともに照射する。その後、最初のRFパルス541照射から時間t
1後に、読み出し傾斜磁場(Gr)551印加してエコー信号(第一エコー信号)561を計測する。更に、第一エコー信号561の計測から時間Δt後の時刻t
2に、極性の反転した読み出し傾斜磁場(Gr)552を印加してエコー信号(第二エコー信号)562を計測する。同様に、第二エコー信号562の計測から時間Δt後の時刻t
3に、極性の反転した読み出し傾斜磁場(Gr)553を印加してエコー信号(第三エコー信号)563を計測する。さらに、第三エコー信号563の計測から時間Δt後の時刻t
4に、極性の反転した読み出し傾斜磁場(Gr)554を印加してエコー信号(第四エコー信号)564を計測する。
【0047】
第一エコー信号561、第二エコー信号562、第三エコー信号563、第四エコー信号564を計測する際のエコー時間t
1、t
2、t
3、t
4は、グラディエント型パルスシーケンスと同様の条件を満たすように選択される。
【0048】
なお、
図5および
図6に示す例では、GrE型のパルスシーケンス510の場合も、SE型のパルスシーケンス540の場合も、1回の繰り返し時間TR内にエコー時間の異なるN個の信号(ここでは、第一エコー信号、第二エコー信号、第三エコー信号、第四エコー信号)を計測する。しかし、1回の繰り返し時間TRに1つのエコー信号を計測するよう構成してもよい。この場合、4回の繰り返し時間TRを用いて、第一エコー信号、第二エコー信号、第三エコー信号、第四エコー信号を計測する。
【0049】
なお、
図5および
図6の例では、再構成部320は、上記ステップS1002において、ステップS1001で計測した各エコー時間t
1、t
2、t
3、t
4のエコー信号を、k空間上に各々配置し、フーリエ変換する。これにより、各エコー時間t
1、t
2、t
3、t
4の原画像I
1(第一原画像)、原画像I
2(第二原画像)、原画像I
3(第三原画像)、原画像I
4(第四原画像)をそれぞれ算出する。
【0050】
<オフセット周波数分布算出処理>
次に、上記ステップS1003の、オフセット周波数分布算出部330によるオフセット周波数分布の算出処理について説明する。本実施形態のオフセット周波数分布算出部330は、N個のエコー時間毎の原画像I
nから、全画素が全て第一の物質と仮定して得たピーク周波数の分布である第一のピーク周波数分布と、全画素が全て第二の物質と仮定して得たピーク周波数の分布である第二のピーク周波数分布とをそれぞれ算出し、これら第一のピーク周波数分布および第二のピーク周波数分布を用いて、エコー間隔によるエリアジング(折り返し)を除去したオフセット周波数分布を得る。
【0051】
これを実現するため、本実施形態のオフセット周波数分布算出部330は、
図3に示すように、エコー時間毎の原画像I
nを用い、撮像対象物質(第一の物質。ここでは、水)が主成分である画素の中からシード点を抽出するシード点抽出部331と、エコー時間毎の原画像I
nを用い、撮像領域の画像の各画素のスペクトルを算出するスペクトル算出部332と、各画素のスペクトルのピーク周波数をピーク周波数分布として算出するピーク周波数分布算出部333と、各画素のピーク周波数を、第一の物質(ここでは、水)および第二の物質(ここでは、脂肪)それぞれについて、予め定めたシフト量だけシフトさせて、画素毎の第一のシフト周波数(以下、水シフト周波数という)および第二のシフト周波数(以下、脂肪シフト周波数という)をそれぞれ算出するシフト周波数分布算出部334と、シード点を基準画素とした領域拡大法により、ピーク周波数とシフトピーク周波数とのいずれかを画素毎にオフセット周波数として選択し、オフセット周波数分布を得るピーク周波数選択部335と、を備え、前記シフト量は、前記エコー時間の間隔により発生する折り返しが除去されるよう定められる。
【0052】
まず、上記オフセット周波数分布算出部330の各機能による、本実施形態のオフセット周波数分布算出処理の流れの概略を説明する。
図7は、本実施形態のオフセット周波数分布算出処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0053】
シード点抽出部331は、N個のエコー時間の原画像I
nを用いて、シード点抽出処理を行い、水が主成分の画素の中の1つの画素をシード点として抽出する(ステップS1101)。次に、スペクトル算出部332は、N個のエコー時間の信号を時間方向に離散フーリエ変換するスペクトル算出処理を行い、撮像領域の画像の各画素のスペクトルをそれぞれ算出する(ステップS1102)。次に、ピーク周波数分布算出部333は、ピーク周波数分布算出処理を行い、各画素のスペクトルにおける振幅が最大となる周波数(ピーク周波数)をピーク周波数分布として算出する(ステップS1103)。次に、シフト周波数分布算出部334は、第一の物質および第二の物質毎に、周波数シフト処理を行い、ピーク周波数分布の画素値である周波数の値を予め定めたシフト量だけシフトさせたシフト周波数分布を算出する(ステップS1104)。そして、ピーク周波数選択部335は、ステップS1101で得たシード点を用いた領域拡大法により、画素毎に、第一の物質のシフト周波数分布と第二の物質のシフト周波数分布とのいずれかの画素値を選択するピーク周波数選択処理を行う(ステップS1105)。
【0054】
なお、オフセット周波数分布算出処理において、ステップS1101のシード点を抽出する処理およびステップS1102の各画素のスペクトルを算出する処理は、いずれを先に行ってもよい。以下、各処理の詳細を説明する。
【0055】
<シード点抽出処理>
まず、ステップS1101のシード点抽出部331によるシード点抽出処理を説明する。シード点抽出部331は、後述する領域拡大法で用いるシード点として、水が主成分の画素の中から1の画素を抽出する。シード点抽出部331は、SNRが高く、見かけの横緩和速度R
2*による信号減衰が少ない画素を水が主成分の画素とする。そして、水が主成分の画素の中の、周囲に類似した水が主成分の画素が存在する画素の中から、シード点を抽出する。
【0056】
なお、本実施形態の水−脂肪分離法では、脂肪が主成分の画素がシード点として選択されると、最終的に得られる水画像と脂肪画像とが入れ替わって算出される。したがって、水が主成分の画素をシード点として高精度に抽出する必要がある。
【0057】
本実施形態のシード点抽出部331は、上述のような画素をシード点として抽出するため、
図8に示すように、N個のエコー時間の原画像I
nを用いて比画像およびその絶対値を算出する絶対値比画像算出部411と、絶対値比画像からシード点候補の画素群を抽出する候補抽出部412と、所定数以上、シード点候補の画素群が抽出されたか否かを判定する抽出数判定部413と、抽出された前記シード点候補の画素の中からシード点を決定するシード点決定部414と、を備える。
【0058】
ここで、シード点抽出部331の各部によるシード点抽出処理の流れとともに、各部の処理の詳細を説明する。
図9は、本実施形態のシード点抽出処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0059】
まず、絶対値比画像算出部411は、下記の式(1)に従って、各画素rについて、n番目の原画像I
nの信号値(画素値)s
n(r)を、1番目の原画像I
1の信号値(画素値)s
1(r)で複素除算し、絶対値をとった絶対値信号比u
n(r)を算出する(絶対値比画像算出;ステップS1201)。
u
n(r)=|s
n(r)/s
1(r)| ・・・(1)
なお、このとき、除算に用いる原画像は1番目の原画像に限られない。いずれの原画像であってもよい。
【0060】
次に、候補抽出部412は、水を主成分とするシード点候補の画素群(シード点候補画素)を抽出する。一般に、水信号の方が、脂肪信号に比べ、時間的な減衰が少ない。また、水信号は、脂肪信号に比べ、SNRが高い。一方、脂肪信号は、水信号よりも見かけの横磁化緩和速度(R
2*)による信号減衰が大きい。従って、水を主成分とする画素の場合、画素値の時間方向の平均値は1に近い値を取り、脂肪を主成分とする画素の場合、画素値の時間方向の平均値は1とは異なる値となる。また、水信号のように、SNRが高く、かつ、R
2*による信号減衰が小さい場合、画素値の標準偏差は0に近い値をとる。
【0061】
本実施形態の候補抽出部412は、上記性質を利用し、水を主成分とする画素群を、シード点候補画素として抽出する。具体的には、絶対値信号比u
n(r)の、時間方向の平均値E(r)と標準偏差σ(r)とをそれぞれ算出する。そして、平均値および標準偏差の、予め定めた閾値をそれぞれTh
E、Th
σとして、E(r)≧Th
E、σ(r)≦Th
σを満たす画素群をシード点候補画素として抽出する(ステップS1202)。
【0062】
なお、上記閾値Th
E、Th
σは、経験的に決定した値を用いる。従って、撮像領域によっては、これらの閾値を用いた場合、1つもシード点候補画素を抽出できない場合がある。これを避けるため、抽出数判定部413は、上記ステップS1202において、1以上の画素が、シード点候補画素として抽出されているか否かを判定する(ステップS1203)。具体的には、シード点候補画素数が、予め定めた判定の基準数Ns(ここでは、1)以上であるか否かを判別する。
【0063】
なお、抽出される画素には、その後の処理のシード点としては不適切な特殊な画素もある。従って、上記においては、判定の基準数Nsを1としているが、判定の基準数Nsを2以上とすることが望ましい。
【0064】
そして、抽出できていないと判定された場合は、シード点抽出部331は、閾値Th
Eを予め定めた変化幅だけ小さい値に、閾値Th
σを予め定めた変化幅だけ大きい値に変化させ(ステップS1204)、再びステップS1202に戻り、シード点候補画素を抽出する。なお、変化させる閾値は、両方であっても、いずれか一方であってもよい。
【0065】
一方、ステップS1203で抽出されていると判定された場合、シード点決定部414は、類似画素の探索を行い(ステップS1205)、シード点候補画素群の中から1の画素をシード点と決定する。
【0066】
ここで、シード点とする画素は、その周囲の画素も水が主成分の画素であることが望ましい。このため、シード点決定部414は、シード点候補の画素の各画素に対し、周囲に類似した水主成分画素が存在するか否かを探索(類似画素の探索)し、所定の基準でその探索結果を評価し、その評価に基づき、シード点とする画素(シード点画素)を決定する。ここでは、シード点候補画素として抽出した画素rの中で、当該画素rを中心とした小領域内に、水が主成分の画素が最も多く含まれている画素をシード点とする。
【0067】
シード点候補画素の周囲の領域内の画素が、水が主成分の画素を多く含む場合、領域内の各画素の時間方向の平均値E(r)の、領域内での平均値は1に近くなり、また、標準偏差は0に近くなる。これを利用し、シード点決定部414は、抽出した1以上のシード点候補画素r各々について、当該画素rを中心としたR×R画素の小領域内の各画素の平均値E(r)の、当該領域内の平均値E
a(r)と、平均値E(r)の標準偏差σ
a(r)とを算出する。そして、以下の式(2)に示す関数h(r)を評価関数とし、その値である評価値を計算する。シード点候補画素rの中で、評価値が最も大きい画素を、シード点として抽出する。
h(r)=E
a(r)/σ
a(r) ・・・(2)
【0068】
以上の手順により、本実施形態のシード点抽出部331は、高SNRかつ信号減衰の少ないシード点を抽出できる。このシード点は、後述の領域拡大法でシード点として用いられる。
【0069】
<スペクトル算出処理>
次に、ステップS1102の、スペクトル算出部332によるスペクトル算出処理について説明する。上述のように、スペクトル算出部332は、撮像領域の画像の各画素について、N個のエコー時間の信号を時間方向に離散フーリエ変換し、画素毎のスペクトルをそれぞれ算出する。N個のエコー時間の信号として、各原画像I
nの、当該画素の画素値をそれぞれ用いる。
【0070】
スペクトル算出部332は、まず、時間ドメインの計測信号s
n(r)に対して、以下の式(3)で定義する離散フーリエ変換を画素ごとに実施し、撮像領域の画素r毎の周波数ドメインのスペクトル信号S
f(r)を算出する。
【数3】
ここで、MおよびΔfは、任意の周波数点数および周波数分解能をそれぞれ表す。
【0071】
なお、計測したN個のエコー時間のエコー間隔をΔt、スペクトル信号S
f(r)のスペクトル帯域をB
wとすると、スペクトル帯域B
wおよびエコー
間隔Δt、周波数分解能Δf、周波数点数Mは、下式(4)の関係を満たす。
B
w=(1/Δt)=M・Δf ・・・(4)
【0072】
<ピーク周波数分布算出処理>
次に、ステップS1103のピーク周波数分布算出部333によるピーク周波数分布算出処理について説明する。上述のように、ピーク周波数分布算出部333は、算出した画素毎のスペクトル信号S
f(r)から、エリアジングを除いた各画素rのピーク周波数Ψ
peak(r)を得る。
【0073】
まず、ピーク周波数分布算出部333は、各画素rのスペクトル信号S
f(r)のピーク周波数Ψ
peak(r)を算出する。算出したピーク周波数Ψ
peak(r)は、静磁場不均一により、スペクトル帯域B
wを超えた信号がエリアジングにより折り返されて算出されている可能性がある。そのため、シード点抽出部331が抽出したシード点を用い、領域拡大法により周波数アンラップ処理を行い、折り返しを除去する。
【0074】
具体的には、シード点の画素をr
sとし、このシード点r
sのピーク周波数Ψ
peak(r
s)と、予め定めた閾値Th
peakとを用い、シード点r
sに隣り合う画素r
jにおけるピーク周波数Ψ
peak(r
j)を、以下の式(5)に従って算出する。
【数5】
【0075】
すなわち、隣接する画素r
jにおけるピーク周波数Ψ
peak(r
j)として、シード点r
sのピーク周波数Ψ
peak(r
s)と隣接する画素r
jにおけるピーク周波数Ψ
peak(r
j)との差の絶対値が閾値Th
peak以内であれば、そのままピーク周波数Ψ
peak(r
j)の値を用い、差が閾値Th
peakより大きい場合、スペクトル帯域B
wを減算した値を用い、差が閾値Th
peakの反数(加法的逆元)より小さい場合、スペクトル帯域B
wを加算した値を用いる。
【0076】
そして、ピーク周波数分布算出部333は、画素r
jを新たなシード点の画素r
sに再設定し、上記式(5)により隣接する画素のピーク周波数を算出する。このアンラップ処理を、画像内の全画素について繰り返し、アンラップ処理後の各画素のピーク周波数Ψ
peak(r)を、ピーク周波数分布として得る。
【0077】
なお、アンラップ処理に用いる閾値Th
peakは、例えばスペクトル帯域B
wの1/2に設定する。あるいは、閾値Th
peakの初期値を0として、最大スペクトル帯域B
wの1/2まで、徐々に値を大きくしていくといった可変の値にしてもよい。たとえば、最初に設定したシード点からの距離に応じて閾値Th
peakの値を大きくしてもよい。
【0078】
<シフト周波数分布算出処理>
次に、上記ステップS1104の、シフト周波数分布算出部334による、周波数シフト処理について説明する。周波数シフト処理では、ピーク周波数分布の全画素値(ピーク周波数)を、所定のシフト量だけシフトさせたシフト周波数分布を物質毎に算出する。ピーク周波数のシフトは、各画素のピーク周波数から所定の周波数(シフト量)を差し引くことにより実現する。
【0079】
シフト量は、物質毎に定められる。従って、本実施形態では、この周波数シフト処理により算出される物質毎のシフト周波数分布は、全画素が水を主成分とする画素と仮定した場合の水シフト周波数分布と、全画素が脂肪を主成分とする画素と仮定した場合の脂肪シフト周波数分布となる。
【0080】
シフト量は、それぞれの物質と基準物質との周波数差に基づいて算出される。なお、基準物質は、静磁場不均一がなければ、当該物質を主成分とする画素のピーク周波数が0となるよう各パラメータが設定される物質である。本実施形態では、水が基準物質と設定され、水を主成分とする画素r
wでは、シフト量F
wfが0となる場合を例に説明する。
【0081】
従って、全画素を、水を主成分とする画素r
wと仮定した場合、算出されたピーク周波数Ψ
peak(r)がそのまま水シフト周波数Ψ
shift_w(r)となる。すなわち、全画素を、水を主成分とする画素r
wと仮定した場合の水シフト周波数Ψ
shift_W(r)は、算出したピーク周波数Ψ
peak(r)を用いて、以下の式(6)で表される。
Ψ
shift_w(r)=Ψ
peak(r) ・・・(6)
【0082】
一方、脂肪を主成分とした画素r
fでは、シフト量F
wfは、基本的に水と脂肪の周波数差f
wf(<0)となる。ただし、エコー間隔Δtが、標本化定理を満たさない場合、脂肪のピーク周波数は、エリアジングによって折り返される。従って、脂肪を主成分とする画素r
fでは、シフト量F
wfは、エコー間隔Δtに応じて、この折り返しを考慮して決定する必要がある。
【0083】
ここで、水と脂肪の共鳴周波数差の絶対値|f
wf|をナイキスト周波数として定義したとき、エコー間隔(サンプリング間隔)の逆数のサンプリング周波数が、ナイキスト周波数の1/2より小さい場合、標本化定理を満たさない。すなわち、標本化定理を満たさないエコー間隔とは、エコー間隔Δtが1/(2×|f
wf|)よりも大きい場合である。エコー間隔Δtとスペクトル帯域B
wとは、式(4)で表される関係にあるため、これは、水と脂肪の共鳴周波数差の絶対値|f
wf|がスペクトル帯域B
wの1/2よりも大きい場合に相当する。
【0084】
従って、全画素を、脂肪を主成分とした画素r
fと仮定した場合の、脂肪シフト周波数Ψ
shift_f(r)は、以下の式(7)で表される。
Ψ
shift_f(r)=Ψ
peak(r)-F
wf ・・・(7)
このとき、エコー間隔Δtが標本化定理を満たす場合のシフト量は、以下の式(8)で表されるように、共鳴周波数差f
wfとする。一方、標本化定理を満たさない場合は、エリアジングによる折り返しを考慮し、この折り返しを除去するよう、以下の式(9)で表されるように、共鳴周波数差f
wfにスペクトル帯域Bwを加えたものとする。
F
wf=f
wf, if |f
wf|≦B
w/2 ・・・(8)
F
wf=B
w+f
wf, if |f
wf|>B
w/2 ・・・(9)
【0085】
なお、上記オフセット周波数分布算出処理において、本実施形態のように、第一の物質が水であり、第二の物質が脂肪である場合、シフト周波数分布算出部は、脂肪についてのみシフト周波数分布を算出し、ピーク周波数選択部は、ピーク周波数分布とシフト周波数分布とのいずれかから、画素毎に選択し、オフセット周波数分布を得るよう構成してもよい。
【0086】
<ピーク周波数選択>
次に、ピーク周波数選択部335によるピーク周波数選択処理について説明する。ピーク周波数選択処理では、算出したシード点を用いて領域拡大法により、画素毎に、水シフト周波数と、脂肪シフト周波数とのいずれかを、オフセット周波数として選択し、オフセット周波数分布を算出する。
【0087】
ピーク周波数選択部335は、まず、シード点の画素については、水を主成分とした画素であるため、オフセット周波数として水シフト周波数を選択する。そして、隣接する画素について、水シフト周波数および脂肪シフト周波数のうち、シード点のオフセット周波数との差が小さい方をオフセット周波数と選択する。そして、オフセット周波数を選択した隣接する画素をシード点とし、同様の処理を、全画素のオフセット周波数が選択されるまで繰り返す。
【0088】
具体的には、シード点の画素をr
sとすると、まず、Ψ
off(r
s)=Ψ
shift_w(r
s)=Ψ
peak(r
s)に設定する。そして、画素r
sに隣り合う画素r
jにおけるオフセット周波数Ψ
off(r
j)を、上記式(6)および式(7)より、以下の式(10)に従って算出する。
【数10】
そして、画素r
jを新たなシード点の画素r
sとして再設定し、式(10)により画素r
jのオフセット周波数Ψ
off(
rj)を算出する処理を、画像内の全画素のオフセット周波数が算出されるまで繰り返し実施し、オフセット周波数分布Ψ
off(r)を算出する。
【0089】
<分離処理>
次に、ステップS1004の、分離部340による分離処理を説明する。本実施形態の分離部340は、まず、エコー時間による水と脂肪の信号強度の変化を表す信号モデルと、後述するフィッティング処理のための各種の初期値と、を設定する。そして、N個の異なるエコー時間の原画像I
nと初期値と信号モデルとを用いて、非線形最小二乗法により水画像と脂肪画像を算出する。
【0090】
これを実現するため、本実施形態の分離部340は、
図10に示すように、エコー時間による水と脂肪の信号強度の変化を表す信号モデルを設定する信号モデル設定部341と、後述するフィッティング処理に用いる各種の初期値を設定する初期値設定部342と、設定した初期値を用いて、N個の異なるエコー時間の原画像I
n(実際に計測して得た計測信号)を非線形最小二乗法により信号モデルにフィッティングし、水と脂肪とを分離するフィッティング処理部343と、を備える。
【0091】
本実施形態の分離部340の各部による分離処理の流れを、
図11を用いて説明する。まず、信号モデル設定部341は、上述の信号モデルを設定する(ステップS1301)。次に、初期値設定部342は、上述の初期値を設定する(ステップS1302)。そして、フィッティング処理部343は、その初期値を用いて、非線形最小二乗法により計測信号を信号モデルにフィッティングさせるフィッティング処理を行い(ステップS1303)、水と脂肪を分離する。以下、各処理の詳細を説明する。
【0092】
<信号モデルの設定>
まず、ステップS1301の信号モデル設定部341による信号モデルの設定について説明する。本実施形態では、水の信号強度、脂肪の信号強度、オフセット周波数、見かけの緩和速度R
2*をフィッティング変数とする信号モデルを設定する。ここで、n番目のエコー時間t
nで得たエコー信号から再構成した画像I
nの、任意の画素における信号強度s
n(n=1、…、N)を表す信号モデルs’
nを、式(11)に示す。
【数11】
ここで、t
nは、n番目のエコー時間、Ψは、静磁場不均一によって生じるオフセット周波数、ρ
wおよびρ
fは、水と脂肪の複素信号強度、K
nは、時刻t
nにおける脂肪信号の位相変化量(複素数)、R
2*は、水と脂肪で共通化した見かけの横磁化緩和速度をそれぞれ表す。
【0093】
以降の計算では、簡易化するため、信号モデルs’
nを、以下の式(12)に示すように、式(11)における信号減衰項をテーラー展開近似して用いる。
【数12】
【0094】
なお、脂肪信号は、その分子構造により、複数のスペクトルピークを持つことが知られている。したがって、P個(Pは1以上の整数)のピークを持つ脂肪信号を考えた場合、脂肪信号の位相変化量K
nは、以下の式(13)で表される。
【数13】
a
pおよびf
pは、p番目(pは、1≦p≦Pを満たす整数)の脂肪ピークの相対信号強度および水との周波数差をそれぞれ表す。なお、a
pは、以下の式(14)の条件を満たす。
【数14】
【0095】
なお、以下、本実施形態では、脂肪が6つのピークを持つ(P=6)、式(12)で表される信号モデルs’
nを用いる。
【0096】
<初期値の設定>
次に、ステップS1302の、初期値設定部342による初期値の設定方法について説明する。設定する初期値は、各画素の水の複素信号強度および脂肪の複素信号強度と、オフセット周波数分布と、見かけの横磁化緩和速度R
2*とである。
【0097】
水の複素信号強度ρ
wおよび脂肪の複素信号強度ρ
fの各画素の初期値は、実際に計測して得た原画像の信号値s
nの絶対値|s
n|を時間方向に最大値投影した値|s
n|
maxを用いる。オフセット周波数分布の初期値は、オフセット周波数分布算出部330が算出したオフセット周波数分布Ψ
off(r)を用い、見かけの横磁化緩和速度R
2*の初期値は、全画素で1とする。
【0098】
なお、水と脂肪の複素信号強度ρ
wおよびρ
fの各画素の初期値、見かけの横磁化緩和速度R
2*の初期値は必ずしも上記の値でなくてもよく、非線形最小二乗法による演算結果が発散または振動しない値であればよい。
【0099】
<フィッティング処理>
次に、ステップS1303の、フィッティング処理部343によるフィッティング処理について説明する。本実施形態では、フィッティングにより真値を推定する変数を、各画素の、水の信号強度をρ
w、脂肪の信号強度をρ
f、見かけの横磁化緩和速度をR
2*、オフセット周波数をΨとする。そして、各変数の推定値をそれぞれ、ρ
w’、ρ
f’、R
2*’、Ψ’とし、真値と推定値との差分をそれぞれ、Δρ
w、Δρ
f、ΔR
2*、ΔΨとする。
【0100】
このとき、実際の計測で得た信号値をs
n、推定値ρ
w’、ρ
f’、R
2*’、Ψ’を、式(12)で表される上記信号モデルに代入して得た推定信号をs’
nとすると、計測信号s
nと推定信号s’
nとの差分Δs
nは、行列表記により、以下の式(15)で表される。
【数15】
【0101】
従って、ベクトルxは、行列Aの擬似逆行列を用いて、以下の式(16)により算出できる。
【数16】
なお、A
Hは、Aの複素共役転置行列を表す。
【0102】
フィッティング処理部343は、式(16)で算出した差分ベクトルxの各要素であるΔρ
w、Δρ
f、ΔR
2*、ΔΨを、推定値ρ
w’、ρ
f’、R
2*’、Ψ’にそれぞれに加えて、推定信号s’
nを再計算した後、再び式(16)を用いて差分ベクトルxを算出する。
【0103】
この手順を繰り返すことにより、差分ベクトルxを最小化し、推定値を真値へ近づけていく。フィッティング処理部343は、任意の閾値を設定し、差分ベクトルxがその閾値以下となるまで、上記手順を繰り返す。そして、最終的に得られた、各画素の水の信号強度ρ
w’および脂肪の信号強度ρ
f’を、それぞれ、水画像および脂肪画像とし、水画像と脂肪画像とを分離する。
【0104】
なお、本実施形態では、水を撮像対象物質、脂肪を不要物質とし、水画像と脂肪画像とを分離することにより、最終的に得られる画像において不要物質(脂肪)からの信号を抑制する場合を例にあげて説明したが、分離対象物質はこれに限られない。化学シフトによる周波数差が所定以上の2物質であればよい。
【0105】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置100の計算機109は、予め定めた撮像シーケンスに従って、異なる3つ以上のエコー時間の前記撮像領域の前記核磁気共鳴信号を計測する計測制御部310と、前記異なる3つ以上のエコー時間の核磁気共鳴信号それぞれから、当該エコー時間毎の前記撮像領域の原画像を再構成する再構成部320と、前記エコー時間毎の原画像から、前記撮像領域内のオフセット周波数の分布であるオフセット周波数分布を算出するオフセット周波数分布算出部330と、前記エコー時間毎の原画像と前記オフセット周波数分布とを用いて、第一の物質の信号と第二の物質の信号とを分離し、前記撮像領域の前記第一の物質の画像と前記第二の物質の画像とを得る分離部340と、を備え、前記第一の物質と前記第二の物質とは共鳴周波数が異なり、前記オフセット周波数は、静磁場不均一により変化する共鳴周波数のオフセット成分であり、前記オフセット周波数分布算出部330は、前記エコー時間毎の原画像を用い、前記第一の物質が主成分である画素の中からシード点を抽出するシード点抽出部331と、前記エコー時間毎の原画像を用い、前記撮像領域の画像の各画素のスペクトルを算出するスペクトル算出部332と、前記各画素のスペクトルのピーク周波数をピーク周波数分布として算出するピーク周波数分布算出部333と、前記各画素のピーク周波数を、前記第一の物質および前記第二の物質それぞれについて、予め定めたシフト量だけシフトさせて、画素毎の第一のシフト周波数および第二のシフト周波数をそれぞれ算出するシフト周波数分布算出部334と、前記シード点を基準画素とした領域拡大法により、前記第一のシフト周波数と前記第二のシフト周波数とのいずれかを前記画素毎に選択し、前記オフセット周波数分布を得るピーク周波数選択部335と、を備え、前記シフト量は、前記エコー時間の間隔により発生する折り返しが除去されるよう定められる。
【0106】
このように、本実施形態によれば、異なる3つ以上のエコー時間で計測するDixon法において、エコー時間間隔により発生する折り返しが除去されるよう、オフセット周波数分布が算出される。各画素のオフセット周波数は、折り返しが除去されるよう物質毎にピーク周波数をシフトさせたシフト周波数から選択される。シフト量は、基本的に分離対象物質間の共鳴周波数差に基づいて算出されるが、エコー時間が標本化定理を満たさない場合、さらに、スペクトル帯域幅を加える。
【0107】
これにより、本実施形態によれば、エコー間隔が標本化定理を満たさない場合であっても、ピーク周波数の折り返しを、処理途中で除去できる。従って、エコー間隔によらず、物質毎の高精度なピーク周波数分布を得ることができる。また、この高精度なピーク周波数分布を用いて、オフセット周波数分布を得るため、高精度なオフセット周波数分布を得ることができる。
【0108】
このため、本実施形態によれば、エコー間隔が標本化定理を満たさない場合であっても、このオフセット周波数分布を用いて、第一の物質と第二の物質とが入れ替わることなく、高精度に両者を分離した画像を得ることができる。従って、上記Dixon法において、エコー間隔の設定に制約がなく、所望の分解能、信号雑音比を満たすよう、エコー取得時間を設定できる。
【0109】
従って、本実施形態によれば、Dixon法において、分離性能、画質を犠牲にすることなく、エコー間隔の制約を軽減できる。
【0110】
また、ピーク周波数分布を算出する際、アンラップ処理を行っているため、オフセット周波数分布算出の基礎となるピーク周波数を、高精度に算出できる。従って、最終的に高い精度で分離できる。
【0111】
また、ピーク周波数分布を算出する際のアンラップ処理、ピーク周波数選択処理において領域拡大法を実行する際のシード点が、撮像対象とする第一の物質を主成分とする画素の中から高い精度で選択されるため、高精度に得られるピーク周波数分布、オフセット周波数分布を得ることができる。従って、最終的に高精度に画像を分離できる。
【0112】
<<第二の実施形態>>
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。第一の実施形態では、異なるエコー時間の画像を取得する際の、エコー数、エコー時間、エコー間隔は、予め設定されている。一方、本実施形態では、エコー数のみが設定され、エコー間隔は、設定されたエコー数に応じてSNRが最大となるよう自動的に算出される。
【0113】
本実施形態で用いるMRI装置100は、基本的に第一の実施形態と同様の構成を有する。以下、本実施形態について、第一の実施形態と異なる構成に主眼をおいて説明する。本実施形態においても、第一の実施形態と同様、第一の物質を水、第二の物質を脂肪とする場合を例にあげて説明する。
【0114】
本実施形態の計算機109は、
図12に示すように基本的に第一の実施形態と同様の構成を備える。ただし、本実施形態では、上述のように、例えばユーザにより、エコー数Nが設定された場合、SNRが最大となるようなエコー間隔を算出する。このため、予め定めた取得エコー数Nに応じて、最適なエコー間隔Δtを算出する計測パラメータ算出部350をさらに備える。本実施形態の計測制御部310は、計測パラメータ算出部350が算出した最適なエコー間隔Δtを用いて、第一の実施形態と同様の計測を行う。以下、本実施形態の計測パラメータ算出部350の詳細を説明する。
【0115】
<計測パラメータ算出部>
本実施形態の計測パラメータ算出部350は、まず、エコー時間によって変化する水と脂肪の信号強度を表す信号モデルを設定する。この信号モデルを用いて、計測時に混入するノイズの標準偏差を仮定する。その標準偏差からフィッティング後の水画像および脂肪画像の誤差を推定し、フィッティング誤差を最小化することでSNRを最大化するエコー間隔を、最適計測パラメータとして算出する。
【0116】
<機能構成>
これを実現するため、本実施形態の計測パラメータ算出部350は、
図12に示すように、エコー時間による水と脂肪の信号強度の変化を表す信号モデルを設定する信号モデル設定部351と、計測時に混入するノイズの標準偏差を仮定し、その標準偏差からフィッティング後の水画像および脂肪画像の誤差を推定するフィッティング誤差推定部352と、フィッティング誤差を最小化することでSNRを最大化するエコー間隔を算出する最適パラメータ算出部353と、を備える。
【0117】
<処理フロー>
上記各機能による、本実施形態の計測パラメータ算出部350による計測パラメータ算出処理の流れの概略を説明する。
図13は、本実施形態の計測パラメータ算出処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0118】
信号モデル設定部351は、エコー時間による水と脂肪の信号強度の変化を表す信号モデルを設定する(ステップS1401)。次に、フィッティング誤差推定部352は、計測時に混入するノイズの標準偏差を仮定し、その標準偏差からフィッティング後の水画像および脂肪画像の誤差を推定する(ステップS1402)。そして、最適パラメータ算出部353は、フィッティング誤差を最小化することでSNRを最大化する計測パラメータの最適値(最適パラメータ)を算出する(ステップS1403)。本実施形態では、最適値を算出する計測パラメータは、エコー間隔Δtである。以下、各処理の詳細を説明する。
【0119】
<信号モデルの設定処理>
まず、ステップS1401の信号モデル設定部351による信号モデルの設定について説明する。本実施形態の信号モデル設定部351は、オフセット周波数Ψおよび見かけの横磁化緩和速度R
2*の項を無視し、水の信号強度、脂肪の信号強度のみをフィッティング変数とする信号モデルs’を設定する。ここで、信号モデル設定部351が設定する、任意の画素におけるn番目のエコー時間(n=1、…、N)の信号s
nの信号モデルs’
nを、以下の式(17)に表す。
s’
n=ρ
w+K
nρ
f ・・・(17)
ここで、ρ
wおよびρ
fは、水と脂肪の複素信号強度、K
nは、時刻t
nにおける脂肪信号の位相変化量(複素数)をそれぞれ表す。なお、t
nはn番目のエコー時間を表す。また、本実施形態では脂肪信号は、シングルピークのモデルを用いる。このとき、脂肪信号の位相変化量K
nは、水と脂肪の周波数差をf
wfとすると、下式(18)で表される。
【数18】
【0120】
<フィッティング誤差の推定>
次に、ステップS1402のフィッティング誤差推定部352によるフィッティング誤差の推定方法について説明する。本実施形態では、誤差伝播法を用いて、計測時に混入したノイズがフィッティング結果に与える影響を算出する。以下、その流れを説明する。
【0121】
まず、以下の式(19)に示すように、信号モデルs’
nに対する微分係数行列Bを定義し、その擬似逆行列Lを算出する。
【数19】
なお、B
Hは、微分係数行列Bの複素共役転置行列を表す。
【0122】
ここで、n番目のエコー時間t
nで計測した信号s
nに含まれるノイズの標準偏差をσ
0、推定した水信号強度および脂肪信号強度の標準偏差をそれぞれσ
w、σ
fとすると、以下の式(20)の関係が成り立つ。
【数20】
【0123】
<最適パラメータの算出>
次に、ステップS1403の最適パラメータ算出部353による最適パラメータの算出方法について説明する。
【0124】
まず、最適パラメータ算出部353は、上記推定した誤差(標準偏差)を用い、最小二乗近似により算出した水画像および脂肪画像における、エコー数Nに対する実効的な積算回数NSA
w、NSA
fを計算する。実効的な積算回数NSA
w、NSA
fは、それぞれ、以下の式(21)で表される。
【数21】
なお、式(21)で算出される実効的な積算回数NSA
w、NSA
fは、最小値が0、最大値がエコー数Nの範囲となる。
【0125】
そして、エコー数Nに対する最適なエコー間隔Δtを探索するため、以下の式(22)に示す評価関数G(N、Δt)を定義する。
【数22】
【0126】
本実施形態の最適パラメータ算出部353は、式(22)を用いて、エコー数Nに対して評価関数Gが最大となるエコー間隔Δtを算出する。
【0127】
以上の手順により、計測パラメータ算出部350は、エコー数Nに対してSNRが最大となるエコー間隔Δtを、最適計測パラメータとして算出する。
【0128】
なお、計測パラメータ算出部350は、上述の手順で算出された最適計測パラメータ(エコー間隔Δt)を、表示装置110を介してユーザに提示してもよい。
【0129】
本実施形態の計測制御部310は、計測パラメータ算出部350が算出した最適計測パラメータを用いて、第一の実施形態と同様に計測を行う。また、再構成部320は、第一の実施形態と同様の手法で、計測結果からエコー時間毎の原画像を再構成する。そして、オフセット周波数分布算出部330は、第一の実施形態と同様の手法でオフセット周波数を算出し、分離部340は、第一の実施形態と同様の手法で水画像と脂肪画像を分離する。
【0130】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置100は、第一の実施形態の構成に、さらに、核磁気共鳴信号を計測するエコー時間数に応じて、最適なエコー間隔を算出する計測パラメータ算出部を備える。
【0131】
本実施形態によれば、この計測パラメータ算出部により、SNRを最大化するエコー間隔を算出し、それを用いて計測を行う。このため、第一の実施形態で得られる各効果に加え、第一の実施形態に比べてSNRの高い画像を取得することができる。これを用いて水画像と脂肪画像とを分離するため、両者がより高い精度で分離できる。すなわち、本実施形態によれば、エコー間隔の制約が軽減された状態で、高い精度で不要物質による信号が抑制された画像を得ることができる。
【0132】
なお、本実施形態では、オフセット周波数Ψおよび見かけの横磁化緩和速度R
2*の項を無視した信号モデルを用いたが、これらを考慮した信号モデルを用いてもよい。また、脂肪信号はシングルピークのモデルを用いたが、マルチピークのモデルを用いてもよい。また、最適パラメータの算出の際には、エコー間隔Δtだけでなく、最初のエコー時間(基準のエコー時間)t
1も併せて最適化した値を算出してもよい。
【0133】
オフセット周波数Ψおよび見かけの横磁化緩和速度R
2*の項を考慮する場合、例えば、式(17)の代わりに、式(11)または式(12)を用いる。また、マルチピークのモデルを用いる場合、例えば、式(18)の代わりに式(13)を用いる。また、t
1も併せて最適化する場合、例えば、式(22)の評価関数G(N,Δt)の代わりに、t
1を加えた3次元評価関数G’(N,Δt, t
1)を定義し、この評価関数が最大となるエコー間隔Δtおよびエコー時間t
1を算出する。計測パラメータ算出部350は、得られた、エコー間隔Δtおよびエコー時間t
1を、エコー数Nに対してSNRを最大とする最適計測パラメータとする。