(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014486
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)を用いたファルネサールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/37 20060101AFI20161011BHJP
C07C 47/21 20060101ALI20161011BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20161011BHJP
【FI】
C07C45/37
C07C47/21
!C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-280013(P2012-280013)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2013-151478(P2013-151478A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2015年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-284176(P2011-284176)
(32)【優先日】2011年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000113780
【氏名又は名称】マナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(72)【発明者】
【氏名】井上 宗宣
(72)【発明者】
【氏名】荒木 宏史
(72)【発明者】
【氏名】田中 豪
【審査官】
前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−151477(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/099819(WO,A1)
【文献】
特公昭52−009650(JP,B1)
【文献】
特表2007−525522(JP,A)
【文献】
特開昭59−157034(JP,A)
【文献】
特開平08−041020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/00
C07C 47/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化7】
で表わされる(E)−ネロリドールを、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)の存在下、酸化剤と反応させることを特徴とする、下記式(2)
【化8】
で表わされるファルネサールの製造方法において、更に、下記式(3)
【化9】
[式中、
R
1は、水素原子であり;R
2は、水素原子、シアノ基、カルボキシ基
、−OR′基又は−NHR″基(ここで、R′は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基
又はアシル
基であり;R″は、水素原子、アセチル基又はハロアセチル基である)であるか;あるいは
R
1及びR
2は、一緒になってオキソ基を形成する]
で表わされるピペリジン−1−オキシル化合物、及び/又は下記式(4)
【化10】
[式中、
R
3及びR
4は、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基であるか、あるいは、R
3とR
4は、一緒になって−(CH
2)
n−を形成し、ここでnは、2〜6である]
で表わされるスルホキシドの存在下で行うことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
R1が、水素原子であり、R2が、水素原子、シアノ基、ヒドロキシ基、アセチルアミノ基、カルボキシ基又はベンゾイルオキシ基であるか、又は、R1及びR2が、一緒になってオキソ基を形成する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
式(3)で表わされるピペリジン−1−オキシル化合物の使用量が、式(1)で表わされる(E)−ネロリドール1モルに対して0.005〜0.2モルである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
式(4)で表わされるスルホキシドが、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド又はテトラメチレンスルホキシドである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
式(4)で表わされるスルホキシドの使用量が、式(1)で表わされる(E)−ネロリドール1モルに対して0.05〜2モルであることを特徴とする、請求項1又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
酸化剤が、空気又は酸素である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)の使用量が、式(1)で表わされる(E)−ネロリドール1モルに対して0.01〜0.5モルである、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)を用いた、(E)−ネロリドールからファルネサールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファルネサール(3,7,11−トリメチル−2,6,10−ドデカトリエナール)は、医薬、農薬、香料などの製造中間体として用いられる重要な化合物であることが知られている。特に、(2E,6E)−ファルネサールは、抗癌剤などとして有用であるポリイソプレノイド誘導体の製造中間体となりうる(例えば、特許文献1)。ファルネサールには、(2E,6E)−体、(2Z,6E)−体、(2E,6Z)−体及び(2Z,6Z)−体の4種の異性体が存在するため、(2E,6E)−ファルネサールを選択的に製造する方法について各種検討がなされている。
【0003】
例えば、(2E,6E)−ファルネソール((2E,6E)−3,7,11−トリメチル−2,6,10−ドデカトリエン−1−オール)を原料として、(2E,6E)−ファルネサールを得る方法が開示されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
これらの方法はいずれも、原料として(2E,6E)−ファルネソールを用いる必要がある。しかし、ファルネサール同様、4種の異性体が存在するファルネソールの(2E,6E)−体を効率的かつ選択的に得る方法は確立されていない。
【0004】
また、安価なネロリドール(3,7,11−トリメチル−1,6,10−ドデカトリエン−3−オール)からファルネサールを得る方法も知られている。例えば、(E)−ネロリドールから、クロム酸酸化剤を用いて、(2E,6E)−ファルネサール及び(2Z,6E)−ファルネサールの異性体混合物を、一段階で合成する方法も開示されている(例えば、非特許文献2、3参照)。しかし、クロム酸酸化剤を用いて反応を行った場合、得られる異性体混合物中の(2E,6E)−ファルネサール比が低く、かつ反応後に多量のタール分が生成するため、通常の後処理が困難となる。更に、この方法は毒性の強いクロム化合物を過剰に使用するため、工業的な製造、特に医薬品の製造には適用できない。
【0005】
更に、ネロリドールからファルネサールを得る別の方法として、テトラヒドロリナリルオルトバナデートを触媒として用い、一段階で合成する方法も開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、原料や生成物のE/Z−異性体比率については記載されておらず、また触媒入手の面で工業的な実施は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−40826号公報
【特許文献2】米国特許第3944623号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society, 124(14), 3647-3655; 2002
【非特許文献2】Synthesis, (5), 356-364;1979
【非特許文献3】Chemistry−A European Journal, 15(44), 11918-11927; 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の(E)−ネロリドールを用いた(2E,6E)−ファルネサール製造方法は、工業的に実施不可能であるか、又は効率が悪く、得られる(2E,6E)−ファルネサールが高価となるという欠点を有するものであった。本発明の課題は、(2E,6E)−異性体比の高いファルネサールを(E)−ネロリドールより効率良く、かつ安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を鑑み鋭意検討を重ねた結果、(E)−ネロリドールを、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)の存在下、酸化剤と反応させることを特徴とする、ファルネサールの製造方法において、更に、ピペリジン−1−オキシル化合物、及び/又はスルホキシドの存在下、反応させることにより、(2E,6E)−異性体比の高いファルネサールを簡便に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】
で表わされる(E)−ネロリドールを、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)の存在下、酸化剤と反応させることを特徴とする、下記式(2)
【化2】
で表わされるファルネサールの製造方法において、更に下記式(3)
【化3】
[式中、
R
1は、水素原子であり;R
2は、水素原子、シアノ基、カルボキシ基、イソチオシアナト基、マレイミド基、リン酸基、−OR′基又は−NHR″基(ここで、R′は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基又は炭素数1〜4のアルカンスルホニル基であり;R″は、水素原子、アセチル基又はハロアセチル基である)であるか;あるいは
R
1及びR
2は、一緒になってオキソ基を形成する]
で表わされるピペリジン−1−オキシル化合物、及び/又は下記式(4)
【化4】
[式中、R
3及びR
4は、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基であるか、或いは、R
3とR
4は、一緒になって−(CH
2)
n−を形成し、ここでnは、2〜6である]
で表わされるスルホキシドの存在下、反応させることを特徴とする製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、医薬、農薬及び香料の製造中間体として有用なファルネサール、とりわけ(2E,6E)−ファルネサールを、安価な原料から、毒性の強い試薬を用いることなく、効率良く製造する方法として有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造方法は、式(1)で表わされる(E)−ネロリドールを、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)の存在下、酸化剤と反応させることを特徴とする、式(2)で表わされるファルネサールの製造方法において、更に式(3)で表わされるピペリジン−1−オキシル化合物、及び/又は式(4)で表わされるスルホキシドの存在下、反応させることを特徴とする式(2)で表わされるファルネサールの製造方法である。
【0014】
出発原料である式(1)で表わされる(E)−ネロリドールは、市販されており、Sigma-Aldrich社等の試薬供給業者から容易に入手することができる。また、公知の方法(例えば、特開平2−4726号記載の方法)に準じて合成することも可能である。
【0015】
本発明の製造方法において使用される、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)は、市販されており、Sigma-Aldrich社等の試薬供給業者から容易に入手することができる。また、公知の方法に準じて合成することも可能である。
【0016】
本発明の製造方法において使用される、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)の使用量は、特に制限はないが、式(1)で表わされる(E)−ネロリドール1モルに対して、0.01〜0.5モルが好ましく、0.05〜0.1モルが更に好ましい。
【0017】
本発明の製造方法で用いる、酸化剤に、特に限定はなく、例えば、空気、酸素等が使用できる。これらの酸化剤のうち2種類以上を混合しても差し支えない。反応性及び入手の容易さの観点から、空気が好ましい。
【0018】
本発明の製造方法において、酸化剤として、酸素を使用する場合、酸素は、他のガスと混合して用いることもでき、例えば、酸素は、空気又は不活性ガス(窒素やヘリウム等)と混合して使用することができる。
【0019】
本発明の製造方法において、酸化剤として、空気又は酸素を使用する場合、空気又は酸素を供給する方法は特に限定されず、例えば、反応溶液が接する気相を空気又は酸素に置換する方法、反応溶液が接する気相に空気又は酸素に流通させる方法、反応溶液中に空気又は酸素を吹き込む方法を使用することができる。
【0020】
本発明の製造方法は、式(3)で表わされるピペリジン−1−オキシル化合物、及び/又は式(4)で表わされるスルホキシドの存在下で行うことが必須である。
【0021】
本発明の製造方法において使用される、式(3)で表わされるピペリジン−1−オキシル化合物は、下記式(3)
【化5】
[式中、
R
1は、水素原子であり;R
2は、水素原子、シアノ基、カルボキシ基、イソチオシアナト基、マレイミド基、リン酸基、−OR′基又は−NHR″基(ここで、R′は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基又は炭素数1〜4のアルカンスルホニル基であり;R″は、水素原子、アセチル基又はハロアセチル基である)であるか;あるいは
R
1及びR
2は、一緒になってオキソ基を形成する]で表わされる。
式(3)で表わされるピペリジン−1−オキシル化合物を用いることにより、(2E,6E)−ファルネサール/(2Z,6E)−ファルネサール比が向上したファルネサール異性体混合物を得ることができる。
【0022】
ここで、「炭素数1〜4のアルキル基」は、他に断りのない限り、炭素数1〜4の、直鎖状又は分岐状の脂肪族飽和炭化水素の一価の基を意味し、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等を例示することができる。好ましくは、メチル基を例示することができる。また、「炭素数2〜4のアルケニル基」は、他に断りのない限り、炭素数2〜4の、直鎖状又は分岐状の脂肪族不飽和炭化水素の一価の基を意味し、ビニル基、アリル基、イロプロペニル基、1−プロペニル基、2−ブテニル基等を例示することができる。好ましくは、イロプロペニル基を例示することができる。
【0023】
「アシル基」は、他に断りのない限り、式:RCO−の基(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基又はフェニル基である)を意味し、アセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ベンゾイル基等を例示することができる。好ましくは、メタクリロイル基又はベンゾイル基を例示することができる。
【0024】
「炭素数1〜4のアルカンスルホニル基」は、他に断りのない限り、式:RSO
2−の基(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基である)を意味し、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基等を例示することができる。好ましくは、メタンスルホニル基を例示することができる。
【0025】
「ハロアセチル基」は、他に断りのない限り、アセチル基の水素原子の1〜3個、好ましくは1個が、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素から選択されるハロゲン原子で置き換えられた基を意味し、例としては、クロロアセチル基、ブロモアセチル基、ヨードアセチル基等を例示することができる。好ましくは、ブロモアセチル基又はヨードアセチル基を例示することができる。
【0026】
式(3)で表わされるピペリジン−1−オキシル化合物は、Sigma-Aldrich社等の試薬供給会社から市販されており、容易に入手することができる。収率が良い点で、R
1が水素原子であり;R
2が水素原子、シアノ基、ヒドロキシ基、アセチルアミノ基、カルボキシ基又はベンゾイルオキシ基であるか、あるいはR
1及びR
2が一緒になってオキソ基を形成するものが好ましく、R
1が水素原子であり;R
2が水素原子又はヒドロキシ基であるものがさらに好ましい。
【0027】
本発明の製造方法において、式(3)で表わされるピペリジン−1−オキシル化合物の使用量は、特に制限はないが、式(1)で表わされる(E)−ネロリドール1モルに対して、0.005〜0.2モルが好ましく、0.01〜0.2モルが更に好ましい。
【0028】
本発明の製造方法において使用される、スルホキシド
は、下記式(4)
【化6】
[式中、
R
3及びR
4は、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基であるか、或いは、R
3とR
4は、一緒になって−(CH
2)
n−を形成し、ここでnは、2〜6である]で表わされる。
式(4)で表わされるスルホキシドを用いることにより、(2E,6E)−ファルネサール/(2Z,6E)−ファルネサール比が向上したファルネサール異性体混合物を得ることができる。
【0029】
ここで、「炭素数1〜6のアルキル基」は、他に断りのない限り、炭素数1〜6の、直鎖状又は分岐状の脂肪族飽和炭化水素の一価の基を意味し、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を例示することができる。好ましくは、メチル基、ブチル基を例示することができる。
【0030】
本発明の製造方法において使用される、式(4)で表わされるスルホキシドにおいて、R
3とR
4が、一緒になって−(CH
2)
n−(ここでnは、2〜6である)を形成する場合、エチレン基、プロピレン基を例示することができ、式(4)で表わされるスルホキシドの具体例としては、テトラメチレンスルホキシド、ペンタメチレンスルホキシド等が挙げられ、テトラメチレンスルホキシドが好ましい。
【0031】
式(4)で表わされるスルホキシドは、Sigma-Aldrich社等の試薬供給会社から市販されており、容易に入手することができる。収率が良い点で、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド又はテトラメチレンスルホキシドを用いることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法において使用される、式(4)で表わされるスルホキシドの使用量は、特に制限はないが、式(1)で表わされる(E)−ネロリドール1モルに対して、0.05〜2モルが好ましく、0.1〜0.2モルが更に好ましい。
【0033】
本発明の製造方法は、溶媒中で行ってもよく、用いることのできる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、所望する反応温度に応じて適宜選択される。例えば、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、ジブロモメタン、クロロホルム、四塩化炭素、エチレンジクロリド、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒などが使用でき、これらの溶媒のうち2種類以上を混合して用いても差し支えない。収率の観点から、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒を用いることが好ましく、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン又はこれらの混合溶媒を用いることが更に好ましい。溶媒の使用量は、式(1)で表わされる(E)−ネロリドールに対して、3〜50倍量(重量基準)が好ましく、4〜30倍量(重量基準)が更に好ましい。
【0034】
本発明の製造方法は、室温から180℃の範囲から適宜選ばれた温度で行うことができる。良好な収率の点から、80〜140℃が好ましく、110〜130℃が更に好ましい。
【0035】
必要に応じて反応後の溶液から式(2)で表わされるファルネサールを単離・精製することができる。単離・精製する方法に特に限定はなく、当業者に公知の方法、例えば、溶媒抽出、蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー、分取液体クロマトグラフィー等の汎用的な方法で、式(2)で表わされるファルネサールを単離・精製することができる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明の態様を明らかにするために実施例を示すが、本発明はここに示す実施例のみに限定されるわけではない。
【0037】
実施例及び参考例で得られた反応溶液は、ガスクロマトグラフィー分析を行い、(2E,6E)−ファルネサール及び(2Z,6E)−ファルネサールの純度を面積百分率にて算出した。測定条件は以下の通りである。
【0038】
装置:GC−14A(島津製作所)
カラム:HP−ULTRA1(Agilent Technologies)
25m×I.D.0.32mm、0.52μmdf
カラム温度:100℃→[10℃/min]→250℃
インジェクション温度:250℃
キャリヤーガス:ヘリウムガス
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
【0039】
実施例1〜6
(E)−ネロリドール(100mg,0.45mmol)をクロロベンゼン(2.0g)に溶解し、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)(12mg,0.045mmol)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル又はジメチルスルホキシドを加え、空気気流下、130℃で反応を行った。室温まで冷却し、(2E,6E)−ファルネサール及び(2Z,6E)−ファルネサールの生成をガスクロマトグラフィー分析で確認した。純度及び異性体比((2E,6E)−ファルネサール/(2Z,6E)−ファルネサール)を表1に示す。
【0040】
上記実施例2で得られた反応液から、減圧下溶媒を留去し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1 Rf値=0.5)で精製して、(2E,6E)−ファルネサール及び(2Z,6E)−ファルネサールの異性体混合物(36mg,収率37%,異性体比:(2E,6E)−ファルネサール/(2Z,6E)−ファルネサール=7.86)を得た。
(2E,6E)−ファルネサール:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ9.99(d,1H,J=8.0Hz),5.89(d,1H,J=8.0Hz),5.03−5.13(m,2H),2.18−2.29(m,4H),2.17(d,3H,J=1.2Hz),2.02−2.11(m,2H),1.94−2.02(m,2H),1.68(s,3H),1.61(s,3H),1.60(s,3H)
(2Z,6E)−ファルネサール:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ9.92(d,1H,J=8.2Hz),5.88(d,1H,J=8.2Hz),5.03−5.16(m,2H),2.60(t,2H,J=7.5Hz),2.21−2.30(m,2H),2.01−2.10(m,2H),1.94−2.01(m,2H),1.99(d,3H,J=1.2Hz),1.68(s,3H),1.60(s,6H)
【0041】
実施例7
(E)−ネロリドール(100mg,0.45mmol)をクロロベンゼン(2.0g)に溶解し、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)(6mg,0.0225mmol)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(0.7mg,0.0045mmol)を加え、空気気流下、130℃で23時間反応を行った。室温まで冷却し、(2E,6E)−ファルネサール及び(2Z,6E)−ファルネサールの生成をガスクロマトグラフィー分析で確認した。純度及び異性体比((2E,6E)−ファルネサール/(2Z,6E)−ファルネサール)を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例8〜13
(E)−ネロリドール(100mg,0.45mmol)をクロロベンゼン(2.0g)に溶解し、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)(12mg,0.045mmol)、表2に示されるピペリジン−1−オキシル誘導体(0.0045mmol)を加え、空気気流下、130℃で反応を行った。室温まで冷却し、(2E,6E)−ファルネサール及び(2Z,6E)−ファルネサールの生成をガスクロマトグラフィー分析で確認した。純度及び異性体比((2E,6E)−ファルネサール/(2Z,6E)−ファルネサール)を表2に示す。
【0044】
実施例14
(E)−ネロリドール(100mg,0.45mmol)をクロロベンゼン(2.0g)に溶解し、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)(12mg,0.045mmol)、テトラメチレンスルホキシド(4.7mg,0.045mmol)を加え、空気気流下、130℃で反応を行った。室温まで冷却し、(2E,6E)−ファルネサール及び(2Z,6E)−ファルネサールの生成をガスクロマトグラフィー分析で確認した。純度及び異性体比((2E,6E)−ファルネサール/(2Z,6E)−ファルネサール)を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
比較例1
(E)−ネロリドール(100mg,0.45mmol)をクロロベンゼン(2.0g)に溶解し、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(IV)(12mg,0.045mmol)を加え、空気気流下、130℃で5時間反応を行った。反応液を室温まで冷却し、(2E,6E)−ファルネサール(純度:37.6%)及び(2Z,6E)−ファルネサール(純度:10.7%)(異性体比(2E,6E)−ファルネサール/(2Z,6E)−ファルネサール=3.51)を得たことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法によれば、医薬、農薬及び香料の製造中間体として有用なファルネサール、とりわけ(2E,6E)−ファルネサールを、安価な原料から、毒性の強い試薬を用いることなく、効率良く製造することが可能となる。よって、本発明の方法は、工業スケールでの製法として利用可能である。