(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014502
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】走査プローブ顕微鏡およびこれを用いた試料の観察方法
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/22 20100101AFI20161011BHJP
G01Q 30/20 20100101ALI20161011BHJP
G01Q 30/14 20100101ALI20161011BHJP
【FI】
G01Q60/22
G01Q30/20
G01Q30/14
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-11604(P2013-11604)
(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公開番号】特開2014-142291(P2014-142291A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】中田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 修一
【審査官】
後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−129017(JP,A)
【文献】
特開2001−033464(JP,A)
【文献】
特開2011−242308(JP,A)
【文献】
特開平10−082790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中にある検査対象試料上を相対的に走査する測定探針と、
前記測定探針にレーザ光を照射するレーザ光照射系と、
レーザ光の照射により前記測定探針と前記検査対象試料との間で発生した近接場光を透過し、前記検査対象試料を保持する試料セルと、
前記試料セルを透過した近接場光を検出する検出器とを備え、
前記試料セルの側面は曲面で構成され、該側面の曲率は、前記測定探針の先端部を曲率中心とし、
前記検出器は前記試料セルの前記曲面を透過した近接場光を検出し、該曲面は前記試料セルに配置された溶液と空気との界面の面積が小さくなる方向に湾曲していることを特徴とする走査プローブ顕微鏡。
【請求項2】
測定探針を溶液中にある検査対象試料に対して相対的に走査し、
レーザ光を前記測定探針に照射し、
前記測定探針と前記検査対象試料との間で近接場光を発生させ、
前記検査対象試料を保持する試料セルを透過した前記近接場光を検出するものであり、
前記試料セルの側面は曲面で構成され、該側面の曲率は、前記測定探針の先端部を曲率中心とし、
前記検出器は前記試料セルの前記曲面を透過した近接場光を検出し、該曲面は前記溶液と空気との界面の面積が小さくなる方向に湾曲していることを特徴とする走査プローブ顕微鏡を用いた試料の観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査プローブ顕微鏡技術および、これを用いた試料観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料表面の光学的性質や物性情報を高分解能で測定する手段として、近接場走査顕微鏡(SNOM:
Scanning
Near−field
Optical
Microscope)が知られる。この顕微鏡は、非特許文献1に開示されているように、数十nmの微小開口から漏れる近接場光を、開口と試料との間隙を同じく数十nmに保ったままで走査することにより(開口プローブ)、光の回折限界を超えて開口と同じ大きさの数十nmの分解能で、試料表面の反射率分布や屈折率分布といった光学的性質を測定するものである。同様の手法として、非特許文献2には、金属探針に外部から光を照射して、探針の微小先端部で散乱した数十nmの大きさの近接場光を走査する(散乱プローブ)方法も開示されている。
【0003】
また、特許文献1には、散乱プローブの別形態として、ファイバ先端に微小な球形レンズを形成して微小スポット光を形成する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、同様に散乱プローブの別形態として、カーボンナノチューブ内部にフォトルミネセンス、エレクトロルミネセンスを発現するV、Y、Ta、Sb等の金属カーバイトや、ZnS蛍光体、CaS蛍光体を充填し、微小スポット光を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−515682号公報
【特許文献2】特開2002−267590号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics,Vol.31,pp.L1302−L1304(1992)
【非特許文献2】Optics Letters,Vol.19,pp.159−161(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した近接場走査顕微鏡では、測定探針と検査対象試料との間に発生した近接場光が測定探針と相互作用して散乱光(伝搬光)が生じ、この散乱光を検出することで、実効的に近接場光画像を得ていた。測定探針の制御には、光てこ検出系を用い、測定探針を搭載したカンチレバー背面にレーザ光を照射し、その反射光の位置の変化から測定探針と試料との間の接触力を読み取っていた。しかし、上記した近接場走査顕微鏡では、生体細胞・分子等の液中計測において、以下のような問題が生じていた。すなわち、液体を満たし生体細胞・分子等の試料を保持した透明な試料セルの平面からなる壁面を上記散乱光が透過する際に球面収差が生じ、この散乱光を1点に集光できず、光電変換素子で効率よく受光することが困難となり、散乱光検出信号が大きく低下し、近接場光画像のSN比及び測定再現性が低下していた。また、試料セルの壁面を透過しないで大気・液体界面に入射した散乱光の大半が、界面での全反射により集光不可能となり、同様に近接場光画像のSN比及び測定再現性が低下していた。さらに、液面の微小な揺らぎにより、光てこ検出系のレーザ光が大気・液体界面を透過する際にその位置が変動し、測定探針と試料との接触力が変動し、散乱光検出信号の揺らぎとなり、同様に近接場光画像のSN比及び測定再現性が低下していた。同様に、近接場光を生成するためのレーザ光が大気・液体界面を透過する際にその位置が変動し、生成される近接場光の強度が変動し、近接場光画像のSN比及び測定再現性が低下していた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、近接場走査顕微鏡を液中計測に適用するに際し、液中にて測定探針と検査対象試料との間に発生した近接場光の検出光量を増加させ、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は溶液中にある検査対象試料上を相対的に走査する測定探針と、前記測定探針にレーザ光を照射するレーザ光照射系と、レーザ光の照射により前記測定探針と前記検査対象試料との間で発生した近接場光を透過し、前記検査対象試料を保持する試料セルと、前記試料セルを透過した近接場光を検出する検出器とを備えた走査プローブ顕微鏡を提供する。
【0010】
また、他の観点における本発明は、測定探針を溶液中にある検査対象試料に対して相対的に走査し、レーザ光を前記測定探針に照射し、前記測定探針と前記検査対象試料との間で近接場光を発生させ、前記検査対象試料を保持する試料セルを透過した前記近接場光を検出することを特徴とする走査プローブ顕微鏡を用いた試料の観察方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、近接場走査顕微鏡を液中計測に適用した際に、液中にて測定探針と検査対象試料との間に発生した近接場光の検出光量を増加させ、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における試料セルの正面の断面図である。
【
図2】実施例2における試料セルの正面の断面図である。
【
図3】実施例3における試料セルの正面の断面図である。
【
図4】実施例4における試料セルの正面の断面図である。
【
図5】実施例1、2、3における走査プローブ顕微鏡の概略の構成を示すブロック図である。
【
図6】実施例4における走査プローブ顕微鏡の概略の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施例を図面を用いて説明する。尚、以下で説明する実施例では、いずれの検査対象試料も液中に存在する形態となっているが、本発明はこれに限定されるものではなく、大気中に存在する検査対象試料にも適用されるものである。
【実施例1】
【0014】
本発明の第1の実施例を、
図1及び
図5に基づいて説明する。
図1は第1の実施例における検査対象試料を搭載する試料セルを示す断面図である。本実施例では、
図1に示すように、生体細胞・分子等の検査対象試料2はアルコールや水等の溶液3の中に存在する。すなわち、検査対象試料2は試料ホルダ4上に載置され、溶液3で満たされた試料セル1に保持される。試料セル1はさらに圧電素子等のアクチュエータで駆動されるXYステージ5上に載置される。金や銀等の金属から成る先端が先鋭化された測定探針9がカンチレバー8の先端に固定され、測定探針9の先端を測定試料2に向けて測定試料2上に接近させ、測定探針9と試料2表面との間隙を測定探針9の先端径とほぼ同程度以下に保ち、もしくは微小な接触力で接触させ、斜め上方からレーザ光7を集光して測定探針9の先端に照射すると、測定探針9と試料2表面との間に微小な近接場光12が発生し、さらにこの近接場光12と測定探針9との相互作用により散乱光(伝搬光)14が発生する。測定探針9と試料2表面との間隙の制御、もしくは両者の間の接触力の制御は、カンチレバー8の背面にレーザ光13を照射し、その反射光の位置を測定することで行う。
【0015】
ここで、試料セル1は、近接場光12の散乱光14が透過する材料で構成されると共に、その側面の内面1aと外面1bは測定探針9側を曲率中心とする曲面(球面)から成る。従って、散乱光14は溶液3と内面1aの界面(固液界面)、及び外面1bと外部大気との界面(固気界面)を通過する際に、屈折することなく直進する。すなわち、側面が平面で構成された従来の試料セルの場合は、側面を散乱光が通過する際に球面収差が生じたのに対し、本実施例では、試料セルの側面を通過する際に散乱光14には球面収差等の収差が発生しない。その結果、散乱光14は集光レンズ15により、1点16に集光することができ、光電子増倍管やホトダイオード等の検出器20の受光面からはみ出すことなく効率よく受光され、散乱光検出信号が格段に増加し、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることができる。試料セル1の側面は測定探針9側を曲率中心とする曲面となっており、溶液3と空気との界面の面積が小さくなるように湾曲している。さらにカンチレバー8の上空にはカバーガラス6を配置して、カバーガラス6の下面まで溶液3で満たすことにより、溶液3の液面と外部大気との界面(気液界面)3aを極力小さな面積となるように構成されている(試料2の走査範囲程度のみ残して)。その結果、気液界面に入射し全反射する散乱光の量を大幅に低減することができ、散乱光の検出光量を格段に増加させることができ、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることができる。さらに、カバーガラス6と溶液3の界面(固液界面)を通して光てこ検出系のレーザ光13の入射と反射光の検出が行われるので、レーザ光の位置変動を大幅に抑えることができ、測定探針9と試料2表面との間隙の制御、もしくは両者の間の接触力の制御を安定かつ高精度に実行でき、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることができる。同様に、カバーガラス6と溶液3の界面(固液界面)を通してレーザ光7が測定探針9の先端に照射されるので、レーザ光の位置変動を大幅に抑えることができ、生成される近接場光の強度が安定し、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることができる。
【0016】
図5に、この試料セルを組み込んだ走査プローブ顕微鏡の構成を示す。走査プローブ顕微鏡は、試料2を搭載し散乱光を検出する試料セル1と、それを載置して試料2をXY方向に走査するXY圧電素子ステージ5と、先端に試料2上を走査する測定探針9を固定した支持部としてのカンチレバー8とカンチレバー8をZ方向に微小振動させる圧電素子アクチュエータ26とカンチレバー8をZ方向に走査するZ圧電素子ステージ25と、カンチレバー8のたわみを検知することで、測定探針と試料との接触力を検知する光てこ検出系110と、レーザ光7を測定探針9先端に照射する励起レーザ光照射系60と、散乱光を集光し光電変換する散乱光検出系120と、得られた散乱光信号とXYZ変位信号から近接場光画像と凹凸画像を生成し出力する信号処理・制御系130とを備えて構成される。XY圧電素子ステージ5とZ圧電素子ステージ25によって測定探針9を試料2に対して相対的に走査する駆動部が構成される。
【0017】
光てこ検出系110では、半導体レーザ50からのレーザ光13をカバーガラス6を通してカンチレバー8の背面に照射し、その反射光を4分割センサ53で受光し、反射光の位置変化からカンチレバー8のたわみ量を検出し、さらにたわみ量から測定探針9と試料2との接触力を検知して、常に接触力が予め設定した値となるように、信号処理・制御系130の制御部90でZ圧電素子ステージ25をフィードバック制御する。
【0018】
測定探針9は、発振器70によりカンチレバー8の共振周波数でZ方向に微小振動されるので、発生する近接場光12及び散乱光14も同じ周波数で強度変調される。検出器20から出力される強度変調された光信号はロックインアンプ80で同期検波され、この周波数成分のみが出力される。励起用レーザ光7によって、測定探針の根元や試料表面で直接散乱した背景散乱光は、カンチレバー8の微小振動には反応せず直流成分であるので、ロックインアンプ80の出力信号には含まれない。これにより、背景雑音を抑圧して近接場光成分のみを選択的に検出することができる。共振周波数の2倍波、3倍波といった高調波成分を検出することで、さらに信号SN比を向上させることができる。
【0019】
ロックインアンプ80からの光信号は信号処理・制御系130の制御部90に送られ、XY圧電素子ステージ5からのXY信号と組み合わせられて近接場光画像が生成され、ディスプレイ100に出力される。同時に、Z圧電素子ステージ25からのZ信号も制御部90でXY信号と組み合わせられて試料表面の凹凸画像が生成され、ディスプレイ100に出力される。
【0020】
本実施例によれば、試料セル1の側面を測定探針9側を曲率中心とする曲面としたため、試料セル1の側面を通過する際に散乱光14には球面収差等の収差の発生を抑制し、散乱光14は集光レンズ15により1点に集光することができる。これにより、散乱光検出信号が格段に増加し、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることができる。また、溶液3と空気との界面ではなく試料セル1に近接場光(散乱光14)を透過させて検出するようにした。さらに、試料セル1の側面を溶液3と空気との界面の面積が小さくなるように湾曲させた。これにより、気液界面に入射し全反射する散乱光の量を大幅に低減させることで、散乱光の検出光量を格段に増加させ、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることができる。さらに、カバーガラス6と溶液3の界面(固液界面)を通して光てこ検出系のレーザ光13の入射と反射光の検出が行われるので、レーザ光の位置変動を大幅に抑えることができ、測定探針9と試料2表面との間隙の制御、もしくは両者の間の接触力の制御を安定かつ高精度に実行でき、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることができる。同様に、近接場光を生成するレーザ光7の位置変動を大幅に抑えることができ、生成される近接場光の強度が安定し、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることができる。
【0021】
この結果、ナノメートルオーダの分解能でかつ高いSN比と高い測定再現性で、液中の試料表面の光学情報、分光情報、凹凸情報の測定が可能になる。その結果、液中の生体細胞・分子の形態・機能を、光学情報、分光情報、凹凸情報を通してナノメートル分解能でin vitroイメージングすることが可能となり、分子レベルでのゲノム創薬の支援や発生・分化過程の詳細理解による再生医療の実用化に貢献することが可能となる。
【実施例2】
【0022】
本発明の第2の実施例を、
図2及び
図5に基づいて説明する。
図2は第2の実施例における検査対象試料を搭載する試料セルを示す断面図である。試料セル1の形態とその機能は第1の実施例と同じであるので、説明を省略する。本実施例では、測定探針の形態が異なる。測定探針10は、試料2に対向する先端が先鋭化された石英ファイバ10aの周囲を金や銀等の金属膜10bでコーティングし、試料2に対向する先端のみ金属膜を除去して微小開口を形成したものである。石英ファイバ10aの上方(測定探針10において試料2がある側とは反対側)からレーザ光7を集光して照射すると、測定探針10先端の開口部から近接場光12が発生し、さらにこの近接場光12と測定探針10との相互作用により散乱光(伝搬光)14が発生する。
【0023】
図5に、この試料セルを組み込んだ走査プローブ顕微鏡の構成を示す。この走査プローブ顕微鏡の構成とその機能は第1の実施例と同じであるので、説明を省略する。
【0024】
本実施例では、石英ファイバ10aを通してレーザ光7を照射し近接場光12を生成するので、測定探針先端にレーザ光7を照射する第1の実施例に比べ、背景雑音の影響が小さいという利点がある。
【実施例3】
【0025】
本発明の第3の実施例を、
図3及び
図5に基づいて説明する。
図3は第3の実施例における検査対象試料を搭載する試料セルを示す断面図である。試料セル1の形態とその機能は第1の実施例と同じであるので、説明を省略する。本実施例では、測定探針の形態が異なる。測定探針11は、試料2に対向する先端の径が数nmに先鋭化されたカーボンナノチューブ(
Carbon
Nano
tube: CNT)から成る。CNTには、内部に金ナノ構造や銀ナノ構造を充填してもよい。この測定探針11は、カンチレバー8の先端に形成された金や銀の金属薄膜でコートされた三角錐状のチップ17の前側稜線上に固定され、斜め上方(測定探針22において試料2がある側とは反対側)から励起用レーザ光7が照射される。このレーザ光7の照射により、チップ17表面の金属薄膜中の自由電子が集団振動を起こし(プラズモン)、
図3の破線で示すように、表面プラズモン18としてCNT上端(測定探針22において試料2がある側とは反対側)から下端(試料2がある側)に伝搬し、先端部で電界集中して、近接場光12aが生じる。さらに、この近接場光12aと測定探針11との相互作用により散乱光(伝搬光)14が発生する。
【0026】
図5に、この試料セルを組み込んだ走査プローブ顕微鏡の構成を示す。この走査プローブ顕微鏡の構成とその機能は第1の実施例と同じであるので、説明を省略する。
【0027】
本実施例では測定探針11に先端径が数nmのCNTを用いているので、空間分解能が数nmとなり、第1及び第2の実施例に比べ、空間分解能が約10倍に向上する。
【実施例4】
【0028】
本発明の第4の実施例を、
図4及び
図6に基づいて説明する。
図4は第4の実施例における検査対象試料を搭載する試料セルを示す断面図である。本実施例では、
図4に示すように、検査対象試料2は試料ホルダ30上に載置され、溶液3で満たされた試料セル21に保持される。試料セル21はさらに圧電素子等のアクチュエータで駆動される中央に開口部を設けたXYステージ51上に載置される。
【0029】
本実施例において、試料セル21は、散乱光35が透過する材料で構成されると共に、その底面の内面21aと外面21bは測定探針9側を曲率中心とする球面から成る。従って、散乱光35は溶液3と内面21aの界面(固液界面)、及び外面21bと外部大気との界面(固気界面)を通過する際に、屈折することなく直進する。
【0030】
図6に、この試料ホルダを組み込んだ走査プローブ顕微鏡の構成を示す。この走査プローブ顕微鏡において、試料セル21以外の構成とその機能は第1の実施例と同じであるので、説明を省略する。
【0031】
本実施例では、
図4に示すように試料セルの底面から近接場光を検出する構成であるため、試料2の走査範囲によって近接場光が検出される角度が制限されることがないため、第1〜第3の実施例のように側面から検出する場合と比較して、より大きい角度の近接場光を検出することができる。これにより、検出のNA(Numerical Aperture:開口数)を大きくすることができ、散乱光の検出光量を格段に増加させることができ、近接場光画像のSN比及び測定再現性を向上させることができる。
【0032】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0033】
例えば、励起用レーザ光7はいずれも単色光としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、赤、緑、青の3波長のレーザ光を用いてカラー近接場イメージングを行うことも可能である。また、白色レーザ光と分光器を用いて近接場分光計測することも可能であるし、励起用レーザ光と同一の波長ではなく、例えばラマンシフトした波長を検出する近接場ラマン分光計測することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
1、21・・・試料セル
2・・・試料
3・・・溶液
4・・・試料ホルダ
5、51・・・XY圧電素子ステージ
6・・・カバーガラス
7・・・レーザ光
8・・・カンチレバー
9、10、11・・・測定探針
12、12a・・・近接場光
14、35・・・散乱光
20・・・検出器
25・・・Z圧電素子ステージ
26・・・圧電素子アクチュエータ
60・・・励起レーザ光照射系
70・・・発振器
80・・・ロックインアンプ
90・・・制御部
100・・・ディスプレイ
110・・・光てこ検出系
120・・・散乱光検出系
130・・・信号処理・制御系