特許第6014427号(P6014427)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6014427切削インサート並びにそれを用いた切削工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014427
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】切削インサート並びにそれを用いた切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/20 20060101AFI20161011BHJP
   B23C 5/06 20060101ALI20161011BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20161011BHJP
   B23B 29/00 20060101ALI20161011BHJP
   B23B 29/02 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   B23C5/20
   B23C5/06 A
   B23B27/14 C
   B23B29/00 A
   B23B29/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-193527(P2012-193527)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-46436(P2014-46436A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098741
【弁理士】
【氏名又は名称】武蔵 武
(72)【発明者】
【氏名】絹川 達治
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕亮
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0044241(US,A1)
【文献】 特開平09−174323(JP,A)
【文献】 実開平02−097512(JP,U)
【文献】 国際公開第2012/043579(WO,A1)
【文献】 特開2010−064224(JP,A)
【文献】 特開2012−148400(JP,A)
【文献】 特表2009−541071(JP,A)
【文献】 特開昭50−043588(JP,A)
【文献】 特表2009−521336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/20
B23B 27/14
B23B 29/00
B23B 29/02
B23C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A面と、B面と、側面と、を有する平板多角形状の切削インサートであって、
前記A面と前記B面は、70゜〜85゜の内角αを有する各々3つの鋭角頂点と、その鋭角頂点同士の中間に内角が((720゜−3α)/3)゜である鈍角頂点を有する六角形状であり、
前記側面は、前記A面、B面に対して直角をなし且つ前記鋭角頂点の任意の1つに接するものを第1斜面としてそこから順に第6斜面にまで連なって前記第1斜面に戻る6面で構成され、
前記側面の奇数斜面と前記A面とが交わる稜線と、前記側面の偶数斜面と前記B面とが交わる稜線と、をそれぞれ主切刃とし、
前記鋭角頂点で前記奇数斜面と前記偶数斜面が交わる稜線を前切刃とし、
前記第1斜面〜第6斜面をすくい面又は前逃げ面として前記前切刃に対応する前記奇数斜面と偶数斜面の一方をすくい面としたとき他方を前逃げ面とし、
前記A面と前記B面を横逃げ面とし、
前記主切刃と前記前切刃とが交わるコーナー部分をR面取り及び/又はC面取りして該コーナー部分をコーナー刃若しくは副切刃とし
さらに前記第1斜面〜第6斜面のそれぞれに前記主切刃に沿って切り屑排出用の凹溝が形成されており、
該凹溝は、前記前切刃から少なくとも前記主切刃の長さの1/2以上の長さで前記側面の幅の1/2以下の溝幅であり且つ切り屑の排出側端部が前記前切刃とは反対の方向に開放されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
前記凹溝は、
一辺が前記主切刃に一致し、
他の一辺が、前記前切刃側を下部とし前記鈍角頂点側を上部としたとき、下部から上部に向けて溝幅が狭まるように前記主切刃に対して角度θの傾きが設けられており、
さらに前記角度θが、0゜以上20゜以下に設定されたものであることを特徴とする請求項記載の切削インサート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の切削インサートを工具本体の外周面に設けられた複数個のインサート取付部に装着して前記工具本体と一体に軸回転させる正面フライスカッターであって、
前記A面又は前記B面が外周側となり且つコーナー角xが1゜〜45゜でアキシャルレーキ角yがプラスとなるように前記インサート取付部に装着してなることを特徴とする正面フライスカッター。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の切削インサートを工具本体の先端に設けられたインサート取付部に装着してなることを特徴とするボーリング加工用切削工具。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の切削インサートを工具本体の先端に設けられたインサート取付部に装着してなることを特徴とする旋削加工用切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A面とB面と側面とを有する平板多角形状の切削インサート並びにその切削インサートを装着した正面フライスカッター、ボーリング加工用切削工具及び旋削加工用切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
外形が平板三角形状に形成されていて、A面と、B面と、側面と、を有する切削インサートが、例えば特許文献1に記載されている。このような切削インサートは6コーナー仕様で経済性に優れる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−64224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の切削インサートは、側面の厚さ方向中間部分に工具本体のインサート取付部に当接して拘束される拘束面が凹溝状に形成されており、高い加工精度 が要求される複雑な形状になっている。切削インサートの複雑な側面形状を高い加工精度で形成するためには、横方向のプレス軸を持つプレス機で成形する必要があるが、例えば、セラミック材料で切削インサートを成形した場合は、プレス機で成形された場合の焼結肌の方が研削で成形された場合の焼結肌よりしばしば劣るため、切削に影響するすくい面の性能が十分でない。したがって切削インサートとして使用可能な材料の範囲が狭くなる問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みなされたもので、その目的は、6コーナー仕様でありながら研削によっても成形可能な形状の切削インサートを提供することにあり、また、そのような切削インサートを装着した正面フライスカッター、ボーリング加工用切削具及び旋削加工用切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため本発明は、請求項1に記載したように、
A面と、B面と、側面と、を有する平板多角形状の切削インサートであって、
前記A面と前記B面は、70゜〜85゜の内角αを有する各々3つの鋭角頂点と、その鋭角頂点同士の中間に内角が((720゜−3α)/3)゜である鈍角頂点を有する六角形状であり、
前記側面は、前記A面、B面に対して直角をなし且つ前記鋭角頂点の任意の1つに接するものを第1斜面としてそこから順に第6斜面にまで連なって前記第1斜面に戻る6面で構成され、
前記側面の奇数斜面と前記A面とが交わる稜線と、前記側面の偶数斜面と前記B面とが交わる稜線と、をそれぞれ主切刃とし、
前記鋭角頂点で前記奇数斜面と前記偶数斜面が交わる稜線を前切刃とし、
前記第1斜面〜第6斜面をすくい面又は前逃げ面として前記前切刃に対応する前記奇数斜面と偶数斜面の一方をすくい面としたとき他方を前逃げ面とし、
前記A面と前記B面を横逃げ面とし、
前記主切刃と前記前切刃とが交わるコーナー部分をR面取り及び/又はC面取りして該コーナー部分をコーナー刃若しくは副切刃とし
さらに前記第1斜面〜第6斜面のそれぞれに前記主切刃に沿って切り屑排出用の凹溝が形成されており、
該凹溝は、前記前切刃から少なくとも前記主切刃の長さの1/2以上の長さで前記側面の幅の1/2以下の溝幅であり且つ切り屑の排出側端部が前記前切刃とは反対の方向に開放されている切削インサートを提供する。
【0007】
また、請求項に記載したように、
前記凹溝は、
一辺が前記主切刃に一致し、
他の一辺が、前記前切刃側を下部とし前記鈍角頂点側を上部としたとき、下部から上部に向けて溝幅が狭まるように前記主切刃に対して角度θの傾きが設けられており、
さらに前記角度θが、0゜以上20゜以下に設定されたものである請求項記載の切削インサートを提供する。
【0008】
また、請求項に記載したように、
請求項1又は2に記載の切削インサートを工具本体の外周面に設けられた複数個のインサート取付部に装着して前記工具本体と一体に軸回転させる正面フライスカッターであって、
前記A面又は前記B面が外周側となり且つコーナー角xが1゜〜45゜でアキシャルレーキ角yがプラスとなるように前記インサート取付部に装着してなる正面フライスカッターを提供する。
【0009】
また、請求項に記載したように、請求項1又は2に記載の切削インサートを工具本体の先端に設けられたインサート取付部に装着してなるボーリング加工用切削工具を提供する。
【0010】
また、請求項5に記載したように、請求項1又は2に記載の切削インサートを工具本体の先端に設けられたインサート取付部に装着してなる旋削加工用切削工具を提供する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の形状を有する切削インサートは、側面を2等分する平面で分割されたそれぞれが同じ切れ刃の勝手を持つため、経済性に優れた6コーナー仕様のものが研削加工によっても成形することができる。したがって加工手段選択の幅が広がり、使用可能な材料の幅も広がる。
また、この切削インサートは、鋭角頂点の内角αを70゜〜85゜に設定したため、刃先折損のリスクが小さくなって優れた耐久性を発揮する。
【0012】
また、第1斜面〜第6斜面のそれぞれに主切刃に沿って凹溝を形成したことにより、該凹溝を通って切り屑が円滑に排出され、また、凹溝の深さ方向の傾斜が、工具本体に装着した状態でのコーナー刃のラジアルレーキ角に反映されるため、該ラジアルレーキ角の変更が工具本体を変えずに行える効果がある。
【0013】
また、前記凹溝は、請求項に記載したように、切り屑の排出方向に沿って溝幅が狭まる角度θの傾きを設けることによって、切り屑の排出方向を特定の範囲に集中させることができる。
【0014】
また、請求項に記載した正面フライスカッターは、本発明の切削インサートが鋭角の頂点を有することにより、アキシャルレーキ角を容易にポジティブに設定することが可能であり、切削時の負荷を低減することで、加工歪みが抑制され、削り終わり箇所のバリやコバ欠けの発生が抑制される効果がある。
【0015】
また、本発明の切削インサートを、請求項に記載したように工具本体の先端に設けられたインサート取付部に取着することにより、垂直・直角すくい角の双方を容易にポジティブに設定できるため、6コーナー仕様でありながら切削時の負荷を低減しボーリング性能に優れたボーリング加工用切削工具が提供できる。
【0016】
また、本発明の切削インサートを、請求項に記載したように工具本体の先端に設けられたインサート取付部に取着することにより、垂直・直角すくい角の双方を容易にポジティブに設定できるため、6コーナー仕様でありながら、切削時の負荷を低減し切削性能に優れた旋削加工用切削工具が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は切削インサートをA面側から見た正面図、(b)は切削インサートをB面側から見た背面図、(c)は切削インサートを矢示V1方向から見てA面を実線で、B面を破線で表した側面図である。
図2】切削インサートの斜視図である。
図3】要部拡大図を含む正面フライスカッターの正面図である。
図4】正面フライスカッターの要部拡大側面図である。
図5】正面フライスカッターの要部拡大底面図である。
図6】実施形態2に係る切削インサートの斜視図である。
図7】要部拡大図を含む実施形態2に係る正面フライスカッターの正面図である。
図8】実施形態2に係る正面フライスカッターの要部拡大側面図である。
図9】実施形態2に係る正面フライスカッターの要部拡大底面図である。
図10】実施形態2の別態様を示すもので、(a)は切削インサートをA面側から見た正面図、(b)は切削インサートをB面側から見た背面図、(c)は切削インサートを矢示V2方向から見てA面を実線で、B面を破線で表した側面図、(d)は切削インサートを矢示V3方向から見てA面を実線で、B面を破線で表した側面図である。
図11】実施形態2の別態様を示す切削インサートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施形態1]
以下に本発明の実施形態1を図面を参照しつつ説明する。
切削インサート1は、図1図2に示したように、A面2と、B面3と、側面4と、を備えた平板多角形状であり、中心(重心)にスクリュー挿通用の貫通孔5を有する。なお、貫通孔5は、その両端にテーパ部5aが形成されている。
【0019】
前記A面2は、図1(a)に示したように、70゜〜85゜の内角α(実施形態1はα=80゜)を有する3つの鋭角頂点A1〜A3と、その鋭角頂点A1_A2,A2_A3,A3_A1同士の中間に内角が((720゜−3α)/3)゜(実施形態1は160゜)である鈍角頂点A0,A0,A0を有する六角形状である。
前記B面3は、図1(b)に示したように、A面2と同じ内角αを有する3つの鋭角頂点B1〜B3と、その鋭角頂点B1_B2,B2_B3,B3_B1同士の中間に内角が((720゜−3α)/3)゜(実施形態1は160゜)である鈍角頂点B0,B0,B0を有する六角形状である。
【0020】
前記側面4は、図1(c)に示したように、前記A面2、B面3に対して直角をなし且つ前記鋭角頂点A1_B1,A2_B2,A3_B3の任意の1つ(例えば、鋭角頂点A1_B1)に接するものを第1斜面4aとしてそこから順に第6斜面4fにまで環状に連なって前記第1斜面4aに戻る6面で構成される。
【0021】
以上の切削インサート1は、セラミック材料で形成されており、前記A面2、B面3、側面4が研削により成形された焼結肌になっている。
そして、第1に、側面4の奇数斜面である第1斜面4aと第3斜面4cと第5斜面4eと、前記A面2と、が交わる稜線6aと、側面4の偶数斜面である第2斜面4bと第4斜面4dと第6斜面4fと、前記B面3と、が交わる稜線6bとをそれぞれ主切刃とし、
第2に、鋭角頂点A1_B1,A2_B2,A3_B3において奇数斜面4a,4c,4eと偶数斜面4b,4d,4fとが交わる稜線6cを前切刃とし、
第3に、第1斜面4a〜第6斜面4fをすくい面又は前逃げ面として前記前切刃(稜線6c)に対応する奇数斜面4a,4c,4eと偶数斜面4b,4d,4fの一方をすくい面としたとき他方を前逃げ面とし、
第4に、前記A面2と前記B面3を横逃げ面とし、
第5に、前記主切刃(稜線6a,6b)と前記前切刃(稜線6c)とが交わるコーナー部分7a〜7fの全てについて、切削時の欠けを防止する目的で面取りを施して該コーナー部分7a〜7fをコーナー刃若しくは副切刃とした。なお、面取りは、一般的なR面取りやC面取りの他、R面取りとC面取りを適宜に組み合わた複合面取りでもよい(図2参照)。
【0022】
図3図5は、工具本体8の外周面に実施形態1の切削インサート1を縦置きに装着した正面フライスカッター9を示したものである。
前記工具本体8は、略円盤状であって、その外周面に複数個のインサート取付部10,10…が等間隔に形成されており、そのインサート取付部10に切削インサート1が取り付けられている。
【0023】
前記インサート取付部10は、切削インサート1のA面2又はB面3を当接させる当接壁11と、切削インサート1の側面4を拘束する2つの拘束壁12a,12bを備えている。この2つの拘束壁12a,12bは、図3のように工具本体8の外周側から見た場合に、切削側(図3において下側)に向かって両者の間隔が漸次広がる傾斜(具体的には切削インサート1のA面2又はB面3の前記内角αと同じ角度で広がる傾斜)を有するものである。
【0024】
したがって、インサート取付部10に切削インサート1を装着して中心の貫通孔5にスクリュー13を挿通し、そしてそのスクリュー13を当接壁11の雌ネジ孔(図示せず)に締め付ければ、2つの拘束壁12a,12bに、奇数斜面4a,4c,4eの対応する2面又は偶数斜面4b,4d,4fの対応する2面が確実に係合してしっかりと固定される。
【0025】
上記のように構成される正面フライスカッター9を図3図5において矢示R方向に高速回転させると、切削インサート1のコーナー刃(例えばコーナー部分7a)と主切刃(稜線6a)でワークが切削される。
そしてもし、切削インサート1の切れ味が低下したり欠損等の切れ刃の損傷が発生した場合は、該当する切削インサート1の向きを120゜回転又は裏返して適宜付け替えることで使用済みのコーナー部分7aを未使用の5つのコーナー部分7b〜7fの何れかに変更することができる。
【0026】
本発明の切削インサート1は、図示を省略するが円柱状の工具本体の先端に設けられた上記と同様のインサート取付部に装着してボーリング加工用切削具として使用することもできる。
また、本発明の切削インサート1は、図示を省略するが角柱状の工具本体(例えばバイトホルダー)の先端に設けられた上記と同様のインサート取付部に装着して旋削加工用切削工具(例えばバイト)として使用することもできる。
【0027】
[実施形態2]
実施形態2の切削インサート1は、図6図11に示したように実施形態1の切削インサート1の前記第1斜面4a〜第6斜面4fのそれぞれに主切刃(稜線6a,6b)に沿って凹溝14,14…を形成したものである。
【0028】
図6図9に示した凹溝14は、断面が弧状で、長さ方向の一辺が主切刃(稜線6a,6b)に一致し、他辺がそれと平行な直溝であり、その長さが前切刃(稜線6c)から少なくとも主切刃(稜線6a,6b)の長さの1/2以上(図6では主切刃の長さにほぼ等しい)であり且つ溝幅が側面4の幅の1/2以下である。
【0029】
また、図10図11に示した凹溝14は、主切刃(稜線6a,6b)の反対側の一辺が、前切刃(稜線6c)側を下部とし鈍角頂点A0側を上部としたとき、下部から上部に向けて溝幅が漸次狭まるように主切刃(稜線6a,6b)に対して、0゜以上20゜以下の角度θの傾きを設けたものである。したがって、この場合の凹溝14は、図10図11に示したように略三角形状であり、その三角傾斜に沿って切り屑の排出経路が細い幅に絞られる。
【0030】
なお、実施形態2の凹溝14は、本インサートが鈍角頂点A0、B0を有する形状であるため、研削によって容易且つ十分に加工し得る。また、側面4は研削によって形成されるため、加工精度が高く、拘束が安定する。
【0031】
これら実施形態2の切削インサート1を工具本体8に装着して切削する方法は上記実施形態1と同じであるが、本形態2の切削インサート1では切削時の切り屑が凹溝14により適度な長さに分断され易く、その切り屑が工具本体8の拘束壁12aと12bの間であるフルート(図示なし)を通って容易に排出される。
【0032】
また、凹溝14は、断面弧状の他、V字形、台形等にすることもできるが、それらは深さ方向に幅狭になる傾斜を有しており、その傾斜が工具本体8に装着した状態でのコーナー刃のラジアルレーキ角に反映される(図9参照)。したがって、凹溝14の深さ方向の傾斜が異なる複数種類の切削インサート1を用意し、それらを一つの工具本体8に対して付け替えるだけで、状況に応じた適切なラジアルレーキ角(ポジティブ設定を含む。)に設定することができる。
【0033】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、上記においてA面2、B面3の区別は、言うまでもなく説明上の便宜に基づくものであり、それ以外の如何なる意味も有しない。
また、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば実施形態では切削インサート1に貫通孔5を設けてその貫通孔5に通したスクリュー13でインサート取付部10に取着するようにしたが、スクリュー13を使用することなく、レバーロック等の公知の押し付け機構で切削インサート1をインサート取付部10に取着するようにしてもよい。
また、実施形態では切削インサート1の材料としてセラミック材料を例示したが、それ以外にも超硬合金、コーテッド超硬、サーメット等の材料で形成してもよい。もっともセラミック材料は、他の材料に比べて焼結肌の性能、加工の容易性、曲げ強度等で劣る弱点があり、一方、本発明の技術はセラミック材料のこれらの弱点を十分にカバーし得るものであり、よって、セラミック材料で本発明の切削インサートを実施した場合に最も大きい利益が得られる。
【実施例1】
【0034】
図3図5の正面フライスカッター9に対して、切削インサート1を、コーナー角x=1゜〜45゜、アキシャルレーキ角yをプラス、ラジアルレーキ角zをマイナスに設定してインサート取付部10に取着する。この実施例のようにアキシャルレーキ角yをポジティブに設定し、ラジアルレーキ角zをネガティブに設定することで、切れ刃部の耐欠損性の低下を抑制しつつ、また、切削抵抗を低く抑えることができることから加工ひずみが低減され、切り終わり箇所のバリやコバ欠けの発生を抑制することができる。
また、切刃がインサート取付部10からオーバーハングしていないため、折損の可能性が低く、さらに未使用切刃に切削時に排出される切り屑が当たって破損に至る、というような危険性を低減できる。
【0035】
実施例の切削インサート1は、セラミック材料で形成されており、A面2、B面3、側面4が研削面の焼結肌になっている。このように切削関与面を研削面とすることにより切削性能が安定する。また、インサート取付部10との接触面、切刃、刃先共に研削面であることより、刃先の繰り返し精度に優れる。
【符号の説明】
【0036】
1 …切削インサート
2 …A面(横逃げ面)
3 …B面(横逃げ面)
4 …側面
4a …第1斜面(すくい面又は前逃げ面)
4b …第2斜面(すくい面又は前逃げ面)
4c …第3斜面(すくい面又は前逃げ面)
4d …第4斜面(すくい面又は前逃げ面)
4e …第5斜面(すくい面又は前逃げ面)
4f …第6斜面(すくい面又は前逃げ面)
6a …稜線(主切刃)
6b …稜線(主切刃)
6c …稜線(前切刃)
7a〜7f …コーナー部分(コーナー刃若しくは副切刃)
8 …工具本体
9 …正面フライスカッター
10 …インサート取付部
14 …凹溝
A1〜A3 …鋭角頂点
B1〜B3 …鋭角頂点
A0 …鈍角頂点
B0 …鈍角頂点
x …コーナー角
y …アキシャルレーキ角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11