(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外側シートは、前記内側シートと前記中間シートとを結ぶ延長線よりも低い位置にあり、前記バネ部材は、前記第1ディスクの前記中間シートよりも径方向外側を押圧することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の緩衝器。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態の緩衝器を
図1〜
図4を参照して以下に説明する。
【0010】
図1に示すように、第1実施形態の緩衝器は、液体あるいは気体等の作動流体が封入されるシリンダ11を有している。このシリンダ11は、図示は略すが一端側(
図1の上側)が開口し他端側(
図1の下側)が閉塞する有底筒状をなしている。シリンダ11内には、ピストン12が摺動可能に嵌装されている。
【0011】
シリンダ11には、一端側(
図1の上側)がシリンダ11の外部へと延出されるピストンロッド13の他端側が挿入されており、ピストン12は、このピストンロッド13の他端部にナット14によって連結されている。なお、ピストンロッド13の一端側は、図示は略すが、シリンダ11の一端開口部に装着されたロッドガイドおよびオイルシールに挿通されて外部へと延出されている。ピストン12は、シリンダ11の内部を、ピストンロッド13が延出する側(
図1の上側)のロッド室18と、シリンダ11の図示略の底部側(
図1の下側)のボトム室19との2室に画成している。
【0012】
ピストンロッド13は、主軸部25と、シリンダ11内側の端部にあって主軸部25より小径の取付軸部26とを有しており、これにより、主軸部25には取付軸部26側の端部に軸直交方向に沿う段差部27が形成されている。取付軸部26には、主軸部25とは反対側の所定範囲に上記したナット14を螺合させるオネジ28が形成されている。
【0013】
ピストン12は、略円板状のピストン本体(バルブ本体)31と、ピストン本体31の外周面に装着されて、シリンダ11内を摺接する円環状の摺接部材32と、ピストン本体31のボトム室19側に配置されるリテーナ(バルブ本体)33とを有している。なお、ピストン本体31およびリテーナ33は焼結により成形される。
【0014】
ピストン本体31には、径方向の中央にピストンロッド13が挿通される挿通孔35が軸方向に貫通するように形成されており、この挿通孔35のボトム室19側の開口部には、軸方向および径方向に凹む位置決め凹部36が周方向に部分的に形成されている。また、ピストン本体31には、そのロッド室18側の端部に、径方向の挿通孔35の外側にて軸方向に突出する環状の内側シート40と、径方向の内側シート40よりも外側にて軸方向に突出する環状の外側シート41とが形成されている。内側シート40および外側シート41のロッド室18側への突出高さは、内側シート40の突出高さよりも外側シート41の突出高さの方が若干高くなっている。つまり、内側シート40の先端のシート面40aの突出方向の高さよりも外側シート41の先端のシート面41aの高さの方が高くなっている。
【0015】
ピストン本体31には、ロッド室18側に内側シート40と外側シート41との間に開口して軸方向に貫通する通路穴43が、周方向に間隔をあけて複数カ所(
図1では断面とした関係上1カ所のみ図示)形成されている。また、ピストン本体31には、ロッド室18側に外側シート41よりも外側に開口して軸方向に貫通する通路穴44が、周方向に間隔をあけて複数カ所(
図1では断面とした関係上1カ所のみ図示)形成されている。通路穴43と通路穴44とはピストン本体31の周方向に交互に配置されている。
【0016】
リテーナ33には、径方向の中央にピストンロッド13が挿通される挿通孔51が軸方向に貫通するように形成されており、この挿通孔51のピストン本体31側の開口部の径方向外側には、軸方向に突出する位置決め凸部52が周方向に部分的に形成されている。また、リテーナ33には、ピストン本体31側に、挿通孔51と外周部との間から外周部に抜けるようにして軸方向に凹む通路切欠部53が周方向に間隔をあけて複数カ所(
図1では断面とした関係上1カ所のみ図示)形成されている。また、リテーナ33には、ピストン本体31側に、挿通孔51と外周部との間で軸方向に凹む通路凹部54が周方向に間隔をあけて複数カ所(
図1では断面とした関係上1カ所のみ図示)形成されている。通路切欠部53と通路凹部54とはピストン本体31の周方向に交互に配置されている。
【0017】
リテーナ33には、ピストン本体31とは反対側に、径方向の挿通孔51の外側にて軸方向に突出する環状の内側シート57と、径方向の内側シート57よりも外側にて軸方向に突出する環状の中間シート58と、径方向の中間シート58よりも外側にて軸方向に突出する環状の外側シート59とが形成されている。内側シート57、中間シート58および外側シート59の軸方向のボトム室19側への突出高さは、内側シート57の突出高さよりも中間シート58の突出高さの方が高く、外側シート59の突出高さは中間シート58の突出高さに対し同等以上となっている。ここで、外側シート59の突出高さが中間シート58の突出高さより高い場合でも、内側シート57の突出先端部と中間シート58の突出先端部との高低差を半径差で除算した勾配が、中間シート58の突出先端部と外側シート59の突出先端部との高低差を半径差で除算した勾配よりも大きくなっている。
【0018】
言い換えれば、内側シート57の先端のシート面57aの突出方向の高さよりも、中間シート58のシート面58aの高さの方が高く、外側シート59の先端のシート面59aの突出方向の高さは中間シート58のシート面58aの高さと同等以上になっている。また、中間シート58のシート面58aと内側シート57のシート面57aとの高さの差が中間シート58のシート面58aと外側シート59のシート面59aとの高さの差(0の場合もある)よりも大きくなっている。
【0019】
リテーナ33には、一端が通路凹部54に開口し、他端が内側シート57と中間シート58との間に開口して軸方向に貫通する通路穴61が、すべての通路凹部54の底面の位置に形成されている。
【0020】
リテーナ33は、ピストン本体31に対し径方向位置を合わせて、位置決め凸部52を位置決め凹部36に嵌合させると、通路切欠部53が周方向の位置を通路穴43に一致させることになり、通路凹部54が周方向の位置を通路穴44に一致させることになる。これにより、通路切欠部53と通路穴43とが連通し、通路凹部54と通路穴44とが連通する。通路切欠部53と通路穴43とは内側シート40と外側シート41との間の室62とともに、ロッド室18とボトム室19とを連通可能な通路63を構成する。通路凹部54と通路穴44と通路穴61とは、内側シート57と中間シート58との間の室65とともに、ロッド室18とボトム室19とを連通可能な通路66を構成する。
【0021】
ピストン12のピストン本体31の軸方向のロッド室18側には、ピストン本体31側から順に、スペーサ70、ディスク71、スペーサ72、規制部材73が設けられている。また、ピストン12のピストン本体31の軸方向のボトム室19側には、ピストン本体31側から順に、第1ディスク75、バネ部材76、第2ディスク77、スペーサ78、規制部材79が設けられている。
【0022】
スペーサ70の径方向の中央には挿通孔90が、ディスク71の径方向の中央には挿通孔91が、スペーサ72の径方向の中央には挿通孔92が、規制部材73の径方向の中央には挿通孔93が、それぞれ軸方向に貫通して形成されている。また、第1ディスク75の径方向の中央には挿通孔95が、バネ部材76の径方向の中央には挿通孔96が、第2ディスク77の径方向の中央には挿通孔97が、スペーサ78の径方向の中央には挿通孔98が、規制部材79の径方向の中央には挿通孔99が、それぞれ設けられている。
【0023】
そして、ピストンロッド13の取付軸部26が、規制部材73の挿通孔93、スペーサ72の挿通孔92、ディスク71の挿通孔91、スペーサ70の挿通孔90、ピストン本体31の挿通孔35、リテーナ33の挿通孔51、第1ディスク75の挿通孔95、バネ部材76の挿通孔96、第2ディスク77の挿通孔97、スペーサ78の挿通孔98、規制部材79の挿通孔99に、この順に挿通されて、この状態で取付軸部26にナット14が螺合される。すると、これら規制部材73、スペーサ72、ディスク71、スペーサ70、ピストン本体31、リテーナ33、第1ディスク75、バネ部材76、第2ディスク77、スペーサ78および規制部材79は、いずれも取付軸部26で径方向移動が規制されて積層されることになり、この積層状態でピストンロッド13の段差部27とナット14とにそれぞれの内周側が挟持され、それぞれの内周側がピストンロッド13に対し軸方向移動不可にクランプされる。
【0024】
スペーサ70は、その外径が内側シート40のシート面40aの外径よりも若干大径となっている。ディスク71は、複数枚(具体的には四枚)の同形状の単体ディスク100が積層されて構成されており、その外径が外側シート41のシート面41aの外径よりも若干大径となっている。ピストンロッド13への組み付け前の自然状態において、単体ディスク100は、表裏面それぞれが軸方向の一定位置に位置する平坦な形状をなしており、よってディスク71も同様に平坦な形状をなしている。スペーサ72は、その外径が内側シート40のシート面40aの外径よりも若干小径となっている。規制部材73は、その外径が外側シート41のシート面41aの内径よりも若干小径となっている。
【0025】
ディスク71は、
図1に示すように、ピストンロッド13に組み付けられ且つロッド室18およびボトム室19に圧力差がない非作動状態にあるとき、ピストン本体31の外側シート41のシート面41aに着座してピストン本体31およびリテーナ33に設けられた通路63を閉じている。そして、ピストンロッド13がシリンダ11への進入量を増やす縮み側に移動したときに、ピストンロッド13とともに移動するピストン12によってボトム室19の圧力がロッド室18の圧力よりも高められると、ディスク71は、外側シート41から離座して通路63を開く。これにより、ボトム室19からロッド室18に、通路63を介してディスク71と外側シート41との開弁量に応じた流量で作動流体が流れる。つまり、通路63には、ピストンロッド13が縮み側に移動しこれと一体にピストン12がシリンダ11内を摺動すると、この摺動により作動流体がボトム室19からロッド室18に向け流れることになる。
【0026】
上記通路63がその内部を貫通するピストン本体31およびリテーナ33と、ピストン本体31に通路63の開口部を囲むように突出される環状の外側シート41と、ピストン本体31のディスク71を一体に保持する内側シート40と、通路63のロッド室18側を開閉するディスク71とが、通路63の一部に設けられて作動流体の流れを制御して減衰力を発生する縮み側の減衰力発生機構101を構成している。
【0027】
第1ディスク75は、複数枚(具体的には二枚)の同形状の単体ディスク104が積層されて構成されており、その外径が、外側シート59の着座するシート面59aの外径よりも大径となっている。ピストンロッド13への組み付け前の自然状態において、単体ディスク104は、表裏面それぞれが軸方向の一定位置に位置する平坦な形状をなしており、よって、第1ディスク75も同様に平坦な形状をなしている。第1ディスク75の最もリテーナ33側の単体ディスク104の外周部には、軸方向に貫通し外周縁部に抜ける形状のディスク切欠部105が形成されている。また、この最もリテーナ33側の単体ディスク104には、外周部の外周縁部よりも内側にディスク通路穴106が形成されている。
【0028】
バネ部材76は、ピストンロッド13への組み付け前の自然状態にあるとき、
図2に示す形状をなしている。バネ部材76は、板状をなしており、中央に挿通孔96が形成された円板状の基板部110と、基板部110の周方向の等間隔位置から径方向外方に延出する複数(具体的には六箇所)の同形状のバネ板部111とを有している。複数のバネ板部111は、基板部110側の基端板部112と基板部110とは反対側の先端板部(当接部)113とからなっている。
【0029】
基板部110は、自然状態にあるとき、表裏面それぞれが軸方向の一定位置に位置する平坦な形状をなしている。バネ板部111の基端板部112は、自然状態にあるとき、表裏面それぞれが基板部110と同一平面に配置される平坦な形状をなしている。バネ板部111の先端板部113は、自然状態にあるとき、径方向外側(先端側)ほど基板部110の軸方向における位置を基板部110から離間させるように基板部110および基端板部112に対し傾斜している。よって、バネ部材76には、バネ板部111が周方向に部分的に設けられており、よってバネ板部111の先端板部113も周方向に部分的に設けられている。なお、バネ部材76は、
図3に示すように、バネ板部111の軸方向に突出する先端板部113が第1ディスク75に当接する向きで第1ディスク75に積層されてピストンロッド13に組み付けられる。
【0030】
図1に示すように、第2ディスク77は、複数枚(具体的には三枚)の同形状の単体ディスク114が積層されて構成されており、その外径が、第1ディスク75が着座する中間シート58のシート面58aの外径よりも大径となっている。ピストンロッド13への組み付け前の自然状態において、単体ディスク114は、表裏面それぞれが軸方向の一定位置に位置する平坦な形状をなしており、よって、第2ディスク77も同様に平坦な形状をなしている。
【0031】
スペーサ78は、その外径が内側シート57のシート面57aの外径と略同径の円環状をなしている。規制部材79は、その外径が中間シート58のシート面58aの内径と略同径の円環状をなしている。
【0032】
第1ディスク75は、
図1に示すように、ピストンロッド13に組み付けられ且つロッド室18およびボトム室19に圧力差がない非作動状態にあるとき、
図3にも示すようにリテーナ33の内側シート57のシート面57aに密着し、中間シート58のシート面58aに当接することになる。上記したように、内側シート57の突出高さよりも中間シート58の突出高さの方が高いため、第1ディスク75は、径方向の外側ほど軸方向のピストン本体31とは反対側に位置するようにテーパ状に弾性変形する。
【0033】
なお、内側シート57の突出先端部および中間シート58の突出先端部を結んだ線(より詳しくはシート面57aの外周部とシート面58aの内周部とを結んだ線)の勾配が、中間シート58の突出先端部および外側シート59の突出先端部を結んだ線の勾配(0の場合もあり)よりも大きいことから、第1ディスク75は、バネ部材76がなければ、内側シート57および中間シート58を結んだ方向に延出し、
図3に二点鎖線で示すように外側シート59から離間した状態となる。
【0034】
これに対し、
図3に実線で示すように、バネ部材76の周方向に部分的に設けられたバネ板部111の先端板部113がその先端部において第1ディスク75の中間シート58への当接位置よりも径方向外側に当接して第1ディスク75を軸方向のピストン本体31側に押圧しており、この状態で第1ディスク75の外径が外側シート59のシート面59aの外径よりも若干大径となっている結果、第1ディスク75が外側シート59のシート面59aに当接する。つまり、第1ディスク75は、内側シート57および中間シート58に当接した状態ではバネ部材76で押圧されて始めて外側シート59に当接する。
【0035】
なお、この状態で、バネ部材76は、バネ板部111の先端板部113の外径が外側シート59のシート面59aと同径となっている。また、このとき、バネ部材76は、第1ディスク75に積層されるとともに径方向の一部に第1ディスク75から離間する離間部115を有している。具体的に、離間部115は、先端板部113と基端板部112との屈曲位置となっている。非作動状態にあるとき、バネ部材76の基板部110は、第1ディスク75の中間シート58よりも径方向内側部分に倣って径方向外側ほど軸方向のピストン本体31とは反対側に位置するようにテーパ状に弾性変形している。また、このとき、バネ部材76のバネ板部111の先端板部113は、径方向外側ほど軸方向の第1ディスク75側に位置するように傾斜している。
【0036】
第2ディスク77は、非作動状態では、バネ部材76の基板部110に当接しており、バネ部材76の基板部110が当接する第1ディスク75の中間シート58よりも径方向内側部分に倣って径方向外側ほど軸方向のピストン本体31とは反対側に位置するように弾性変形している。第2ディスク77は、バネ部材76を介して第1ディスク75を中間シート58に向けて押圧する。この状態でも、第2ディスク77は、その外径がリテーナ33の中間シート58のシート面58aの外径よりも若干大径で外側シート59のシート面59aの内径よりも小径となっている。なお、第2ディスク77は、第1ディスク75を中間シート58に向けて押圧することができれば良く、その外径がリテーナ33の中間シート58のシート面58aの外径以下であっても良い。
【0037】
非作動状態にあるとき、第1ディスク75の外側シート59に当接する単体ディスク104に形成されたディスク通路穴106は、中間シート58との当接位置を径方向内側から径方向外側に越えて形成されている。つまり、このディスク通路穴106は、第1ディスク75が中間シート58に当接した状態にあるとき、中間シート58および外側シート59の間の室120と通路66の室65とを連通させる連通路(連通手段)121を構成している。言い換えれば、ディスク通路穴106によって室120と通路66とが常時連通している。なお、ディスク通路穴106を設けずに、
図3に二点鎖線で示すように、リテーナ33に通路凹部54から室120に連通する通路穴122を設けて、室120と通路66とを連通させる連通路を形成しても良い。
【0038】
また、非作動状態にあるとき、第1ディスク75の外側シート59に当接する単体ディスク104に形成されたディスク切欠部105は、外側シート59との当接位置を径方向内側から径方向外側に越えており、よって、中間シート58および外側シート59の間の室120を常にボトム室19に連通させている。つまり、このディスク切欠部105は、第1ディスク75が外側シート59に当接した状態にあるとき、通路66つまりロッド室18を連通路121を介してボトム室19に連通させる固定オリフィス125を構成している。
【0039】
ここで、第1ディスク75が中間シート58および外側シート59の両方に当接した状態において、ディスク切欠部105で形成される固定オリフィス125の流路面積よりも、ディスク通路穴106で形成される連通路121の流路面積の方が大きくなっている。なお、ディスク切欠部105を設けず、外側シート59にシート面59aを含んで切り欠くシート切欠部を形成して、固定オリフィスを形成しても良い。
【0040】
図1に示す非作動状態にあるとき、第1ディスク75は、ピストン本体31の中間シート58と外側シート59とに当接して通路66を閉じている。なお、この状態でも、通路66、連通路121および固定オリフィス125を介してロッド室18とボトム室19とが連通している。そして、非作動状態から、ピストンロッド13がシリンダ11からの突出量を増やす伸び側に移動すると、ピストンロッド13とともに移動するピストン12によってロッド室18の圧力がボトム室19側の圧力よりも高められる。
【0041】
このとき、
図4に示すように、ピストン12の移動速度であるピストン速度が遅い所定範囲0〜v1にあると、第1ディスク75は、その弾性力で中間シート58に当接するとともにバネ部材76の付勢力で外側シート59に当接した状態が維持され、通路66、連通路121および固定オリフィス125を介して固定オリフィス125の一定の流路面積でロッド室18から作動流体がボトム室19側へ流れる。これにより、オリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の
図4に示す0〜f1の減衰力を発生させることになる。
【0042】
また、ピストン速度が中間の所定範囲v1〜v2にあると、第1ディスク75は、第2ディスク77の付勢力により中間シート58への当接状態を維持したまま、バネ部材76の付勢力に抗して中間シート58のシート面58aの外周部を起点として変形して外周側が外側シート59から離れる。すると、通路66および連通路121を介して、固定オリフィス125よりも広く第1ディスク75と外側シート59との開弁量に応じて広くなる流路面積でロッド室18から作動流体がボトム室19側へ流れる。これにより、ピストン速度が中速の状態で、外側シート59と第1ディスク75との開弁量に応じた第1段目のバルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の
図4に示すf1〜f2の減衰力を発生させることになる。
【0043】
なお、バネ部材76の力を、第1ディスク75が真っ直ぐに復元しようとする力より少し大きな力に設定すれば、第1段目のバルブ特性の最小減衰力f1を0近くとすることができ、これに対して、バネ部材76の力を強くすれば、それに応じて最小減衰力f1を大きくすることができる。また、中間シート58を跨ぐ連通路121の面積を変えることで第1段目のバルブ特性の傾きを変えることができる。
【0044】
さらに、ピストン速度が速い所定範囲v2以上にあると、第1ディスク75は、バネ部材76および第2ディスク77の付勢力に抗して内側シート57のシート面57aの外周部を起点として変形して中間シート58からも離れる。すると、通路66を介して、連通路121よりも広く第1ディスク75と中間シート58との開弁量に応じて広くなる流路面積でロッド室18から作動流体がボトム室19側へ流れる。これにより、中間シート58と第1ディスク75との開弁量に応じた第2段目のバルブ特性の
図4に示すf2以上の減衰力を発生させることになる。
【0045】
なお、第2段目のバルブ特性は、第1段目のバルブ特性よりも、ピストン速度に対する減衰力の増加率が低くなっている。第2段目のバルブ特性の最小減衰力f2は、中間シート58と内側シート57との段差量、バネ部材76および第2ディスク77の弾性力(単体ディスクの板厚や枚数等)によって変更することができる。
【0046】
以上により、ピストン本体31およびリテーナ33に設けられた通路66には、ピストンロッド13が伸び側に移動しこれと一体にピストン12がシリンダ11内を摺動すると、この摺動により作動流体がロッド室18からボトム室19に向け流れることになる。
【0047】
上記通路66がその内部を貫通するピストン本体31およびリテーナ33と、リテーナ33に突出される環状の外側シート59と、リテーナ33の外側シート59の内側に突出される内側シート57と、リテーナ33の外側シート59と内側シート57との間に通路66の開口部を囲むように突出される中間シート58と、外側シート59よりも大径で中間シート58に着座する第1ディスク75と、第1ディスク75を外側シート59に向けて押圧するバネ部材76と、第1ディスク75に積層される第2ディスク77と、中間シート58および外側シート59の間の室120および通路66を連通する連通路121とが、通路66の一部に設けられて作動流体の流れを制御して減衰力を発生する伸び側の減衰力発生機構131を構成している。
【0048】
上記した特許文献1に記載の緩衝器は、外側シートと中間シートと内側シートのうちの中間シートの高さを内側シートおよび外側シートよりも低くして、内側シートに密着するようにクランプされたディスクを、この中間シートにバネで押し付けることにより、ディスクにセット荷重を与えるようになっている。この構造では、ディスクの外周シートへのセット荷重が高くなり開弁点が高くなってしまうため、バルブ特性が適正であるとは言えない。つまり、中間シートよりも外側シートを高くして上記した複数段階の減衰力特性を得るものにおいては、内側シート、中間シートおよび外側シートを有する部材を例えば焼結により製造すると、製造上のバラツキ(公差)により、内側シート、中間シートおよび外側シートの高さ関係がずれる可能性がある。内側シート、中間シートおよび外側シートの高さ関係がずれると、ディスクが中間シートと外側シートとに同時に当接することができず、隙間ができて作動流体が漏れ、所望の減衰力特性を得られない可能性がある。このため、特許文献1のように、中間シートを内側シートおよび外側シートよりも低くして、バネでディスクを押し付けて中間シートおよび外側シートの両方に当接させる。しかしながら、ディスクをバネで押圧して外側シートおよびこれより高さの低い中間シートに当接させる構造であると、外側シートへのディスクのセット荷重が高くなり開弁点が高くなってしまう。
【0049】
これに対して、第1実施形態の緩衝器によれば、第1ディスク75が、内側シート57および中間シート58に当接した状態ではバネ部材76で押圧されなければ外側シート59から離間し、バネ部材76で押圧されて始めて外側シート59に当接するため、製造上のバラツキ(公差)により、内側シート57、中間シート58および外側シート59の高さ関係がずれたとしても、バネ部材76で第1ディスク75を外側シート59に確実に当接させることができる上、第1ディスク75のセット荷重を低く抑えることができる。よって、第1ディスク75が外側シート59から離れやすくなり、開弁点が高くなることを抑制できるため、バルブ特性の適正化を図ることが可能となる。
【0050】
また、バネ部材76が、第1ディスク75に積層されるとともに径方向の一部に第1ディスク75から離間する離間部115を有する板状であるため、コイルスプリングを用いる場合のように第1ディスク75を付勢する部材の軸方向長さが長くなることがなく、軸方向に小型化することができる。
【0051】
また、第1ディスク75(外側シート59であっても良い)に固定オリフィス125が設けられ、中間シート58および外側シート59の間の室120と通路66とを連通する連通路121の流路面積が固定オリフィス125の流路面積よりも大きくされているため、第1ディスク75が外側シート59に当接した状態でオリフィス特性の減衰力特性を得た上で、第1ディスク75が外側シート59から離間するとバルブ特性の減衰力特性を良好に得ることができる。
【0052】
また、バネ部材76には、第1ディスク75に当接する先端板部113が周方向に部分的に設けられているため、第1ディスク75への押圧力が周方向に断続的に発生し、よって第1ディスク75は、例え外側シート59に密着していたとしても、押圧力が弱い部分が先に外側シート59から離れ、全体として良好に離れることになる。
【0053】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に
図5および
図6に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0054】
第2実施形態においては、
図5に示すように、リテーナ33が第1実施形態に対し一部相違している。第2実施形態のリテーナ33は、中間シート58と内側シート57との間に、これらと同方向に突出されるディスク支持部150が周方向に等間隔で複数形成されている。内側シート57、ディスク支持部150および中間シート58の軸方向のボトム室19側への突出高さは、内側シート57の突出高さよりもディスク支持部150の突出高さの方が高く、ディスク支持部150の突出高さよりも中間シート58の突出高さの方が高くなっている。ただし、内側シート57のシート面57aとディスク支持部150のシート面150aとの高低差を半径差で除算した勾配が、ディスク支持部150のシート面150aと中間シート58のシート面58aとの高低差を半径差で除算した勾配と同等になっている。
【0055】
また、第2実施形態においては、第2ディスク77とスペーサ78との間に、これらに積層されて設けられる第3ディスク155を有している。第3ディスク155にも、第2ディスク77と同様、径方向中央に挿通孔156が形成されており、この挿通孔156にピストンロッド13の取付軸部26が挿通されている。
【0056】
第3ディスク155は、複数枚(具体的には三枚)の同形状の単体ディスク157が積層されて構成されており、その外径が、ディスク支持部150のシート面150aの外径よりも大径となっている。ピストンロッド13への組み付け前の自然状態において、単体ディスク157は、表裏面それぞれが軸方向の一定位置に位置する平坦な形状をなしており、よって、第3ディスク155も同様に平坦な形状をなしている。
【0057】
非作動状態にあるとき、第3ディスク155は、第2ディスク77に当接しており、第2ディスク77と同様、バネ部材76の基板部110が当接する第1ディスク75の中間シート58よりも径方向内側部分に倣って径方向外側ほど軸方向のピストン本体31とは反対側に位置するように弾性変形している。この状態でも、第3ディスク155は、その外径がリテーナ33のディスク支持部150のシート面150aの外径よりも若干大径で中間シート58のシート面58aの内径よりも小径となっている。
【0058】
図5に示す非作動状態から、ピストンロッド13がシリンダ11からの突出量を増やす伸び側に移動すると、ピストンロッド13とともに移動するピストン12によってロッド室18の圧力がボトム室19側の圧力よりも高められる。
【0059】
このとき、
図6に示すように、ピストン速度が遅い所定範囲0〜v1にあると、第1実施形態と同様に、第1ディスク75が外側シート59に当接した状態が維持され、通路66、連通路121および固定オリフィス125を介して固定オリフィス125の一定の流路面積でロッド室18から作動流体がボトム室19側へ流れ、オリフィス特性の
図6に示す0〜f1の減衰力を発生させる。
【0060】
また、ピストン速度が中間の所定範囲v1〜v2にあっても、第1実施形態と同様に、第1ディスク75が中間シート58への当接状態を維持したまま、中間シート58のシート面58aの外周部を起点として変形して外周側が外側シート59から離れ、通路66および連通路121を介して、第1ディスク75と外側シート59との開弁量に応じて広くなる流路面積でロッド室18から作動流体がボトム室19側へ流れ、外側シート59と第1ディスク75との開弁量に応じた第1段目のバルブ特性の
図6に示すf1〜f2の減衰力を発生させる。
【0061】
さらに、ピストン速度が中間であって上記よりも速い所定範囲v2〜v3にあると、第1ディスク75は、ディスク支持部150への当接状態を維持したまま、バネ部材76および第2ディスク77の付勢力に抗してディスク支持部150のシート面150aの外周部を起点として変形して中間シート58からも離れる。すると、通路66を介して、連通路121よりも広く第1ディスク75と中間シート58との開弁量に応じて広くなる流路面積でロッド室18から作動流体がボトム室19側へ流れる。これにより、中間シート58と第1ディスク75との開弁量に応じた第2段目のバルブ特性の
図6に示すf2〜f3の減衰力を発生させる。第2段目のバルブ特性は、第1段目のバルブ特性よりも、ピストン速度に対する減衰力の増加率が低くなっている。
【0062】
さらに、ピストン速度が大きい所定範囲v3以上にあると、第1ディスク75は、バネ部材76、第2ディスク77および第3ディスク155の付勢力に抗して内側シート57のシート面57aの外周部を起点に変形してディスク支持部150から離れ、中間シート58からさらに離れる。すると、通路66を介して、連通路121よりも広く第1ディスク75と中間シート58との開弁量に応じて広くなる流路面積でロッド室18から作動流体がボトム室19側へ流れる。これにより、中間シート58と第1ディスク75との開弁量に応じた第3段目のバルブ特性の
図6に示すf3以上の減衰力を発生させる。第3段目のバルブ特性は、第2段目のバルブ特性よりも、ピストン速度に対する減衰力の増加率が低くなっている。
【0063】
このような構成の第2実施形態によれば、リテーナ33の中間シート58と内側シート57との間にディスク支持部150を設けるとともに中間シート58よりも小径且つディスク支持部150よりも大径の第3ディスク155を第2ディスク77に積層させて設けたため、多段階のバルブ特性の減衰力特性を得ることができる。
【0064】
「第3実施形態」
次に、第3実施形態を主に
図7に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0065】
第3実施形態においては、
図7に示すように、ピストンロッド13の取付軸部26の長さが長くされるとともに、第1実施形態のスペーサ78および規制部材79にかえて押さえ部材170が設けられている。この押さえ部材170は、円筒状部171と円筒状部171の軸方向一端から径方向外側に延出するフランジ部172とを有しており、円筒状部171の内側の挿通孔173に取付軸部26を挿通させた状態で、円筒状部171のフランジ部172とは反対側の端部においてリテーナ33の内側シート57のシート面57aに当接し、軸方向のフランジ部172側の端部がナット14に当接している。
【0066】
そして、第1実施形態のバネ部材76は設けられておらず、押さえ部材170の円筒状部171が第1ディスク75の挿通孔95および第2ディスク77の挿通孔97に挿通されている。ここで、第1ディスク75および第2ディスク77は円筒状部171上を軸方向に摺動可能となっており、第1ディスク75および第2ディスク77は全体として軸方向に移動可能なフローティングタイプとなっている。
【0067】
第1ディスク75とフランジ部172との間には、第1実施形態のバネ部材76にかえてコイルスプリングからなる外側スプリング(バネ部材)175が介装されており、また、第2ディスク77とフランジ部172との間には、この外側スプリング175よりも小径のコイルスプリングからなる内側スプリング176が内側に介装されている。外側スプリング175は外側シート59のシート面59aと略同径となっており、内側スプリング176は内側シート57のシート面57aと略同径となっている。内側スプリング176のバネ力は外側スプリング175のバネ力よりも所定値大きくなっている。内側スプリング176はその内側の円筒状部171によって径方向移動が規制されることになり、外側スプリング175はフランジ部172に形成された切欠部178に軸方向の一端が嵌合することによって径方向移動が規制されることになる。
【0068】
このような構成の第3実施形態によれば、第1ディスク75は、
図7に示す非作動状態にあるとき、内側スプリング176の付勢力によってリテーナ33の内側シート57および中間シート58に当接することになり、外側スプリング175がなければ、第1実施形態と同様、外側シート59から離間した状態となる。そして、外側スプリング175の付勢力によって、第1ディスク75が外側シート59のシート面59aに当接する。つまり、第1ディスク75は、内側シート57および中間シート58に当接した状態では外側スプリング175で押圧されて始めて外側シート59に当接する。
【0069】
非作動状態から、ピストンロッド13がシリンダ11からの突出量を増やす伸び側に移動すると、ピストンロッド13とともに移動するピストン12によってロッド室18の圧力がボトム室19側の圧力よりも高められる。
【0070】
このとき、ピストン速度が遅い所定範囲にあると、第1実施形態と同様に、第1ディスク75が外側シート59に当接した状態が維持され、通路66、連通路121および固定オリフィス125を介して固定オリフィス125の一定の流路面積でロッド室18から作動流体がボトム室19側へ流れ、オリフィス特性の減衰力を発生させる。
【0071】
ピストン速度が上記よりも速い中間の所定範囲にあると、第1ディスク75が、内側スプリング176および第2ディスク77の付勢力により中間シート58への当接状態を維持したまま、外側スプリング175を縮長させながら中間シート58のシート面58aの外周部を起点として変形して外周側が外側シート59から離れ、通路66および連通路121を介して、第1ディスク75と外側シート59との開弁量に応じて広くなる流路面積でロッド室18から作動流体がボトム室19側へ流れ、外側シート59と第1ディスク75との開弁量に応じた第1段目のバルブ特性の減衰力を発生させる。
【0072】
さらに、ピストン速度が上記よりも速い所定範囲にあると、第1ディスク75は、外側スプリング175、第2ディスク77および内側スプリング176の付勢力に抗して外側シート59、中間シート58および内側シート57から離れる。すると、通路66を介して、連通路121よりも広く第1ディスク75と中間シート58との開弁量に応じて広くなる流路面積でロッド室18から作動流体がボトム室19側へ流れる。これにより、中間シート58と第1ディスク75との開弁量に応じた第2段目のバルブ特性の減衰力を発生させる。この場合も、第2段目のバルブ特性は、第1段目のバルブ特性よりも、ピストン速度に対する減衰力の増加率が低くなる。
【0073】
上記実施形態は、ピストンの伸び側の減衰力発生機構に本発明を適用する例を示したが、これに限らず、ピストンの縮み側の減衰力発生機構に本発明を適用することも可能である。また、上記実施形態は、単筒式の緩衝器に本発明を適用する例を示したが、シリンダの外周に、間にリザーバ室を形成する外筒を設ける複筒式の緩衝器に適用することも可能であり、あらゆる緩衝器に用いることができる。例えば複筒式の緩衝器に本発明を適用する場合、リザーバ室とボトム室との間に設けられるボトムバルブの減衰力発生機構に本発明を適用することも可能である。
【0074】
以上に述べた実施形態は、作動流体が封入されるシリンダと、該シリンダに摺動可能に挿入されて該シリンダの内部を2室に画成するピストンと、該ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延出するピストンロッドと、前記ピストンの摺動により作動流体が流れる通路と、該通路の一部に設けられて作動流体の流れを制御して減衰力を発生する減衰力発生機構とを備え、該減衰力発生機構は、前記通路がその内部を貫通するバルブ本体と、該バルブ本体に突出される環状の外側シートと、前記バルブ本体の前記外側シートの内側に突出される内側シートと、前記バルブ本体の前記外側シートと前記内側シートとの間に前記通路の開口部を囲むように突出される中間シートと、前記外側シートよりも大径で前記中間シートに着座する第1ディスクと、該第1ディスクを前記外側シートに向けて押圧するバネ部材と、前記第1ディスクに積層される第2ディスクと、前記中間シートおよび前記外側シートの間と前記通路とを連通する連通手段と、を備え、前記第1ディスクは、前記内側シートおよび前記中間シートに当接した状態では前記バネ部材で押圧されて始めて前記外側シートに当接することを特徴とする。これにより、第1ディスクのセット荷重を低く抑えることができるため、第1ディスクが外側シートから離れやすくなり、開弁点が高くなることを抑制できる。よって、バルブ特性の適正化を図ることが可能となる。
【0075】
また、前記バネ部材は、前記第1ディスクに積層されるとともに径方向の一部に該第1ディスクから離間する離間部を有する板状であるため、コイルスプリングを用いる場合のように軸方向長さが長くなることがなく、軸方向に小型化することができる。
【0076】
また、前記バルブ本体の前記中間シートと前記内側シートとの間に突出されるディスク支持部と、前記中間シートよりも小径且つ前記ディスク支持部よりも大径で前記第2ディスクに積層される第3ディスクと、を備えるため、多段階のバルブ特性の減衰力特性を得ることができる。
【0077】
また、前記外側シートまたは前記第1ディスクに固定オリフィスが設けられ、前記連通手段の流路面積が前記固定オリフィスの流路面積よりも大きいため、第1ディスクが外側シートに当接した状態でオリフィス特性の減衰力特性を得た上で、第1ディスクが外側シートから離間するとバルブ特性の減衰力特性を良好に得ることができる。
【0078】
また、前記バネ部材には、前記第1ディスクに当接する当接部が周方向に部分的に設けられているため、第1ディスクへの押圧力が周方向に断続的に発生し、よって第1ディスクを良好に外側シートから離すことができる。