(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014355
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
A61B8/14
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-99754(P2012-99754)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-226236(P2013-226236A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今野 剛人
(72)【発明者】
【氏名】川本 幸一郎
【審査官】
門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−000628(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/152260(WO,A1)
【文献】
特開2009−005755(JP,A)
【文献】
特開平08−140971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波ビームの電子走査に際してビームアドレス単位で送信音圧を変化させながら複数回の送受信を実行するマルチ送受信を実行する超音波診断装置において、
前記マルチ送受信を構成する各送受信で選択的に使用される互いに振幅が異なる複数のデジタル波形データからなるデジタル波形データセットを格納した波形メモリと、
前記波形メモリから選択的に読み出されたデジタル波形データをアナログ波形信号に変換する変換器と、
前記アナログ波形信号の増幅により振動素子へ供給する送信信号を生成する増幅器と、
前記マルチ送受信を構成する各送受信において、前記増幅器のゲインを維持しつつ、前記デジタル波形データセットの中から使用するデジタル波形データを選択することにより、前記各送受信での送信音圧を切り換える制御手段と、
を含み、
前記デジタル波形データセットは、基準振幅を有する基準デジタル波形データと、前記基準振幅とは異なり且つ互いに異なる振幅を有する複数の候補デジタル波形データと、を含み、
前記複数回の送受信は、前記基準デジタル波形データを使用した第1送信が行われる第1送受信と、前記第1送受信の前又は後に実行され前記複数の候補デジタル波形データの中から選択された特定の候補デジタル波形データを使用した第2送信が行われる第2送受信と、を含み、
前記制御手段は、前記基準デジタル波形データに対して設定される基準送信電圧が変更されても前記第1送信で生じる送信音圧と前記第2送信で生じる送信音圧とが所定比率になるように、前記基準送信電圧に応じて前記複数の候補デジタル波形データの中から特定の候補デジタル波形データを選択する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記複数の候補デジタル波形データが複数の基準送信電圧区分に対応付けられており、
前記制御手段は、前記複数の候補デジタル波形データの中から、前記基準送信電圧が属する基準送信電圧区分に対応した前記特定の候補デジタル波形データを選択する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記デジタル波形データセットにおいて前記基準デジタル波形データの振幅よりも前記各候補デジタル波形データの振幅の方が小さい、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記マルチ送受信は超音波造影剤が注入された生体に対して行われ、
当該超音波診断装置はパルスモジュレーション法に従って前記マルチ送受信を実行する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項2記載の装置において、
前記複数の基準送信電圧区分と前記複数の候補デジタル波形データとの対応関係を格納した対応関係メモリを含み、
前記制御手段は、前記対応関係を参照することにより前記複数の候補デジタル波形データの中から前記特定の候補デジタル波形データを選択する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1記載の装置において、
前記複数回の送受信は、更に、前記第1送信又は前記第2送信と同じ条件で第3送信が行われる第3送受信を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
超音波ビームの電子走査に際してビームアドレス単位で送信音圧を変化させながら複数回の送受信を実行するマルチ送受信を実行する超音波診断装置において、
複数の送信条件に対応した複数のデジタル波形データセットが格納したメモリであって、各デジタル波形データセットが前記マルチ送受信を構成する各送受信で選択的に使用される互いに振幅が異なる複数のデジタル波形データからなるものである波形メモリと、
前記波形メモリから選択的に読み出されたデジタル波形データをアナログ波形信号に変換する変換器と、
前記アナログ波形信号の増幅により振動素子へ供給する送信信号を生成する増幅器と、
選択された送信条件に従って前記複数のデジタル波形データセットの中から特定のデジタル波形データセットを選択し、当該特定のデジタル波形データセットの中から使用するデジタル波形データを選択することにより、前記増幅器のゲインを維持しつつ、前記マルチ送受信を構成する各送受信での送信音圧を切り換える制御手段と、
を含み、
前記各デジタル波形データセットは、基準振幅を有する基準デジタル波形データと、前記基準振幅とは異なり且つ互いに異なる振幅を有する複数の候補デジタル波形データと、を含み、
前記複数回の送受信は、前記基準デジタル波形データを使用した第1送信が行われる第1送受信と、前記第1送受信の前又は後に実行され前記複数の候補デジタル波形データの中から選択された特定の候補デジタル波形データを使用した第2送信が行われる第2送受信と、を含み、
前記制御手段は、前記基準デジタル波形データに対して設定される基準送信電圧が変更されても前記第1送信で生じる送信音圧と前記第2送信で生じる送信音圧とが所定比率になるように、前記基準送信電圧に応じて前記複数の候補デジタル波形データの中から特定の候補デジタル波形データを選択する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、送信音圧の切り換え制御に関する。
【背景技術】
【0002】
生体に超音波造影剤(コントラスト剤)を注入し、その超音波造影剤からのエコーを画像化する超音波造影法が知られている。かかる超音波造影法では、受信信号中の造影剤エコー成分を抽出又は増強する信号処理が実行される。そのための方法として各種の方法が提案されている。以下にその内でパルスモジュレーション(PM)法について説明する。
【0003】
PM法は、同一方向(同じビームアドレス)において複数回の送受信(マルチ送受信)を行うものである。より詳しくは、複数回の送受信間で、生体内での異なる送信音圧を設定し、それにより得られた複数の受信信号に対して必要なゲイン処理(又は位相反転処理)を適用した上で、それらの受診信号の和(又は差)を求めることにより、目的信号成分が抽出される。
【0004】
送信音圧が低くても、超音波造影剤からは、生体組織との対比において相対的に強いエコーが得られるので、そのような送信音圧に対する非線形現象を利用して、受信信号中に含まれる生体組織エコー成分を相対的に低減しながら超音波造影剤エコー成分を抽出することが可能となる。目的成分の画像化に当たっては、一般に、プローブで受信した全帯域を画像化する方法、基本波成分を画像化する方法、高調波成分を画像化する方法がある。
【0005】
PM法の送受信について具体例を説明する。PM法では、上記のように、1つのビームアドレスにおいて複数回の送信が実行されるところ、例えば2回の送受信が行われる場合、まず最初の送受信において、送信ゲイン(送信音圧)1/2が設定され且つ受信ゲイン2が設定され、次に、2回目の送受信において、送信ゲイン1が設定され且つ受信ゲイン1が設定される。その上で、2回の送受信で得られた2つの受信信号間で差をとれば、上記非線形性に由来する成分(超音波造影剤エコー成分)を選択的に抽出することが可能である。
【0006】
1つのビームアドレスごとに3回の送受信を行うことも可能である。その場合、例えば、1回目の送受信において送信ゲイン1/2が設定され且つ受信ゲイン1が設定され、2回目の送受信時に送信ゲイン1が設定され且つ受信ゲイン−1が設定され、3回目の送受信時に送信ゲイン1/2が設定され且つ受信ゲイン1が設定される。そのような処理後の3つの受信信号が加算される。これにより生体組織エコー成分が相対的に低減され、超音波造影剤エコー成分が相対的に増強される。送受信回数を増せば、心臓壁等の低速運動体で生じるエコー成分をより低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−180784号公報
【特許文献2】国際公開WO2011/152260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
個々のビームアドレスで実行されるマルチ送受信あたり送信音圧比を1対1/2とすることを前提とした場合、1回目の送信時に複数の振動素子の全部を使用し、2回目の送信時に半分の振動素子を使用することが考えられる。1つおきに振動素子を送信動作させて送信音圧を半分にするものである(特許文献1)。しかし、1回目の送信と2回目の送信とで音場が異なってしまい、後者においてサイドローブが生じやすい。他の方法として、増幅器のゲインを調整、つまり送信部における送信電圧を切り換える方法がある(特許文献2等)。しかし、送信電圧比がそのまま送信音圧比になるわけではないので、単純に送信電圧を1/2にしても送信音圧が1/2にならない場合がある。そもそも複数回の送信において増幅器のゲインを切り換えると、増幅器それ自体の特性の影響を受け易いという面を指摘できる。送信音圧以外の条件を維持しつつ複数回の送信を行うことが望まれる。
【0009】
図6には、送信電圧と生体内の音圧(ここではメカニカルインデックス(MI)を表記)の関係が例示されている。
図6に示されるように両者は全範囲にわたって完全な線形関係にあるわけではない。例えば、送信電圧V1に対して音圧Pが生じる場合において、その半分の音圧P/2には送信電圧V2が対応しており、それはV1の半分の電圧とはなっていない。送信電圧を単純に1/2にする手法では理想的なPM法を実現できない。なお、上記であげた各数値は例示に過ぎない。送信音圧比と受信利得比が適正な関係にあればPM法を実現可能である。
【0010】
本発明の目的は、複数回の送信間での送信音圧の切り換えに際して、できる限り送信音圧以外の条件が維持されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、超音波ビームの電子走査に際してビームアドレス単位で送信音圧を変化させながら複数回の送受信を実行するマルチ送受信を実行する超音波診断装置において、前記マルチ送受信を構成する各送受信で選択的に使用される互いに振幅が異なる複数のデジタル波形データからなるデジタル波形データセットを格納した波形メモリと、前記波形メモリから選択的に読み出されたデジタル波形データをアナログ波形信号に変換する変換器と、前記アナログ波形信号の増幅により振動素子へ供給する送信信号を生成する増幅器と、前記マルチ送受信を構成する各送受信において、前記増幅器のゲインを維持しつつ、前記デジタル波形データセットの中から使用するデジタル波形データを選択することにより、前記各送受信での送信音圧を切り換える制御手段と、を含むものである。
【0012】
上記構成によれば、波形メモリ上に、複数種類のデジタル波形データからなるデジタル波形データセットが格納されており、その中から、使用するデジタル波形データを選択することより、マルチ送受信における各送信時において適切な送信音圧が設定される。その場合において、複数回の送信で増幅器におけるゲイン(利得)を維持できるから、増幅器の特性の影響を受けることもないし、送信のために機能させる振動素子の個数を変える必要もないからサイドローブが増えることもない。必要な送信音圧の切り換えを信号源の選択によって行えば複数の送信間において信号源より後段の信号処理条件を維持できるから送信音圧の設定をより正確に行い得る。複数のデジタル波形データの用意に当たっては実験やシミュレーションの結果を踏まえてそれぞれについて適切な振幅を設定しておくのが望ましい。望ましくは、複数回の送受信により得られた複数の受信信号に対して検波前の段階で重み付け加算処理が実行され、これにより造影剤エコー成分が抽出される。全帯域が画像化されてもよいし、基本波成分又は高調波成分の一方が画像化されてもよい。
【0013】
望ましくは、前記デジタル波形データセットは、基準振幅を有する基準デジタル波形データと、前記基準振幅とは異なり且つ互いに異なる振幅を有する複数の候補デジタル波形データと、を含み、前記複数回の送受信は、前記基準デジタル波形データを使用した第1送信が行われる第1送受信と、前記第1送受信の前又は後に実行され前記複数の候補デジタル波形データの中から選択された特定の候補デジタル波形データを使用した第2送信が行われる第2送受信と、を含む。望ましくは、前記制御手段は、前記基準デジタル波形データに対して設定される基準送信電圧に応じて前記複数の候補デジタル波形データの中から特定の候補デジタル波形データを選択する。望ましくは、前記制御手段は、前記第1送信で生じる送信音圧と前記第2送信で生じる送信音圧とが所定比率になるように前記複数の候補デジタル波形データの中から特定の候補デジタル波形データを選択する。
【0014】
上記構成によれば、複数回の送受信のいずれかにおいて基準デジタル波形データが利用され、それ以外においていずれかの候補デジタル波形データが使用される。基準デジタル波形データが有する基準振幅と、各候補デジタル波形データが有する振幅は、所定の比率関係を実現するように予め定められる。複数回の送信で使用する基準送信電圧(基準となる送信において設定される電圧)が一定値であれば、所定の比率関係を実現する、基準デジタル波形データと他の1つのデジタル波形データとを用意しておけばよい。一方、複数回の送信で使用する基準送信電圧が可変設定される場合、所定の音圧比率を実現し得る、基準デジタル波形データと複数の候補デジタル波形データとを用意しておき、基準送信電圧の大きさに応じて複数の候補デジタル波形データの中から所定の音圧比率を実現する特定の候補デジタル波形データを選択してそれを使用するのが望ましい。これにより、送信電圧と送信音圧とが線形関係にない場合であっても、つまり基準送信電圧の大きさが変化しても、送信音圧の観点から所定の音圧比率を常に実現することが可能となる。
【0015】
望ましくは、前記複数回の送受信は、更に、前記第1送受信又は前記第2送受信と同じ条件で第3送信が行われる第3送受信を含む。望ましくは、前記基準送信電圧の大きさと前記複数の候補デジタル波形データとの対応関係を格納した対応関係メモリを含み、前記制御手段は、前記対応関係を参照することにより前記複数の候補デジタル波形データの中から特定の候補デジタル波形データを選択する。送信条件(送信電圧以外の条件であり、電子走査方式(又はプローブ種別)、送信周波数、送信波数等)に応じて、複数の対応関係を用意しておき、送信条件に応じて、参照する対応関係を選ぶようにするのが望ましい。その場合、望ましくは複数の対応関係と一対一の関係をもって複数のデジタル波形データセットが用意されることになる。つまり、送信音圧に影響を与えうる他の送信パラメータをも考慮して理想的な送信音圧比が実現されるように信号源を構成しておき、実際に送信条件が設定された場合にそれに相応しい波形セットを利用するものである。
【0016】
望ましくは、超音波ビームの電子走査に際してビームアドレス単位で送信音圧を変化させながら複数回の送受信を実行するマルチ送受信を実行する超音波診断装置において、複数の送信条件に対応した複数のデジタル波形データセットが格納したメモリであって、各デジタル波形データセットが前記マルチ送受信を構成する各送受信で選択的に使用される互いに振幅が異なる複数のデジタル波形データからなるものである波形メモリと、前記波形メモリから選択的に読み出されたデジタル波形データをアナログ波形信号に変換する変換器と、前記アナログ波形信号の増幅により振動素子へ供給する送信信号を生成する増幅器と、前記複数のデジタル波形データセットの中から選択された特定のデジタル波形データセットを用いて、その中から使用するデジタル波形データを選択することにより、前記増幅器のゲインを維持しつつ、前記マルチ送受信を構成する各送受信での送信音圧を切り換える制御手段と、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数回の送信において、増幅器のゲインを維持しつつも送信音圧を適切かつ容易に切り換えることが可能となる。その場合において、使用する振動素子数を異ならせる必要がないからサイドローブ増加の問題を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る超音波診断装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示すメモリ18内に格納された波形セット群を示す概念図である。
【
図3】
図1に示したメモリ28内に格納されるテーブル群を示した概念図である。
【
図4】PM法における複数回の送受信に関する条件を示す図である。
【
図5】各ビームアドレスごとの複数回の送受信を説明するための図である。
【
図6】送信電圧と送信音圧(MI)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1には本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されている。
図1はその全体構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は、生体に対して超音波を送受波し、これにより得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成する装置である。本実施形態においては、生体内に超音波造影剤が注入されており、受信信号中に含まれる超音波造影剤成分(コントラストエコー成分)を抽出することにより、生体内の造影剤が画像化されている。
【0021】
図1において、アレイ振動子10は図示されていない超音波プローブ内に配置されるものである。アレイ振動子10は直線状に配列された複数の振動素子12により構成されている。複数の振動素子12が円弧状に配列されてもよい。アレイ振動子10により超音波ビームが形成されて、その超音波ビームが電子走査される。電子走査方式として、電子セクタ走査方式、電子リニア走査方式等が知られている。
図5には、電子セクタ走査方式が示されている。走査方向がrで示され、電子走査方向がθで示されている。本実施形態においては、PM法が実行されており、ビームアドレス(例えばθ1参照)ごとに符号100で示されるようにn回の送受信が実行される。後に説明するように、例えば3回の送受信が実行される。各送信時において送信音圧が切り替えられる。これについては後に詳述する。このようなマルチ送受信をビームアドレスごとに行いながらビーム走査を行うことにより、走査面Sが構成される。ビームアドレスごとに得られる複数個の受信信号間で所定の信号処理を実行することにより造影剤エコー成分が抽出され、それを二次元的にマッピングすることにより生体内の断層画像(Bモード画像)が形成される。
【0022】
図1において送信部14は、複数の振動素子12に対応した複数の送信器と波形セット群を格納したメモリ18とを有している。メモリ18に格納される波形セット群の具体例については後に
図2を用いて説明する。波形セット群は複数のデジタル波形データセットからなり、各デジタル波形データセットは複数のデジタル波形データからなる。被検者に応じて設定された送信条件に応じて特定のデジタル波形データセットが選択され、その中から2つのデジタル波形データセットが利用され、これによりマルチ送受信が実行される。
【0023】
送信部14における各送信器について説明する。各送信器は、遅延器20、D/A変換器22及びアンプ24を備えている。もちろん、他の構成が含まれてもよい。遅延器20はメモリ18から選択的に読み出されたデジタル波形データに対して送信用遅延処理を適用するものである。具体的には、メモリ18からのデジタル波形データの読み出しタイミング制御あるいはデータに対するディレー処理により必要な遅延量が各データに対して与えられる。その場合において補間処理等が適用されてもよい。遅延処理後のデジタル波形データがD/A変換器22に入力され、そこでデジタル波形データがアナログ信号(送信信号)に変換される。その送信信号がアンプ24において増幅され、増幅された後の送信信号がそれに対応する振動素子12に対して供給される。アンプ24はいわゆるリニアアンプである。それに対しては制御部26からのゲイン信号が供給されており、送信開口を構成する振動素子ごとに所定の送信ゲインが設定される。本実施形態においては、マルチ送受信を構成する複数の送信において各チャンネルごとに送信ゲインが維持されている。すなわち、送信電圧の可変を行わずにデジタル波形データの選択によって送信音圧の切り替えが実現されている。
【0024】
送信ビームが形成されると、生体内からのエコーがアレイ振動子10にて受波され、アレイ振動子10から複数の受信信号が受信部16へ出力される。受信部16はデジタルビームフォーマーを構成しており、複数の受信信号に対して増幅、A/D変換、遅延処理等を施した上で、それらを加算することにより受信ビームに相当する整相加算後の受信信号を出力する。マルチ送受信ごとに複数回の送信が行われ、各送信ごとに受信信号が得られる。本実施形態においては、1ビームアドレスあたり3つの送信が行われており、これに対応して3つの受信信号が得られる。
【0025】
受信部16の後段には2つのラインメモリ32,34が設けられている。ラインメモリ32は1回目の送受信において得られた受信信号を1ライン分格納するメモリであり、ラインメモリ34は2回目の送受信において得られた受信信号を1ライン分格納するメモリである。重み付け加算器36は、後に
図4を用いて説明する受信利得条件に従って各ビームアドレスごとに得られる3つの受信信号間で重み付け加算を実行する回路である。このような加算処理により生体内における超音波造影剤のエコー成分のみが抽出されることになる。
図1に示す構成では、2つのラインメモリ32,34が設けられていたが、1回目の受信信号の取得後に2回目の受信信号が得られた段階で部分的な加算処理を開始することにより1つのラインメモリだけで重み付け加算処理を実現することも可能である。なお、第1の送受信条件で超音波ビームを1回スキャンした上で、第2の送受信条件で再び超音波ビームをスキャンして、結果として各ビームアドレスごとに複数個の受信信号を得るようにしてもよい。
【0026】
上述した重み付け加算処理は検波前のRF信号の段階で行われている。重み付け加算後の受信信号、つまり各ビームアドレスごとのビームデータは信号処理部38に入力される。信号処理部38は、検波器、対数圧縮器、等の公知の回路構成を有する。ちなみに、基本波又は高調波を選択的に抽出するフィルタ等を設けるようにしてもよい。信号処理部38の出力信号が画像形成部40に入力されている。画像形成部40はデジタルスキャンコンバータ(DSC)により構成され、1つの走査面に対応する複数の受信信号に基づいてBモード画像を形成する。その画像データは表示処理部42を介して表示部44へ送られている。表示部44にはPM法に基づくBモード画像、すなわち超音波造影剤が表された断層画像が表示される。ちなみに、PM法の実現にあたっては、複数回の送信において、特に1回目と2回目の送信において、超音波造影剤を破壊しないように低音圧で送信が行われるのが望ましい。なお、そのような造影剤画像と通常の画像とを混合して画像表示することも可能である。また本発明は二次元アレイ振動子を備えた三次元超音波診断装置に適用することも可能である。
【0027】
制御部26は
図1に示される各構成の動作制御を行っており、特にPM法に基づく送受信制御を実行している。その制御にあたって、テーブル群28内に格納された複数のテーブルの内から選択された特定のテーブルが参照される。その具体的な内容については後に
図3を用いて説明する。入力部30は操作パネルによって構成され、それはキーボードやトラックボールなどを含むものである。入力部30を利用してユーザーにより基準送信電圧(あるいは基準送信音圧)を設定することが可能である。制御部26内に
図6に示したような送信電圧と送信音圧との関係を記述したテーブルを設け、それを参照することにより適切なテーブルを選択するようにしてもよい。
【0028】
図2には、
図1に示したメモリ18の内容が例示されている。メモリ18には複数のデジタル波形データセット46A,46B,46Cが格納されている。
図1に示した制御部は、送信電圧(送信音圧)以外の送信パラメータの組み合わせ、例えばプローブ種別(電子走査方式)、送信周波数、波数等の組み合わせごとに用意されている。すなわち送信パラメータの組み合わせ内容が変更された場合、適用するデジタル波形セットを切り替えて、適切な送信音圧関係を実現するものである。
【0029】
各デジタル波形データセット46A,46B,46Cはそれぞれ複数のデジタル波形データにより構成されており、本実施形態において、それは、基準デジタル波形データaと複数の候補デジタル波形データb,c,dとにより構成されている。基準デジタル波形データaは、基準となる送信において使用される波形データであり、後に説明する例においては、2回目の送受信において使用されている。その場合においては基準電圧(基準音圧)が実現され、それに対応する振幅を備えたものとして基準デジタル波形データaが用意されている。一方、複数の候補デジタル波形データb,c,dは基準デジタル波形データaよりも小さな振幅を持った波形データとして構成されており、それらは互いに異なる振幅を有している。
【0030】
図6に示したように、送信電圧と送信音圧は理想的な線形関係にはないので、基準となる送信電圧に応じて使用する2つのデジタル波形データの組み合わせを変更するのが望ましく、特に基準となるデジタル波形データと共に使用される他のデジタル波形データの振幅を適切に選択する必要がある。このため、本実施形態においては複数の候補デジタル波形データb,c,dが用意されており、基準送信電圧に応じてそれらの中から適切な波形データが選択されている。しかも、本実施形態においては、上述したように送信電圧以外の送信パラメータの組み合わせに応じて複数のデジタル波形データセットが用意されており、それぞれのデジタル波形データセットごとに上記同様の波形データ構成が採用されている。
【0031】
例えば、特定の送信条件が与えられ、しかも特定の基準送信電圧が与えられた場合、その特定の送信条件に対応するデジタル波形データセットが選択された上で、その中から基準送信電圧に応じて所定の送信音圧比率を実現するデジタル波形データペアが選択されることになる。具体的には基準デジタル波形データと、それと共に所定の送信音圧比率を実現する特定の候補デジタル波形データとが選択されることになる。
【0032】
図3には、
図1に示したメモリ28の内容が例示されている。メモリ28は、図示される例において、複数のテーブル52A,52B,52Cを備えている。より具体的には、上述したように送信電圧以外の送信パラメータ値の組み合わせごとにテーブルが用意され、特定の組み合わせが定まるならば、特定のテーブルが定まり、その内容を参照することにより特定の候補デジタル波形データを選択することが可能である。具体的には、個々のテーブル52A,52B,52Cは、それぞれ基準電圧(基準送信電圧)54の区分ごとに、使用する候補デジタル波形データの識別子56が対応付けられている。すなわち、基準電圧(V0)が定まると、それに対応する電圧(V1)を実現するための振幅を持った波形が選択されるように、個々のテーブル52A,52B,52Cが構成されている。このようなテーブルを用意しておくことにより、基準送信電圧が変更された場合においても、所定の送信音圧比率関係を適切に実現することが可能となる。すなわち、基準送信電圧の大きさに応じて複数の候補デジタル波形データを用意しておくことにより、基準送信電圧によらずに所定の送信音圧比率を実現することが可能である。しかも、本実施形態においては、送信パラメータの組み合わせごとにテーブルすなわちデジタル波形データセットが用意されているため、より正確に所定の送信音圧比率を実現することが可能である。
【0033】
図4には各ビームアドレスごとに実行されるマルチ送受信の内容が例示されている。本実施形態においては、ビームアドレス単位で3回の送受信が実行されており、符号58は第1回目の送受信を示しており、符号60は第2回目の送受信を示しており、符号62は第3回目の送受信を示している。符号64は各送信における送信重み付け値を示しており、符号66はその場合に設定される送信電圧を示しており、符号68はその送信電圧を実現するデジタル波形データを示しており、符号70は受信利得を示している。
【0034】
1回目の送受信58においては、送信重み付け値として1/2が設定され、その場合においては送信電圧V1を実現するための適切な候補デジタル波形が選択され、すなわち選択波形が使用され、一方において受信時のゲインとして1が設定される。その後、2回目の送受信60において、送信重み付け値として1が設定され、基準デジタル波形データすなわち基準波形が選択されて、これによって基準電圧V0が実現される。すなわち基準デジタル波形データのピーク時において基準電圧V0が実現される。その一方において受信ゲインとしては−1が設定される。3回目の送受信62においては1回目の送受信58と同様の条件で送受信が実行される。以上のような送受信条件のもとで得られた3つの受信信号を重み付け加算することにより、超音波造影剤の非線形効果によって生成されたエコー成分が抽出されることになる。もちろん、
図4に示した条件は一例であり、本実施形態においては3回の送受信が実行されていたが、2回の送受信が実行されてもよい。更に4回以上の送受信が実行されてもよい。
【0035】
上記実施形態においては、所定の送信音圧比率の実現にあたって、複数の送受信間においてリニアアンプのゲインを可変するのではなく、信号源において波形を選択するようにしたので、信号源よりも後段における動作条件を複数の送受信において維持でき、これにより送信音圧比を実現することが可能となる。また素子の間引き等の手法は用いられておらず、各回の送受信において同一の送信開口および受信開口を採用できるからサイドローブの変化という問題も生じない。さらに、上記実施形態においては、送信電圧と送信音圧との非線形関係までを考慮して複数の候補デジタル波形データを用意しておき適切な候補デジタル波形データを選択するようにしたので、より正確なPM法を実現できるという利点が得られる。更に、上記実施形態においては複数の送信パラメータの組み合わせに応じて複数のデジタル波形データセットを用意しておき、その中から適切なセットを選択利用するようにしたので、送信条件が異なった場合においてもそれに対応して所定の送信音圧比率を実現できるという利点が得られる。
【符号の説明】
【0036】
10 アレイ振動子、12 振動素子、14 送信部、16 受信部、18 メモリ(波形セット群)、26 制御部、28 メモリ(デーブル群)、36 重み付け加算器。