(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(I)トリクロロシランと、(II)ジエーテル、ジチオエーテル、ジホスフィン、またはN、O、PもしくはSがアルキル基で置換された基2つ、を有するキレート型配位性化合物と、(III)ホスホニウム塩またはアンモニウム塩とを用いることにより、下記一般式(i)または下記一般式(ii)で示される環状シラン・ジアニオン塩を調製する工程(ただし、ポリアミン化合物を用いる工程を除く)と、
下記一般式(i)または下記一般式(ii)で示される環状シラン・ジアニオン塩と、アルミニウム系還元剤またはホウ素系還元剤とを反応させる工程とを含むことを特徴とするシクロヘキサシランの製造方法。
【化1】
(式(i)中、Xはハロゲン元素を表し、aは0〜6までの整数を表し、R
1〜R
4は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を示す。)
【化2】
(式(ii)中、Xはハロゲン元素を表し、aは0〜6までの整数を表し、R
5〜R
8は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を示す。)
(I)トリクロロシランと、(II)ジエーテル、ジチオエーテル、ジホスフィン、またはN、O、PもしくはSがアルキル基で置換された基2つ、を有するキレート型配位性化合物と、(III)ホスホニウム塩またはアンモニウム塩とを用いることにより、下記一般式(i)または下記一般式(ii)で示される環状シラン・ジアニオン塩を調製する工程(ただし、ポリアミン化合物を用いる工程を除く)と、
下記一般式(i)または下記一般式(ii)で示される環状シラン・ジアニオン塩と、グリニャール試薬または有機リチウム試薬とを反応させる工程とを含むことを特徴とする有機シクロヘキサシランの製造方法。
【化3】
(式(i)中、Xはハロゲン元素を表し、aは0〜6までの整数を表し、R
1〜R
4は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を示す。)
【化4】
(式(ii)中、Xはハロゲン元素を表し、aは0〜6までの整数を表し、R
5〜R
8は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を示す。)
上記一般式(i)または上記一般式(ii)で示される環状シラン・ジアニオン塩(イ)と、アルミニウム系還元剤またはホウ素系還元剤(ロ)とを反応させる工程において、反応系内に上記(イ)または(ロ)の少なくともいずれか一方を滴下する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載された合成法によれば、還元反応の際に、必ずシランガスが副生する。反応中にシランガスが生じると、発生したシランガスを除害するための設備上の対策が必要になり、装置が複雑かつ大型化したり、工程が煩雑になったりするという問題を招くことになる。シランガスは、1)テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩のカチオン部分に含まれるケイ素成分に由来するか、2)第三級ポリアミンを添加剤として用いた場合に必ず副生する、ケイ素原子上にポリアミンが配位してなる成分(不純物)に由来すると考えられる。
【0007】
また、上記特許文献1、2に記載の方法で得られたテトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオンの塩にグリニャール試薬や有機リチウム試薬を接触させてアルキル化もしくはアリール化して有機シクロヘキサシランを得ようとした場合にも、有機モノシランが生成する。この有機モノシランがガス状である場合には、上記と同様の問題が生じることになり、また有機モノシランがガス状でなかったとしても、精製工程が複雑化し、やはり工程が煩雑になるという問題を招くことになる。
【0008】
さらに、上述したように、第三級ポリアミンを用いてテトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオンの塩を合成した場合、目的とするテトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオンの塩以外に、ケイ素原子上にポリアミンが配位してなる不純物が副生するが、この不純物を含んだ状態のままテトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオンの塩を還元すると、当該不純物が還元されて遊離したポリアミンが、目的物であるシクロヘキサシランと反応してしまい、その結果、シクロヘキサシランの収率が低下することがあった。
【0009】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、還元に供した際にシランガスを発生することなくシクロヘキサシランに変換でき、アルキル化もしくはアリール化に供した際には有機モノシランを生成することなく有機シクロヘキサシランに変換できるシクロヘキサシラン類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シクロヘキサシランを合成する際の還元や、有機シクロヘキサシランを合成する際のアルキル化もしくはアリール化に供する原料として、ホスホニウムカチオンまたはアンモニウムカチオンを対カチオンとする特定構造の環状シラン・ジアニオン塩を用いることにより、還元した際にシランガスを発生することなくシクロヘキサシランに変換でき、アルキル化もしくはアリール化に供した際には有機モノシランを生成することなく有機シクロヘキサシランに変換でき、高収率でシクロヘキサシラン類を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のシクロヘキサシランの製造方法は、下記一般式(i)または下記一般式(ii)で示される環状シラン・ジアニオン塩と、アルミニウム系還元剤またはホウ素系還元剤とを反応させることを特徴とする。
【0012】
【化1】
(式(i)中、Xはハロゲン元素を表し、aは0〜6までの整数を表し、R
1〜R
4は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を示す。)
【0013】
【化2】
(式(ii)中、Xはハロゲン元素を表し、aは0〜6までの整数を表し、R
5〜R
8は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を示す。)
【0014】
本発明の有機シクロヘキサシランの製造方法は、下記一般式(i)または下記一般式(ii)で示される環状シラン・ジアニオン塩と、グリニャール試薬または有機リチウム試薬とを反応させることを特徴とする。
【0015】
【化3】
(式(i)中、Xはハロゲン元素を表し、aは0〜6までの整数を表し、R
1〜R
4は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を示す。)
【0016】
【化4】
(式(ii)中、Xはハロゲン元素を表し、aは0〜6までの整数を表し、R
5〜R
8は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を示す。)
【0017】
また本発明は、下記一般式(iii)で示される有機シクロヘキサシランを包含する。
【0018】
【化5】
(式(iii)中、Rはアルキル基またはアリール基を表し、aは0〜6までの整数を表す。)
【0019】
なお本明細書において「有機シクロヘキサシラン」とは、有機基(アルキル基やアリール基などの炭化水素基)が結合したシクロヘキサシランを意味するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、特定構造の環状シラン・ジアニオン塩を原料とするので、還元に供した際にはシランガスの副生を伴うことがなく、またアルキル化もしくはアリール化に供した際にも有機モノシランを生成することがない。これにより、従来、シクロヘキサシランや有機シクロヘキサシランの製造で行われていたシランガス対策や有機モノシラン対策が不要になり、簡便な装置で効率よくシクロヘキサシランや有機シクロヘキサシランを製造することができる。また本発明によれば、環状シラン・ジアニオン塩の構造を選択することにより、Si原子に対する置換基として水素原子とアルキル基またはアリール基とが併存した有機シクロヘキサシランを提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のシクロヘキサシランの製造方法および本発明の有機シクロヘキサシランの製造方法では、いずれも、下記一般式(i)または下記一般式(ii)で示される環状シラン・ジアニオン塩を原料とする。かかる特定構造の環状シラン・ジアニオン塩は、ホスホニウムカチオンまたはアンモニウムカチオンを対カチオンとするものであるので、当該塩を還元すると、シランガスを副生することなく高収率で効率よくシクロヘキサシランを得ることができる。またこの特定構造の環状シラン・ジアニオン塩をアルキル化またはアリール化すると、有機モノシランを副生することなく、ドデカメチルシクロヘキサシランのような有機シクロヘキサシランを得ることができる。
【0022】
【化6】
(式(i)中、Xはハロゲン元素を表し、aは0〜6までの整数を表し、R
1〜R
4は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を示す。)
【0023】
【化7】
(式(ii)中、Xはハロゲン元素を表し、aは0〜6までの整数を表し、R
5〜R
8は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を示す。)
【0024】
前記一般式(i)および前記一般式(ii)において、Xはハロゲン原子であればよいが、好ましくはCl、Br、Iであり、より好ましくはCl、Br、さらに好ましくはClである。XがClである環状シラン・ジアニオン塩であれば、シクロヘキサシランまたは有機シクロヘキサシランを安価に製造することが可能となる。
【0025】
前記一般式(i)および前記一般式(ii)において、aは0〜6の整数を表すが、好ましくは1以上であり、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下である。例えばaが1以上である環状シラン・ジアニオン塩を本発明の有機シクロヘキサシランの製造方法に用いれば、Si原子に対する置換基として水素原子とアルキル基またはアリール基とが併存した有機シクロヘキサシランを得ることができる。
【0026】
前記一般式(i)において、R
1〜R
4の例であるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1〜16のアルキル基が好ましく挙げられ、R
1〜R
4の例であるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18程度のアリール基が好ましく挙げられる。これらの中でも、ブチル基(Bu)、フェニル基(Ph)が特に好ましい。また、R
1〜R
4は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
【0027】
前記一般式(ii)において、R
5〜R
8の例であるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1〜16のアルキル基が好ましく挙げられ、R
5〜R
8の例であるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18程度のアリール基が好ましく挙げられる。これらの中でも、ブチル基(Bu)、フェニル基(Ph)が特に好ましい。また、R
5〜R
8は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
【0028】
本発明のシクロヘキサシランの製造方法および本発明の有機シクロヘキサシランの製造方法において用いる環状シラン・ジアニオン塩は、一般式(i)または一般式(ii)で示される1種のみであってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。例えば、一般式(i)(または一般式(ii))においてaのみが異なる2種以上の環状シラン・ジアニオン塩を含む混合物を用いることができる。
【0029】
前記一般式(i)および前記一般式(ii)で示される環状シラン・ジアニオン塩の調製方法は、特に限定されるものでなく、例えば前記特許文献1や特許文献2を参酌しつつ、これに公知の有機合成技術を適用することにより合成すればよい。例えば、特許文献1、2の方法において、対カチオンを構成するポリアミン化合物(pedeta、teeda)に代えて、ポリエーテル(ジエーテルなど)、ポリチオエーテル(ジチオエーテルなど)、ジホスフィン、または、N,O,PもしくはSがアルキル基で置換された2官能以上のキレート型配位性化合物とともに、対カチオン源としてホスホニウム塩またはアンモニウム塩を用いることにより、前記環状シラン・ジアニオン塩を調製することが可能である。
【0030】
前記ホスホニウム塩としては、例えば、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムクロライド等の4級ホスホニウムハライド;等が挙げられる。前記アンモニウム塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラフェニルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウムハライド;等が挙げられる。
【0031】
本発明のシクロヘキサシランの製造方法においては、前記環状シラン・ジアニオン塩と、アルミニウム系還元剤またはホウ素系還元剤(以下、纏めて「還元剤」と称することもある)とを反応させる。
アルミニウム系還元剤としては、水素化リチウムアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等の金属水素化物等が挙げられる。これらアルミニウム系還元剤は1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
ホウ素系還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム等の金属水素化物が挙げられる。これらホウ素系還元剤は1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明の有機シクロヘキサシランの製造方法においては、前記環状シラン・ジアニオン塩と、グリニャール試薬または有機リチウム試薬(以下、纏めて「アルキル化剤もしくはアリール化剤」と称することもある)とを反応させる。
グリニャール試薬としては、臭化メチルマグネシウムの如きハロゲン化アルキルマグネシウムや臭化フェニルマグネシウムの如きハロゲン化アリールマグネシウム等が挙げられる。これらグリニャール試薬は1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
有機リチウム試薬としては、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物やフェニルリチウム等のアリールリチウム化合物が挙げられる。これら有機リチウム試薬は1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0033】
以下、本発明のシクロヘキサシランの製造方法について主に説明するが、本発明の有機シクロヘキサシランの製造方法においては「還元剤」を「アルキル化剤もしくはアリール化剤」と読み替え、「還元反応」を「アルキル化反応もしくはアリール化反応」と読み替え、「シクロヘキサシラン」を「有機シクロヘキサシラン」と読み替えて、適宜適用すればよい。
【0034】
前記還元剤の使用量は、適宜設定すればよく、例えば前記環状シラン・ジアニオン塩のケイ素−ハロゲン結合1個に対する還元剤のモル当量が、少なくとも1当量以上であればよいが、好ましくは2当量以上50当量以下、より好ましくは5当量以上40当量以下、さらに好ましくは10当量以上30当量以下である。還元剤の使用量が多すぎると、後処理に時間を要し生産性が低下する傾向があり、一方、少なすぎると、収率が低下する傾向がある。
【0035】
前記還元反応は、必要に応じて、有機溶媒の存在下で行うことができる。ここで用いることのできる有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。これら有機溶媒は1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。なお還元反応に使用する有機溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
【0036】
前記還元反応に用いる有機溶媒の使用量としては、前記環状シラン・ジアニオン塩の濃度が0.01mol/L以上1mol/L以下となるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.02mol/L以上0.7mol/L以下、さらに好ましい濃度は0.03mol/L以上0.5mol/L以下である。環状シラン・ジアニオン塩の濃度が前記範囲より高い場合、すなわち有機溶媒の使用量が少なすぎると、還元反応により生じた熱が充分に除熱されず、また反応物が溶解しにくいために反応速度が低下する等の問題が生じる虞がある。一方、環状シラン・ジアニオン塩の濃度が前記範囲より低い場合、すなわち有機溶媒の使用量が多すぎると、還元反応後に有機溶媒と目的生成物とを分離する際に留去すべき溶媒量が多くなるため生産性が低下する傾向がある。
【0037】
前記還元反応は、環状シラン・ジアニオン塩を還元剤と接触させることにより行うことができる。環状シラン・ジアニオン塩と還元剤との接触に際しては、溶媒の存在下で接触させることが好ましい。溶媒の存在下で環状シラン・ジアニオン塩と還元剤とを接触させるには、例えば、1)環状シラン・ジアニオン塩と還元剤の一方を溶媒中に溶解または分散させて溶液または分散液としておき、他方と混合(他方を溶液または分散液に加えるか、他方に溶液または分散液を加えるか)する、2)両方をそれぞれ溶媒中に溶解または分散させて溶液または分散液としておいた後に、両者を混合する、3)溶媒中に環状シラン・ジアニオン塩と還元剤を同時にもしくは順次加える、などの混合手順を採用すればよい。これらの中で特に好ましいのは上記2)の態様である。
【0038】
また環状シラン・ジアニオン塩と還元剤との接触に際しては、還元を行う反応系内に環状シラン・ジアニオン塩および前記還元剤の少なくともいずれか一方(すなわち一方または両方)を滴下することが好ましい。このように環状シラン・ジアニオン塩および還元剤の一方または両方を滴下することにより、還元反応で生じる発熱を滴下速度等でコントロールすることができるので、例えばコンデンサー等の小型化が可能になるなど、生産性の向上に繋がる効果が得られる。一方を滴下する場合、反応系内(反応器)には他方を溶媒とともに或いは単独(溶媒なし)で仕込んでおけばよい。両方を滴下する場合には、反応系内(反応器)に予め溶媒のみを仕込んでおいてもよいし、あるいは空の反応器に環状シラン・ジアニオン塩と還元剤を同時または順次滴下するようにしてもよい。いずれの場合も、滴下に供する側(環状シラン・ジアニオン塩および/または還元剤)は、溶媒中に溶解または分散させて溶液または分散液として滴下することが好ましい。
【0039】
環状シラン・ジアニオン塩と還元剤の一方または両方を滴下する場合の好ましい態様としては、以下の3つの態様がある。すなわち、A)反
応器内に環状シラン・ジアニオン塩の溶液または分散液を仕込んでおき、これに還元剤の溶液または分散液を滴下する態様、B)反応器内に還元剤の溶液または分散液を仕込んでおき、これに環状シラン・ジアニオン塩の溶液または分散液を滴下する態様、C)反応器内に環状シラン・ジアニオン塩の溶液または分散液と還元剤の溶液または分散液とを同時または順次滴下する態様、である。これらの中でもA)の態様が好ましい。
【0040】
環状シラン・ジアニオン塩と還元剤の一方または両方を前記A)〜C)の態様で滴下する場合、環状シラン・ジアニオン塩を溶質とする溶液または分散液中の溶質濃度は、0.01mol/L以上が好ましく、より好ましくは0.02mol/L以上、さらに好ましくは0.04mol/L以上、特に好ましくは0.05mol/L以上である。溶質濃度が低すぎると、目的生成物を単離する際に留去しなければいけない溶媒量が増えるので、生産性が低下する傾向がある。一方、環状シラン・ジアニオン塩を溶質とする溶液または分散液中の溶質濃度の上限は1mol/L以下が好ましく、より好ましくは0.8mol/L以下、さらに好ましくは0.5mol/L以下である。溶質濃度(特に滴下に供する溶液または分散液の溶質濃度)が高すぎると、還元反応における発熱のコントロールがしにくくなる傾向がある。
また環状シラン・ジアニオン塩を溶質とする溶液または分散液と、還元剤を溶質とする溶液または分散液とは、溶媒量がほぼ同量となるように各溶液または分散液の溶質濃度を設定することが好ましい。
【0041】
環状シラン・ジアニオン塩と還元剤の一方または両方を前記A)〜C)の態様で滴下する場合、滴下時の温度(詳しくは、滴下に供する溶液または分散液の温度、および/または反応器内に仕込んでおく溶液または分散液の温度)は、−30℃以上80℃以下であるのが好ましく、より好ましくは0℃以上50℃以下、さらに好ましくは10℃以上40℃以下である。
【0042】
環状シラン・ジアニオン塩と還元剤の一方または両方を前記A)〜C)の態様で滴下する場合、滴下速度は、溶液または分散液中の溶質濃度によるが、0.01mL/分以上、100mL/分以下が好ましく、より好ましくは0.1mL/分以上、50mL/分以下、さらに好ましくは1mL/分以上、20mL/分以下である。
【0043】
環状シラン・ジアニオン塩と還元剤の一方または両方を前記A)〜C)の態様で滴下する場合の滴下時間は特に制限されないが、生産性の観点から、通常10分以上、20時間以下が好ましく、より好ましくは30分以上、10時間以下、さらに好ましくは1時間以上、6時間以下である。
【0044】
前記還元反応の際の反応温度は、環状シラン・ジアニオン塩や還元剤の種類に応じて適宜設定すればよく、通常−20℃〜150℃、好ましくは−10℃以上、より好ましくは0℃以上、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。反応時間は、反応の進行の程度に応じて適宜決定すればよいが、通常10分以上72時間以下、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは2時間以上24時間以下である。
前記還元反応は、通常、例えば窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0045】
以上のような本発明の製造方法における還元反応やアルキル化反応もしくはアリール化反応では、シランガスや有機モノシランは発生しないので、かかる工程においてシランガスや有機モノシランに対する対策は必要なく、簡便な装置で効率よくシクロヘキサシランまたは有機シクロヘキサシランを生成させることができる。
【0046】
本発明の製造方法における還元反応やアルキル化反応もしくはアリール化反応で生成した目的生成物(シクロヘキサシランまたは有機シクロヘキサシラン)は、例えば、反応で得られた反応液から固体(副生した塩等の不純物)を固液分離した後、溶媒を減圧留去させるなどして、単離できる。固液分離の手法としては、ろ過が簡便である点で好ましく採用されるが、これに限定されるものではなく、例えば遠心分離やデカンテーションなど公知の固液分離の手法を適宜採用することができる。
【0047】
次に本発明の有機シクロヘキサシランについて説明する。本発明の有機シクロヘキサシランは、下記一般式(iii)で示される。
【0048】
【化8】
(式(iii)中、Rはアルキル基またはアリール基を表し、aは0〜6までの整数を表わす。)
【0049】
前記一般式(iii)において、Rはアルキル基またはアリール基であれば、特に限定されないが、その炭素数は1〜8であることが好ましく、より好ましくは1〜6である。具体的な置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基等が好ましく挙げられる。
前記一般式(iii)において、aは0〜6までの整数を表すが、好ましくは1以上であり、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下である。
【0050】
本発明の有機シクロヘキサシランは、上述した本発明の有機シクロヘキサシランの製造方法(すなわち、前記環状シラン・ジアニオン塩とグリニャール試薬または有機リチウム試薬との反応)により得ることができる。本発明の有機シクロヘキサシランの製造方法によれば、使用するグリニャール試薬または有機リチウム試薬として一般式(iii)におけるRを導入しうるものを選択するとともに、使用する環状シラン・ジアニオン塩として、ジアニオン部分の水素原子の数(すなわち、一般式(i)または一般式(ii)におけるa)が一般式(iii)におけるaと同じであるものを選択することにより、所望の有機シクロヘキサシランを容易に設計することができる。
【0051】
本発明の有機シクロヘキサシランは、薄膜シリコン原料として使用することができ、太陽電池、半導体等の用途に好適に利用される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
なお、実施例における全ての反応は、不活性ガス(窒素またはアルゴン)雰囲気下において実施した。また実施例における反応で用いた溶媒は、水および酸素を取り除いてから使用した。
【0054】
(製造例1)
温度計、コンデンサー、滴下ロートおよび攪拌装置を備えた300mL四つ口フラスコ内を窒素ガスで置換した後、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン6.6g(20mmol)とテトラフェニルホスホニウムクロリド10.0g(26mmol)と、ジクロロメタン100mLとを入れ、溶液を調製した。続いて、フラスコ内の溶液を攪拌しながら、25℃条件下において滴下ロートより、トリクロロシラン10.8g(78mmol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温で24時間攪拌して反応させ、その後、得られた反応混合物にヘキサン(20mL)を添加し、室温で3日間放置し、析出した白色固体を濾別した。この白色固体をIRにより分析したところ、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩([Ph
4P
+]
2[Si
6Cl
142-])であることが確認できた。
【0055】
(製造例2)
温度計、コンデンサー、滴下ロートおよび攪拌装置を備えた300mL四つ口フラスコ内を窒素ガスで置換した後、テトラブチルアンモニウムクロリド10.4g(0.037mol)と、1,2−ジメトキシエタン2.90g(0.032mol)と、ジイソプロピルエチルアミン12.5g(0.097mol)と、1,2−ジクロロエタン100mLとを入れ、溶液を調製した。続いて、フラスコ内の溶液を攪拌しながら、25℃条件下において滴下ロートより、トリクロロシラン25.8g(0.191mol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、そのまま2時間攪拌し、引き続き50℃で8時間加熱攪拌することにより反応させた。反応後、得られた固体を濾過および精製して、ドデカクロロジヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩([Bu
4N
+]
2[Si
6H
2Cl
122-])、トリデカクロロヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩([Bu
4N
+]
2[Si
6HCl
132-])、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩([Bu
4N
+]
2[Si
6Cl
142-])の混合物を90質量%の含有率で含む白色固体を得た。
【0056】
(実施例1)
滴下ロートおよび攪拌装置を備えた100mL三つ口フラスコに、製造例1で得られた白色固体2.80gを入れて減圧乾燥させた。次いで、フラスコ内をアルゴンガスで置換した後、溶媒としてシクロペンチルメチルエーテル30mLを加えた。続いてフラスコ内の懸濁液を攪拌しながら、25℃条件下において滴下ロートより、還元剤として水素化リチウムアルミニウムのジエチルエーテル溶液(濃度:約1.0mol/L)10mLを徐々に滴下し、次いで25℃で5時間攪拌することにより反応させた。この反応中、シランガスが発生することはなかった。反応後、反応液を窒素ガス雰囲気下において濾過し、生成した塩を取り除いた。得られた濾液から減圧下で溶媒を留去して、シクロヘキサシランの無色透明液体を収率90%以上で得た。
【0057】
(実施例2)
滴下ロートおよび攪拌装置を備えた100mL三つ口フラスコに、製造例2で得られた白色固体2.80gを入れて減圧乾燥させた。次いで、フラスコ内をアルゴンガスで置換した後、溶媒としてシクロペンチルメチルエーテル30mLを加えた。続いてフラスコ内の懸濁液を攪拌しながら、25℃条件下において滴下ロートより、還元剤として水素化リチウムアルミニウムのジエチルエーテル溶液(濃度:約1.0mol/L)10mLを徐々に滴下し、次いで25℃で5時間攪拌することにより反応させた。この反応中、シランガスが発生することはなかった。反応後、反応液を窒素ガス雰囲気下において濾過し、生成した塩を取り除いた。得られた濾液から減圧下で溶媒を留去して、シクロヘキサシランの無色透明液体を収率90%以上で得た。
【0058】
(実施例3)
温度計、滴下ロートおよび攪拌装置を備えた300mL三つ口フラスコに、製造例1で得られた白色固体12.9gを入れて減圧乾燥させた。次いで、フラスコ内を窒素ガスで置換した後、溶媒としてテトラヒドロフラン100mLを加えた。続いて、フラスコ内の懸濁液を攪拌しながら、25℃条件下において滴下ロートより、臭化メチルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(濃度:約1.0mol/L)130mLを徐々に滴下し、次いで25℃で24時間攪拌することにより反応させた。この反応中、有機モノシランが生成することはなかった。得られた反応混合物を加水分解させた後、ヘキサンとシクロペンチルメチルエーテルで生成物を抽出し、抽出液を減圧下で濃縮し、低温条件下(−30℃〜0℃)で再結晶化させて、ドデカメチルシクロヘキサシランの無色結晶を収率90%以上で得た。