(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
無線通信方式には、1対1の対向通信(Peer to Peer方式、Master-Slave方式)、1対Nの放送通信、N対Nのグループ通信等、種々の方式がある。また、用途により陸上移動系、海上移動系、陸上固定系、衛星を使用した中継等に分類される。このうち陸上移動系は、サービスエリアに基地局やアクセスポイントを設置し、これらの基地局又はアクセスポイント間を有線網を介して接続する構成を採ることが一般的である。このような陸上移動系の代表的なものとしては携帯電話網が挙げられる。
【0003】
一方、同一無線チャネルを複数の無線局で共有して通信を行うためのアクセス技術としては、TDMA(Time Division Multiple Access)方式やCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avodiance)方式等がある。TDMA方式は、携帯電話システム等の無線通信に使われる方式の1つで、1つの周波数を短時間ずつ交代で複数の発信者で共有する。この方式は第二世代の携帯電話方式であるPDCやGSM(登録商標)において使用されている。これに対しCSMA/CA方式は、各局が無線チャネルの使用状況を監視して自律的にパケット(フレーム)の送信タイミングを決定するもので、IEEE 802.11を採用した無線LANで使用されている。
【0004】
ところで、海上移動系はサービスエリアに基地局を設置することができない。このため、この種のシステムでは、上記CSMA/CA方式のようなアクセス方式を用いて無線局間でアドホック通信することで、基地局やアクセスポイントに依存することなく通信する方式が採用されている。このようなシステムにおいて、1対Nの放送通信をする場合にはアドホック通信によりマルチキャスト又はブロードキャストを使用すればよいが、N対Nのグループ通信をする場合には、アドホック通信かつマルチキャスト又はブロードキャストだけでは実現できない。
【0005】
1対Nの放送通信及びN対Nのグループ通信のいずれにおいても、アクセス方式としてCSMA/CA方式を用いた場合には、互いの通信の衝突を回避するために待ち時間制御が行われる。待ち時間の制御要因の一つとして伝播遅延時間がある。待ち時間の制御を行う際にはこの伝播遅延時間を加味する必要があり、応答(ACK)の制御を確実に行うには想定する通信距離を最大にした待ち時間を設定する必要がある。しかし、待ち時間を、通信距離を最大に設定した場合に固定するか、或いはN対Nのグループ通信において通信距離を最長距離のものに設定すると、逆に距離が短い場合には通信のリアルタイム性を損ない、スループットも理想値より劣ることとなる。さらに、N対Nのグループ通信を考えた場合、無線チャネルを獲得する機会がCSMA/CA方式のバックオフ時間に依存するため、必ずしも平等に送信機会が得られることにならない。
【0006】
そこで、待ち時間が伝播遅延時間に左右されることなく、N対Nのグループ通信においても平等に送信機会が得られる技術が提案されている。この技術は、複数の送受信局に予め応答順序を設定しておき、上記複数の送受信局の1つがデータを送信すると、当該データの送信元を含め、上記応答順序が上位の送受信局から上記データに対する応答信号を順次送信するようにしたものである(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
このようなシステムであれば、送信元となる局と受信先となる局との間の伝播遅延、及び各受信先からの応答信号の衝突回避を考慮した待ち時間を設定する必要がなく、これにより応答信号の返送を効率良く行うことが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1に記載された方式では、N対Nのグループ通信の通信方式、特にブロードキャストにおける応答性については最適化されるものの、1回に送受信するパケット(フレーム)数を原則として1フレームに限定しているため、データ伝送効率が低く無線伝送帯域を有効利用できなかった。
【0010】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、N対Nのグループ通信において応答信号の返送効率だけでなくデータの伝送効率を高め、これにより無線伝送帯域のさらなる有効利用を図った無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためにこの発明の第1の観点は、通信相手が予め定められた複数のノード間で無線回線を介してN対Nのデータ伝送を行うシステムで上記ノードとして使用される無線通信装置にあって、データ送信時に動作する第1の生成手段及びデータ送信手段と、応答時に動作する分離手段、
応答順位判定手段と及び応答送信手段を備えている。
そして、データの送信時に、上記第1の生成手段により上記複数のノード間におけるデータ
応答順位を表す経路情報を含む経路伝送フレームと、送信対象となるデータを含む複数のデータ伝送フレームをそれぞれ生成し、上記データ送信手段により、上記生成された経路伝送フレームと複数のデータ伝送フレームとを、それぞれのフレームにその境界を表す情報を含むデリミタを付加したのち連結し、この連結処理により生成されたマルチ伝送フレームを通信相手となる他のノードへ向け送信する。
これに対し、他のノードから送信された前記マルチ伝送フレームを受信した場合には、先ず上記分離手段により、当該受信されたマルチ伝送フレームからデリミタを抽出してこの抽出されたデリミタに含まれる境界情報をもとに前記マルチ伝送フレームを複数の伝送フレームに分離
する。そして応答順位判定手段により、上記分離された複数の伝送フレームのうち経路伝送フレームに含まれるデータ応答順位を表す経路情報に基づいて、自ノードに設定された応答順位になったか否かを判定する。この判定の結果、自ノードに設定された応答順位になった場合に、通信相手となる他のノードへ送信すべきデータ伝送フレームの有無を判定する。そして、送信すべきデータ伝送フレームがあると判定された場合に、上記分離された複数の伝送フレームの受信結果を表す応答情報を含む応答伝送フレームを第2の生成手段により生成
し、上記受信された経路伝送フレームと、上記生成された応答伝送フレームと、上記送信すべきデータ伝送フレームとを、それぞれのフレームにその境界を表す情報を含むデリミタを付加したのち連結し、この連結処理により生成された応答用のマルチ伝送フレームを通信相手となる他のノードへ向け送信するようにしたものである。
【0013】
さらにこの発明の
第2の観点は、上記データ送信手段において、通信相手となる全てのノードから応答情報を受信したか否かを判定する。またそれと共に、未送信のデータ伝送フレームが残っているか否かを判定する。そしてこの判定の結果、通信相手となる全てのノードから応答情報を受信し、かつ上記未送信のデータ伝送フレームが残っている場合に、
上記複数のノード間におけるデータ応答順位を表す経路情報を含む経路伝送フレームと、上記未送信のデータ伝送フレームとを、それぞれのフレームにその境界を表す情報を含むデリミタを付加したのち連結し、この連結処理により生成されたマルチ伝送フレームを通信相手となる他のノードへ向け送信するようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明の第1の観点によれば、データ送信時に、経路情報を含む経路伝送フレームに、送信対象となるデータを含む複数のデータ伝送フレームがデリミタを用いて連結されてマルチ伝送フレームとなり送信される。また、マルチ伝送フレームを受信した場合には、当該マルチ伝送フレームがデリミタに含まれる境界情報をもとに複数の伝送フレームに分離され、この分離された経路伝送フレーム
に含まれるデータ応答順位を表す経路情報に従い
、自ノードの応答順位になったときに応答用の伝送フレームが生成されて送信される。このため、送信元のノードと受信先のノードは、経路伝送フレームと複数のデータ伝送フレームを一括して送受信することが可能となり、これにより各伝送フレームを個別に伝送する場合に比べデータ伝送効率を高め、無線帯域の利用効率を向上させることができる。
またデータ受信先のノードにおいて、受信応答時にその応答伝送フレームと共にデータ伝送フレームが送信される。すなわち、応答時の伝送フレームを利用してデータを送信することが可能となる。このため、応答伝送フレームのみを返送する場合に比べデータ伝送効率を高めることができ、これにより無線帯域の利用効率をさらに向上させることができる。
【0016】
さらにこの発明の
第2の観点によれば、送信元のノードにおいて、未送信のデータが残っている場合、受信先の全てのノードへのデータ送信が終了すると、引き続き上記未送信のデータが送信される。すなわち、送信対象のデータサイズが大きい場合には、この送信対象のデータが複数回に分けられて自動的に繰り返し伝送される。このため、送信対象のデータサイズが大きい場合でも、例えばオペレータがデータ送信操作を複数回繰り返すことなく効率良く送信することができる。また、1つのマルチ伝送フレームの長さを制限することができ、これにより1つのノードが無線伝送帯域を長時間に渡って占有しないようにすることができる。
【0017】
すなわちこの発明によれば、N対Nのグループ通信において応答信号の返送効率だけでなくデータの伝送効率を高め、これにより無線伝送帯域のさらなる有効利用を図った無線通信装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
(構成)
図1は、この発明の一実施形態に係るN対N無線通信システムの構成の一例を示す図であり、例えば海上のように基地局やアクセスポイントを設置することができない場所にサービスエリアを形成する。
【0020】
各送受信局MS1〜MS3(ノードA〜C)は、何れも通信方式として第1の通信方式(プリアサイン方式と呼び詳細は後述する)と、第2の通信方式(CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance))方式を備える。なお、第1の通信方式を使用する場合も、また第2の通信方式を使用する場合も、各ノードA〜Cは同一の周波数帯域を使用し、さらに同一の変復調方式を使用する。
【0021】
第2の通信方式は、通信相手を通信グループに属するノードに限定しない(通信システムに加入している全てのノードが通信対象となり得る)方式であり、周辺に存在する他のノードが送信していないことを確認したのちに送信を開始する方式である。
【0022】
これに対し第1の通信方式は、通信相手を通信グループに属するノードに限定する(通信システムに加入しているノードのうち、2つ以上のノードで構成された通信グループ内で通信を行う)方式であり、ノードが第2の通信方式により通信グループ内の他のノードが送信していないことを確認してデータ送信を行い、このデータ送信後に通信グループ内の全てのノードが予め自己に対し割り当てられた応答順番に従い応答信号(ACK/NACK信号)を返送する。この第1の通信方式を用いると、各ノードはデータ信号又は応答信号を受信すると予め自己に対し設定された順番で応答信号を送信するので、送信元のノードと受信先となる複数のノードとの間の伝播遅延や、各受信先ノードからの応答信号の衝突回避を考慮した待ち時間を設定する必要がなくなり、これにより応答信号を効率良く送信することが可能となる。
【0023】
ところで、上記各送受信局MS1〜MS3(ノードA〜C)は次のように構成される。
図2はその機能構成を示すブロック図である。
すなわち、送受信局MS1〜MS3は、アンテナ2を備えた無線IP通信装置1と、ルータ3とを備え、このルータ3に1つ又は複数のデータ端末(図示せず)が接続される。データ端末としてはパーソナル・コンピュータやタブレット型端末、スマートホン等が用いられる。なお、ルータ3は有線ルータ及び無線ルータのいずれでもよい。
【0024】
無線IP通信装置1は、IP層処理部11と、MAC(Media Access Control)層処理部12と、物理層処理部13と、送信部14と、受信部15を備えている。
IP層処理部11は、ノード管理テーブルと、通信グループ送信ルーティング機能と、受信ルーティング機能を有する。ノード管理テーブルには、通信グループを構成するノードのそれぞれについてMACアドレスとIPアドレスとを関連付けた情報と、経路情報がそれぞれ記憶される。経路情報には、無線空間上で伝送経路を構築するために必要なルーティング情報と、自ノードの応答順位に関する情報が含まれる。
【0025】
送信ルーティング機能は、図示しないデータ端末から送信されたデータパケットがルータ3を介して入力された場合に、当該データパケットの宛先を示すIPアドレスをもとにデータパケットの転送先が当該ノードに収容された他のデータ端末であるか、或いは他のノードに収容されたデータ端末であるかを判断する。そして、転送先が当該ノードに収容された他のデータ端末であれば上記データパケットをルータ3へ返送し、一方他のノードに収容されたデータ端末であれば上記データパケットをその送信要求と共にMAC層処理部12へ転送する。受信ルーティング機能は、MAC層処理部12から渡された受信データパケットのルーティング情報を見て当該データパケットを受信するか破棄するかを判断し、受信する場合にはルータ3へ転送する。
【0026】
MAC層処理部12は、自律分散制御により無線チャネルを獲得するチャネル獲得制御機能と、MACフレーム送信処理機能と、MACフレーム受信応答処理機能を有している。MACフレーム送信処理機能は、上記IP層処理部11から転送されたデータパケットをもとに送信MACフレームを生成し、この生成されたMACフレームを上記獲得した無線チャネルのタイミングに同期して物理層処理部13へ渡す。MACフレーム受信応答処理機能は、物理層処理部13から渡された受信MACフレームについて宛先やフレームエラーをチェックすると共に、自ノードの応答順位であるか否かを確認する。そして、宛先が自ノードで、かつ自ノードの応答順位の場合には、上記受信MACフレームに対する応答フレームを生成して物理層処理部13へ返信すると共に、上記受信MACフレームからデータパケットを再生してIP層処理部11へ渡す。なお、このMAC層処理部12の構成については後に詳しく説明する。
【0027】
物理層処理部13は、上記MAC層処理部12から渡された送信MACフレーム及び応答フレームを所定の変調方式を用いて送信ベースバンド信号に変換して送信部14へ出力する機能と、受信部15から出力された受信ベースバンド信号を復調して受信MACフレームを再生し上記MAC層処理部12へ出力する機能を有する。
【0028】
送信部14は、上記物理層処理部13から出力された送信ベースバンド信号を所定の無線周波信号に変換してアンテナ2から送信する。受信部15は、アンテナ2により受信された無線周波信号を受信ベースバンド信号に周波数変換して上記物理層処理部13へ出力する。
【0029】
図3は上記MAC層処理部12の構成を示すブロック図である。
MAC層処理部12は、受信処理部21と、受信フレーム解析部22と、通信制御部23と、データ要求確認部24と、MACフレーム生成部25と、経路情報制御部26と、記憶部27と、フレーム連結部28と、送信処理部29を有している。
【0030】
経路情報制御部26は、上記IP層処理部11から経路情報を取得して記憶部27に保持する。経路情報には、ルーティング情報に加え、自ノードの応答順位に関する情報も含まれる。経路情報制御部26は、IP層処理部11に保存されている経路情報が更新された場合にも最新の経路情報を再取得し、上記記憶部27に保持されている情報を更新する。また経路情報制御部26は、データ送信時に、上記記憶部27に保持されている経路情報を含むMACフレームを生成する。
【0031】
データ要求確認部24は、IP層処理部11からのデータパケット及びその送信要求の到来を監視し、送信要求が送られると通信制御部23にこの要求を通知すると共に、データパケットをMACフレーム生成部25へ転送する。
【0032】
通信制御部23は、データ要求確認部24からデータ送信要求の通知を受けると、MACフレーム生成部25に対してMACフレームの生成を指示する。また通信制御部23は、データ送信要求をトリガにして自律分散制御による無線チャネルの獲得を行う。無線チャネルが獲得できると、フレーム連結部28及び送信処理部29に対して送信動作の実行を指示する。
【0033】
MACフレーム生成部25は、上記通信制御部23からの生成指示を受けて、上記IP層処理部11から転送されたデータパケットをもとにMACフレームを生成する。データパケットが複数の場合には、データパケットごとにMACフレームを生成する。1つのMACフレームは可変長であるが、フレーム長の最大値が1531バイトに設定される。
【0034】
フレーム連結部28は、上記通信制御部23からの送信実行指示を受けると、上記経路情報制御部26により生成された経路情報のMACフレームと、上記MACフレーム生成部25により生成されたデータパケットのMACフレームとを、それぞれのMACフレームにデリミタを付加したのち連結し、マルチMACフレームを生成する。
【0035】
図4は、生成されたマルチMACフレームの構成の一例を示すものである。この例では、1フレーム目に経路情報を含むMACフレームが配置され、2フレーム以降にユーザデータを含むMACフレームが配置された場合を示している。連結するMACフレームの最大値は64フレームに設定される。この値はCSMA/CA方式の最大フレーム数に合わせている。各MACフレームは、いずれもMACヘッダに続いてペイロード及びFCS(Frame Check Sequence)符号を配置し、先頭にデリミタを付加したものからなる。1つのMACフレームは可変長であるが、最大長は1531バイトに設定される。デリミタには、当該MACフレームの境界を表す情報が挿入される。具体的には、
図6に示すようにMACフレーム長とそのCRC(Cyclic Redundancy Check)符号が挿入される。
【0036】
送信処理部29は、上記通信制御部23から指示された無線チャネルの送信期間に、上記フレーム連結部28により生成されたマルチMACフレームを物理層処理部13へ出力する。
【0037】
受信処理部21は、物理層処理部13から転送された受信マルチMACフレームを受け取り、受信フレーム解析部22に転送する。受信フレーム解析部22は、上記転送された受信マルチMACフレームからデリミタを抽出し、この抽出されたデリミタに含まれるMACフレーム長に従い、上記受信マルチMACフレームを複数のMACフレームに分離する。そして、この分離されたMACフレームごとにそのMACアドレスをもとに当該MACフレームが自ノード宛か否かを判定し、自ノード宛であれば当該MACフレームのペイロードから経路情報やユーザデータを抽出し、IP層処理部11へ転送する。また同時に、上記分離されたMACフレームのうち1フレーム目のMACフレームに含まれる経路情報を解析して自ノードの応答順位か否かを判定し、自ノードの応答順位だった場合には通信制御部23にその旨を通知する。
【0038】
通信制御部23は、上記受信フレーム解析部22から自ノードの応答順位である旨の通知を受けると、MACフレーム生成部25に応答情報を含むMACフレームの生成を指示し、かつフレーム連結部28にフレームの連結指示を与える。上記指示を受けてMACフレーム生成部25は応答情報を含むMACフレームを生成する。
【0039】
フレーム連結部28は、経路情報を含むMACフレームと、上記生成された応答情報を含むMACフレームとを、それぞれのMACフレームにデリミタを付加したのち連結して、応答用のマルチMACフレームを生成する。
【0040】
また、上記応答時において通信制御部23は、自ノードが送信しようとしているユーザデータが存在するか否かをデータ要求確認部24からの通知をもとに判定し、送信対象データが存在する場合にはMACフレーム生成部25に対し指示を与えて、当該送信対象データを含むMACフレームを生成させる。フレーム連結部28は、上記経路情報を含むMACフレーム及び上記応答情報を含むMACフレームに、上記送信対象データのMACフレームをさらに連結し、応答用のマルチMACフレームを生成する。なお、この場合も各MACフレームには同様にデリミタが付加される。
【0041】
図5は、この応答用のマルチMACフレームの一例を示すもので、連結するMACフレームの最大値は、経路情報を含むMACフレーム及び応答情報ACKを含むMACフレームを含めて64フレームに設定される。なお、この応答用のマルチMACフレームに使用されるMACフレームの構成は先に
図4で説明したものと同じである。
【0042】
さらに通信制御部23は、受信フレーム解析部22による受信MACフレームの解析結果から、自ノードが送信したユーザデータを同じ通信グループを構成する他のノードが受信完了したか否かを判定する。そして、受信完了した場合には、データ要求確認部24からの通知をもとに未送信のユーザデータの有無を判定し、未送信データがある場合には引き続き当該未送信データの送信制御を実行する。
【0043】
(動作)
次に、以上のように構成された送受信局MS1〜MS3(ノードA〜C)の動作を説明する。
ここでは、
図1に示すようにノードA〜Cが通信グループを構成し、これらのノードA〜C間でN対Nのグループ通信を行う場合を例にとって説明を行う。グループ通信を行うために各ノードA〜Cの無線IP通信装置1には、経路情報が予め登録されている。経路情報には、無線空間上で伝送経路を構築するために必要なルーティング情報と、自ノードの応答順位に関する情報が含まれる。なお、経路情報はノードの位置や優先度に応じて適宜更新される。
【0044】
(1)送信対象となるデータパケットが1個の場合の基本シーケンス
図7は、送信対象となるデータパケットが1個の場合、つまりマルチMACフレームを使用しないときの基本的な送受信シーケンスを示す図である。なお、同図では伝播遅延速度がシンボル速度と同程度の場合を示している。
【0045】
送受信局(ノードA〜C)MS1〜MS3には、応答を要求された場合の返答順序を表す応答順位が決められている。例えば
図7では、ノードA〜Cに対し応答順位がノードB、ノードA、ノードCの順に高く設定されている。なお、同一の通信グループ内では異なるノードに同じ応答順位が設定されることはない。
【0046】
図7において、データ送信元となるノードAが、経路情報を含むMACフレームとユーザデータパケット(音声や画像などの情報を表すデータパケット)を含む1個のMACフレーム(経路情報+データ)を送信したとすると、この経路情報+データは同一の通信グループに属する他のノードB,Cにおいてそれぞれ受信される。上記経路情報+データを受信すると各ノードB,Cは応答処理を実行するが、ノードBの応答順位が第1位(1) に設定されているため、先ずノードBが経路情報を含むMACフレームと応答情報ACKを含むMACフレーム(経路情報+ACK)を返送する。
【0047】
このノードBから返送された経路情報+ACKをノードA,Cが受信すると、上記ノードBよりも下位の応答順位を持つノードのうちの最上位(つまり第2位(2) )のノードAが経路情報+ACKを送信する。なお、ノードAは最初に経路情報+データを送信した送信元であるが、応答順位がより下位のノードに対し経路情報+ACKの送信を促しかつ送信元であっても経路を維持するために、経路情報+ACKを送信する。以下同様にノードCも、応答順位が直近上位のノードAからの経路情報+ACKを受信すると、経路情報+ACKを送信する。
【0048】
なお、受信した経路情報+ACKに対する応答順位が自ノードに設定された順位であるか否かは、最初に経路情報+データを送信したノードAの経路情報に含まれる、受信端末の応答順位を関連付けする情報をもとに判断する。具体的には、受信した応答の数を通信制御部23でカウントアップするか、又はACKから送信元の応答順位を示す情報を抽出し、これらの値が自ノードの応答順位と一致するかどうかを判定することにより行う。
【0049】
応答順位が最下位に設定されたノードCが送信した経路情報+ACKをデータ送信元のノードAが受信すると、当該ノードAはデータ送信の完了をノードB,Cに通知するため、経路情報+終了を送信する。なお、経路情報+ACKを送信したノードCが応答順位最下位のノードであるか否かは、受信したACKに含まれる応答順位を調べるか、又は受信したACKの数が通信グループに所属する加入局数(この場合は3)と一致するか否かを判定することにより判断できる。
【0050】
(2)複数の送信対象データ(63フレーム以下)が存在する場合のシーケンス
図8は、送信対象となるデータパケットが2個以上63個以下の場合に、これらのデータパケットをマルチMACフレームを使用して送信する場合の送受信シーケンスを示す図である。なお、
図8においても、先に述べた
図7と同様に、ノードA〜Cに対し応答順位がノードB、ノードA、ノードCの順に高く設定されているものとして説明する。
【0051】
送信元となるノードAは、データ送信を行う際に、送信対象となるデータパケットが複数存在するか否かを確認する。そして、複数存在する場合には、MAC層処理部12のフレーム連結部28において、経路情報制御部26により生成された経路情報のMACフレームと、MACフレーム生成部25により生成されたデータ用の複数のMACフレームとを、それぞれのMACフレームにデリミタを付加したのち連結し、マルチMACフレームを生成して送信する。
【0052】
なお、このとき連結するMACフレームの上限数は、
図4に示したように経路情報のMACフレームを含めて64フレームに設定される。したがって、送信元ノードAは、1回のマルチMACフレームの送信により最大63個のデータ用MACフレームを送信することができる。
【0053】
上記マルチMACフレームを受信すると各ノードB,Cでは、先ず応答順位が第1位(1) に設定されているノードBが以下のように応答処理を行う。
すなわち、MAC層処理部12の通信制御部23により、自ノードBが送信しようとしているユーザデータが存在するか否かを判定する。そして、送信対象データが存在する場合には、MACフレーム生成部25により当該送信対象データを含むMACフレームを生成する。続いてフレーム連結部28により、上記受信された経路情報を含むMACフレームと、応答情報ACKを含むMACフレームと、上記生成された送信対象データのMACフレームとを、それぞれのMACフレームにデリミタを付加したのち連結し、これにより生成された応答用のマルチMACフレーム(経路情報+ACK+複数のデータ)を返送する。
【0054】
図5は、この応答用のマルチMACフレームの一例を示すもので、連結するMACフレームの最大値は、経路情報を含むMACフレーム及び応答情報ACKを含むMACフレームを含めて64フレームに設定される。すなわち、受信先ノードBでありながら、応答用のマルチMACフレームを利用して、最大62個のデータ用MACフレームを送信することができる。
【0055】
上記ノードBから返送された経路情報+ACK+複数のデータをノードA,Cが受信すると、上記ノードBよりも下位の応答順位を持つノードのうちの最上位(つまり第2位(2) )のノードAが経路情報+ACKを送信する。
【0056】
応答順位が第3位(3) に設定されたノードCは、上記送信元ノードAから送信された経路情報+複数のデータを受信し、さらに応答順位が直近上位のノードAから送信された経路情報+ACKを受信すると、上記ノードBと同様に自ノードCが送信すべきデータの有無を判定し、送信すべきデータが存在する場合には、経路情報+ACK+複数のデータからなる応答用のマルチMACフレームを生成して送信する。この応答用のマルチMACフレームはノードA,Bにより受信される。
【0057】
上記ノードCから送信された経路情報+ACK+複数のデータからなる応答用のマルチMACフレームを受信すると、データ送信元のノードAは未送信のデータの有無を判定する。そして、未送信データがなければ、データの送信完了をノードB,Cに通知するため、経路情報+終了を生成し送信する。
【0058】
(3)複数の送信対象データ(64フレーム以上)が存在する場合のシーケンス
図9は、送信対象となるデータパケットが64個以上存在する場合に、これらのデータパケットをマルチMACフレームを使用して送信する場合の送受信シーケンスを示す図である。なお、
図9においても、先に述べた
図7及び
図8と同様に、ノードA〜Cに対し応答順位がノードB、ノードA、ノードCの順に高く設定されているものとして説明を行う。
【0059】
送信元となるノードAは、データ送信を行う際に、送信対象となるデータパケットが複数存在するか否かを確認する。そして、複数存在する場合には、MAC層処理部12のフレーム連結部28において、経路情報制御部26により生成された経路情報のMACフレームと、MACフレーム生成部25により生成されたデータ用の複数のMACフレームとを、それぞれのMACフレームにデリミタを付加したのち連結し、マルチMACフレームを生成して送信する。このとき、連結するMACフレームの上限数は
図4に示したように経路情報のMACフレームを含めて64フレームに設定され、連結できずに残留したデータ用のMACフレームはMACフレーム生成部25に保存される。
【0060】
上記マルチMACフレームを受信すると各ノードB,Cでは、先ず応答順位が第1位(1) に設定されているノードBが、自ノードBが送信しようとしているユーザデータが存在するか否かを判定する。そして、送信対象データが存在する場合には、上記受信された経路情報を含むMACフレームと、応答情報ACKを含むMACフレームと、上記生成された送信対象データのMACフレームとを、それぞれのMACフレームにデリミタを付加したのち連結し、これにより生成された応答用のマルチMACフレーム(経路情報+ACK+複数のデータ)を返送する。
【0061】
図5は、この応答用のマルチMACフレームの一例を示すもので、連結するMACフレームの最大値は、経路情報を含むMACフレーム及び応答情報ACKを含むMACフレームを含めて64フレームに設定される。すなわち、受信先ノードBでありながら、応答用のマルチMACフレームを利用して、最大62個のデータ用MACフレームを送信することができる。
【0062】
上記ノードBから返送された経路情報+ACK+複数のデータをノードA,Cが受信すると、上記ノードBよりも下位の応答順位を持つノードのうちの最上位(つまり第2位(2) )のノードAが経路情報+ACKを送信する。
【0063】
応答順位が第3位(3) に設定されたノードCは、上記送信元ノードAから送信された経路情報+複数のデータを受信し、さらに応答順位が直近上位のノードAから送信された経路情報+ACKを受信すると、上記ノードBと同様に自ノードCが送信すべきデータの有無を判定する。そして、送信すべきデータが存在する場合には、経路情報+ACK+複数のデータからなる応答用のマルチMACフレームを生成して送信する。この応答用のマルチMACフレームはノードA,Bにより受信される。
【0064】
上記ノードCから送信された経路情報+ACK+複数のデータからなる応答用のマルチMACフレームをデータ送信元のノードAが受信すると、当該データ送信元ノードAは以下のようにデータ送信処理を継続する。
すなわち、ノードAは未送信のデータの有無を判定し、未送信データが存在すれば、経路情報制御部26により生成された経路情報のMACフレームと、MACフレーム生成部25に保存されている未送信のデータ用MACフレームとを、それぞれのMACフレームにデリミタを付加したのち連結し、マルチMACフレームを生成して送信する。
【0065】
この場合も、マルチMACフレーム長は最大64フレームに設定されているので、未送信データのMACフレームは最大63個がマルチMACフレームで多重化され、送信される。以後同様に、未送信データがなくなるまで、
図9に示したシーケンスが繰り返し実行される。そして、未送信データがなければ、データの送信完了をノードB,Cに通知するため、経路情報+終了を生成し送信する。
【0066】
また、受信先の各ノードB,Cにおいても、送信データが63パケット以上存在する場合には、62パケットずつに分けて複数の応答用のマルチMACフレームに多重化され送信される。なお、送信元ノードAから経路情報+終了を受信した時点で、受信先の各ノードB,Cに未送信データが残っている場合には、ノードB,Cは自ノードがデータ送信元ノードとなって、先に述べたノードAと同様にデータ送信処理を実行する。
【0067】
(実施形態の作用効果)
以上詳述したようにこの発明の一実施形態では、データの送信時に、経路情報を含むMACフレームと複数のデータ用MACフレームとを、それぞれのMACフレームにその境界を表す情報を含むデリミタを付加したのち連結してマルチMACフレームを生成し、送信する。また、応答時には、受信したマルチMACフレームをデリミタに含まれる境界情報をもとに複数のMACフレームに分離し受信すると共に、この受信された経路情報を含むMACフレームと応答用のMACフレームとを、それぞれのフレームにその境界を表す情報を含むデリミタを付加したのち連結し、この連結処理により生成された応答用のマルチMACフレームを送信するようにしている。
【0068】
したがって、送信元のノードAと受信先のノードB,Cは、複数のデータパケットを1つのマルチMACフレームに多重して一括して送受信することが可能となり、これによりデータパケットを1パケットずつ伝送する場合に比べデータ伝送効率を高め、無線帯域の利用効率を向上させることができる。
【0069】
また、応答時において、送信データが存在する場合には、受信された経路情報を含むMACフレームと応答用のMACフレームに、上記送信データのMACフレームをさらに連結して送信するようにしている。このため、応答時のマルチMACフレームを利用して自ノードのデータパケットを送信することが可能となり、これにより応答フレームのみを返送する場合に比べてデータ伝送効率を高めることができ、これにより無線帯域の利用効率をさらに向上させることができる。
【0070】
さらに、データ送信時において、未送信のデータパケットが残っている場合には、受信先の全てのノードへのデータ送信が終了した後、引き続き上記未送信のデータパケットを送信するシーケンスを実行するようにしている。したがって、送信対象のデータサイズが大きい場合には、この送信対象のデータが複数のマルチMACフレームに分けられて自動的に繰り返し伝送される。このため、送信対象のデータサイズが大きい場合でも、例えばオペレータがデータ送信操作を複数回繰り返すことなく効率良く送信することができる。また、1つのマルチ伝送フレームの長さを制限することができ、これにより1つのノードが無線伝送帯域を長時間に渡って占有しないようにすることができる。
【0071】
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態ではノードを、無線IP通信装置1にルータ3を介してパーソナル・コンピュータ等のデータ端末を接続する構成としたが、無線IP通信装置1を内蔵したパーソナル・コンピュータ等のデータ端末をノードとして用いてもよい。
【0072】
またノードとしては、パーソナル・コンピュータのほか、スマートホンやタブレット型端末等を用いることができ、さらに船舶内に設置された航法用コンピュータや観測用コンピュータ等をノードとして用いてもよい。その他、無線通信装置の構成、マルチMACフレームの構成と当該マルチMACフレームへのデータパケットの多重数、デリミタの構成と付加位置等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。
【0073】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。