(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るハイブリッドホイールローダのシステム構成図である。この図に示すホイールローダは、シリーズ型ハイブリッドシステムによって構成されており、ディーゼルエンジン1と、エンジン1に機械的に連結されエンジン1によって駆動される電動発電機(モータ/ジェネレータ(M/G))6と、電動発電機6を制御するインバータ装置7と、電動発電機6に機械的に連結され、電動発電機6及びエンジン1の少なくとも一方に駆動される油圧ポンプ4と、バケット及びリフトアーム(図示せず)を有し車体前方に取り付けられ、油圧ポンプ4からの圧油によって駆動される作業装置50と、コントロールバルブ55を介して油圧ポンプ4から供給される圧油によって駆動される油圧アクチュエータ(バケットシリンダ51、リフトシリンダ52及びステアリングシリンダ53)と、4つの車輪61を有する走行体60と、走行体60のプロペラシャフト8に取り付けられ4つの車輪61を駆動する走行用電動機9と、走行用電動機9を制御するインバータ装置10と、DCDCコンバータ12を介してインバータ7,10(電動発電機6,走行用電動機9)と電気的に接続されインバータ7,10との間で直流電力の受け渡しを行う蓄電装置11と、油圧アクチュエータ51,52,53を駆動するための操作信号を操作量に応じて出力する操作装置(操作レバー56及びステアリングホイール(図示せず))と、制御装置200を備えている。
【0014】
バケットシリンダ51及びリフトシリンダ52は、キャブ内に設置された操作レバー56の操作量に応じて出力される操作信号(油圧信号)に基づいて駆動される。リフトシリンダ52は、車体前方に回動可能に固定されたリフトアームに取り付けられており、操作レバー56からの操作信号に基づいて伸縮してリフトアームを上下に回動させる。バケットシリンダ51は、リフトアームの先端に回動可能に固定されたバケットに取り付けられており、操作レバー56からの操作信号に基づいて伸縮してバケットを上下に回動させる。ステアリングシリンダ53は、キャブ内に設置されたステアリングホイール(図示せず)の操舵量に応じて出力される操作信号(油圧信号)に基づいて駆動される。ステアリングシリンダ53は、各車輪61に連結されており、ステアリングホイールからの操作信号に基づいて伸縮して車輪61の舵角を変更する。
【0015】
また、
図1のホイールローダは、前後進切替スイッチ(前後進切替装置)63と、作業モード切替スイッチ(作業モード切換装置)64と、充電モード切替スイッチ(充電モード切換装置)65を備えている。
【0016】
前後進切替スイッチ63は、作業車両の進行方向を前進及び後進のいずれかに切り替えるためのスイッチ(F/Rスイッチ)であり、当該スイッチ63の切替位置は前後進信号(スイッチ信号)としてハイブリッド制御装置20に出力される。
【0017】
作業モード切替スイッチ64は、作業車両に係る作業モードを、作業量重視のパワーモード(Pモード)と、効率重視のエコノミーモード(Eモード)のいずれかに切り替えるためのスイッチ(P/Eスイッチ)であり、当該スイッチ64の切替位置は作業モード信号(スイッチ信号)としてハイブリッド制御装置20に出力される。エンジン最大回転数と最大油圧ポンプ容量の組合せが各作業モードに予め定められており、本実施の形態ではPモードの方が相対的に高回転数・大容量が許容される設定になっている。すなわち、作業モード切替スイッチ64の切替位置に応じて、油圧ポンプ4と走行用電動機6の合計出力の最大値が変化することになり、Pモードの方がEモードよりも当該合計出力の最大値が高くなる。なお、ここでは、2つのモードを切り替える場合について説明するが、3つ以上の作業モードを備えても良い。
【0018】
充電モード切替スイッチ65は、作業量よりも蓄電装置11の充電を優先させるモード(充電優先モード)と、蓄電装置11の充電を優先しないモード(通常モード)のいずれかに作業車両に係る充電モードを切り替えるためのスイッチであり、当該スイッチ65の切替位置は充電モード信号(スイッチ信号)としてハイブリッド制御装置20に出力される。2つの充電モードの違いは、充電優先モードでは、通常モードよりも目標SOCが相対的に大きく設定されることがある点にある。本実施の形態で充電優先モードを選択すると、「中負荷」動作時(後述)に目標SOCが通常モード選択時よりも大きく設定される。なお、オペレータによって充電優先モードが選択される場合としては、例えば、蓄電装置11の電力を積極的に利用する作業(高負荷作業)を行う場合がある。
【0019】
蓄電装置11は、特に種類を限定されるものではなく、例えば、大容量電気2重層キャパシタや、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池及び鉛電池等の2次電池が利用可能である。本実施の形態では、蓄電装置11としてリチウムイオン電池を利用しているものとする。本実施の形態における蓄電装置11は、DCDCコンバータ12によって電池電圧の昇降圧制御を行い、インバータ7,10(すなわち、電動発電機6及び走行用電動機9)との間で直流電力の受け渡しを行っている。
【0020】
なお、ここでは、DCバス13と蓄電装置11の間に設置したDCDCコンバータ12を用いて電力の収受を行う場合について説明したが、蓄電装置11の電圧が当該ハイブリッドシステムのシステム電圧相当である場合には、DCDCコンバータ12を省略することも可能であり、その場合にはDCバス13と蓄電装置11を直接接続しても良い。
【0021】
上記のように構成されるハイブリッドホイールローダでは、土砂などの掘削作業を行うための作業装置50に油圧ポンプ4によって適宜油圧を供給することで目的に応じた作業を実施する。また、走行体60の走行動作は、主にエンジン1の動力により電動発電機6で発電した電力を利用し、走行用電動機9を駆動することにより行う。その際、蓄電装置11では、車両制動時に走行用電動機9が発生する回生電力を吸収したり、電動発電機6又は走行用電動機9に蓄電電力を供給することでエンジン1に対する出力アシストを行ったりすることで、車両の消費エネルギー低減に寄与する。
【0022】
図2は従来のホイールローダの代表的な構成例を示す図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。この図に示した従来のホイールローダは、主な駆動部として走行体60と作業装置50(リフト/バケット部分)を備えており、トルクコンバータ(トルコン)2およびトランスミッション(T/M)3を介してエンジン1の動力を車輪61に伝えて走行を行い、さらに油圧ポンプ4によって駆動される作業装置50で土砂等を掘削・運搬する。トルコンの動力伝達効率は電気による動力伝達効率より劣るため、
図2に示したホイールローダの走行駆動部分を電動化(パラレル式ハイブリッド構成も含む)すると、エンジン1からの動力伝達効率を向上させることが可能となる。さらに、作業中のホイールローダでは頻繁に発進・停止の走行動作が繰り返されるため、上記のように走行駆動部分を電動化した場合には走行用電動機9から制動時の回生電力の回収が見込めるようになる。このようにホイールローダの駆動装置の一部を電動化してハイブリッド化すると、燃料消費量を低減することができる。
【0023】
図3は本発明の実施の形態に係るホイールローダに搭載された制御装置200の構成図である。この図に示すように、本実施の形態に係るホイールローダ(車両)には、制御装置200として、
図1に示したハイブリッドシステム全体のエネルギーフローやパワーフロー等の制御を行うコントローラであるハイブリッド制御装置20と、コントロールバルブ(C/V)55や油圧ポンプ4を制御する油圧制御装置21と、エンジン1の制御を行うエンジン制御装置22と、インバータ7,10を制御するインバータ制御装置23と、DCDCコンバータ12を制御するコンバータ制御装置24と、蓄電装置11の充電状態(SOC)や異常の有無を検出・管理する蓄電制御装置25が搭載されている。蓄電制御装置25は、主に蓄電装置11の電圧等の状態検知に使用されることが多い。
【0024】
各制御装置20,21,22,23,24,25は、ハードウェア構成として、後述する制御をはじめとして各種の制御プログラムを実行するための演算処理装置(例えば、CPU)(図示せず)と、当該制御プログラムをはじめとして各種データを記憶するための記憶装置(例えば、ROM、RAM等)(図示せず)と、各種データが入出力される入出力装置(図示せず)を備えている。また、各制御装置20,21,22,23,24,25は、CAN(Controller Area Network)を介して互いに接続されており、相互に各機器の指令値及び状態量を送受信している。ハイブリッド制御装置20は、
図3に示すように、油圧制御装置21、エンジン制御装置22、インバータ制御装置23、コンバータ制御装置24及び蓄電制御装置25の各コントローラの上位に位置し、システム全体の制御を行っており、システム全体が最高の作業性能を発揮するように他の各制御装置21〜25に具体的動作の指令を与える。
【0025】
なお、
図3に示した各制御装置20〜25は、
図1に示すハイブリッドシステムの各駆動部分を制御するために必要なコントローラのみを示している。実際車両を成立させる上では、その他にモニタや情報系のコントローラが必要となってくるが、それらは本発明と直接的な関係が無いため図示していない。また、各制御装置20〜25は、
図3に示すように他の制御装置と別体である必要はなく、ある1つの制御装置に2つ以上の制御機能を実装しても構わない。図中のインバータ装置23は、単体で2基のモータ6,9を制御するように表記している。
【0026】
図4は本発明の実施の形態に係るハイブリッド制御装置20の構成図である。この図に示すハイブリッド制御装置20は、システム制御部30と、動力配分部31と、エンジン制御部32と、M/G制御部33と、走行制御部34と、油圧制御部35を備えている。
【0027】
システム制御部30では、ハイブリッドシステム全体の制御が行われる。動力配分部31では、エンジン1の出力と蓄電装置11の電力を各駆動部(油圧ポンプ4、電動発電機6、走行用電動機9)に分配する処理が行われる。エンジン制御部32では、油圧ポンプ4(作業装置50)が要求する動力値(油圧要求動力値Pf)と走行用電動機9が要求する動力値(走行要求動力値Prun)を合計した車両全体における要求動力値(合計要求動力値)に応じて、エンジン1の回転数指令が決定される。M/G制御部33では、発電要求値に応じて電動発電機6のトルク指令が決定される。油圧制御部34では、M/G制御部33と操作レバー56の操作量等から演算される油圧ポンプ4の要求動力値Pfに基づいて油圧ポンプ4の傾転角指令値が演算される。走行制御部35では、アクセル/ブレーキペダルの踏み込み量及び現在の車速から演算される走行要求動力値Prunに基づいて走行用電動機9のトルク指令が演算される。
【0028】
ハイブリッド制御装置20には、操作レバー(フロント部レバー)56から出力された操作信号(操作量を含む)と、キャブ内に設置されたアクセルペダル及びブレーキペダルの踏み込み量と、F/Rスイッチ63のスイッチ信号(前後進信号)と、速度センサ(車輪速度検出手段)62によって検出された車輪61の回転速度から演算される車両速度(車速)と、インバータ10から出力される走行用電動機9の回転数と、エンジン1の回転数(エンジン回転数)と、蓄電制御装置25で算出される蓄電装置11の現在のSOCが入力されている。なお、ホイールローダの車速は、速度センサ62の検出値を入力することで、ハイブリッド制御装置20で算出しても良い。
【0029】
動力配分部31では、油圧要求動力値Pfと走行要求動力値Prunの和に相当する合計要求動力値に対して、その時のエンジン回転数で出力可能な範囲から効率を加味して最終的なエンジン出力(エンジン出力値Pe)が決定される。このとき蓄電装置11の出力(蓄電装置出力値Pc)は、SOCも鑑みながら、合計要求動力値に対してエンジン出力の不足分を補うように決定される。以上のように、ハイブリッドシステムは、その時々の合計要求動力値(Pf+Prun)に応じて、システム全体の効率が最適となるようにエンジン1と蓄電装置11の各出力を決定し、各制御装置に指令を与え、車両の動作を行う。
【0030】
図5は本発明の実施の形態に係るハイブリッドシステムにおけるパワーフローを示す図である。本実施の形態に係るハイブリッドシステムは、車両を駆動するための動力源としてエンジン1及び蓄電装置11を有している。動力配分部31は、この図に示したように、下記式(1)及び(2)にしたがって、エンジン出力Peと蓄電装置出力Pcを作業装置50の出力Pfと走行用電動機9の出力Prunに分配する処理を行う。なお、下記式(1)及び(2)におけるPmg_in、Pmg_outは、それぞれ電動発電機6の入力パワー及び出力パワーを示している。
【0031】
Pf = Pe − Pmg_in …式(1)
Prun = Pmg_out + Pc …式(2)
【0032】
ハイブリッド制御装置20は、出力上限値Pe,Pcの和(ハイブリッド出力可能上限値)に対して、作業装置50の動力要求値(油圧要求動力値Pf)と走行用電動機9の動力要求値(走行動力要求値Prun)の和(合計要求動力値)が小さい場合には、システム制御部30において最も燃費が高くなる出力の仕方を判断し、それに応じて動力配分部31で作業装置50および走行電動機9にそれぞれの動力要求値に沿った指令値を与え、車両の動作を行う。
【0033】
図6は本発明の実施の形態に係るハイブリッド制御装置20の他の構成図である。この図に示すように、ハイブリッド制御装置20は、負荷状態判定部40と、目標SOC決定部41を備えており、これらにより合計要求動力値(Pf+Prun)の大きさ(車両の負荷状態)に応じて蓄電装置11の目標SOCを変化させる処理を実行している。
【0034】
負荷状態判定部40には、操作レバー56の操作量(フロント部レバー操作量)、アクセルペダル/ブレーキペダルの踏み込み量、前後進切替スイッチ(F/Rスイッチ)63の前後進信号、車両速度と走行用電動機9のトルク、油圧ポンプ4の圧力・流量(これらはポンプ4の吐出側に設置した圧力センサやポンプ傾転角により取得可能)、作業モード切替スイッチ(P/Eスイッチ)64の作業モード信号、充電モード切替スイッチ65の充電モード信号が入力されている。負荷状態判定部40は、これらの入力値に基づいて油圧ポンプ4及び走行用電動機9の要求動力(Pf,Prun)を算出する。特に、上記の入力信号の中、操作レバー56の操作量と、アクセルペダル/ブレーキペダルの踏み込み量により、負荷の大きさを判断することが可能である。これに加えて、車両速度、走行用電動機9のトルク、および油圧ポンプ4の圧力・流量を利用すれば、走行駆動部(走行用電動機9)と油圧駆動部(油圧ポンプ4)それぞれの実パワーが演算できるので、要求動力の算出精度を向上させることができ、これにより後続する動作判定の精度も向上する。
【0035】
さらに、負荷状態判定部40は、油圧ポンプ4及び走行用電動機9の要求動力の和である合計要求動力値(Pf+Prun)に加えて、蓄電装置11のSOC及びスイッチ64、65の切替位置を必要に応じて考慮しながら、作業車両の負荷状態を判定する。本実施の形態では、作業車両の負荷状態を主として3つに分類している。具体的には、合計要求動力(Pf+Prun)の大きさに応じて、車両の負荷状態を、(1)重負荷、(2)中負荷、(3)軽負荷の3つに分類しており、蓄電装置11のSOC及びスイッチ64,65の位置に応じて負荷状態(目標SOC)をさらに細かく分類している。
【0036】
目標SOC決定部41には、負荷状態判定部40の判定結果が入力されている。目標SOC決定部41では、負荷状態判定部40で判定された「負荷状態」に応じて蓄電装置11の目標SOCを決定する処理が実行される。どの負荷状態のときに、目標SOC決定部41でどの目標SOCが選択されるかについては、後述するように予め決められており、目標SOCは負荷状態に応じて変化する。目標SOC決定部41で決定された目標SOCは、ハイブリッド制御装置20内のシステム制御部30に出力され、電動発電機6のトルク指令の生成に利用される(後述)。
【0037】
次に、本実施の形態に係る負荷状態判定部40及び目標SOC決定部41で実行される負荷状態判定処理及び目標SOC決定処理について説明する。
【0038】
図7は負荷状態判定部40及び目標SOC決定部41で実行される処理のフローチャートである。この図に示すように、負荷状態判定部40は、まず、
図6に示した各種信号を入力し(S100)、アクセルペダル/ブレーキペダルの踏み込み量及び操作レバー56の操作量等に基づいて、油圧要求動力値Pfと走行要求動力値Prunを演算する(S102)。
【0039】
負荷状態判定部40は、合計要求動力値(Pf+Prun)が設定値P1未満か否かを判定する(S104)。設定値P1は、作業車両の負荷状態が上記3分類の中で最も軽い「軽負荷」であると負荷状態判定部40が判定するために設定した値であり、後述するもう1つの設定値P2よりも小さく設定されている(P1<P2)。なお、本実施の形態に係る「軽負荷」とは、エンジン1の出力のみで対応可能な負荷が作用している状態を想定しており、当該想定によれば設定値P1はエンジン出力Peの最大値よりも小さく設定することが好ましい。
【0040】
S104で合計要求動力値が設定値P1未満であると判定された場合には、負荷状態判定部40は負荷状態が「軽負荷」であると判定する(S106)。そして、目標SOC決定部41は、当該判定の入力を受けて目標SOCを設定値S3に設定する(S108)。ここで、設定値S3は、「中負荷」のときの目標SOC(設定値S2)より高く、さらに「重負荷」のときの目標SOC(設定値S1)より高い。設定値S3は、蓄電装置11の種類や仕様等に応じて異なるが、ここでは蓄電装置11の過充電を防止するために設定される目標SOCの上限値に一致する値又はこれに近い値とし、本実施の形態では70%として説明する。目標SOCが設定されたら、最初に戻ってS100以降の処理を繰り返す。
【0041】
一方、S104で合計要求動力値が設定値P1以上であると判定された場合には、負荷状態判定部40は、さらに、当該合計要求動力値が設定値P2未満か否かを判定する(S110)。設定値P2は、作業車両の負荷状態が上記3分類のうちの「中負荷」か「重負荷」かについて、負荷状態判定部40が判定するために設定した値であり、P2未満である場合(P1≦Pf+Prun<P2)には「中負荷」であると判定される。なお、本実施の形態に係る「中負荷」とは、時間平均的な負荷はエンジン1の出力範囲内であるが、所定の時刻に作用する負荷は蓄電装置11の出力のアシストが必要となる状態(すなわち、エンジン1の出力範囲外になることがある状態)を想定している。さらに、「重負荷」とは、継続して蓄電装置11の出力のアシストが必要となる状態を想定している。そのため、これらの想定によれば設定値P2は例えばエンジン出力Peの最大値より大きい値と設定することができる。
【0042】
S110で合計要求動力値が設定値P2未満であると判定された場合には、負荷状態判定部40は負荷状態が「中負荷」であると判定する(S112)。そして、目標SOC決定部41は、当該判定の入力を受けて目標SOCを設定値S2に設定する(S114)。ここで、設定値S2は、重負荷の目標SOC(設定値S1)と比較して高く設定されており、さらに「軽負荷」のときの目標SOC(設定値S3)よりも低く設定されている(S1<S2<S3)。設定値S2は、蓄電装置11の種類や仕様等に応じて異なるが、ここでは蓄電装置11の通常の使用範囲の中間値に相当する値に設定するものとし、本実施の形態では50%として説明する。目標SOCが設定されたら、最初に戻ってS100以降の処理を繰り返す。なお、目標SOC決定部41で決定される設定値S2としては、上記の設定値(50%)の代わりに、その時刻における蓄電装置11のSOCの値(現在のSOCの値)を利用しても良い。すなわち、この場合、現SOCの値が保持されるように発電する設定が採用されることになる。
【0043】
S110で合計要求動力値が設定値P2以上であると判定された場合には、負荷状態判定部40は、負荷状態が「重負荷」であると判定する(H122)。そして、目標SOC決定部41は、当該判定の入力を受けて目標SOCを設定値S1に設定する(S124)。設定値S1は、蓄電装置11の種類や仕様等に応じて異なるが、ここでは蓄電装置11の過放電を防止するために設定される目標SOCの下限値又はこれに近い値とし、本実施の形態では30%として説明する。目標SOCがS1に設定されたら、最初に戻ってS100以降の処理を繰り返す。
【0044】
上記のように
図7のフローチャートに従って処理すると、蓄電装置11の目標SOCは、合計要求動力が小さいほど高く設定される。
【0045】
図8は本発明の実施の形態に係るハイブリッド制御装置20のさらに他の構成図である。この図にはシステム制御部30と、動力配分部31と、M/G制御部33が示されている。システム制御部30には、
図7のフローチャートに従って決定された目標SOCが入力されている。システム制御部30は、蓄電制御装置25から入力される蓄電装置11の現在のSOCと目標SOCの偏差に基づいて、蓄電装置11を充電するために利用される電動発電機6に対する発電パワー指令(M/Gパワー指令)をパワー演算部30Aで演算し、当該発電パワー指令を動力配分部31に出力する。すなわち、電動発電機6による発電は、2つのSOCの偏差に基づいてフィードバック制御される。
【0046】
動力配分部31は、パワー制限部31Aにおいて、エンジン1及び作業装置50の状態に応じて発電パワー指令に対して制限処理を施し、M/G制御部33に出力する。M/G制御部33は、トルク演算部33Aにおいて、電動発電機6の最終的なトルク指令を演算し電動発電機6を制御するインバータ装置23に当該トルク指令を出力する。これにより
図7のフローチャートに従って決定された目標SOCに近づくように蓄電装置11のSOCが制御される。
【0047】
なお、ここでは蓄電装置11のSOC制御を実施するために、目標SOCに対し、現在のSOCをフィードバックする場合について説明したが、SOCの代わりに蓄電装置11のOCV(開放電圧)を用いても良い。また、蓄電装置11に係るSOC制御系の指令値がM/Gトルク指令値の場合について説明したが、これに限定されるものではなく、
図3に示すDCDCコンバータ12により蓄電装置11に係る電流制御を実施しても良い。
【0048】
上記のように構成された作業車両において、まず、負荷状態判定部41において「軽負荷」と判定された場合には、蓄電装置11の目標SOCはS3(高レベル)に設定される。また、「軽負荷」のときは、前述のように、エンジン1の出力に比較的余裕がある。そのため、このときに電動発電機6による発電を積極的に行うことで蓄電装置11のSOCを充分に高くしておくと(すなわち、充電しておくと)、その後に重負荷作業に移行して「重負荷」の状態が継続しても、オペレータの意に反して蓄電装置11の残容量が即座に無くなるという事態が発生することを回避できる。したがって、本実施の形態によれば、重負荷作業が継続的に行われる場合でも、パワーダウンすることなく作業を継続することができる。なお、負荷状態が「軽負荷」の場合の燃料消費率は一般的にそれほど低い(良い)ことはなく、この間に蓄電装置11を充電し、エンジン1の負荷を増やすことにより、エンジンの燃料消費率を低減することが可能である。
【0049】
次に、負荷状態判定部40において「中負荷」と判定された場合には、蓄電装置11の目標SOCはS2(中レベル)に設定される。「中負荷」のときは、前述のように、時間平均の負荷はエンジン1の出力範囲内に収まる傾向があるが、瞬間的な大きな動力要求に対しては蓄電装置11からのパワーアシストが必要となる傾向がある。このような中負荷動作は、ホイールローダの一日の作業の中でほとんどの割合を占める動作であり、「中負荷」で最高の燃費性能を出すことにより、ハイブリッド車のメリットを最大限に引き出すことができる。このように動作することで、中負荷動作において最高の燃費性能を実現することができる。なお、前述のように、蓄電装置11のSOCが中間値より比較的離れた状態にある場合(すなわち、S1又はS3に近い場合)には、無理に充放電させることなくその時点のSOCを維持するように制御すれば良い。
【0050】
さらに、負荷状態判定部40において「重負荷」と判定された場合は、蓄電装置11(電動発電機6)によるパワーアシストが必要となる。そのため、「重負荷」の状態が長期に渡って継続すると、蓄電装置11が放電過多となる傾向が強く、当初のSOCが高い状態(例えば、S3に近い状態)であっても最終的に使用範囲下限(S1)まで低下することが想定される。そこで、本実施の形態では、蓄電装置11のSOCが下限値S1まで達した後は、その状態を維持するような制御(SOC一定制御)に移行することにした。その結果、車両の出力パワーは最終的に制限されることになる。
【0051】
以上のように構成された作業車両によれば、作業車両への負荷状態が軽くエンジンの出力に余裕があるときほど蓄電装置11の充電が積極的に行われることになるので、蓄電装置11のSOCが高い状態で重負荷作業を開始することができ、重負荷作業を長時間にわたってパワーダウン無く実施することが可能となる。
【0052】
次に、負荷状態判定部40及び目標SOC決定部41で実行される他の目標SOC決定処理について説明する。
図9は負荷状態判定部40及び目標SOC決定部41で実行される他の処理のフローチャートである。この図に示すフローチャートは、作業モード切替スイッチ64の切替位置(選択モード)に応じて、負荷状態が「中負荷」の場合をさらに2つ(「中負荷(P)」及び「中負荷(E)」)に分類し、各場合で目標SOCの値を異ならせている点で
図7のものと異なる。さらに、蓄電装置11のSOCの値に応じて、負荷状態が「重負荷」の場合をさらに2つ(「重負荷(H)」及び「重負荷(L)」)に分類し、各場合で目標SOCの値を異ならせている点でも異なる。ここでは、
図7のフローチャートと同じ処理には同じ符号を付して説明を省略し、主として
図7のものと異なる処理(S130,S132,S134,S116,S118,S120)について説明する。
【0053】
S110で合計要求動力値が設定値P2未満であると判定された場合には、負荷状態判定部40は、作業モード信号に基づいて作業モード切替スイッチ64がPモードに切り替えられているか否かを判定する(S130)。ここでスイッチ64がPモードに切り替えられていることが確認できたら、負荷状態判定部40は負荷状態が「中負荷(P)」であると判定する(S132)(負荷状態に付した添字「P」は、作業モードが作業量重視のパワーモードであることを示す)。そして、目標SOC決定部41は、当該判定の入力を受けて目標SOCを設定値S3(例えば、70%)に設定する(S134)。目標SOCが設定されたら、最初に戻ってS100以降の処理を繰り返す。
【0054】
一方、上記とは逆に、S130でスイッチ64がEモードに切り替えられていることが確認できたら、負荷状態判定部40は負荷状態が「中負荷(E)」であると判定する(S112)。ここで負荷状態に付した添字「E」は、作業モードが効率重視のエコノミーモードであることを示しており、
図7中のS112に係る表記(添字の無い「中負荷」)と異なるが、両者は同じものであり、設定される目標SOC(S2)も変わらない。すなわち、
図9では、S132の「中負荷(P)」と区別するために、便宜的に添字「E」を付したに過ぎない。
【0055】
また、S110で合計要求動力値が設定値P2以上であると判定された場合には、負荷状態判定部40は、さらに、蓄電装置11の現在のSOCの値が設定値S1より大きいか否かを判定する(S116)。すなわち、S116では蓄電装置11の残容量が少なくなっていないか否かを判定する。
【0056】
S116で蓄電装置11のSOCが設定値S1より大きいと判定された場合には、負荷状態判定部40は負荷状態が「重負荷(H)」であると判定する(S118)(負荷状態に付した添字「H」は残容量が設定値S1より高いことを示す)。そして、目標SOC決定部41は、当該判定の入力を受けて目標SOCを設定値S3に設定する(S120)。目標SOCが設定されたら、最初に戻ってS100以降の処理を繰り返す。
【0057】
S116で蓄電装置11のSOCが設定値S1以下であると判定された場合には、負荷状態判定部40は負荷状態が「重負荷(L)」であると判定する(H122)。ここで負荷状態に付した添字「L」は、残容量が設定値S1より低いことを示しており、
図7中のS122に係る表記(添字の無い「重負荷」)と異なるが、両者は同じものであり、設定される目標SOC(S1)も変わらない。これにより、蓄電装置11のSOCは過放電が防止され得る下限値(S1)に保持される。目標SOCがS1に設定されたら、最初に戻ってS100以降の処理を繰り返す。
【0058】
上記のように構成した作業車両によれば、作業モード切替スイッチ64がPモードに切り替えられている場合には、オペレータによってある程度大きな出力が要求される蓋然性が高いと判断されるため、中負荷であっても蓄電装置11の目標SOCをS3(例えば、蓄電装置11の使用範囲の上限値)に設定することで、エンジン1の出力に余裕がある時には積極的に発電を行い、蓄電装置11の充電量を上昇させる制御を実行する。これに対して、スイッチ64がEモードに切り替えられている場合には、あまり燃料を消費しない省エネ運転をオペレータが希望していると判断されるので、蓄電装置11の目標SOCをS2に据え置き、積極的な充電(燃料消費)は実施しないようにする。
【0059】
このように作業モード切替スイッチ64の切替位置に応じて目標SOCを設定すると、オペレータが作業量を重視する場合にはパワーダウンができるだけ避けられる一方で、オペレータが省エネ運転を重視する場合には燃料消費量を抑制することができる。すなわち、オペレータの希望に添った作業車両の運用が可能になる。
【0060】
さらに、本実施の形態では、負荷状態判定手段40において、「重負荷」かつ蓄電装置11のSOCがS1より大きいと判定されたとき(すなわち、「重負荷(H)」)には、エンジン出力に余裕が生じるわずかな時間だけでも可能な限り充電できるように、目標SOCをS3(高レベル)に設定するようにした。これにより
図7の場合よりも重負荷作業時に蓄電装置11が積極的に充電されることになるので、蓄電装置11の電力低下をできるだけ遅くすることができ、重負荷作業の継続性を向上できる。
【0061】
次に、負荷状態判定部40及び目標SOC決定部41で実行されるさらに他の目標SOC決定処理について説明する。
図10は負荷状態判定部40及び目標SOC決定部41で実行される他の処理のフローチャートである。この図に示すフローチャートは、充電モード切替スイッチ65の切替位置(選択モード)に応じて、目標SOCの値を異ならせている点で
図7,9のものと異なる。ここでは、
図7,9のフローチャートと同じ処理には同じ符号を付して説明を省略し、主として
図7,9のものと異なる処理(S140,142,144)について説明する。なお、
図10では、S106,S116,S130以降の処理は、それぞれ
図9に示したフローチャートと重複するので図示を省略している。
【0062】
S110で合計要求動力値が設定値P2未満であると判定された場合には、負荷状態判定部40は、充電モード信号に基づいて充電モード切替スイッチ65が充電優先モードに切り替えられているか否かを判定する(S140)。ここでスイッチ65が充電優先モードに切り替えられていることが確認できたら、負荷状態判定部40は負荷状態が「中負荷(C)」であると判定する(S142)(負荷状態に付した添字「C」は、充電優先モードが選択されていることを示す)。そして、目標SOC決定部41は、当該判定の入力を受けて目標SOCを設定値S3(例えば、70%)に設定する(S144)。目標SOCが設定されたら、最初に戻ってS100以降の処理を繰り返す。
【0063】
一方、上記とは逆に、S140でスイッチ65が通常モードに切り替えられていることが確認できたら、作業モード切替スイッチ64からの信号に応じてS130以降の処理を実行する。
【0064】
上記のように構成した作業車両によれば、充電モード切替スイッチ65が充電優先モードに切り替えられている場合には、近い将来オペレータによって重負荷作業が要求されることになるので、
図7の場合に中負荷と判定される場合であっても蓄電装置11の目標SOCをS3(例えば、蓄電装置11の使用範囲の上限値)に設定し、エンジン1の出力に余裕がある時には積極的に発電を行い、蓄電装置11の充電量を上昇させる制御を実行する。これに対して、充電モード切替スイッチ65が通常モードに切り替えられている場合には、作業モード切替スイッチ64で選択された作業モードに応じて蓄電装置11の目標SOCをS3又はS2に設定する。
【0065】
このように充電モード切替スイッチ65の切替位置に応じて目標SOCを設定すると、充電優先モード選択時には作業車両の負荷状態に関わらず蓄電装置11への充電が優先されることになるので、蓄電装置11の残容量を積極的に増加することができ、後続が予定される重作業の継続性を確保できる。すなわち、オペレータの希望に添った作業車両の運用が可能になる。
【0066】
なお、
図10の例では、作業モード切替スイッチ64と充電モード切替スイッチ65の双方を備える場合のフローについて説明したが、充電モード切替スイッチ65のみを備える作業車両にも適用可能である。この場合には、S140において通常モードが選択されていることが確認できたら、
図7中のS112以降の処理を実行すれば足りる。
【0067】
ところで、上記の説明では、主として合計要求動力(Pf+Prun)の大きさに基づいて負荷状態を判別し目標SOCを設定する場合について説明したが、ホイールローダは一定のパターンの動作を繰り返すことが多く、さらに当該パターンに含まれる各動作中の負荷はそれぞれ顕著な相違が現れる傾向が強いため、動作と負荷状態を関連付けることが容易である。すなわち、ホイールローダでは動作に基づいて目標SOCを設定しても良い。
【0068】
たとえば、最も代表的な作業パターンとしては、Vサイクル掘削作業と呼ばれる作業パターンがある。このVサイクル掘削作業は実際のホイールローダの作業全体に対して、約7割以上を占める主動作パターンである。ホイールローダはこのとき、まず砂利山などの掘削対象物に対して前進し、砂利山の掘削対象物に突っ込むような形で砂利等の運搬物をバケット内に積み込む。その後、後進して元の位置に戻り、ステアリングホイールを操作しながら、かつリフトアーム及びバケットを上昇させながらダンプトラック等の運搬車両に向かって前進する。そして、バケットをダンプさせて運搬車両に運搬物を積み込んで(放土して)再び後進し、車両は元の位置に戻る。車両は以上の説明のようにV字軌跡を描きながらこの作業を繰り返し行う。このVサイクル掘削作業では平均的な車両への負荷として見てみると、平均的な負荷はエンジン1の出力範囲内であるが、時として蓄電装置11からのパワーアシストが必要となることから、「中負荷」の動作に相当する。
【0069】
また、その他ホイールローダの動作パターンとしては、上記の「Vサイクル掘削作業」の他にも、作業現場から別の現場に移動するための「走行動作」や、特に作業を実施しないで待機状態を継続する「アイドリング状態」、さらには土山等の斜面を掘削・放土を繰り返しながら登っていく「かき上げ動作」など、いくつかのパターンがあげられる。
【0070】
上記に挙げた各動作と車両の負荷状態の関係を述べると、例えば、移動のための走行動作やアイドリングは、エンジン出力に対して負荷の大きさが比較的小さいため、「軽負荷」の動作に分類できる。また、Vサイクル掘削作業は前述のように「中負荷」の動作に分類することができる。さらに、かき上げ動作は斜面を掘削しながら登坂する必要があるため、平均的な負荷がエンジンの出力を上回り、蓄電装置11のパワーアシストを継続的に必要とすることから、「重負荷」の動作に分類することができる。
【0071】
したがって、操作レバー56、アクセルペダル及びブレーキペダル等に対するオペレータの操作(操作量)に応じて作業車両の動作を判別することで負荷状態を分類し、当該分類に応じて目標SOCを制御しても上記で説明した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0072】
なお、本発明が対象とするハイブリッドシステムは、
図1のシリーズ型ハイブリッドシステムに限られるものではなく、走行部パラレル型等の多様なシステム構成にも適用可能である。
【0073】
また、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0074】
また、上記の各制御装置20,21,22,23,24,25に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また、上記の制御装置に係る構成は、演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該制御装置の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ、SSD等)、磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク、光ディスク等)等に記憶することができる。
【0075】
また、上記の各実施の形態の説明では、制御線や情報線は、当該実施の形態の説明に必要であると解されるものを示したが、必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。