(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、
図1〜
図5を参照し、第1実施形態についてハイブリッド型の電気自動車のモータの劣化診断装置に適用した場合の例で説明する。
【0012】
図2はハイブリッド型の電気自動車1の前輪側に設けられた駆動部を概略的に示している。駆動源としてエンジン2およびモータ(車載回転電機)3を備えている。モータ3は劣化診断の対象である。エンジン2あるいはモータ3の駆動出力は、T/A(トランスアクスル)4を介していずれかの駆動出力が駆動軸5に伝達され、前輪6が回転駆動される。制御装置7は、モータ3の回転駆動制御およびエンジン2による駆動の制御を行う。
【0013】
図1はモータ3とその制御および劣化診断をする制御装置7の概略構成を示している。モータ3は、固定子鉄心8にコイルが巻回されており、コイルエンド9に例えばサーミスタからなる温度検出手段としての温度センサ10がコイル温度を測定するように取り付けられている。温度センサ10の検出信号は信号線11を介して制御装置7に出力される。制御装置7からコイルに対して3本の電源ケーブル12を介して給電される。
【0014】
制御装置7は、モータ3の駆動制御を司る演算手段としてのCPU13とプログラムやデータを記憶する記憶手段としてのメモリ14を備える。また、制御装置7は、モータ3への給電を行うための構成として、車載バッテリからの出力を昇圧する昇圧コンバータ15を備えると共に、昇圧コンバータ15の出力をモータ3の各コイルに供給するための車両制御部16を備え、CPU13によるPWM制御などの方式で車両駆動部16に制御信号を与える。これにより、電源ケーブル12を介してモータ3の三相の出力をコイルに三相の出力を供給して、モータ3を回転駆動させ、駆動軸5に適切な駆動力を供給する。
【0015】
次に、上記構成において制御装置7のCPU13によりモータ3のコイルの劣化診断を行う場合の作用について説明する。CPU13は、新しいモータ3が設けられた状態あるいは組立てられた状態において、電源が投入されると、メモリ14に記憶された劣化診断プログラムに従って診断処理プログラムを実行する。CPU13は、まずデータの初期化処理を行い(S1)、種々の設定の初期化をすると共に、データのクリア処理を行う。
【0016】
この後、CPU13は、温度センサ10から一定時間Δt(例えば1秒)毎にコイル温度T[℃]を検出する(S2)。コイル温度T[℃]は絶対温度Tn[K]に変換してから後述するアレニウス則カーブに基いて基準温度Tsにおける経過時間である換算時間Δt
nx(Ts)を算出する(S3)。
【0017】
CPU13は、算出した換算時間Δt
nx(Ts)をモータ3の使用開始時点からの積算時間t
nx(Ts)に加算する(S4)。これにより、これまでの実際の使用時間tに対して、温度が基準温度Tsから変化しないで使用したと場合における換算時間Δt
nx(Ts)を積算した積算時間t
nx(Ts)を求めることができる。つまりモータ3のコイル温度の温度履歴を基準温度Tsにおける時間の長さの違いとして換算して積算時間t
nx(Ts)を求めることができる。基準温度Tsにおける劣化寿命τ(Ts)はあらかじめ測定したデータがメモリ14に記憶されている。
【0018】
次に、モータ3のコイルの熱劣化状態がどの程度進んでいるかを積算時間t
nx(Ts)により判定する。熱による劣化寿命τ(Ts)に対して、例えば80%使用した状態を予備警告寿命とすると、80%の使用時間ts1(=0.8τ)よりも積算時間t
nx(Ts)を超えていなければ(S5でNO)、ステップS2に戻り再びステップS2〜S5を実施する。
【0019】
また、CPU13は、ステップS5でYESと判断され、ステップS6でNOと判断された場合には、寿命が近付いていることを予備的に警告する(S7)。ここでは、予備警告をした後、再びステップS2に戻り、ステップS2〜S6を繰り返し実施する。
【0020】
また、CPU13は、モータ3のコイルの劣化寿命に対して90%使用した状態を警告寿命とすると、90%の使用時間ts2(=0.9τ)よりも積算時間t
nx(Ts)が超えていれば(S6でYES)間もなく寿命であることを警告する(S8)。この警告処理では、即時に運転を停止するのではなく、モータ3の温度上昇を抑制して積算時間t
nx(Ts)の増加を抑制するため、温度低減運転への切り替えを設定することもできる。
【0021】
これによってモータ3の運転中においても、瞬時の温度Tと時間Δtから得られる積算時間t
nx(Ts)が熱劣化寿命に近くなった場合、警告または自動的に温度低減運転への切り替えが可能となり、モータ3のコイルの熱劣化による焼損を未然に防止することができる。
【0022】
なお、上記の劣化診断プログラムの実行において、CPU13、は電源が遮断されてプログラムを中断した場合でも、それまでの積算時間t
nx(Ts)のデータをメモリ14に記憶保持しているので、次に電源が投入されて診断を再開する際に、メモリ14に記憶された積算時間t
nx(Ts)のデータを読み出して利用することで、継続的に診断処理を実行するようになっている。
【0023】
次に、上記したアレニウス則に基づく劣化程度の推定方法について
図4および
図5を参照して説明する。まず、この方法による推定処理を実行することに先立って、対象となるモータ3の寿命を推定するための特性カーブを取得する。この特性カーブは、例えば
図4の実線で示すようなカーブとして描くことができる。この曲線は、寿命時間[Hr]の対数値が温度の逆数と比例関係にあることを示している。
【0024】
一般に、温度と劣化との関係を示すアレニウスモデルは、反応速度定数をKとすると、
K=Aexp(−Ea/kT)
として表すことができる。ここで、Eaは活性化エネルギー[eV]、kはボルツマン定数(=8.6173×10
−5[eV/K])、Tは絶対温度[K]つまりT[K]=T
n[℃]+273[℃]、Aは定数である。
【0025】
そして、ある劣化量Bに達したときを寿命とすると、寿命τはτ=B/Kで表されるから、B/AをCとおくと、
τ=C・exp[(Ea/k)・(1/T)]
となり、したがって、
lnτ=lnC+(Ea/k)・(1/T)
これにより、時間の対数lnτと温度の逆数(1/T)との関係は直線に示すことができる。この関係は、温度T1とT2との間に、(lnτ1/lnτ2)倍の加速があることを示している。つまり、温度Tが変化すると寿命τも変化するが、その関係は、上記したアレニウス則に基づいて温度と寿命との間に一定の関係が存在するので、これにより、実際の使用温度T
nで一定時間Δt(T
n)使用したことは、基準温度Ts(例えば150℃:423K)で使用した場合の使用時間Δt
nx(Ts)に換算することができる。
【0026】
そして、モータ3の運転中において一定時間Δt(例えば1秒)毎の観測温度T[℃]を検出し、t[Hr]=1/3600[Hr]、T
n[K]=T[℃]+273[℃]を代入することによりlnCとして示した定数を求めることができる。これにより、温度T
nで使用した一定時間Δtの時間が、基準温度Tsで使用した場合にはどの程度になるかを換算時間Δt
nx(Ts)として計算することができる。
【0027】
このようにして一定時間Δt毎に測定した温度T
nから計算した換算時間Δt
nx(Ts)を記憶すると共に、これらを運転開始時点から逐次加算して運転の総時間に対応する基準温度Tsでの熱劣化寿命に対応する積算時間t
nx(Ts)として取得する。この積算時間t
nx(Ts)を
図4中の基準温度Tsに対応する位置にプロットすると、その基準温度Tsでの寿命τ(Ts)を示す特性カーブとの交差位置との差から残りの熱劣化寿命が計算できる。
【0028】
これによって、個々の温度,時間での熱履歴を基準温度Tsの150[℃]での熱履歴時間として正規化できる。例えば、基準温度Ts(=150[℃])にて6000時間を劣化基準とした場合、今までの運転履歴からの積算時間t
nx(Ts)が3000時間であった場合、その劣化程度は50%と判断する。
【0029】
具体的には、
図5(a)にも示しているように、測定開始をt
0とし、検出タイミングt
nは、一定時間Δt
n(1秒)毎とする。温度T
nで時間Δt
nが経過したときの劣化度合いを、アレニウス則を利用して基準温度Tsで経過した時間Δt
nx(Ts)に換算する。これは、予め測定した熱劣化寿命のカーブに基づいてアレニウス則を当てはめて、温度T
nでの単位時間が基準温度Tsで使用した場合の換算係数をf(T
n)とすると、
Δt
nx(Ts)=f(T
n)×Δt
n
基準温度Tsでの劣化時間の積算は、
図5(b)にも示すように、
t
nx(Ts)=Δt
1x(Ts)+Δt
2x(Ts)+…+Δt
nx(Ts)
あるいは、
t
nx(Ts)=Σ[f(T
k)×Δt
k]
と表すことができる。これは、時間間隔Δt
nを小さくしていくと、温度Tの変化に対応した換算係数を時間積分したものとなることを示している。
【0030】
一方、基準温度Tsでの劣化寿命がτ(Ts)時間であるとすると、コイルの使用時間t
nの時点での残りの基準温度Tsにおける寿命τ
nは、
τ
n=τ(Ts)−t
nx(Ts)
となる。判定の仕方としては、劣化寿命τ(Ts)に対して80%あるいは90%使用した時点として下記の判定時間ts1、ts2を設定する。
【0031】
判定時間ts1=0.8τ(Ts)
判定時間ts2=0.9τ(Ts)
判定時間ts1、ts2を用いることで、
t
nx(Ts)>ts1 (ステップS5)
t
nx(Ts)>ts2 (ステップS6)
により、予備警報(ステップS7)あるいは劣化の警報(S8)を行うことができる。
【0032】
このような本実施形態によれば、モータ3のコイルエンド9の温度を温度センサ10により一定時間Δt
n毎に測定し、これを基準温度Tsで使用した場合の使用時間に換算した換算時間Δt
nx(Ts)として算出し、使用開始時点からの換算時間Δt
nx(Ts)を積算した積算時間t
nx(Ts)を求めることで、基準温度Tsにおける熱劣化寿命を精度良く推定することができる。
【0033】
なお、本実施形態における劣化寿命の推定に際して用いるアレニウス則自体は、公知の原理であるが、温度変動が伴う場合に正確な寿命推定をすることが難しかった。つまり、アレニウス則では、所定の温度における使用時間に対する寿命の推定は示されるが、車載モータのように、使用時の温度変動が激しい場合には温度変動に伴う誤差が大きくなるため、寿命推定の精度が低下するという課題があった。
【0034】
すなわち、運転時間から単純に寿命時間を推定する方法では、車載モータのように運転者によって運転条件の大きく変わる場合、コイルの劣化主要因である熱劣化に大きく影響するコイル温度の推定値が大きくずれる場合が多くモータのコイル劣化を的確に判断できない。また、モータコイルの抵抗や絶縁抵抗を測定する方法では、モータの代表的劣化である、エナメル線の劣化状態を確認することはできない。
【0035】
これに対して、この実施形態では、上記したように、温度変動に追随した積算時間t
nx(Ts)を求めることで熱劣化に対する精度の向上を図ることができ、さらに、電気自動車ではモータの寿命を左右する要素としての環境要因が少ないこともあって、熱的な推定寿命の測定精度を向上させることが総合的な寿命の推定精度の向上につながる。この結果、本実施形態においては、熱的な劣化寿命の推定を精度良く行い、これによって車両の駆動用モータとして安全性が要求される構成において、正確な寿命推定を行えるという利点がある。
【0036】
(第2実施形態)
図6および
図7は第2実施形態を示すもので、以下、第1実施形態と異なる部分について説明する。第2実施形態では、モータ3のコイルエンド9の温度を検出する構成について変更は無く、コイル温度の検出タイミングが異なる。すなわち、この実施形態では、コイル温度が所定温度以上変化したときにその時点と温度を検出して熱劣化寿命の推定を行う。
【0037】
図6はメモリ14に記憶された劣化診断プログラムのフローチャートである。制御装置7は、新しいモータ3が設けられた構成において、電源が投入されると、
図6に示す診断処理プログラムを実行する。制御装置7は、まずデータの初期化処理を行い(T1)、種々の設定の初期化をすると共に、データのクリア処理を行う。
【0038】
この後、制御装置7は、温度センサ10から時刻t
0のコイル温度T[℃]を検出する(T2)。続いて、カウンタnの値に「1」を代入し(T3)、第n回目(第1回目)の時刻t
n(時刻t
1)のコイル温度T(コイル温度T
1[K]は測定したコイル温度T[℃]+273[℃])を測定する(T4)。次に、測定したコイル温度T
n[K]が前回測定したコイル温度T
n−1[K]に対して所定温度ΔT(例えば1[K]〜数[K])以上の変化があったか否かを判定し(T5)、NOすなわち変化が無い場合にはステップT4に戻り、再びステップT4およびT5を実行する。
【0039】
そして、コイル温度T
nの値が所定温度ΔTを超えて変動した場合には、制御装置7は、ステップT5でYESと判断してステップT6に進む。ここでは、制御装置7は、前述のアレニウス則カーブに基いて換算時間Δt
nx(Ts)を算出する。この場合、換算する元の時間Δt
nは、前回の測定時点t
n−1からの経過時間であり、次式で得られる。
Δt
n=t
n−t
n−1
そして、測定温度T
nでの時間Δt
nを基準温度Tsでの換算時間Δt
nx(Ts)に変換する。
【0040】
次に、制御装置7は、算出した換算時間Δt
nx(Ts)をモータ3の使用開始時点からの積算時間t
nx(Ts)に加算する(T7)。これにより、これまでの実際の使用時間tに対して、温度が基準温度Tsから変化しないで使用したと場合における換算時間Δt
nx(Ts)を積算した積算時間t
nx(Ts)を求めることができる。つまりモータ3のコイル温度の温度履歴を基準温度Tsにおける時間の長さの違いとして換算して積算時間t
nx(Ts)を求めることができる。基準温度Tsにおける劣化寿命τ(Ts)はあらかじめ測定したデータがメモリ14に記憶されている。
【0041】
次に、モータ3のコイルの熱劣化状態がどの程度進んでいるかを積算時間t
nx(Ts)により判定する。熱による劣化寿命τ(Ts)に対して、80%の使用時間ts1(=0.8τ)よりも積算時間t
nx(Ts)を超えていなければ、カウンタnの値を「1」インクリメントし(T9)、再びステップT4に戻り、上記のステップT4〜T8を繰り返し実施する。
【0042】
また、熱による劣化寿命τ(Ts)に対して、使用時間ts1よりも積算時間t
nx(Ts)が超えていれば(T8でYES、T10でNO)寿命が近付いていることを予備的に警告する(T11)。この後、カウンタnの値を「1」インクリメントして(T12)ステップT4に戻り、上記のステップT4〜T10を繰り返し実施する。
【0043】
また、90%の使用時間ts2(=0.9τ)よりも積算時間t
nx(Ts)が超えていれば(T10でYES)、間もなく寿命であることを警報として出力する(T13)。この警告処理では、即時に運転を停止するのではなく、モータ3の温度上昇を抑制して積算時間t
nx(Ts)の増加を抑制するため、温度低減運転への切り替えを設定することもできる。
【0044】
これによってモータ3の運転中においても、瞬時の温度Tと時間Δtから得られる積算時間t
nx(Ts)が熱劣化寿命に近くなった場合、警告または自動的に温度低減運転への切り替えが可能となり、モータ3のコイルの熱劣化による焼損を未然に防止することができる。
【0045】
このような第2実施形態によれば、第1実施形態で示した効果に加えて次の効果を得ることができる。すなわち、この実施形態では、換算時間Δt
nx(Ts)の算出処理を、コイル温度Tが所定温度ΔTを超えて変化した場合に行うようにして経過時間Δt
nも変化するものとしたので、温度変化が少ない状態では演算処理を少なくし、温度変化が大きくなると所定温度ΔTを超える変化が生じる毎に経過時間Δt
nを換算時間Δt
nx(Ts)として算出し、積算時間t
nx(Ts)を求めることで、温度変動に追随してより精度良く温度履歴としての生産時間t
nx(Ts)を求めることができる。
【0046】
また、これにより、電気自動車の運転者の運転の仕方がモータ3の温度変動が激しい場合や、少ない場合の落差が大きい場合でも、温度検出の頻度を短くすることなく正確に熱劣化寿命の推定をすることができ、したがって演算の負担を増大することなくしかも記憶するデータの量も軽減することができる。
【0047】
なお、第2実施形態の方式を採用するか、第1実施形態の方式を採用するかは、運転者の運転の仕方や、メモリ14の容量あるいはCPU13の演算速度あるいは能力などに応じて適宜選択して採用することができる。
【0048】
(第3実施形態)
図8および
図9は第3実施形態を示すものである。この第3実施形態は、電気自動車などの車両駆動用のモータ3のコイルの皮膜の劣化を診断するものである。皮膜の劣化診断は、定期点検のタイミングで制御装置7から切り離した状態で行うものである。第1実施形態あるいは第2実施形態においては、コイルの熱劣化の寿命の推定を行なっていたのに対して、このようにして推定した結果、モータ3のコイルが使用時間から見て熱劣化寿命に近づいている状態では、実際の劣化が進行していることがある。第3実施形態では、モータ3の積算時間t
nx(Ts)に対して、コイルの実際の劣化状況を診断するものである。
【0049】
劣化診断に際しては、診断装置17をモータ3の三相のコイルの入力端子9u、9v、9wに接続して行う。診断装置17は、内部に制御手段としてのCPU18および記憶手段としてのメモリ19を備えている。また、診断装置17は、モータ3の三相のコイルに対して2相毎にインパルス電圧を印加する電圧印加回路20、およびその応答波形を検出する応答検出部21を備えている。
【0050】
診断装置17は、インパルス巻線試験装置として市販されているものを用いる。例えば、株式会社電子制御国際製インパルス巻線試験器DWXシリーズなどがある。この診断装置17では、あらかじめマスターコイル(Master)に電圧印加回路20からインパルス電圧を印加し、応答検出部21によりそのインパルス応答波形を取得し、これをメモリ19に記憶させている。試験品(TEST)のモータ3のコイルに電圧印加回路20からインパルス電圧を印加し、その応答波形を応答検出部21により検出し、その波形との比較を実施する。測定する応答波形は、インパルス応答電圧波形の2周期目からの1周期の期間(
図9中Aで示す期間)での電圧波形(ゼロクロスからゼロクロス間の波形)のずれと波形の高さを比較し、あらかじめコイルの劣化状態での値と正常品の値のから波形のずれと高さの閾値を決め、コイルの劣化等の異常を検出する。
【0051】
図9はテスト品として測定したモータ3のコイルの応答波形の一例を示している。図中、実線がマスター品の電圧波形(応答波形)で、破線がテスト品の電圧波形(応答波形)である。ここで、マスター品とテスト品の電圧波形の大きさ,ずれを観測する範囲として、図示のA期間とする。この期間の設定は短いほど感度は高くなるが、ずれ量の観測領域が小さくなるため、検出誤差が増える。このため、適切な観測幅が必要である。
【0052】
今回の場合、2周期目からの1周期(A期間)を観測幅とした。この期間において、マスター波形の電圧ゼロラインと波形のプラス側ラインで囲まれる範囲の面積Saとマイナス側ラインで囲まれる範囲の面積Sbを加算した面積をMcとして求める。また、テスト品で観測された同面積をTcとして求める。そして、これら面積McとTcとを比較し、その電圧波形の大きさ比較値Acを次式に従って求める。このAcの値は、コイル内を電流が流れた場合のエネルギー損失に反映され、この値と劣化の関係を調査しておけば、コイルの劣化を検出できる。
【0053】
Ac=(Tc―Mc)/Mc
次に、同期間Aにおいて、マスター波形のラインとテスト品の波形のラインのずれで観測される面積Azの値を求める。そして、求めた面積Azを全体の波形面積で割った値を波形差面積As(=Az/Mc)として求める。この波形差面積Asの値は、コイル内を電流が流れた場合のエネルギー損失とかコイルのインダクタンス変化に伴う電流の周波数が反映される。したがって、この波形差面積Asの値についても、あらかじめ劣化との関係を調査しておけば、テスト品の応答波形を求めることでコイルの劣化を検出することができる。
【0054】
更に、この波形差面積Asの値からコイルの異常を顕著に検出するため、接続端子9u、9v、9wとの間の相間の応答波形を測定することで以下のような相間のばらつきデータによる情報を検出することができる。すなわち、各相間の応答波形の測定結果から、U−V相波形差面積As,V−W相As,W−U相Asを用いて、それぞれの値を比較し、その中で最も大きな値As(MAX)と中間値As(MID)と最も小さな値As(MIN)から、波形差面積値の相ばらつきAs(K)を次式に従って求める。
【0055】
As(K)=(As(MAX)+As(MID))/As(MIN)×2
この式から得られる波形差面積の相ばらつき値As(K)は、コイル劣化による異常が、ある相で発生した場合、それに絡む2相の波形差面積値は大きくなる。また、これによって、異常が発生していない相は問題のない値となるため、異常ではないが自然ばらつきの範囲に収まり、波形差面積の値が大きくなった場合にも異常の発生を確実に検出することができる。
【0056】
このような第3実施形態によれば、劣化診断装置17によりモータ3を制御装置7から取り外して、その接続端子9u、9v、9wの各2相間にインパルス電圧を印加してその応答波形と初期状態の応答波形とからそれらのずれに応じて劣化状態の診断をするようにした。これにより、モータ3のコイルの劣化状態の診断を定期点検時などの制御装置7から取り外した状態で簡単且つ確実に行うことができる。
【0057】
(他の実施形態)
上記実施形態で説明したもの以外に次のような変形をすることができる。
上記第1実施形態で用いる寿命推定方式と第2実施形態で用いる寿命推定方式については、両方を備える構成としたものとしても良い。運転者の運転の仕方や、モータ3の特性あるいは種々の条件などに応じて選択的にプログラムを設定することができ、これによって、適切な寿命推定の方式について、メモリ容量を増大させることなく適用できる。
【0058】
コイル温度の検出を温度検出手段として、温度センサ10に代えて、コイル電流を検出する電流検出器を設けることでコイル温度について予想される温度上昇を推定する構成とすることもできる。この場合、モータ3の冷却方法や冷却能力はモータによって一定の条件として捉えることができ、このときのコイルの発熱は、コイルに流れる電流値で発生するため、その温度上昇は電流値に比例することが推定できる。したがって、予めコイルに流れる電流値とコイル温度との関係を確認しておけば、運転中のコイル温度Tは、制御装置7に設けている電流センサから推定計算できる。
【0059】
第2実施形態では、温度センサ10によるコイル温度の検出で、温度の変動をソフト的に判定する構成を示したが、ハード回路で構成することもできる。この場合には、比較レベルを前回の演算時点の温度としてハード的に設定し、温度センサ10の検出温度信号を常に入力して比較することで一定温度を超える変動が発生したことを検出することもできる。
【0060】
第3実施形態において、応答波形の2周期目からの1周期分をA期間とした観測幅として演算をしたが、他の周期の期間を採用しても良いし、複数周期を期間として設定してもよいし、任意の期間をA期間として観測幅に設定することもできる。
【0061】
車載回転電機として、実施形態で示したハイブリッド型の電気自動車のモータ3以外に、エンジンを持たない電気自動車の駆動用のモータに適用しても良いし、電車などに使用される駆動用のモータに適用しても良いし、その他の車両に用いられるモータにも適用できる。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変更は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。